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特許7580123血管新生関連疾患の予防又は治療用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】血管新生関連疾患の予防又は治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/17 20060101AFI20241101BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241101BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20241101BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241101BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241101BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
A61K31/17
A61P27/02
A61P27/06
A61P43/00 105
A61P11/00
A61P1/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021542934
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2020032037
(87)【国際公開番号】W WO2021039791
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2019153316
(32)【優先日】2019-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】木村 和博
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-323180(JP,A)
【文献】特表2010-506948(JP,A)
【文献】ZIRVI, K. A. et al.,Biochemorphology of Cyclobutanecarbonylureas,Journal of Pharmaceutical Sciences,1975年,Vol.64, Issue.4,p.649-651
【文献】渡辺文太,細胞運動を阻害する新規低分子化合物の作用メカニズムの解明と癌治療への応用,京都大学教育研究振興財団助成事業 成果報告書,2018年,p.1-6
【文献】小林正明 ほか,MRTF阻害剤を用いた網膜色素上皮細胞による線維性増殖の抑制,日本眼科学会雑誌,122巻臨時増刊号,2018年,p.262,P1-081
【文献】小林正明 ほか,網膜色素上皮細胞の上皮間葉系移行におけるMRTF-Aの役割,日本眼科学会雑誌,123巻臨時増刊号,2019年04月18日,p.263,P1-092
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00- 1/18
A61P 11/00-11/16
A61P 27/00-27/16
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア、又はその薬理上許容される塩を有効成分として含有し、血管新生関連疾患の予防又は治療に用いられる医薬組成物。
【請求項2】
血管新生関連疾患が眼における血管新生関連疾患であることを特徴とする請求項記載の医薬組成物。
【請求項3】
眼における血管新生関連疾患が、網脈絡膜障害、角結膜障害、又は血管新生緑内障であることを特徴とする、請求項記載の医薬組成物。
【請求項4】
網脈絡膜障害が、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症、網膜剥離、増殖硝子体網膜症、ぶどう膜炎、眼感染症、未熟児網膜症、新生血管黄斑症又は網脈絡膜炎であることを特徴とする請求項記載の医薬組成物。
【請求項5】
眼における血管新生関連疾患が、網脈絡膜障害、角結膜障害、血管新生緑内障から選択されるいずれか一種に起因する線維性瘢痕の形成又は収縮であることを特徴とする請求項載の医薬組成物。
【請求項6】
線維性瘢痕が、網膜上、網膜内及び/又は網膜下における線維性瘢痕であることを特徴とする、請求項記載の医薬組成物。
【請求項7】
線維性瘢痕が、網膜下の網膜色素上皮組織における線維性瘢痕であることを特徴とする、請求項記載の医薬組成物
【請求項8】
血管新生関連疾患が臓器線維症であることを特徴とする、請求項記載の医薬組成物
【請求項9】
臓器線維症が肺線維症又は肝臓線維症であることを特徴とする、請求項記載の医薬組成物。
【請求項10】
血管新生の抑制に用いられることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項11】
血管新生が眼における血管新生であることを特徴とする、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
