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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒および炭化水素吸着材
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/83 20060101AFI20241031BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 35/77 20240101ALI20241031BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20241031BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B01J29/83 A ZAB
B01D53/94 280
B01J35/77
F01N3/08 A
F01N3/28 301C
F01N3/28 301P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024546998
(86)(22)【出願日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2024018762
【審査請求日】2024-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2023113569
(32)【優先日】2023-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】川上 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】横井 俊之
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特許第7446541(JP,B1)
【文献】特開平05-261289(JP,A)
【文献】特表2018-501949(JP,A)
【文献】特開2019-063733(JP,A)
【文献】特開2004-116331(JP,A)
【文献】A. ILIYAS et al.,“One-dimensional molecular sieves for hydrocarbon cold-start emission control: Influence of water and CO2,Applied Catalysis A: General,2010年05月02日,382,213-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
F01N 3/00
3/02
3/04- 3/38
9/00-11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた排ガス浄化層と、
を備える排ガス浄化用触媒であって、
前記排ガス浄化層は、触媒金属と、炭化水素吸着材としてSiを実質的に含有しない分子篩と、を含有し、
前記Siを実質的に含有しない分子篩は、12員環を有するアルミノホスフェート分子篩であり、
X線回折測定によって求まる、前記アルミノホスフェート分子篩の結晶子径が、360Å~700Åである、
排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記アルミノホスフェート分子篩の結晶子径が、360Å~400Åである、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記アルミノホスフェート分子篩の結晶子径が、450Å~600Åである、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記アルミノホスフェート分子篩の骨格構造が、AFI型である、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記排ガス浄化層が、前記Siを実質的に含有しない分子篩を含有するHC吸着層と、前記触媒金属を含有する触媒層と、を有する、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記HC吸着層と前記触媒層とが、積層されており、前記HC吸着層が、前記触媒層よりも基材側に位置している、請求項5に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記触媒層において、第1部分触媒層と、第2部分触媒層と、が積層されており、
前記第1部分触媒層は、前記第2部分触媒層よりも前記基材側に位置し、
前記第1部分触媒層および前記第2部分触媒層はそれぞれ、前記触媒金属を含有し、
前記第1部分触媒層が、前記触媒金属として酸化触媒を含み、
前記第2部分触媒層が、前記触媒金属として還元触媒を含む、請求項6に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
アルミノホスフェート分子篩を含む炭化水素吸着材であって、
前記アルミノホスフェート分子篩は、12員環を有し、
X線回折測定によって求まる、前記アルミノホスフェート分子篩の結晶子径が、360Å~700Åである、炭化水素吸着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。本発明はまた、排ガス浄化用触媒に好適な炭化水素吸着材に関する。なお、本出願は2023年7月11日に出願された日本国特許出願第2023-113569号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれる。これら有害成分を排ガス中から効率よく反応・除去するために、従来から排ガス浄化用触媒が利用されている。排ガス浄化用触媒の一つの典型的な構成として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)等の触媒金属を含む触媒層を、セラミックス等の高耐熱性の基材の上に形成したものが挙げられる。
【0003】
エンジン始動直後の排ガス浄化用触媒が十分に加熱されていない状態(いわゆる、コールドスタート)においては、排ガス浄化用触媒の温度が低いために、炭化水素(HC)の処理のための十分な触媒活性が得られ難い。そのため、HC吸着材を含有するHC吸着層の上に、触媒金属を含む触媒層を積層したHC吸着型排ガス浄化用触媒が開発されている(例えば、特許文献1~4参照)。HC吸着材としては、特許文献1~4に記載のように、ゼオライト等の分子篩が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-256114号公報
【文献】特開2009-167973号公報
【文献】特開2004-116331号公報
【文献】特表2020-510519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、排ガス規制のさらなる強化によって、排ガス浄化用触媒には、排ガスに含まれる有害成分のより高い除去性能が求められている。例えば、コールドスタート時でのより高い排ガス浄化性能が求められている。本発明者らが鋭意検討した結果、上記従来技術の排ガス浄化用触媒においては、水を含んだ高温の排気ガスに長時間晒された後(以下、これを「水熱耐久後」と称する)に、コールドスタート時でのHC浄化性能が大きく低下するという問題があることを見出した。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、水熱耐久後におけるコールドスタート時のHC浄化性能が高い排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、ゼオライトを用いた上記従来技術の排ガス浄化用触媒において水熱耐久後に浄化性能が大幅に低下する原因が、水熱耐久中にゼオライト(アルミノシリケート塩)に含まれるSiが移動して、触媒金属である貴金属に悪影響を及ぼしていることにあることを見出した。そして、HC吸着材として、Siを実質的に含有しない分子篩を所定割合以上用いることによって、排ガス浄化用触媒の水熱耐久後におけるコールドスタート時のHC浄化性能が急激に高くなることを見出した。本発明者らがさらに鋭意検討した結果、Siを実質的に含有しない分子篩の中でも、12員環を有し、結晶子径が360Å~700Åであるアルミノホスフェート分子篩の使用によれば、排ガス浄化用触媒の水熱耐久後におけるコールドスタート時のHC浄化性能が顕著に高くなることを見出した。
【0008】
すなわち、ここに開示される排ガス浄化用触媒[1]は、基材と、前記基材上に設けられた排ガス浄化層と、を備える。前記排ガス浄化層は、触媒金属と、炭化水素吸着材としてSiを実質的に含有しない分子篩と、を含有する。前記Siを実質的に含有しない分子篩は、12員環を有するアルミノホスフェート分子篩である。X線回折測定によって求まる、前記アルミノホスフェート分子篩の結晶子径は、360Å~700Åである。このような構成によれば、水熱耐久後におけるコールドスタート時のHC浄化性能が高い排ガス浄化用触媒を提供することができる。
【0009】
ここに開示される排ガス浄化用触媒[2]は、上記排ガス浄化用触媒[1]において、前記アルミノホスフェート分子篩の結晶子径が、360Å~400Åである。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒は、生産効率に優れる。
【0010】
ここに開示される排ガス浄化用触媒[3]は、上記排ガス浄化用触媒[1]において、前記アルミノホスフェート分子篩の結晶子径が、450Å~600Åである。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒は、生産効率およびHC吸着能のバランスに優れる。
【0011】
ここに開示される排ガス浄化用触媒[4]は、上記排ガス浄化用触媒[1]~[3]のいずれかにおいて、前記アルミノホスフェート分子篩の骨格構造が、AFI型である。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒の上記のHC浄化性能に関し有利である。
【0012】
ここに開示される排ガス浄化用触媒[5]は、上記排ガス浄化用触媒[1]~[4]のいずれかにおいて、前記排ガス浄化層が、前記Siを実質的に含有しない分子篩を含有するHC吸着層と、前記触媒金属を含有する触媒層と、を有する。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒の上記のHC浄化性能に関し有利である。
