(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】交絡装置、及び糸巻取機
(51)【国際特許分類】
D02J 1/00 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
D02J1/00 L
(21)【出願番号】P 2021022744
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000223274
【氏名又は名称】湯浅糸道工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
(72)【発明者】
【氏名】川本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】水谷 光範
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-179807(JP,A)
【文献】特開2019-105007(JP,A)
【文献】特開2002-105791(JP,A)
【文献】特開昭48-073543(JP,A)
【文献】特開2016-160550(JP,A)
【文献】特開昭61-194243(JP,A)
【文献】特開平06-081240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02J 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィラメントを有する走行中の糸に交絡を付与する交絡装置であって、
前記糸を所定の第1方向に走行させるための糸走行空間と、前記糸走行空間に流体を前記第1方向と交差する第2方向に噴射する噴射孔とを有し、前記糸走行空間に前記噴射孔から噴射される前記流体によって前記糸に交絡を付与する交絡部と、
前記第1方向において前記交絡部と離隔した位置に配置され、前記第1方向から見たときに前記第2方向と交差する第3方向において前記糸の移動を規制する規制部と、
前記第1方向において前記交絡部と前記規制部との間に配置され、前記糸走行空間を走行する前記糸を前記第3方向に拡幅する拡幅部と、を備え
、
前記拡幅部は、前記糸の前記第3方向における幅と前記噴射孔の前記第3方向における大きさとの差が減少するように前記糸を拡幅することを特徴とする交絡装置。
【請求項2】
前記拡幅部は、前記第3方向において、前記糸のうち少なくとも前記糸走行空間を走行している部分の幅を、前記糸のうち前記規制部によって規制されている部分の幅よりも大きくすることを特徴とする請求項1に記載の交絡装置。
【請求項3】
前記拡幅部は、前記第3方向に延びた棒状の拡幅ガイドを有することを特徴とする請求項1
又は2に記載の交絡装置。
【請求項4】
前記拡幅部は、前記糸との接触部分の少なくとも一部が、前記第1方向から見たときに前記糸走行空間と重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の交絡装置。
【請求項5】
前記拡幅部は、前記糸との接触部分が湾曲していることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の交絡装置。
【請求項6】
前記拡幅部は、回転不能であることを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の交絡装置。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の交絡装置と、
前記交絡装置によって交絡を付与された糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取部と、を備えることを特徴とする糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交絡装置、及び、交絡装置を備える糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された紡糸引取装置(糸巻取機)は、複数のフィラメントを有する糸に対して流体によって交絡を付与する交絡装置を備える。交絡装置は、所定方向に延びた糸走行空間と、糸走行空間に流体を噴射するための噴射孔とが形成された交絡部を有する。また、交絡部の所定方向における両側には、第1規制部(規制部)が配置されている。規制部は、所定方向から見たときに、糸が糸走行空間の中心部に配置されるように構成されている。このような交絡装置において、流体が噴射孔を通って糸走行空間に噴射されると、糸が流体によって開繊されて回旋させられる。これにより、フィラメント同士が絡まり合う領域(交絡点)が概ね一定のピッチで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
交絡点間の距離は、完全に制御されることが難しく、ある程度ばらつくことが一般的に知られている。糸において交絡点間の距離が長い部分(すなわち、フィラメントが互いに離れてしまいやすい部分)があると、以下のような問題が生じうる。例えば、糸がボビンに巻き取られて形成されたパッケージにおいて、外層の糸が内層の糸に引っかかってしまいやすくなる。これにより、パッケージから糸を正常に解舒できなくなるおそれがある。このような問題を抑制するためには、糸に対していっそう効率的に交絡を付与する必要がある。しかしながら、単純に流体の圧力又は流量を増大させるのでは、糸に対する勢いが強くなりすぎてしまい、糸が糸走行空間内壁面に接触してしまうことによる糸品質の低下及び/又はランニングコストの増大等の問題が生じうる。
【0005】
