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  • 特許-非水電解質二次電池 図1
  • 特許-非水電解質二次電池 図2A
  • 特許-非水電解質二次電池 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20241101BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241101BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241101BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M4/525
H01M4/587
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021542649
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028818
(87)【国際公開番号】W WO2021039240
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019158487
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019161310
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝尻 学
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
【審査官】岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-165388(JP,A)
【文献】特開2019-033074(JP,A)
【文献】特表2014-505992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 4/525
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池において、
前記正極は、Liを除く金属元素の総モル数に対して85モル%以上のNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記負極は、内部空隙率が1~5%の黒鉛粒子を含み、
前記正極の充電容量をP、前記負極の充電容量をNとしたとき、N/P比が1.00~1.05であり、
電池電圧4.0Vから充電終止電圧までの電圧範囲における電池容量(Q)の最大変化量(dQ/dV(cf))と、電池電圧3.8Vから4.0Vの電圧範囲における電池容量(Q)の最大変化量(dQ/dV(cm))とが、
【数1】
の関係を満たす、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記黒鉛粒子は、窒素吸着等温線からDFT法により求めた細孔径が2nm以下である細孔の質量当たりの体積が0.3mm/g以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記黒鉛粒子のBET比表面積は0.5m/g以上である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記充電終止電圧は、4.15V以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関し、特に正極活物質として、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物が、高エネルギー密度の正極活物質として注目されている。例えば、特許文献1には、正極活物質として、一般式LiNiCoAl(x+y+z=1、0.05≦y≦0.4、0.01≦z≦0.09)で表される層状岩塩構造リチウムニッケル複合酸化物を用い、正極における活物質密度が2.3~3.0g/cmである非水電解質二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-216965号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、正極活物質にNi含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた場合、Ni含有量の少ない複合酸化物と比べて充電時のLiの引き抜き量が多くなるため、複合酸化物の層状構造が不安定になり、充放電に伴う電池容量の低下が起こり易い。なお、特許文献1に開示された技術では、Liの引き抜きに伴う複合酸化物の構造劣化を十分に抑制できず、充放電サイクル特性(耐久性)について未だ改良の余地がある。
【0005】
本開示の目的は、正極活物質としてNi含有量が多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、充放電サイクル特性を改善することである。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備え、前記正極は、Liを除く金属元素の総モル数に対して85モル%以上のNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記負極は、内部空隙率が1~5%の黒鉛粒子を含み、前記正極の充電容量をP、前記負極の充電容量をNとしたとき、N/P比が1.00~1.05であり、電池電圧4.0Vから充電終止電圧までの電圧範囲における電池容量(Q)の最大変化量(dQ/dV(cf))と、電池電圧3.8Vから4.0Vの電圧範囲における電池容量(Q)の最大変化量(dQ/dV(cm))が、式1の関係を満たす。
