(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】人工合成mRNA及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20241101BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241101BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241101BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241101BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241101BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/113 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2021552479
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2020039160
(87)【国際公開番号】W WO2021075567
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019189929
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成30年度/平成31年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、感染症実用化研究事業 肝炎等克服実用化研究事業 B型肝炎創薬実用化等研究事業、「個別化医療に対応したゲノム編集技術による肝臓内HBVゲノムの完全不活化を目指した革新的治療法の包括的開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】星野 真一
(72)【発明者】
【氏名】細田 直
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/089846(WO,A1)
【文献】特開2012-100593(JP,A)
【文献】Accession No. NM_002046.7,Database GenBank [online],2019年09月28日,[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_002046.7/],[2020年12月4日検索]
【文献】Igor RUIZ DE LOS MOZOS et al.,PLOS Genetics,2013年,Vol. 9, Issue 12,e1004001 (pp. 1-18)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質をコードするmRNAの5´非翻訳領域と、
前記5´非翻訳領域に対する相補性が40%以上80%以下である3´非翻訳領域と、
を備える、人工合成mRNA。
【請求項2】
請求項1に記載の人工合成mRNAであって、
前記タンパク質は、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼと、β-globinと、RPS8と、LDHBとからなる群から選ばれる、人工合成mRNA。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工合成mRNAであって、
前記3´非翻訳領域は、前記5´非翻訳領域に対する相補性が50%以上75%以下である、人工合成mRNA。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の人工合成mRNAを、細胞
(ヒトの生体内の細胞を除く)に導入する工程を含む方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の人工合成mRNAが導入された細胞。
【請求項6】
タンパク質をコードするmRNAの5´非翻訳領域と、前記5´非翻訳領域との相補性が40%以上80%以下である3´非翻訳領域と、を備える人工合成mRNAを調製する工程を含む、人工合成mRNAの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工合成mRNA及びその利用に関する。本出願は、2019年10月17日に出願された日本国特許出願第2019-189929号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
これまで遺伝子治療はウイルスをはじめとするDNAをベクターとして実施されてきたが、ゲノムに組込まれることによる発癌等の危険性が大きな問題として残されていた。一方で、mRNAは、DNAと異なりゲノムへの挿入などのリスクがない安全な核酸医薬として注目を集めているが、RNAが本来もつ不安定性と翻訳効率の低さが欠点として指摘されている(例えば、特許文献1から特許文献3)。
【0003】
特許文献1には、mRNAの細胞内における分解機構を解明することにより、この機構の発生を抑制する技術として、目的遺伝子のmRNAに、2’-5’-オリゴアデニル酸合成酵素の機能抑制物質を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-74954号公報
【文献】特開2015-221026号公報
【文献】特開2015-226531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たしかに、特許文献1に記載の技術によれば、RNAが本来もつ不安定性さは改善される。しかしながら、mRNAの翻訳効率の向上については改善の余地があった。
【0006】
このため、本発明者らは鋭意研究を進めることにより、mRNAの翻訳効率を向上させる方法を発明するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、人工合成mRNAが提供される。この人工合成mRNAは、タンパク質をコードするmRNAの5´非翻訳領域と、前記5´非翻訳領域に対する相補性が40%以上80%以下である3´非翻訳領域と、を備える。
【0009】
(2)上述の人工合成mRNAであって、前記タンパク質は、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼと、β-globinと、RPS8と、LDHBとからなる群から選ばれてもよい。
【0010】
(3)上述の人工合成mRNAであって、前記3´非翻訳領域は、前記5´非翻訳領域に対する相補性が50%以上75%以下であってもよい。
【0011】
(4)本発明の他の形態によれば、上述の人工合成mRNAを、細胞に導入する工程を含む方法が提供される。
【0012】
(5)本発明の他の形態によれば、上述の人工合成mRNAが導入された細胞が提供される。
【0013】
(6)本発明の他の形態によれば、人工合成mRNAの製造方法が提供される。この人工合成mRNAの製造方法は、タンパク質をコードするmRNAの5´非翻訳領域と、前記5´非翻訳領域との相補性が40%以上80%以下である3´非翻訳領域と、を備える人工合成mRNAを調製する工程を含む。
【0014】
(7)本発明の他の形態によれば、人工合成mRNAが提供される。この人工合成mRNAは、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼをコードするmRNAの5´非翻訳領域と、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼをコードするmRNAの3´非翻訳領域と、を備える。
【0015】
