(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】MnZn系フェライト
(51)【国際特許分類】
C04B 35/38 20060101AFI20241031BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20241031BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C04B35/38
C01G49/00 B
H01F1/34 140
(21)【出願番号】P 2024559104
(86)(22)【出願日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2024022313
【審査請求日】2024-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2023106458
(32)【優先日】2023-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】菊地 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幹雄
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-227554(JP,A)
【文献】特開2021-161007(JP,A)
【文献】特開2022-156991(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112707723(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/38
C01G 49/00
H01F 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本成分、副成分及び不可避的不純物からなるMnZn系フェライトであって、
前記基本成分が、それぞれFe
2O
3、ZnO、及びMnO換算でのFe、Zn、及びMnの合計を100.0mol%として、
Fe:Fe
2O
3換算で52.0mol%以上53.6mol%以下、
Zn:ZnO換算で10.1mol%以上13.0mol%未満、及び
Mn:残部
であり、
前記基本成分に対して、前記副成分が、
Si:SiO
2換算で30質量ppm以上
49質量ppm以下、
Ca:CaO換算で300質量ppm以上1000質量ppm以下、
Co:Co
3O
4換算で2100質量ppm以上3500質量ppm以下、
Ti:TiO
2換算で2500質量ppm以上4000質量ppm以下、
Nb:Nb
2O
5換算で50質量ppm以上500質量ppm以下、及び
V :V
2O
5換算で0質量ppm以上500質量ppm以下
を含むMnZn系フェライト。
【請求項2】
V
2O
5換算でのVの含有量が50質量ppm以上250質量ppm以下である、請求項1に記載のMnZn系フェライト。
【請求項3】
V
2O
5換算でのVの含有量が100質量ppm以上500質量ppm以下である、請求項1に記載のMnZn系フェライト。
【請求項4】
-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が2300以上である、請求項1又は2に記載のMnZn系フェライト。
【請求項5】
125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が1000以上である、請求項1又は3に記載のMnZn系フェライト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MnZn系フェライトに関し、特にパルストランス等の電子部品に好適なMnZn系フェライトに関する。
【背景技術】
【0002】
イーサネット(登録商標)機器のトランスには、入出力端子でのインピーダンスの整合を図る、もしくは電気的絶縁を保つ等の目的から、磁心に軟磁性材料を用いたパルストランスが用いられている。パルストランスには、例えば-40~85℃等の温度範囲において、直流磁界印加時に高いインダクタンス、すなわち高い増分透磁率(μΔ)を有することが求められている。ここで、増分透磁率とは、磁界が印加された状態における磁心の透磁率(磁化のしやすさ)を示す値である。なお、増分透磁率と実効透磁率とは同義であるから、本明細書では増分透磁率に統一して表記する。
【0003】
軟磁性材料を用いた磁心には、トロイダル形状のMnZn系フェライトが一般に用いられている。MnZn系フェライトは、多くの軟磁性材料の中でも、特に、高透磁率、高インダクタンスが容易に得られ、また、MnZn系フェライトは、アモルファス金属等の金属磁性材料と比較して安価であり、酸化物なので錆びることなく安定である等の特長を有している。
【0004】
しかし、MnZn系フェライトは、酸化物磁性材料であることから、キュリー温度が高くはなく、温度の変動によって磁気特性が大きく変化するという特性を有するため、金属磁性材料と比較して、幅広い温度範囲において安定した磁気特性を得るのが難しいという欠点を有する。
【0005】
パルストランスは、回線終端装置等に使用した際などに、屋外に設置される場合があり、パルストランスに用いられるMnZn系フェライトは、低温から高温までの広い温度範囲で高い初透磁率(μi)を有することが必要になる。また、デジタル通信機器では、搬送されるパルス電圧の正負バランスの変動によりパルストランスが磁化されて、直流磁界印加時で稼働するような場合もある。このような直流磁界印加時においても、信号変換に必要な高いインダクタンス、すなわち高い増分透磁率が必要となる。上記したような用途では、必要なインダクタンス規格や使い方などによって印加する直流磁界の大きさは異なるが、室温において増分透磁率が高いことが求められる。