【0007】
【数1】
【0008】
本開示の一態様によれば、Ni含有量が多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、充放電に伴う容量低下を抑制することができる。本開示に係る非水電解質二次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性(耐久性)に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図2A】実施例の非水電解質二次電池において、0.05It充電カーブから算出した、電池電圧(V)と単位体積当たりの電池容量(Q)の変化量(dQ/dV)の関係を示す図である。
図2B】比較例の非水電解質二次電池において、0.05It充電カーブから算出した、電池電圧(V)と単位体積当たりの電池容量(Q)の変化量(dQ/dV)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述のように、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物は、電池のエネルギー密度の向上に寄与するが、充電時のLiの引き抜き量が多いため、充放電を繰り返すと複合酸化物の層状構造が崩れて不安定になり、これに起因して電池容量(耐久性)が低下すると考えられる。複合酸化物の劣化を抑制する方法として、充電終止電圧を下げることが考えられるが、この場合、負極の劣化が問題となり、電池の耐久性が十分に改善されない。
【0011】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、負極活物質として内部空隙率が1~5%の黒鉛粒子を用いると共に、正極の充電容量Pと負極の充電容量Nの比率を1.00~1.05とし、上記式1の条件を満たすことにより、電池の耐久性が大きく改善されることを見出した。以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0012】
以下では、巻回型の電極体14が有底円筒形状の外装缶16に収容された円筒形電池を例示するが、外装体は円筒形の外装缶に限定されず、例えば角形の外装缶であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体であってもよい。また、電極体は、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層された積層型の電極体であってもよい。なお、本明細書において「数値(A)~数値(B)」との記載は、数値(A)以上、数値(B)以下であることを意味する。
【0013】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14及び電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11、負極12、及びセパレータ13を有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された巻回構造を有する。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、電池の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0014】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0015】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11よりも長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。電極体14は、溶接等により正極11に接続された正極リード20と、溶接等により負極12に接続された負極リード21とを有する。
【0016】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。図1に示す例では、正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の内部端子板23の下面に溶接等で接続され、内部端子板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0017】
外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部22と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0018】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0019】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について、特に正極11を構成する正極活物質、負極12を構成する負極活物質について詳説する。また、電池の充電制御について詳説する。
【0020】
[正極]
