IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/28 20060101AFI20241031BHJP
   D21H 19/44 20060101ALI20241031BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
D21H19/28
D21H19/44
D21H19/20 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024075994
(22)【出願日】2024-05-08
【審査請求日】2024-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀越 達也
(72)【発明者】
【氏名】本多 駿斗
(72)【発明者】
【氏名】角田 浩佑
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-066216(JP,A)
【文献】特開2023-096626(JP,A)
【文献】特許第7271773(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/28
D21H 19/44
D21H 19/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、少なくとも一方の最表面にPHBHとEVAとを含む塗工層を有し、
前記塗工層が前記PHBH100質量部に対して前記EVAを1質量部以上250質量部以下含み、
前記EVAがガラス転移温度(Tg)が-50℃以上30℃以下であることを特徴とする塗工紙。
【請求項2】
前記EVAにおけるエチレンと酢酸ビニルとのモル比(エチレン:酢酸ビニル、合計100)が1:99~60:40であることを特徴とする請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記塗工層が無機顔料を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗工紙。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の塗工紙を有する包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PHBHを含む塗工層を有する塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックごみによる環境破壊を防ぐための動きが始まっており、プラスチック製使い捨て製品を、環境への負荷の小さな材料で代替することが求められている。プラスチックの代替材料としては、生分解性プラスチック、木材、紙等が挙げられる。
生分解性プラスチックとして、ポリ乳酸やポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルが知られている。しかし、脂肪族ポリエステルは、温度が低いと生分解に時間がかかり、海洋などの自然環境での分解速度が遅いという問題がある。
【0003】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、好気性、嫌気性下での分解性に優れた、微生物産生の熱可塑性プラスチックであり、海洋中などの水中でも微生物により短期間で分解されるという特筆すべき性能を有している。そして、3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシヘキサノエートとの共重合体であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(以下、PHBHともいう)が、その生分解性、樹脂物性等の点から注目されている。
【0004】
特許文献1には、紙基材の少なくとも一方の面上に、PHBHと接着剤を含有する塗工層を有し、塗工層中のPHBHと接着剤の固形分質量比が、99.9/0.1~60.0/40.0である、塗工欠陥の少ない塗工紙が提案され、ヒートシール紙、耐水紙、耐油紙等として利用可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2021/256381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の塗工紙は、実施例として、接着剤としてPVAを含有し、Cobb吸水度(120秒)が5g/m以下である塗工紙が記載されているように、耐水性に優れている。しかし、この塗工層は、水が染み込みにくく耐水性に優れているが、水に濡れた状態で内包物と擦れると塗工層表面が削られてしまう場合があることが判明した。具体的には、スーパー等で食品を内包する特許文献1に記載の塗工紙で成形した包装体を商品として購入し、自宅や職場等の冷蔵庫又は冷凍庫に収納する場合、庫内の冷気により包装体内部に結露が生じ、その後、庫内の食材の出し入れの振動又は衝撃によって食品が濡れた塗工層に接触すると塗工層表面が削られる。あるいは、予め別のスーパー等で購入した冷凍食品等の商品を入れた手提げビニール袋の中に、その店舗で購入した上記塗工紙で成形した包装体を入れて隣接させると、冷凍食品との接触又は冷凍食品から発せられる冷気により包装体が冷やされて内部に結露が生じ、その後、自宅や職場までの移動時における歩行等の振動により塗工層表面が削られる。そのため、特許文献1に記載の塗工紙は、例えば、水を蒸散する青果、水分を多く含む食品、結露の生じやすい低温輸送される物品等の包装体とするには不適であった。
