(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】膜電極接合体の製造に用いられる離型フィルム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20241031BHJP
H01M 8/1018 20160101ALI20241031BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20241031BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241031BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241031BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241031BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/1018
B32B7/06
B32B27/00 L
B32B27/30 B
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2023172950
(22)【出願日】2023-10-04
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】千足 政典
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-175116(JP,A)
【文献】特表2022-540472(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173683(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/045888(WO,A1)
【文献】特開2011-161749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
B32B 7/06
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、この基材層に積層された離型層とを備えており、
上記離型層の主たる材料が、
アタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂であり、
上記離型層の表面自由エネルギーが42.0mJ/m
2以下である、膜電極接合体の製造に用いられる離型フィルム。
【請求項2】
上記ポリスチレン系樹脂が、アルキル基置換ポリスチレン樹脂である、請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項3】
上記ポリスチレン系樹脂が、4-アルキル基置換ポリスチレン樹脂である、請求項2に記載の離型フィルム。
【請求項4】
上記ポリスチレン系樹脂が、ポリ(4-メチルスチレン)又はポリ(4-tert-ブチルスチレン)である、請求項3に記載の離型フィルム。
【請求項5】
(1)基材層とこの基材層に積層された離型層とを備えており、上記離型層の主たる材料が
アタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂であり、上記離型層の表面自由エネルギーが42.0mJ/m
2以下である第一離型フィルムの表面に、電解質膜を形成する工程、
(2)第二離型フィルムの表面に、触媒層を形成する工程、
(3)上記触媒層を、上記電解質膜に接合する工程、
及び
(4)上記第一離型フィルムを、上記電解質膜から剥がす工程
を備えた、膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
上記工程(1)において、上記電解質膜としてのプロトン伝導膜が形成される、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
離型フィルムと、この離型フィルムに積層された電解質膜とを備えた積層体であって、
上記離型フィルムが、基材層とこの基材層に積層された離型層とを有しており、この離型層の主たる材料が
アタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂であり、この離型層の表面自由エネルギーが42.0mJ/m
2以下であり、
上記電解質膜のスルホン酸等価質量が800g/モル(SO
