IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ユアテックの特許一覧 ▶ 日本安全産業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】電線用工具および電線作業方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/04 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
H02G1/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024101629
(22)【出願日】2024-06-25
【審査請求日】2024-07-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222015
【氏名又は名称】株式会社ユアテック
(73)【特許権者】
【識別番号】592112558
【氏名又は名称】日本安全産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144886
【弁理士】
【氏名又は名称】大坪 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】三浦 広治
(72)【発明者】
【氏名】松木 景尚
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健司
(72)【発明者】
【氏名】安倍 友也
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-9926(JP,A)
【文献】特開2008-167591(JP,A)
【文献】特開2010-233302(JP,A)
【文献】特開2014-207825(JP,A)
【文献】特開2015-33250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線を切断または接続する際に使用する電線用工具であって、
長尺な芯材と、
前記芯材に配置され、前記電線を保持する第1保持部と、
前記芯材に前記第1保持部と離間して配置され、前記電線を保持する第2保持部と、を有し、
前記芯材は、前記第1保持部と前記第2保持部との間の少なくとも一部の領域において可撓変形し、かつ、前記可撓変形後の形状を維持することができることを特徴とする電線用工具。
【請求項2】
前記第1保持部および前記第2保持部は、それぞれ、前記芯材に対して前記芯材の中心軸まわりに回転可能である請求項1に記載の電線用工具。
【請求項3】
前記第1保持部および前記第2保持部は、前記芯材に対して前記芯材の長手方向における位置が固定されている請求項1に記載の電線用工具。
【請求項4】
前記芯材は、金属製である請求項1に記載の電線用工具。
【請求項5】
前記芯材を被覆する絶縁性の保護被覆を有する請求項4に記載の電線用工具。
【請求項6】
前記第1保持部および前記第2保持部は、それぞれ、前記電線を把持するクリップである請求項1に記載の電線用工具。
【請求項7】
前記クリップは、前記芯材の中心軸まわりに開閉する一対の保持アームを有する請求項6に記載の電線用工具。
【請求項8】
前記第1保持部と前記第2保持部との離間距離は、30cm以上60cm以下である請求項1に記載の電線用工具。
【請求項9】
前記第1保持部は、前記芯材の一端部に配置され、
前記第2保持部は、前記芯材の他端部に配置されている請求項1に記載の電線用工具。
【請求項10】
長尺な芯材と、
前記芯材に配置され、電線を保持する第1保持部と、
前記芯材に前記第1保持部と離間して配置され、前記電線を保持する第2保持部と、を有し、
前記芯材は、前記第1保持部と前記第2保持部との間の少なくとも一部の領域において可撓変形し、かつ、前記可撓変形後の形状を維持することができる電線用工具を用い、
前記電線の延在方向の間隔をあけた箇所を前記第1保持部および前記第2保持部でそれぞれ保持する装着工程と、
前記電線を前記第1保持部および前記第2保持部の間の箇所で切断する切断工程と、を有することを特徴とする電線作業方法。
【請求項11】
前記切断工程の後に行われ、
前記芯材を可撓変形させて前記電線の切断箇所を所定の向きに向ける向き変更工程を有する請求項10に記載の電線作業方法。
【請求項12】
前記切断工程の後に行われ、
前記電線の切断箇所を接続する接続工程と、