本発明は、このような背景に基づいて検討されたものであり、水が付着した状態での耐摩擦性(以下、ウェットラブ性ともいう)に優れた塗工紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.紙基材と、少なくとも一方の最表面にPHBHとEVAとを含む塗工層を有し、
前記塗工層が前記PHBH100質量部に対して前記EVAを1質量部以上250質量部以下含み、
前記EVAがガラス転移温度(Tg)が-50℃以上30℃以下であることを特徴とする塗工紙。
2.前記EVAにおけるエチレンと酢酸ビニルとのモル比(エチレン:酢酸ビニル、合計100)が1:99~60:40であることを特徴とする1.に記載の塗工紙。
3.前記塗工層が無機顔料を含むことを特徴とする1.または2に記載の塗工紙。
4.1.~3.のいずれかに記載の塗工紙を有する包装体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗工紙は、ウェットラブ性に優れており、水分が付着した状態で擦れても、塗工層が剥がれにくい。本発明の塗工紙は、ヒートシール性に優れている。そのため、本発明の塗工紙は、例えば、水分を多く含む食品等の包装用途に好適である。
本発明の塗工紙は、塗工層が無機顔料を含んでいてもウェットラブ性に優れる。無機顔料に由来するバリア性等の機能性を付与することもできる。
本発明の塗工紙は、生分解性材料の比率が高く、仮に環境中に流出しても、迅速に分解される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の塗工紙は、紙基材と、少なくとも一方の最表面にPHBHとEVAとを含む塗工層を有し、
塗工層がPHBH100質量部に対してEVAを1質量部以上250質量部以下含み、
EVAがガラス転移温度(Tg)が-50~30℃である。
なお、本明細書において「A~B」(A、Bは数値や比率)との記載は、A、Bを含む数値範囲を意味する。
【0010】
本発明の塗工紙は、一方の最表面に塗工層を有していればよく、両方の最表面に塗工層を有することもできる。また、紙基材と塗工層との間にアンカー層、水蒸気バリア層、ガスバリア層、インク受容層等の他の層を有していてもよい。
【0011】
(紙基材)
紙基材は、主としてパルプからなるシートであり、さらに填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙して得られる。
パルプとしては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未漂白パルプ(NUKP)、サルファイトパルプなどの化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、脱墨パルプ、古紙パルプなどの木材繊維、ケナフ、竹、麻などから得られた非木材繊維などが挙げられ、これらの1種または2種以上を適宜配合して用いることができる。これらの中でも、紙基材中への異物混入が発生し難いこと、古紙原料としてリサイクル使用する際に経時変色が発生し難いこと、高い白色度を有するため印刷時の面感が良好となり、特に包装材料として使用した場合の使用価値が高くなることなどの理由から、木材繊維の化学パルプ、木材繊維の機械パルプを用いることが好ましく、木材繊維の化学パルプを用いることがより好ましい。具体的には、全パルプに対するLBKP、NBKP等の木材繊維の化学パルプの配合量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0012】
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール系樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の公知の填料を使用することができる。なお、填料は、必須材料ではなく、使用しなくてもよい。
【0013】
各種助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、嵩高剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0014】
紙基材は、その表面が各種薬剤で処理されていてもよい。薬剤としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤、滑剤などを例示することができ、これらを単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。さらに、これらの各種薬剤と顔料を併用してもよい。顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料などを単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0015】
