(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】聴覚刺激を使用して脳波活動を誘発するシステム、該システムの作動方法、及びコンピュータ可読記憶媒体
(51)【国際特許分類】
A61M 21/00 20060101AFI20241031BHJP
G10K 15/04 20060101ALI20241031BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20241031BHJP
H04R 25/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61M21/00 Z
G10K15/04 302M
H04R3/00
H04R25/00 H
(21)【出願番号】P 2022530311
(86)(22)【出願日】2020-11-24
(86)【国際出願番号】 US2020062104
(87)【国際公開番号】W WO2021108460
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-01
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】カリル、アレクサンダー コンラッド
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/110534(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030404(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159519(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/086353(WO,A1)
【文献】特表2010-520683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 21/00
G10K 15/04
H04R 3/00
H04R 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
聴覚刺激を使用して脳波活動を誘発するシステムであって、前記システムは、
ユーザの環境から周囲の音響情報を受信するように構成されている音声入力と、
変調入力に基づいて変調基準信号を発生するように構成されている変調基準信号発生器と、
ホワイトノイズ、ピンクノイズ、及びブラウンノイズの群から選択されるノイズ信号を発生するように構成されているノイズ信号発生器と、
前記周囲の音響情報の第1周波数部分および前記変調基準信号に基づいて、一次変調済み出力信号を提供するとともに、前記ノイズ信号および前記変調基準信号に基づいて二次変調済み出力信号を提供するように構成されている第1可聴帯域プロセッサ回路と、
聴覚刺激信号を提供するように構成されているミキサ回路と
を備え、
前記周囲の音響情報が指定の閾値音圧レベル(SPL)を満たすか超える周囲の音圧レベルを示すとき、前記聴覚刺激信号が、前記第1可聴帯域プロセッサ回路からの前記一次変調済み出力信号と、前記周囲の音響情報の異なる第2周波数部分とを含み、
前記周囲の音響情報が指定の閾値SPLよりも低い前記周囲の音圧レベルを示すとき、前記聴覚刺激信号は前記二次変調済み出力信号を含む、システム。
【請求項2】
前記第1可聴帯域プロセッサ回路は、前記周囲の音響情報の相対的に低い周波数部分に基づいて、前記一次変調済み出力信号を提供するように構成されており、前記異なる第2周波数部分は、前記周囲の音響情報の相対的に高い周波数部分を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1可聴帯域プロセッサ回路は、前記周囲の音響情報の相対的に高い周波数部分に基づいて、前記一次変調済み出力信号を提供するように構成されており、前記異なる第2周波数部分は、前記周囲の音響情報の相対的に低い周波数部分を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記周囲の音響情報の前記異なる第2周波数部分は、人のスピーチ明瞭度情報を備える第1周波数帯域に対応し、前記周囲の音響情報の前記第1周波数部分は、前記第1周波数帯域の外側の音響情報に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1可聴帯域プロセッサ回路は、前記周囲の音響情報の前記第1周波数部分を前記変調基準信号に従って振幅変調して、前記一次変調済み出力信号を提供するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記周囲の音響情報に利得調整およびハイパスフィルタを適用して、前記異なる第2周波数部分を前記ミキサ回路に提供するように構成されている第2可聴帯域プロセッサ回路をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記第2可聴帯域プロセッサ回路は、前記異なる第2周波数部分において、人のスピーチ明瞭度に関連する1以上の周波数または周波数帯域を増強するように構成されている、請求項3に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1可聴帯域プロセッサ回路は、振幅制御信号を発生するように構成されている乱数発生器を備えており、前記一次変調済み出力信号の振幅は、部分的に、前記振幅制御信号の値に依存する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記変調基準信号発生器は、周波数ドリフトをもつ前記変調基準信号を発生するように構成されており、前記変調入力は、変調基準周波数および変調ドリフトのマグニチュードを示す、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記変調入力に基づいて補助基準信号を発生するように構成されている補助基準信号発生器をさらに備えており、
前記第1可聴帯域プロセッサ回路は、前記一次変調済み出力信号および前記補助基準信号に基づいて、追加の変調済み出力信号を提供するように構成されており、
前記ミキサ回路は、前記追加の変調済み出力信号および前記周囲の音響情報の前記異なる第2周波数部分を使用して、前記聴覚刺激信号を提供するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
割り込み命令を発生するように構成されている加速度計をさらに備えており、前記割り込み命令がアサートされると、前記ミキサ回路は、前記聴覚刺激信号における前記一次変調済み出力信号と前記周囲の音響情報の前記異なる第2周波数部分とのマグニチュード関係を変化させるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
加速度計の出力信号に基づいた割り込み命令に応答して、前記ミキサ回路は、前記聴覚刺激信号を一時中断して、前記周囲の音響情報を増強して増強された前記周囲の音響情報をユーザに提供するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
マイクロホンおよびユーザインターフェースを有する携帯デバイスをさらに備えており、
前記音声入力は、前記携帯デバイスの前記マイクロホンを備えており、
前記ユーザインターフェースは、前記変調入力を備え、前記変調入力は前記一次変調済み出力信号のための変調周波数または変調振幅の命令を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
ユーザに前記聴覚刺激信号を提供するように構成されているインイヤー式の聴力補助デバイスをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
聴覚刺激を使用して脳波活動を誘発するシステムの作動方法であって、
前記システムの音声入力を使用して、ユーザの近くの周囲の音響情報を受信することと、
前記システムのノイズ信号発生器を使用して
、ホワイトノイズ、ピンクノイズ、及びブラウンノイズの群から選択されるノイズ信号を発生することと、
前記システムの第1プロセッサ回路を使用して、前記受信した周囲の音響情報の低周波数部分を振幅変調し、一次変調済み出力信号を発生することと、
前記第1プロセッサ回路を使用して、前記一次変調済み出力信号を、前記受信した周囲の音響情報からの高周波数情報と組み合わせることによって、第1聴覚刺激信号を発生することと、
前記第1プロセッサ回路を使用して、前記ノイズ信号を振幅変調し、変調済みノイズ信号を発生することと、
前記システムの第2プロセッサ回路を使用して、前記変調済みノイズ信号を含む第2聴覚刺激信号を発生することと、
前記システムの閾値検出器を使用して、受信した前記周囲の音響情報の音圧レベル(SPL)を判定することと、
前記SPLが指定の閾値SPLよりも低いとき、前記第2聴覚刺激信号を出力することと、
前記SPLが前記指定の閾値SPLを満たすか超えるとき、前記第1聴覚刺激信号を出力することと
を備える作動方法。
【請求項16】
前記第1プロセッサ回路を使用して、前記周囲の音響情報にハイパスフィルタを適用して処理された前記周囲の音響情報に基づいて、前記高周波数情報を発生することをさらに備える、請求項15に記載の作動方法。
【請求項17】
前記システムの加速度計からの割り込み命令に応答して、前記第1聴覚刺激信号の出力を一時中断することをさらに備える、請求項15に記載の作動方法。
【請求項18】
前記第1プロセッサ回路を使用して、
変調パラメータ入力を受信することと、
前記変調パラメータ入力に基づいて、前記第1聴覚刺激信号のマグニチュードまたは周波数を更新することと
をさらに備える請求項15に記載の作動方法。
【請求項19】
前記第1聴覚刺激信号を出力することは、バイノーラルビート信号を出力することを備える、請求項15に記載の作動方法。
