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特許7579887高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241031BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20241031BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/46 Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022570237
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 KR2021007821
(87)【国際公開番号】W WO2021261884
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0076156
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ソクウォン
(72)【発明者】
【氏名】ベク,ジョン‐ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハク
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-119174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/58
C21D 8/00
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.1~0.2%、N:0.2~0.3%、Si:0.8~1.5%、Mn:7.0~8.5%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.5%以下(0は除外)、Cu:1.0%以下(0は除外)、Nb:0~0.2%、および残部はFeと不可避不純物からなり、
下記式(1)~(4)を満たすことを特徴とする高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板。
式(1):14≦23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1Mn≦15.16
式(2):30≦551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-68Nb≦80
式(3):16≦1+45C-5Si+0.09Mn+2.2Ni-0.28Cr-0.67Cu+88.6N≦20
(前記式(1)~(4)中、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびNbは、各元素の含有量(質量%)を意味する。)
【請求項2】
前記高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、1000℃以上の温度で10秒~10分間冷延焼鈍した後の降伏強度が450MPa以上であり、圧下率60~85%で行った調質圧延後の降伏強度が1,800MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板。
【請求項3】
前記高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、1000℃以上の温度で10秒~10分間冷延焼鈍した後の伸び率が45%以上であり、圧下率60~85%で行った調質圧延後の伸び率が3%以上であることを特徴とする請求項1に記載の高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板を製造するための方法であって、
質量%で、C:0.1超過~0.2%、N:0.2~0.3%、Si:0.8~1.5%、Mn:7.0~8.5%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.5%以下(0は除外)、Cu:1.0%以下(0は除外)、Nb:0~0.2%、および残部はFeと不可避不純物からなるスラブを加熱し、熱間圧延する段階と、
前記熱間圧延した鋼板を熱延焼鈍する段階と、
前記熱延焼鈍した鋼板を冷間圧延する段階と、
前記冷間圧延した鋼板を冷延焼鈍する段階と、
前記冷延焼鈍した鋼板を調質圧延する段階と、を含み、
前記スラブは、下記式(1)~(4)を満たすことを特徴とする高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法。
式(1):14≦23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1Mn≦15.16
式(2):30≦551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-68Nb≦80
式(3):16≦1+45C-5Si+0.09Mn+2.2Ni-0.28Cr-0.67Cu+88.6N≦20
(前記式(1)~(4)中、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびNbは、各元素の含有量(質量%)を意味する。)
【請求項5】
前記熱延焼鈍する段階は、前記熱間圧延した鋼板を1000~1,150℃の温度範囲で10秒~10分間熱延焼鈍することを特徴とする請求項4に記載の高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記冷間圧延する段階は、1000℃以上の温度で10秒~10分間行うことを特徴とする請求項4に記載の高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記調質圧延する段階は、圧下率60~85%で行われることを特徴とする請求項4に記載の高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車および建築物などの骨組および外板を構成し、外部応力や衝撃で人的、物的ダメージを防がなければならない構造用鋼材は、伝統的に製品の安定性と信頼性のために高強度特性が要求される。
