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特許7579941レーザ溶接機及び平角線のレーザ溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】レーザ溶接機及び平角線のレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20241031BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20241031BHJP
   B23K 26/04 20140101ALI20241031BHJP
【FI】
B23K26/21 L
B23K26/21 F
B23K26/03
B23K26/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023171073
(22)【出願日】2023-10-02
【審査請求日】2024-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】吉村 泰典
(72)【発明者】
【氏名】入江 真
(72)【発明者】
【氏名】舟木 厚司
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/175724(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/175671(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/085669(WO,A1)
【文献】特開2023-59864(JP,A)
【文献】特開2022-177664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接させた溶接対象の第1及び第2の平角線の各先端面における互いに対向する前記第1の平角線の第1の辺と前記第2の平角線の第2の辺との間のギャップ量を測定するセンサと、
前記第1及び第2の平角線を溶接するよう前記第1及び第2の平角線に照射されるレーザビームの照射位置及び前記レーザビームの移動を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記センサで測定された前記ギャップ量が0であれば、前記第1の平角線の前記先端面における前記第1の辺とは反対側の第3の辺の中央部を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記第2の平角線の前記先端面における中間部に至るまでの基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、
前記センサで測定された前記ギャップ量が0を超え、第1のギャップ量までの第1の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、
前記センサで測定された前記ギャップ量が前記第1のギャップ量を超えて第2のギャップ量までの第2の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量と0を超える所定の第2のオフセット量とを加算した距離だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、
前記センサで測定された前記ギャップ量が前記第2のギャップ量を超える第3の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度より速い溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離より長い加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接するよう制御する
レーザ溶接機。
【請求項2】
前記レーザビームを射出するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器が射出する前記レーザビームを前記第1及び第2の平角線に照射する加工ヘッドと、
前記加工ヘッドを移動させる移動機構と、
をさらに備え、
前記制御装置は、
前記レーザ発振器を前記レーザビームを射出しない状態に制御し、前記加工ヘッドが前記レーザビームを前記照射開始位置に照射する位置に前記加工ヘッドを位置させて停止させるよう前記移動機構を制御し、
前記レーザ発振器を前記レーザビームを射出する状態に制御するのと同時に、前記レーザビームを前記移動方向に沿って移動させるよう前記移動機構を制御する
請求項1に記載のレーザ溶接機。
【請求項3】
互いに隣接させた溶接対象の第1及び第2の平角線の各先端面における互いに対向する前記第1の平角線の第1の辺と前記第2の平角線の第2の辺との間のギャップ量をセンサによって測定し、
前記センサで測定された前記ギャップ量が0であれば、前記第1の平角線の前記先端面における前記第1の辺とは反対側の第3の辺の中央部をレーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記第2の平角線の前記先端面における中間部に至るまでの基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、
前記センサで測定された前記ギャップ量が0を超え、第1のギャップ量までの第1の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、
前記センサで測定された前記ギャップ量が前記第1のギャップ量を超えて第2のギャップ量までの第2の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量と0を超える所定の第2のオフセット量とを加算した距離だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、