【0013】
ここに開示される排ガス浄化用触媒体[6]は、上記排ガス浄化用触媒[5]において、前記HC吸着層と前記触媒層とが、積層されており、前記HC吸着層が、前記触媒層よりも基材側に位置している。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒の上記のHC浄化性能に関し特に有利である。
【0014】
ここに開示される排ガス浄化用触媒体[7]は、上記排ガス浄化用触媒[6]において、前記触媒層において、第1部分触媒層と、第2部分触媒層と、が積層されている。前記第1部分触媒層は、前記第2部分触媒層よりも前記基材側に位置している。前記第1部分触媒層および前記第2部分触媒層はそれぞれ、前記触媒金属を含有する。前記第1部分触媒層が、前記触媒金属として酸化触媒を含む。前記第2部分触媒層が、前記触媒金属として還元触媒を含む。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒の上記のHC浄化性能に関し極めて有利である。
【0015】
別の側面から、ここに開示される炭化水素吸着剤[8]は、アルミノホスフェート分子篩を含む。前記アルミノホスフェート分子篩は、12員環を有する。X線回折測定によって求まる、前記アルミノホスフェート分子篩の結晶子径は、360Å~700Åである。このような構成によれば、水熱耐久後であっても、炭化水素吸着剤のHC吸着量が高くなる。よって、ここに開示される炭化水素吸着材を用いて排ガス浄化触媒を構成した場合には、水熱耐久後におけるコールドスタート時のHC浄化性能が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る排ガス浄化システムを示す模式図である。
図2図1の排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図3図1の排ガス浄化用触媒を筒軸方向に切断した部分断面図である。
図4図4(A)は、AFI型骨格構造の模式図であり、図4(B)は、結晶粒界でのAFI型骨格構造の概念模式図である。
図5図5(A)は、結晶子径の大きいALPO分子篩の1個の一次粒子を表す模式図であり、図5(B)は、その一次粒子内の1個の結晶子を示す模式図である。
図6図6(A)は、結晶子径の小さいALPO分子篩の1個の一次粒子を表す模式図であり、図6(B)は、その一次粒子内の4個の結晶子を示す模式図である。
図7図1の排ガス浄化用触媒の変形例の構成を示す部分断面図である。
図8】第2実施形態における排ガス浄化用触媒を筒軸方向に切断した部分断面図である。
図9】第3実施形態における排ガス浄化用触媒を筒軸方向に切断した部分断面図である。
図10】各実施例および各比較例のALPO分子篩の水熱耐久後におけるデカン吸着量(mg/g)を示すグラフである。
図11】各実施例および各比較例の排ガス浄化触媒の水熱耐久後におけるHC50%浄化温度(℃)を示すグラフである。
図12】各実施例および各比較例の排ガス浄化触媒の車両試験でのコールド域のHCエミッション(mg/km)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0018】
≪排ガス浄化システム≫
図1は、排ガス浄化システム1の模式図である。排ガス浄化システム1は、内燃機関(エンジン)2と、排ガス浄化装置3と、エンジンコントロールユニット(Engine Control Unit:ECU)7と、を備えている。排ガス浄化システム1は、内燃機関2から排出される排ガスに含まれる有害成分、例えば、HC、CO、NOx等を、排ガス浄化装置3で浄化するように構成されている。なお、図1の矢印は排ガスの流動方向を示している。また、以下の説明では、排ガスの流れに沿って内燃機関2に近い側を上流側、内燃機関2から遠い側を下流側という。
【0019】
内燃機関2は、ここではガソリン車両のガソリンエンジンを主体として構成されている。ただし、内燃機関2は、ガソリン以外のエンジン、例えばディーゼルエンジンやハイブリッド車に搭載されるエンジン等であってもよい。内燃機関2は、燃焼室(図示せず)を備えている。燃焼室は、燃料タンク(図示せず)に接続されている。燃料タンクには、ここではガソリンが貯留されている。ただし、燃料タンクに貯留される燃料は、ディーゼル燃料(軽油)等であってもよい。燃焼室では、燃料タンクから供給された燃料が酸素と混合され、燃焼される。これにより、燃焼エネルギーが力学的エネルギーへと変換される。燃焼室は、排気ポート2aに連通している。排気ポート2aは、排ガス浄化装置3に連通している。燃焼された燃料ガスは、排ガスとなって排ガス浄化装置3に排出される。
【0020】
排ガス浄化装置3は、内燃機関2と連通する排気経路4と、圧力センサ8と、第1触媒9と、第2触媒10と、を備えている。排気経路4は、排ガスが流動する排ガス流路である。排気経路4は、ここではエキゾーストマニホールド5と排気管6とを備えている。エキゾーストマニホールド5の上流側の端部は、内燃機関2の排気ポート2aに連結されている。エキゾーストマニホールド5の下流側の端部は、排気管6に連結されている。排気管6の途中には、上流側から順に、第1触媒9と第2触媒10とが配置されている。ただし、第1触媒9と第2触媒10との配置は任意に可変であってよい。また、第1触媒9と第2触媒10との個数は特に限定されず、それぞれ複数個が設けられてもよい。また、第2触媒10の下流側には、さらに第3触媒が配置されていてもよい。
【0021】
第1触媒9については従来と同様でよく、特に限定されない。第1触媒9は、例えば、排ガスに含まれるPMを除去するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter);排ガスに含まれるHCやCOを浄化するディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst);排ガスに含まれるHC、CO、NOxを同時に浄化する三元触媒;通常運転時に(リーン条件下で)NOxを吸蔵し、燃料を多めに噴射した時に(リッチ条件下で)HC、COを還元剤としてNOxを浄化するNOx吸着還元(NSR:NOx Storage-Reduction)触媒;等であってもよい。第1触媒9は、例えば第2触媒10に流入する排ガスの温度を上昇させる機能を有していてもよい。なお、第1触媒9は必須の構成ではなく、他の実施形態において省略することもできる。
【0022】
第2触媒10は、排ガス中の有害成分(例えばHC)を浄化する機能を有する。第2触媒10は、ここでは三元触媒である。第2触媒10は、ここに開示される排ガス浄化用触媒の一例である。なお、以下では、第2触媒10を「排ガス浄化用触媒」ということがある。第2触媒(排ガス浄化用触媒)10の構成については、後に詳述する。
【0023】
ECU7は、内燃機関2と排ガス浄化装置3とを制御する。ECU7は、内燃機関2と、排ガス浄化装置3の各部位に設置されているセンサ(例えば、圧力センサ8や、温度センサ、酸素センサ等)とに、電気的に接続されている。なお、ECU7の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。ECU7は、例えばプロセッサや集積回路である。ECU7は、入力ポート(図示せず)と出力ポート(図示せず)とを備えている。ECU7は、例えば、車両の運転状態や、内燃機関2から排出される排ガスの量、温度、圧力等の情報を受信する。ECU7は、センサで検知された情報(例えば、圧力センサ8で計測された圧力)を、入力ポートを介して受信する。ECU7は、例えば受信した情報に基づいて、出力ポートを介して制御信号を送信する。ECU7は、例えば内燃機関2の燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御等の運転を制御する。ECU7は、例えば内燃機関2の運転状態や内燃機関2から排出される排ガスの量等に基づいて、排ガス浄化装置3の駆動と停止とを制御する。
【0024】
≪排ガス浄化用触媒≫
図2は、排ガス浄化用触媒10を模式的に示す斜視図である。なお、図2の矢印は、排ガスの流れを示している。図2では、相対的に内燃機関2に近い排気経路4の上流側が左側に表され、相対的に内燃機関2から遠い排気経路の下流側が右側に表されている。また、図2において、符号Xは、排ガス浄化用触媒10の筒軸方向を表している。排ガス浄化用触媒10は、筒軸方向Xが排ガスの流動方向に沿うように排気経路4に設置されている。筒軸方向Xは、排ガスの流動方向である。以下では、筒軸方向Xのうち、一の方向X1を上流側(排ガス流入側、フロント側ともいう。)といい、他の方向X2を下流側(排ガス流出側、リア側ともいう。)ということがある。ただし、これは説明の便宜上の方向に過ぎず、排ガス浄化用触媒10の設置形態を何ら限定するものではない。
【0025】
図3に例示されるように、排ガス浄化用触媒10は、ストレートフロー構造の基材11と、排ガス浄化層40と、を備えている。排ガス浄化用触媒10の一の方向X1の端部は排ガスの流入口10aであり、他の方向X2の端部は排ガスの流出口10bである。排ガス浄化用触媒10の外形は、ここでは円筒形状である。ただし、排ガス浄化用触媒10の外形は特に限定されず、例えば、楕円筒形状、多角筒形状、パイプ状、フォーム状、ペレット形状、繊維状等であってもよい。
【0026】
基材11は、排ガス浄化用触媒10の骨組みを構成するものである。基材11としては特に限定されず、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材および形態のものが使用可能である。基材11は、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素等のセラミックスで構成されるセラミックス担体であってもよいし、ステンレス鋼(SUS)、Fe-Cr-Al系合金、Ni-Cr-Al系合金等で構成されるメタル担体であってもよい。図2に示すように、基材11は、ここではハニカム構造を有している。基材11は、筒軸方向Xに規則的に配列された複数のセル(空洞)12と、複数のセル12を仕切る隔壁(リブ)14と、を備えている。特に限定されるものではないが、基材11の体積(セル12の容積を含んだ見掛けの体積)は、概ね0.1~10L、例えば0.5~5Lであってもよい。また、基材11の筒軸方向Xに沿う平均長さ(全長)Lは、概ね10~500mm、例えば50~300mmであってもよい。