これと共に、最近の自動車および建築物などの市場トレンドは、複雑かつ個性的な外形を追求していて、構造用鋼材は、高強度特性と一緒に優れた成形性が要求される。
すなわち、市場の要求を満たすために、構造用鋼材は、焼鈍状態では成形性に優れていて、容易に多様な形態に変形が可能であり、成形や調質圧延のような最終工程後には高い強度特性が必要である。
【0003】
しかしながら、従来の素材は、成形性に優れた場合、成形後の強度特性に劣り、強度特性に優れた鋼材の場合、成形性に劣り、最近の市場トレンドを反映しにくい場合が多く、たとえこれを満たすとしても、高価な元素が多量含有されていて、経済性が悪い場合が多く見られていた。
一方、耐食性に優れたステンレス鋼(Stainless Steel)は、耐食性のための別途の設備投資を必要としないので、最近のバッテリー中心の環境に配慮した自動車市場が要求する少品種大量生産に適しており、海辺や都心のように相対的に腐食が加速化する環境の建築物に使用するのに適している。
特にオーステナイト系ステンレス鋼の場合、基本的に伸び率に優れているので、顧客の多様なニーズに合わせて複雑かつ個性的な外観に成形することができ、審美的に美しいという長所がある。
【0004】
ただし、オーステナイト系ステンレス鋼は、一般的な構造用炭素鋼に比べて、降伏強度に劣り、高価な合金元素を高含有量で使用するため経済的な問題がある。特にニッケル(Ni)は、素材価格の深刻な変動によって原料の需給が不安定となり、供給価格の安定性確保が困難であると同時に、その素材自体の価格が高くて、価格競争力が顕著に低下するという短所がある。
したがって、高成形特性を維持しつつ、最終製品で高い降伏強度を確保することができ、かつ、ニッケル(Ni)のような高価な合金元素の含有量を最大限低減して、価格競争力を備えた構造材用オーステナイト系ステンレス鋼の開発が必要であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の目的とするところは、高い成形特性を維持しつつ、最終製品で1800MPa以上の高い降伏強度を確保することができる高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法を提供することにある。
本発明のまた他の目的とするところは、ニッケル(Ni)のような高価な合金元素の含有量を最大限低減して、優れた価格競争力を確保することができるオーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法を提供することにある。
本発明のまた他の目的とするところは、高価な合金元素を減らしても、熱間圧延による亀裂が発生せず、実収率と生産性に優れたオーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法を提供することにある。
本発明の目的は、上記の目的に制限されず、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、言及されていないさらに他の目的を、下記の記載からが明確に理解することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた本発明の高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、重量%で、C:0.1~0.2%、N:0.2~0.3%、Si:0.8~1.5%、Mn:7.0~8.5%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.5%以下(0は除外)、Cu:1.0%以下(0は除外)、Nb:0~0.2%、および残部はFeと不可避不純物からなり、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
式(1):14≦23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1Mn
(式(1)中、C、N、Si、Mn、Cr、NiおよびCuは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【0007】
前記高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、下記式(2)を満たすことを特徴とする。
式(2):30≦551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-68Nb≦80
(式(2)中、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびNbは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
前記高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、下記式(3)を満たすことを特徴とする。
式(3):16≦1+45C-5Si+0.09Mn+2.2Ni-0.28Cr-0.67Cu+88.6N≦20
(式(3)中、C、N、Si、Mn、Cr、NiおよびCuは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
前記高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、下記式(4)を満たすことを特徴とする。
(式(4)中、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびNbは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【0008】
前記高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、冷延焼鈍後の降伏強度が450MPa以上であり、調質圧延後の降伏強度が1,800MPa以上であることがよい。