【0006】
従来、パルストランスは、民生機器で多く使用されていたが、近年は、車のネットワーク化が進み、自動車にも多く使用されるようになってきている。従来の民生機器用では、0~70℃、-40~85℃又は-40~105℃等の温度範囲で正常に動作することが求められていたが、自動車用途では、-40~125℃あるいは-50~150℃のように、より広い温度範囲で正常に動作することが求められている。
【0007】
一方で、イーサネット機器において、伝送信号に併せて機器の駆動電力を直接供給するPoE/PoE+/PoE++等のPoE(Power over Ethernet)給電の用途も存在する。この場合、パルストランスは、信号伝送よりも大きな電流を重畳する条件下で使用されることになる。しかも、PoE給電の出力アップや、SiCやGaN半導体の普及などによる大電流化に起因して、機器内の周辺部品が発熱することから、パルストランスの磁心(コア)の使用環境は、より高温側にシフトすることが考えられる。そのため、この用途に用いられるMnZn系フェライトには、初透磁率μiが低くても、より高温、高磁界重畳の下で高いインダクタンス、すなわち高い増分透磁率が得られる材料が求められている。
【0008】
従来の民生機器で用いられるMnZn系フェライトは、Fe2O3、ZnO、MnOを主成分として構成され、磁気異方性定数と磁歪定数とが零となるような主成分において、高い透磁率を発現する。このためMnZn系フェライトは、トランスやノイズフィルター等の小型あるいは薄型の磁心として用いられている。幅広い温度範囲において安定した磁気特性を得るのが難しい問題はあるものの、民生用途のパルストランスに対応するため、-40~85℃又は-40~105℃の温度範囲において、直流磁界印加時に高い増分透磁率を実現する方法が提案されてきた。なお、本明細書において、初透磁率や増分透磁率の値は、すべて真空の透磁率μoとの比(比透磁率)で表す。
【0009】
特許文献1、2、3には、-40~85℃の温度範囲における直流磁界印加時の増分透磁率が2000以上であるフェライトが提案されている。特許文献4、5には、-20℃~150℃程度の広い温度範囲で高い初透磁率を有するMnZnCo系フェライトが提案されている。特許文献6には、23℃の初透磁率が3000以上で、-20~150℃で初透磁率の変化率が小さく、かつ23℃の飽和磁束密度が540mT以上のMnZn系フェライトが提案されている。
【0010】
特許文献7には、80A/mという大きな直流磁界印加の下、0℃~85℃の温度範囲における増分透磁率が400以上、かつ65℃における増分透磁率が700以上のMnZn系フェライトが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2008-143745号公報
【文献】特開2010-189247号公報
【文献】特開2010-195596号公報
【文献】特開2015-229625号公報
【文献】特開2015-229626号公報
【文献】特開2005-236069号公報
【文献】特開2010-173899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1、2、3が想定している温度範囲は、いずれも-40~85℃であり、-50~150℃の温度範囲では2300以上の増分透磁率を得ることはできない。特許文献4、5が想定している温度範囲は広いものの、特許文献4、5のMnZnCo系フェライトはノイズフィルター用であり、直流磁界印加時の増分透磁率は考慮されておらず、-50~150℃の温度範囲で2300以上の増分透磁率を得ることは不可能である。特許文献6では-20~150℃の温度範囲で初透磁率の変化率が小さいことが記載されているが、直流磁界印加時の増分透磁率は考慮されておらず、-50~150℃の温度範囲で2300以上の増分透磁率を得ることは不可能である。
【0013】
特許文献7では、80A/mという大きな直流磁界印加下ではあるものの、85℃における増分透磁率は、いずれも1000未満であり、85℃を超える温度域で、1000以上の実用レベルの増分透磁率を得ることは不可能である。
【0014】
これまでに、-40~85℃の温度範囲で使用可能な民生機器に適したパルストランス用のMnZn系フェライトは数多く提案されているが、-50~150℃の温度範囲で使用できる自動車用途のLANなどに適した、広い温度範囲で直流磁界印加時の増分透磁率に優れたMnZn系フェライトは提案されていない。
【0015】
また、85℃を超える温度域で使用できるPoE給電に適した、直流磁界50A/mを印加した場合に、高い増分透磁率が得られるMnZn系フェライトも提案されていない。
【0016】
そこで、本発明は、広い温度範囲で増分透磁率が高い、すなわち-50~150℃の温度範囲において、25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が2300以上であるMnZn系フェライトを提供することを目的とする。また、本発明は、125℃において、50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が1000以上であるMnZn系フェライトを提供することを他の目的とする。
【0017】
