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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】MoO2 Cl2の製造
(51)【国際特許分類】
   C01G 39/04 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C01G39/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023550718
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 EP2021083966
(87)【国際公開番号】W WO2022135866
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】20020649.8
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523169855
【氏名又は名称】エス・ケイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】エベルト,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】フレイ,アニカ
(72)【発明者】
【氏名】ラウ,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ショルン,ボルフ
(72)【発明者】
【氏名】カルヒ,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナー,エイリーン
(72)【発明者】
【氏名】ドッピウ,アンゲリノ
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/021786(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/171742(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102632245(CN,A)
【文献】国際公開第2020/084852(WO,A1)
【文献】特開平06-093314(JP,A)
【文献】国際公開第2020/086344(WO,A1)
【文献】特開2019-104659(JP,A)
【文献】国際公開第2019/213115(WO,A1)
【文献】ROBERT L. Graham et al.,Heats of Formation of Molybdenum Oxychlorides,The Journal of Physical Chemistry,1959年,63,723-724
【文献】KANDASAMY Jeyakumar and DILLIP K Chand,Application of molybdenum(VI) dichloride dioxide (MoO2Cl2) in organic transformations,Journal of Chemical Sciences,2009年,Vol. 121, No. 2,pp. 111-123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
49/10-99/00
B22F 9/00- 9/30
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器と受入容器とが移行領域を介して接続された装置を用い、不活性条件下でMoO2Cl2を製造する方法であって、以下のステップ:
(i)前記反応容器にMoO2 を充填する、
(ii)前記反応容器内で、MoO2 を供給されたCl2 と第1の温度T1 で反応させ、ガス状のMoO2Cl2に変換する、
(iii) 前記反応容器内のガス状のMoO2Cl2、前記移行領域を介して前記受入容器に移送する、
(iv)ガス状のMoO2 Cl2前記受入容器内で、T1 より低い第2の温度T2で固体状のMoO2 Cl2に再昇華させる、および
(v)ICP-OES/MSで特定した純度が99.9996wt.%以上の固体MoO2Cl2 を得る、
を含み、
前記第1の温度T 1 が170~600°Cであり、
前記第2の温度T 2 が10~90°Cである、製造方法
【請求項2】