前記電線から電線用工具を取り外す取外工程と、を有する請求項10に記載の電線作業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線用工具および電線作業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、電線の切断および再接続時に用いられる高圧引下線用切断補助具が記載されている。高圧引下線用切断補助具は、第1管体および第1管体に対してスライド可能な第2管体を備える管体と、第1管体に設けられ引下線を把持する第1クリップと、第2管体に設けられ引下線を把持する第2クリップと、を有する。このような高圧引下線用切断補助具は、次のようにして使用する。まず、管体を収縮させた状態で高圧引下線を第1、第2クリップで把持する。次に、高圧引下線を第1、第2クリップで把持された2か所の間で切断する。すると、管体が自重によって予め定めた長さまで自然に伸長する。これにより、高圧引下線の端末同士が離間する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-074826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の高圧引下線用切断補助具では、使用する際に予め管体を収縮させ、かつ、伸長時の管体の長さを定めておかなければならず、使い勝手が悪い。さらには、特許文献1の高圧引下線用切断補助具では、管体の伸長によって第1、第2クリップを離間させることができても、第1、第2クリップの相対的な向きを変化させることができない。そのため、高圧引下線の端末同士が向かい合った状態が維持され、高い安全性を確保することが困難でもある。
【0005】
本発明の目的は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、操作性に優れ、かつ、高い安全性を有する電線用工具および当該電線用工具を用いた安全性の高い電線作業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
【0007】
(1) 電線を切断または接続する際に使用する電線用工具であって、
長尺な芯材と、
前記芯材に配置され、前記電線を保持する第1保持部と、
前記芯材に前記第1保持部と離間して配置され、前記電線を保持する第2保持部と、を有し、
前記芯材は、前記第1保持部と前記第2保持部との間の少なくとも一部の領域において可撓変形し、かつ、前記可撓変形後の形状を維持することができることを特徴とする電線用工具。
【0008】
(2) 前記第1保持部および前記第2保持部は、それぞれ、前記芯材に対して前記芯材の中心軸まわりに回転可能である上記(1)に記載の電線用工具。
【0009】
(3) 前記第1保持部および前記第2保持部は、前記芯材に対して前記芯材の長手方向における位置が固定されている上記(1)に記載の電線用工具。
【0010】
(4) 前記芯材は、金属製である上記(1)に記載の電線用工具。
【0011】
(5) 前記芯材を被覆する絶縁性の保護被覆を有する上記(4)に記載の電線用工具。
【0012】
(6) 前記第1保持部および前記第2保持部は、それぞれ、前記電線を把持するクリップである上記(1)に記載の電線用工具。
【0013】
(7) 前記クリップは、前記芯材の中心軸まわりに開閉する一対の保持アームを有する上記(6)に記載の電線用工具。
【0014】
(8) 前記第1保持部と前記第2保持部との離間距離は、30cm以上60cm以下である上記(1)に記載の電線用工具。
【0015】
(9) 前記第1保持部は、前記芯材の一端部に配置され、
前記第2保持部は、前記芯材の他端部に配置されている上記(1)に記載の電線用工具。
【0016】
(10) 長尺な芯材と、
前記芯材に配置され、電線を保持する第1保持部と、
前記芯材に前記第1保持部と離間して配置され、前記電線を保持する第2保持部と、を有し、
前記芯材は、前記第1保持部と前記第2保持部との間の少なくとも一部の領域において可撓変形し、かつ、前記可撓変形後の形状を維持することができる電線用工具を用い、
前記電線の延在方向の間隔をあけた箇所を前記第1保持部および前記第2保持部でそれぞれ保持する装着工程と、
前記電線を前記第1保持部および前記第2保持部の間の箇所で切断する切断工程と、を有することを特徴とする電線作業方法。
【0017】
(11) 前記切断工程の後に行われ、
前記芯材を可撓変形させて前記電線の切断箇所を所定の向きに向ける向き変更工程を有する上記(10)に記載の電線作業方法。
【0018】
(12) 前記切断工程の後に行われ、
前記電線の切断箇所を接続する接続工程と、
