(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20241031BHJP
A61K 6/54 20200101ALI20241031BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20241031BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20241031BHJP
A61K 6/64 20200101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/54
A61K6/887
A61K6/62
A61K6/64
(21)【出願番号】P 2022516292
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 EP2020075397
(87)【国際公開番号】W WO2021048313
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-08-31
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515304558
【氏名又は名称】デンツプライ・シロナ・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】522076181
【氏名又は名称】デンツプライ デトレイ ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クレー,ヨアキム イー.
(72)【発明者】
【氏名】シラット,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ラレヴェ,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】キルシュナー,ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】モルレ-スケアリー,ファブリス
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-510187(JP,A)
【文献】カナダ国特許出願公開第02670977(CA,A1)
【文献】J Macromol Sci., Part A: Pure Appl Chem.,2005年,42,1667-1678
【文献】J Polym Sci., Part A: Polym Chem.,2005年,43,5217-5231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の重合性モノマーと、
(b)ラジカル開始剤系であって、
(i)カンファーキノンである、400nm~800nmの範囲の最大吸収を有する光増感剤、および
(ii)第三級アミンである共開始剤
を含み、
(iii)以下の式(Ic)の化合物:
【化1】
をさらに含むことを特徴とするラジカル開始剤系と、
を含む
、
歯科用組成物。
【請求項2】
前記光増感剤の量と前記式(Ic)の化合物の量との比は、200:1~1:1の範
囲であることを特徴とする
、請求項
1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記式(Ic)の化合物の量は、前記歯科用組成物の総重量に対して0.01~1.2重量%の範
囲であることを特徴とする
、請求項
1~2のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記光増感剤の量は、前記歯科用組成物の総重量に対して0.1~3重量%の範
囲であることを特徴とする
、請求項
1~3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記歯科用組成物は、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩およびスルホニウム塩から選択される添加剤をさらに含
むことを特徴とする
、請求項
1~4の
いずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記添加剤の量は、前記歯科用組成物の総重量に対して0.01~3重量%の範
囲であることを特徴とする、請求項5に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記ラジカル開始剤系の量は、前記歯科用組成物の総重量に対して0.1~10重量%の範
囲であることを特徴とする
、請求項
1~6の
いずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記共開始剤の量は、前記歯科用組成物の総重量に対して0.1~3重量%の範
囲であることを特徴とする
、請求項
1~7のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記歯科用組成物は、歯科用接着剤組成物、歯科用複合材、根管充填組成物、歯科用小窩裂溝填塞剤、歯科用プライマー、歯科用シーラント、歯科用バーニッシュ、歯科用溶浸剤またはレジン添加型歯科用セメント組成物から選択されることを特徴とする
、請求項
1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
請求項
1~9のいずれか1項に記載の歯科用組成物を調製するための前記式(Ic)の化合物の使用。
【請求項11】
硬い歯の組織を修復することによる歯科疾患の治療または予防のための
請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の重合性モノマーと、ラジカル開始剤系とを含む歯科用組成物に関する。
【0002】
本発明は、歯科用組成物を調製するための、あるいは硬い歯の組織を修復することによる歯科疾患の治療または予防のための式(I)、(Ia)、(Ib)または(Ic)の化合物の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
重合性歯科用組成物は、ラジカル重合性樹脂を含有しており、従って硬化させるためにラジカル開始剤系を必要とする。そのようなラジカル開始剤系はフリーラジカルを生成して重合性樹脂の重合を開始させる。歯科用組成物で使用される好適なラジカル開始剤系は光開始剤系、レドックス開始剤系またはそれらの組み合わせであってもよい。光開始剤系は本質的に、共開始剤化合物と組み合わせた光開始剤化合物を含む。ラジカル開始剤系は、歯科用組成物において有用であるために特定の要求を満たす必要がある。例えば歯科用ラジカル開始剤系は歯科用組成物中に組み込まれる場合に、耐酸性、熱安定性、貯蔵安定性および混和性を必要とする。同時にラジカル歯科用開始剤系は、有用な歯科用修復物を提供するために高い変換、良好な硬化速度および硬化深さを含む高い重合効率を必要とする。最後に、硬化された歯科材料の色が歯の自然な色に似るように、ラジカル歯科用開始剤系は着色を引き起こすものであってはならない。