ステップ(v)において、ICP-OES/MSによって特定された純度が99.99969wt.%以上である固体MoO2 Cl2を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(v)において、ICP-OES/MSによって特定されたタングステン含有量が200ppb以下である固体MoO2Cl2 を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の温度T1 が200~500°C 、および/または第2の温度T2 が20~90°C である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(iii)が160°C以上の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(ii)において、Cl2のガス流量が0.01~1L/minである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(ii)において、不活性ガスが追加的に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
不活性ガスのガス流量が0.05~0.4L/minである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(i)の前に、前記反応容器と前記受入容器を不活性ガスでフラッシングすることにより不活性化する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(v)で得られたMoO2 Cl2が、続くステップ(vi)で昇華および新たな再昇華によりさらに精製される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
モリブデン含有層を製造する方法であって、請求項1に記載の方法により得られたMoO2Cl2 が、モリブデン含有層を形成するために前駆体として蒸着に使用される方法。
【請求項12】
モリブデン含有層を製造するための前駆体として使用されるMoO 2 Cl 2 を製造する、請求項に記載の方法
【請求項13】
請求項11に従って製造されたモリブデン含有層を含む電子部品を製造する、電子部品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化モリブデン二塩化物(MoO2 Cl2 )の製造方法およびそのような方法によって得られるMoO2 Cl2 、その使用および電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先行技術
モリブデン含有層は、電子部品、例えばいわゆるフラッシュメモリ、に頻繁に使用されている。このようなモリブデン含有層は、多くの場合、蒸着によって製造される。このような蒸着において、モリブデンの前駆体として、MoO2 Cl2 が使用されることが多くなっている。モリブデン含有層の有利な電子特性を達成するためには、特に純粋なMoO2 Cl2 を使用することが望まれる。特に、MoO2 Cl2 には、電子特性を損なう可能性のある金属不純物ができるだけ含まれていないことが望ましい。特に、タングステンはモリブデン含有層の電子特性を損なう可能性があるため、ここでは不純物としてタングステンに着目している。このように、できるだけタングステンを含まないMoO2 Cl2 が特に望まれる。
【0003】
MoO2 Cl2 の製造はそれ自体既知である。例えば、Schrockら(J. Am. Chem. Soc., 1990, 112, 3875-3886)は、酸化モリブデン(IV)(MoO2 )と塩素ガス(Cl2 )からMoO2 Cl2 を製造することを述べている。反応容器内の反応は160°Cで行われる。試験装置の更なる積極的な温度設定は行われない。Cl2のガス流量は指定されず、生成された MoO2 Cl2 の純度も決定されない。
【0004】
モリブデン粉末の調製方法は、CN 102632245 Aから知られており、MoO2 と Cl2 を反応させることにより中間体MoO2 Cl2 が生成される。反応が行われる雰囲気に関する情報は与えられていない。また、中間体として生成されるMoO2 Cl2 の純度についても記載がない。中間体として生成したMoO2 Cl2 は、その後、水性アンモニアと反応させ、パラモリブデン酸アンモニウムを得る。これを酸化モリブデン(VI)(MoO3 )に変換し、これより最終的にモリブデン粉末を得る。
【0005】
EP 3 656 741 A1 は、減圧下で酸化モリブデンとCl2から酸化モリブデン塩化物を製造する方法を開示している。製造される酸化モリブデン塩化物は、MoO2Cl2 に加えて、酸化モリブデン三塩化物(MoOCl3 )および酸化モリブデン四塩化物(MoOCl4 )からなる。例示的な実施形態では、MoO2Cl2 は、MoO3 を Cl2 と反応させることによって製造される。製造されたMoO2Cl2 の純度は、99.9995 wt.%に制限される。
【0006】
