(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/485 20100101AFI20241101BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241101BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241101BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241101BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241101BHJP
【FI】
H01M4/485
C01G53/00 A
H01M4/36 Z
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2021501725
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2020001882
(87)【国際公開番号】W WO2020174937
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019034344
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河北 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
(72)【発明者】
【氏名】五島 佑治
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018099(WO,A1)
【文献】特開2010-040383(JP,A)
【文献】特開2015-201388(JP,A)
【文献】特開2000-173584(JP,A)
【文献】特開2016-127004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/485
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有遷移金属酸化物を水洗し、脱水してケーキ状組成物を得る洗浄工程と、
前記ケーキ状組成物に、少なくともタングステン化合物又はタングステン含有溶液を添加してタングステン添加物を得るタングステン添加工程と、
前記タングステン添加物を100℃以上180℃以下で熱処理する第1の熱処理工程と、
前記タングステン添加物を還元雰囲気以外の雰囲気で180℃超~330℃で熱処理する第2の熱処理工程と
、
前記第2の熱処理工程の後に、前記タングステン添加物の温度が前記第2の熱処理工程後1時間以内に100℃以下となるように冷却する冷却工程とを含み、
タングステン添加工程前の前記ケーキ状組成物、前記第1の熱処理工程前の前記タングステン添加物、又は前記第1の熱処理工程後前記第2の熱処理工程前若しくは前記第2の熱処理工程中の前記タングステン添加物に、ホウ素化合物又はホウ素含有溶液を添加するホウ素添加工程をさらに含む、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム含有遷移金属酸化物の組成は、一般式Li
zNi
1-x-yCo
xM
yO
2(式中、0≦x≦0.2、0≦y≦0.1、0.97≦z≦1.20、Mは、Mn、W、Mg、Mo、Nb、Ti、Si、及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記ホウ素添加工程は、前記第1の熱処理工程後に行われる、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程後の前記ケーキ状組成物の含水率が10wt%以下であり、前記ホウ素添加工程前の前記ケーキ状組成物又は前記タングステン添加物の含水率が2wt%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記ホウ素添加工程において、前記ホウ素化合物はホウ酸である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池の正極活物質には、リチウム含有遷移金属酸化物が使用されている。例えば、特許文献1には、一般式LizNi1-x-yCoxMyO2(0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子表面にタングステン酸リチウム化合物を付着させて正極を低抵抗化することで、リチウムイオン二次電池の高出力化を図る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では十分に正極の抵抗を下げることができず、未だ改良の余地がある。
【0005】
そこで、本開示の目的は、リチウム含有遷移金属酸化物の低抵抗化を図ることで、従来よりも出力特性が向上した非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法を提供することである。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウム含有遷移金属酸化物を水洗し、脱水してケーキ状組成物を得る洗浄工程と、ケーキ状組成物に、少なくともタングステン化合物又はタングステン含有溶液を添加してタングステン添加物を得るタングステン添加工程と、タングステン添加物を180℃以下で熱処理する第1の熱処理工程と、タングステン添加物を還元雰囲気以外の雰囲気で180℃超~330℃で熱処理する第2の熱処理工程とを含み、タングステン添加工程前のケーキ状組成物、第1の熱処理工程前のタングステン添加物、又は第1の熱処理工程後第2の熱処理工程前若しくは第2の熱処理工程中のタングステン添加物に、ホウ素化合物又はホウ素含有溶液を添加するホウ素添加工程をさらに含むことを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様によれば、低抵抗な非水電解質二次電池用正極活物質が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