本発明の目的は、流体の圧力又は流量を増大させなくても、糸への交絡の付与効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の交絡装置は、複数のフィラメントを有する走行中の糸に交絡を付与する交絡装置であって、前記糸を所定の第1方向に走行させるための糸走行空間と、前記糸走行空間に流体を前記第1方向と交差する第2方向に噴射する噴射孔とを有し、前記糸走行空間に前記噴射孔から噴射される前記流体によって前記糸に交絡を付与する交絡部と、前記第1方向において前記交絡部と離隔した位置に配置され、前記第1方向から見たときに前記第2方向と交差する第3方向において前記糸の移動を規制する規制部と、前記第1方向において前記交絡部と前記規制部との間に配置され、前記糸走行空間を走行する前記糸を前記第3方向に拡幅する拡幅部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明では、第3方向における糸の中心位置を規制部によって規定できる。さらに、糸走行空間を走行する糸は、拡幅部によって第3方向に拡幅される。これにより、噴射孔を通って第2方向に噴射される流体を糸に効率的に当てることができる。このため、流体の圧力又は流量を増大させなくても、流体を糸に効果的に作用させることができ、糸を効率的に開繊し回旋させることができる。したがって、流体の圧力又は流量を増大させなくても、糸への交絡の付与効率を向上させることができる。
【0008】
第2の発明の交絡装置は、前記第1の発明において、前記拡幅部は、前記第3方向において、前記糸のうち少なくとも前記糸走行空間を走行している部分の幅を、前記糸のうち前記規制部によって規制されている部分の幅よりも大きくすることを特徴とする。
【0009】
本発明では、第3方向において、拡幅部によって広げられる糸の幅が、規制部によって従来規定されていた糸の幅よりも大きくなる。したがって、噴射孔を通って噴射された流体を糸に効率的に当てることができる。
【0010】
第3の発明の交絡装置は、前記第1又は第2の発明において、前記拡幅部は、前記糸の前記第3方向における幅と前記噴射孔の前記第3方向における大きさとの差が減少するように前記糸を拡幅することを特徴とする。
【0011】
本発明では、噴射孔を通って噴射された流体を糸に最大限効率的に当てることができる。
【0012】
第4の発明の交絡装置は、前記第1~第3のいずれかの発明において、前記拡幅部は、前記第3方向に延びた棒状の拡幅ガイドを有することを特徴とする。
【0013】
本発明では、第1方向に走行している糸に対して棒状の拡幅ガイドによって抵抗を付与することで、糸を第3方向に拡幅することができる。したがって、シンプルな構造によって糸を拡幅できる。
【0014】
第5の発明の交絡装置は、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記拡幅部は、前記糸との接触部分の少なくとも一部が、前記第1方向から見たときに前記糸走行空間と重なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0015】
拡幅部の糸との接触部分は、第1方向から見たときに必ずしも糸走行空間と重なる位置に配置されていなくても良い。但し、このような場合、糸が糸走行空間内に適切に導かれるためには、第1方向において交絡部と拡幅部との間に別のガイドを配置する必要が生じる。本発明では、拡幅部が、糸を糸走行空間内に適切に導くガイドとしても機能する。したがって、交絡装置の構造を単純化できる。
【0016】
第6の発明の交絡装置は、前記第1~第5のいずれかの発明において、前記拡幅部は、前記糸との接触部分が湾曲していることを特徴とする。
【0017】
本発明では、接触部分が角を有している場合と比べて、走行中の糸に対して拡幅部によってダメージが与えられることを抑制できる。したがって、糸切れを抑制できる。
【0018】
第7の発明の交絡装置は、前記第1~第6のいずれかの発明において、前記拡幅部は、回転不能であることを特徴とする。
【0019】
拡幅部が糸の走行に応じて回転する構成では、糸に抵抗を付与する効率が下がり、糸が拡幅されにくくなる。本発明では、拡幅部が回転不能であるため、糸に対して効率的に抵抗を付与できる。したがって、糸を効率的に拡幅できる。
【0020】
第8の発明の糸巻取機は、前記第1~第7のいずれかの発明の交絡装置と、前記交絡装置によって交絡を付与された糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明では、交絡が安定的に付与された糸を用いてパッケージを形成できる。このため、パッケージの外層の糸が内層の糸に引っかかることに起因する糸の解舒不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係る交絡装置を備える紡糸引取機の側面図である。
【
図5】(a)は、糸の交絡点を示す説明図であり、(b)は、糸の断面を示す説明図である。
【
図8】(a)は、実施例に係る糸の断面形状を示す説明図であり、(b)、(c)は、比較例に係る糸の断面形状を示す説明図である。
【
図10】変形例に係る交絡装置の、第1方向と直交する断面図である。
【
図11】変形例に係る交絡装置の、左右方向と直交する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について説明する。説明の便宜上、
図1に示す方向を上下方向及び前後方向とする。上下方向は、重力が作用する鉛直方向である。前後方向は、上下方向と直交する、複数のボビンB(後述)が並べて配置される方向である。上下方向及び前後方向の両方と直交する方向を左右方向とする。糸Y(後述)が走行する方向を糸走行方向とする。
【0024】
(紡糸引取機)
本実施形態に係る紡糸引取機1(本発明の糸巻取機)の概略について、
図1を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る交絡装置30(後述)を備える紡糸引取機1の側面図である。紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出される複数の糸Yを引き取って複数のボビンBにそれぞれ巻き取り、複数のパッケージPを形成するように構成されている。各糸Yは、複数のフィラメントf(