MoO2 Cl2 を製造するために先行技術で使用されている方法は、場合によってはまだ改良の必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の目的
本発明は、少なくとも部分的に、そして可能な限り完全に、先行技術の欠点を克服するMoO2 Cl2を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
本発明の特定の目的は、特に純粋なMoO2 Cl2 、特にタングステンの含有量が低いMoO2 Cl2 を製造する方法を提供することである。
【0009】
また、本発明は、少なくとも部分的に、可能な限り完全に、先行技術の欠点を克服するモリブデン含有層の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
本発明の目的はさらに、少なくとも部分的に、そして可能な限り完全に先行技術の欠点を克服したMoO2Cl2 を提供することであり、特に純度が向上したMoO2 Cl2を提供することである。
【0011】
また、本発明の目的は、少なくとも部分的に、そしてできる限り完全に、先行技術の欠点を克服する、モリブデン含有層を製造するための前駆体としてのMoO2 Cl2 の使用を提供することである。
【0012】
また、本発明の目的は、少なくとも部分的に、可能な限り完全に、先行技術の欠点を克服した、モリブデン含有層を有する電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の開示
驚くべきことに、本発明の目的は、特許請求の範囲に従った方法、製品および使用によって達成される。
【0014】
本発明は、不活性条件下でMoO2 Cl2 を製造する方法に関するもので、以下のステップを含む:
(i) 反応容器にMoO2 を充填する、
(ii) 反応容器内で、MoO2 を供給されたCl2 と第1の温度T1 で反応させ、ガス状のMoO2 Cl2 に変換する、
(iii) ガス状のMoO2 Cl2 を受入容器に移送する、
(iv) ガス状のMoO2 Cl2 を受入容器内で、T1より低い第2の温度T2 で固体状のMoO2 Cl2に再昇華させる、および
(v) ICP-OES/MSで特定した純度が99.9996wt.%以上の固体MoO2 Cl2を得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による方法は、不活性条件下で実施され、好ましくは連続的に不活性条件下で実施される。本方法はこのようにステップ(ii)で供給されるCl2 を除き、他の反応性ガスまたは物質を除いて実施される。従って、本方法は、好ましくは、酸素を除き、および/または空気を除き、および/または水を除いて実施される。本方法は、特に好ましくは、純粋なCl2 の雰囲気中、またはCl2 -N2の混合物の雰囲気中で実施される。
【0016】
本発明による方法は、さらに、唯一のモリブデン含有物および/または唯一の酸化性出発物質としてMoO2を用いて実施される。特に、本発明による方法では、MoOまたはMoO3のような他のモリブデン酸化物は使用されない。しかしながら、供給されたMoO2は、不純物、特にタングステン(W)のような金属不純物を含んでいてもよい。また、本発明によれば、MoO2Cl2 に加えて、本発明による方法において他の酸化モリブデン塩化物が生成されないこと、特にMoOCl3 および/またはMoOCl4 が生成されないことが好ましい。
【0017】
ステップ(v)で得られたMoO2 Cl2 の純度は、結合型ICP-OES/MSによって決定される。励起源として誘導結合プラズマ(ICP)が使用される。まず、MoO2 Cl2を不活性ガス流(例えばアルゴン流)に導入し、そこに高周波エネルギーを誘導結合により無電極的に伝達する。この目的のために使用される周波数は、通常25~100MHzの範囲にある。使用される発電機の出力は、通常1~10kWである。ここで、不活性ガス流は、通常10,000Kまでの温度に加熱される。その結果、MoO2 Cl2が原子化またはイオン化される。得られた遊離原子および/またはイオンは、原子発光分光分析(OES、Optical Emission Spectrometry)により光学的に、または質量分析(MS)により分析される。
【0018】