3H)以下である、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、固体高分子型燃料電池の部品である膜電極接合体の製造工程で用いられる、離型フィルムを開示する。本明細書はさらに、この膜電極接合体の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly)を有している。膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、2つの触媒層とを含んでいる。それぞれの触媒層は、電解質膜の表面に接合されている。電解質膜及び触媒層は、いずれも、イオン交換樹脂層である。
【0003】
膜電極接合体の製造では、第一離型フィルムの上に電解質膜が形成され、第二離型フィルムの上に触媒層が形成される。この触媒層は、電解質膜に当接させられる。電解質膜及び触媒層が加熱及び加圧されることで、触媒層が電解質膜に接合される。その後、第一離型フィルムは、電解質膜から剥がされる。第一離型フィルムには、電解質膜に対する適切な密着性及び適切な剥離性が要求される。第二離型フィルムは、触媒層から剥がされる。第二離型フィルムには、触媒層に対する適切な密着性及び適切な剥離性が要求される。
【0004】
特開2014-175116公報には、基材層及び離型層を有する離型フィルムが開示されている。この離型層の材質は、シンジオタクチックポリスチレンである。この離型フィルムは、イオン交換樹脂層に対する剥離性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の離型フィルムの、イオン交換樹脂層に対する剥離性は、不十分である。特に、電解質膜としてのプロトン伝導膜に対する剥離性には、改善の要請がある。
【0007】
本出願人の意図するところは、イオン交換樹脂層に対する剥離性に優れた離型フィルムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示する離型フィルムは、膜電極接合体の製造に用いられうる。この離型フィルムは、基材層と、この基材層に積層された離型層とを有する。離型層の主たる材料は、ポリスチレン系樹脂である。この離型層の表面自由エネルギーは、42.0mJ/m2以下である。
【発明の効果】
【0009】
この離型フィルムは、電解質膜に対する剥離性、及び触媒層に対する剥離性に優れる。この離型フィルムは、膜電極接合体の生産性に寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る離型フィルムの一部が示された断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の離型フィルムが用いられた膜電極接合体の製造方法が示されたフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が説明される。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせは、例示である。本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、実施形態における構成の省略、置換等の変更が可能であり、実施形態への他の構成の付加も可能である。本明細書の開示範囲が、実施形態によって限定的に解釈されることはない。本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも、組み合わせられうる。
【0012】
[離型フィルム]
図1に、離型フィルム2が示されている。この離型フィルム2は、基材層4と離型層6とを有している。離型層6は、基材層4に積層されている。離型フィルム2が、基材層4と離型層6との間に位置する他の層を有してもよい。離型フィルム2が、基材層4の下側に位置する他の層を有してもよい。
【0013】
[基材層]
基材層4の典型的な材料は、熱可塑性樹脂である。後述されるように、離型フィルム2は、膜電極接合体の製造工程で用いられる。この製造工程において、離型フィルム2は昇温する。さらにこの離型フィルム2には、製造工程において張力がかかる。高温環境下で張力がかかっても伸びにくい熱可塑性樹脂が、その材質である基材層4は、離型フィルム2の伸びを抑制しうる。伸びにくい離型フィルム2は、膜電極接合体の製造工程において、後述される電解質膜又は触媒層の、意図されない剥離を抑制しうる。
【0014】
基材層4に適した熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド及びセルロースエステルが、例示される。耐熱性及び柔軟性に優れるとの観点から、ポリエステルが特に好ましい。好ましいポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)のようなポリC2-4アルキレンアリレート系樹脂が例示される。基材層4に、2以上の樹脂が併用されてもよい。基材層4の材質が、熱硬化性樹脂であってもよい。基材層4の材質が、樹脂と添加剤とを含む組成物であってもよい。
