(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】プラズマエッチング方法、プラズマエッチング装置、および素子チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
H01L21/302 101C
(21)【出願番号】P 2021006540
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】置田 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】針貝 篤史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】高崎 俊行
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-520991(JP,A)
【文献】特表2006-518913(JP,A)
【文献】特開2008-053678(JP,A)
【文献】特表2007-501532(JP,A)
【文献】特開2013-084695(JP,A)
【文献】特表2002-543611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを用いたプラズマエッチングによって、シリコン層を含む基板をエッチングするプラズマエッチング方法であって、
前記シリコン層を貫通するまで前記シリコン層の一部をエッチングするエッチング工程を含み、
前記エッチング工程は、
前記シリコン層の前記一部をプラズマエッチングすることによって、前記シリコン層に凹部を形成するシリコン層エッチングステップと、
前記凹部の内側に保護膜を形成する保護膜形成ステップと、
前記凹部の底部に存在する前記保護膜をプラズマエッチングすることによって除去する保護膜エッチングステップと、をこの順に含むステップ群を繰り返すことによって行われ、
前記シリコン層エッチングステップおよび前記保護膜エッチングステップからなる群より選択される少なくとも1つのステップは、
高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(x)と、
前記エッチングステップ(x)で印加される前記高周波電力よりも小さい高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(y)と、を含み、
前記凹部が前記シリコン層を貫通して前記シリコン層のエッチングが完了したか否かの判定が、前記
エッチングステップ(y)における前記プラズマの発光強度に基づいて行われる、プラズマエッチング方法。
【請求項2】
前記
エッチングステップ(y)において、
前記シリコン層のエッチングが完了したと判定されない場合に、前記エッチングステップ(y)の後に前記エッチングステップ(x)が行われる、請求項1に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのステップは、前記シリコン層エッチングステップを含む、請求項1
または2のいずれか1項に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項4】
前記シリコン層エッチングステップにおいて、SF
6ガスを含むエッチングガスが用いられ、
前記判定は、前記プラズマ中のSiおよび/またはSiF
xの発光強度に基づいて行われる、請求項
3に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項5】
前記凹部の開口率が1%以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項6】
プラズマエッチング装置であって、
内部に基板が配置されるチャンバであってガス導入口を有するチャンバと、
前記チャンバ内でプラズマを生成させるための電極と、
前記プラズマの発光強度を測定するための光測定部と、
制御部とを含み、
前記制御部は、前記プラズマを用いたプラズマエッチングによって、シリコン層を含む基板をエッチングする際に、前記シリコン層を貫通するまで前記シリコン層の一部をエッチングするエッチング工程を実行し、
前記エッチング工程は、
前記シリコン層の前記一部をプラズマエッチングすることによって、前記シリコン層に凹部を形成するシリコン層エッチングステップと、
前記凹部の内側に保護膜を形成する保護膜形成ステップと、
前記凹部の底部に存在する前記保護膜をプラズマエッチングすることによって除去する保護膜エッチングステップと、をこの順に含むステップ群を繰り返すことによって行われ、
前記シリコン層エッチングステップおよび前記保護膜エッチングステップからなる群より選択される少なくとも1つのステップは、
高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(x)と、
前記エッチングステップ(x)で印加される前記高周波電力よりも小さい高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(y)と、を含み、
前記制御部は、前記凹部が前記シリコン層を貫通して前記シリコン層のエッチングが完了したか否かの判定を、前記
エッチングステップ(y)における前記プラズマの前記発光強度に基づいて行う、プラズマエッチング装置。
【請求項7】
シリコン層を含む基板を用いた、素子チップの製造方法であって、
プラズマを用いたプラズマエッチングによって、前記シリコン層を貫通するまで前記シリコン層の一部をエッチングするエッチング工程を含み、
前記エッチング工程は、
前記シリコン層の前記一部をプラズマエッチングすることによって、前記シリコン層に凹部を形成するシリコン層エッチングステップと、
前記凹部の内側に保護膜を形成する保護膜形成ステップと、
前記凹部の底部に存在する前記保護膜をプラズマエッチングすることによって除去する保護膜エッチングステップと、をこの順に含むステップ群を繰り返すことによって行われ、
前記シリコン層エッチングステップおよび前記保護膜エッチングステップからなる群より選択される少なくとも1つのステップは、
高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(x)と、
前記高周波電力よりも小さい高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(y)とを含み、
前記凹部が前記シリコン層を貫通して前記シリコン層のエッチングが完了したか否かの判定が、前記
エッチングステップ(y)における前記プラズマの発光強度に基づいて行われる、素子チップの製造方法。
【請求項8】
前記
エッチングステップ(y)において、
