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特許7580070樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板
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  • 特許-樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/00 20060101AFI20241101BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20241101BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241101BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
C08F299/00
C08J5/24 CET
H05K1/03 610R
H05K1/03 610H
B32B15/08 Q
B32B15/08 105Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021537279
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029360
(87)【国際公開番号】W WO2021024923
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019145498
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100174827
【弁理士】
【氏名又は名称】治下 正志
(72)【発明者】
【氏名】幸田 征士
(72)【発明者】
【氏名】北井 佑季
(72)【発明者】
【氏名】和田 淳志
(72)【発明者】
【氏名】星野 泰範
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-262191(JP,A)
【文献】特開2018-168347(JP,A)
【文献】特開2018-039995(JP,A)
【文献】特開2011-068526(JP,A)
【文献】特開2016-147986(JP,A)
【文献】特開2012-104616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体と、
硬化剤と、
無機充填材とを含有し、
前記硬化剤が、分子中にアセナフチレン構造を有するアセナフチレン化合物を含み、
前記無機充填材が、シリカゾルに含まれるシリカの表面に存在するOH基を減らす表面処理を施したシリカであって、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下であるシリカを含むことを特徴とする樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、Zは、アリーレン基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記シリカの含有量が、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分100質量部に対して、10~400質量部である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(1)で表される構造単位が、下記式(2)で表される構造単位を含む請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、Rは、炭素数6~12のアリーレン基を示す。)
【請求項4】
前記式(2)で表される構造単位が、下記式(3)で表される構造単位を含む請求項3に記載の樹脂組成物。
【化3】

(式(3)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【請求項5】
前記重合体が、下記式(4)で表される構造単位を分子中にさらに有する重合体を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化4】

(式(4)中、R~R10は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、R11は、アリール基を示す。)
【請求項6】
前記式(4)で表される構造単位におけるアリール基が、炭素数1~6のアルキル基を有する請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記重合体の重量平均分子量が、1500~40000である請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記重合体の、前記式(1)で表され、R~Rが水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量が、250~1200である請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記重合体の含有量が、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分100質量部に対して、10~95質量部である請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基に末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物をさらに含有する請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記硬化剤の含有量は、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分100質量部に対して、5~50質量部である請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えるプリプレグ。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルム。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項12に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備える金属張積層板。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項12に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを備える配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器は、情報処理量の増大に伴い、搭載される半導体デバイスの高集積化、配線の高密度化、及び多層化等の実装技術が進展している。また、各種電子機器に用いられる配線板としては、例えば、車載用途におけるミリ波レーダ基板等の、高周波対応の配線板であることが求められる。各種電子機器において用いられる配線板には、信号の伝送速度を高めるために、信号伝送時の損失を低減させることが求められ、高周波対応の配線板には、特にそれが求められる。この要求を満たすためには、各種電子機器において用いられる配線板の基材を構成するための基材材料には、誘電率及び誘電正接が低いことが求められる。
【0003】
一方、基材材料等の成形材料には、低誘電特性に優れるだけではなく、耐熱性等に優れていることも求められている。このことから、基板材料に含有される樹脂を、硬化剤等とともに重合できるように変性させて、例えば、ビニル基等を導入させて、耐熱性を高めることが考えられる。
【0004】
このような基材材料としては、例えば、特許文献1に記載の組成物等が挙げられる。特許文献1には、分子内に不飽和結合を有するラジカル重合性化合物と、所定量の、金属酸化物を含む無機充填材と、所定量の、酸性基と塩基性基とを有する分散剤とを含み、前記金属酸化物の含有量が、前記無機充填材100質量部に対して、80質量部以上100質量部以下である硬化性組成物が記載されている。特許文献1によれば、誘電特性及び耐熱性に優れ、熱膨張率の小さい硬化物を好適に製造することができる硬化性組成物を得ることができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-56367号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の一局面は、分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体と、無機充填材とを含有し、前記無機充填材が、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下であるシリカを含む樹脂組成物である。
【0008】
【化1】
式(1)中、Zは、アリーレン基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0009】
また、本発明の他の一局面は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体と、シリカを含む無機充填材とを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物から抽出される前記無機充填材は、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下である樹脂組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、シリカの固体29Si-NMRスペクトルの一例を示す図面である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るプリプレグの一例を示す概略断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る金属張積層板の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る配線板の一例を示す概略断面図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る樹脂付き金属箔の一例を示す概略断面図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る樹脂付きフィルムの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者等は、特許文献1に記載されているような、誘電率及び誘電正接等の誘電特性が低い樹脂組成物を用いて得られた配線板は、信号伝送時の損失を低減させることができると考え、このことに着目した。そして、配線板における信号の伝送速度をより高め、さらに、配線板には、外部環境の変化等の影響を受けにくいことが求められることに着目した。例えば、温度が高い環境下でも配線板を用いることができるように、配線板の基材を構成するための基材材料には、耐熱性に優れた硬化物が得られることが求められる。また、湿度の高い環境下でも配線板を用いることができるように、配線板の基材には、吸水されたとしても、その低誘電特性が維持されることも求められる。このことから、配線板の基材を構成するための基材材料には、吸水による、誘電率や誘電正接等の上昇を充分に抑制した硬化物、すなわち、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られることが求められる。
【0012】
本発明者等は、種々検討した結果、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物を提供するといった上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。
【0013】
本発明者等は、得られた硬化物が、誘電特性が低く、その低い誘電特性を吸水処理後であっても維持するために、樹脂組成物に含有される成分に着目して検討した。本発明者等の検討によれば、この低誘電特性の維持等は、樹脂組成物に含有される無機充填材であるシリカに存在するシラノール基の量に影響されることを見出した。そこで、本発明者等は、種々検討した結果、無機充填材としてのシリカに存在するシラノール基の量に着目して、後述するような本発明を見出した。
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0015】
[樹脂組成物]
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体と、無機充填材とを含有し、前記無機充填材が、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下であるシリカを含む樹脂組成物である。
【0016】
【化2】
式(1)中、Zは、アリーレン基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0017】
前記シリカは、上述したように、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下である。すなわち、前記シリカに含まれるシラノール基を構成するSi原子が、前記シリカに含まれる全Si原子のうちの3%以下である。前記重合体を含む樹脂組成物に、上記のようなシラノール基が少ないシリカを無機充填材として含有させることによって、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。このことは、以下のことによると考えられる。
【0018】
まず、前記重合体を含む樹脂組成物を硬化して得られた硬化物は、耐熱性及び低誘電特性に優れると考えられる。また、前記樹脂組成物に含まれる無機充填材として、前記シリカを含む無機充填材を用いることによって、前記樹脂組成物の硬化物は、誘電特性が低く、その低い誘電特性を吸水処理後であっても好適に維持することができると考えられる。これらのことから、前記樹脂組成物は、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物であると考えられる。
【0019】
(重合体)
前記重合体は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体であれば、特に限定されない。また、前記重合体は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体であれば、前記式(1)で表される構造単位以外の構造単位を有していてもよい。また、前記重合体は、前記式(1)で表される構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位を含んでもよいし、前記式(1)で表される構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位と前記式(1)で表される構造単位以外の構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位とが、ランダムに結合した重合体であってもよい。すなわち、前記式(1)で表される構造単位以外の構造単位を有する場合、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0020】
前記式(1)においてZで示される前記アリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。
【0021】
前記式(1)においてR~Rで示される前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0022】
前記式(1)においてR~Rで示される前記炭素数1~6のアルキル基は、特に限定されず、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基等が挙げられる。
【0023】
前記重合体は、前記式(1)で表される構造単位として、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有する芳香族重合体を含むことが好ましい。なお、前記2官能芳香族化合物に由来の構造単位は、前記2官能芳香族化合物を重合して得られる構造単位である。また、本明細書において、前記芳香族重合体は、ジビニル芳香族重合体とも称する。
【0024】
前記2官能芳香族化合物は、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物であれば、特に限定されない。前記2官能芳香族化合物としては、例えば、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、1,2-ジイソプロペニルベンゼン、1,3-ジイソプロペニルベンゼン、1,4-ジイソプロペニルベンゼン、1,3-ジビニルナフタレン、1,8-ジビニルナフタレン、1,4-ジビニルナフタレン、1,5-ジビニルナフタレン、2,3-ジビニルナフタレン、2,7-ジビニルナフタレン、2,6-ジビニルナフタレン、4,4’-ジビニルビフェニル、4,3’-ジビニルビフェニル、4,2’-ジビニルビフェニル、3,2’-ジビニルビフェニル、3,3’-ジビニルビフェニル、2,2’-ジビニルビフェニル、2,4-ジビニルビフェニル、1,2-ジビニル-3,4-ジメチルベンゼン、1,3-ジビニル-4,5,8-トリブチルナフタレン、及び2,2’-ジビニル-4-エチル-4’-プロピルビフェニル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記2官能芳香族化合物は、これらの中でも、m-ジビニルベンゼン及びp-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼンが好ましく、p-ジビニルベンゼンがより好ましい。
【0025】
前記芳香族重合体は、前記2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有するだけでなく、他の構造単位を有していてもよい。この他の構造単位としては、例えば、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合した単官能芳香族化合物に由来の構造単位、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に3つ結合した3官能芳香族化合物に由来の構造単位、インデン類に由来の構造単位、及びアセナフチレン類に由来の構造単位等が挙げられる。なお、前記単官能芳香族化合物に由来の構造単位は、前記単官能芳香族化合物を重合して得られる構造単位である。前記3官能芳香族化合物に由来の構造単位は、前記3官能芳香族化合物を重合して得られる構造単位である。インデン類に由来の構造単位は、インデン類を重合して得られる構造単位である。また、アセナフチレン類に由来の構造単位は、アセナフチレン類を重合して得られる構造単位である。
【0026】
