(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】半導体デバイス検査方法及び半導体デバイス検査装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/28 20060101AFI20241031BHJP
G01R 31/311 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G01R31/28 R
G01R31/28 P
G01R31/28 L
G01R31/311
(21)【出願番号】P 2022527547
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014481
(87)【国際公開番号】W WO2021241007
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020091377
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】茅根 慎通
(72)【発明者】
【氏名】中村 共則
(72)【発明者】
【氏名】嶋瀬 朗
(72)【発明者】
【氏名】江浦 茂
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-14553(JP,A)
【文献】特開2011-47825(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061378(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/008850(WO,A1)
【文献】特表2016-534344(JP,A)
【文献】特表2013-526723(JP,A)
【文献】特開2010-197051(JP,A)
【文献】特開平6-300824(JP,A)
【文献】国際公開第2021/241008(WO,A1)
【文献】SCHMIDT, Christian et al.,“Non-destructive defect depth determination at fully packaged and stacked die devices using Lock-in Thermography”,2010 17th IEEE International Symposium on the Physical and Failure Analysis of Integrated Circuits,2010年07月05日,DOI: 10.1109/IPFA.2010.5532004
【文献】JACOBS, K. J. P. et al.,“Lock-in thermal laser stimulation for non-destructive failure localization in 3-D devices”,Microelectronics Reliability,2017年06月27日,Vol. 76-77,pp. 188-193,DOI: https://doi.org/10.1016/j.microrel.2017.06.034
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/26-31/3193
H01L 21/66
H01L 27/04
G01N 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイスに対して電力を供給すると同時に半導体デバイスの前記電力の供給に応じた電気特性を測定するステップと、
第1の周波数で強度変調された光と、前記第1の周波数よりも高い第2の周波数で強度変調された光を前記半導体デバイスに走査し、当該走査に応じた前記第1の周波数成分及び前記第2の周波数成分の前記電気特性を示す特性信号を取得するステップと、
前記半導体デバイスにおける前記光の光軸方向の第1の位置の前記電気特性が反映される第1の走査位置の前記特性信号と、前記半導体デバイスにおける前記光の光軸方向の第2の位置の前記電気特性が反映される第2の走査位置の前記特性信号とが、所定の位相差となるような前記特性信号の周波数を求めるステップと、
前記半導体デバイスにおける前記第1の走査位置の前記特性信号の位相成分を基準にして、任意の走査位置の前記特性信号の位相成分を補正するステップと、
求めた前記周波数における任意の走査位置の前記特性信号を取得し、当該特性信号の同相成分及び直交成分を出力するステップと、
を備える半導体デバイス検査方法。
【請求項2】
前記出力するステップでは、前記同相成分の二次元分布を示す画像と、前記直交成分の二次元分布を示す画像とを出力する、
請求項1に記載の半導体デバイス検査方法。
【請求項3】
前記出力するステップでは、前記特性信号を基に、前記任意の走査位置における前記第1の位置の前記電気特性を示す値と、前記任意の走査位置における前記第2の位置の前記電気特性を示す値とを出力する、
請求項1又は2に記載の半導体デバイス検査方法。
【請求項4】
前記補正するステップでは、前記第1の走査位置の前記特性信号の位相成分を相殺するように前記任意の走査位置の前記特性信号の位相成分を補正する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体デバイス検査方法。
【請求項5】
前記求めるステップでは、前記特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、前記特性信号の周波数を求める、
請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体デバイス検査方法。
【請求項6】
前記出力するステップでは、前記任意の走査位置の前記特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、前記周波数における前記特性信号を取得する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体デバイス検査方法。
【請求項7】
前記所定の位相差は、π/2である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の半導体デバイス検査方法。
