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特許7579977寸法安定性が改善された低誘電ポリイミドフィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】寸法安定性が改善された低誘電ポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20241031BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20241031BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241031BHJP
   H05K 3/28 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
B32B27/34
B32B15/088
H05K1/03 670
H05K1/03 630H
H05K1/03 610N
H05K3/28 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023528934
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 KR2021016602
(87)【国際公開番号】W WO2022108265
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】10-2020-0153604
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペク,ソンヨル
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ミンサン
(72)【発明者】
【氏名】イ,キルナム
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/218693(WO,A1)
【文献】特開平09-176315(JP,A)
【文献】特開昭62-081421(JP,A)
【文献】特開平04-306232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0236359(US,A1)
【文献】国際公開第2019/194386(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/105889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
C08J 5/18
B32B 27/34
B32B 15/088
H05K 1/03
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とをイミド化反応させて得られた第1ブロックと、
ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分とをイミド化反応させて得られた第2ブロックと、を含むブロック共重合体を含
前記第1ブロックおよび前記第2ブロックのジアミン成分の総含量100モル%を基準として、m-トリジンの含量が15モル%以上45モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含量が55モル%以上85モル%以下であり、
前記第1ブロックおよび前記第2ブロックの二無水物酸成分の総含量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が20モル%以上55モル%以下であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が25モル%以上55モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含量が15モル%以上30モル%以下であり、かつ
誘電損失率(Df)が0.004以下であり、熱膨張係数(CTE)が19ppm/℃以下であり、ガラス転移温度(Tg)が330℃以上である、
ポリイミドフィルム。
【請求項2】
(a)第1二無水物酸成分および第1ジアミン成分を有機溶媒中で重合して第1ポリアミック酸を製造するステップと、
(b)第2二無水物酸成分および第2ジアミン成分を有機溶媒中で重合して第2ポリアミック酸を製造するステップと、
(c)前記第1ポリアミック酸および第2ポリアミック酸を有機溶媒中で共重合して第3ポリアミック酸を製造するステップと、
(d)前記第3ポリアミック酸を含む前駆体組成物を支持体上に製膜した後、イミド化するステップと、を含み、
前記第1二無水物酸成分はビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含み、
前記第2二無水物酸成分はベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含み、
前記第1ジアミン成分はパラフェニレンジアミン(PPD)を含み、
前記第2ジアミン成分はm-トリジン(m-tolidine)を含む、ポリイミドフィルムの製造方法であり、
前記第1ジアミンおよび前記第2ジアミン成分の総含量100モル%を基準として、m-トリジンの含量が15モル%以上45モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含量が55モル%以上85モル%以下であり、