前記センサで測定された前記ギャップ量が前記第2のギャップ量を超える第3の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度より速い溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離より長い加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接する
平角線のレーザ溶接方法。
【請求項4】
レーザ発振器を前記レーザビームを射出しない状態に制御し、かつ、加工ヘッドを、前記加工ヘッドが前記レーザビームを前記照射開始位置に照射する位置に位置させて停止させ、
前記レーザ発振器を前記レーザビームを射出する状態に制御するのと同時に、前記加工ヘッドの移動を開始させて前記レーザビームを前記移動方向に沿って移動させる
請求項3に記載の平角線のレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接機及び平角線のレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車またはハイブリッド車に用いられるモータにおいては、コアに装着された複数のU字状に曲げられたセグメントコイルの径方向に隣接したセグメントコイルの両端部がレーザ溶接機によって溶接される(特許文献1または2参照)。径方向に隣接したセグメントコイルの両端部は一対の平角線である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-20340号公報
【文献】国際公開第2019/159737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザ溶接機によって一対の平角線を溶接したとき、平角線の角部(エッジ)が残っていたり、一対の平角線の端部が溶融されて形成される溶融部が過度に膨らんだりすると、溶接不良となる。前者の溶接不良は端部の金属の溶融不足が原因であり、後者の溶接不良は端部の金属の溶融過多が原因である。また、溶融部が一対の平角線のうちの一方に偏った場合も溶接不良となる。溶接された一対の平角線に溶接不良があると、端部に装着すべきエンドキャップを装着することができないため、モータは不良品となる。
【0005】
平角線の角部が残らず、溶融部が過度に膨らむことなく、溶融部が一対の平角線のうちの一方に偏ることなく一対の平角線を溶接することができるレーザ溶接機及び平角線のレーザ溶接方法の登場が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1またはそれ以上の実施形態の第1の態様は、互いに隣接させた溶接対象の第1及び第2の平角線の各先端面における互いに対向する前記第1の平角線の第1の辺と前記第2の平角線の第2の辺との間のギャップ量を測定するセンサと、前記第1及び第2の平角線を溶接するよう前記第1及び第2の平角線に照射されるレーザビームの照射位置及び前記レーザビームの移動を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記センサで測定された前記ギャップ量が0であれば、前記第1の平角線の前記先端面における前記第1の辺とは反対側の第3の辺の中央部を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記第2の平角線の前記先端面における中間部に至るまでの基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、前記センサで測定された前記ギャップ量が0を超え、第1のギャップ量までの第1の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、前記センサで測定された前記ギャップ量が前記第1のギャップ量を超えて第2のギャップ量までの第2の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量と0を超える所定の第2のオフセット量とを加算した距離だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、前記センサで測定された前記ギャップ量が前記第2のギャップ量を超える第3の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度より速い溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離より長い加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接するよう制御するレーザ溶接機を提供する。
【0007】
1またはそれ以上の実施形態の第2の態様は、互いに隣接させた溶接対象の第1及び第2の平角線の各先端面における互いに対向する前記第1の平角線の第1の辺と前記第2の平角線の第2の辺との間のギャップ量をセンサによって測定し、前記センサで測定された前記ギャップ量が0であれば、前記第1の平角線の前記先端面における前記第1の辺とは反対側の第3の辺の中央部をレーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記第2の平角線の前記先端面における中間部に至るまでの基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、前記センサで測定された前記ギャップ量が0を超え、第1のギャップ量までの第1の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、前記センサで測定された前記ギャップ量が前記第1のギャップ量を超えて第2のギャップ量までの第2の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量と0を超える所定の第2のオフセット量とを加算した距離だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接し、前記センサで測定された前記ギャップ量が前記第2のギャップ量を超える第3の範囲であれば、前記第3の辺の中央部から前記ギャップ量の1/2の距離である第1のオフセット量だけ前記第2の平角線側にオフセットさせた位置を前記レーザビームの照射開始位置とし、前記レーザビームの移動速度を前記基準溶接速度より速い溶接速度に設定して、前記レーザビームを、前記照射開始位置から前記第1及び第3の辺と直交する移動方向に沿って前記基準加工距離より長い加工距離だけ移動させて前記第1及び第2の平角線を溶接する平角線のレーザ溶接方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ加工機及び平角線のレーザ溶接方法によれば、平角線のエッジが残らず、溶融部が過度に膨らむことなく、溶融部が一対の平角線のうちの一方に偏ることなく一対の平角線を溶接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ加工機を示す図である。
図2図2は、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ加工機が備えることがあるガルバノスキャナを示す斜視図である。
図3図3は、互いに接触している一対の平角線を示す平面図である。
図4図4は、互いに離隔している一対の平角線を示す平面図である。
図5図5は、1またはそれ以上の実施形態に係る平角線のレーザ溶接方法と比較される第1の比較例を示す図である。
図6図6は、1またはそれ以上の実施形態に係る平角線のレーザ溶接方法と比較される第2の比較例を示す図である。
図7図7は、1またはそれ以上の実施形態に係る平角線のレーザ溶接方法と比較される第3の比較例を示す図である。
図8図8は、1またはそれ以上の実施形態に係る平角線のレーザ溶接方法を示す図である。
図9A図9Aは、エッジ残りの溶接不良を示す側面図である。
図9B図9Bは、溶融部の溶融幅が広くなりすぎている溶接不良を示す側面図である。
図9C図9Cは、溶融部が偏っている溶接不良を示す側面図である。
図10図10は、一対の平角線のギャップ量が0mmを超え、第1のギャップ量までの第1の範囲であるときの好ましいオフセット量を示す図である。
図11図11は、一対の平角線のギャップ量が第1のギャップ量を超え、第2のギャップ量までの第2の範囲であるときの好ましいオフセット量を示す図である。
図12図12は、一対の平角線を溶接するときの溶接条件及び溶接結果をまとめて示す図である。
図13図13は、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ加工機の動作、及び1またはそれ以上の実施形態に係る平角線のレーザ溶接方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ溶接機及び平角線のレーザ溶接方法について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を用いて、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ加工機100の全体的な構成例を説明する。
【0011】
図1において、青色レーザ発振器10は、例えば波長400nm以上460m以下の青色レーザビームL10を射出する。青色レーザビームL10を破線にて示している。青色レーザビームL10は、伝送ファイバ11によって伝送されて、加工ヘッド40の第1の収納体41に入射する。赤外レーザ発振器20は、例えば波長1060nm以上1090nm以下の赤外レーザビームL20を射出する。赤外レーザビームL20を実線にて示している。赤外レーザビームL20は、伝送ファイバ21によって伝送されて、加工ヘッド40の第2の収納体42に入射する。赤外レーザ発振器20は、ファイバレーザ発振器によって構成することができる。
【0012】
加工ヘッド40は、第1の収納体41と第2の収納体42とが連結部43によって連結されている。第1の収納体41には、コリメートレンズ411及びベンドミラー412が収納されている。第2の収納体42には、コリメートレンズ421、ダイクロイックミラー423、集束レンズ424、保護ガラス425が収納されている。コリメートレンズ411は、発散光の青色レーザビームL10をコリメート光に変換し、ベンドミラー412はコリメート光とされた青色レーザビームL10を反射させて、ダイクロイックミラー423に入射させる。コリメートレンズ421は、発散光の赤外レーザビームL20をコリメート光に変換して、ダイクロイックミラー423に入射させる。
【0013】
ダイクロイックミラー423は、青色レーザビームL10を反射させ、赤外レーザビームL20を透過させることによって、両者を互いに重畳した重畳レーザビームを射出する。集束レンズ424は重畳レーザビームを集束させて、保護ガラス425を介して、溶接対象の一対の平角線71及び72に照射する。図1では図示を省略しているが、加工ヘッド40にはノズルが装着されて、ノズルに形成されている開口を介して重畳レーザビームが平角線71及び72に照射される。
【0014】
平角線71及び72は、銅によって形成されているセグメントコイルの両端部である。平角線71は第1の平角線であり、平角線72は第2の平角線である。コリメートレンズ421は、コリメートレンズ駆動モータ422によって、赤外レーザビームL20の光軸方向に移動自在に構成されているとよい。
【0015】