【0027】
セル12は、排ガスの流路となる。セル12は、筒軸方向Xに延びている。セル12は、基材11を筒軸方向Xに貫通する貫通孔である。セル12の形状、大きさ、数等は、例えば、排ガス浄化用触媒10を流動する排ガスの流量や成分等を考慮して設計すればよい。セル12の筒軸方向Xに直交する断面の形状は特に限定されない。セル12の断面形状は、例えば、正方形、平行四辺形、長方形、台形等の四角形や、その他の多角形(例えば、三角形、六角形、八角形)、波形、円形等種々の幾何学形状であってよい。隔壁14は、セル12に面し、隣り合うセル12の間を区切っている。特に限定されるものではないが、隔壁14の平均厚み(表面に直交する方向の寸法。以下同じ。)は、機械的強度を向上する観点や圧損を低減する観点等から、概ね0.1~10mil(1milは、約25.4μm)、例えば0.2~5milであってもよい。隔壁14は、排ガスが通過可能なように多孔質であってもよい。
【0028】
図3は、排ガス浄化用触媒10を筒軸方向Xに沿って切断した断面の一部を模式的に示す部分断面図である。図3に示すように、この基材11上に、排ガス浄化層40が設けられており、排ガス浄化層40は、炭化水素(HC)吸着層20と、触媒層30とを備えている。よって、基材11上に、HC吸着層20および触媒層30が積層されている。このように、排ガス浄化層40は、排ガスの浄化に関与する層から構成される。
【0029】
HC吸着層20は、触媒層30よりも基材11側(すなわち、下層側)に配置されている。このような配置によれば、HC吸着層20に吸着されたHCがHC吸着層20から脱離した際に、そのHCを触媒層30によって効率的に除去することができる。
【0030】
排ガス浄化層40は、触媒金属と、炭化水素(HC)吸着材としてSiを実質的に含有しない分子篩と、含有する。本実施形態では、排ガス浄化層40のうち、HC吸着層20が、炭化水素(HC)吸着材であるSiを実質的に含有しない分子篩を含有し、触媒層30が触媒金属を含有している。
【0031】
本明細書において、「分子篩がSiを実質的に含有しない」とは、分子篩を構成するすべて原子に対するSi原子の割合が、6原子%以下(好ましくは3原子%以下、より好ましくは1原子%以下、さらに好ましくは0原子%)であることをいう。よって、例えば、Siの移動、不可避的不純物等によって、分子篩にSiが含有されることは許容される。なお、分子篩を構成するすべて原子に対するSi原子の割合は、蛍光X線分析(XRF)により求めることができる。
【0032】
そして、本実施形態では、このSiを実質的に含有しない分子篩として、12員環を有するアルミノホスフェート(ALPO)分子篩を用いる。ALPO分子篩は、ゼオライトと同じ、類似の、または異なる骨格構造を有するアルミノホスフェート(AlPO)であり得る。ALPO分子篩は、Siを実質的に含有しないが、ALPO分子篩のSiO/Al比(モル比)は、好ましくは1未満であり、より好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.1以下であり、最も好ましくは0である。ここで用いられるALPO分子篩は、Siを実質的に含有しないため、SiOに対するAlの含有割合を高めたアルミノホスフェート系ゼオライトとは異なる(低シリカゼオライトであっても、SiO/Al比は通常、1以上である)。なお、SiO/Al比は、蛍光X線分析(XRF)により求めることができる。
【0033】
使用されるALPO分子篩の骨格構造は、12員環を有する限り特に限定はない。12員環を有する骨格構造の例としては、国際ゼオライト学会(IZA:International Zeolite Association)が定める骨格型コードとして、AFI、AFR、AFS、AFY、ATO、ATS、BEA、CON、DFO、EZT、FAU、LTL、MOR、OSI、SAF、SBE、SBS、SBT、SFOなどが挙げられる。骨格構造は、好適には、AFIである。12員環を有するALPO分子篩の最大員環数は、典型的には12である。
【0034】
加えて、本実施形態においては、12員環を有するALPOの結晶子径が、360Å~700Åである。
【0035】
従来技術においては、HC吸着材としてゼオライト等の分子篩が使用されている。ゼオライトは、分子篩として機能する結晶性アルミノケイ酸塩であり、よって、SiおよびAlを含有する。本発明者らによる検討により得られた知見では、ゼオライトを含む触媒層に水熱耐久処理を施すと、ゼオライトに含まれるSiが移動して、触媒金属である貴金属に悪影響を及ぼし、これがコールドスタート時の排ガス浄化性能を低下させる。これは、高温還元雰囲気下においてゼオライトに含まれるSiOがSiOへ還元され、SiOxの形態での界面移動や蒸散が起こるためと考えられる。また、Siと貴金属との相互作用による被毒によるものと考えられる。
【0036】
よって、本実施形態では、HC吸着材として、Siを実質的に含有しない分子篩を用いることにより、水熱耐久後であっても、コールドスタート時のHC浄化性能が高くなる。
【0037】
また、HC吸着材として、ALPO分子篩が使用できることが知られている。本実施形態では、ALPO分子篩として12員環を有するものを用いる。ALPO分子篩の骨格構造が12員環を有することにより、HCを効率よく吸着することができ、水熱耐久後におけるHC浄化性能が顕著に高くなる。
【0038】
ここで、12員環を有するALPO分子篩の骨格構造の一つであるAFI型骨格構造を図4(A)に示す。図4(A)に示すように、AFI型骨格構造は、4員環および6員環が12員環を囲った構造が連続している。図4(B)は、結晶粒界GBでのAFI型骨格構造の概念模式図である。図4(B)に示すように、結晶粒界GBにおいては、4員環および6員環が12員環を囲った構造を保てずに、格子欠陥が発生する。特に、HCを吸着しやすい12員環は、大きいため、結晶粒界において12員環に格子欠陥が生じやすい。この格子欠陥が起きた部分は、HC吸着に寄与できない。なお、図4(B)は概念図であるため、格子欠陥のある部分の環の構造を正確に表してはいない。
【0039】
また、図5(A)は、結晶子径の大きいALPO分子篩の1個の一次粒子500を表す模式図である。ALPO分子篩の一次粒子500は、六角柱の形状を有しており、図5(A)は、その六角柱の六角形の面を示している。図5(A)では、この六角形の輪郭の内部の四角が、結晶子510のそれぞれを示している。
【0040】
図5(B)は、図5(A)の一次粒子500の結晶子510を示す模式図である。図5(B)には、1個の結晶子510が示されている。図5(B)では、結晶粒界520において、格子欠陥が起きている領域512がドットハッチングで示されており、格子欠陥のない領域514が網目模様で示されている。この格子欠陥が起きている領域512は、HC吸着に寄与できない。なお、これらは模式図であるため、ALPO分子篩の一次粒子500および結晶子510は、簡略化して描かれている。
【0041】
一方、図6(A)は、結晶子径の小さいALPO分子篩の1個の一次粒子600を表す模式図である。図6(A)でも、この六角形の輪郭の内部の四角が、結晶子610のそれぞれを示している。図6(A)の結晶子610のサイズ(すなわち結晶子径)は、図5(A)の結晶子510のサイズよりも小さい。
【0042】
図6(B)は、図6(A)の一次粒子600の結晶子610を示す模式図である。図6(B)は、4個の結晶子610が描かれており、これら4個の結晶子610は、図5(B)の1個の結晶子510と同じサイズである。図6(B)においても、結晶粒界620において、格子欠陥が起きている領域612がドットハッチングで示されており、格子欠陥のない領域614が網目模様で示されている。この格子欠陥が起きている領域612は、HC吸着に寄与できない。なお、これらは模式図であるため、ALPO分子篩の一次粒子600および結晶子610は、簡略化して描かれている。
【0043】
ここで、図5(B)と図6(B)を比較した場合、図6(B)では、十字状に結晶粒界620が余分にあり、その近傍に格子欠陥が起きている領域612が余分にあることがわかる。したがって、図5(B)と図6(B)との比較より、一次粒子の結晶子径が小さい方が、単位面積あたりのHC吸着に寄与できない領域が増加することがわかる。すなわち、結晶子径が大きい方が、単位面積あたりのHC吸着に寄与できない領域が少ないことがわかる。
【0044】
したがって、本実施形態においては、12員環を有するALPOの結晶子径が、360Å以上であることにより、HC吸着に寄与できない領域を十分に減らすことができ、水熱耐久後のHC浄化性能を一層顕著に高くすることができる。一方、結晶子径が700Åを超えるALPOは、製造が困難である。製造の容易さの観点から、当該ALPOの結晶子径は、好ましくは600Å以下であり、より好ましくは550Å以下であり、さらに好ましくは500Å以下であり、特に好ましくは400Å以下である。よって、12員環を有するALPOの結晶子径が、360Å~400Åである場合には、排ガス浄化用触媒10は生産効率に優れる。一方で、当該ALPOの結晶子径が大きい方が、HC吸着能が高くなる。HC吸着能の観点からは、12員環を有するALPOの結晶子径は、好ましくは380Å以上であり、より好ましくは450Å以上であり、さらに好ましくは480Å以上であり、特に好ましくは500Å以上である。生産効率およびHC吸着能のバランスの観点からは、12員環を有するALPOの結晶子径は、好ましくは360Å~650Åであり、より好ましくは380Å~600Åであり、さらに好ましくは450Å~600Åであり、特に好ましくは480Å~550Åである。なお、この結晶子径は、X線回折(XRD)測定によって求められる値であり、公知のXRD装置を用いて、公知方法に従って測定することができる。
【0045】
上記の結晶子径と12員環を有するALPO分子篩は、次のようにして製造することができる。
【0046】
ALPO分子篩の製造方法として、まず、アルミニウム源、リン源、テンプレート(言い換えると、構造規定剤(SDA))および水を混合して水性ゲルを作製し、これを水熱合成反応する方法がよく知られている。この方法によれば、テンプレートおよび反応条件の選択によって種々の構造のALPO分子篩を作製することができ、12員環を有するALPO分子篩の製造方法も公知である。
【0047】