血管新生が網膜上、網膜内及び/又は網膜下における血管新生であることを特徴とする、請求項11記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア、又はその薬理上許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病網膜症、網膜剥離、加齢黄斑変性等の網脈絡膜障害は、高齢化社会を迎えた我が国において、これからも失明原因としてその割合が上昇すると考えられている。硝子体手術の発展や新生血管を抑制する抗VEGF眼内注射製剤等の生物製剤の導入によって、以前は失明していたこれらの疾患の予後が改善されつつある。しかし、初期症例はともかく、長期間放置若しくは反復する等の重症例の視機能予後は未だ芳しくない。また、抗VEGF眼内注射製剤を用いても眼内新生血管の再発、遷延化の問題は避けては通れない。新生血管は脆弱であり破綻しやすく、血液又はその血液中の成分が周囲の組織に漏出することがある。かかる周囲の組織への血液又はその血液中の成分の漏出により炎症が生じることや、炎症に伴う瘢痕が形成されて、ひいては周辺組織の細胞が破壊されて様々な疾患を引き起こすことがある。
【0003】
また、手術によって網膜復位が得られても、網膜細胞がすでに不可逆的な二次的なダメージを受けていると視細胞機能が低下する。眼はたとえ傷が治っても、視機能が失われては全く意味をなさない臓器である。網膜機能を温存するためには、如何に少ないダメージで網脈絡膜の新生血管破綻若しくは眼炎症の抑制、それに引き続く二次的反応を制御できるかが重要である。
【0004】
網脈絡膜新生血管の形成若しくは破綻には、血管内皮細胞の増殖、管腔形成能亢進等が関与していることが報告されている。さらに網膜線維性瘢痕を構成する代表的な細胞成分として網膜色素上皮細胞の関与が報告されている。進行した網脈絡膜障害においては、網膜色素上皮細胞の上皮間葉系移行(EMT)が助長され、瘢痕形成及び収縮をきたして網膜機能障害が生じる。そこで網膜色素上皮細胞の上皮間葉系移行、血管内皮細胞の増殖、あるいは管腔形成亢進を抑制することは網脈絡膜障害等の疾患に対して有効であると考えられる。
【0005】
本発明者らは、網脈絡膜障害の抑制剤の研究を進めており、たとえば、(E)-4-(2-{3-[(1H-ピラゾール-1-イル)メチル]-5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル}ビニル)安息香酸、そのエステル又はそれらの塩を有効成分として含有する網脈絡膜障害の抑制剤が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
一方、近年、アシルフェニルウレア構造を基本骨格に持つ化合物がメラノーマの運動を阻害することが明らかにされている(非特許文献1参照)。しかしながら、アシルフェニルウレア構造を基本骨格に持つ化合物と網脈絡膜障害やEMTとの関係は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/188716号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】京都大学教育研究振興財団助成事業 「細胞運動を阻害する新規低分子化合物の作用メカニズムの解明と癌治療への応用」成果報告書 渡辺 文太(公益財団法人京都大学教育研究振興財団 ホームページ http://www.kyodai-zaidan.or.jp/system/wp-content/uploads/2017/03/seika_29_1-watanabe-bunta.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、血管新生関連疾患の予防又は治療に有効な医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
血管新生関連疾患、特に網脈絡膜障害に有効な薬物を探索することは、眼分野において重要且つ興味深い課題である。本発明者は、網脈絡膜障害に有効な新たな薬物を探索すべく鋭意研究を行ったところ、1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア(1-(cyclobutylcarbonyl)-3-(4-chlorophenyl)urea)、又はその薬理上許容される塩が、ヒト網膜色素上皮細胞を用いた薬理試験において、細胞移動及び上皮間葉系移行の抑制作用を示し、更にマウス網膜線維化モデルにて線維性瘢痕形成を抑制することを見出した。さらに、上記、1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレアが血管新生を抑制することや、網膜細胞だけでなく肺や肝臓の細胞に対しても線維化マーカーの発現を抑制することを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア、又はその薬理上許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物。
〔2〕血管新生関連疾患の予防又は治療に用いられることを特徴とする上記〔1〕記載の医薬組成物。
〔3〕血管新生関連疾患が眼における血管新生関連疾患であることを特徴とする上記〔2〕記載の医薬組成物。
〔4〕眼における血管新生関連疾患が、網脈絡膜障害、角結膜障害、又は血管新生緑内障であることを特徴とする、上記〔3〕記載の医薬組成物。
〔5〕網脈絡膜障害が、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症、網膜剥離、増殖硝子体網膜症、ぶどう膜炎、眼感染症、未熟児網膜症、新生血管黄斑症又は網脈絡膜炎であることを特徴とする上記〔4〕記載の医薬組成物。
