(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】レトルト殺菌した収容容器入りレトルト殺菌食品および収容容器入りレトルト殺菌食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20241101BHJP
【FI】
A23L7/109 C
A23L7/109 A
A23L7/109 E
(21)【出願番号】P 2020133212
(22)【出願日】2020-08-05
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】511234987
【氏名又は名称】学校法人東洋食品工業短期大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英史
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-187057(JP,A)
【文献】特開平07-039333(JP,A)
【文献】特開平07-039335(JP,A)
【文献】特開昭56-160951(JP,A)
【文献】特開2001-352926(JP,A)
【文献】特開2008-043254(JP,A)
【文献】特開2008-043255(JP,A)
【文献】特開平05-176699(JP,A)
【文献】特開平03-247249(JP,A)
【文献】特開2003-000169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理した麺類と、所定濃度
である0.4~2%のレシチンと、
前記所定濃度以下の植物油と、を有するレトルト殺菌した収容容器入りレトルト殺菌食品。
【請求項2】
前記レシチンが酵素分解レシチンである請求項1に記載の収容容器入りレトルト殺菌食品。
【請求項3】
前記植物油が綿実油である請求項
1または2に記載の収容容器入りレトルト殺菌食品。
【請求項4】
副材として調味料、穀類、野菜類および肉類の少なくとも何れかを含む請求項1~
3の何れか一項に記載の収容容器入りレトルト殺菌食品。
【請求項5】
麺類を加熱する加熱工程と、
当該加熱工程を行った前記麺類に対して所定濃度
である0.4~2%のレシチン
と、前記所定濃度以下の植物油と、を添加する添加工程と、
当該添加工程を行った前記麺類を収容容器に充填して密封する充填密封工程と、
当該充填密封工程を行った収容容器をレトルト殺菌処理する殺菌工程と、を有する収容容器入りレトルト殺菌食品の製造方法。
【請求項6】
前記レシチンおよび前記植物油を予め混合した後、これらを前記麺類に対して添加する請求項
5に記載の収容容器入りレトルト殺菌食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト殺菌した収容容器入りレトルト殺菌食品および収容容器入りレトルト殺菌食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、茹で処理や蒸し処理を行った麺類は、これら処理の直後では良好なほぐれ性を示すが、当該処理後にある程度時間が経過すると、麺どうしが付着あるいは絡み合ってほぐれ難くなることがあった。この理由としては、例えば当該処理後の時間経過に伴い、麺表面あるいは麺内の水分が麺の中心へ向けて移行することによって麺表面の水分が減少し、これにより麺どうしが付着し易くなる等してほぐれ性が低下する、経時的に麺の澱粉質が劣化(α化からβ化に変化)して麺の可撓性が低下する、あるいは麺表面の糊化された澱粉の粘着性により麺どうしが付着し易くなる等が考えられる。
【0003】
このように麺類のほぐれ性が低下すると、喫食前の麺類の茹で直し、喫食時の麺類のほぐし動作などが必要となって手間を要する不都合があり、さらに、麺どうしが付着したり絡み合ってほぐれ難くなることで見た目や食感が悪くなったり、炒め処理を行った際には加熱調理が不均一になる等して、食味上好ましくなかった。
【0004】
そのため、茹で処理や蒸し処理を行った麺類のほぐれ性の低下を防止するため、茹で処理や蒸し処理を行った麺類には、その表面に食用油脂を噴霧することや、例えば有機酸モノグリセライドを含む水中油型油脂組成物で処理すること(特許文献1)が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のほぐれ性の低下を防止する方法では、充分な効果を期待するためには多量の食用油脂あるいは有機酸の添加を必要とするため、コストが嵩み、食用油脂や有機酸によっては麺類の食味や食感が損なわれるという問題があった。