NC装置30は、青色レーザ発振器10による青色レーザビームL10の射出、及び赤外レーザ発振器20による赤外レーザビームL20の射出を制御する。NC装置30は、コリメートレンズ駆動モータ422によるコリメートレンズ421の移動を制御する。加工ヘッド40は、移動機構60によって、重畳レーザビームの進行方向と直交する面内の互いに直交するx、y、z方向、回転方向、及び傾斜方向の5軸の方向に移動自在に構成されている。NC装置30は、移動機構60による加工ヘッド40の移動を制御する。後述するように、NC装置30は、平角線71及び72を溶接するよう平角線71及び72照射されるレーザビームの照射位置及びレーザビームの移動を制御する。NC装置30は、レーザ加工機100の各部を制御する制御装置の一例である。
【0016】
加工ヘッド40の例えば側面には、カメラ50が取り付けられている。カメラ50は、平角線71及び72を撮影した撮影画像をNC装置30に供給する。NC装置30は、カメラ50が平角線71及び72を撮影するとき、カメラ50を平角線71及び72の直上に位置させ、加工ヘッド40より射出される重畳レーザビームによって平角線71及び72を溶接するとき、第2の収納体42を平角線71及び72の直上に位置させるように移動機構60を制御する。
【0017】
レーザ加工機100の設置場所の天井等のレーザ加工機100の上方に、カメラを配置して平角線71及び72を撮影してもよい。加工ヘッド40に取り付けたカメラ50と、レーザ加工機100の上方に配置したカメラとの双方で、平角線71及び72を撮影してもよい。
【0018】
図1においては、一対の平角線71及び72のみを示しているが、複数対の平角線71及び72が配置されていて、レーザ加工機100が各対の平角線71及び72を順に溶接してもよい。この種の平角線71及び72を溶接する加工はヘアピン溶接と称されている。
【0019】
レーザ加工機100は、第2の収納体42内のダイクロイックミラー423と集束レンズ424との間に、図2に示すような、重畳レーザビームを変位させるガルバノスキャナ80を備えてもよい。ガルバノスキャナ80は、第1のガルバノミラー81、第1のガルバノミラー81を駆動する第1のガルバノモータ82、第2のガルバノミラー83、第2のガルバノミラー83を駆動する第2のガルバノモータ84を備える。重畳レーザビームは第1のガルバノミラー81に入射して反射し、第2のガルバノミラー83に入射する。重畳レーザビームは第2のガルバノミラー83で反射して、集束レンズ424に入射する。
【0020】
NC装置30は、第1のガルバノミラー81及び第2のガルバノミラー83を所定の角度の範囲で回転させるよう第1のガルバノモータ82及び第2のガルバノモータ84を制御する。第1のガルバノミラー81と第2のガルバノミラー83とのうちの一方、または第1のガルバノミラー81と第2のガルバノミラー83との双方を回転させることによって、加工ヘッド40を停止させている状態であっても、平角線71及び72に照射される重畳レーザビームの位置を移動させることができる。
【0021】
図1においては、平角線71及び72の溶接時にシールドガスを平角線71及び72に吹き付けるシールドガス噴射ノズル、及びシールドガス噴射ノズルにシールドガスを供給するシールドガス供給装置の図示を省略している。
【0022】
図1に示すレーザ加工機100においては、青色レーザ発振器10を設けて青色レーザビームL10を平角線71及び72の溶接に用いているが、赤外レーザ発振器20より射出される赤外レーザビームL20のみを用いて平角線71及び72を溶接してもよい。平角線71及び72を溶接するために用いるレーザビームは重畳レーザビームに限定されず、赤外レーザビームL20であってもよい。平角線71及び72は銅によって形成されており、銅にレーザビームを照射したときの光吸収率は赤外レーザビームL20よりも青色レーザビームL10の方が高い。よって、重畳レーザビームを用いると、平角線71及び72を溶接するときの加工性を向上させることができる。さらに、青色レーザビームL10のみを用いて平角線71及び72を溶接してもよい。後述するレーザビームとは、重畳レーザビーム、赤外レーザビームL20、または青色レーザビームL10である。
【0023】
次に、本発明者による検証結果に基づき、平角線71及び72に対してレーザビームをどのように照射すると、溶接不良なく平角線71及び72を溶接することができるかを説明する。図3は、平角線71と平角線72とが接触している状態を示している。互いに隣接する平角線71及び72の各先端面における互いに対向する平角線71及び72の辺をそれぞれ辺S1(第1の辺)及び辺S2(第2の辺)とする。平角線71の辺S1とは反対側の辺を辺S3(第3の辺)、平角線72の辺S2とは反対側の辺を辺S4とする。図3において、辺S1~S4の長さである寸法Xは例えば2.7mm、平角線71及び72の辺S1~S4と直交する辺S5及びS6を連結した長さである寸法Yは例えば4.7mmである。
【0024】
図4は、平角線71と平角線72とがギャップ量Gを有して離隔している状態を示している。平角線71及び72を溶接する前に、平角線71及び72の先端部は予め施されているエナメル被覆が除去される。そのため、平角線71の先端部と平角線72の先端部との間にギャップが生じることがある。図4において、辺S3と辺S4との間の距離は寸法Y+Gである。図3に示すように互いに隣接する平角線71及び72の辺S1と辺S2とが接触してギャップ量Gが0mmである場合もあるし、図4に示すように辺S1と辺S2との間に0mmを超えるギャップ量Gが存在する場合もある。ギャップ量Gは最大で1mm程度となることがある。
【0025】
図5は第1の比較例であり、辺S1と辺S2との間にレーザビームのビームスポットBsを位置させて、ビームスポットBsを移動させない定点照射を示している。レーザビームを照射する位置は、辺S1及びS2の中央部である。図5図8は、ギャップ量Gが0mmである場合を例としている。