【請求項8】
半導体デバイスに対して電力を供給すると同時に半導体デバイスの前記電力の供給に応じた電気特性を測定する測定器と、
第1の周波数で強度変調された光と、前記第1の周波数よりも高い第2の周波数で強度変調された光を前記半導体デバイスに走査する光走査装置と、
前記光の走査に応じた前記第1の周波数成分及び前記第2の周波数成分の前記電気特性を示す特性信号を取得する信号取得装置と、
前記特性信号を処理するプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、
前記半導体デバイスにおける前記光の光軸方向の第1の位置の前記電気特性が反映される第1の走査位置の前記特性信号と、前記半導体デバイスにおける前記光の光軸方向の第2の位置の前記電気特性が反映される第2の走査位置の前記特性信号とが、所定の位相差となるような前記特性信号の周波数を求め、
前記半導体デバイスにおける前記第1の走査位置の前記特性信号の位相成分を基準にして、任意の走査位置の前記特性信号の位相成分を補正し、
求めた前記周波数における任意の走査位置の前記特性信号を取得し、当該特性信号の同相成分及び直交成分を出力する、
半導体デバイス検査装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記同相成分の二次元分布を示す画像と、前記直交成分の二次元分布を示す画像とを出力する、
請求項8に記載の半導体デバイス検査装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、前記特性信号を基に、前記任意の走査位置における前記第1の位置の前記電気特性を示す値と、前記任意の走査位置における前記第2の位置の前記電気特性を示す値とを出力する、
請求項8又は9に記載の半導体デバイス検査装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記第1の走査位置の前記特性信号の位相成分を相殺するように前記任意の走査位置の前記特性信号の位相成分を補正する、
請求項8~10のいずれか1項に記載の半導体デバイス検査装置。
【請求項12】
前記プロセッサは、前記特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、前記特性信号の周波数を求める、
請求項8~11のいずれか1項に記載の半導体デバイス検査装置。
【請求項13】
前記プロセッサは、前記任意の走査位置の前記特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、前記周波数における前記特性信号を取得する、
請求項8~12のいずれか1項に記載の半導体デバイス検査装置。
【請求項14】
前記所定の位相差は、π/2である、
請求項8~13のいずれか1項に記載の半導体デバイス検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態の一側面は、半導体デバイス検査方法及び半導体デバイス検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、3次元的に半導体チップが積層された半導体デバイスの電気特性を解析する手法として、ロックインOBIRCH(Lock-in Optical Beam Induced Resistance Change)が知られている(例えば、下記非特許文献1参照)。この手法によれば、半導体デバイスにレーザをスキャンしながら抵抗等の電気特性の変化を測定することにより、非破壊での半導体デバイスの故障解析が実現される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K.J.P. Jacobs et al.,“Lock-in thermal laser stimulation for non-destructive failure localization in 3-D devices”, Microelectronics Reliability, Vol.76-77(2017), Pages188-193.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来の手法においては、半導体チップがレーザの照射方向に複数の層で積層された半導体デバイスを対象にした場合に、積層構成に対応して電気特性を解析することが望まれていた。
【0005】
そこで、実施形態の一側面は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、半導体デバイスの積層構成に対応した電気特性を解析することが可能な半導体デバイス検査方法及び半導体デバイス検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一側面に係る半導体デバイス検査方法は、半導体デバイスに対して電力を供給すると同時に半導体デバイスの電力の供給に応じた電気特性を測定するステップと、第1の周波数で強度変調された光と、第1の周波数よりも高い第2の周波数で強度変調された光を半導体デバイスに走査し、当該走査に応じた第1の周波数成分及び第2の周波数成分の電気特性を示す特性信号を取得するステップと、半導体デバイスにおける光の光軸方向の第1の位置の電気特性が反映される第1の走査位置の特性信号と、半導体デバイスにおける光の光軸方向の第2の位置の電気特性が反映される第2の走査位置の特性信号とが、所定の位相差となるような特性信号の周波数を求めるステップと、半導体デバイスにおける第1の走査位置の特性信号の位相成分を基準にして、任意の走査位置の特性信号の位相成分を補正するステップと、求めた周波数における任意の走査位置の特性信号を取得し、当該特性信号の同相成分及び直交成分を出力するステップと、を備える。
【0007】
あるいは、実施形態の他の側面に係る半導体デバイス検査装置は、半導体デバイスに対して電力を供給すると同時に半導体デバイスの電力の供給に応じた電気特性を測定する測定器と、第1の周波数で強度変調された光と、第1の周波数よりも高い第2の周波数で強度変調された光を半導体デバイスに走査する光走査装置と、光の走査に応じた第1の周波数成分及び第2の周波数成分の電気特性を示す特性信号を取得する信号取得装置と、特性信号を処理するプロセッサと、を備え、プロセッサは、半導体デバイスにおける光の光軸方向の第1の位置の電気特性が反映される第1の走査位置の特性信号と、半導体デバイスにおける光の光軸方向の第2の位置の電気特性が反映される第2の走査位置の特性信号とが、所定の位相差となるような特性信号の周波数を求め、半導体デバイスにおける第1の走査位置の特性信号の位相成分を基準にして、任意の走査位置の特性信号の位相成分を補正し、求めた周波数における任意の走査位置の特性信号を取得し、当該特性信号の同相成分及び直交成分を出力する。