なお、増分透磁率は、一般用途のMnZn系フェライトでは25A/mの直流磁界を印加して測定するのが一般的であるが、特許文献1、2、3のように33A/mの直流磁界を印加する特殊な場合も、MnZn系フェライトの用途に応じて存在する。本発明においては、一般用途のMnZn系フェライトの増分透磁率を測定する場合に印加する直流磁界は、25A/mとする。また、PoE給電用途のMnZn系フェライトの増分透磁率を測定する場合に印加する直流磁界は、50A/mとする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、以下の知見を得た。基本成分としてFe及びZnを所定量含有し、残部がMnであり、副成分としてSi、Ca、Co、Ti、Nb、及びVを所定量含有することで、-50~150℃の温度範囲において、25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を2300以上とすることができる。また、125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を1000以上とすることができる。
【0019】
上記の知見に基づき完成された本発明の要旨構成は次のとおりである。
【0020】
[1]基本成分、副成分及び不可避的不純物からなるMnZn系フェライトであって、
前記基本成分が、それぞれFe2O3、ZnO、及びMnO換算でのFe、Zn、及びMnの合計を100.0mol%として、
Fe:Fe2O3換算で52.0mol%以上53.6mol%以下、
Zn:ZnO換算で10.1mol%以上13.0mol%未満、及び
Mn:残部
であり、
前記基本成分に対して、前記副成分が、
Si:SiO2換算で30質量ppm以上200質量ppm以下、
Ca:CaO換算で300質量ppm以上1000質量ppm以下、
Co:Co3O4換算で2100質量ppm以上3500質量ppm以下、
Ti:TiO2換算で2500質量ppm以上4000質量ppm以下、
Nb:Nb2O5換算で50質量ppm以上500質量ppm以下、及び
V :V2O5換算で0質量ppm以上500質量ppm以下
を含むMnZn系フェライト。
【0021】
[2]V2O5換算でのVの含有量が50質量ppm以上250質量ppm以下である、上記[1]に記載のMnZn系フェライト。
【0022】
[3]V2O5換算でのVの含有量が100質量ppm以上500質量ppm以下である、上記[1]に記載のMnZn系フェライト。
【0023】
[4]-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が2300以上である、上記[1]又は[2]に記載のMnZn系フェライト。
【0024】
[5]125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が1000以上である、上記[1]又は[3]に記載のMnZn系フェライト。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、広い温度範囲で増分透磁率が高い、すなわち-50~150℃の温度範囲において、25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が2300以上であるMnZn系フェライトを得ることができる。また、本発明によれば、125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が1000以上であるMnZn系フェライトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】本発明の発明例及び比較例の-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図1Aは、基本成分であるFeの含有量を変更した発明例及び比較例を示す。
【
図1B】本発明の発明例及び比較例の-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図1Bは、基本成分であるZnの含有量を変更した発明例及び比較例を示す。
【
図2A】本発明の発明例
、参考例及び比較例の-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図2Aは、副成分であるSiの含有量を変更した発明例
、参考例及び比較例を示す。
【
図2B】本発明の発明例及び比較例の-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図2Bは、副成分であるCaの含有量を変更した発明例及び比較例を示す。
【
図2C】本発明の発明例及び比較例の-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図2Cは、副成分であるCoの含有量を変更した発明例及び比較例を示す。
【
図2D】本発明の発明例及び比較例の-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図2Dは、副成分であるTiの含有量を変更した発明例及び比較例を示す。
【
図2E】本発明の発明例及び比較例の-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図2Eは、副成分であるNbの含有量を変更した発明例及び比較例を示す。
【
図3】本発明の発明例及び比較例の-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図3は、副成分であるVの含有量を変更した発明例及び比較例を示す。
【
図4A】本発明の発明例及び比較例の-50~125℃の温度範囲における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図4Aは、副成分であるCaの含有量を変更した発明例及び比較例を示す。
【
図4B】本発明の発明例及び比較例の-50~125℃の温度範囲における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を示したグラフである。
