(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 6/00 20060101AFI20241031BHJP
B29B 15/00 20060101ALI20241031BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20241031BHJP
C08F 16/06 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C08F6/00
B29B15/00
C08F8/12
C08F16/06
(21)【出願番号】P 2023510731
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2022009530
(87)【国際公開番号】W WO2022209594
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2021061916
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 真典
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/050255(WO,A1)
【文献】特開2011-178964(JP,A)
【文献】特開2013-028712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08L 1/00-101/00
C08K 3/00-13/08
C08J 3/00-3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルエステルを鹸化して得られたポリビニルアルコール樹脂を、酢酸メチル、メタノール、及び水の合計100質量部に対して、酢酸メチル:50~98質量部、メタノール:1~49質量部、及び水:0.01~
0.8質量部の割合で含有する洗浄液により洗浄する洗浄工程を有し、
洗浄工程では、ポリビニルアルコール樹脂を当該洗浄液と混合して固形分濃度が
20質量%以下であるスラリーを調製することを含むポリビニルアルコール樹脂の製造方法。
【請求項2】
洗浄工程は、洗浄及び濾過を順に複数回実施することを含む請求項1に記載のポリビニルアルコール樹脂の製造方法。
【請求項3】
複数回実施する洗浄工程のうち、最後回の洗浄工程では未使用の洗浄液を使用し、最後回の洗浄工程で使用した洗浄液を濾過することで生じる濾液を順次その前の回の洗浄工程で使用する請求項2に記載のポリビニルアルコール樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール樹脂の製造方法に関する。より詳しくは、本発明はポリビニルアルコール樹脂の製造過程で実施する洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール樹脂は、水溶性の合成樹脂であり、従来は主に合成繊維の原料として使用されていたが、近年、その特徴を生かして、フィルム材料、乳化分散剤、接着剤及びバインダー樹脂など様々な分野で使用されている。このポリビニルアルコール樹脂は、酢酸ビニルモノマーを重合し、得られたポリ酢酸ビニルを鹸化することにより製造されるが、その製造過程において酢酸ナトリウムなどの不純物が混入する。そこで、ポリビニルアルコール樹脂の製造方法においては、ポリビニルアルコール樹脂から不純物を除去するため、鹸化工程後に洗浄を行い、さらに乾燥工程で洗浄液を除去している。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の洗浄方法では、固体状態の樹脂を含むスラリーを、傾斜型スクリューコンベアーを使用して洗浄することにより、メタノールなどの洗浄液の使用量低減を図っている。また、特許文献2、3では所定成分を特定の比率で配合した洗浄液を用いることで不純物の低減や有機揮発分の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-245432号公報
【文献】特許第5616081号公報
【文献】特許第6694563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の洗浄方法は、洗浄液について検討がなされていないため、有機揮発分が多く残留する課題があった。特許文献2、3には所定成分を特定の比率で配合した洗浄液を用いることで不純物の低減や有機揮発分の低減を図っているが、これらの方法では、鹸化工程で生成する少量の低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂を除去できず、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した際、透明性が低下してしまう課題があった。
【0006】
そこで、本発明は一実施形態において、ポリビニルアルコール樹脂中の揮発分を低減し、水に溶解した時に良好な透明性を維持することができるポリビニルアルコール樹脂の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のように例示される。
[1]