紙基材の坪量は、所望される各種品質やその用途等により適宜選択可能であるが、通常は20g/m以上600g/m以下が好ましく、25g/m以上600g/m以下がより好ましい。包装紙、紙袋、蓋材、敷き紙、牛乳パックなどの液体紙容器等の包装材、屋外で使用されるポスター等に使用する場合、紙基材の坪量は、20g/m以上350g/m以下が好ましい。軟包装材として使用する場合、紙基材の坪量は、20g/m以上100g/m以下が好ましく、20g/m以上80g/m以下がより好ましい。なお、軟包装材とは、包装材の中でも、特に20g/mから100g/m程度の薄手の紙を用いた、柔軟性に富んだ包装材である。紙コップ、紙容器、紙箱、紙皿、紙トレー等に使用する場合、紙基材の坪量は、150g/m以上300g/m以下が好ましい。
また、紙基材の密度は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は0.5g/cm以上1.0g/cm以下のものが好ましい。
本発明において、紙基材は、単一の紙層のみからなる紙、2層以上の紙層を有する多層紙のいずれでもよい。紙基材が多層紙である場合は、各紙層の紙料、坪量等は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0016】
紙基材の製造(抄紙)方法は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、ギャップフォーマー型、ハイブリッドフォーマー型(オントップフォーマー型)等のツインワイヤー抄紙機等、公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙層の表面にアルカリ性薬剤を塗工してもよい。
また、紙基材の表面を薬剤で処理する場合、表面処理の方法は特に限定されるものでなく、ロッドメタリングサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、カーテンコーターなど公知の塗工装置を用いることができる。
【0017】
(塗工層)
塗工層は、塗工紙の少なくとも一方の最表面に位置し、少なくともPHBHとEVAとを含み、PHBH100質量部に対してEVAを1質量部以上250質量部以下含む。
【0018】
<PHBH>
PHBHは、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBともいう。)と3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHともいう。)との共重合体であり、微生物が産生することが知られている生分解性樹脂である。本発明において、PHBHは、微生物由来のものを用いてもよく、石油資源由来のものを用いてもよいが、微生物由来のものを用いることが環境負荷低減の点から好ましい。
【0019】
PHBHを産生する微生物としては、細胞内にPHBHを蓄積する微生物であればとくに限定されないが、A.lipolytica、A.eutrophus、A.latusなどのアルカリゲネス属(Alcaligenes)、シュウドモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、アゾトバクター属(Azotobacter)、ノカルディア属(Nocardia)、アエロモナス属(Aeromonas)などの菌があげられる。なかでも、PHBHの生産性の点で、とくにアエロモナス・キャビエなどの菌株、さらにはPHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユウトロファス AC32(受託番号FERM BP-6038、寄託日平成9年8月7日、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名;日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)(J.Bacteriol.,179,4821-4830頁(1997))などが好ましい。また、アエロモナス属の微生物であるアエロモナス・キャビエ(Aeromonas.caviae)からPHBHを得る方法は、たとえば、特開平05-093049号公報に開示されている。なお、これらの微生物は、適切な条件下で培養して、菌体内にPHBHを蓄積させて用いられる。
培養に用いる炭素源、培養条件は、特開平05-093049号公報、特開2001-340078号公報等に記載の方法に従い得ることができるが、これらには限定されない。
【0020】
PHBHの組成比(モル%)は、3HB:3HH=97:3~75:25が好ましく、95:5~85:15がより好ましい。3HHの組成が3モル%未満ではPHBHの特性が3HBホモポリマーの特性に近くなり柔軟性が失われるとともに成膜加工温度が高くなりすぎて好ましくない傾向がある。3HHの組成が25モル%を超えると結晶化速度が遅くなりすぎ成膜加工に適さず、また、結晶化度が下がることで、樹脂が柔軟になり曲げ弾性率が低下する傾向がある。PHBHの組成比は、水性分散液を遠心分離したのち、乾燥させて得られたパウダーをNMR分析により測定することができる。
微生物産生PHBHはランダム共重合体である。共重合体のモル比を調整するために、菌体の選択、原料となる炭素源の選択、異なるモル比のPHBHとのブレンド、3HBホモポリマーとのブレンドなどの方法がある。
【0021】
