(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】負極活物質材料、並びに、それを用いた電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20241031BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20241031BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/13
H01M10/0525
H01G11/42
(21)【出願番号】P 2022552970
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(86)【国際出願番号】 CN2021076186
(87)【国際公開番号】W WO2021185014
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】202010201979.4
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲馮▼▲鵬▼洋
(72)【発明者】
【氏名】蔡余新
(72)【発明者】
【氏名】董佳▲麗▼
(72)【発明者】
【氏名】▲謝▼▲遠▼森
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/025376(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/035580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質材料であって、
メジアン径をD
1v50とし、圧力1t
でプレスされた後のメジアン径をD
2v50としたとき、D
2v50/D
1v50は0.8~1.0であり、
前記負極活物質材料は、黒鉛粒子を含み、
D
1v90及びD
1v10は、D
1v90/D
1v10<3.5を満た
し、
X線回折法による、前記黒鉛粒子の垂直方向に沿った結晶子サイズLcは30nm~32nmである、負極活物質材料。
【請求項2】
前記負極活物質材料の比表面積をBET
1とし、前記負極活物質材料の圧力1tで
プレスされた後の比表面積をBET
2としたとき、前記BET
1は0.6m
2/g~2.0m
2/gであり、(BET
2-BET
1)/BET
1≦1である、請求項1に記載の負極活物質材料。
【請求項3】
前記黒鉛粒子は、
(a)D
1v50は10μm~25μmであることと、
(b)X線回折法による、前記黒鉛粒子の水平方向に沿った結晶子サイズLaは160nm~165nmで
あることと、
のうちの少なくとも一つの条件を満たす、請求項1に記載の負極活物質材料。
【請求項4】
負極集電体と負極活物質材料層とを含む負極を含む電気化学装置であって、
前記負極活物質材料層は請求項1~3のいずれか1項に記載の負極活物質材料を含む、電気化学装置。
【請求項5】
前記負極活物質材料層は、
(c)前記負極活物質材料層は、炭素及び酸素を含み、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との重量比は2:3~990:1であることと、
(d)X線回折パターン測定により得られた前記負極活物質材料層の(004)面のピーク面積C004と(110)面のピーク面積C110との比C004/C110は5.7~18であることと、
(e)前記負極活物質材料層の孔隙率は20%~30%であることと、
のうちの少なくとも一つの条件を満たす、請求項4に記載の電気化学装置。
【請求項6】
満放電状態の前記電気化学装置において、X線回折パターン測定により得られた前記負極活物質材料層の(004)面のピーク面積C004’と(110)面のピーク面積C110’との比C004’/C110’は6.8~17.2である、請求項4に記載の電気化学装置。
【請求項7】
満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料のメジアン径をD
av50とし、前記負極活物質材料の圧力1tで
プレスされた後のメジアン径をD
bv50としたとき、D
bv50/D
av50は0.9以上である、請求項4に記載の電気化学装置。
【請求項8】
満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料のメジアン径D
av50は8μm~20μmである、請求項4に記載の電気化学装置。
【請求項9】
満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料の比表面積をBET
aとし、前記負極活物質材料の圧力1tで
プレスされた後の比表面積をBET
bとしたとき、(BET
b-BET
a)/BET
a<0.6である、請求項4に記載の電気化学装置。
【請求項10】
請求項4~9のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、より詳しくは、負極活物質材料、並びに、それを用いた電気化学装置及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)は、環境にやさしく、動作電圧が高く、比容量が大きく、サイクル寿命が長いなどの利点を備えるため、広く使用されており、今の世界で最も有望な新型グリーン化学電源になっている。小型のリチウムイオン電池は、通常、携帯型電子通信デバイス(例えば、カムコーダー、携帯電話、又はノートパソコンなど)を駆動する電源、特に高性能携帯型デバイスを駆動する電源として使用されている。近年、高出力特性を備える中型及び大型のリチウムイオン電池は、電気自動車(EV)及び大規模なエネルギー貯蔵システム(ESS)に適用するために開発される。リチウムイオン電池の汎用に伴い、そのサイクル特性が早急に解決を要する技術的課題となっている。電極中の活物質材料を改良することは、上述課題を解決するための研究方向の一つである。
【0003】
この実情に鑑みて、改良された負極活物質材料、並びに、それを用いた電気化学装置及び電子装置を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、負極活物質材料、並びに、それを用いた電気化学装置及び電子装置を提供することにより、少なくともある程度で、関連分野における少なくとも一つの問題を解決する。
【0005】
本発明の一態様によれば、本発明は、メジアン径をD1v50とし、圧力1tでのメジアン径をD2v50としたとき、D2v50/D1v50は0.8以上である負極活物質材料を提供する。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD2v50/D1v50は0.9以上である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD2v50/D1v50は、0.8、0.85、0.9、0.95または1.0である。
【0006】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料の比表面積をBET1とし、前記負極活物質材料の圧力1tでの比表面積をBET2としたとき、前記BET1は0.6m2/g~2.0m2/gであり、(BET2-BET1)/BET1≦1である。いくつかの実施例において、前記BET1は0.7m2/g~1.8m2/gである。いくつかの実施例において、前記BET1は0.8m2/g~1.6m2/gである。いくつかの実施例において、前記BET1は0.6m2/g、0.7m2/g、0.8m2/g、0.9m2/g、1.0m2/g、1.1m2/g、1.2m2/g、1.3m2/g、1.4m2/g、1.5m2/g、1.6m2/g、1.7m2/g、1.8m2/g、1.9m2/gまたは2.0m2/gである。