【0008】
上記一側面あるいは他の側面によれば、第1の周波数で変調された光と第2の周波数で変調された光とを半導体デバイスに走査しながら第1の周波数成分及び第2の周波数成分の半導体デバイスの電気特性を測定した特性信号が取得される。そして、取得された特性信号を基に、半導体デバイスの光の光軸方向の第1の位置の電気特性が反映された第1の走査位置の特性信号と、第2の位置の電気信号が反映された第2の走査位置の特性信号とが所定の位相差となるような周波数が求められる。さらに、任意の走査位置の特性信号の位相成分が、第1の走査位置の特性信号の位相成分を基準に補正され、求めた周波数における任意の走査位置の特性信号が取得され、取得した特性信号の同相成分及び直交成分が出力される。これにより、半導体デバイスの任意の走査位置における層毎の電気特性を推定することができ、半導体デバイスの積層構成に対応した電気特性を解析することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、半導体デバイスの積層構成に対応した電気特性を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態にかかる半導体検査装置1の概略構成図である。
【
図2】
図1の検査装置19のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】半導体検査装置1の測定対象の半導体デバイスSの積層構造の一例を示す図である。
【
図4】検査装置19で取得された複数の周波数成分の特性信号を二次元画像で表現したイメージを示す図である。
【
図5】検査装置19によって解析された位相成分θと周波数の平方根f
1/2との関係をプロットしたグラフである。
【
図6】検査装置19によって補正された位相成分θと周波数の平方根f
1/2との関係をプロットしたグラフである。
【
図7】検査装置19によって解析された特性信号の実部及び虚部の周波数の平方根f
1/2との関係の一例を示グラフである。
【
図8】検査装置19によって解析された特性信号の実部及び虚部の周波数の平方根f
1/2との関係の一例を示グラフである。
【
図9】検査装置19によって解析された特性信号の実部及び虚部の周波数の平方根f
1/2との関係の一例を示グラフである。
【
図10】検査装置19によって出力された同相成分の二次元画像及び直交成分の二次元画像の一例を示す図である。
【
図11】半導体検査装置1による解析処理の手順を示すフローチャートである。
【
図12】検査装置19による解析結果の出力イメージを示す図である。
【
図13】本開示の変形例によって生成された差画像のイメージを示す図である。
【
図14】本開示の変形例によって生成された出力画像のイメージを示す図である。
【
図15】所定の位相差となる周波数における各走査位置の補正後の特性信号をベクトルで示した図である。
【
図16】変形例に係る検査装置19の測定対象の半導体デバイスSの積層構造の一例を示す図である。
【
図17】変形例に係る検査装置19によって取得された特性信号の周波数毎の変化を示すグラフである。
【
図18】変形例に係る検査装置19の測定対象の半導体デバイスSの積層構造の一例を示す図である。
【
図19】変形例に係る検査装置19によって解析された特性信号の自然対数と周波数の平方根f
1/2との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、実施形態にかかる半導体デバイス検査装置である半導体検査装置1の概略構成図である。半導体検査装置1は、測定対象物(DUT:Device Under Test)である半導体デバイスの故障個所の解析を行うために各箇所の電気特性を測定するための装置である。この半導体検査装置1の測定対象としては、複数の半導体チップが2層以上で積層された半導体デバイスが好適に用いられる。なお、
図1においては、電気信号の装置間の流れを実線矢印で示し、光信号の装置間の流れを点線矢印で示す。
【0013】
すなわち、半導体検査装置1は、電圧印加装置3及び電流測定装置5を含む測定器7と、光源9と、信号源11と、光走査装置13と、ロックインアンプ(信号取得装置)15と、光検出器17と、検査装置19とを含んで構成される。以下、半導体検査装置1の各構成要素について詳細に説明する。
【0014】
測定器7は、2つの端子を有し、その2つの端子が半導体デバイスSに電気的に接続されることにより、半導体デバイスS内に形成される回路に電圧印加装置3から定電圧を印加して電力を供給し、その供給に応じて2つの端子間の半導体デバイスS内を流れる電流を、電流測定装置5において電気特性として測定する。
【0015】
光源9は、例えばレーザ光を照射するレーザ光源(照射源)である。光源9は、信号源11によって可変の周波数で生成される交流信号を受けて、その交流信号に含まれる周波数で強度変調したレーザ光を生成する。この交流信号は、単一の周波数成分を有する信号であってもよいし、複数の周波数成分を含む信号(例えば、矩形波信号)であってもよい。光走査装置13は、光源9から照射されたレーザ光を半導体デバイスSに向けて導光して照射させるとともに、半導体デバイスSにおけるレーザ光の照射位置を半導体デバイスSの表面に沿って2次元的に走査させる。ここで、光走査装置13におけるレーザ光の2次元的な走査は、検査装置19によって制御される。また、光走査装置13は、レーザ光の照射に応じて半導体デバイスSの表面から生じた反射光を光検出器17に向けて導光する。なお、光源9はインコヒーレントな光を生成するSLDやLED、ランプ光源等でもよい。
【0016】