前記シリコン層のエッチングが完了したと判定されない場合に、前記エッチングステップ(y)の後に前記エッチングステップ(x)が行われる、請求項
7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのステップは、前記シリコン層エッチングステップを含む、請求項
7または8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記シリコン層エッチングステップにおいて、SF
6ガスを含むエッチングガスが用いられ、
前記判定は、前記プラズマ中のSiおよび/またはSiF
xの発光強度に基づいて行われる、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記凹部の開口率が1%以下である、請求項7~
10のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマエッチング方法、プラズマエッチング装置、および素子チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマエッチングによる深掘りによってシリコン層(例えばシリコン基板)を分断する方法として、いわゆるボッシュプロセス(Boschプロセス)が用いられてきた。ボッシュプロセスでは、シリコン層の一部をエッチングして凹部を形成する工程と、凹部の表面に保護膜を形成する工程と、保護膜の一部を除去する工程とが、この順序で複数回繰り返される。
【0003】
プラズマエッチングによってシリコン層の分断が完了した後もプラズマエッチングを続けると、面内方向にエッチングが進行してエッチングすべきでない箇所がエッチングされてしまう(ノッチング)。そのため、シリコン層の分断が完了したことを検知して、適切なタイミングでプラズマエッチングを終了することが重要である。
【0004】
特許文献1(特開2008-53678号公報)には、「表面側に形成されたSi膜と、該Si膜の下に形成された下層膜とを備えるシリコン基板の前記Si膜をエッチングする方法であって、SF6ガスを含むエッチングガスを供給しプラズマ化してSi膜をエッチングするプラズマエッチング方法において、多量のSF6ガスを供給して処理する多量供給工程と、ついで、供給量を減少させて少量のSF6ガスを供給して処理する少量供給工程との少なくとも二つの工程を繰り返して実施するとともに、前記少量供給工程におけるプラズマ中のSi又はSiFxの発光強度を測定し、測定された発光強度が予め設定した基準値以下となったとき、エッチング終点であると判定して処理を終了するようにしたことを特徴とする終点検出可能なプラズマエッチング方法。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、終点を検出するためにガスの供給量を変化させている。しかし、ガスの供給量を変化させる方法では、ガスの供給量を調整するバルブの開閉に時間がかかったり、ガスの供給量を切り替えた後もチャンバ内の圧力やプラズマ密度が安定するまでに時間がかかったりすることがある。そのため、終点検出をすぐに開始できないなどの問題があった。現在、シリコン層のエッチングの終点を適切且つ簡単に検知できるプラズマエッチング方法が求められている。本開示は、そのような方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面は、プラズマを用いたプラズマエッチングによって、シリコン層を含む基板をエッチングするプラズマエッチング方法に関する。当該プラズマエッチング方法は、前記シリコン層を貫通するまで前記シリコン層の一部をエッチングするエッチング工程を含み、前記エッチング工程は、前記シリコン層の前記一部をプラズマエッチングすることによって、前記シリコン層に凹部を形成するシリコン層エッチングステップと、前記凹部の内側に保護膜を形成する保護膜形成ステップと、前記凹部の底部に存在する前記保護膜をプラズマエッチングすることによって除去する保護膜エッチングステップと、をこの順に含むステップ群を繰り返すことによって行われ、前記シリコン層エッチングステップおよび前記保護膜エッチングステップからなる群より選択される少なくとも1つのステップは、高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(x)と、前記エッチングステップ(x)で印加される前記高周波電力よりも小さい高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(y)と、を含み、前記凹部が前記シリコン層を貫通して前記シリコン層のエッチングが完了したか否かの判定が、前記少なくとも1つのステップにおける前記プラズマの発光強度に基づいて行われる。
【0008】
本開示の他の一局面は、プラズマエッチング装置に関する。当該プラズマエッチング装置は、内部に基板が配置されるチャンバであってガス導入口を有するチャンバと、前記チャンバ内でプラズマを生成させるための電極と、前記プラズマの発光強度を測定するための光測定部と、制御部とを含み、前記制御部は、前記プラズマを用いたプラズマエッチングによって、シリコン層を含む基板をエッチングする際に、前記シリコン層を貫通するまで前記シリコン層の一部をエッチングするエッチング工程を実行し、前記エッチング工程は、前記シリコン層の前記一部をプラズマエッチングすることによって、前記シリコン層に凹部を形成するシリコン層エッチングステップと、前記凹部の内側に保護膜を形成する保護膜形成ステップと、前記凹部の底部に存在する前記保護膜をプラズマエッチングすることによって除去する保護膜エッチングステップと、をこの順に含むステップ群を繰り返すことによって行われ、前記シリコン層エッチングステップおよび前記保護膜エッチングステップからなる群より選択される少なくとも1つのステップは、高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(x)と、前記エッチングステップ(x)で印加される前記高周波電力よりも小さい高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(y)と、を含み、前記制御部は、前記凹部が前記シリコン層を貫通して前記シリコン層のエッチングが完了したか否かの判定を、前記少なくとも1つのステップにおける前記プラズマの前記発光強度に基づいて行う。
【0009】