図5(a)、(b)参照)を有するマルチフィラメント糸である。各フィラメントfは、例えばポリエステルからなる合成繊維である。
【0025】
紡糸引取機1は、引取部3と、巻取部4とを備える。引取部3は、紡糸装置2から紡出される複数の糸Yを引き取るように構成されている。引取部3は、例えば、延伸装置10と、第1ゴデットローラ11と、第2ゴデットローラ12と、交絡ユニット13とを有する。延伸装置10は、紡糸装置2の下方に配置されている。延伸装置10は、不図示の複数の延伸ローラを有し、糸Yを延伸するように構成されている。第1ゴデットローラ11は、回転軸方向が左右方向と略平行なローラである。第1ゴデットローラ11は、延伸装置10の下方に配置されている。第1ゴデットローラ11は、不図示のモータによって回転駆動される。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、左右方向に並べて第1ゴデットローラ11に巻きかけられた状態で第2ゴデットローラ12へ送られる。第2ゴデットローラ12は、回転軸方向が左右方向と略平行なローラである。第2ゴデットローラ12は、第1ゴデットローラ11の上方且つ後方に配置されている。第2ゴデットローラ12は、不図示のモータによって回転駆動される。複数の糸Yは、第1ゴデットローラ11から第2ゴデットローラ12に送られ、さらに巻取部4へ送られる。第1ゴデットローラ11から第2ゴデットローラ12へ走行する糸Yが通る糸道は、斜め上後方へ延びている。当該糸道は、上下方向及び前後方向の両方の成分を有し、左右方向と略直交している。交絡ユニット13は、例えば、糸走行方向において延伸装置10と第1ゴデットローラ11との間に配置されている。或いは、交絡ユニット13は、糸走行方向において第1ゴデットローラ11と第2ゴデットローラとの間に配置されていても良い。交絡ユニット13は、複数の糸Yの各々に交絡を付与するように構成されている(詳細は後述)。
【0026】
巻取部4は、複数の糸Yを複数のボビンBに巻き取ってパッケージPを形成するように構成されている。巻取部4は、引取部3の下側に配置されている。巻取部4は、複数の支点ガイド21と、複数のトラバースガイド22と、ターレット23と、2本のボビンホルダ24と、コンタクトローラ25とを備える。
【0027】
複数の支点ガイド21は、糸Yが各トラバースガイド22によって綾振りされる際の支点となるガイドである。複数の支点ガイド21は、複数の糸Yに対応してそれぞれ設けられている。複数の支点ガイド21は、前後方向に配列されている。複数のトラバースガイド22は、複数の支点ガイド21と同様、複数の糸Yに対応してそれぞれ設けられている。複数のトラバースガイド22は、前後方向に並べて配置されている。トラバースガイド22は、例えば不図示のトラバースモータによって駆動されることにより、糸Yを前後方向に綾振りするように構成されている。ターレット23は、回転軸方向が前後方向と略平行な円板状の部材である。ターレット23は、不図示のターレットモータによって回転駆動される。2本のボビンホルダ24の各々は、回転軸方向が前後方向と略平行であり、ターレット23の上端部及び下端部に回転自在に支持されている。各ボビンホルダ24には、複数の糸Yにそれぞれ対応する複数のボビンBが前後方向に並べて装着されている。複数のボビンBは、ボビンホルダ24に回転可能に支持されている。2つのボビンホルダ24の各々は、不図示の巻取モータによって個別に回転駆動される。コンタクトローラ25は、回転軸方向が前後方向と略平行なローラであり、上側のボビンホルダ24のすぐ上方に配置されている。コンタクトローラ25は、上側のボビンホルダ24に支持された複数のパッケージPの表面に接触することで、巻取中のパッケージPの表面に接圧を付与して、パッケージPの形状を整える。
【0028】
以上の構成を有する巻取部4において、上側のボビンホルダ24が回転駆動されると、トラバースガイド22によって綾振りされた糸YがボビンBに巻き取られて、パッケージPが形成される。また、パッケージPが満巻きになった場合、ターレット23が回転させられることにより、2本のボビンホルダ24の上下の位置が入れ換わる。これにより、下側に位置していたボビンホルダ24が上側に移動し、このボビンホルダ24に装着されたボビンBに糸Yを巻き取ってパッケージPを形成することができる。また、満巻になったパッケージPが装着されたボビンホルダ24は下側に移動する。満巻になったパッケージPは、例えば不図示のパッケージ回収装置によって回収される。
【0029】
(交絡ユニット)
次に、交絡ユニット13の構成及び機能について
図2~
図5を参照しつつ説明する。
図2は、後述する交絡装置30の、左右方向と直交する断面図である。
図3は、
図2のIII-III線断面図である。
図4は、
図2のIV-IV線断面図である。
図5(a)は、糸Yの交絡点Pi(後述)を示す説明図である。
図5(b)は、糸Yの断面を例示した説明図である。
図2以降においては、糸Y全体の太さを考慮に入れ、糸Yの両外側の端を二点鎖線で示していることに留意されたい(詳細については後述)。
【0030】
交絡ユニット13は、例えば圧縮空気(本発明の流体)によって、複数の糸Yの各々に交絡を付与するように構成されている。交絡を付与するとは、大まかには、各糸Yを構成する複数のフィラメントf(
図5(a)、(b)の破線参照)が互いに離れ過ぎてしまうことを抑制するために、複数のフィラメントfを互いに絡み合わせることをいう。
【0031】
本実施形態では、説明の便宜上、交絡ユニット13が複数の交絡装置30を有するものとする。本実施形態では、複数の交絡装置30の各々が、1本の糸Yに交絡を付与する。なお以下では、複数の交絡装置30のうち1つの交絡装置30に関してのみ説明する。以下、後述する交絡部32が長く延びる方向を第1方向とする。
図2の紙面右側が、第1方向における一方側である。図2の紙面左側が、第1方向における他方側である。紡糸引取機1において、第1方向は、延伸装置10から第1ゴデットローラ11へ走行する糸Yの糸道と略平行である(