【0007】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料は、黒鉛粒子を含み、前記黒鉛粒子は、
(a)D1v50は10μm~25μmであることと、
(b)D1v90及びD1v10は、D1v90/D1v10<3.5を満たすことと、
(c)X線回折法による、前記黒鉛粒子の水平方向に沿った結晶子サイズLaは160nm~165nmであり、前記黒鉛粒子の垂直方向に沿った結晶子サイズLcは30nm~32nmであることと、
のうちの少なくとも一つの条件を満たす。
【0008】
いくつかの実施例において、前記黒鉛粒子のD1v50は15μm~20μmである。いくつかの実施例において、前記黒鉛粒子のD1v50は10μm、12μm、15μm、18μm、20μm、22μmまたは25μmである。
【0009】
いくつかの実施例において、前記黒鉛粒子のD1v90/D1v10は3.0未満である。いくつかの実施例において、前記黒鉛粒子のD1v90/D1v10は2.5未満である。いくつかの実施例において、前記黒鉛粒子のD1v90/D1v10は2.0未満である。
【0010】
いくつかの実施例において、X線回折法による、前記黒鉛粒子の水平方向に沿った結晶子サイズLaは160nm、161nm、162nm、163nm、164nmまたは165nmであり、前記黒鉛粒子の垂直方向に沿った結晶子サイズLcは30nm、31nmまたは32nmである。
【0011】
本発明の別の態様によれば、本発明は、負極集電体及び負極活物質材料層を含む負極を含む電気化学装置を提供し、前記負極活物質材料層は、本発明による前記負極活物質材料を含む。
【0012】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料層は、
(d)前記負極活物質材料層は、炭素及び酸素を含み、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は2:3~990:1であることと、
(e)X線回折パターン測定により得られた前記負極活物質材料層の(004)面のピーク面積C004と(110)面のピーク面積C110との比C004/C110は5.7~18であることと、
(f)前記負極活物質材料層の孔隙率は20%~30%であることと、
のうちの少なくとも一つの条件を満たす。
【0013】
いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は1:1~800:1である。いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は5:1~500:1である。いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は10:1~300:1である。いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は50:1~100:1である。いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は2:3、1:1、5:1、10:1、20:1、50:1、100:1、200:1、300:1、400:1、500:1、600:1、700:1、800:1、900:1または990:1である。
【0014】
いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004/C110は6.0~10.0である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004/C110は7.0~8.0である。
【0015】
いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層の孔隙率は20%~25%である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層の孔隙率は20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%または30%である。
【0016】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、X線回折パターン測定により得られた前記負極活物質材料層の(004)面のピーク面積C004’と(110)面のピーク面積C110’との比C004’/C110’は6.8~17.2である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004’/C110’は7.0~16.6である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004’/C110’は10.0~16.0である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004’/C110’は11.0~15.5である。
【0017】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料のメジアン径をDav50とし、前記負極活物質材料の圧力1tでのメジアン径をDbv50としたとき、Dbv50/Dav50は0.9以上である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のDbv50/Dav50は0.91以上である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のDbv50/Dav50は、0.92、0.95、0.98または1.0である。
【0018】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料のメジアン径Dav50は8μm~20μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のDav50は10μm~15μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のDav50は8μm、10μm、12μm、15μm、18μmまたは20μmである。
【0019】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料の比表面積をBETaとし、前記負極活物質材料の圧力1tでの比表面積をBETbとしたとき、(BETb-BETa)/BETa<0.6である。
【0020】
本発明のさらなる一態様によれば、本発明は、本発明に記載された電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0021】
本発明の他の態様及び利点について、一部的に以下の内容に述べられ、示され、又は本発明の実施例の実施を通じて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
以下では、本発明の実施例を説明するために、本発明の実施例または先行技術を説明するための必要な図面を概略に説明する。明らかに、以下に説明される図面は、本発明の実施例の一部にすぎない。当業者にとって、創造的労力をかけない前提で、依然としてこれらの図面に例示される結果により他の実施例の図面を得ることができる。
【
図1】