ロックインアンプ15は、信号源11から出力される交流信号をモニターするとともに測定器7によって測定された電気特性を示す特性信号を受け、特性信号のうちのレーザ光の変調周波数の周波数成分を抽出(ロックイン検出)して検査装置19に出力する。このとき、ロックインアンプ15は、交流信号に含まれる複数の周波数成分に応じて、複数の周波数成分を抽出してもよい。光検出器17は、光走査装置13によって走査されたレーザ光に応じて半導体デバイスSによって生じた反射光を受け、反射光の強度を示す強度信号を検査装置19に出力する。
【0017】
検査装置19は、ロックインアンプ15、光検出器17、及び光走査装置13に電気的に接続され、光走査装置13による2次元的な走査を制御するとともに、ロックインアンプ15からの特性信号及び光検出器17からの強度信号を処理するデータ処理装置である。
【0018】
図2は、検査装置19のハードウェア構成を示している。
図2に示すように、検査装置19は、物理的には、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)101、記録媒体であるRAM(Random Access Memory)102又はROM(Read Only Memory)103、通信モジュール104、及び入出力モジュール106等を含んだコンピュータ等であり、各々は電気的に接続されている。検査装置19の機能は、CPU101及びRAM102等のハードウェア上にプログラム等を読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで、通信モジュール104、及び入出力モジュール106等を動作させるとともに、RAM102におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。なお、検査装置19は、入出力デバイスとして、ディスプレイ、キーボード、マウス、タッチパネルディスプレイ等を含んでいてもよいし、ハードディスクドライブ、半導体メモリ等のデータ記録装置を含んでいてもよい。また、検査装置19は、複数のコンピュータによって構成されていてもよい。
【0019】
図3は、半導体検査装置1の測定対象の半導体デバイスSの積層構造の一例を示す。半導体デバイスSは、例えば、半導体回路部C1及び配線部W1を含む第1層L1と、半導体回路部C2及び配線部W2を含む第2層L2と、層間配線部W12とを少なくとも有する、多層構造の半導体デバイスである。なお、
図3においては、層間に存在する絶縁層の図示を省略している。このような半導体デバイスSにおいては、半導体検査装置1の電圧印加装置3による電圧の印加に伴って、第1層L1にのみに電流が生成される領域A1、第2層L2のみに電流が生成される領域A2、及び、第1層L1及び第2層L2の両方に電流が生成される領域A12が、層間の界面方向、すなわち半導体デバイスSの表面Suに沿って生ずる。このような半導体デバイスSには、レーザ光の光軸が層間の界面(表面Su)に略垂直となるように第1層L1側からレーザ光が照射される。これにより、レーザ光の集光されている第1層L1の位置から熱が伝搬する。そのため、領域A1への照射に対して得られる特性信号には、光軸方向において光源9に近い第1の位置にある第1層L1の電気特性が反映される。また、領域A2への照射に対して得られる特性信号には、光軸方向において光源9から遠い第2の位置にある第2層L2の電気特性が反映される。また、領域A12への照射に対して得られる特性信号には、第1層L1及び第2層L2の両方の電気特性が反映される。
【0020】
以下、検査装置19の機能について詳細に説明する。
【0021】
検査装置19は、少なくとも、第1の周波数f1で強度変調されたレーザ光、及び第1の周波数よりも高い第2の周波数f2で強度変調されたレーザ光を、半導体デバイスS上の領域A1,A2,A12を含む領域に2次元的に走査するように光走査装置13を制御する。本実施形態では、検査装置19は、第1及び第2の周波数f1,f2以外の複数の周波数で強度変調されたレーザ光も半導体デバイスSに走査するように制御する。このような複数の周波数で強度変調されたレーザ光は、別々に照射されてもよい。また、矩形波に強度変調したレーザ光のような形態で、複数の周波数で強度変調されたレーザ光を同時に照射したような状態を実現してもよい。
【0022】
また、検査装置19は、上記の複数の変調周波数f1,f2,…のレーザ光の走査の制御に応じて、複数の周波数成分f1,f2,…毎にロックイン検出された特性信号を、その位相及び振幅もしくは複素数で表現した信号として半導体デバイスSの走査位置毎に取得し、それらの特性信号を二次元画像に変換して解析する。
図4には、検査装置19で取得された複数の周波数成分毎の特性信号を二次元画像で表現したイメージを示している。この二次元画像は、ガウシアンフィルタ等のフィルタが適用されてもよい。
【0023】
ここで、半導体デバイスSの領域A1に含まれる少なくとも1つの走査位置、及び半導体デバイスSの領域A2に含まれる少なくとも1つの走査位置のそれぞれは、設計データに基づいてユーザによって予め検査装置19に設定されている。あるいは、当該それぞれの走査位置は、設計データに基づいて予め検査装置19において自動的に特定されている。またあるいは、当該検査装置19は、後述する位相成分の周波数に対する変化が最も小さい場所を走査位置として設定してもよい。
【0024】
そして、検査装置19は、各走査位置で得られた特性信号の位相成分θを取得し、その位相成分θと周波数の平方根f
1/2との関係を走査位置毎に解析する。
図5には、検査装置19によって解析された位相成分θと周波数の平方根f
1/2との関係をプロットしたグラフを示す。このように、領域A1内の走査位置に対応する位相成分θの解析点P1と、領域A2内の走査位置に対応する位相成分θの解析点P2と、領域A12内の走査位置に対応する位相成分θの解析点P12とが、異なった特性を有するように得られる。なお、検査装置19は、必ずしも、位相成分θと周波数の平方根f
1/2との関係を解析する必要はなく、位相成分θと周波数fとの関係を解析してもよい。
【0025】
また、検査装置19は、上記のようにして得られた任意の走査位置の位相成分θの各解析点を、予め既知の走査位置の同一周波数の解析点P1を基準にして、その解析点P1における位相成分θを相殺するように補正する。このとき、検査装置19は、位相成分θの相殺により-πからπに(あるいはその逆に)値が不連続に変化した場合には、その後の解析に支障を与えないように、位相成分θに-2π(あるいは2π)を加えて位相の連続性を保つように処理する。
