(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】ヘマグルチニン結合ペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 7/00 20060101AFI20241101BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20241101BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20241101BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241101BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20241101BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241101BHJP
【FI】
C07K7/00 ZNA
A61K38/12
A61P31/16
G01N33/569 L
G01N33/531 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2021501992
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020006146
(87)【国際公開番号】W WO2020171028
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019026185
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506269633
【氏名又は名称】ペプチドリーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】舛屋 圭一
(72)【発明者】
【氏名】大内 政輝
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/063969(WO,A1)
【文献】特開2013-071904(JP,A)
【文献】特表2013-538564(JP,A)
【文献】舛屋圭一,特殊環状ペプチドがもたらす創薬研究開発の新潮流,日本薬理学雑誌,2016年,vol. 148,pp. 322-328
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物であって,前記ヘマグルチニン結合ペプチドは
、下記式(VII)で示される、ヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物を含むウイルス感染の予防又はウイルス感染症の治療のための医薬。
【請求項3】
請求項1に記載のヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物を含むインフルエンザの予防又は治療のための医薬。
【請求項4】
請求項1に記載のヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物を含むウイルス検出薬。
【請求項5】
請求項1に記載のヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物を含むインフルエンザウイルス検出薬。
【請求項6】
請求項4に記載のウイルス検出薬を含むウイルス検出用キット。
【請求項7】
請求項5に記載のインフルエンザウイルス検出薬を含むインフルエンザウイルス検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,極めて高い抗インフルエンザウイルス活性を有するヘマグルチニン結合ペプチド,インフルエンザの予防又は治療のための医薬,及びインフルエンザの検出薬などに関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは,高い感染力と病原性を持つウイルスであり,その流行はパンデミックとしてヒトに対して広範囲な病原性を示す。
【0003】
インフルエンザウイルスに対する医薬品として,インフルエンザウイルスが遊離する際に必要となるノイラミニダーゼを阻害するザナミビル(商品名:リレンザ(商標)),オセルタミビル(商品名:タミフル(商標)),ペラミビル(商品名:ラピアクタ(商標)),ラニナミビル(商品名:イナビル(商標))が広く用いられている。また,ウイルスの脱核過程を阻害するアマンタジン(商品名:シンメトレル(商標))やフルマジン(商品名:リマンタジン),キャップ依存的エンドヌクレアーゼを阻害するバロキサビルマルボキシル(商品名:ゾフルーザ(商標))が,医薬品として公知である。しかし,上記医薬品,特にノイラミニダーゼに対する抗インフルエンザ薬は医薬品として広く用いられているものの,ウイルスの変異による薬剤耐性が問題となる。
【0004】
一方,インフルエンザウイルスが宿主細胞への侵入の際に必須な蛋白質としてヘマグルチニンが知られており,このターゲットに対する抗ウイルス分子が報告されている。ヘマグルチニンをターゲットとした抗ウイルス分子は,既存の抗ウイルス薬として薬剤耐性を持つウイルスに有効である。よって,既存医薬品と異なるターゲット分子に対する抗ウイルス分子は,薬剤耐性の観点からも有用性が高い。
【0005】
ヘマグルチニンに対する抗ウイルス分子としては,ヘマグルチニンに結合する抗体分子が報告されている(例えば,特許文献1~3)。一方で抗体医薬品は,高い活性を持つ一方,抗体医薬品が生体内で異物として認識されることによって発生する中和抗体は,薬剤の力価を著しく減少させる場合がある。
【0006】
近年,新たな分子群としてN-メチルアミノ酸やD-アミノ酸のような特殊骨格を有するペプチド分子が報告されており,高い結合力と生体安定性を示すだけではなく,その分子量は抗体に比べ極めて小さい。そのため,従来の抗体医薬品が抱えている問題を解決できる分子群として注目されている(例えば,非特許文献1~4)。
【0007】
我々は,この特殊骨格を有するペプチド分子に着目し,ヘマグルチニンに対するペプチド分子の探索を進めてきた。iHA100はヘマグルチニンに対するペプチド分子であり,その分子量及び一般的な抗体の投与ルートとは大きく異なり,経鼻投与においても抗ウイルス活性を示す抗インフルエンザウイルス分子である(特許文献4)。一方で,iHA100の抗インフルエンザウイルス活性を著しく向上させた事例及びその構造は報告されておらず,その抗インフルエンザウイルス活性の向上は薬剤の薬効向上に対して大きく寄与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2018/108086号パンフレット
【文献】国際公開第2018/015012号パンフレット
【文献】国際公開第2017/122087号パンフレット
【文献】国際公開第2013/071904号パンフレット
【文献】Nature Reviews Drug Discovery 17,531-533(2018)
【文献】Current opinion in chemical biology, 34, 44-52 (2016)
【文献】Annual Review of Biochemistry, 83, 727-752 (2014)
【文献】Chemistry, 19, 6530-6536 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は,iHA100より抗ウイルス活性が著しく高い化合物や,その化合物を製造するための中間体,及び上記の活性の高い化合物を含む医薬などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,新たに合成されたヘマグルチニン結合ペプチドが,既に知られた抗インフルエンザウイルス活性を有するヘマグルチニン結合ペプチドに比べて顕著な活性を有するという知見に基づく。
【0011】
本明細書に開示される実施態様のひとつは,ヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物(これらを本発明のペプチドともよぶ)に関する。
【0012】
このヘマグルチニン結合ペプチドは,以下の(1)から(7)のいずれかのペプチドである。
(1)配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド:
Trp-Thr-MeGly-Asp-MePhe-MePhe-Ala-MeAla-His-Tyr-Thr-Val-hydPro-Ala-Cys (配列番号1),
Trp-Thr-MeGly-Asp-MePhe-MePhe-Ala-MeAla-His-Tyr-Thr-Val-hydPro-Ala-Cys-Lys(配列番号2)。
(2)配列番号1又は2において,N末端のTrpが,クロロアセチル-Trpであるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(3)配列番号1において,N末端のTrpが,クロロアセチル-Trpであり,C末端のCysがアミド結合を介して式(I)で示す修飾が施されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(4)配列番号2において,N末端のTrpが,クロロアセチル-Trpであり,C末端のLysが式(II)で示される修飾を施したリシン誘導体へと置換された配列からなるポリペプチド。
(5)配列番号1において,C末端のCysがアミド結合を介して式(I)で示す修飾が施されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(6)配列番号2において,Lysの側鎖がアシル基で修飾された式(II)で示されるリシン誘導体を含む配列からなるポリペプチド。