図4Bは、副成分であるVの含有量を変更した発明例及び比較例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るMnZn系フェライトの実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
【0028】
[MnZn系フェライト]
本発明に係るMnZn系フェライトは、基本成分、副成分及び不可避的不純物からなり、Fe、Zn及びMnの酸化物を基本成分とする。なお、以下のmol%は基本成分中の組成比である。
【0029】
(主成分)
Fe2O3:52.0mol%以上53.6mol%以下
MnZn系フェライトに含有されるFeがFe2O3換算で52.0mol%未満である場合、増分透磁率が大きく低下する。したがって、MnZn系フェライトに含有されるFeは、Fe2O3換算で52.0mol%以上とし、52.6mol%以上であることが好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるFeがFe2O3換算で53.6mol%を超える場合も、増分透磁率が大きく低下する。したがって、MnZn系フェライトに含有されるFeは、Fe2O3換算で53.6mol%以下とし、53.1mol%以下であることが好ましい。なお、MnZn系フェライトに含有されるFeがFe2O3換算で53.0mol%程度である場合に、磁歪定数λが0になり、直流磁界印加時の増分透磁率が最も高くなる。FeがFe2O3換算で53.0mol%である場合、すなわちλ=0となる場合からFe含有量が離れるほど、印加磁界によりコアが伸び縮みして変形することで応力がかかり、磁壁移動が阻害され、増分透磁率が大きく低下すると考えられる。
【0030】
ZnO:10.1mol%以上13.0mol%未満
MnZn系フェライトにおいては、FeとZnの比率により、キュリー温度やセカンダリーピークが変化することが知られている。ZnをZnO換算で10.1mol%以上13.0mol%未満含有すれば、キュリー温度は概ね200℃以上となり、150℃の高温域まで高い増分透磁率が得られる。MnZn系フェライトに含有されるZnがZnO換算で10.1mol%未満である場合、キュリー温度は高くなるものの、直流磁界を印加しない場合の初透磁率が低下するため、その結果直流磁界印加時の増分透磁率も全温度範囲で低下する。したがって、MnZn系フェライトに含有されるZnは、ZnO換算で10.1mol%以上とし、10.2mol%以上であることが好ましく、10.5mol%以上であることがより好ましく、11.0mol%以上であることがさらに好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるZnがZnO換算で13.0mol%以上の場合、直流磁界を印加しない場合の初透磁率は高くなるが、キュリー温度が低下し、150℃における直流磁界印加時の増分透磁率が低下する。したがって、MnZn系フェライトに含有されるZnは、ZnO換算で13.0mol%未満とし、12.9mol%以下であることが好ましい。
【0031】
なお、本発明に係るMnZn系フェライトのキュリー温度は、150℃でも高い直流磁界印加時の増分透磁率を得るため、190℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。MnZn系フェライトのキュリー温度は、特に上限はないが、一般に230℃以下となる。
【0032】
MnO:残部
本発明に係るMnZn系フェライトは、Fe2O3とZnOとMnOの合計量が100.0mol%となる。なお、MnZn系フェライトに含有されるMnは、MnO換算で33.9mol%以上であることが好ましい。また、MnZn系フェライトに含有されるMnは、MnO換算で37.0mol%以下であることが好ましく、36.9mol%以下であることがより好ましい。
【0033】
(副成分)
次に、副成分について説明する。本発明に係るMnZn系フェライトは、上記の基本成分の他に副成分としてSi、Ca、Co、Ti、及びNbを含有する。さらに、副成分としてVを含有することが好ましい。これらはSiO2、CaO、Co3O4、TiO2、Nb2O5、V2O5等の酸化物としてMnZn系フェライト中に存在する。本発明の組成の副成分は、SiO2、CaO、Co3O4、TiO2、及びNb2O5からなることが好ましく、あるいは、SiO2、CaO、Co3O4、TiO2、Nb2O5、及びV2O5からなることが好ましい。なお、本発明では、副成分の含有量は基本成分に対する含有量とする。
【0034】
SiO2:30質量ppm以上200質量ppm以下
SiO2は、結晶粒界の生成を促して結晶粒成長を抑制し、比抵抗を高め、初透磁率を低下させる添加物であるが、MnZn系フェライトに適量のSiO2を含有させることにより、-50~150℃の広い温度範囲における増分透磁率を高めることができる。MnZn系フェライトに含有されるSiがSiO2換算で30質量ppm未満である場合、低温域や高温域における増分透磁率が低下し、-50~150℃の広い温度範囲で、直流磁界印加時に2300以上の増分透磁率を得ることが難しくなる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるSiは、SiO2換算で30質量ppm以上とし、32質量ppm以上であることが好ましく、35質量ppm以上であることがより好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるSiがSiO2換算で200質量ppm超えの場合、初透磁率が大きく低下するため、それに伴い増分透磁率も大幅に低下し、-50~150℃の広い温度範囲で2300以上の増分透磁率を得ることが難しくなる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるSiは、SiO2換算で200質量ppm以下とし、190質量ppm以下であることが好ましく、150質量ppm以下であることがより好ましく、49質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0035】