前記電線から電線用工具を取り外す取外工程と、を有する上記(10)に記載の電線作業方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電線用工具によれば、芯材が第1保持部と第2保持部との間の少なくとも一部の領域において可撓変形し、かつ、可撓変形後の形状を維持することのできる構成となっている。そのため、例えば、電線を第1、第2保持部のそれぞれで保持した状態で、第1、第2保持部で保持された2か所の間で切断し、その後、芯材を可撓変形(曲げ変形、捩り変形等)させるだけで、電線の端末同士を離間させたり、電線の端末同士が向かい合わないように向きを変えたりすることができる。そのため、操作性に優れ、かつ、高い安全性を有する電線用工具となる。また、本発明の電線作業方法によれば、上述の電線用工具を用いるため、高い安全性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】縁廻し線に装着した状態の電線用工具を示す図である。
図2図1に示す電線用工具の平面図である。
図3】芯材の断面図である。
図4】芯材の変形例を示す平面図である。
図5】芯材の変形例を示す平面図である。
図6】保護被覆を示す断面図である。
図7】保護被覆の変形例を示す断面図である。
図8】保護被覆の変形例を示す断面図である。
図9】第1保持部および第2保持部を示す側面図である。
図10】第1保持部および第2保持部を示す断面図である。
図11】電線作業の工程を示すフローチャートである。
図12】電線作業を説明する図である。
図13】電線作業を説明する図である。
図14】電線作業を説明する図である。
図15】電線作業を説明する図である。
図16】電線作業を説明する図である。
図17】電線作業を説明する図である。
図18】電線作業を説明する図である。
図19】電線作業を説明する図である。
図20】電線用工具の別の使用方法を示す図である。
図21】電線用工具の別の使用方法を示す図である。
図22】電線用工具の別の使用方法を示す図である。
図23】電線用工具の別の使用方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の電線用工具および電線作業方法に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1に示す電線用工具1は、電線作業の際、例えば、電柱の両側から来る2本の低圧電線8A、8Bの端部間に架設され、これら2本の低圧電線8A、8Bを接続する縁回し線9を切断または接続する際に使用する工具である。このような電線用工具1は、図2に示すように、長尺な芯材2と、芯材2の両端部に配置された第1保持部3Aおよび第2保持部3Bと、芯材2を被覆する保護被覆5およびキャップ61、62と、を有する。以下、これら各部について順に説明する。
【0023】
まず、芯材2について説明する。芯材2は、第1保持部3Aと第2保持部3Bとの間の領域Qの少なくとも一部において作業者の腕力によって可撓変形(曲げ変形、捩り変形等)し、かつ、電線作業時に受ける応力に抗して可撓変形後の形状を維持することができる。このような構成によれば、芯材2を可撓変形させるだけで、第1保持部3Aと第2保持部3Bとの相対的位置関係を容易に変化させることができるため、高い作業性を発揮することができる。さらに、操作が簡単なため高い安全性を発揮することができる。
【0024】
特に、電線用工具1では、芯材2の可撓範囲内において、第1保持部3Aと第2保持部3Bとの相対的位置関係を実質的に無段階で変化させることができる点が従来と比較して顕著な利点となる。ちなみに、前述した特許文献1では、管体が収縮した状態と管体が伸長した状態との2段階でしか第1クリップと第2クリップとの相対的位置関係を変化させることができない。
【0025】
本実施形態の芯材2は、金属製であり、長手方向の全域において可撓変形する。そのため、電線用工具1の操作性がより高まる。このように、芯材2を金属製とすることにより、適度な硬さ、具体的には、前述したように、作業者の腕力で芯材2を容易に可撓変形させることができ、かつ、電線作業時に生じる応力に抗して可撓変形後の形状を維持することができる硬さを有し、さらには、高い強度を有する芯材2となる。そのため、高い操作性および安全性を有する電線用工具1となる。
【0026】
なお、芯材2を構成する金属材料としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム(アルミニウム合金を含む)、錫(錫合金を含む)、銅(銅合金を含む)、鉄(鉄合金を含む)、タングステン(タングステン合金を含む)等、比較的柔らかい金属を好適に用いることができる。特に、本実施形態の芯材2は、アルミニウムで構成されている。
【0027】
