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特許7580027WC基超硬合金および該合金を用いた切削工具
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  • 特許-WC基超硬合金および該合金を用いた切削工具 図1
  • 特許-WC基超硬合金および該合金を用いた切削工具 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】WC基超硬合金および該合金を用いた切削工具
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20241101BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241101BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20241101BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20241101BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 A
B23C5/16
C22C1/051 H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021004826
(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公開番号】P2022109485
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】川原 睦
(72)【発明者】
【氏名】田村 啓
(72)【発明者】
【氏名】末原 要
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-162067(JP,A)
【文献】特開2003-183760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00-29/18
B22F 1/00- 8/00
B23B 27/00-29/34
B23B 51/00-51/14
B23C 1/00- 9/00
C22C 32/00
C22C 1/04- 1/059
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質相と結合相を有し、
Co:3.0~6.0質量%、V:0.024~0.180質量%、Cr:0.150~1.200質量%、Ta:0.030~0.120質量%を含み、残部がWCと不可避不純物であって、
質量比で、それぞれ、V/Co:0.8~3.0%、Cr/Co:5.0~20.0%、Ta/Co:1.0~2.0%であり、
前記硬質相を構成するWCの(0001)面と前記結合相との界面において、Taが2原子%以下であり、
ビッカース硬度(Hv30)が2000以上である、
ことを特徴とする超硬合金。
【請求項2】
請求項1に記載の超硬合金に硬質皮膜を成膜したことを特徴とする切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、WC基超硬合金に関する。
【背景技術】
【0002】
WC基超硬合金は機械的強度、耐熱疲労特性等に優れるため、切削工具として用いられている。一般的に高硬度鋼の加工に用いる超硬合金は、V、Cr、Taといった粒成長抑制材を添加してWC平均粒径を小さくして耐摩耗性をより高めたWC基超硬合金が適用されている。一方、粒成長抑制材の添加量が多いと靭性が低下してしまため、種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Cr、V、Taの各金属の添加割合を制御して、WC粒子を小さくし高い靭性を有するWC基超硬合金が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-183760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者の検討によれば、前記特許文献1に記載されたWC基超硬合金を含む従来のWC基超硬合金を用いた切削工具(WC基超硬合金の表面に表面被覆層を有する切削工具)では、高硬度鋼の切削加工において、耐摩耗性が十分でない場合があることを認識した。
