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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ラミネート原紙およびラミネート紙
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20241031BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241031BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20241031BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B32B27/00 D
B32B27/10 ZBP
B32B27/28 101
B32B27/36
D21H19/20 A
D21H27/30 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023174906
(22)【出願日】2023-10-10
【審査請求日】2024-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀越 達也
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/243309(WO,A1)
【文献】特許第7285387(JP,B1)
【文献】国際公開第2021/100733(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/256381(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/244712(WO,A1)
【文献】特開2018-162075(JP,A)
【文献】国際公開第2021/182183(WO,A1)
【文献】特開2024-039713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D21H 19/22
D21H 19/20
D21H 27/10
D21H 27/30
B65D 65/40
D21H 19/28
C08L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面上に、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂とPHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート))とを含む塗工層であるアンカー層を有することを特徴とするラミネート原紙。
【請求項2】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂と前記PHBHとの重量比が、30:70~70:30であることを特徴とする請求項1に記載のラミネート原紙。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラミネート原紙の前記アンカー層上に、ラミネート層を有することを特徴とするラミネート紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネート原紙およびラミネート紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から紙コップは液体容器として使用されている。紙コップは、胴部材と底部材とから構成され、製法上、まずカップ成形機上で、胴紙の両端縁をホットエアーで加熱後、マンドレルに巻きつけて、胴紙の一方の端縁をもう一方の端縁に重ね合わせて胴部貼り合わせ部をヒートシール処理で形成させて筒形状の胴部材とし、底紙の巻き取りから外周縁部が下向きに起立する底部材に打ち抜きながら絞り成形することで製造される(特許文献1)。
【0003】
一般的に、紙コップの素材には、基紙にドライラミネート、押出しラミネート等の方法でラミネート層を貼り合わせたラミネート紙が用いられる。基紙の片面にラミネート層を有するラミネート紙を用いて紙コップを製造する場合、胴部貼り合わせ部では、内側のラミネート紙の基紙が外側のラミネート紙のラミネート層に接してヒートシール処理されるため、貼り合わせ部は、内側から外側に向けた厚さ方向の層構成として、ラミネート層/基紙層/ラミネート層/基紙層の順となる(図2ア)。この構成でも接着強度はある程度維持されるが、より接着強度を上げる方法として、基紙のラミネート処理していない面に熱可塑性樹脂からなるアンカー層を設ける方法が考えられる。このアンカー層を介すると、ラミネート層/基紙層/アンカー層/ラミネート層/基紙層/アンカー層の順となり(図2イ)、基紙層とラミネート層の接着強度を高めることができる。さらに、この胴部貼り合わせ部の接着強度を向上させるためには、ラミネート原紙において、ラミネート層と基紙層の間にアンカー層を設ける方法も考えられる(図2ウ)。
【0004】