【0007】
また、例えば麺類にコーティングされる食用油脂は薄層であるため、高水分下において極めて酸化されやすく、特に常温での流通時間が長くなると、酸化された油脂が異臭を発する虞があり、この場合は麺類の商品価値を著しく損なうという問題があった。
【0008】
さらに、近年の常温保存食の多様化により、麺類を収容容器に収容してレトルト殺菌を行い、常温保存が可能となるレトルト殺菌食品が望まれていた。
【0009】
従って、本発明の目的は、常温保存した場合であっても、ほぐれ易く、良好な食味や食感を有する麺類を収容した収容容器入りレトルト殺菌食品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る収容容器入りレトルト殺菌食品は、その第一特徴構成は、加熱処理した麺類と、所定濃度である0.4~2%のレシチンと、前記所定濃度以下の植物油と、を有するレトルト殺菌した収容容器入りレトルト殺菌食品とした点にある。
【0011】
本構成によれば、茹で加熱処理あるいは蒸し加熱処理などによって加熱処理した麺類に所定濃度のレシチンを添加することで、麺類の表面がレシチンに覆われ、レシチンの界面活性作用などによって麺どうしが付着し難くなる。そのため、レシチンを添加した麺類を収容容器に収容してレトルト殺菌を行い、長期に亘って常温保存した場合であってもほぐれ性が優れた麺類となり、ほぐれ易く喫食しやすい麺類を供することができる。また、レシチンを添加した麺類は、当該添加の直後から、麺どうしのほぐれ性が優れているため、収容容器への充填を迅速に行うことができる。
レシチンはある程度の粘性を有し、植物油は潤滑性を有する。そのため、レシチンを植物油と共に麺類に添加すれば、レシチンを麺類に馴染み易くして均一に混合し易くすることができる。例えば、レシチンおよび植物油を予め混合した後、これらを麺類に対して添加することで、レシチンを麺類に迅速かつ均一に混合し易くなる。また、植物油もその潤滑性により麺類の表面を覆うことで麺類のほぐれ性をある程度向上させることができる。そのため、ほぐれ易い麺類を供するためにレシチンおよび植物油を麺類に添加すれば、レシチンの添加量を減少させてその分のコストを削減することができる。
また、植物油の添加量を所定濃度以下とすることで、麺類や収容容器のべた付きを防止し、麺類の食味や食感に影響を与え難いように植物油を添加することができる。また、レシチンおよび植物油添加した麺類は、当該添加の直後から、麺どうしのほぐれ性が極めて優れているため、収容容器への充填をより迅速に行うことができる。
さらに所定濃度を0.4~2%とすれば、常温保存した場合であっても、ほぐれ性が低下し難く、麺類の食味や食感に影響を与え難いようにレシチンを添加することができる。レシチンの添加量が0.4未満であれば麺類のほぐれ効果が十分に得られず、レシチンの添加量が2%より多くなれば麺類の食味に影響を及ぼす虞があるため、好ましくない。
【0012】
本発明に係る収容容器入りレトルト殺菌食品の第二特徴構成は、前記レシチンを酵素分解レシチンとした点にある。
【0013】
当該酵素分解レシチンは耐熱性に優れるため、レトルト殺菌を行った場合であっても、熱変性や風味の変化は起こり難い。そのため、本構成のようにレシチンとして酵素分解レシチンを使用すれば、レトルト殺菌後の麺類の食味や食感に影響を与え難い。
【0017】
本発明に係る収容容器入りレトルト殺菌食品の第三特徴構成は、前記植物油を綿実油とした点にある。
【0018】
綿実油は、温度によってその粘度の変化が起こり難く、耐熱性に優れている。そのため、本構成のように植物油として綿実油を使用すれば、レトルト殺菌後の麺類の食味や食感に影響を与え難い。
【0019】
本発明に係る収容容器入りレトルト殺菌食品の第四特徴構成は、副材として調味料、穀類、野菜類および肉類の少なくとも何れかを含む点にある。
【0020】
本構成のように副材として上記の少なくとも何れかを含むことで、収容容器入りレトルト殺菌食品を開封したのちに直ぐに喫食できる、或いは、簡単な調理(味付け或いは食材の追加)のみで喫食できる。
【0023】