前記単官能芳香族化合物は、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合していればよく、芳香族環には、炭素-炭素不飽和二重結合以外の基が結合されていてもよい。前記単官能芳香族化合物としては、例えば、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合し、この炭素-炭素不飽和二重結合以外の基が結合されていない単官能芳香族化合物、及び、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合し、さらにエチル基等のアルキル基を芳香族環に結合した単官能芳香族化合物等が挙げられる。
【0027】
炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合し、この炭素-炭素不飽和二重結合以外の基が結合されていない単官能芳香族化合物としては、例えば、スチレン、2-ビニルビフェニル、3-ビニルビフェニル、4-ビニルビフェニル、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、及びα-アルキル置換スチレン等が挙げられる。また、α-アルキル置換スチレンとしては、例えば、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、α-プロピルスチレン、α-n-ブチルスチレン、α-イソブチルスチレン、α-t-ブチルスチレン、α-n-ペンチルスチレン、α-2-メチルブチルスチレン、α-3-メチルブチル-2-スチレン、α-t-ブチルスチレン、α-t-ブチルスチレン、α-n-ペンチルスチレン、α-2-メチルブチルスチレン、α-3-メチルブチルスチレン、α-t-ペンチルスチレン、α-n-ヘキシルスチレン、α-2-メチルペンチルスチレン、α-3-メチルペンチルスチレン、α-1-メチルペンチルスチレン、α-2,2-ジメチルブチルスチレン、α-2,3-ジメチルブチルスチレン、α-2,4-ジメチルブチルスチレン、α-3,3-ジメチルブチルスチレン、α-3,4-ジメチルブチルスチレン、α-4,4-ジメチルブチルスチレン、α-2-エチルブチルスチレン、α-1-エチルブチルスチレン、α-シクロヘキシルスチレン、及びα-シクロヘキシルスチレン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合し、さらにアルキル基を芳香族環に結合した単官能芳香族化合物としては、例えば、核アルキル置換芳香族化合物及びアルコキシ置換スチレン等が挙げられる。
【0029】
前記核アルキル置換芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に結合されるアルキル基がエチル基であるエチルビニル芳香族化合物、芳香族環としてのスチレンにアルキル基が結合した核アルキル置換スチレン、及び、前記エチルビニル芳香族化合物及び前記核アルキル置換スチレン以外の核アルキル置換芳香族化合物(他の核アルキル置換芳香族化合物)等が挙げられる。
【0030】
前記エチルビニル芳香族化合物としては、例えば、o-エチルビニルベンゼン、m-エチルビニルベンゼン、p-エチルビニルベンゼン、2-ビニル-2’-エチルビフェニル、2-ビニル-3’-エチルビフェニル、2-ビニル-4’-エチルビフェニル、3-ビニル-2’-エチルビフェニル、3-ビニル-3’-エチルビフェニル、3-ビニル-4’-エチルビフェニル、4-ビニル-2’-エチルビフェニル、4-ビニル-3’-エチルビフェニル、4-ビニル-4’-エチルビフェニル、1-ビニル-2-エチルナフタレン、1-ビニル-3-エチルナフタレン、1-ビニル-4-エチルナフタレン、1-ビニル-5-エチルナフタレン、1-ビニル-6-エチルナフタレン、1-ビニル-7-エチルナフタレン、1-ビニル-8-エチルナフタレン、2-ビニル-1-エチルナフタレン、2-ビニル-3-エチルナフタレン、2-ビニル-4-エチルナフタレン、2-ビニル-5-エチルナフタレン、2-ビニル-6-エチルナフタレン、2-ビニル-7-エチルナフタレン、及び2-ビニル-8-エチルナフタレン等が挙げられる。
【0031】
前記核アルキル置換スチレンとしては、例えば、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-プロピルスチレン、p-プロピルスチレン、m-n-ブチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、m-n-ヘキシルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、m-シクロヘキシルスチレン、及びp-シクロヘキシルスチレン等が挙げられる。
【0032】
前記他の核アルキル置換芳香族化合物としては、例えば、2-ビニル-2’-プロピルビフェニル、2-ビニル-3’-プロピルビフェニル、2-ビニル-4’-プロピルビフェニル、3-ビニル-2’-プロピルビフェニル、3-ビニル-3’-プロピルビフェニル、3-ビニル-4’-プロピルビフェニル、4-ビニル-2’-プロピルビフェニル、4-ビニル-3’-プロピルビフェニル、4-ビニル-4’-プロピルビフェニル、1-ビニル-2-プロピルナフタレン、1-ビニル-3-プロピルナフタレン、1-ビニル-4-プロピルナフタレン、1-ビニル-5-プロピルナフタレン、1-ビニル-6-プロピルナフタレン、1-ビニル-7-プロピルナフタレン、1-ビニル-8-プロピルナフタレン、2-ビニル-1-プロピルナフタレン、2-ビニル-3-プロピルナフタレン、2-ビニル-4-プロピルナフタレン、2-ビニル-5-プロピルナフタレン、2-ビニル-6-プロピルナフタレン、2-ビニル-7-プロピルナフタレン、及び2-ビニル-8-プロピルナフタレン等が挙げられる。
【0033】
前記アルコキシ置換スチレンとしては、例えば、o-エトキシスチレン、m-エトキシスチレン、p-エトキシスチレン、o-プロポキシスチレン、m-プロポキシスチレン、p-プロポキシスチレン、o-n-ブトキシスチレン、m-n-ブトキシスチレン、p-n-ブトキシスチレン、o-イソブトキシスチレン、m-イソブトキシスチレン、p-イソブトキシスチレン、o-t-ブトキシスチレン、m-t-ブトキシスチレン、p-t-ブトキシスチレン、o-n-ペントキシスチレン、m-n-ペントキシスチレン、p-n-ペントキシスチレン、α-メチル-o-ブトキシスチレン、α-メチル-m-ブトキシスチレン、α-メチル-p-ブトキシスチレン、o-t-ペントキシスチレン、m-t-ペントキシスチレン、p-t-ペントキシスチレン、o-n-ヘキソキシスチレン、m-n-ヘキソキシスチレン、p-n-ヘキソキシスチレン、α-メチル-o-ペントキシスチレン、α-メチル-m-ペントキシスチレン、α-メチル-p-ペントキシスチレン、o-シクロヘキソキシスチレン、m-シクロヘキソキシスチレン、p-シクロヘキソキシスチレン、o-フェノキシスチレン、m-フェノキシスチレン、及びp-フェノキシスチレン等が挙げられる。
【0034】
前記単官能芳香族化合物は、前記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記単官能芳香族化合物としては、前記例示の化合物の中でも、スチレン及びp-エチルビニルベンゼンが好ましい。
【0035】
炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に3つ結合した3官能芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン、1,2,4-トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5-トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5-トリビニルナフタレン、及び3,5,4’-トリビニルビフェニル等が挙げられる。前記3官能芳香族化合物は、前記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記インデン類としては、例えば、インデン、アルキル置換インデン、及びアルキコシインデン等が挙げられる。前記アルキル置換インデンとしては、例えば、メチルインデン、エチルインデン、プロピルインデン、ブチルインデン、t-ブチルインデン、sec-ブチルインデン、n-ペンチルインデン、2-メチル-ブチルインデン、3-メチル-ブチルインデン、n-ヘキシルインデン、2-メチル-ペンチルインデン、3-メチル-ペンチルインデン、4-メチル-ペンチルインデン等が挙げられる。前記アルキコシインデンとしては、例えば、メトキシインデン、エトキシインデン、プロポキシインデン、ブトキシインデン、t-ブトキシインデン、sec-ブトキシインデン、n-ペントキシインデン、2-メチル-ブトキシインデン、3-メチル-ブトキシインデン、n-ヘキソキシインデン、2-メチル-ペントキシインデン、3-メチル-ペントキシインデン、4-メチル-ペントキシインデン等のアルキコシインデン等が挙げられる。前記インデン類は、前記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
前記アセナフチレン類としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、及びフェニルアセナフチレン類等が挙げられる。前記アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン等が挙げられる。前記ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。前記フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレン等が挙げられる。前記アセナフチレン類は、前記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
前記芳香族重合体は、前記2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有するだけでなく、他の構造単位を有する場合、前記2官能芳香族化合物に由来の構造単位と、前記単官能芳香族化合物に由来の構造単位等の、他の構造単位との共重合体である。この共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0039】
前記重合体は、上述したように、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体であれば、特に限定されない。そして、前記式(1)で表される構造単位は、下記式(2)で表される構造単位を含むことが好ましい。すなわち、前記重合体は、分子中に下記式(2)で表される構造単位を有する重合体であることが好ましい。
【0040】
【化3】
式(2)中、R~Rは、式(1)中のR~Rと同様である。具体的には、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。Rは、炭素数6~12のアリーレン基を示す。
【0041】
前記式(2)における前記炭素数6~12のアリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の二環芳香族である二環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。
【0042】
前記式(2)で表される構造単位は、下記式(3)で表される構造単位を含むことが好ましい。すなわち、前記式(2)で表される構造単位において、Rが、フェニレン基であることが好ましい。また、前記フェニレン基としては、o-フェニレン基、m-フェニレン基、及びp-フェニレン基のうちのいずれか1種であってもよく、2種以上であってもよい。また、前記フェニレン基としては、p-フェニレン基を含むことが好ましい。
【0043】
【化4】
式(3)中、R~Rは、式(1)中のR~Rと同様である。具体的には、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0044】
前記重合体は、下記式(4)で表される構造単位を分子中にさらに有する重合体を含むことが好ましい。すなわち、前記重合体は、下記式(4)で表される構造単位として、前記炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合した単官能芳香族化合物に由来の構造単位を含むことが好ましい。よって、前記重合体は、前記式(1)で表される構造単位と下記式(4)で表される構造単位とを分子中に有する重合体であることが好ましい。すなわち、前記重合体は、分子中に前記式(1)で表される構造単位と下記式(4)で表される構造単位とを有する重合体であれば、前記式(1)で表される構造単位及び下記式(4)で表される構造単位以外の構造単位((1)及び(4)以外の構造単位)を有していてもよい。また、前記重合体は、前記(1)及び(4)以外の構造単位を含んでもよいし、前記式(1)で表される構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位と下記式(4)で表される構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位と前記(1)及び(4)以外の構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位とが、ランダムに結合した重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0045】
【化5】
式(4)中、R~R10は、それぞれ独立している。すなわち、R~R10は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R~R10は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。R11は、アリール基を示す。
【0046】
前記式(4)においてR~R10で示される前記炭素数1~6のアルキル基は、特に限定されず、前記式(1)においてR~Rで示される前記炭素数1~6のアルキル基と同様であってもよい。前記式(4)においてR~R10で示される前記炭素数1~6のアルキル基は、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基等が挙げられる。
【0047】
前記式(4)においてR11で示される前記アリール基は、特に限定されず、無置換のアリール基であってもよいし、芳香族環に結合する水素原子がアルキル基等で置換されたアリール基であってもよい。また、前記無置換のアリール基としては、芳香族環1個を有する芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた基であってもよいし、独立した芳香族環2個以上を有する芳香族炭化水素(例えば、ビフェニル等)から水素原子1個を除いた基であってもよい。前記式(4)における前記アリール基は、例えば、炭素数6~12の無置換のアリール基、及び炭素数6~12のアリール基の水素原子が炭素数1~6のアルキル基で置換された炭素数6~18のアリーレン基等が挙げられる。また、前記炭素数6~12の無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、及びビフェニリル基等が挙げられる。前記式(4)における前記アリール基、すなわち、R11は、より具体的には、下記表1及び表2に記載のアリール基等が挙げられる。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
前記重合体の重量平均分子量が、1500~40000であることが好ましく、1500~35000であることがより好ましい。前記重量平均分子量が低すぎると、耐熱性等が低下する傾向がある。また、前記重量平均分子量が高すぎると、成形性等が低下する傾向がある。よって、前記樹脂組成物の重量平均分子量が上記範囲内であると、耐熱性及び成形性に優れたものとなる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0051】
前記重合体において、前記重合体における構造単位の合計を100モル%とするとき、前記式(1)で表される構造単位のモル含有率は、上記重量平均分子量の範囲内になるモル含有率であることが好ましく、具体的には、2~95モル%であることが好ましく、8~81モル%であることがより好ましい。また、前記式(2)で表される構造単位のモル含有率や前記式(3)で表される構造単位のモル含有率は、前記式(1)で表される構造単位のモル含有率と同様であり、具体的には、2~95モル%であることが好ましく、8~81モル%であることがより好ましい。また、前記重合体が、前記式(1)で表される構造単位と下記式(4)で表される構造単位とを分子中に有する重合体の場合、前記式(1)で表される構造単位のモル含有率は、2~95モル%であることが好ましく、8~81モル%であることがより好ましく、前記式(4)で表される構造単位のモル含有率は、5~98モル%であることが好ましく、19~92モル%であることがより好ましい。
【0052】
前記重合体において、前記式(1)で表される構造単位の平均数は、上記重量平均分子量の範囲内になる数であることが好ましく、具体的には、1~160であることが好ましく、3~140であることがより好ましい。また、前記式(2)で表される構造単位の平均数や前記式(3)で表される構造単位の平均数は、前記式(1)で表される構造単位の平均数と同様であり、具体的には、1~160であることが好ましく、3~140であることがより好ましい。また、前記重合体が、前記式(1)で表される構造単位と下記式(4)で表される構造単位とを分子中に有する重合体の場合、前記式(1)で表される構造単位の平均数は、1~160であることが好ましく、3~140であることがより好ましく、前記式(4)で表される構造単位の平均数は、2~350であることが好ましく、4~300であることがより好ましい。
【0053】
前記重合体の具体例としては、分子中に下記式(6)で表される構造単位を含み、下記式(5)で表される構造単位及び下記式(7)で表される構造単位のうちの少なくとも一方をさらに含む重合体が挙げられる。この重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0054】
【化6】
【0055】
【化7】
【0056】
【化8】
【0057】
分子中に前記式(6)で表される構造単位を含み、前記式(5)で表される構造単位及び前記式(7)で表される構造単位のうちの少なくとも一方をさらに含む重合体では、前記式(5)で表される構造単位、前記式(6)で表される構造単位、及び前記式(7)で表される構造単位のモル含有率が、それぞれ、0~92モル%、8~54モル%、及び0~89モル%であることが好ましい。また、前記式(5)で表される構造単位の平均数は、0~350であることが好ましく、前記式(6)で表される構造単位の平均数は、1~160であることが好ましく、前記式(7)で表される構造単位の平均数は、0~270であることが好ましい。
【0058】
前記重合体の、前記式(1)で表され、R~Rが水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量が、250~1200であることが好ましく、300~1100であることがより好ましい。前記当量が小さすぎると、前記ビニル基が多くなりすぎ、反応性が高くなりすぎて、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。前記当量が小さすぎる樹脂組成物を用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼度の高い配線板が得られにくいという成形性の問題が発生するおそれがある。また、前記当量が大きすぎると、前記ビニル基が少なくなりすぎ、硬化物の耐熱性が不充分になる傾向がある。よって、前記当量が上記範囲内であると、耐熱性及び成形性に優れたものとなる。なお、前記式(1)で表され、R~Rが水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量は、いわゆるビニル当量である。