ところで、このような基紙の上にアンカー層が設けられたラミネート原紙を製造する場合、まず、基紙のいずれか一方の表面にアンカー層を塗工し、乾燥させて、原反として巻き取ったり、さらに続けて反対面にも同様にアンカー層を設け巻き取ったりする必要があるが、一旦アンカー層を設けた原紙を巻き取ると、ラミネート原紙の一方の面側に設けられたアンカー層がそれに重なる原紙の非塗工面、あるいは、他方の面側に設けられたアンカー層と接触し、ブロッキングが発生する場合がある。特に、基紙の両面にアンカー層を設ける場合は、ブロッキング発生のリスクが高く、解決が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-214365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐ブロッキング性に優れた、ラミネート原紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面上に、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂とPHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート))とを含む塗工層であるアンカー層を有することを特徴とするラミネート原紙。
2.前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂と前記PHBHとの重量比が、30:70~70:30であることを特徴とする1.に記載のラミネート原紙。
3.1.または2.に記載のラミネート原紙の前記アンカー層上に、ラミネート層を有することを特徴とするラミネート紙。
【発明の効果】
【0008】
本発明のラミネート原紙は、耐ブロッキング性に優れており、ラミネート原紙のままロール状に巻回されて高温多湿環境下に保管されても、ブロッキング(貼り付き)が起こりにくく、ブロッキングによる不具合の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例におけるブロッキング性評価の模式図。
図2】基紙の片面にラミネート層を有するラミネート紙を用いた紙コップの胴部貼り合わせ部断面の模式図(ア)、基紙の片面にラミネート層、他面にアンカー層を有するラミネート紙を用いた紙コップの胴部貼り合わせ部断面の模式図(イ)、基紙の片面にアンカー層を介してラミネート層、他面にアンカー層を有するラミネート紙を用いた紙コップの胴部貼り合わせ部断面の模式図(ウ)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「ラミネート原紙」
本発明のラミネート原紙は、紙基材と、この紙基材の少なくとも一方の面上に、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂とPHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート))とを含む塗工層であるアンカー層を有する。
なお、本明細書において「A~B」(A、Bは数値)との記載は、A、Bを含む数値範囲、すなわち「A以上B以下」を意味する。
【0011】
(紙基材)
紙基材は、主としてパルプからなるシート(以下、「基紙」ともいう。)であり、更に填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙して得られる。
パルプとしては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未漂白パルプ(NUKP)、サルファイトパルプなどの化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、脱墨パルプ、古紙パルプなどの木材繊維、ケナフ、竹、麻などから得られた非木材繊維などを用いることができ、適宜配合して用いることが可能である。これらの中でも、紙基材中への異物混入が発生し難いこと、古紙原料としてリサイクル使用する際に経時変色が発生し難いこと、高い白色度を有するため印刷時の面感が良好となり、特に包装材料として使用した場合の使用価値が高くなることなどの理由から、木材繊維の化学パルプ、木材繊維の機械パルプを用いることが好ましく、化学パルプを用いることがより好ましい。具体的には、全パルプに対するLBKP、NBKP等の化学パルプの配合量が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0012】
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール系樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の公知の填料を使用することができる。なお、填料は、必須材料ではなく、使用しなくてもよい。
【0013】
各種助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、嵩高剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0014】
紙基材は、その表面が各種薬剤で処理されていてもよい。薬剤としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤、滑剤などを例示することができ、これらを単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。さらに、これらの各種薬剤と顔料を併用してもよい。顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料などを単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0015】
紙基材の坪量は、所望される各種品質やその用途等により適宜選択可能であるが、通常は20g/m以上600g/m以下が好ましく、25g/m以上600g/m以下がより好ましい。