CaO:300質量ppm以上1000質量ppm以下
CaOは、結晶粒界の生成を促して結晶粒成長を抑制し、比抵抗を高め、初透磁率を低下させる添加物であるが、MnZn系フェライトに適量のCaOを含有させることにより、-50~150℃の広い温度範囲における増分透磁率を高めることができる。MnZn系フェライトに含有されるCaがCaO換算で300質量ppm未満である場合、低温域や高温域における増分透磁率が低下し、-50~150℃の広い温度範囲で、直流磁界印加時に2300以上の増分透磁率を得ることが難しくなる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるCaは、CaO換算で300質量ppm以上とし、390質量ppm以上であることが好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるCaがCaO換算で1000質量ppm超えの場合、初透磁率が大きく低下するため、それに伴い増分透磁率も大幅に低下し、-50~150℃の広い温度範囲で2300以上の増分透磁率を得ることが難しくなる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるCaは、CaO換算で1000質量ppm以下とし、950質量ppm以下であることが好ましく、840質量ppm以下であることがより好ましい。
【0036】
125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が重要となるPoE給電用途のMnZn系フェライトでは、Caをより多く含む方が高い増分透磁率が得られる。したがって、PoE給電用途のMnZn系フェライトでは、MnZn系フェライトに含有されるCaは、CaO換算で500質量ppm以上であることが好ましく、600質量ppm以上であることがより好ましく、700質量ppm以上であることがさらに好ましく、800質量ppm以上であることが最も好ましい。
【0037】
一方、MnZn系フェライトに含有されるCaがCaO換算で1000質量ppm超えの場合、初透磁率が過度に低下し、それに伴い増分透磁率も低下するため、125℃において50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が1000を下回るため好ましくない。したがって、PoE給電用途のMnZn系フェライトでも、MnZn系フェライトに含有されるCaは、CaO換算で1000質量ppm以下とし、950質量ppm以下であることが好ましい。
【0038】
Co3O4:2100質量ppm以上3500質量ppm以下
Co3O4は、MnZn系フェライトの磁気特性の温度依存性を改善するのに有効な添加物である。MnZn系フェライトが適量のCo3O4を含有することにより、直流磁界印加時の増分透磁率の温度に対する変化が小さくなり、低温域と高温域の増分透磁率が向上する。しかし、Co3O4には、透磁率の温度依存性を低温側にずらす働きもあるため、Co含有量が少なすぎたり多すぎたりすると、低温域と高温域の透磁率のバランスが崩れ、低温域あるいは高温域で増分透磁率が低下し、-50~150℃の広い温度範囲で高い増分透磁率を得ることができなくなる。MnZn系フェライトに含有されるCoがCo3O4換算で2100質量ppm未満である場合、増分透磁率の温度特性の極大点が高温側にずれ、高温での増分透磁率は高くなるものの、低温での特性が悪くなり、-50~150℃の広い温度範囲で2300以上の増分透磁率を得ることができなくなる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるCoは、Co3O4換算で2100質量ppm以上とし、2300質量ppm以上であることが好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるCoがCo3O4換算で3500質量ppmを超える場合、増分透磁率の温度特性の極大点が低温側にずれ、増分透磁率の低温特性は高くなるものの、高温特性が悪くなり、-50~150℃の広い温度範囲で2300以上の増分透磁率を得ることができなくなる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるCoは、Co3O4換算で3500質量ppm以下とし、3200質量ppm以下であることが好ましい。
【0039】
TiO2:2500質量ppm以上4000質量ppm以下
TiO2はMnZn系フェライトの直流磁界印加時の増分透磁率を上げるのに有効な添加物である。TiO2は、フェライトの結晶粒径の大きさにはあまり影響しないが、適量のTiO2を含有することにより、フェライトの保磁力が低下し、直流磁界25A/mに相当する磁界を印加した領域で減磁曲線の傾きが変化することで、増分透磁率が上昇する。ただし、TiO2は、初透磁率や増分透磁率の温度特性を低温側にずらす働きもあるため、含有量が適正でないと低温特性や高温特性が悪くなり、-50~150℃の広い温度範囲で2300以上の増分透磁率を得ることができなくなる。MnZn系フェライトに含有されるTiがTiO2換算で2500質量ppm未満である場合、増分透磁率の上昇が十分ではなく、温度特性も高温側にずれるため、-50~150℃の広い温度範囲で2300以上の増分透磁率を得ることができなくなる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるTiは、TiO2換算で2500質量ppm以上とし、2650質量ppm以上であることが好ましく、2800質量ppm以上であることがより好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるTiがTiO2換算で4000質量ppmを超える場合、温度特性が低温側にずれ、-50℃付近の温度範囲において、原因は不明であるが直流磁界印加時の増分透磁率も急激に低下するため、2300以上の増分透磁率が得られなくなる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるTiは、TiO2換算で4000質量ppm以下とし、3950質量ppm以下であることが好ましく、3500質量ppm以下であることがより好ましく、3300質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
