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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】歪み量検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022581170
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2021033299
(87)【国際公開番号】W WO2022172497
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2021019076
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 有毅
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037233(JP,A)
【文献】特開2020-200012(JP,A)
【文献】特開2007-168671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00- 7/34
G01B 21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体に取り付けることにより前記物体の歪み量を検出する歪み量検出装置であって、
前記歪み量を測定してその測定結果を表す測定信号を出力する歪み測定素子、
前記測定信号を処理する信号処理部、
前記信号処理部による処理結果を送信する送信部、
を備え、
前記信号処理部は、
前記測定信号の経時変化の特徴量を抽出する特徴抽出部、
前記特徴量にしたがって前記物体の動作状態を判断する状態判断部、
前記測定信号を用いて前記歪み量を算出する歪み量演算部、
を備え、
前記物体が停止状態であると前記状態判断部が判断した期間において、前記歪み量演算部は、第1サンプリングレートで前記測定信号を取得するとともに前記歪み量を算出し、
前記物体が前記停止状態から移動中状態へ遷移している過渡状態であると前記状態判断部が判断した期間において、前記歪み量演算部は、前記第1サンプリングレートよりも高頻度の第2サンプリングレートで前記測定信号を取得するとともに前記歪み量を算出し、
前記物体は、前記歪み量検出装置を搭載している車両が備えるタイヤであり、
前記歪み測定素子は、前記タイヤの内面に取り付けられており、
前記特徴抽出部は、前記物体が前記停止状態であると前記状態判断部が判断した期間においては、前記測定信号の所定時間にわたる平均値と最新値との間の差分が第1閾値以上となる第1経時変化を、前記特徴量として抽出し、
前記特徴抽出部は、前記物体が前記過渡状態であると前記状態判断部が判断した期間においては、前記測定信号の最新値が第2閾値以上となった後に前記第2閾値よりも小さい第3閾値以下となる第2経時変化を、前記特徴量として抽出し、
前記状態判断部は、前記物体が前記停止状態であると判断した期間において、前記特徴抽出部が前記第1経時変化を抽出したときは、前記物体が前記過渡状態に遷移したと判断し、
前記状態判断部は、前記物体が前記過渡状態であると判断した期間において、前記特徴抽出部が前記第2経時変化を所定回数連続してまたは所定時間にわたって連続して抽出したときは、前記物体が前記移動中状態に遷移したと判断する
ことを特徴とする歪み量検出装置。
【請求項2】
物体に取り付けることにより前記物体の歪み量を検出する歪み量検出装置であって、
前記歪み量を測定してその測定結果を表す測定信号を出力する歪み測定素子、
前記測定信号を処理する信号処理部、
前記信号処理部による処理結果を送信する送信部、
を備え、
前記信号処理部は、
前記測定信号の経時変化の特徴量を抽出する特徴抽出部、
前記特徴量にしたがって前記物体の動作状態を判断する状態判断部、
前記測定信号を用いて前記歪み量を算出する歪み量演算部、
を備え、
前記物体が停止状態であると前記状態判断部が判断した期間において、前記歪み量演算部は、第1サンプリングレートで前記測定信号を取得するとともに前記歪み量を算出し、
前記物体が前記停止状態から移動中状態へ遷移している過渡状態であると前記状態判断部が判断した期間において、前記歪み量演算部は、前記第1サンプリングレートよりも高頻度の第2サンプリングレートで前記測定信号を取得するとともに前記歪み量を算出し、