PHBHの質量平均分子量は、5万~150万が好ましい。PHBHの質量平均分子量がこの範囲内であると、PHBHを塗工する場合には低温での成膜が可能であり、PHBHをラミネートする場合には機械物性に優れたフィルムを得ることができる。PHBHの質量平均分子量は、10万~50万がより好ましく、15万~45万がさらに好ましい。なお、PHBHの質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、昭和電工社製「Shodex GPC-101」等)によって、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K-804」等)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。なお、測定用試料としては、PHBHを含む水性分散液を遠心分離した後、乾燥させて得られたパウダーを用いる。
【0022】
PHBHの平均粒径は、0.1~50μmであることが好ましい。平均粒径が0.1μm未満のPHBHは微生物産生では生成困難であり、また、化学合成法で得る場合にも、微粒子化するという操作が必要となる。平均粒径が50μmを超えるとPHBHを含有する塗工液を塗布した場合に表面に塗布むらが起こる場合がある。PHBHの平均粒径は、0.5~10μmであることがより好ましい。なお、PHBHの平均粒径は、マイクロトラック粒度計(日機装製、FRA)など汎用の粒度計を用い、PHBHの水懸濁液を所定濃度に調整して測定した全粒子の50%蓄積量に対応する粒径をいう。
【0023】
<EVA>
EVA(エチレン酢酸ビニル系共重合体)は、エチレンと酢酸ビニルとを単量体とする共重合体であり、さらに他のモノマーを単量体としていてもよい。ただし、本発明のEVAは、ケン化されておらず、酢酸ビニル単位のケン化により生じるビニルアルコール単位を有さない。EVAが他のモノマーを単量体とする場合、EVA全体に対する他のモノマーに由来する構成単位の含有率は30質量%以下であることが好ましい。この含有率は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下等とすることができる。
【0024】
EVAのガラス転移温度は、ヒートシール強度の点から、-50~30℃であることが好ましい。このガラス転移温度は、-40℃以上がより好ましく、-35℃以上がさらに好ましく、また、20℃以下がより好ましく、10℃以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、ガラス転移温度は、JIS K 7121-1987に準拠して測定される中間点ガラス転移温度を意味する。
EVAにおけるエチレンと酢酸ビニルとのモル比(エチレンに由来する構成単位:酢酸ビニルに由来する構成単位、エチレン:酢酸ビニルとも表し、合計が100である)は、ヒートシール強度の点から、1:99~60:40であることが好ましい。このモル比は、3:97~50:50がより好ましく、5:95~45:55がさらに好ましい。
【0025】
塗工層は、PHBH100質量部に対してEVAを1質量部以上250質量部以下含む。塗工層は、PHBHとEVAとをこの比率で含むことにより、ウェットラブ性に優れている。PHBH100質量部に対するEVAの割合は、6質量部以上が好ましく、11質量部以上がより好ましく、16質量部以上がさらに好ましい。このEVAの割合の上限は特に制限されないが、例えば、230質量部以下、210質量部以下、190質量部以下等とすることができる。
【0026】
塗工層は、PHBHとEVAを含めば良く、他の熱可塑性樹脂や、無機顔料を含むことができる。
<他の熱可塑性樹脂>
他の熱可塑性樹脂としては、PHBHを融着させる温度でのヒートシール性を備えるものを特に制限することなく使用することができるが、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレート等の脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等の生分解性樹脂であることが好ましい。
【0027】
塗工層が他の熱可塑性樹脂を含む場合、塗工層が含む全熱可塑性樹脂に対するPHBHとEVAとの合計の割合は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がよりさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上がよりさらに好ましく、98質量%以上がよりさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0028】
<無機顔料>
無機顔料としては、紙への塗工に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、ベントナイト、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中で、カオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、ベントナイトの1種以上が好ましい。
【0029】
