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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】コンクリート床版の補強構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20241031BHJP
   E01D 2/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E01D2/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023125262
(22)【出願日】2023-08-01
(65)【公開番号】P2024025693
(43)【公開日】2024-02-26
【審査請求日】2024-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2022127830
(32)【優先日】2022-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(73)【特許権者】
【識別番号】395013212
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラ建設
(73)【特許権者】
【識別番号】592090555
【氏名又は名称】パシフィックコンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓬莱 賢一
(72)【発明者】
【氏名】花村 光一
(72)【発明者】
【氏名】笠嶋 憲男
(72)【発明者】
【氏名】中村 定明
(72)【発明者】
【氏名】山崎 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】渡口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】中澤 治郎
(72)【発明者】
【氏名】新倉 利之
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179815(JP,A)
【文献】特開2018-193676(JP,A)
【文献】特開2013-194421(JP,A)
【文献】特開2014-196658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の主桁によって支持されているコンクリート床版を補強するための補強構造において、
前記主桁の間に架け渡され、上面を形成する横桁上フランジを含む横桁と、
前記コンクリート床版の下面と前記横桁上フランジの上面との間に設けられ、前記コンクリート床版を下方から支持する縦桁とを備え、
前記横桁および前記縦桁の少なくともいずれか一方は、繊維強化プラスチックで形成されており、
前記横桁を形成する繊維強化プラスチックが、前記横桁の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含むか、または、
前記縦桁を形成する繊維強化プラスチックが、前記縦桁の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む、コンクリート床版の補強構造。
【請求項2】
前記繊維強化プラスチック中の繊維は、炭素繊維およびガラス繊維を含む、請求項1に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項3】
前記繊維強化プラスチックは、繊維を含む複数の層で形成されている、請求項1に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項4】
前記複数の層は、
軸方向に対して平行に配向する繊維を含む軸方向繊維層と、
前記軸方向繊維層とは配向方向が異なる繊維を含む非軸方向繊維層とを含む、請求項3に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項5】
前記非軸方向繊維層は、軸方向に対して±30°~±60°傾斜して交差するように配向された繊維を含む交差繊維層を含み、
前記非軸方向繊維層に含まれる繊維の割合は、総繊維体積量に対して30~70vol%であり、
前記交差繊維層に含まれる繊維の割合は、総繊維体積量に対して10vol%以上である、請求項4に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項6】
前記縦桁は、前記コンクリート床版の下面を支持する縦桁上フランジと、前記横桁の上面に当接する縦桁下フランジと、前記縦桁上フランジと前記縦桁下フランジとを上下に連結する縦桁腹板とを含み、
前記縦桁上フランジ、前記縦桁下フランジ、および前記縦桁腹板の少なくともいずれかは、前記縦桁の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む、請求項1に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項7】
前記縦桁腹板は、複数設けられる、請求項6に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項8】
前記縦桁は、複数設けられ、
前記複数の縦桁は、橋軸直交方向に間隔をあけて設けられる、請求項6に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項9】