また、芯材2は、図3に示すように、1本の素線で構成されており、その横断面は、円形である。このような構成によれば、芯材2を上下左右どの方向へも同じように可撓変形させることができる。なお、芯材2の直径としては、特に限定されないが、例えば、本実施形態のように構成材料がアルミニウムの場合には、5mm以上、20mm以下程度であることが好ましく、5mm以上、10mm以下であることがより好ましい。このような直径とすることにより、芯材2が適度な硬さとなり、電線用工具1の操作性および安全性が向上する。また、芯材2の長さとしては、特に限定されないが、例えば、300mm以上、700mm以下程度であることが好ましく、400mm以上、600mm以下であることがより好ましい。このような長さとすることにより、芯材2が電線作業に適した長さとなり、電線用工具1の操作性が向上する。
【0028】
以上、芯材2について説明した。ただし、芯材2の構成は、第1保持部3Aと第2保持部3Bとの間の領域Qの少なくとも一部において可撓変形可能であり、変形後の形状を維持することができれば、限定されない。例えば、芯材2は、樹脂材料等、金属以外の材料で構成されていてもよい。また、芯材2の横断面形状は、円形に限定されず、例えば、四角形、六角形等であってもよい。また、例えば、芯材2は、複数の比較的細い素線を同心円状により合わせた構成であってもよい。また、例えば、図4に示すように、領域Q内の一部の領域Q1が可撓変形し、それ以外の領域では可撓変形しない構成であってもよい。例えば、領域Q1とそれ以外の領域とで構成材料を異ならせることにより、このような構成を実現することができる。また、例えば、図5に示すように、長手方向に沿って複数の自在継手20が連設され、各自在継手20において芯材2を曲げることができる構成であってもよい。
【0029】
次に、保護被覆5について説明する。保護被覆5は、芯材2を被覆し、絶縁する。このような保護被覆5は、図3に示すように、芯材2を被覆する第1保護被覆51と、第1保護被覆51を被覆する第2保護被覆52と、を有する。第1保護被覆51および第2保護被覆52は、それぞれ、絶縁性を有する。そのため、芯材2を保護被覆5で覆うことにより、電線作業時における芯材2と縁廻し線9との接触が防止され、電線用工具1の安全性が確保される。また、第1保護被覆51および第2保護被覆52は、芯材2の可撓変形を阻害しないよう、十分な柔軟性を有する。
【0030】
このような第1保護被覆51および第2保護被覆52の構成材料としては、特に限定されず、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、PE(ポリエチレン)等の樹脂材料や、PTFE(ポリテトラフルオロエチレンシリコーンゴム)等のゴム材料を用いることができる。このような材料を用いることにより、柔軟で、かつ、高い絶縁性を有する第1保護被覆51および第2保護被覆52を安価に形成することができる。
【0031】
特に、本実施形態では、第1保護被覆51は、PVC(ポリ塩化ビニル)で形成されたチューブであり、優れた絶縁性を発揮することができる。一方、第2保護被覆52は、シリコーンゴムで形成されたチューブであり、優れた耐候性を発揮することができる。つまり、保護被覆5では、絶縁性および耐候性を共に高いレベルで両立させることができる。このように、第1保護被覆51および第2保護被覆52を別材料で構成し、第1保護被覆51および第2保護被覆52に互いに異なる利点(機能)を付与することにより、より信頼性の高い保護被覆5となる。
【0032】
また、図3に示すように、第2保護被覆52には、繊維を編んで形成されたメッシュ521が埋設されている。このように、第2保護被覆52をメッシュ入りのチューブとすることにより、保護被覆5の強度を高めることができる。
【0033】
また、図6に示すように、第1保護被覆51は、芯材2とほぼ同じ長さであり、芯材2の長手方向の全域を覆っている。これに対して、第2保護被覆52は、芯材2よりも短く、芯材2の両端部を除く中央部を覆っている。したがって、保護被覆5の両端部では、第1保護被覆51が第2保護被覆52から露出しており、第1保護被覆51の表面と第2保護被覆52の端面とで形成された段差531、532が形成されている。後述するように、電線用工具1では、これら段差531、532に第1保持部3Aおよび第2保持部3Bを突き当てることにより、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bの位置を定めている。つまり、保護被覆5は、芯材2を絶縁被覆するだけでなく、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bの位置を定める位置決め部としても機能する。そのため、別途、位置決め部を設ける場合と比べて電線用工具1の構成がシンプルとなり、電線用工具1の軽量化や、製造コストの削減を図ることができる。