リチウム含有遷移金属酸化物において、充放電の際リチウムイオンが挿入・脱離するためのサイトにニッケル等の遷移金属が入り込んでしまうカチオンミキシングと呼ばれる現象が生じると、正極の抵抗が上がってしまい、高い出力が得られないという問題がある。例えば、特許文献1には、一般式LizNi1-x-yCoxMyO2(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子表面にタングステン酸リチウム化合物を形成することで、電解液との界面でリチウムイオンの導電パスを形成し、正極を低抵抗化する方法が開示されている。しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、タングステンの添加によってリチウムイオンの導電パスを確保するだけでは、十分に正極の抵抗を下げることができないことがわかった。そこで、本発明者らは更なる検討を進め、以下に示す態様の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法を想到するに至った。
【0010】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウム含有遷移金属酸化物を水洗し、脱水してケーキ状組成物を得る洗浄工程と、ケーキ状組成物に、少なくともタングステン化合物又はタングステン含有溶液を添加してタングステン添加物を得るタングステン添加工程と、タングステン添加物を180℃以下で熱処理する第1の熱処理工程と、タングステン添加物を還元雰囲気以外の雰囲気で180℃超~330℃で熱処理する第2の熱処理工程とを含み、タングステン化合物又はタングステン含有溶液を添加前のケーキ状組成物、第1の熱処理工程前のタングステン添加物、又は第1の熱処理工程後第2の熱処理工程前若しくは第2の熱処理工程中のタングステン添加物に、ホウ素化合物又はホウ素含有溶液を添加するホウ素添加工程をさらに含むことを特徴とする。リチウム含有遷移金属酸化物の表面にタングステン及びホウ素を存在させた状態で、180℃超~330℃の条件で熱処理することで、タングステンとホウ素の相互作用によって、リチウムイオンの導電パスを確保しつつリチウム含有遷移金属酸化物の表面を保護することができるため、より低抵抗化を進めることができる。
【0011】
以下、本実施形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法を工程ごとに詳細に説明する。
【0012】
本実施形態で使用するリチウム含有遷移金属酸化物の合成工程について説明する。まず、共沈により得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物等の遷移金属複合水酸化物を熱処理して遷移金属複合酸化物を得る。次に、当該遷移金属複合酸化物と、水酸化リチウムや炭酸リチウム等のリチウム化合物とを混合し、この混合物を熱処理した後に粉砕することでリチウム含有遷移金属酸化物の粒子を得ることができる。
【0013】
リチウム含有遷移金属酸化物の組成は、一般式LizNi1-x-yCoxMyO2(但し、0≦x≦0.2、0≦y≦0.1、0.97≦z≦1.20、Mは、Mn、W、Mg、Mo、Nb、Ti、Si、及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)とすることができる。この場合、リチウム含有遷移金属酸化物において、リチウム以外の金属(Ni、Co、M)に占めるニッケルの割合は70mol%~80mol%と高いためカチオンミキシングが起きやすいため、本実施形態の効果がより顕著に生じる。
【0014】
[洗浄工程]
洗浄工程は、リチウム含有遷移金属酸化物を水洗し、脱水してケーキ状組成物を得る工程である(
図1参照)。リチウム含有遷移金属酸化物は、合成工程で得られた粒子状のものを使用することができる。水洗によって、上記のリチウム含有遷移金属酸化物の合成工程において加えられたリチウム化合物の未反応分や、リチウム化合物以外の不純物を除去することができる。水洗の際は、例えば、水1Lに対して300g~5000gのリチウム含有遷移金属酸化物を投入することができる。水洗は複数回繰り返すこともできる。水洗後の脱水は、例えばフィルタープレスですることができる。脱水によって、洗浄工程後のケーキ状組成物の含水率を10wt%以下とすることができる。ケーキ状組成物の含水率は、後に添加するタングステン化合物又はタングステン含有溶液に含まれるタングステンをリチウム含有遷移金属酸化物の表面に広がりやすくするとの観点から、2wt%~10wt%が好ましく、4wt%~8wt%がさらに好ましい。ケーキ状組成物の含水率は、10gのケーキ状組成物を真空中に120℃で2時間静置して乾燥させ、乾燥前後のケーキ状組成物の重量変化を乾燥前のケーキ状組成物の重量で割って算出する。タングステン添加物の含水率も同様にして算出する。
