IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャンハイ ファーマシューティカルズ ホールディング カンパニー,リミティドの特許一覧

<>
  • 特許-窒素含有飽和複素環化合物の使用 図1
  • 特許-窒素含有飽和複素環化合物の使用 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】窒素含有飽和複素環化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20241031BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61K9/02
A61K9/19
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/70 401
A61K9/72
A61P9/12
A61P13/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023515103
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-19
(86)【国際出願番号】 CN2021116338
(87)【国際公開番号】W WO2022048614
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】202010921155.4
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514023416
【氏名又は名称】シャンハイ ファーマシューティカルズ ホールディング カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シア,グアンシン
(72)【発明者】
【氏名】ス,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シュエソン
(72)【発明者】
【氏名】ケ,イン
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-500385(JP,A)
【文献】特開2014-074024(JP,A)
【文献】国際公開第2012/124775(WO,A1)
【文献】特表2010-501524(JP,A)
【文献】特表2012-503665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/14
A61P 9/00- 9/14
A61P 13/00-13/12
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性心不全を合併した慢性腎不全の治療および/または予防のための薬剤の製造における、下記式Iで示される窒素含有飽和複素環化合物、またはその薬学的に許容される塩の使用。
【化1】
【請求項2】
前記薬学的に許容される塩は、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、エタン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、又はナフタレンジスルホン酸である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記薬学的に許容される塩は、式I化合物とリンゴ酸の1:1のモル比で形成される化合物であって、以下の構造式を有する化合物のリンゴ酸塩である、請求項1または2に記載の使用。
【化2】
【請求項4】
前記リンゴ酸は結晶性であり、そのX線粉末回折パターンは、2θが7.767°±0.2°、13.897°±0.2°、14.775°±0.2°、17.098°±0.2°、18.999°±0.2°、20.153±0.2°、20.960°±0.2°、21.423°±0.2°、26.348°±0.2°、27.892°±0.2°で特徴ピークを有する、請求項3記載の使用。
【請求項5】
前記リンゴ酸結晶体の粉末X線回折パターンは、さらに、2θが5.598°±0.2°、7.357°±0.2°、10.395°±0.2°、11.108°±0.2°、16.037°±0.2°、16.523°±0.2°、19.410°±0.2°、22.645°±0.2°、26.630°±0.2°、26.891°±0.2°、27.380°±0.2°、31.056°±0.2°、33.306°±0.2°、33.775°±0.2°、39.231°±0.2°で特徴ピークを有する、請求項4記載の使用。
【請求項6】
前記薬剤の剤形は、錠剤、カプセル剤、静脈注射剤、吸入剤、ネブライザー剤、凍結乾燥剤、パッチ剤、ゲル剤、スプレー剤、または坐剤を含む、請求項1又は2記載の使用。
【請求項7】
前記薬剤は単位用量である、請求項1又は2記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤の単位用量が、上記式Iで示される窒素含有飽和複素環化合物又はその薬学的に許容される塩を、25mg~200mgの範囲で含有する、請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記薬剤の単位用量が、上記式Iで示される窒素含有飽和複素環化合物又はその薬学的に許容される塩を、25mg、50mg、100mg、150mg、又は200mg含有する、請求項7記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性腎臓病の治療および/または予防のための薬剤の製造における、窒素含有飽和複素環化合物またはその薬学的に許容される塩の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