(7)上記(1)~(6)のいずれかのアミノ酸配列において,かつ1又は2個のアミノ酸が,欠失,付加,置換又は挿入されたアミノ酸配列を有するペプチド(ただし,配列番号1におけるC末端のCysが欠失したもの,及び配列番号2におけるC末端のLysが欠失したものを除く)。
【0013】
式(I)
【化9】
(式(I)中,*はC末端Cysのカルボニル基への連結部分を示し,A
1は,C
8-C
12アルキル基を示す。)
【0014】
式(II)
【化10】
(式(II)中,*はC末端Cysのカルボニル基への連結部分を示し,A
1は,C
8-C
12アルキル基を示す。)
【0015】
ヘマグルチニン結合ペプチドの好ましい例は,以下のとおりである。
(1)配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(5)配列番号1において,C末端のCysがアミド結合を介して式(I)で示す修飾が施されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(6)配列番号2において,C末端のLysが式(II)で示される修飾を施したリシン誘導体へと置換された配列からなるポリペプチド;又は
(7)上記(1),(5),及び(6)のいずれかのアミノ酸配列において,かつ1又は2個のアミノ酸が,欠失,付加,置換又は挿入されたアミノ酸配列を有するペプチド(ただし,配列番号1におけるC末端のCysが欠失したもの,及び配列番号2におけるC末端のLysが欠失したものを除く)。
【0016】
ヘマグルチニン結合ペプチドの好ましい例は,ヘマグルチニン結合ペプチドが環状のものである。
【0017】
ヘマグルチニン結合ペプチドの好ましい例は,下記式(III)又は(IV)で示されるものである。
【0018】
【化11】
(式(III)中,式A
2は,-NH
2で示される基又は式(I)で示される基を示す。)
【0019】
【化12】
(式(IV)中,式A
3は,-NH
2で示される基又は式(II)で示される基を示す。)
【0020】
ヘマグルチニン結合ペプチドの好ましい上記とは別の例は,下記式(V)又は(VI)で示される。
【0021】
【化13】
(式(V)中,式A
4は,-NH
2で示される基又は式(IIa)で示される基を示す。)
【0022】
【化14】
(IIa)
(式(IIa)中,*は連結部分を示し,A
1は,C
8-C
12アルキル基を示す。)
【0023】
【化15】
式(VI)中,式A
5は,-NH
2で示される基又は式(I)で示される基を示す。
【0024】
ヘマグルチニン結合ペプチドの好ましい上記とは別の例は,下記式(VII)で示される。
【化16】
【0025】
この明細書における上記とは別の態様は,上記したいずれかのヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物を含むウイルス感染の予防又はウイルス感染症の治療のための医薬である。さらに別の態様は,上記したいずれかのヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物を含むインフルエンザの予防又は治療のための医薬(インフルエンザの予防剤又は治療剤,医薬品)である。
【0026】
この明細書に開示される別の実施態様は,ウイルス検出薬に関する。さらに別の態様としては,インフルエンザウイルス検出薬に関する。このウイルス検出薬は,上記したヘマグルチニン結合ペプチドを含む。
【0027】
この明細書に開示される別の実施態様は,上記したウイルス検出薬を含むウイルス検出用キットに関する。
【発明の効果】
【0028】
実施例により示された通り,この出願は,iHA100より抗インフルエンザウイルス活性が著しく高いペプチドや,そのペプチドを用いたインフルエンザの予防又は治療のための医薬及びインフルエンザウイルスの検出薬,上記のペプチドを合成するための中間体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1-1】
図1-1は,インフルエンザウイルスA/Nagasaki/HA-58/2009 (H1N1)を用いたiHA100及びHA152のin vitroにおける抗インフルエンザウイルス活性評価結果を示すグラフである。
【
図1-2】
図1-2は,インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34 (H1N1)を用いたiHA100及びHA152のin vitroにおける抗インフルエンザウイルス活性評価結果を示すグラフである。
【
図1-3】
図1-3は,インフルエンザウイルスA/Duck/Pennsylvania/84 (H5N2)を用いたiHA100及びHA152のin vitroにおける抗インフルエンザウイルス活性活性評価結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は,インフルエンザウイルスA/Duck/Pennsylvania/84 (H5N2)を用いた,iHA100及びHA119,HA145,HA146,HA151,HA152に対するin vitroにおける抗インフルエンザウイルス活性をEC50値として示した結果である。
【
図3】
図3は,インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34 (H1N1)感染モデルを用い,in vivoにおけるHA152の抗インフルエンザウイルス活性を解析した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0031】
本明細書に開示される実施態様のひとつは,ヘマグルチニン結合ペプチド,ヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物に関する。
【0032】
本明細書において,ヘマグルチニンとは,インフルエンザウイルスをはじめとする多くの細菌やウイルスの表面に存在する抗原性糖タンパク質をいい,「HA」と表される。ヘマグルチニンは,ウイルスによる宿主細胞への接着過程に関与する。具体的には,ウイルス表面のヘマグルチニンが標的とする宿主細胞表面にあるシアル酸と結合すると,ウイルスは細胞膜に包みこまれ,ウイルスを含むエンドソームの形で細胞内に取り込まれる。続いて,エンドソーム膜とウイルス膜が融合し,ウイルスゲノムが細胞内に挿入され,増殖が開始される。
インフルエンザウイルスはA型,B型およびC型の3型に分類されるが,特にパンデミックを起こしやすいインフルエンザウイルスA型のヘマグルチニンには,サブタイプが少なくとも16種類存在し,H1~H16と呼ばれる。なお,H1,2,5,6,8,9,11,12,13,16,17,18はグループIと呼ばれ,その他のヘマグルチニン(H3,4,7,10,14,15)はグループIIと呼ばれる。インフルエンザの亜型名のHはヘマグルチニンを示す。
【0033】
ヘマグルチニン結合ペプチドは,ヘマグルチニンと結合可能なペプチドを意味する。ヘマグルチニンと結合可能であるか否かは,当業者が公知の方法に従って確認することができる。
【0034】
その薬学上許容される塩は,ヘマグルチニン結合ペプチドの薬学的に許容される塩を意味する。塩の例は,無機酸(塩酸,臭化水素酸,ヨウ化水素酸,硫酸,リン酸等)の付加塩,有機酸(p-トルエンスルホン酸,メタンスルホン酸,シュウ酸,p-ブロモフェニルスルホン酸,カルボン酸,コハク酸,クエン酸,安息香酸,酢酸等)の付加塩,無機塩基(水酸化アンモニウム又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属水酸化物,炭酸塩,重炭酸塩等),アミノ酸の付加塩等が挙げられる。
【0035】
その薬学上許容される溶媒和物は,ヘマグルチニン結合ペプチドの薬学的に許容される溶媒和物又はヘマグルチニン結合ペプチドの塩の薬学上許容される溶媒和物を意味する。溶媒分子は,化合物又はその塩に対し,配位したものであってもよく,溶媒和物の例は,水和物,及びアルコール和物である。
【0036】
このヘマグルチニン結合ペプチドは,以下の(1)から(7)のいずれかのペプチドである。
(1)配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド:
Trp-Thr-MeGly-Asp-MePhe-MePhe-Ala-MeAla-His-Tyr-Thr-Val-hydPro-Ala-Cys (配列番号1),
Trp-Thr-MeGly-Asp-MePhe-MePhe-Ala-MeAla-His-Tyr-Thr-Val-hydPro-Ala-Cys-Lys(配列番号2)。
(2)配列番号1又は2において,N末端のTrpが,クロロアセチル-Trpであるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(3)配列番号1において,N末端のTrpが,クロロアセチル-Trpであり,C末端のCysがアミド結合を介して式(I)で示す修飾が施されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(4)配列番号2において,N末端のTrpが,クロロアセチル-Trpであり,C末端のLysが式(II)で示される修飾を施したリシン誘導体へと置換された配列からなるポリペプチド。
(5)配列番号1において,C末端のCysがアミド結合を介して式(I)で示す修飾が施されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(6)配列番号2において,Lysの側鎖がアシル基で修飾された式(II)で示されるリシン誘導体を含む配列からなるポリペプチド。
(7)上記(1)~(6)のいずれかのアミノ酸配列において,かつ1又は2個のアミノ酸が,欠失,付加,置換又は挿入されたアミノ酸配列を有するペプチド(ただし,配列番号1におけるC末端のCysが欠失したもの,及び配列番号2におけるC末端のLysが欠失したものを除く)。
【0037】
式(I)
【化17】
(式(I)中,*はC末端Cysのカルボニル基への連結部分を示し,A