前記物体は、前記歪み量検出装置を搭載している車両が備えるタイヤであり、
前記歪み測定素子は、前記タイヤの内面に取り付けられており、
前記信号処理部はさらに、
前記測定信号を前記第1サンプリングレートごとに格納する第1サンプリングバッファ、
前記測定信号を前記第2サンプリングレートごとに格納する第2サンプリングバッファ、
を備え、
前記特徴抽出部は、前記物体が前記移動中状態であると前記状態判断部が判断した期間においては、前記第1サンプリングバッファが格納している前記測定信号を用いて前記特徴量を抽出し、
前記特徴抽出部は、前記物体が前記過渡状態であると前記状態判断部が判断した期間においては、前記第1サンプリングバッファが格納している前記測定信号を用いて前記特徴量を抽出するとともに前記第2サンプリングバッファが格納している前記測定信号を用いて前記特徴量を抽出し、
前記状態判断部は、前記物体が前記過渡状態から前記停止状態へ遷移したか否かを判断する際には、前記第1サンプリングバッファが格納している前記測定信号を用いて抽出された前記特徴量を用い、
前記状態判断部は、前記物体が前記移動中状態から前記停止状態へ遷移したか否かを判断する際には、前記第1サンプリングバッファが格納している前記測定信号を用いて抽出された前記特徴量を用い、
前記状態判断部は、前記物体が前記過渡状態から前記移動中状態へ遷移したか否かを判断する際には、前記第2サンプリングバッファが格納している前記測定信号を用いて抽出された前記特徴量を用いる
ことを特徴とする歪み量検出装置。
【請求項3】
前記信号処理部はさらに、
前記測定信号を前記第1サンプリングレートごとに格納する第1サンプリングバッファ、
前記測定信号を前記第2サンプリングレートごとに格納する第2サンプリングバッファ、
を備え、
前記第1サンプリングバッファは、前記歪み量算出部が前記第2サンプリングレートで前記測定信号を取得する期間においては、前記第2サンプリングレートのサンプリングタイミングのうち前記第1サンプリングレートのサンプリングタイミングと重なるタイミングで、前記測定信号を格納する
ことを特徴とする請求項1記載の歪み量検出装置。
【請求項4】
記第1サンプリングバッファは、前記歪み量算出部が前記第2サンプリングレートで前記測定信号を取得する期間においては、前記第2サンプリングレートのサンプリングタイミングのうち前記第1サンプリングレートのサンプリングタイミングと重なるタイミングで、前記測定信号を格納する
ことを特徴とする請求項記載の歪み量検出装置。
【請求項5】
前記信号処理部はさらに、
前記測定信号の平均値を前記第1サンプリングレートごとに算出する第1サンプリング平均値演算部、
前記測定信号の平均値を前記第2サンプリングレートごとに算出する第2サンプリング平均値演算部、
を備え、
前記第1サンプリング平均値演算部は、前記歪み量算出部が前記第2サンプリングレートで前記測定信号を取得する期間においては、前記第2サンプリングレートのサンプリングタイミングのうち前記第1サンプリングレートのサンプリングタイミングと重なるタイミングで、前記測定信号の平均値を演算し、
前記特徴抽出部は、前記測定信号の平均値を用いて前記特徴量を抽出する
ことを特徴とする請求項1または2記載の歪み量検出装置。
【請求項6】
前記特徴抽出部は、前記物体が前記移動中状態または前記過渡状態であると前記状態判断部が判断した期間において、前記第2経時変化を前記特徴量として抽出し、
前記状態判断部は、前記歪み量検出装置に対して電源が投入されたときまたは前記過渡状態において前記特徴抽出部が所定時間内に前記第2経時変化を抽出しなかったときまたは前記移動中状態において前記特徴抽出部が所定時間内に前記第2経時変化を抽出しなかったときは、前記物体が前記停止状態であると判断する
ことを特徴とする請求項記載の歪み量検出装置。
【請求項7】
前記物体が前記移動中状態であると前記状態判断部が判断した期間において、前記歪み量演算部は、前記第1サンプリングレートよりも高頻度かつ前記第2サンプリングレートよりも低頻度の第3サンプリングレートで前記測定信号を取得するとともに前記歪み量を算出する
ことを特徴とする請求項1または2記載の歪み量検出装置。
【請求項8】
記停止状態は、前記車両が停止していることにより前記タイヤも停止している状態であり、
前記移動中状態は、前記車両が走行中の状態である