【0015】
[タングステン添加工程]
タングステン添加工程は、ケーキ状組成物に、タングステン化合物又はタングステン含有溶液を添加してタングステン添加物を得る工程である(
図1参照)。洗浄工程後においてもリチウム化合物の一部はケーキ状組成物に残存しており、ケーキ状組成物に含まれるリチウム含有遷移金属酸化物の表面において、残存リチウム化合物がケーキ状組成物に含水されている水に溶けてアルカリ水溶液が生成される。ケーキ状組成物にタングステン化合物を添加した場合には、タングステン化合物は、アルカリ水溶液に溶けてリチウム含有遷移金属酸化物の表面全体に広がる。ケーキ状組成物に直接添加されるタングステン化合物としては、酸化タングステン(WO
3)、タングステン酸リチウム(Li
2WO
4、Li
4WO
5、Li
6W
2O
9)等を例示することができる。また、ケーキ状組成物にタングステン含有溶液を添加することもできる。タングステン含有溶液中のタングステン濃度は、例えば、0.05mol/L以上であり、0.1mol/L~1mol/Lであることが好ましい。タングステン含有溶液は、タングステンを含有するものであれば特に限定されないが、酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウムなど、アルカリ溶液に対して易溶性のタングステン化合物を水酸化リチウムの水溶液に溶かしたものが好ましい。
【0016】
[第1の熱処理工程]
第1の熱処理工程は、タングステン添加物を180℃以下で熱処理する工程である(
図1参照)。タングステン添加物を乾燥させることで、換言すれば、タングステン添加物の表面に分布しているタングステン含有溶液から水分を蒸発させることで、タングステン化合物をリチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着させることができる。第1の熱処理工程における熱処理温度は、180℃以下でタングステン化合物から水分を蒸発させることができる温度であれば特に限定されないが、効率性の観点から100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。第1の熱処理工程における雰囲気は、例えば真空中とすることができる。第1の熱処理工程における熱処理時間は、特に限定されないが、タングステン含有溶液の水分を十分に蒸発させて、タングステン化合物をリチウム含有遷移金属酸化物の表面に形成するために0.5~10時間とすることが好ましい。
【0017】
[第2の熱処理工程]
第2の熱処理工程は、第1の熱処理工程後に、タングステン添加物を還元雰囲気以外の雰囲気で180℃超~330℃で熱処理する工程であり、正極活物質が作製される(
図1参照)。ここで、還元雰囲気以外の雰囲気とは、大気雰囲気、酸素雰囲気、脱炭酸雰囲気、真空、不活性ガス等の雰囲気を意味する。また、脱炭酸雰囲気とは、大気中の二酸化炭素濃度を50ppm以下、好ましくは20ppm以下に除去した空気雰囲気である。第2の熱処理工程において180℃超~330℃とホウ素化合物の融点よりも高い温度で熱処理にすることで、後述するホウ素添加工程で添加するホウ素化合物又はホウ素含有溶液を溶融してリチウム含有遷移金属酸化物の表面全体に広がることができる。第2の熱処理工程における熱処理時間は、特に限定されないが、ホウ素化合物又はホウ素含有溶液を十分に溶融するために0.15時間~6時間とすることが好ましい。
【0018】
第2の熱処理工程の後に、冷却工程を行うことができる。冷却工程によって、第2の熱処理で溶融したホウ素を含有する化合物を再析出させることができる。冷却工程は、タングステン添加物の温度を下げることができる工程であれば特に限定されないが、例えば、タングステン添加物の温度を第2の熱処理工程後1時間で180℃まで降下させる徐冷や、タングステン添加物の温度を第2の熱処理工程後1時間以内に100℃以下まで降下させる急冷を行うことができる。
【0019】
第2の熱処理工程の後に、タングステン添加物の温度が第2の熱処理工程後1時間以内に100℃以下となる冷却工程をさらに有することが好ましい。換言すれば、第2の熱処理工程後に急冷を行うことが好ましい。冷却時間を短くすることによって冷却中に表面に付着する不純物量を少なくすることができる。
【0020】
[ホウ素添加工程]
ホウ素添加工程は、
図1のタングステン添加工程前のケーキ状組成物(a)、第1の熱処理工程前のタングステン添加物(b、c)、又は第2の熱処理工程前若しくは第2の熱処理工程中のタングステン添加物(d、e、f)に、ホウ素化合物又はホウ素含有溶液を添加する工程である。
【0021】
ホウ素をタングステン添加物に添加することで、タングステンとホウ素の相乗効果によって、リチウムイオンの導電パスを確保するだけでなく、リチウム含有遷移金属酸化物の表面を保護することができるため、正極をより低抵抗化することができる。ここで、リチウム含有遷移金属酸化物の表面を保護する効果とは、タングステン及びホウ素がリチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着してコーティングすることで、放充電の際にリチウム含有遷移金属酸化物の表面の構造を維持することを意味する。
【0022】