【0059】
前記重合体の製造方法としては、前記重合体を製造することができれば、特に限定されない。前記重合体の製造方法としては、例えば、前記重合体が前記式(5)~(7)で表される構造単位を分子中に有する重合体である場合、ジビニルベンゼンとエチルビニルベンゼンとスチレンとを反応させる方法等が挙げられる。この反応において溶媒としては、例えば、酢酸n-プロピル等が挙げられる。また、この反応には、触媒を用いてもよく、その触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体等が挙げられる。
【0060】
(硬化剤)
前記硬化剤としては、前記重合体と反応して、前記重合体を含む樹脂組成物を硬化させることができる硬化剤であれば、特に限定されない。前記硬化剤は、前記重合体との反応に寄与する官能基を分子中に少なくとも1個以上有する硬化剤等が挙げられる。前記硬化剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、分子中にアクリロイル基を有する化合物、分子中にメタクリロイル基を有する化合物、分子中にビニル基を有する化合物、分子中にアリル基を有する化合物、分子中にマレイミド基を有する化合物、分子中にアセナフチレン構造を有する化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0061】
前記スチレン誘導体としては、例えば、ブロモスチレン及びジブロモスチレン等が挙げられる。
【0062】
前記分子中にアクリロイル基を有する化合物が、アクリレート化合物である。前記アクリレート化合物としては、分子中にアクリロイル基を1個有する単官能アクリレート化合物、及び分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物が挙げられる。前記単官能アクリレート化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、及びブチルアクリレート等が挙げられる。前記多官能アクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。
【0063】
前記分子中にメタクリロイル基を有する化合物が、メタクリレート化合物である。前記メタクリレート化合物としては、分子中にメタクリロイル基を1個有する単官能メタクリレート化合物、及び分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物が挙げられる。前記単官能メタクリレート化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、及びブチルメタクリレート等が挙げられる。前記多官能メタクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等が挙げられる。
【0064】
前記分子中にビニル基を有する化合物が、ビニル化合物である。前記ビニル化合物としては、分子中にビニル基を1個有する単官能ビニル化合物(モノビニル化合物)、及び分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物が挙げられる。前記多官能ビニル化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、及びポリブタジエン等が挙げられる。
【0065】
前記分子中にアリル基を有する化合物が、アリル化合物である。前記アリル化合物としては、分子中にアリル基を1個有する単官能アリル化合物、及び分子中にアリル基を2個以上有する多官能アリル化合物が挙げられる。前記多官能アリル化合物としては、例えば、ジアリルフタレート(DAP)等が挙げられる。
【0066】
前記分子中にマレイミド基を有する化合物が、マレイミド化合物である。前記マレイミド化合物としては、分子中にマレイミド基を1個有する単官能マレイミド化合物、分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物、及び変性マレイミド化合物等が挙げられる。前記変性マレイミド化合物としては、例えば、分子中の一部がアミン化合物で変性された変性マレイミド化合物、分子中の一部がシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物、及び分子中の一部がアミン化合物及びシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物等が挙げられる。
【0067】
前記分子中にアセナフチレン構造を有する化合物が、アセナフチレン化合物である。前記アセナフチレン化合物としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、及びフェニルアセナフチレン類等が挙げられる。前記アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン等が挙げられる。前記ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。前記フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレン等が挙げられる。前記アセナフチレン化合物としては、前記のような、分子中にアセナフチレン構造を1個有する単官能アセナフチレン化合物であってもよいし、分子中にアセナフチレン構造を2個以上有する多官能アセナフチレン化合物であってもよい。
【0068】
前記分子中にイソシアヌレート基を有する化合物が、イソシアヌレート化合物である。前記イソシアヌレート化合物としては、分子中にアルケニル基をさらに有する化合物(アルケニルイソシアヌレート化合物)等が挙げられ、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0069】
前記硬化剤は、上記の中でも、例えば、分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタアクリレート化合物、分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物、スチレン誘導体、分子中にアリル基を有するアリル化合物、分子中にマレイミド基を有するマレイミド化合物、分子中にアセナフチレン構造を有するアセナフチレン化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物が好ましい。
【0070】
前記硬化剤は、上記硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0071】
前記硬化剤は、重量平均分子量が100~5000であることが好ましく、100~4000であることがより好ましく、100~3000であることがさらに好ましい。前記硬化剤の重量平均分子量が低すぎると、前記硬化剤が樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、前記硬化剤の重量平均分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、前記硬化剤の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。このことは、前記重合体との反応により、前記重合体を含有する樹脂組成物を好適に硬化させることができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0072】
前記硬化剤は、前記重合体との反応に寄与する官能基の、前記硬化剤1分子当たりの平均個数(官能基数)は、前記硬化剤の重量平均分子量によって異なるが、例えば、1~20個であることが好ましく、2~18個であることがより好ましい。この官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。
【0073】
(変性ポリフェニレンエーテル化合物)
前記樹脂組成物は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基に末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物をさらに含有することが好ましい。前記変性ポリフェニレンエーテル化合物は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物であれば、特に限定されない。
【0074】
前記炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基としては、特に限定されない。前記置換基としては、例えば、下記式(8)で表される置換基、及び下記式(9)で表される置換基等が挙げられる。
【0075】
【化9】
式(8)中、pは0~10の整数を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R12~R14は、それぞれ独立している。すなわち、R12~R14は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R12~R14は、水素原子又はアルキル基を示す。
【0076】
なお、式(8)において、pが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合していることを示す。
【0077】
このアリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0078】
【化10】
式(9)中、R15は、水素原子又はアルキル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0079】
前記式(8)で表される置換基の好ましい具体例としては、例えば、ビニルベンジル基を含む置換基等が挙げられる。前記ビニルベンジル基を含む置換基としては、例えば、下記式(10)で表される置換基等が挙げられる。また、前記式(9)で表される置換基としては、例えば、アクリレート基及びメタクリレート基等が挙げられる。
【0080】
【化11】
【0081】
前記置換基としては、より具体的には、ビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基等が挙げられる。また、前記ビニルベンジル基としては、o-エテニルベンジル基、m-エテニルベンジル基、及びp-エテニルベンジル基のうちのいずれか1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0082】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物は、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有しており、例えば、下記式(11)で表される繰り返し単位を分子中に有していることが好ましい。
【0083】
【化12】
式(11)において、tは、1~50を示す。また、R16~R19は、それぞれ独立している。すなわち、R16~R19は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R16~R19は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0084】
16~R19において、挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0085】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0086】
アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
【0087】
アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0088】
アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0089】
アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0090】
アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0091】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。具体的には、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。また、変性ポリフェニレンエーテル化合物が、前記式(11)で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、tは、変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、tは、1~50であることが好ましい。
【0092】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルでは、その重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、本実施形態に係る変性ポリフェニレンエーテル化合物は、末端に不飽和二重結合を1個以上有するので、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、成形性にも優れると考えられる。よって、このような変性ポリフェニレンエーテル化合物は、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
【0093】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物における、変性ポリフェニレンエーテル化合物1分子当たりの、分子末端に有する、前記置換基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。前記末端官能基数は、具体的には、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1.5~3個であることがさらに好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。すなわち、このような変性ポリフェニレンエーテル化合物を用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高いプリント配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがあった。
【0094】
なお、変性ポリフェニレンエーテル化合物の末端官能基数は、変性ポリフェニレンエーテル化合物1モル中に存在する全ての変性ポリフェニレンエーテル化合物の1分子あたりの、前記置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数を測定して、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数の測定方法は、変性ポリフェニレンエーテル化合物の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0095】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03~0.12dl/gであればよいが、0.04~0.11dl/gであることが好ましく、0.06~0.095dl/gであることがより好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度が上記範囲内であれば、優れた、硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
【0096】
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0097】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、例えば、下記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。また、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、これらの変性ポリフェニレンエーテル化合物を単独で用いてもよいし、この2種の変性ポリフェニレンエーテル化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
【化13】
【0099】
【化14】
【0100】
式(12)及び式(13)中、R20~R27並びにR28~R35は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。X及びXは、それぞれ独立して、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基を示す。A及びBは、それぞれ、下記式(14)及び下記式(15)で表される繰り返し単位を示す。また、式(13)中、Yは、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素を示す。
【0101】
【化15】
【0102】
【化16】
【0103】
式(14)及び式(15)中、m及びnは、それぞれ、0~20を示す。R36~R39並びにR40~R43は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。
【0104】
前記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物は、上記構成を満たす化合物であれば特に限定されない。具体的には、前記式(12)及び前記式(13)において、R20~R27並びにR28~R35は、上述したように、それぞれ独立している。すなわち、R20~R27並びにR28~R35は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R20~R27並びにR28~R35は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0105】
式(14)及び式(15)中、m及びnは、それぞれ、上述したように、0~20を示すことが好ましい。また、m及びnは、mとnとの合計値が、1~30となる数値を示すことが好ましい。よって、mは、0~20を示し、nは、0~20を示し、mとnとの合計は、1~30を示すことがより好ましい。また、R36~R39並びにR40~R43は、それぞれ独立している。すなわち、R36~R39並びにR40~R43は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R36~R39並びにR40~R43は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0106】