前記高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、冷延焼鈍後の伸び率が45%以上であり、調質圧延後の伸び率が3%以上であることができる。
【0009】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.1超過~0.2%、N:0.2~0.3%、Si:0.8~1.5%、Mn:7.0~8.5%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.5%以下(0は除外)、Cu:1.0%以下(0は除外)、Nb:0~0.2%、および残部のFeと不可避不純物からなるスラブを加熱し、熱間圧延する段階と、前記熱間圧延した鋼板を熱延焼鈍する段階と、前記熱延焼鈍した鋼板を冷間圧延する段階と、前記冷間圧延した鋼板を冷延焼鈍する段階と、を含み、前記スラブは、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
式(1):14≦23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1Mn
(式(1)中、C、N、Si、Mn、Cr、NiおよびCuは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【0010】
前記製造方法において、前記スラブは、下記式(2)を満たすことを特徴とする。
式(2):30≦551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-68Nb≦80
(式(2)中、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびNbは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
前記製造方法において、前記スラブは、下記式(3)を満たすことを特徴とする。
式(3):16≦1+45C-5Si+0.09Mn+2.2Ni-0.28Cr-0.67Cu+88.6N≦20
(式(3)中、C、N、Si、Mn、Cr、NiおよびCuは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
前記製造方法において、前記スラブは、下記式(4)を満たすことを特徴とする。
(式(4)中、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびNbは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、本発明のオーステナイト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、上記の合金組成および含有量範囲を満たすと同時に、式(1)を満たすことによって、高成形特性を維持しつつ、冷延焼鈍後450MPa以上、調質圧延後1,800MPaの高い降伏強度を確保することができる効果を有する。更に、ニッケル(Ni)のような高価な合金元素の含有量を0.5重量%以下に最大限低減して、優れた価格競争力を有しながらも熱間圧延による亀裂が発生せず、実収率と生産性に優れる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一様態は、重量%で、C:0.1~0.2%、N:0.2~0.3%、Si:0.8~1.5%、Mn:7.0~8.5%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.5%以下(0は除外)、Cu:1.0%以下(0は除外)、Nb:0~0.2%、および残部のFeと不可避不純物からなり、下記式(1)を満たすことを特徴とする高強度オーステナイト系ステンレス鋼に関する。
式(1):14≦23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1Mn
(上記式(1)中、C、N、Si、Mn、Cr、NiおよびCuは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【0013】
以下、本発明による高強度オーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法について詳細に説明する。以下に紹介される図面は、当業者に本発明の思想が十分に伝達されうるように例として提供されるものである。したがって、本発明は、以下に提示される図面に限定されずに他の形態に具体化されることもでき、以下に提示される図面は、本発明の思想を明確にするために誇張して図示することができる。この際、使用される技術用語および科学用語において別途の定義がないと、この発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明および添付の図面において本発明の要旨を不要に不明瞭にすることができる公知の機能および構成に関する説明は省略する。
明細書全般において、或る部分が任意の構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0014】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.1~0.2%、N:0.2~0.3%、Si:0.8~1.5%、Mn:7.0~8.5%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.5%以下(0は除外)、Cu:1.0%以下(0は除外)、Nb:0~0.2%、および残部はFeと不可避不純物からなり、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
式(1):14≦23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1Mn
(式(1)中、C、N、Si、Mn、Cr、NiおよびCuは、各元素の含有量(重量%)を示す。)
【0015】