ケーキ状組成物又はタングステン添加物に直接添加されるホウ素化合物としては、ホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸(HBO2)、四ホウ酸(H2B4O7)等を例示することができる。ホウ素化合物の粒径は、特に限定されないが、分散性の観点から、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下が特に好ましい。また、ケーキ状組成物又はタングステン添加物にホウ素含有溶液を添加することもできる。ホウ素含有溶液中のホウ素濃度は、例えば、0.05mol/L~2mol/Lであり、0.1mol/L~1mol/Lであることが好ましい。ホウ素含有溶液は、ホウ素を含有するものであれば特に限定されないが、ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などを例示することができ、さらに水酸化リチウム(LiOH)や炭酸リチウム(Li2CO3)等を添加してホウ素含有溶液のpHを7以上にしたものが好ましい。この場合、酸による正極活物質(ケーキ状組成物又はタングステン添加物)表面の劣化を防ぐことができる。
【0023】
ホウ素添加工程前のケーキ状組成物又はタングステン添加物の含水率が2wt%以下であることが好ましい。ケーキ状組成物又はタングステン添加物の含水率が2wt%より高いとケーキ状組成物又はタングステン添加物同士が凝集しホウ素化合物が分散しにくくなる。
【0024】
ホウ素添加工程は、第1の熱処理工程後(e、f)に行われることが好ましい。第1の熱処理によってタングステン化合物に含まれる水分が蒸発して、タングステン添加物の粉末がよりさらさらになりホウ素化合物の分散性をより向上させることができる。
【0025】
ホウ素添加工程が第1の熱処理工程前及び第1の熱処理工程中(a、b、c、d)に行われる場合、180℃以下の時間を所定時間経たのち、180℃超の時間を所定時間とすることで、第1の熱処理工程及び第2の熱処理工程を連続的に行うことができる。
【0026】
ホウ素添加工程は、ケーキ状組成物又はタングステン添加物にホウ酸を添加する工程であることが好ましい。ホウ酸化合物はホウ素含有水溶液に比べて排出する水分量が少ないため、設備への負荷を最小限に抑えられるため、ホウ酸化合物が好ましい。
【0027】
上述の製造方法で作製された正極活物質が適用される非水電解質二次電池は、例えば、電極(正極、負極)とセパレータとを積層又は巻回した電極体を非水電解質と共に電池缶やラミネート等の収容体に収容することにより得られる。本実施形態における正極、負極、セパレータ、非水電解質は、例えば以下の通りである。
【0028】
<正極>
正極は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを備える。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。
【0029】
正極合材層は、正極活物質を含み、その他に、導電材及び結着材等を含むことが好適である。正極は、例えば、正極活物質、導電材、結着材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して正極合材層を正極集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0030】
導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末を単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0031】
結着材としては、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。例えば、フッ素系高分子としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等、ゴム系高分子としてエチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
<負極>
負極は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質を含み、その他に、増粘材、結着材等を含むことが好適である。負極は、例えば、負極活物質と、増粘材と、結着材とを所定の重量比として、水に分散させた負極合材スラリーを負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層を負極集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0033】
負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素材料を用いることができ、黒鉛の他に、難黒鉛性炭素、易黒鉛性炭素、繊維状炭素、コークス及びカーボンブラック等を用いることができる。さらに、非炭素系材料として、シリコン、スズ及びこれらを主とする合金や酸化物を用いることができる。
【0034】
結着材としては、正極の場合と同様にPTFE等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。増粘材としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0035】
<非水電解質>
非水電解質の非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を用いることができ、これらの溶媒の2種以上を混合して用いることができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、環状カーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒等を用いることができる。