〔6〕眼における血管新生関連疾患が、網脈絡膜障害、角結膜障害、血管新生緑内障から選択されるいずれか一種に起因する線維性瘢痕の形成又は収縮であることを特徴とする上記〔3〕記載の医薬組成物。
〔7〕線維性瘢痕が、網膜上、網膜内及び/又は網膜下における線維性瘢痕であることを特徴とする、上記〔6〕記載の医薬組成物。
〔8〕線維性瘢痕が、網膜下の網膜色素上皮組織における線維性瘢痕であることを特徴とする、上記〔7〕記載の医薬組成物
〔9〕血管新生関連疾患が臓器線維症であることを特徴とする、上記〔3〕記載の医薬組成物
〔10〕臓器線維症が肺線維症又は肝臓線維症であることを特徴とする、上記〔9〕記載の医薬組成物。
〔11〕血管新生の抑制に用いられることを特徴とする、上記〔1〕記載の医薬組成物。
〔12〕血管新生が眼における血管新生であることを特徴とする、上記〔11〕記載の医薬組成物。
〔13〕血管新生が網膜上、網膜内及び/又は網膜下における血管新生であることを特徴とする、上記〔12〕記載の医薬組成物。
【0012】
また、本発明の他の態様は、以下のとおりである。
(1)血管新生関連疾患の予防又は治療に用いるための1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア、又はその薬理上許容される塩。
(2)1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア、又はその薬理上許容される塩の有効量を、必要とする対象に投与することを特徴とする血管新生関連疾患の予防又は治療方法。
(3)1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア、又はその薬理上許容される塩の、血管新生関連疾患の予防又は治療に用いるための医薬組成物を調整するための使用。
(4)血管新生の抑制に用いるための1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア、又はその薬理上許容される塩。
(5)1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア、又はその薬理上許容される塩の有効量を、必要とする対象に投与することを特徴とする血管新生の抑制方法。
(6)1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア、又はその薬理上許容される塩の、血管新生の抑制に用いるための医薬組成物を調整するための使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、血管新生関連疾患の予防又は治療や、血管新生の抑制に対して優れた効果を発揮する医薬組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1において、0.3% FBS入りDMEM(コントロール)、又は0.3% FBS入りDMEM+BPU17(1,3,or 5μM)それぞれを添加して18時間培養後における培養底の傷の幅を測定した結果を示す図である。
図2】実施例1において、0.3% FBS入りDMEM(コントロール)又はBPU17 3μMを添加した場合の処理0時間又は18時間培養後における培養底の写真を示す図である。
図3】実施例2において、細胞を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図4】実施例2において、イムノブロットの結果を示す図である。
図5】実施例3において、眼球を摘出して顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図6】実施例3において、摘出した眼球の線維化面積の測定結果を示す図である。
図7】実施例4において、大動脈血管内皮細胞におけるBrdUの取り込み率を調べた結果である。
図8】実施例5において、HAoEC溶液の接種から22時間後の顕微鏡観察(×40)による写真を示す図である。
図9A】実施例5において、HAoEC溶液の接種から22時間後の細胞数あたりの分岐点(branching points)の割合(%)を示す図である。
図9B】実施例5において、HAoEC溶液の接種から22時間後のチューブ長(μm)を示す図である。
図10】実施例6において、眼球を摘出して顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図11】実施例6において、摘出した眼球の網脈絡膜新生血管(CNV)面積の測定結果を示す図である。
図12】実施例7において、CTGF mRNA発現量を測定した結果を示す図である。
図13】実施例7において、αSM-actin mRNA発現量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書における医薬組成物としては、以下の式(I)で表される1-(シクロブチルカルボニル)-3-(4-クロロフェニル)ウレア(1-(cyclobutylcarbonyl)-3-(4-chlorophenyl)urea:以下、「本件化合物」又は「BRU17」ともいう)、又はその薬理上許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物(以下、「本件医薬組成物」ともいう)であれば特に制限されないが、血管新生関連疾患の予防又は治療に用いられることや、血管新生の抑制に用いられることが好ましい。
【0016】
【化1】
【0017】