前記第1二無水物酸および前記第2二無水物酸成分の総含量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が20モル%以上55モル%以下であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が25モル%以上55モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含量が15モル%以上30モル%以下であり、かつ
前記ポリイミドフィルムの誘電損失率(Df)が0.004以下であり、前記ポリイミドフィルムの熱膨張係数(CTE)が19ppm/℃以下であり、前記ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)が330℃以上である、
ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のポリイミドフィルムと熱可塑性樹脂層を含む、多層フィルム。
【請求項4】
請求項1に記載のポリイミドフィルムと電気伝導性の金属箔を含む、フレキシブル金属張積層板。
【請求項5】
請求項4に記載のフレキシブル金属張積層板を含む、電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性(特に、ガラス転移温度特性)と寸法安定性(特に、熱的寸法安定性)が向上した低誘電ポリイミドフィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(polyimide、PI)は、強固な芳香族主鎖とともに、化学的安定性に非常に優れたイミド環を基にするものであって、有機材料の中でも、最高レベルの耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料である。
特に、優れた絶縁特性、すなわち、低い誘電率といった優れた電気的特性により、電気、電子、光学分野などに至るまで、高機能性の高分子材料として脚光を浴びている。
近年、電子製品の軽量化、小型化に伴い、集積度が高く、かつ柔軟な薄型回路基板が活発に開発されている。
かかる薄型回路基板は、優れた耐熱性、耐低温性、および絶縁特性を有し、かつ屈曲が容易なポリイミドフィルム上に、金属箔を含む回路が形成されている構造が多く活用されている傾向にある。
このような薄型回路基板としては、フレキシブル金属張積層板が主に用いられており、例えば、金属箔として薄い銅板を用いるフレキシブル銅張積層板(Flexible Copper Clad Laminate、FCCL)が挙げられる。他にも、ポリイミドを薄型回路基板の保護フィルム、絶縁フィルムなどに活用することもある。
【0003】
一方、近年、電子機器に多様な機能が内在されていることから、前記電子機器には、速い演算速度と通信速度が求められており、これを満たすために、高周波で高速通信が可能な薄型回路基板が開発されている。
高周波高速通信を実現するために、高周波でも電気絶縁性を維持することができる高いインピーダンス(impedance)を有する絶縁体が必要である。インピーダンスは、絶縁体に形成される周波数および誘電定数(dielectric constant;Dk)と反比例の関係を有するため、高周波でも絶縁性を維持するためには、誘電定数ができる限り低い必要がある。
しかしながら、通常のポリイミドは、その誘電特性が、高周波通信で十分な絶縁性を維持できる程度に優れるレベルではないことが現状である。
また、絶縁体が低誘電特性を有するほど、薄型回路基板で望ましくない浮遊容量(stray capacitance)とノイズの発生を減少させることができるため、通信遅延の原因を相当部分解消することができると知られている。
したがって、低誘電特性のポリイミドが、薄型回路基板の性能において何よりも重要な要因と認識されている状況である。
特に、高周波通信においては、ポリイミドによる誘電損失(dielectric dissipation)が必然的に発生するが、誘電損失率(dielectric dissipation factor;Df)は薄型回路基板の電気エネルギーの浪費の程度を意味し、通信速度を決定する信号伝達遅延と密接に関連するため、ポリイミドの誘電損失率ができる限り低く維持することも、薄型回路基板の性能において重要な要因と認識されている。
また、ポリイミドフィルムに湿気が多く含まれるほど、誘電定数が大きくなり、誘電損失率が増加する。ポリイミドフィルムは、優れた固有の特性を有するため薄型回路基板の素材として好適であるのに対し、極性を呈するイミド基により湿気に相対的に弱く、これにより、絶縁特性が低下する恐れがある。
特に、従来の低誘電ポリイミドフィルムは、ガラス転移温度が低くなって耐熱性が低下するという問題があった。かかる耐熱性の低下により、フィルム形態の製造に困難をきた
していた。
これを改善するために、ポリイミドフィルムのガラス転移温度を高める場合、誘電特性が低下する(誘電損失率が増加する)という問題が発生した。また、高いガラス転移温度により熱膨張係数が減少し、フレキシブル銅張積層板(Flexible Copper
Clad Laminate、FCCL)の製造時に銅箔との不整合(mismatching)が発生することもあった。
したがって、ポリイミドの特有の機械的特性、熱的特性などを一定のレベルに維持しながらも、誘電特性、特に、低誘電損失率を有するポリイミドフィルムの開発が必要とされている状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国特許公開第10-2015-0069318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、上記のような問題を解決すべく、本発明は、高い寸法安定性と低誘電特性を兼ね備えるポリイミドフィルム、およびその製造方法を提供することを目的とする。