無機顔料は、塗工層の定着性の点から、レーザー回折/散乱法で測定した体積50%平均粒子径(D50、以下「平均粒子径」ともいう。)が6.0μm以下であることが好ましい。なお、レーザー回折/散乱法の測定装置としては、例えば、堀場製作所社の粒子径分布測定装置「Partica」、マルバーン社の粒度分布測定装置「MASTER SIZER S」などが例示可能である。塗工層の定着性の点からは、無機顔料の平均粒子径は、5.0μm以下がより好ましく、4.0μm以下がさらに好ましく、3.0μm以下がよりさらに好ましく、2.0μm以下がよりさらに好ましい。無機顔料の平均粒子径の下限は特に制限されないが、分散性等の点から、例えば、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。2種以上の無機顔料を含む場合は、少なくとも1種の平均粒子径が上記した数値範囲であることが好ましく、無機顔料全体に対するこの平均粒子径を満足する無機顔料の割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
塗工層が無機顔料を含む場合、PHBHと無機顔料との固形分質量比(PHBH:無機顔料、合計が100)は、90:10~0.01:99.99であることが好ましい。PHBHとEVAを含む塗工液に、さらに無機顔料を配合することにより、得られる塗工層の定着性が向上する。そのメカニズムは不明であるが、本発明者らは、無機顔料は有機物であるPHBHと接着剤よりも熱伝導性に優れるため、加熱時に無機顔料が素早く昇温し、この熱が無機顔料からPHBHに伝わることにより、PHBHが十分に加熱、溶融して、皮膜が形成されやすいためであると推測している。
PHBHと無機顔料との固形分質量比(PHBH:無機顔料、合計が100)は、塗工層の定着性の点から、70:30~1:99がより好ましく、60:40~2:98がさらに好ましく、50:50~3:97がよりさらに好ましい。
【0031】
塗工層は、PHBH、EVA、他の熱可塑性樹脂、無機顔料以外に、他の水溶性樹脂、水分散性樹脂を含むことができ、さらに、必要に応じて、分散剤、粘性改良剤、消泡剤、耐水化剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩、滑剤、着色染料、顔料など、製紙分野において塗工液に配合される各種助剤を含むことができる。
【0032】
(製造方法)
塗工層は、従来公知の塗工方法により製造することができる。例えば、塗工装置としてはブレードコーター、バーコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、リバースロールコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーターなどが挙げられる。また、塗工系としては、水等の溶媒を使用した水系塗工、有機溶剤等の溶媒を使用した溶剤系塗工などが挙げられるが、水系であることが好ましい。
【0033】
塗工層の塗工量は、乾燥質量で1g/m以上50g/m以下とすることが好ましい。塗工量が1g/m未満であると、均一な塗膜の形成が困難となる場合がある。一方、50g/mより多いと、塗工時の乾燥負荷が大きくなる。塗工層の塗工量は、3g/m以上がより好ましく、5g/m以上がさらに好ましく、40g/m以下がより好ましく、30g/m以下がさらに好ましい。
【0034】
・塗工紙
本発明の塗工紙は、ウェットラブ性に優れ、ヒートシール加工が容易である。そのため、本発明の塗工紙は、包装体用途に適しており、水分を多く含む食品や結露が生じやすい冷蔵・冷凍用途にも用いることができる。
本発明の塗工紙を包装体に用いる場合、包装体の形状は特に制限されない。軟包装体とする場合、縦ピロー包装袋、横ピロー包装袋、サイドシール袋、二方シール袋、三方シール袋、四方シール袋、ガゼット袋、底ガゼット袋、スタンド袋、ブリスター包装(ブリスターパック)等とすることができる。筒状やカップ状の複数の部材からなる包装体とする場合、胴部材、底板部材、蓋部材等の包装体を構成する部材の1または2以上に用いることができる。
【0035】
本発明の塗工紙は、JIS Z1707:2019 7.4「ヒートシール強さ試験」に準拠して測定した、加圧温度160℃、加圧圧力0.2MPa(20.0N/cm)、加圧時間1.0秒でヒートシールしたものをT型剥離した際のヒートシール強度が、4.0N/15mm以上が好ましく、5.0N/15mm以上がより好ましく、6.0N/15mm以上がさらに好ましく、6.5/15mm以上がよりさらに好ましい。
また、本発明の塗工紙は、加圧温度を180℃とした以外は同様にして測定したヒートシール強度が、4.0N/15mm以上が好ましく、5.0N/15mm以上がより好ましく、6.0N/15mm以上がさらに好ましく、6.5/15mm以上がよりさらに好ましい。
【実施例
【0036】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、もちろんこれらの例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の部および%は、それぞれ質量部、質量%を示す。
【0037】
(評価方法)
・ウェットラブ
作製した塗工紙を、水平な台上で静置し、少なくとも24時間調温調湿(条件:23℃、湿度50%)した後、その塗工紙の塗工面上に、試験直前に開封した新品の油性マーカー(ZEBRA社 マッキー極細)にて十字の図柄を描き、5分間乾燥させた。その後、濡らした指で図柄部を軽く50回、往復してなぞり、図柄の残存具合、塗工層の剥離具合を以下の基準で評価した。評価が5または4であれば、実用上問題ない。