慢性腎臓病(chronic kidney disease、CKD)は、高い有病率、低い認知度、予後の悪さ、および高い医療費という特徴を持ち、心脳疾患、糖尿病、悪性腫瘍に次ぐ深刻な健康被害となっている。近年、CKDの有病率は年々増加し、一般人口における世界有病率は14.3%に達しており、中国では、横断面疫学による研究の結果、18歳以上人口のCKDの有病率は10.8%に達している。慢性腎臓病(CKD)は進行性疾患であり、治療が間に合わなければ病状の悪化が進展し、それに伴い、慢性腎臓病患者が腎不全に移行すると、人工透析や腎移植を行わなければ生存が困難となる恐れがある。現在、慢性腎臓病に特に有効な治療薬はないため、慢性腎臓病の治療に有効で、毒性の副作用が少ない薬剤を積極的に探すことが臨床的に大きな価値を持つ。
【0003】
CN103562191Bには、レニン阻害作用を示し、高血圧症の治療に用いることができる、下記に示す構造式の窒素含有飽和複素環化合物またはその薬学的に許容される塩が開示されている。
【化1】
【0004】
ここで、R1がシクロアルキル基等を示し、R22が置換されてもよいアリール基等を示し、Rが低級アルキル基等を示し、Tがカルボニル基を示し、Zが-O-等を示し、R3、R4、R5 及びR6が同一又は異なっており水素原子等を示す。
【0005】
CN106928218Aには、新規な薬学的に使用可能なモルホリン誘導体(窒素含有飽和複素環)の塩であって、それらのリンゴ酸塩、酒石酸塩、塩酸塩、酢酸塩およびナフタレンジホスホン酸塩を含み、酒石酸塩がA結晶、B結晶および二水和物の3種類の結晶性の塩型を持ち、リンゴ酸塩、塩酸塩および酢酸塩がそれぞれ1種類の結晶性の塩型を持ち、ナフタレンジホスホン酸塩が非晶質であることが開示されている。公知のモルホリン誘導体の遊離塩基と比較して、モルホリン誘導体の塩は、より優れた結晶形を有し、水溶性、光安定性、熱安定性が大幅に改善されているなど、1つ又は複数の改善された特性を有する。上記のモルホリン誘導体の塩、またはその結晶形は、高血圧の治療および/または予防のために使用することができる。
【発明の概要】
【0006】
本発明が解決しようとする課題として、先行技術において慢性腎臓病の治療に特に有効な薬剤がないことに対して、窒素含有飽和複素環化合物またはその薬学的に許容される塩の、慢性腎臓病の治療および/または予防用薬剤の製造における使用を提供することである。
【0007】
背景技術に記載された特許CN103562191Bおよび特許出願CN106928218Aの全部の内容は、参照することにより本明細書に組み込まれるものとする。
【0008】
本発明の一実施形態では、慢性腎臓病の治療および/または予防のための薬剤の製造における、下記式Iで示される窒素含有飽和複素環化合物、またはその薬学的に許容される塩の使用が提供される。
【化2】
【0009】
本発明のさらなる実施形態では、前記薬学的に許容される塩は、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、エタン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、酢酸塩又はナフタリンジスルホン酸塩である。
【0010】
本発明のさらなる実施形態では、前記薬学的に許容される塩は、リンゴ酸塩、酒石酸塩、塩酸塩、酢酸塩またはナフタレンジスルホン酸塩である。
【0011】
本発明の一実施形態では、前記薬学的に許容される塩は、式I化合物のリンゴ酸塩であり、この化合物は、以下の構造式を有する式I化合物とリンゴ酸の1:1のモル比で形成される化合物である。
【化3】
【0012】
本発明の一実施形態では、前記リンゴ酸は結晶体であり、そのX線粉末回折パターンは、2θが7.767°±0.2°、13.897°±0.2°、14.775°±0.2°、17.098°±0.2°、18.999°±0.2°、20.153±0.2°、20.960°±0.2°、21.423°±0.2°、26.348°±0.2°、27.892°±0.2°で特徴ピークを有する。特に、前記リンゴ酸結晶体の粉末X線回折パターンは、さらに、2θが5.598°±0.2°、7.357°±0.2°、10.395°±0.2°、11.108°±0.2°、16.037°±0.2°、16.523°±0.2°、19.410°±0.2°、22.645°±0.2°、26.630°±0.2°、26.891°±0.2°、27.380°±0.2°、31.056°±0.2°、33.306°±0.2°、33.775°±0.2°、39.231°±0.2°で特徴ピークを有する。特に、前記式I化合物のリンゴ酸塩結晶体は、図1に示すようなX線粉末回折パターンを有する。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記慢性腎臓病は、高血圧合併腎症、高血圧合併かつ糖代謝異常併発の腎症、慢性腎不全合併慢性心不全、又は糖代謝異常併発の慢性腎臓病を含む。
【0014】
本発明の一実施形態では、前記慢性腎臓病は、慢性腎臓病のステージG1、G2、G3a、G3b、G4を意味し、好ましくはステージG2、G3a又はG3bを意味する。
【0015】
本発明の一実施形態では、前記高血圧合併腎症における高血圧は、グレード1高血圧、グレード2高血圧又はグレード3高血圧であり、好ましくはグレード1高血圧又はグレード2高血圧である。
【0016】
本発明の一実施形態では、前記薬剤の剤形は、錠剤、カプセル剤、静脈注射剤、吸入剤、ネブライザー剤、凍結乾燥剤、パッチ剤、ゲル剤、スプレー剤、または坐剤を含み、好ましくは錠剤である。
【0017】
本発明の一実施形態では、前記薬剤は、単位用量である。
【0018】
本発明の一実施形態では、前記薬剤の単位用量として、上記式Iで示される窒素含有飽和複素環化合物又はその薬学的に許容される塩を、25mg~200mg、例えば25mg、50mg、100mg、150mg、200mg含有する。
【0019】
全米腎臓財団(NKF)のKDOQI(Kidney Disease Prognosis Quality Initiative)ワーキンググループは、2002年にCKDの定義と病期分類に関する基準を策定した。
【0020】