図1参照)。第1方向及び左右方向の両方と直交する方向を、交絡装置30の高さ方向(以下、単に高さ方向)とする。
図2の紙面上側が、高さ方向における一方側である。図2の紙面下側が、高さ方向における他方側である。第1方向と交差する、後述の噴射孔41bが延びるノズル延在方向を第2方向とする。本実施形態においては、左右方向を第3方向とも呼ぶ。第3方向は、第1方向から見たときに第2方向と直交(交差)している(
図4参照)。
【0032】
図2に示すように、交絡装置30は、ベース部材31と、交絡部32と、2つの規制ガイド33(規制ガイド34、35。本発明の規制部)とを有する。ベース部材31は、例えば、第1方向及び左右方向(第3方向)に延びた板状の部材である。ベース部材31の高さ方向一方側の面に交絡部32及び規制ガイド34、35が固定されている。ベース部材31には、圧縮空気が流れる流路31aが形成されている。流路31aは、不図示の圧縮空気源と接続されている。
【0033】
図2に示すように、交絡部32は、第1方向に延びている。交絡部32は、例えば、第1交絡片41と、第2交絡片42とを有する(
図2及び
図4参照)。第1交絡片41は、概ね直方体状の部材である。第1交絡片41は、第1方向に延びている。第1交絡片41は、ベース部材31に固定されている。第1交絡片41の高さ方向一方側部分
(すなわち、高さ方向においてベース部材31から遠い側の部分)には、第1方向から見たときに概ねU字状の凹部41a(
図4参照)が形成されている。凹部41aは、第1交絡片41の第1方向における全域に亘って延びている。第2交絡片42は、概ね直方体状の部材である。第2交絡片42は、第1方向に延びている。第2交絡片42は、第1交絡片41の高さ方向一方側の面
(すなわち、高さ方向においてベース部材31から遠い側の面)に固定されている。第2部材の高さ方向他方側部分
(すなわち、高さ方向においてベース部材31に近い側の部分)には、第1方向から見たときに概ね逆U字状の凹部42a(
図4参照)が形成されている。凹部42aは、第2交絡片42の第1方向における全域に亘って延びている。第1交絡片41の凹部41aと第2交絡片42の凹部42aとによって、糸Yが第1方向に走行可能な糸走行空間43が形成されている。また、第1交絡片41と第2交絡片42とによって、第1方向に延びたスリット44が形成されている。糸Yが交絡装置30に掛けられる際(つまり、糸掛けが行われる際)、糸Yは、外部空間からスリット44を通って糸走行空間43に入れられる。
【0034】
図2に示すように、例えば、第1交絡片41の第1方向における中央部分且つ高さ方向における他方側部分
(すなわち、高さ方向においてベース部材31に近い側の部分)には、少なくとも高さ方向に貫通した噴射孔41bが形成されている。噴射孔41bの延びるノズル延在方向(第2方向)は、例えば、高さ方向の成分及び第1方向の成分を有する。噴射孔41bは、流路31a及び糸走行空間43の両方に接続されている。
【0035】
2つの規制ガイド33(規制ガイド34、35)は、第3方向における糸Yの移動を規制するように構成されている。各規制ガイド33は、例えば、高さ方向に延びた平板状の部材である。各規制ガイド33は、ベース部材31の高さ方向一方側の面に固定されている。各規制ガイド33は、第1方向において交絡部32と離隔した位置に配置されている。規制ガイド34は、交絡部32の第1方向における一方側(糸走行方向における上流側)に配置されている。規制ガイド35は、交絡部32の第1方向における他方側(糸走行方向における下流側)に配置されている。各規制ガイド33は、例えば、第1方向から見たときに略U字状の溝33aを有する。溝33aの左右方向における両側には側面33b(
図3参照)が形成されている。溝33aの第3方向における幅(2つの側面33b間の第3方向における距離)は、例えばW1である(
図3参照)。溝33aによって、第3方向における両側への糸Yの移動が規制される。これにより、糸走行空間43を走行している糸Yの第3方向における中心位置が規定される。
【0036】
以上の構成を有する交絡装置30において、圧縮空気源から供給された圧縮空気が流路31a及び噴射孔41bを通って糸走行空間43内に噴射されると、糸走行空間43を走行している糸Y(複数のフィラメントf)に噴流が当たる。複数のフィラメントfは、噴流によって糸走行空間43内で広がり(開繊され)、回旋させられる。その結果、複数のフィラメントfが互いに絡まり合う領域(交絡点Pi。
図5参照)が形成される。交絡点Piは、糸Yの走行に伴い糸走行方向下流側へ移動する。複数のフィラメントfは、上述した交絡点Piを集束点として再び開繊されて回旋させられ、当該交絡点Piとは別の位置で再び絡まり合う。これを繰り返すことにより、概ね一定のピッチで糸Yに複数の交絡点Piが形成される。
【0037】
ここで、交絡点Pi間の距離は完全に制御されることが難しく、ある程度ばらつくことが一般的に知られている。交絡点Pi間の距離が長い部分(すなわち、フィラメントfが互いに離れてしまいやすい部分)があると、以下のような問題が生じうる。例えば、糸YがボビンBに巻き取られて形成されたパッケージPにおいて、外層(パッケージPの径方向外側の層)の糸Yが内層(パッケージPの径方向内側の層)の糸Yに引っかかってしまいやすくなる。これにより、後工程において、パッケージPから糸Yを正常に解舒できなくなるおそれがある。このような問題を抑制するためには、糸Yに対していっそう効率的に交絡を付与する必要がある。しかしながら、単純に圧縮空気の圧力又は流量を増大させるのでは、糸Yに対する勢いが強くなりすぎてしまい、糸Yが糸走行空間43の内壁面に接触してしまうことによる糸品質の低下及び/又はランニングコストの増大等の問題が生じる。そこで、本実施形態では、圧縮空気の圧力又は流量を増大させなくても、糸Yへの交絡の付与効率を向上させるため、交絡装置30がさらに以下のような構成を有する。
【0038】
(拡幅ガイド)