溶液中の元素は、一般に誘導結合プラズマを用いた発光分光分析(ICP-OES;またはICP-AES、ICP-atomic spectrometry)により検出・定量することができる。測定する溶液を上記のように霧化させ、形成されたエアロゾルを高周波プラズマに導入し、溶液成分を原子化し一部をイオン化させる。原子やイオンの特徴的な輝線をモノクロメーターやポリクロメーターで分解し、その輝線強度を適切な検出器で検出する。測定は、軸方向および/または半径方向に実施することができる。本発明によれば、軸方向の測定がより高感度であるため、測定は好ましくは軸方向に行われる。定量的な決定のためには、発光の信号強度と元素の濃度との間に線形相関があるため、適切な標準溶液を用いて校正を実施することができる。本発明によれば、ICP-OESの測定原理が、DIN EN ISO 11885(1997)/DEV E22および/または化学分析のためのガイドライン、ICP-OESによる環境試料中の元素組成の決定、
[フラウンホーファー分子生物学および応用生態学研究所]、Auf dem Aberg 1, D-57392 Schmallenberg, Germanyに準拠することが好ましい。
【0019】
溶液中の元素は、一般に誘導結合プラズマを用いた質量分析法(ICP-MS)により検出・定量することができる。測定する溶液を上記のように霧化させ、高周波プラズマに導入し、溶液成分を原子化およびイオン化させる。イオンはピンホールアパーチャーシステムにより高周波プラズマから抽出され、質量電荷比により分離される。分離後、検出器に検知され、得られた信号を装置ソフトウェアで評価する。イオンの信号強度と元素の濃度との間には直線的な相関があるため、標準液で校正した後に定量が可能である。本発明によれば、ICP-MSの測定原理が、DIN EN ISO 17294-2:2017-01(水質-誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)の応用-第2部:ウラン同位体を含む選択元素の決定(ISO 17294-2:2016); ドイツ版EN ISO 17294-2:2016)および/または化学分析のガイドライン、ICP-MSによる環境サンプル中の元素組成の決定、
[フラウンホーファー分子生物学および応用生態学研究所], Auf dem Aberg 1, D-57392 Schmallenberg, Germanyに準拠することが好ましい。
【0020】
OESとMSの2つの分析手法をカップリングすることで、幅広い元素の分析が可能となる。例えば、軽い元素はOESでは判定が困難である。しかし、MSを同時に使用することで、それらを判定することができる。そのため、分析手法のカップリングが必要である。2つの分析法で決定された元素比率は、同じ元素について一貫している、つまり、通常の測定精度の範囲内で一貫した結果を提供する。
【0021】
本発明によれば、結合ICP-OES/MSには、iCap、iCap DuoまたはiCap RQの名称を有するThermo Fischer社製の装置を使用することが好ましい。
【0022】
ICP-OES/MSによる測定により、得られたMoO2Cl2 の不純物、特にタングステンなどの金属不純物をppbの範囲("parts per billion"; 10億分の一)で決定することが可能である。本明細書で提示するppb値またはppb限界は、不純物のそれぞれの検出限界に対応する。
【0023】
本発明による方法は、特に純粋なMoO2 Cl2 を製造することを可能にし、特にタングステン含有量の低いMoO2 Cl2 を製造することを可能にする。本発明によれば、ステップ(v)で得られたMoO2 Cl2 の純度が99.99969wt.%以上であることが好ましい。このような純度の高いMoO2Cl2 により、電子特性がさらに改善されたモリブデン含有層を製造することが可能となる。
【0024】
本発明によれば、ステップ(v)で得られた固体MoO2 Cl2 において、再びICP-OES/MSで測定されたタングステン含有量が200ppb以下、特に好ましくは50ppb以下であることが更に好ましい。不純物としてのタングステンは、モリブデン含有層の電子特性を特に損なう可能性がある。本発明による低いタングステン含有量のために、そのような障害を回避することができ、電子特性をさらに向上させることができる。
【0025】
タングステンに加えて、MoO2 Cl2 は、任意に、非常に少量の他の不純物、特に、Ag、Al、Au、B、Ba、Be、Bi、Ca、Cd、Ce、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Ge、Hf、In、Ir、K、La、Li、Mg、Mn、Na、Nb、Ni、Pb、Pd、Pt、Rb、Rh、Ru、Sb、Se、Sn、Sr、Te、Th、Ti、Tl、U、V、W、ZnおよびZr のような(半)金属不純物を含むことがある。この場合、本発明によれば、ステップ(v)で得られたMoO2 Cl2 が、互いに独立して考慮されるこれらの不純物の個々の1つに関して、≦300ppb以下、より好ましくは≦200ppb以下、さらに好ましくは≦100ppb以下、特に好ましくは≦50ppb以下および最も好ましくは≦20ppb以下の含量を有することが好ましい。MoO2Cl2 におけるそのような不純物の本発明による低い含有量のおかげで、そこから得られるモリブデン含有層の電子特性をさらに向上させることができる。