慢性腎臓病とは、腎臓の構造または機能に3ヶ月を超える異常があるものと定義される。慢性腎臓病の診断基準は、以下の表1のいずれかの指標を3ヶ月以上呈していることである。
【表1】
【0021】
慢性腎臓病の病期:慢性腎臓病は糸球体濾過量(GFR)により、以下の表2のように5段階に分類される。
【表2】
【0022】
高血圧の定義:収縮期血圧(SBP)≧140mmHg(1mmHg=0.133kPa)および/または拡張期血圧(DBP)≧90mmHgを、降圧剤を使用せずに同日以外の3回のオフィス測定で達成することを意味する。
【0023】
SBP≧140mmHg、DBP<90mmHgは単純収縮期高血圧とみなされる。高血圧の既往があり、現在降圧剤を服用している患者は、血圧が140/90mmHg未満であっても高血圧と診断すべきである。
【0024】
高血圧は、さらに血圧の上昇度合いによってレベル1、2、3に分類される。血圧のレベルの分類と定義は、以下の表3のとおりである。
【表3】
【0025】
心不全(Heart failure)は、心臓の構造的または機能的な異常の結果として、心室の充満または駆出能が損なわれる複合的な臨床症候群として定義されるものである。その主な臨床症状は、呼吸困難と脱力感(活動耐性の制限)、および体液貯留(肺うっ血と末梢水腫)である。
【0026】
心不全は、左室駆出率(left ventricular ejection fraction、LVEF)によって、駆出率低下型心不全(heart failure with reduced ejection fraction、HFrEF)、駆出率維持型心不全(heart failure with preserved ejection fraction、HFpEF)、駆出率中位型心不全(heart failure with mid-range ejection fraction、HFmrEF)という3つのタイプに分類され、それらの定義は、以下の表4のとおりである。
【表4】
【0027】
糖代謝異常は、糖尿病予備軍と糖尿病を含む。
【0028】
糖尿病予備軍とは、血糖値が正常範囲を超えたものの、糖尿病の診断基準には達していない状態、すなわち正常者と糖尿病患者の中間的な状態を指す。
【0029】
糖尿病は、高血糖、糖尿病、耐糖能異常、インスリン分泌異常などを特徴とする一群の一般的な代謝異常症である。
【0030】
本発明の積極的な進歩的効果は、慢性心不全を合併した慢性腎不全に患うアカゲザル(中年/老年)に窒素含有飽和複素環化合物塩を8週間継続投与することにより、本発明が提供する窒素含有飽和複素環化合物又はその薬学的に許容される塩が、高血圧合併腎症、高血圧合併かつ糖代謝異常併発の腎症、慢性腎不全合併慢性心不全、又は糖代謝異常併発の慢性腎臓病を含む、慢性腎臓病の予防又は治療に有効であることが証明されていることである。また、本発明により提供される窒素含有飽和複素環化合物またはその薬学的に許容される塩は、安全性が良好であり、投与に伴う有害事象は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の実施形態で使用する式I化合物のリンゴ酸塩のXRPDパターンである。
図2図2は、実施例3における静脈内(iv)および経口(po)投与後のサルにおける式I化合物の濃度-時間プロファイルである。ここで、サルは、1mg/kgの用量で静脈内投与され、1、3および9mg/kgの用量で経口投与された。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施形態によりさらに説明するが、本発明はこれによって説明された実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態では、特定の条件が示されていない試験方法は、従来の方法および条件に従うか、または取扱説明書に従って選択される。
【0033】
以下の実施例で使用した式I化合物のリンゴ酸塩は、特許出願開示CN106928218Aの実施例1に記載の製造方法に従って製造され、構造を確認した。バルサルタン(Valsartan)は市販品を購入した。用いたアカゲザルはSichuan Premi Xingzhi Biotechnology Company Limited (Premi Primate Research Centre)から購入された。
【表5】
【0034】
実施例1:慢性心不全を合併した慢性腎不全を患うアカゲザル(中年/老年)への式I化合物のリンゴ酸塩の8週間連続投与による有効性及び安全性評価試験
【0035】
1.研究の目的
【0036】
式I化合物のリンゴ酸塩の8週間継続投与による腎機能の改善、および腎機能発現の遅延または改善効果用量、作用強度、CVDイベントのリスクを評価し、臨床試験の用量設計、患者組み入れ基準、安全性に根拠を提供する。主要治療効果エンドポイント(ENDPOINT):1.腎機能の改善:糸球体濾過量eGFRcreat-cys、シスタチンC(CysC)、クレアチニン、およびUACR、2.心機能の改善:投与前後の心構造および収縮・拡張機能の変化を心エコーで解析、3.安全性指標:血圧、血中カリウム、糖・脂質代謝関連指標。
【0037】
2.試験システム
【0038】
2.1 自発的慢性腎不全のアカゲザル
【0039】
動物種:マカマ・マラッタ(アカゲザル)
【0040】
グレード:普通グレード。健康診断、結核菌検査2回、寄生虫検査、サルモネラ菌、ヘルコバクテリウム、Bウイルス検査を含む試験前の検疫は合格。
【0041】
動物識別:首リングにアラビア数字が刻まれたステンレス製ナンバープレート、胸にタトゥー。
【0042】
提供元:Yaan Premi Biotechnology Co.
【0043】
製造許可番号:SCXK(Chuan)2019-027。
【0044】
動物用適合証明書番号 0016710、0016944、0016966.
【0045】
2.2 入選基準
【0046】
14~24歳(40~70歳の成人に相当)のオス/メス23頭、体重はオス:8.45~14.93kg、メス1頭:6.43kgであった。
【0047】