このように、本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼は、上記の合金組成および含有量の範囲を満たすと同時に、式(1)を満たすことによって、高い成形特性を維持しつつ、冷延焼鈍後450MPa以上、調質圧延後1,800MPaの高い降伏強度を確保することができ、ニッケル(Ni)のような高価な合金元素の含有量を0.5重量%以下に最大限低減して、優れた価格競争力を有しながらも熱間圧延による亀裂が発生せず、実収率と生産性に優れているという長所がある。
以下、本発明の一例における合金成分含有量の数値限定理由について説明する。以下では、特別な言及がない限り、単位は、重量%である。
【0016】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼において、炭素(C)の含有量は、0.1~0.2%でああることがよく、より好ましくは、0.15~0.2%である。
Cは、オーステナイト相安定化に効果的な元素であり、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を確保するために添加する。C含有量が少ない場合、本発明において要求する十分な降伏強度を確保することができず、その下限は、0.1%に限定され、より好ましくは、0.15%である。反対に、C含有量が過剰である場合、固溶強化効果によって冷間加工性を低下させるだけでなく、熱間加工の途中にクロム炭化物の粒界析出を誘導して熱間加工性の低下を誘発するため、素材の軟性、靭性、耐食性などに悪影響を与える恐れがあり、その上限は、0.2%に限定することがよい。
【0017】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼において、窒素(N)の含有量は、0.2~0.3%であることがよく、より好ましくは、0.2~0.25%である。
Nは、本発明において最も重要な元素の一つである。Nは、強力なオーステナイト安定化元素であり、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性および降伏強度の向上に効果的な元素である。Nの含有量が少ない場合、本発明において要求される十分な降伏強度を確保することができないため、その下限は、0.2%に限定する。反対に、Nの含有量が過多である場合、鋳片の製作時に窒素気孔(pore)などの欠陥が発生し、固溶強化効果によって冷間加工性を低下させるため、その上限は、0.3%に限定することがよく、より好ましくは、0.25%である。
【0018】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼において、ケイ素(Si)の含有量は、0.8~1.5%であることがよく、より好ましくは、0.8~1.2%である。
Siは、製鋼工程中、脱酸剤の役割をすると同時に、耐食性を向上させるのに効果的な元素である。また、Siは、置換型元素のうち鋼材の降伏強度の向上に効果的な元素であり、本発明の降伏強度の向上のために添加される。Siの含有量が少ない場合、本発明において要求する十分な耐食性および降伏強度を確保することができないため、その下限は、0.8%に限定する。反対に、Siは、過剰添加時に、鋳造スラブ内デルタフェライト(δ-Ferrite)の形成を促進して、熱間加工性を低下させるだけでなく、材料の軟性および衝撃特性に悪影響を与える恐れがあるので、その上限は、1.5%に限定することがよく、より好ましくは、1.2%である。
【0019】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼において、マンガン(Mn)の含有量は、7.0~8.5%であることがよく、より好ましくは、7~8%である。
Mnは、本発明においてニッケル(Ni)の代わりに添加されるオーステナイト相安定化元素であり、加工誘起マルテンサイト生成を抑制して、冷間圧延性を向上させるために、7.0%以上添加することがよい。ただし、その含有量が過剰である場合、S系介在物(MnS)を過量形成して、オーステナイト系ステンレス鋼の軟性および靭性を低下させ、製鋼工程の途中にMn煙(fume)を発生させて、製造上の危険性を伴う恐れがある。また、過剰な量のMn添加は、製品の耐食性を急激に低下させるので、その上限は、8.5%に限定することがよく、より好ましくは、8%である。
【0020】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼において、クロム(Cr)の含有量は、15.0~17.0%であることがよく、より好ましくは、15.5~16.5%である。
Crは、フェライト安定化元素であるが、マルテンサイト相の生成抑制において効果的であり、ステンレス鋼に要求される耐食性を確保する基本元素であり、15%以上添加することができる。ただし、その含有量が過剰である場合、フェライト安定化元素としてスラブ内デルタフェライトを多量形成して、熱間加工性の低下と材質特性に悪影響を及ぼすので、その上限は、17.0%に限定することがよく、より好ましくは、16.5%である。
【0021】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼において、ニッケル(Ni)の含有量は、0%超過0.5%以下であることがよく、より好ましくは、0.01~0.3%である。Niは、強力なオーステナイト相安定化元素であり、良好な熱間加工性および冷間加工性を確保するためには必須である。しかしながら、Niは、高価な元素であることから、多量の添加は原料費用の上昇をもたらす。このため、鋼材の費用および効率性を全て考慮して、その上限は、0.5%に限定することがよく、より好ましくは、0.3%である。
【0022】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼において、銅(Cu)の含有量は、0%超過1.0%以下であることがよく、より好ましくは、0.1~1%である。