ここで、上記の製造方法において、水の量を調整することで、生成するALPO分子篩の結晶子径を制御することができる。特に、ALPO分子篩の結晶子径を360Å以上とするためには、通常より多量に水を使用する。多量の水を使用することで、核の生成が少なくなるため、ALPO分子篩の結晶子径を大きくすることができる。
【0048】
例えば、アルミニウム源としてアルミナ(Al)、リン源として五酸化二リン、テンプレートとしてトリエチルアミンを使用する場合、Al1モルに対して、例えば80モル以上、好ましくは100モル以上の水を使用する。なお、水の使用量が過剰過ぎると、核の生成量が少なくなり過ぎて、ALPO分子篩が非晶質となり得る。よって、水の使用量は、例えば、Al1モルに対して、400モル程度以下である。このような水の使用量で、水性ゲルの作製と水熱合成反応とを行うことにより、結晶子径が360Å~700ÅのALPO分子篩を容易に得ることができる。ここで、水性ゲルの作製条件(特に、撹拌時間)、および水熱合成の反応条件(特に、反応時間)を調整することで、上記の範囲内で結晶子径をある程度制御することもできる。
【0049】
本実施形態においては、HC吸着層20は、上記のALPO分子篩以外のHC吸着材(例、ゼオライト、12員環を有しないALPO等の分子篩)を含有していてもよい。HC吸着層20において、全HC吸着材のうち、典型的には50質量%超え、好ましく80質量%以上、より好ましくは90%質量以上、さらに好ましくは100質量%が、上記の結晶子径と12員環を有するALPO分子篩である。
【0050】
HC吸着材の粒子径は特に限定されない。HC吸着材(特に、上記の結晶子径と12員環を有するALPO分子篩)の平均一次粒子径は例えば、0.5μm~60μmであり、0.5μm~30μmであってよい。排ガス浄化層40の基材11に対する耐剥離性が特に高くなることから、HC吸着材(特に、上記の結晶子径と12員環を有するALPO分子篩)の平均一次粒子径は、好ましくは1μm~26μmであり、より好ましくは1μm~10μmである。なお、HC吸着材の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像を取得し、任意に選ばれる100個以上のHC吸着材粒子の粒子径を求め、その平均値を算出することにより、求めることができる。なお、HC吸着材粒子がALPO分子篩である場合、粒子径には、六角柱状粒子の高さ方向の寸法を測定する。
【0051】
排ガス浄化用触媒10におけるHC吸着材の量は、特に限定されず、基材11のセル12の大きさや排ガス浄化用触媒10に流通する排ガスの流量等を考慮して適宜設計することができる。基材11の体積1L当たりのHC吸着材の量として、例えば、1g/L以上、5g/L以上、10g/L以上、15g/L以上、または20g/L以上であってよく、例えば、200g/L以下、150g/L以下、100g/L以下、80g/L以下、60g/L以下、50g/L以下、または40g/L以下であってよい。
【0052】
なお、本明細書において「基材の体積1L当たり」とは、基材の純体積にセル通路の容積も含めた全体の嵩容積1L当たりをいう。以下の説明において(g/L)と記載しているものについては、基材の体積1Lに含まれる量を示すものである。
【0053】
HC吸着層20は、任意成分として、HC吸着材以外の成分を含み得る。HC吸着層20の任意成分の例としては、アルミナゾル、シリカゾル等のバインダ、各種添加剤などが挙げられる。
【0054】
HC吸着層20は、その他の任意成分として、酸素吸放出能を有する酸素吸放出材(いわゆる、OSC材)、酸素吸放出能を有しない非酸素吸放出材(いわゆる、非OSC材)を含有していてもよい。OSC材、および非OSC材の例は、後述の触媒層30に含まれるOSC材、および非OSC材と同様である。
【0055】
HC吸着層20におけるOSC材および非OSC材の含有量は、特に限定されない。HC吸着層20におけるHC吸着材の量が多いほど、HCを吸着できる。このため、HC吸着層20におけるOSC材および非OSC材の含有量はそれぞれ、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0056】
一方、排ガス浄化用触媒10は、触媒層30を有するため、HC吸着層20は、通常、触媒金属を含有しない。
【0057】
好ましい形態の一つにおいては、HC吸着層20は、HC吸着材、およびバインダ成分のみによって構成される。
【0058】
HC吸着層20の一部が、HC吸着層20の他の部分と異なる組成を有していてもよい。例えば、HC吸着層20の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる組成を有していてもよい。具体的に例えば、HC吸着層20の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる骨格構造のALPO分子篩を含有していてもよい。
【0059】
HC吸着層20のコート量(すなわち、成形量)は、特に限定されない。当該コート量は、筒軸方向Xに沿ってHC吸着層20が形成されている基材の部分の体積1Lあたり、例えば3~200g/Lであり、10~100g/Lであってもよい。上記範囲を満たすことにより、有害成分の浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで両立することができる。また、耐久性や耐剥離性を向上することができる。
【0060】
HC吸着層20の厚みは特に限定されず、耐久性や耐剥離性等を考慮して適宜設計すればよい。HC吸着層20の厚みは、例えば1~100μmであり、5~100μmであってよい。
【0061】
HC吸着層20の筒軸方向Xのコート幅(平均長さ)は、特に限定されない。当該コート幅は、大きい方がHC浄化性能に優れるため、当該コート幅は、基材11の全長Lの例えば20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であり、基材11の全長Lと同じ長さであってもよい。
【0062】
触媒層30は、排ガス中の有害成分を浄化する反応場である。触媒層30は、多数の細孔(空隙)を有する多孔質体である。排ガス浄化用触媒10に流入した排ガスは、排ガス浄化用触媒10の流路内(セル12)を流動している間に触媒層30と接触する。これによって、排ガス中の有害成分が浄化される。例えば、排ガスに含まれるHCやCOは、触媒層30によって酸化され、水や二酸化炭素等に変換(浄化)される。例えば、排ガスに含まれるNOxは、触媒層30によって還元され、窒素に変換(浄化)される。
【0063】
触媒層30は、必須成分として少なくとも触媒金属を含む。触媒金属としては、有害成分の浄化にあたり酸化触媒や還元触媒として機能し得る種々の金属種を使用可能である。触媒金属の典型例としては、白金族、すなわち、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)が挙げられる。また、白金族にかえて、あるいは白金族に加えて、他の金属種を使用してもよい。例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの金属種を使用してもよい。また、これらの金属のうちの2種以上を合金化したものを用いてもよい。触媒金属としては、酸化活性が高い酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)、および還元活性が高い還元触媒(例えばRh)が好適であり、特にこれらを2種以上組み合わせることが好ましい。酸化触媒および還元触媒は、同じ(単一の)触媒層に存在していてもよいし、別個の触媒層に存在していてもよい。
【0064】
触媒金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から、十分に小さい粒径の微粒子として使用されることが好ましい。触媒金属の平均粒子径(具体的には、透過電子顕微鏡(TEM)観察により求められる、50個以上の触媒金属の粒径の平均値)は、概ね1~15nm、例えば10nm以下、さらには5nm以下であるとよい。
【0065】
排ガス浄化用触媒10における触媒金属の量は、特に限定されず、触媒金属の種類等に応じて適宜決定することができる。基材11の体積1L当たりの触媒金属の量として、特に高い排ガス浄化性能の観点からは、例えば、0.01g/L以上、0.03g/L以上、0.05g/L以上、0.08g/L以上、または0.10g/L以上であってよい。排ガス浄化性能とコストとのバランスの観点からは、例えば、15.00g/L以下、10.00g/L以下、5.00g/L以下、3.00g/L以下、1.50g/L以下、1.00g/L以下、0.80g/L以下、または0.50g/L以下であってよい。
【0066】
触媒金属は、通常、担体に支持されている。よって、触媒層30は、触媒金属を担持する担体をさらに含有していてもよい。
【0067】
触媒金属を担持する担体としては、排ガス浄化用触媒の触媒金属の担体として用いられる公知の材料を使用することができる。担体は、典型的には、無機多孔質体である。担体としては、酸化アルミニウム(Al、アルミナ)、酸化チタン(TiO、チタニア)、酸化ジルコニウム(ZrO、ジルコニア)、酸化ケイ素(SiO、シリカ)等の酸素貯蔵能を有しない材料(非OSC材);セリア(CeO)、セリアを含む複合酸化物等の酸素貯蔵能を有する材料(OSC材);などが挙げられる。担体は、非OSC材およびOSC材のいずれかであってよく、両方であってよい。
【0068】
非OSC材として用いられる酸化物には、耐熱性等を向上させるために、Pr、Nd、La、Y等の希土類元素の酸化物が、少量(例えば、1質量%以上10質量%以下)添加されていてもよい。耐熱性および耐久性に特に優れることから、非OSC材は、Alが好ましく、Laが複合化されたAl(La-Al複合酸化物;LA複合酸化物)であることがより好ましい。
【0069】
OSC材に関し、セリアを含む複合酸化物としては、セリアとジルコニアとを含む複合酸化物(セリア-ジルコニア複合酸化物(いわゆる、CZ複合酸化物またはZC複合酸化物))などが挙げられる。OSC材に酸化ジルコニウムが含有されている場合には、酸化セリウムの熱劣化を抑制できることから、OSC材としては、セリア-ジルコニア複合酸化物が好ましい。
【0070】
OSC材は、特性(特に耐熱性と酸素吸放出特性等)の向上を目的として、希土類元素の酸化物を含んでいても良い。希土類元素の例としては、Sc、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどが挙げられる。希土類元素の酸化物としては、好適にはPr、Nd、La、およびYである。