例えば、包装紙、紙袋、蓋材、敷き紙等の包装材等に使用する場合、紙基材の坪量は、30g/m以上150g/m以下が好ましい。軟包装材として使用する場合、紙基材の坪量は、20g/m以上100g/m以下が好ましく、35g/m以上80g/m以下がより好ましい。なお、軟包装材とは、包装材の中でも、特に20g/mから100g/m程度の薄手の紙を用いた、柔軟性に富んだ包装材である。また、紙コップ、紙容器、紙箱、紙皿、紙トレー等に使用する場合、紙基材の坪量は、150g/m以上300g/m以下が好ましい。
また、紙基材の密度は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は0.5g/cm以上1.0g/cm以下のものが好ましい。
【0016】
紙基材の製造(抄紙)方法は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、ギャップフォーマー型、ハイブリッドフォーマー型(オントップフォーマー型)等のツインワイヤー抄紙機等、公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙層の表面にアルカリ性薬剤を塗工してもよい。また、紙基材は1層であってもよく、2層以上の多層で構成されていてもよい。
また、紙基材の表面を薬剤で処理する場合、表面処理の方法は特に限定されるものでなく、ロッドメタリングサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、カーテンコーターなど公知の塗工装置を用いることができる。
【0017】
(アンカー層)
アンカー層は、塗工により形成された塗工層であり、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂とPHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート))とを含む。アンカー層は、水分散系塗料の塗工層であることが、製造時の環境への負荷を低減する点から好ましい。なお、塗工層であるか否かは、その断面を電子顕微鏡等で観察することにより判定することができる。
【0018】
・エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(以下、EVAとも表す)は、エチレンと酢酸ビニルとを単量体とする共重合体であり、さらに他のモノマーを単量体としていてもよい。EVAが他のモノマーを単量体とする場合、EVA全体に対する他のモノマーに由来する構成単位の含有率は30質量%以下であることが好ましい。この含有率は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下等とすることができる。
【0019】
EVAのガラス転移温度(Tg)は、-50~30℃であることが好ましい。ガラス転移温度が30℃を超えると、ラミネート層との密着性が低下し、層間密着性が不足する場合がある。ガラス転移温度が-50℃より低いと、EVAが軟らかくなりすぎてブロッキングが発生しやすくなる場合がある。EVAのガラス転移温度は、-40~20℃であることがより好ましく、-30~15℃であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、ガラス転移温度とは、JIS K 7121-1987に準拠して測定される中間点ガラス転移温度である。
【0020】
EVAにおけるエチレンと酢酸ビニルとのモル比(エチレンに由来する構成単位:酢酸ビニルに由来する構成単位、エチレン:酢酸ビニルとも表す)は、50:50~6:94であることが好ましい。エチレンのモル比が多くなるとEVAのTgは低くなり、酢酸ビニルのモル比が増えるとTgは高くなる。また、酢酸ビニルのモル比が増えると、ラミネート層との層間密着性が高くなる傾向がある。層間密着性の向上は、酢酸ビニルの極性基に由来するものと推測される。エチレンと酢酸ビニルとのモル比が上記した範囲内であると、上記した範囲内のガラス転移温度のEVAとすることが容易であるとともに、ラミネート層との密着性に優れたラミネート原紙が得られやすくなる。エチレンと酢酸ビニルのモル比は、45:55~7:93がより好ましく、40:60~8:92がさらに好ましい。
【0021】
・PHBH
PHBHは、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBともいう。)と3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHともいう。)との共重合体であり、微生物が産生することが知られている生分解性樹脂である。本発明において、PHBHは、微生物由来のものを用いてもよく、石油資源由来のものを用いてもよいが、微生物由来のものを用いることが環境負荷低減の点から好ましい。
【0022】
PHBHを産生する微生物としては、細胞内にPHBHを蓄積する微生物であればとくに限定されないが、A.lipolytica、A.eutrophus、A.latusなどのアルカリゲネス属(Alcaligenes)、シュウドモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、アゾトバクター属(Azotobacter)、ノカルディア属(Nocardia)、アエロモナス属(Aeromonas)などの菌が挙げられる。なかでも、PHBHの生産性の点で、とくにアエロモナス・キャビエなどの菌株、さらにはPHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユウトロファス AC32(受託番号FERM BP-6038、寄託日平成9年8月7日、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名;日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6))(J.Bacteriol.,179,4821-4830頁(1997)などが好ましい。また、アエロモナス属の微生物であるアエロモナス・キャビエ(Aeromonas.caviae)からPHBHを得る方法は、たとえば、特開平05-093049号公報に開示されている。なお、これらの微生物は、適切な条件下で培養して、菌体内にPHBHを蓄積させて用いられる。