【0004】
歯科用組成物は好ましくは光によって硬化させることができる。光硬化性歯科用組成物は使用前に複数の成分の混合を必要としない一成分組成物として提供することができるため、取り扱い特性において有利である。光硬化性歯科用組成物は、光放射への曝露時に反応種を生成する光開始剤系を必要とする。フリーラジカルは典型的には2つの経路、すなわち(1)光開始剤化合物がエネルギー吸収によって励起され、かつその後に1つ以上のラジカルに分解する(ノリッシュI型)、または(2)光開始剤化合物は励起され、かつ励起された光開始剤化合物はエネルギー転移またはレドックス反応のいずれかによって共開始剤化合物と相互作用して当該化合物のいずれかからフリーラジカルを形成する(ノリッシュII型)のいずれかによって生成することができる。
【0005】
開始の高い量子収率はモノマーの高い変換のために必要とされる。開始の量子収率は、放射線の反応性ラジカルへの変換効率を示す。高い変換は、高い光活性の光開始剤化合物を選択すること、あるいは光開始剤および安定化剤化合物の濃度の最適化のいずれかによって達成することができる。
【0006】
さらに、光開始剤系は患者の口の中での歯科用組成物の重合中に軟組織の損傷を回避するために長い波長で活性化させることができることが望ましい。従って可視光光開始剤系は、400~800nmの好ましい範囲の波長の光を効率的に吸収する発色団基を含有している必要がある。しかし可視光光開始剤系は周囲光によっても潜在的に活性化される。従って利用可能な作業時間が短くなる。理想的な歯科用組成物は長い作業時間および短い硬化時間を有していなければならない。例えば開始剤の濃度の減少または存在する重合阻害剤の量の増加により、周囲光に対する当該材料の作業時間を長くしてもよい。
【0007】
しかし、どちらの措置も開始の量子効率の低下および光硬化された歯科材料の物理的性質の低下を生じさせる可能性がある。
【0008】
さらに可視光光開始剤系は光開始剤系の着色も増加させる場合があり、光硬化された歯科用組成物の着色を潜在的に引き起こす。
【0009】
従って発色団基は、開始剤系の着色が硬化された歯科用組成物において消失するように重合中に光退色することが必要である。さらに光退色は遮蔽効果を解決し、従って厚い試料の硬化深さを増加させることができる。光退色した光開始剤は、硬化光が硬化された層を透過し、かつ硬化された層の下の未硬化歯科用組成物に到達するのを可能にする。
【0010】
光硬化性歯科材料は多くの場合に、共開始剤としての第三級芳香族アミン(TA)ならびに任意に反応促進剤としてのジフェニルヨードニウム(DPI)塩と組み合わせたカンファーキノン(CQ)を含む。この三成分系はその高い光誘導性重合効率でよく知られている。
【0011】
しかしCQは、400nm以上の波長におけるその低い吸収係数に起因する低い光活性および重合効率に悩まされている。さらに、特にその高濃度での着色されたCQの内部遮蔽効果により硬化後に試料中に未反応のCQが生じる。未反応のCQおよびモノマーは唾液によって容易に浸出することができ、毒性懸念を生じさせる場合がある。他方、未反応の黄色のCQは歯科用修復材の審美性も損ない、それらの作製を複雑にする。
【0012】
さらにCQは、特にCQが400nm以上の波長でのみ照射された際の乏しい光退色性にも悩まされており、これは内部遮蔽効果およびその結果をさらに悪化させる。それにより、そのような公知のCQ系は非常に多くの場合に、硬化後に望ましくない僅かに黄色に着色された粘着性の層を生じさせる。
【0013】
初期のCQ濃度を著しく低下させることによりこの着色問題を解決する試みは、樹脂マトリックスの最終的に達成される不十分な硬化によって不成功に終わっている。
【0014】
本発明の目的
従って先行技術を考慮した本発明の目的は、公知の先行技術の歯科用組成物の上記欠点を示さない開始剤系を含む新しい歯科用組成物を提供することであった。
【0015】
特に本発明の目的は、重合効率の著しい損失がなく、かつ硬化後に黄色に着色された粘着性の層(未反応の光開始剤によって引き起こされる)を生じさせずに、最初に必要な光増感剤(CQなど)の濃度を著しく低下させることができる開始剤系を含む歯科用組成物を提供することであった。
【0016】
さらに特に本発明の目的は、高い変換、周囲光下での調整可能な長い作業時間、および400~800nmの波長の歯科用硬化光による調整可能な短い硬化時間を同時に含む、高い重合効率を有する光硬化性歯科用組成物を提供することであった。
【0017】
さらに1つの目的は、変色によって硬化の開始を示し、それにより硬化光が十分に照射された領域を示すことができる歯科用組成物を提供することであった。
【発明の概要】
【0018】
これらの目的および明示的に記載されていないが導入として本明細書において考察されている関連内容から直接導出可能または識別可能であるさらなる目的も、請求項1の全ての特徴を有する歯科用組成物によって達成される。本歯科用組成物の適当な修正形態は従属請求項2~13において保護される。さらに請求項14は、歯科用組成物を調製するための式(I)、(Ia)、(Ib)または(Ic)の具体的なさらなる化合物の使用を含む。請求項15は、硬い歯の組織を修復することによる歯科疾患の治療または予防のための式(I)、(Ia)、(Ib)または(Ic)の具体的なさらなる化合物の使用を含む。
【0019】
従って本発明は、
(a)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の重合性モノマーと、
(b)ラジカル開始剤系であって、
(i)400nm~800nmの範囲の最大吸収を有する光増感剤、および
(ii)共開始剤
を含み、
(iii)以下の式(I)の化合物:
【化1】
(式中、
R
1およびR
2は、同じであっても異なってもよく、独立して水素原子、C
1~6アルキル基またはC
1~6アルコキシ基を表し、
R
3およびR
4は、同じであっても異なってもよく、独立して水素原子またはC
1~6アルキル基を表すか、あるいはR
3およびR
4は、R
3およびR
4が結合している炭素原子が二重結合によって結合されるような結合を表してもよく、
R
5およびR
6は、同じであっても異なってもよく、独立して水素原子またはC
1~6アルキル基を表すか、あるいはR
5およびR
6は、R
5およびR
6が結合している炭素原子が二重結合によって結合されるような結合を表してもよく、