そこで、本発明は、その具体的な実施例を提供することを実質的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような目的を達成するための本発明の一実施形態は、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3’,4,4’-Biphenyltetracarboxylic dianhydride、BPDA)を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(p-Phenylenediamine、PPD)を含むジアミン成分とをイミド化反応させて得られた第1ブロックと、
ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(3,3’,4,4’-Benzophenonetetracarboxylic dianhydride、BTDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(Pyromellitic dianhydride、PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分とをイミド化反応させて得られた第2ブロックと、を含むブロック共重合体を含む、ポリイミドフィルムを提供する。
【0007】
前記第1ブロックおよび前記第2ブロックのジアミン成分の総含量100モル%を基準として、m-トリジンの含量が15モル%以上45モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含量が55モル%以上85モル%以下であってもよい。
また、前記第1ブロックおよび前記第2ブロックの二無水物酸成分の総含量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が20モル%以上55モル%以下であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が25モル%以上55モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含量が15モル%以上30モル%以下であってもよい。
前記ポリイミドフィルムは、誘電損失率(Df)が0.004以下であり、熱膨張係数(CTE)が19ppm/℃以下であり、ガラス転移温度(Tg)が330℃以上であってもよい。
【0008】
本発明の他の実施形態は、(a)第1二無水物酸成分および第1ジアミン成分を有機溶媒中で重合して第1ポリアミック酸を製造するステップと、
(b)第2二無水物酸成分および第2ジアミン成分を有機溶媒中で重合して第2ポリアミック酸を製造するステップと、
(c)前記第1ポリアミック酸および第2ポリアミック酸を有機溶媒中で共重合して第
3ポリアミック酸を製造するステップと、
(d)前記第3ポリアミック酸を含む前駆体組成物を支持体上に製膜した後、イミド化するステップと、を含み、
前記第1二無水物酸成分はビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含み、
前記第2二無水物酸成分はベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含み、
前記第1ジアミン成分はパラフェニレンジアミン(PPD)を含み、
前記第2ジアミン成分はm-トリジン(m-tolidine)を含む、ポリイミドフィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
上述のように、本発明は、特定の成分および特定の組成比からなるポリイミドフィルムおよびその製造方法により、熱的寸法安定性および低誘電特性を兼ね備えるポリイミドフィルムを提供することで、このような特性が求められる多様な分野、特に、フレキシブル金属張積層板などの電子部品などに有用に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下で、本発明に係る「ポリイミドフィルム」および「ポリイミドフィルムの製造方法」の順に発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0011】
その前に、本明細書および請求範囲に用いられた用語や単語は、通常的かつ辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者が自らの発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則にしたがって本発明の技術的思想にかなう意味と概念で解釈されなければならない。
したがって、本明細書に記載の実施例の構成は、本発明のもっとも好ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想の全部を代弁しているわけではないため、本出願時点においてこれらに代替可能な多様な均等物と変形例があり得ることを理解すべきである。
【0012】