図2及び
図3に示すように、交絡装置30は、2つの拡幅ガイド50(拡幅ガイド51、52。本発明の拡幅部)を有する。拡幅ガイド51、52は、例えば第3方向に延びた丸棒状(棒状)の部材である。拡幅ガイド51、52は、ベース部材31に回転不能に取り付けられている。拡幅ガイド51は、規制ガイド34の第1方向における他方側(糸走行方向下流側)且つ交絡部32の第1方向における一方側(糸走行方向上流側)に配置されている。言い換えれば、拡幅ガイド51は、第1方向において規制ガイド34と交絡部32との間に配置されている。拡幅ガイド52は、交絡部32の第1方向における他方側(糸走行方向下流側)且つ規制ガイド35の第1方向における一方側(糸走行方向上流側)に配置されている。言い換えれば、拡幅ガイド52は、第1方向において交絡部32と規制ガイド35との間に配置されている。拡幅ガイド51、52は、第1方向から見たときに、一部が糸走行空間43と重なるように配置されている。これにより、拡幅ガイド51、52は走行中の糸Yと接触する。拡幅ガイド51、52は、高さ方向一方側の端部
(すなわち、高さ方向においてベース部材31から遠い側の端部)が糸Yに接触するように配置されている。糸Yは、拡幅ガイド51、52によって屈曲させられる。また、拡幅ガイド51、52の第3方向と直交する断面は、
図2に示すように、例えば略円形である。言い換えると、拡幅ガイド51の糸Yとの接触部分51a及び拡幅ガイド52の糸Yとの接触部分52aが凸状に湾曲している。拡幅ガイド51は、第1方向から見たときに、接触部分51aの少なくとも一部が糸走行空間43と重なる位置に配置されている。同様に、拡幅ガイド52は、第1方向から見たときに、接触部分52aの少なくとも一部が糸走行空間43と重なる位置に配置されている。これにより、拡幅ガイド51、52は、糸Yを糸走行空間43に適切に導くためのガイドとしても機能する。
【0039】
走行中の糸Yが、交絡部32の糸走行方向上流側に配置された拡幅ガイド51に接触することにより、糸Yに対して拡幅ガイド51によって抵抗が付与される。これにより、糸Yが第3方向に拡幅される。より具体的には、糸Yのうち、拡幅ガイド51の糸走行方向下流側且つ拡幅ガイド52の糸走行方向上流側を走行している部分が、第3方向に拡幅される(
図2~
図4参照)。糸走行空間43内の糸Yの具体的な形状として、複数のフィラメントfを有する糸Yの断面全体が、第3方向に大きく第2方向に小さい扁平形状となる(
図4参照)。拡幅ガイド50による拡幅の程度として、糸走行空間43を走行している糸Yの第3方向における幅が、糸Yのうち規制ガイド33によって規制されている部分の第3方向における幅(例えば上述したW1)よりも大きくなることが好ましい。また、噴射孔41bの第3方向における大きさを、W1よりも大きいW2(
図4参照)としたとき、糸走行空間43内の糸Yの第3方向における幅がW2に略一致するように(W2に近づくように)糸Yが拡幅されることが好ましい。
【0040】
このように糸Yが拡幅されることにより、糸走行空間43を走行している糸Yのうち、噴射孔41bと第2方向において向かい合う部分の面積が広くなる。これにより、糸Yに圧縮空気を効率的に当てることができる。このため、圧縮空気の圧力又は流量を増大させなくても、圧縮空気の噴流を糸Yに効果的に作用させることができる。これにより、従来よりも糸Yを効率的に開繊して回旋させることができ、糸Yへの交絡の付与効率を向上できると本願発明者は考えた。
【0041】
(交絡の付与効率の評価)
上記交絡装置30によって糸Yに交絡が付与される効率が実際に向上することを確認するため、本願発明者は以下の評価を行った。概要として、本願発明者は、実施例として2種類の交絡装置(実施例1、2。詳しくは後述)を準備し、比較例として2種類の交絡装置(比較例1、2。詳しくは後述)を準備した。本願発明者は、紡糸引取機1と同様の構成を有する紡糸引取機において、上記の計4種類の交絡装置を用いて、4種類の糸Yをそれぞれ作成した。さらに、本願発明者は、これらの糸Yに所定長さあたり形成された交絡点Piの数を数え、交絡の付与効率を評価した。
【0042】
以下、評価の詳細について、
図6~
図9を参照しつつ説明する。
図6は、比較例1に係る交絡装置100の断面図である。
図7は、比較例2に係る交絡装置100の断面図である。
図8(a)は、実施例1、2に係る糸Yの断面形状を示す説明図である。
図8(b)は、比較例1に係る糸Yの断面形状を示す説明図である。
図8(c)は、比較例2に係る糸Yの断面形状を示す説明図である。
図9は、糸Yへの交絡の付与効率の評価結果を示す表である。
【0043】
まず、実施例及び比較例に係る交絡装置の詳細について説明する。実施例1及び実施例2に係る交絡装置は、いずれも交絡装置30と同様の構成を有する。実施例1及び実施例2のいずれにおいても、糸走行空間43内の糸Yが第3方向に拡幅される(
図8(a)参照)。このような糸Yの断面形状を、説明の便宜上「横扁平」と称する(
図9参照)。実施例1と実施例2との相違点は以下のとおりである。実施例1においては、規制ガイド33の溝33aの第3方向における幅(すなわち、W1)が0.5mmである(
図9参照)。実施例2においては、W1が1.0mmであり(
図9参照)、実施例1におけるW1よりも大きい。
【0044】
比較例1に係る交絡装置は、拡幅ガイド50を有しない構成となっている。当該交絡装置の構造は、
図6に示された交絡装置100と同様である。交絡装置100は、交絡装置30から拡幅ガイド50が取り除かれたものと実質的に等しい。比較例1において、糸Yは拡幅されない(
図6及び
図8(b)参照)。比較例1において、上述したW1は、実施例1と同じく0.5mmである。比較例2に係る交絡装置は、
図7に記載の交絡装置100と同様の構成を有する。比較例2においては、
図7に示すように、交絡装置100全体が、第1ゴデットローラ11から第2ゴデットローラ12へ向かう糸道に対して左右方向に傾けられている。言い換えれば、第1方向が左右方向に傾けられている。