【請求項20】
前記バイノーラルビートを出力することは、バイノーラルビートを有する信号を出力することを備える、請求項15に記載の作動方法。
【請求項21】
非一時的コンピュータ可読記憶媒体であって、前記コンピュータ可読記憶媒体は、コンピュータによって実行されたときに、前記コンピュータに、
ユーザの環境からの周囲の音響情報を、マイクロホンから受信することと、
前記周囲の音響情報の第1周波数部分を振幅変調して、一次変調済み出力信号を提供することと、
前記一次変調済み出力信号を、前記周囲の音響情報の第2周波数部分と組み合わせることによって、第1聴覚刺激信号を発生することと、
前記周囲の音響情報の音圧レベル(SPL)を判定することと、
前記SPLが前記指定の閾値SPLを満たすか、またはそれを超えるとき、前記第1聴覚刺激信号を
前記ユーザに提供することと
ノイズ発生器を使用して
、ホワイトノイズ、ピンクノイズ、及びブラウンノイズの群から選択されるノイズ信号を発生することと、
前記ノイズ信号を振幅変調して、変調済みノイズ信号を
発生することと、
前記SPLが指定の閾値SPLよりも低いとき、前記変調済みノイズ信号を備える第2聴覚刺激信号を
前記ユーザに提供することと
を行わせる命令を含む、非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項22】
前記命令は、フィルタ処理された前記周囲の音響情報を提供すべく前記周囲の音響情報にハイパスフィルタを適用するとともに、フィルタ処理された前記周囲の音響情報に基づいて、前記第2周波数部分を発生するように前記コンピュータをさらに構成する、請求項21に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
しばしば脳波と呼ばれる脳内の電気信号を振動させるスペクトル組成は、ニューロンの集団が同時に発火する結果であり、異なる精神状態または認知状態を反映することが知られている。例えば、定型発達の成人の脳は、睡眠中にデルタ帯域(例えば、0.5~4Hz)で相対的に多くの活動を示すが、覚醒して能動的に思考しているときは相対的に多くのベータ帯域の活動(例えば、12~35Hz)を示す。さらに、一定の障害は、スペクトル組成の変化に関連している。例えば、パーキンソン病の患者は、定型発達者よりも、目が覚めているときにより多くのデルタ活動を示し、すべての周波数帯域で少ない活動を示す。別の例では、ベータ帯域活動に対するシータの比率の差は、注意欠如・多動性障害に関連する可能性がある。さらに、あらゆる種類の認知症に罹っている人は、弱まったシータ帯域の活動を示す。
【0002】
いくつかの例において、脳内の脳波または電気周波数活動は、目もしくは耳に提示される多様な刺激に反応して、または触覚刺激を使用して変調または変化させることができる。例えば、ユーザに対して特定の周波数で提示される反復的刺激は、ユーザの脳の電気活動が同じ特定の周波数に向かってシフトするよう促すことができる。この現象、すなわち、ユーザの脳波の挙動を変化させることは、引き込みと呼ばれる。
【0003】
治療効果のため脳波を変調するために、引き込みのための連続的な聴覚刺激を送達する様々な例が提案されてきた。聴覚刺激は、ヘッドホンまたはイヤホンを使用してユーザに提示することができる。いくつかの例では、聴覚刺激は、音楽番組など、録音された音声番組の様々な態様を変調することによって提供される。
【0004】
聴覚刺激の一形態は、「バイノーラルビート」を含む。バイノーラルビートとは、異なる聴覚情報またはソース信号を聴く人の各耳に提示することによって生まれる錯聴または脳の反応である。異なる聴覚情報は、周波数が異なる。情報間の差が、聴く人にはソース信号の位相関係からもたらされる振幅変調信号として現れる。もたらされる「ビート」は、聴覚ビートとして聴く人に認知されることができ、これは聴く人の脳内で異なるリズムまたは皮質電位を引き込むために使用することができる。
【発明の概要】
【0005】
本発明者は、中でも、解決するべき課題に、ユーザにとって気が散るまたは妨害となるノイズを使用することなく引き込みのために聴覚刺激を提供することがあると認識した。一例において、課題の解決策は、周囲の音の振幅変調を使用することを含むことができる。一例において、解決策は、ユーザの環境内の既存の音を、例えば、スピーチ処理のような重要な機能を妨げるおそれのない選択された周波数に変調することを含むことができる。一例において、ユーザに提示される周波数は、正常で健全な脳の機能を模倣するように連続的に変調することができる。
【0006】
本概要は、本出願の主題の簡単な概観を提供することが意図されている。本明細書で述べられる1以上の発明の排他的なまたは網羅的な説明を提供することが意図されるわけではない。本特許出願に関するさらなる情報を提供するために、詳細な説明が含まれる。
【0007】
任意の特定の要素または行為の議論を特定しやすくするために、参照符号の1以上の最上位桁は、その要素が最初に紹介される図面番号を指す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】全体として、第1聴覚刺激システムの一例を示す。
【
図2】全体として、第2聴覚刺激システムの一例を示す。
【
図3】全体として、様々な音声信号の時間整列された例を示すいくつかのチャートを示す。
【
図4】全体として、様々な音声信号の時間整列された例を示すいくつかのチャートを示す。
【
図5A】全体として、聴覚刺激をユーザに提供することのできるシステムまたはデバイスのインターフェースの第1の例を示す。
【
図5B】全体として、聴覚刺激をユーザに提供することのできるシステムまたはデバイスのインターフェースの第1の例を示す。
【
図6】全体として、聴覚刺激信号をユーザに提供するために使用することのできる第1の方法の例を示す。
【
図7】全体として、聴覚刺激信号をユーザに提供するために使用することのできる第2の方法の例を示す。
【
図8】本明細書で述べる方法論のうちの任意の1以上を例示的な実施形態に従って機械に実施させるための命令のセットが実行され得るコンピュータシステムの形態の機械の図表示である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に続く説明は、本主題の例示的な実施形態を例証するシステム、方法、技術、命令シーケンスおよびコンピューティングマシンプログラム製品を説明する。以下の説明では、説明の目的上、本主題の様々な実施形態の理解を提供するために、多数の特定の詳細が示されている。しかしながら、本主題の実施形態がこれらの特定の詳細なしで実施され得ることは、本技術分野の当業者には明らかであろう。例は、考えられる変形例を代表しているにすぎない。特に明示的な記載がない限り、構造(例えば、モジュールなどの構造コンポーネント)は任意であり、組み合わせてももしくは細分してもよく、(例えば、手順、アルゴリズムまたは他の機能内の)動作は、順序を変えてもよく、または組み合わせてももしくは細分してもよい。
【0010】
本明細書で述べる様々なシステムおよび方法は、ユーザの環境内の音または情報を使用して、特定の脳の挙動、すなわち、引き込みを誘発するという技術的な課題の解決を促す。このように、本明細書で説明されるシステムおよび方法の1以上は、本来であれば治療信号発生に必要とされる一定の努力またはコンピューティング資源、または特に長期間にわたり、ユーザの環境に関係のない信号など、ユーザにとって気が散るもしくは不快となる可能性のある他の信号の処理もしくは使用の必要性をなくし得る。そのため、(例えば、環境内の)1以上の機械、データベース、またはデバイスによって使用される資源が削減され得る。当該コンピューティング資源の例には、プロセッササイクル、ネットワークトラフィック、メモリ使用量、データ記憶容量、電力消費量、またはネットワーク帯域幅が含まれる。
【0011】
本明細書で述べるシステムおよび方法は、ユーザの環境に気が散るまたは妨害的なノイズを投入することなく聴覚刺激を提供するために使用することができる。一例において、課題の解決策は、周囲音またはユーザの環境内に存在する他の音の振幅変調を使用することを含むことができる。すなわち、ユーザの近くの周囲音または他の音響情報を、振幅変調された治療効果のある聴覚刺激信号の搬送波信号として使用することができる。一例において、振幅変調は、スピーチ処理のような重要な機能を妨害することのない選択された周波数で導入することができる。いくつかの例において、振幅変調信号は、ユーザに連続的に提示することができ、正常で健全な脳の機能を模倣するように変調することができる。振幅変調信号は、例えば片耳または両耳を使用して、聴覚刺激信号としてユーザに提示することができ、特定の脳波または脳波挙動を誘発するために使用することができる。導入される特定の脳波活動または周波数は、特定の治療または刺激を送達する目的に応じて変えることができる。
【0012】
本発明者は、解決するべき課題が、目的に合わせたまたはユーザ固有の聴覚刺激の解決策を提供することを含むことをさらに認識した。例えば、拡声器を使用する解決策は、所与の環境内のすべての人が同じ可聴周波数による刺激から利益が得られると想定して、「全ての人に合う万能な」アプローチを採用し得る。本発明者は、課題の解決策が、たとえ他のユーザと同じ環境にいても、各ユーザが自分に最適な1以上の周波数を受信するのを可能にすることを含み得ると認識した。一例において、解決策は、多様な各ユーザ向けなど多様な波形の搬送波と同じ周囲の1以上の音を使用することを含むことができる。
【0013】
この解決策は、提示される刺激の周波数と結合するかまたは提示される刺激の周波数に「引き込む」よう脳波を促す連続的な聴覚刺激を含むかまたは使用することができる。当該刺激は、多様な使用事例において、例えば、覚醒に対して、または、認知症、老化関連の記憶喪失、パーキンソン病、睡眠障害、どもりなどの発話問題、うつ病、もしくは不安など、とりわけ「正常な」もしくは定型発達の脳のものと比べて一定の脳波リズムが減衰する病気もしくは障害の治療に対して、ある効果(および有意な潜在的治療価値)を有することが分かってきた。この解決策は、ユーザの気を散らすまたはユーザを妨害することなく、長期間にわたって実質的に連続的な脳刺激を可能にする。