【0034】
また、第2保護被覆52は、光透過性を有しており、第2保護被覆52を介して、その下層側に位置する第1保護被覆51を視認可能である。特に、本実施形態では、実質的に無色透明である。これにより、第1保護被覆51の破損、損傷等をいち早く発見することができる。そのため、電線用工具1の安全性がより高まる。
【0035】
以上、保護被覆5について説明した。ただし、保護被覆5の構成は、特に限定されない。例えば、保護被覆5から第2保護被覆52を省略してもよい。この場合、例えば、図7に示すように、第1保護被覆52の両端部の肉厚を中央部の肉厚よりも薄くすることにより、段差531、532を形成してもよいし、図8に示すように、第1保護被覆52の外周面にリング状のストッパー551、552を固定することにより、段差531、532を形成してもよい。また、例えば、第2保護被覆52をさらに第3、第4…の保護被覆で覆ってもよい。また、例えば、芯材2が絶縁性の材料で構成されている場合には、保護被覆5を省略してもよい。
【0036】
次に、キャップ61、62について説明する。これらキャップ61、62は、共に絶縁性を有する。図6に示すように、キャップ61は、第1保護被覆51(芯材2)の一方の端部に被せられ、芯材2の一方の端面を被覆している。一方、キャップ62は、第1保護被覆51(芯材2)の他方の端部に被せられ、芯材2の他方の端面を被覆している。このように、芯材2の両端面を絶縁性のキャップ61、62で覆うことにより、電線作業時における芯材2と縁廻し線9との接触が防止され、電線用工具1の安全性が確保される。なお、キャップ61、62の抜けを防止するために、接着剤等を用いてキャップ61、62と第1保護被覆51とを強固に固定することが好ましい。これにより、電線用工具1の安全性が向上する。
【0037】
このようなキャップ61、62の構成材料としては、特に限定されず、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、PE(ポリエチレン)、PC(ポリカーボネート)等の樹脂材料や、PTFE(ポリテトラフルオロエチレンシリコーンゴム)等のゴム材料を用いることができる。このような材料を用いることにより、高い絶縁性を有するキャップ61、62を安価に形成することができる。
【0038】
また、キャップ61、62は、第1保護被覆51と異なる色を有する。例えば、キャップ61、62が黒色であり、第1保護被覆51が赤色、青色、黄色等である。このような構成によれば、キャップ61、62を容易に確認することができ、キャップ61、62の離脱をいち早く発見することができる。そのため、電線用工具1の安全性がより高まる。
【0039】
また、図6に示すように、保護被覆5の一方の端部には第1保護被覆51の表面とキャップ61の端面とで形成された段差541が形成され、保護被覆5の他方の端部には第1保護被覆51の表面とキャップ62の端面とで形成された段差542が形成されている。後述するように、これら段差541、542に第1保持部3Aおよび第2保持部3Bが突き当たることにより、芯材2からの第1保持部3Aおよび第2保持部3Bの離脱が防止される。つまり、キャップ61、62は、芯材2を絶縁被覆するだけでなく、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bの離脱を防止する離脱防止部としても機能する。そのため、別途、離脱防止部を設ける場合と比べて電線用工具1の構成がシンプルとなり、電線用工具1の軽量化や、製造コストの削減を図ることができる。
【0040】
以上、キャップ61、62について説明した。ただし、キャップ61、62の構成は、特に限定されない。例えば、キャップ61、62は、第1保護被覆51と同じ色であってもよい。また、例えば、第1保護被覆51等によって芯材2の両端面が既に被覆されている場合には、キャップ61、62を省略してもよい。
【0041】
次に、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bについて説明する。図2に示すように、第1保持部3Aは、芯材2の一方の端部(一端部)に配置され、第2保持部3Bは、芯材2の他方の端部(他端部)に配置されている。このように、芯材2の両端部に第1保持部3Aおよび第2保持部3Bを配置することにより、芯材2の全長を短く抑えつつ、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bの離間距離を大きく確保することができる。また、第1保持部3Aや第2保持部3Bよりも外側への芯材2の突出が抑えられる。そのため、小型で高い操作性を有する電線用工具1となる。