図1は、本発明の実施例22及び比較例1によるリチウムイオン電池の45°Cでのサイクル数による膨張率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明に記載された、図面と関連する実施例は、例示的で図式的であり、本発明を概に理解するために使用される。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0024】
具体的な実施形態及び請求の範囲において、「うちの少なくとも一種」という用語によって接続された項のリストは、リストされた項の任意の組み合わせを意味する。例えば、項Aと項Bがリストされている場合、「AとBのうちの少なくとも一種」は、Aのみ、Bのみ、またはAとBを意味する。他の実例において、項A、項B、及び項Cがリストされている場合、「A、B、及びCのうちの少なくとも一種」は、Aのみ、またはBのみ、Cのみ、AとB(Cを除く)、AとC(Bを除く)、BとC(Aを除く)、またはA、B、Cのすべてを意味する。項Aは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。項Bは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。項Cは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。
【0025】
本明細書で使用された、「Dv50」とは、負極活物質材料の、体積基準の粒度分布において、小径側から累積体積が50%となる粒子径を指し、即ち、この粒子径よりも小さい負極活物質材料の体積は、負極活物質材料の全体積の50%を占める。
【0026】
本明細書で使用された、「Dv10」とは、負極活物質材料の、体積基準の粒度分布において、小径側から累積体積が10%となる粒子径を指し、即ち、この粒子径よりも小さい負極活物質材料の体積は、負極活物質材料の全体積の10%を占める。
【0027】
本明細書で使用された、「Dv90」とは、負極活物質材料の、体積基準の粒度分布において、小径側から累積体積が90%となる粒子径を指し、即ち、この粒子径よりも小さい負極活物質材料の体積は、負極活物質材料の全体積の90%を占める。
【0028】
負極活物質材料のDv50、Dv10及びDv90は、本技術分野で公知の方法によって測定することができ、例えば、レーザー粒度分析装置(例えば、マルバーン粒度測定装置)によって測定することができる。
【0029】
本明細書で使用された、「満放電状態」とは、25℃の環境で、電気化学装置を1C(即ち、1時間以内に理論容量を完全に放電する電流値)の放電電流で定電流法にて放電を行い、電圧3.0Vまで放電した状態を指す。
【0030】
本発明の電気化学装置は、特に断らない限り、50%の充電状態(SOC)にある。
【0031】
電気化学装置(以下は、例としてリチウムイオン電池を挙げる)のサイクルプロセス中、リチウムイオンの挿入により電気化学装置が膨張し、この現象は高温で特に深刻である。負極活物質材料(例えば、黒鉛粒子)の複合の程度を高めることは、リチウムイオン電池のサイクル特性を改善する手段の一つである。負極活物質材料の一次粒子は、高粘度のバインダーを使用する、またはバインダーの量を増やすことにより、複合して、二次粒子を形成することができる。本発明は、二次粒子の強度を改善することにより、リチウムイオン電池の高容量とサイクルプロセス中の厚さの膨張とのバランスを達成する。
【0032】
具体的には、本発明は、メジアン径をD1v50とし、圧力1tでのメジアン径をD2v50としたとき、D2v50/D1v50は0.8以上である負極活物質材料を提供する。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD2v50/D1v50は0.9以上である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD2v50/D1v50は、0.8、0.85、0.9、0.95または1.0である。負極活物質材料のD2v50/D1v50は、プレスされた負極活物質材料の粒子の粒子径変化率を示しうる。負極活物質材料のD2v50/D1v50が大きいほど、プレスされた負極活物質材料の粒子破砕程度が小さくなり、破砕された粒子の数が少なくなり、負極活物質材料粒子全体に対する破砕された粒子の比率(すなわち、粒子破砕率)が低くなり、負極活物質材料の強度が高くなることを示す。これにより、プレスによって生じた、負極活物質材料のバインダーがコーティングされていない断面が減少し、これにより、固体電解質界面(SEI)膜の形成を減少することができ、リチウムイオン電池の容量、初回効率及びサイクル厚さ膨張率の改善に役立つことができる。負極活物質材料のD2v50/D1v50が上記の範囲内にある場合、負極活物質材料は高強度を有し、リチウムイオン電池の高いグラムあたりの容量と低いサイクル厚さ膨張率とのバランスを実現するのに役立つことができる。
【0033】
本発明の負極活物質材料は、負極活物質材料の一次粒子に高粘度添加剤を添加し、混合物が得られ、混合物を焼成し、負極活物質材料の二次粒子を得ることにより得ることができ、前記高粘度添加剤は、油系高温ピッチ、石炭系高温ピッチ、及び樹脂高分子材料のうちの少なくとも一つを含み、前記高粘度添加剤の含有量は、前記負極活物質材料の全重量に基づき、30wt%以下である。
【0034】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料のメジアン径D1v50は10μm~25μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD1v50は15μm~20μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD1v50は10μm、12μm、15μm、18μm、20μm、22μmまたは25μmである。
【0035】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料の圧力1tでのメジアン径D2v50は8μm~20μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD2v50は10μm~15μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD2v50は8μm、10μm、12μm、15μm、18μmまたは20μmである。
【0036】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料のD1v90及びD1v10は、D1v90/D1v10が3.5未満であることを満たす。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD1v90/D1v10は3.0未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD1v90/D1v10は2.5未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のD1v90/D1v10は2.0未満である。