【0014】
一例において、この解決策は、例えば、ユーザの外界の体験を遮断してユーザを隔離するかもしくはユーザを危険に曝すような、ユーザの感覚に介入する生成または録音された音を使用することなく、連続的な脳刺激のために周囲音を振幅変調することを含む。つまり、この解決策は、聴覚刺激信号の搬送波としてユーザの環境内の周囲音を含むかまたは使用することができる。
【0015】
一例において、この解決策は、周波数選択型の振幅変調を含むかまたは使用することができる。いくつかの周波数帯域は、スピーチまたは他の信号の理解にとって相対的により重要である可能性がある。当該帯域内の周波数の振幅変調は、スピーチ(または他の信号)の理解を低下させ、そのためユーザの生活の質を損なう可能性があり、および/または潜在的に有益な治療の展開を制限する可能性がある。この問題は、例えば変調のために特定の1以上の周波数帯域のみを選択するために、フィルタリングを使用して対処される。いくつかの例において、いくつかの相対的に重要な周波数は、未処理または未変調にすることができる。一例において、本システムおよび方法は、さらに、例えば補聴器が特定の信号の明瞭度を高めるために様々な周波数または帯域を選択的に調節することができる方法と同様に、スペクトル平準化を使用して、これらまたは他の特定の周波数または周波数帯域で聴力を増強させるために使用することができる。一例において、本明細書で述べるシステムおよび方法は、補聴器と統合されるか、または補聴器の様々な機能を増強させるために使用することができ、特定のユーザのオージオグラムに合わせることができる。
【0016】
一例において、本発明は、1以上の周波数閾値より下または上の帯域など、選ばれた周波数帯域を変調することを含むことができる。例えば、未変調の音響情報は、人のスピーチ関連の周波数に対応することができる。スピーチ範囲より上または下の音響情報は、例えばユーザの体験またはスピーチの理解に有害な影響を与えないように、変調することができる。本明細書で述べる例の多くは、低周波数の情報(例えば、200Hz以下)の変調を参照するが、変調は、約8kHzより上の周波数など、スピーチ範囲より上のより高い周波数情報にも同様に適用することができる。
【0017】
一例において、本明細書で述べるシステムおよび方法は、「バイノーラルビート」の形態の治療を提供するために使用することができる。バイノーラルビートは、聴く人の両耳の各々に対してわずかに異なる周波数の各信号を提示することによって提供される。信号は、ユーザの脳幹に2つの刺激信号周波数間の差を表す周波数の振動を生じさせることができる。例えば、周囲音は、例えば右耳で400Hzに、左耳で406Hzに振幅変調して、脳幹に6Hzの振動を生じさせることができ、これを頭皮全体で測定することができる。このように、バイノーラルビートは、連続的な聴覚刺激のために周囲の信号を変調するために使用することができる。
【0018】
一例において、この解決策は、周囲音圧レベルが、刺激周波数(複数の刺激周波数)を搬送するために必要となり得る指定の閾値レベルを下回るとき、付加音を使用することを含むことができる。例えば、ノイズ信号(例えば、ホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズ、または他のノイズ信号)を発生して、搬送波信号として使用することができる。一例において、ノイズ信号は、ユーザの環境内の周囲音圧レベルが、そのままでは変調信号を搬送するために使用され得るまたは必要とされ得る指定の閾値レベルを下回るとき、所望の周波数に振幅変調することができる。一例において、ノイズ信号は、例えばユーザ定義のフィルタカットオフに従い、振幅変調済み信号の残りのものと一緒にローパスフィルタを通過させることができ、または振幅変調済み信号の残りのものとは別に処理することができる。このノイズ挿入またはノイズブリッジ技術を使用して、例えばユーザの目の覚めている時間帯全体を通して、ユーザの日常の活動を妨害することなく、かつてない量の刺激を可能にしながら、刺激周波数をユーザに提示することができる。換言すると、ユーザの環境からの音響情報を、その音響情報が指定の最低閾値音圧レベルを満たすか、それを超える場合には聴覚刺激のために使用することができ、その音響情報が指定の最低閾値レベルを満たさない場合には、期間を塞ぐまたは埋めるために変調済みノイズ信号を使用することができる。
【0019】
一例において、ノイズ技術は、耳鳴りに悩んでいるユーザにとって有益である可能性がある。大きな音に曝されて深刻な耳鳴りに悩み(例えば、退役軍人)、騒がしい環境と静かな環境とが一様に維持される聴覚刺激から利益を受けるであろう多くの人がいる(耳鳴りのある人は、静かな場所で最も不快感を覚える)。一例において、耳鳴りを治療するための聴覚刺激信号は、10Hzまたはその付近で提供することができる。例えば、脳のリズムを変化させることによって耳鳴りの治療をするのに、10kHzのマスキングノイズの振幅変調を与えることができる。他の信号も同様に使用することができる。一例において、様々なタイプの耳鳴りの治療に役立つことができるような、フィルタリング技術を、周囲の音響情報または聴覚刺激で使用するためにノイズ信号に適用することができる。特定のフィルタリング技術は、ノッチフィルタ処理をしたおよび振幅変調した聴覚刺激信号を提供することを含むことができ、ノッチの中心は、ユーザの特定の単音性耳鳴りに対応する周波数またはその付近にされる。
【0020】
一例において、本解決策は、定型発達の脳波パターンに似るように選択または設計される刺激を含むかまたは使用することができる。聴覚脳刺激のための以前の技術のなかには、非常に規則的な正弦波形を利用するものがある。これらの波形は、発生するのに便利で、スペクトログラフィック画像で見つけやすいが、健康な定型発達の人の脳波を反映していないことがある。また、長期間にわたって非常に対称的で固定された周波数波に曝されることは、あるユーザにとって問題となるおそれがある。加えて、脳は完全に規則的な刺激に慣れやすく(または段々感度が低くなり)、そのため、長期的には、振幅が変化しない正弦波を有する刺激は、聴覚刺激の効果減少につながるなど、減少作用を有する可能性がある。人の典型的な脳波は、「バースト的」と記述することができ、これは、振幅が頻繁に変化し、急に始動および停止する活動のバーストで起こることを意味する。当該典型的な脳波は、異なるバーストによってわずかに周波数もドリフトする可能性がある。
【0021】
一例において、本明細書に提示されるシステムおよび方法は、例えば定型発達の脳波の様々な挙動または特徴を模倣することにより、これらの問題および他のものに対処することができる。これらの特徴は、典型的またはターゲット脳波活動のスペクトログラフィック挙動、信号形態、「バースト性」、または「ドリフト」に関して記述することができる。バースト性は、連続していないが、バーストで起こりがちな脳波を指すことができる。ドリフトは、固定周波数に厳密に留まるのではなく、代わりに1バーストを通してまたは多数のバーストの過程でいくらかドリフトする脳波を指すことができる。一例において、本明細書の解決策は、定型発達の脳からの脳波パターンを記録して、ユーザに送達するために、その記録された波形またはその特徴を、周囲のアコースティック信号を含む他の信号の振幅変調の基準として使用することにより、当該自然を模した周波数を含むかまたは使用することができる。
【0022】
図1は、全体として、第1聴覚刺激システム102の一例を示す。第1聴覚刺激システム102は、ユーザの脳波活動を誘発または増強するために使用することのできるような、聴覚刺激信号を準備または発生するために使用することのできる様々なコンポーネントを含む。本明細書で使用されるとき、様々な信号が単数形で言及されているが、複数の信号も同様にまたは同等に使用することができる。例えば、特定の信号または信号タイプの言及は、1つまたは多数の信号を包含すると理解することができ、例えば、対応する1つまたは多数のチャネルを使用して(例えば、ステレオチャネルを使用して)提供することができる。
【0023】
第1聴覚刺激システム102の例は、第1音声入力104、補助基準信号発生器106、変調基準信号発生器108、第1可聴帯域プロセッサ回路110、第2可聴帯域プロセッサ回路112、ミキサ回路114、および音声出力116を含む。一例において、第1音声入力104は、ユーザの近くで周囲のまたは他の信号情報を感知または受信するように構成される任意の入力を含むことができる。一例において、第1音声入力104は、単一チャネルマイクロホンを備え、モノラルのマイクロホン信号を提供するように構成される。他の例では、第1音声入力104は、ステレオマイクロホンなど、2以上のマイクロホン信号を提供するように構成される多重チャネル音声入力デバイスを含むことができる。
【0024】
第1聴覚刺激システム102は、変調基準信号発生器108を含むことができる。変調基準信号発生器108は、1以上の他の信号の変調で使用するための変調基準信号を発生または提供するように構成することができる。例えば、変調基準信号発生器108は、搬送波信号などの別の信号と組み合わせて使用することができるような、正弦波基準信号を発生して、振幅変調済み信号を提供することができる。振幅変調を含む例では、変調基準信号発生器108は、搬送波信号と組み合わせることのできる、または搬送波信号を変調するための基準として使用することのできるメッセージ信号を発生することができる。一例において、搬送波信号は、第1音声入力104からの周囲の情報、ノイズ信号、または他の信号を備えることができる。
【0025】