1は,C
8-C
12アルキル基を示す。)C
8-C
12アルキル基は,炭素数が8~12個のアルキル基である。C
8-C
12アルキル基は,直鎖状のアルキル基であってもよいし,分岐のあるアルキル基であってもよい。C
8-C
12アルキル基は,C
8アルキル基,C
9アルキル基,C
10アルキル基,C
11アルキル基,及びC
12アルキル基のいずれであってもよい。以下の各基におけるA
1についても同様である。
【0038】
式(II)
【化18】
(式(II)中,*はC末端Cysのカルボニル基への連結部分を示し,A
1は,C
8-C
12アルキル基を示す。)
【0039】
ヘマグルチニン結合ペプチドの好ましい例は,以下のとおりである。
(1)配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(5)配列番号1において,C末端のCysがアミド結合を介して式(I)で示す修飾が施されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(6)配列番号2において,C末端のLysが式(II)で示される修飾を施したリシン誘導体へと置換された配列からなるポリペプチド;又は
(7)上記(1),(5),及び(6)のいずれかのアミノ酸配列において,かつ1又は2個のアミノ酸が,欠失,付加,置換又は挿入されたアミノ酸配列を有するペプチド(ただし,配列番号1におけるC末端のCysが欠失したもの,及び配列番号2におけるC末端のLysが欠失したものを除く)。
【0040】
このペプチドの,具体的なアミノ酸配列の例は,以下のとおりである。
Chloroacetyl-Trp-Thr-MeGly-Asp-MePhe-MePhe-Ala-MeAla-His-Tyr-Thr-Val-hydPro-Ala-Cys-NH2(配列番号:3)
Chloroacetyl-Trp-Thr-MeGly-Asp-MePhe-MePhe-Ala-MeAla-His-Tyr-Thr-Val-hydPro-Ala-Cys-Lys[gamma-C(=O)n-C11H23]-NH2(配列番号:4)
Chloroacetyl-Trp-Thr-MeGly-Asp-MePhe-MePhe-Ala-MeAla-His-Tyr-Thr-Val-hydPro-Ala-Cys-Lys[gamma-C(=O)n-C9H19]-NH2(配列番号:5)
Chloroacetyl-Trp-Thr-MeGly-Asp-MePhe-MePhe-Ala-MeAla-His-Tyr-Thr-Val-hydPro-Ala-Cys-[NHCH2CH2NHC(=O)n-C11H23](配列番号:6)
Chloroacetyl-Trp-Thr-MeGly-Asp-MePhe-MePhe-Ala-MeAla-His-Tyr-Thr-Val-hydPro-Ala- Cys-[NHCH2CH2NHC(=O)n-C9H19](配列番号:7)
【0041】
本明細書において,本発明のペプチド及びポリペプチドを構成するタンパク質を構成するアミノ酸(proteinogenicなアミノ酸)残基を表すのには,当業界にて受け入れられている3文字表記または一文字表記を用いる。
【0042】
本明細書に開示される別のアミノ酸としてタンパク質を構成しないアミノ酸(non-proteinogenicアミノ酸ともいい,単に非天然アミノ酸ともよぶ),またはアミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物などが挙げられる。非天然アミノ酸の例として,主鎖の構造が天然型と異なる,α,α-二置換アミノ酸(α-メチルアラニンなど),N-アルキル-α-アミノ酸,N-アルキル-α-D-アミノ酸,β-アミノ酸や,側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(ノルロイシン,ホモヒスチジン,及びヒドロキシプロリンなど)が挙げられるがこれに限定されない。
【0043】
本明細書に開示される非天然アミノ酸の例として,N-アルキル-α-アミノ酸であるN-メチルアミノ酸の一種であるN-メチルグリシンをMeGly,N-メチルアラニンをMeAla, N-メチルフェニルアラニンをMePheとあらわすことがある。また,側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸の例として,4R-ヒドロキシプロリンをhydProとあらわすことがある。
【0044】
Chloroacetyl-は,クロロアセチル化を意味し,Chloroacetyl-Trpは,クロロアセチル-Trpを示す。
【0045】
本明細書においてポリペプチドは,2以上のアミノ酸がペプチド結合で結合しているものをいい,例えば,8-30アミノ酸がペプチド結合したものとすることができ,直鎖状であっても環状であってもよい。本明細書におけるポリペプチドは,好ましくは15又は16アミノ酸の環状アミノ酸である。
【0046】
また,本発明に係るヘマグルチニン結合ペプチドは,環状化(大環状化)されていてもよい。本明細書において環状化とは,1つのペプチド内において,1アミノ酸以上離れた2つのアミノ酸が直接に,又はリンカー等を介して間接的に結合し,分子内に環状の構造を作ることを意味する。
【0047】
環状化は,公知の方法によって行うことができるが,例えば国際公開WO2016/063969パンフレットに記載された方法に従って行うことができる。
【0048】
ヘマグルチニン結合ペプチドの好ましい例は,下記式(III)又は(IV)で示されるものである。
【0049】
【化19】
(式(III)中,式A
2は,-NH
2で示される基又は式(I)で示される基を示す。)
【0050】
【化20】
(式(IV)中,式A
3は,-NH
2で示される基又は式(II)で示される基を示す。)
【0051】
ヘマグルチニン結合ペプチドの好ましい上記とは別の例は,下記式(V)又は(VI)で示される。
【0052】
【化21】
(式(V)中,式A
4は,-NH
2で示される基又は式(IIa)で示される基を示す。)
【0053】
【化22】
(式(IIa)中,*は連結部分を示し,A
1は,C
8-C
12アルキル基を示す。)
【0054】
【化23】
式(VI)中,式A
5は,-NH
2で示される基又は式(I)で示される基を示す。
【0055】
ヘマグルチニン結合ペプチドの好ましい上記とは別の例は,下記式(VII)で示される。
【化24】
【0056】
環状ペプチドの具体的な構造は,以下のとおりである。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
本発明のペプチドは,液相法,固相法,液相法と固相法を組み合わせたハイブリッド法等の化学合成法;遺伝子組み換え法等,公知のペプチドの製造方法によって製造することができる。
【0063】
固相法は,例えば,水酸基を有するレジンの水酸基と,α-アミノ基が保護基で保護された第一のアミノ酸(通常,目的とするペプチドのC末端アミノ酸)のカルボキシ基をエステル化反応させる。エステル化触媒としては,1-メシチレンスルホニル-3-ニトロ-1,2,4-トリアゾール(MSNT),ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC),ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)等の公知の脱水縮合剤を用いることができる。
次に,第一アミノ酸のα-アミノ基の保護基を脱離させるとともに,主鎖のカルボキシ基以外のすべての官能基が保護された第二のアミノ酸を加え,当該カルボキシ基を活性化させて,第一及び第二のアミノ酸を結合させる。さらに,第二のアミノ酸のα-アミノ基を脱保護し,主鎖のカルボキシ基以外のすべての官能基が保護された第三のアミノ酸を加え,当該カルボキシ基を活性化させて,第二及び第三のアミノ酸を結合させる。これを繰り返して,目的とする長さのペプチドが合成されたら,すべての官能基を脱保護する。
【0064】
固相法に使用されるレジンとしては,Merrifield resin,MBHA resin,Cl-Trt resin,SASRIN resin,Wang resin,Rink amide resin,HMFS resin,Amino-PEGA resin(メルク社),HMPA-PEGA resin(メルク社)等が挙げられる。これらのレジンは,溶剤(ジメチルホルムアミド(DMF),2-プロパノール,塩化メチレン等)で洗浄してから用いることができる。
α-アミノ基の保護基としては,公知の保護基であれば特に限定されないが,例えば,ベンジルオキシカルボニル(Cbz又はZ)基,tert-ブトキシカルボニル(Boc)基,フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基,ベンジル基,アリル基,アリルオキシカルボニル(Alloc)基等が挙げられる。なお,Cbz基はフッ化水素酸,水素化等によって脱保護でき,Boc基はトリフルオロ酢酸(TFA)により脱保護でき,Fmoc基はピペリジンによる処理で脱保護できる。
α-カルボキシ基の保護基としては,公知の保護基であれば特に限定されないが,例えば,メチルエステル,エチルエステル,ベンジルエステル,tert-ブチルエステル,シクロヘキシルエステル等が挙げられる。
アミノ酸のその他の官能基として,特に限定されないが,例えば,セリンやトレオニンのヒドロキシ基はベンジル基やtert-ブチル基で保護することができ,チロシンのヒドロキシ基は2-ブロモベンジルオキシカルボニル基やtert-ブチル基で保護する。リジン側鎖のアミノ基,グルタミン酸やアスパラギン酸のカルボキシ基は,α-アミノ基,α-カルボキシ基と同様に保護することができる。
【0065】
