(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ねじ締め装置
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20241031BHJP
B25B 23/14 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B25B21/00 520C
B25B23/14 640Z
B25B23/14 620Z
(21)【出願番号】P 2022091238
(22)【出願日】2022-06-04
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】522207051
【氏名又は名称】久保田 了
(74)【代理人】
【識別番号】100169188
【氏名又は名称】寺岡 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】久保田 了
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-058248(JP,A)
【文献】特開2006-315097(JP,A)
【文献】特開2008-142785(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0207759(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0090298(KR,A)
【文献】国際公開第2021/241111(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00 - 23/14
B23P 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじと雌ねじとをねじ結合させる装置と、
前記ねじ結合に先立ち、前記雄ねじの前記ねじ結合方向の前記ねじ結合始まり側端部を前記雌ねじの前記ねじ結合方向の前記ねじ結合始まり側端部に挿入し、前記ねじ結合とは逆の回転を前記雄ねじおよび/または前記雌ねじにさせる装置と、
前記ねじ結合とは逆の回転を与える際に、前記雄ねじのねじ山が、前記雌ねじのねじ山と面接触することを検出する、ねじ落下検出センサとを有し、
前記ねじ落下検出センサが、ねじ落下を検出したら、前記ねじ結合を行
い、
前記ねじ落下検出センサは
、
(3)前記雄ねじと前記雌ねじとの電気抵抗が、所定値以下、または電気抵抗値の低下がみられたか
、
(6)前記雄ねじおよび/または前記雌ねじの移動距離の移動平均の変化量が、所定値以上であるか
、
上記(3)または(6)の1つ以上が確認されたら、前記ねじ落下を検出したものとする、ねじ締め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ締め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ締め不良の一つに「かじり」がある。「かじり」は、雄ねじと雌ねじのねじ山同士が点接触または線接触状態で噛み合い、ねじを締め込むことで抵抗が増して生じることが知られている。「かじり」は、転造ねじの場合には、およそ2%の割合で発生すると言われている。
【0003】
この「かじり」を防止するために従来から種々の工夫がなされてきた。たとえば、特許文献1では、ねじ山のピッチを所定のものとすることで、「かじり」を抑制しようとしてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、「かじり」を防止するには不十分である。また、「かじり」を防止するために、ねじ山のピッチを変更するといったことは、特別なねじを使用することを強いることであり、コスト面等で製品設計に課す負担が大きく、好ましくない。
【0006】
そこで本発明の目的は、「かじり」を抑制し、製品設計に課す負担を軽減できるねじ締め装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のねじ締め装置は、雄ねじのねじ結合方向のねじ結合始まり側端部と雌ねじのねじ結合方向のねじ結合始まり側端部とをねじ結合させる装置と、ねじ結合に先立ち、雄ねじの不完全ねじ部を雌ねじの不完全ねじ部に挿入し、ねじ結合とは逆の回転を雄ねじおよび/または雌ねじにさせる装置と、ねじ結合とは逆の回転を与える際に、雄ねじのねじ山が、雌ねじのねじ山と面接触することを検出する、ねじ落下検出センサとを有し、ねじ落下検出センサが、ねじ落下を検出したら、ねじ結合を行う。
【0008】
ここで、ねじ落下検出センサは、
(3)雄ねじと雌ねじとの電気抵抗が、所定値以下、または電気抵抗値の低下がみられたか、
(6)雄ねじおよび/または雌ねじの移動距離の移動平均の変化量が、所定値以上であるか、
(3)または(6)の1つ以上が確認されたら、ねじ落下を検出したものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では「かじり」を抑制し、製品設計に課す負担を軽減できるねじ締め装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態のねじ締め装置の概要のブロック図と共に、雄ねじと雌ねじとの平面図を示す図である。
【