【0015】
離型フィルム2の伸びの抑制の観点から好ましい基材層4は、延伸フィルムである。一軸延伸フィルム及び二軸延伸フィルムが、基材層4として用いられうる。強度の観点から、二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムにおける縦方向延伸倍率及び横方向延伸倍率のそれぞれは、1.5以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、3.0以上が特に好ましい。
【0016】
図1において矢印T1は、基材層4の厚さを表す。厚さT1は、1μm以上300μm以下が好ましい。厚さT1が1μm以上である基材層4は、膜電極接合体の製造工程において、離型フィルム2の伸びを抑止しうる。この観点から、厚さT1は10μm以上がより好ましく、20μm以上が特に好ましい。厚さT1が300μm以下である基材層4は、膜電極接合体の生産性を阻害しない。この観点から、厚さT1は200μm以下がより好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0017】
[離型層]
典型的な離型層6は、樹脂フィルムである。この離型層6の表面自由エネルギーは、42.0mJ/m2以下である。後述されるように、膜電極接合体の製造工程では、離型フィルム2の上に、電解質膜が形成される。離型フィルム2は、この電解質膜から剥がされる。離型フィルム2には、電解質膜に対する剥離性が必要である。膜電極接合体の製造工程では、離型フィルム2の上に、触媒層も形成される。離型フィルム2は、この触媒層から剥がされる。離型フィルム2には、触媒層に対する剥離性が必要である。離型層6は、電解質膜又は触媒層と、直接に接触する。表面自由エネルギーが42.0mJ/m2以下である離型層6は、電解質膜及び触媒層に対する剥離性に寄与しうる。この観点から、この表面自由エネルギーは41.5mJ/m2以下がより好ましく、41.0mJ/m2以下が特に好ましい。達成されうる表面自由エネルギーの下限値は、20mJ/m2である。
【0018】
表面自由エネルギーγsの算出には、接触角計にて測定された、水、ジヨードメタン及びブロモナフタレンの接触角が用いられる。接触角の測定は、温度が23℃であり、湿度が60%RHである環境下でなされる。液の滴下から5秒径化したときの接触角が、測定される。表面自由エネルギーγsは、「北崎-畑」理論に基づいて算出される。算出のための式は、以下の通りである。
γs = γsd + γsp + γsh
この数式において、γsdは分散成分を表し、γspは極性成分を表し、γshは水素結合成分を表す。測定に適した装置として、全自動接触角計「DMs-401(協和界面科学社)」が例示される。算出は、この接触角計のソフトウェア(FAMAS)内の計算ソフトによって、なされうる。
【0019】
離型層6の材料として、前述の表面自由エネルギーが達成されうる種々の樹脂が、採用されうる。好ましい樹脂として、ポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂及びポリメチルペンテン樹脂が、例示される。
【0020】
離型層6に特に適した樹脂は、ポリスチレン樹脂である。ポリスチレン樹脂は、芳香族ビニルモノマーの重合によって得られうる。芳香族ビニルモノマーとして、スチレン;アルキル置換スチレン;メトキシスチレン及びエトキシスチレンのようなアルコキシ置換スチレン;o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-ブロモスチレン及びo-フルオロスチレンのようなハロゲン置換スチレン;α-アルキル置換スチレン;アリール置換スチレン;並びにビニルナフタレンが、例示される。2種以上のモノマーから、ポリスチレン樹脂が得られてもよい。
【0021】
好ましいモノマーは、アルキル置換スチレンである。アルキル置換スチレンでは、ベンゼン環の水素原子の一部がアルキル基で置換されている。アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基が例示される。アルキル置換スチレンとして、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-エチルスチレン、p-イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン及び2,4-ジメチルスチレンが例示される。アルキル置換スチレンの重合により、アルキル基置換ポリスチレン樹脂が得られる。このアルキル基置換ポリスチレン樹脂は、42.0mJ/m2以下である表面自由エネルギーの達成に寄与しうる。このアルキル基置換ポリスチレン樹脂は、イオン交換樹脂層に対する離型層6の剥離性に寄与しうる。