図6には、検査装置19によって補正された位相成分θと周波数の平方根f
1/2との関係をプロットしたグラフ示す。このようにして補正された位相成分θの周波数の平方根f
1/2に対する特性は、領域A1,A2,A12間で異なった特性を示す。すなわち、領域A1に対応する特性は常にゼロに近い値を持ち、領域A2に対応する特性は周波数の平方根f
1/2に対して傾きαの線形な特性を持ち、領域A12に対応する特性は極値を持つ特性となる。
【0026】
そして、検査装置19は、上記のようにして補正された位相成分θを反映した各走査位置の特定信号を対象に処理する。すなわち、検査装置19は、予め設定された領域A1に含まれる走査位置の特性信号と、予め設定された領域A2に含まれる走査位置の特性信号とが所定の位相差となる周波数を求める。一例として、所定の位相差はπ/2(90度)である。
【0027】
図7の(a)部及び(b)部には、それぞれ、領域A1に含まれる走査位置の特性信号の実部及び虚部の周波数の平方根f
1/2との関係の一例を示し、
図8の(a)部及び(b)部には、それぞれ、領域A2に含まれる走査位置の特性信号の実部及び虚部の周波数の平方根f
1/2との関係の一例を示す。このように、各走査位置の特性信号の実部は、周波数の上昇に伴って下降する特性を有し、領域A1に含まれる走査位置の特性信号の虚部は補正により常にゼロとなり、領域A2に含まれる走査位置の特性信号の虚部は周波数の変化に応じて変動する。検査装置19は、領域A2に含まれる走査位置の補正後の特性信号の実部がゼロと近似される周波数f
*を、位相差がπ/2となる周波数として求める。この際、検査装置19は、領域A2に含まれる走査位置の補正後の特性信号の周波数特性を、周波数の平方根f
1/2を引数とする関数を用いたカーブフィッティングにより予測し、予測した関数を用いて実部がゼロと近似される周波数f
*を求めてもよい。カーブフィッティングには、例えば多項式関数を用いる。多項式関数を用いる場合には、最大次数が大きくなりすぎないように予め適切に関数が設定される。
【0028】
ここで、検査装置19は、2つの走査位置の特性信号の間が所定の位相差となる周波数を求める際には、位相成分を一方の特性信号の位相を基準に補正する前の特性信号を用いてもよい。この場合は、位相差がπ/2となる周波数を求めるためには、検査装置19は、一方の特性信号の示す複素数に他方の特性信号の複素数の共役複素数を掛け算した結果がゼロとなる周波数を求める。
【0029】
さらに、検査装置19は、任意の走査位置の補正後の特性信号の周波数特性を基に、上記のようにして求めた周波数f
*における特性信号を計算により取得する。
図9の(a)部及び(b)部には、任意の走査位置の特性信号の実部及び虚部の周波数の平方根f
1/2との関係の一例を示している。この際、検査装置19は、任意の走査位置の補正後の特性信号の周波数特性を、周波数の平方根f
1/2を引数とする関数を用いたカーブフィッティングにより予測し、予測した関数を用いて周波数f
*における実部及び虚部の値を計算により求めることができる。カーブフィッティングには、例えば多項式関数を用いる。多項式関数を用いる場合には、最大次数が大きくなりすぎないように予め適切に関数が設定される。一方で、検査装置19は、変調周波数が周波数f
*を含むように設定されたレーザ光を用いて半導体デバイスSを走査して得られた特性信号を基に、周波数f
*における任意の走査位置の特性信号をあらためて取得してもよい。
【0030】
検査装置19は、このような周波数f*における特性信号の取得を半導体デバイスS上のそれぞれの走査位置に関して繰り返すことにより、各走査位置毎に特性信号の実部及び虚部を取得する。また、検査装置19は、各走査位置毎に取得した特性信号の実部、及び各走査位置毎に取得した特性信号の虚部を、それぞれ、特性信号の同相成分及び直交成分を示す二次元画像として、ディスプレイ等の入出力モジュール106に出力する。
【0031】
図10には、検査装置19によって出力された同相成分の二次元画像G
I及び直交成分の二次元画像G
Qの一例を示している。このように、位相差がπ/2となる周波数の特性信号が取得されることにより、二次元画像G
I上に半導体デバイスSの第1層L1の電気特性の分布が反映され、二次元画像G
Q上に半導体デバイスSの第2層L2の電気特性の分布が反映される。また、位相差が任意の角度となる周波数の特性信号が取得されることによっても、二次元画像G
I上に半導体デバイスSの第1層L1及び第2層L2の電気特性の両方の分布が所定の比率で反映され、二次元画像G
Q上に半導体デバイスSの第2層L2の電気特性のみの分布が反映される。
【0032】
次に、本実施形態に係る半導体検査装置1を用いた半導体デバイスSを対象にした解析処理の手順、すなわち、本実施形態に係る半導体デバイス検査方法の流れについて説明する。
図11は、半導体検査装置1による解析処理の手順を示すフローチャートである。
【0033】
まず、測定器7によって、半導体デバイスSに対する電力の供給と、半導体デバイスSの電気特性の測定が開始される(ステップS1)。次に、検査装置19によって光走査装置13の動作が制御されることにより、第1の周波数f1で強度変調されたレーザ光が半導体デバイスS上に2次元的に走査されると同時に、検査装置19においてロックインアンプ15によってその第1の周波数f1でロックイン検出された特性信号が取得される(ステップS2)。
【0034】
さらに、検査装置19において、取得された特性信号の二次元分布を示す二次元画像が取得される(ステップS3)。その後、レーザ光の変調周波数が第2の周波数f1、及び第1及び第2の周波数f1,f2以外の周波数に順次変更されて(ステップS4)、ステップS2及びステップS3の処理が繰り返されることにより、複数の周波数f2,…でそれぞれロックイン検出された複数の特性信号が取得される。
【0035】
次に、検査装置19によって、各走査位置の特性信号を基に周波数の平方根f1/2に対する特性信号の位相成分θの関係が解析され、半導体デバイスSの領域A1内の走査位置の位相成分の解析点を基準にして、任意の走査位置の位相成分θの解析点が補正される(ステップS5)。さらに、検査装置19によって、領域A1内の走査位置の位相成分θと領域A2内の走査位置の位相成分との差が所定の位相差となる周波数が求められる(ステップS6)。これらの領域A1,A2内のそれぞれの走査位置は、予めユーザによって設定される。