前記横桁は、前記縦桁に当接する前記横桁上フランジと、前記横桁上フランジの下方に位置する横桁下フランジと、前記横桁上フランジと前記横桁下フランジとを上下に連結する横桁腹板とを含み、
前記横桁上フランジ、前記横桁下フランジ、および前記横桁腹板の少なくともいずれかは、前記横桁の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む、請求項1に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項10】
前記横桁は、前記縦桁に対応する位置に設けられ、前記横桁上フランジと前記横桁下フランジとの間に位置する補剛材をさらに含む、請求項9に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項11】
前記繊維強化プラスチックは、繊維を含む複数の層で形成されており、
前記横桁上フランジおよび前記横桁下フランジの少なくともいずれか一方は、最外層がガラス繊維である、請求項9に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項12】
前記横桁上フランジおよび前記横桁下フランジの少なくともいずれか一方は、ガラス繊維層-炭素繊維層-ガラス繊維層のサンドイッチ構造である、請求項11に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項13】
前記補剛材の下端と前記横桁下フランジとの間には、隙間が設けられる、請求項10に記載のコンクリート床版の補強構造。
【請求項14】
前記補剛材は、補剛材本体と、前記補剛材本体の上端と前記横桁上フランジの下端との間に位置する分散板とを含む、請求項13に記載のコンクリート床版の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床版の補強構造に関し、特に、複数の鋼製またはコンクリート製の主桁によって支持されているコンクリート床版を補強するための補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、橋梁などを形成するコンクリート床版は、長年の使用により劣化して、たとえばひび割れや剥離、剥落などの損傷が発生するため、補強する必要がある。
【0003】
このような橋梁のコンクリート床版の補強構造として、たとえば特開2002-227134号公報(特許文献1)および特開昭63-171906号公報(特許文献2)などの技術が知られている。
【0004】
特許文献1には、鉄筋コンクリート床版を鋼主桁によって支持しているコンクリート床版鋼桁橋において、鋼主桁間に架け渡される下側部連結補強板を鉄筋コンクリート床版の下面に沿うように設けて、鉄筋コンクリート床版の下面を補強する技術が開示されている。特許文献2には、鉄筋コンクリート床版の下面のほぼ全面を覆う補強板を設けることで、鉄筋コンクリート床版を補強する方法が開示されている。特許文献1,2の補強板は、いずれも鋼製であることが開示されている。
【0005】
一方で、繊維強化プラスチックを用いた技術として、たとえばWO2017/170802号公報(特許文献3)が知られている。特許文献3には、繊維強化樹脂中空体を自動車のインストルメントパネルに使用することが開示されている。繊維強化樹脂中空体の肉厚は1~20mmであり、その外周長が125~300mmであることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-227134号公報
【文献】特開昭63-171906号公報
【文献】WO2017/170802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2に開示されている補強構造は、いずれも鋼製であるため、橋梁に補強構造を取り付けると、自重が増大してしまう。また、特許文献3には、自動車のインストルメントパネルに使用する繊維強化樹脂中空体について開示されているだけで、橋梁のような大きな構造物であり、コンクリート床版に対する曲げモーメントおよびせん断力に対する強度が要求される技術に適用することまでは考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、コンクリート床版への曲げ補強およびせん断補強に対応しつつ、軽量化が可能なコンクリート床版の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るコンクリート床版の補強構造は、複数の主桁によって支持されているコンクリート床版を補強するための補強構造において、主桁の間に架け渡される横桁と、コンクリート床版の下面と横桁の上面との間に設けられ、コンクリート床版を下方から支持する縦桁とを備え、横桁および縦桁の少なくともいずれか一方は、繊維強化プラスチックで形成されており、横桁を形成する繊維強化プラスチックが、前記横桁の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含むか、または、前記縦桁を形成する繊維強化プラスチックが、前記縦桁の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む。ここで、横桁の軸方向とは横桁の長手方向であり、橋軸直交方向である。縦桁の軸方向とは、縦桁の長手方向であり、橋軸方向である。
【0010】
好ましくは、繊維強化プラスチック中の繊維は、炭素繊維およびガラス繊維を含む。
【0011】
好ましくは、繊維強化プラスチックは、繊維を含む複数の層で形成されている。
【0012】