【0022】
アルキル置換スチレンと他のモノマーとの共重合によっても、ポリスチレン系樹脂が得られうる。この場合、全てのモノマーに対するアルキル置換スチレンの比率は50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が特に好ましい。他のモノマーとして、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン及びオクテンのようなα-オレフィンモノマー;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル及び(メタ)アクリル酸フェニルのようなアクリルモノマー;(メタ)アクリロニトリルのようなシアン化ビニルモノマー;マレイン酸のような不飽和多価カルボン酸モノマー及びその酸無水物;ブタジエン及びイソプレンのようなジエンモノマー;並びにシクロペンタジエン及びジシクロペンタジエンのような環状ジエンモノマーが、例示される。
【0023】
高性能な電解質膜として、プロトン伝導膜が知られている。このプロトン伝導膜のスルホン酸密度は、高い。このスルホン酸は、離型フィルム2の、プロトン伝導膜に対する剥離性を阻害しうる。電解質膜がプロトン伝導膜である膜電極接合体の製造では、離型フィルム2の剥離性に対する要請が、顕著である。プロトン伝導膜に対する剥離性の観点から、離型層6に特に適したポリスチレン樹脂は、ポリ(4-メチルスチレン)及びポリ(4-tert-ブチルスチレン)である。
【0024】
ポリスチレン樹脂には、アタクチック構造を有するタイプ(アタクチックポリスチレン樹脂)、アイソタクチック構造を有するタイプ(アイソタクチックポリスチレン樹脂)、及びシンジオタクチック構造を有するタイプ(シンジオタクチックポリスチレン樹脂)が存在する。イオン交換樹脂層に対する適度な密着性の観点から、アタクチックポリスチレン樹脂が好ましい。アタクチックポリスチレン樹脂は、芳香族ビニルモノマーのラジカル重合によって得られうる。アタクチックポリスチレン樹脂は、非晶質である。
【0025】
離型層6の耐熱性の観点から、ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量は1万以上が好ましく、10万以上がより好ましく、15万以上が特に好ましい。製造容易の観点から、重量平均分子量は100万以下が好ましく、50万以下がより好ましく、35万以下が特に好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって、ポリスチレン換算にて測定される。
【0026】
離型層6の材料が、ポリスチレン系樹脂及び添加剤を含む組成物であってもよい。離型層6の材料が、ポリスチレン系樹脂及び他の樹脂を含む組成物であってもよい。離型層6の材料が、ポリスチレン系樹脂、他の樹脂及び添加剤を含む組成物であってもよい。いずれの組成物においても、樹脂の全量に対するポリスチレン系樹脂の比率は、50質量%以上である。換言すれば、離型層6の主たる材料は、ポリスチレン系樹脂である。ポリスチレン系樹脂の比率は70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましい。この比率が100質量%であってよい。
【0027】
離型層6の組成物に含まれうる添加剤として、充填剤;ワックス、脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドのような滑剤;帯電防止剤;酸化防止剤、熱安定剤及び光安定剤のような安定剤;難燃剤;粘度調整剤;増粘剤並びに消泡剤が、例示される。組成物が、有機粒子又は無機粒子を含んでもよい。
【0028】
図1において矢印T2は、離型層6の厚さを表す。厚さT2は、0.1μm以上20μm以下が好ましい。離型層6の厚さT2が0.1μm以上である離型フィルム2は、イオン交換樹脂層に対する剥離性に優れる。この観点から、厚さT2は0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上が特に好ましい。厚さT2が20m以下である離型層6は、膜電極接合体の生産性を阻害しない。この観点から、厚さT2は10μm以下がより好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0029】