カルボキシ基の活性化は,縮合剤を用いて行うことができる。縮合剤としては,例えば,ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC),ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI),1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCあるいはWSC),(1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスファート(BOP),1-[ビス(ジメチルアミノ)メチル]-1H-ベンゾトリアゾリウム-3-オキシドヘキサフルオロホスファート(HBTU)等が挙げられる。
【0066】
レジンからのペプチド鎖の切断は,TFA,フッ化水素(HF)等の酸で処理することによって行うことができる。
【0067】
遺伝子組み換え法(翻訳合成系)によるペプチドの製造は,本発明のペプチドをコードする核酸を用いて行うことができる。本発明のペプチドをコードする核酸は,DNAであってもRNAであってもよい。
本発明のペプチドをコードする核酸は,公知の方法又はそれに準ずる方法で調製することができる。例えば,自動合成装置によって合成することができる。得られたDNAをベクターに挿入するために制限酵素認識部位を加えたり,できたペプチド鎖を酵素などで切り出すためのアミノ酸配列をコードする塩基配列を組み込んでもよい。
上述のとおり,本発明のペプチドを膜透過性ペプチド等と融合させる場合,上記核酸は,膜透過性ペプチドをコードする核酸も含む。
宿主由来のプロテアーゼによる分解を抑制するため,目的のペプチドを他のペプチドとのキメラペプチドとして発現させるキメラタンパク質発現法を用いることもできる。この場合,上記核酸としては,目的とするペプチドと,これに結合するペプチドとをコードする核酸が用いられる。
【0068】
続いて,本発明のペプチドをコードする核酸を用いて発現ベクターを調製する。核酸はそのまま,又は制限酵素で消化し,又はリンカーを付加する等して,発現ベクターのプロモータの下流に挿入することができる。ベクターとしては,大腸菌由来プラスミド(pBR322,pBR325,pUC12,pUC13,pUC18,pUC19,pUC118,pBluescript II等),枯草菌由来プラスミド(pUB110,pTP5,pC1912,pTP4,pE194,pC194等),酵母由来プラスミド(pSH19,pSH15,YEp,YRp,YIp,YAC等),バクテリオファージ(eファージ,M13ファージ等),ウイルス(レトロウイルス,ワクシニアウイルス,アデノウイルス,アデノ随伴ウイルス(AAV),カリフラワーモザイクウイルス,タバコモザイクウイルス,バキュロウイルス等),コスミド等が挙げられる。
【0069】
プロモータは,宿主の種類に応じて適宜選択することができる。宿主が動物細胞である場合は,例えば,SV40(simian virus 40)由来プロモータ,CMV(cytomegalovirus)由来プロモータを用いることができる。宿主が大腸菌である場合は,trpプロモータ,T7プロモータ,lacプロモータ等を用いることができる。
発現ベクターには,DNA複製開始点(ori),選択マーカー(抗生物質抵抗性,栄養要求性等),エンハンサー,スプライシングシグナル,ポリA付加シグナル,タグ(FLAG,HA,GST,GFPなど)をコードする核酸等を組み込むこともできる。
【0070】
次に,上記発現ベクターで適当な宿主細胞を形質転換する。宿主は,ベクターとの関係で適宜選択することができ,例えば,大腸菌,枯草菌,バチルス属菌),酵母,昆虫又は昆虫細胞,動物細胞等が用いられる。動物細胞として,例えば,HEK293T細胞,CHO細胞,COS細胞,ミエローマ細胞,HeLa細胞,Vero細胞を用いることができる。形質転換は,宿主の種類に応じ,リポフェクション法,リン酸カルシウム法,エレクトロポレーション法,マイクロインジェクション法,パーティクルガン法等,公知の方法に従って行うことができる。形質転換体を常法に従って培養することにより,目的とするペプチドが発現する。
【0071】
形質転換体の培養物からのペプチドの精製は,培養細胞を回収し,適当な緩衝液に懸濁してから超音波処理,凍結融解などの方法により細胞を破壊し,遠心分離やろ過によって粗抽出液を得る。培養液中にペプチドが分泌される場合には,上清を回収する。
粗抽出液又は培養上清からの精製も公知の方法又はそれに準ずる方法(例えば,塩析,透析法,限外ろ過法,ゲルろ過法,SDS-PAGE法,イオン交換クロマトグラフィー,アフィニティークロマトグラフィー,逆相高速液体クロマトグラフィー等)で行うことができる。
得られたペプチドは,公知の方法又はそれに準ずる方法で遊離体から塩に,又は塩から遊離体に変換してもよい。
【0072】
翻訳合成系は,無細胞翻訳系としてもよい。無細胞翻訳系は,例えば,リボソームタンパク質,アミノアシルtRNA合成酵素(ARS),リボソームRNA,アミノ酸,rRNA,GTP,ATP,翻訳開始因子(IF)伸長因子(EF),終結因子(RF),及びリボソーム再生因子(RRF),並びに翻訳に必要なその他の因子を含む。発現効率を高くするために大腸菌抽出液や小麦胚芽抽出液加えてもよい。他に,ウサギ赤血球抽出液や昆虫細胞抽出液を加えてもよい。
これらを含む系に,透析を用いて連続的にエネルギーを供給することで,数100μgから数mg/mLのペプチドを生産することができる。遺伝子DNAからの転写を併せて行うためにRNAポリメラーゼを含む系としてもよい。市販されている無細胞翻訳系として,大腸菌由来の系としてはロシュ・ダイアグノスティックス社のRTS-100(登録商標)ジーンフロンティア社のPURESYSTEMやNEW ENGLAND Biolabs社のPURExpress In Vitro Protein Synthesis Kit等,小麦胚芽抽出液を用いた系としてはゾイジーン社やセルフリーサイエンス社のもの等を使用できる。
無細胞翻訳系によれば,発現産物を精製することなく純度の高い形で得ることができる。
【0073】
無細胞翻訳系においては,天然のアミノアシルtRNA合成酵素に合成されるアミノアシルtRNAに代えて,所望のアミノ酸又はヒドロキシ酸をtRNAに連結(アシル化)した人工のアミノアシルtRNAを用いてもよい。かかるアミノアシルtRNAは,人工のリボザイムを用いて合成することができる。
かかるリボザイムとしては,フレキシザイム(flexizyme)(H. Murakami, H. Saito, and H. Suga, (2003), Chemistry & Biology, Vol. 10, 655-662; H. Murakami, D. Kourouklis, and H. Suga, (2003), Chemistry & Biology, Vol. 10, 1077-1084; H. Murakami, A. Ohta, H. Ashigai, H. Suga (2006) Nature Methods 3, 357-359 ”The flexizyme system: a highly flexible tRNA aminoacylation tool for the synthesis of nonnatural peptides”;N. Niwa, Y. Yamagishi, H. Murakami, H. Suga (2009) Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 19, 3892-3894 ”A flexizyme that selectively charges amino acids activated by a water-friendly leaving group”;及びWO2007/066627等)が挙げられる。フレキシザイムは,原型のフレキシザイム(Fx),及び,これから改変されたジニトロベンジルフレキシザイム(dFx),エンハンスドフレキシザイム(eFx),アミノフレキシザイム(aFx)等の呼称でも知られる。
【0074】
フレキシザイムによって生成された,所望のアミノ酸又はヒドロキシ酸が連結されたtRNAを用いることにより,所望のコドンを,所望のアミノ酸又はヒドロキシ酸と関連付けて翻訳することができる。所望のアミノ酸としては,特殊アミノ酸を用いてもよい。例えば,上述した環状化に必要な非天然アミノ酸もこの方法により,ヘマグルチニン結合ペプチドに導入することができる。
【0075】
本発明の大環状ペプチドとそのアナログの化学合成は,段階的固相合成,配座的に支援される再ライゲーションを経るペプチドフラグメントの半合成,化学ライゲーションを含めた様々な当該技術分野において汎用される方法を使用して合成できる。本明細書に記されるペプチドとそのアナログの合成は,たとえばK. J. Jensen, P. T. Shelton, S. L. Pedersen, Peptide Synthesis and Applications, 2nd Edition, Springer, 2013などに記載されるような種々の固相技術を使用する化学合成である。好ましいストラテジーとして,α-アミノ基を一時的に保護および塩基による選択的除去を可能とするFmoc基と,側鎖官能基を一時的に保護しかつ脱Fmoc条件に安定な保護基の組み合わせに基づく。そのような一般的なペプチド側鎖の選択は前述のPeptide Synthesis and Applications, 2nd edition やG. B. Fields, R. L. Noble, Solid Phase Peptide Synthesis Utilizing 9-Fluorenylmethoxycarbonyl Amino Acids, Int. J. Peptide Protein Res. 35, 1990, 161-214 などで知られているが,好ましいペプチド側鎖保護基としては,リシンをはじめとするアミノ基に対するBoc基やMtt基,グルタミン酸やアスパラギン酸のカルボキシル基に対するtert-butyl基,またシステインのチオール基に対するTrtおよびMmt基がある。
【0076】