Nb2O5:50質量ppm以上500質量ppm以下
Nb2O5は、粗大な結晶粒の生成を抑制し、微細で均一な結晶粒を得て、比抵抗を高める効果がある。適量のNbを含有することで、直流磁界印加時の増分透磁率を高めることができる。MnZn系フェライトに含有されるNbがNb2O5換算で50質量ppm未満である場合、粗大な結晶粒の生成抑制が十分ではなく、比抵抗も低くなるため、直流磁界印加時の増分透磁率も低下する。したがって、MnZn系フェライトに含有されるNbは、Nb2O5換算で50質量ppm以上とし、75質量ppm以上であることが好ましく、100質量ppm以上であることがより好ましく、130質量ppm以上であることがさらに好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるNbがNb2O5換算で500質量ppmを超える場合、結晶粒が微細化して比抵抗も高くなるため、磁壁が動きにくくなり、初透磁率が低下する。したがって、MnZn系フェライトに含有されるNbは、Nb2O5換算で500質量ppm以下とし、475質量ppm以下であることが好ましく、400質量ppm以下であることがより好ましい。
【0041】
V2O5:0質量ppm以上500質量ppm以下
V2O5も、Nb2O5と同様に、粗大な結晶粒の生成を抑制し、微細で均一な結晶粒を得て、比抵抗を高める効果がある添加物である。Nbと適量のVを含有することで、直流磁界印加時の増分透磁率を好適に高めることができる。したがって、温度範囲-50~150℃の一般用途では、MnZn系フェライトに含有されるV2O5は、0質量ppm以上とし、50質量ppm以上であることが好ましく、55質量ppm以上であることがより好ましい。また、125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が重要となるPoE給電用途では、MnZn系フェライトに含有されるV2O5は、0質量ppm以上とし、100質量ppm以上であることが好ましく、150質量ppm以上であることがより好ましい。
【0042】
一方、いずれの用途においても、MnZn系フェライトに含有されるVがV2O5換算で500質量ppmを超える場合は、結晶粒が微細化して比抵抗も高くなるため、磁壁が動きにくくなり、初透磁率が低下する。それにより、増分透磁率も低下する。したがって、一般用途のMnZn系フェライトに含有されるV2O5は、500質量ppm以下とし、490質量ppm以下であることが好ましく、480質量ppm以下であることがより好ましく、250質量ppm以下であることがさらに好ましい。また、PoE給電用途のMnZn系フェライトに含有されるV2O5は、500質量ppm以下とし、400質量ppm以下であることが好ましい。
【0043】
(不可避的不純物)
本発明のMnZn系フェライトの組成は、基本成分と副成分以外は不可避的不純物からなる。不可避的不純物としてはP、B、S、Cl、K等を例示でき、これら不可避的不純物の合計の含有量は500質量ppm以下に抑制する。不可避的不純物の合計の含有量は、100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましい。
【0044】
(直流磁界を印加しない場合の初透磁率)
MnZn系フェライトに直流磁界を印加すると、初透磁率が低下し、すなわち増分透磁率も低下する。したがって、高い増分透磁率を得るためには、直流磁界を印加しない場合の初透磁率を高くしておくことが重要である。温度範囲-50~150℃の一般用途のMnZn系フェライトでは、直流磁界を印加しない場合の23℃での初透磁率が3500以上である場合、-50~150℃の広い温度範囲で、2300以上の高い増分透磁率を好適に得ることができる。したがって、MnZn系フェライトは、直流磁界を印加しない場合の23℃での初透磁率が3500以上であることが好ましい。一方、直流磁界を印加しない場合の23℃での初透磁率は特に上限はないが、一般に5000以下となる。
【0045】
(-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率)
MnZn系フェライトが上記組成を有することで、-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を2300以上とすることができる。-50~150℃の温度範囲における25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率は特に上限はないが、一般に4500以下である。
【0046】
(125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率、PoE給電用途)