正極11は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、結着材、及び導電材を含み、正極リード20が接続される部分を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極芯体の表面に正極活物質、結着材、及び導電材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0021】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0022】
正極11は、Liを除く金属元素の総モル数に対して85モル%以上のNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む。以下、説明の便宜上、当該リチウム遷移金属複合酸化物を「複合酸化物(Z)」とする。複合酸化物(Z)は、正極活物質として機能する。複合酸化物(Z)は、層状構造を有し、例えば空間群R-3mに属する層状構造、又は空間群C2/mに属する層状構造を有する。正極活物質は、複合酸化物(Z)を主成分とし、実質的に複合酸化物(Z)のみで構成されていてもよい。なお、正極活物質には、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物(Z)以外の複合酸化物、又はその他の化合物が含まれてもよい。
【0023】
複合酸化物(Z)は、上記の通り、Liを除く金属元素の総モル数に対して85モル%以上のNiを含有する。Niの含有量を85モル%以上とすることで、高エネルギー密度の電池が得られる。Niの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して86モル%以上であってもよく、又は90モル%以上であってもよい。Ni含有量の上限値は特に限定されないが、好ましくはLiを除く金属元素の総モル数に対して97モル%、より好ましくは95モル%である。
【0024】
複合酸化物(Z)は、Li、Ni以外の金属元素を含有していてもよい。当該金属元素としては、Co、Mn、Al、Zr、B、Mg、Fe、Cu、Zn、Sn、Na、K、Ba、Sr、Ca、W、Mo、Si、Nb、Sr等が例示できる。複合酸化物(Z)は、少なくともLi、Niの他に、Alを含有することが好ましく、Mn及びNbから選択される少なくとも1種をさらに含有することがより好ましい。Alは充放電時に酸化数が変化せず、複合酸化物(Z)の層状構造を安定化させる。また、Nbも同様に、複合酸化物(Z)の層状構造を安定化させ、電池の耐久性改善に寄与する。
【0025】
複合酸化物(Z)がAlを含有する場合、Alの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して0.5~8.0モル%が好ましく、1.0~5.0モル%がより好ましい。複合酸化物(Z)がMnを含有する場合、Mnの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して10モル%以下が好ましい。また、複合酸化物(Z)がNbを含有する場合、Nbの含有量は、Liを除く金属元素の総モル数に対して1.0モル%以下が好ましい。複合酸化物(Z)はCoを含有していてもよい。Coの含有量は、遷移金属元素の総モル数に対して10モル%以下が好ましく、3モル%以下であってもよい。
【0026】
好適な複合酸化物(Z)の一例は、一般式LiNiCoAlMnNb(式中、0.8≦a≦1.2、0.85≦b<1、0≦c≦0.03、0≦d≦0.08、0≦e≦0.10、0≦f≦0.01、1≦g≦2)で表される複合酸化物である。複合酸化物(Z)を構成する元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、又はエネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0027】
複合酸化物(Z)は、例えば、複数の1次粒子が凝集してなる2次粒子である。1次粒子の粒径は、一般的に0.05μm~1μmである。複合酸化物(Z)の体積基準のメジアン径(D50)は、例えば3μm~30μm、好ましくは5μm~25μmである。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。複合酸化物(Z)の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0028】
[負極]
負極12は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを有する。負極芯体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含み、例えば負極リード21が接続される部分を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0029】
負極合材層に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0030】
負極12は、内部空隙率が1~5%の黒鉛粒子を含む。以下、説明の便宜上、当該黒鉛粒子を「黒鉛粒子(G)」とする。黒鉛粒子(G)は、負極活物質として機能する。内部空隙とは、粒子内部から粒子表面につながっていない閉じられた空隙を意味し、粒子内部から粒子表面につながっている外部空隙と区別される。負極活物質は、黒鉛粒子(G)を主成分とし、実質的に黒鉛粒子(G)のみで構成されていてもよい。なお、負極活物質には、本開示の目的を損なわない範囲で、内部空隙率が1%未満、又は5%を超える黒鉛粒子、或いはSi含有化合物等の黒鉛以外の化合物が含まれてもよい。