【0026】
図6は第2の比較例であり、ビームスポットBsを辺S3上に照射する前に加工ヘッド40を停止させた状態でビームスポットBsを辺S3上に位置させて、ビームスポットBsを平角線72の先端面における中間部に至るまで加工距離Lとして加工距離L0だけ移動させた状態を示している。中間部とは、平角線72の先端面において、辺S2よりも辺S4側であり、辺S4よりも辺S2側の領域である。図6において、NC装置30は、ビームスポットBsを平角線72の先端面における中間部まで移動させるよう加工ヘッド40を移動させた後、加工ヘッド40を停止させる。レーザビームの照射を開始する位置は、辺S3の中央部である。
【0027】
図7は第3の比較例であり、NC装置30が辺S3とは離れた位置で停止している加工ヘッド40を辺S3に向けて移動させ、ビームスポットBsが辺S3上に位置するようにレーザビームの照射を開始させて、ビームスポットBsを平角線72の先端面における中間部に至るまで加工距離L0だけ移動させた状態を示している。レーザビームの照射を開始する位置は、辺S3の中央部である。破線の矢印は、加工ヘッド40がレーザビームを照射しない状態で移動していることを示している。図7において、NC装置30は、ビームスポットBsを平角線72の先端面における中間部まで移動させるよう加工ヘッド40を移動させた後にレーザビームの照射を停止させ、加工ヘッド40の移動速度を徐々に減速させて停止させる。
【0028】
図8は、ギャップ量Gが0mmである場合の1またはそれ以上の実施形態に係る平角線のレーザ溶接方法を示している。図8は、ビームスポットBsを辺S3上に照射する前に加工ヘッド40を停止させた状態でレーザビームの照射を開始してビームスポットBsを辺S3上に位置させて、ビームスポットBsを平角線72の先端面における中間部に至るまで加工距離Lとして加工距離L0だけ移動させた状態を示している。レーザビームの照射を開始する位置は、辺S3の中央部である。
【0029】
図8において、NC装置30は、青色レーザ発振器10及び赤外レーザ発振器20を射出する状態に制御するのと同時に、レーザビームを辺S1及びS3と直交する移動方向に沿って移動させるよう移動機構60を制御する。NC装置30は、ビームスポットBsを平角線72の先端面における中間部まで移動させるよう加工ヘッド40を移動させた後にレーザビームの照射を停止させ、加工ヘッド40の移動速度を徐々に減速させて停止させる。ギャップ量Gが0mmである場合の寸法Yの中心C(0,0)、及び、後述するギャップ量Gが0mmを超える値である場合の寸法Y+Gの中心C(0,0)を基準位置と称することとする。
【0030】
図5に示す定点照射においては、図9Aに示すように、平角線71及び72の角部71e及び72eが残りやすく、平角線71及び72の先端部が溶融することによって形成される溶融部73が小さい。平角線71の少なくとも1か所の角部71eが残っている状態、または平角線72の少なくとも1か所の角部72eが残っている溶接不良をエッジ残りと称することとする。エッジ残りが発生しないように長時間レーザビームを定点照射すると、図9Bに示すように、溶融部73が過度に膨らんで溶融幅Mwが広くなりすぎてしまい、溶接不良となる。
【0031】
図6に示す照射方法においては、図9Cに示すように、レーザビームの照射開始側または照射終了側に溶融部73が偏る溶接不良が発生しやすい。溶融部73が一方に偏れば、エッジ残りも発生しやすい。図7に示す照射方法においては、溶融部73が偏る溶接不良は発生しにくいが、加工ヘッド40を移動させながら辺S3上でレーザビームの照射を開始しているので、レーザビームの照射開始側にエッジ残りが発生することがある。
【0032】
図8に示す照射方法においては、図9Aに示すようなエッジ残りがほとんど発生せず、図9Bに示すような溶融部73の溶融幅Mwが広くなりすぎることがなく、図9Cに示すような溶融部73の偏り(溶融偏り)がほとんど発生しない。このように、本発明者による検証によって、図8に示す照射方法によれば、図9A図9Cに示す溶接不良が発生しにくいことが確かめられた。
【0033】
図8における加工距離L0を基準加工距離L0とする。ギャップ量Gが0mmであるとき、平角線71の先端面における辺S3の中央部をレーザビームの照射を開始する照射開始位置とする。基準加工距離L0のうち、レーザビームの照射開始位置から中心C(0,0)までの加工距離はL01であり、中心C(0,0)からレーザビームの照射を停止するまでの加工距離はL02である。レーザビームの移動速度、即ち、平角線71及び72の溶接速度を基準溶接速度V0とする。図8に示すように、停止している加工ヘッド40の移動を開始すると、加工ヘッド40は即座に基準溶接速度V0に達し、レーザビームの照射を停止するまで基準溶接速度V0で移動する。平角線71の辺S3上を照射開始位置とし、平角線71及び72を、基準加工距離L0、基準溶接速度V0で溶接する溶接方法を基準溶接方法と称することとする。
【0034】
本発明者によるさらなる検証によって、図3に示すように平角線71及び72の辺S1と辺S2とが接触してギャップ量Gが0mmである場合と、図4に示すように0mmを超えるギャップ量Gが存在する場合とで、基準溶接方法における一部の条件を異ならせる必要がある場合があることが判明した。NC装置30は、カメラ50が平角線71及び72を撮影した撮影画像に基づいて、辺S1と辺S3との間のギャップ量Gを測定する。NC装置30及びカメラ50は、辺S1と辺S3との間のギャップ量Gを測定するセンサの一例である。ギャップ量Gを測定するセンサとして、プロファイルセンサ等の他のセンサを用いてもよい。ギャップ量Gを測定する方法は限定されない。
【0035】