3年以上の慢性的な糖・脂質代謝異常;糖代謝異常が、空腹時血糖値(FPG)>4.8mmol/l vs. 同年齢対照群 4.1±0.3mmol/lとした。
【0048】
CKD-EPI評価G3a~G3b、糸球体濾過量eGFR:30~59 ml/min/1.73m2; または中等度蛋白尿増加(A2~A3):尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が15 mg/g~350 mg/g(4~6時間尿採取)vs. 同年齢対照群3±2 mg/g。
【0049】
正常血圧、グレード1またはグレード2の高血圧(臨床患者基準と一致する)。
【0050】
HFrEF:LVEF30~49%(正常値:50~70% シンプソンバイプレーン法)またはHFpEF(中等度以上の障害):Ea<8またはE/Ea>10(臨床診断基準による)。
【0051】
2.3 除外基準
1) 慢性肝疾患(既知の活動性肝炎を含む)及び/又はスクリーニングにおけるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)>3倍正常上限値(ULN)である。
【0052】
2) 脂質異常症に関する除外基準:TC >7 mmol/l; TG >3.5 mmol/l。
【0053】
3) その他、本剤の効果判定に影響を及ぼす可能性のある既往歴がある。
【0054】
以下の表5は、ベースライン時のアカゲザルの慢性DKD腎不全の基礎的な病因と特徴を、被験者の各投与群で示したものである。
【表6】
【0055】
3. 試験設計
【0056】
3.1 グループ分けと投与設計
【0057】
本試験には3段階の動物が組み入れられ、第I段階では、式I化合物のリンゴ酸塩5mg/kg群3頭(#257、#4721、#287)およびプラセボ群2頭(#1029、#4713)という二つの群があり、第II段階では、式I化合物のリンゴ酸塩5mg/kg群3頭(#144、#5073、#6651)、およびバルサルタン群3頭(#2091、#4861、#6645)、プラセボ群2頭(#6653、#231)があり、第III段階では、式I化合物のリンゴ酸塩2mg/kg群5頭(#4829、#6501、#287、#4721、#2091)、化合物Iリンゴ酸塩1mg/kg群5頭(#1567、#4861、#5453、#6653、#5073)がある。
【0058】
そのうち、第I段階の2頭(#287と#4721)は約9ヶ月間、第II段階の4頭(#5073、#2091、#4861、#6653)は約5ヶ月間薬物投与を停止し、第III段階のベースライン期間に入った(ベースライン期間は1ヶ月間)。
【0059】
詳細は下記表6を参照する。
【表7】
【0060】
3.2 薬剤投与に関する情報
【0061】
投与経路:経口投与
【0062】
投与頻度:式I化合物のリンゴ酸塩を1日1回、バルサルタン投与群の投与期間1~2週目は1日1回、3~8週目は1日2回投与した。
【0063】
投与量の算出:各計量時の体重から翌週分の投与量を算出した。
【0064】
投与時期:08:00~09:00の間に投与した。
【0065】
3.3 主な効果指標
【0066】
糸球体濾過量 eGFRcreat-cys: クレアチニン (Cr-P), 尿素窒素 (BUN)、シスタチン ( CysC ) を測定し、eGFR 値を算出した。投与前に1回、投与後2週間ごとに1回検査した。
【0067】
eGFRmale =135 ×min(Cr/0.9,1)-0.207 ×max(Cr/0.9,1)-0.601 ×min(CysC/0.8,1)-0.375 ×max(CysC/0.8,1)-0.711 ×0.995Age×3
【0068】
eGFRfemale=135 ×min(Cr/0.7,1)-0.284 ×max(Cr/0.7,1)-0.601 ×min(CysC/0.8,1)-0.375 ×max(CysC/0.8,1)-0.711 ×0.995Age×3 ×0.969
【0069】
UACR:4h/6h採尿し、尿中マイクロアルブミン(MALB)と尿中クレアチニン(Cr-U)を測定し、UACR値を算出した。投与前に1回実施し、投与終了時に1回実施した。UACR=MALB / Cr-U 。
【0070】
血圧:麻酔後、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、平均血圧(MBP)を含む血圧、および心拍数(HR)を測定した。投与前に1回実施し、投与後の4週間と8週間のそれぞれに1回実施した。
【0071】
心臓GEドップラー超音波検査:1年以内に1回(入選動物)、投与前に1回(ベースライン期間のD-30日以内)、投与後の8週間に1回、歴史的心臓超音波検査を実施した。
【0072】
3.4 二次的効果指標
【0073】
投与前に2回、および投与期間中2週間ごとに、血中カリウムを検査した。
【0074】
糖・脂質代謝及び肝機能について:FPG, FRA, LDL-c, HDL-c, TG, TC, NT-proBNP, ALT, AST, TBIL 等を投与前に2回、及び投与期間中の4週と8週のそれぞれに1回実施した。
【0075】
他の生化学的パラメータおよび血液学的検査を、本剤投与前と投与後にそれぞれ1回ずつ実施した。
【0076】
体重:投与前1回、及び投与期間中1週間ごとに1回検査した。
【0077】
投与後に、毎日24時間で、食物摂取量と行動の変化を観察した。
【0078】
3.5 試験方法と装置
【0079】
試験方法:下記表7、表8を参照。
【0080】
血液検査機器:Siemens ADVIA 2120i Hematolagy Systems。
【0081】
血液生化学および尿検査用機器:Roche cobas6000 analyzer series C501モジュールで検査し、ELISA kitによりNT-proBNPを検査した。
【表8】
【表9】
【0082】
3.6 心臓 ドップラー超音波検査
【0083】
麻酔:塩酸ケタミン15mg/kgを筋肉内麻酔に使用し、獣医師の判断により、動物の麻酔状態に応じて、補助麻酔をそれぞれ初回投与量の1/2で実施した。