[厚さの比]
離型層6の厚さT2の、基材層4の厚さT1に対する比(T2/T1)は、5/1以上1/10以下が好ましく、3/1以上1/5以下がより好ましく、2/1以上1/3以下が特に好ましい。
【0030】
[離型フィルムの製造方法]
離型層6の、基材層4への積層方法として、コーティング法、共押出法、押出ラミネート法、圧着法及び接着剤法が例示される。離型層6の平滑の点から、コーティング法が好ましい。コーティング法では、ポリスチレン系樹脂を含む溶液又は分散液が、基材層4にコートされる。溶液及び分散液の溶媒として、ベンゼン、トルエン及びキシレンのような芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロヘキサノン及びシクロヘキセンのような脂環式炭化水素;ジクロロメタン及びジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素;N-メチル-2-ピロリドンのような環状アミド;並びにジオキサンのような環状エーテルが、例示される。2種以上の溶媒が、併用されてもよい。
【0031】
好ましいコーティング法として、ロールコーター法、エアナイフコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、リバースコーター法、バーコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、グラビアコーター法、スクリーンコーター法、スプレー法及びスピナー法が例示される。汎用性の観点から、ブレードコーター法及びバーコーター法が好ましい。
【0032】
コーティング法により、塗膜が得られる。この塗膜が乾燥させられて、離型層6が得られる。この離型層6は、基材層4に密着している。
【0033】
基材層4とは異なる表面の上に、コーティング法等によって離型層6が形成されてもよい。この離型層6が、接着層を介して基材層4に積層される。接着層は、接着剤又は粘着剤から形成されうる。接着剤として、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、及びポリアミド系接着剤が例示される。粘着剤として、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、オレフィン系粘着剤及びシリコーン系粘着剤が例示される。接着層の厚さは、1μm以上40μm以下が好ましい。
【0034】
[膜電極接合体の製造方法]
図2に、膜電極接合体の製造方法の一例が示されている。この製造方法は、電解質膜の形成(STEP1)、前側触媒層の形成(STEP2)、接合(STEP3)、剥離(STEP4)、背側触媒層の形成(STEP5)、接合(STEP6)及び剥離(STEP7)を含んでいる。
【0035】
電解質膜の形成(STEP1)では、まず、この電解質膜の樹脂が溶媒に溶解され、第一塗工液が得られる。好ましい溶媒として、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール及び1-ブタノールのようなアルコール;アセトン及びメチルエチルケトンのようなケトン;ジオキサン及びテトラヒドロフランのようなエーテル;ジメチルスルホキシドのようなスルホキシドが、例示される。
【0036】
この第一塗工液が、
図1に示された離型フィルム2(第一離型フィルム)の離型層の上にコートされる。好ましいコーティング法として、ロールコーター法、エアナイフコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、リバースコーター法、バーコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、グラビアコーター法、スクリーンコーター法、スプレー法及びスピナー法が例示される。コーティングにより、塗膜が得られる。
【0037】
この塗膜が、加熱される。加熱温度は80℃以上200℃以下が好ましく、100℃以上150℃以下が特に好ましい。加熱により塗膜が乾燥し、電解質膜が得られる。乾燥が、常温でなされてもよい。この電解質膜と第一離型フィルムとは、積層体を構成する。この積層体において、電解質膜は第一離型フィルムに密着している。第一離型フィルムには、電解質膜の背側面が当接している。電解質膜の前側面は、露出している。
【0038】
前側触媒層の形成(STEP2)では、まず、この触媒層の樹脂が溶媒に溶解され、第二塗工液が得られる。好ましい溶媒は、第一塗工液に関して前述された溶媒と同じである。この第二塗工液が、第二離型フィルムの離型層の上にコートされる。本実施形態では、第二離型フィルムの仕様は、第一離型フィルムの仕様と同じである。好ましいコーティング法は、第一塗工液に関して前述されたコーティング法と同じである。コーティングにより、塗膜が得られる。