【0006】
本発明は、高硬度鋼の切削加工に用いても、耐摩耗性が優れ、耐久性を有する切削工具を与える超硬合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明実施形態に係る超硬合金は、
硬質相と結合相を有し、
Co:3.0~6.0質量%、V:0.024~0.180質量%、Cr:0.150~1.200質量%、Ta:0.030~0.120質量%を含み、残部がWCと不可避不純物であって、
質量比で、それぞれ、V/Co:0.8~3.0%、Cr/Co:5.0~20.0%、Ta/Co:1.0~2.0%であり、
前記硬質相を構成するWCの(0001)面と前記結合相との界面において、Taが2原子%以下であり、
ビッカース硬度(Hv30)が2000以上である。
【0008】
また、本実施形態に係る切削工具は、前記超硬合金に硬質皮膜を成膜したものである。
【発明の効果】
【0009】
前記によれば、切削工具として用いたときに耐摩耗性に優れるWC基超硬合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1おける硬質相を形成するWC粒子の(0001)面と結合相との界面を示す写真である。
図2図1の界面におけるTaを含む元素の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、結合相を形成するCoと、WC粒の成長抑制剤としてCr、V、Taの各金属を含むWC基超硬合金において、耐摩耗性を向上させるべく鋭意検討を行った。その結果、Coの含有割合を小さくし、VとTaの濃化相を粗大化させなければ、WC基超硬合金の耐摩耗性が向上することを知見した。
【0012】
以下では、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「L~M」(L、Mは共に数値)で表現するときは、その範囲は上限値(M)および下限値(L)を含んでおり、上限値(M)と下限値(L)の単位は同じである。
【0013】
1.組成
WC基超硬合金に含まれる金属元素について説明する。
【0014】
(1)Co
Coは、硬質相をもっぱら構成するWC粒子を繋ぎとめる結合相の主成分であり、WC基超硬合金に高い靭性を付与する金属元素である。
【0015】
Coの含有割合が必要以上に少なくなると、脱炭相や遊離炭素が析出しない健全組織を得ることが容易ではなるため、量産に当たり、炭素含有量を適正とすることが難しくなる。さらには、WC基超硬合金の靭性と強度が低下するため、高硬度鋼のミーリング加工において早期にチッピングが発生する。また、WC基超硬合金の焼結性が悪化するため、空隙やCoプールが発生し易くなり、靭性と強度を高いレベルで維持することが困難になる。
【0016】
一方、Coの含有割合が必要以上に多くなると、硬度が低下し、また、組織中のWCの表面積が小さくなるため、WC粒子の表面に析出し易いVの濃化相が粗大に析出し易くなる。
【0017】
以上を踏まえて、本実施形態のWC基超硬合金は、結合相の主成分であるCoを3.0~6.0質量%で含有することが好ましい。Coの含有比率がこの範囲にあることで、WC基超硬合金の靭性と強度が高いレベルで両立されるとともに、Vの濃化相が粗大化し難くなる。
Coの含有割合は3.5~5.0質量とすることがより好ましく、3.0~4.5質量%とすることがより一層好ましい。
【0018】
Vは、WCの粒成長抑制効果が最も強い元素であり、WC基超硬合金の組織を微細化するには必要不可欠な元素であって、本実施形態の超硬合金では、0.02~0.18質量%含有することが好ましい。
また、本発明者の知見によれば、Coの含有割合に対するVの含有割合の質量比、V/Coには、適正な範囲が存在することが判明した。
【0019】
V/Coがこの適正な範囲よりも小さくなると、WC基超硬合金のWC平均粒径が粗大となるため、硬度が低下し耐摩耗性が低下してしまう。一方、V/Coが適正範囲よりも大きくなると、粗大なVの濃化相が析出し、WC基超硬合金の焼結性が悪化し、空隙やCoプールが発生し易くなる。たとえば、この適正な範囲よりも大きなWC基超硬合金を用いた切削工具を、高硬度鋼のミーリング加工に供したとき、脆弱なVの濃化相が粗大に析出すると切削工具損傷が大きくなる。
【0020】