【0084】
検出方法:動物を左横臥位にし、6S-RSプローブ(周波数2.7~8.0MHz)を用いて画像取得を行った。
【0085】
解析:画像を保存し、解析ワークステーションであるEchoPAC Softwareを用いて連続した3心周期で繰り返し、収縮期および拡張期機能を測定した。
【0086】
検査指標と超音波診断法:下記表9を参照。
【0087】
検査機器:GE Vivid S5 カラードップラー超音波診断装置。
【0088】
3.7 血圧検査
【0089】
検査方法:動物に塩酸ケタミン15 mg/kgを筋肉注射して麻酔を行い、麻酔後仰臥位にして、左上腕の毛髪をきれいに剃り、標準通りに適当な大きさのカフを縛り、血液酸素プローブを動物の指または足の指(左手を除く)に挟んで、赤色の受光面を指の腹側に位置させ、自動モードを使って3回連続で動物の血圧を検査し、毎回1min間隔を空けて検査した。3回以上の血圧のDBP、SBPとMBPの差があまりない(最高値と最低値の差が15mmHg未満)場合、測定を終了した。
【0090】
検査指標:収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、平均血圧(MBP)、および心拍数(HR)を含んだ。
【0091】
検査機器:GE B40i 電気生理モニター。
【表10】
【0092】
3.8 臨床観察
【0093】
観測回数:1日1回
【0094】
観察方法:別ケージで観察。
【0095】
観察内容:注射部位、皮膚、被毛、眼、耳、鼻、口、胸、腹部、泌尿生殖器領域及び四肢、並びに呼吸、運動、排尿、排便及び行動の変化。
【0096】
3.9 食品摂取量の測定
【0097】
給餌方法:8時~9時、10時、14時、16時に1回ずつ与えて餌箱に餌があることを確認し、自由に食べさせ、翌日の07:40~08:00に残った餌を取り出した。
【0098】
給餌量:約250~500g/頭/日、試験中、24時間亘って餌箱で餌を確保し、動物を自由に餌を食べさせた。
【0099】
飼料摂取量測定法:飼料を半定量的に推定し、与えた飼料、捨てた飼料、箱に残した飼料を毎日記録した。飼料摂取量=与えた飼料-捨てた飼料-箱に残した飼料。
【0100】
3.10 重量測定
【0101】
計量時間:当日の給餌前。
【0102】
測定方法:動物を14~16時間絶食させてから計量し、意識下でトランスファーケージに入れた後、大型動物用体重計で計量した。
【0103】
検出機器:METTLER TOLEDO電子天秤。
【0104】
4.0 試験終止基準
【0105】
a. 重篤な有害事象が発生した。
【0106】
b. 重篤な感染症が発生した。
【0107】
5. 結果と分析
【0108】
5.1 UACRへの影響
【0109】
ベースラインの尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)≧15mg/g -350mg/g(4~6時間尿採取)を示す中等度から重度の蛋白尿増加を示すCKDアカゲザルを選び、各群のベースライン及び投与8週(W8)におけるアルブミン/クレアチニン比の変化を解析した結果を、以下の表10に示した。
【0110】
プラセボ群(n=4):試験期間W8終了時のUACRのベースラインに対する平均増加率は30.64±34.50%となり、4頭のタンパク尿UACRは一定の範囲内で安定して変動し、急激な進行が認められなかった。
【0111】
バルサルタン群(n=3、中等度から重度のタンパク尿増加も集計対象):W8を投与した2頭(#2091、#4861)はベースラインと比較してUACRが40~70%減少し、いずれも有益性を示した。1頭はベースラインでUACRが15mg/g、W8投与後のUACRが20.4%と有意差はなかったが、有益性を認めた。入選動物数が少ないため、プラセボ群と比較して統計学的な差が認められなかった。
【0112】
式I化合物のリンゴ酸塩(5mg/kg 1日1回(qd))群(n=6、中等度の高度の蛋白尿増加を認めた4/6頭を統計に含む):W8投与後のUACRの平均減少率はベースライン比46.87±36.93%で、プラセボ群と比較して有意な減少を示した(p<0.05)。ここで、W8投与によりベースラインと比較してUACRが60~70%低下した動物が3頭あり、いずれも有効性を示したが、1頭は有効性を示さなかった。
【0113】
式I化合物のリンゴ酸塩(2mg/kg qd)群(n=5、中等度から重度のタンパク尿増加の動物3/5を統計に含む):投与後のW8のUACRの平均減少率はベースラインと比較して66.00±17.42%であり、プラセボ群と比較して有意に減少した(p<0.01)。W8を投与した場合、3頭がベースライン比で約50%~80%のUACRの減少を示し、有効性を示した。
【0114】
式I化合物のリンゴ酸塩(1mg/kg qd)群(n=5、統計に含まれる中重度の蛋白尿増加動物2/5):投与後W8のUACRがベースラインと比較して1頭で39%減少、1頭は有効性を示さなかった。
【0115】
結論として、式I化合物であるリンゴ酸を2~5mg/kg qdで8週間投与することにより、タンパク尿(UACR)が有意に改善された。
【表11】
【0116】
5.2 糸球体濾過量eGFRcreat-cysへの影響
【0117】
各群のeGFRに対する影響を以下の表11および表12に示す。入選された各群のeGFRcreat-cys:30~59 ml/min/1.73m2、ベースラインおよび投与後W8までの糸球体濾過量の変化を分析した。
【0118】
プラセボ群(n=4):ベースラインと比較して、4頭の糸球体濾過量eGFRcreat-cysは一定の範囲で安定的に変動し、急激な進行を示さなかった。
【0119】
バルサルタン群(n=3):ベースラインと比較して、W8バルサルタン投与後の糸球体濾過量eGFRcreat-cysは平均6±2ml/min/1.73m2 増加し、プラセボ群の変化値に対して高い有意性を示し(p<0.01)、糸球体の悪化を有意に改善、時間依存的に有効性を示した。