【0031】
黒鉛粒子(G)は、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれであってもよいが、内部空隙率の調整の観点から人造黒鉛であることが好ましい。黒鉛粒子30のD50は、例えば5μm~30μmであり、好ましくは10μm~25μmである。D50は、複合酸化物(Z)のD50と同様の方法で測定される。
【0032】
黒鉛粒子(G)の内部空隙率は、上記の通り1~5%であって、1.5%~4.5%がより好ましく、2.0~4.0%がより好ましい。内部空隙率が当該範囲内にある黒鉛粒子を用いることで、充放電に伴う正負極の材料劣化が抑制される。負極12には、粒径(走査型電子顕微鏡(SEM)画像における粒子の外接円の直径)が5μm~50μmの黒鉛粒子が含まれ、そのうちの50%以上、好ましくは80%以上、又は実質的に全ての粒子の内部空隙率が1~5%である。言い換えると、負極12に含まれる粒径が5μm~50μmの黒鉛粒子の少なくとも50%が黒鉛粒子(G)である。
【0033】
本明細書において、黒鉛粒子の内部空隙率とは、黒鉛粒子の断面積に対する黒鉛粒子の内部空隙の面積の割合を意味する。黒鉛粒子の内部空隙率の測定方法は、以下の通りである。
(1)イオンミリング装置(例えば、日立ハイテク社製、IM4000PLUS)等を用いて、負極合材層の断面を露出させる。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、露出させた負極合材層の断面の反射電子像を撮影する。反射電子像を撮影する際の倍率は、3000~5000倍である。
(3)負極合材層断面のSEM画像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフト(例えば、アメリカ国立衛生研究所製、ImageJ)を用いて2値化処理を行い、断面像内の粒子断面を黒色とし、粒子断面に存在する空隙を白色として変換した2値化処理画像を得る。
(4)2値化処理画像から、粒径が5μm~50μmの黒鉛粒子を選択し、当該黒鉛粒子断面の面積、及び当該黒鉛粒子断面に存在する内部空隙の面積を算出する。
【0034】
なお、黒鉛粒子断面に存在する空隙のうち幅が3μm以下の空隙については、画像解析上、内部空隙か外部空隙かの判別が困難となる場合があるため、幅が3μm以下の空隙は内部空隙としてもよい。黒鉛粒子の内部空隙率は、粒子10個の平均値とする。
【0035】
黒鉛粒子(G)は、窒素吸着等温線からDFT法(Density Functional Theory:密度汎関数理論)により求めた細孔径が2nm以下である細孔の質量当たりの体積が0.3mm/g以下であることが好ましい。この場合、電解質との副反応が抑制され、電池の耐久性がさらに向上すると考えられる。黒鉛粒子(G)の当該体積は、0.2mm/g以下がより好ましく、0.1mm/g以下が特に好ましい。当該体積の下限値は特に限定されず、検出限界以下であってもよいが、好ましくは0.005mm/g以上である。
【0036】
黒鉛粒子(G)の上記体積は、黒鉛粒子(G)の窒素吸着等温線からDFT法を用いて行う公知の方法で求めればよく、例えば、比表面積測定装置(株式会社カンタクローム・インスツルメンツ製、autosorb iQ-MP)を用いて測定できる。具体的には、予め、様々な細孔の孔径に対応する吸着等温線をシミュレーションによって算出し、次に、窒素ガスを用いて黒鉛粒子の吸着等温線を求め、得られた吸着等温線を解析してシミュレーションにより算出された吸着等温線の重ね合わせを行う。これにより、各細孔における質量当たりの体積が算出されるので、その算出結果に基づき、細孔径が2nm以下である細孔の質量当たりの体積を求めることができる。
【0037】
黒鉛粒子(G)は、BET比表面積が0.3m/g以上であることが好ましく、0.5m/g以上であることがより好ましい。この場合、充放電に伴ってリチウムイオンが挿入脱離する黒鉛結晶のエッジ面が露出し、負荷特性(レート特性)が向上すると考えられる。黒鉛粒子(G)のBET比表面積の上限値は特に限定されないが、電解質との副反応の抑制等の観点から、2m/g以下が好ましく、1.5m/g以下がより好ましい。黒鉛粒子(G)のBET比表面積は、従来公知の比表面積測定装置(例えば、株式会社マウンテック製、Macsorb(登録商標)HM model-1201)を用いて、BET法により測定される。
【0038】
黒鉛粒子(G)は、例えば、主原料となるコークス(前駆体)を所定サイズに粉砕した粉砕物を結着材を用いて凝集させ、その状態で焼成して黒鉛化し、篩い分けすることにより作製できる。熱処理の温度は従来の黒鉛化処理の温度範囲内であればよく、例えば1800℃~3000℃であればよい。ここで、粉砕後の前駆体の粒径や凝集させた状態の前駆体の粒径等を制御することで、内部空隙率を1~5%に調整できる。例えば、粉砕後の前駆体のD50は12μm~20μmであることが好ましい。前駆体の粉砕には、ボールミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等を用いることができる。
【0039】