本明細書において、単数の表現は、文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」、または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、ステップ、構成要素、またはこれらの組み合わせが存在することを指定しようとするものであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、構成要素、またはこれらの組み合わせなどの存在または付加可能性をあらかじめ排除するものではないと理解されるべきである。
【0013】
本明細書において、量、濃度、または他の値もしくはパラメータが、範囲、好ましい範囲、または好ましい上限値および好ましい下限値として挙げられる場合、範囲が別に開示されているかを問わず、任意の一対の任意の上側範囲の限界値または好ましい値、および任意の下側範囲の限界値または好ましい値からなる全ての範囲を具体的に開示するものとして理解されるべきである。
数値の範囲が本明細書で言及される場合、別に記載しない限り、その範囲は、その終点およびその範囲内の全ての整数と分数を含むことを意図する。本発明の範疇は、範囲を定義する際に言及される特定値に限定されないことを意図する。
【0014】
本明細書において、「二無水物酸」は、その前駆体または誘導体を含むものを意図するが、これらは、技術的には二無水物酸ではないことがあるが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸はさらにポリイミドに変換され得る。
【0015】
本明細書において、「ジアミン」は、その前駆体または誘導体を含むものを意図するが、これらは、技術的にはジアミンではないことがあるが、それにもかかわらず、ジアンハイドライドと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸はさらにポリイミドに変換され得る。
【0016】
本発明に係るポリイミドフィルムは、
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とをイミド化反応させて得られた第1ブロックと、
ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分とをイミド化反応させて得られた第2ブロックと、を含むブロック共重合体を含むポリイミドフィルムである。
【0017】
前記第1ブロックおよび前記第2ブロックのジアミン成分の総含量100モル%を基準として、m-トリジンの含量が15モル%以上45モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含量が55モル%以上85モル%以下であってもよい。
特に、好ましくは、m-トリジンの含量は20モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含量は60モル%以上80モル%以下であってもよい。
m-トリジンは、特に、疎水性を呈するメチル基を有しているため、ポリイミドフィルムの低吸湿特性に寄与する。
【0018】
また、前記第1ブロックおよび前記第2ブロックの二無水物酸成分の総含量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が20モル%以上55モル%以下であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が25モル%以上55モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含量が15モル%以上30モル%以下であってもよい。
特に、好ましくは、前記ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が25モル%以上50モル%以下であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が30モル%以上50モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含量が20モル%以上27モル%以下であってもよい。
【0019】
本発明のビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドに由来のポリイミド鎖は、電荷移動錯体(CTC:Charge transfer complex)と命名された構造、すなわち、電子供与体(electron donnor)と電子受容体(electron acceptor)が互いに近接して位置する規則的な直線構造を有することになり、分子間相互作用(intermolecular interaction)が強化される。
【0020】
また、カルボニルグループを有しているベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドも、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドと同様にCTCの発現に寄与することになる。
このような構造は、水分との水素結合を防止する効果があるため、吸湿率を低めるのに影響し、ポリイミドフィルムの吸湿性を低める効果を極大化することができる。
【0021】
一つの具体例において、前記二無水物酸成分は、ピロメリティックジアンハイドライドをさらに含んでもよい。ピロメリティックジアンハイドライドは相対的に強固な構造を有する二無水物酸成分であり、ポリイミドフィルムに適切な弾性を与えることができる点から好ましい。
ポリイミドフィルムが適切な弾性と吸湿率をともに満たすためには、二無水物酸の含量