【0036】
非水電解質の電解質塩としては、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3等及びこれらの混合物を用いることができる。非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、例えば0.5~2.0mol/Lとすることができる。
【0037】
<セパレータ>
セパレータには、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[正極活物質の製造]
<実施例1>
共沈により得られたNi0.91Co0.045Al0.045(OH)2で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を500℃で熱処理して酸化物を得た。LiOHと当該酸化物とを、Liと遷移金属全体とのモル比が1.08:1となるように石川式らいかい乳鉢にて混合して混合物を得た。当該混合物を焼成炉に投入し、酸素濃度95%の酸素気流下(10cm3あたり2mL/min及び混合物1kgあたり5L/minの流量)で、当該混合物を、昇温速度2.0℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度0.5℃/minで、650℃から710℃まで焼成し、平均二次粒径が約11μmのLi1.05Ni0.91Co0.045Al0.045O2で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(リチウム含有遷移金属酸化物)の粒子を得た。当該リチウム含有遷移金属酸化物粒子の組成は、ICP発光分光分析装置を用いて測定した。
【0040】
上記リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の粒子1000gに純水800gを加え、攪拌後に濾過・分離し、さらに純水で洗浄後に脱水して、洗浄工程後のケーキ状組成物を得た。当該ケーキ状組成物の含水率は、4wt%であった。
【0041】
次に、上記のケーキ状組成物に、リチウム含有遷移金属酸化物に対するタングステン元素換算で0.19wt%のWO3粉末を添加し、真空中において180℃まで昇温して3時間の第1の熱処理工程を行い、その後室温まで炉冷することにより、含水率0.08wt%のタングステン添加物を得た。
【0042】
上記タングステン添加物に、ホウ酸をリチウム含有遷移金属酸化物に対してホウ素元素換算で0.01wt%を添加し、250℃の大気雰囲気で3時間の第2の熱処理工程を行った。第2の熱処理工程後のタングステン添加物を、1時間以内に100℃以下となるように冷却させて、実施例1の正極活物質を得た。
【0043】
<実施例2>
第2の熱処理工程の温度を185℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0044】
<実施例3>
第2の熱処理工程の温度を330℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0045】
<実施例4>
ホウ酸の添加量をリチウム含有遷移金属酸化物に対してホウ素元素換算で0.005wt%としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0046】
<実施例5>
ホウ酸の添加量をリチウム含有遷移金属酸化物に対してホウ素元素換算で0.05wt%としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0047】
<実施例6>
ホウ酸の添加量をリチウム含有遷移金属酸化物に対してホウ素元素換算で0.1wt%としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0048】
<実施例7>
洗浄工程後のケーキ状組成物に、リチウム含有遷移金属酸化物粒子に対するタングステン元素換算で0.19wt%のWO3粉末と、リチウム含有遷移金属酸化物に対してホウ素元素換算で0.01wt%のホウ酸とを同時に添加し、真空中で180℃3時間の第1の熱処理工程を行った後に、250℃の大気雰囲気で3時間の第2の熱処理工程を行った。第2の熱処理工程後のタングステン添加物を、1時間以内に100℃以下となるように冷却させて、実施例7の正極活物質を作製した。
【0049】
<実施例8>
WO3粉末に代えて、タングステン含有溶液をケーキ状組成物に添加した以外は、実施例7と同様にして正極活物質を作製した。タングステン含有溶液は、20gの純水に1gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、2.4gのWO3を添加して撹拌することにより作製した。ケーキ状組成物に、リチウム含有遷移金属酸化物粒子に対するタングステン元素換算で0.19wt%となるように当該タングステン含有溶液を添加した。
【0050】
<実施例9>
第2の熱処理工程の雰囲気を酸素雰囲気にしたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0051】
<実施例10>
第2の熱処理工程の雰囲気を脱炭酸雰囲気にしたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0052】
<実施例11>