培養に用いる炭素源、培養条件は、特開平05-093049号公報、特開2001-340078号公報等に記載の方法に従い得ることができるが、これらには限定されない。
【0023】
PHBHの組成比(モル%)は、3HB:3HH=97:3~75:25が好ましく、95:5~78:22がより好ましく、93:7~80:20がさらに好ましい。3HHの組成が3モル%未満ではPHBHの特性が3HBホモポリマーの特性に近くなり柔軟性が失われるとともに成膜加工温度が高くなりすぎて好ましくない傾向がある。3HHの組成が25モル%を超えると結晶化速度が遅くなりすぎ成膜加工に適さず、また、結晶化度が下がることで、樹脂が柔軟になり曲げ弾性率が低下する傾向がある。PHBHの組成比は、公知の方法、例えばNMR分析により測定することができる。
微生物産生PHBHはランダム共重合体である。共重合体のモル比を調整するために、菌体の選択、原料となる炭素源の選択、異なるモル比のPHBHとのブレンド、3HBホモポリマーとのブレンドなどの方法がある。
【0024】
本発明の一実施形態において、PHBHの質量平均分子量は、5万~70万が好ましく、10万~60万がより好ましく、20万~40万がさらに好ましい。PHBHの質量平均分子量が上記範囲内であることにより、機械物性に優れたフィルムを得ることができる。なお、PHBHの質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、昭和電工社製「Shodex GPC-101」等)によって、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K-804」等)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。なお、測定用試料としては、PHBHを含む水性分散液を遠心分離した後、乾燥させて得られたパウダーを用いる。
本発明において、PHBHとして、組成比、質量平均分子量等が異なる2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
アンカー層におけるEVAとPHBHとの重量比(固形分)は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、20:80~70:30であることが好ましく、25:75~60:40であることがより好ましく、30:70~50:50であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明において、アンカー層形成用塗料中のPHBHの平均粒径は、耐ブロッキング性の点から、0.1~50μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましく、1~5μmであることがさらに好ましい。平均粒径が0.1μm未満のPHBHは微生物産生では達成困難であり、また、化学合成法で得る場合にも、微粒子化するという操作が必要となる。平均粒径が50μmを超えると塗布むらが起こる場合がある。なお、PHBHの平均粒径は、マイクロトラック粒度計(日機装社製、FRA)など汎用の粒度計を用い、PHBHの水懸濁液を所定濃度に調整して測定した、正規分布の全粒子の50%蓄積量に対応する粒径をいう。
【0027】
アンカー層は、EVAとPHBH以外に、他の水溶性樹脂、水分散性樹脂を含むことができ、さらに、必要に応じて、分散剤、粘性改良剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩、滑剤、着色染料、顔料など、製紙分野において塗工液に配合される各種助剤を含むことができる。ただし、アンカー層は、EVAとPHBHとを主成分とすることが好ましく、アンカー層(固形分)全体に対するEVAとPHBHの総量の割合は、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがよりさらに好ましく、99質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0028】
アンカー層は、公知の塗工方法により形成することができる。アンカー層の塗工量(乾燥質量)は、その性能を発揮できるのであれば特に制限されないが、例えば、片面あたり0.1g/m以上10.0g/m以下であり、0.5g/m以上8g/m以下が好ましく、1g/m以上5g/m以下がさらに好ましい。
【0029】
「ラミネート紙」
本発明のラミネート紙は、上記したラミネート原紙のアンカー層上にラミネート層を有する。
ラミネート層を形成する方法は特に制限されず、押出しラミネート、ドライラミネート等の公知の方法により形成することができる。
ラミネート層を形成する材料も特に制限されず、公知のものを用いることができる。樹脂フィルムを貼り合わせるドライラミネートの場合は、樹脂フィルムとしては、アルミ蒸着フィルムや無機酸化物蒸着フィルム、アルミ箔等の金属箔と樹脂フィルムをラミネートした積層フィルム等の樹脂以外の材料を含むフィルムを用いることもできる。また、ラミネート層は、滑剤、無機充填剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、臭気吸収剤、香料、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤、顔料、染料などの着色剤等を含むことができる。