比が特に重要である。例えば、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量比が減少するほど、前記CTC構造による低い吸湿率を期待しにくくなる。
【0022】
また、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドは、芳香族部分に該当するベンゼン環を2個含むのに対し、ピロメリティックジアンハイドライドは、芳香族部分に該当するベンゼン環を1個含む。
【0023】
二無水物酸成分において、ピロメリティックジアンハイドライドの含量の増加は、同一の分子量を基準としたときに、分子内のイミド基が増加することであると理解すればよく、これは、ポリイミド高分子鎖において、前記ピロメリティックジアンハイドライドに由来のイミド基の割合が、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドに由来のイミド基に比べて相対的に増加することであると理解すればよい。
すなわち、ピロメリティックジアンハイドライドの含量の増加は、ポリイミドフィルムの全体においても、イミド基の相対的な増加とみなされ、これにより、低い吸湿率を期待しにくくなる。
逆に、ピロメリティックジアンハイドライドの含量比が減少すると、強固な構造の成分が相対的に減少することになり、ポリイミドフィルムの弾性が、所望のレベル以下に低下する恐れがある。
【0024】
このような理由から、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が上記の範囲を上回るか、ピロメリティックジアンハイドライドの含量が上記の範囲を下回る場合、ポリイミドフィルムの機械的物性が低下し、フレキシブル金属張積層板を製造するための適切なレベルの耐熱性を確保することができない。
逆に、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が上記の範囲を下回るか、ピロメリティックジアンハイドライドの含量が上記の範囲を上回る場合、適切なレベルの誘電定数、誘電損失率、および吸湿率の達成が困難であるため、好ましくない。
【0025】
前記ポリイミドフィルムは、誘電損失率(Df)が0.004以下であり、熱膨張係数(CTE)が19ppm/℃以下であり、ガラス転移温度(Tg)が330℃以上であってもよい。
好ましくは、前記ポリイミドフィルムは、誘電損失率(Df)が0.0036以下であり、熱膨張係数(CTE)が13.9ppm/℃以上、18.8ppm/℃以下であり、ガラス転移温度(Tg)が335℃以上、355℃以下であってもよい。
前記ポリイミドフィルムの低い誘電損失率と高いガラス転移温度は、ブロック共重合体の第1ブロックのビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドとパラフェニレンジアミンの含量比を最適化することで確保される。特に、高いガラス転移温度によるポリイミドフィルムの耐熱性の向上により、フィルムの製膜性が確保される。
【0026】
また、ブロック共重合体の第2ブロックのベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド、ピロメリティックジアンハイドライド、およびm-トリジンの含量比の最適化により、ポリイミドフィルムの耐熱性と低誘電特性がさらに強化される。
特に、前記低誘電ポリイミドフィルムの熱膨張係数の範囲は銅箔の熱膨張係数の範囲と一致するため、FCCLの製造時における銅箔との不整合を最小化することができる。
これに関連して、誘電損失率(Df)、ガラス転移温度、および熱膨張係数を何れも満たすポリイミドフィルムは、フレキシブル金属張積層板用の絶縁フィルムとして活用可能であるだけではなく、製造されたフレキシブル金属張積層板が、10GHz以上の高周波
で信号を伝送する電気的信号伝送回路に用いられる際にも、その絶縁安定性が確保されることができ、信号伝達遅延も最小化することができる。
上記の条件を何れも有するポリイミドフィルムは、今まで知られていない新規なポリイミドフィルムであり、以下では、誘電損失率(Df)について詳細に説明する。
【0027】
<誘電損失率>
「誘電損失率」は、分子の摩擦が、交番電場により引き起こされた分子運動を妨害する時に、誘電体(または絶縁体)により消滅される力を意味する。
誘電損失率の値は、電荷の消失(誘電損失)の容易さを表す指数として通常用いられ、誘電損失率が高いほど電荷が消失されやすくなり、逆に誘電損失率が低いほど電荷が消失されにくくなる。つまり、誘電損失率は電力損失の尺度であって、誘電損失率が低いほど、電力損失による信号伝送遅延が緩和され、通信速度が速く維持されることができる。
これは、絶縁フィルムであるポリイミドフィルムに強く求められることであり、本発明に係るポリイミドフィルムは、10GHzの非常に高い周波数下で、誘電損失率が0.004以下であることができる。
【0028】
本発明において、ポリアミック酸の製造としては、例えば、