【0071】
OSC材が酸化セリウムを含む複合酸化物である場合、その酸素吸蔵能を十分に発揮させる観点から、当該複合酸化物における酸化セリウムの含有率は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。一方、酸化セリウムの含有率が高過ぎると、OSC材の塩基性が高くなり過ぎるおそれがある。そのため、酸化セリウムの含有率は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。
【0072】
一例として、触媒層30は、OSC材、および非OSC材を含み、触媒金属は、OSC材、および非OSC材の両方に担持される。
【0073】
触媒層30は、触媒金属を担持しない形態で、上記のOSC材および/または上記の非OSC材をさらに含有していてもよい。担体として使用されるOSC材および非OSC材、ならびに非担体として使用されるOSC材および非OSC材は、Siを含有しないことが好ましい。
【0074】
排ガス浄化用触媒10におけるOSC材および非OSC材の量は、特に限定されず、基材11のセル12の大きさや排ガス浄化用触媒10に流通する排ガスの流量等を考慮して適宜設計することができる。基材11の体積1L当たりのOSC材および非OSC材の合計量(担体および非担体の両方を含めたOSC材および非OSC材の合計量)として、例えば、50g/L以上、70g/L以上、80g/L以上、90g/L以上、または100g/L以上であってよく、例えば、300g/L以下、250g/L以下、200g/L以下、180g/L以下、または160g/L以下であってよい。
【0075】
触媒層30は、触媒金属の担体として、または、触媒金属を担持しない形態で、OSC材を含むことが好ましい。このとき、例えば車両の走行条件などによって排ガスの空燃比が変動したときにも、安定して優れた浄化性能を発揮することができる。
【0076】
触媒層30は、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類元素を含んでいてもよい。アルカリ土類元素によって、触媒金属(特に酸化触媒)の被毒を抑制することができる。また、アルカリ土類元素によって、触媒金属の分散性が高められ、触媒金属の粒成長に伴うシンタリングを抑制することができる。また、触媒層30が、OSC材と共にアルカリ土類元素を含む場合には、理論空燃比よりも燃料が薄いリーン雰囲気(酸素過剰雰囲気)において、OSC材への酸素吸収量をさらに向上させることができる。アルカリ土類元素は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物等の形態で含有され得る。
【0077】
また、触媒層30は、NOx吸蔵能を有するNOx吸着材や、安定化剤等を含んでいてもよい。安定化剤としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)等の希土類元素が挙げられる。なお、希土類元素は、酸化物の形態で触媒層30に存在しうる。
【0078】
触媒層30のその他の任意成分としては、アルミナゾル、シリカゾル等のバインダ、各種添加剤などが挙げられる。バインダは、Siを含有しないものが好ましく、よってアルミナゾルが好ましい。
【0079】
触媒層30は、HC吸着材を含んでいてもよいが、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒10は、HC吸着層20を有しているため、触媒層30が、HC吸着材を含んでいないことが好ましい。
【0080】
特に限定されるものではないが、触媒層30のコート量(成形量)は、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね30g/L以上、典型的には50g/L以上、好ましくは70g/L以上、例えば100g/L以上であってよく、概ね500g/L以下、典型的には400g/L以下、例えば、300g/L以下であってもよい。上記範囲を満たすことにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。なお、本明細書において「コート量」とは、排ガス浄化用触媒10の単位体積あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0081】
触媒層30の長さや厚みは、例えば、基材11のセル12の大きさや排ガス浄化用触媒10に流通する排ガスの流量等を考慮して適宜設計することができる。触媒層30は、基材11の隔壁14に連続的に設けられていてもよく、断続的に設けられていてもよい。触媒層30は、例えば、排ガスの流入口10aから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよいし、排ガスの流出口10bから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよい。
【0082】
特に限定されるものではないが、触媒層30の筒軸方向Xの全体のコート幅(平均長さ)は、基材11の全長Lの概ね20%以上、好ましくは50%以上、典型的には80%以上、例えば90%以上であるとよく、基材11の全長Lと同じ長さであってもよい。特に限定されるものではないが、触媒層30のコート厚み(平均厚み)は、概ね1~300μm、典型的には5~200μm、例えば10~100μmである。これにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0083】
触媒層30の一部が、触媒層30の他の部分と異なる組成を有していてもよい。例えば、触媒層30の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる組成を有していてもよい。具体的に例えば、触媒層30の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる触媒金属を含有していてもよい。
【0084】
図3に例示される排ガス浄化用触媒10は、排ガス浄化層40のみを有している。しかしながら、排ガス浄化用触媒10は、これら以外の層をさらに有していてもよい。例えば、排ガス浄化用触媒10は、基材11と排ガス浄化層40との間に別の層(下地層とも呼ばれ得る)を有していてもよいし、排ガス浄化層40の上に別の層を有していてもよい。また、排ガス浄化層40は、HC吸着層20と触媒層30以外の排ガスの浄化に関与する層をさらに有していてもよい。
【0085】
図3に例示される排ガス浄化用触媒10の触媒層30は、単層構造を有している。しかしながら、触媒層30は、各層が触媒金属を含有する複層構造を有していてもよい。以下、触媒層30が複層構造である場合の排ガス浄化用触媒の例について説明する。
【0086】
≪排ガス浄化用触媒10の変形例≫
図7は、排ガス浄化用触媒10の変形例である排ガス浄化用触媒10’を筒軸方向Xに沿って切断した断面の一部を模式的に示す部分断面図である。排ガス浄化用触媒10’は、基材11と、基材11に設けられた排ガス浄化層40’とを備えている。排ガス浄化層40’は、HC吸着層20と、複層構造の触媒層30’と、を備えている。HC吸着層20が、触媒層30’よりも基材11側になるように、HC吸着層20と触媒層30’とが積層されている。触媒層30’が複層構造であることにより、排ガス浄化性能をさらに高めることができる。
【0087】
基材11およびHC吸着層20については上記と同様である。触媒層30’は、図3に示す例とは異なり、複層構造を有している。具体的には、触媒層30’は、第1部分触媒層(下層)31と第2部分触媒層(上層)32とが、厚み方向に積層された積層構造を有している。したがって、下層31が、基材11側に配置されている。図示例では、HC吸着層20の表面に接するように下層31が設けられ、下層31の上面に接するように上層32が設けられている。図示例では、触媒層30’は、2層構造を有しているが、触媒層30’は、3層以上の積層構造を有していてもよい。例えば、触媒層30’は、下層31と上層32との間に中間層を有していてもよいし、触媒層30’は、上層32の上にさらに別の層を有していてもよい。
【0088】
下層31および上層32はそれぞれ、触媒金属を含有している。ここで、下層31と上層32は、同じ触媒金属を含んでいてよいし、異なる触媒金属を含んでいてもよく、異なる触媒金属を含有することが好ましい。
【0089】
具体的に、例えば、下層31は、触媒金属として、酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含み、上層32は、触媒金属として還元触媒(例えばRh)を含む。この場合、排ガス浄化用触媒10’は、排ガス浄化性能に特に優れる。より高い排ガス浄化性能の観点から、下層31の触媒金属がPtであり、上層32の触媒金属がRhであることが有利である。この場合、パラフィンの浄化に特に有利である。あるいは、より高い排ガス浄化性能の観点から、下層31の触媒金属がPdであり、上層32の触媒金属がRhであることが有利である。この場合、オレフィンの浄化に特に有利である。
【0090】
なお、下層31が、Ptを含む場合、下層31に含まれる触媒金属のうちの好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%が、Ptである。下層31が、Pdを含む場合、下層31に含まれる触媒金属のうちの好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%が、Pdである。上層32が、Rhを含む場合、上層32に含まれる触媒金属のうちの好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%が、Rhである。
【0091】
下層31および上層32は、上記した触媒層30と同様の任意成分を含有していてもよい。
【0092】
≪排ガス浄化用触媒10の製造方法≫
排ガス浄化用触媒10は、例えば以下のような方法で製造することができる。まず、基材11と、HC吸着層20を形成するためのHC吸着層形成用スラリーと、触媒層30を形成するための触媒層形成用スラリーを用意する。
【0093】