【0042】
なお、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bは、互いに同じ構成であるため、以下では、これらをまとめて「保持部3」として説明する。
【0043】
保持部3は、縁廻し線9を保持(挟持)するクリップである。このように、保持部3をクリップで構成することにより、縁廻し線9を容易かつ確実に保持することができる。なお、保持部3は、外径の異なる縁廻し線9を保持するができる。具体的には、一般的な縁廻し線9の外径が7mm以上、23mm以下であるため、保持部3は、この範囲の外径を有する縁廻し線9を好適に保持できるように構成されている。このような保持部3は、図9および図10に示すように、回動軸Jまわりに反対方向に回動することにより開閉して縁廻し線9を保持(挟持)する一対の保持アーム31、32と、保持アーム31、32を閉じる方向に付勢するトーションばね33と、を有する。
【0044】
保持アーム31は、樹脂材料等の絶縁性の材料で構成されている。また、保持アーム31は、回動軸Jよりも先端側に位置する作用部311と、回動軸Jよりも基端側に位置する操作部312と、作用部311と操作部312との間に位置し、回動軸Jに沿う方向に離間して配置された一対の接続部313、314と、を有する。また、作用部311の縁廻し線9と接触する面(後述する作用部321と対向する面)には、ゴム材料で構成された滑り止め311aが設けられている。また、一対の接続部313、314には、芯材2を挿通するための挿通孔313a、314aが形成されており、これら2つの挿通孔313a、314aは、回動軸Jに沿って配置されている。
【0045】
保持アーム32は、前述した保持アーム31と同様の構成である。つまり、保持アーム32は、樹脂材料等の絶縁性の材料で構成されている。また、保持アーム32は、回動軸Jよりも先端側に位置する作用部321と、回動軸Jよりも基端側に位置する操作部322と、作用部321と操作部322との間に位置し、回動軸Jに沿う方向に離間して配置された一対の接続部323、324と、を有する。また、作用部321の縁廻し線9と接触する面(作用部311と対向する面)には、ゴム材料で構成された滑り止め321aが設けられている。また、一対の接続部323、324には、芯材2を挿通するための挿通孔323a、324aが形成され、これら2つの挿通孔323a、324aは、回動軸Jに沿って配置されている。また、接続部323は、接続部313に内接し、接続部324は、接続部314に外接している。つまり、接続部323の外側の主面が接続部313の内側の主面に接し、接続部324の内側の主面が接続部314の外側の主面に接している。
【0046】
そして、芯材2が第1保護被覆51毎、挿通孔313a、314a、323a、324aに挿通されている。具体的には、キャップ61、62が装着される前の芯材2を挿通孔313a、323a、314a、324aの順でこれらに挿通し、端部を挿通孔324aから突出させる。そして、突出した端部にキャップ61、62を装着する。そのため、電線用工具1では、回動軸Jと芯材2の中心軸とが一致する。
【0047】
なお、挿通孔313a、314a、323a、324aの内径は、第1保護被覆51の外径と等しいか、若干大きい。そして、トーションばね33の反力により、挿通孔313a、314a、323a、324aにせん断方向に開く力により抵抗が生じる。そのため、第1保護被覆51と各保持アーム31、32との間に適度な摺動抵抗が生じ、作業者の腕力によって保持部3を芯材2に対して回動軸Jまわりに回転させることができ、かつ、電線作業時に受ける応力に抗して回転後の保持部3の向きを維持することができる構成となる。このような構成によれば、芯材2の可撓変形(曲げ変形、捩り変形等)に加えて、保持部3の回動軸Jまわりの回転によっても第1、第2保持部3A、3Bの相対的な位置関係を変化させることができる。そのため、電線用工具1の操作性がより高まる。
【0048】
トーションばね33は、接続部323、324の間に位置し、回動軸Jに沿う方向に離間して2つ設けられている。各トーションばね33は、コイル331と、コイル331の一端から延出するアーム332と、コイル331の他端から延出するアーム333と、を有する。そして、芯材2が第1保護被覆51毎、各トーションばね33のコイル331に挿入されている。なお、各コイル331の内径は、第1保護被覆51の外径よりも若干大きい。また、各トーションばね33は、圧縮させた状態(コイル331を巻き込んだ状態)で保持アーム31、32の間に配置され、一方のアーム332が保持アーム31の操作部312に当接し、他方のアーム333が保持アーム32の操作部322に当接している。そのため、各トーションばね33の弾性(復元力)によって、保持アーム31、32が閉じる方向に常に付勢される。