20~R43は、上記式(11)におけるR16~R19と同じである。
【0107】
前記式(13)中において、Yは、上述したように、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素である。Yとしては、例えば、下記式(16)で表される基等が挙げられる。
【0108】
【化17】
前記式(16)中、R44及びR45は、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。また、式(16)で表される基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、及びジメチルメチレン基等が挙げられ、この中でも、ジメチルメチレン基が好ましい。
【0109】
前記式(12)及び前記式(13)中において、X及びXは、それぞれ独立して、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基である。この置換基X及びXとしては、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基であれば、特に限定されない。前記置換基X及びXとしては、例えば、上記式(9)で表される置換基及び上記式(10)で表される置換基等が挙げられる。なお、前記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物において、X及びXは、同一の置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。
【0110】
前記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(17)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0111】
【化18】
【0112】
前記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(18)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(19)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0113】
【化19】
【0114】
【化20】
【0115】
上記式(17)~式(19)において、m及びnは、上記式(14)及び上記式(15)におけるm及びnと同じである。また、上記式(17)及び上記式(18)において、R12~R14、p及びZは、上記式(8)におけるR12~R14、p及びZと同じである。また、上記式(18)及び上記式(19)において、Yは、上記式(13)におけるYと同じである。また、上記式(19)において、R15は、上記式(9)におけるR15と同じである。
【0116】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成できれば、特に限定されない。具体的には、ポリフェニレンエーテルに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0117】
炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、例えば、前記式(8)~(10)で表される置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子が挙げられ、この中でも、塩素原子が好ましい。炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、より具体的には、p-クロロメチルスチレンやm-クロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0118】
原料であるポリフェニレンエーテルは、最終的に、所定の変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテルやポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの等が挙げられる。また、2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。また、3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。
【0119】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、上述した方法が挙げられる。具体的には、上記のようなポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶媒に溶解させ、攪拌する。そうすることによって、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とが反応し、本実施形態で用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物が得られる。
【0120】
前記反応の際、アルカリ金属水酸化物の存在下で行うことが好ましい。そうすることによって、この反応が好適に進行すると考えられる。このことは、アルカリ金属水酸化物が、脱ハロゲン化水素剤、具体的には、脱塩酸剤として機能するためと考えられる。すなわち、アルカリ金属水酸化物が、ポリフェニレンエーテルのフェノール基と、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とから、ハロゲン化水素を脱離させ、そうすることによって、ポリフェニレンエーテルのフェノール基の水素原子の代わりに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基が、フェノール基の酸素原子に結合すると考えられる。
【0121】
アルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態で用いられ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液として用いられる。
【0122】
反応時間や反応温度等の反応条件は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等によっても異なり、上記のような反応が好適に進行する条件であれば、特に限定されない。具体的には、反応温度は、室温~100℃であることが好ましく、30~100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。
【0123】
反応時に用いる溶媒は、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶解させることができ、ポリフェニレンエーテルと、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物との反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、トルエン等が挙げられる。
【0124】
上記の反応は、アルカリ金属水酸化物だけではなく、相間移動触媒も存在した状態で反応させることが好ましい。すなわち、上記の反応は、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させることが好ましい。そうすることによって、上記反応がより好適に進行すると考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。相間移動触媒は、アルカリ金属水酸化物を取り込む機能を有し、水のような極性溶剤の相と、有機溶剤のような非極性溶剤の相との両方の相に可溶で、これらの相間を移動することができる触媒であることによると考えられる。具体的には、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液を用い、溶媒として、水に相溶しない、トルエン等の有機溶剤を用いた場合、水酸化ナトリウム水溶液を、反応に供されている溶媒に滴下しても、溶媒と水酸化ナトリウム水溶液とが分離し、水酸化ナトリウムが、溶媒に移行しにくいと考えられる。そうなると、アルカリ金属水酸化物として添加した水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しにくくなると考えられる。これに対して、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、アルカリ金属水酸化物が相間移動触媒に取り込まれた状態で、溶媒に移行し、水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しやすくなると考えられる。このため、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、上記反応がより好適に進行すると考えられる。
【0125】
相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0126】
本実施形態で用いられる樹脂組成物には、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物として、上記のようにして得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましい。
【0127】
(無機充填材)
前記無機充填材は、上述したように、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下であるシリカを含む。前記シリカの含有量は、前記無機充填材全量に対して、50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。また、前記無機充填材は、前記シリカ以外の無機充填材を含有してもよいが、前記シリカのみからなることが好ましい。すなわち、前記シリカの含有量が、前記無機充填材全量に対して、100質量%であることが好ましい。
【0128】
前記シリカは、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下であり、2.5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。また、この比率は低いほど好ましいが、実際には、0.1%程度が限界である。このことから、前記比率は、0.1~3%であることが好ましい。
【0129】
シリカにおける、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率は、シリカに含まれる全Si原子の数に対する、シリカに含まれるシラノール基(Si-OH)に含まれるSi原子の数の比率を測定することができれば、特に限定されない。具体的には、以下のように測定することができる。
【0130】
まず、シリカには、Si原子に3個のOH基が結合したQ1構造と、Si原子に2個のOH基が結合したQ2構造と、Si原子に1個のOH基が結合したQ3構造と、Si原子にOH基が結合していないQ4構造とを有しうる。なお、前記Q1構造は、下記式(20)で示す構造であり、前記Q2構造は、下記式(21)で示す構造であり、前記Q3構造は、下記式(22)で示す構造であり、前記Q4構造は、下記式(23)で示す構造である。
【0131】
【化21】
【0132】
【化22】
【0133】
【化23】
【0134】
【化24】
【0135】
上記構造のうち、シラノール基を有する構造は、前記Q1構造、前記Q2構造、及び前記Q3構造である。測定によって求めるシラノール基に含まれるSi原子の数は、OH基が1個でも結合されているSi原子の数、すなわち、前記Q1構造、前記Q2構造、及び前記Q3構造の合計数を意味する。なお、シラノール基の量としては、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の割合で評価することも、前記Q4構造の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の割合で評価することもある。また、シリカには、実際には、前記Q1構造が、ほとんど存在しないため、前記シラノール基に含まれるSi原子の数は、前記Q2構造及び前記Q3構造の合計数と同義であり、全Si原子の数は、前記Q2構造、前記Q3構造、及び前記Q4構造の合計数と同義とも言える。これらのことから、本実施形態では、シラノール基の量としては、前記Q2構造、前記Q3構造、及び前記Q4構造の合計数の数に対する前記Q2構造及び前記Q3構造の合計数の割合で評価する。すわなち、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率は、本実施形態においては、前記Q2構造、前記Q3構造、及び前記Q4構造の合計数の数に対する前記Q2構造及び前記Q3構造の合計数の割合である。
【0136】
まず、双極子デカップリング(Dipolar Decoupling:DD)法による固体29Si-NMR測定により、図1に示すように、シリカのスペクトルを得る。なお、図1は、シリカの固体29Si-NMRスペクトル101の一例を示す図面である。シリカの固体29Si-NMRスペクトルでは、前記Q2構造、前記Q3構造、及び前記Q4構造のぞれぞれに含まれるケイ素に由来のピーク102、103、及び104が重なったスペクトルとして得られる。なお、この得られたシリカの固体29Si-NMRスペクトル101は、シリカの固体29Si-NMRスペクトルの一例であり、シリカによっては各ピークの大きさが異なるものの、前記ピーク102、103、及び104(又は、前記ピーク103、及び104)が重なったスペクトルで得られる。
【0137】
次に、得られたスペクトル101は、上述したように、前記ピーク102、103、及び104(又は、前記ピーク103、及び104)が重なったスペクトルとして得られるので、これに対して波形分離を行う。そうすることによって、図1に示すように、前記ピーク102、103、及び104が得られる。すなわち、前記得られたスペクトルの帰属から、ピークトップが-90ppm付近で、-85~-95ppm付近にブロードなピーク102をもつのが前記Q2構造、ピークトップが-100ppm付近で、-96~-105ppm付近にブロードなピーク103をもつのが前記Q3構造、及びピークトップが-110ppm付近で、-106~-115ppm付近にブロードなピーク104をもつのが前記Q4構造をそれぞれ示す。なお、前記Q1構造は、上述したように、ほとんど存在しない。
【0138】
そして、得られた各ピークから、それぞれのピーク面積(積分面積)を求める。なお、それぞれのピーク面積は、例えば、以下のように求める。前記Q2構造のピーク面積としては、ピークトップが-90ppm付近のピークの面積(積分値)を求める。すなわち、前記Q2構造のピーク面積としては、ピーク102で囲まれた面積(例えば、ピーク102X軸とで囲まれた面積)を求める。また、前記Q3構造のピーク面積としては、ピークトップが-100ppmのピークの面積(積分値)を求める。すなわち、前記Q3構造のピーク面積としては、ピーク103で囲まれた面積(例えば、ピーク103とX軸とで囲まれた面積)を求める。また、前記Q4構造のピーク面積としては、ピークトップが-110ppmのピークの面積(積分値)を求める。すなわち、前記Q4構造のピーク面積としては、ピーク104で囲まれた面積(例えば、ピーク104とX軸とで囲まれた面積)を求める。そして、前記Q2構造、前記Q3構造、及び前記Q4構造のピーク面積(積分面積)を、それぞれSQ2、SQ3、及びSQ4として、前記Q2構造、前記Q3構造、及び前記Q4構造の合計数の数に対する前記Q2構造及び前記Q3構造の合計数の割合(=(SQ2+SQ3)/(SQ2+SQ3+SQ4)×100(%))を、Si原子の数に対するシラノール基の数の比率として算出する。
【0139】
これらのことから、前記シリカは、双極子デカップリング(Dipolar Decoupling:DD)法による固体29Si-NMR測定により前記シリカのスペクトルを得て、得られたスペクトルに対して波形分離を行って、前記Q2構造、前記Q3構造、及び前記Q4構造の、それぞれのピーク面積(積分面積)を、それぞれSQ2、SQ3、及びSQ4として算出した、シラノール基量(=(SQ2+SQ3)/(SQ2+SQ3+SQ4)×100(%))が3%以下である。なお、ここでの、前記Q2構造、前記Q3構造、及び前記Q4構造の、それぞれのピーク面積は、上述したように、例えば、ピークトップが-90ppmのピークの面積(積分値)、ピークトップが-100ppmのピークの面積(積分値)、及びピークトップが-110ppmのピークの面積(積分値)を求めることによって求められた値等が挙げられる。
【0140】
前記シリカの体積平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.1~5μmであることが好ましく、0.3~1μmであることがより好ましい。前記シリカの体積平均粒子径が上記範囲内であれば、前記シリカを含有した樹脂組成物は、誘電特性が低く、耐熱性のより高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性をより好適に維持することができる硬化物が得られる。なお、ここでの体積平均粒子径は、動的光散乱法等の公知の方法で測定される粒子径分布から算出することができる。例えば、粒度計(ベックマンコールター株式会社製のマルチサイザー3)等によって、測定することができる。
【0141】
前記シリカは、前記シラノール基量が3%以下であれば特に限定されないが、例えば、球状のシリカ、及び非結晶のシリカ等が挙げられる。前記シリカとしては、例えば、球状の非結晶のシリカであることが好ましい。また、前記シリカは、例えば、以下のように製造されたシリカ等が挙げられる。
【0142】
前記シリカとしては、表面に存在するOH基を減らす表面処理を施したシリカ等が挙げられる。前記表面処理としては、前記シラノール基量が3%以下となるような処理が挙げられ、例えば、シランカップリング剤及びオルガノシラザン等による処理等が挙げられる。前記シリカの一例としては、具体的には、シリカを、有機官能基とアルコキシ基とを分子内に有するシランカップリング剤(第1のシランカップリング剤)で処理した後に、オルガノシラザンで処理(オルガノシラザン処理)したシリカ等が挙げられる。また、前記シリカの他の一例としては、具体的には、前記オルガノシラザン処理において、アルキル基とアルコキシ基とを分子内に有するシランカップリング剤(第2のシランカップリング剤)で置き換えて処理し、その後、別途、オルガノシラザンで処理することによって得られるシリカ等が挙げられる。すなわち、シリカを、有機官能基と、アルコキシ基とを分子内に有するシランカップリング剤(第1のシランカップリング剤)で処理した後、オルガノシラザンで処理する際に、オルガノシラザンの一部を、アルキル基とアルコキシ基とを分子内に有するシランカップリング剤(第2のシランカップリング剤)で置き換えて、前記オルガノシラザン及び前記第2のシランカップリング剤で処理し、オルガノシラザンで処理したシリカ等が挙げられる。前記シリカとしては、前記2種のシリカに限定されないが、これらの前記2種のシリカが好ましく、特に、前記2種のシリカのうち、第2のシランカップリングを用いて得られたシリカがより好ましい。
【0143】