【0120】
式I化合物のリンゴ酸塩(5 mg/kg qd)群(n=6):ベースラインと比較して、投与後のW8糸球体濾過量eGFRcreat-cysの平均増加量は6±6 ml/min/1.73m2であり、プラセボ群での変化と比較して有意な増加を示し(p<0.05)、時間依存的に有効性を示した。
【0121】
式I化合物のリンゴ酸塩(2 mg/kg qd)群(n=5):ベースラインと比較して、投与後のW8糸球体濾過量eGFRcreat-cysの平均増加量は3±3 ml/min/1.73m2であり、プラセボ群での変化と比較して有意な増加を示した(p < 0.05)。
【0122】
式I化合物のリンゴ酸塩(1 mg/kg qd)群(n=5):ベースラインと比較して、投与後のW8糸球体濾過量eGFRcreat-cysの平均増加量は3±4 ml/min/1.73m2であり、プラセボ群での変化と比較して有意な増加を示さなかった。
【0123】
結論として、式I化合物であるリンゴ酸を2-5mg/kg qdで8週間投与すると、糸球体濾過量eGFRcreat-cysが有意に改善された。
【表12】
【表13】
【0124】
5.3 CysC、Cr-PとBUNに対する影響
【0125】
投与後の各群のCysC、Cr-P、BUNに対する影響を以下の表13~表15に示す。
【表14】
【表15】
【表16】
【0126】
5.4 血圧への影響
【0127】
各投与群の薬物投与による血圧への影響を表16に示す。霊長類の血圧検査は、麻酔が必要であるため、統計するためには様々な時間帯で心拍変動の制御が必要であった。
【0128】
プラセボ群(n=4、2/4高血圧):ベースラインと比較して、4頭で血圧が範囲内で安定的に変動した。
【0129】
バルサルタン群(n=3、1/3頭高血圧):ベースラインと比較して、投与後W8で、SBP、DBPの平均減少量はそれぞれ14±4mmHg、7±0mmHgで、プラセボ群の変化量と比較して極めて有意な減少を示した(p<0.01)。
【0130】
式I化合物のリンゴ酸塩(5 mg/kg qd)群(n=6、4/6例高血圧):ベースラインと比較して、投与後W8で、SBP、DBPの平均減少量はそれぞれ21±8 mmHg、10±7 mmHg低下し、プラセボ群の変化量と比較して極めて有意な減少を示し(p<0.01)、時間依存的に有効性を示した。
【0131】
式I化合物のリンゴ酸塩(2 mg/kg qd)群(n=5、2/5例高血圧):ベースラインと比較して、投与後W8で、SBP、DBPの平均減少量はそれぞれ19±9 mmHg、9±8 mmHg低下し、プラセボ群の変化量と比較して極めて有意な減少を示し(p<0.01)、時間依存的に有効性を示した。
【0132】
式I化合物のリンゴ酸塩(1 mg/kg qd)群(n=5):ベースラインと比較して、投与後W8で、SBP、DBPの平均減少量はそれぞれ11±4 mmHg、5±4 mmHg低下し,プラセボ群の変化と比較して有意な低下を示した(p < 0.05).
【0133】
結論として、式I化合物のリンゴ酸塩1-5mg/kg qdを8週間投与したところ、すべて血圧低下作用が認められた。
【表17】
【0134】
5.5 心機能への影響
【0135】
心エコー指標に対する各群の影響を表17に示す。
【0136】
式I化合物のリンゴ酸塩の各用量群、バルサルタン群およびプラセボ群において、心臓の収縮機能および拡張機能に対する有意な有害作用は見られなかった。
【0137】
また、式I化合物のリンゴ酸塩の5mg/kg群2例では、アカゲザル動物において駆出率低下型心不全(SD)を示し(#5073、#287)、投与後8週目にLVEF%がベースラインと比較して上昇した。ただし、本製品が慢性心不全の治療効果を発揮できるかどうかについて、より後続の試験コホートのデータによるサポートが必要である。
【表18】
【0138】
5.6 心機能障害の血液バイオマーカーへの影響
【0139】
5.6.1 NT-proBNPに対する影響
【0140】
NT-proBNPに対する式I化合物のリンゴ酸塩の効果を表18に示す。
【0141】
各投与群の動物において、8週間投与後のNT-proBNP値にはベースライン期と比較して有意な変化は認められなかった。
【表19】
【0142】
5.6.2 K+に対する効果
【0143】
K+に対する式I化合物のリンゴ酸塩の影響を表19に示す。
【0144】
各投与群の動物において、8週間投与後の血清K+は、ベースライン時と比較して有意な変化は認められなかった。
【表20】
【0145】
5.7 安全性耐性試験
【0146】
投与中、式I化合物のリンゴ酸投与群では、投与に関連する有害事象は見られず、肝機能、腎機能、食物摂取量、体重、血液学的パラメータには有意な変化は見られなかった。
【0147】
6. まとめ
【0148】
式I化合物のリンゴ酸塩2~5mg/kg qdを8週間投与したところ、タンパク尿(UACR)が有意に改善され、糸球体濾過量eGFRcreat-cysも有意に改善され、バルサルタン群と同等の有効性が確認された。
【0149】
式I化合物のリンゴ酸塩を1~5mg/kg qdで8週間投与したところ、血圧降下作用が認められた。また、本試験の条件下では高カリウム血症のリスクは認められなかった。
【0150】
実施例2:式I化合物の前臨床安全性評価
【0151】
1.材料と方法
【0152】
1.1. 試験物質
【0153】
CN103562191Bの方法に従い、式I化合物を製造し、構造を確認した。溶媒は0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)である。式I化合物は、光と湿気から保護し、室温で保存された。カニクイザルにおける安全性試験のために、試験物質を0.5%CMC-Naに該当する濃度で懸濁させた。製造された懸濁液は、報告された用量の正しい投与を確実にするために、均質性、濃度および1週間安定性について分析された。医薬品有効成分(API)の6ヶ月加速安定性について試験を実施した。
【0154】
1.2. 動物飼育