【0049】
このような構成の保持部3では、操作部312、322を摘まみ、トーションばね33の弾性に抗して作用部311、321を開き、作用部311、321の間に縁廻し線9を挿入し、その後、作用部311、321を閉じて縁廻し線9を挟持することにより、縁廻し線9を保持することができる。特に、本実施形態では、回動軸Jが芯材2の中心軸と一致しているため、保持アーム31、32が芯材2の中心軸まわりに回動して保持部3が開閉する。そのため、保持部3の操作性が高まる。
【0050】
ここで、電線用工具1では、第1保持部3Aの接続部313の外側の主面が段差531と当接し、接続部314の外側の主面が段差541と当接している。つまり、第1保持部3Aは、段差531、541の間に挟まれるように設けられている。このような構成によれば、第1保持部3Aは、芯材2に対して芯材2の長手方向にスライドすることができず、芯材2の長手方向における位置が固定される。同様に、第2保持部3Bの接続部313の外側の主面が段差532と当接し、接続部314の外側の主面が段差542と当接している。つまり、第2保持部3Bは、段差532、542の間に挟まれるように設けられている。このような構成によれば、第2保持部3Bは、芯材2に対して芯材2の長手方向にスライドすることができず、芯材2の長手方向における位置が固定される。このように、第1、第2保持部3A、3Bの芯材2の長手方向における位置を固定することにより、第1、第2保持部3A、3Bの余計な動きを規制することができ、電線用工具1の操作性がより高まる。
【0051】
なお、芯材2がまっすぐに伸びた状態における第1保持部3Aと第2保持部3Bとの離間距離、言い換えると芯材2の領域Qの長さとしては、特に限定されないが、例えば、300mm以上、600mm以下程度であることが好ましく、400mm以上、500mm以下であることがより好ましい。このような長さとすることにより、第1保持部3Aと第2保持部3Bとの離間距離が電線作業に適した長さとなり、電線用工具1の操作性が向上する。
【0052】
以上、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bについて説明した。ただし、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bの構成は、特に限定されない。例えば、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bは、芯材2の中心軸まわりに回転することができなくてもよい。また、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bは、芯材2に対して芯材2の長手方向に移動可能であってもよい。また、トーションばね33の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0053】
また、例えば、挿通孔313a、314a、323a、324aの内径が第1保護被覆51の外径と等しいか、第1保護被覆51の外径よりも若干大きく、各コイル331の内径が第1保護被覆51の外径よりも小さくなっていてもよい。つまり、芯材2が挿通孔313a、314a、323a、324aではなく、各コイル331に圧入されていてもよい。このような構成とすることにより、第1保護被覆51と各コイル331との間に適度な摺動抵抗が生じ、本実施形態と同様に、作業者の腕力によって保持部3を芯材2に対して回動軸Jまわりに回転させることができ、かつ、電線作業時に受ける応力に抗して回転後の保持部3の向きを維持することができる構成となる。さらには、保持アーム31、32と第1保護被覆51との間の摺動抵抗を小さくおさえることができるため、保持アーム31、32の開閉を行い易くなる。
【0054】
以上、電線用工具1の構成について説明した。次に、電線用工具1を用いた電線作業方法について説明する。電線作業方法は、図11に示すように、縁廻し線9に電線用工具1を装着する装着工程S1と、縁廻し線9を切断する切断工程S2と、縁廻し線9の切断端末91、92を所定の向きとする向き変更工程S3と、縁廻し線9の切断端末91、92同士を接続する接続工程S4と、縁廻し線9から電線用工具1を取り外す取外工程S5と、を有する。
【0055】