ことを特徴とする請求項1または2記載の歪み量検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の歪み量を検出する歪み量検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ歪みセンサは、タイヤの変形を検出することにより、車両のスリップなどを検出するために用いることができる。タイヤ歪みセンサは、タイヤの内面に装着されるので、電源として電池を用いるのが通常である。検出動作を継続するためには、少なくともタイヤ交換サイクル以上の期間にわたって、タイヤ歪みセンサが動作し続けることが望ましいといえる。
【0003】
従来のタイヤ歪みセンサは、車両の走行状態(例:走行中、停止中、発進中、など)によらず常に歪み測定とその結果送信を実施するので、例えば車両が停止中のときなどのようにタイヤ歪みを測定する必要性が小さい場面においても電力を消費する。したがってセンサの稼働時間が短くなりがちであった。
【0004】
下記特許文献1は、車輪に取り付けるセンサのバッテリ消耗を抑制する技術について記載している。同文献は、『車輪に取付けられ空気圧および加速度を検出するセンサ手段のバッテリの消耗を抑制することができる車両制御装置を提供すること。』を課題として、『各車輪2に取付けられ車輪の空気圧と車輪に加わる加速度とを検出し、該空気圧に関する信号と車輪に加わる加速度に関する信号を車体側に送信するセンサ手段4と、車体側に設けられ、前記センサ手段からの送信内容および送信レートを含む送信状況を決定し前記センサ手段に送信すると共に、前記センサ手段から前記信号を受信する送受信手段6、20と、前記空気圧に関する信号に基づいて各車輪の空気圧を判定し、何れかの車輪の空気圧が所定範囲から逸脱したときに警報を発する空気圧警報装置22と、前記加速度に関する信号に基づいて、車両の制御特性を変更する制御特性変更手段30と、を備えていることを特徴とする車両制御装置。』という技術を記載している(要約参照)。
【0005】
下記特許文献2も、車輪に取り付けるセンサのバッテリ消耗を抑制する技術について記載している。同文献は、『電池消耗を抑えつつ、スペア輪のタイヤ空気圧情報についてもタイヤ空気圧報知装置に送信できるようにする。』ことを課題として、『センサユニットの送信制御部は、加速度センサにより検出される加速度Gxが走行判定用閾値5Gよりも大きい場合に、車輪情報を定期的に送信させる(S13~S16)。送信制御部は、加速度Gxが走行判定用閾値5G値以下となる場合に、加速度Gxに応じて設定されるポイントPを予め設定した設定周期で累積し(S18~S24)、設定時間内に累積されたポイントPの累積値が走行実績判定用閾値10よりも大きい場合に車輪情報を送信させる(S25~S28)。』という技術を記載している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-252014号公報
【文献】特開2016-144961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の技術は、車両制御装置に関するものである。すなわち同文献記載の技術は、センサの動作頻度を車両制御装置からセンサに対して指示することによって成立している。したがって、車両制御装置からそのような指示を得ることができない環境においては、センサの稼働時間を延ばすことは困難である。換言すると、センサ自身が動作頻度を判断することができれば、センサの外部からそのような指示を得なくとも、稼働時間を延ばすことができると考えられる。
【0008】
特許文献2記載の技術は、加速度センサにより検出される加速度Gxを用いて、車輪情報を送信する頻度を決定する。したがって歪みセンサとは別に加速度センサが必要になるか、あるいは既存の加速度センサと通信することが必要になる。そうすると、歪みセンサと加速度センサとの間の通信インターフェースを別途設計する必要があり、設計コストや処理負荷が増加する。歪みセンサ自身が動作頻度を判断することができれば、そのような負担を軽減できると考えられる。