前記第1のシランカップリング剤は、有機官能基とアルコキシ基とを分子内に有するシランカップリング剤であれば、特に限定されない。前記第1のシランカップリング剤としては、例えば、1つの有機官能基と、3つのアルコキシ基とを分子内に有するシランカップリング剤等が挙げられる。前記有機官能基としては、有機材料と化学結合する反応基等が挙げられ、例えば、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロイル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、及びアクリロイル基等が挙げられる。前記第1のシランカップリング剤としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記第1のシランカップリング剤としては、上記シランカップリング剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0144】
前記オルガノシラザンは、特に限定されず、公知のオルガノシラザンを用いることができる。前記オルガノシラザンとしては、例えば、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、1-ビニルペンタメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、及び1,3-ジメチル-1,1,3,3-テトラビニルジシラザン等のオルガノジシラザン、及びオクタメチルトリシラザン、及び1,5-ジビニルヘキサメチルトリシラザン等のオルガノトリシラザン等が挙げられる。この中でも、オルガノジシラザンが好ましい。前記オルガノシラザンとしては、上記オルガノシラザンを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0145】
前記第2のシランカップリング剤としては、アルキル基とアルコキシ基とを分子内に有するシランカップリング剤であれば、特に限定されない。前記第2のシランカップリング剤としては、例えば、1つのアルキル能基と、3つのアルコキシ基とを分子内に有するシランカップリング剤等が挙げられる。前記第2のシランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、及びヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記第2のシランカップリング剤としては、上記シランカップリング剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0146】
前記表面処理を施すシリカ(未処理のシリカ)としては、前記表面処理後のシリカが、前記シラノール基量が3%以下となるようなシリカであれば、特に限定されない。前記シリカを得る方法としては、爆燃法(Vaporized Metal Combustion Method:VMC法)、及びシリカゾルを形成させる方法等が挙げられる。シリカゾルを構成するシリカのほうが、VMC法で得られたシリカより粒子径が小さく、好ましい。なお、VMC法は、酸素を含む雰囲気中でバーナにより化学炎を形成し、この化学炎中に金属ケイ素粉末を粉塵雲が形成される程度の量を投入し、燃焼を起こして、球状の酸化物粒子を得る方法である。
【0147】
シリカゾルを形成する方法としては、例えば、ケイ素含有物をアルカリ溶液に溶解させてアルカリ性ケイ酸塩溶液を製造するアルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程と、得られたアルカリ性ケイ酸塩溶液から水性シリカゾルを形成する水性シリカゾル形成工程とを備える。
【0148】
前記アルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程におけるケイ素含有物としては、例えば、金属ケイ素、及びケイ素化合物等が挙げられる。前記アルカリ溶液としては、例えば、アンモニアを溶解した溶液等が挙げられる。
【0149】
前記水性シリカゾル形成工程としては、例えば、前記アルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程で得られたアルカリ性ケイ酸塩溶液に、酸を添加することで、水性シリカゾルを形成する工程等が挙げられる。
【0150】
前記シリカゾルを形成する方法としては、前記アルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程及び前記水性シリカゾル形成工程のうちのいずれか一方で前記アルカリ性ケイ酸溶液にアンモニウム塩を含有させるアンモニウム塩含有工程を備えていてもよい。前記アンモニウム塩を含有させると、以後は、粒径が大きくなる反応が進行しやすくなる。
【0151】
前記無機充填材は、前記シリカ以外の無機充填材を含む場合、そのシリカ以外の無機充填材としては、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0152】
(含有量)
前記シリカの含有量は、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分100質量部に対して、10~400質量部であることが好ましく、20~300質量部であることがより好ましく、40~200質量部であることがさらに好ましい。前記シリカの含有量が上記範囲内であれば、誘電特性が低く、耐熱性のより高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性をより好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0153】
前記重合体の含有量は、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分100質量部に対して、10~95質量部であることが好ましく、15~90質量部であることがより好ましく、20~90質量部であることがさらに好ましい。すなわち、前記重合体の含有率は、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分に対して、10~95質量%であることが好ましい。
【0154】
前記樹脂組成物に前記硬化剤を含有してもよい。前記樹脂組成物に前記硬化剤を含有する場合は、例えば、前記硬化剤の含有量が、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分100質量部に対して、5~50質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。また、前記硬化剤の含有量が、前記重合体と前記硬化剤との合計100質量部に対して、5~50質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。また、前記樹脂組成物に前記変性ポリフェニレンエーテル化合物も含有させるときは、前記硬化剤の含有量が、前記重合体と前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、5~50質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。
【0155】
前記重合体及び前記硬化剤の各含有量が、上記範囲内の含有量であれば、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物になる。このことは、前記重合体と前記硬化剤との硬化反応が好適に進行するためと考えられる。
【0156】
前記樹脂組成物に前記変性ポリフェニレンエーテル化合物を含有させるときは、前記重合体、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤は、以下のような含有量であることが好ましい。
【0157】
前記重合体と前記変性ポリフェニレンエーテル化合物との含有比は、質量比で、50:50~95:5であることが好ましく、60:40~90:10であることがより好ましい。すなわち、前記重合体の含有量は、前記重合体と前記変性ポリフェニレンエーテル化合物との合計質量100質量部に対して、50~95質量部であることが好ましく、60~90質量部であることがより好ましい。
【0158】
前記重合体の含有量は、前記重合体と前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計質量100質量部に対して、33~91質量部であることが好ましく、40~82質量部であることがより好ましい。
【0159】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の含有量は、前記重合体と前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計質量100質量部に対して、3~48質量部であることが好ましく、6~36質量部であることがより好ましい。
【0160】
前記重合体、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤の含有量が上記範囲内であれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性をより好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0161】
(その他の成分)
本実施形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、前記重合体、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物、前記硬化剤、及び前記無機充填材以外の成分(その他の成分)を含有してもよい。本実施形態に係る樹脂組成物に含有されるその他の成分としては、例えば、スチレン系エラストマー、シランカップリング剤、難燃剤、開始剤、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤、及び分散剤等の添加剤をさらに含んでもよい。また、前記樹脂組成物には、前記重合体、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記硬化剤以外にも、ポリフェニレンエーテル、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含有してもよい。
【0162】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、スチレン系エラストマーを含有してもよい。
【0163】
前記スチレン系エラストマーは、金属張積層板及び配線板等に備えられる絶縁層を形成するために用いられる樹脂組成物等に含まれる樹脂として用いることができるスチレン系エラストマーであれば、特に限定されない。金属張積層板及び配線板等に備えられる絶縁層を形成するために用いられる樹脂組成物とは、樹脂付きフィルム及び樹脂付き金属箔等に備えられる樹脂層を形成するために用いられる樹脂組成物であってもよいし、プリプレグに含まれる樹脂組成物であってもよい。
【0164】
前記スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン系単量体を含む単量体を重合して得られる重合体であり、スチレン系共重合体であってもよい。また、前記スチレン系共重合体としては、例えば、前記スチレン系単量体の1種以上と、前記スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体の1種以上とを、共重合させて得られる共重合体等が挙げられる。前記スチレン系重合体は、前記スチレン系共重合体を水添した水添スチレン系共重合体を含むことが好ましい。
【0165】
前記スチレン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、スチレン誘導体、スチレンおけるベンゼン環の水素原子の一部がアルキル基で置換されたもの、スチレンおけるビニル基の水素原子の一部がアルキル基で置換されたもの、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、ブチルスチレン、ジメチルスチレン、及びイソプロぺニルトルエン等が挙げられる。前記スチレン系単量体は、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0166】
前記共重合可能な他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、α-ピネン、β-ピネン、及びジペンテン等のオレフィン類、1,4-ヘキサジエン、及び3-メチル-1,4-ヘキサジエン非共役ジエン類、1,3-ブタジエン、及び2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)共役ジエン類等が挙げられる。前記共重合可能な他の単量体は、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0167】
前記スチレン系共重合体としては、例えば、メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、メチルスチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)メチルスチレン共重合体、スチレンイソプレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)スチレン共重合体、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/ブチレン)スチレン共重合体、及びスチレンイソブチレンスチレン共重合体等が挙げられる。
【0168】
前記水添スチレン系共重合体としては、例えば、前記スチレン系共重合体の水添物が挙げられる。前記水添スチレン系共重合体としては、より具体的には、水添メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、水添メチルスチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)メチルスチレン共重合体、水添スチレンイソプレン共重合体、水添スチレンイソプレンスチレン共重合体、水添スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、及び水添スチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)スチレン共重合体等が挙げられる。
【0169】
前記スチレン系エラストマーは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0170】
前記スチレン系エラストマーは、重量平均分子量が10000~300000であることが好ましく、50000~250000であることがより好ましい。前記分子量が低すぎると、前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が低下したり、耐熱性が低下する傾向がある。また、前記分子量が高すぎると、前記樹脂組成物をワニス状にしたときの粘度や、加熱成形時の前記樹脂組成物の粘度が高くなりすぎる傾向がある。なお、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0171】
前記スチレン系エラストマーとしては、市販品を使用することもでき、例えば、株式会社クラレ製の、V9827、V9461、2002、7125F、三井化学株式会社製の、FTR2140、FTR6125、及び旭化成株式会社製のH1041等を用いてもよい。
【0172】
前記スチレン系エラストマーの含有量は、特に限定されないが、例えば、前記重合体と前記硬化剤との合計100質量部に対して、5~40質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。また、前記樹脂組成物に前記変性ポリフェニレンエーテル化合物も含有させるときは、前記スチレン系エラストマーの含有量が、前記重合体と前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との合計100質量部に対して、5~40質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。前記スチレン系エラストマーの含有量が上記範囲内であれば、誘電正接がさらに低く、吸水処理後であっても、吸水による誘電正接の上昇を充分に抑制された硬化物が得られる。
【0173】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、難燃剤を含有してもよい。難燃剤を含有することによって、樹脂組成物の硬化物の難燃性を高めることができる。前記難燃剤は、特に限定されない。具体的には、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用する分野では、例えば、融点が300℃以上のエチレンジペンタブロモベンゼン、エチレンビステトラブロモイミド、デカブロモジフェニルオキサイド、及びテトラデカブロモジフェノキシベンゼンが好ましい。ハロゲン系難燃剤を使用することにより、高温時におけるハロゲンの脱離が抑制でき、耐熱性の低下を抑制できると考えられる。また、ハロゲンフリーが要求される分野では、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤、及びホスフィン酸塩系難燃剤が挙げられる。リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、ジキシレニルホスフェートの縮合リン酸エステルが挙げられる。ホスファゼン系難燃剤の具体例としては、フェノキシホスファゼンが挙げられる。ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤の具体例としては、キシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。ホスフィン酸塩系難燃剤の具体例としては、例えば、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩のホスフィン酸金属塩が挙げられる。前記難燃剤としては、例示した各難燃剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0174】
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、開始剤(反応開始剤)を含有してもよい。前記樹脂組成物は、前記重合体と前記硬化剤とからなるものであっても、硬化反応は進行し得る。また、前記重合体のみであっても、硬化反応は進行し得る。しかしながら、プロセス条件によっては硬化が進行するまで高温にすることが困難な場合があるので、反応開始剤を添加してもよい。前記反応開始剤は、前記重合体と前記硬化剤との硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン,過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等の酸化剤が挙げられる。また、必要に応じて、カルボン酸金属塩等を併用することができる。そうすることによって、硬化反応を一層促進させるができる。これらの中でも、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンが好ましく用いられる。α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができ、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができる。さらに、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、揮発性が低いため、プリプレグ乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、反応開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0175】