(1)ジアミン成分の全量を溶媒中に入れ、その後、二無水物酸成分をジアミン成分と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(2)二無水物酸成分の全量を溶媒中に入れ、その後、ジアミン成分を二無水物酸成分と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン成分の一部成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対して、二無水物酸成分の一部成分を約95~105モル%の割合で混合した後、残りのジアミン成分を添加し、これに連続して残りの二無水物酸成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(4)二無水物酸成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対して、ジアミン化合物の一部成分を95~105モル%の割合で混合した後、他の二無水物酸成分を添加し、引き続き、残りのジアミン成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(5)溶媒中で、一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分を何れか一方が過量となるように反応させて第1組成物を形成し、他の溶媒中で、一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分を何れか一方が過量となるように反応させて第2組成物を形成した後、第1、第2組成物を混合し、重合を完結する方法であって、この際、第1組成物の形成時にジアミン成分が過剰である場合には、第2組成物では二無水物酸成分を過量とし、第1組成物で二無水物酸成分が過剰である場合には、第2組成物ではジアミン成分を過量として第1、第2組成物を混合することで、これらの反応に用いられる全ジアミン成分と二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法などが挙げられる。
但し、前記重合方法が上記の例のみに限定されるものではなく、前記第1~第3ポリアミック酸の製造では、公知の何れの方法を用いてもよいことは言うまでもない。
【0029】
一つの具体例において、本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法は、
(a)第1二無水物酸成分および第1ジアミン成分を有機溶媒中で重合して第1ポリアミック酸を製造するステップと、
(b)第2二無水物酸成分および第2ジアミン成分を有機溶媒中で重合して第2ポリアミック酸を製造するステップと、
(c)前記第1ポリアミック酸および第2ポリアミック酸を有機溶媒中で共重合して第3ポリアミック酸を製造するステップと、
(d)前記第3ポリアミック酸を含む前駆体組成物を支持体上に製膜した後、イミド化するステップと、を含み、
前記第1二無水物酸成分はビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(B
PDA)を含み、
前記第2二無水物酸成分はベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含み、
前記第1ジアミン成分はパラフェニレンジアミン(PPD)を含み、
前記第2ジアミン成分はm-トリジン(m-tolidine)を含んでもよい。
前記第1ジアミン成分および前記第2ジアミン成分の総含量100モル%を基準として、m-トリジンの含量が15モル%以上45モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含量が55モル%以上85モル%以下であってもよい。
【0030】
また、前記第1二無水物酸および前記第2二無水物酸成分の総含量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が20モル%以上55モル%以下であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含量が25モル%以上55モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含量が15モル%以上30モル%以下であってもよい。
【0031】
本発明では、上記のようなポリアミック酸の重合方法を任意(random)重合方式と定義することができ、上記のようなステップにより製造された本発明のポリアミック酸から製造されたポリイミドフィルムは、誘電損失率(Df)および吸湿率を低める本発明の効果を極大化する点から好ましく適用可能である。
【0032】
但し、前記重合方法は、前述の高分子鎖内の繰り返し単位の長さが相対的に短く製造されるため、二無水物酸成分に由来のポリイミド鎖が有するそれぞれの優れた特性を発揮するには限界があり得る。よって、本発明で特に好ましく使用可能なポリアミック酸の重合方法は、ブロック重合方式であってよい。
【0033】
一方、ポリアミック酸を合成するための溶媒は特に限定されなく、ポリアミック酸を溶解させる溶媒であれば何れの溶媒も使用可能であるが、アミド系溶媒であることが好ましい。
具体的には、前記溶媒は有機極性溶媒であってもよく、詳細には、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよい。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)からなる群から選択される1つ以上であってもよいが、これに制限されず、必要に応じて、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
一つの例において、前記溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドが特に好ましく使用できる。
【0034】