本発明に係る収容容器入りレトルト殺菌食品の製造方法の第一特徴構成は、麺類を加熱する加熱工程と、当該加熱工程を行った前記麺類に対して所定濃度である0.4~2%のレシチンと、前記所定濃度以下の植物油と、を添加する添加工程と、当該添加工程を行った前記麺類を収容容器に充填して密封する充填密封工程と、当該充填密封工程を行った収容容器をレトルト殺菌処理する殺菌工程と、を有する点にある。
【0024】
本構成によれば、レシチンを添加した麺類を収容容器に収容してレトルト殺菌を行い、長期に亘って常温保存した場合であってもほぐれ性が優れた麺類となり、ほぐれ易く喫食しやすい麺類を供することができるレトルト殺菌食品を製造することができる。
また、本構成によれば、レシチンを植物油と共に麺類に添加することで、レシチンを麺類に馴染み易くして均一に混合し易くすることができる。
また、植物油もその潤滑性により麺類の表面を覆うことで麺類のほぐれ性をある程度向上させることができる。そのため、ほぐれ易い麺類を供するためにレシチンおよび植物油を麺類に添加すれば、レシチンの添加量を減少させてその分のコストを削減することができる。
また、植物油の添加量を所定濃度以下とすることで、麺類や収容容器のべた付きを防止し、麺類の食味や食感に影響を与え難いように植物油を添加することができる。また、レシチンおよび植物油添加した麺類は、当該添加の直後から、麺どうしのほぐれ性が極めて優れているため、収容容器への充填をより迅速に行うことができる。
さらに所定濃度を0.4~2%とすれば、常温保存した場合であっても、ほぐれ性が低下し難く、麺類の食味や食感に影響を与え難いようにレシチンを添加することができる。レシチンの添加量が0.4未満であれば麺類のほぐれ効果が十分に得られず、レシチンの添加量が2%より多くなれば麺類の食味に影響を及ぼす虞があるため、好ましくない。
【0027】
本発明に係る収容容器入りレトルト殺菌食品の製造方法の第二特徴構成は、前記レシチンおよび前記植物油を予め混合した後、これらを前記麺類に対して添加する点にある。
【0028】
本構成によれば、レシチンを麺類に迅速かつ均一に混合し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施形態の収容容器入りレトルト殺菌食品を示す概略図である。
【
図2】収容容器入りレトルト殺菌食品の製造方法の各工程の流れ図である。
【
図3】パスタのほぐれ度合を確認する引張試験の態様を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の収容容器入りレトルト殺菌食品およびその製造方法は、食品対象物である麺類を収容容器に充填して密封したのち加熱および加圧することで殺菌処理したものである。
【0031】
即ち、
図1に示したように、本発明の収容容器入りレトルト殺菌食品Xは、加熱処理した麺類1と、所定濃度のレシチン2と、を有しており、収容容器4に収容してレトルト殺菌したものである。
【0032】
主材である麺類1は、例えば穀物粉或いは澱粉を主原料としたものであり、生麺あるいは乾燥麺を例えば茹で加熱処理あるいは蒸し加熱処理したものが使用できる。穀物粉は、例えば小麦、米、粟、そば、ひえ、豆およびとうもろこし等の穀物を粉化したものを使用することができ、澱粉は片栗粉、コーンスターチおよびタピオカなどを使用することができるが、これらに限定されるものではない。麺類1の加熱処理は、沸騰水に麺類1を所定時間浸漬する茹で加熱処理や蒸気による蒸し加熱処理などによって行うことができるが、これらに限定されるものではない。当該加熱処理は、麺類1が喫食可能な状態となるまで、所定の時間(例えば数分)行えばよい。
【0033】
麺類1は公知の麺類であれば特に限定されるものではなく、例えばパスタ(スパゲッティ、マカロニ)、うどん、中華麺、きしめん、ほうとう、ビーフンおよび春雨等が使用できる。
【0034】
また、麺類1は、上記の原料に水や塩などを加え、公知の手法によって製造した生地を公知の手法によって製麺したものであればよい。当該生地は、さらに卵や野菜などを練り込んだものとしてもよい。また、麺類1の長さや形状は特に限定されるものではない。当該長さについて、例えばパスタであれば20~30センチ程度(直径0.8~2.0mm程度)のロングパスタや、当該ロングパスタより短いショートパスタ等が使用できる。また、当該形状について、パスタであれば、麺の厚みより幅の広い幅広麺である平打ちパスタ(フェットチーネ)等が使用できる。