ギャップ量Gが0mmであれば、上記のように基準溶接方法が用いられる。ギャップ量Gが0mmを超える第1のギャップ量までの第1の範囲R1であれば、図10に示すように、平角線71の先端面における辺S3の中央部からギャップ量Gの1/2だけ平角線72側にオフセットさせた位置を、レーザビームの照射を開始する照射開始位置とするのがよい。G/2を第1のオフセット量と称することとする。
【0036】
第1の範囲R1においては、平角線71の先端面における辺S3の中央部から第1のオフセット量G/2だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射を開始する照射開始位置とし、加工距離Lを基準加工距離L0とする。レーザビームの照射開始位置から中心C(0,0)までの加工距離はL01であり、中心C(0,0)からレーザビームの照射を停止するまでの加工距離はL02である。第1の範囲R1においては、平角線71及び72の溶接速度をギャップ量Gが0mmであるときと同じ基準溶接速度V0とする。
【0037】
ギャップ量Gが第1のギャップ量を超えて第2のギャップ量までの第2の範囲R2であれば、図11に示すように、第1のオフセット量G/2に加えて、所定のオフセット量Osだけ平角線72側にオフセットさせた位置を、レーザビームの照射を開始する照射開始位置とするのがよい。オフセット量Osを第2のオフセット量と称することとする。
【0038】
第2の範囲R2においては、平角線71の先端面における辺S3の中央部から第1のオフセット量G/2と第2のオフセット量とを加算した距離だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射を開始する照射開始位置とし、加工距離Lを基準加工距離L0とする。レーザビームの照射開始位置から中心C(0,0)までの加工距離はL01より短いL01’であり、中心C(0,0)からレーザビームの照射を停止するまでの加工距離はL02より長いL02’である。第2の範囲R2においては、平角線71及び72の溶接速度をギャップ量Gが0mmであるときと同じ基準溶接速度V0とする。
【0039】
ギャップ量が第2のギャップ量を超える第3の範囲R3であれば、平角線71の先端面における辺S3の中央部から第1のオフセット量G/2だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射を開始する照射開始位置とするのがよい。また、第3の範囲R3であれば、加工距離Lを基準加工距離L0より長い距離とし、溶接速度を基準溶接速度V0より速い速度とするのがよい。
【0040】
図12は、ギャップ量Gが0mmであるとき、及び第1の範囲R1、第2の範囲R2、第3の範囲R3における詳細な溶接条件及び溶接結果を示している。図12において、太実線で囲んだ範囲は、基準溶接方法における溶接条件とは異ならせている溶接条件を示している。第1の範囲R1はギャップ量Gが0mmを超えて0.1mm以下であり、第2の範囲R2はギャップ量Gが0.1mmを超えて0.6mm以下であり、第3の範囲R3はギャップ量Gが0.6mmを超えて1.0mm以下である。図12に示す例では、ギャップ量G0.1mmが第1のギャップ量であり、ギャップ量G0.6mmが第2のギャップ量である。図12においては、第3の範囲R3におけるギャップ量Gの例として、0.8mm及び1.0mmの2つのみを示している。
【0041】
加工距離Lとして0.8Yを基準加工距離L0とする。溶接速度2m/分を基準溶接速度V0とする。図12に示す以外の溶接条件として、青色レーザ発振器10のレーザ出力を1800W、赤外レーザ発振器20のレーザ出力を1250W、シールドガスを窒素として50L/分としている。
【0042】
NC装置30は、ギャップ量Gが0mmであるとき、第1のオフセット量を0mm、第2のオフセット量を0mm、即ち、平角線71の辺S3上をレーザビームの照射開始位置とし、基準溶接速度V0で基準加工距離L0だけ平角線71及び72を溶接するようレーザ加工機100を制御する。これにより、ギャップ量Gが0mmであるとき、エッジ残りが発生せず、溶融幅Mwは2.97mmと広くならず、溶融偏りが発生しない。レーザビームの照射時間は、0.118sである。
【0043】
NC装置30は、第1の範囲R1においては、第1のオフセット量をG/2、第2のオフセット量を0mm、即ち、平角線71の辺S3からG/2の距離だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射開始位置とする。また、NC装置30は、第1の範囲R1においては、基準溶接速度V0で基準加工距離L0だけ平角線71及び72を溶接するようレーザ加工機100を制御する。ギャップ量Gが0.1mmであれば、第1のオフセット量は0.05mmである。これにより、ギャップ量Gが0mmを超えて0.1mm以下であるとき、エッジ残りが発生せず、溶融幅Mwは3.03mmとさほど広くならず、溶融偏りが発生しない。レーザビームの照射時間は、0.118sである。
【0044】
NC装置30は、第2の範囲R2においては、第1のオフセット量をG/2とし、ギャップ量Gが0.2mmであれば第2のオフセット量を0.2mmとし、ギャップ量Gが0.3~0.6mmであれば第2のオフセット量を0.3mmとする。NC装置30は、第2の範囲R2においては、平角線71の辺S3から第1のオフセット量と第2のオフセット量とを加算した距離だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射開始位置とし、基準溶接速度V0で基準加工距離L0だけ平角線71及び72を溶接するようレーザ加工機100を制御する。これにより、第2の範囲R2において、エッジ残りが発生せず、溶融幅Mwはギャップ量Gが0.2mm~0.6mmであるときそれぞれ3.06mm、3.19mm、3.14mm、3.15mmとさほど広くならず、溶融偏りが発生しない。