第1可聴帯域プロセッサ回路110は、第1音声入力104から情報または信号を受信し、変調基準信号発生器108から情報または信号を受信するように構成される音声信号プロセッサを備えることができる。例えば、第1可聴帯域プロセッサ回路110は、第1音声入力104からの周囲の音声信号と、変調基準信号発生器108からの正弦波基準信号とを受信することができる。第1可聴帯域プロセッサ回路110は、さらに、平準化、利得調整、または他のフィルタリングもしくはプロセッシング回路系を含むことができる。
【0026】
一例において、第1可聴帯域プロセッサ回路110は、第1音声入力104から周囲の音声信号を受信して、受信した信号をローパスフィルタで処理して、ローパス処理済み中間信号を提供するように構成される。ローパス処理済み中間信号は、さらに、第1可聴帯域プロセッサ回路110によって、例えば変調基準信号発生器108から受信された基準信号に従って処理され、変調済み信号を提供することができる。すなわち、第1可聴帯域プロセッサ回路110は、第1音声入力104からの音響情報内の低周波数情報の振幅変調済みバージョンである変調済み信号を提供するように構成することができ、振幅変調の特性は、少なくとも部分的に、変調基準信号発生器108からの情報によって定義することができる。第1可聴帯域プロセッサ回路110は、変調信号をミキサ回路114に提供することができる。一例において、変調済み信号は、例えばステレオペアの左右のチャネルに対応する、情報の2以上のチャネルを含むことができる。各チャネル内の情報は、例えば変調基準信号発生器108からの同じ変調基準信号に基づき、同様にまたは別々に変調することができる。
【0027】
一例において、第2可聴帯域プロセッサ回路112は、第1音声入力104から情報または信号を受信するように構成される音声プロセッサを備えることができる。第2可聴帯域プロセッサ回路112は、受信した信号をハイパスフィルタで処理して、ハイパス処理済み中間信号を提供することができる。ハイパス処理済み中間信号は、さらに、例えば様々な利得、平準化、または他のフィルタパラメータに従い、第2可聴帯域プロセッサ回路112によって処理することができる。例えば、第2可聴帯域プロセッサ回路112は、ハイパス処理済み中間信号の、または第1音声入力104から受信した信号の、人のスピーチ明瞭度に関連する成分もしくは信号帯域を増幅するように構成されるスピーチ明瞭度増強フィルタを含むことができる。例えば、増強フィルタは、約750Hzから2.5kHzまでの周波数帯域の情報を増大するように構成することができる。一例において、増強フィルタは、例えば、約2~10kHzの周波数帯域の歯擦音を増大するように構成することができる。他のフィルタも、同様に使用することができる。
図1の例では、第2可聴帯域プロセッサ回路112は、調整済みの周囲の信号をミキサ回路114に提供することができる。一例において、調整済みの周囲の信号は、例えばステレオペアの左右のチャネルに対応する、情報の2以上のチャネルを含むことができる。
【0028】
ミキサ回路114は、第1可聴帯域プロセッサ回路110からの変調済み信号と、第2可聴帯域プロセッサ回路112からの調整済みの周囲の信号とを組合せ、またはミックスし、聴覚刺激信号を音声出力116に提供するように構成することができる。ミキサ回路114または音声出力116は、さらに聴覚刺激信号を調整するために、他の利得、フィルタリングまたは他のプロセッシング回路系を含むことができる。一例において、ミキサ回路114は、多数の異なるチャネルからの情報を同時に組み合わせるように構成される多重チャネルミキサである。一例において、ミキサ回路114は、変調基準信号発生器108からの変調済み信号を、第2可聴帯域プロセッサ回路112からの調整済みの周囲の信号の異なる左右のチャネルとミックスする単一チャネル信号として受信するよう構成される。
【0029】
音声出力116は、聴覚刺激信号、またはそれのさらに処理されたバージョンをユーザに提供するように構成されるインターフェースを含むことができる。一例において、音声出力116は、ヘッドホン、イヤホン、骨伝導デバイス、補聴器、または他のソースを使用して、ユーザの片耳または両耳に聴覚刺激信号を提供するように構成されるヘッドホンインターフェースを含む。
【0030】
図1の例は、補助基準信号発生器106を含む。一例において、補助基準信号発生器106は、ノイズ信号を発生するために選択的に使用することのできるノイズ発生器を含む。ノイズ信号は、ホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズ、もしくは他のタイプのノイズ信号、または異なるタイプのノイズ信号の組合せなど、1つまたは多数の異なるタイプのノイズ信号を備えることができる。一例において、補助基準信号発生器106は、環境の周囲の音圧レベル(SPL:sound pressure level)(例えば、平均またはRMS音圧レベル)が指定の最低音圧閾値量より低いときに、ノイズ信号を発生するように構成することができる。一例において、周囲のSPLは、第1音声入力104から、または個別のSPLメータもしくはセンサからなど、別のソースからの情報を使用して、第1聴覚刺激システム102によって判定することができる。
【0031】
補助基準信号発生器106は、ノイズ信号を第1可聴帯域プロセッサ回路110に提供することができる。一例において、第1可聴帯域プロセッサ回路110は、ノイズ信号および変調基準信号を使用して変調済み信号を準備することができる。一例において、第1可聴帯域プロセッサ回路110は、ノイズ信号を使用するとともに、第1音声入力104からの情報に基づくローパス処理済み中間信号を使用して、変調済み信号を準備することができる。
【0032】
図2は、全体として、第2聴覚刺激システム200の例を示す。第2聴覚刺激システム200は、
図1の例で上述したものと同じまたは同様な様々なモジュールまたはコンポーネントを含むことができる。
図2の例は、聴覚刺激を使用して脳波活動を増強または誘発するための、システム内のいくつかのモジュールまたはコンポーネントの様々な特徴または構成要素をさらに例示するために提供される。一例において、第2聴覚刺激システム200のコンポーネントのうちの1以上は、携帯電話、タブレットコンピュータ、または他の特注デバイスなどの携帯デバイスを使用して実施することができる。第2聴覚刺激システム200は、聴覚刺激プログラムを定義する命令を受信するための1以上のインターフェースを含むかまたは備えることができる。インターフェースは、ローカルまたはリモートにすることができる。例えば、第2聴覚刺激システム200は、臨床医または介護者からの指示を受信するリモートインターフェースを含むことができ、第2聴覚刺激システム200は、ユーザからの指示を受信するローカルインターフェースを含むことができる。
【0033】
図2の例は、第2音声入力202を含み、例えば、ユーザの音響環境を示す1以上の信号を提供するように構成されるマイクロホンまたは他の音響センサもしくは音声信号受信機を含むことができる。第2音声入力202からの信号は、例えばユーザの環境からのスピーチ情報、背景ノイズ、または他の音響情報を含む音声信号のステレオペアを備える、第1音声入力信号ペア204、第2音声入力信号ペア206、および第3音声入力信号ペア208を含むことができる。一例において、第2音声入力202は、
図1の例からの第1音声入力104を含むかまたはそれに対応することができる。一例において、第2音声入力202は、放送(例えば、テレビまたはラジオを介して)信号または他の音響信号の受信機を備える。
【0034】
第2聴覚刺激システム200の例は、第1プロセッサ回路210および第2プロセッサ回路230を含む。第1プロセッサ回路210は、第1可聴帯域プロセッサ回路110を含むかまたはそれに対応することができ、第2プロセッサ回路230は、
図1の例からの第2可聴帯域プロセッサ回路112を含むかまたはそれに対応することができる。いくつかの例において、プロセッサ回路は、他の回路または機能ブロックの中でも特に、同じプロセッサ回路の異なる部分を備えることができる。一例において、第1プロセッサ回路210は、第2音声入力信号ペア206およびノイズ信号を受信して、第2音声入力信号ペア206およびノイズ信号の一方または両方に基づいている変調済み信号を提供するように構成される。一例において、第1プロセッサ回路210は、第1パラメータ入力212から変調パラメータまたは命令を受信するように構成される。パラメータは、例えば、変調周波数、変調深度、治療期間、ボリューム、または変調信号の1以上の特性に影響を及ぼすことのできる他のパラメータを含むことができる。
【0035】
第1プロセッサ回路210は、ローパスフィルタ218を含むことができる。ローパスフィルタ218は、第2音声入力信号ペア206を受信して、第2音声入力信号ペア206内の情報の低周波数部分を含むかまたは表すローパス処理済み信号を提供することができる。一例において、ローパスフィルタ218は、ノイズ信号を受信して、ノイズ信号からの低周波数情報を含むかまたは表すローパス処理済み信号を提供することができる。
【0036】
第1プロセッサ回路210は、第1基準信号発生器222および第1変調フィルタ224をさらに含むことができる。一例において、第1基準信号発生器222は、
図1の例からの変調基準信号発生器108を含むかまたはそれに対応することができる。第1基準信号発生器222は、第1変調信号、または聴覚刺激信号のための第1情報信号を発生するように構成することができる。第1変調信号のパラメータは、第1パラメータ入力212に基づくことができる。一例において、第1変調フィルタ224は、例えば第2音声入力202もしくはノイズ信号またはその両方からの音響情報を備える、ローパスフィルタ218からのローパス処理済み信号を、第1基準信号発生器222からの第1変調信号と合わせて使用して、第1変調済み信号を提供するように構成することができる。
【0037】