【0035】
レシチン2は、グリセロリン脂質の一種で、自然界の動植物においてすべての細胞中に存在しているものである。本発明で使用できるレシチン2は、その由来に限定されるものではなく、例えば卵黄を原料とする卵黄レシチンや大豆を原料とする大豆レシチン等を使用することができる。例えば大豆レシチンは、ペースト状レシチン(アセトン不溶分60重量%以上)や、脱脂精製した粉末状レシチンのどちらも使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
また、レシチン2は、例えば加水分解や水素添加などによって改質を行った機能性改質レシチンを使用してもよい。例えばレシチン2の加水分解は、レシチン2の疎水性基を加水分解して親水化することである。当該加水分解の方法は特に制限されないが、例えば酵素処理が挙げられる。当該酵素処理に用いる酵素は特に制限されず、例えばホスホリパーゼA1、ホスホリパーゼA2、ホスホリパーゼB、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼDが挙げられる。
【0037】
レシチン2を麺類1に添加するタイミングは、麺類1を加熱処理した直後であってもよいし、当該加熱処理から暫く経過して麺類1が常温になったときであってもよい。
【0038】
レシチン2を酵素処理した酵素分解レシチンは、例えば卵黄由来のレシチンをホスホリパーゼA2により部分加水分解する、あるいは大豆由来のレシチンをホスホリパーゼA1により部分加水分解する等、公知の手法によって得ることができる。
【0039】
卵黄由来の酵素分解レシチンは、卵黄をホスホリパーゼA2で酵素分解したあとエタノール抽出して卵黄タンパクと酵素を除去後に濃縮したもので、レシチン(ホスファチジルコリン)中にリゾレシチンを約20~30%含有する酵素処理卵黄油である。リゾレシチンはレシチンの脂肪酸が1つ外れて末端が水酸基となるので親和性が向上しており、タンパク質やデンプンに作用して改質することができるとされている。
【0040】
当該酵素分解レシチンは耐熱性に優れるため、レトルト殺菌を行った場合であっても、熱変性や風味の変化は起こり難い。そのため、本発明の収容容器入りレトルト殺菌食品Xにおいてレシチン2として酵素分解レシチンを使用すれば、レトルト殺菌後の麺類1の食味や食感に影響を与え難い。
【0041】
レシチン2を添加する量は、麺類1の重量に対して所定濃度の範囲となるようにすればよい。当該所定濃度は、例えば加熱処理前の麺類1の重量に対して0.4~2%とするのがよく、好ましくは1.0~2%、より好ましくは1.0~1.5%とするのがよい。レシチン2の添加量を上記の所定濃度の範囲とすることで、常温保存した場合であっても、ほぐれ性が低下し難く、麺類1の食味や食感に影響を与え難いようにレシチン2を添加することができる。レシチン2の添加量が0.4未満であれば麺類1のほぐれ効果が十分に得られず、レシチン2の添加量が2%より多くなれば麺類1の食味に影響を及ぼす虞があるため、好ましくない。
【0042】
収容容器4は、高温で加熱殺菌するため耐熱性を有し、常温流通ができる態様であり、酸素ガス、光を遮断するバリア性を有し、密封性および実用強度がある袋状・容器状などのレトルトパウチであればよい。このような収容容器4は、例えば食品側にはポリプロピレン、外側にはポリエステル(PET)と言った合成樹脂やアルミ箔を積層加工したフィルムで作製される。本明細書では、麺類1を収容したときにヘッドスペースができ難い袋状のアルミスタンディングパウチを使用する場合について説明する。
【0043】
収容容器4の容積は特に限定されるものではないが、300~600mL程度であればレトルト殺菌の際に扱い易く、レトルト殺菌時間などを考慮すれば550mL程度までの大きさとするのがよい。
【0044】
本発明の収容容器入りレトルト殺菌食品Xであれば、加熱処理した麺類1に所定濃度のレシチン2を添加することで、麺類1の表面がレシチン2に覆われ、レシチン2の界面活性作用などによって麺どうしが付着し難くなる。そのため、レシチン2を添加した麺類1を収容容器に収容してレトルト殺菌を行い、長期に亘って常温保存した場合であってもほぐれ性が優れた麺類1となり、ほぐれ易く喫食しやすい麺類1を供することができる。特に収容容器入りレトルト殺菌食品Xを長期の常温保存後に開封した場合の喫食時に、箸などで麺類1をすくった場合でも麺どうしが付着し難い状態となっており、ほぐす作業が殆ど不要となるため、開封後に直ちに喫食することができる。当該開封の前に電子レンジなどで加熱した場合であっても同様に、ほぐす作業が殆ど不要となるため、開封後に直ちに喫食することができる。また、レシチン2を添加した麺類1は、当該添加の直後から、麺どうしのほぐれ性が優れているため、収容容器への充填を迅速に行うことができる。