【0026】
本発明によれば、ステップ(ii)において、第1の温度T1 が170°C以上であることが好ましく、より好ましくは170以上600°C以下まで、さらに好ましくは200以上500°C以下まで、特に好ましくは350以上450°C 以下まで、そして400°C であることが、最も好ましい。このような温度により、一方では高温による反応速度の向上、他方では過剰な高温による不必要なエネルギー消費との間の妥協点を達成することが可能となる。ここで、ある好ましい実施形態では、反応容器が、温度T1 が前述の温度範囲内で異なって設定される、異なる物理的および/または理論的反応ゾーンに分割されることも可能である。
【0027】
ステップ(ii)において、温度を制御または調節することができる反応容器を使用することが好ましい。例えば、ロータリーキルン、スタティックキルン、またはダウンパイプキルンが使用される。本発明によれば、異なる加熱(および冷却)が可能な異なる反応ゾーンを有するロータリーキルンであることが好ましい。このようなキルンでは、キルン内に1つ以上の温度勾配を設定することが可能であり、ステップ(ii)で製造されるMoO2 Cl2 の純度をさらに向上させることに寄与することができる。
【0028】
本発明によれば、ステップ(iv)において、第2の温度T2 が160°C 以下であることが好ましく、より好ましくは10以上120°C 以下まで、さらに好ましくは20以上90°C 以下まで、特に好ましくは25以上70°C 以下までであり、70°C であることが最も好ましい。このような温度により、MoO2 Cl2 の高い収率と、再昇華時のMoO2 Cl2 への不純物の低い取り込みとの間の妥協点を達成することが可能となる。
【0029】
本発明によれば、本発明による方法の開始と終了の間で、第2の温度T2を変化させることが特に好ましい。この場合、受入容器内の温度T2 を高い温度から低い温度、好ましくは90°C から20°C まで、より好ましくは70°C から25°C に下げることが特に好ましい。このような温度制御により、ステップ(iv)における再昇華の際に、MoO2 Cl2 の純度を特に高く設定することが可能になる。
【0030】
ステップ(iv)では、好ましくは、温度を制御または調節することができる受入容器が使用される。例えば、受けフラスコが使用される。あるいは、ガス状のMoO2 Cl2 が再昇華するコールドトラップを使用することもできる。再昇華したMoO2 Cl2 は、通常の方法で受けフラスコから取り出すか、コールドトラップから熱的に切り離すことができる。
【0031】
本発明によれば、第1の温度T1 、第2の温度T2 が上記で規定したように同時に設定されることが、特に好ましい。したがって、以下の温度ペアまたは温度制御が特に好ましい:
T1 ≧ 170°C 、およびT2 ≦ 160°C ;
T1 ≧ 170 ~≦ 600°C、およびT2≧ 10 ~ ≦ 120°C;
T1 ≧ 200 ~≦ 500°C 、およびT2≧ 20 ~ ≦ 90°C;
T1 ≧ 350 ~≦ 450°C 、およびT2≧ 25 ~ ≦ 70°C;
T1 = 400°C、およびT2= 70°C;
T1 ≧350~≦450°C 、およびT2 はプロセス開始時に90°C で、プロセス終了時までに20°C まで下げる;
T1 = 400°C 、およびT2はプロセス開始時に70°C で、プロセス終了時までに25°C まで下げる。
【0032】
これらの温度ペアや温度制御により、反応速度の向上、エネルギー消費の低減、高収率、そして不純物の混入の低減を両立させることができる。
【0033】
本発明によれば、ステップ(iii)が160°C 以上の温度で実施されることも好ましい。このような温度は、MoO2 Cl2 の早期再昇華を防止することを可能にし、それによって、受入容器における収量を増加させることができる。
【0034】
本発明によれば、ステップ(ii)において、Cl2のガス流量が0.01~1L/min、より好ましくは0.05~0.8L/minであることがさらに好ましい。このようなガス流により、一方では反応速度の向上と収率の増加、他方では不必要な塩素の使用とそれに続く可能性のある未使用塩素の廃棄問題との間の妥協点を達成することが可能になる。
【0035】