【0155】
3-4歳の健康なオスとメスのカニクイザルは、Hainan New Source Biotechnology Ltd(中国・海南市)から提供された。投与開始時の体重範囲は、オスが3.2~5.8kgであり、メスが2.5~3.7kgである。試験前に36日間の馴れ期間をセットした。1日1回、午前中に食事と水を自由摂取させた。
【0156】
この非臨床試験研究は、中国食品医薬品局(CFDA)のガイドラインに従って実施された。試験は、国際試験動物飼育評価認定協会(AAA LAC)の承認を受けた施設で行われ、動物は試験動物の飼育と使用のためのガイド(Nussbergerら、2008年)に従って飼育した。
【0157】
1.3. 用量と治療スケジュール
【0158】
カニクイザル(5/sex/group)を体重ベースのコンピュータ無作為化手順を用いて選択し、式I化合物を鼻腔内投与した(用量レベルは0(対照)、20、100、450mg/kg/day、容量5ml/kg)。個々の投与量は、動物の体重に応じて毎週調整された。すべての群について、動物の2/3を無作為に選択し、28日目に安楽死させた。残りの動物は、薬剤の中止から28日後に安楽死させた。
【0159】
1.4. 臨床観察
【0160】
隔離期間が開始されてから、毎日死亡率と臨床症状を評価する。各動物の行動、薬物投与に対する反応、疾患の発症について、少なくとも1日2回確認した。
【0161】
観察項目は、皮膚・被毛の変化、眼球・粘膜、呼吸・循環・自律・中枢神経系および行動パターンを含むが、これらに限定されない。直腸温は、初回投与前(2回)、初回投与の1時間後および24時間後、26日目の投与前および投与1時間後と24時間後にそれぞれ測定された。体重は毎週測定された。サルの食物消費量は毎日推定された。携帯型スリットランプ(YZ2)と直視型検眼鏡(GFJY-01B)を用いてサルの検眼を実施した。
【0162】
1.5. 試験室測定
【0163】
サル試験では、隔離期間(01日目と02日目の2回)、14日目、28日目、56日目に、下記表20に示すように、以下のパラメータを測定した。(1) 血液・凝固指標は、Bayer ADVIA2120(ドイツ)及びSysmex CA-1500(日本)を用いて実施した。(2) 血清生化学検査は、HITACHI 7080自動分析装置(日本)およびEasylyte PLUS電解質分析装置(MEDICA、米国)を用いて評価した。(3) 24時間尿を各ケージの下にあるトレイを介して各動物から採取した。尿の分析は、Uritest-300(中国)を用いて行われた。(4) 各サルから24時間プールした糞便を各ケージ下のトレイを介して採取した。便潜血の検出を行った。(5) 心筋トロポニン(TropI、非GLP)検査にはACCESS 2 chemiluminescent immunoassayを使用した。
【表21】
【0164】
1.6. 通常心電図解析
【0165】
定期的な心電図解析は、各予定時刻(投与後1日目、投与後01日目、投与後02日目、投与後1日目の1時間と24時間、投与後56日目の1時間と24時間)で、通常ECG解析を行った。ECGシステムには、誘導体DII (ECG-6951E, Shanghai, China) を用い、P波、R波、T波、PR間隔、Q-T間隔、QRS時間、心拍数を記録した。
【0166】
1.7. 剖検と病理組織学
【0167】
曝露期(28日目)および回復期(56日目)の終了時に、目視による全動物の完全剖検を実施した。以下の選択された臓器を切り出し、重量を測定し、絶対重量および最終体重または脳重量に対する割合を評価した:脳、心臓、腎臓、腎臓、肝臓、脾臓、胸腺、精巣、副睾丸、子宮、卵巣、副腎および甲状腺(副甲状腺を含む)。次の組織を10%中性ホルマリンで保存した:脳、下垂体、甲状腺(副甲状腺を含む)、気管、心臓、膵臓、脾臓、副腎、前立腺、卵巣、子宮(頚管、卵管を含む)、膣、精巣、副睾丸、精嚢、食道、十二指腸、空腸、回盲部、結腸、直腸、腸間膜リンパ節、リンパ節、顎下腺腺リンパ節、大動脈、眼球、骨格筋、坐骨神経、大腿骨(骨端部を含む)、乳房、胸骨、唾液腺、脊髄、膀胱、肺(気管支を含む)、肝臓、腎臓、胃、骨髄(胸骨)、胸腺、胆嚢、明らかに病巣または腫瘤があるもの。肺組織は剖検時に固定剤に感染させた。すべての保存組織は包埋、切片化し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)で染色し、顕微鏡で観察した。塗抹標本(サル胸骨)と一対の埋込胸骨切片は、骨髄細胞の形態について検査した。
【0168】
1.8. トキシコキネティクス
【0169】
投与後の1日目と26日目の0時間、0.5時間、1.5時間、3時間、5時間、7時間、24時間に血液サンプルを採取した。毎回約1.0 mLの血液を静脈から採取し、EDTA-K2 抗凝固チューブに採取した。血液サンプルは氷上に置き、4℃で遠心分離(3500 rpm、5分間)して血漿サンプルを得、分析まで約-80℃で凍結させた。式I化合物のトキシコキネティックアッセイは、中国科学院上海医薬科学研究所で実施された。
【0170】
1.9. 統計解析
【0171】
各性別について、体重、直腸温、心電図、臓器重量、血液学的パラメータ、血清生化学的データを統計ソフトSAS9.3を用いて分析した。まず、分散の均質性をLeveneの検定で分析した。P > 0.05の場合、一元配置分散分析が用いられた。P < 0.05の場合、Kruskal-Wallis検定が使用された。得られたANOVAのp値が<0.05の場合、各グループを比較するためにDunnett t-testが使用された。結果のKruskal-Wallis testのp値が<0.05であった場合、データのランク変換後にDunnettのt-testを実施した。
【0172】
2.結果
【0173】
2.1. 臨床観察
【0174】
高用量群では、対照群に比べ体重増加量がわずかに減少したが(メス 2.7±0.4 vs. 3.2±0.2; オス 4.1±0.5 vs. 4.6±0.5)、統計学的有意差はなかった.