負極合材層は、負極活物質として、本実施形態に係る黒鉛粒子以外に、例えば、金属リチウム、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-鉛合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-スズ合金等のリチウム合金、2nm以下細孔体積が上記範囲内にある黒鉛粒子以外の黒鉛、コークス、有機物焼成体等の炭素材料、SnO、SnO、TiO等の金属酸化物等を含有していてもよい。充放電サイクル時の負極合材層の膨張及び収縮を抑制し、負極活物質上に形成される被膜の破壊を防止する観点から、本実施形態に係る黒鉛粒子が負極活物質の総量の50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上がより好ましい。
【0040】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータの表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【0041】
[充電容量・充電制御]
非水電解質二次電池10は、正極11の充電容量をP、負極12の充電容量をNとしたとき、1.00~1.05のN/P比を満たす。この場合、負極12におけるLiの析出を抑制しつつ、電池のエネルギー密度を高めることができる。N/P比は、正極活物質及び負極活物質の組成、物性、質量比等によって変動する。このため、上記N/P比を満たすように、複合酸化物(Z)及び黒鉛粒子(G)を用いて各活物質の組成、物性、質量比等を調整する必要がある。
【0042】
非水電解質二次電池10では、電池電圧4.0Vから充電終止電圧までの電圧範囲における電池容量の最大変化量(dQ/dV(cf))と、電池電圧3.8Vから4.0Vの電圧範囲における電池容量の最大変化量(dQ/dV(cm))とが、式1の関係を満たす。
【0043】
【数2】
【0044】
dQ/dVは、単位電圧当たりの電池容量Qの変化量を意味し、非水電解質二次電池10の充電カーブから算出される。正極活物質として複合酸化物(Z)を、負極活物質として黒鉛粒子(G)をそれぞれ用い、N/P比を1.00~1.05に調整し、かつ式1の関係を満たすことにより、電池の耐久性が大幅に改善される。
【0045】
非水電解質二次電池10の充電制御、特に充電終止電圧は、式1の関係を満たす上で重要である。式1の関係が満たされる限り、充電終止電圧は特に限定されないが、好ましくは4.15V以下、例えば4.00~4.15Vの範囲に設定される。また、強度比(cf/cm)は、充電終止電圧を4.15V以下に設定した場合でも、正極活物質及び負極活物質の組成、物性、質量比等によって大きく変動する。このため、式1の関係を満たすように、複合酸化物(Z)及び黒鉛粒子(G)を用いて各活物質の組成、物性、質量比等を調整する必要がある。
【0046】
図2A及び図2Bは、後述する実施例1及び比較例2の非水電解質二次電池において、電池電圧(V)とdQ/dVの関係を示す図である。図2A及び図2Bに示すように、非水電解質二次電池10では、例えば電池電圧4.0Vを超える電圧範囲、及び電池電圧3.8Vから4.0Vの電圧範囲に、dQ/dVのピークが表れる。この場合、電池電圧3.8Vから4.0Vの電圧範囲におけるピークトップの値が(dQ/dV(cm))である。そして、(dQ/dV(cf))が(dQ/dV(cm))以下となり、式1の関係が満たされるように、充電終止電圧が設定される。
【0047】
上記構成を備えた非水電解質二次電池10は、例えば、電池の充電を制御するように構成された充電制御装置と共に、電池システムを構成する。非水電解質二次電池10は、負荷に接続され、蓄えた電力を負荷に供給する。電池システムは、複数の非水電解質二次電池10が直列、並列、又は直並列接続された組電池(電池パック、又は電池モジュールとも呼ばれる)を備えていてもよい。充電制御装置は、電池モジュールに組み込まれていてもよく、非水電解質二次電池10が搭載される車両等の装置、設備の制御装置の一部として構成されていてもよい。
【0048】
充電制御装置は、例えば、電池監視ユニットから取得した電池の充電状態に基づいて電池の充電条件を決定する。充電制御装置は、整流回路を有し、電源の交流電力を所定の直流電力に変換して非水電解質二次電池10に供給してもよい。充電制御装置は、プロセッサ、メモリ、入出力インターフェイス等を備えるコンピュータで構成される。プロセッサは、例えばCPUまたはGPUで構成され、処理プログラムを読み出して実行することにより充電制御を行う。メモリは、ROM、HDD、SSD等の不揮発性メモリと、RAM等の揮発性メモリとを含む。処理プログラムは、不揮発性メモリに記憶されている。
【0049】
電池システムは、電池監視ユニットを備えていてもよい。電池監視ユニットは、例えば、非水電解質二次電池10に供給される充電電流、及び電池電圧を検出する。充電制御装置は、電池監視ユニットにより取得された電池電圧から充電率(SOC)を推定し、SOCに基づいて充電制御を実行する。充放電電流と充放電時間からSOCを推定することもできる。SOCの推定方法には、従来公知の手法を適用できる。
【実施例
【0050】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、LiNi0.91Co0.45Al0.45で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンを、98:1:1の固形分質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、正極合材スラリーを調製した。当該スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面にドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥した後、ローラにより塗膜を圧縮し、所定の電極サイズに切断して、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。なお、正極の一部に芯体表面が露出した露出部を設けてアルミニウム製の正極リードを取り付けた。