【0045】
NC装置30は、第3の範囲R3においては、第1のオフセット量をG/2とし、第2のオフセット量を0mm、即ち、平角線71の辺S3からG/2の距離だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射開始位置とする。また、NC装置30は、第3の範囲R3においては、基準溶接速度V0より速い溶接速度で、基準加工距離L0より長い加工距離Lだけ平角線71及び72を溶接するようレーザ加工機100を制御する。図12に示す例では、ギャップ量Gが0.8mmであれば、加工距離Lを0.95Y、溶接速度を2.2m/分とし、ギャップ量Gが1.0mmであれば、加工距離Lを1.0Y、溶接速度を2.2m/分としている。
【0046】
これにより、第3の範囲R3において、エッジ残りが発生せず、溶融幅Mwはギャップ量Gが0.8mmであるとき3.16mm、ギャップ量Gが1.0mmであるとき3.10mmとさほど広くならず、溶融偏りが発生しない。レーザビームの照射時間は、ギャップ量Gが0.8mmであるとき0.128s、ギャップ量Gが1.0mmであるとき0.134sである。
【0047】
ギャップ量Gが第1の範囲R1よりも広い第2の範囲R2において、仮に、平角線71の辺S3から第1のオフセット量であるG/2の距離だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射開始位置として平角線71及び72にレーザビームを照射したとする。すると、レーザビームの照射終了側にエッジ残りが発生しやすくなる。そこで、第1のオフセット量に0mmを超える第2のオフセット量を加算した距離だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射を開始する照射開始位置することにより、レーザビームの照射終了側にエッジ残りが発生しないようにすることができる。
【0048】
ギャップ量Gが第2の範囲R2よりも広い第3の範囲R3において、仮に、第1のオフセット量に0mmを超える第2のオフセット量を加算した距離だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射を開始する照射開始位置して平角線71及び72にレーザビームを照射したとする。レーザビームの照射終了側にエッジ残りが発生しないようにするには、第2のオフセット量を第2の範囲R2におけるそれよりも長い距離としなければならない。すると、レーザビームの照射開始側にエッジ残りが発生しやすくなる。
【0049】
そこで、第3の範囲R3においては、第1のオフセット量をG/2とし、第2のオフセット量を0mm、即ち、平角線71の辺S3からG/2の距離だけオフセットさせた位置をレーザビームの照射開始位置とし、加工距離Lを基準加工距離L0よりも長くする。加工距離Lを基準加工距離L0よりも長くしたにもかかわらず、溶接速度を基準溶接速度V0のままとすると、平角線71及び72に対する入熱量が増大し、溶融幅Mwが広くなりすぎてしまうことがある。そこで、第3の範囲R3においては、溶接速度を基準溶接速度V0より速い速度とする。
【0050】
このように、レーザ加工機100は、辺S1と辺S3との間のギャップ量Gを測定して、ギャップ量Gを0mm、第1の範囲R1、第2の範囲R2、第3の範囲R3に分類分けする。レーザ加工機100は、ギャップ量Gが0mmであれば、平角線71の辺S3上をレーザビームの照射開始位置とし、基準加工距離L0、基準溶接速度V0とする基準溶接方法で平角線71及び72を溶接するようレーザ加工機100を制御する。レーザ加工機100は、第1の範囲R1においては、照射開始位置を第1のオフセット量だけオフセットさせ、基準加工距離L0、基準溶接速度V0で基準加工距離L0だけ平角線71及び72を溶接するようレーザ加工機100を制御する。
【0051】
レーザ加工機100は、第2の範囲R2においては、照射開始位置を第1のオフセット量及び第2のオフセット量だけオフセットさせ、基準加工距離L0、基準溶接速度V0で基準加工距離L0だけ平角線71及び72を溶接するようレーザ加工機100を制御する。レーザ加工機100は、第3の範囲R3においては、照射開始位置を第1のオフセット量だけオフセットさせ、加工距離Lを基準加工距離L0より長い距離とし、溶接速度を基準溶接速度V0より速い速度として、平角線71及び72を溶接するようレーザ加工機100を制御する。
【0052】
図12に示す第1のギャップ量の0.1mm、第2のギャップ量の0.6mm、基準加工距離L0の0.8Y、基準溶接速度V0の2m/分、第1の範囲R1、第2の範囲R2、第3の範囲R3は単なる一例である。レーザ加工機100が青色レーザ発振器10と赤外レーザ発振器20との双方を備えるのか、赤外レーザ発振器20のみを備えるか、青色レーザ発振器10のみを備えるかによって、溶接不良が発生しない溶接条件は異なる。
【0053】
レーザ加工機100が青色レーザ発振器10と赤外レーザ発振器20との双方を備える場合、青色レーザ発振器10のレーザ出力、赤外レーザ発振器20のレーザ出力、シールドガスの条件に応じて、溶接不良が発生しない溶接条件は異なる。レーザ加工機100が赤外レーザ発振器20のみを備える場合、赤外レーザ発振器20のレーザ出力、シールドガスの条件に応じて、溶接不良が発生しない溶接条件は異なる。レーザ加工機100が青色レーザ発振器10のみを備える場合、青色レーザ発振器10のレーザ出力、シールドガスの条件に応じて、溶接不良が発生しない溶接条件は異なる。さらには、いずれの場合においても、レーザビームのビーム径によっても溶接不良が発生しない溶接条件は異なる。
【0054】