ポリビニルエステルを鹸化して得られたポリビニルアルコール樹脂を、酢酸メチル、メタノール、及び水の合計100質量部に対して、酢酸メチル:50~98質量部、メタノール:1~49質量部、及び水:0.01~1質量部の割合で含有する洗浄液により洗浄する洗浄工程を有し、
洗浄工程では、ポリビニルアルコール樹脂を当該洗浄液と混合して固形分濃度が30質量%以下であるスラリーを調製することを含むポリビニルアルコール樹脂の製造方法。
[2]
洗浄工程は、洗浄及び濾過を順に複数回実施することを含む[1]に記載のポリビニルアルコール樹脂の製造方法。
[3]
複数回実施する洗浄工程のうち、最後回の洗浄工程では未使用の洗浄液を使用し、最後回の洗浄工程で使用した洗浄液を濾過することで生じる濾液を順次その前の回の洗浄工程で使用する[2]に記載のポリビニルアルコール樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、鹸化により生成したポリビニルアルコール樹脂の洗浄に用いる洗浄液を構成する酢酸メチル、メタノール及び水の配合比率を規定し、かつ、この洗浄液を含むスラリー中の固形分濃度を特定範囲にして洗浄している。このため、ポリビニルアルコール樹脂中の揮発分が低減され、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した時に良好な透明性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るポリビニルアルコール樹脂の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係るポリビニルアルコール樹脂の製造方法における洗浄方法を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本明細書において、例えば、「A~B」なる記載は、A以上でありB未満であることを意味する。
【0012】
本発明者は、前述した課題を解決するために鋭意実験研究を行った結果、鹸化工程後に行う洗浄工程で使用する洗浄液を酢酸メチル、メタノール及び水を特定範囲で配合することにより、ポリビニルアルコール樹脂中の揮発分を低減し、水に溶解した時に良好な透明性を維持することができることを見出した。なお、ここでいう揮発分とは、鹸化溶媒や洗浄液に由来する液体成分を指し、以下に示す実施形態においては、酢酸ビニル、メタノール及び水などが、この揮発分に該当する。さらに、本発明者は、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した時に良好な透明性は、鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂を洗浄液と混合してスラリーを調製したときのスラリー中のポリビニルアルコール樹脂濃度に依存することも見出した。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0013】
本発明に係る洗浄工程は一実施形態において、鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂を、酢酸メチル、メタノール、及び水の合計100質量部に対して、酢酸メチル:50~98質量部、メタノール:1~49質量部及び水:0.01~1質量部の割合で含有する洗浄液によって洗浄する洗浄工程を有する。また、洗浄工程では、ポリビニルアルコール樹脂を洗浄液と混合して、固形分濃度が30質量%以下であるスラリーを調製する。
【0014】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るポリビニルアルコール樹脂の製造方法について説明する。
図1は本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法においては、重合工程(ステップS1)、鹸化工程(ステップS2)、洗浄工程(ステップS3)及び乾燥工程(ステップS4)の各工程を、この順に実施する。
【0015】
[重合工程]
ステップS1の重合工程では、1種もしくは2種以上のビニルエステルを重合するか、又は、ビニルエステルとこれと共重合可能なその他の単量体とを共重合して、ポリビニルエステルを得る。ここで使用するビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピパリン酸ビニル及びバーサチック酸ビニルなどが挙げられるが、重合安定性の観点から特に酢酸ビニルが好ましい。
【0016】
これらビニルエステルと共重合可能な他の単量体は、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン及びプロピレンなどのα-オレフィン類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリルアミド及びN-メチロールアクリルアミドなどの不飽和アミド類、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸及びフマル酸などの不飽和酸類、不飽和酸のアルキル(メチル、エチル、プロピルなど)エステル、無水マレイン酸などの不飽和酸の無水物、不飽和酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートなどのグリシジル基含有単量体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩類などのスルホン酸基含有単量体、アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート及びアシッドホスホオキシプロピルメタアクリレートなどのリン酸基含有単量体、アルキルビニルエーテル類などが挙げられる。