HC吸着層形成用スラリーは、例えば、上記の結晶子径と12員環を有するALPO分子篩と、その他の任意成分(例えば、非OSC材、OSC材、バインダ、各種添加剤等)とを、分散媒中で混合することにより、調製することができる。触媒層形成用スラリーは、例えば、触媒金属源(例えば、触媒金属をイオンとして含む溶液)と、その他の任意成分(例えば、非OSC材、OSC材、バインダ、各種添加剤等)とを、分散媒中で混合することにより、調製することができる。分散媒としては、例えば、水、水と水溶性有機溶媒の混合物等を使用し得る。これらのスラリーの性状(例えば、粘度、固形分率等)は、使用する基材11のサイズや、セル12(隔壁14)の形態、HC吸着層20および触媒層30への要求特性等によって適宜決定することができる。
【0094】
次に、HC吸着層形成用スラリーを用いて、基材11にHC吸着層20を形成する。HC吸着層20の形成は、従来公知の方法(例えば、含浸法、ウォッシュコート法等)により行うことができる。具体的に例えば、HC吸着層形成用スラリーを基材11の端部からセル12に流入させ、筒軸方向Xに沿って所定の長さまで供給する。スラリーは、流入口10aと流出口10bのいずれから流入させてもよい。このとき、余分なスラリーは反対側の端部から吸引してもよい。また、反対側の端部から送風を行う等して、余分なスラリーをセル12から排出させてもよい。
【0095】
次に、スラリーを供給した基材11を所定の温度および時間で焼成する。焼成の方法は従来と同様であってよい。また、焼成の前に乾燥を行って、分散媒を除去してもよい。これにより、基材11上にHC吸着層20を形成することができる。
【0096】
続いて、触媒層形成用スラリーを用いて、触媒層30を形成する。触媒層30の形成は、従来公知の方法(例えば、含浸法、ウォッシュコート法等)により行うことができる。例えば、上記と同様にして、触媒層形成用スラリーを基材11の端部からセル12に流入させ、筒軸方向Xに沿って所定の長さまで供給し、基材11に形成されたHC吸着層20上に、触媒層形成用スラリーを塗工する。
【0097】
次に、これを、所定の温度および時間で焼成する。焼成の方法は従来と同様であってよい。また、焼成の前に乾燥を行って、分散媒を除去してもよい。これにより、基材11に形成されたHC吸着層20上に触媒層30を形成することができる。以上のようにして、排ガス浄化用触媒10を得ることができる。
【0098】
〔第2実施形態〕
第2実施形態は、第1実施形態とは、排ガス浄化用触媒の排ガス浄化層の構造が異なっている。よって、この点について主に説明し、第1実施形態と同じ点については、基本的に説明を省略する。
【0099】
図8は、第2実施形態における排ガス浄化用触媒110を筒軸方向に切断した部分断面図である。図8に示すように、第2実施形態に係る排ガス浄化用触媒110は、基材11と、排ガス浄化層140と、を備えている。基材11には、第1実施形態と同じ基材が用いられている。排ガス浄化層140は、触媒金属と、HC吸着材としてSiを実質的に含有しない分子篩とを含有する。当該Siを実質的に含有しない分子篩は、12員環を有するALPO分子篩である。X線回折測定によって求まる、当該ALPO分子篩の結晶子径は、360Å~700Åである。
【0100】
第2実施形態では、排ガス浄化層140が、筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)140Aと下流側X2部分(リア部)140Bとを有している。フロント部140Aは、上記のALPO分子篩を含有するHC吸着層として構成され、リア部140Bは、触媒金属を含有する触媒層として構成されている。
【0101】
フロント部140Aを構成するHC吸着層の組成は、第1実施形態に係る排ガス浄化用触媒10のHC吸着層20と同じであってよい。リア部140Bを構成する触媒層の組成は、第1実施形態に係る排ガス浄化用触媒10の触媒層30と同じであってよい。
【0102】
排ガス浄化用触媒110における触媒金属、上記のALPO分子篩、OSC材、非OSC材の量はそれぞれ、特に限定されず、第1実施形態に係る排ガス浄化用触媒10における量と同じであってよい。
【0103】
フロント部140Aおよびリア部140Bの筒軸方向Xのコート幅(平均長さ)の比は、特に限定されないが、例えば、5:95~90:10であり、好ましくは10:90~80:20であり、より好ましくは20:80~70:30である。
【0104】
フロント部140Aおよびリア部140Bはそれぞれ、単層構造を有しているが、複層構造であってもよい。例えば、リア部140Bは、表層部側の上層と、基材側の下層とを含む複層構造を有し、上層と下層が、異なる種類の触媒金属を含有していてもよい。
【0105】
具体的に例えば、リア部140Bは、表層部側の上層と、基材側の下層とを含む複層構造を有し、上層が触媒金属として還元触媒(例えばRh)とを含有し、下層が触媒金属として酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含有する。このとき、排ガス浄化用触媒110は、排ガス浄化性能に特に優れる。
【0106】
なお、排ガス浄化層140において、フロント部140Aを触媒層として構成し、リア部140BをHC吸着層として構成することも可能である。しかしながら、上述のように、フロント部140AをHC吸着層として構成し、リア部140Bを触媒層として構成する場合には、フロント部140Aで吸着したHCを、フロント部140Aから脱離した際にリア部140Bで浄化できるため、HCの浄化効率において特に有利である。
【0107】
図示例では、フロント部140Aとリア部140Bが、接しているが、離れていてもよい。また、製法上の理由等により、フロント部140AのX2側端部と、リア部140BのX1側端部とが、一部重なっていてもよい。
【0108】
特に限定されるものではないが、排ガス浄化層140のコート量(成形量)は、排ガス浄化用触媒110の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね30g/L以上、典型的には50g/L以上、好ましくは70g/L以上、例えば100g/L以上であってよく、概ね500g/L以下、典型的には400g/L以下、例えば、300g/L以下であってもよい。上記範囲を満たすことにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。なお、本明細書において「コート量」とは、排ガス浄化用触媒10の単位体積あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0109】
特に限定されるものではないが、排ガス浄化層140の筒軸方向Xの全体のコート幅(平均長さ)は、基材11の全長Lの概ね20%以上、好ましくは50%以上、典型的には80%以上、例えば90%以上であるとよく、基材11の全長Lと同じ長さであってもよい。特に限定されるものではないが、排ガス浄化層140のコート厚み(平均厚み)は、概ね1~300μm、典型的には5~200μm、例えば10~100μmである。これにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0110】
第2実施形態の排ガス浄化用触媒110は、例えば以下のような方法で製造することができる。まず、第1実施形態と同様に、基材11と、HC吸着層形成用スラリーと、触媒層形成用スラリーを用意する。
【0111】
基材11の排ガスの流入側端部から、HC吸着層形成用スラリーを所定の位置まで流し込み、乾燥する。基材11の排ガスの流出側端部から、触媒層形成用スラリーを所定の位置まで流し込み、乾燥する。その後焼成を行い、基材11上に、HC吸着層から構成されるフロント部と、触媒層から構成されるリア部とを備える排ガス浄化層140を形成する。これにより、排ガス浄化用触媒110を得ることができる。
【0112】
〔第3実施形態〕
第3実施形態は、第1実施形態とは、排ガス浄化用触媒の排ガス浄化層の構造が異なっている。よって、この点について主に説明し、第1実施形態と同じ点については、基本的に説明を省略する。
【0113】
図9は、第3実施形態における排ガス浄化用触媒210を筒軸方向に切断した部分断面図である。図9に示すように、第3実施形態に係る排ガス浄化用触媒210は、基材11と、排ガス浄化層240と、を備えている。基材11には、第1実施形態と同じ基材が用いられている。排ガス浄化層240は、触媒金属と、HC吸着材としてSiを実質的に含有しない分子篩とを含有する。当該Siを実質的に含有しない分子篩は、12員環を有するALPO分子篩である。X線回折測定によって求まる、当該ALPO分子篩の結晶子径は、360Å~700Åである。第3実施形態では、一つの層内に、このALPO分子篩と触媒金属とが混合されて含有されている。
【0114】
排ガス浄化層240において、触媒金属は、上記のALPO分子篩に担持されていてもよいし、担体に支持されていてもよい。よって、排ガス浄化層240は、触媒金属を担持する担体をさらに含有していてもよい。触媒金属は、上記のALPO分子篩および担体のいずれかに担持されていてもよく、その両方に担持されていてもよい。担体の例としては、上述のOSC材、および上述の非OSC材が挙げられる。
【0115】
一例として、排ガス浄化層240は、触媒金属、上記のALPO分子篩、OSC材、および非OSC材を含み、触媒金属は、上記のALPO分子篩、OSC材、および非OSC材のすべてに担持される。別の例として、排ガス浄化層240は、触媒金属、上記のALPO分子篩、OSC材、および非OSC材を含み、触媒金属は、非OSC材に担持される。さらに別の例として、排ガス浄化層240は、触媒金属、上記のALPO分子篩、OSC材、および非OSC材を含み、触媒金属は、OSC材および非OSC材に担持される。
【0116】
排ガス浄化層240は、任意成分として、アルカリ土類元素、NOx吸着材、安定化剤、バインダ、各種添加剤、NH吸着材等を含有していてもよい。バインダは、Siを含有しないものが好ましく、よってアルミナゾルが好ましい。
【0117】
排ガス浄化用触媒210における触媒金属、上記のALPO分子篩、OSC材、非OSC材の量はそれぞれ、特に限定されず、第1実施形態に係る排ガス浄化用触媒10における量と同じであってよい。
【0118】
特に限定されるものではないが、排ガス浄化層240のコート量(成形量)は、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね30g/L以上、典型的には50g/L以上、好ましくは70g/L以上、例えば100g/L以上であってよく、概ね500g/L以下、典型的には400g/L以下、例えば、300g/L以下であってもよい。上記範囲を満たすことにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。なお、本明細書において「コート量」とは、排ガス浄化用触媒10の単位体積あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0119】