図2】
図1に示した雄ねじと雌ねじの斜視図である。
【
図3】
図1に示したねじ落下検出センサの、ねじ落下を検出するタイミングの例を示す図である。
【
図4】「かじり」の有る状態の雄ねじと雌ねじを示す平面図である。
【
図5】
図4の領域Bの拡大模式図である。雌ねじの切り欠きの部分は、雄ねじとの区別のため、便宜上黒塗りにしている。
【
図6】「かじり」の無い状態の雄ねじと雌ねじを示す平面図である。
【
図7】
図6の領域Cの拡大模式図である。雌ねじの切り欠きの部分は、雄ねじとの区別のため、便宜上黒塗りにしている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ねじ締め装置の構成)
以下、本実施の形態のねじ締め装置の構成について、
図1、
図2および
図3に基づいて説明する。ねじ締め装置1は、ボルトである雄ねじ10とナットである雌ねじ11とをねじ結合させる、ねじ結合装置20を有する。雌ねじ11は、固定されている。
【0012】
雌ねじ11は、切り欠き12を設けているが、これは図面作成の便宜上のもので、通常の雌ねじ11、たとえばナットは、切り欠き12を有さない筒形状物のものである。ねじ結合装置20は、雄ねじ10を軸Aに沿って回転方向a1(ねじ締め込み方向、正回転方向)に回転させる装置である。逆回転装置21は、雄ねじ10を軸Aに沿って回転方向a2(逆回転方向)に回転させる装置である。
【0013】
そして、雄ねじ10と雌ねじ11のねじ結合に先立ち、雄ねじ10のねじ結合方向のねじ結合始まり側端部である、不完全ねじ部13を雌ねじ11のねじ結合方向のねじ結合始まり側端部である、不完全ねじ部14に挿入する。そして、雄ねじ10を、ねじ結合とは逆の回転をさせる逆回転装置21を有している。この逆回転を行わせるのが電動工具(図示省略)である。
【0014】
そして、ねじ結合とは逆の回転を与える際に、雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山と面接触することを検出する、ねじ落下検出センサ22とを有する。そして、ねじ落下検出センサ22が、ねじ落下を検出したら、ねじ結合を行う。このねじ結合(正回転)を行わせるのも電動工具(図示省略)である。
【0015】
ここで、ねじ落下検出センサ22は、
図3の(1),(2),(3),(4),(5),(6)および(7)の場合の確認を行い、
図3の(1),(2),(3),(4),(5),(6)または(7)の1つ以上の場合が確認されたら、ねじ落下を検出したものとする。
【0016】
(1)は、雄ねじ10の落下距離が、所定値以上である場合である。
逆回転を360°以内させると、雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山に乗っかるため、徐々に雄ねじ10の高さが高くなり、落下すると、急激に雄ねじ10の高さが低くなる。そのとき、雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山と面接触していることがわかる。そして、その面接触の状態から、それまでの逆回転を正回転、つまりねじ結合させると、「かじり」の無い状態のねじ締めを行うことができる。
【0017】
(2)は、雄ねじ10の落下による衝撃が、所定値以上である場合である。
逆回転を360°以内させ、雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山に乗っかる状態から、落下すると、急激に雄ねじ10のねじ山の面が、雌ねじ11のねじ山の面とぶつかる。そのとき、衝撃(G)が生じて雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山と面接触していることがわかる。そして、その面接触の状態から、それまでの逆回転を正回転、つまりねじ結合させると、「かじり」の無い状態のねじ締めを行うことができる。
【0018】
この衝撃(G)を検出するのは、たとえば、圧電素子または加速度センサである。しかし、衝撃(G)を検出するのに、圧電素子または加速度センサ以外のものを用いても良い。
【0019】
(3)は、雄ねじ10と雌ねじ11との電気抵抗が、所定値以下、または電気抵抗値の低下がみられた場合である。
逆回転を360°以内させると、雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山に乗っかる点接触または線接触の状態、つまり接触面積が小さい状態となる。つまり、雄ねじ10と雌ねじ11との電気抵抗が大きい状態である。その状態から、落下すると、急激に雄ねじ10のねじ山の面が、雌ねじ11のねじ山の面と面接触し、接触面積が大きな状態となる。つまり、雄ねじ10と雌ねじ11との電気抵抗が小さい状態である。そして、その面接触の状態から、それまでの逆回転を正回転、つまりねじ結合させると、「かじり」の無い状態のねじ締めを行うことができる。
【0020】
(4)は、雄ねじ10に対し、ねじ結合とは逆の回転を与えるための電動工具が、必要とする電流値の低下が見られた場合である。