【0175】
投与に伴う早期死亡は高用量のメス1頭で23日目に発生し、臨床症状として運動機能低下、猫背、低体温、下痢、軽度の腸水疱および胸腺萎縮が見られた。他の動物では、投与に伴う臨床毒性の明らかな兆候は認められなかった。
【0176】
2.2. 血液学・凝固
【0177】
NEUT% の上昇と LYMPH% の低下がすべての投与群のメスと高用量のオスで認められた。また、中・高用量動物でFbgの上昇が、高用量メスでAPTTの上昇が認められた(Table 21)。
【表22】
【0178】
2.3. 血清生化学
【0179】
血清化学パラメータCPK、BUN、CREAは、高用量投与したオスメスのカニクイザルで有意に増加し、特に23日目に早期に死亡した個体で顕著であった(14日目のデータ、BUN:34.99、CREA:526)。CHOLは高用量投与オスで有意に低値であった。血清Na濃度は高用量投与群でわずかに低下したが、26日目には統計学的に有意であった。その他の統計学的に有意な発現は、毒性学的に重要でないと考えられる単独の事象であった(表 22)。
【表23】
【0180】
2.4.尿検査
【0181】
オスサル、メスサルのいずれにおいても、調べた尿検査項目のいずれにも有意な変化は報告されなかった。
【0182】
2.5. ECGパラメータ
【0183】
中用量群のメス 1 例で投与後 26 日目の 1 時間に QTc 間隔の延長が認められた(動物番号#303 の場合 296ms)。 QRS 間隔の延長を伴う洞性不整脈が高用量オス 1 例で投与後 26 日目の 1 時間に認められた(動物#411 では 60ms)。高用量メスでも投与後 1 日目と 26 日目の 1 時間で QRS 間隔の延長が認められた(表 23)。
【表24】
【0184】
2.6. 剖検
【0185】
2.6.1.全体的な病理と臓器の重さ
【0186】
サルの巨視的所見は、先に死亡したサルの軽度の腸管水疱及び胸腺の萎縮を除き、試験物質の投与に関連するものとは考えられなかった。高用量投与群では、肝臓及び腎臓の相対重量が高く、胸腺の相対重量が低く、子宮の絶対及び相対重量が低かった(表 24)。
【表25】
【0187】
2.7. トキシコキネティクス
【0188】
全身曝露量の比例増加(本化合物の原薬および主要代謝物の血漿中 AUC0-24h および Cmax で示される)は、投与量の比例増加よりも、 20-450 mg/kg の範囲ではるかに大きかった。28日間連続投与しても蓄積は認められなかった。
【0189】
実施例3:非臨床薬物動態試験
【0190】
1.材料と方法
【0191】
1.1. 材料
【0192】
CN103562191Bの方法に従い、式I化合物を製造し、構造を確認した。
【0193】
1.2. 動物
【0194】
カニクイザル(3/sex/group:体重3-5kg、年齢5-6歳)は蘇州西山中科試験動物(中国、上海)から入手した。この動物は、研究の前に7日間馴れた。サルを個別にケージに入れ、さらに温度(18-26℃)と湿度(50±20%)を制御可能な動物室に入れ、空気流量を10とし、1時間ごとに新鮮な空気を交換した。光照射周期は12時間点灯・12時間消灯となり、サルに飼料と水を1日1回で午前中に与えた。すべての動物試験は、AMMS動物愛護委員会が作成したGuide for the Care and Use of Animalsに準拠して行われた。
【0195】
2.式I化合物の静脈内および経口投与
【0196】
式I化合物を、一晩絶食させたカニクイザルに静脈内または経口投与した。投与量は、1 mg/kg(静脈内)、1 mg/kg、3 mg/kg、9 mg/kg(経口)であった。投与後の0.25、0.5、1、2、4、6、8、12および24時間にそれぞれ0、5および15分で静脈から血液サンプル(各時点で0.2 mL)を採取した。採取後、すぐにすべての血液試料を10,000×gで5分間遠心分離し、血漿を分析するまで-75 ± 10℃で保存した。血漿サンプルは、タンパク質沈殿により製造された。血漿中の式I化合物の濃度は、検証された液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析によって測定された。
【0197】
血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)、最大血漿中濃度(Cmax )、Cmax に達するまでの時間(Tmax )、半減期(T1/2 )、全身血漿クリアランス(CL)、平均滞留時間(MRT)、定常時の分布容積(Vss )などの薬物動態パラメータは WinNonlin v1.3 (Pharsight, Mountain View, CA, USA) を使用して、非心房室解析で算出した。異方性成長モデルについては、動物の薬物動態データを2コンパートメントモデルおよびKinetica 5.1 package (v.3.0; InnaPhase, Philadelphia, PA, USA)によりシミュレーションを実施した。
【0198】
3.結果
【0199】
血漿中薬物動態とバイオアベイラビリティ
【0200】
カニクイザルにおける静脈内及び経口投与時の薬物動態データを表 25 及び図 2 に示す。静脈内投与後、薬物濃度は二指数関数的に減少し、サルにおけるクリアランスは 1.96 L/h/kg、分布容積は 1.86 L/kg であった。経口投与後、式 I の化合物は 1.0-1.30 時間で Cmax となり、T1/2 の 2.73-5.99 時間で血漿中に消滅した。AUC0-24hを計算すると、サルにおける式I化合物の経口バイオアベイラビリティは3.3~11.3%であり、排出輸送タンパクの関与が示唆された。
【表26】
【0201】
CL iv後のクリアランス、Vss iv後の定常状態での分布容積、MRT 平均滞留時間、T1/2 半減期、Cmax 最大血漿濃度、Tmax Cmax に達する時間、AUCtot 血漿濃度時間曲線下面積の合計、CL/F 経口投与後クリアランス、Vss /F 経口投与後定常状態での分布容積、F 経口絶対バイオアベイラビリティ、iv 静脈静注、po 経口投与

図1
図2