Lは、単結合または-CRH-基(式中、Rは水素原子、C
1~6アルキル基またはC
1~6アルコキシ基であってもよい)を表し、
nおよびmは独立して1~6の整数である)
をさらに含むことを特徴とするラジカル開始剤系と
を含む歯科用組成物を提供する。
【0020】
従って、予測不可能な方法で公知の先行技術の歯科用組成物の上記欠点を示さない開始剤系を含む新しい歯科用組成物を提供することが可能である。
【0021】
さらに本発明の歯科用組成物は、重合効率の著しい損失がなく、かつ硬化後に黄色に着色された粘着性の層(未反応の光開始剤によって引き起こされる)を生じさせずに、最初に必要とされた光増感剤(CQなど)の濃度を著しく低下させることができる改良された開始剤系を提供する。
【0022】
さらに本発明の歯科用組成物は、高い変換、周囲光下での調整可能な長い作業時間、および400~800nmの波長の歯科用硬化光による調整可能な短い硬化時間を同時に含む高い重合効率を有する。
【0023】
さらに本発明の歯科用組成物は、変色によって硬化の開始を示し、かつそれにより硬化光が十分に照射された領域を示すことができる。
【0024】
本発明のより完全な理解のために、添付の図を参照しながら考察される本発明の以下の発明を実施するための形態を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】光増感剤としての一定量のカンファーキノンおよび異なる量のクルクミンの存在下での反応性官能基の光重合プロファイルを示す。
【
図2】光増感剤としての異なる量のカンファーキノンおよび一定量のクルクミンの存在下での反応性官能基の光重合プロファイルを示す。
【
図3】光増感剤としてのカンファーキノンの存在下ならびにクルクミンの存在下および非存在下での反応性官能基の光重合プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
「アルキル」という用語は、特に定めがない限り、1~18個の炭素原子を有するモノラジカルの分岐鎖状もしくは非分岐鎖状飽和炭化水素鎖を指す。この用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-デシル、ドデシルおよびテトラデシルなどの基によって例示することができる。
【0027】
「アルコキシ基」という用語は、特に定めがない限り、1~18個の炭素原子を有するモノラジカルの分岐鎖状もしくは非分岐鎖状飽和炭化水素鎖を指し、ここではそのようなアルコキシ基の少なくとも1つの炭素原子は1つの酸素原子によって置換されている。そのようなアルコキシ基は、前記少なくとも1つの酸素原子によって化合物の炭素原子に結合されている。この用語は、メトキシおよびエトキシなどの基によって例示することができる。それは「アルコキシ基」という用語が本発明の文脈では、あらゆる化学者が一般的な化学的知識に基づいてそれを理解するようなものとして定められることを意味する。
【0028】
「アルキレン」という用語は、特に定めがない限り、1~4個の炭素原子を有する直鎖状の二価の飽和炭化水素ラジカルまたは3~4個の炭素原子を有する分岐鎖状の二価の飽和炭化水素ラジカル、例えばメチレン、エチレン、2,2-ジメチルエチレン、プロピレン、2-メチルプロピレンおよびブチレンなど、好ましくはメチレン、エチレンまたはプロピレンを指す。
【0029】
「アリール」という用語は、C6~C10員環の芳香族、複素環式、縮合芳香族、縮合複素環式、二芳香族または二複素環式の環系を指す。広く定義される「アリール」は本明細書で使用される場合、5、6、7、8、9および10員環の単環芳香族基、例えばベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジンおよびピリミジンなどを含み、これらは0~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい。環構造中にヘテロ原子を有する「アリール」基を「ヘテロアリール」または「複素環」または「ヘテロ芳香族」と呼ぶ場合もある。芳香族環は1つ以上の環位置において、限定されるものではないが、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ(または四級化アミノ)、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホン酸、リン酸、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族もしくはヘテロ芳香族部分、--CF3、--CNおよびそれらの組み合わせなどの1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0030】
「シクロアルキル」という用語は、単環式もしくは多環式シクロアルキルラジカルを指す。単環式シクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルが挙げられる。多環式シクロアルキルラジカルの例としては、例えばアダマンチル、ノルボルニル、デカリニル(decalinyl)、7,7-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタニルおよびトリシクロ[5.2.1.02,6]デシルなどが挙げられる。
【0031】
「(メタ)アクリレート」という用語は本開示の文脈では、アクリレートおよび対応するメタクリレートを指すことが意図されている。
【0032】
「(メタ)アクリルアミド」という用語は本開示の文脈では、アクリルアミドおよびメタクリルアミドを含むことが意図されている。
【0033】
「重合性モノマー」という用語は本開示の文脈では、ラジカル重合することができるあらゆるモノマーを意味する。重合性モノマーは少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む。少なくとも1つのエチレン性不飽和基としては、ビニル、アリル、アクリル、メタクリルおよびスチリルが挙げられる。
【0034】
「少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性モノマー」および「エチレン性不飽和モノマー」という用語は同義で使用することができる。
【0035】
「ラジカル開始剤系」という用語は本開示の文脈では、熱または光および/または周囲のレドックス条件によって活性化された場合にフリーラジカルを形成し、それにより重合性モノマーの重合を開始させる光増感剤および少なくとも1種の共開始剤を含むあらゆる系を意味する。
【0036】
「共開始剤」という用語は本開示の文脈では、紫外線または可視光に曝露された場合にそれらを本質的に吸収しないが、本開示に従って使用される光増感剤と共にフリーラジカルを形成する化合物を意味する。