【0036】
その後、検査装置19により、半導体デバイスS上の一の走査位置における補正後の特性信号を基に、ステップS6で求めた周波数における特性信号の実部及び虚部が計算により取得される(ステップS7)。次に、解析対象の走査位置が順次変更されて(ステップS8)、ステップS7の処理が繰り返されることにより、複数の走査位置における複数の特性信号の実部及び虚部が取得される。
【0037】
さらに、検査装置19によって、全ての走査位置における実部及び虚部の値のそれぞれが、同相成分及び直交成分を示す二次元画像として画像化される(ステップS9)。最後に、検査装置19において、同相成分及び直交成分の画像が出力される(ステップS10)。
【0038】
図12には、検査装置19による解析結果の出力イメージを示している。検査装置19は、例えば、光検出器17から得られた強度信号に基づいた半導体デバイスの光学画像G
1、指定した任意の周波数における特性信号の同相成分及び直交成分を示す画像G
2I,G
2Q、上記解析処理により求めた特性信号の同相成分及び直交成分を示す画像G
3I,G
3Qを並べて出力する。また、検査装置19は、予め設定した2つの走査位置Ref1,Ref2における特性信号の位相成分の周波数特性を示すグラフGR
1,GR
2、及びユーザが指定した任意の走査位置における特性信号の位相成分の周波数特性を示すグラフGR
3を同時に出力してもよく、そのグラフGR
2上で所定の位相差となる周波数を示してもよい。
【0039】
以上説明した半導体検査装置1によれば、複数の周波数f1,f2,…で変調されたレーザ光を半導体デバイスSに走査しながらロックイン検出することにより複数の周波数成分の半導体デバイスSの電気特性を測定した特性信号が取得される。そして、取得された特性信号を基に、半導体デバイスSの第1層L1の電気特性が反映された走査位置の特性信号と、第2層L2の電気特性が反映された走査位置の特性信号とが所定の位相差となるような周波数が求められる。さらに、任意の走査位置の特性信号の位相成分が、第1層L1の電気特性が反映された走査位置の特性信号の位相成分を基準に補正され、求めた周波数における任意の走査位置の特性信号が取得され、取得した特性信号の同相成分及び直交成分が出力される。これにより、半導体デバイスSの任意の走査位置における層L1,L2毎の電気特性を推定することができ、半導体デバイスSの積層構成に対応した電気特性を解析することができる。
【0040】
特に、本実施形態では、上記所定の位相差がπ/2と設定されている。この場合、出力する特性信号の同相成分及び直交成分のそれぞれが、各層L1,L2の電気特性を直接示すものとなる。その結果、半導体デバイスSの任意の走査位置における層L1,L2毎の電気特性を容易に解析することができる。
【0041】
また、本実施形態では、特性信号の同相成分の二次元分布を示す画像と、特性信号の直交成分の二次元分布を示す画像とが出力されている。このような構成により、特性信号の同相成分及び直交成分の分布を視覚的に捉えさせることができ、半導体デバイスSの積層構成に対応した電気特性を容易に解析することができる。
【0042】
さらに、領域A1内の走査位置の特性信号の位相成分を相殺するように任意の走査位置の特性信号の位相成分が補正されている。このように動作することで、第1層L1の電気特性が反映される走査位置の特性信号の位相成分に対する任意の走査位置の位相成分の相対値が取得できる。その結果、任意の走査位置の特性信号の出力値を基にして、半導体デバイスSの任意の走査位置における層L1,L2毎の電気特性を容易に推定することができる。
【0043】
またさらに、本実施形態では、特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、所定の位相差となる特性信号の周波数が求められている。かかる構成によれば、2つの走査位置の特性信号の間の位相差が所定の位相差となる周波数を精度よく求めることができる。その結果、半導体デバイスSの積層構成に対応した電気特性を高精度に解析することができる。
【0044】
さらにまた、本実施形態では、任意の走査位置の特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、求めた周波数における特性信号が取得されている。かかる構成によれば、任意の走査位置における求めた周波数の特性信号を精度よく取得することができる。その結果、半導体デバイスSの積層構成に対応した電気特性を高精度に解析することができる。
【0045】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0046】
例えば、検査装置19においては、第1の周波数f1でロックイン検出された特性信号の位相成分θと、第1の周波数f1よりも高い第2の周波数f2でロックイン検出された特性信号の位相成分θとの差の二次元分布を示す画像を生成及び出力してもよい。例えば、
図13に示すように、第1の周波数f1での位相成分θを表す画像G
f1と、第2の周波数f2での位相成分θを表す画像G
f2を基に、各画像G
f1,G
f2の位相成分θの差分を反映した差画像G
diffを生成してもよい。このような差画像G
diffを基に、半導体デバイスSの各走査位置における層の深さの情報を視覚的に取得することができる。検査装置19は、差画像G
diffを出力する際には、位相成分θの差を濃淡によって表して出力しもよいし、差をLUT(Look-up Table)等を参照して色相に変換して出力してもよい。
【0047】
また、半導体検査装置1は、レーザ光の二次元走査を、半導体デバイスS上での複数のラインに沿った一次元走査をラインに垂直な方向にずらして繰り返すことにより実行し、その一次元走査毎の変調周波数を、第1の周波数f1及び第2の周波数で交互に変更するように動作してもよい。例えば、第1の周波数f1=1Hz、第2の周波数=4Hzに設定される。
図14には、このような変形例に係る半導体検査装置1によって、ライン毎に変調周波数f1、f2に対応してロックイン検出されることにより生成される位相成分θの二次元分布を表す画像G
outの一例を示している。このような変形例によっても、光源9から遠い位置の層L3の電気特性と、光源9から近い位置の層L4の電気特性とが容易に判別可能となる。