装着工程S1では、図12に示すように、予め芯材2をU字状に曲げておき、縁廻し線9の延在方向の間隔をあけた箇所を第1保持部3Aおよび第2保持部3Bでそれぞれ保持する。次に、切断工程S2では、図13に示すように、縁廻し線9を第1保持部3Aおよび第2保持部3Bの間の箇所で切断する。次に、図14に示すように、向き変更工程S3では、芯材2を可撓変形させたり、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bの少なくとも一方を芯材2に対して回転させたりして、縁廻し線9の切断端末91、92同士を離隔すると共に、各端末を所定の向きに向ける。次に、図15に示すように、各切断端末91、92に絶縁性の端末カバー90を装着する。
【0056】
そして、この状態で所定の必要な作業が行われ、作業が終了した後に接続工程S4を行う。図16に示すように、接続工程S4では、芯材2を可撓変形させたり、第1保持部3Aおよび第2保持部3Bの少なくとも一方を芯材2に対して回転させたりして、縁廻し線9の各切断端末91、92を切断時の位置に戻し、各切断端末91、92から端末カバー90を取り外す。そして、各切断端末91、92の皮剥ぎをし、図17に示すように、皮剥ぎをした切断端末91、92同士をスリーブ7で接続する。次に、取り外す取外工程S5では、図18に示すように、縁廻し線9から電線用工具1を取り外す。以上により、電線作業が終了する。
【0057】
このような電線作業方法によれば、操作性および安全性に優れた電線用工具1を用いるため、高い安全性を発揮することができる。なお、電線用工具1を収納する際は、例えば、図19に示すように、芯材2を円状に湾曲させることによりコンパクトな収納が可能となる。
【0058】
以上、本発明の電線用工具および電線作業方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成または工程に置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成または工程が付加されていてもよい。
【0059】
電線用工具1の使用方法としては、上述した実施形態に限定されず、どのような電線作業にも好適に用いることができる。例えば、図20に示すように、電線用工具1は、低圧電線8Aと電柱から分岐する低圧電線8Cとの端部間に架設され、これら2本の低圧電線8A、8Cを接続する縁回し線9Aに装着してもよい。また、図21に示すように、電線用工具1は、低圧電線8Aと建物への引込線8Dとの端部間に架設され、低圧電線8Aと引込線8Dを接続する縁回し線9Bに装着してもよい。また、図22に示すように、電線用工具1は、変圧器100と低圧電線8Aを繋ぐ立ち上がり線8Eに装着してもよい。また、図23に示すように、電線用工具1は、立ち上がり線8Eと引込線8Dとの間に架設され、立ち上がり線8Eと引込線8Dを接続する縁回し線9Cに装着してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…電線用工具、100…変圧器、2…芯材、20…自在継手、3…保持部、3A…第1保持部、3B…第2保持部、31…保持アーム、311…作用部、311a…滑り止め、311b…爪部、312…操作部、313…接続部、313a…挿通孔、314…接続部、314a…挿通孔、32…保持アーム、321…作用部、321a…滑り止め、321b…爪部、322…操作部、323…接続部、323a…挿通孔、324…接続部、324a…挿通孔、33…トーションばね、331…コイル、332…アーム、333…アーム、5…保護被覆、51…第1保護被覆、52…第2保護被覆、521…メッシュ、531…段差、532…段差、541…段差、542…段差、551…ストッパー、552…ストッパー、61…キャップ、62…キャップ、7…スリーブ、8A…低圧電線、8B…低圧電線、8C…低圧電線、8D…引込線、8E…立ち上がり線、9…縁廻し線、9A…縁廻し線、9B…縁廻し線、90…端末カバー、91…切断端末、92…切断端末、J…回動軸、Q…領域、Q1…領域、S1…装着工程、S2…切断工程、S3…向き変更工程、S4…接続工程、S5…取外工程
【要約】
【課題】操作性および安全性に優れた電線用工具および電線作業方法を提供すること。
【解決手段】電線用工具1は、電線を切断または接続する際に使用する電線用工具であって、長尺な芯材2と、芯材2に配置され、電線を保持する第1保持部3Aと、芯材2に第1保持部3Aと離間して配置され、電線を保持する第2保持部3Bと、を有する。そして、芯材2は、第1保持部3Aと第2保持部3Bとの間の少なくとも一部の領域において可撓変形し、かつ、可撓変形後の形状を維持することができる。
【選択図】図2

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23