また、ポリアミック酸の製造工程では、摺動性、熱伝導性、耐コロナ性、ループスティフネスなどのフィルムの諸特性を改善する目的で、充填材を添加してもよい。添加される充填材としては特に限定されないが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0035】
充填材の粒径は特に限定されず、改質すべきフィルム特性と添加する充填材の種類によって決定すればよい。一般には、平均粒径が0.05~100μm、好ましくは0.1~75μm、さらに好ましくは0.1~50μm、特に好ましくは0.1~25μmである。
粒径がこの範囲を下回ると、改質の効果が現れにくく、この範囲を上回ると、表面性が大きく損なわれるか、機械的特性が大きく低下することがある。
【0036】
また、充填材の添加量についても特に限定されず、改質すべきフィルム特性や充填材の粒径などによって決定すればよい。一般に、充填材の添加量は、ポリイミド100重量部に対して0.01~100重量部、好ましくは0.01~90重量部、さらに好ましくは0.02~80重量部である。
充填材の添加量がこの範囲を下回ると、充填材による改質の効果が現れにくく、この範囲を上回ると、フィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。充填材の添加方法は特に限定されず、公知の何れの方法を用いてもよい。
【0037】
本発明の製造方法において、ポリイミドフィルムは、熱イミド化法および化学イミド化法により製造されることができる。
また、熱イミド化法および化学イミド化法が併行される複合イミド化法により製造されることもできる。
【0038】
前記熱イミド化法とは、化学的触媒を排除し、熱風や赤外線乾燥器などの熱源でイミド化反応を誘導する方法である。
前記熱イミド化法は、前記ゲルフィルムを100~600℃の範囲の可変温度で熱処理することで、ゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができ、詳細には200~500℃、より詳細には300~500℃で熱処理することで、ゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができる。
但し、ゲルフィルムを形成する過程でもアミック酸の一部(約0.1モル%~10モル%)がイミド化することができ、そのために、50℃~200℃の範囲の可変温度でポリアミック酸組成物を乾燥することができ、これも前記熱イミド化法の範疇に含まれ得る。
化学イミド化法は、当業界で公知の方法により脱水剤およびイミド化剤を用いてポリイミドフィルムを製造することができる。
複合イミド化法の一例として、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を投入した後、80~200℃、好ましくは100~180℃で加熱し、部分的に硬化および乾燥した後、200~400℃で5~400秒間加熱することで、ポリイミドフィルムを製造することができる。
【0039】
以上のような製造方法により製造された本発明のポリイミドフィルムは、誘電損失率(Df)が0.004以下であり、熱膨張係数(CTE)が19ppm/℃以下であり、ガラス転移温度(Tg)が330℃以上であることができる。
【0040】
本発明は、上述のポリイミドフィルムと熱可塑性樹脂層を含む多層フィルム、および上述のポリイミドフィルムと電気伝導性の金属箔を含むフレキシブル金属張積層板を提供する。
【0041】
前記熱可塑性樹脂層としては、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂層などが適用可能である。
【0042】
使用する金属箔としては、特に限定されないが、電子機器または電気機器の用途に本発明のフレキシブル金属張積層板を用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む金属箔であってもよい。
一般的なフレキシブル金属張積層板では、圧延銅箔、電解銅箔といった銅箔が多く用いられており、本発明でも好ましく使用できる。また、これらの金属箔の表面には、防錆層、耐熱層、または接着層が塗布されていてもよい。
本発明において、前記金属箔の厚さについては特に限定されるものではなく、その用途に応じて、十分な機能を発揮できる厚さであればよい。
【0043】
本発明に係るフレキシブル金属張積層板は、前記ポリイミドフィルムの一面に金属箔がラミネートされているか、前記ポリイミドフィルムの一面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層が付加されており、前記金属箔が接着層に付着した状態でラミネートされている構造であってもよい。
本発明は、また、前記フレキシブル金属張積層板を電気的信号伝送回路として含む電子部品を提供する。前記電気的信号伝送回路は、少なくとも2GHzの高周波、詳細には、少なくとも5GHzの高周波、さらに詳細には、少なくとも10GHzの高周波で信号を伝送する電子部品であることができる。
前記電子部品は、例えば、携帯端末機用通信回路、コンピュータ用通信回路、または宇宙航空用通信回路であってもよいが、これに限定されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、発明の具体的な実施例により、発明の作用および効果をより詳述する。但し、このような実施例は、発明の例示として提示されるものにすぎず、これにより発明の権利範囲が決まるのではない。
【0045】
<製造例>