第2の熱処理工程後のタングステン添加物を1時間で180℃となるように冷却した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0053】
<実施例12>
ホウ素含有溶液は、15gの純水に0.24gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、6.4gのホウ酸を添加して撹拌することにより作製した。ホウ酸に代えてリチウム含有遷移金属酸化物粒子に対するホウ素元素換算で0.01wt%となるように当該ホウ素含有溶液を添加したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0054】
<比較例1>
ホウ酸の添加、及び第2の熱処理工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0055】
<比較例2>
WO3粉末に代えて、タングステン含有溶液をケーキ状組成物に添加した以外は、比較例1と同様にして正極活物質を作製した。タングステン含有溶液は、20gの純水に1gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、2.4gのWO3を添加して撹拌することにより作製した。ケーキ状組成物に、リチウム含有遷移金属酸化物粒子に対するタングステン元素換算で0.19wt%となるように当該タングステン含有溶液を添加した。
【0056】
<比較例3>
ホウ酸の添加を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0057】
<比較例4>
第2の熱処理工程を行わなかったこと以外は、実施例8と同様にして正極活物質を作製した。
【0058】
<比較例5>
第2の熱処理工程の温度を150℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0059】
<比較例6>
第2の熱処理工程の温度を400℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0060】
<比較例7>
タングステンの添加を行わなかったこと以外は、実施例7と同様にして正極活物質を作製した。
【0061】
<比較例8>
タングステンの添加、ホウ酸の添加、及び第2の熱処理を行わず、実施例1と同様の洗浄工程及び第1の熱処理のみを行って正極活物質を作製した。
【0062】
<比較例9>
タングステンの添加を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0063】
<比較例10>
タングステンの添加及びホウ酸の添加を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0064】
[正極の作製]
実施例1~11及び比較例1~10において作製した正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを85:10:5の質量比で混合し、瑪瑙乳鉢と乳棒を用いて練り込みながら薄いペレット状に成形した。その後、ローラーを用いて所定の厚みに圧延した後、所定の円形に打ち抜き正極とした。
【0065】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、20:5:75の体積比で混合した。当該混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.2mol/Lの濃度となるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0066】
[試験セルの作製]
実施例1の正極と、リチウム金属からなる負極とを、セパレータを介して互いに対向するように積層し、電極体を作製した。次いで、当該電極体及び上記非水電解質をアルミニウム製のコイン形外装体に挿入し、プレス機でかしめることで密封し、試験セルを作製した。その他の実施例及び比較例も同様にして試験セルを作製した。
【0067】
[反応抵抗の測定]
上記試験セルについて、25℃の温度条件下で、セル電圧が4.3Vになるまで0.7mAで定電流充電を行い、その後、電流値が0.07mAになるまで4.3Vで定電圧充電を行った。続いて、セル電圧が2.5Vになるまで0.7mAで定電流放電を行った。その後、再び25℃の温度条件下で、セル電圧が4.3Vになるまで0.7mAで定電流充電を行い、その後、電流値が0.07mAになるまで4.3Vで定電圧充電を行った。次いで、試験セルを交流インピーダンス測定器を用いて20kHz~0.01Hzの交流インピーダンスを測定し、測定データからコールコールプロットを描画し、10Hz~0.1Hzの間の円弧の大きさから、反応抵抗を求めた。なお、表1の反応抵抗は、比較例1の正極活物質を含む試験セルの反応抵抗を100として、その他の試験セルの反応抵抗を相対的に表したものである。
【0068】
【0069】
実施例1~12では、比較例1よりも反応抵抗が下がることを確認した。換言すれば、本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法によれば、従来よりも抵抗値が低く、出力特性が向上した非水電解質二次電池を作製することができることを確認した。また、急冷した実施例1の方が、徐冷した実施例11よりも反応抵抗が小さくなっており、急冷する方が好ましいことを確認した。一方、比較例3~10では、比較例1よりも反応抵抗が大きくなった。また、比較例2の反応抵抗は比較例1の反応抵抗と同じであった。