Cuは、オーステナイト相安定化元素であり、本発明においてニッケル(Ni)の代わりに添加される元素である。Cuは、還元環境での耐食性を向上させる元素として添加される。ただし、その含有量が過剰である場合、素材費用の上昇だけでなく、液状化および低温脆性の問題がある。また、過剰なCuの添加は、スラブエッジに偏析して熱間加工性を低下させる問題を有している。これによって、鋼材の費用効率性および材質特性を考慮して、その上限は、1.0%に限定する。
【0023】
本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、選択的にニオビウム(Nb)0.2%以下をさらに含んでもよい。
Nbは、炭素および窒素との親和力が高いため、熱処理中に析出物を形成して素材の結晶粒微細化に寄与して、降伏強度の向上に効果的である。しかしながら、フェライト安定化元素として過剰である場合、素材の熱間加工性を低下させるだけでなく、高価な元素であることから、添加時に原料費用の上昇をもたらす。このため、鋼材の費用効率性および材質特性を考慮して、その上限は、0.2%に限定することがよく、より好ましくは、0.15%である。
【0024】
また、本発明の一例による高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、不可避に含有される不純物であり、P:0.035%以下およびS:0.01%以下のうち1種以上をさらに含んでもよい。
【0025】
リン(P)は、鋼中に不可避に含有される不純物であり、粒界腐食を起こしたり、熱間加工性を阻害する主要原因となる元素であるため、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、上記P含有量の上限を0.035%以下に管理する。
【0026】
硫黄(S)は、鋼中に不可避に含有される不純物であり、結晶粒界に偏析して熱間加工性を阻害する主要原因となる元素であるため、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、上記S含有量の上限を0.01%以下に管理する。
【0027】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者なら誰でも知ることができるので、すべての内容を特に本明細書において言及しない。
【0028】
最近では、鋼材の軽量化および安定性のために鋼材の降伏強度の向上が重要課題として考慮される。特に車両構造材を含んで多様な形状の構造材の製作のためには、焼鈍後の状態で十分な伸び率を確保しなければならない。また、調質圧延および成形加工後に構造材に使用される最終製品には、非常に高いレベルの降伏強度が要求されるので、調質圧延または成形後に高いレベルの降伏強度が必要となる。
また、オーステナイトステンレス鋼の価格競争力を確保するためには、Niなど高価なオーステナイト安定化元素の含有量を低減しなければならず、これを補償できるMn、N、Cu添加量を決定することが要求される。しかしながら、このように価格競争力を確保するために行われるNiを低減し、Mn、N、Cuを添加する場合、加工硬化を急激に増加させて鋼材の伸び率を低下させたり、熱間変形抵抗の減少を誘発して生産性を低下させる危険性を内包するので、各添加元素の調和を考慮して添加量を決定することが要求される。
【0029】
これによって、ニッケル(Ni)のような高価な合金元素の含有量を0.5重量%以下に最大限低減して、優れた価格競争力を有しながら、熱間圧延による亀裂が発生せず、実収率と生産性に優れると共に高い成形特性を維持することができ、かつ、冷延焼鈍後450MPa以上、調質圧延後1,800MPa以上の高い降伏強度を有する高強度オーステナイト系ステンレス鋼を確保するためには、上記合金組成および含有量を満たすと同時に、式(1)を満たすことが好ましい。
式(1):14≦23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1Mn
(ここで式(1)中、C、N、Si、Mn、Cr、NiおよびCuは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【0030】
本発明では、オーステナイト系ステンレス鋼の高い降伏強度の確保のために、鋼材のストレスフィールドによる降伏強度の向上を考慮して下記式(1)を導き出した。
式(1)の値が高いほど合金元素間の原子サイズの差異によって格子間のストレスフィールドが増加して、外部応力に対抗して塑性変形に耐える限界が増加する。具体的に式(1)の値が14未満の場合、本発明において要求する降伏強度の確保が難しいという問題がある。ただし、式(1)の値が高すぎると、調質圧延後に降伏強度がかえって低くなることがある。好ましくは、式(1)の上限は、16.5以下である。このように、式(1)の値が14~16.5を満たすとき、冷延焼鈍後450MPa以上、調質圧延後1,800MPa以上の高い降伏強度を有する高強度オーステナイト系ステンレス鋼を確保することができる。
【0031】
また、本発明の一例による高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、下記式(2)を満たすことが好ましい。
式(2):30≦551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-68Nb≦80
(ここで式(2)中、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびNbは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
上記式(2)は、オーステナイト系ステンレス鋼の変形によって発現する相変態を考慮して導き出したものであり、式(2)の値が80超過である場合、オーステナイト系ステンレス鋼は、変形に対して急激な変形誘起マルテンサイト変態挙動を示し、塑性不均一が発生することがあり、これによって、オーステナイト系ステンレス鋼の伸び率が劣位となるという問題がある。一方、式(2)の値が30未満の場合、オーステナイト系ステンレス鋼は、変形に対して変形誘起マルテンサイト変態挙動が発生しにくく、調質圧延後に超高強度の確保のためのマルテンサイト相を確保することができないという問題がある。