つまり、第1方向は、左右方向と直交していない。傾き角度は約7度である。これにより、比較例2においては、規制ガイド33の側面33bに糸Yが押し当てられる。このため、側面33bによって糸Yに抵抗が付与される。したがって、比較例2においては、第3方向と直交する方向に糸Yが拡幅される(
図8(c)参照)。このような糸Yの断面形状を、実施例1、2との対比のため「縦扁平」と称する。比較例2において、上述したW1は、実施例1と同じく0.5mmである。
【0045】
上述した交絡装置の違いを除き、糸Yの作成条件は実施例1、2及び比較例1、2において同じである。共通条件について説明する。糸Yの種類はポリエステルである。糸Yの太さは83dtexである。糸Yに含まれるフィラメントの数は36である。各交絡装置に供給された圧縮空気の圧力は0.35MPaである。これらの共通条件は、あくまで交絡の付与効率を実際に比較するために便宜上定められた条件である。すなわち、これらの共通条件が変更された場合でも、同様の比較結果が得られると予想されることに留意されたい。
【0046】
次に、糸Yへの交絡の付与効率の評価方法について説明する。本願発明者は、上記4種類の糸Yの各々において、所定の長さ(1000m)に亘って交絡点Piの数をカウントし、且つ、交絡点Pi間のピッチを測定した。数のカウント及びピッチの測定は、具体的には以下のようにして行われた。すなわち、形成されたパッケージPから解舒されて走行している糸Yに含まれる交絡点Piが、Textechno社製の交絡検出装置であるITEMAT+(商標)によって検出された。その上で、交絡点Piの数の情報及び交絡点Pi間のピッチの情報が、不図示のコンピュータ装置に記憶された。これらの情報を用いて、交絡の付与効率が評価された。
【0047】
図9には、実施例1、2及び比較例1、2に関して、単位長さ(1m)当たりの交絡点Piの個数(以下、平均交絡数)が示されている。平均交絡数が多いほど、交絡点Pi間の平均距離が短く、糸Yに交絡が効率的に付与されていると評価できる。実施例1の平均交絡数は、18.5個/mである。実施例2の平均交絡数は、19.2個/mである。比較例1の平均交絡数は、18.3個/mである。比較例2の平均交絡数は、17.2個/mである。
【0048】
以上の結果より、少なくとも2つの結論が導かれる。1つ目の結論として、上述したW1が同じである実施例1と比較例1、比較例2とを比較したとき、第3方向における糸Yの幅が広いほど平均交絡数が多い。これは、上述したように、糸Yが第3方向に拡幅されることにより、糸Yに噴流が効率的に当たることに起因すると考えられる。2つ目の結論として、上述したW1が互いに異なる実施例1と実施例2とを比較したとき、W1が広い実施例2において、平均交絡数がより多い。これは、糸Yが拡幅される前の第3方向における幅がある程度広い場合、糸Yが拡幅ガイド50によってさらに拡幅されやすくなるためであると考えられる。
【0049】
以上のように、第3方向における糸Yの中心位置を規制ガイド33によって規定できる。さらに、糸Yは、拡幅ガイド50によって第3方向に拡幅された状態で糸走行空間43を走行することができる。これにより、噴射孔41bを通って第2方向に噴射される圧縮空気を糸Yに効率的に当てることができる。このため、圧縮空気の圧力又は流量を増大させなくても、圧縮空気を糸Yに効果的に作用させることができ、糸Yを効率的に開繊し回旋させることができる。したがって、圧縮空気の圧力又は流量を増大させなくても、糸Yへの交絡の付与効率を向上させることができる。
【0050】
また、第3方向において、拡幅ガイド50によって広げられる糸Yの幅が、規制ガイド33によって従来規定されていた糸Yの幅よりも大きくなる。したがって、噴射孔41bを通って噴射された圧縮空気を糸Yに効率的に当てることができる。
【0051】
また、拡幅ガイド50は、糸Yの第3方向における幅が噴射孔41bの第3方向における大きさ(W2)に略一致するように(W2に近づくように、すなわち、糸Yの第3方向における幅とW2との差が減少するように)糸Yを拡幅する。これにより、噴射孔41bを通って噴射された圧縮空気を糸Yに最大限効率的に当てることができる。
【0052】
また、第1方向に走行している糸Yに対し棒状の拡幅ガイド50で抵抗を付与することによって、糸Yを第3方向に拡幅することができる。したがって、シンプルな構造によって糸Yを拡幅できる。
【0053】
また、拡幅ガイド51の接触部分51a及び拡幅ガイド52の接触部分52aが、第1方向から見たときに糸走行空間と重なる位置に配置されている。これにより、拡幅ガイド51及び拡幅ガイド52が、糸Yを糸走行空間43内に適切に導くガイドとしても機能する。したがって、交絡装置30の構造を単純化できる。
【0054】
また、拡幅ガイド51の糸Yとの接触部分51a及び拡幅ガイド52の糸Yとの接触部分52aが湾曲している。このため、接触部分51a、52aが角を有している場合と比べて、走行中の糸Yに対して拡幅ガイド50によってダメージが与えられることを抑制できる。したがって、糸切れを抑制できる。
【0055】
また、拡幅ガイド50は回転不能である。このため、拡幅ガイド50が糸Yの走行に応じて回転する構成と比べて、糸Yに対して効率的に抵抗を付与できる。したがって、糸Yを効率的に拡幅できる。
【0056】
また、交絡装置30を備える紡糸引取機1によって、交絡が安定的に付与された糸Yを用いてパッケージPを形成できる。このため、パッケージPの外層の糸Yが内層の糸Yに引っかかることに起因する糸Yの解舒不良の発生を抑制できる。
【0057】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0058】
(1)前記実施形態において、拡幅ガイド51、52の両方の高さ方向一方側の端部(すなわち、高さ方向においてベース部材31から遠い側の端部)が糸Yに接触するように配置されているものとしたが、これには限られない。拡幅ガイド51、52のうち一方又は両方において、高さ方向他方側の端部(すなわち、高さ方向においてベース部材31に近い側の端部)が糸Yに接触するように配置されていても良い。このような構成においても、糸Yに抵抗を付与することによって糸Yを第3方向に拡幅することができる。