電動工具で逆回転を360°以内させると、雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山に乗っかるため、徐々に雄ねじ10の高さが高くなり、落下する。すると、落下中は雄ねじ10と雌ねじ11が接触していないか、僅かに接触しており、摩擦抵抗が無くなるか僅かであるため、電動工具が必要とする電流値が急激に低下する。その電流値の急激な低下をトリガーに、それまでの逆回転を正回転、つまりねじ結合させると、「かじり」の無い状態のねじ締めを行うことができる。
【0021】
(5)は,雄ねじ10の移動距離の変化量が、所定値以上になった場合である。
雄ねじ10を逆回転させ、雄ねじ10の高さ(距離、以下同じ。)を一定時間間隔毎に、コンピュータの制御部に取り込み、現在の高さと、直前の高さを比較する。比較した結果が、所定値以上となったら、それまでの逆回転を正回転、つまりねじ結合させると、「かじり」の無い状態のねじ締めを行うことができる。その理由は、雄ねじ10が落下すると、移動距離の変化量が急激に増加し、そのとき、雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山と面接触していることがわかるからである。
【0022】
(6)は、雄ねじ10の移動距離の移動平均の変化量が、所定値以上になった場合である。
雄ねじ10を逆回転させ、雄ねじの高さを一定時間間隔毎にコンピュータの制御部に取り込み、連続する一定回数の平均値(移動平均)を算出する。現在の平均値と、直前の平均値を比較し、比較した結果が、所定値以上となったら、それまでの逆回転を正回転、つまりねじ結合させると、「かじり」の無い状態のねじ締めを行うことができる。その理由は、雄ねじ10が落下すると、移動平均の変化量が急激に増加するからである。
【0023】
(7)落下の際に、雄ねじと雌ねじとがぶつかる音量が所定値以上の場合である。
逆回転を360°以内させ、雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山に乗っかる状態から、落下すると、急激に雄ねじ10のねじ山の面が、雌ねじ11のねじ山の面とぶつかる。そのとき、衝撃音がする。その衝撃音をマイクロフォン等で音を検出する。そのとき、雄ねじ10のねじ山が、雌ねじ11のねじ山と面接触していることがわかる。そして、その面接触の状態から、それまでの逆回転を正回転、つまりねじ結合させると、「かじり」の無い状態のねじ締めを行うことができる。
【0024】
以上のねじ締め装置1の働きにより、従来発生しがちだった、
図4および
図5に示した「かじり」の有る状態の雄ねじ10と雌ねじ11ではなく、
図6および
図7に示した「かじり」の無い状態の雄ねじ10と雌ねじ11を得ることができる。なお、
図5に示した雌ねじ11の一部は、若干ではあるが、先端が潰れており、「かじり」が生じていることがわかる。
図7に示した「かじり」の無い状態では、雌ねじ11が潰れておらず、雄ねじ10とも面接触がされていることがわかる。
【0025】
(本実施の形態によって得られる主な効果)
本実施の形態のねじ締め装置1は、逆回転装置21、およびねじ落下検出センサ22等の働き等により、「かじり」を抑制し、製品設計に課す負担を軽減できるねじ締め装置1を提供することができる。
【0026】
(他の形態)
上述した本実施の形態に係るねじ締め装置1は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0027】
たとえば、本実施の形態のねじ締め装置1は、雌ねじ11を固定し、雄ねじ10に逆回転および正回転(ネジ結合)をさせるものである。しかしながら、ねじ締め装置1は、雄ねじ10を固定し、雌ねじ11に逆回転および正回転(ネジ結合)をさせるものであっても良い。さらに、ねじ締め装置1は、雄ねじ10および雌ねじ11の双方に逆回転および正回転(ネジ結合)をさせるものであっても良い。
【0028】
また、本実施の形態のねじ落下検出センサ22は、
図3の(1),(2),(3),(4),(5),(6)および(7)の場合の確認を行っている。しかしながら、落下検出センサ22は、
図3の(1),(2),(3),(4),(5),(6)または(7)のうちの1つまたは2つ以上を検出して、ねじ落下を検出したら、ねじ結合を行うこととしても良い。
【0029】
また、本実施の形態に係るねじ締め装置1は、逆回転装置21によって行う、雄ねじ10の逆回転を360°以内行っている場合がある。しかしながら、逆回転は、360°を超えて行っても良い。
【0030】
また、本実施の形態に係るねじ締め装置1は、逆回転装置21によって行う、逆回転の速度を一定にしても良い。しかしながら、逆回転の速度は必ずしも一定にする必要はない。たとえば、最初はゆっくりと逆回転させ、その後次第に逆回転の速度を速めたり、逆回転の速度を速めた後、一定の速度で逆回転させても良い。
【0031】
また、不完全ねじ部13は、雄ねじ10のねじ結合方向のねじ結合始まり側端部としている。また、不完全ねじ部14は、雌ねじ11のねじ結合方向のねじ結合始まり側端部としている。しかし、不完全ねじ部13,14は無くすことができるため、雄ねじ10および雌ねじ11の、ねじ結合方向のねじ結合始まり側端部は、不完全ねじ部でなくても良い。
【符号の説明】
【0032】
1 ねじ締め装置
10 雄ねじ
11 雌ねじ
13 不完全ねじ部(雄ねじのねじ結合方向のねじ結合始まり側端部)
14 不完全ねじ部(雌ねじのねじ結合方向のねじ結合始まり側端部)
20 ねじ結合装置(ねじ結合させる装置)
21 逆回転装置
22 ねじ落下検出センサ