特に限定されるものではないが、排ガス浄化層240の筒軸方向Xの全体のコート幅(平均長さ)は、基材11の全長Lの概ね20%以上、好ましくは50%以上、典型的には80%以上、例えば90%以上であるとよく、基材11の全長Lと同じ長さであってもよい。特に限定されるものではないが、排ガス浄化層240のコート厚み(平均厚み)は、概ね1~300μm、典型的には5~200μm、例えば10~100μmである。これにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0120】
排ガス浄化層240の一部が、排ガス浄化層240の他の部分と異なる組成を有していてもよい。例えば、例えば、排ガス浄化層240の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる組成を有していてもよい。具体的に例えば、排ガス浄化層240の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる種類の触媒金属を含有していてもよく、異なる種類の上記のALPO分子篩を含有していてもよい。
【0121】
図示例では、排ガス浄化層240は、単層構造であるが、複層構造であってもよい。例えば、排ガス浄化層240は、表層部側の上層と、基材側の下層とを含む複層構造を有し、上層および下層のそれぞれが、上記のALPO分子篩と触媒金属とを含有していてもよい。このとき、上層と下層が、異なる種類の触媒金属を含有していてもよく、異なる種類の上記のALPO分子篩を含有していてもよい。
【0122】
具体的に例えば、排ガス浄化層240は、表層部側の上層と、基材側の下層とを含む複層構造を有し、上層が、上記のALPO分子篩と、触媒金属として還元触媒(例えばRh)とを含有し、下層が、上記のALPO分子篩と、触媒金属として酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含有する。このとき、排ガス浄化用触媒210は、排ガス浄化性能に特に優れる。
【0123】
第3実施形態の排ガス浄化用触媒210は、例えば以下のような方法で製造することができる。まず、基材11と、排ガス浄化層240を形成するための排ガス浄化層形成用スラリーを用意する。排ガス浄化層形成用スラリーは、例えば、触媒金属源(例えば、触媒金属をイオンとして含む溶液)と、上記のALPO分子篩と、その他の任意成分(例えば、非OSC材、OSC材、バインダ、各種添加剤等)とを、分散媒中で混合することにより、調製することができる。
【0124】
次に、排ガス浄化層形成用スラリーを、従来公知の方法により、基材11に塗布し、必要に応じ乾燥し、その後焼成する。これにより、基材11上に排ガス浄化層240を形成して、排ガス浄化用触媒210を得ることができる。
【0125】
≪排ガス浄化用触媒10,110,210の用途≫
排ガス浄化用触媒10,110,210は、自動車やトラック等の車両や、自動二輪車や原動機付き自転車をはじめとして、船舶、タンカー、水上バイク、パーソナルウォータークラフト、船外機等のマリン用製品;草刈機、チェーンソー、トリマー等のガーデニング用製品;ゴルフカート、四輪バギー等のレジャー用製品;コージェネレーションシステム等の発電設備;ゴミ焼却炉;等の内燃機関から排出される排ガスの浄化に好適に用いることができる。なかでも、自動車等の車両に対して好適に用いることができ、特に、ガソリンエンジンを備える車両に対して好適に用いることができる。
【0126】
≪炭化水素吸着材≫
別の側面から、ここに開示される炭化水素(HC)吸着材は、上述のALPO分子篩を含む。すなわち、ここに開示されるHC吸着材は、ALPO分子篩を含む。当該ALPO分子篩は、12員環を有する。X線回折測定によって求まる、当該ALPO分子篩の結晶子径は、360Å~700Åである。このような構成によれば、水熱耐久後であってもHC吸着量が高くなる。よって、ここに開示されるHC吸着材を用いて排ガス浄化触媒を構成した場合には、水熱耐久後におけるコールドスタート時のHC浄化性能が高くなる。
【0127】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0128】
<HC吸着材の作製>
〔実施例1-1〕
Al1モルに対して100モルの水を混合し、30分間撹拌した。そこへ、Al1モルに対して1モルのPを添加し、さらに1.55モルのトリエチルアミン(TEA)を添加した。これを30分間撹拌した。これにより水性ゲルを得た。得られた水性ゲルをオートクレーブに移し、210℃で36時間水熱合成を行った。その後、遠心分離を行い、沈殿物を濾過後洗浄した。沈殿物を80℃に設定した乾燥機で一晩乾燥した。その後、沈殿物を、電気炉で150℃で1時間焼成後、さらに600℃で6時間焼成することで、実施例1-1のHC吸着材であるALPO分子篩を得た。
【0129】
〔実施例1-2,1-3,および比較例1-1,1-2〕
Al1モルに対する水の使用量を、表1に示す量に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、各実施例および各比較例のHC吸着材であるALPO分子篩を得た。なお、比較例1-1が、従来一般的な条件で製造されたALPO分子篩である。
【0130】
〔実施例1-4〕
Al1モルに対して200モルの水を混合し、水熱合成の反応時間を36時間から42時間に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、実施例1-4のHC吸着材であるALPO分子篩を得た。
【0131】
〔実施例1-5〕
Al1モルに対して200モルの水を混合し、Pとトリエチルアミンを添加した後の撹拌時間を30分間から3時間に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、実施例1-5のHC吸着材であるALPO分子篩を得た。
【0132】
<結晶子径測定>
XRD装置「RINT TTR III」(リガク社製)を用いて、各実施例および各比較例のALPO分子篩の結晶子径を測定した。測定条件を以下に記す。また、結晶子径の算出には、装置付属の統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2(ver 2.8.1.1)を使用した。具体的には、当該ソフトウェアの解析項目「結晶子サイズ」より、各実施例および各比較例のALPOの結晶子径を算出した。なお、解析手法はHalder-Wangner法であり、補正なしとした。結晶子径の測定結果を表1に示す。
操作軸:2θ/θ
線源:CuKα
測定方法:連続式
電圧:40kV
電流:250mA
開始角度:2θ=5°
終了角度:2θ=85°
サンプリング幅:0.02°
スキャン速度:8.00°/分
発散スリット:1°
発散縦制限スリット:10mm
散乱スリット:8mm
受光スリット:13mm
【0133】
<平均一次粒子径測定>
市販のSEM装置を用いて、各実施例および各比較例のALPO分子篩のSEM画像を測定した。任意に選ばれる100個以上のALPO分子篩の一次粒子の粒子径を求め、その平均値を算出して、平均一粒子径を得た。なお、粒子径には、六角柱状のALPO粒子の高さ方向の寸法を採用した。結果を表1に示す。
【0134】
<水熱耐久後HC吸着量評価>
水熱耐久処理として、上記作製した各実施例および各比較例のALPO分子篩に、RichガスとLeanガスとを交互に、10分ごとに切り替えながら、900℃で10時間流通させた。このRichガスの組成は、CO:5%、水:10%、N:残部とし、このLeanガスの組成は、O:2.5%、水:10%、N:残部とした。
【0135】
上記水熱耐久処理を施した各実施例および各比較例のALPO分子篩を1.0g測り取り、直径35mmの錠剤成型器に移した。油圧ハンドプレス機(HERZOG社製TP-40)を用いて、これを26MPaの圧力で1分間圧縮して、ディスク状の試料を作製した。このディスク状の試料を乳鉢で粗く砕き、粉砕物を目開き1mmの篩と目開き0.5mmの篩に順に通した。これにより、0.5mm~1mmのサイズのペレット試料を得た。
【0136】
乾燥重量で0.5gのペレット試料を、吸着装置にセットした。昇温速度25℃/分で500℃まで昇温することによって前処理を行い、ALPO分子篩の細孔内に残存するHC類と水を除去した。次に、吸着装置を100℃まで降温した後、3000ppmCのデカン(C1022)と3%の水を含有する混合ガスを吸着装置に5L/分の流量で15分間流通させた。その後、流通ガスを100%Nに切り替えて、5分間ガスを流通させた後、Nを流通させたまま昇温速度20℃/分で550℃まで昇温した。これによりALPOに吸着させたデカンを脱離させた。脱離したデカンの量を積算することで、ALPO分子篩に吸着していたデカン量(mg/g)を算出した。結果を図10に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
表1および図10の結果より、ALPO分子篩の結晶子径が360Å以上になると、HC吸着量が急激に増大することがわかる。コールドスタート時のHC浄化性能は、触媒金属が活性温度まで加熱されていないため、HC吸着材のHC吸着能に大きく依存する。よって、図10の結果は、ALPO分子篩の結晶子径が360Å以上である場合に、水熱耐久後のコールドスタート時のHC浄化性能が特に高くなることを意味する。
【0139】
<排ガス浄化用触媒の作製>
〔実施例2-1〕
ハニカム基材(コージェライト製、直径105.7mm、全長74.7mm)を用意した。上記実施例1-1で作製したALPO分子篩と、バインダと、イオン交換水とを混合して、ALPO含有スラリーを調製した。このALPO含有スラリーを、基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、コーティングを行った。これを電気炉内で焼成することにより、基材上にALPO分子篩を含有する下層を形成した。下層のコート量は、ALPO分子篩が50g/L、バインダが8.1g/Lであった。下層のコート幅は、基材の全長の100%とした。
【0140】