一例において、第1基準信号発生器222は、少なくとも部分的に第1パラメータ入力212に依存する周波数で正弦波信号を発生するように構成することができる。一例において、第1基準信号発生器222は、約6Hzなど、認知症関連の記憶障害の治療に使用することができるような、シータ帯域活動を駆動するように構成される基準信号を発生するように構成することができる。一例において、第1基準信号発生器222は、約40Hzなど、ガンマ帯域活動を駆動するように構成される基準信号を発生するように構成することができる。ガンマ帯域活動は、記憶、注意力に関連するような、より大規模な脳活動を増強するかもしくはそれに作用させるために、またはてんかんもしくは不安などの障害を治療するために使用することができる。一例において、第1パラメータ入力212は、ユーザの障害または病気の状態に関するユーザ固有の情報に基づくことができる。例えば、臨床医から受信されるような、第1パラメータ入力212は、ある特定の患者またはユーザで不足していると特定され得る特有のターゲット周波数に基づくことができる。
【0038】
第1プロセッサ回路210の例は、第2基準信号発生器226および第2変調フィルタ228を含む。第2基準信号発生器226は、聴覚刺激信号で使用するための第2変調信号を発生するように構成することができる。第2変調信号のパラメータは、第1パラメータ入力212に基づくことができる。第2変調信号は、例えば周波数もしくは振幅または他の特性の点で、第1変調信号とは異なることができる。第2変調フィルタ228は、第1変調フィルタ224からの第1変調済み信号を、第2基準信号発生器226からの第2変調信号と合わせて使用して、第2変調済み信号を提供するように構成することができる。変調基準信号発生器およびフィルタの追加事例も同様に使用することができる。一例において、第2基準信号発生器226は、第1基準信号発生器222によって提供される第1変調信号よりも実質的に低い周波数の第2変調信号を提供するように構成される。一例において、第2変調フィルタ228は、第2変調信号を適用して、定型発達の脳波活動を模倣するように構成されるバースト的な出力信号を作ることができる。
【0039】
一例において、第1プロセッサ回路210は、第2聴覚刺激システム200によって提供される変調のスペクトログラフィック、形態的、バーストまたはドリフト挙動を変化させるために使用することのできる乱数発生器220または他の回路もしくはデバイスを含む。例えば、第1プロセッサ回路210は、乱数発生器220からの情報を使用して、ターゲット変調周波数帯域の中心周波数をユーザ定義の帯域幅のあたりに確率的に移動する変調アルゴリズムを適用することができる。例えば、シータ帯域は、4~8Hzの信号を備えるので、4Hzと8Hzとを信号の移動または変調の外側境界として設定することができる。アルゴリズムは、もたらされる信号変調を、0.1Hzなどの様々な増分で「移動させる」ように構成することができる。こうして、もたらされる信号は、自然のシータリズムのものと同様な周波数ドリフトを示すことができる。一例において、周波数ドリフトの幅または周波数ドリフト率は、例えばユーザ入力により(例えば、第1パラメータ入力212を使用して)、オン/オフに調整するかまたは切り換えることができる。
【0040】
一例において、例えばより慣れの影響を受けにくくすることのできるバースト的またはドリフト的な信号を提供するため、乱数発生器220からの情報を使用して、第1変調フィルタ224によって提供される振幅変調済み信号の全体的な振幅または周波数特性を制御することができる。一例において、乱数発生器220は、小さな増分で移動するように構成される準乱数発生器、または擬似乱数発生器を含む。小さな増分は、一般的に、可聴クリック音またはポップ音として現れるおそれのある急激な変化を避けるのを助けるために好まれる。一例において、乱数発生器220は、例えば200msごとの周期的に、異なる値をもつランダム出力信号を提供するように構成される。ランダム出力信号にユーザ指定の周波数(例えば、0.5Hz)が乗じられて、振幅制御信号を提供することができる。振幅制御信号は、次いで、第1変調フィルタ224または第2変調フィルタ228などによって使用されて、聴覚刺激信号の振幅特性を緩やかに変化させることによって、ユーザの刺激信号への慣れを避けるのを助けることができる。
【0041】
一例において、第2聴覚刺激システム200は、第2プロセッサ回路230を含む。第2プロセッサ回路230は、中でも、ハイパスフィルタ232、イコライザ234、および第2利得回路236を含むことができる。一例において、第2プロセッサ回路230は、第1音声入力信号ペア204に基づく、ハイパス処理済み信号を、ハイパスフィルタ232を使用して提供するように構成される。ハイパス処理済み信号は、イコライザ234を使用して平準化するか、または第1利得回路236を使用して利得調整した後、高周波数信号として出力することができる。高周波数信号は、第2音声入力202から受信される第1音声入力信号ペア204の中で、相対的に高い周波数情報を表すことができる。例えば、高周波数信号は、スピーチ情報を含むことができる。
【0042】
一例において、第2プロセッサ回路230は、第2パラメータ入力214から命令またはパラメータを受信するように構成される。パラメータは、例えば、ハイパスフィルタ232のためのカットオフ周波数、イコライザ234のための平準化パラメータ、または第1利得回路236のための利得命令を含むことができる。パラメータは、第2プロセッサ回路230によって提供される高周波数信号の様々な特性に影響を及ぼすことができる。一例において、平準化パラメータは、ユーザのオージオグラムに関する情報を含み、イコライザ234を構成するために使用して、ユーザの聴力または明瞭度を増強することを助けることのできる調整済み信号を提供することができる。
【0043】
図2の例は、ノイズ発生器回路238を含む。ノイズ発生器回路238は、第3音声入力信号ペア208を受信するように構成される閾値検出器240を含むことができる。閾値検出器240は、音圧レベルメータを備えることができるように、第3音声入力信号ペア208を分析して、指定される音圧レベル閾値が第2音声入力202の環境の音響情報によって満たされるかまたは超えられるかどうかを判定することができる。すなわち、閾値検出器240は、ユーザに聴覚刺激を送達するために変調することができるように、環境内に十分な音響情報があるかどうかを判定することができる。閾値検出器240が十分な量の音響情報があると判定する場合、または音圧レベル閾値が満たされていないと判定する場合、ノイズ信号発生器242が起動して、第1プロセッサ回路210にノイズ信号を提供することができる。上記のように、第1プロセッサ回路210は、ノイズ信号を変調して、聴覚刺激信号をユーザに提供することができる。
【0044】
一例において、ノイズ発生器回路238は、第3パラメータ入力216からの命令またはパラメータを受信するように構成される。パラメータは、例えば、ノイズ信号発生器242を起動する音圧レベル閾値、またはノイズ信号発生器242によって発生するべきノイズのタイプを特に含むことができる。一例において、第3パラメータ入力216は、閾値検出器240またはノイズ信号発生器242の感度またはヒステリシスを含むことができる。
【0045】
図2の例は、割り込み回路244を含む。割り込み回路244は、第2聴覚刺激システム200の1以上の機能または特徴を一時中断することができる割り込み命令を生成することができる。例えば、割り込み回路244は、加速度計246を含むことができる。加速度計246は、第2音声入力202を含むデバイスの向きまたは構成を感知するように構成することができる。加速度計246が指定されたように、例えば、直立にまたは別の所定の向きに配向されているとき、割り込み発生器248に割り込み命令を発生させることができる。一例において、割り込み回路244は、ボタン254などのユーザ入力を含むことができる。ボタンが押されるかまたは作動すると、割り込み回路244は、割り込み命令を発生することができる。一例において、割り込み命令は、バイナリ論理信号を備える。
【0046】
一例において、第2利得回路250は、割り込み回路244から割り込み命令、第1プロセッサ回路210から第2変調済み信号、および第2プロセッサ回路230から高周波数信号を受信することができる。第2利得回路250は、第2変調済み信号および高周波数信号の利得調整済みバージョンをミキサ回路252に提供するように構成することができ、ミキサ回路252は、ユーザに聴覚刺激出力信号を提供するように構成することができる。割り込み命令が割り込み回路244から受信されると、第2利得回路250は、第2変調済み信号と高周波数信号とのマグニチュード関係を調整することができる。一例において、割り込みがアサートされると、第2聴覚刺激システム200は、第2変調済み信号の優先度を下げるかまたは第2変調済み信号をミュートにして、高周波数信号をミキサ回路252に提供することができる。他の例では、割り込みがアサートされると、第2聴覚刺激システム200は、信号がミキサ回路252に渡るのを許可されないように動作停止することができる。他の例では、割り込みがアサートされると、入力信号の異なる利得調整済みバージョンまたは増幅済みバージョンを、(例えば変調なしで)ミキサ回路252に渡すことができる。
【0047】
図3は、全体として、様々な音声信号の時間整列された例を例示するいくつかのチャートを示す。例えば、
図3は、変調信号基準チャート302、第1入力信号チャート306、ハイパス処理済み信号チャート310、第1スペクトログラム314、ローパス処理済み・変調済み信号チャート316、第2スペクトログラム320、第1出力信号チャート322、および第1出力信号スペクトログラム326を含む。x軸に沿って、それぞれのチャートは、共通の時間軸および共通の目盛りを有する。信号チャートのy軸は相対的な振幅を示し、スペクトログラムチャートのy軸は周波数を表す(例えば、約0Hzから約8kHz)。
【0048】
変調信号基準チャート302の例は、基準信号波形304を含む。