【0037】
「光増感剤」という用語は本開示の文脈では、曝露された場合に400~800nmの範囲の波長の放射線を吸収することができるがそれ自体は、すなわち共開始剤の添加なしではフリーラジカルを形成することができない化合物を意味する。本開示で使用される光増感剤は、本開示で使用される共開始剤と相互作用することができるものでなければならない。「光増感剤」および「光開始剤」という用語は、本発明の文脈では同等である。
【0038】
重合性モノマー
本開示の歯科用組成物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する1種以上の重合性モノマーを含む。
【0039】
重合性モノマーは、アクリレート、メタクリレート、エチレン性不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸のC2~8ヒドロキシルアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC1~24アルキルエステルまたはシクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC2~18アルコキシアルキルエステル、オレフィンまたはジエン化合物、モノエステル/ジエステル、モノエーテル、付加物、ビニルモノマー、スチリルモノマー、TPH樹脂、SDR樹脂、PBA樹脂および/またはBPA非含有樹脂であってもよい。
【0040】
具体的なアクリレートモノマーの例としては、限定されるものではないが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールモノおよびジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、モノ、ジ、トリアクリレート、ペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリおよびテトラアクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-アクリレート]プロパン、2,2’-ビス(4-アクリロキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-アクリロキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-アクリレート]プロパンおよびジペンタエリスリトールペンタアクリレートエステルが挙げられる。
【0041】
具体的な従来のメタクリレートモノマーの例としては、限定されるものではないが、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールA(2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン)のジグリシジルメタクリレート(BisGMA)、4,4,6,16(もしくは4,6,6,16)-テトラメチル-10,15-ジオキソ-11,14-ジオキサ-2,9-ジアザヘプタデカ-16-エン酸2-[(2-メチル-1-オキソ-2-プロペン-1-イル)オキシ]エチルエステル(CAS番号72869-86-4)(UDMA)、グリセロールモノおよびジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリおよびテトラメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ホスフェート(BisMEP),1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、2-2’-ビス(4-メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-メタクリレート]プロパン、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルトリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルジメチルベンゼンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリロキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-2-メタクリロキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリロキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリロキシエチル-トリメチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリロキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリロキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリロキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリロキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリロキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリロキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリロキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリロキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリロキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリロキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリロキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリロキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリロキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリロキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリロキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリロキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリロキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、およびメチレン-ビス-1-クロロメチル-2-メタクリロキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメートが挙げられる。