【0037】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料は結晶子を含み、X線回折法による、前記結晶子の水平方向に沿った結晶子サイズLaは160nm~165nmであり、前記結晶子の垂直方向に沿った結晶子サイズLcは30nm~32nmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料は結晶子を含み、X線回折法による、前記結晶子の水平方向に沿った結晶子サイズLaは161nm~164nmであり、前記結晶子の垂直方向に沿った結晶子サイズLcは30.5nm~31.5nmである。いくつかの実施例において、X線回折法による、前記黒鉛粒子の水平方向に沿った結晶子サイズLaは160nm、161nm、162nm、163nm、164nmまたは165nmであり、前記黒鉛粒子の垂直方向に沿った結晶子サイズLcは30nm、31nmまたは32nmである。
【0038】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料は黒鉛粒子を含み、前記黒鉛粒子は前記負極活物質材料と同じD1v50、D2v50、D1v90及びD1v10を有する。いくつかの実施例において、前記負極活物質は黒鉛粒子である。
【0039】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料の比表面積をBET1とし、前記負極活物質材料の圧力1tでの比表面積をBET2としたとき、前記BET1は0.6m2/g~2.0m2/gであり、(BET2-BET1)/BET1≦1である。負極活物質材料が(BET2-BET1)/BET1≦1を満たす場合、プレスされた負極活物質材料の比表面積の増加率は、プレスされていない負極活物質材料と比較し、100%以下である。負極活物質の比表面積の増加率が小さいほど、負極活物質材料の強度が高くなり、プレスによって生じた、負極活物質材料のバインダーがコーティングされていない断面が減少し、形成された固体電解質界面(SEI)膜が減少することを示す。これにより、リチウムイオン電池の容量、初回効率及びサイクル厚さ膨張率の改善に役立つことができる。
【0040】
いくつかの実施例において、前記BET1は0.7m2/g~1.8m2/gである。いくつかの実施例において、前記BET1は0.8m2/g~1.6m2/gである。いくつかの実施例において、前記BET1は0.6m2/g、0.7m2/g、0.8m2/g、0.9m2/g、1.0m2/g、1.1m2/g、1.2m2/g、1.3m2/g、1.4m2/g、1.5m2/g、1.6m2/g、1.7m2/g、1.8m2/g、1.9m2/gまたは2.0m2/gである。
【0041】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料の圧力1tでの比表面積BET2は1.2m2/g~4.0m2/gである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のBET2は1.5m2/g~3.0m2/gである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のBET2は1.2m2/g、1.5m2/g、2m2/g、2.5m2/g、3m2/g、3.5m2/gまたは4.0m2/gである。
【0042】
負極活物質材料の1tの圧力でのパラメータは、中華人民共和国の国家標準GB/T24533-2009のステップを参照することによって得られる。
【0043】
負極活物質材料の比表面積は、以下の方法により得ることができる。
比表面積分析装置(例えば、TristarII3020M)を使用して、負極活物質材料サンプルを真空乾燥オーブンで乾燥させてから、サンプルチューブに入れて分析装置で測定する窒素吸着/脱着法によって負極活物質材料の比表面積を測定する。
【0044】
本発明は、さらに、負極集電体及び負極活物質材料層を含む負極を含む電気化学装置を提供する。
【0045】
負極
本発明の電気化学装置において、前記負極活物質材料層は、本発明による前記負極活物質材料を含む。
【0046】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料層は、炭素及び酸素を含み、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は2:3~990:1である。いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は1:1~800:1である。いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は5:1~500:1である。いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は10:1~300:1である。いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は50:1~100:1である。いくつかの実施例において、前記炭素の含有量と前記酸素の含有量との比は2:3、1:1、5:1、10:1、20:1、50:1、100:1、200:1、300:1、400:1、500:1、600:1、700:1、800:1、900:1または990:1である。負極活物質材料層中の炭素の含有量と前記酸素の含有量との比が上記の範囲内にある場合、負極活物質材料粒子の粒子径及び黒鉛化度は、適切な範囲内にあり、リチウムイオン電池の容量及びサイクル厚さ膨張率の改善に役立つことができる。
【0047】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料層において、X線回折パターン測定により得られた前記負極活物質材料層の(004)面のピーク面積C004と(110)面のピーク面積C110との比C004/C110は5.7~11.2である。X線回折パターン測定により得られた前記負極活物質材料層のC004/C110の値は、負極活物質材料粒子の異方性を示しうる。C004/C110の値が小さいほど、異方性が小さくなり、リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率の改善に役立つことができる。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004/C110は6.0~10.0である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004/C110は7.0~8.0である。
【0048】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質材料層の孔隙率は20%~30%である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層の孔隙率は20%~25%である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層の孔隙率は20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%または30%である。
【0049】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、X線回折パターン測定により得られた前記負極活物質材料層の(004)面のピーク面積C004’と(110)面のピーク面積C110’との比C004’/C110’は6.8~17.2である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004’/C110’は7.0~16.5である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004’/C110’は10.0~15.0である。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料層のC004’/C110’は12.0~14.0である。負極活物質材料層のC004’/C110’が上記の範囲内にある場合、満放電状態にある電気化学装置中の負極活物質材料粒子の異方性は依然として比較的に低く、それは、負極活物質材料は高強度を有することを示しうる。