MnZn系フェライトでは、印加する直流磁界を大きくすると特に高温域での増分透磁率が大幅に低下するが、MnZn系フェライトが上記組成を有することで、125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率を1000以上とすることができる。125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率は特に上限はないが、一般に2000以下である。
【0047】
[MnZn系フェライトの製造方法]
次に、本発明に係るMnZn系フェライトの製造方法について説明する。本発明のMnZn系フェライトの製造方法については、公知の一般的な製造方法を用いることができる。
【0048】
本発明に係るMnZn系フェライトの製造方法の一例は、以下のとおりである。まず、主成分であるFe2O3、ZnO及びMn3O4(組成比はMn3O4ではなくMnOに換算して扱う)の粉末原料を本発明で規定した含有量となるように秤量し、アトライターやボールミルで混合して混合粉を得る。混合方法は、乾式法又は湿式法のいずれでもよい。その後、混合粉を800~1000℃で仮焼して仮焼粉を得る。次いで、得られた仮焼粉をアトライターやボールミルで湿式粉砕して、粒径が0.8~1.6μm程度になるまで粉砕して粉砕粉を得る。この時、本発明で規定した含有量となるように副成分の酸化物を加えて粉砕する。粉砕作業において、副成分の濃度に偏りがないように、均質化する。得られた粉砕粉にポリビニルアルコール等の有機物バインダーを添加し、スプレードライヤー等を用いて造粒することで造粒粉を得る。さらに、造粒粉を所定の形状の金型に充填して、成形を行い、成形体を得る。得られた成形体を1100~1400℃程度で焼成することにより、MnZn系フェライトが得られる。
【0049】
かくして得られたMnZn系フェライトは、25A/mの直流磁界印加時に、-50~150℃の広い温度範囲において、増分透磁率が2300以上の高い特性を有するものとなる。また、125℃における50A/mの直流磁界印加時に、増分透磁率が1000以上の高い特性を有するものとなる。
【0050】
(ばらつきの改善)
従来のパルストランス用MnZn系フェライトには、求められる上限温度が85℃と低く、高い初透磁率や高い増分透磁率が求められてきたことから、ZnOモル比が高く初透磁率が高い組成が多く使われている。一般的に、Znは高温で焼成すると蒸発しやすいことが知られている。初透磁率が高い(ZnOモル比が高い)フェライト粉を用いて、小型のフェライトコアを成形して焼成する場合、コア表面からのZnの蒸発が問題視されることが多い。フェライトコア表面は、Znの蒸発により、フェライトコア内部とは組成が少しずれることになる。したがって、ZnOモル比が高いフェライト粉を用いると、表面の組成のばらつきが大きくなるため、初透磁率や増分透磁率のばらつきも大きくなる問題がある。それに対して、本発明のMnZn系フェライトは、-50℃~150℃の広い温度域で使えるようにするため、キュリー温度が高い(ZnOモル比が低い)組成を使用している。このように、ZnOモル比が低い組成のフェライト粉を用いる場合は、フェライトコア表面からのZnの蒸発が抑制されるため、コア表面と内部の組成差が小さく、初透磁率や増分透磁率のばらつきも小さくなる。本発明のフェライトは、従来のパルストランス用MnZn系フェライトに比べ、ZnOモル比が低い組成であるので、磁気特性のばらつきが小さくなるメリットがある。
【実施例】
【0051】
MnZn系フェライトの基本成分であるFe2O3、ZnO、及びMn3O4(組成比はMnOに換算して扱う)を表1~表3に示す組成比になるように各原料粉末を秤量した。各原料粉末としていずれも高純度の原料粉を用いた。これらの原料粉をボールミルで16時間の混合・粉砕を行い、その後、大気中で925℃×3時間の仮焼を行い、仮焼粉を得た。次いで、この仮焼粉に、表1~表3に示す含有量となるように、SiO2、CaCO3、Co3O4、TiO2、及びNb2O5を添加し、表3に示す一部の例ではさらにV2O5を添加し、ボールミルで12時間の粉砕を行い、粉砕粉を得た。次いで、この粉砕粉にポリビニルアルコールを加えて造粒し、118MPaの圧力を加えてトロイダルコアを成形した。その後、この成形体を焼成炉に装入して、最高温度1350℃で焼成し、該計30.5mm×内径19mm×高さ6.5mmの焼結体試料(フェライトコア)を得た。
【0052】
このようにして得た各フェライトコアに、20ターンの巻線を施し、プレシジョンLCRメータE4980A(キーサイトテクノロジー製)を用いて磁気特性を測定した。初透磁率(直流磁界を印加しない状態:0A/m)は23℃、周波数100kHzで測定した。増分透磁率(直流磁界を印加した状態:25A/m)は-50℃、0℃、23℃、50℃、100℃、150℃の各温度で、周波数100kHzで測定した。表1~表3に測定結果を、
図1A、
図1B、
図2A~
図2E、及び
図3に測定結果のグラフを示す。
【0053】
同様にして、表4に示すように、CaO添加量とV
2O
5添加量を変えてフェライトコアを作製した。表4、
図4A、及び
図4Bに、直流磁界50A/mを印加した状態で、-50℃、0℃、23℃、50℃、75℃、100℃、125℃の各温度で、周波数100kHzで、増分透磁率を測定した結果を示す。
【0054】
なお、P、B、S、Cl、K及びその他の不可避的不純物の含有量は、JIS K 0102(ICP質量分析法)に従って定量し、合計量が500質量ppm以下であることを確認した。測定結果を各表に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
表1及び
図1A、
図1Bに示す発明例1~10、比較例1~4の結果から、基本組成であるFeがFe
2O
3換算で52.0mol%以上53.6mol%以下、ZnがZnO換算で10.1mol%以上13.0mol%未満であれば、25A/mの直流磁界を印加した際に、-50~150℃の温度範囲において、2300以上の増分透磁率が得られることがわかる。