前記開始剤の含有量としては、特に限定されないが、例えば、前記重合体と前記硬化剤と前記変性ポリフェニレンエーテル化合物との合計質量100質量部に対して、0.1~1.8質量部であることが好ましく、0.1~1.5質量部であることがより好ましく、0.3~1.5質量部であることがさらに好ましい。前記開始剤の含有量が少なすぎると、前記重合体と前記硬化剤との硬化反応が好適に開始しない傾向がある。また、前記開始剤の含有量が多すぎると、得られたプリプレグの硬化物の誘電正接が大きくなり、優れた低誘電特性を発揮しにくくなる傾向がある。よって、前記開始剤の含有量が上記範囲内であれば、優れた低誘電特性を有するプリプレグの硬化物が得られる。
【0176】
(製造方法)
前記樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、前記重合体、及び前記硬化剤を、所定の含有量となるように混合する方法等が挙げられる。具体的には、有機溶媒を含むワニス状の組成物を得る場合は、後述する方法等が挙げられる。
【0177】
本実施形態に係る樹脂組成物として、前記樹脂組成物(第1の樹脂組成物)以外に、下記第2の樹脂組成物も挙げられる。前記第2の樹脂組成物は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体と、シリカを含む無機充填材とを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物から抽出される前記無機充填材は、Si原子の数に対するシラノール基の数の比率が3%以下である樹脂組成物である。
【0178】
前記第2の樹脂組成物は、前記無機充填材以外、前記第1の樹脂組成物と同様である。前記無機充填材に関しても、シリカを含む無機充填材であって、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物から抽出される前記無機充填材の、Si原子の数に対するシラノール基の数の比率が3%以下であれば、特に限定されない。前記第2の樹脂組成物に含まれる前記無機充填材としては、例えば、前記第1の樹脂組成物に含まれる前記無機充填材と同様の無機充填材等が挙げられる。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物からの前記無機充填材の抽出方法としては、例えば、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を超音波洗浄し、得られた洗浄液をろ過し、得られた(ろ別された)固形分を乾燥する方法等が挙げられる。
【0179】
この第2の樹脂組成物は、上述したように、前記無機充填材にシリカを含み、さらに、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物から抽出される前記無機充填材の、Si原子の数に対するシラノール基の数の比率が3%以下である。このことから、前記第2の樹脂組成物も、前記無機充填材がSi原子の数に対するシラノール基の数の比率が3%以下であるシリカを含む前記第1の樹脂組成物と同様、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0180】
また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いることによって、以下のように、プリプレグ、金属張積層板、配線板、樹脂付き金属箔、及び樹脂付きフィルムを得ることができる。
【0181】
[プリプレグ]
図2は、本発明の実施形態に係るプリプレグ1の一例を示す概略断面図である。
【0182】
本実施形態に係るプリプレグ1は、図2に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、繊維質基材3とを備える。このプリプレグ1は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2の中に存在する繊維質基材3とを備える。
【0183】
なお、本実施形態において、半硬化物とは、樹脂組成物をさらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0184】
また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いて得られるプリプレグとしては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を備えるものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物そのものを備えるものであってもよい。すなわち、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。
【0185】
プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材である繊維質基材3に含浸するために、樹脂組成物2は、ワニス状に調製されて用いられることが多い。すなわち、樹脂組成物2は、通常、ワニス状に調製された樹脂ワニスであることが多い。このようなワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)は、例えば、以下のようにして調製される。
【0186】
まず、有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて用いられる、有機溶媒に溶解しない成分を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、前記重合体、及び前記硬化剤等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエンやメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
【0187】
前記プリプレグの製造方法は、前記プリプレグを製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグを製造する際には、上述した本実施形態で用いる樹脂組成物は、上述したように、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。
【0188】
前記繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。偏平処理加工として、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮する方法が挙げられる。なお、一般的に使用される繊維質基材の厚さは、例えば、0.01mm以上、0.3mm以下である。
【0189】
前記プリプレグの製造方法は、前記プリプレグを製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグを製造する際には、上述した本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。
【0190】
プリプレグ1を製造する方法としては、例えば、樹脂組成物2、例えば、ワニス状に調製された樹脂組成物2を繊維質基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。樹脂組成物2は、繊維質基材3へ、浸漬及び塗布等によって含浸される。必要に応じて複数回繰り返して含浸することも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂組成物を用いて含浸を繰り返すことにより、最終的に希望とする組成及び含浸量に調整することも可能である。
【0191】
樹脂組成物(樹脂ワニス)2が含浸された繊維質基材3は、所望の加熱条件、例えば、80℃以上180℃以下で1分間以上10分間以下加熱される。加熱によって、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ1が得られる。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0192】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を備えるプリプレグは、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られるプリプレグである。そして、このプリプレグは、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える配線板を製造することができるプリプレグである。
【0193】
[金属張積層板]
図3は、本発明の実施形態に係る金属張積層板11の一例を示す概略断面図である。
【0194】
金属張積層板11は、図3に示すように、図2に示したプリプレグ1の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12とともに積層される金属箔13とから構成されている。すなわち、金属張積層板11は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた金属箔13とを有する。また、絶縁層12は、前記樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよいし、前記プリプレグの硬化物からなるものであってもよい。また、前記金属箔13の厚みは、最終的に得られる配線板に求められる性能等に応じて異なり、特に限定されない。金属箔13の厚みは、所望の目的に応じて、適宜設定することができ、例えば、0.2~70μmであることが好ましい。また、前記金属箔13としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられ、前記金属箔が薄い場合は、ハンドリング性を向上のために剥離層及びキャリアを備えたキャリア付銅箔であってもよい。
【0195】
前記金属張積層板11を製造する方法としては、前記金属張積層板11を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグ1を用いて金属張積層板11を作製する方法が挙げられる。この方法としては、プリプレグ1を1枚又は複数枚重ね、さらに、その上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、金属箔13およびプリプレグ1を加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層板11を作製する方法等が挙げられる。すなわち、金属張積層板11は、プリプレグ1に金属箔13を積層して、加熱加圧成形して得られる。また、加熱加圧条件は、製造する金属張積層板11の厚みやプリプレグ1の組成物の種類等により適宜設定することができる。例えば、温度を170~210℃、圧力を3.5~4MPa、時間を60~150分間とすることができる。また、前記金属張積層板は、プリプレグを用いずに製造してもよい。例えば、ワニス状の樹脂組成物を金属箔上に塗布し、金属箔上に樹脂組成物を含む層を形成した後に、加熱加圧する方法等が挙げられる。
【0196】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層を備える金属張積層板は、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える金属張積層板である。そして、この金属張積層板は、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える配線板を製造することができる金属張積層板である。
【0197】
[配線板]
図4は、本発明の実施形態に係る配線板21の一例を示す概略断面図である。
【0198】
本実施形態に係る配線板21は、図4に示すように、図2に示したプリプレグ1を硬化して用いられる絶縁層12と、絶縁層12ともに積層され、金属箔13を部分的に除去して形成された配線14とから構成されている。すなわち、前記配線板21は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた配線14とを有する。また、絶縁層12は、前記樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよいし、前記プリプレグの硬化物からなるものであってもよい。
【0199】
前記配線板21を製造する方法は、前記配線板21を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、前記プリプレグ1を用いて配線板21を作製する方法等が挙げられる。この方法としては、例えば、上記のように作製された金属張積層板11の表面の金属箔13をエッチング加工等して配線形成をすることによって、絶縁層12の表面に回路として配線が設けられた配線板21を作製する方法等が挙げられる。すなわち、配線板21は、金属張積層板11の表面の金属箔13を部分的に除去することにより回路形成して得られる。また、回路形成する方法としては、上記の方法以外に、例えば、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)やモディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)による回路形成等が挙げられる。配線板21は、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層12を有する。
【0200】
このような配線板は、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える配線板である。
【0201】
[樹脂付き金属箔]
図5は、本実施の形態に係る樹脂付き金属箔31の一例を示す概略断面図である。
【0202】
本実施形態に係る樹脂付き金属箔31は、図5に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層32と、金属箔13とを備える。この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32の表面上に金属箔13を有する。すなわち、この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と、前記樹脂層32とともに積層される金属箔13とを備える。また、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と前記金属箔13との間に、他の層を備えていてもよい。
【0203】
また、前記樹脂層32としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔であってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔であってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0204】
また、金属箔としては、金属張積層板に用いられる金属箔を限定なく用いることができる。金属箔としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられる。
【0205】
前記樹脂付き金属箔31及び前記樹脂付きフィルム41は、必要に応じて、カバーフィルム等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより、異物の混入等を防ぐことができる。前記カバーフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、及びこれらのフィルムに離型剤層を設けて形成されたフィルム等が挙げられる。
【0206】
前記樹脂付き金属箔31を製造する方法は、前記樹脂付き金属箔31を製造することができれば、特に限定されない。前記樹脂付き金属箔31の製造方法としては、上記ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)を金属箔13上に塗布し、加熱することにより製造する方法等が挙げられる。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、金属箔13上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上180℃以下、1分以上10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層32として、金属箔13上に形成される。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0207】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層を備える樹脂付き金属箔は、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂付き金属箔である。そして、この樹脂付き金属箔は、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える配線板を製造する際に用いることができる。例えば、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。このような樹脂付き金属箔を用いて得られた配線板としては、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える配線板が得られる。
【0208】
[樹脂付きフィルム]
図6は、本実施の形態に係る樹脂付きフィルム41の一例を示す概略断面図である。
【0209】
本実施形態に係る樹脂付きフィルム41は、図6に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層42と、支持フィルム43とを備える。この樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と、前記樹脂層42とともに積層される支持フィルム43とを備える。また、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と前記支持フィルム43との間に、他の層を備えていてもよい。
【0210】
また、前記樹脂層42としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムであってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0211】