本発明によれば、ステップ(ii)において、不活性ガス、好ましくは窒素(N2 )が追加供給されることがさらに好ましい。このように追加供給される不活性ガス、特にN2 は、不活性条件下で本発明による方法をさらに安全に実施することを可能にする。本発明によれば、不活性ガス、特にN2 のガス流量が0.05~0.4L/min、より好ましくは0.1~0.3L/min、特に好ましくは0.2L/minであることが特に好ましく、ガス流量の選択はキルンサイズおよび構成によって異なり、それに相応して適合されるべきである。不活性ガス、特にN2 のこのようなガスフローは、不必要に大量の不活性ガスを使用することなく、不活性状態をさらに良好に維持することを可能にする。さらに、このようなガスフローにより、ガス状のMoO2 Cl2 を反応容器から受入容器に輸送することを改善することができる。N2 に加えて、他の不活性ガス、例えばアルゴン(Ar)を使用することも可能である。Arを使用することで、MoO2 Cl2 の純度をさらに向上させることができる。本発明によれば、コストが低いため、N2 を使用することが最も好ましい。
【0036】
本発明によれば、ステップ(ii)において、Cl2のガス流量が0.01~1L/min、より好ましくは0.05~0.8L/minで、同時にN2を0.05~0.4L/min、より好ましくは0.1~0.3L/minのガス流量で供給するのも好ましい(0.01~1L/minのCl2と0.05~0.4L/min のN2; 0.05~0.8L/minのCl2と0.05~0.4L/min のN2;0.01~1L/minのCl2と0.1~0.3L/min のN2 ;または0.05~0.8L/minのCl2と、0.1~0.3L/min のN2)。本発明によれば、ステップ(ii)において、Cl2を0.8L/minのガス流で供給し、N2を0.2L/minのガス流で供給することが最も好ましい。このようなガス流により、反応速度、収率の向上、Cl2 の不要な使用とそれに伴う廃棄問題、および不活性ガスを過度に使用しない不活性状態の維持とガス状MoO2 Cl2 の輸送の改善との間のさらに改善された妥協点を達成することが可能である。
【0037】
本発明によれば、反応容器、受取容器、および任意に反応容器と受取容器との間に配置される移行領域が、不活性ガス、好ましくは窒素でフラッシングすることにより、ステップ(i)の前に不活性化されることもまた、好ましい。一般に慣用されているように、「不活性化」は、装置内に不活性条件を設定することを意味すると理解される。不活性ガスでフラッシングすることにより、本発明による方法の不活性条件は、特に迅速かつ効率的に設定することができる。本発明によれば、本発明による方法が減圧のステップを含まないこと、特に反応容器および/または受入容器内の圧力を低下させるステップを含まないことも好ましいことである。
【0038】
本発明によれば、ステップ(v)で得られたMoO2Cl2 が、続くステップ(vi)で昇華および新たな再昇華によりさらに精製されることも好ましい。あるいは、ステップ(vi)において、ステップ(v)で得られたMoO2Cl2 をさらに精製するために、再結晶などの他の精製方法を使用することもできる。これにより、純度がさらに向上したMoO2 Cl2 を提供することが可能となる。このようなMoO2 Cl2 は、その後の方法、特に蒸着法において、電子特性が改善された特に純粋なモリブデン含有層に変換することができる。本発明によれば、それに応じて、本発明による方法が、生成された固体MoO2 Cl2 を湿式化学的に処理するステップを有さないこと、特に、生成された固体MoO2 Cl2 を水性アンモニアと反応させるステップを有さないことが、好ましい。このような反応では、通常、塩化水素(HCl)が形成される。しかし、HClの形成は、本発明によれば、その廃棄に関する問題がないように、また、HClによって反応容器および受容容器を含む使用される装置の望ましくない腐食の危険性がないように、回避されなければならない。
【0039】
本発明はまた、モリブデン含有層を製造する方法に関し、この方法は、本発明による方法であって、その後に、すなわちステップ(v)の後、またはステップ(vi)の後に実行される場合には、ステップ(v)またはステップ(vi)で得られたMoO2Cl2 を、モリブデン含有層を形成するために前駆体として蒸着に使用することを含んでいる。本発明によれば、蒸着には、化学気相成長法(CVD)または原子層堆積法(ALD)が用いられることが好ましい。
【0040】
化学気相成長法(CVD)は、一般に基材の表面またはその近傍で起こる気相反応である。反応に関与する反応物質は、気体の形でコーティングされる基板に同時に供給される。基板は反応室内に配置され、加熱される。通常予熱された気体は、加熱された基板によって熱的に活性化され、互いに反応する。この工程で、所望の材料が堆積され、化学的に結合される。所望の材料の化学吸着が起こり、すなわち、本発明ではモリブデンの化学吸着が起こる。
【0041】