本開示の他の一局面は、シリコン層を含む基板を用いた、素子チップの製造方法に関する。当該製造方法は、プラズマを用いたプラズマエッチングによって、前記シリコン層を貫通するまで前記シリコン層の一部をエッチングするエッチング工程を含み、前記エッチング工程は、前記シリコン層の前記一部をプラズマエッチングすることによって、前記シリコン層に凹部を形成するシリコン層エッチングステップと、前記凹部の内側に保護膜を形成する保護膜形成ステップと、前記凹部の底部に存在する前記保護膜をプラズマエッチングすることによって除去する保護膜エッチングステップと、をこの順に含むステップ群を繰り返すことによって行われ、前記シリコン層エッチングステップおよび前記保護膜エッチングステップからなる群より選択される少なくとも1つのステップは、高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(x)と、前記高周波電力よりも小さい高周波電力によって前記プラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップ(y)とを含み、前記凹部が前記シリコン層を貫通して前記シリコン層のエッチングが完了したか否かの判定が、前記少なくとも1つのステップにおける前記プラズマの発光強度に基づいて行われる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、シリコン層のエッチングの終点を適切且つ簡単に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示のプラズマエッチング装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図2A】本開示のプラズマエッチング方法の一例の一工程を示す断面図である。
【
図2H】過度なエッチングが行われた場合の状態の一例を示す断面図である。
【
図3】本開示のプラズマエッチング方法におけるシリコン層エッチングステップの一例を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の方法の一例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値Bの範囲」という場合、当該範囲には数値Aおよび数値Bが含まれる。
【0013】
(プラズマエッチング方法)
本開示に係るプラズマエッチング方法は、プラズマを用いたプラズマエッチングによって、シリコン層を含む基板をエッチングする方法である。以下では、当該プラズマエッチング方法を、エッチング方法(EM)と称する場合がある。
【0014】
シリコン層を含む基板は、シリコン基板であってもよいし、シリコン層と他の層とを含む基板であってもよい。例えば、基板は、ガラス層の上にシリコン層を含む基板であってもよい。例えば、基板は、分割されることによって複数の素子チップとなる基板であってもよい。そのような基板は、シリコン層と、素子が形成された素子層とを含み、配線層などをさらに含んでもよい。
【0015】
シリコン層を含む基板は、プラズマエッチングが開始される側とは反対側に配置された層(例えば酸化シリコン層など)を含んでもよい。基板は、フィルムなどの上に配置されてプラズマエッチングされてもよい。そのようなフィルムの例には、ダイシングテープやダイアタッチフィルムなどと呼ばれるシートが含まれる。以下では、シリコン層の2つの主面のうち、プラズマエッチングが開始される側とは反対側の主面に存在する層またはフィルムを、「下地層」と称する場合がある。下地層は、シリコン層以外の材料からなる層である。
【0016】
エッチング方法(EM)は、シリコン層を貫通するまでシリコン層の一部をエッチングするエッチング工程を含む。当該エッチング工程を、以下では「エッチング工程(E)」と称する場合がある。エッチング工程(E)は、シリコン層の一部をプラズマエッチングすることによって、シリコン層に凹部を形成するシリコン層エッチングステップと、凹部の内側に保護膜を形成する保護膜形成ステップと、凹部の底部に存在する保護膜をプラズマエッチングすることによって除去する保護膜エッチングステップと、をこの順に含むステップ群を繰り返すことによって行われる。すなわち、エッチング工程(E)は、複数回繰り返されるステップ群を含む。それぞれのステップ群は、シリコン層エッチングステップと保護膜形成ステップと保護膜エッチングステップとをこの順に含む。ステップ群を繰り返すことによって、シリコン層の凹部が深掘りされてシリコン層を貫通する。以下では、繰り返されるステップ群の回数を、「サイクル数」と称する場合がある。
【0017】
シリコン層の一部のエッチングは、例えば、当該一部以外をレジスト膜で覆うことによって実施することができる。レジスト膜には公知のレジスト膜(例えばフォトレジスト膜)を用いてもよい。
【0018】
上記各ステップには、公知のボッシュプロセスで用いられている条件を適用してもよいし、当該条件を変更して適用してもよい。ただし、上記ステップ群は、以下の構成(1)を有する点で公知のプロセスとは異なる。
(1)シリコン層エッチングステップおよび保護膜エッチングステップからなる群より選択される少なくとも1つのステップは、エッチングステップ(x)とエッチングステップ(y)とを含む。
【0019】
以下では、当該少なくとも1つのステップを、「エッチングステップ(S)」と称する場合がある。シリコン層エッチングステップおよび保護膜エッチングのいずれか一方がエッチングステップ(S)であってもよいし、それらの両方がエッチングステップ(S)であってもよい。
【0020】
エッチングステップ(x)は、高周波電力によってプラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップである。エッチングステップ(y)は、エッチングステップ(x)で印加される高周波電力HPxよりも小さい高周波電力HPyを印加することによってプラズマを生成させてプラズマエッチングするエッチングステップである。
【0021】
シリコン層エッチングステップがエッチングステップ(S)である場合、エッチングステップ(x)および(y)でシリコン層がエッチングされる。保護膜エッチングステップがエッチングステップ(S)である場合、エッチングステップ(x)および(y)で保護膜がエッチングされるが、保護膜がエッチングされてシリコン層が露出すると、シリコン層がエッチングされる。
【0022】
HPy(単位:W)は、HPx(単位:W)よりも小さく、例えば、HPxの0.1~0.5倍の範囲(例えば0.2~0.5倍の範囲)にあってもよい。この範囲とすることによって、エッチング速度を過度に遅くすることなく、エッチングの終点を適切に判定できる。HPxに特に限定はなく、チャンバの大きさやチャンバ内の圧力などに応じて適宜設定すればよい。一例では、HPxは、2000~5000Wの範囲にあってもよい。
【0023】