また、支持フィルム43としては、樹脂付きフィルムに用いられる支持フィルムを限定なく用いることができる。前記支持フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びポリアリレートフィルム等の電気絶縁性フィルム等が挙げられる。
【0212】
前記樹脂付きフィルム41は、必要に応じて、カバーフィルム等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより、異物の混入等を防ぐことができる。前記カバーフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、及びポリメチルペンテンフィルム等が挙げられる。
【0213】
前記支持フィルム及びカバーフィルムとしては、必要に応じて、マット処理、コロナ処理、離型処理、及び粗化処理等の表面処理が施されたものであってもよい。
【0214】
前記樹脂付きフィルム41を製造する方法は、前記樹脂付きフィルム41を製造することができれば、特に限定されない。前記樹脂付きフィルム41の製造方法は、例えば、上記ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)を支持フィルム43上に塗布し、加熱することにより製造する方法等が挙げられる。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、支持フィルム43上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上180℃以下、1分以上10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層42として、支持フィルム43上に形成される。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0215】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層を備える樹脂付きフィルムは、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂付きフィルムである。そして、この樹脂付きフィルムは、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える配線板を製造する際に用いることができる。例えば、配線板の上に積層した後に、支持フィルムを剥離すること、又は、支持フィルムを剥離した後に、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。このような樹脂付きフィルムを用いて得られた配線板としては、誘電特性が低く、耐熱性の高く、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える配線板が得られる。
【0216】
本明細書は、上記のように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0217】
本発明の一局面は、分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体と、無機充填材とを含有し、前記無機充填材が、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下であるシリカを含む樹脂組成物である。
【0218】
【化25】
式(1)中、Zは、アリーレン基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0219】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。
【0220】
また、前記樹脂組成物において、前記シリカの含有量が、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分100質量部に対して、10~400質量部であることが好ましい。
【0221】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性のより高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性をより好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0222】
また、本発明の他の一局面は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体と、シリカを含む無機充填材とを含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物から抽出される前記無機充填材は、全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率が3%以下である樹脂組成物である。
【0223】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。
【0224】
また、前記樹脂組成物において、前記式(1)で表される構造単位が、下記式(2)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0225】
【化26】
式(2)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、Rは、炭素数6~12のアリーレン基を示す。
【0226】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0227】
また、前記樹脂組成物において、前記式(2)で表される構造単位が、下記式(3)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0228】
【化27】
式(3)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0229】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0230】
また、前記樹脂組成物において、前記重合体が、下記式(4)で表される構造単位を分子中にさらに有する重合体を含むことが好ましい。
【0231】
【化28】
式(4)中、R~R10は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、R11は、アリール基を示す。
【0232】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0233】
また、前記樹脂組成物において、前記式(4)で表される構造単位におけるアリール基が、炭素数1~6のアルキル基を有することが好ましい。
【0234】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0235】
また、前記樹脂組成物において、前記重合体の重量平均分子量が、1500~40000であることが好ましい。
【0236】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られ、成形性にも優れた樹脂組成物が得られる。
【0237】
また、前記樹脂組成物において、前記重合体の、前記式(1)で表され、R~Rが水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量が、250~1200であることが好ましい。
【0238】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られ、成形性にも優れた樹脂組成物が得られる。
【0239】
また、前記樹脂組成物において、前記重合体の含有量が、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分100質量部に対して、10~95質量部であることが好ましい。
【0240】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性をより好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0241】
また、前記樹脂組成物において、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基に末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物をさらに含有することが好ましい。
【0242】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性をより好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物が得られる。
【0243】
また、前記樹脂組成物において、硬化剤をさらに含有し、前記硬化剤が、分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタアクリレート化合物、分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物、スチレン誘導体、分子中にアリル基を有するアリル化合物、分子中にマレイミド基を有するマレイミド化合物、分子中にアセナフチレン構造を有するアセナフチレン化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0244】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性のより高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる。
【0245】
また、前記樹脂組成物において、前記硬化剤の含有量は、前記樹脂組成物における前記無機充填材以外の成分100質量部に対して、5~50質量部であることが好ましい。
【0246】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性のより高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる。
【0247】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えるプリプレグである。
【0248】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られるプリプレグを提供することができる。
【0249】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムである。
【0250】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂付きフィルムを提供することができる。
【0251】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔である。
【0252】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が好適に得られる樹脂付き金属箔を提供することができる。
【0253】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備える金属張積層板である。
【0254】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い絶縁層であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える金属張積層板を提供することができる。
【0255】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを備える配線板である。
【0256】
このような構成によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い絶縁層であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる絶縁層を備える配線板を提供することができる。
【0257】
本発明によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板を提供することができる。
【0258】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0259】
[実施例1~12、及び比較例1~7]
本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる各成分について説明する。
【0260】
(樹脂成分)
重合体1:下記方法によって得られた重合体である。
【0261】
ジビニルベンゼン2.9モル(377g)、エチルビニルベンゼン1.7モル(224.4g)、スチレン10.4モル(1081.6g)、及び酢酸n-プロピル15モル(1532g)を、5.0Lの反応器内に投入し、攪拌した。この攪拌により得られた混合物を70℃まで加温した後に、600ミリモルの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、さらに、70℃で4時間攪拌することによって、ジビニルベンゼンとエチルビニルベンゼンとスチレンとを反応させた。その後、前記反応器内の反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して、前記反応を停止させた。前記添加によって分離された有機層を純水で3回洗浄した。この洗浄した有機層を60℃で減圧脱揮することによって、重合体1を得た。
【0262】
得られた重合体1は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体[炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有する芳香族重合体であり、上記式(5)~(7)で表される構造単位を有する化合物、重量平均分子量Mw:26300、ビニル当量(前記式(1)で表され、R~Rが水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量):510]であった。
【0263】
重合体2:下記方法によって得られた重合体である。
【0264】
ジビニルベンゼン3.6モル(468g)、エチルビニルベンゼン2.2モル(290.4g)、スチレン9.2モル(956.8g)、及び酢酸n-プロピル15モル(1532g)を、5.0Lの反応器内に投入し、攪拌した。この攪拌により得られた混合物を70℃まで加温した後に、600ミリモルの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、さらに、70℃で4時間攪拌することによって、ジビニルベンゼンとエチルビニルベンゼンとスチレンとを反応させた。その後、前記反応器内の反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して、前記反応を停止させた。そして、前記添加によって分離された有機層を純水で3回洗浄した。この洗浄した有機層を60℃で減圧脱揮することによって、重合体2を得た。
【0265】
得られた重合体2は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体[炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有する芳香族重合体であり、上記式(5)~(7)で表される構造単位を有する化合物、重量平均分子量Mw:31100、ビニル当量(前記式(1)で表され、R~Rが水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量):380]であった。
【0266】
重合体3:下記方法によって得られた重合体である。
【0267】
ジビニルベンゼン3.9モル(507g)、エチルビニルベンゼン2.3モル(303.6g)、スチレン8.8モル(915.2g)、及び酢酸n-プロピル15モル(1532g)を、5.0Lの反応器内に投入し、攪拌した。この攪拌により得られた混合物を70℃まで加温した後に、600ミリモルの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、さらに、70℃で4時間攪拌することによって、ジビニルベンゼンとエチルビニルベンゼンとスチレンとを反応させた。その後、前記反応器内の反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して、前記反応を停止させた。そして、前記添加によって分離された有機層を純水で3回洗浄した。この洗浄した有機層を60℃で減圧脱揮することによって、重合体3を得た。
【0268】
得られた重合体3は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体[炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有する芳香族重合体であり、上記式(5)~(7)で表される構造単位を有する化合物、重量平均分子量Mw:39500、ビニル当量(前記式(1)で表され、R~Rが水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量):320]であった。
【0269】
なお、重合体1~3の、前記式(1)で表され、R~Rが水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量(ビニル当量)は、ウィイス法によるヨウ素価測定により算出した。具体的には、まず、測定対象物である化合物を、濃度が0.3g/30mLとなるようにクロロホルムに溶解させた。この溶液中に存在する二重結合に対して、過剰量の塩化ヨウ素を添加した。そうすることによって、二重結合と塩化ヨウ素とが反応し、この反応が充分に進行した後、その反応後の溶液に20質量%のヨウ化カリウム水溶液を添加することによって、反応後の溶液に残存するヨウ素分がI の形で水相に抽出された。このI が抽出された水相を、チオ硫酸ナトリウム水溶液(0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム標準溶液)により滴定し、ヨウ素価を算出した。ヨウ素価の算出には、下記式を用いた。
【0270】
ヨウ素価=[(B-A)×F×1.269]/化合物の質量(g)
前記式中、Bは、空試験に要した0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム標準溶液の滴定量(cc)を示し、Aは、中和に要した0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム標準溶液の滴定量(cc)を示し、Fは、チオ硫酸ナトリウムの力価を示す。
【0271】
変性PPE1:末端にビニルベンジル基(エテニルベンジル基)を有するポリフェニレンエーテル化合物(ポリフェニレンエーテルとクロロメチルスチレンとを反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物)である。
【0272】
具体的には、以下のように反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物である。
【0273】