【0032】
また、本発明の一例による高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、下記式(3)を満たすことが好ましい。
式(3):16≦1+45C-5Si+0.09Mn+2.2Ni-0.28Cr-0.67Cu+88.6N≦20
(ここで式(3)中、C、N、Si、Mn、Cr、NiおよびCuは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
上記式(3)は、オーステナイト系ステンレス鋼の変形に対する鋼材の電位スリップ挙動を考慮して導き出したものであり、式(3)の値が16未満の場合、オーステナイト系ステンレス鋼は、変形に対してプラナー(planar)スリップ挙動を活発に示して、外部応力により電位の蓄積が深刻に発生し、塑性不均一および高い加工硬化を示す。これによって、オーステナイト系ステンレス鋼の伸び率に劣る問題とともに、調質圧延の実行が難しい問題がある。また、高温で熱間変形が進行するとき、エッジクラックのような熱延欠陥が発生して、生産性低下問題が発生する可能性が高い。一方、式(3)の値が20超過である場合、頻繁なクロススリップの発現によって鋼材内部の電位蓄積が減少したり、変形が加えられるにつれて電位クラスターおよび電位セルを形成して素材の強度を低下させる現象が発生する。このような電位クラスターおよび電位セルの形成は、調質圧延を多く行うほどその影響が大きくなるので、本発明のように高い調質圧延と超高強度を特徴とする鋼材の場合、目標とする強度を確保することができない。より好ましくは、式(3)の上限は、19以下である。式(3)の値が19を超過するとき、調質圧延材の降伏強度と引張強度が近接していて、オーステナイト系ステンレス鋼の強度特性が低下する恐れがある。
【0033】
また、本発明の一例による高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、下記式(4)を満たすことが好ましい。
(ここで式(4)中、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびNbは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
上記式(4)は、熱間加工性を考慮して熱間加工性に大きく影響を及ぼすデルタフェライト分率を考慮して導き出したものであり、式(4)の値が2未満の場合、高温でのデルタフェライト分率が非常に減少して、熱間加工時に素材がオーステナイト単相で存在することになり、結晶粒界の成長および粒界にSやPの偏析が発生し、素材に亀裂が発生することになる。このように発生した亀裂は、素材の実収率を低下させて、生産性に劣るという問題がある。一方、式(4)の値が10超過である場合、加工性に劣るデルタフェライト分率が非常に大きくなり、変形に脆弱なオーステナイト-フェライト相の境界が多くなって、熱間加工性が低下して生産性が低くなる。より好ましくは、式(4)の下限は、3以上である。式(4)の値が3未満であるとき、調質圧延材の降伏強度と引張強度が近接していて、オーステナイト系ステンレス鋼の強度特性が低下する恐れがある。
【0034】
これによって、本発明による高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、上記の合金組成および含有量の範囲を満たすと同時に、式(1)~式(4)の全てを満たすことによって、高成形特性を維持しつつ、高い降伏強度、引張強度および伸び率を確保することができ、優れた価格競争力および生産性を確保することができる。
具体的に、本発明の一例による高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、冷延焼鈍後の降伏強度が450MPa以上であり、調質圧延後の降伏強度が1,800MPa以上であることがよい。この場合、冷延焼鈍後の降伏強度の上限は、例えば1,000MPa以下であることがよく、調質圧延後の降伏強度の上限は、2,500MPa以下であることがよいが、これに限定されるものではない。
また、本発明の一例による高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、冷延焼鈍後の伸び率が45%以上であり、調質圧延後の伸び率が3%以上である。この場合、冷延焼鈍後の伸び率の上限は、例えば70%以下であることがよく、調質圧延後の伸び率の上限は、10%であることがよいが、これに限定されるものではない。
【0035】
次に、上記の高強度オーステナイト系ステンレス鋼を製造するための方法について説明する。
従来、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を向上させるための方法として1000℃以下の低温焼鈍で最終焼鈍を行う方法がなされていた。低温焼鈍は、再結晶を完了させることなく、冷間圧延の途中に鋼材に蓄積されたエネルギーを利用する方法である。しかしながら、このように低温焼鈍が適用されたオーステナイト系ステンレス鋼は、材質が不均一になる危険性が存在するだけでなく、後続工程である酸洗工程で未酸洗が発生したり、表面形状が美しくないという短所があった。
このため、本発明では、1,000℃以上で冷延焼鈍を行っても、優れた降伏強度と高い降参比を有する高延性高強度のオーステナイト系ステンレス鋼を提供する。
【0036】
具体的に、本発明の一例による高強度オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.1超過~0.2%、N:0.2~0.3%、Si:0.8~1.5%、Mn:7.0~8.5%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.5%以下(0は除外)、Cu:1.0%以下(0は除外)、Nb:0~0.2%、および残部はFeと不可避不純物からなるスラブを加熱し、熱間圧延する段階と、上記熱間圧延した鋼板を熱延焼鈍する段階と、上記熱延焼鈍した鋼板を冷間圧延する段階と、上記冷間圧延した鋼板を冷延焼鈍する段階と、を含み、上記スラブは、下記式(1)を満たすことができる。