【0059】
(2)前記までの実施形態において、拡幅ガイド50が回転不能であるものとしたが、これには限られない。例えば、拡幅ガイド50は、第3方向を回転軸方向として従動回転可能に構成されたローラであっても良い。なお、このような構成においては、拡幅ガイド50が糸Yの走行速度と同じ周速度で回転可能な場合、糸Yに抵抗が付与されにくいため、糸Yは拡幅されにくい。したがって、拡幅ガイド50の回転に抵抗を付与する抵抗付与部(不図示)が設けられていることが好ましい。このようにすることで、糸Yの擦過に起因する拡幅ガイド50の摩耗を抑制しつつ、糸Yを第3方向に拡幅することができる。
【0060】
(3)前記までの実施形態において、拡幅ガイド51の糸Yとの接触部分51a及び拡幅ガイド52の糸Yとの接触部分52aが湾曲しているものとしたが、これには限られない。接触部分51a、52aは、例えば、糸Yへのダメージが極力小さくなる程度に角を有していても良い。
【0061】
(4)前記までの実施形態において、拡幅ガイド51の接触部分51aの少なくとも一部が、第1方向から見たときに糸走行空間43と重なる位置に配置されているものとした。しかしながら、これには限られない。接触部分51aは、第1方向から見たときに、必ずしも糸走行空間43と重なる位置に配置されていなくても良い。拡幅ガイド52の接触部分52aの配置についても、同様である。なお、この場合、第1方向において交絡部32と拡幅ガイド51(又は拡幅ガイド52)との間に、糸Yを糸走行空間43に適切に導くためのガイド部材(不図示)が配置される必要がある。
【0062】
(5)前記までの実施形態において、拡幅ガイド50は、糸Yの第3方向における幅が噴射孔41bの第3方向における大きさ(W2)に略一致するように(W2に近づくように、すなわち、糸Yの第3方向における幅とW2との差が減少するように)糸Yを拡幅するものとしたが、これには限られない。W2と比べて、拡幅ガイド50によって拡幅された糸Yの第3方向における幅が小さくても良い。
【0063】
(6)前記までの実施形態において、拡幅ガイド50は交絡部32の第1方向における両側(糸走行方向における両側)に配置されているものとしたが、これには限られない。例えば、交絡部32の糸走行方向上流側にのみ拡幅ガイド50が配置されていても良い(すなわち、本発明の拡幅部として、拡幅ガイド51のみが設けられていても良い)。このような構成でも、糸走行空間43を走行する糸Yをある程度拡幅することができる。或いは、交絡部32の糸走行方向下流側にのみ拡幅ガイド50(すなわち、拡幅ガイド52)が配置されていても良い。
【0064】
(7)前記までの実施形態において、交絡ユニット13が複数の交絡装置30を有するものとし、複数の交絡装置30のうち1つの交絡装置30に関して説明した。しかしながら、これには限られない。例えば、交絡ユニット13は、複数の糸Y全てに交絡を付与する1つの交絡装置60(
図10~
図12参照)を有していても良い。
図10は、交絡装置60の第1方向と直交する断面図である。
図11は、交絡装置60の左右方向と直交する断面図である。
図12は、
図11のXII-XII線断面図である。第1方向、左右方向及び高さ方向の定義は、前記までの実施形態における定義と同様である。左右方向は、糸Yが配列される配列方向(
図10参照)である。
図10の紙面左側が、配列方向における一方側である。図10の紙面右側が、配列方向における他方側である。図10及び
図12は、交絡装置60の配列方向(後述)における一部のみを示している。交絡装置60においては、後述するように、ノズル延在方向(第2方向)及び第3方向の定義が、交絡装置30における定義とは異なる。
【0065】
交絡装置60の構成について具体的に説明する。
図10及び
図11に示すように、交絡装置60は、ベース部材61と、複数の交絡片62(本発明の交絡部)と、2つの規制ガイド63(
図11参照。本発明の規制部)と、2つの拡幅ガイド64(
図11参照。本発明の拡幅部)とを有する。ベース部材61には、流路61aと、複数の供給口61bとが形成されている。流路61aは、配列方向に延び、不図示の圧縮空気源と接続されている。複数の供給口61bは、ベース部材61の高さ方向一方側端部に形成されている。複数の供給口61bは、配列方向に並べて配置されている。複数の供給口61bは、流路61aと接続されている。複数の供給口61bの各々は、後述の供給路73と接続されている。複数の交絡片62の各々は、第1方向及び高さ方向に延びている。複数の交絡片62は、ベース部材61の高さ方向一方側の面に固定されている。複数の交絡片62は、配列方向に並べて配置されている。
図10に示すように、複数の交絡片62の各々には、糸走行空間71と、スリット72と、供給路73と、噴射孔74とが形成されている。糸走行空間71は、交絡片62を第1方向に貫通している。スリット72は、交絡片62の配列方向一方側の端部に形成され、第1方向に延びている。スリット72は、糸走行空間71と接続されている。スリット72の高さ方向における中心位置は、糸走行空間71の高さ方向における中心位置と略同じである。供給路73は、糸走行空間71の配列方向他方側
(すなわち、配列方向において、糸走行空間71を隔ててスリット72と反対側)に配置されている。供給路73は、高さ方向において、交絡片62の他方側の端から一方側へ
(すなわち、高さ方向において、交絡片62の、ベース部材61に近い端から、ベース部材61から遠い端の方へ)延びている。供給路73は、ベース部材61の供給口61bと接続されている。噴射孔74は、交絡片62の配列方向他方側