なお、この明細書において、「高周波電力によってプラズマを生成させる」とは、プラズマを生成させるための電極に高周波電力を印加することによってプラズマを生成させることを意味する。より詳細には、エッチング対象である基板が配置されたチャンバ内に所定のガスを導入した状態で、当該ガスをプラズマ化するための電極に高周波電力を印加してプラズマを生成させることを意味する。当該電極に高周波電力を印加することによって、チャンバ内のガスが励起されてプラズマが生成される。エッチングステップでは、エッチング用のガスがチャンバ内に導入される。保護膜形成ステップでは、保護膜形成用のガスがチャンバ内に導入される。
【0024】
エッチングステップ(x)およびエッチングステップ(y)の時間に特に限定はなく、それらによって形成される凹部の深さを考慮して設定すればよい。エッチングステップ(x)およびエッチングステップ(y)はそれぞれ独立に、1~10秒の範囲だけ行われてもよい。エッチングステップ(x)が行われる時間Txは、エッチングステップ(y)が行われる時間Tyの2~5倍の範囲にあってもよい。エッチングステップ(x)の方がエッチング速度が速く、エッチングの処理にかかる全体の時間を短くできるという点で、時間Txは、時間Tyよりも長いことが好ましい。
【0025】
エッチング方法(EM)では、凹部がシリコン層を貫通してシリコン層のエッチングが完了したか否かの判定が、エッチングステップ(S)におけるプラズマの発光強度に基づいて行われる。凹部がシリコン層を貫通して下地層に到達すると、プラズマエッチングによってプラズマ中に放出される物質の種類および/または構成比が変化する。その結果、プラズマ中で発光する物質の種類および/または構成比が変化し、それによってプラズマの発光スペクトルが変化する。この発光スペクトルの変化から、シリコン層のエッチングが完了したか否かを判定することができる。凹部がシリコン層を貫通したと判定された時点でエッチングを終了してもよい。あるいは、ほぼ垂直な貫通溝が形成されたと判定された後に、エッチングを終了してもよい。すなわち、凹部がシリコン層を貫通した後、一定時間エッチングを継続してもよい。
【0026】
発光強度のどのような変化をエッチングの終点を示す変化であるとするかは、基板の構造やエッチングの条件によって決定すればよい。凹部がシリコン層を貫通していない場合、シリコン層がエッチングされることによって、Siを含む生成物(以下では、「Si含有生成物」と称する場合がある)が生成する。凹部がシリコン層を貫通して下地層に到達すると、単位時間あたりにエッチングされるシリコン層の量が減るために、Si含有生成物に由来する発光強度が低下する。そのため、シリコン含有生成物に由来する発光強度の低下を、エッチングの終点を示す変化であるとしてもよい。あるいは、シリコン含有生成物に由来する発光強度が低下した後に増加したことを、エッチングの終点を示す変化であるとしてもよい。
【0027】
なお、発光強度による判定には、エッチングステップ(x)および/またはエッチングステップ(y)における発光強度の平均値を用いてもよいし、平均値以外の値(例えば最大値や積算値)を用いてもよい。
【0028】
凹部のエッチングでは、エッチングされたシリコン層から放出される生成物(Si含有生成物)に由来する発光の強度はそれほど大きくない。また、当該生成物以外のもの(例えばプラズマを生成するためのガス)に由来する発光の強度が大きい。そのため、通常の条件でプラズマエッチングを行った場合、Si含有生成物の発光の検出が難しい。
【0029】
本願発明者らは、プラズマを生成するために印加する高周波電力を小さくすることによって、(Si含有生成物に由来する発光の強度)/(それ以外の発光の強度)の比を大きくすることができることを見出した。本開示は、この新たな知見に基づくものである。
【0030】
一方、印加する高周波電力を小さくすると、エッチング速度が低下する。そのため、エッチング方法(EM)では、高周波電力を印加するエッチングステップ(x)と、エッチングステップ(x)よりも小さい高周波電力を印加するエッチングステップ(y)とを含むエッチングステップ(S)によってエッチングを行う。これによって、エッチングの終点を適切に検出しやすくなるとともに、充分なエッチング速度を維持できる。
【0031】
通常、初期のステップ群において凹部がシリコン層を貫通することはない。そのため、初期のステップ群では、エッチングステップ(S)において、エッチングステップ(y)を実施することなくエッチングステップ(x)のみを実施してもよい。例えば、凹部の深さが、シリコン層の厚さの0~90%の範囲に到達すると予想されるサイクル数までは、エッチングステップ(S)において、エッチングステップ(y)を実施することなくエッチングステップ(x)のみを実施してもよい。この構成によれば、処理時間を短縮するとともに、エッチングの終点を適切に判定できる。この構成においても、凹部がシリコン層を貫通すると予想されるステップ群では、エッチングステップ(S)において、エッチングステップ(x)およびエッチングステップ(y)が行われる。
【0032】
エッチング方法(EM)、後述する装置(D)、および後述する製造方法(PM)では、上記少なくとも1つのステップ(エッチングステップ(S))において、エッチングステップ(y)の後にエッチングステップ(x)が行われてもよいし、エッチングステップ(x)の後にエッチングステップ(y)が行われてもよい。
【0033】
典型的には、1回のエッチングステップ(S)は、1回のエッチングステップ(x)と1回のエッチングステップ(y)とで構成される。ただし、1回のエッチングステップ(S)は、複数回のエッチングステップ(x)を含んでもよいし、複数回のエッチングステップ(y)を含んでもよい。いずれの場合でも、エッチングステップ(x)とエッチングステップ(y)とは交互に行われる。
【0034】
エッチング方法(EM)、装置(D)、および製造方法(PM)において、上記判定は、エッチングステップ(y)におけるプラズマの発光強度に基づいて行われてもよい。上述したように、この構成によれば、終点検出をより正確に実施できる。エッチングステップ(y)の後にエッチングステップ(x)を行い、且つ、エッチングステップ(y)において上記判定を行うことによって、過剰なエッチングが行われることを抑制できる。あるいは、上記判定は、エッチングステップ(x)におけるプラズマの発光強度と、エッチングステップ(y)におけるプラズマの発光強度の両方に基づいて行われてもよい。
【0035】
保護膜形成ステップにおいてシリコン層のエッチングが完了する場合よりも、シリコン層エッチングステップにおいてシリコン層のエッチングが完了する場合の方が多い。そのため、エッチング方法(EM)、装置(D)、および製造方法(PM)において、少なくとも1つのエッチングステップ(S)は、シリコン層エッチングステップを含むことが好ましく、シリコン層エッチングステップであってもよい。
【0036】
エッチング方法(EM)、装置(D)、および製造方法(PM)において、以下の(a)および(b)のいずれか一方または両方が満たされてもよい。