【0017】
[鹸化工程]
ステップS2の鹸化工程では、ステップS1で得られたポリビニルエステルを、有機溶媒中において、触媒の存在下で鹸化する。この鹸化工程で使用する有機溶媒(以下、鹸化溶媒という)としては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン及びジエチレングリコールなどのアルコール類を使用することができるが、特に、メタノールが好ましい。
【0018】
触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムアルコラート及び炭酸ナトリウムなどのアルカリ触媒、並びに、硫酸、燐酸及び塩酸などの酸触媒が挙げられる。これらの中でも、アルカリ触媒を使用することが好ましく、水酸化ナトリウムを使用することがより好ましい。これにより、鹸化速度を早くして、生産性を向上させることができる。
【0019】
この鹸化工程により、ポリビニルエステルにおけるビニルエステル単位の一部又は全部が鹸化されて、ビニルアルコール単位が生成する。なお、前述した鹸化工程により得られるポリビニルアルコール樹脂の鹸化度は、特に限定されるものではなく、用途などに応じて適宜設定することができるが、一般には、65~99.99mol%、好ましくは70~99.9mol%である。鹸化度は、JIS K6726:1994に準拠して測定することができる。
【0020】
[洗浄工程]
次に、ステップS2の鹸化工程で生成したポリビニルアルコール樹脂を、酢酸メチル、メタノール及び水を含有する洗浄液で洗浄する(ステップS3)。具体的には、鹸化工程後のポリビニルアルコール樹脂に、酢酸メチル、メタノール及び水を加え、洗浄液を含むスラリーにして、洗浄を行う。その際、スラリーに含まれる各洗浄液成分の割合は、酢酸メチル、メタノール、及び水の合計100質量部に対して、酢酸メチル:50~98質量部、メタノール:1~49質量部及び水:0.01~1質量部となるようにすることが好ましい。洗浄液には酢酸メチル、メタノール、及び水以外の成分が含まれていてもよいが、酢酸メチル、メタノール、及び水が洗浄液中の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることが更により好ましい。
【0021】
洗浄工程で使用する洗浄液の組成、即ち、スラリー中の酢酸メチル、メタノール及び水の配合比を前述した範囲にすることにより、ポリビニルアルコール樹脂中の揮発分を低減し、水に溶解した時に良好な透明性を維持することができる。
【0022】
この洗浄液中の酢酸メチル量は、酢酸メチル、メタノール、及び水の合計100質量部に対して、50~98質量部であることが好ましい。より好ましくは55~90質量部、さらに好ましくは60~80質量部である。洗浄液中の酢酸メチル量が50質量部未満の場合、スラリー中のメタノールまたは水の量が多くなってしまうため、ポリビニルアルコール樹脂中の揮発分が多くなる。さらに、低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の洗浄能力が低下するため、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した際の透明性が低下する。洗浄液中の酢酸メチル量が98質量部超の場合、水やメタノールなどの極性溶媒の量が少なくなるため、洗浄効果が低下し、洗浄液の使用量の増加や不純物の残留、洗浄時間の長時間化などを招くことがある。
【0023】
この洗浄液中のメタノール量は、酢酸メチル、メタノール、及び水の合計100質量部に対して、1~49質量部であることが好ましい。より好ましくは10~45質量部、さらに好ましくは20~40質量部である。洗浄液中のメタノール量が1質量部未満の場合、洗浄液中の極性溶媒の量が少なくなるため、洗浄効果が低下し、洗浄液の使用量の増加や不純物の残留、洗浄時間の長時間化などを招くことがある。洗浄液中のメタノール量が49質量部超の場合、ポリビニルアルコール樹脂中の揮発分が多くなる。さらに、低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の洗浄能力が低下するため、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した際の透明性が悪化する。
【0024】
この洗浄液中の水量は0.01~1質量部であることが好ましい。より好ましくは0.05~0.8質量部、さらに好ましくは0.1~0.7質量部である。洗浄液中の水量が0.01質量部未満の場合、洗浄液中の極性溶媒の量が少なくなるため、洗浄効果が低下し、洗浄液の使用量の増加や不純物の残留、洗浄時間の長時間化などを招くことがある。洗浄液中の水量が1質量部超の場合、低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の洗浄能力が低下するため、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した際の透明性が悪化する。