図3の基準信号波形304は、3Hzの正弦波を表す。基準信号波形304は、聴覚刺激のための様々な他の音声信号を発生するための変調基準またはトリガとして使用することができる。一例において、基準信号波形304は、搬送波信号とともに使用して、振幅変調済み聴覚刺激信号を提供することのできる情報信号またはメッセージ信号を表すことができる。異なる周波数または振幅特性を有するような他の基準信号も同様に使用することができる。
【0049】
第1入力信号チャート306の例は、入力信号波形308を含む。入力信号波形308は、スピーチ信号を表す。スピーチ信号は、フィルタ処理せず、変調せずにおくことができる。一例において、入力信号波形308は、第1音声入力104または第2音声入力202など、音声入力によって受信される音響信号を表すことができる。一例において、入力信号波形308は、例えば基準信号波形304内などの基準信号に従い、変調する搬送波信号を表すことができる。
【0050】
ハイパス処理済み信号チャート310の例は、ハイパス処理済み信号波形312を含む。ハイパス処理済み信号波形312は、入力信号波形308のハイパス処理済み・利得調整済みバージョンを表すことができる。一例において、ハイパス処理済み信号波形312は、第2音声入力202からの音響信号に基づいて、第2プロセッサ回路230によって発生される信号を表すことができる。
【0051】
第1スペクトログラム314の例は、ハイパス処理済み信号波形312に対応するスペクトログラム情報を含む。すなわち、第1スペクトログラム314は、ハイパス処理済み信号波形312の様々な周波数の相対的マグニチュードを表す。第1スペクトログラム314の例では、ハイパス処理済み信号波形312は、主に1kHz以上の情報を含むことが分かる。
【0052】
ローパス処理済み・変調済み信号チャート316の例は、ローパス処理済み・変調済み信号波形318を含む。ローパス処理済み・変調済み信号波形318は、入力信号波形308のローパス処理済み・振幅変調済みバージョンを表すことができる。したがって、一例において、ローパス処理済み・変調済み信号波形318は、入力信号波形308からの低めの周波数情報の振幅変調済みバージョンを表し、基準信号波形304の3Hz周波数のために、6Hzで振幅変調される。振幅変調処理は、もたらされる信号の包絡線が基準信号のピークごとに、すなわち、ピークがマイナスかまたはプラスかに関係なく、調整することができるため、基準信号の周波数を二倍にする。一例において、ローパス処理済み・変調済み信号波形318は、第2音声入力202からの音響信号に基づいて、第1プロセッサ回路210によって発生される信号を表すことができる。
【0053】
第2スペクトログラム320の例は、ローパス処理済み・変調済み信号波形318に対応するスペクトログラム情報を含む。すなわち、第2スペクトログラム320は、ローパス処理済み・変調済み信号波形318の様々な周波数の相対的マグニチュードを表す。第2スペクトログラム320の例では、ローパス処理済み・変調済み信号波形318は、主に約1kHz以下の情報を含むことが分かる。また、振幅変調は、6Hz変調信号に対応する間隔の空白として観察することができる。すなわち、低周波数情報の振幅の周期的な減衰は、図の垂直な点線によって示される通り、特に基準信号波形304のゼロ交差で観察することができる。垂直の点線は、ゼロ交差の時間‐振幅特性と、基準信号波形304およびいくつかの他の信号およびスペクトログラムとの対応を示すのを助けるために提供される。
【0054】
第1出力信号チャート322の例は、第1出力信号波形324を含む。第1出力信号波形324は、ハイパス処理済み信号波形312に示されるハイパス処理済み信号とローパス処理済み・変調済み信号波形318に示されるローパス処理済み信号との組合せを表すことができる。一例において、第1出力信号波形324に対応する出力信号は、ミキサ回路252によって提供することができる。第1出力信号波形324の例では、例えばスピーチ明瞭度に対応する高周波数情報を、振幅変調によって生じる低周波数情報のディップにわたり維持することができる。第1出力信号スペクトログラム326は、全体として、第1出力信号波形324の高めの周波数情報に対する低周波数情報の振幅の周期的な性質を示す。第1出力信号波形324は、ユーザに提供することのできる1以上の聴覚刺激信号を含むことができる。
【0055】
図4は、全体として、様々な音声信号の時間整列された例を示すいくつかのチャートを示す。例えば、
図4は、基準信号スペクトログラム402、ノイズ信号チャート404、ノイズ信号スペクトログラム408、第2出力信号チャート410、および第2出力信号スペクトログラム414を含む。x軸に沿って、それぞれのチャートは、共通の時間軸および共通の目盛りを有する。信号チャートのy軸は相対的な振幅を示し、スペクトログラムチャートのy軸は周波数(例えば、約0Hzから約8kHz)を表す。
図4の例では、
図3の例からの同じ変調信号基準チャート302および基準信号波形304を、ノイズ信号などの搬送波信号の振幅変調で使用することができる。
【0056】
基準信号スペクトログラム402は、基準信号波形304の低周波数成分に対応するスペクトログラム情報を含む。すなわち、基準信号スペクトログラム402は、全体として、基準信号波形304の様々な周波数の相対的なマグニチュードを示す。
【0057】
ノイズ信号チャート404は、例えばホワイトノイズ信号を代表する、ノイズ信号波形406を含む。一例において、ノイズ信号波形406は、ノイズ発生器回路238によって発生されるノイズ信号を表すことができる。ノイズ信号スペクトログラム408は、ノイズ信号波形406に対応するスペクトログラムを示し、これは、一般的に、ホワイトノイズ信号が図示される周波数帯域全体で、平均して、ほぼ等しい振幅を含むことを示している。
【0058】
第2出力信号チャート410は、第2出力信号波形412を含む。第2出力信号波形412は、ノイズ信号波形406に対応するノイズ信号の振幅変調済みバージョンを表すことができる。第2出力信号スペクトログラム414は、一般的に、第2出力信号波形412に対応し、基準信号波形304のために、6Hzで変調済み信号の周期性を示す。すなわち、第2出力信号チャート410および第2出力信号スペクトログラム414の例は、基準信号波形304に従い変調された状態の、振幅変調済みホワイトノイズ信号を示す。一例において、振幅変調済みホワイトノイズ信号は、第1プロセッサ回路210によって1以上の聴覚刺激信号として提供することができる。
【0059】
図5Aおよび
図5Bは、全体として、ユーザに聴覚刺激を提供することのできるシステムまたはデバイスのインターフェースの例を示す。これらの例は、ユーザ入力、音声入力を受信し、応答して振幅変調済み出力信号を提供する携帯電話、タブレットコンピュータ、または他のモバイル処理デバイスを例として含むことができる、携帯デバイス502を含む。一例において、携帯デバイス502は、本明細書の他の箇所で述べる機械800の特定の例を備える。
【0060】
図5Aの例は、例えば有線または無線リンクを含むことができるヘッドホン通信リンク504を使用してヘッドホン506と通信状態にある、携帯デバイス502を含む。ヘッドホン506を使用して、ユーザの片耳または両耳に送達するために、携帯デバイス502から聴覚刺激信号を受信することができる。一例において、携帯デバイス502は、例えば
図2の割り込み回路244からの加速度計246に対応する、加速度計516を含むことができる。
【0061】
図5Aの例は、全体として、例えば携帯デバイス502のディスプレイに提供することができる、ホームインターフェース508を示す。ホームインターフェース508は、様々なコントロール、アイコンまたは画像を含むことができる。例えば、ホームインターフェース508は、聴覚刺激プログラムの操作を制御するように構成されるオンボタン510およびオフボタン512を含むことができる。ホームインターフェース508は、聴覚刺激システムの1以上の特徴を選択的に(例えば、一時的に、またはユーザ入力に応答して)切り離すために使用することのできる「何(WHAT)」ボタン514を含むことができる。一例において、ユーザの「何(WHAT)」ボタン514の作動に応答して、割り込み回路244は割り込み命令を発生することができる。ホームインターフェース508は、さらに、例えばシステム操作の絵表示を含むことができる、変調視覚化アイコン518を含む。例えば、変調視覚化アイコン518の一部分は、システムによって提供される聴覚刺激信号の変調周波数に対応して変化または発光することができる。
【0062】
図5Bの例は、全体として、例えば携帯デバイス502のディスプレイ上に提供することができる、変調設定インターフェース520を示す。変調設定インターフェース520は、例えばヘッドホン506を使用して、システムによって提供される聴覚刺激信号の1以上の態様を設定または定義するためのユーザ入力を(例えば、ユーザ、臨床医、介護者等から)受信するために様々な入力を含むことができる。
【0063】
図5Bの例において、入力は、相対的または絶対的な様々な設定を表すことができるような、図表示によるダイヤルを備える。例は、聴覚刺激信号の変調済み周波数ボリュームを設定または調整するように構成される変調深度入力522を含む。例は、聴覚刺激信号の高周波数情報の各振幅特性を設定または調整するように構成される、第1ハイパスチャネル振幅入力524および第2ハイパスチャネル振幅入力526を含む。例は、例えばノイズ信号が聴覚刺激信号の一部または全部を備えるとき、ノイズ信号のボリュームを設定または調整するように構成されるノイズ信号振幅入力528を含む。例は、閾値検出器240によって使用される周囲の音圧レベル閾値を設定または調整するために使用することのできる周囲の信号閾値入力530を含む。例は、例えばローパスフィルタ218によって使用することができる、ローパス周波数カットオフを設定または調整するように構成されるローパス周波数入力532を含む。例は、ガンマ波信号(例えば、他の変調信号に追加して、またはその代わりに)を設定、調整するかまたは切り換えるために使用することのできるガンマ信号振幅入力534を含む。例は、例えばハイパスフィルタ232によって使用することができる、ハイパス周波数カットオフを設定または調整するように構成されるハイパス周波数入力536を含む。例は、さらに、聴覚刺激信号の所望の変調周波数に関してユーザから情報を受信するように構成される変調周波数入力540を含む。変調設定インターフェース520の例は、さらに、入力をリセットもしくは消去するか、または入力の1以上を所定もしくは指定の値に設定するための消去設定ボタン538を含む。