【0009】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、歪みを測定するタイミングやその測定結果を送信するタイミングを自ら判断することにより、消費電力を抑制することができる、歪み量検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る歪み量検出装置は、測定信号の経時変化の特徴量にしたがって物体の動作状態を判断する状態判断部を備え、前記物体が停止状態であるときは、第1サンプリングレートで前記測定信号を取得するとともに前記歪み量を算出し、前記物体が前記停止状態から移動中状態へ遷移している過渡状態であるときは、前記第1サンプリングレートよりも高頻度の第2サンプリングレートで前記測定信号を取得するとともに前記歪み量を算出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る歪み量検出装置によれば、歪みを測定するタイミングやその測定結果を送信するタイミングを自ら判断する。これにより、外部システムや外部センサから指示や測定結果を取得することなく、消費電力を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る歪み量検出装置1の構成を示すブロック図である。
図2】信号処理部12が測定信号をサンプリングするモードの状態遷移について説明する図である。
図3】歪み測定素子11が出力する測定信号の経時変化を例示するグラフである。
図4】発進中状態において特徴抽出部125が抽出する、測定信号のピーク波形の例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る歪み量検出装置1の構成を示すブロック図である。歪み量検出装置1は、物体の歪み量を検出する装置である。例えばタイヤの内面に歪み量検出装置1を取り付けることにより、タイヤの変形量を検出することができる。歪み量検出装置1は、歪み測定素子11、信号処理部12、送信部13を備える。信号処理部12はさらに、低速サンプリングバッファ121、高速サンプリングバッファ122、低速サンプリング平均値演算部123、高速サンプリング平均値演算部124、特徴抽出部125、状態判断部126、歪み量演算部127を備える。
【0014】
歪み測定素子11は、歪み量検出装置1が取り付けられている物体(例:タイヤ)の歪みを検出する素子である。歪み測定素子11は、例えば起歪体の歪みによって電気抵抗が変化することを利用してその歪み量を電気信号に変換する。歪み測定素子11は、測定結果を表す測定信号を、低速サンプリングバッファ121、高速サンプリングバッファ122、特徴抽出部125に対して出力する。低速サンプリングバッファ121と高速サンプリングバッファ122のいずれを用いるかについては後述する。
【0015】
信号処理部12は、低速サンプリングモードと高速サンプリングモードを切り替えることができる。低速サンプリングモードで動作するときは、測定信号を低いサンプリング周期でサンプリングするとともに、歪み量を演算する頻度もそのサンプリング周期に対応して低い。高速サンプリングモードで動作するときは、低速サンプリングモードよりも高い頻度で測定信号をサンプリングするとともに、歪み量を演算する頻度もそのサンプリング周期に対応して高い。高速サンプリングモードにおけるサンプリング周期は、低速サンプリングモードにおけるサンプリング周期の例えば整数倍である。
【0016】
低速サンプリングバッファ121と高速サンプリングバッファ122は、それぞれ測定信号を所定期間にわたって記録する。低速サンプリングバッファ121は、低速サンプリングモードで動作するときの測定信号を記録する。高速サンプリングバッファ122は、高速サンプリングモードで動作するときの測定信号を記録する。
【0017】
高速サンプリングモードで動作しているときのサンプリングタイミングが、低速サンプリングモードのサンプリングタイミングと重なる場合がある。このとき、低速サンプリングバッファ121と高速サンプリングバッファ122ともに測定信号を記録してもよい。これにより、後述する状態判断部126が物体の動作状態を判断するときの基準となるサンプリングタイミングとして、低速サンプリング周期と高速サンプリング周期いずれも用いることができる。以下ではこの動作を前提とする。
【0018】
低速サンプリング平均値演算部123は、低速サンプリングバッファ121が格納している測定信号の時間平均を算出する。算出頻度は低速サンプリング周期と同期している。高速サンプリング平均値演算部124は、高速サンプリングバッファ122が格納している測定信号の時間平均を算出する。算出頻度は高速サンプリング周期と同期している。低速サンプリングバッファ121はさらに、高速サンプリングモードのうち低速サンプリング周期と重なるタイミングで、測定信号を記録している。低速サンプリング平均値演算部123もこれに対応して、高速サンプリングモードのうち低速サンプリング周期と重なるタイミングで、低速サンプリングバッファ121が格納している測定信号の時間平均を算出する。