本発明におけるペプチド合成の前駆体としての樹脂(または単純にresinという)の合成は,例えば市販のPAL-PEG -resinやPAL-PEG-PSなどを利用しBiopolymers 2011;96(6):715-22などの報告例を参考に調製可能である。たとえば概略をScheme 1に示し,nは炭素数の長さを表し;R1は水素または炭素数が1-4のアルキル基;R2は種々のアルキル鎖または置換基を持ったアルキル鎖;を表す。樹脂1のアミノ基を適切な塩基の存在下o-Ns-Clでスルフォニル化し2を調製し,FmocでN末端を保護されたアミノ一級アルコール3,たとえばFmoc-グリシノールを,光延型反応で組み合わせて用いられる試薬,例えばトリフェニルホスフィンとジイソプロピルアゾジカルボキシレートなどの存在下で反応させることで固相樹脂4を得ることができる。Fmocの脱保護を適切な2級アミンと溶媒中の組み合わせ,例えばピペリジンのDMF溶液にて行い5とし,再生したアミンに様々なアシル基を既知のペプチドカップリング法を用いて導入し6とすることが可能である。R2に関して例えば長鎖アルキル基をもつデカン酸(組成式CH3(CH2)8COOH)を,縮合剤であるHATUとDIPEAの存在下反応させることにより導入することができる。最後にo-Ns基の除去を適切な塩基とチオール,たとえばDBUとDODTの組み合わせで処理することによりペプチド合成の前駆体の樹脂7を調整することが可能である。
【0077】
【0078】
本発明におけるペプチド合成は,他の方法として市販されている樹脂を用いることも可能である。例えば,概略をscheme-2 に示すが,一つの好ましい前駆体樹脂の他の調整法として,市販されているRink Amide MBHA樹脂(シグマアルドリッチ社),Fmoc-Rink Amide NovaPEG resin(メルクミリポオア社)やFmoc-NH-SAL-PEG resin (渡辺化学社)を固相樹脂(8)として用い,脱Fmocののち,温和な酸性条件で除去可能な保護基を持った一級または二級アミノ基を側鎖に持つFmocアミノ酸9,たとえばFmoc-Lys(Mtt)-OH(m=3, R3=H, S-configuration)を縮合させ10を得ることができる。得られた固相樹脂をTFA/TIS/CH2Cl2の体積比1:4:95の溶液で処理することにより選択的にMmt基を除去し11とすることが可能である。引き続き前述したR2COOHを導入後12とし,Fmoc基の除去で13とすることができ,目的のペプチド合成に用いることが可能である。
【0079】
【0080】
本発明に記載されるペプチドとそのアナログは,前述した固相樹脂上で段階的方法において合成できる。使用するC末端アミノ酸および合成に使用するすべてのアミノ酸やペプチドは,α―アミノ保護基が合成過程において,選択的に除去されなければならない。好ましくは前述の固相樹脂を用い,N末端がFmoc等保護基を用いて適切に保護されたペプチドのC末端カルボキシル基またはFmoc等保護基を用いて適切に保護されたアミノ酸のC末端カルボキシル基を適切な試薬により活性化エステルとしたのち固相樹脂上のアミノ基に付加することにより開始する。引き続くペプチド鎖の伸長は,目的とするペプチドのアミノ酸配列に従って,N末端保護基(例えばFmoc基)の除去,次いで保護アミノ酸誘導体の縮合を順次繰り返すことにより達成することが可能である。なお,これらは目的のペプチドを最終段階で遊離させることができる。たとえば遊離させる条件として,Teixeira, W.E. Benckhuijsen, P. E. de Koning, A. R. P. M. Valentijn, J. W. Drijfhout, Protein Pept. Lett., 2002, 9, 379-385などに挙げられる,TFA中に捕捉剤として,水/シリルヒドリド/チオールを含むTFA溶液で遊離させることができる。典型的な例として,TFA/ Water/ TIS/ DODT (体積比92.5: 2.5: 2.5: 2.5) が挙げられる。
【0081】
本明細書に記載するペプチドアナログの合成は,単または多チャネルペプチド合成機,たとえばCEM 社のLiberty Blue 合成機またはBiotage社のSyro I合成機を使用することで実施できる。
【0082】
カルボキシ基の活性化は,縮合剤を用いて行うことができる。縮合剤としては,例えば,ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC),ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI),1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCあるいはWSC),(1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスファート(BOP),1-[ビス(ジメチルアミノ)メチル]-1H-ベンゾトリアゾリウム-3-オキシドヘキサフルオロホスファート(HBTU)等が挙げられる。
【0083】
この明細書に開示される別の実施態様は,医薬に関する。この医薬は,上記したヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学的に許容される塩又は溶媒和物(簡単のため,以下ではこれらを単にヘマグルチニン結合ペプチドとも表記する)を含む。この医薬は,上記したヘマグルチニン結合ペプチドを有効成分として有効量含むものが好ましい。
【0084】
ヘマグルチニン結合ペプチドを医薬用途に用いる際には,ペプチドのアミノ酸の一つもしくは複数に対し,機能付与また様々な改変のために,例えば炭化水素,脂肪酸,ポリエチレングリコール(PEG)等による化学修飾を施すことができる。またこれらの化学修飾はリンカーを用いて行うことも可能である。これらの修飾により,例えば,より化学的および代謝的に安定なペプチドを得ることが可能である。リンカーとは,抗ウイルス活性を示す環状ペプチド(たとえば(II)に示される基本構造)と機能付与のための化学修飾を可能にする部分構造である。本発明における基本構造の具体例は,(I)で示される1,2-エチレンジアミン構造や,(II)に示されるC末端がNH2のリシンアミド構造である。
【0085】
後述する実施例に示されるとおり,本発明のペプチドは,ウイルス表面のヘマグルチニンに結合することにより,抗ウイルス活性を示す。なお,ヘマグルチニン又は類似するたんぱく質を介してヒトなどに感染するウイルスに対し抗ウイルス活性を示すものであれば,ウイルスの種類は特に制限されるものではない。ウイルスの種類としては,例えば,エンベロープウイルスであり,さらにクラスI融合たんぱく質を有するウイルスが好ましい。具体的なウイルスの例としては,季節性インフルエンザウイルス(ヒト,トリ,ブタインフルエンザウイルス又は新型インフルエンザウイルスを含み,単にインフルエンザウイルスともいう),高病原性鳥インフルエンザウイルス,豚流行性下痢ウイルス,HIV-1,エボラウイルス,黄熱ウイルス及びコロナウィルスである。対象とするウイルスとして,好ましくは,インフルエンザウイルスである。また,対象とするインフルエンザウイルスについてはA,B及びC型のどの型であってもよいが,好ましくはA型であり,さらに好ましくはグループIに属するヘマグルチニンを有するインフルエンザウイルスが好ましい。なお,本明細書において,抗インフルエンザウイルス活性を抗ウイルス活性ともいう。
本発明のペプチドを含む組成物は,ウイルス感染の予防又はウイルス感染症の治療薬,好ましくはインフルエンザの予防又は治療剤として有用であり,同様に,本発明のペプチドは,ウイルス感染の予防又はウイルス感染症の治療方法,好ましくはインフルエンザの予防又は治療方法において有用である。
【0086】
本明細書において,インフルエンザとは,インフルエンザウイルスによる急性感染症をいう。インフルエンザウイルスに感染すると,ヒトにおいては高熱,筋肉痛などを伴う風邪様の症状があらわれる。腹痛,嘔吐,下痢などの胃腸症状を伴う場合もあり,合併症として肺炎とインフルエンザ脳症がある。
本明細書において感染とは,ウイルスが皮膚や粘膜を介して生体に侵入する過程,又は,ウイルスが膜融合により細胞内に侵入する過程のいずれかを指す用語として用いられる。また,本明細書においてウイルス感染とは,症状の有無にかかわらずウイルスが生体内に侵入している状態をいう。また,本明細書において感染症とは,ウイルスの感染により引き起こされる諸症状をいう。
【0087】
本明細書においてインフルエンザの治療又は予防とは,その最も広い意味で用いられ,例えば,インフルエンザウイルスの感染と関連する一つ又は複数の症状の緩和若しくは悪化の阻止,感染後の症状の発生の抑制,生体内におけるウイルスの細胞への感染の阻止(遅延又は停止),生体内におけるウイルスの増殖の阻止(遅延又は停止),生体内におけるウイルス数の減少等を生じさせることをいう。これらのうち少なくとも一つの効果を示すとき,インフルエンザの治療又は予防に有用であると判断される。
また,後述する実施例に示されるとおり,本発明のペプチドは,ヘマグルチニンに対する中和活性を有するので,インフルエンザワクチンと同様の効果を得られうるものと理解される。
【0088】
本明細書において,医薬組成物の投与形態は特に限定されず,経口的投与でも非経口的投与でもよい。非経口投与としては,例えば,筋肉内注射,静脈内注射,皮下注射等の注射投与,経皮投与,経粘膜投与(経鼻,経口腔,経眼,経肺,経膣,経直腸)投与等が上げられる。
【0089】
上記医薬組成物は,ポリペプチドが代謝及び排泄されやすい性質に鑑みて,各種の修飾を行うことができる。例えば,ポリペプチドにポリエチレングリコール(PEG)や糖鎖を付加して血中滞留時間を長くし,抗原性を低下させることができる。また,ポリ乳酸・グリコール(PLGA)などの生体内分解性の高分子化合,多孔性ヒドロキシアパタイト,リポソーム,表面修飾リポソーム,不飽和脂肪酸で調製したエマルジョン,ナノパーティクル,ナノスフェア等を徐放化基剤として用い,これにポリペプチドを内包させてもよい。経皮投与する場合,弱い電流を皮膚表面に流して角質層を透過させることもできる(イオントフォレシス法)。