【0042】
エチレン性不飽和化合物の例としては、限定されるものではないが、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、ハロゲンおよびヒドロキシ含有メタクリル酸エステルおよびそれらの組み合わせが挙げられる。そのようなフリーラジカル重合性化合物としては、n-、sec-もしくはt-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2,4-ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビス[1-(2-アクリロキシ)]-p-エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1-(3-アクリロキシ-2-ヒドロキシ)]-p-プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートおよびトリスヒドロキシエチル-イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、((ジ)ウレタンジメタクリレート)、ポリエチレングリコールのビス-(メタ)アクリレート、および塩素、臭素、フッ素およびヒドロキシル基含有モノマー、例えば3-クロロ-2-ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレートならびにビスフェノール-A-グリシジル-メタクリレート(BisGMA)とヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)との反応生成物が挙げられる。
【0043】
カルボキシル基含有不飽和モノマーの例としては、限定されるものではないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸などが挙げられる。(メタ)アクリル酸のC2~8ヒドロキシルアルキルエステルの例としては、限定されるものではないが、2-ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリル酸のC2~18アルコキシアルキルエステルの例としては、限定されるものではないが、メトキシブチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレートおよびエトキシブチルメタクリレートが挙げられる。具体的には、アクリレートおよびメタクリレートは、
【化2】
であってもよい。
【0044】
具体的には、メタクリルアミドは以下の構造式:
【化3】
を有するN,N’-ジアリル-1,4-ビスアクリルアミド-(2E)-ブタ-2-エン(BAABE)などのビス-(メタ)アクリルアミド
および/または
以下の構造式:
【化4】
を有するN,N’-ジエチル-1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BADEP)であってもよい。
【0045】
ラジカル開始剤系
本開示の歯科用組成物はラジカル開始剤系を含む。前記ラジカル開始剤系は、二成分もしくは三成分系の形態である少なくとも1種の光開始剤を含む。二成分系は少なくとも光増感剤および共開始剤を含む。三成分系はヨードニウム、スルホニウムまたはホスホニウム塩をさらに含む。
【0046】
本発明は、式(I)、特に式(Ia)、(Ib)または(Ic)の化合物が基底状態および励起状態において異なる光化学的性質を示すという認識に基づいている。
【0047】
さらに驚くべきことに、式(I)、特に式(Ia)、(Ib)または(Ic)の化合物を含む歯科用組成物は、変換率および硬化速度に換算したより良好な重合効率での硬化反応のために減少した量の光増感剤のみを必要とすることを見出した。従って未反応の光開始剤の浸出問題も減少または回避されているかもしれない。
【0048】
さらに本発明は、式(I)、特に式(Ia)、(Ib)または(Ic)の化合物が優れた光退色性を有するという認識にも基づいている。従って、歯科開業医が歯科用組成物における色の変化に基づいて硬化の開始を観察することができるように、本歯科用組成物の硬化時に変色が生じる。その上、式(I)の化合物によって生成された一重項酸素は本組成物中で未反応の光開始剤などの他の発色団と反応し、その光退色および/または変色を生じさせることもできる。従って硬化された本歯科用組成物は天然歯に近い色を有し、着色問題を有しない。
【0049】
好ましい実施形態では、ラジカル開始剤系は、光増感剤としての1,2-ジケトン化合物と共開始剤としての第三級アミン、芳香族ホスフィン、水素化ゲルマニウム、スルフィン酸塩またはスルホン酸塩とを含む。
【0050】
好適な1,2-ジケトン化合物は、カンファーキノン、ベンジル、2,2’-3,3’-および4,4’-ジヒドロキシルベンジル、2,3-ブタンジオン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2,3-ヘプタンジオン、3,4-ヘプタンジオン、2,3-オクタンジオン、4,5-オクタンジオンフリル、ビアセチル、1,2-シクロヘキサンジオン、1,2-ナフトキノンおよびアセナフトキノンからなる群から選択されてもよい。そのような好適な1,2-ジケトン化合物は好ましくは約400nm~約520nm、好ましくは約450nm~約500nmの範囲内の光を吸収する。
【0051】
好適な第三級アミンは、トリアルカノールアミン、4-N,N-ジアルキルアミノベンゾニトリル、N,N-ジアルキルアミノ安息香酸アルキル、N,N-ジアルキルアミノ安息香酸アルキル、アルキルアクリル酸N,N-ジアルキルアミノエチルおよび4-N,N-ジアルキルアミノ安息香酸イソアミル、N,N-ジアルキルアニリン、N,N-ジアルキルトルイジン、N,N-ジアルキロールトルイジン、ジアルキルアミノアニソール、1もしくは2-ジアルキルアミノナフタレンからなる群から選択されてもよい。
【0052】
特に第三級アミンは、トリエタノールアミン、4-N,N-ジアルキルアミノ安息香酸アルキル、4-N,N-ジアルキルアミノ安息香酸エチル、メタクリル酸4-N,N-ジアルキルアミノエチル、4-N,N-ジアルキルアミノ安息香酸イソアミルおよび4,4’-N,N-ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選択されてもよい。