(a)シリコン層エッチングステップにおいて、SF6ガスを含むエッチングガスが用いられる。
(b)上記判定が、プラズマ中のSiおよび/またはSiFxの発光強度に基づいて行われる。
【0037】
エッチング方法(EM)、装置(D)、および製造方法(PM)において、凹部の開口率は40%以下(例えば、10%以下、5%以下、または1%以下)であってもよい。開口率の下限値に特に限定はないが、開口率は0.5%以上であってもよい。この明細書において、開口率とは、シリコン層の表面(凹部が形成される表面)の面積のうち凹部の開口部の面積が占める割合を意味する。開口率が小さい場合、凹部がシリコン層を貫通したか否かの判定(終点の検出)が特に難しくなる。そのため、開口率が1%以下である場合には、本開示の方法は特に有効である。
【0038】
(プラズマエッチング装置)
本開示の装置は、プラズマエッチング装置である。以下では、本開示のプラズマエッチング装置を、装置(D)と称する場合がある。装置(D)では、上述したエッチング方法(EM)が実行される。エッチング方法(EM)について説明した事項は装置(D)に適用できるため、重複する説明を省略する。また、装置(D)について説明した事項は、エッチング方法に適用できる。
【0039】
装置(D)は、内部に基板が配置されるチャンバであってガス導入口を有するチャンバと、チャンバ内でプラズマを生成させるための電極と、プラズマの発光強度を測定するための光測定部と、制御部とを含む。さらに、装置(D)は、エッチングを実行するために必要な構成要素をさらに含む。装置(D)が含んでもよい構成要素の例には、プラズマの生成に必要な高周波電源、チャンバ内を減圧するための減圧装置、チャンバに導入されるガスの流量をコントロールするためのマスフローコントローラなどが含まれる。
【0040】
制御部は、プラズマを用いたプラズマエッチングによって、シリコン層を含む基板をエッチングする際に、シリコン層を貫通するまでシリコン層の一部をエッチングするエッチング工程を実行する。当該エッチング工程は、上述したエッチング工程(E)と同様の工程であるため、以下では、エッチング工程(E)と称する場合がある。上述したように、エッチング工程(E)は、シリコン層エッチングステップと、保護膜形成ステップと、前保護膜エッチングステップと、をこの順に含むステップ群を繰り返すことによって行われる。すなわち、制御部は、このようなエッチング工程(E)が実行されるように制御を行う。
【0041】
上述したように、シリコン層エッチングステップおよび保護膜エッチングステップからなる群より選択される少なくとも1つのエッチングステップ(S)は、エッチングステップ(x)と、エッチングステップ(y)と、を含む。そして、制御部は、凹部がシリコン層を貫通してシリコン層のエッチングが完了したか否かの判定を、エッチングステップ(S)におけるプラズマの発光強度に基づいて行う。装置(D)によれば、エッチング方法(EM)について説明した効果と同様の効果が得られる。
【0042】
制御部は、演算処理装置と記憶装置とを含む。演算処理装置および記憶装置には、公知のものを適用することが可能である。ただし、記憶装置には、装置(D)を制御して各工程を実施するためのプログラムと、上記判定を行うためのプログラムとが格納される。
【0043】
制御部以外の構成要素には、公知のプラズマエッチング装置の構成要素を用いることができる。例えば、プラズマの発光強度を測定する測定部には、公知の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP発光分光分析装置)に用いられている測定機器と同様の機器を用いることができる。
【0044】
(素子チップの製造方法)
本開示の製造方法は、素子チップの製造方法であり、シリコン層を含む基板を用いた製造方法である。当該製造方法を、以下では「製造方法(PM)」と称する場合がある。製造方法(PM)は、上述したエッチング方法(EM)を用いて実施できる。エッチング方法(EM)について説明した事項は製造方法(PM)に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、製造方法(PM)について説明した事項は、エッチング方法(EM)に適用できる。
【0045】
製造方法(PM)は、プラズマを用いたプラズマエッチングによって、シリコン層を貫通するまでシリコン層の一部をエッチングするエッチング工程を含む。当該エッチング工程は、上述したエッチング工程(E)と同様の工程であるため、以下では、エッチング工程(E)と称する場合がある。上述したように、エッチング工程(E)は、シリコン層エッチングステップと、保護膜形成ステップと、保護膜エッチングステップと、をこの順に含むステップ群を繰り返すことによって行われる。
【0046】
上述したように、シリコン層エッチングステップおよび保護膜エッチングステップからなる群より選択される少なくとも1つのエッチングステップ(S)は、エッチングステップ(x)とエッチングステップ(y)とを含む。そして、凹部がシリコン層を貫通してシリコン層のエッチングが完了したか否かの判定が、エッチングステップ(S)におけるプラズマの発光強度に基づいて行われる。製造方法(PM)によれば、エッチング方法(EM)について説明した効果と同様の効果が得られる。
【0047】
製造方法(PM)で用いられる基板の一例は、シリコン層とシリコン層上に形成された素子領域層とを含む。素子領域層は、複数の素子領域を含む。それぞれの素子領域は、1つの素子チップに含まれる素子領域に対応している。それぞれの素子領域が分断されるようにシリコン層を分断することによって、素子チップを得ることができる。シリコン層の分断は、上述したエッチング工程(E)によって行われる。
【0048】
基板は、シリコン層と素子領域層以外の層を含んでもよい。例えば、基板は、配線層などを含んでもよい。基板を分断する場合、シリコン層以外の層は、エッチング工程(E)以外のエッチング工程によって除去してもよい。
【0049】
以下では、本開示に係る実施形態の例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する方法および装置の構成要素には、上述した構成要素を適用できる。また、以下で説明する方法および装置は、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する実施形態において、本開示の方法および装置に必須ではない構成要素は省略してもよい。
【0050】
(実施形態1)
【0051】
実施形態1では、本開示に係るエッチング方法(EM)、装置(D)、および素子チップの製造方法(PM)の一例について説明する。
【0052】
実施形態1で用いられる装置の一例を
図1に示す。実施形態1の装置100は、チャンバ110、第1電極121、第1高周波電源122、第1整合回路123、基板ステージ131、第2高周波電源132、第2整合回路133、減圧装置141、ガス流量制御部150、光測定部161、制御部170、および圧力計(図示せず)を含む。制御部170は、制御が必要な機器に接続され、プラズマエッチングに必要な制御を行う。
図1では、制御部170と機器の接続の一部の図示を省略している。装置100に含まれる機器には、公知の機器を適用することが可能であるため、詳細な説明は省略する。また、本発明の方法が実施できる限り、これらの機器および構成(配置を含む)を変更することが可能である。
【0053】
チャンバ110は、内部を減圧状態に保つことが可能なチャンバである。チャンバ110は、ガス導入口110a、ガス排気口110b、誘電体窓111、および観察窓112を含む。誘電体窓111は、誘電体(例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、石英など)で形成されている。誘電体窓111に隣接して第1電極121が配置されている。観察窓112は、光測定部161で検出される光を透過させる。観察窓112は、石英ガラスなどで形成されてもよい。
【0054】
基板ステージ131には、装置100で処理される基板10が配置される。基板ステージ131は、第2高周波電源132に接続されており、バイアス電圧を印加するための第2電極としても機能する。
【0055】
減圧装置141は、ガス排気口110bに接続されており、チャンバ110内を減圧する。減圧装置141には、真空ポンプなどが用いられる。減圧装置141は、圧力調整バルブなどを含んでもよい。装置100は、チャンバ110内の圧力をモニタするための圧力計を含む。制御部170は、圧力計の出力に基づいて減圧装置141を制御し、チャンバ110内の圧力を調整する。
【0056】
ガス流量制御部150には、チャンバ110に供給されるガスの供給源201(例えばガスボンベ)が接続される。制御部170はガス流量制御部150を制御し、それぞれのガスの流量を調整する。ガス流量制御部150は、供給されるそれぞれのガスの流路に配置されたマスフローコントローラ(MFC)を含む。供給源201から供給されるガスは、ガス流量制御部150およびガス導入口110aを通ってチャンバ110内に導入される。
図1は、ガスが3種類の場合の装置の一例を示している。
【0057】
光測定部161は、チャンバ110内のプラズマ中の所定の波長の光の強度を、観察窓112を介して測定する。光測定部161の測定結果は、制御部170に出力される。
【0058】
チャンバ110は、基板10の搬入および搬出をするための機構(例えば開閉機構)を含む(図示せず)。装置100を用いてプラズマエッチングを行う場合、まず、基板ステージ131上に基板10が配置される。次に、減圧装置141によってチャンバ110内を減圧するとともに、ガス供給源201から所定のガスがチャンバ110内に導入される。このとき、上述したように、チャンバ110内の圧力が、所望の圧力に調整される。
【0059】
次に、第1高周波電源122によって第1電極121に高周波電力を印加することによって、チャンバ110内にプラズマを生成させる。基板10は生成したプラズマに曝され、プラズマエッチングまたは膜の形成が行われる。このとき、必要に応じて、第2高周波電源132によってバイアス電圧が印加される。
【0060】
(プラズマエッチング方法の一例)
本開示に係るプラズマエッチング方法の一例について、以下に説明する。以下では、
図1に示した装置100を用いる場合の一例について説明するが、装置100以外の装置を用いてもよい。また、以下では、基板10が、シリコン層(シリコン基板)11と素子層12とを含む場合について説明するが、他の基板を用いてもよい。
【0061】
まず、基板10をチャンバ110内に搬入し、基板ステージ131上に配置する。基板10の断面図を
図2Aに示す。基板10は、シリコン層11と、シリコン層11上に配置された素子層12とを含む。換言すれば、基板10は、シリコン層11と、基板10の一主面10a側に配置された素子層12とを含む。
【0062】
シリコン層11は、一主面10a側からエッチングしてもよいし、一主面10aとは反対側の一主面10b側からエッチングしてもよい。この一例では、一主面10a側からエッチングする一例について説明する。さらに、この一例では、基板10の一主面10bが、基板保持用の保持シート31に固定されている一例について説明する。保持シート31は、例えば、ダイシングテープやダイアタッチフィルムなどであってもよい。
【0063】
基板10は、ストリートStと、ストリートStによって画定される複数の素子領域EAとに区画されている。基板10のストリートStの部分を除去して基板10を分割することによって、それぞれが素子層12を含む複数の素子チップが得られる。ストリートStは、例えば格子状に配置されている。
【0064】
素子層12は、素子チップが素子として機能するために必要な層である。素子層12は、例えば、半導体部、導電部、絶縁部などの少なくとも1つを含む。半導体部の例には、ドープされたシリコン層やドープされていないシリコン層が含まれる。導電部の例には、金属層などが含まれる。絶縁部には、絶縁層などが含まれる。素子層12の構成および材料に特に限定はなく、製造される素子チップに応じて選択される。これらの構成および材料には、公知の構成および材料を適用してもよい。
【0065】
基板10の一主面10a(プラズマに曝される側の主面)上には、マスク15が形成されている。マスク15は、ストリートStに対応する部分に開口部15hを有する。開口部15hはマスク15を貫通しており、開口部15hの部分で基板10が露出している。マスク15に特に限定はなく、ボッシュプロセスで用いられる公知のマスクを用いてもよい。所定の開口部15hを有するマスクは、フォトリソグラフィーなどの公知の方法によって形成できる。なお、シリコン層11は、素子層12側が形成されている側とは反対の側からエッチングすることも可能である。その場合、マスク15は、素子層12側とは反対側の面に形成される。
【0066】
開口部15hの大きさによって開口率が変化する。開口率は上述した範囲にある。ストリートStの幅は、例えば5μm~200μmの範囲にあってもよい。
【0067】
開口部15hの部分において基板10を深掘りすることによって、基板10を分割する。まず、開口部15hの部分の素子層12をプラズマエッチング等によって除去し、開口部15hの部分のシリコン層11を露出させる。
図2Aには、開口部15hの部分の素子層12が除去された後の基板10を示す。素子層12の除去の方法に特に限定はなく、素子層12の構成に応じて公知の方法で除去すればよい。なお、開口部15hの素子層12を除去した基板10を準備して、当該基板10を装置100で処理してもよい。
【0068】