好ましくは、複数の層は、軸方向に対して平行に配向する繊維を含む軸方向繊維層と、軸方向繊維層とは配向方向が異なる繊維を含む非軸方向繊維層とを含む。
【0013】
好ましくは、非軸方向繊維層は、軸方向に対して±30°~±60°傾斜して交差するように配向された繊維を含む交差繊維層を含み、非軸方向繊維層に含まれる繊維の割合は、総繊維体積量に対して30~70vol%であり、交差繊維層に含まれる繊維の割合は、総繊維体積量に対して10vol%以上である。
【0014】
好ましくは、縦桁は、コンクリート床版の下面を支持する縦桁上フランジと、横桁の上面に当接する縦桁下フランジと、縦桁上フランジと縦桁下フランジとを上下に連結する腹板とを含み、縦桁上フランジ、縦桁下フランジ、および縦桁腹板の少なくともいずれかは、縦桁の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む。
【0015】
好ましくは、縦桁腹板は、複数設けられる。
【0016】
好ましくは、縦桁は、複数設けられ、複数の縦桁は、橋軸直交方向に間隔をあけて設けられる。
【0017】
好ましくは、横桁は、縦桁に当接する横桁上フランジと、横桁上フランジの下方に位置する横桁下フランジと、横桁上フランジと横桁下フランジとを上下に連結する横桁腹板とを含み、横桁上フランジ、横桁下フランジ、および横桁腹板の少なくともいずれかは、横桁の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む。
【0018】
好ましくは、横桁は、縦桁に対応する位置に設けられ、横桁上フランジと横桁下フランジとの間に位置する補剛材をさらに含む。
【0019】
好ましくは、繊維強化プラスチックは、繊維を含む複数の層で形成されており、横桁上フランジおよび横桁下フランジの少なくともいずれか一方は、最外層がガラス繊維である。
【0020】
さらに好ましくは、横桁上フランジおよび横桁下フランジの少なくともいずれか一方は、ガラス繊維層-炭素繊維層-ガラス繊維層のサンドイッチ構造である。
【0021】
好ましくは、補剛材の下端と横桁下フランジとの間には、隙間が設けられる。
【0022】
好ましくは、補剛材は、補剛材本体と、補剛材本体の上端と横桁上フランジの下端との間に位置する分散板とを含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明のコンクリート床版の補強構造によれば、コンクリート床版への曲げ補強およびせん断補強に対応しつつ、軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態1に係るコンクリート床版の補強構造を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るコンクリート床版の補強構造を示す正面図である。
図3図2の一部分を拡大して示す図である。
図4】横桁の斜視図である。
図5】補剛材の斜視図である。
図6】縦桁の斜視図である。
図7】横桁、縦桁、および補剛材の積層状態を示す模式図である。
図8】繊維強化プラスチック中の繊維の配向方向を示す模式図であり、(A)は軸方向に対して0°で配向されている層を示し、(B)は軸方向に対して±45°で配向されている層を示し、(C)は軸方向に対して90°で配向されている層を示し、(D)は軸方向に対してランダムに配向されている層を示している。
図9】補剛材の変形例を示す斜視図である。
図10】本発明の実施の形態2に係るコンクリート床版の補強構造を示す正面図である。
図11図10の一部分を拡大して示す図であり、(A)は正面図であり、(B)は斜視図である。
図12】横桁を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0026】
<橋梁の基本構成>
図1および図2を参照して、本実施の形態に係る橋梁1の基本構成について説明する。図1に示す矢印Aは橋軸方向を表わし、図1および図2に示す矢印Bは橋軸方向と直交する水平方向である橋軸直交方向を表わし、矢印Cは上下方向であり、鉛直方向を表している。
【0027】
橋梁1は、複数の主桁3,3と、主桁3,3によって支持されているコンクリート床版2とにより構成されている。なお、図1において、主桁3,3とコンクリート床版2を破線で示している。
【0028】
主桁3は、鋼板または形鋼を組み合わせて板状にし、これを断面がI字形または箱型などになるように組み立てられた桁である。主桁3は、橋軸方向(図1においてA方向)に延在して設けられている。図1では、主桁3は、橋軸直交方向(図1及び図2においてB方向)において対向して一対設けられているが、橋梁1の橋軸直交方向の距離が大きい場合には、橋軸直交方向に所定間隔で複数配置される。本実施の形態では、橋軸直交方向に隣り合う主桁3の間隔は、たとえば1~2mであったり、1.5m~3m程度であったりする。なお、主桁3は、図示しない橋台や橋脚の間に架設されている。なお、主桁3は、コンクリート製であってもよい。
【0029】
主桁3は、主桁上フランジ31と、主桁下フランジ32と、主桁上フランジ31と主桁下フランジ32とを上下に連結する主桁腹板33とを含む。主桁上フランジ31は、コンクリート床版2を下方から支持する。主桁下フランジ32は、図示しない橋台や橋脚によって下方から支持されている。主桁腹板33は、その上下方向の途中位置に、対向する主桁3に向かって突出する水平部材34(図2)が設けられていてもよい。
【0030】
コンクリート床版2は、床版本体21と、床版本体21の上方に設けられる舗装22とを含む。床版本体21は、内部に鉄筋が設けられた鉄筋コンクリートにより形成されることが好ましい。舗装22は、たとえばアスファルトなどであり、上面は外方に露出している。舗装22の上には、橋軸直交方向の両端部において図示しない地覆が施工されていてもよい。