【0064】
図6は、全体として、聴覚刺激信号をユーザに提供するために使用することのできる第1の方法600の例を示す。例は、ブロック602で、ユーザの近くで周囲の音響情報を受信することを含むことができる。ブロック602は、音響情報を受信するために、マイクロホンまたは第2音声入力202を使用することを含むことができる。
【0065】
ブロック604で、第1の方法600は、ブロック602で受信された周囲の音響情報の低周波数部分を振幅変調することを含むことができる。一例において、ブロック604は、ローパス処理済み信号を発生し、ローパス処理済み信号を変調して一次変調済み出力信号を提供するために、第1プロセッサ回路210を使用することを含むことができる。
【0066】
ブロック606で、第1の方法600は、ブロック604からの一次変調済み出力信号と、ブロック602で受信された周囲の音響情報からの高周波数情報とを組み合わせることを含むことができる。すなわち、ブロック606は、例えば第2プロセッサ回路230を使用して、ブロック602で受信された音響情報からハイパス処理済み信号を発生することと、例えばミキサ回路252を使用して、ハイパス処理済み信号をブロック604からの一次変調済み出力信号とミックスすることとを含むことができる。
【0067】
第1の方法600は、さらに、ブロック608で、ユーザに聴覚刺激信号を提供することを含むことができる。一例において、ブロック608は、ユーザに聴覚刺激信号を提供するためにヘッドホン506を使用することを含むことができる。
【0068】
図7は、全体として、ユーザに聴覚刺激信号を提供するために使用することのできる第2の方法700の例を示す。例は、ブロック702で、ユーザの近くで周囲の音響情報を受信することを含むことができる。一例において、ブロック702は、
図2の例からのマイクロホンまたは第2音声入力202を使用することを含むことができる。
【0069】
決定ブロック704で、第2の方法700は、ブロック702で受信された音響情報が閾値音圧レベル(SPL)条件を満たすかどうかを判定することを含むことができる。音響情報がSPL閾値より低くない場合、第2の方法700はブロック706に進むことができる。ブロック706で、第2の方法700は、変調された周囲の音響情報に基づいて聴覚刺激信号を提供することを含むことができる。例えば、ブロック706は、音響信号からのハイパス処理済みおよび変調済みローパス処理済み情報の組合せに基づいて聴覚刺激信号を提供するために、第1の方法600を含むかまたは使用することができる。
【0070】
決定ブロック704で音響情報がSPL閾値より低い場合、第2の方法700はブロック708に進むことができる。ブロック708で、第2の方法700は、ノイズ信号に基づいて聴覚刺激信号を提供することを含むことができる。すなわち、ブロック708は、聴覚刺激信号の全部または一部分として振幅変調済みノイズ信号をユーザに提供することを含むことができる。
【0071】
図8は、機械800に本明細書で述べる方法論の任意の1以上を行わせるための命令808(例えば、ソフトウェア、プログラム、アプリケーション、アプレット、アプリ、または他の実行可能コード)が実行され得る機械800の図表示である。例えば、命令808は、本明細書で説明する方法の任意の1以上を機械800に実行させることができ、例えば、聴覚刺激信号を準備するかまたはユーザに提供するために使用することができるような、様々な音声信号処理方法またはアルゴリズムを含むことができる。命令808は、汎用のプラグラミングされていない機械800を、説明および図示される機能を説明されるように遂行するようプログラムされた特定の機械800に変換する。機械800は、スタンドアロン型デバイスとして動作してもよいし、または他の機械に結合され(例えば、ネットワーク化され)てもよい。ネットワーク化された展開では、機械800は、サーバ・クライアントネットワーク環境のサーバマシンもしくはクライアントマシンの能力としても、またはピアツーピア(もしくは分散型)ネットワーク環境のピアマシンとしても動作し得る。機械800は、サーバコンピュータ、クライアントコンピュータ、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレットコンピュータ、ラップトップコンピュータ、ネットブック、セットトップボックス(STB:set-top box)、PDA、エンターテイメントメディアシステム、携帯電話、スマートフォン、携帯デバイス、ウェアラブルデバイス(例えば、スマートウォッチ)、スマートホームデバイス(例えば、スマート家電)、他のスマートデバイス、ウェブアプライアンス、ネットワークルータ、ネットワークスイッチ、ネットワークブリッジ、または機械800によって取るべきアクションを指定する命令808を逐次的または他の形で実行することが可能な任意の機械を備え得るが、これだけに限定されない。さらに、単一の機械800のみを図示しているが、「機械」という用語は、本明細書で述べる方法論の任意の1以上を行う命令808を個々にまたは共同で実行する機械の集合体も含むと解釈されるものとする。
【0072】
機械800は、プロセッサ802、メモリ804およびI/Oコンポーネント842を含み得るが、これらはバス844を介して互いに通信するように構成され得る。例示的な実施形態において、プロセッサ802(例えば、中央処理装置(CPU:central processing unit)、縮小命令セットコンピューティング(RISC:reduced instruction set computing)プロセッサ、複雑命令セットコンピューティング(CISC:complex instruction set computing)プロセッサ、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU:graphics processing unit)、デジタル信号プロセッサ(DSP:digital signal processor)、ASIC、無線周波数集積回路(RFIC:radio-frequency integrated circuit)、別のプロセッサ、または任意の適切なその組み合わせ)は、例えば、命令808を実行するプロセッサ806およびプロセッサ810を含む得る。「プロセッサ」という用語は、命令を同時に実行し得る2以上の独立したプロセッサ(ときに「コア」という)を備え得るマルチコアプロセッサを含むことが意図される。
図8は多数のプロセッサ802を示しているが、機械800は、単一のコアを有する単一のプロセッサ、多数のコアを有する単一のプロセッサ(例えば、マルチコアプロセッサ)、単一のコアを有する多数のプロセッサ、多数のコアを有する多数のプロセッサ、またはその任意の組み合わせを含み得る。
【0073】
メモリ804は、バス844を介してプロセッサ802にアクセス可能な、メインメモリ812、静的メモリ814、および記憶装置816を含むことができる。メインメモリ804、静的メモリ814、および記憶装置816は、本明細書で説明される方法論または機能の任意の1以上を具現する命令808を格納する。命令808は、完全にまたは部分的に、メインメモリ812内、静的メモリ814内、記憶装置816内の機械可読媒体818内、プロセッサ802の少なくとも1つ内(例えば、プロセッサのキャッシュメモリ内)、または任意の適切なその組み合わせにも、機械800によるその実行中に存在し得る。
【0074】
I/Oコンポーネント842は、入力を受信し、出力を提供し、出力を生成し、情報を伝送し、情報を交換し、測定値をキャプチャする、等のために、多種多様なコンポーネントを含み得る。特定の機械に含まれる固有のI/Oコンポーネント842は、機械の種類によって変わる。例えば、携帯電話などの移動式機械は、タッチ入力デバイスまたは他のそのような入力メカニズム(例えば、変調設定インターフェース520に対応する)を含み得るが、ヘッドレスサーバマシンは、おそらくこのようなタッチ入力デバイスを含まないだろう。I/Oコンポーネント842は、
図8に図示していない多くの他のコンポーネントを含み得ることが認識されるであろう。様々な例示的な実施形態において、I/Oコンポーネント842は、出力コンポーネント828および入力コンポーネント830を含み得る。出力コンポーネント828は、視覚化コンポーネント(例えば、プラズマディスプレイパネル(PDP:plasma display panel)などのディスプレイ、発光ダイオード(LED:light emitting diode)ディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD:liquid crystal display)、プロジェクタ、または陰極線管(CRT:cathode ray tube))、音響コンポーネント(例えば、スピーカ、ヘッドホン506等)、ハプティックコンポーネント(例えば、振動モータ、抵抗メカニズム)、他の信号発生器、などを含み得る。入力コンポーネント830は、英数字入力コンポーネント(例えば、キーボード、英数字入力を受信するように構成されるタッチスクリーン、フォトオプティカルキーボード、または他の英数字入力コンポーネント)、ポイントベースの入力コンポーネント(例えば、マウス、タッチパッド、トラックボール、ジョイスティック、モーションセンサ、または別のポインティング手段)、触覚入力コンポーネント(例えば、物理的なボタン、タッチもしくはタッチジェスチャの場所および/もしくは力を提供するタッチスクリーン、または他の触覚入力コンポーネント)、音声入力コンポーネント(例えば、マイクロホン)、および同様なものを含み得る。