本明細書における上記「血管新生関連疾患」としては、眼における血管新生関連疾患、又は臓器線維症を挙げることができる。かかる「眼における血管新生関連疾患」としては、網膜、脈絡膜、角膜、結膜、強膜、ぶどう膜、硝子体又は水晶体における血管新生関連疾患を挙げることができ、例えば、網脈絡膜障害、角結膜障害、血管新生緑内障を挙げることができる。なお、網脈絡膜とは網膜と脈絡膜を合わせた組織を意味する。
【0018】
本明細書における上記「網脈絡膜障害」とは、網膜及び/又は脈絡膜における視細胞、神経節細胞、網膜色素上皮細胞及び上記各細胞から構成された組織に損傷が生じた状態を意味し、最終的には細胞死や組織機能障害をきたし、視力や視野などの視機能に異常をきたした状態にあることもある。具体的には、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症、網膜剥離、増殖硝子体網膜症、ぶどう膜炎、眼感染症、未熟児網膜症、新生血管黄斑症、網脈絡膜炎、網膜及び/又は脈絡膜血管新生、網膜及び/又は脈絡膜血管新生の形成に続発する網膜及び/又は網膜下出血を挙げることができる。
【0019】
本明細書における上記「角結膜障害」とは、角膜上皮、角膜実質層、角膜内皮に損傷が生じた状態にあるものをいう。具体的には、角膜炎、角膜外傷、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、ドライアイ、角膜びらん、角膜移植後拒絶反応、角膜糜爛、遷延性角膜障害、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、角膜血管新生、結膜炎、結膜潰瘍、結膜上皮欠損、結膜血管新生を挙げることができる。
【0020】
本明細書における上記「線維性瘢痕」とは、出血、手術、感染等による炎症の沈静化あるいは進行に伴い、炎症組織の損傷部位で生じた線維性結合組織である。また、上記「線維性瘢痕の形成」とは、上記炎症の沈静化あるいは進行に伴い、損傷部位で線維性結合組織が形成されることをいい、上記「線維性瘢痕の収縮」とは、形成された線維性瘢痕が治癒する際に、線維性瘢痕の周辺の組織を引きつけて収縮することをいう。線維性瘢痕の形成及び収縮は一連に生じ、この線維性瘢痕の形成及び収縮を抑制することにより、線維性瘢痕の周辺の組織の変形が生じて眼組織の機能に障害が生じることを防ぐことができる。
【0021】
線維性瘢痕は網脈絡膜障害、角結膜障害、血管新生緑内障から選択されるいずれか一種に起因するものであればよい。また線維性瘢痕が形成又は収縮される場所としては眼のいずれであってもよく、網膜上、網膜内、及び/又は網膜下における線維性瘢痕や、角膜における線維性瘢痕や、結膜における線維性瘢痕を挙げることができ、網膜下の網膜色素上皮組織における線維性瘢痕を好適に挙げることができる。上記「網膜上」とは網膜面の上をいい、上記「網膜下」とは、網膜と脈絡膜との間、脈絡膜内及び脈絡膜下をいう。
【0022】
上記「網膜上、網膜内、及び/又は網膜下における線維性瘢痕」とは、眼炎症の沈静化あるいは進行に伴い、網膜上、網膜内及び/又は網膜下の損傷部位で生じた線維性結合組織、好ましくは網膜下の損傷部位で生じた線維性結合組織であり、主に網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、グリア細胞等とコラーゲンを始めとする細胞外マトリックスから構成された組織である。かかる網膜上、網膜内、及び/又は網膜下における線維性瘢痕の形成及び収縮は一連に生じ、この線維性瘢痕の形成及び収縮を抑制することにより、網膜上、網膜内、及び/又は網膜下における線維性瘢痕の黄斑部並びに周辺の組織の変形が生じて網脈絡膜機能に障害が生じることを防ぐことができる。
【0023】
本明細書における上記「臓器線維症」とは、傷害の加わった臓器の創傷治癒における一過程における線維症であり、炎症と細胞外基質の産生と分解のバランスが崩れて過剰な状態(慢性炎症)が続き、臓器の硬化性変化を引き起こした状態を意味し、かかる臓器線維症においては臓器機能障害ひいては臓器不全につながる。上記臓器線維症としては、肺線維症、肝臓線維症、腎線維症、膵線維症、心筋線維症、消化管線維症、骨髄線維症、術後瘢痕を挙げることができる。
【0024】
本明細書における上記「血管新生の抑制」における血管新生としては特に制限されないが、眼における血管新生、好ましくは網膜上、網膜内及び/又は網膜下、角膜、又は結膜における血管新生を好適に挙げることができる。また、血管新生の抑制とは、既存の血管からの新しい血管の形成又は成長を抑制することを意味する。
【0025】
本件医薬組成物の有効成分である本件化合物、又はその塩は、たとえば上記非特許文献1に記載された方法等、公知の有機化学反応を用いる有機合成手法によって得ることもできるほか、市販品を購入することもできる。
【0026】
上記「薬理上許容される塩」としては、(1)酸付加塩として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩若しくはリン酸塩等の無機酸塩;又は酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、安息香酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、グルタミン酸塩若しくはアスパラギン酸塩等の有機酸塩、或いは(2)塩基性塩として、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩若しくはマグネシウム塩等の金属塩;アンモニウム塩等の無機塩;又はトリエチルアミン塩若しくはグアニジン塩等の有機アミン塩等を好適に挙げることができる。