【0025】
この洗浄工程では、スラリーの固形分濃度を30質量%以下にして、洗浄を行う。スラリーの固形分濃度は、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは3~15質量%である。これにより、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した際の透明性をさらに向上させることができる。ここで、スラリーの固形分濃度が1質量%以上とすることで、スラリー中のポリビニルアルコール樹脂量が多くなるため、洗浄効率が高くなるが、30質量%を超えると、洗浄液量が少なくなるため、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した際の透明性が悪化する。
【0026】
なお、鹸化溶媒にメタノールを使用していた場合は、ここでいう洗浄液成分には、スラリー調製前のポリビニルアルコール樹脂に残留していた鹸化溶媒(メタノール)も含む。また、スラリー調製前のポリビニルアルコール樹脂には、メタノールなどの鹸化溶媒以外に、微量のアルデヒド類、アルコール類、酢酸エステル類などが含まれていることもあり、洗浄工程で調整するスラリーには、これらの成分が含まれていてもよい。
【0027】
ポリビニルアルコール樹脂の洗浄方法は、特に限定されるものではないが、例えば、洗浄槽内に鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂と洗浄液とを投入してスラリーを調製し、当該スラリーを撹拌する方法A、鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂に洗浄液を散布する方法B、及び、鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂と洗浄液とを向流で接触する方法Cなどを適用することができる。また、鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂を濾過機に投入して、洗浄液を散布しながら濾過する方法Dを適用してもよい。方法B、C及びDについては、単位時間当たりのポリビニルアルコール樹脂量と洗浄液量の比によってスラリーの固形分濃度を算出することとする。
【0028】
洗浄槽内にポリビニルアルコール樹脂と洗浄液とを投入してスラリーを調製し、当該スラリーを撹拌する方法Aで洗浄する場合は、スラリーの固形分濃度、即ち、スラリーに含まれるポリビニルアルコール樹脂量が、1~30質量%になるように、洗浄槽内に鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂と洗浄液とを投入すればよい。また、その場合の洗浄時間は、500秒以上とすることが好ましく、1000秒以上とすることがより好ましい。また、撹拌は、回転数が10rpm以上の条件で実施することが好ましい。これにより、洗浄後のポリビニルアルコール樹脂中の低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂低減及び水に溶解した際の透明性を向上することができる。
【0029】
ポリビニルアルコール樹脂に洗浄液を散布する方法B、鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂と洗浄液とを向流で接触する方法C、鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂を濾過機に投入して、洗浄液を散布しながら濾過する方法Dで洗浄を行う場合は、ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して、単位時間当たりに散布される洗浄液量が233~9900質量部となるように、ポリビニルアルコール樹脂に散布する洗浄液の量を調節するのが好ましい。
【0030】
本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法においては、ポリビニルアルコール樹脂に不純物として含まれる酢酸ナトリウムは、洗浄液中に含まれる極性溶媒であるメタノール及び水に溶解する。そして、洗浄後に、濾過などの方法で、ポリビニルアルコール樹脂と洗浄液(鹸化溶媒を含む)とを分離することにより、不純物である酢酸ナトリウムも濾液に移動するため、ポリビニルアルコール樹脂から不純物を除去することができる。濾過の方法としては、限定的ではないが、遠心分離法、プレス法が挙げられる。
【0031】
[乾燥工程]
洗浄後、濾過することにより得られるポリビニルアルコール樹脂ケーキに残留する酢酸メチル、メタノール及び水など洗浄液を除去し、ポリビニルアルコール樹脂を乾燥させる(ステップS4)。洗浄液の除去及び乾燥の方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。例えば、空気中で50~150℃、好ましくは90~130℃の条件で、1~10Hr、好ましくは3~6Hr加熱する方法が挙げられる。
【0032】