【0090】
上記医薬組成物は,有効成分をそのまま用いてもよいし,薬学的に許容できる担体,賦形剤,添加剤等を加えて製剤化してもよい。剤形としては,例えば,液剤(例えば注射剤),分散剤,懸濁剤,錠剤,丸剤,粉末剤,坐剤,散剤,細粒剤,顆粒剤,カプセル剤,シロップ剤,トローチ剤,吸入剤,軟膏剤,点眼剤,点鼻剤,点耳剤,パップ剤等が挙げられる。
製剤化は,例えば,賦形剤,結合剤,崩壊剤,滑沢剤,溶解剤,溶解補助剤,着色剤,矯味矯臭剤,安定化剤,乳化剤,吸収促進剤,界面活性剤,pH調整剤,防腐剤,抗酸化剤などを適宜使用し,常法により行うことができる。
製剤化に用いられる成分の例としては,精製水,食塩水,リン酸緩衝液,デキストロース,グリセロール,エタノール等薬学的に許容される有機溶剤,動植物油,乳糖,マンニトール,ブドウ糖,ソルビトール,結晶セルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,デンプン,コーンスターチ,無水ケイ酸,ケイ酸アルミニウムマグネシウム,コラーゲン,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,カルボキシビニルポリマー,カルボキシメチルセルロースナトリウム,ポリアクリル酸ナトリウム,アルギン酸ナトリウム,水溶性デキストラン,カルボキシメチルスターチナトリウム,ぺクチン,メチルセルロース,エチルセルロース,キサンタンガム,アラビアゴム,トラガント,カゼイン,寒天,ポリエチレングリコール,ジグリセリン,グリセリン,プロピレングリコール,ワセリン,パラフィン,ミリスチン酸オクチルドデシル,ミリスチン酸イソプロピル,高級アルコール,ステアリルアルコール,ステアリン酸,ヒト血清アルブミン,等が挙げられるがこれらに限定されない。
上記医薬組成物は,ペプチドが経粘膜吸収されにくいことに鑑みて,難吸収性薬物の吸収を改善する吸収促進剤を含むことができる。かかる吸収促進剤としては,ポリオキシエチレンラウリルエーテル類,ラウリル硫酸ナトリウム,サポニン等の界面活性剤;グリココール酸,デオキシコール酸,タウロコール酸等の胆汁酸塩;EDTA,サリチル酸類等のキレート剤;カプロン酸,カプリン酸,ラウリン酸,オレイン酸,リノール酸,混合ミセル等の脂肪酸類;エナミン誘導体,N-アシルコラーゲンペプチド,N-アシルアミノ酸,シクロデキストリン類,キトサン類,一酸化窒素供与体等を用いることができる。
【0091】
丸剤又は錠剤は,糖衣,胃溶性,腸溶性物質で被覆することもできる。
注射剤は,注射用蒸留水,生理食塩水,プロピレングリコール,ポリエチレングリコール,植物油,アルコール類等を含むことができる。さらに,湿潤剤,乳化剤,分散剤,安定化剤,溶解剤,溶解補助剤,防腐剤等を加えることができる。
【0092】
本発明の医薬組成物を哺乳類(例えば,ヒト,マウス,ラット,モルモット,ウサギ,イヌ,ウマ,サル,ブタ等),特にヒトに投与する場合の投与量は,症状,患者の年齢,性別,体重,感受性差,投与方法,投与間隔,有効成分の種類,製剤の種類によって異なり,特に限定されないが,例えば,30μg~100g,100μg~500mg,100μg~100mgを1回又は数回に分けて投与することができる。注射投与の場合,患者の体重により,1μg/kg~3000μg/kg,3μg/kg~1000μg/kgを1回又は数回に分けて投与してもよい。
【0093】
本発明のペプチドを用いたインフルエンザの予防又は治療方法は,上記医薬組成物にかかる記載を参照して実施することができる。
【0094】
この明細書に開示される別の実施態様は,ウイルス検出薬,特にインフルエンザウイルス検出薬に関する。このウイルス検出薬は,上記したヘマグルチニン結合ペプチド,その塩又はその溶媒和物を含む。
【0095】
(ウイルス検出薬及び検出用キット)
本発明は,本発明のペプチドを含むウイルス検出薬,特にインフルエンザウイルス検出薬も包含する。本発明のペプチドは,ウイルス表面のヘマグルチニンに特異的に結合する。従って,例えば,ELISA法等のイムノアッセイにおける抗インフルエンザ抗体に代えて,本発明のペプチドを用いて試料中のインフルエンザウイルスを検出することができる。
検出薬として用いる場合,本発明のペプチドは,検出可能に標識してもよい。ペプチドは公知の標識物質で標識することが可能だが,例えば,ペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ等の酵素, 125I, 131I, 35S, 3H等の放射性物質,フルオレセインイソチオシアネート,ローダミン,ダンシルクロリド,フィコエリトリン,テトラメチルローダミンイソチオシアネート,近赤外蛍光材料等の蛍光物質,ルシフェラーゼ,ルシフェリン,エクオリン等の発光物質で標識したペプチドが用いられる。その他,金コロイド,量子ドットなどのナノ粒子で標識したペプチドを検出することもできる。
また,イムノアッセイでは,本発明のペプチドをビオチンで標識し,酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
イムノアッセイの中でも,酵素標識を用いるELISA法は,簡便且つ迅速に抗原を測定することができて好ましい。例えば,インフルエンザウイルスのヘマグルチニン以外の部分を特異的に認識する抗体を固相担体に固定し,サンプルを添加して反応させた後,標識した本発明のペプチドを添加して反応させる。洗浄後,酵素基質と反応,発色させ,吸光度を測定することにより,インフルエンザウイルスを検出することができる。固相担体に固定した抗体と試料を反応させた後,標識していない本発明のペプチドを添加し,本発明のペプチドに対する抗体を酵素標識してさらに添加してもよい。また,本発明のペプチドを捕捉物質として固相担体に固定し,インフルエンザウイルスを認識する標識抗体を検出物質として用いてもよく,さらには捕捉又は検出どちらにも本発明のペプチドを用いてもよい。
酵素基質は,酵素がペルオキシダーゼの場合,3,3’-diaminobenzidine(DAB),3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine(TMB),o-phenylenediamine(OPD)等を用いることができ,アルカリホスファターゼの場合,p-nitropheny phosphate(NPP)等を用いることができる。
【0096】
本明細書において「固相担体」は,ペプチドを固定できる担体であれば特に限定されず,ガラス製,金属性,樹脂製等のマイクロタイタープレート,基板,ビーズ,ニトロセルロースメンブレン,ナイロンメンブレン,PVDFメンブレン等が挙げられ,標的物質は,これらの固相担体に公知の方法に従って固定することができる。
【0097】
本発明に係る検査用キットは,上記検出に必要な試薬及び器具(本発明のペプチド,抗体,固相担体,緩衝液,酵素反応停止液,マイクロプレートリーダー等を含むが,これらに限定されない)を含む。
【0098】
この明細書に開示される別の実施態様は,上記したインフルエンザウイルス検出薬を含むインフルエンザウイルス検出用キットや,ヘマグルチニンを介して生じるインフルエンザウイルスの感染,及びそれに伴う種々の細胞機能や生命現象を解明するためのツールとして用いることも考慮されうる。
【0099】
この明細書は,インフルエンザの予防又は治療のための医薬を製造するための,ヘマグルチニン結合ペプチドの使用をも提供する。この場合におけるヘマグルチニン結合ペプチドは,上記したいずれかのものであればよい。
【0100】
本明細書は,ヒト,非ヒト哺乳動物又は鳥類である対象に,有効量のヘマグルチニン結合ペプチド,その薬学上許容される塩,又はその溶媒和物を有効成分として投与する工程を含む,インフルエンザの予防又は治療方法をも提供する。ヘマグルチニン結合ペプチドは,上記したペプチドを適宜用いることができる。非ヒト哺乳動物の例は,ヒト以外の霊長類,ブタ,ウシ,イヌ,ネコ,ウマ,ヒツジ,ラット及びマウスである。
【0101】
本明細書,特に下記の代表的な実施例に使用した略語は,当業者には周知である。使用された幾つかの略語は次のとおりである:9-フルオレニルメチルオキシカルボニルとしてFmoc;1-ヒドロキシベンゾトリアゾールとしてHOAt;O-(7-アザベンゾトリアゾールー1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩としてHATU;アセトニトリルとしてMeCN;1,8-ジアザビシクロ「5.4.0」-7-ウンデセンとしてDBU;N,N-ジイソプロピルエチルアミンとしてDIPEA;3,6-ジオキサー1,8-オクタン-ジチオールとしてDODT;ジメチルスルフォキシドとしてDMSO;N,N-ジメチルホルムアミドとしてDMF;ミリリットル(単位)としてmL;モーラー(単位)としてM;モノメチルトリチルとしてMtt;モノメトキシトリチルとしてMmt;2-ニトロベンゼンスルホニルとしてo-Ns; volume/volume としてv/v;トリフルオロ酢酸としてTFA;トリイソプロピルシランとしてTIS;トリチルとしてTrt。
【0102】
実施例および一般的方法
本発明の化学合成において使用された全ての原料,ビルディングブロック,試薬,酸,塩基,固相樹脂,溶媒は,市販品をそのまま用いたか,もしくは当業者にて有機化学的手法を用いて合成できるものである。なお,保護基を含むアミノ酸は特記が無い限り市販品をそのまま用いた。
【0103】
本発明において化学合成されたペプチドの構造決定は,目的配列に従って用いたアミノ酸と必要に応じて用いたビルディングブロックを考慮し計算された分子量を,質量スペクトル分析法におけるESI-MS(+)により確認した。なお,”ESI-MS(+)”とは,正イオンモードで実施したエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル分析法を示す。検出された質量は “m/z” 単位表記によって報告された。なお,分子量がおおよそ1000より大きい化合物は,2価イオンまたは3価イオンとして高頻度で検出された。