撹拌器および窒素注入・排出管を備えた500mlの反応器に窒素を注入させながらDMFを投入し、反応器の温度を30℃以下に設定した後、ジアミン成分としてパラフェニレンジアミンと、二無水物酸成分としてビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドを投入し、完全に溶解されたことを確認した。窒素雰囲気下で、40℃に温度を上げて加熱しつつ120分間撹拌を続いた後、23℃での粘度が200,000cPを示す第1ポリアミック酸を製造した。
撹拌器および窒素注入・排出管を備えた500mlの反応器に窒素を注入させながらNMPを投入し、反応器の温度を30℃に設定した後、ジアミン成分としてm-トリジン、二無水物酸成分としてベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびピロメリティックジアンハイドライドを投入し、完全に溶解されたことを確認した。窒素雰囲気下で、40℃に温度を上げて加熱しつつ120分間撹拌を続いた後、23℃での粘度が200,000cPを示す第2ポリアミック酸を製造した。
次いで、前記第1ポリアミック酸および第2ポリアミック酸を、窒素雰囲気下で40℃に温度を上げて加熱しつつ120分間撹拌を続いた後、23℃での最終粘度が200,000cPを示し、ジアミン成分および二無水物酸成分を下記表1のように含む第3ポリアミック酸を製造した。
上記で製造された第3ポリアミック酸を、1,500rpm以上の高速回転により気泡を除去した。その後、スピンコータを用いて、ガラス基板に脱泡されたポリイミド前駆体組成物を塗布した。その後、窒素雰囲気下および120℃の温度で30分間乾燥してゲルフィルムを製造し、前記ゲルフィルムを450℃まで2℃/分の速度で昇温し、450℃で60分間熱処理し、30℃まで2℃/分の速度で冷却することで、ポリイミドフィルムを得た。
その後、蒸留水にディッピング(dipping)し、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離させた。製造されたポリイミドフィルムの厚さは15μmであった。製造されたポリイミドフィルムの厚さは、Anritsu社のフィルム厚さ測定器(Electric Film thickness tester)を用いて測定した。
【0046】
<実施例1~4および比較例1~5>
前述の製造例により製造するに際し、二無水物酸成分およびジアミン成分の組成比を下記表1に示すように調節した。
但し、比較例3は、第1ポリアミック酸および第2ポリアミック酸の製造時に、それぞれ13mol%と15mol%のベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドを使用した。
【0047】
【表1】
【0048】
<実験例>誘電損失率、熱膨張係数、およびガラス転移温度の評価
実施例1~実施例4、および比較例1~比較例5でそれぞれ製造したポリイミドフィルムに対して、誘電損失率、熱膨張係数、およびガラス転移温度を測定し、その結果を下記表2に示した。
(1)誘電損失率の測定
誘電損失率(Df)は、抵抗計Agilent4294Aを用いて、フレキシブル金属張積層板を72時間放置して測定した
(2)熱膨張係数の測定
熱膨張係数(CTE)は、TA社の熱機械分析器(thermomechanical
analyzer)Q400モデルを用い、ポリイミドフィルムを幅4mm、長さ20mmに切り出した後、窒素雰囲気下で0.05Nの張力を加えながら、10℃/minの速度で常温から300℃まで昇温後、さらに10℃/minの速度で冷却しつつ、100℃から200℃の区間の勾配を測定した。
(3)ガラス転移温度の測定
ガラス転移温度(T)は、DMAを用いて各フィルムの損失弾性率と貯蔵弾性率を求め、これらのタンジェントグラフで変曲点をガラス転移温度として測定した。
【0049】
【表2】
【0050】
前記表2に示したように、本発明の実施例により製造されたポリイミドフィルムは、誘電損失率が0.004以下であって、著しく低い誘電損失率を示すだけでなく、熱膨張係数およびガラス転移温度が所望のレベルであることが確認できる。
つまり、熱膨張係数の範囲が13.9~18.8ppm/℃であって、19ppm/℃以下の範囲に該当し、これは、FCCLに用いられる銅箔の熱膨張係数の範囲(約14~19ppm/℃)にも該当するため、FCCLの製造時におけるポリイミドフィルムと銅箔との不整合を最小化することができる。
また、ガラス転移温度が330℃以上に該当し、本発明のポリイミドフィルムの耐熱性が適切なレベルであることが確認できた。
このような結果は、本願で特定された成分および組成比により達成されることであり、各成分の含量が決定的な役割を果たすことが分かる。
【0051】
これに対し、実施例と異なる組成比を有する比較例1~5のポリイミドフィルムは、実施例のポリイミドフィルムと比べて、誘電損失率、熱膨張係数、およびガラス転移温度の何れか一側面以上で、ギガ単位の高周波で信号の伝送が行われる電子部品に用いられるには困難さがあると予想される。
【0052】
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、上記の内容に基づき、本発明の範疇内で多様な応用および変形を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、特定の成分および特定の組成比からなるポリイミドフィルム、およびその製造方法により、熱的寸法安定性および低誘電特性を兼ね備えるポリイミドフィルムを提供することで、かかる特性が求められる多様な分野、特に、フレキシブル金属張積層板などの電子部品などに有用に適用可能である。