【0031】
コンクリート床版2は、長年の使用により劣化し、たとえばその内部に亀裂が生じ、その下面にひび割れなどの損傷や上面の陥没を起因とする損傷などが発生するため、補強する必要がある。以下、コンクリート床版2を補強するための補強構造4について詳細に説明する。
【0032】
<実施の形態1>
実施の形態1の補強構造4は、コンクリート床版2を補強するためのものである。図3図5をさらに参照して、補強構造4は、概略として、横桁5と、複数の縦桁9とを備える。
【0033】
横桁5は、たとえばH形またはI形断面であり、橋軸直交方向に延在し、主桁3,3の間に架け渡される。横桁5は、たとえば高さ寸法が200~500mm、横幅寸法(橋軸直交方向の寸法)が1500~3000mm、奥行き寸法(橋軸方向の寸法)が200~300mmであることが好ましい。横桁5は、長尺状に延びる部材であり、横桁5の長手方向である橋軸直交方向を「軸方向」という。なお、横桁5は、橋軸方向に所定間隔で複数配置されているが、図1では橋梁1の一部を図示しているため、橋軸直交方向に延在する2本以上の横桁5が設けられている。また、横桁5は、繊維強化プラスチックで形成される。横桁5は、繊維強化プラスチック中の繊維が、横桁5の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む。
【0034】
横桁5は、図4に示されている。図2図4に示すように、横桁5は、縦桁9に当接する横桁上フランジ51と、横桁上フランジ51の下方に位置する横桁下フランジ52と、横桁上フランジ51と横桁下フランジ52とを上下に連結する横桁腹板53とを含み、たとえば引抜成形法による一体成形により形成されている。横桁5は、仕口部材6および添接部材7を介して主桁3に連結される。
【0035】
図1図3に示すように、仕口部材6は、たとえば鋼製であり、一対の主桁3,3にそれぞれ取り付けられる。仕口部材6は、主桁3と横桁5とを連結する部材である。
【0036】
仕口部材6は、たとえば断面視T字形状であり、主桁3の主桁腹板33に当接する側面板61と、側面板61の橋軸方向略中央部から横桁5に向かって突出する正面板62とを含む。側面板61の上下方向略中央部には、橋軸直交方向に切り欠かれた切欠き部63が形成される。切欠き部63には、上述した主桁3の水平部材34が位置する。なお、主桁腹板33に水平部材34が存在しない場合は、切欠き部63を省略することができる。また、仕口部材6の側面板61および正面板62には、それぞれ穴部が設けられている。これにより、仕口部材6と、主桁3および添接部材7とは、締結具としてのボルトなどを介して固定される。なお、仕口部材6と主桁3は、いずれも鋼製であるため、溶接により固定されていてもよい。
【0037】
図1図3に示すように、添接部材7は、板状部材であり、たとえば鋼製である。添接部材7は、仕口部材6と横桁5を接合するために、仕口部材6の正面板62と横桁5の横桁腹板53に添えられる。具体的には、添接部材7は、橋軸直交方向両端部において、上下方向に整列して穴部が設けられている。これにより、添接部材7と、仕口部材6および横桁5とは、締結具としての接着剤とボルトなどを介して固定される。また、仕口部材6に上下フランジを設け、横桁5の横桁上下フランジ51,52と締結してもよい。
【0038】
横桁5の横桁上フランジ51と横桁下フランジ52の間には、複数の補剛材8が間隔をあけて設けられる。補剛材8は、たとえばみぞ形などであり、たとえば繊維強化プラスチックで形成される。補剛材8の上下方向寸法は、横桁5の横桁上フランジ51と横桁下フランジ52の間の寸法と略同一である。具体的には、補剛材8の上端は、横桁上フランジ51の下端に当接し、補剛材8の下端は、横桁下フランジ52の上端に当接している。補剛材8は、図5に示されている。図2および図5に示すように、補剛材8は、横桁腹板53に当接する背板部81と、背板部81の両端から突出する一対の側板部82とを含み、たとえば引抜成形法による一体成形により形成されている。補剛材8は、横桁5の背板部81を挟んだ一方側(例えば、図4でいう右側)に設けられていればよく、背板部81を挟んだ他方側(例えば、図4でいう左側)に設けられなくてもよい。
【0039】
背板部81には、図示しない複数の穴部が設けられている。これにより、補剛材8は、横桁腹板53に対して接着剤とボルトなどを介して固定される。また、ボルトなどは、鋼製の他、繊維強化プラスチック製を用いることができる。側板部82の突出寸法は、横桁上フランジ51および横桁下フランジ52の横桁腹板53からの突出寸法よりも小さいか、略同一であることが好ましい。
【0040】
補剛材8は、縦桁9に対応する下方位置に設けられる。つまり、補剛材8は、縦桁9と上下方向において重なる位置に設けられる。具体的には、補剛材8は、縦桁9の橋軸直交方向幅内に収まるように配置される。補剛材8は、上下方向に延びる部材であり、この上下方向を「軸方向」という。好ましくは、補剛材8の橋軸直交方向の中央部と縦桁9の中央部とは一致するように配置される。これにより、各縦桁9で受けたコンクリート床版2からの荷重を各補剛材8で受けることができるため、力を分散することができる。
【0041】