【0030】
ラミネート層が、上記したPHBHや、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の生分解性樹脂を主成分とすることにより、仮に環境中にゴミとして流出した場合の悪影響を小さくすることができる。ラミネート層が生分解性樹脂を主成分とする場合、JIS K6950の水系培養液中の好気的究極生分解度(評価機器OxiTOP―IDS、試験温度33℃下での7日後の値)が40%以上であることが好ましい。なお、本明細書において主成分とするとは、50重量%以上であることを意味する。
【0031】
本発明のラミネート紙は、そのラミネート層により様々な性質を付与することができるため、様々な用途に用いることができる。本発明のラミネート紙は、例えば、耐水紙、耐油紙、耐水耐油紙、ヒートシール紙、カップ原紙、紙器原紙等として用いることができる。
【実施例
【0032】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、もちろんこれらの例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の部および%は、それぞれ質量部、質量%を示す。
【0033】
紙基材:坪量220g/mのカップ原紙(商品名:CUP-HD、日本製紙株式会社製)
EVA1:住化ケムテックス株式会社製、住化フレックスS-408HQE、Tg-30℃、エチレン:酢酸ビニル=40:60
EVA2:住化ケムテックス株式会社製、住化フレックスS-410HQ、Tg-18℃、エチレン:酢酸ビニル=30:70
EVA3:住化ケムテックス株式会社製、住化フレックスS-401HQ、Tg-18℃、エチレン:酢酸ビニル=30:70
EVA4:住化ケムテックス株式会社製、住化フレックスS-400HQ、Tg0℃、エチレン:酢酸ビニル=20:80
EVA5:住化ケムテックス株式会社製、住化フレックスS-355HQ、Tg10℃、エチレン:酢酸ビニル=10:90
PHBH:カネカ株式会社製、質量平均分子量60万、平均粒径2μm
【0034】
紙基材の一面又は両面に、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂とPHBHとを50:50の重量比(固形分)で含む23質量%濃度の水性分散液をバーブレード法で塗工し、105℃、1分乾燥してアンカー層を形成し、ラミネート原紙とした。尚、両面塗工の場合は、表裏で塗工量を揃えた。
得られたラミネート原紙のアンカー層上に、質量平均分子量が60万のPHBHを膜厚30μmとなるよう溶融押し出しにより積層して、ヒートシール紙を得た。
【0035】
(評価方法)
得られたラミネート原紙とヒートシール紙について、以下に示す評価を行った。結果を表1~3に示す。
・ブロッキング性
得られたラミネート原紙から1辺40mmの正方形の試験片を2枚切り出し、アンカー層同士(図1ア)、またはアンカー層と紙基材(図1イ)とを接触させて、40℃、80%RHの条件下で、50N/cmの荷重を加えて24時間静置した。
静置後、ラミネート原紙を剥がす際の様子と、剥離後の状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
[評価基準]
5:自然と剥がれる。
4:弱い抵抗があるが剥がれる。
3:剥がした後に面に荒れが生じる。
2:面の50%未満の材破が発生する。
1:剥がすことができない、または面の50%以上の材破が発生する。
・ラミネート層密着性
得られたヒートシール紙から1辺40mmの正方形の試験片を2枚切り出し、ヒートシール層同士を接触させて、加圧温度130℃、加圧圧力1.5kgf/cm、加圧時間3.0秒でヒートシールした。
カッター刃で、試験片端部の対向するヒートシール層間に水平方向に沿って深さ2mmの切れ目を入れ、その切れ目からヒートシール層を手剥離させたときの力の感じ方と剥離後の状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
[評価基準]
5:材破が発生する(紙基材が破壊される)。
4:部分的に材破が発生する(紙基材が破壊される)。
3:強い抵抗感を感じるが、材破は生じない。
2:少し抵抗感を感じるが、容易に剥離することができる。
1:抵抗感なく、非常に容易に剥離することができる。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
実施例で得られた、アンカー層がEVAとPHBHとを含むラミネート原紙は、耐ブロッキング性に優れていた。それに対し、比較例で得られた、アンカー層がEVAのみであるラミネート原紙は、耐ブロッキング性に劣っていた。
比較例で得られた、アンカー層がEVAのみであるラミネート原紙は、ラミネート層密着性に優れていた。実施例1~5と比較例1~5とにより、アンカー層にPHBHを含ませるとラミネート層密着性が低下する傾向が見られたが、酢酸ビニルのモル比が高いEVAを用いた実施例5は、ラミネート層密着性の低下が見られなかった。
【要約】
【課題】耐ブロッキング性に優れた、ラミネート原紙を提供すること。
【解決手段】紙基材と、該紙基材の少なくとも一方の面上に、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂とPHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート))とを含む塗工層であるアンカー層を有するラミネート原紙。
【選択図】図1
図1
図2