【0039】
この塗膜が、加熱される。加熱温度は50℃以上150℃以下が好ましく、60℃以上120℃以下が特に好ましい。加熱により塗膜が乾燥し、前側触媒層が得られる。乾燥が、常温でなされてもよい。この前側触媒層は、第二離型フィルムに密着している。第二離型フィルムには、前側触媒層の前側面が当接している。前側触媒層の背側面は、露出している。
【0040】
接合(STEP3)では、前側触媒層の背側面が、電解質膜の前側面と合わされる。これにより、第一離型フィルム、電解質膜、前側触媒層及び第二離型フィルムを含む積層体が得られる。この積層体が、加熱され、かつ加圧される。加熱の温度は、80℃以上200℃以下が好ましく、100℃以上180℃以下がより好ましく、110℃以上150℃以下が特に好ましい。加圧の圧力は、0.1MPa以上20MPa以下が好ましく、0.5MPa以上15MPa以下がより好ましく、1MPa以上10MPa以下が特に好ましい。加熱及び加圧により、前側触媒層が電解質膜に堅固に密着する。前述の通り、それぞれの離型フィルム2は、柔軟でかつ延びにくい基材層4を有している。さらに、この離型フィルム2は、イオン交換樹脂層に対する適度な密着性を有する離型層6を含んでいる。従って、加熱及び加圧の工程において、第一離型フィルムの電解質膜からの意図されない剥離が、抑制されうる。さらに、第二離型フィルムの前側触媒層からの意図されない剥離が、抑制されうる。
【0041】
剥離(STEP4)では、第一離型フィルムが電解質膜から剥がされる。第一離型フィルムの表面自由エネルギーは、42.0mJ/m2以下である。従って、第一離型フィルムが電解質膜から容易に剥がされうる。電解質膜がプロトン伝導膜である場合でも、このプロトン伝導膜から第一離型フィルムが容易に剥がされうる。スルホン酸等価質量が800g/モル(SO3H)以下である電解質膜であっても、この電解質膜から第一離型フィルムが容易に剥がされうる。剥離により、電解質膜の背側面が露出する。
【0042】
背側触媒層の形成(STEP5)では、まず、この触媒層の樹脂が溶媒に溶解され、第三塗工液が得られる。好ましい溶媒は、第一塗工液に関して前述された溶媒と同じである。この第三塗工液が、第三離型フィルムの離型層の上にコートされる。本実施形態では、第三離型フィルムの仕様は、第一離型フィルムの仕様と同じである。好ましいコーティング法は、第一塗工液に関して前述されたコーティング法と同じである。コーティングにより、塗膜が得られる。
【0043】
この塗膜が、加熱される。好ましい加熱温度は、第二塗工液に関して前述された温度と同じである。加熱により塗膜が乾燥し、背側触媒層が得られる。乾燥が、常温でなされてもよい。この背側触媒層は、第三離型フィルムに密着している。第三離型フィルムには、背側触媒層の背側面が当接している。背側触媒層の前側面は、露出している。
【0044】
接合(STEP6)では、背側触媒層の前側面が、電解質膜の背側面と合わされる。これにより、第三離型フィルム、背側触媒層、電解質膜、前側触媒層及び第二離型フィルムを含む積層体が得られる。この積層体が、加熱され、かつ加圧される。加熱の温度は、80℃以上200℃以下が好ましく、100℃以上180℃以下がより好ましく、110℃以上150℃以下が特に好ましい。加圧の圧力は、0.1MPa以上20MPa以下が好ましく、0.5MPa以上15MPa以下がより好ましく、1MPa以上10MPa以下が特に好ましい。加熱及び加圧により、背側触媒層が電解質膜に堅固に密着する。前述の通り、それぞれの離型フィルム2は、柔軟でかつ延びにくい基材層4を有している。さらに、この離型フィルム2は、イオン交換樹脂層に対する適度な密着性を有する離型層6を含んでいる。従って、加熱及び加圧の工程において、第二離型フィルムの前側触媒層からの意図されない剥離が、抑制されうる。さらに、第三離型フィルムの背側触媒層からの意図されない剥離が、抑制されうる。
【0045】
剥離(STEP7)では、第二離型フィルムが前側触媒層から剥がされ、第三離型フィルムが背側触媒層から剥がされる。それぞれの離型フィルム2の表面自由エネルギーは、42.0mJ/m2以下である。従って、これらフィルムが触媒層から容易に剥がされうる。剥離により、背側触媒層、電解質膜及び前側触媒層からなる積層体が得られる。この積層体にさらにガス供給層等が積層されて、膜電極接合体が得られる。
【0046】