【0052】
[黒鉛粒子の作製]
コークスとピッチバインダーを粉砕混合したのち、1000℃で焼成、次いで3000℃で黒鉛化処理した。これをN雰囲気下でボールミルにより粉砕し、得られた粉末を分級して、上記方法により計測したD50が16μm、内部空隙率が2%の黒鉛粒子G1を得た。また、黒鉛粒子G1のBET比表面積は0.5m/g、DFT法により求めた細孔径が2nm以下である細孔の質量当たりの体積が0.1mm/gであった。
【0053】
[負極の作製]
負極活物質として、黒鉛粒子G1を用いた。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を、98:1:1の固形分質量比で水溶液中において混合し、負極合材スラリーを調製した。当該スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラを用いて塗膜を圧縮し、所定の電極サイズに切断して、負極芯体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。なお、負極の一部に負極芯体の表面が露出した露出部を設けてニッケル製の負極リードを取り付けた。
【0054】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)を、3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に対して、LiPFを1.2モル/リットルの濃度で溶解させて非水電解液を調製した。
【0055】
[非水電解質二次電池の作製]
上記正極と上記負極を、ポリエチレン製のセパレータを介して渦巻状に巻回することにより、巻回型の電極体を作製した。電極体の上下に絶縁板をそれぞれ配置し、負極リードを外装缶の底部内面に溶接し、正極リードを封口体に溶接して、電極体を外装缶内に収容した。その後、外装缶内に非水電解液を注入し、ガスケットを介して外装缶の開口を封口体で封止することにより、円筒形の非水電解質二次電池を作製した。
【0056】
実施例1の非水電解質二次電池では、N/P比を1.04、充電終止電圧を4.1V、強度比(cf/cm)を0.97に設定した。
【0057】
<比較例1>
黒鉛粒子G1の代わりに、下記の方法で作製した黒鉛粒子G2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0058】
[黒鉛粒子の作製]
コークスとピッチバインダーを粉砕混合したのち、1000℃で焼成、次いで3000℃で黒鉛化処理した。これを不活性雰囲気下でローラーミルにより粉砕し、得られた粉末を分級して、D50が17μm、内部空隙率が18%の黒鉛粒子G2を得た。また、黒鉛粒子G2のBET比表面積は0.3m/g、DFT法により求めた細孔径が2nm以下である細孔の質量当たりの体積が1.5mm/gであった。
【0059】
<比較例2>
N/P比を1.04、充電終止電圧を4.3V、強度比(cf/cm)を1.86に設定したこと以外、実施例1と同じ構成の非水電解質二次電池を作製した。
【0060】
[サイクル試験後の容量維持率(耐久性)の評価]
実施例及び比較例の各電池のそれぞれについて、45℃の温度環境下、0.5Itの定電流で充電終止電圧まで定電流充電を行い、充電終止電圧で電流値が1/50Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを800サイクル繰り返した。サイクル試験の1サイクル目の放電容量と、800サイクル目の放電容量を求め、下記式により容量維持率を算出した。評価結果は、リチウム遷移金属複合酸化物の組成、黒鉛粒子の内部空隙率、及び強度比(cf/cm)と共に表1に示す。
【0061】
容量維持率(%)=(800サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量)×100
図2A及び図2Bに、実施例1及び比較例2の各電池の0.05It充電カーブから算出した、電池電圧(V)と単位体積当たりの電池容量(Q)の変化量(dQ/dV)の関係を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示す結果から明らかであるように、実施例の電池は、比較例の電池と比べてサイクル試験後の容量維持率が高く、充放電サイクル特性(耐久性)に優れる。内部空隙率が5%を超える黒鉛粒子を用いた場合(比較例1)は良好な耐久性を確保することが困難であり、特に、強度比(cf/cm)が1を超える場合(比較例2)は耐久性が大きく低下する。
【符号の説明】
【0064】
10 非水電解質二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
16 外装缶
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 溝入部
23 内部端子板
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
図1
図2A
図2B