【0027】
本件医薬組成物は、適宜の薬理上許容される添加剤と混合して、点眼剤として点眼投与することができる。添加剤として、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、保存剤(防腐剤)等を適宜配合することにより、周知の方法で製剤化することができる。また、pH調節剤、増粘剤、分散剤等を添加し、薬物を懸濁化させることによって、安定な点眼剤を得ることもできる。
【0028】
上記等張化剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール若しくはマンニトール等を挙げることができる。
【0029】
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸、リン酸塩、クエン酸、酢酸若しくはε-アミノカプロン酸等を挙げることができる。
【0030】
上記pH調節剤としては、例えば、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウム若しくは炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【0031】
上記可溶化剤としては、例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、マクロゴール4000等を挙げることができる。
【0032】
上記増粘剤及び分散剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース若しくはヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系高分子;ポリビニルアルコール;又はポリビニルピロリドン等を、また、安定化剤としては、例えば、エデト酸若しくはエデト酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0033】
上記保存剤(防腐剤)としては、例えば、汎用のソルビン酸、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル若しくはクロロブタノール等が挙げられ、これらの保存剤を組み合わせて使用することもできる。
【0034】
上記点眼剤のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、4.0~8.5に設定することが望ましい。
【0035】
本件医薬組成物は、上記の点眼剤型に加えて、適宜の薬理上許容される添加剤と混合して製造される、軟膏剤(好ましくは、眼軟膏)、注射剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、吸入剤、シロップ剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、経皮吸収剤、坐剤、ローション等の形態で、経口、又は非経口(静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経皮投与、経気道投与、皮内投与又は皮下投与)で投与することもできる。これらの製剤は、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、安定剤、矯味矯臭剤又は希釈剤等の添加剤を使用して、周知の方法で製造される。
【0036】
上記賦形剤は、例えば、有機系賦形剤又は無機系賦形剤が挙げられる。有機系賦形剤は、例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール若しくはソルビトール等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン若しくはデキストリン等のデンプン誘導体;結晶セルロース等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;又はプルラン等が挙げられる。無機系賦形剤は、例えば、軽質無水珪酸;又は硫酸カルシウム等の硫酸塩等が挙げられる。
【0037】
上記滑沢剤は、例えば、ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム若しくはステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス若しくはゲイロウ等のワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウム等の硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;D,L-ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム;無水珪酸若しくは珪酸水和物等の珪酸類;又は上記の賦形剤におけるデンプン誘導体等が挙げられる。
【0038】
上記結合剤は、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール又は上記の賦形剤で示された化合物等が挙げられる。
【0039】