第二離型フィルムの仕様が、第一離型フィルムの仕様と異なってもよい。第三離型フィルムの仕様が、第一離型フィルムの仕様と異なってもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0048】
[実施例1]
10質量%のポリ(4-メチルスチレン)(Sigma-Aldrich社)を、90質量%のトルエンに溶解して塗工液を得た。一方、基材層として、易接着層付きポリエステルフィルム(「コスモシャイン(登録商標)A4100」、東洋紡社)を準備した。このポリエステルフィルムの厚さは、50μmであった。このポリエステルフィルムの易接着層の表面に、ワイヤーバー#5にて塗工液を塗布し、塗膜を得た。この塗膜を、100℃の温度下で1分間保持し、乾燥させて、実施例1の離型フィルムを得た。
【0049】
[実施例2]
10質量%のポリ(4-tert-ブチルスチレン)(Sigma-Aldrich社)を、90質量%のトルエンに溶解して塗工液を得た他は実施例1と同様にして、実施例2の離型フィルムを得た。
【0050】
[比較例1]
10質量%の環状オレフィン樹脂(「TOPAS-6015」、ポリプラスチック社)を、90質量%のトルエンに溶解して塗工液を得た他は実施例1と同様にして、比較例1の離型フィルムを得た。
【0051】
[比較例2]
10質量%の環状オレフィン樹脂(「ZEONEX480R」、日本ゼオン社)を、90質量%のトルエンに溶解して塗工液を得た他は実施例1と同様にして、比較例2の離型フィルムを得た。
【0052】
[比較例3]
10質量%のポリアリレート樹脂(「UNIFINER M-2040」、ユニチカ社)を、70質量%のトルエンと20質量%のメチルエチルケトンとの混合液に溶解して塗工液を得た他は実施例1と同様にして、比較例3の離型フィルムを得た。
【0053】
[比較例4]
10質量%のポリスチレン樹脂(「G200C」、東洋スチレン社)を、90質量%のトルエンに溶解して塗工液を得た他は実施例1と同様にして、比較例4の離型フィルムを得た。
【0054】
[比較例5]
比較例5の離型フィルムとして、市販の樹脂フィルム(「HN-200」、クラボウ社)を準備した。この樹脂フィルムの材質は、シンジオタクチックポリスチレンであった。この樹脂フィルムの厚さは、35μmであった。
【0055】
[比較例6]
比較例6の離型フィルムとして、市販の樹脂フィルム(「オピュランX-88B」、三井化学社)を準備した。この樹脂フィルムの材質は、ポリメチルペンテンであった。この樹脂フィルムの厚さは、25μmであった。
【0056】
[比較例7]
18質量部のドライラミネート接着剤(「TM-570V」、東洋モートン社)、及び1質量部の硬化剤(「CAT-RT37」、東洋モートン社)を適量の酢酸エチルに溶解させ、固形分が35質量%である接着剤を得た。この接着剤を、メイヤーバーにて、易接着層付きポリエステルフィルム(前述の「コスモシャイン(登録商標)A4100」)に塗布し、塗膜を得た。この塗膜を80℃の温度下に30秒間保持し、接着層を得た。この接着層の密度は、20g/m2であった。この接着層の厚さは、2μmであった。一方、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(「トレファン(登録商標)2500」、東レ社)を、準備した。この二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さは、40μmであった。この二軸延伸ポリプロピレンフィルムを接着層に重ね、ドライラミネート法によって接合し、比較例7の離型フィルムを得た。
【0057】
[剥離性の評価-1]
塗工液として、イオン交換樹脂溶液(「Nafion(登録商標)DS2020CS」、デュポン社)を準備した。このイオン交換樹脂溶液の、等価質量は1100±20g/モル(SO3H)であり、固形分は21質量%±1質量%であった。離型フィルムの上に、メイヤーバーにて塗工液を塗布し、塗膜を得た。この塗膜を、100℃の温度下で3分間保持し、乾燥させた。さらにこの塗膜に、160℃の温度下で30分間保持する熱処理を施して、イオン交換層を得た。オートグラフ(「AGS-X」、島津製作所社)にて、離型フィルムからイオン交換層を剥離させ、剥離力を測定した。条件は、以下の通りである。
試験片の幅;25mm
角度:180°
速度:600mm/min
得られた剥離強度を、下記の基準に従って格付けした。
A:剥離強度が100mN/25mm未満である。
B:剥離強度が100mN/25mm以上である。
この結果が、下記の表1及び2に示されている。
【0058】
[剥離性の評価-2]