【0050】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料のメジアン径をDav50とし、前記負極活物質材料の圧力1tでのメジアン径をDbv50としたとき、Dbv50/Dav50は0.9以上である。負極活物質材料のDbv50/Dav50は、満放電状態にある電気化学装置中のプレスされた負極活物質材料の粒子破砕程度を示しうる。負極活物質材料のDbv50/Dav50が大きいほど、満放電状態にある電気化学装置中のプレスされた負極活物質材料の粒子破砕程度が小さくなり、破砕された粒子の数が少なくなり、負極活物質材料粒子全体に対する破砕された粒子の比率(すなわち、粒子破砕率)が低くなり、負極活物質材料の強度が高くなる。負極活物質材料のDbv50/Dav50が上記の範囲にある場合、満放電状態にある電気化学装置中の負極活物質材料は依然として高強度を有し、それはリチウムイオン電池の初回効率をさらに向上させ、サイクル厚さ膨張率を下げるのに役立つことができる。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のDbv50/Dav50は0.92、0.95、0.98または1.0である。
【0051】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料のメジアン径Dav50は8μm~20μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のDav50は10μm~15μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のDav50は8μm、10μm、12μm、15μm、18μmまたは20μmである。
【0052】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料の圧力1tでのメジアン径Dbv50は7.2μm~18μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のDbv50は8μm~15μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のDbv50は7.2μm、8μm、10μm、12μm、15μmまたは18μmである。
【0053】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料の比表面積をBETaとし、前記負極活物質材料の圧力1tでの比表面積をBETbとしたとき、(BETb-BETa)/BETa<0.6である。前記負極活物質が(BETb-BETa)/BETa<0.6を満たす場合、プレスされた負極活物質材料の比表面積の増加率は、プレスされていない負極活物質材料と比較し、60%未満である。満放電状態にある電気化学装置中の負極活物質材料の比表面積が上記の関係を満たす場合、負極活物質材料の強度が比較的に高いことを示しうる。
【0054】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料の比表面積BETaは0.6m2/g~2.0m2/gである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料の比表面積BETaは0.8m2/g~1.5m2/gである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料の比表面積BETaは1.0m2/g~1.2m2/gである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料の比表面積BETaは0.6m2/g、0.7m2/g、0.8m2/g、0.9m2/g、1.0m2/g、1.1m2/g、1.2m2/g、1.3m2/g、1.4m2/g、1.5m2/g、1.6m2/g、1.7m2/g、1.8m2/g、1.9m2/gまたは2.0m2/gである。
【0055】
本発明の実施例によれば、満放電状態の前記電気化学装置において、前記負極活物質材料の圧力1tでの比表面積BETbは0.96m2/g~3.2m2/gである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のBETbは1.0m2/g~3.0m2/gである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のBETbは1.5m2/g~2.0m2/gである。いくつかの実施例において、前記負極活物質材料のBETbは0.96m2/g、1.0m2/g、1.2m2/g、1.5m2/g、1.8m2/g、2.0m2/g、2.2m2/g、2.5m2/g、2.8m2/g、3.0m2/gまたは3.2m2/gである。
【0056】
本発明の実施例によれば、本発明で使用される負極集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、ニッケルフォーム、銅フォーム、導電性金属を覆ったポリマー基板、及びそれらの組み合わせから選択しうる。
【0057】
本発明の実施例によれば、前記負極はさらに導電層を含む。いくつかの実施例において、前記導電層の導電材は、化学変化を引き起こさない限り、任意の導電材を含みうる。導電材の非限定的な例としては、炭素による材料(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンなど)、金属による材料(例えば、金属粉末、金属繊維など、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀など)、導電性ポリマー(例えば、ポリフェニレン誘導体)、及びそれらの混合物を含む。
【0058】
本発明の実施例によれば、前記負極はさらにバインダーを含み、前記バインダーは、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(1,1-ジフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、またはナイロンなどから選択される少なくとも一つである。
【0059】
本発明の実施例によれば、負極は、先行技術で既知の任意の方法によって製造することができる。いくつかの実施例において、負極は、負極活物質材料に粘着剤及び溶媒を添加し、必要に応じて増粘剤、導電材、充填材などを添加してスラリーを調製し、集電体にこのスラリーを塗布し、乾燥後にプレスすることにより、形成しうる。
【0060】
本発明の実施例によれば、負極が合金材料を含む場合、負極活物質材料層は、蒸着法、スパッタリング法、めっき法などの方法を使用して形成しうる。
【0061】
正極
正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に配置された正極活物質材料とを含む。正極活物質材料の具体的な種類は、特に限定されず、必要に応じて選択しうる。
【0062】