【0045】
本発明の収容容器入りレトルト殺菌食品Xは、レシチン2の他に植物油3を有する態様としてもよい。
【0046】
レシチン2はある程度の粘性を有し、植物油3は潤滑性を有する。そのため、レシチン2を植物油3と共に麺類1に添加すれば、レシチン2を麺類1に馴染み易くして均一に混合し易くすることができる。例えば、レシチン2および植物油3を予め混合した後、これらを麺類1に対して添加することで、レシチン2を麺類1に迅速かつ均一に混合し易くなる。また、植物油3もその潤滑性により麺類1の表面を覆うことで麺類1のほぐれ性をある程度向上させることができる。そのため、ほぐれ易い麺類1を供するためにレシチン2および植物油3を麺類1に添加すれば、レシチン2の添加量を減少させてその分のコストを削減することができる。
【0047】
当該植物油3を添加する量は、レシチン2の添加量を超えない量とするのがよい。即ち、レシチン2は麺類1の重量に対して所定濃度の範囲を添加していたため、植物油3を添加する量は当該所定濃度以下とするのがよい。植物油3の添加量を所定濃度以下とすることで、麺類1や収容容器のべた付きを防止し、麺類1の食味や食感に影響を与え難いように植物油3を添加することができる。また、レシチン2および植物油3添加した麺類1は、当該添加の直後から、麺どうしのほぐれ性が極めて優れているため、収容容器4への充填をより迅速に行うことができる。
【0048】
植物油3は、食用油として使われているものであれば特に限定されるものではなく、例えば綿実油、大豆油、菜種油、オリーブオイル、コーン油、ココナッツオイル、胡麻油およびピーナッツオイル等を使用することができる。
【0049】
綿実油は、温度によってその粘度の変化が起こり難く、耐熱性に優れている。そのため、本発明の収容容器入りレトルト殺菌食品Xにおいて植物油3として綿実油を使用すれば、レトルト殺菌後の麺類1の食味や食感に影響を与え難い。
【0050】
尚、麺類1の種類や形状によって、レシチン2および植物油3の添加比率を変更してもよい。
【0051】
本発明の収容容器入りレトルト殺菌食品Xは、副材として調味料、穀類、野菜類および肉類の少なくとも何れかを含むことができる。
【0052】
調味料としては、麺類1に味を付与するものであれば特に限定されるものではなく、例えばソース、ケチャップ、醤油、味噌、マヨネーズ、ドレッシング、たれ、塩、砂糖、香辛料(スパイス類)、酢類及び出汁等の少なくとも何れかを使用することができる。
【0053】
穀類としては、食用とされる種子であればよく、例えば米、とうもろこし等のイネ科植物の種子とすればよいが、これらに限定されるものではなく、マメ科植物の種子であってもよい。
【0054】
野菜類としては、食用とされる野菜であれば特に限定されるものではなく、トマト、タマネギ、ピーマン、キャベツ等、様々な野菜類を使用することができる。
【0055】
肉類としては、例えば牛肉、豚肉等の畜肉、獣肉および鶏肉等、様々な肉類を使用することができる。
【0056】
副材として上記の少なくとも何れかを含むことで、収容容器入りレトルト殺菌食品Xを開封したのちに直ぐに喫食できる、或いは、簡単な調理(味付け或いは食材の追加)のみで喫食できる。
【0057】
本発明の収容容器入りレトルト殺菌食品の製造方法は、
図2に示したように、麺類1を加熱する加熱工程Aと、当該加熱工程Aを行った麺類1に対して所定濃度のレシチン2を添加する添加工程Bと、当該添加工程Bを行った麺類1を収容容器4に充填して密封する充填密封工程Cと、当該充填密封工程Cを行った収容容器4をレトルト殺菌処理する殺菌工程Dと、を有する。
【0058】
加熱工程Aでは、喫食可能な状態となるまで麺類1を所定の時間加熱する加熱処理を行う。当該加熱処理は、沸騰水に麺類(生麺あるいは乾燥麺)1を所定時間浸漬する茹で加熱処理や蒸気による蒸し加熱処理などによって行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