縦桁9は、たとえばH形またはI形断面であり、コンクリート床版2の下面と横桁上フランジ51の上面との間に設けられ、コンクリート床版2を下方から支持する。特に図1に示すように、縦桁9は、橋軸方向に延在し、横桁5,5の間に架け渡される。縦桁9は、たとえば高さ寸法が75~300mm、横幅寸法(橋軸直交方向の寸法)が150~300mm、奥行き寸法(橋軸方向の寸法)が500~3000mmであることが好ましい。縦桁9は、長尺状に延びる部材であり、縦桁9の長手方向である橋軸方向を「軸方向」という。なお、縦桁9は、必ずしも2本の横桁5,5に架け渡されるものではなく、複数の横桁5,5・・間に掛け渡されていてもよいし、1本の横桁5の上面に配置されるものであってもよい。また、縦桁9は、繊維強化プラスチックで形成される。縦桁9は、繊維強化プラスチック中の繊維が、縦桁9の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む。
【0042】
縦桁9は、複数設けられ、橋軸直交方向に間隔をあけて設けられる。縦桁9が設けられる個数は、1つ以上であれば特に限定されないが、図1および図2では、5つ設けられ、等間隔に配置されている。
【0043】
縦桁9は、図6に示されている。図2および図6に示すように、縦桁9は、コンクリート床版2の下面に当接する縦桁上フランジ91と、横桁5の上面に当接する縦桁下フランジ92と、縦桁上フランジ91と縦桁下フランジ92とを上下に連結する縦桁腹板93とを含み、たとえば引抜成形法による一体成形により形成されている。縦桁腹板93は、橋軸直交方向に対向して2枚設けられる。これにより、縦桁9の強度を向上させることができる。なお、縦桁腹板93は、複数設けられることが好ましいが、1枚であってもよい。
【0044】
図2に示すように、コンクリート床版2は必ずしも水平に配置されておらず、多少の勾配が設けられている。それに対し、横桁5は、主桁3の間に配置されているため、水平に配置されている。そのため、縦桁下フランジ92と横桁上フランジ51との間には、多少の隙間が生じてしまう。その隙間を埋めるために、縦桁下フランジ92と横桁上フランジ51との間にはそれぞれ勾配調整部材(レベルライナ)95a,95b,95c,95d,95eが設けられる。
【0045】
コンクリート床版2は、紙面上左側の勾配が高く、紙面上右側の勾配が低くなっている。そのため、左側に配置されている勾配調整部材95eの高さ寸法が最も大きく、右側に向かうにつれ小さくなるように設定されている。勾配調整部材95a~95eは、たとえば繊維強化プラスチックであることが好ましい。勾配調整部材95a~95eが設けられることで、コンクリート床版2が傾斜していても、コンクリート床版2の下方を縦桁9で確実に支持することができ、縦桁9の下方を横桁5で支持することができる。また、勾配調整部材95a~95eが設けられる場合は、勾配調整部材95a~95eの上面が横桁5の上面であるとみなすことができる。なお、勾配調整部材95a~95eは、コンクリート床版2の下面と縦桁上フランジ91との間に設けられてもよい。
【0046】
上述のように、横桁5、補剛材8、縦桁9、および勾配調整部材95a~95eは、繊維強化プラスチックで形成されている。繊維強化プラスチックについて、詳細に説明する。
【0047】
<繊維強化プラスチック>
図7および図8を参照して、横桁5、補剛材8、縦桁9、および勾配調整部材95a~95eを形成する繊維強化プラスチックについて説明する。図7は、横桁5、補剛材8、縦桁9、および勾配調整部材95a~95eを形成する繊維強化プラスチックの積層状態を示す模式図である。図8は、各層における繊維強化プラスチック中の繊維の配向方向を示す模式図である。
【0048】
横桁5、補剛材8、縦桁9、および勾配調整部材95a~95eは、繊維強化プラスチック10の繊維を含む複数の層11,12,13・・・で形成されている。複数の層11,12,13は、たとえば軸方向繊維層と、非軸方向繊維層とを含む。なお、図7では、繊維強化プラスチック10は、3層設けられているが、少なくとも1層以上設けられていればよい。繊維強化プラスチック10が複数の層で形成されることにより、曲げモーメントおよびせん断力に対する強度を強くすることができる。積層される層の種類、並び順などは特に限定されないが、後述する非軸方向繊維層の交差繊維層が少なくとも設けられることが好ましい。なお、横桁5,補剛材8、縦桁9、および勾配調整部材95a~95eの成形は、繊維強化プラスチックの分野において一般的に行われる引抜成形法により製造することができる。
【0049】
横桁5は、横桁上下フランジ51,52が上下方向(鉛直方向)に積層されており、横桁腹板53が橋軸方向に積層されている。縦桁9は、縦桁上下フランジ91,92が上下方向(鉛直方向)に積層されており、縦桁腹板93が橋軸直交方向に積層されている。補剛材8は、背板部81が橋軸方向に積層されており、側板部82が橋軸直交方向に積層されている。勾配調整部材95a~95eは、上下方向(鉛直方向)に積層されている。つまり、横桁5、縦桁9、補剛材8、および勾配調整部材95a~95eは、それぞれの部材を構成する板状の部材の厚み方向に積層されている。
【0050】
軸方向繊維層とは、軸方向に対して平行に配向する繊維を含む層のことである。軸方向繊維層は、軸方向に対して平行に配向する繊維のみからならなければならないというわけではなく、層内に含まれる繊維の95vol%以上、好ましくは98vol%以上が軸方向に対して平行に配向されていればよい。ここで、平行とは、軸方向に対して±10°の範囲内、好ましくは±5°の範囲内の方向を許容するという意味である。
【0051】