【0053】
本明細書では、アルキル基は直鎖状、分岐鎖状もしくは環式アルキル基を表してもよい。さらに2つ以上のアルキル基が含まれている場合、アルキル基は同じあっても異なってもよく、好ましくはそれらは同じである。好ましくは、アルキル基はC1~6アルキル基、より好ましくはC1~4アルキル基である。最も好ましくは、アルキル基はメチルまたはエチル基である。
【0054】
特定の好ましい第三級アミンは、トリエタノールアミン、4-N,N-ジメチルアミノベンゾニトリル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸メチル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMABE)、メタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチルおよび4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、N,N-ジエタノールトルイジン、ジメチルアミノアニソール、1もしくは2-ジメチルアミノナフタレンからなる群から選択されてもよい。より好ましい第三級アミンは、トリエタノールアミン、4-N,N-ジメチル-アミノ安息香酸メチル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMABE)、メタクリル酸4-N,N-ジメチル-アミノエチル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルおよび4,4’-N,N-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選択されてもよい。最も好ましくは、第三級アミン共開始剤は4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMABE)または4-ジメチルアミノベンゾニトリル(DMABN)である。
【0055】
さらなる実施形態では、ラジカル開始剤系は、光増感剤としてのカンファーキノン、共開始剤としての第三級アミンおよび以下の式(Ia)の化合物:
【化5】
(式中、
R
1およびR
2は、同じであっても異なってもよく、独立して水素原子、C
1~6アルキル基またはC
1~6アルコキシ基を表し、
Lは、単結合または-CRH-基(式中、Rは水素原子、C
1~6アルキル基またはC
1~6アルコキシ基であってもよい)を表し、
nおよびmは独立して1~6の整数である)
を含む。
【0056】
さらなる実施形態では、ラジカル開始剤系は、光増感剤としてのカンファーキノン、共開始剤としての第三級アミンおよび以下の式(Ib)の化合物:
【化6】
(式中、
R
1およびR
2は、同じであっても異なってもよく、独立して水素原子、C
1~6アルキル基またはC
1~6アルコキシ基を表し、
Lは、単結合または-CRH-基(式中、Rは水素原子、C
1~6アルキル基またはC
1~6アルコキシ基であってもよい)を表し、
nおよびmは独立して1~6の整数である)
を含む。
【0057】
さらなる実施形態では、ラジカル開始剤系は、光増感剤としてのカンファーキノン、共開始剤としての第三級アミンおよび以下の式(Ic)の化合物:
【化7】
を含む。前記化合物(Ic)はクルクミン(本明細書ではCCMともいう)としても知られている。
【0058】
一実施形態では、光増感剤の量と式(I)、(Ia)、(Ib)または(Ic)の化合物の量との比は、200:1~1:1の範囲、好ましくは100:1~1:1の範囲、より好ましくは50:1~1:1の範囲である。
【0059】
一実施形態では、式(I)、(Ia)、(Ib)または(Ic)の化合物の量は、本歯科用組成物の総重量に対して0.01~1.2重量%の範囲、好ましくは0.02~0.9重量%の範囲、より好ましくは0.03~0.7重量%の範囲である。
【0060】
一実施形態では、光増感剤の量は、本歯科用組成物の総重量に対して0.1~3重量%の範囲、好ましくは0.3~2.4重量%の範囲、より好ましくは0.6~1.6重量%の範囲である。
【0061】
別の好ましい実施形態では、本歯科用組成物は、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩およびスルホニウム塩から選択される添加剤をさらに含み、好ましくは前記添加剤はヨードニウム塩である。
【0062】
特に前記添加剤は、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩およびテトラアリールもしくはテトラアルキルホスホニウム塩から選択される。
【0063】
例えばジアリールヨードニウム塩は、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウム(DPI)テトラフルオロボレート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)テトラフルオロボレート、フェニル-4-メチルフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(4-ヘプチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(3-ニトロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-クロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(ナフチル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(4-トリフルオロメチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、DPIヘキサフルオロホスフェート、Me2-DPIヘキサフルオロホスフェート、DPIヘキサフルオロアルセネート、ジ(4-フェノキシフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、フェニル-2-チエニル-ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、3,5-ジメチルピラゾリル-4-フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、DPIヘキサフルオロアンチモネート、2,2’-DPIテトラフルオロボレート、ジ(2,4-ジクロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-ブロモフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メトキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(3-カルボキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(3-メトキシカルボニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(3-メトキシスルホニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス-(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(SC938)、ジ(4-アセトアミドフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(2-ベンゾチエニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェートおよびDPIヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択されてもよい。
【0064】
特に好ましいジアリールヨードニウム化合物としては、ジフェニルヨードニウム(DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(Irgacure(登録商標)250、BASF SE社から入手可能な市販品)、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムテトラフルオロボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス-(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(SC938)、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネートおよび4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムボレートが挙げられる。
【0065】
特に好ましい実施形態によれば、ヨードニウム化合物は、(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェートまたはビス-(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウムヘキサフルオロ-ホスフェート(SC938)である。
【0066】
好ましいトリアリールスルホニウム塩は、S-(フェニル)チアントレニウムヘキサフルオロホスフェートである。
【0067】
特に好ましいホスホニウム塩は、テトラアルキルホスホニウム塩テトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウム(THP)塩またはテトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウムヒドロキシド(THPOH)塩であり、ここでは、テトラアルキルホスホニウム塩のアニオンは、ギ酸、酢酸、リン酸、硫酸、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物からなる群から選択される。
【0068】
その好ましい実施形態では、添加剤の量は、本歯科用組成物の総重量に対して0.01~3重量%の範囲、好ましくは0.25~2重量%の範囲、より好ましくは0.5~1.2重量%の範囲である。
【0069】
一実施形態では、ラジカル開始剤系の量は、本歯科用組成物の総重量に対して0.1~10重量%の範囲、好ましくは0.7~7重量%の範囲、より好ましくは1.5~4.5重量%の範囲である。
【0070】
一実施形態では、共開始剤の量は、本歯科用組成物の総重量に対して0.1~3重量%の範囲、好ましくは0.3~2.4重量%の範囲、より好ましくは0.5~1.5重量%の範囲である。
【0071】
一実施形態では、本歯科用組成物は歯科用接着剤組成物、歯科用複合材、根管充填組成物、歯科用小窩裂溝填塞剤、歯科用プライマー、歯科用シーラント、歯科用バーニッシュ、歯科用溶浸剤またはレジン添加型歯科用セメント組成物から選択される。
【0072】
本発明は、本発明に係る歯科用組成物を調製するための式(I)、(Ia)、(Ib)または(Ic)の化合物の使用も提供する。
【0073】
さらに本発明は、本発明に係る歯科用組成物を用いて硬い歯の組織を修復することによる歯科疾患の治療または予防のための式(I)、(Ia)、(Ib)または(Ic)の化合物の使用も提供する。
【0074】
従って本発明は、光増感剤および共開始剤を含むラジカル開始剤系を有する公知の歯科用組成物を改良するという問題に対処し、これにより重合効率の著しい損失がなく、かつ硬化後に黄色に着色された粘着性の層(未反応の光開始剤によって引き起こされる)を生じさせずに、最初に必要とされた光増感剤(CQなど)濃度を著しく低下させることができる。
【0075】
以下の非限定的な実施例は本発明の実施形態を例示し、かつ本発明の理解を容易にするために提供されているが、本明細書に添付されている特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0076】
実施例1
ラジカル開始剤系としてのCQ/CCM/DMABN/SC938の存在下でのPrime&Bond Active液体の重合を調査した。ここではCQ、DMABNおよびSC938の量を一定に維持しながら異なる量のクルクミン(CCM)を使用した(
図1を参照)。
【0077】
本明細書中の
図1は、光増感剤としての一定量のカンファーキノンおよび異なる量のクルクミンの存在下で反応性官能基のそれぞれの光重合プロファイルを示す(空気下、SmartLite Focusにより300mW.cm
-2、Prime&Bond Activeモノマーにおいて、照射はt=5秒で開始してt=120秒まで、厚さ=15μm)。
(1)CQ/CCM/DMABN/SC938(1/0.5/1/1%w/w)
(2)CQ/CCM/DMABN/SC938(1/0.2/1/1%w/w)
(3)CQ/CCM/DMABN/SC938(1/0.1/1/1%w/w)
(4)CQ/CCM/DMABN/SC938(1/0.05/1/1%w/w)
(5)参照系としてのCQ/DMABN/Me2-DPI(1.55/0.65/0.75%w/w)。
【0078】
注目すべきことに、青色の歯科用LED光(SmartLite Focus;300mW.cm