【0019】
特徴抽出部125は、測定信号の時間平均と、歪み測定素子11が出力する測定信号の現在値とを比較することにより、測定信号の特徴量を算出する。測定信号の時間平均は、判定基準としての役割を有する。算出手順の具体例については後述する。
【0020】
状態判断部126は、特徴抽出部125が算出した特徴量にしたがって、物体の動作状態を判定する。ここでいう動作状態とは、例えばタイヤの歪み量を検出する場合、そのタイヤを装着している車両の動作状態(例:停止中、発進中、走行中、など)である。判断基準については特徴量の例と併せて後述する。
【0021】
歪み量演算部127は、歪み測定素子11が出力する測定信号を用いて、物体の歪み量を算出する。歪み量を算出するタイミングは、測定信号をサンプリングするタイミングと同期している。すなわち低速サンプリング時は低頻度で歪み量を算出し、高速サンプリング時は高頻度で歪み量を算出する。
【0022】
送信部13は、歪み量演算部127が算出した歪み量を、歪み量検出装置1の外部へ送信する。歪み量を送信するタイミングは、測定信号をサンプリングするタイミングと同期している。すなわち低速サンプリング時は低頻度で歪み量を送信し、高速サンプリング時は高頻度で歪み量を送信する。送信手段は有線・無線いずれでもよい。
【0023】
図2は、信号処理部12が測定信号をサンプリングするモードの状態遷移について説明する図である。以下図2にしたがって、信号処理部12が低速サンプリングモードと高速サンプリングモードとの間で遷移する条件を説明する。ここでは歪み量検出装置1が車両のタイヤに装着されていることを前提とする。
【0024】
図2:車両停止状態)
歪み量検出装置1に対して電源が投入されたとき、車両は停止状態であると考えられるので、タイヤの歪み量を高頻度で取得する必要性は乏しい。したがって信号処理部12はこのとき、低速サンプリングモードで測定信号をサンプリングする。
【0025】
図2:車両走行開始への遷移)
車両が走行開始する(発進する)と、タイヤに歪みが発生し、測定信号が変動し始める。特徴抽出部125は、低速サンプリングバッファ121が格納している測定信号の平均値と、歪み測定素子11が出力する最新の測定信号との間の差分を、特徴量として算出する。状態判断部126は、この差分が閾値を超えたとき、車両が走行開始した(停止状態と走行中状態との間の過渡状態になった)と判断する。例えば測定信号の時間平均値と最新値の比率が閾値を超えたとき、走行開始したと判断することができる。走行開始時はタイヤの歪み量の時間変化率が大きいので、信号処理部12はこのとき、高速サンプリングモードで測定信号をサンプリングする。
【0026】
図2:車両走行開始への遷移:補足)
車両が発進するときタイヤに異常があれば、運転手に対してその旨のアラートを発信するなどによって、車両を即座に停止させるなどの対処をとることができる。これにより車両の安全性が高まる。このように車両が発進するときは、タイヤ歪み量を高頻度で取得する必要性が高いといえる。
【0027】
図2:車両走行中状態への遷移)
車両が発進中のとき、測定信号は、急峻に立ち上がるピーク波形が複数回生じる。ピークの前後には、測定信号が定常状態からやや立ち下がる逆ピーク波形が生じる。このピークは、タイヤ内面の1箇所に歪み量検出装置1を取り付けた場合において、車輪が回転するごとに取付箇所近傍が歪むことに起因する。特徴抽出部125は、このピーク波形を特徴量として抽出する。状態判断部126は、車両発進時においてこのピーク波形を規定回数以上検出したとき、車両が走行中状態に遷移したと判断する。走行中状態においては、信号処理部は低速サンプリングモードで測定信号をサンプリングする。
【0028】
図2:車両走行中状態への遷移:補足)
走行中状態においても、タイヤの歪み量を取得する必要性はある。ただし消費電力を抑制する観点からは、より必要性の高い発進時において高速サンプリングモードを用い、走行中状態においてはサンプリングの優先度を下げてもよいと考えることもできる。そこで本実施形態においては、走行中状態は低速サンプリングモードを用いることとした。
【0029】
図2:車両停止状態への遷移)