まず、温度調節器、攪拌装置、冷却設備、及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコに、ポリフェニレンエーテル(SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、末端水酸基数2個、重量平均分子量Mw1700)200g、p-クロロメチルスチレンとm-クロロメチルスチレンとの質量比が50:50の混合物(東京化成工業株式会社製のクロロメチルスチレン:CMS)30g、相間移動触媒として、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド1.227g、及びトルエン400gを仕込み、攪拌した。そして、ポリフェニレンエーテル、クロロメチルスチレン、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドが、トルエンに溶解するまで攪拌した。その際、徐々に加熱し、最終的に液温が75℃になるまで加熱した。そして、その溶液に、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)を20分間かけて、滴下した。その後、さらに、75℃で4時間攪拌した。次に、10質量%の塩酸でフラスコの内容物を中和した後、多量のメタノールを投入した。そうすることによって、フラスコ内の液体に沈殿物を生じさせた。すなわち、フラスコ内の反応液に含まれる生成物を再沈させた。そして、この沈殿物をろ過によって取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄した後、減圧下、80℃で3時間乾燥させた。
【0274】
得られた固体を、H-NMR(400MHz、CDCl、TMS)で分析した。NMRを測定した結果、5~7ppmにビニルベンジル基(エテニルベンジル基)に由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、分子末端に、前記置換基としてビニルベンジル基(エテニルベンジル基)を分子中に有する変性ポリフェニレンエーテル化合物であることが確認できた。具体的には、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。この得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物は、上記式(18)で表され、式(18)中のYがジメチルメチレン基(式(16)で表され、式(16)中のR44及びR45がメチル基である基)であり、Zがフェニレン基であり、R12~R14が水素原子であり、pが1である変性ポリフェニレンエーテル化合物であった。
【0275】
また、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数を、以下のようにして測定した。
【0276】
まず、変性ポリフェニレンエーテルを正確に秤量した。その際の重量を、X(mg)とする。そして、この秤量した変性ポリフェニレンエーテルを、25mLの塩化メチレンに溶解させ、その溶液に、10質量%のテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)のエタノール溶液(TEAH:エタノール(体積比)=15:85)を100μL添加した後、UV分光光度計(株式会社島津製作所製のUV-1600)を用いて、318nmの吸光度(Abs)を測定した。そして、その測定結果から、下記式を用いて、変性ポリフェニレンエーテルの末端水酸基数を算出した。
【0277】
残存OH量(μmol/g)=[(25×Abs)/(ε×OPL×X)]×10
ここで、εは、吸光係数を示し、4700L/mol・cmである。また、OPLは、セル光路長であり、1cmである。
【0278】
そして、その算出された変性ポリフェニレンエーテルの残存OH量(末端水酸基数)は、ほぼゼロであることから、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基が、ほぼ変性されていることがわかった。このことから、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数からの減少分は、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数であることがわかった。すなわち、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数が、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数であることがわかった。つまり、末端官能基数が、2個であった。
【0279】
また、変性ポリフェニレンエーテルの、25℃の塩化メチレン中で固有粘度(IV)を測定した。具体的には、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)を、変性ポリフェニレンエーテルの、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計(Schott社製のAVS500 Visco System)で測定した。その結果、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)は、0.086dl/gであった。
【0280】
また、変性ポリフェニレンエーテルの分子量分布を、GPCを用いて、測定した。そして、その得られた分子量分布から、重量平均分子量(Mw)を算出した。その結果、Mwは、1900であった。
【0281】
変性PPE2:ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル(上記式(19)で表され、式(19)中のYがジメチルメチレン基(式(16)で表され、式(16)中のR44及びR45がメチル基である基)である変性ポリフェニレンエーテル化合物、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000、重量平均分子量Mw2000、末端官能基数2個)
ブタジエン-スチレンオリゴマー:クレイバレー社製のRicon100
【0282】
(硬化剤)
アセナフチレン:JFEケミカル株式会社製のアセナフチレン
マレイミド化合物:株式会社日本触媒製のイミレックスP
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマー:水添スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体(JSR株式会社製のDYNARON9901P、スチレン由来の構成単位の含有量53質量%、重量平均分子量100000)
【0283】
(無機充填材)
シリカ1:前記シラノール基量が1.0%のシリカ(株式会社アドマテックス製の5SV-C5、低誘電正接処理シリカ、体積平均粒子径0.5μm)
シリカ2:前記シラノール基量が1.4%のシリカ(株式会社アドマテックス製の10SV-C5、低誘電正接処理シリカ、体積平均粒子径1.0μm)
シリカ3:前記シラノール基量が1.3%のシリカ(株式会社アドマテックス製の3SV-C3、低誘電正接処理シリカ、体積平均粒子径0.3μm)
シリカ4:前記シラノール基量が1.5%のシリカ(低誘電正接処理シリカ、体積平均粒子径0.6μm)
シリカ5:前記シラノール基量が4.0%のシリカ(株式会社アドマテックス製のSC2300-SVJ、体積平均粒子径0.5μm)
シリカ6:前記シラノール基量が3.9%のシリカ(株式会社アドマテックス製の10SV-C4、体積平均粒子径1.0μm)
シリカ1~6の、前記シラノール基量(全Si原子の数に対するシラノール基に含まれるSi原子の数の比率)は、以下のように測定した。
【0284】
まず、Chemagnetics社製のCMX300を用いて、各シリカをDD法による固体29Si-NMR測定をして、各シリカのスペクトルを得た。なお、そのときの測定条件としては、DD/MAS(Dipolar Decoupling - Magic Angle Spinning:双極子デカップリング/マジック角回転)法を用い、パルス系列をDD/MASとし、共鳴周波数を59.6MHz(29Si)とし、MAS速度を7000HZとし、積算回数を360回とし、遅延時間を300秒として測定した。得られたスペクトルに、株式会社堀場製作所製のLabSpecを用いて、ローレンツ形、ガウス形、及びこれらの混合波形に近似し、ピーク分離回析をして、前記Q2構造のピーク面積(SQ2)、前記Q3構造のピーク面積(SQ3)、及び前記Q4構造のピーク面積(SQ4)を求めた。具体的には、ピークトップが-90ppmのピークの面積(積分値)、ピークトップが-100ppmのピークの面積(積分値)、及びピークトップが-110ppmのピークの面積(積分値)を、SQ2、SQ3、及びSQ4として求めた。これらのピーク面積から、SQ2とSQ3とSQ4との合計に対する、SQ2とSQ3との合計の比率(=(SQ2+SQ3)/(SQ2+SQ3+SQ4)×100(%))を算出した。この比率が、前記Q2構造、前記Q3構造、及び前記Q4構造の合計数の数に対する前記Q2構造及び前記Q3構造の合計数の割合であって、前記シラノール基量とした。
【0285】
(調製方法)
まず、無機充填材以外の上記各成分を表3及び表4に記載の組成(質量部)で、固形分濃度が55質量%となるように、トルエンに添加し、混合させた。その混合物を60分間攪拌した。その後、得られた液体に無機充填材を添加し、ビーズミルで充填材を分散させた。そうすることによって、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
【0286】
次に、以下のようにして、評価基板(プリプレグの硬化物)を得た。
【0287】
得られたワニスを繊維質基材(ガラスクロス:旭化成株式会社製のGC2116L、#2116タイプ、Lガラス)に含浸させた後、110℃で3分間加熱乾燥することによりプリプレグを作製した。その際、硬化反応により樹脂を構成する成分の、プリプレグに対する含有量(レジンコンテント)が56質量%となるように調整した。そして、得られた各プリプレグを6枚重ねて、温度200℃、2時間、圧力3MPaの条件で加熱加圧することにより評価基板(プリプレグの硬化物)を得た。
【0288】
次に、以下のようにして、評価基板(金属張積層板)を得た。
【0289】
前記ワニスを繊維質基材(ガラスクロス:旭化成株式会社製のGC1078L、#1078タイプ、Lガラス)に含浸させた後、110℃で2分間加熱乾燥することによりプリプレグを作製した。その際、硬化反応により樹脂を構成する成分の、プリプレグに対する含有量(レジンコンテント)が67質量%となるように調整した。
【0290】
得られた各プリプレグを2枚重ねて、その両側に、銅箔(古河電気工業株式会社のFV-WS、厚み18μm)を配置して被圧体とし、温度200℃、圧力3MPaの条件で2時間加熱・加圧して、両面に銅箔が接着された評価基板(金属張積層板)である銅箔張積層板を作製した。
【0291】
上記のように調製された評価基板(プリプレグの硬化物、及び金属張積層板)を、以下に示す方法により評価を行った。
【0292】
[吸水処理前の誘電正接]
10GHzにおける評価基板(プリプレグの硬化物)の誘電正接を、空洞共振器摂動法で測定した。具体的には、ネットワーク・アナライザ(キーサイト・テクノロジー株式会社製のN5230A)を用い、10GHzにおける評価基板の誘電正接を測定した。
【0293】
[吸水処理後の誘電正接]
前記吸水処理前の誘電正接の測定で用いた評価基板を、JIS C 6481(1996年)を参考にして吸水処理させ、この吸水処理させた評価基板の誘電正接(吸湿後の誘電正接)を、前記吸水処理前の誘電正接の測定と同様の方法で測定した。なお、前記吸水処理としては、前記評価基板を恒温空気(50℃)中で24時間処理し、恒温水(23℃)中で24時間処理した後、評価基板上の水分を、乾燥した清浄な布で充分にふき取った。
【0294】
[誘電正接の変化量(吸水処理後-吸水処理前)]
吸水処理前の誘電正接と吸水処理後の誘電正接の差(吸水処理後の誘電正接-吸水処理前の誘電正接)を算出した。
【0295】
[吸水率(%)]
評価基板(金属張積層板)の銅箔を除去した積層板を評価基板として用い、JIS C 6481(1996年)に従い、吸水率を測定した。具体的には、まず、前記評価基板の質量(吸水処理前の質量)を測定した。この質量を測定した評価基板を、前記「吸水処理後の誘電正接」の評価における吸水処理を行った。この吸水処理後の評価基板の質量(吸水処理後の質量)を測定した。この吸水処理前の質量と吸水処理後の質量とから、吸水率(%)を算出した。吸水率(%)は、具体的には、吸水処理前の質量に対する、吸水処理後の質量と吸水処理前の質量との差分の比率[=(吸水処理後の質量-吸水処理前の質量)/吸水処理前の質量×100(%)]である。
【0296】
[吸湿半田耐熱性]
前記評価基板を作製する際に、プリプレグを重ねる枚数を6枚にすることによって、両面に厚み35μmの銅箔が接着された、厚み約0.8mmの銅箔張積層板(金属箔張積層板)を得た。この形成された銅箔張積層板を50mm×50mmに切断し、両面銅箔をエッチングして除去した。このようにして得られた評価用積層体を、温度121℃相対湿度100%の条件下で6時間保持した。その後、この評価用積層体を、288℃の半田槽中に10秒間浸漬した。そして、浸漬した積層体に、ミーズリングや膨れ等の発生の有無を目視で観察した。ミーズリングや膨れ等の発生が確認されなければ、「○」と評価した。ミーズリングや膨れ等の発生が確認されれば、「×」と評価した。
【0297】
[ガラス転移温度(DMA)(Tg)]
セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータ「DMS6100」を用いて、プリプレグのTgを測定した。このとき、曲げモジュールで周波数を10Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から320℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。
【0298】
[伝送損失]
評価基板(金属張積層板)の一方の金属箔(銅箔)を加工して、線幅100~300μm、線長1000mm、線間20mmの配線を10本形成させた。この配線を形成させた基板、配線を形成させた側の表面上に、2枚のプリプレグと金属箔(銅箔)とを2次積層することによって、3層板を作製した。なお、配線の線幅は、3層板を作製した後の回路の特性インピーダンスが50Ωとなるように、調整した。
【0299】
得られた3層板に形成された配線の20GHzでの伝送損失(通過損失)(dB/m)は、ネットワーク・アナライザ(キーサイト・テクノロジー合同会社製のN5230A)を用いて、測定した。
【0300】
上記各評価における結果は、表3及び表4に示す。
【0301】
【表3】
【0302】
【表4】
【0303】
表3及び表4からわかるように、分子中に前記式(1)で表される構造単位を重合体と、前記シラノール基量が3%以下であるシリカとを含む場合(実施例1~12)は、ガラス転移温度が高く、吸湿半田耐熱性も高く、かつ、誘電正接が低かった。さらに、実施例1~12に係る樹脂組成物の硬化物は、吸水処理後であっても、吸水による誘電正接の上昇を充分に抑制されていた。これらのことから、これらの樹脂組成物は、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物であることがわかる。また、分子中に前記式(1)で表される構造単位を重合体と、前記シラノール基量が3%以下であるシリカとを含む場合、硬化剤として、アセトナフチレンを用いても(実施例2等)、マレイミド化合物を用いても(実施例9)、ガラス転移温度が高く、吸湿半田耐熱性も高く、かつ、誘電正接が低い樹脂組成物が得られ、さらに、吸水処理後であっても、吸水による誘電正接の上昇を充分に抑制された硬化物が得られた。このことから、硬化剤として、アセトナフチレンもマレイミド化合物も用いることができ、用いる硬化剤に限定されないことがわかる。また、分子中に前記式(1)で表される構造単位を重合体と、前記シラノール基量が3%以下であるシリカとを含む場合は、スチレン系エラストマーを併用しても(実施例10)、変性PPEを併用しても(実施例11及び実施例12)、ガラス転移温度が高く、吸湿半田耐熱性も高く、かつ、誘電正接が低い樹脂組成物が得られ、さらに、吸水処理後であっても、吸水による誘電正接の上昇を充分に抑制された硬化物が得られた。このことから、スチレン系エラストマーを併用することや、変性PPEを併用することが好ましいことがわかる。
【0304】
これに対して、前記シラノール基量が3%を超えるシリカを含む場合(比較例1~6)は、実施例1~12と比較すると、誘電正接が高く、さらに、吸水による誘電正接の変化量も大きかった。
【0305】
また、前記重合体を含有せずに、ブタジエン-スチレンオリゴマーを含有する場合(比較例7)は、実施例1~12と比較すると、ガラス転移温度が低く、吸湿半田耐熱性も低かった。
【0306】
次に、以下のようにして、樹脂付きフィルムを得た。
【0307】
実施例2及び比較例2に係るワニス状の樹脂組成物(ワニス)を、それぞれポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗布し、110℃で3分間加熱乾燥することにより、樹脂付きフィルムを作製した。なお、この樹脂付きフィルムは、PETフィルム上に積層された樹脂層が、前記樹脂組成物であった。この樹脂組成物は、硬化前の樹脂組成物であって、仮に硬化していても、前記樹脂組成物の半硬化物であった。
【0308】
この樹脂付きフィルムをクロロホルムに浸漬させて、周波数28kHzの条件で、30分間超音波洗浄した。この超音波洗浄により、前記樹脂層(前記樹脂組成物)に含まれている無機充填材が前記樹脂フィルムの樹脂層からクロロホルムに抽出された。そして、この無機充填材が抽出されたクロロホルムから、前記無機充填材をろ別して乾燥させた。そうすることによって、実施例2及び比較例2に係る樹脂組成物から無機充填材を抽出した。
【0309】
実施例2に係る樹脂組成物から抽出された無機充填材のシラノール基量を、上記の方法で測定した。その結果、1.3%であった。
【0310】
比較例2に係る樹脂組成物から抽出された無機充填材のシラノール基量を、上記の方法で測定した。その結果、4.2%であった。
【0311】
このことから、分子中に前記式(1)で表される構造単位を重合体と、無機充填材とを含む樹脂組成物であって、前記無機充填材がシリカを含み、前記樹脂組成物から抽出された無機充填材のシラノール基量が3%以下である場合(実施例2)は、前記抽出された無機充填材のシラノール基量が3%を超える場合(比較例2)と比較して、誘電正接が低く、吸水処理後であっても、吸水による誘電正接の上昇を抑制された硬化物が得られた。
【0312】
この出願は、2019年8月7日に出願された日本国特許出願特願2019-145498を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0313】
本発明を表現するために、上述において実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0314】
本発明によれば、誘電特性が低く、耐熱性の高い硬化物であって、吸水処理後であっても、低誘電特性を好適に維持することができる硬化物が得られる樹脂組成物が提供される。また、本発明によれば、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6