4質量部のイオン交換樹脂溶液(「Aquivion(登録商標)D72-25BS」、Sigma Aldrich社)と、1質量部の2-プロパノールとを混合し、塗工液を得た。このイオン交換樹脂溶液の、等価質量は720±20g/モル(SO3H)であり、固形分は25質量%±1質量%であった。離型フィルムの上に、メイヤーバーにて塗工液を塗布し、塗膜を得た。この塗膜を、100℃の温度下で3分間保持し、乾燥させた。さらにこの塗膜に、160℃の温度下で30分間保持する熱処理を施して、イオン交換層を得た。オートグラフ(「AGS-X」、島津製作所社)にて、離型フィルムからイオン交換層を剥離させ、剥離力を測定した。条件は、以下の通りである。
試験片の幅;25mm
角度:180°
速度:600mm/min
得られた剥離強度を、下記の基準に従って格付けした。
A:剥離強度が100mN/25mm未満である。
B:剥離強度が100mN/25mm以上である。
この結果が、下記の表1及び2に示されている。
【0059】
[カール高さ]
離型フィルムから、試験片を切り出した。この試験片のサイズは、「200mm×200mm」であった。温度が120℃である乾燥機内に、表面が平らな金属板を置き、この金属板の上に試験片を置いた。5分後に、金属板と共に試験片を乾燥機から取り出し、室温まで冷却した。試験片の4つの辺の、金属表面からの浮き上がり量の最大値を、測定した。得られた値を、下記の基準に従って格付けした。
A:最大値が1.0cm未満である。
B:最大値が1.0cm以上である。
この結果が、下記の表1及び2に示されている。
【0060】
【0061】
【0062】
表1及び2から明らかな通り、各実施例の離型フィルムは、諸性能に優れている。この評価結果から、この離型フィルムの優位性は明らかである。
【0063】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0064】
[項目1]
基材層と、この基材層に積層された離型層とを備えており、
上記離型層の主たる材料が、ポリスチレン系樹脂であり、
上記離型層の表面自由エネルギーが42.0mJ/m2以下である、膜電極接合体の製造に用いられる離型フィルム。
【0065】
[項目2]
上記離型層の主たる材料が、アルキル基置換ポリスチレン樹脂である、項目1に記載の離型フィルム。
【0066】
[項目3]
上記離型層の主たる材料が、4-アルキル基置換ポリスチレン樹脂である、項目2に記載の離型フィルム。
【0067】
[項目4]
上記離型層の主たる材料が、ポリ(4-メチルスチレン)又はポリ(4-tert-ブチルスチレン)である、項目3に記載の離型フィルム。
【0068】
[項目5]
上記離型層の主たる材料が、アタクチックポリスチレンである、項目1から4のいずれかに記載の離型フィルム。
【0069】
[項目6]
(1)基材層とこの基材層に積層された離型層とを備えており、上記離型層の主たる材料がポリスチレン系樹脂であり、上記離型層の表面自由エネルギーが42.0mJ/m2以下である第一離型フィルムの表面に、電解質膜を形成する工程、
(2)第二離型フィルムの表面に、触媒層を形成する工程、
(3)上記触媒層を、上記電解質膜に接合する工程、
及び
(4)上記第一離型フィルムを、上記電解質膜から剥がす工程
を備えた、膜電極接合体の製造方法。
【0070】
[項目7]
上記工程(1)において、上記電解質膜としてのプロトン伝導膜が形成される、項目6に記載の製造方法。
【0071】
[項目8]
離型フィルムと、この離型フィルムに積層された電解質膜とを備えた積層体であって、
上記離型フィルムが、基材層とこの基材層に積層された離型層とを有しており、この離型層の主たる材料がポリスチレン系樹脂であり、この離型層の表面自由エネルギーが42.0mJ/m2以下であり、
上記電解質膜のスルホン酸等価質量が800g/モル(SO3H)以下である、積層体。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明された離型フィルムは、イオン交換樹脂からなる種々の成形品の製造に、適している。
【符号の説明】
【0073】
2・・・離型フィルム
4・・・基材層
6・・・離型層
【要約】
【課題】イオン交換樹脂層に対する剥離性に優れた離型フィルム2の提供。
【解決手段】離型フィルム2は、基材層4と、この基材層4に積層された離型層6とを有している。この離型層6の主たる材料は、ポリスチレン系樹脂である。好ましいポリスチレン樹脂は、アルキル基置換ポリスチレン樹脂である。好ましいアルキル基置換ポリスチレン樹脂は、ポリ(4-メチルスチレン)及びポリ(4-tert-ブチルスチレン)である。この離型層6の表面自由エネルギーは、42.0mJ/m
2以下である。この離型フィルム2の上に、イオン交換樹脂層が形成されうる。
【選択図】
図1