特徴抽出部125は、走行開始状態と走行中状態それぞれにおいて、上記ピーク波形を特徴量として抽出する。状態判断部126は、規定時間内にピークが検出されなかった場合は、車両が停止状態に遷移したと判断し、低速サンプリングモードへ移行する。
【0030】
図2:車両停止状態への遷移:補足)
走行開始状態から停止状態へ遷移したか否かを判断するときと、走行中状態から停止状態へ遷移したか否かを判断するときは、それぞれ同じ判断基準(同じ基準で取得した測定信号)を用いることが望ましい。そこで特徴抽出部125と状態判断部126は、これらの判断を実施する際には、低速サンプリングバッファ121が格納している測定信号を用いる。すなわち走行開始状態においては、(a)走行中状態へ遷移したか否かを判断する際には高速サンプリングバッファ122が格納している測定信号を用い、(b)停止状態へ遷移したか否かを判断する際には低速サンプリングバッファ121が格納している測定信号を用いる。
【0031】
図3は、歪み測定素子11が出力する測定信号の経時変化を例示するグラフである。図3上段は従来の歪み量測定装置が外部に対して送信する測定信号の波形である。図3下段は本実施形態における歪み量検出装置1が装置外部に対して送信する(すなわちサンプリングレートを調整済)測定信号の波形である。従来においては、車両が発進中/走行中/停止中いずれの場合であっても、概ね同じ頻度で測定信号を取得し、かつ装置外部へ送信する。したがって消費電力が大きいので、歪み量測定装置の稼働時間を確保するのが困難である。本実施形態においては、以下のように車両の動作状態を判断し、その動作状態に応じてサンプリングモードを変更する。これにより消費電力を抑制できる。
【0032】
車両が停止状態から発進中状態になると、測定信号が立ち上がる。信号処理部12は測定信号の時間平均を求め、その時間平均と最新値の差分が閾値を超えた時点で、車両が発進中状態(図3の走行開始状態)に遷移したと判断する。発進中状態においては、図3の同期間の波形が示すように、測定信号の時間変化率が大きい(立ち上がりピークが複数回発生する)。そこでこの期間は高速サンプリングモードとする。
【0033】
車両が発進中状態であるとき、測定信号の立ち上がりピークが複数回発生する。このピークが規定回数に達した時点で、車両が走行中状態に遷移したと判断する。走行中状態においては、低速サンプリングモードとする。したがって図3の同期間においては、波形のピークの頻度が発進中状態よりも少ない。
【0034】
図4は、発進中状態において特徴抽出部125が抽出する、測定信号のピーク波形の例である。測定信号は、立ち上がりピークの前後において、やや立ち下がる逆ピークが存在する。特徴抽出部125は、これら3つのピークをこの順で連続して検出したとき、そのピーク波形が生じたことを特徴量として抽出する。
【0035】
具体的には、特徴抽出部125は以下を実施する:(a)測定信号の時間平均値と最新値との間の差分(または時間平均値に対する最新値の比率、以下同様)が上限閾値以上となったとき、立ち上がりピークとみなす;(b)測定信号の時間平均値と最新値との間の差分が下限閾値以下となったとき、立ち下がりピークとみなす;(c)立ち下がりピークから立ち上がりピークを経て再度立ち下がりピークとなる順で連続して発生したとき、ピーク波形が発生したと判断する。図4においては、立ち上がりピークを検出したことを示すフラグと、立ち下がりピークを検出したことを示すフラグとを、測定信号波形とともに併記した。
【0036】
測定信号が定常状態(経時変化が少なく安定している状態)であるときの信号値がどの程度の値になるのかは、運用環境に依拠する。したがってピークを検出するための判定閾値は、絶対値によって定義することは困難である。そこで本実施形態においては、定常状態における測定信号値を時間平均によって求め、最新値がこの時間平均からどの程度逸脱したのかによって、ピーク波形を検出することとした。したがって上記における上限閾値と下限閾値は、例えば以下のように定義することができる:最新値が時間平均の1.1倍以上であれば立ち上がりピークとみなす;最新値が時間平均の0.9倍以下であれば立ち下がりピークとみなす。これらの数値は1例である。
【0037】
ピーク波形を検出する上記手法は、高速サンプリングデータと低速サンプリングデータいずれにおいても同じである。したがって、高速サンプリングデータがピーク波形を有しているか否かは高速サンプリング平均値演算部124による計算結果を用いて判断し、低速サンプリングデータがピーク波形を有しているか否かは低速サンプリング平均値演算部123による計算結果を用いて判断する。