ALDプロセスは、原子層堆積法とも呼ばれ、CVDプロセスを改良したものである。ALDプロセスでは、表面が完全に覆われると、表面での反応や収着はそれ自体で停止する。この自己限定的な反応は、間に挟まれたフラッシングステップに限定されながら、数サイクルで行われる。このため、非常に精密な層厚を実現することができる。
【0042】
また、本発明は、本発明による方法によって得られるMoO2 Cl2 に関するものである。そのようなMoO2 Cl2 は、高純度のMoO2Cl2 であり、例えば3D-NANDのようなフラッシュメモリに使用する場合、電子特性、特に保存特性が改善された高純度のモリブデン含有層を製造するための前駆体として特に適している。このようなMoO2 Cl2 は、好ましくは水分含有量の少ないMoO2 Cl2 であり、特に好ましくは無水または乾燥MoO2 Cl2 である。
【0043】
また、本発明は、ICP-OES/MSで測定した純度が0.9996wt.%以上、より好ましくは0.99969wt.%以上であるMoO2 Cl2に関する。この場合、MoO2 Cl2 は、ICP-OES/MSで測定したタングステン含有量が200ppb以下であることが特に好ましく、100ppb以下であることがより好ましく、50ppb以下であることがさらにより好ましい。このようなMoO2 Cl2 は、高純度MoO2Cl2 でもあり、例えば3D-NANDのようなフラッシュメモリに使用する場合、電子特性、特に記憶特性が改善された高純度モリブデン含有層を製造するための前駆体として特に適している。このようなMoO2 Cl2 は、好ましくは水分含有量の少ないMoO2 Cl2 であり、特に好ましくは無水または乾燥MoO2 Cl2 である。
【0044】
本発明はまた、モリブデン含有層を製造するための前駆体としての、本発明に従って得られるまたは提供されるMoO2Cl2 の使用に関する。特に、MoO2 Cl2は、上述のCVDまたはALDのような気相薄膜法によってモリブデン含有層を製造するために役立つことができる。
【0045】
また、本発明は、本発明に従って製造されたモリブデン含有層を含む電子部品に関するものである。本発明に従って提供されるMoO2Cl2 の改善された純度により、モリブデン含有層は同様に特に純度が高く、特にタングステンの不純物を実質的にほとんど完全にまで含まない。したがって、電子部品は、改善された電子特性を提供することができる。
【0046】
本発明によれば、電子部品が、3D-NANDと呼ばれるものであることが好ましい。3D-NANDは、複数のメモリセルが垂直方向に複数層積層された不揮発性メモリ(「フラッシュメモリ」)である。この場合、メモリセルは直列に接続されている。例えば、16個、32個、64個、96個、128個のメモリセルを接続することで、記憶密度を高めることができる。このような不揮発性メモリに本発明に従って製造されたモリブデン含有層を使用することにより、その電子特性を改善することができ、特に、その記憶特性を改善することができる。
【実施例1】
【0047】
実施形態
反応容器として、パイプ長1m、パイプ径5cmのロータリーキルンが使用される。ロータリーキルンは、移行領域を介して、受入容器としての製品フラスコに接続されている。ロータリーキルン、移行領域、製品フラスコは、別々に加熱することができる。ロータリーキルンに400gのMoO2 を装入する。その後、窒素を導入して(0.4 L/min of N2 )装置全体を不活性ガス雰囲気にする。その後、ロータリーキルンを400°Cの温度(T1 )に、移行領域を160°C の温度に、製品フラスコを70°C の温度(T2 )にする。これらの温度に達した後、N2 の流量を 0.2 L/min に設定する。その後、Cl2 をロータリーキルンに追加導入する(0.8 L/min の Cl2 )。装入されたMoO2は、導入されたCl2 と2時間(2h)反応させる。その後、Cl2 の導入、ロータリーキルンおよび移行領域の加熱を終了し、製品フラスコを25°C まで冷却させる。N2 の流量を1L/minに増やし、30分間継続する。その後、N2 の導入を終了し、製品フラスコをAr向流で装置から取り外す。製品フラスコを不活性ガス雰囲気のグローブボックスに入れ、そこでパッケージングがされる。
【0048】
さらに、製品フラスコから不純物の含有量を測定するための試料を採取する。この測定は、ICP-OES/MSによって行われる。この目的のために、iCap、iCap DuoまたはiCap RQという名称のThermo Fischer社の装置が使用される。以下の表1に示される不純物が測定された(示されたppbの値はそれぞれの検出限界に対応する):
【0049】
【表1】
【0050】
したがって、不純物の合計は合計で<3070ppbである。それに従って製造されたMoO2 Cl2 は、少なくとも99.9996930wt.%の純度を有する。