以上を踏まえて、本実施形態のWC基超硬合金では、質量比率でV/Coを0.8~3.0%とする。V/Coがこの範囲にあることで、WC基超硬合金の組織が微細となって硬度が高まるとともに、Vの濃化相が粗大に析出し難く、本実施形態の超硬合金を使った切削工具では、高硬度鋼のミーリング加工において工具損傷を抑制され易くなる。V/Coの適正範囲として1.0~2.5%がより好ましい。
【0021】
(3)Cr
Crは、粒成長抑制材であり、Vとともに添加することで、WC基超硬合金の組織を微細化する元素であって、本実施形態の超硬合金では、0.15~1.20質量%含有することが好ましい。
また、本発明者の知見によれば、Crの含有割合に対するCoの含有割合の質量比、Cr/Coにも、適正な範囲が存在することが判明した。
【0022】
Cr/Coの適正範囲は、5.0~20.0%であることが好ましい。Cr/Coがこの範囲にあることで、組織が微細となって超硬合金の硬度が高まるとともに、Crの濃化相が粗大に析出し難く、本実施形態の超硬合金を使った切削工具では、高硬度鋼のミーリング加工において工具損傷を抑制され易くなる。
【0023】
言い換えると、前記適正範囲よりも小さくなると、WC基超硬合金の組織が粗大となり、この超硬合金を使った切削工具では耐摩耗性が低下する。一方、前記適正範囲よりも大きくなると、Crの濃化相が粗大に析出する。また、WC基超硬合金の焼結性が悪化するため、空隙やCoプールが発生し易くなる。
前記適正範囲は、8.0~20.0%がより好ましい。
【0024】
(4)Ta
Taは、粒成長抑制材であり、VとCrとともに添加することにより、WC基超硬合金の組織を微細化する。本実施形態の超硬合金では、0.03~0.12質量%含有することが好ましい。
また、本発明者の知見によれば、Taの含有割合に対するCoの含有割合の質量比、Ta/Coにも、適正な範囲が存在することが判明した。
【0025】
Ta/Coの適正範囲は、1.0~2.0%であることが好ましい。Ta/Coがこの範囲にあることで、超硬合金の組織が微細となって硬度が高まるとともに、Taの濃化相が粗大に析出し難く、本実施形態の超硬合金を使った切削工具では、高硬度鋼のミーリング加工において工具損傷を抑制され易くなる。
前記適正範囲は、1.0~1.5%がより好ましい。
【0026】
2.硬質相と結合相の界面におけるTa含有割合
本実施形態のWC基超硬合金では、硬質相を構成するWC粒子の(0001)が結合相との界面においてTaが2原子%以下であることが好ましい。その理由は、同界面のTaが少ないことで硬質相と結合相の界面強度を高めることができるからである。
【0027】
また、硬質相のWC(0001)面と結合相との界面では、Vの原子%>Crの原子%>Taの原子%であることが好ましい。前記面と結合相との界面では、Vは10.0原子%以下であることが好ましい。なお、「>」は、不等号である。
【0028】
3.ビッカース硬度
本実施形態のWC基超硬合金は、ビッカース硬度が2000以上であることが好ましい。
高硬度鋼をミーリング加工するには、基材であるWC基超硬合金の硬度も高い方がよい。そのため、本実施形態のWC基超硬合金では、ビッカース硬度を2000以上とする。更にはWC基超硬合金の硬度を2100以上とすることがより好ましい。WC基超硬合金の硬度と靭性は二律背反(トレードオフ)の関係にあり、硬度が増加すると靭性が低下する傾向にあり、硬度が低下すると靭性が増加する傾向にある。硬度が高すぎると靭性が低下するため、本実施形態のWC基超硬合金のビッカース硬度は2500以下にすることが好ましい。
【0029】
WC基超硬合金の硬度はCo含有比率とWC平均結晶粒径に依存する。本実施形態のWC基超硬合金のCoの含有割合でビッカース硬度2000以上を達成するためには、WC粒子の円相当の平均結晶粒径は0.6μm以下であることがより好ましい。更には、WC粒子の円相当の平均結晶粒径は0.4μm以下であることがより一層好ましい。
【実施例
【0030】
1.WC基超硬合金の作製
WC原料粉末は、平均粒径が0.4μmの粉末を用いた。一方、Co原料粉末は、平均粒径が1.5μmの粉末を、VC原料粉末は、平均粒径が1μmの粉末を、Cr原料粉末は、平均粒径が1μmの粉末を、TaC原料粉末は、平均粒径が1μmの粉末を、それぞれ、用いた。
【0031】