次に、シリコン層11を貫通するまでシリコン層11の一部をエッチングする(エッチング工程(E))。具体的には、以下の手順によって、シリコン層11のうち、ストリートStの部分をエッチングによって除去する。エッチング工程(E)における主要な工程を、
図3に示す。
【0069】
(シリコン層エッチングステップ)
シリコン層エッチングステップ(エッチングステップ(x)および(y))では、
図2Bに示すように、シリコン層11の一部(ストリートStの部分)をプラズマエッチングすることによって、シリコン層11に凹部11vを形成する(ステップS501)。シリコン層エッチングステップは、エッチングガスがチャンバ110内に導入された状態で行われる。エッチングガスおよびエッチング条件としては、ボッシュプロセスにおいて、シリコン層のエッチングに用いられるエッチングガスおよびエッチング条件を適用してもよい。エッチングガスの好ましい一例は、フッ素含有ガスを含む。フッ素含有ガスの例には、CF
4、CHF
3、XeF
2、XeF
6、フッ化硫黄ガスなどが含まれる。フッ化硫黄ガスの例には、六フッ化硫黄ガス(SF
6)などが含まれる。これらのガスは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよいし、希釈用のガスで希釈されてもよい。シリコン層エッチングステップでは、シリコン層11が概ね等方的にエッチングされる(等方性エッチング)。
【0070】
図3に示すように、この一例では、シリコン層エッチングステップ(ステップS501)は、エッチングステップ(y)(ステップS501a)と、エッチングステップ(x)(ステップS501b)とをこの順に含む。また、この一例では、エッチングステップ(y)において、エッチングの終点検出を行う。
【0071】
図3に示すように、エッチングステップ(y)によるエッチングステップ(ステップS501a)が行われる。ステップS601において、凹部11vがシリコン層11を貫通してシリコン層11のエッチングが完了したと判定される(終点が検出される)と、エッチング工程(E)は終了する。終点が検出されなかった場合には、ステップ602において、所定の時間だけエッチングステップ(y)が行われたかどうかが判定される。所定の時間だけエッチングステップ(y)が行われていなければエッチングステップ(y)が続けられる。ステップS601では、光測定部161で測定された所定の波長の光強度に基づいて、終点が検出されたか否かを判定する。
【0072】
上述したように、エッチングステップ(x)およびエッチングステップ(y)の両方においてエッチングの終点検出を行ってもよい。その場合、エッチングステップ(x)の後にもステップS601およびステップS602が行われる。
【0073】
エッチングステップ(y)では、エッチングステップ(x)で印加される高周波電力HPxよりも小さい高周波電力HPyをプラズマ生成用の電極(第1電極121)に印加することによってプラズマを生成させてプラズマエッチングを行う。そのため、エッチングステップ(y)では、シリコン層11のエッチング速度が、エッチングステップ(x)よりも遅くなる。
【0074】
ステップS601において終点が検出されていないと判定され、ステップS602においてエッチングステップ(y)が所定の時間だけ行われたと判定されると、次に、所定の時間だけエッチングステップ(x)が行われる(ステップS501b)。
【0075】
(保護膜形成ステップ)
次に、
図2Cに示すように、凹部11vの内側(内側表面)に保護膜21を形成する(保護膜形成ステップ:ステップS502)。保護膜21は、凹部11vにおいて露出しているシリコン層11の表面を覆うように形成される。
図2Cに示すように、保護膜21は、開口部15hの下方において露出している素子層12の端面を覆ってもよい。これによって、素子層12を保護できる。さらに、保護膜21は、開口部15hにおいて露出しているマスク15の端面を覆ってもよい。保護膜21は、マスク15の表面を覆ってもよい。
【0076】
保護膜21は、チャンバ110内に保護膜形成ガス(保護膜形成用のガス)を導入した状態でプラズマを生成することによって形成できる。保護膜の形成は、公知のボッシュプロセスにおける保護膜の形成と同様の条件で形成してもよい。
【0077】
保護膜形成ガスには、ボッシュプロセスなどにおいて保護膜の形成に使用される公知のガスを使用してもよい。保護膜形成ガスは、好ましくは、フッ化炭素を含む。フッ化炭素の例には、オクタフルオロシクロブタン(C4F8)、オクタフルオロシクロペンテン(C5F8)などのフッ素化脂環族炭化水素、ジフルオロメタン(CH2F2)などが含まれる。保護膜形成ガスは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
(保護膜エッチングステップ)
次に、
図2Dに示すように、凹部11vの底部に存在する保護膜21をプラズマエッチングによって除去し、保護膜21に貫通孔21hを形成する(保護膜エッチングステップ:ステップS503)。このエッチングによって、凹部11vの底部において、シリコン層11が露出する。
【0079】
保護膜のエッチングは、チャンバ110内に保護膜エッチング用のエッチングガスを導入した状態でプラズマを生成することによってエッチングできる。保護膜は、公知のボッシュプロセスにおける保護膜のエッチングと同様の条件でエッチングしてもよい。
【0080】
保護膜21のエッチングは、通常、第2電極(基板ステージ131)にバイアス電圧を印加した状態で行われる。すなわち、保護膜21のエッチングは、通常、異方性エッチングで行われ、それによって、凹部11vの底部に存在する保護膜21が選択的に除去される。
【0081】
エッチングガスとしては、ボッシュプロセスなどにおいて保護膜のエッチングに用いられる公知のエッチングガスを用いてもよい。具体的には、シリコン層エッチングステップの説明において例示したエッチングガスを用いてもよい。
【0082】
以上のようにして、シリコン層エッチングステップ、保護膜形成ステップ、および保護膜エッチングステップからなるステップ群が実施される。1つのステップ群が終了した後は、シリコン層11の除去が完了したと判定されるまで、ステップ群が繰り返し実施される。具体的には、
図2Dの工程の後に、シリコン層エッチングステップを行って、
図2Eに示すように凹部11vを深くする。次に、保護膜形成ステップと保護膜エッチングステップとを行って、
図2Fに示す状態の基板10が得られる。
【0083】
ステップ群を繰り返し実施することによって、
図2Gに示すように、凹部11vがシリコン層11を貫通して貫通溝11hが形成される。その結果、基板10が素子チップ10xごとに分断される。一例では、凹部11vがシリコン層11を貫通して概ね垂直な貫通溝11hが形成された時点をエッチングの終点とする。