【0048】
また、検査装置19においては、予め設定された2つの走査位置の特性信号の位相差がπ/2となるような周波数を求めていたが、この位相差は任意の角度θに設定されていてもよい。また、検査装置19は、逆に、周波数f*を先に設定しておいて、その周波数f*における位相差θを2つの走査位置の位相成分の周波数特性から求めてもよい。
【0049】
図15は、位相差θとなる周波数f
*における各走査位置の補正後の特性信号を、実軸をI、虚軸をQとしてIQ平面上に表示したベクトルで示しており、(a)部には領域A12(
図3)における特性信号、(b)部には領域A2における特性信号、(c)部には領域A1における特性信号を示している。このように、補正後の特性信号SGは、領域A1においては、同相成分Iのみを有する第1層L1の電気特性を示す特性信号SG
1の成分を有し、領域A2においては、位相θを有する第2層L2の電気特性を示す特性信号SG
2の成分を有し、領域A12においては、第1層L1の特性信号SG
1の成分と第2層L2の特性信号SG
2の成分を合成した成分SG
1+SG
2を有する。すなわち、任意の走査位置における特性信号の同相成分SG
I及び直交成分SG
Qは、下記式;
SG
Q=|SG
2|・sinθ,
SG
I=|SG
1|+|SG
2|・cosθ
によって表される。
【0050】
上記のような性質を利用して、検査装置19は、位相差θとなる周波数f*における各走査位置の特性信号の同相成分SI及び直交成分SQに基づいて、任意の走査位置における第1層L1の特性信号の値|SG1|、及び第2層L2の特性信号の値|SG2|の値を、下記式;
|SG1|=SGI-SGQ/tanθ,
|SG2|=SGQ/sinθ
によって計算により取得する。そして、検査装置19は、計算した全ての走査位置における値|SG1|,|SG2|を基に、それぞれの値の二次元分布を表す画像を生成し、それらの画像を出力する。
【0051】
このような変形例によっても、各層L1,L2の電気特性の二次元分布を直接示す画像を出力することができる。その結果、半導体デバイスSの任意の走査位置における層L1,L2毎の電気特性を容易に解析することができる。
【0052】
上記実施形態においては、第1層L1及び第2層L2を含む2層構造の半導体デバイスSを対象にしていたが、検査装置19は、3層構造以上の半導体デバイスSを対象にした解析機能を有していてもよい。
【0053】
例えば、
図16に示すような、光源9に近い側から、第1の位置にある第1層L1、第2の位置にある第2層L2,及び第3の位置にある第3層L3を含む多層構造を有する半導体デバイスSを対象としてもよい。このような半導体デバイスSにおいて、設計データ等から、第1層L1のみに電流が流れる経路PAを有する領域A1と、第1層L1及び第2層に経路PAを有する領域A12と、第2層L2及び第3層L3に経路PAを有する領域A23と、第3層L3のみに経路PAを有する領域A3が既知であるとする。また、光源9からのレーザ光は第1層L1に集光されるように照射されるものとする。
【0054】
上記の構成の半導体デバイスSを対象にした場合、検査装置19は、まず、領域A1の特性信号を基準に全ての走査位置の特性信号の位相補正を行う。次に、領域A1の特性信号と領域A23の特性信号を対象に、上記実施形態の解析処理を実行して全ての走査位置における第1層L1の特性信号を分離する。また、検査装置19は、領域A1の補正後の特性信号を基に、各周波数における振幅に関するゲインを取得しておく。
図17の(a)部には、各周波数f
0,f
1,f
2,f
3において取得された領域A1の特性信号の変化を示し、
図17の(b)部には、それらに伴って取得された各周波数f
0,f
1,f
2,f
3に対応する領域A1の特性信号の振幅に関するゲインを示している。
【0055】
次に、検査装置19は、各走査位置の各周波数f0,f1,f2,f3に対応する特性信号を対象に、各周波数f0,f1,f2,f3におけるゲインを反映させた各走査位置の第1層L1の特性信号を除去する。そして、検査装置19は、除去した後の領域A12の特性信号を基に、除去した後の全ての走査位置の特性信号の位相補正を行う。さらに、領域A3の特性信号と領域A12の特性信号を対象に、上記実施形態の解析処理を実行して、全ての走査位置における第2層L2の特性信号を分離すると同時に、全ての走査位置における第3層L3の特性信号を分離する。
【0056】
このような変形例によれば、3層構造の半導体デバイスを対象に、任意の走査位置における層L1,L2,L3毎の電気特性を推定することができる。
【0057】
また、検査装置19は、
図18に示すような4層構造の半導体デバイスSを対象にした解析機能を有していてもよい。
図18に示す半導体デバイスSは、光源9に近い側から、第1の位置にある第1層L1、第2の位置にある第2層L2,第3の位置にある第3層L3、及び第4の位置にある第4層L4を含む多層構造を有する。このような半導体デバイスSにおいて、設計データ等から、第1層L1のみに電流が流れる経路PAを有する領域A1と、第2層L2、第3層L3、及び第4層L4に経路PAを有する領域A234と、が既知であるとする。また、光源9からのレーザ光は第1層L1に集光されるように照射されるものとする。
【0058】
上記の構成の半導体デバイスSを対象にした場合、検査装置19は、まず、領域A1の特性信号を基準に全ての走査位置の特性信号の位相補正を行う。次に、領域A1の特性信号と領域A234の特性信号を対象に、上述した実施形態の解析処理を実行して全ての走査位置における第1層L1の特性信号を分離する。そして、検査装置19は、各走査位置の各周波数に対応する特性信号を対象に、各周波数に対応するゲインを反映させた各走査位置の第1層L1の特性信号を除去する。その後、検査装置19は、除去した各走査位置の特性信号を対象に、3層構造の半導体デバイスSを対象とした上述した解析処理を実行して、第2層L2~第4層L4のそれぞれの特性信号を分離することができる。
【0059】
このような変形例によれば、4層構造の半導体デバイスを対象に、任意の走査位置における層L1,L2,L3,L4毎の電気特性を推定することができ、同様に5層以上の構造の半導体デバイスを対象に任意の走査位置における各層の電気特性を推定することもできる。