硝酸白金と、CeO-ZrO系複合粉末(すなわちOSC材)と、Al粉末と、硫酸バリウムと、バインダと、イオン交換水とを混合して、Pt含有スラリーを調製した。このPt含有スラリーを、基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、コーティングを行った。これを電気炉内で焼成することにより、下層上にPt触媒を含有する中間層を形成した。中間層のコート量は、Ptが0.85g/L、OSC材が26g/L、Al粉末が26g/L、硫酸バリウムが8g/L、バインダが1.2g/Lであった。中間層のコート幅は、基材の全長の100%とした。
【0141】
硝酸ロジウムと、CeO-ZrO系複合粉末(すなわちOSC材)と、Al粉末と、バインダと、イオン交換水とを混合して、Rh含有スラリーを調製した。このRh含有スラリーを、中間層を形成した基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、コーティングを行った。これを電気炉内で焼成することにより、中間層上にRh触媒を含有する上層を形成した。上層のコート量は、Rhが0.14g/L、OSC材が40g/L、Al粉末が70g/L、バインダが0.7g/Lであった。上層のコート幅は、基材の全長の100%とした。このようにして、実施例2-1の排ガス浄化用触媒を得た。
【0142】
〔比較例2-1〕
ALPO分子篩を含有する下層を形成しなかった以外は、実施例2-1と同じ方法で、比較例2-1の排ガス浄化用触媒を作製した。よって、比較例2-1の排ガス浄化触媒は、Pt触媒を含有する下層と、Rh触媒を含有する上層とを有する二層構造であった。
【0143】
〔比較例2-2〕
上記実施例1-1で作製したALPO分子篩に代えて、BEA型ゼオライトを用いた以外は、実施例2-1と同じ方法で、比較例2-2の排ガス浄化用触媒を作製した。よって、比較例2-2の排ガス浄化用触媒に用いられているゼオライトは、Siを含有していた。
【0144】
〔比較例2-3〕
上記実施例1-1で作製したALPO分子篩に代えて、上記比較例1-1で作製したALPO分子篩を用いた以外は、実施例2-1と同じ方法で、比較例2-3の排ガス浄化用触媒を作製した。比較例2-3の排ガス浄化用触媒は、一般的な結晶子径を有するALPO分子篩を含有していた。
【0145】
[水熱耐久処理]
実施例2-1および比較例2-1~2-3の排ガス浄化用触媒に、RichガスとLeanガスとを交互に、10分ごとに切り替えながら、900℃で10時間流通させた。このRichガスの組成は、CO:5%、水:10%、N:残部とし、このLeanガスの組成は、O:2.5%、水:10%、N:残部とした。
【0146】
[HCに対する触媒活性評価]
上記水熱耐久処理を施した実施例2-1および比較例2-1~2-3の排ガス浄化用触媒に、前処理ガスAを流通させながら100℃から500℃まで20℃/分で昇温を行い、5分間500℃に保持した。次いで、不活性ガス(Nガス)を流通させながら100℃まで降温させた。温度が安定した後、反応ガスAを流通させながら550℃まで50℃/分で昇温を行い、反応ガスのHCの浄化率が50%に到達する温度(HC50%浄化温度:T50)を求めた。なお、前処理ガスAおよび反応ガスAとしては、以下のものを用いた。実施例2-1および比較例2-1~2-3のHC50%浄化温度のグラフを図11に示す。
前処理ガスA
A/F比:14.6;
:2400ppmC、C:600ppmC、CO:0.5%、
NO:800ppm、HO:10%、CO:10%、O:0.6%、N:残部
反応ガスA
A/F比:14.5;
:1500ppmC、C1022:1500ppmC、HO:3%、
CO:10%、O:0.3%、N:残部
【0147】
図11の結果より、HC吸着材として12員環を有するALPO分子篩を用いることで、水熱耐久後のHC浄化性能が高くなることがわかる。また、ALPO分子篩の結晶子径を意図的に大きくした実施例2-1の排ガス浄化触媒の方が、一般的な結晶子径のALPO分子篩を用いた比較例2-3の排ガス浄化触媒よりも、HC50%浄化温度が低く、HC浄化性能が高いことがわかる。一方で、HC吸着材としてゼオライトを用いた場合には、水熱耐久後のHC浄化性能が悪かった。これは、水熱耐久の際にゼオライトに含まれるSiが、触媒層へマイグレーションし、触媒金属を被毒させたためである。
【0148】
<車両試験によるHC浄化性能の評価>
〔実施例3-1〕
[第1触媒]
ハニカム基材(コージェライト製、直径117mm、全長100mm)を用意した。硝酸パラジウムと、CeO-ZrO系複合粉末(すなわちOSC材)と、Al粉末と、硫酸バリウムと、バインダと、イオン交換水とを混合して、Pd含有スラリーを調製した。このPd含有スラリーを、基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、コーティングを行った。これを電気炉内で焼成することにより、基材上にPd触媒を含有する下層を形成した。下層のコート量は、Pdが2.0g/L、OSC材が45g/L、Al粉末が72g/L、硫酸バリウムが6g/L、バインダが2.4g/Lであった。なお、下層のコート幅は、基材の全長の100%とした。
【0149】
硝酸ロジウムと、CeO-ZrO系複合粉末(すなわちOSC材)と、Al粉末と、バインダと、イオン交換水とを混合して、Rh含有スラリーを調製した。このRh含有スラリーを、下層を形成した基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、コーティングを行った。これを電気炉内で焼成することにより、下層上にRh触媒を含有する上層を形成した。上層のコート量は、Rhが0.14g/L、OSC材が40g/L、Al粉末が70g/L、バインダが0.7g/Lであった。なお、上層のコート幅は、基材の全長の100%とした。このようにして、第1触媒を得た。
【0150】
[第2触媒]
ハニカム基材(コージェライト製、直径105.7mm、全長74.7mm)を用意した。上記実施例1-1で作製したALPO分子篩と、バインダと、イオン交換水とを混合して、ALPO含有スラリーを調製した。このALPO含有スラリーを、基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、コーティングを行った。これを電気炉内で焼成することにより、基材上にALPO分子篩を含有する下層を形成した。下層のコート量は、ALPOが50g/L、バインダが8.1g/Lであった。
【0151】
硝酸白金と、CeO-ZrO系複合粉末(すなわちOSC材)と、Al粉末と、硫酸バリウムと、バインダと、イオン交換水とを混合して、Pt含有スラリーを調製した。このPt含有スラリーを、基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、コーティングを行った。これを電気炉内で焼成することにより、下層上にPt触媒を含有する中間層を形成した。中間層のコート量は、Ptが0.85g/L、OSC材が26g/L、Al粉末が26g/L、硫酸バリウムが8g/L、バインダが1.2g/Lであった。
【0152】
硝酸ロジウムと、CeO-ZrO系複合粉末(すなわちOSC材)と、Al粉末と、バインダと、イオン交換水とを混合して、Rh含有スラリーを調製した。このRh含有スラリーを、中間層を形成した基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、コーティングを行った。これを電気炉内で焼成することにより、中間層上にRh触媒を含有する上層を形成した。上層のコート量は、Rhが0.21g/L、OSC材が50g/L、Al粉末が35g/L、バインダが1.6g/Lであった。このようにして、第2触媒を得た。
【0153】
[車両試験]
第1触媒および第2触媒を触媒システムとして、ガソリンエンジンを備える車両に搭載させた。このとき、第1触媒を筐体に収容してスタートアップ触媒の位置に取り付け、第2触媒を筐体に収容してアンダーフロア触媒の位置に取り付けた。第2触媒の下流側にTHC計を取り付けた。シャシダイナモメータ上でこの車両をWLTCモードに従って運転し、LOWフェーズ(WLTCモード0s~600sの領域)で排出されたTHCを積算し、コールド域のHCエミッション量(mg/km)を求めた。結果を図12に示す。
【0154】
〔比較例3-1〕
ALPO分子篩を含有する下層を形成しなかった以外は、実施例3-1と同じ方法で、第2触媒を作製した。この第2触媒を用いた以外は、実施例3-1と同じ方法で車両試験を行った。結果を図12に示す。
【0155】
〔比較例3-2〕
上記実施例1-1で作製したALPO分子篩に代えて、BEA型ゼオライトを用いた以外は、実施例3-1と同じ方法で、第2触媒を作製した。この第2触媒を用いた以外は、実施例3-1と同じ方法で車両試験を行った。結果を図12に示す。
【0156】
〔比較例3-3〕
上記実施例1-1で作製したALPO分子篩に代えて、上記比較例1-1で作製したALPO分子篩を用いた以外は、実施例3-1と同じ方法で、第2触媒を作製した。この第2触媒を用いた以外は、実施例3-1と同じ方法で車両試験を行った。結果を図12に示す。
【0157】
図12の結果でも、結晶子径が360Å以上のALPO分子篩を用いた実施例3-1において、HCエミッション量が最も小さく、よってHC浄化性能が最も高かった。HC吸着材を使用していない比較例3-1を基準とした場合、BEA型ゼオライトを用いた比較例3-1でのエミッション量の低減量は、4mg/kmである。一方で、実施例3-1でのエミッション量の低減量は5mg/kmであった。よって、実施例3-1では、BEA型ゼオライトを用いた比較例3-1と比べて、エミッション量を25%低減できた。また、車両試験では、ALPO分子篩の結晶子径を大きくすることによるHC浄化性能の向上効果が顕著に現れた。
【0158】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【要約】
本発明により、水熱耐久後におけるコールドスタート時のHC浄化性能が高い排ガス浄化用触媒が提供される。ここに開示される排ガス浄化用触媒は、基材と、前記基材上に設けられた排ガス浄化層と、を備える。前記排ガス浄化層は、触媒金属と、炭化水素吸着材としてSiを実質的に含有しない分子篩と、を含有する。前記Siを実質的に含有しない分子篩は、12員環を有するアルミノホスフェート分子篩である。X線回折測定によって求まる、前記アルミノホスフェート分子篩の結晶子径は、360Å~700Åである。
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