本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法においては、必要に応じて、ステップS4の乾燥工程において又は乾燥工程の後に、冷却工程、粉砕工程及び分級工程などを行うこともできる。
【0033】
本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法においては、鹸化工程後のポリビニルアルコール樹脂を、スラリー状にして洗浄しているため、ペレット状又は粉状のポリビニルアルコール樹脂を洗浄する場合に比べて、低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の除去効率を高め、洗浄液使用量を低減することができる。また、メタノール及び水に加えて酢酸メチルを含有する洗浄液を使用して洗浄しているため、ポリビニルアルコール樹脂と洗浄液との相溶性が向上する。これにより、低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の除去効率をさらに高めることができる。さらに、洗浄液が酢酸メチル、メタノール及び水を特定の配合比で含有しているため、ポリビニルアルコール樹脂中の揮発分及び低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の除去効率が向上し、水に溶解した際の透明性を向上することができる。また、本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法における洗浄工程は、既存の設備を利用することが可能であるため、大規模な設備投資が不要である。
【0034】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るポリビニルアルコール樹脂の製造方法について説明する。本実施形態においては、鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂を、酢酸メチル、メタノール、及び水の合計100質量部に対して、酢酸メチル:50~98質量部、メタノール:1~49質量部及び水:0.01~1質量部を含有する洗浄液で段階的に洗浄する洗浄工程を有する。すなわち、本実施形態においては、洗浄工程は、洗浄及び濾過が順に複数回実施される。洗浄工程では、ポリビニルアルコール樹脂を当該洗浄液と混合して固形分濃度が30質量%以下のスラリーに調製することを含む。なお、本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法における「重合工程」、「鹸化工程」及び「乾燥工程」は、前述した第1の実施形態と同様である。また、洗浄工程を複数回実施すること以外は、特に断りのない限り、各回の「洗浄工程」の条件は前述した第1の実施形態と同様である。
【0035】
図2は本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法における洗浄工程を模式的に示すブロック図である。本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法においては、その洗浄及び濾過の回数は特に限定されるものではないが、水に溶解した際の透明性を向上させるには2回以上の洗浄及び濾過を行うことが好ましく、3回以上の洗浄及び濾過を行うことがより好ましい。
【0036】
図2に示すように、3段の洗浄を行う場合は、鹸化工程により得られたポリビニルアルコール樹脂と洗浄液を、1段目の洗浄槽に投入し、所定時間洗浄した後、濾過して洗浄液を分離する。引き続き、濾過後のポリビニルアルコール樹脂と洗浄液を、2段目の洗浄槽に投入し、所定時間洗浄した後、濾過して洗浄液を分離する。そして、濾過後のポリビニルアルコール樹脂を、3段目の洗浄槽で所定時間洗浄を行い、濾過した後、乾燥工程を行う。このように、多段で洗浄を行うことにより、ポリビニルアルコール樹脂に残留する低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂量を大幅に低減することができ、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した際の透明性を向上することができる。
【0037】
各段での洗浄時間は、500秒以上とすることが好ましく、1000秒以上とすることがより好ましい。これにより、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した際の透明性を向上することができる。
【0038】
このとき、後段になるほど、濾過効率を高くすることが好ましい。具体的には、1段目の濾過には液切り機などの濾過効率が低い装置を使用し、2段目ではそれよりも濾過効率が高いプレス濾過などを行い、3段目では、デコーンなどの濾過効率が高い装置を使用することが考えられる。このように、各段階の濾過効率を変えることにより、低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の除去性能と併せて、その後の乾燥効率を向上させることができる。
【0039】
本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法では、複数回実施する洗浄工程のうち、最後回の洗浄工程では未使用の洗浄液を使用し、最後回の洗浄工程で使用した洗浄液を濾過することで生じる濾液を順次その前の回の洗浄工程で使用することが好ましい。例えば、