式(1):14≦23(C+N)+1.3Si+0.24(Cr+Ni+Cu)+0.1Mn
(上記式(1)中、C、N、Si、Mn、Cr、NiおよびCuは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
このように、本発明による製造方法は、上記の合金組成および含有量の範囲を満たすと同時に、式(1)を満たすスラブを用いることによって、高成形特性を維持しつつ、最終製品で1,800MPa以上の高い降伏強度を有する高強度オーステナイト系ステンレス鋼を製造することができる。
本発明は、ニッケル(Ni)のような高価な合金元素の含有量を0.5重量%以下に最大限低減して、優れた価格競争力を有しながらも熱間圧延による亀裂が発生せず、実収率と生産性に優れているという長所がある。
【0037】
以下、本発明の一例による高強度オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法についてより詳細に説明する。
まず、重量%で、C:0.1超過~0.2%、N:0.2~0.3%、Si:0.8~1.5%、Mn:7.0~8.5%、Cr:15.0~17.0%、Ni:0.5%以下(0は除外)、Cu:1.0%以下(0は除外)、Nb:0~0.2%、および残部はFeと不可避不純物からなるスラブを加熱し、熱間圧延する段階を行うことができ、この際、各合金成分含有量の数値限定理由および式(1)を満たさなければならない理由は、 上記の説明と同じなので、重複説明は省略し、上記のように、本発明の一例によるスラブは、式(2)、式(3)および式(4)を満たすことができ、これらを満たさなければならない理由も、 上記の説明と同じなので、重複説明は省略する。
この際、スラブを加熱する温度条件は、通常の圧延温度レベルであってもよく、例えば1,100~1,300℃の温度で1~3時間加熱した後、熱間圧延することができる。
【0038】
次に、上記熱間圧延した鋼板を熱延焼鈍する段階を行う。これも、通常の方法を通じて行うことができ、例えば上記熱間圧延した鋼板を1000~1,150℃の温度範囲で10秒~10分間熱延焼鈍することがよい。
その後、上記熱延焼鈍した鋼板を冷間圧延する段階を行うことで、薄物を製造することができる。この際、圧延工程前に冷却段階が行われてもよく、冷却は、水冷(Water Quenching)で行われる。冷却圧延は、通常のレベルで行われることがよく、例えば、圧下率50%以上で行われるが、必ずこれに限定されるものではない。
【0039】
次に、上記冷間圧延した鋼板を冷延焼鈍する段階を行う。具体的に、上記冷延焼鈍は、1000℃以上の温度で10秒~10分間行う。従来オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を向上させるための方法では1000℃以下で低温焼鈍させて材質が不均一に現れたり、後続工程である酸洗工程で未酸洗が発生し、表面形状が美しくなかったが、これとは異なって、本発明では、1000℃以上の温度で冷延焼鈍処理しても、450MPa以上の降伏強度および45%以上の伸び率を有するオーステナイト系ステンレス鋼を確保することができる。
このように合金成分を制御して、生産および流通に負荷がない工程を進めることによって、低温焼鈍でなく、一般的な冷延焼鈍の条件で高強度を確保することができるので、価格競争力をさらに向上させることができる。
さらに、本発明の一例による高強度オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、冷延焼鈍した鋼板を調質圧延する段階と、をさらに含むことができ、調質圧延を通じてさらに高いレベルの高強度特性を確保することができる。
【0040】
従来の調質圧延(skin pass rolling)は、冷間変形中にオーステナイト相が加工誘起マルテンサイトに変態するにつれて高い加工硬化が現れる現象を利用したり鋼材の電位蓄積を利用する方法であり、相変態と電位蓄積を適切に活用する場合、優れた強度を得ることができた。一方、本発明の上述した合金成分および関係式を満たすオーステナイト系ステンレス鋼の場合、適切な相変態と電位挙動を制御することによって、調質圧延後の降伏強度が1800MPa以上となる。この時、上記調質圧延は、圧下率60~85%で行われるが、これに限定されるものではない。
本発明による高強度オーステナイト系ステンレス鋼は、例えば、成形用一般製品に使用することができ、スラブ(slab)、ブルーム(bloom)、ビレット(billet)、コイル(coil)、ストリップ(strip)、プレート(plate)、シート(sheet)、バー(bar)、ロッド(rod)、ワイヤー(wire)、形鋼(shape steel)、パイプ(pipe)、またはチューブ(tube)のような製品に製造されて利用されることができる。
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明による高強度オーステナイト系ステンレス鋼およびその製造方法についてさらに詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を詳細に説明するための一つの参照であり、本発明がこれに限定されるものではなく、様々な形態に具現されることができる。
また、別途定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は、本発明の属する当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本願において説明に使用される用語は、単に特定の実施例を効果的に記述するためであり、本発明を限定するものと意図されない。また、明細書において特に記載しない添加物の単位は、重量%である。
【0042】
[実施例1~3、および比較例1~19]
実施例1~3、および比較例1~19に使用された各実験鋼種に対する合金組成(重量%)と式(1)~式(4)の値を下記表1に示した。