上記崩壊剤は、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム若しくは内部架橋カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;架橋ポリビニルピロリドン;又はカルボキシメチルスターチ若しくはカルボキシメチルスターチナトリウム等の化学修飾されたデンプン若しくはセルロース誘導体等が挙げられる。
【0040】
上記乳化剤は、例えば、ベントナイト若しくはビーガム等のコロイド性粘土;ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウム等の陽イオン界面活性剤;又はポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル若しくはショ糖脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0041】
上記安定剤は、例えば、メチルパラベン若しくはプロピルパラベン等のパラヒドロキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール若しくはフェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール若しくはクレゾール等のフェノール類;チメロサール;無水酢酸;又はソルビン酸が挙げられる。
【0042】
上記矯味矯臭剤は、例えば、サッカリンナトリウム若しくはアスパルテーム等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸若しくは酒石酸等の酸味料;又はメントール、レモンエキス若しくはオレンジエキス等の香料等が挙げられる。
【0043】
上記希釈剤は、通常希釈剤として使用される化合物であり、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ショ糖、硫酸カルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶性セルロース、水、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、デンプン、ポリビニルピロリドン又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0044】
上記軟膏剤(好ましくは、眼軟膏)の場合は、白色ワセリン若しくは流動パラフィン等の汎用される基剤を用いて調製することができる。
【0045】
本件医薬組成物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年齢、体重、医師の判断等に応じて適宜変えることができるが、点眼剤の場合には、0.000001~10%(W/V)、好ましくは0.00001~3%(W/V)、より好ましくは0.0001~1%(W/V)の有効成分濃度のものを1日1回又は数回投与することができ、経口剤の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01~5000mg、好ましくは0.1~2500mg、より好ましくは0.5~1000mgを1回又は数回に分けて投与することができる。また、眼軟膏の場合には、0.00001~10%(W/W)、好ましくは0.0001~3%(W/W)、より好ましくは0.001~1%(W/W)の有効成分濃度のものを1日1回又は数回投与することができる。
【0046】
本明細書中において、「予防」とは、細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する疾患の発症及び再発を抑制、防止することを目的とする手段を意味する。
【0047】
本明細書中において、「治療」とは、細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する疾患の進行、増悪を減速又は停止すること、及び細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する疾患を軽快、改善、治癒することを目的とする手段を意味する。
【0048】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
網脈絡膜障害の予防又は治療に対するBPU17の効果を調べるため、ヒト網膜色素上皮細胞RPE-1を用いて以下の実験を行った。なお、網膜色素上細胞は網膜における線維性瘢痕を形成する代表的な細胞成分である。ヒト網膜色素上皮細胞RPE-1を10% FBS培地で培養した。培養した細胞を24ウェルディッシュに播種し、コンフルエントまで培養を続けた。その後、血清フリー(FBSなし)のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で24時間培養後、培養底に単一の幅の傷をつけ、0.3% FBS入りDMEM(コントロール)、又は0.3% FBS入りDMEM+BPU17(1,3,or 5μM)を添加して18時間培養した。BPU17は国立大学法人京都大学の渡辺文太先生より提供いただいたものを用いた。18時間後に培養底の傷の幅を測定して、細胞移動量の定量評価を行った。それぞれの培養底の傷の幅を測定した結果を図1に示す。図中、0.3% FBS入りDMEM(コントロール)を0.3% FBS、0.3% FBS入りDMEM+BPU17(1,3,or 5μM)をそれぞれ0.3% FBS 、0.3% FBS+BPU17 1μM、0.3% FBS+BPU17 3μM、0.3% FBS+BPU17 5μMで表し、縦軸は培養底の傷の幅(μm)である。