【0038】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る歪み量検出装置1は、歪み測定素子11が出力する測定信号にしたがって車両の動作状態を判定し、車両が停止状態であるときは低サンプリングレートで測定信号をサンプリングし、車両が停止状態から走行中状態へ遷移する過渡状態であるときは高サンプリングレートで測定信号をサンプリングする。これにより、測定信号を頻繁に取得する必要性が高いときのみサンプリングレートを上げるので、電力消費を抑制することができる。さらに、歪み測定信号を用いて車両の動作状態を判断するので、外部センサなどのような歪み量検出装置1以外の機能に依拠することなく、歪み量検出装置1が消費電力を自ら抑制することができる。
【0039】
本実施形態1に係る歪み量検出装置1は、高速サンプリングモード時において、低速サンプリングモードのサンプリングタイミングと重なるタイミングで、低速サンプリングバッファ121へ測定信号を格納する。これにより、例えば特徴抽出部125や状態判断部126は、走行開始状態から停止状態へ遷移したか否かを判断するときと、走行中状態から停止状態へ遷移したか否かを判断するときそれぞれにおいて、同じ判断基準(同じ基準で取得した測定信号)を用いることができる。
【0040】
本実施形態1に係る歪み量検出装置1は、走行中状態においては、低速サンプリングレートを用いる。これにより、発進時は高速サンプリングレートによってタイヤの異常を正確に判断しつつ、消費電力を抑制することができる。
【0041】
<実施の形態2>
実施形態1においては、車両が走行開始したと状態判断部126が判断した期間において、測定信号のピーク波形を規定回数検出した時点で、車両が走行中状態に遷移したと判断することを説明した。例えば図3においては、走行開始期間において10回のピーク波形を検出した時点で、走行中状態に遷移する例を示した。規定回数のピーク波形を検出することに代えて、ピーク波形が所定時間以上連続して現れることにより、走行中状態に遷移したと判断してもよい。
【0042】
状態判断部126は例えば、以下のように判断することができる。走行開始状態において、ピーク波形が現れない時間が規定時間以上に達した場合は、停止状態に遷移したと判断する。それ以外であれば、ピーク波形が連続しているとみなす。換言すると、ピーク波形が現れない時間が規定時間以上に達しなければ、走行中状態に遷移したと判断する。これはタイヤがある程度の時間以上連続して回転し続けていることを検出することに相当する。
【0043】
<本発明の変形例について>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0044】
以上の実施形態において、停止状態におけるサンプリングレートと走行中状態におけるサンプリングレートは必ずしも同じでなくともよい。例えば停止中状態は低サンプリングレート、走行中状態は中サンプリングレート(低速サンプリングと高速サンプリングとの間の中間サンプリングレート)、走行開始状態は高サンプリングレートを用いてもよい。この場合は、サンプリングバッファと平均値演算部も中サンプリングレートに対応してそれぞれ新たに設ければよい。
【0045】
以上の実施形態において、信号処理部12および信号処理部12が備える各機能部は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをプロセッサなどの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0046】
以上の実施形態において、歪み量検出装置1をタイヤに装着してタイヤの歪みを検出する例を説明したが、本発明はタイヤ以外の物体の歪みを検出する場合においても適用することができる。すなわち、歪み量検出装置1を取り付けた物体の動作状態を歪み量検出装置1が判断し、その動作状態に応じてサンプリング頻度を調整する態様において、本発明は有用である。
【符号の説明】
【0047】
1:歪み量検出装置
11:歪み測定素子
12:信号処理部
121:低速サンプリングバッファ
122:高速サンプリングバッファ
123:低速サンプリング平均値演算部
124:高速サンプリング平均値演算部
125:特徴抽出部
126:状態判断部
127:歪み量演算部
13:送信部
図1
図2
図3
図4