添加工程Bでは、上記の加熱処理を行った後の麺類1に対して上述した所定濃度のレシチン2を添加する。当該麺類1に対してレシチン2を添加した後、レシチン2が麺類1に均一に混ざるように混合するとよい。当該混合は、作業者が箸などを使用して混合してもよいし、撹拌機などで混合してもよい。
【0060】
また、添加工程Bでは、前記所定濃度以下の植物油3を前記麺類1に対して添加してもよい。当該植物油3を添加する場合は、レシチン2と同時に添加してもよいし、レシチン2と別々に添加してもよい。別々に添加する場合は、麺類1に対して何れを先に添加してもよい。本実施形態では、当該植物油3を添加する場合は、レシチン2および植物油3を予め混合した後、これらを麺類1に対して添加する場合について説明する。レシチン2および植物油3を予め混合する場合は、例えば加温した容器などにレシチン2および植物油3を投入してこれらを均一に混合できるまで混合するとよいし、当該容器は室温であってもよい。尚、添加工程Bでは、レシチン2を添加した麺類1に対して例えば鉄板で焼いたりバーナーで炙って焦げ目を付けてもよい。
【0061】
充填密封工程Cでは、上記の添加工程Bを行った麺類1を収容容器4に充填して密封する。麺類1を充填した収容容器は、定法に従ってヒートシール機などによって密封するとよい。当該密封の前に、麺類1と共に、空気あるいは窒素ガスなどの不活性ガスを充填してもよい。このような気体を気体供給装置よりシリンジなどを介して収容容器4に充填する。
【0062】
殺菌工程Dでは、充填密封工程Cを行った収容容器4をレトルト殺菌処理する。当該レトルト殺菌処理とは、加圧加熱処理をいい、耐熱性容器に充填した製品を品温上昇に伴う製品の内圧で容器が破損しないように加圧しながら110℃~130℃程度の蒸気又は熱水で10~50分間程度加熱し、少なくともF0値=4以上となるように処理することをいう。レトルト殺菌処理はバッチ式レトルト殺菌装置、連続式レトルト殺菌装置を用いることができる。
【0063】
具体的な加熱の方法としては、常圧下で食品対象物の内部温度が110℃~130に達するまで加熱をすることは困難であるため、加圧条件下で行う。例えば、熱水式の加圧加熱殺菌機や加圧式の圧力釜等を用いるとよい。
【実施例】
【0064】
〔実施例1〕
以下のようにして本発明の収容容器入りレトルト殺菌食品Xを作製した。
麺類1として乾燥パスタ(フォルテスパゲッティ:直径1.6mm、長さ25cm、昭和産業株式会社製)130gを塩濃度0.2%の条件で茹で加熱し(加熱工程A)、9分後に湯切りし、バットに移した。
【0065】
乾燥パスタの重量に対して1%のレシチン(酵素分解卵黄レシチン:LPL-20S、キューピー株式会社)2を湯切りしたパスタ1に添加し、レシチン2が当該パスタに均一に混ざるように混合した(添加工程B)。レシチン2を添加したパスタ1を、収容容器4である電子レンジ対応スタンディングパウチE-RP(東洋製罐株式会社、160×140×40mm)に充填し、さらに窒素ガスを4秒間充填(減圧度合-0.10MPa/0.15分)した後、GN45型真空シール機(吉川工業株式会社)によって1.5秒間のヒートシールを行った(充填密封工程C)。
【0066】
充填密封工程Cを行った収容容器4を、121.1℃で20分間のレトルト殺菌処理(F0=7.0)を行った(殺菌工程D)。殺菌工程Dの後、室温になるまで冷却した(本発明例1)。
【0067】
〔実施例2〕
実施例1の添加工程Bにおいて、レシチン2および綿実油3をパスタに添加したこと以外は同様の処理を行って収容容器入りレトルト殺菌食品Xを作製した(本発明例2)。このとき、乾燥パスタの重量に対して1%のレシチン2および0.75%の綿実油(岡村製油株式会社)3を添加した。
【0068】
〔実施例3〕
本発明例1,2の収容容器入りレトルト殺菌食品Xを常温で長期保存し、3か月後に収容容器を開封して取り出したパスタ1のほぐれ度合を引張試験によって確認した。比較例として、実施例1の添加工程Bを行わない(レシチンおよび綿実油をパスタに添加しない)こと以外は同様の処理を行って作製した収容容器入りレトルト殺菌食品(比較例1)、および、実施例1の添加工程Bにおいて0.75%の綿実油のみをパスタに添加(レシチンをパスタに添加しない)したこと以外は同様の処理を行って作製した収容容器入りレトルト殺菌食品(比較例2)についても、同様にほぐれ度合を確認した。
【0069】