また、0.3% FBS入りDMEM(コントロール)又は0.3% FBS+BPU17 3μMを添加した場合の0時間又は18時間培養後におけるにおける培養底の写真を図2に示す。図1、2に示すように、BPU17を加えることで、濃度依存的に上皮間葉転換(Epithelial to mesenchymal transition; EMT)における生物的特性の一つである網膜色素上細胞の移動を抑制していることが明らかとなった。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様の培養系にて、DMEM(None)、0.3% FBS、又は0.3% FBS+BPU17 3μMで処理し、18時間後のRPE-1細胞をホルマリン固定し、alpha smooth muscle actin(α-SMA)、核をそれぞれ抗α-SMA抗体、DAPIにて細胞染色を行った。続いて、DMEM(none)、線維化を促進するサイトカインであるトランスフォーミング増殖因子-β2(TGF-β2)、若しくはTGF-β2+ BPU17 3μMで刺激し、その後細胞抽出液を回収し、イムノブロットを抗α-SMA抗体を用いて行った。細胞抽出液を回収した後の細胞を蛍光顕微鏡で観察した結果を図3に、イムノブロットの結果を図4に示す。
【0051】
図3、4に示すように、BPU17なしではTGF-β2の刺激によって、線維化を亢進させるα-SMAの発現が増加しているが、BPU17で処理することによってα-SMAの発現が抑制されていた。したがって、上記実施例1の結果と併せて検討すると、BPU17で処理することによって網膜色素上細胞の上皮間葉転換(EMT)が抑制されて、網膜における線維性瘢痕形成の抑制につながると考えられる。
【0052】
[実施例3]
上記実施例2の結果を踏まえて、マウス網膜下瘢痕形成モデルを用いて、BPU17が網膜下線維性瘢痕形成の抑制作用を有するかどうかを検討した。マウスにおける網膜下瘢痕モデルは、Kobayashiらの方法(Investigative ophthalmology & visual science, Volume 60, Issue 2(2019))に準じて以下に示す方法で作製した。具体的には、8週齢のマウス(CL57BL/6 雌:SLC社)の網膜にレーザー(200mW, 75μm, 0.1秒,532nm)を照射し、光凝固を視神経周囲、具体的にはDisc周辺2~3乳頭径に4箇所ほど施工した。同時にBPU17なしのコントロール(0.3% FBS )、0.3% FBS+BPU17(30, 100, 300μM)を眼内に打ち込んだ。さらに、7日後に再度BPU17なしのコントロール、0.3% FBS+BPU17 (30, 100, 300μM)を眼内に打ち込んだ。21日目に、眼球を摘出して固定後、コラーゲン一次抗体にてI型コラーゲンを染色して顕微鏡で観察すると共に線維化面積を測定した。顕微鏡での観察結果を図5に、線維化面積の測定結果を図6に示す。図6における縦軸は線維化面積(μm)である。
【0053】
図5図6に示すようにBPU17を投与すると、濃度依存的にI型コラーゲンによる線維化が抑制されていた。したがって、インビボによる試験によってもBPU17が網膜における線維化を抑制することが確認された。
【0054】
[実施例4]
ヒト大動脈血管内皮細胞(HAoEC)を培養し、Bromodeoxyuridine(BrdU)の取り込みによって細胞増殖性を評価した。HAoECを12ウェルプレートディッシュ(COLI-film 14 mm coverslip:1mL HEC-C1培地/well)に播種し、その後0.5時間後にウェル毎に培地(1mL HEC-C1)を置換した。翌日、ウェル毎に(1)HEC-C1培地のみ、(2)HEC-C1培地+BPU17 1μM、(3)HEC-C1培地+BPU17 3μM、(4)HEC-C1培地+BPU17 10μMのいずれかで培地を置換した。その後4.5時間後にBrdU(再終濃度100μM:BruU 25mM 4μl/well)を加えた。
【0055】
さらにその翌日に、4%パラホルムアルデヒド(PFA)+4% Sucrose in ×1 PBS(-)で固定化した(20h BrdUインキュベーション)。その後、以下を行った。
・×1 PBS(-)で4回洗浄
・PBS(-)+0.1% Triton X-100 室温で15分インキュベート
・×1 PBS(-)で4回洗浄
・1N HCl 氷上で10分インキュベート
・2N HCl 室温で10分インキュベート
・×1 PBS(-)で4回洗浄
・0.1 M ホウ酸 pH8.5 室温で5分インキュベートを2回
・×1 PBS(-)で4回洗浄
・37℃で45分ブロッキング
・BrdU-Ab(Dako社 M0744) 1/100希釈 37℃で1.5時間
・×1 PBS(-)で4回洗浄
・Alexa(登録商標)568標識マウス抗体 1/500希釈 37℃で1時間
・×1 PBS(-)で4回洗浄
・Hoechst(登録商標)2μg/ml 室温で5分
・×100で顕微鏡観察
【0056】
結果を図7に示す。図7から明らかなように、BPU17は濃度依存的に大動脈血管内皮細胞におけるBrdUの取り込みを抑制することが明らかとなった。すなわち、BPU17によって血管内皮細胞の増殖を抑制することができるといえる。
【0057】
[実施例5]