(すなわち、配列方向において、供給路73を隔てて糸走行空間71と反対側)の端部に形成されている。噴射孔74は、供給路73と接続されている。噴射孔74は、高さ方向においてスリット72と略同じ位置に形成されている。別の言い方をすれば、噴射孔74の高さ方向における中心位置は、糸走行空間71の高さ方向における中心位置と略同じである。噴射孔74は、交絡片62の第1方向中央部に形成されている(
図11参照)。噴射孔74は、配列方向と略平行に延びている。つまり、噴射孔74が延びるノズル延在方向(第2方向)は、上述した噴射孔41b(
図2等参照)が延びる方向と異なっている。また、この変形例においては、第1方向から見たときに高さ方向と略平行な方向が第3方向である(
図10参照)。すなわち、第3方向は、配列方向と略直交する(交差する)。ある交絡片62(例えば交絡片62A)に形成された噴射孔74は、配列方向において交絡片62Aの他方側
(すなわち、配列方向において、スリット72を隔てて供給路73と反対側)に隣接配置された別の交絡片62(例えば交絡片62B)のスリット72と配列方向において隣接している。つまり、交絡片62Aに形成された噴射孔74から噴射された圧縮空気は、交絡片62Bに形成された糸走行空間71内に噴射される。このように、ある糸走行空間71が形成された交絡片62(交絡片62B)と、当該糸走行空間71に接続された噴射孔74が形成された交絡片62(交絡片62A)は、互いに異なっていても良い。交絡片62Aの配列方向他方側の端面と交絡片62Bの配列方向一方側の端面との間
(すなわち、配列方向において互いに向かい合っている2つの端面の間)には、第1方向に延びたスリット75が形成されている。スリット75は、スリット72と接続され、高さ方向に延びている。糸Yが交絡装置60に掛けられる際、糸Yは、外部空間からスリット75及びスリット72を通って糸走行空間71に入れられる。
【0066】
2つの規制ガイド63(規制ガイド81、82。
図11及び
図12参照)は、第3方向における糸Yの移動を規制するように構成されている。規制ガイド81は、交絡片62の第1方向における一方側(糸走行方向における上流側)に配置されている。規制ガイド82は、交絡片62の第1方向における他方側(糸走行方向における下流側)に配置されている。各規制ガイド63は、例えば、上述した規制ガイド33と同様の形状を有している。規制ガイド63は、規制ガイド33の溝33aと同様の溝63aを有していても良い。規制ガイド63は、規制ガイド33の側面33bと同様の側面63bを有していても良い。規制ガイド63(及び規制ガイド33)は、第3方向における少なくとも一方側への糸Yの移動を規制するように構成されていれば良い。例えばこの変形例では、溝63aによって、高さ方向における他方側
(すなわち、高さ方向においてベース部材61に近い側)への糸Yの移動が規制される。但し、規制ガイド63(及び規制ガイド33)は、第3方向と異なる方向に糸Yを拡幅してしまわないように構成されていることが好ましい。例えばこの変形例では、側面63bによって、配列方向における両側への糸Yの移動が規制される。これにより、第2方向に糸Yが拡幅されてしまうことが抑制される。なお、規制ガイド63の形状はこれに限られない。規制ガイド63の代わりに、例えば、配列方向に延びた円筒形状の規制ガイド(不図示)が設けられていても良い。すなわち、規制ガイドは、上述した拡幅ガイド50(
図2等参照)と似た形状を有していても良い。このような規制ガイドによって、第3方向における糸Yの移動を規制することができる。この場合、糸Yが第2方向に拡幅されてしまうことを抑制するための規制溝(不図示)が、規制ガイドの外周部に形成されていると良い。
【0067】
2つの拡幅ガイド64(拡幅ガイド91、92。
図11及び
図12参照)は、第3方向(この変形例では高さ方向)に糸Yを拡幅するように構成されている。拡幅ガイド91は、第1方向において、規制ガイド81と交絡片62との間に配置されている。拡幅ガイド92は、第1方向において、交絡片62と規制ガイド82との間に配置されている。拡幅ガイド64は、例えば、高さ方向に延びた丸棒状の部材であっても良い。つまり、拡幅ガイド64は、上述した拡幅ガイド50と同様の形状を有していても良い。これにより、拡幅ガイド64の糸Yとの接触部分(接触部分91a、92a)によって糸Yに抵抗を付与することができる。したがって、糸Yを高さ方向(第3方向)に拡幅することができる(
図11及び
図12参照)。
【0068】
規制ガイド63、拡幅ガイド64及び糸走行空間71のより詳細な位置関係は、以下のとおりである。すなわち、
図12に示すように、第2方向において、規制ガイド81の側面63bと拡幅ガイド91の接触部分91aとの間の中心の位置は、糸走行空間71の第2方向における中心の位置と略等しい。また、第2方向において、規制ガイド82の側面63bと拡幅ガイド92の接触部分92aとの間の中心の位置も、糸走行空間71の第2方向における中心の位置と略等しい。これにより、拡幅ガイド64によって拡幅された(扁平になった)糸Yは、糸走行空間71の第2方向における略中心を通る。
【0069】
なお、拡幅ガイド64(及び、上述した拡幅ガイド50)は、糸Yを第3方向に拡幅するように構成されていれば、どのような形状を有していても良い。例えば、規制ガイド63の形状に類似した平板状のU字ガイド(不図示)が、拡幅ガイド64として設けられていても良い。なお、このような場合、U字ガイドに形成された溝(不図示)によって、第3方向における糸Yの移動を規制されないように、溝の位置及び/又は大きさを適切にする必要がある。また、拡幅ガイド64は、上述した(6)の変形例と同様、交絡片62の糸走行方向における上流側或いは下流側にのみ設けられていても良い。
【0070】
(8)交絡装置30、60は、紡糸引取機1以外の、走行する糸Yを取り扱う繊維機械に適用されても良い。
【符号の説明】
【0071】
1 紡糸引取機(糸巻取機)
30 交絡装置
32 交絡部
33 規制ガイド(規制部)
41 第1交絡片
41b 噴射孔
43 糸走行空間
50 拡幅ガイド(拡幅部)
51a 接触部分
52a 接触部分
f フィラメント
P パッケージ
Y 糸