【0060】
表2及び
図2Aに示す発明例11
、12、参考例13~15、比較例5、6の結果から、副成分であるSiがSiO
2換算で30質量ppm以上200質量ppm以下であれば、25A/mの直流磁界を印加した際に、-50~150℃の温度範囲において、2300以上の増分透磁率が得られることがわかる。
【0061】
表2及び
図2Bに示す発明例11及び16~19、比較例7、8の結果から、副成分であるCaがCaO換算で300質量ppm以上1000質量ppm以下であれば、25A/mの直流磁界を印加した際に、-50~150℃の温度範囲において、2300以上の増分透磁率が得られることがわかる。
【0062】
表2及び
図2Cに示す発明例11及び20~23、比較例9、10の結果から、副成分であるCoがCo
3O
4換算で2100質量ppm以上3500質量ppm以下の範囲であれば、25A/mの直流磁界を印加した際に、-50~150℃の温度範囲において、2300以上の増分透磁率が得られることがわかる。
【0063】
表2及び
図2Dに示す発明例11及び24~26、比較例11、12の結果から、副成分であるTiがTiO
2換算で2500質量ppm以上4000質量ppm以下の範囲であれば、25A/mの直流磁界を印加した際に、-50~150℃の温度範囲において、2300以上の増分透磁率が得られることがわかる。
【0064】
表2及び
図2Eに示す発明例11及び27~30、比較例13、14の結果から、副成分であるNbがNb
2O
5換算で50質量ppm以上500質量ppm以下の範囲であれば、25A/mの直流磁界を印加した際に、-50~150℃の温度範囲において、2300以上の増分透磁率が得られることがわかる。
【0065】
表3及び
図3に示す発明例31~35、比較例15の結果から、副成分であるVがV
2O
5換算で500質量ppm以下であれば、25A/mの直流磁界を印加した際に、-50~150℃の温度範囲において、2300以上の増分透磁率が得られ、V
2O
5無添加の場合よりもV
2O
5を添加する方が低温域と高温域で高い増分透磁率が得られることがわかる。
【0066】
表4及び
図4Aに示す発明例36~39、比較例16の結果から、副成分であるCaがCaO換算で300質量ppm以上1000質量ppm以下であれば、50A/mの直流磁界を印加した際に、125℃において、1000以上の増分透磁率が得られることがわかる。
【0067】
表4及び
図4Bに示す発明例39~46、比較例17の結果から、副成分であるVがV
2O
5換算で500質量ppm以下であれば、50A/mの直流磁界を印加した際に、125℃において、1000以上の増分透磁率が得られ、V
2O
5無添加の場合よりもV
2O
5を添加する方が、125℃において、高い増分透磁率が得られることがわかる。
【0068】
(実施例 ばらつき調査)
表5に示す発明例47及び比較例18について、上述した方法と同様にしてフェライト粉砕粉を作製し、かかる粉砕粉にポリビニルアルコールを加えて造粒し、118MPaの圧力を加えてトロイダルコアを成形し、成形体とした。その後、成形体を匣鉢に入れて焼成炉に装入して、最高温度1350℃で焼成し、外径:6.0mm×内径:3.0mm×高さ:4.0mmの焼結体試料(コア)を100個作製した。得られた各コアについて、上述の方法で23℃における初透磁率、及び、-40℃において直流磁界25A/mを印加した際の増分透磁率を調べ、測定結果からそれぞれの標準偏差σを求めた。磁気特性(測定した100個の平均値である初透磁率及び増分透磁率)と標準偏差σの結果を表5に示す。
【0069】
ここで、比較例18は、特許文献1の試料番号1-5(特許文献1の発明例)と同等の成分とした。なお、発明例47及び比較例18は、初透磁率には差はあるものの、-40℃における直流磁界25A/m印加時の増分透磁率はほぼ同等である。
【0070】
【0071】
表5に示すように、発明例47の場合は、比較例18に比べて、23℃における初透磁率及び-40℃における直流磁界25A/mを印加時の増分透磁率の共に、標準偏差σが小さい。このことから、本発明のZnOモル比が低い組成の方が、従来のZnOモル比が高い組成よりも、磁気特性のばらつきが小さくなり、より好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、パルストランス等の電子部品に好適な、広い温度範囲で増分透磁率が高い、すなわち-50~150℃の温度範囲において、25A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が2300以上であるMnZn系フェライトを得ることができる。また、125℃における50A/mの直流磁界印加時の増分透磁率が1000以上であるMnZn系フェライトを得ることができる。これにより、従来よりも広い温度域が求められる自動車用途やPoE給電用途などにも対応することが可能になる。
【要約】
広い温度範囲で増分透磁率が高いMnZn系フェライトを提供する。本発明のMnZn系フェライトは、基本成分、副成分及び不可避的不純物からなるMnZn系フェライトであって、前記基本成分が、それぞれFe2O3、ZnO、及びMnO換算でのFe、Zn、及びMnの合計を100.0mol%として、Fe:Fe2O3換算で52.0mol%以上53.6mol%以下、Zn:ZnO換算で10.1mol%以上13.0mol%未満、及びMn:残部であり、前記基本成分に対して、前記副成分が、Si:SiO2換算で30~200質量ppm、Ca:CaO換算で300~1000質量ppm、Co:Co3O4換算で2100~3500質量ppm、Ti:TiO2換算で2500~4000質量ppm、Nb:Nb2O5換算で50~500質量ppm、及びV:V2O5換算で0~500質量ppm以下を含む。