軸方向繊維層は、樹脂と、樹脂に含浸する繊維とを含む。樹脂としては、たとえば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などのように、繊維強化プラスチックの製造に一般的に用いられる樹脂が採用される。また、繊維としては、繊維強化プラスチックの製造に一般的に用いられるあらゆる繊維が使用可能であるが、たとえば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、およびセラミック繊維などが挙げられるが、特にガラス繊維または炭素繊維を含むことが好ましい。
【0052】
図8(A)に示すように、軸方向繊維層中の繊維は、具体的にはロービング(ガラス繊維の束)であってもよく、軸方向繊維層を構成するガラス繊維の数は、軸方向において均一であることが好ましい。図8(A)において、ロービングを模式的に太線で示している。
【0053】
非軸方向繊維層は、軸方向繊維層とは配向方向が異なる繊維を含む層のことである。軸方向繊維層とは配向方向が異なるとは、非軸方向繊維層に含まれる繊維が、軸方向繊維層の繊維の配向方向に対して平行ではない特定の方向(例えば、軸方向に対して直交する方向)に配向されているか、またはいかなる特定の方向にも限定されていない(たとえば、ランダムな配向)か、交差しているという意味である。
【0054】
非軸方向繊維層は、上述した軸方向繊維層と同様に、樹脂と、樹脂に含浸する繊維とを含む。樹脂としては、たとえば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などのように、繊維強化プラスチックの製造に一般的に用いられる樹脂が採用される。また、繊維としては、繊維強化プラスチックの製造に一般的に用いられるあらゆる繊維が使用可能であるが、たとえば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、およびセラミック繊維などが挙げられ、特に炭素繊維およびガラス繊維を含むことが好ましい。非軸方向繊維層に含まれる繊維の割合は、それぞれの部材全体に含まれる繊維の総体積量に対して30~70vol%であることが好ましい。
【0055】
炭素繊維は、強度が強く、軽い素材であるが、高価な材料である。そのため、強度を高める観点では、炭素繊維をより多く用いることが好ましいが、高価な補強構造になってしまう。一方で、ガラス繊維は、強度が弱く、重い素材であるが、安価な材料である。そのため、コストの観点ではガラス繊維をより多く用いることが好ましいが、あまり多く用いると重量がかさむ補強構造となる。そこで、炭素繊維とガラス繊維の両方を複合させた積層構造であることが好ましい。炭素繊維およびガラス繊維を単一の繊維強化プラスチック部材の中に含んでいる場合、単一の繊維強化プラスチック部材の中に含まれる炭素繊維の割合は、部材に含まれる繊維の総体積量に対して5~75vol%であることが好ましい。これにより、本実施の形態の繊維強化プラスチックの補強構造は、安価で軽量となる。また、横桁5だけが炭素繊維およびガラス繊維の混合であってもよいし、縦桁9だけが炭素繊維およびガラス繊維の混合であってもよい。
【0056】
非軸方向繊維層は、交差繊維層と、軸方向直交繊維層と、無配向繊維層とを含む。横桁5および縦桁9は、少なくとも交差繊維層を含んでいることが好ましく、強度の観点からは、さらに軸方向繊維層、無配向繊維層、および軸方向直交繊維層の少なくともいずれかが積層されていることが好ましい。
【0057】
図8(B)には、交差繊維層の繊維の配向が模式的に示されている。交差繊維層は、軸方向に対して±30°~±60°、好ましくは±40°~±50°傾斜して交差するように配向された繊維を含む層のことである。図8(B)においては、繊維が±45°傾斜して交差している状態が示されている。交差繊維層に含まれる繊維の割合は、それぞれの部材全体に含まれる繊維の総体積量に対して10vol%以上であることが好ましい。軸方向繊維層だけでは、せん断力に対する強度が劣るものの、軸方向繊維層に加えて交差繊維層を積層することで、曲げモーメントに対する強度だけでなく、せん断力に対する強度を向上させることができる。
【0058】
図8(C)には、軸方向直交繊維層の繊維の配向が模式的に示されている。図8(C)に示すように、軸方向直交繊維層は、軸方向に対して直交する方向に配向された繊維を含む層のことである。軸方向直交繊維層としては、たとえば、いわゆるスダレ状の繊維強化シートが使用される。スダレ状の繊維強化シートとは、複数の繊維の束を一方向に対して平行かつ略等間隔に並べ、連結糸により各束を結束し、一方向に対して垂直方向に連結させた繊維シートのことである。繊維の束は、軸方向に対して略90°傾斜して延びている。図8(C)の破線は、連結糸であり、単なる糸であってもよいし、繊維であってもよい。軸方向に対して直交する方向とは、軸方向に対して80°~100°の範囲内、好ましくは85°~95°の範囲内の方向を許容するという意味である。
【0059】
図8(D)には、無配向繊維層の繊維の配向が模式的に示されている。図8(D)に示すように、無配向繊維層は、いかなる特定の方向にも限定されていない繊維を含む層のことである。無配向繊維層の繊維の配向は、不規則的にランダムな配向、規則的にランダムな配向を包含する。無配向繊維層としては、たとえば、繊維を含む不織布層が使用される。
【0060】
本実施の形態の補強構造4は、横桁5および縦桁9を形成する繊維強化プラスチック中の繊維が、横桁5および縦桁9の軸方向に対して交差するように配向されているため、コンクリート床版2への曲げモーメントおよびせん断力に対する強度を強くすることができる。さらに、繊維強化プラスチックは、複数の層が積層することで形成されており、特に複数の層の中に交差繊維層が含まれるため、よりコンクリート床版2への曲げモーメントおよびせん断力に対する強度を強化することができる。