【0084】
その後は、必要に応じて、マスク15をプラズマアッシングなどによって除去する。そして、保持シート31から素子チップ10xを分離する。このようにして、複数の素子チップ10xが製造される。
【0085】
この一例では、シリコン層エッチングステップにおけるプラズマの発光強度から、凹部11vがシリコン層11を貫通したかどうかを判定する。凹部11vがシリコン層11を貫通していない場合、シリコン層がエッチングされることによって、Siを含む生成物(Si含有生成物)が生成する。Si含有生成物の例には、SiおよびSiFx(Xは、1~4の自然数)が含まれる。SiおよびSiFxなどのSi含有生成物は、プラズマ中で励起されて発光する。これらの発光の発光強度を測定することによって、エッチングによって発生するSiを含む生成物の量を推測することができる。すなわち、プラズマ中の所定の波長の発光(Si含有生成物の発光)の強度を測定することによって、凹部11vがシリコン層11を貫通したか否かを判定することが可能である。プラズマ中で励起されたSiFx(フッ化ケイ素ラジカル)は、435~445nmの範囲に発光ピークを有する。従って、これらの波長範囲における発光強度(例えば、これらの波長範囲に存在するいずれかの発光ピークのピーク波長における発光強度)を測定してもよい。以下では、エッチングの終点の検出のために測定を行う発光強度の波長を、「測定波長λ」と称する場合がある。
【0086】
凹部11vがシリコン層11を貫通して基板10の一主面10bに到達すると、単位時間あたりにエッチングされるシリコン層11の量が減るために、Si含有生成物の発光強度が低下する。その後、さらにエッチングを続けると、概ね垂直な貫通溝11hが形成される。貫通溝11hが形成された後にさらにエッチングを続けると、貫通溝11hの底部においてシリコン層11の側壁がエッチングされて(
図2G参照)、Si含有生成物の発光強度が再び増加する場合がある。この発光強度の変化をモニタすることによって、エッチングの終点を適切に判定することができる。上述したように、発光強度のどのような変化をエッチングの終点を示す変化であるとするかは、基板10の構造やエッチングの条件によって決定すればよい。
【0087】
シリコン層11がエッチングの終点を超えて過剰にエッチングされると、
図2Gに示すように、貫通溝11hの底部の側面がエッチングされてノッチング11nと呼ばれる形状異常が生じる。ノッチング11nが大きくなりすぎることは素子チップとしては好ましくない場合がある。また、貫通溝11hが形成された後もエッチングを続けることはタイムロスとなる。そのため、エッチングの終点を適切に判定することが重要である。
【0088】
シリコン層エッチングステップは、エッチングステップ(y)と、エッチングステップ(x)とを含む。エッチングステップ(y)では、シリコン層11のエッチング速度が遅いため、ノッチング11nが大きくなりすぎることを防止できる。また、エッチングステップ(y)では、測定波長λにおけるSi含有生成物の発光強度が、測定波長λにおけるSi含有生成物以外の物質に由来する発光強度(ノイズとなる発光強度)に対して比率が大きくなる。そのため、エッチングステップ(y)では、エッチングの終点を適切に判定しやすくなる。これらの効果は、エッチングステップ(x)とエッチングステップ(y)との順序に関わらず得られる。また、保護膜エッチングステップでも、保護膜21がエッチングされた後はシリコン層11がエッチングされる。そのため、保護膜エッチングステップが、エッチングステップ(x)とエッチングステップ(y)とを含む場合にも、上記の効果が得られる。
【0089】
波長440nmの発光強度を測定してエッチングの終点を判定した一例について以下に説明する。この一例では、エッチングステップ(x)とエッチングステップ(y)とを含むシリコン層エッチングステップによってシリコン層(シリコン基板)をエッチングした。
【0090】
この一例では、直径6インチのシリコン基板(厚さ450μm)をエッチング方法(EM)によって分断した。開口幅(ストリートStの幅)は30μmとし、開口率は0.5%とした。マスクにはフォトレジストを用いた。シリコン層エッチングステップでは、エッチングガスとしてSF6(流量600sccm)を用いた。エッチング時のチャンバ内の圧力は15Paとした。プラズマを生成するために第1電極に印加する電力は、エッチングステップ(x)では4800Wとし、エッチングステップ(y)では2400Wとした。また、シリコン層エッチングステップにおいて第2電極に印加する電力は20Wとした。エッチングステップ(x)の時間は2.2秒とし、エッチングステップ(y)の時間は7.0秒とした。
【0091】
上記のシリコン層エッチングステップにおいて440nmにおける発光強度を測定した結果を
図4に示す。
図4における1サイクルは、1つのエッチングステップ(x)と1つのエッチングステップ(y)とからなる。それらのサイクルの間には、保護膜形成ステップと保護膜エッチングステップとが行われる。
図4のグラフ中の1つの点は、エッチングステップ(y)におけるSi含有生成物に由来する発光強度の値を示す。なお、上記Si含有生成物に由来する発光強度の値とは、波長440nmの発光強度から波長440nmのSi含有生成物以外の物質に由来する発光強度(ノイズとなる発光強度)を解析的に差し引いた値である。なお、基板の場所によってエッチング速度にばらつきがあるため、凹部がシリコン基板を貫通するタイミングにはばらつきがある。そのため、測定される発光強度は、そのばらつきを反映している。
【0092】
440nmにおける発光強度は、6サイクルまではほぼ一定であるが、7サイクル以降は減少する。これは、少なくとも一部の凹部11vが一主面10bに到達したことによると考えられる。その後、発光強度は15サイクルから増加している。これは、少なくとも一部の貫通溝11hの側面がエッチングされ始めたためであると考えられる。
図4に示す一例では、15サイクルの時点でエッチングの終点であると判定することが可能である。このように、本開示の方法によれば、エッチングの終点の判定を正確に判定することが容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本開示は、プラズマエッチング方法、プラズマエッチング装置、および素子チップの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0094】
10 :基板
10x :素子チップ
11 :シリコン層
11h :貫通溝
11v :凹部
12 :素子層
15 :マスク
15h :開口部
21 :保護膜
100 :装置
110 :チャンバ
110a :ガス導入口
141 :減圧装置
150 :ガス流量制御部
161 :光測定部
170 :制御部