【0060】
また、検査装置19においては、測定対象の半導体デバイスSに領域A2は存在するが領域A1が存在しない場合には、以下のようにして第1層L1の特性信号と第2層L2の特性信号とが所定の位相差となる周波数を求めてもよい。
【0061】
すなわち、検査装置19は、領域A2の特性信号の振幅の自然対数を求め、その自然対数と周波数の平方根f
1/2との関係を解析する。
図19には、検査装置19によって解析された特性信号と周波数の平方根f
1/2との関係をプロットしたグラフを示す。
【0062】
検査装置19は、このような関係を参照して、周波数の平方根f1/2=0のときの自然対数値(切片値)を求める。次に、検査装置19は、この切片値から自然対数値が所定の位相差(例えば、π/2)減少する時の周波数f*を求める。この周波数f*を、第1層L1の特性信号と第2層L2の特性信号とが所定の位相差となる周波数の良い推定値として、求めることができる。
【0063】
また、検査装置19は、半導体デバイスSの材質を含めた構造が既知の場合には、その材質及び構造から予め求められた周波数f*を、特性信号が所定の位相差となる周波数として利用してもよい。
【0064】
すなわち、半導体デバイスSにおいて、第1層L1から第2層L2までの間にN層(Nは自然数)の異なる材質の層が存在し、それらのN層のそれぞれの構造として、密度ρ
k、比熱c
k、熱伝導率λ
k、膜厚d
k(k=0,1,…N-1)が既知であるとする。この場合は、第1層L1の特性信号と第2層L2の特性信号との位相差θは、各周波数ω(=2πf)を用いて、下記式;
【数1】
によって表される。
【0065】
検査装置19は、このような関係式を用いて第1層L1の特性信号と第2層L2の特性信号との位相差が所定の位相差となるように予め計算された周波数f*を、解析処理において用いることができる。なお、上記計算式は、半導体デバイスSを単純な1次元的な積層構造に近似した場合を仮定して設定されている。現実の半導体デバイスSの構造が複雑で1次元的な近似が難しい場合には、有限要素法等に基づく数値計算によって所望の位相差となるように求められた周波数を用いてもよい。このようにしても、周波数の平方根と位相との間に比例関係があることに変わりがないため、数値計算で比例係数を求めることができる。
【0066】
上述した実施形態では、出力するステップでは、同相成分の二次元分布を示す画像と、直交成分の二次元分布を示す画像とを出力する、ことが好適である。上述した実施形態では、プロセッサは、同相成分の二次元分布を示す画像と、直交成分の二次元分布を示す画像とを出力する、ことが好適である。これにより、特性信号の同相成分及び直交成分の分布を視覚的に捉えさせることができ、半導体デバイスの積層構成に対応した電気特性を容易に解析することができる。
【0067】
また、出力するステップでは、特性信号を基に、任意の走査位置における第1の位置の電気特性を示す値と、任意の走査位置における第2の位置の電気特性を示す値とを出力する、ことも好適である。また、プロセッサは、特性信号を基に、任意の走査位置における第1の位置の電気特性を示す値と、任意の走査位置における第2の位置の電気特性を示す値とを出力する、ことも好適である。この場合、各層の電気特性を直接示す値を出力することができる。その結果、半導体デバイスの任意の走査位置における層毎の電気特性を容易に解析することができる。
【0068】
さらに、補正するステップでは、第1の走査位置の特性信号の位相成分を相殺するように任意の走査位置の特性信号の位相成分を補正する、ことも好適である。さらに、プロセッサは、第1の走査位置の特性信号の位相成分を相殺するように任意の走査位置の特性信号の位相成分を補正する、ことも好適である。この場合、第1の位置の電気特性が反映される第1の走査位置の特性信号の位相成分に対する任意の走査位置の位相成分の相対値が取得できる。その結果、出力値を基にして半導体デバイスの任意の走査位置における層毎の電気特性を容易に推定することができる。
【0069】
またさらに、求めるステップでは、特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、特性信号の周波数を求める、ことも好適である。またさらに、プロセッサは、特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、特性信号の周波数を求める、ことも好適である。かかる構成によれば、第1の走査位置の特性信号と第2の走査位置の特性信号とが所定の位相差となる周波数を精度よく求めることができる。その結果、半導体デバイスの積層構成に対応した電気特性を高精度に解析することができる。
【0070】
さらにまた、出力するステップでは、任意の走査位置の特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、周波数における特性信号を取得する、ことも好適である。さらにまた、プロセッサは、任意の走査位置の特性信号の周波数特性をカーブフィッティングにより予測することにより、周波数における特性信号を取得する、ことも好適である。かかる構成によれば、任意の走査位置における求めた周波数の特性信号を精度よく取得することができる。その結果、半導体デバイスの積層構成に対応した電気特性を高精度に解析することができる。
【0071】
また、上述した実施形態では、所定の位相差は、π/2に設定されることが好適である。かかる構成を採れば、出力する特性信号の同相成分及び直交成分のそれぞれが各層の電気特性を直接示すものとなる。その結果、半導体デバイスの任意の走査位置における層毎の電気特性を容易に解析することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
実施形態は、半導体デバイス検査方法及び半導体デバイス検査装置を使用用途とし、半導体デバイスの積層構成に対応した電気特性を解析することができるものである。
【符号の説明】
【0073】
1…半導体検査装置、3…電圧印加装置、5…電流測定装置、7…測定器、9…光源、11…信号源、13…光走査装置、15…ロックインアンプ(信号取得装置)、17…光検出器、19…検査装置、101…CPU(プロセッサ)、102…RAM、103…ROM、104…通信モジュール、106…入出力モジュール、S…半導体デバイス。