【0061】
本実施の形態の補強構造4は、横桁5、補剛材8、縦桁9、および勾配調整部材95a~95eをすべて繊維強化プラスチックで形成することができるため、従来の補強構造と比較して重量を小さくすることができる。このように、本実施の形態の補強構造4は、コンクリート床版2への曲げ補強およびせん断補強に対応しつつ、軽量化が可能となる。軽量化された部材を設置するため、建設重機を小さくすることができ、架設を容易にすることができる。さらに、繊維強化プラスチックを用いることで、錆びに強くなるため、劣化を抑制することができる。
【0062】
また、本実施の形態の補強構造4は、コンクリート床版2を下方から支持する複数の縦桁9を橋軸直交方向に間隔をあけて複数設けているため、コンクリート床版2の下面の亀裂などを目視確認することができ、雨水などの水分がコンクリート床版2内に溜まることを防ぐことができるため、劣化を抑制しつつコンクリート床版2を補強することが可能となる。
【0063】
従来の補強構造は、コンクリート床版の下面全面を覆って下方から支持することで、強度を確保していた。本実施の形態の補強構造4は、間隔をあけて設けられる縦桁9でコンクリート床版2の下面を下方から支持しているが、補剛材8を縦桁9に対応する位置にそれぞれ配置させているため、強度を確保することができる。
【0064】
<補剛材の変形例>
図9には、横桁5に固定される補剛材8Aの変形例について示されている。図9に示すように、補剛材8Aは、たとえば断面視T字形の形鋼であり、横桁腹板53に当接する背板部81Aと、背板部81Aの略中央部から突出する側板部82Aとを含む。背板部81には、複数の穴部が設けられている。これにより、補剛材8は、横桁腹板53に対してボルトなどを介して固定される。このように、横桁5に固定される補剛材は、その形状が限定されず、横桁5の横桁上フランジ51と横桁下フランジ52との間に設けられ、横桁腹板53に固定されるものであればよい。
【0065】
<実施の形態2>
図10および図11を参照して、実施の形態2におけるコンクリート床版2の補強構造4Bについて説明する。実施の形態1で示した補強構造4との相違点のみ詳細に説明する。実施の形態1と本実施の形態とは、横桁5の横桁上フランジ51と横桁下フランジ52との間に設けられる補剛材8Bにおいて異なる。
【0066】
図11に示すように、本実施の形態の補剛材8Bは、補剛材本体83Bと、補剛材本体83Bの上端と横桁上フランジ51の下端との間に位置する分散板85Bとを含む。補剛材本体83Bと分散板85Bはそれぞれが引抜成形法によって形成されてもよいし、たとえばプレス成形による一体成形により形成されてもよい。補剛材本体83Bは、横桁腹板53に当接する背板部81Bと、背板部81Bの両端から突出する一対の側板部82Bとを含む。本実施の形態の補剛材本体83Bは、横桁上フランジ51および横桁下フランジ52に直接は当接していない。
【0067】
補剛材本体83Bの上下方向寸法は、横桁5の横桁上フランジ51と横桁下フランジ52の間の寸法よりも小さい。図11(A)に示すように、補剛材本体83Bの下端と横桁下フランジ52との間には、隙間Sが設けられている。この隙間Sは、補剛材8Bの下端と横桁下フランジ52が当接していなければよく、横桁腹板53への固定に支障のない範囲で大きくすることができる。
【0068】
分散板85Bは、厚みを有し、矩形形状であることが好ましい。分散板85Bの厚みは、横桁上フランジ51の厚みと同じか数ミリ程度小さいことが好ましく、より好ましくは横桁上フランジ51の厚みの40~80%である。分散板85Bは、補剛材本体83Bの横断面形状を覆う大きさであることが好ましく、具体的には、一対の側板部82Bの背板部81Bからの突出長さ(図11(B)の矢印A方向の長さ)より大きく、一対の側板部82B間の長さ(図11(B)の矢印B方向の長さ)より大きい。
【0069】
分散板85Bは、接着材またはボルトなどにより、横桁上フランジ51の下端に締結されていることが好ましい。分散板85Bは、繊維強化プラスチックで形成されている。繊維強化プラスチック中の繊維は、炭素繊維およびガラス繊維を含むことが好ましい。また、繊維強化プラスチックは、繊維を含む複数の層で形成されていてもよいし、単層であってもよい。複数の層で形成される場合、軸方向繊維層と非軸方向繊維層とを含んでいてもよい。
【0070】
本実施の形態の補強構造4Bは、上方から荷重を受けると、縦桁9を介して横桁上フランジ51に荷重がかかり、分散板85Bの橋軸直交方向(図11(B)の矢印B)両端側に向かって荷重が分散される。さらに、上方からの荷重は、補剛材8Bの下方に向かってかかっていくが、補剛材8Bの下端は横桁下フランジ52の上端に当接していないため、補剛材8Bから横桁腹板53に応力が分散されていく。
【0071】
このように、本実施の形態の補強構造4Bは、補剛材8Bの下端が横桁下フランジ52の上端に突き当てられておらずに隙間Sが設けられており、さらに補剛材本体83Bの上端と横桁上フランジ51の下端との間に分散板85Bが挟まれているため、横桁下フランジ52への応力集中を防ぐことができる。
【0072】
<横桁の変形例>