図2に示すように、3段の洗浄を行う場合は、未使用の洗浄液は3段目の洗浄槽に投入し、2段目の洗浄には3段目の濾液を使用し、1段目の洗浄には2段目の濾液を使用することが好ましい。この場合、3段目に投入する洗浄液は、酢酸メチル、メタノール、及び水の合計100質量部に対して、酢酸メチル:50~98質量部、メタノール:1~49質量部、水:0.01~1質量部の割合で含有する組成のものを使用することができる。その場合、1段目及び2段目の洗浄液(濾液)には、洗浄液成分である酢酸メチル、メタノール及び水以外に、ポリビニルアルコール樹脂に不純物として混入していたアルデヒド類、アルコール類及び酢酸エステル類などが含まれることがある。
【0040】
この方法では、1段目の濾液は、洗浄により除去された低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂を多く含んでいるため、回収されて、精製される。なお、精製された洗浄液は、再度ポリビニルアルコール樹脂の洗浄に使用することもできる。このように、低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の含有量が少ない3段目から、2段目、1段目と洗浄液を順次繰り上げて使用することにより、低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の除去性能を低下させることなく、工程全体でも洗浄液の使用量を低減することができる。
【0041】
本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法では、多段洗浄を行っているため、同量の洗浄液を使用した場合で比較すると、1段洗浄の場合に比べて、ポリビニルアルコール樹脂中の低鹸化度ポリビニルアルコール樹脂の量を大幅に低減することができる。
【0042】
さらに、未使用の洗浄液を、最後段の洗浄槽に投入し、濾液を順次その前の段の洗浄液に使用することで、洗浄液の使用量を低減することが可能であるため、多段にすることによる製造コストの増加も抑制することができる。なお、本実施形態のポリビニルアルコール樹脂の製造方法における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【実施例】
【0043】
本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、洗浄条件を変えてポリビニルアルコール樹脂を製造し、その中に含まれる揮発分及び水に溶解した際の透明性を測定した。具体的には、先ず、ポリ酢酸ビニル:37.5質量部、メタノール62.5質量部に、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度:3質量%)を加え、50℃で鹸化して、平均重合度:1700、鹸化度:95mol%のポリビニルアルコール樹脂を得た。
【0044】
次に、容量が100Lの洗浄槽に、鹸化して得られたポリビニルアルコール樹脂と、酢酸メチル、メタノール及び水を所定の配合比で混合することで得た洗浄液とを投入して、下記表1、表2に示す組成のスラリーを調製し、下記表1、表2に示す洗浄段数でポリビニルアルコール樹脂の洗浄を行った。洗浄は、スラリーを洗浄槽で20分間、撹拌30rpmの条件で実施した。その後、スラリーを濾過して洗浄液を除去した。濾過は遠心分離法で実施した。洗浄段数が2以上の実施例においては、洗浄及び濾過を順に複数回実施した。そして、複数回実施する洗浄工程のうち、最後回の洗浄工程では未使用の洗浄液を使用し、最後回の洗浄工程で使用した洗浄液を濾過することで生じる濾液を順次その前の回の洗浄工程で使用した。濾過後、ポリビニルアルコール樹脂を、空気中、100℃のギアオーブンで3時間乾燥させ、ポリビニルアルコール樹脂を得た。得られたポリビニルアルコール樹脂に含まれる揮発分(酢酸メチル及びメタノール)の濃度を、ガスクロマトグラフィで測定した。また、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解した際の透明性を以下の手順で測定した。ポリビニルアルコール樹脂を濃度4wt%となるように純水で溶解して水溶液を得て、この水溶液を80℃の恒温槽で30分以上温調し、光路長20mmのセルを用いて80℃における全光線透過率を測定した。測定した結果を表1、表2に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
上記表2に示す比較例1、2では、洗浄液中のメタノール濃度が高く、ポリビニルアルコール樹脂中のメタノール量が多くなってしまった。また、比較例3、4では、洗浄液中の水濃度が高く、水溶液の透明性が悪化した。さらに、比較例5では、洗浄液中の固形分濃度が高く、水溶液の透明性が悪化した。
【0048】
これに対して、上記表1に示すように、本発明の範囲内で洗浄を行った実施例1~9では、揮発分が低く、水に溶解した際の透明性が良好なポリビニルアルコール樹脂を製造することができた。以上の結果より、本発明の方法を適用することでポリビニルアルコール樹脂中の揮発分が少なく、水に溶解した際の透明性が良好なことが確認された。