本発明の実施例によれば、正極活物質材料は、リチウムイオンを可逆的に挿入及び脱離する化合物を含む。いくつかの実施例において、正極活物質材料は、複合酸化物を含むことができ、前記複合酸化物は、リチウムと、コバルト、マンガン、及びニッケルから選択される少なくとも1つの元素とを含む。さらに他のいくつかの実施例において、正極活物質材料は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、リチウムニッケルマンガンコバルト三元材料、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNi0.5Mn1.5O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)から選択される一種または多種である。
【0063】
本発明の実施例によれば、正極活物質材料層は、表面に塗層を有してもよく、または塗層を有する別の化合物と混合してもよい。前記塗層は、コーティング元素の酸化物、コーティング元素の水酸化物、コーティング元素のオキシ水酸化物、コーティング元素のオキシ炭酸塩(oxycarbonate)、及びコーティング元素のヒドロキシ炭酸塩(hydroxycarbonate)から選択される少なくとも一つのコーティング元素化合物を含みうる。塗層に使用される化合物は、アモルファスまたは結晶性でありうる。塗層に含まれるコーティング元素は、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zr、Fまたはそれらの混合物を含みうる。塗層は、その方法が正極活物質材料の性能に悪影響を及ぼさない限り、任意の方法で形成しうる。例えば、この方法は、スプレー、ディッピングなどの当業者にとって公知の任意のコーティング方法を含みうる。
【0064】
本発明の実施例によれば、正極活物質材料層は、粘着剤を更に含み、そして、さらに任意選択で正極導電材を含む。
【0065】
粘着剤は、正極活物質材料粒子同士の結合を高め、また、正極活物質材料と集電体の結合を高めることができる。粘着剤の非限定的な例としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(1,1-ジフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロンなどを含む。
【0066】
正極活物質材料層は正極導電材を含むことで、電極に導電性を付与する。前記正極導電材は、化学変化を引き起こさない限り、任意の導電材を含みうる。正極導電材の非限定的な例としては、炭素による材料(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維など)、金属による材料(例えば、金属粉末、金属繊維など、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀など)、導電性ポリマー(例えば、ポリフェニレン誘導体)、及びそれらの混合物を含む。
【0067】
本発明による電気化学装置に使用される正極集電体は、アルミニウ(Al)でありうるが、これに限定されない。
【0068】
電解液
【0069】
本発明の実施例に使用される電解液は、先行技術で既知の電解液でありうる。本発明の実施例の電解液に使用される電解質は、例えば、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiSO3F、LiN(FSO2)2などの無機リチウム塩;例えば、LiCF3SO3、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、環状1,3-ヘキサフルオロプロパンジスルホンイミドリチウム、環状1,2-テトラフルオロエタンジスルホンイミドリチウム、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiPF4(CF3)2、LiPF4(C2F5)2、LiPF4(CF3SO2)2、LiPF4(C2F5SO2)2、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2などのフッ素含有有機リチウム塩;例えば、リチウムビス(オキサラト)ボラート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートなどのジカルボン酸錯体リチウム塩;を含むが、これらに限定されない。なお、上述電解質は、一種を単独で使用してもよく、二種又は二種以上を同時に使用してもよい。例えば、いくつかの実施例において、電解質はLiPF6とLiBF4の組み合わせを含む。いくつかの実施例において、電解質は、LiPF6またはLiBF4などの無機リチウム塩と、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2などのフッ素含有有機リチウム塩との組み合わせを含む。
【0070】
いくつかの実施例において、電解質の濃度は、0.8mol/L~3mol/Lの範囲内にあり、例えば、0.8mol/L~2.5mol/Lの範囲内、0.8mol/L~2mol/Lの範囲内、1mol/L~2mol/Lの範囲内にあり、また、例えば、1mol/L、1.15mol/L、1.2mol/L、1.5mol/L、2mol/Lまたは2.5mol/Lである。
【0071】
本発明の実施例の電解液に使用される溶媒は、炭酸エステル化合物、エステルによる化合物、エーテルによる化合物、ケトンによる化合物、アルコールによる化合物、非プロトン性溶媒、またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0072】
炭酸エステル化合物の例としては、鎖状炭酸エステル化合物、環状炭酸エステル化合物、フルオロ炭酸エステル化合物、またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0073】
鎖状炭酸エステル化合物の例としては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、エチルメチルカーボネート(MEC)、及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。前記環状炭酸エステル化合物の例は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及びそれらの組み合わせである。前記フルオロ炭酸エステル化合物の例は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1,2-トリフルオロエチレンカーボネート、1,1,2,2-テトラフルオロエチレンカーボネート、1-フルオロ-2-メチルエチレンカーボネート、1-フルオロ-1-メチルエチレンカーボネート、1,2-ジフルオロ-1-メチルエチレンカーボネート、1,1,2-トリフルオロ-2-メチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、及びそれらの組み合わせである。
【0074】
エステルによる化合物の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、デカラクトン、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、ギ酸メチル、及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0075】
エーテルによる化合物の例としては、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0076】
ケトンによる化合物の例としては、シクロヘキサノンを含むが、これに限定されない。
【0077】
アルコールによる化合物の例としては、エタノール、イソプロピルアルコールを含むが、これらに限定されない。
【0078】