【0075】
別の例示的な実施形態において、I/Oコンポーネント842は、多様な他のコンポーネントの中でも、生体認証コンポーネント832、モーションコンポーネント834、環境コンポーネント836、または位置コンポーネント838を含み得る。例えば、生体認証コンポーネント832は、表現(例えば、手の表現、顔の表情、声の表現、身振り、または視線追跡)を検出し、生体信号(例えば、血圧、心拍数、体温、発汗または脳波)を測定し、人(例えば、声識別、網膜識別、顔識別、指紋識別、または脳波図に基づく識別)、および同様なものを識別するためのコンポーネントを含む。モーションコンポーネント834は、加速度センサコンポーネント(例えば、加速度計246)、重力センサコンポーネント、回転センサコンポーネント(例えば、ジャイロスコープ)などを含む。環境コンポーネント836は、例えば、照明センサコンポーネント(例えば、光度計)、温度センサコンポーネント(例えば、周囲温度を検出する1以上の温度計)、湿度センサコンポーネント、圧力センサコンポーネント(例えば、気圧計)、音響センサコンポーネント(例えば、背景ノイズを検出する1以上のマイクロホン)、近接センサコンポーネント(例えば、近くの物体を検出する赤外線センサ)、ガスセンサ(例えば、安全性のために有害なガスの濃度を検出するか、または大気中の汚染物質を測定するガス検出センサ)、またはユーザの周りの物理的な環境に対応する表示、測定もしくは信号を提供し得る他のコンポーネントを含む。モーションコンポーネント834または環境コンポーネント836または他のセンサもしくはデバイスのうち任意の1以上からの情報は、同様に、聴覚刺激を提供するシステムの変調パラメータまたは設定を更新または変更するために使用することができる。位置コンポーネント838は、ロケーションセンサコンポーネント(例えば、GPS受信機コンポーネント)、高度センサコンポーネント(例えば、光度計または高度を導くことのできる気圧を検出する気圧計)、方位センサコンポーネント(例えば、磁力計)、および同様なものを含む。
【0076】
通信は、多種多様な技術を使用して実施され得る。I/Oコンポーネント842は、さらに、機械800をネットワーク820またはデバイス822にそれぞれカップリング824およびカップリング826を介して結合するように動作可能な通信コンポーネント840を含む。例えば、通信コンポーネント840は、ネットワーク820とインターフェース接続するために、ネットワークインターフェースコンポーネントまたは別の適切なデバイスを含み得る。さらなる例において、通信コンポーネント840は、有線通信コンポーネント、無線通信コンポーネント、セルラー通信コンポーネント、近距離無線通信(NFC:near field communication)コンポーネント、Bluetooth(登録商標)コンポーネント(例えば、Bluetooth(登録商標) Low Energy)、Wi-Fi(登録商標)コンポーネント、および他のモダリティを介して通信を提供する他の通信コンポーネントを含み得る。デバイス822は、別の機械または多種多様な周辺デバイス(例えば、USBを介して結合される周辺デバイス)であってもよい。
【0077】
様々なメモリ(例えば、メモリ804、メインメモリ812、静的メモリ814、および/またはプロセッサ802のメモリ)および/または記憶装置816は、本明細書に説明される方法論または機能の任意の1以上を具現するか、またはそれによって使用される命令およびデータ構造(例えば、ソフトウェア)の1以上のセットを格納し得る。これらの命令(例えば、命令808)は、プロセッサ802で実行されるとき、様々な動作に、開示される実施形態を実施させる。
【0078】
命令808は、ネットワークインターフェースデバイス(例えば、通信コンポーネント840に含まれるネットワークインターフェースコンポーネント)を介して、伝送媒体を使用し、多数の周知の転送プロトコル(例えば、ハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP:hypertext transfer protocol))の任意のものを使用して、ネットワーク820を介して送信または受信され得る。同様に、命令808は、デバイス822とのカップリング826(例えば、ピアツーピアカップリング)を介して伝送媒体を使用して送信または受信され得る。
【0079】
本明細書で述べる解決策を使用することで、認知症(アルツハイマー型認知症を含む)、パーキンソン病、慢性外傷性脳症、不安、およびADHDを含むが、これだけに限定されない、多様な障害および病状の症状を、例えば各病状および各ユーザの両方または一方に対して異なるパラメータまたは設定を使用して、治療または改善することができる。本明細書で述べる解決策は、聴取改善のための音処理と組み合わせるなど、多様な既存の補聴器または聴力補助デバイスの機能性に追加することができる。ノイズの投入、または変調済みノイズの使用は、耳鳴りのある人用など、ヘッドホンまたは他の聴覚デバイスを備える任意のデバイスで行うことができる。一例において、この解決策は、スマートフォンおよび1組の小型イヤホンまたは他のヘッドホンとともに使用することのできるような、スマートフォンアプリに含むか、またはそれを使用して実施することができる。一例において、この解決策は、例えば内蔵処理装置または外部処理装置付きヘッドホンのセットとともに、病院で使用するための臨床バージョンを含むことができる。このようなデバイスは、病院の環境内の強度の音を振幅変調して、病院でのせん妄(入院している高齢者に広がっている問題)が発症するのを防止するか、または不安な患者を落ち着かせるのを助けることができる。
【0080】
一例において、本明細書で述べる聴覚刺激システムおよび方法は、脳の電気活動を感知するように構成されるEEG活動と合わせて使用することができる。聴覚刺激は、例えば、測定された脳活動に応じて、トリガまたは調整することができる。一例において、EEGは、切迫した発作を検出するように構成され、応答して、聴覚刺激が脳を代替信号で刺激することによって発作を防止または妨害することを試みることができる。
【0081】
上記の説明には、詳細な説明の一部を構成する添付の図面への参照が含まれている。図面は、例示として、発明が実施され得る特定の実施形態を示している。これらの実施形態は、本明細書では「例」とも呼ばれる。そのような例は、図示されているかまたは説明されているものに加えて要素を含むことができる。しかしながら、本発明者らは、図示されるかまたは説明される要素のみが提供される例をも考慮している。さらに、本発明者らは、本明細書に図示されるかまたは記載される特定の例(またはその例の1つまたは複数の態様)に関して、または本明細書に図示されるかまたは記載される他の例(またはそれら例の1つまたは複数の態様)に関して、図示されるかまたは説明される要素(またはそれら要素の1つまたは複数の態様)の任意の組み合わせまたは順列を使用する例をも考慮している。
【0082】
本明細書では、「一」または「1つ」という用語は、特許文献において一般的であるように、「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」という他の例または使用法とは無関係に、1つまたは2以上を含むために使用されている。本明細書では、「または」という用語は、特に明記されていない限り、「AまたはB」は「BではなくA」、「AではなくB」、そして「AおよびB」を含むように、非排他的なものを参照するために使用される。本明細書において、「含む(including)」および「~の場合に(in which)」という用語は、「含む(comprising)」および「ここで(wherein)」という対応する用語の平易な英語の同等物として使用される。また、以下の特許請求の範囲において、「含む」および「備える」という用語は、非限定的であり、すなわち、請求項に記載されたそのような用語とともに列挙されたものに加えて複数の要素を含むシステム、デバイス、物品、組成物、配合物、またはプロセスは、依然として特許請求の範囲内にあると見なされる。さらに、以下の特許請求の範囲において、「第1」、「第2」、および「第3」などの用語は、単にラベルとして使用され、それらの目的語に数値要件を課すことを意図するものではない。
【0083】
上記の説明は、例示を目的としたものであり、限定的なものではない。例えば、上記の例(またはその1つまたは複数の態様)は、互いに組み合わせて使用され得る。上記の説明を検討することにより、当業者などによれば、他の実施形態が使用され得る。要約書は、読者が技術的開示の性質を迅速に確認できるようにするために提供されている。それは、特許請求の範囲の範囲または意味を解釈または制限するために使用されないことを理解した上で提出される。また、上記の詳細な説明では、開示を合理化するために、様々な特徴が一緒にグループ化され得る。これは、請求項に記載されていない開示された機能が任意の請求項に不可欠であることを意図していると解釈されるべきではない。むしろ、本発明の主題は、特定の開示された実施形態のすべての特徴よりも少ない特徴にあってもよい。したがって、以下の特許請求の範囲は、例または実施形態として詳細な説明に組み込まれ、各請求項は、別個の実施形態としてそれ自体で有効であり、そのような実施形態は、様々な組み合わせまたは順列で互いに組み合わせることができると考えられる。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照して、そのような特許請求の範囲が権利を与えられている均等物の全範囲とともに決定されるべきである。