5:変化なし
4:10%未満の白抜け発生
3:10%以上50%未満の白抜け発生
2:20%以上50%未満の白抜け発生+塗工層の溶出あり
1:50%以上100%以下の白抜け発生+塗工層の溶出あり
<判定見本>
【表1】
【0038】
・テープピック
作製した塗工紙を、水平な台上で静置し、少なくとも24時間調温調湿(条件:23℃、湿度50%)した後、その塗工紙の塗工層表面に、幅12mmメンディングテープ(スリーエムジャパン社、スコッチ(登録商標) メンディングテープ810-1-12)を貼合し、メンディングテープの上で幅130mm、重量1.8kgのゴムローラーを自重で20往復させて、メンディングテープを塗工層表面に密着させた。直後にメンディングテープを勢いよく剥離し、メンディングテープを貼合した面積に対するメンディングテープに付着して塗工層が紙基材表面から剥離した面積(界面破壊の面積)の割合、または、塗工層とともに紙基材の一部がメンディングテープに付着して紙基材が破壊された面積(紙基材内部破壊の面積)の割合を算出し、以下の基準で紙基材との接着性を評価した。評価が5または4であれば、実用上問題ない。
5:剥離なし
4:貼り付け面の0~10%未満剥離あり
3:貼り付け面の10~50%未満剥離あり
2:貼り付け面の50~90%未満剥離あり
1:貼り付け面の90~100%剥離あり
【0039】
・ヒートシール強度
JIS Z1707:2019 7.4「ヒートシール強さ試験」に準拠して行った。得られた塗工紙から1辺100mmの正方形の試験片を2枚切り出し、塗工層同士を接触させて、加圧温度160℃または180℃、加圧圧力0.2MPa(20.0N/cm)、加圧時間1.0秒でヒートシールした後、23℃、湿度50%の環境下に24時間静置し、さらにそのヒートシールを行った100mm角の試験片から長辺100mm、短辺15mmになるように測定サンプルを切り出した。
その後、縦型引張試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロン)の上下の治具それぞれに、剥離させた長辺端部を挟持し、200mm/minの速度で長辺端部側から測定サンプルを剥離(T型)しながら、剥離強度、すなわち、HS強度(N/15mm)を測定した。
また、剥離した面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
測定は2回行い、剥離強度はその平均値を示し、目視観察で評価結果が異なる場合は、その両方を示す。
〇:ヒートシールした面の全面で材破
△:ヒートシールした面で部分的に材破
×:塗工層間で剥離する(材破なし)
-:ヒートシールせず
【0040】
(材料)
紙基材:日本製紙社、坪量220g/mのカップ原紙、CUP-HD
PHBH:カネカ社、質量平均分子量60万
無機顔料:白石工業社、カオリン、KCS、平均粒子径3.6μm、アスペクト比10~15
【0041】
PVA1:クラレ社、28-98、完全ケン化PVA
PVA2:クラレ社、HR3010、高耐水性
部分ケン化EVA:クラレ社、RS-1713
EVA1:住化ケムテックス社、S-400HQ、Tg0℃、エチレン:酢酸ビニル=20:80
EVA2:住化ケムテックス社、S-305HQ、Tg7℃、エチレン:酢酸ビニル=10:90
EVA3:住化ケムテックス社、S-410HQ、Tg-18℃、エチレン:酢酸ビニル=30:70
EVA4:住化ケムテックス社、S-408HQE、Tg-30℃、エチレン:酢酸ビニル=40:60
【0042】
(塗工層の形成)
PHBH、EVAまたはPVA、無機顔料を、表1に示す質量部で混合、撹拌し、固形分濃度が40質量%の塗工液を得た。
紙基材の一面上に、塗工液を表1に示す乾燥質量となるようにバーブレード法で塗工し、105℃で1分間乾燥させた後、140℃で1分間熱処理を行い、紙基材の一方の最表面に塗工層を形成した。
【0043】
【表1】
【0044】
PHBHのみの塗工層を有する比較例1のウェットラブ評価は「3」、これに汎用のPVAや高耐水性のPVAを加えた比較例2および3でも「2」の評価であり、顔料をさらに加えた比較例4でも「1」と改善が見られなかった。また、PHBHに部分ケン化EVAを加えた比較例5でもウェットラブ評価は「2」であり、改善は見られなかった。
しかし、驚くべきことに、未ケン化であるEVAを加えた実施例1~3のウェットラブ評価は「5」であり、改善が確認された。
実施例4~8より、PHBH100質量部に対してEVAの割合は20質量部から235質量部の範囲で有効で、また、実施例9~11より、Tgの異なる未ケン化EVAでもウェットラブ改善効果が確認できた。
ウェットラブ改善の作用機序は不明であるが、CHCOO-基がポリマー内に60~90%の割合(全モノマーに占める割合)でランダムに存在することがウェットラブ評価に貢献していると考えられる。
【要約】
【課題】水が付着した状態での耐摩擦性(以下、ウェットラブ性ともいう)に優れた塗工紙を提供すること。
【解決手段】紙基材と、少なくとも一方の最表面にPHBHとEVAとを含む塗工層を有し、
前記塗工層が前記PHBH100質量部に対して前記EVAを1質量部以上250質量部以下含み、
前記EVAがガラス転移温度(Tg)が-50℃以上30℃以下である塗工紙。
【選択図】なし