下記表1に記載された合金組成で、インゴット(Ingot)溶解を通じてスラブを製造し、1,250℃で2時間加熱した後、熱間圧延を行い、熱間圧延後、1,100℃で90秒間熱延焼鈍を行った。その後、70%の圧下率で冷間圧延を行い、冷間圧延後、1,100℃で10秒間冷延焼鈍を行うことによって、冷延焼鈍材を得た。
また、上記冷延焼鈍を行った試験片を70%の圧下率で調質圧延を行うことによって、調質圧延材を収得した。
【0043】
【表1】
【0044】
[物性評価]
上記実施例1~3、および比較例1~19で製造された試験片の物性をそれぞれ測定した。具体的に、常温引張実験はASTM規格に基づいて行い、それによって測定された降伏強度(YS、Yield Strength,MPa)、引張強度(TS,Tensile Strength,MPa)および伸び率(EL,Elongation,%)と冷延焼鈍材の熱間圧延途中のクラック(Crack)発生の有無を下記表2に記載した。
【0045】
【表2】
【0046】
上記表2を参照すると、上記実施例1~3の場合、本発明が提示する合金組成から式(1)、式(2)、式(3)および式(4)の値を特定した数値範囲を満たすことによって、冷延焼鈍後450MPa以上の降伏強度および45%以上の伸び率を達成した。このような高い降伏強度と伸び率を通じて、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼が複雑な形状の構造用材料として使用可能であり、活用価値が高いことを確認することができた。
また、実施例1~3は、冷延焼鈍を行った試験片を70%の圧下率で調質圧延した調質圧延材が1800MPa以上の高強度特性を示した。このような変形後の高い降伏強度は、最終製品である構造用鋼材の安定性がさらに向上することができることを意味する。
また、実施例1~3は、十分な熱間加工性を確保して、熱間圧延によるクラックが発生しないことにより、向上した実収率と生産性を確保することができ、ニッケル(Ni)含有量が顕著に低いので、コストを節減することができ、優れた価格競争力を確保することができる。
【0047】
一方、比較例1および2は、商業的に生産される規格のオーステナイト系ステンレス鋼であり、本発明が特定する成分含有量の範囲を満たさない鋼種である。比較例1および2は、式(1)を満たさず、300MPa以下の低い降伏強度を示し、式(2)の値は、本発明の特定範囲より低く、調質圧延後の降伏強度が多少低いという問題がある。また、商用オーステナイトステンレス鋼は、過剰なニッケル(Ni)の添加により価格競争力に劣るという問題がある。
比較例3も、式(1)を満たさず、400MPa程度の低い降伏強度を示し、ニッケル(Ni)も、過剰添加されて、価格競争力に劣るという問題がある。
【0048】
比較例4は、式(3)の値が本発明の特定する範囲より低く、変形途中に塑性不均一がひどく発生して、伸び率に劣るという問題がある。また、式(4)を満たしていて、熱間加工時にデルタフェライト量は適切であるが、低い式(3)の値と高い炭素(C)含有量の問題によって熱間加工時に亀裂の発生が確認されて、生産性に劣るという問題がある。
比較例5は、式(2)の値が高く、変形時に過剰なマルテンサイト相形成が発生して、伸び率に劣る問題があり、比較例6は、式(3)の値が低く、変形途中に塑性不均一がひどく発生して、伸び率に劣るという問題がある。
比較例7~9は、式(1)の値が高く、優れた冷延焼鈍後の降伏強度を示したが、式(2)の値は、30より非常に低く、式(3)の値は、20より非常に高く、調質圧延後、1800MPa以上の高いレベルの降伏強度を確保することができないという問題がある。また、比較例7~9は、式(4)の値が低く、炭素(C)の含有量が高く、熱間加工性に劣り、熱間圧延による亀裂が多量発生するという問題がある。
【0049】
比較例10および11は、式(1)の値が低く、焼鈍後、十分な降伏強度の確保が難しいという問題があり、式(2)の値は、80より非常に高く、式(3)の値は、16より非常に低く、冷延焼鈍材の伸び率に劣るという問題がある。
比較例12は、マンガン(Mn)の含有量が過剰で、S系介在物(MnS)が過量形成されたことにより、軟性および靭性特性が低下しただけでなく、製鋼工程の途中にMn煙(fume)が発生して、製造上の危険性を伴うという問題がある。
比較例13は、ニッケル(Ni)の含有量が1.1重量%で添加されたことにより、強度および伸び率が両方とも優れていたが、コスト低減効果が多少落ちるという問題がある。
【0050】
比較例14は、銅(Cu)の含有量が過剰で、スラブ内デルタフェライトを多量形成して、熱間加工性の低下と材質特性に悪影響をもたらすことによって、熱間加工時に亀裂発生が確認されて、生産性に劣る問題がある。
比較例15は、式(1)の値が本発明の特定範囲より多少高く、比較例16は、式(2)の値が本発明の特定範囲より低く、比較例17は、式(3)の値が本発明の特定範囲より高く、調質圧延後1800MPa以上の高いレベルの降伏強度を確保することができないという問題がある。
比較例18は、式(4)の値が本発明の特定範囲より低く、熱間加工性に劣り、熱間圧延による亀裂が多量に発生する問題があり、比較例19は、式(4)の値が本発明の特定範囲を超過することによって、過剰な量のデルタフェライト(δ-Ferrite)により熱間加工性に劣るという問題を有している。
【0051】
以上のとおり特定された事項と限定された実施例に基づいて本発明を説明したが、これは、本発明のより全般的な理解を助けるために提供したものであり、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の属する分野における通常の知識を有する者なら、このような記載から多様な修正および変形が可能である。
したがって、本発明の思想は、説明された実施例に限定されて定められるべきものではなく、後述する特許請求範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的な変形がある全てのものは、本発明思想の範疇に属するといえる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、自動車分野、建築分野など多様な産業分野に利用可能である。