-2)による照射時に歯科用樹脂としてのPrime&Bond Activeのラジカル重合を開始させるためのCQ/CCM/DMABN/SC938系の性能は同じ条件下での参照系CQ/DMABN/Me2-DPIの性能を負かし、これはカンファーキノンと組み合わせた場合の光開始剤としてのCCMの役割および効果を示している(
図1を参照)。
【0079】
実施例2
CCMはCQと組み合わせた場合の新しい添加剤として提案されたため、同じ重合性能を維持しながらもCCMを添加することによりCQの量を減少させることも可能である。例えば、異なる量のCQを含むラジカル開始剤系としてのCQ/CCM/DMABN/SC938の存在下でのPrime&Bond Active液体の重合が
図2に示されている。
【0080】
図2は光開始剤としてのカンファーキノンの存在下での反応性官能基の光重合プロファイルを示す(空気下、SmartLite Focusにより300mW.cm
-2、Prime&Bond Activeモノマーにおいて、照射はt=5秒で開始してt=120秒まで、厚さ=15μm)。
(1)CQ/CCM/DMABN/SC938(1.55/0.05/0.65/0.75%w/w)
(2)CQ/CCM/DMABN/SC938(1.00/0.05/0.65/0.75%w/w)
(3)CQ/CCM/DMABN/SC938(0.7/0.05/0.65/0.75%w/w)
(4)参照系としてのCQ/DMABN/Me2-DPI(1.55/0.65/0.75%w/w)
【0081】
注目すべきことに、参照CQ/DMABN/Me2-DPI(1.55/0.65/0.75%w/w)と同じ光重合性能を維持しながら、0.05%のCCMの存在下でCQの量を1.55から0.7%に減少させることができる。
【0082】
実施例3
CCMは、空気下であってSmartLite Focus(300mW.cm-2)を用いた照射によるPrime&Bond Activeの薄い試料(15μm)の重合のために、CQ/CCM/DMABN/SC938系においてCQと共に共開始剤として使用することができる。
【0083】
図3は、光開始剤としてのカンファーキノンの存在下での反応性官能基の光重合プロファイルを示す(空気下、SmartLite Focusにより300mW.cm
-2、Prime&Bond Activeモノマーにおいて、照射はt=5秒で開始してt=120秒まで、厚さ=15μm)
(1)CQ/CCM/DMABN/SC938(0.7/0.05/0.65/0.75%w/w)
(2)参照系としてのCQ/CCM/DMABN/SC938(0.7/0.00/0.65/0.75%w/w)。
【0084】
注目すべきことに、CQ/CCM/DMABN/SC938系は参照系CQ/DMABN/SC938と比較して向上した重合性能を示し、これは高性能開始系のためのCQとCCMとの高い相乗作用を明らかに実証している(CQ単独よりも良好)。
【0085】
実施例4
CQ/CCM/DMABN/SC938系は、青色の歯科用LEDによる照射時に非常に優れた退色性も示す。それにも関わらず、CCMは橙黄色に着色されているため、より良好な退色性は、参照系CQ/DMABN/Me2-DPI(1.55/0.65/0.75%w/w)よりもCQ/CCM/DMABN/SC938系(1/0.05/1/1%w/w)の場合に得られた。
【0086】
重合の前後で当該試料の写真を撮影した。これらの写真に基づいて、照射後に各試料についてL、aおよびb値を測定した。それぞれの重合は空気下、SmartLite Focusによる300mW.cm-2、Prime&Bond Activeモノマーにおいて、照射はt=5秒で開始してt=120秒まで、厚さ=15μmで行った。
本発明:CQ/CCM/DMABN/SC938:L=67+/-2;a=-2+/-2;b=3+/-2
先行技術:CQ/DMABN/Me2-DPI:L=66+/-2;a=-2+/-2;b=5+/-2
【0087】
従ってCCMは重合指標として使用することができ、すなわち光強度が効率的な重合を開始させるのに十分に高くなるように照射された領域は十分に退色されている。この目視検査は、十分に重合された領域(退色された領域)を知るために歯科医師によって使用することができる。
【0088】
実施例5
注目すべきことに、0.05%のCCMを添加し、かつCQの量を1.55から0.7%に減少させることにより非常に優れた退色性が生じ、かつ重合後に最終的な色特性に影響を与えず、照射前の当該試料はCCMの存在下でより着色されている。この初期の着色の主要な利点は、CCMを用いて肉眼によって重合時の色の変化を追跡することができることであり(ΔbはCCMを使用しない場合よりも非常に高くなるが、完全な最終的な退色という利点を有する)、CCMは重合の着色された可視指標として機能する。CCMは光強度指標でもあり、すなわち所与の領域において光強度が高くなるにつれて、色の変化およびCCMの退色がより良好になる。
先行技術:CQ/DMABN/SC938(1.55/0.65/0.75%w/w)
本発明:CQ/CCM/DMABN/SC938(0.7/0.05/0.65/0.75%w/w)。
【0089】
照射前および異なる期間の照射後(10秒および20秒)の試料の写真を撮影した。光強度が効率的な重合を開始させるのに十分に高くなるように照射された領域は十分に退色されている。
【0090】
この目視検査は、光強度が所与の領域において効率的な重合のために十分に高いかどうかを知るために歯科医師によって使用することができる。これらの写真に基づいて、L、aおよびb値を照射後に各試料について測定した。それぞれの重合を空気下、SmartLite Focusによる300mW.cm-2、Prime&Bond Activeモノマーにおいて、照射時間t=10秒およびt=20秒、厚さ=15μmで実行した。
先行技術(照射前):L=67+/-2;a=-5+/-2;b=6+/-2
先行技術(10秒の照射後):L=66+/-2;a=2+/-2;b=2+/-2;Δb=4
先行技術(20秒の照射後):L=66+/-2;a=-2+/-2;b=2+/-2;Δb=4
本発明(照射前):L=72+/-2;a=-13+/-2;b=36+/-2
本発明(10秒の照射後):L=67+/-2;a=-5+/-2;b=3+/-2;Δb=33
本発明(20秒の照射後):L=67+/-2;a=-2+/-2;b=3+/-2;Δb=33
【0091】
本発明の原理について特定の実施形態に関連して説明してきたが、それらは例示のためにのみ提供されており、当然のことながら本明細書を読めばそれらの様々な修正が当業者には明らかになる。従って当然のことながら、本明細書に開示されている発明は、そのような修正を添付の特許請求の範囲内に含まれるものとして包含することが意図されている。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。