【0104】
本発明において化学合成されたペプチドの純度は,以下のいずれかの分析方法で決定した。
(分析条件)
分析条件A
カラム:CORTECS(登録商標) UPLC(登録商標) C18 column(日本ウォーターズ社), 90Å, 1.6μm, 2.1 x 100 mm
移動相:MeCN/0.025% TFA in H2
温度:40℃
グラジエント:5 - 95% MeCN / 0.025% TFA in H2 in 5.56 min; linear gradient
流量:0.4 mL/min
検出法:UV 220nm
分析条件B
カラム:Kinetex EVO C18 2.6 μm, 2.1 ID x 150 mm, 100Å(Phenomenex社)
カラム温度:60 ℃
移動相A:0.025% TFA in H2
移動相B:0.025% TFA in CH3CN
グラジエント:各実施例に記載
流速:0.25 mL/min
検出:PDA(225 nm)
【0105】
本発明に記載される固相樹脂におけるペプチド鎖の伸長は,それぞれの実施例に記載された樹脂を出発原料とし,通常用いられるペプチドカップリング反応条件とFmoc除去反応条件を用いて行った。反応はペプチド自動合成機であるCEM社Liberty Blueを使用し,製造元のマニュアルに従い行った。使用される一般的なアミノ酸を下記に列挙し,側鎖保護基はカッコ内に示した。
Fmoc-Trp(Boc)-OH;Fmoc-Thr(tBu)-OH;Fmoc-N-Me-Gly-OH; Fmoc-Asp(OtBu)-OH; Fmoc-N-Me-Phe-OH; Fmoc-Ala-OH; Fmoc-N-Me-Ala-OH; Fmoc-His(Trt)-OH; Fmoc-Tyr(tBu)-OH;Fmoc-Val-OH; Fmoc-HydPro(tBu)-OH;Fmoc-Cys(Trt)-OH;Fmoc-Lys(Mtt)-OH; Fmoc-Ser(tBu)-OH; Fmoc-N-Me-Ser(tBu)-OH。
【0106】
クロロアセチル基の導入は,前工程にて得られたFmoc保護されたペプチドが保持された固相樹脂に対し,前述した方法でα-アミノ基のFmoc基を除去したのち,クロロ酢酸(約3等量)を約3等量のN,N’-ジイロプロピルカルボジイミドのDMF溶液(0.5 M),約3等量のHOAtのDMF溶液(0.5 M)を加え室温にて40分振盪することにより行った。
側鎖の脱保護および固相樹脂からの切り出しは,まずクロロアセチル基導入工程後に得られた樹脂をDMFと塩化メチレンでそれぞれ5回ずつ洗浄して減圧下乾燥した。続いて固相樹脂の入った反応容器に,反応剤カクテル- A(TFA/H2/TIS/DODTの体積比92.5:2.5:2.5:2.5の混合物)を加え,室温で150分振盪した。反応液をフリットより濾過回収した。反応容器に残った固相樹脂は切り出し用カクテルと再度振盪後し,フリットより溶液成分を回収,前述の濾液と混合した。この濾液を0℃に冷やした過剰のジエチルエーテルに加えると,白濁沈殿が生じた。この混合物を遠心分離し(9000 rpm,3 min),溶液をデカンテーションした。得られた個体を再度0℃に冷やした少量のジエチルエーテルにて洗浄後,得られた固体を次の環化反応に用いた。
【0107】
本発明においてペプチドの環化反応は,ペプチドの終濃度が固相樹脂のモル数を基に5 mMとなるようにDMSOに溶解後,6等量のトリエチルアミンを加えて,室温で約16時間攪拌することで行った。得られた反応溶液を酢酸で酸性にしてBiotage(登録商標) V-10(バイオタージ・ジャパン社)を用いて減圧濃縮した。
得られた粗精製ペプチドの精製方法として,Waters社AutoPurification System - SQD2 single quadruple mass spectrometerで逆相分取HPLCを使用し,目的物由来のm/zイオンをモニタリングしながら溶出した。ESI-positiveのスキャンモードで得られるマススペクトルと目的物の分子式より計算される多価イオンを含むマススペクトルが使用した質量分析器の誤差範囲で一致しているのを確認した。なお,使用したカラムを含む精製条件はそれぞれの実施例に示した。
【実施例1】
【0108】
【0109】
Fmoc-NH-SAL-PEG resin (渡辺化学,0.15 mmol/g,0.43 g)を用い,前述の一般的方法にしたがって,Fmocの除去から開始し,目的のペプチドを合成した。引き続きクロロアセチル基を一般的手法に従い導入した。
【0110】
得られた粗生成物は以下の条件を用いて精製した(カラム:Waters Xbridge(登録商標) C18 5 μm OBD(登録商標) 19 x 150 mm(日本ウォーターズ社);移動相:A = 0.1% TFA in H2O,B = 0.1% TFA in MeCN;温度:40 ℃;グラジエント(%B):3分間かけて5 - 29%,その後8分間かけて29 - 34%;流量:17 mL / min)。
【0111】
目的物の純度は分析条件BのLC/MS(UV波長225 nm)クロマトグラムの面積比から算出し99.4%であった。
分析条件A:保持時間=3.57分,ESI-MS(+) 観測値m/z= 899.8 理論値 899.5 ((M/2)+H)
分析条件B:保持時間=16.5分;グラジエント(% B conc):20分間かけて25 - 65%,その後1分間かけて65 - 95%,その後5分間かけて95%
【実施例2】
【0112】
【0113】
Fmoc-NH-SAL-PEG resin (渡辺化学,0.37 mmol/g,1.35 g)をフリット付きの反応容器に入れ,ジクロロメタンと震盪し膨張させた。前述の一般的方法にしたがって,Fmocの除去の後および得られた固相樹脂にFmoc-Lys(Mtt)-OHをペプチドカップリングにて導入した。得られた固相樹脂をジクロロメタンで膨潤させ,反応剤カクテル- B (TFA/TIS/CH2Cl2の体積比1:4:95) を加え室温で30分震盪した後反応液をフリットから排出した。この操作を12回繰り返した後,濾液の色が無色透明になった。この時点を反応完結とした。得られた固相樹脂にデカン酸のDMF溶液(0.21 M,12 mL),HATUのDMF溶液(0.5 M,5 mL)とDIPEAのDMF溶液(1 M,5 mL)を加え,40 ℃で40分震盪した。反応液をフリットより排出したのち,得られた固相樹脂をDMF,引き続きジクロロメタンの順で洗浄した。
【0114】
上記操作で得られた固相樹脂にFmocの除去及びFmoc-アミノ酸を前述の一般的方法にて自動合成機を利用し順次導入した。反応に用いたアミノ酸と試薬は,固相樹脂を0. 5mmolとして等量計算した。自動合成機によるペプチドカップリング,引き続くクロロアセチル基は前述の一般的手法に従い導入した。
引き続き,得られた固相樹脂を用い,前述の一般的方法に従い,側鎖の脱保護および固相樹脂からの切り出し,および環化反応を行った。
得られた粗生成物は以下の条件を用いて精製した(カラム:Waters Xbridge(登録商標) C18 5 μm OBD(登録商標) 50 x 250 mm(日本ウォーターズ社);移動相:A = 0.1% TFA in H2O,B = 0.1% TFA in MeCN;温度:40 ℃;グラジエント(%B):3分間かけて16-41%,その後7分間かけて 47-52%,その後1.5分かけて47-80%; 流量;120 mL/min)。
【0115】
目的物の純度は分析条件BのLC/MS(UV波長225 nm)クロマトグラムの面積比から算出し99.3%であった。
分析条件A:保持時間=4.50分;ESI-MS(+) 観測値m/z= 1040.4 理論値 1040.2 ((M/2)+H)
分析条件B:保持時間=18.8分;グラジエント(%B conc):20分間かけて25-65%,その後1分間かけて 65-95%,その後5分かけて95%
【実施例3】
【0116】
HA145の合成
【0117】
【化34】
HA145は実施例1に示した合成法に準じ,デカン酸の代わりにラウリン酸を用いることで合成した。
得られた粗生成物は以下の条件を用いて精製した(カラム:Waters Xbridge(登録商標) C18 5 m OBD(登録商標) 50 x 250mm(日本ウォーターズ社);移動相:A = 0.1% TFA in H
2O,B = 0.1% TFA in MeCN;温度:40 ℃;グラジエント(%B):3分間かけて21-46%,その後7分間かけて 46-51%,その後1.5分かけて51-80%;流量:120 mL / min)。
目的物の純度は分析条件BのLC/MS(UV波長225 nm)クロマトグラムの面積比から算出し99.3%であった。
分析条件A:保持時間=4.42分,ESI-MS(+) 観測値m/z= 1055.1 理論値 1054.3 ((M/2)+H)
分析条件B:保持時間=18.8分,グラジエント(%B conc):20分間かけて25-65%,その後1分間かけて 65-95%,その後5分かけて95%
【実施例4】
【0118】
【0119】