非プロトン性溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド、1,2-ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン、ホルムアミド、ジメチルメチルアミド、アセトニトリル、ニトロメタン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル、及びリン酸塩、並びにそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0079】
セパレータ
いくつかの実施例において、正極と負極の間には、短絡を防止するためにセパレータが設けられている。本発明の実施例に使用されるセパレータの材料と形状は、特に限定されなく、先行技術で開示された任意のものでありうる。いくつかの実施例において、セパレータは、本発明の電解液に対して安定である材料から形成されたポリマーまたは無機物などを含む。
【0080】
例えば、セパレータは、基材層及び表面処理層を含みうる。基材層は、多孔質構造を有する不織布、膜または複合膜であり、基材層の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリイミドから選択される少なくとも一種である。具体的には、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布、またはポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合膜を選択して使用しうる。多孔質構造は、セパレータの耐熱性、耐酸化性及び電解質浸潤性を向上させ、セパレータと極片との間の接着性を高めることができる。
【0081】
基材層の少なくとも一つの表面上に表面処理層が設けられており、表面処理層は、ポリマー層または無機物層であってもよく、ポリマーと無機物とを混合してなる層であってもよい。
【0082】
無機物層は、無機粒子とバインダーを含み、無機粒子は、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、二酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び硫酸バリウムから選択される一種または複数種類の組み合わせである。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリヘキサフルオロプロピレンから選択される一種または複数種類の組み合わせである。
【0083】
ポリマー層には、ポリマーが含まれ、ポリマーの材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステルのポリマー、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)から選択される少なくとも一つである。
【0084】
応用
【0085】
本発明の電気化学装置は、電気化学反応が発生する任意の装置を含み、その具体例としては、すべての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、またはキャパシタを含む。特に、この電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0086】
本発明は、さらに、本発明による電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0087】
本発明の電気化学装置の用途は、特に限定されなく、先行技術で既知の任意の電子装置に用いうる。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は、ノートパソコン、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯型テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、アシスト自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、家庭用大型蓄電池、及びリチウムイオンキャパシタなどに使用されるが、これらに限定されない。
【0088】
以下では、例としてリチウムイオン電池を挙げ、具体的な実施例を参照してリチウムイオン電池の調製について説明し、当業者は、本発明に記載されている調製方法が単なる例示であり、他のいかなる好適な調製方法が本発明の範囲内にあることを理解すべきである。
【0089】
実施例
以下、本発明によるリチウムイオン電池の実施例及び比較例を説明して性能評価を行う。
【0090】
一、リチウムイオン電池の調製
1、負極の調製
コークスを、メジアン径Dv50が3μm~10μmの範囲になるように破砕し、次に、軟化点100~300℃のバインダーであるピッチ(実施例1~16及び18~39におけるピッチの添加量は15wt%で、実施例17におけるピッチの添加量は5wt%であった)を添加した。両者の混合物を造粒装置に入れて造粒を行い、造粒の間に連続的に攪拌しながら、温度500℃~1000℃までに加熱し、次に、黒鉛化プロセス(黒鉛化温度を2000℃~3500℃に制御した)を行い、以下の実施例で使用した負極活物質材料である黒鉛を得た。
【0091】
コークスを、メジアン径Dv50が3μm~10μmの範囲になるように破砕し、造粒装置に入れて造粒を行い、造粒の間に連続的に攪拌しながら、温度500℃~1000℃までに加熱し、次に、黒鉛化プロセス(黒鉛化温度を2000℃~3500℃に制御した)を行い、比較例1で使用した負極活物質材料である黒鉛を得た。
【0092】
上述調製した負極活物質材料である黒鉛と、スチレンブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)とを重量比97.7:1.2:1.1で脱イオン水に分散させ、十分に攪拌して均一に混合し、負極用スラリーを得た。負極用スラリーを負極集電体上にコーティングし、乾燥し、冷間圧延して負極活物質材料層を形成し、次に打ち抜き、タブを溶接して、負極を得た。
【0093】
異なる粒子径の黒鉛粒子は、任意の既知の技術によって原材料を破砕して分級することによって得ることができる。
【0094】
2、正極の調製
コバルト酸リチウム(LiCoO2)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを重量比96:2:2で適切な量のN-メチルピロリドン(NMP)の中に十分に攪拌して均一に混合した後に、正極集電体上にコーティングし、乾燥し、冷間圧延して正極活物質材料層を形成し、次に打ち抜き、タブを溶接して、正極を得た。
【0095】
3、電解液の調製
乾燥アルゴンガス雰囲気で、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを重量比1:1:1で混合し、LiPF6を加え、均一に混合した。3%のフルオロエチレンカーボネートを加え、均一に混合して電解液を得た。ここで、LiPF6の濃度が1.15mol/Lである。
【0096】
4、セパレータの調製
厚さ12μmのポリエチレン(PE)多孔質重合体フィルムをセパレータとした。
【0097】
5、リチウムイオン電池の調製
セパレータが正極と負極との間に介在して隔離の役割を果たすように、正極、セパレータ、負極を順に積層して、次に、電池を巻き、タブを溶接し、外装箔のアルミラミネートフィルムに入れ、上述調製した電解液を注入し、真空パッケージ、静置、形成(formation)、整形、容量測定などのプロセスを経て、リチウムイオン電池を得た。