このような各種の条件に応じて、ギャップ量Gが0mmから例えば1.0mmの上限値までの範囲を、溶接不良が発生しないよう、ギャップ量Gが0mmである場合と、ギャップ量Gが0mmを超えるときの第1の範囲R1、第2の範囲R2、第3の範囲R3とに分割すればよい。各種の条件に応じて、溶接不良が発生しないよう、基準加工距離L0、基準溶接速度V0、第2の範囲R2における第2のオフセット量、第3の範囲R3における加工距離Lの延長の程度及び溶接速度の高速化の程度を設定すればよい。
【0055】
図12において、第1の範囲R1におけるギャップ量Gの0.1mmは、第1の範囲R1に含まれる複数のギャップ量Gのうちの1つであってもよいし、第1の範囲R1に含まれる唯一のギャップ量Gであってもよい。図12に示す例では、第2の範囲R2において、ギャップ量Gが0.2mmであるときのみ第2のオフセット量が0.2mm、それ以外のギャップ量Gで第2のオフセット量が0.3mmとなっている。第2の範囲R2における全てのギャップ量Gにおいて第2のオフセット量が均一の値となることがあってもよく、3つ以上の値となることがあってもよい。
【0056】
図13に示すフローチャートを用いて、レーザ加工機100の動作、及びレーザ加工機100が実行するレーザ溶接方法を説明する。図13において、レーザ加工機100が動作を開始してNC装置30の処理が開始されると、NC装置30は、ステップS11にて、一対の平角線71及び72間のギャップ量Gを測定する。NC装置30は、ステップS12にて、ギャップ量Gが0mmであるか否かを判定する。ギャップ量Gが0mmであれば(YES)、NC装置30は、ステップS13にて、第1及び第2のオフセット量を0、加工距離Lを基準加工距離L0、溶接速度を基準溶接速度V0に設定して、処理をステップS19に移行させる。
【0057】
ステップS12にてギャップ量Gが0mmでなければ、NC装置30は、ステップS14にて、ギャップ量Gが第1のギャップ量以下であるか否かを判定する。ギャップ量Gが第1のギャップ量以下であれば(YES)、NC装置30は、ステップS15にて、第1のオフセット量をG/2、第2のオフセット量を0、加工距離Lを基準加工距離L0、溶接速度を基準溶接速度V0に設定して、処理をステップS19に移行させる。
【0058】
ステップS14にてギャップ量Gが第1のギャップ量以下でなければ(NO)NC装置30は、ステップS16にて、ギャップ量Gが第2のギャップ量以下であるか否かを判定する。ギャップ量Gが第2のギャップ量以下であれば(YES)、NC装置30は、ステップS17にて、第1のオフセット量をG/2、第2のオフセット量をギャップ量Gごとの所定の値に設定し、加工距離Lを基準距離L0、溶接速度を基準溶接速度V0に設定して、処理をステップS19に移行させる。
【0059】
ステップS16にてギャップ量Gが第2のギャップ量以下でなければ(NO)、NC装置30は、ステップS18にて、第1のオフセット量をG/2、第2のオフセット量を0に設定する。また、NC装置30は、ステップS18にて、ギャップ量Gごとに加工距離Lを基準距離L0より長い距離に設定し、溶接速度を基準溶接速度V0より速い速度に設定して、処理をステップS19に移行させる。
【0060】
NC装置30は、ステップS19にて、設定したオフセット量(0mmを含む)、加工距離L、溶接速度で一対の平角線71及び72溶接するようレーザ加工機100を制御して、処理をステップS20に移行させる。NC装置30は、ステップS20にて、次の一対の平角線71及び72があるか否かを判定する。次の一対の平角線71及び72があれば(YES)、NC装置30はステップS11以降の処理を繰り返す。次の一対の平角線71及び72がなければ(NO)、NC装置30は処理を終了させる。
【0061】
図8においては、移動機構60によって加工ヘッド40を移動させることにより平角線71及び72に照射するレーザビームを移動させる例を示している。NC装置30は、加工ヘッド40を停止させ、ガルバノスキャナ80によって平角線71及び72に照射するレーザビームを移動させてもよい。
【0062】
本発明は以上説明した1またはそれ以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 青色レーザ発振器
11,21 伝送ファイバ
20 赤外レーザ発振器
30 NC装置(制御装置)
40 加工ヘッド
41 第1の収納体
42 第2の収納体
43 連結部
50 カメラ
60 移動機構
71,72 平角線
71e,72e 角部
73 溶融部
80 ガルバノスキャナ
81 第1のガルバノミラー
82 第1のガルバノモータ
83 第2のガルバノミラー
84 第2のガルバノモータ
411,421 コリメートレンズ
412 ベンドミラー
422 コリメートレンズ駆動モータ
423 ダイクロイックミラー
424 集束レンズ
425 保護ガラス
S1 辺(第1の辺)
S2 辺(第2の辺)
S3 辺(第3の辺)
S4~S6 辺
【要約】
【課題】平角線の角部が残らず、溶融部が過度に膨らむことなく、溶融部が偏ることなく一対の平角線を溶接することができるレーザ溶接機を提供する。
【解決手段】平角線71及び72の辺S1及びS2間のギャップ量が0であれば、レーザ溶接機は、辺S3の中央部をレーザビームの照射開始位置とし、レーザビームを基準溶接速度V0で基準加工距離L0だけ平角線71及び72の各先端面に照射して平角線71及び72を溶接する。ギャップ量が0を超え、第1のギャップ量までの第1の範囲であれば、辺S3の中央部からギャップ量の1/2の距離だけ平角線72側にオフセットさせた位置をレーザビームの照射開始位置とし、レーザビームを基準溶接速度V0で基準加工距離L0だけ平角線71及び72の各先端面に照射して平角線71及び72を溶接する。
【選択図】図8
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13