PAL-PEG resin (渡辺化学,0.22 mmol/g,1.16 g)をフリット付きの反応容器に入れ,ジクロロメタンと震盪し膨張させた。ジクロロメタンフリットより排出したのちに,2-ニトロベンゼンスルホニルクロリド(4等量)のジクロロメタン溶液(5 mL)とDIPEA(4等量)のジクロロメタン溶液(4 mL)を加え,室温で30分撹拌した。反応液をフリットより排出後,固相樹脂をジクロロメタンで洗浄した。得られた固相樹脂にFmoc-グリシノール(10等量)のTHF溶液(6 mL),トリフェニルホスフィン(12等量)のジクロロメタン溶液(5 mL),およびジイソプロピルアゾジカルボキシレート(10等量)のジクロロメタン溶液(5 mL)を加え室温で震盪した。反応の進行は,少量の固相樹脂を取り出し,切り出し用カクテルで処理後LCMSにて確認できた。反応液をフリットより排出後,固相樹脂をジクロロメタンで洗浄した。得られた固相樹脂にピペリジン(20%)のDMF溶液(12 mL)を加え室温で30分間振盪した。スリットから反応液を排出し,再度ピペリジン(20%)のDMF溶液(12 mL)を加え室温で30分間振盪した。スリットから反応液を排出後,得られた固相樹脂をDMF,引き続きジクロロメタンの順で洗浄した。得られた固相樹脂にデカン酸のDMF溶液(0.21 M,5 mL),HATUのDMF溶液(0.5 M,2 mL)とDIPEAのDMF溶液(1 M,2 mL)を加え,40 ℃で1時間震盪した。反応液をフリットより排出したのち,得られた固相樹脂をDMF,引き続きジクロロメタンの順で洗浄した。得られた固相樹脂を10 mLのDMFに浸し,DODT(0.4mL,10 eq)とDBU(0.37 mL,10 eq)を加え,室温にて撹拌した。反応の進行と原料の消失は少量の固相樹脂を処理後,LCMSにて確認した。
【0120】
上記操作で得られた固相樹脂にFmoc-アミノ酸を前述の一般的方法にて自動合成機を利用し順次導入した。反応に用いたアミノ酸と試薬は,固相樹脂を0.25 mmolとして等量計算した。自動合成機によるペプチドカップリング,引き続くクロロアセチル基の導入は前述の一般的手法に従い導入した。
【0121】
得られた固相樹脂を用い,前述の一般的方法に従い,側鎖の脱保護および固相樹脂からの切り出し,および環化反応を行った。
【0122】
得られた粗生成物は以下の条件を用いて精製した(カラム:Waters Xbridge(登録商標) C18 5 μm OBD(登録商標) 50 x 250mm(日本ウォーターズ社);移動相:A = 0.1% TFA in H2O,B = 0.1% TFA in MeCN;温度:40 ℃;グラジエント(%B):3分間かけて17-42%,その後7分間かけて 42-47%,その後1.5分かけて47-80%;流量:120 mL / min)。
目的物の純度は分析条件BのLC/MS(UV波長225 nm)クロマトグラムの面積比から算出し98.4%であった。
【0123】
分析条件A:保持時間=4.18分,ESI-MS(+) 観測値m/z= 998.6 理論値 998.2 ((M/2)+H)
分析条件B:保持時間=16.48分,グラジエント(% B conc):20分間かけて25-65%,その後1分間かけて 65-95%,その後5分かけて95%
【実施例5】
【0124】
【0125】
HA151は実施例4に示した合成法に準じ,デカン酸の代わりにラウリン酸を用いることで合成した。
【0126】
得られた粗生成物は以下の条件を用いて精製した(カラム:Waters Xbridge(登録商標) C18 5 μm OBD(登録商標) 50 x 250mm;移動相:A = 0.1% TFA in H2O,B = 0.1% TFA in MeCN;温度:40 ℃;グラジエント(%B):3分間かけて22-47%,その後7分間かけて 47-52%,その後1.5分かけて52-80%;流量:120 mL / min)。
【0127】
目的物の純度は分析条件BのLC/MS(UV波長225 nm)クロマトグラムの面積比から算出し97.7%であった。
分析条件A:保持時間=4.49分,ESI-MS(+) 観測値m/z= 1012.4 理論値 1012.2 ((M/2)+H)
分析条件B:保持時間=12.5分;グラジエント(% B conc):20分間かけて40-80%,その後1分間かけて 80-95%,その後5分かけて95%
【実施例6】
【0128】
[インフルエンザウイルスに対するペプチドの抗ウイルス活性評価]
インフルエンザウイルスに対するペプチドのin vitroにおける抗ウイルス活性を確認するため,以下に示す方法によって試験を実施した。具体的な試験方法を以下に示す。
1) MDCK細胞を3×104cells/wellで播種し37℃,5%CO2,MEM-10%FBS存在下で24時間培養した。
2) 培養後,100μLの無血清MEMをwellに加え細胞単層を洗浄した。
3) 試験対象化合物を感染維持培地(ビタミン含有無血清MEM)によって溶解し,各測定濃度になるよう調整した。
4) 感染維持培地である無血清MEMに溶解されている試験化合物を各well加えた。
5) インフルエンザウイルスA/Nagasaki/HA-58/2009 (H1N1),A/Puerto Rico/8/34 (H1N1)もしくはA/Duck/Pennsylvania/84 (H5N2)を,トリプシンを含む感染維持培地で希釈し1,000 TCID50/mLに調製した。
6) 希釈したウイルス液を100 μL/wellで添加しwellあたりの力価を100 TCID50に調整した。
7) 37℃,5% CO2条件で72時間培養した。
8) 培養完了後,各wellより培養液を除去した。
9) 70% エタノール水溶液を200ul/wellで添加し,室温で5分静置した。
10)エタノール水溶液を除去後,0.5%クリスタルバイオレット水溶液を 200 μL/wellで添加し,室温5分間静置した。
11)水でリンスし,室温下で乾燥させた。
12)TECAN infinite 200 (TECAN社)を用い,測定波長λ= 560 nmにおける各wellの吸光度を測定した。
13)各濃度において,mock群(薬剤非添加かつウイルス非感染群)を100%とした際の相対値(CV relative value, %)を算出した。
14)GraphPad Prism 5.0 (GraphPad Software社)を用いて,各検体のEC50の値を求めた。
【0129】
インフルエンザウイルスに対するペプチドのin vivoにおける抗ウイルス活性を確認するため,以下に示す方法によって試験を実施した。具体的な試験方法を以下に示す。
1) 感染モデルマウスとしてBALB/cA Jcl[SPF]マウスを1群あたり5匹調整した。
2) -80℃で保存されたウイルス液を氷上で緩やかに融解し,数秒間遠心した後にPBSの入ったチューブに分注した。
3) 麻酔下のマウスにインフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34 (H1N1)を1匹あたり267 pfuで経鼻接種し,上記接種時点を「0日」とした。
4) HA152を溶解溶媒である10%ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン溶液に溶解した。
5) ペラミビルをPBSに溶液に溶解した。
6) ペラミビルについては30 μmol/kg,HA152については15 μmol/kgの投与量で,尾静脈内投与した。Vehicle コントロールとして10%ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン溶液を同様に尾静脈内投与した。
7) インフルエンザウイルス感染,化合物投与後,1日1回生死を含め状態観察を行った。
8) 感染日を0日として14日間の生存率を換算し生存率を算出した。
【0130】
3.結果
インフルエンザウイルスA/Nagasaki/HA-58/2009 (H1N1),A/Puerto Rico/8/34 (H1N1)及びA/Duck/Pennsylvania/84 (H5N2)を用いたHA152の活性評価結果
インフルエンザウイルスA/Nagasaki/HA-58/2009 (H1N1),A/Puerto Rico/8/34 (H1N1)及びA/Duck/ Pennsylvania/84 (H5N2)を用い,iHA100及びHA152のin vitroにおける抗ウイルス活性評価をした結果を
図1に示す。iHA100は,終濃度が1 μM以上の高濃度域においてウイルスによる細胞死を抑制するが,nM領域の低濃度域では顕著な細胞死抑制を示さなかった。一方,HA152はμM以下の低濃度域においても顕著な細胞死抑制を示し,ヒト,トリどちらの供試インフルエンザウイルスに対しても,低濃度域においても顕著な抗ウイルス活性を持つことが明らかとなった。このことからHA152はiHA100に比べ極めて高い抗インフルエンザウイルス活性を示すことが確認された。
【0131】
次に,インフルエンザウイルスA/Duck/Pennsylvania/84 (H5N2)を用い,iHA100,HA152を含む化合物のin vitroにおける抗ウイルス活性をEC50として算出した。
図2に示されるようにHA152を含む化合物は,iHA100に比べ少なくとも10倍以上高い抗ウイルス活性を示した。よって,HA152及び
図2に示される各化合物は,iHA100と比べ顕著に高い抗ウイルス活性を保持していることが示された。
【0132】
インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34 (H1N1)を用いたHA152のマウス感染モデルにおける活性評価結果
インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34 (H1N1)を用い,ペラミビル及びHA152のin vivoにおける抗ウイルス活性評価をした結果を
図3に示す。
インフルエンザウイルスに感染したマウスに対する14日間における生存率を解析した結果,薬剤が投与されていない群の生存率は0%であった。 一方で,ペラミビルを30 μmol/kgで単回投与した群の生存率は20%であるのに対し,HA152を15 μmol /kg投与した群の生存率は60%であった。このことから,HA152はin vitroだけではなくin vivoにおいても顕著な抗ウイルス活性を示した。その抗ウイルス活性は,ノイラミニダーゼをターゲットとした承認医薬品であるペラミビルと比べ,同程度もしくはそれ以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は医薬産業や医療機器産業において利用されうる。
【配列表】