【0098】
二、測定方法
1、負極活物質材料の粒子径の測定方法
マルバーン粒度測定装置を使用して負極活物質材料の粒子径を測定した。負極活物質材料サンプルを分散剤であるエタノールに分散させ、30分間の超音波処理後、サンプルをマルバーン粒度測定装置に入れ、負極活物質材料のDv50、Dv10及びDv90を測定した。
【0099】
2、負極活物質材料の比表面積の測定方法
比表面積分析装置(TristarII3020M)を使用して、負極活物質材料サンプルを真空乾燥オーブンで乾燥させてから、サンプルチューブに入れて分析装置で測定する窒素吸着/脱着法によって負極活物質材料の比表面積を測定した。
【0100】
3、リチウムイオン電池のグラムあたりの容量の測定方法
リチウムイオン電池を0.05Cで5.0mVまで放電し、50μAで5.0mVまで放電し、10μAで5.0mVまで放電し、0.1Cで2.0Vまで充電し、このときのリチウムイオン電池の容量を記録し、グラムあたりの容量とした。0.05Cは、設計したグラムあたりの容量の0.05倍での電流値を指し、0.1Cは、設計したグラムあたりの容量の0.1倍での電流値を指す。
【0101】
4、リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率の測定方法
45℃で、万分の一のマイクロメータを使用し、初期の半充電状態のリチウムイオン電池の厚さを測定し、H0とした。リチウムイオン電池を、レート1.5Cで500サイクル充放電し、50サイクルごとに満充電状態でのリチウムイオン電池の厚さを測定し、Hnとした。リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率は、下記式で算出した。
サイクル回数に対応するサイクル厚さ膨張率=(Hn-H0)/H0×100%
【0102】
5、リチウムイオン電池の初回効率の測定方法
リチウムイオン電池を、0.5Cで4.45Vまで充電し、初回充電容量Cを記録し、そして、0.5Cで3.0Vまで放電し、放電容量Dを記録した。リチウムイオン電池の初回効率CEは、下記式で算出した。
CE=D/C
【0103】
三、測定結果
表1には、負極活物質材料の調製中の負極活物質材料の特性が、リチウムイオン電池のグラムあたりの容量及びサイクル厚さ膨張率に及ぼす影響を示す。
【0104】
【0105】
比較例1に示すように、負極活物質材料を調製する際に高粘度バインダーを添加しないため、負極活物質材料は一次粒子であり、二次粒子を形成するように複合化されることはなく、得られたリチウムイオン電池は比較的に大きいグラムあたりの容量を有するが、負極活物質材料の異方性が比較的に大きいため、リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率が比較的に高く、全体的な性能が悪い。
【0106】
実施例1~20に示すように、負極活物質材料を調製する際に適量の高粘度バインダーを添加することにより、負極活物質材料のD2v50/D1v50が0.8以上にすることができ、これにより、リチウムイオン電池は、比較的に高いグラムあたりの容量を有すると同時に、比較的に低いサイクル厚さ膨張率も有し、高いグラム容量と低いサイクル厚さ膨張率のバランスを達成した。
【0107】
高粘度バインダーの含有量が特定の含有量である場合、負極活物質材料のメジアン径D1v50が10μm~25μmの範囲で徐々に増加すると、負極活物質材料の圧力1tでのメジアン径D2v50とD1v50の比D2v50/D1v50が低下し、負極活物質材料の(BET2-BET1)/BET1が増加し、炭素と酸素との重量比が増加するため、リチウムイオン電池のグラムあたりの容量が増加し、サイクル厚さ膨張率が低下する。負極活物質材料の比表面積はBET1が0.6m2/g~2.0m2/gの範囲内にあり、かつ(BET2-BET1)/BET1≦1であることを満たす場合、及び/または負極活物質材料層中の炭素と酸素の含有量の比が2:3~990:1の範囲内にある場合、高いグラムあたりの容量と低いサイクル厚さ膨張率のさらなるバランスを達成することができる。
【0108】
表2には、負極活物質材料のD1v90/D1v10とC004/C110が、リチウムイオン電池の初回効率及びサイクル厚さ膨張率に及ぼす影響を示す。表2にリストされているパラメータを除いて、実施例21~39の条件は実施例8の条件と同じである。
【0109】
【0110】
結果としては、負極活物質材料のD1v90/D1v10が3.5未満である場合、リチウムイオン電池の初回効率が大幅に向上することを示す。負極活物質材料のD1v90/D1v10が3.5未満の範囲内で徐々に減少すると、リチウムイオン電池の初回効率はあまり変化せず、サイクル厚さ膨張率は徐々に低下する。負極活物質材料層のC004/C110が5.7~18の範囲内で徐々に減少すると、黒鉛粒子の結晶子サイズLaが減少し、Lcが増加し、孔隙率が増加し、リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率が徐々に低下し、初回効率がわずかに低下する。全体的に、負極活物質材料は、D1v90/D1v10が3.5未満であること、C004/C110が5.7~18の範囲内にあること、Laが160nm~165nmであること、Lcが30nm~32nmであること、及び/または、孔隙率が20%~30%であることを満たす場合、リチウムイオン電池は、初回効率とサイクル厚さ膨張率のバランスを達成することができる。
【0111】
表3には、満放電状態でのリチウムイオン電池の負極活物質材料の特性が、リチウムイオン電池の初回効率とサイクル厚さ膨張率に及ぼす影響を示す。
【0112】
【0113】
結果としては、満放電状態のリチウムイオン電池において、負極活物質材料のDbv50/Dav50と負極活物質材料の(BETb-BETa)/BETaは、リチウムイオン電池の初回効率の向上に影響を与え、リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率にも影響を与える。
【0114】
図1は、実施例8及び比較例1のリチウムイオン電池のサイクル回数によるサイクル厚さ膨張率を示す。結果としては、比較例1と比較して、実施例8のリチウムイオン電池は、著しく低いサイクル厚さ膨張率を有することを示す。サイクル回数の増加に伴い、両者のサイクル厚さ膨張率の差は大きくなる。
【0115】
明細書全体において、「実施例」、「実施例の一部」、「一つの実施例」、「別の一例」、「例」、「具体例」または「例の一部」による引用は、本発明の少なくとも一つの実施例または例は、当該実施例または例に記載した特定の特徴、構造、材料または特性を含むことを意味する。したがって、明細書全体の各箇所に記載された、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「別の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」または「例」は、必ずしも本発明における同じ実施例または例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、または特性は、一つまたは複数の実施例または例において、いかなる好適な方法で組み合わせることができる。
【0116】
例示的な実施例が記載及び説明されたが、当業者は、上述した実施例が本発明を限定するものとして解釈されないこと、かつ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への改変、置換及び変更が可能であることを理解すべきである。