図12を参照して、横桁5Cの変形例について説明する。本変形例の横桁5は、繊維強化プラスチック10の繊維を含む複数の層で形成されており、特に横桁上下フランジ51,52は、上下方向に3層積層されている。具体的には、横桁上フランジ51は、最も上方に位置する最外層(第1層)15Cがガラス繊維を含むガラス繊維層であり、最外層15Cの下方に位置する中間層(第2層)16Cが炭素繊維を含む炭素繊維層であり、中間層16Cの下方に位置する最内層(第3層)17Cがガラス繊維を含むガラス繊維層である。また、横桁下フランジ52は、横桁上フランジ51と同様に、最も下方に位置する最外層(第1層)15Cがガラス繊維を含むガラス繊維層であり、最外層15Cの上方に位置する中間層(第2層)16Cが炭素繊維を含む炭素繊維層であり、中間層16Cの上方に位置する最内層(第3層)17Cがガラス繊維を含むガラス繊維層である。つまり、横桁上下フランジ51,52は、ガラス繊維層-炭素繊維層-ガラス繊維層のサンドイッチ構造である。
【0073】
最外層15Cは、薄膜であり、その厚みは、横桁上フランジ51または横桁下フランジ52の厚みの25%以下であり、好ましくは10%以下である。最外層15Cは、上述した交差繊維層、軸方向直行繊維層、無配向繊維層のいずれかにより形成されている。中間層16Cは、最外層15Cの厚みの3倍以上であり、たとえば8倍以上である。炭素繊維層で形成された中間層16Cは、横桁5Cの強度を保つ部分であり、曲げ補強の観点から、横桁上フランジ51の中間層16Cはその上端に、横桁下フランジ52の中間層16Cはその下端にそれぞれ近い位置に設けられることが好ましい。最内層17Cは、その厚みは限定されないが、最外層15Cよりも厚いことが好ましい。なお、図12において、横桁腹板53は、最内層17Cと一体的に成形され、同一の材質により形成されているように図示したが、異なる材質により形成されていてもよい。
【0074】
この積層構成により、炭素繊維層の曲げ特性を活かしながら、横桁5Cの面変形を抑制することができ、縦桁9から横桁5Cに伝達される荷重をより分散して受圧できる構造を形成することができる。 要は、以上に記載した最外層15C、中間層16C、最内層17Cの好ましい厚みの比率は、ひずみを抑制するために積層構成を対称にしようとする方向性と、炭素繊維層即ち中間層16Cを荷重支持面のより近くに配置しようとする方向性のバランスによって設定される。
【0075】
本変形例の横桁5Cは、ガラス繊維層の最外層15Cが薄膜で形成されているため、経年劣化により最外層15Cの樹脂分が失われていき、最外層15Cのガラス繊維が表面に表れ、横桁上フランジ51の表面に毛羽立ちが表れるようになる。本変形例の構成により、この毛羽立ちが表れるようになったことを補修時期の目安にすることができる。また、従来の横桁は、最外層を炭素繊維層、最内層をガラス繊維層とし、炭素繊維層-ガラス繊維層で形成されていた。本変形例の横桁5Cは、従来の横桁の最内層のガラス繊維層の一部を最外層にしたものであり、横桁5C全体の繊維投入量に変化はないため、横桁5Cの重量を軽量のままで維持することができる。
【0076】
なお、本変形例の横桁5Cでは、ガラス繊維層-炭素繊維層-ガラス繊維層の3層構造であるとしたが、最外層15Cがガラス繊維層で形成されていればよくその下層の構成については限定されない。また、最内層17Cはガラス繊維層であるとしたが、必須の構成ではなく、第1層15Cと第2層16Cの2層の積層構造であってもよいし、第3層17Cの内方にさらに積層されていてもよい。
【0077】
<他の変形例>
なお、実施の形態のコンクリート床版の補強構造は、少なくとも横桁5と縦桁9とで構成されたが、それらは単体として個別に提供されるものであってもよい。具体的には、コンクリート床版2の補強構造4に用いられる横桁5は、繊維強化プラスチックで形成され、横桁5を形成する繊維強化プラスチックは、横桁5の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む。また、コンクリート床版2の補強構造4に用いられる横桁5は、繊維強化プラスチックで形成され、縦桁9を形成する繊維強化プラスチックは、縦桁9の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含む。また、繊維強化プラスチックで形成される補剛材8および勾配調整部材95a~95eについても、単体として個別に提供できるものであってもよい。
【0078】
また、実施の形態のコンクリート床版の補強構造は、横桁5、補剛材8、縦桁9、および勾配調整部材95a~95eがそれぞれ繊維強化プラスチックで形成されたが、少なくとも横桁5および縦桁9のいずれか一方が繊維強化プラスチックで形成されていればよい。さらに、繊維強化プラスチックは、複数の層を有するとして説明したが、それぞれの部材毎に要求される強度に合わせて積層数、層の並び順が異なっていてもよい。
【0079】
また、横桁5が繊維強化プラスチックで形成される場合、横桁上フランジ51、横桁下フランジ52、および横桁腹板53のいずれかが、横桁5の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含んでいればよい。また、縦桁9が繊維強化プラスチックで形成される場合、縦桁上フランジ91、縦桁下フランジ92、および縦桁腹板93のいずれかが、縦桁9の軸方向に対して交差するように配向されている繊維を含んでいればよい。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
2 コンクリート床版、3 主桁、4,4B 補強構造、5,5C 横桁、6 仕口部材、7 添接部材、8,8A,8B 補剛材、9 縦桁、33 主桁腹板、34 水平部材、51 横桁上フランジ、52 横桁下フランジ、53 横桁腹板、83B 補剛材本体、85B 分散板、91 縦桁上フランジ、92 縦桁下フランジ、93 縦桁腹板、A 橋軸方向、B 橋軸直交方向、C 鉛直方向、S 隙間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12