HAoECをマトリゲル内で培養して、血管新生の指標となる管腔形成(tube-formation)を以下の手法で検討した。まず、Matrigel(登録商標:(Becton Dickinson))をコートした24ウェルプレート(使用前まで-20℃で保存)にMatrigel溶液1.25 mL/2mL tubeを用意した。さらに以下のMatrigel溶液(300μL/well)を24ウェルプレートに加えて(3 well/sample)37℃で1時間インキュベートした。
(1)コントロール(ジメチルスルホキシド:DMSO)
(2)DMSO+BPU17 1μM( 1 mM 1.25μL)
(3)DMSO+BPU17 3μM(10 mM 0.375μL)
(4)DMSO+BPU17 10μM(10 mM 1.25μL)
【0058】
次にHAoEC(第7継代:P7)懸濁液(2×104 cells/1 mL HEC-C1)と共に以下の(5)~(8)のいずれかを1 ml/ wellほどマトリゲルに接種した。
(5)コントロール(DMSO) 3 mL HEC-C1
(6)DMSO+BPU17 1μM( 1 mM 3 μL/3 mL HEC-C1)
(7)DMSO+BPU17 3μM(10 mM 0.9 μL/3 mL HEC-C1)
(8)DMSO+BPU17 10μM(10 mM 3 μL/3 mL HEC-C1)
【0059】
接種から22時間後の顕微鏡観察(×40)による写真を図8に、細胞数あたりの分岐点(branching points)の割合(%)を図9Aに、管腔長(μm)を図9Bに示す。図8図9A、Bから明らかなように、BPU17を加えることで管腔形成を阻害していることが明らかとなった。したがって、実施例4の結果と併せて検討すると、BPU17によって血管新生を抑制することが可能であることが示された。
【0060】
[実施例6]
上記実施例5の結果を踏まえて、マウス網脈絡膜新生血管(CNV)モデルを用いて、BPU17がCNV形成の抑制作用を有するかどうかを検討した。マウスにおけるCNVモデルは、Ishikawaらの方法(Exp Eye Res. 2016; 142:19-25)に準じて以下に示す方法で作製した。具体的には、8週齢のマウス(CL57BL/6 雌:SLC社)の網膜にレーザー(200mW, 75μm, 0.1秒,532nm)を照射し、光凝固を視神経周囲、具体的にはDisc周辺2~3乳頭径に4箇所ほど施工した。同時に0.3% FBS+BPU17 (30, 100μM)を眼内に打ち込んだ。7日目に、眼球を摘出して固定後、Alexa Fluor 488結合イソレクチン(Isolectin)GS-IB4と共に24時間インキュベートし、PBS中で1:100に希釈した。調製物を最後にPBSで洗浄し、PBS中50%グリセロールでマウントし、BZ-X710蛍光顕微鏡(Keyence社)で検査した。NIH ImageJソフトウェアを使用して、CNVの面積を測定した。なお、BPU17なしのコントロールとして、PBSを0日に眼内に打ち込んだ。顕微鏡での観察結果を図10に、CNV面積の測定結果を図11に示す。図10における縦軸は線維化面積(μm)である。
【0061】
図10図11に示すようにBPU17を投与すると、濃度依存的にCMVが抑制されていた。したがって、インビボによる試験によってもBPU17が網脈絡膜における血管新生を抑制することが確認された。
【0062】
[実施例7]
次に、BPU17によるEMT阻害効果を、EMTマーカーによって調べた。
ヒト肺胞上皮由来細胞株A549又はヒト肝臓星細胞株LI90を上記結成フリーのDMEM培地で24時間培養した。次にTGFβ-2 1ng/mLのみ、又はTGFβ-2 1ng/mL及びBPU17 3μMを加えてさらに18時間培養した。その後細胞を回収し、Rneasy Mini Kit(キアゲン社)を用いてtotalRNAを抽出し、cDNAを合成後にSYBR Green reagents and a StepOnePlus Real Time PCR System(Applied Biosystems社)によりqPCRを行い、線維化関連分子であるconnective tissue growth factor(CTGF) mRNA発現量を測定した。同様にヒト肝臓星細胞株LI90を上記結成フリーのDMEM培地で24時間培養した。次にTGFβ-2 1ng/mLのみ、TGFβなし、又はTGFβ-2 1ng/mL及びBPU17 3μMを加えてさらに18時間培養した。その後細胞を回収し、上記と同様にtotalRNAを抽出し、cDNAを合成後にqPCRを行い、線維化関連分子であるα-smooth muscle actin (αSM-actin) mRNA発現量を測定した。結果を図12、13に示す。
【0063】
図12、13から明らかなように、肺胞上皮由来の細胞におけるCTGFや肝臓星細胞におけるαSM-actinの発現を抑制することが明らかとなった。したがってBPU17は網膜だけでなく肺や肝臓においても線維化抑制効果を有する可能性があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の医薬組成物は血管新生関連疾患の予防又は治療において利用可能である。特に、網脈絡膜における血管内皮細胞による網脈絡膜新生血管形成、又は網膜色素上皮組織における線維性瘢痕の形成を強力に抑制することにより、糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症,網膜剥離,増殖硝子体網膜症,ぶどう膜炎,眼感染症,未熟児網膜症,新生血管黄斑症,網脈絡膜炎等の網脈絡膜障害の予防又は治療剤に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13