図3に示したように、収容容器4を開封して取り出したパスタ1を受け皿11であるポリスチレン製クリアケースSトレー(幅79mm×奥行220mm×高さ17mm、サナダ精工株式会社製)に載置し、割りばしで作製した固定器具12でパスタの一方を固定し、パスタの他方を引張器具13である折り曲げたステンレススチール製アウトドア用折りたたみフォーク(株式会社中島桐次郎商店製)の先端に絡めた。引張試験は、引張試験機14であるデジタルフォースゲージ(日本電産シンポ株式会社製)によって当該引張器具13を引っ張ることによって行った。
【0070】
受け皿11の上に30gのパスタ1を90mm×75mmになるように、手でほぐしてしまわないように注意してパスタを置いた。引張長さは130mmとした。引張試験は、本発明例1,2および比較例1,2ごとに常温で3回ずつデータを取り、平均値を算出した。結果を表1に示した。
【0071】
【0072】
引張試験時の各サンプルの温度は24.4~24.7℃であった。本発明例1は、受け皿に載置したときのパスタ1の状態はほぐれている状態であり、引張強さの平均値(N)は0.467であった。また、本発明例2は、受け皿に載置したときのパスタ1の状態はよくほぐれている状態であり、引張強さの平均値(N)は0.367であった。
【0073】
一方、比較例1は、受け皿に載置したときのパスタの状態は固まっている状態であり、引張強さの平均値(N)は0.867であった。また、比較例2は、受け皿に載置したときのパスタの状態は固まっている状態であり、引張強さの平均値(N)は0.667であった。
【0074】
以上より、引張強さは、本発明例2が最も小さく、以下、本発明例1、比較例2、比較例1の順で大きくなっていた。また、受け皿に載置したときのパスタの状態は、本発明例2がよくほぐれている状態、本発明例1がほぐれている状態であり、比較例1,2は固まってほぐれ難い状態であると認められた。
【0075】
従って、本発明例1,2のようにレシチン2を添加することで、常温で長期保存した場合であっても、ほぐれ性が低下し難くなる(ほぐれ易さが維持される)ことが判明した。さらに、本発明例2のようにレシチン2および綿実油3を添加することで、よりほぐれ易くなると認められた。尚、結果は示さないが、乾燥パスタの重量に対してレシチン2の添加量(所定濃度)が0.4%、0.9%、1.5%および2%であっても上記と同様の結果を示した。また、綿実油3の添加量は当該所定濃度以下(例えばレシチン0.9%の場合、綿実油0.60%)であれば、上記と同様の結果を示した。
【0076】
〔実施例4〕
本発明例2(レシチン2および綿実油3をパスタに添加)の収容容器入りレトルト殺菌食品Xを常温で長期保存し、3か月後に収容容器4を開封して取り出したパスタ1の官能評価を行った。
【0077】
収容容器入りレトルト殺菌食品Xは喫食時を想定し、電子レンジで600W、1分間加熱した。評価項目は、ソースを付けないパスタ単体での外観の色、形、ほぐれ易さ、開封して取り出した後にソースを絡めた状態での食べ易さ、の4項目とした。
【0078】
色および形の項目において、良い(2.0)、許容できる(0)、悪い(-2.0)とし、2.0から-2.0までの間で評価を数値化した。ほぐれ易さの項目において、ほぐし易い(2.0)、ほぐれる(0)、ほぐし難い(-2.0)とし、食べ易さの項目において、食べ易い(2.0)、丁度良い(0)、食べ難い(-2.0)とし、それぞれの項目において2.0から-2.0までの間で評価を数値化した。パネラーは22名とし、各項目の平均値を表2に示した。
【0079】
【0080】
この結果、本発明例2においては、外観(色)、外観(形)、ほぐれ易さ、食べ易さの全項目において0(許容できる)よりも高い評価が得られた。特に、ほぐれ易さは1.3であり、かなり高い評価であると認められた。また、レシチンがパスタの食味や風味へ及ぼす影響も殆ど認められないとのパネラーの評価が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、レトルト殺菌した収容容器入りレトルト殺菌食品および収容容器入りレトルト殺菌食品の製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0082】
X 収容容器入りレトルト殺菌食品
1 麺類
2 レシチン
3 植物油
4 収容容器
A 加熱工程
B 添加工程
C 充填密封工程
D 殺菌工程