これらの原料粉末を所定の組成になるように秤量して、アトライターで湿式混合した。混合の際には、焼結過程で消費される炭素を補うためのC粉末と成型用バインダー粉末を微量添加した。混合後、スプレードライヤーで乾燥し各組成の造粒粉を作製して、丸棒を形成した。その後、実施例1~7は1450℃の焼結温度で、比較例1は1430℃の焼結温度で、それぞれ、1時間保持後、圧力5MPaで焼結して、脱炭相と遊離炭素が析出していない中炭素合金のWC基超硬合金製の丸棒を形成した。
【0032】
その後、これらの丸棒を切削評価用としてボールエンドミル形状に加工した。また、物性評価用に丸棒を加工して硬度測定と組織観察を行った。表1に組成と硬度の測定結果を示す。組織観察では、鏡面研磨した焼結体の断面をフィールドエミッション電子プローブマイクロアナライザ(EPMA、日本電子製JXA-8530F型)を用いて1500倍でVの面分析を行った。面分析において、Vが2質量%以上/ピクセルで測定された場合、粗大なV濃化相ありと判断した。その結果、CoとVが多い比較例1の基材のみ粗大なV濃化相が確認された。
【0033】
ビッカース硬度は、基材を鏡面研磨して、ビッカース硬さ試験機(明石製作所製AVK型)を用いて試験力HV30(294.2N)、保持時間15秒の条件で2点測定し、その平均値から求めた。
【0034】
2.硬質皮膜の成膜
硬質皮膜の成膜には、アークイオンプレーティング方式の成膜装置を用いた。基材の表面に約2μmのAlCrSiNを被覆した後に約1μmのTiSiNを被覆し、実施例1~7と比較例1の切削工具を得た。
【0035】
【表1】
【0036】
3.切削試験
実施例、比較例に対して、以下の切削試験1~3を行い、切削試験後の基材露出面積から被覆切削工具の耐摩耗性を評価した。切削試験1~3の各試験条件を以下に示す。
切削試験1~3共に、評価方法である基材露出面積率は、切削加工後、走査型電子顕微鏡を用いて所定の倍率で観察し、基材の超硬合金が露出した部分が全体に占める割合を算出した。基材露出面積率の算出には市販の画像解析ソフトを用いた。
【0037】
(1)切削試験1の切削条件
・工具:2枚刃超硬ボールエンドミル(ボール半径0.3mm)
・切削方法:ポケット加工(25mm×25mm×深さ0.08mm)
・被削材:ASP23(64HRC)
・切り込み:軸方向、0.04mm、径方向、0.12mm
・切削速度:75m/min
・一刃送り量:0.015mm/刃
・切削油:ミストブロー(油性)
・加工個数:4ポケット
・基材露出面積率の観察倍率:300倍
基材露出面積率(=基材露出部の面積/基材の全面積×100)の結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
(2)切削試験2の切削条件
・工具:2枚刃超硬ボールエンドミル(ボール半径0.15mm)
・切削方法:ポケット加工(1mm×3mm×深さ0.4mm)
・被削材:ASP23(64HRC)
・切り込み:軸方向、0.013mm、径方向、0.013mm
・切削速度:37.7m/min
・一刃送り量:0.0045mm/刃
・切削油:ミストブロー(油性)
・加工個数:20ポケット
・基材露出面積率の観察倍率:600倍
基材露出面積率の結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
(3)切削試験3の切削条件
・工具:2枚刃超硬ボールエンドミル(ボール半径0.15mm)
・切削方法:ポケット加工(1mm×3mm×深さ0.4mm)
・被削材:ASP23(64HRC)
・切り込み:軸方向、0.006mm、径方向、0.006mm
・切削速度:37.7m/min
・一刃送り量:0.0045mm/刃
・切削油:ミストブロー(油性)
・加工個数:7ポケット
・基材露出面積率の観察倍率:600倍
基材露出面積率の結果を表4に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
表2~4から明らかなように、実施例は何れの加工においても基材露出面積率が小さく、高硬度鋼の切削加工において、優れた耐久性を示した。この理由としては、実施例は低Coで高硬度を維持した上で粒成長抑制材の粗大な濃化相がないためと考えられる。
【0044】
ここで、図1は、実施例1を組織観察した写真であり、この写真内の硬質相(図2ではWC相と示す)WC(0001)面と記載した面と結合相(図2ではCo相と示す)の界面におけるTaの分布を測定した。その結果を図2に示すが、前記界面でTaが少ないことから界面強度が高まっているため、優れた耐久性を示したと推定される。
図1
図2