(8)本発明の他の形態によれば、人工合成mRNAの製造方法が提供される。この人工合成mRNAの製造方法は、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼをコードするmRNAの5´非翻訳領域と、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼをコードするmRNAの3´非翻訳領域と、を備える人工合成mRNAを調製する工程を含む。
【0016】
(9)本発明の他の形態によれば、上記(7)の人工合成mRNAを、細胞に導入する工程を含む方法が提供される。
【0017】
(10)本発明の他の形態によれば、上記(7)の人工合成mRNAが導入された細胞が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】人工合成mRNAからのタンパク質発現量を測定した結果を示す図。
【
図3】
図1に示す人工合成mRNAの安定性を示す図。
【
図6】人工合成mRNAを腎臓由来のHEK293細胞に導入した場合の人工合成mRNAごとの発現量を示す図。
【
図8】GAPDHのUTR配列の有無に起因する発現量の違いを示す図。
【
図9】LDHBのUTR配列の有無に起因する発現量の違いを示す図。
【
図10】ACAT2のUTR配列の有無に起因する発現量の違いを示す図。
【
図12】GAPDHの5´UTR配列の欠失の有無に起因する発現量の違いを示す図。
【
図14】GAPDHの3´UTR配列の欠失の有無に起因する発現量の違いを示す図。
【
図16】5´UTR 28ntと3´UTR 28ntの有無に起因する発現量の違いを示す図。
【
図22】癌抑制遺伝子p53を用いた場合における発現量の違いを示す図。
【
図23】得られた効果の推定メカニズムを説明するための図。
【
図24】ゲノム編集遺伝子hCas9を用いた場合における発現量の違いを示す図。
【
図25】ゲノム編集遺伝子hCas9を用いた場合におけるゲノム編集量の違いを示す図。
【
図26】β-globinの5´UTRを用いた場合における発現量の違いを示す図。
【
図27】RPS8の5´UTRを用いた場合における発現量の違いを示す図。
【
図28】LDHBの5´UTRを用いた場合における発現量の違いを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書の開示は、翻訳効率の高い人工合成mRNA及びその利用に関する。尚、人為的な操作によって調製されるという特徴を表すとともに、細胞内(内在性)mRNAと区別する目的で、本発明のmRNAのことを「人工合成mRNA」と呼称することがある。ここで、本明細書において、「mRNA」とは、タンパク質に翻訳され得る塩基配列情報と構造を持ったRNAを示す。また、二つの用語「抑制」と「阻害」は、その意味するところが重複し、しばしば置換可能に用いられる。そこで本明細書では、前後の文脈から区別が特に必要な場合を除き、統一して用語「抑制」を使用する。「翻訳効率が高い」とは、翻訳量の増大を意味する。
【0020】
1.mRNA
本発明のmRNAは目的遺伝子のコード領域(目的遺伝子の発現産物であるタンパク質をコードする領域)を備える。「目的遺伝子」とは、本発明のmRNAを利用して細胞内で発現させる遺伝子である。様々な遺伝子を目的遺伝子として採用できる。本発明のmRNAを導入することにより目的遺伝子を発現させる細胞を、本明細書において「標的細胞」とも呼ぶ。目的遺伝子としては、例えば、酵素(例えばヌクレアーゼ(ZFN(Zinc Finger Nuclease)、TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)、CRISPR-Cas9等)、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質等の遺伝子、その機能低下(例えば変異によるもの)や欠損などが疾患の原因となる遺伝子、正常に機能をしているがその発現の増強が望まれる遺伝子、標的細胞が本来有しない遺伝子であってそれが発現されることにより標的細胞の生存、維持等に有益な遺伝子、標的細胞に作用し、標的細胞が本来有する機能を高めるタンパク質又は標的細胞が本来有する機能とは異なる機能を発揮させるタンパク質をコードする遺伝子、標的細胞には作用せず、標的細胞から分泌されて周囲の細胞に作用するタンパク質(例えば、細胞間ネットワークに関与するタンパク質)をコードする遺伝子等を挙げることができる。標的細胞及び周囲の細胞に対しては実質的に作用しないタンパク質をコードする遺伝子も目的遺伝子となり得る。このような遺伝子として、例えば、医薬品等に利用されるタンパク質等をコードする遺伝子(例えば、ヒトエリスロポエチン遺伝子、ヒトフィブリノーゲン遺伝子、ヒト血清アルブミン遺伝子、ヒトラクトフェリン遺伝子、ヒトα-グルコシダーゼ遺伝子)が挙げられる。かかる遺伝子を採用することにより、標的細胞内で医薬品等として利用可能な組換えタンパク質を産生させることが可能である。
【0021】
標的細胞は特に限定されず、例えば、各種真核細胞を標的細胞として用いることができる。より具体的には、標的細胞として、例えば、哺乳動物(ヒト、サル、ウシ、ウマ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等)の各種細胞、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、骨細胞、軟骨細胞、破骨細胞、実質細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、上皮細胞(皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、口腔粘膜上皮、毛包上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(角膜内皮細胞、血管内皮細胞など)、神経細胞、グリア細胞、脾細胞、膵臓β細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、肝細胞、これらの前駆細胞又は幹細胞、或いは人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)などを使用することができる。また、標的細胞として、例えば、継代細胞、特定の細胞系譜へと分化誘導された細胞、株化細胞(例えば、HeLa細胞、CHO細胞、Vero細胞、HEK293細胞、HepG2細胞、COS-7細胞、NIH3T3細胞、Sf9細胞)等を使用することができる。
【0022】
生体から分離された状態の標的細胞(即ち、単離された標的細胞)、又は生体を構成した状態の標的細胞に対して、本発明のmRNAを導入してもよい。従って、In vitro、In vivo及びEx vivoのいずれの環境下でも本発明を実施することが可能である。ここでの「単離された」とは、その本来の環境(例えば生体を構成した状態)から取り出された状態にあることを示す。従って、通常は、単離された標的細胞は培養容器内又は保存容器内に存在し、それへのin vitroでの人為的操作が可能である。具体的には、生体から分離され、生体外で培養状態にある細胞(株化された細胞を含む)は、単離された標的細胞としての適格を有する。尚、上記の意味において単離された状態にある限り、組織体を形成した状態であっても単離された細胞である。
【0023】
単離された標的細胞は、生体(例えば患者)より調製することができる。一方、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター、独立行政法人 製品評価技術基盤機構、ATCC(American Type Culture Collection)、DSMZ(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)などより入手した細胞を、単離された標的細胞として使用してもよい。
【0024】
本発明のmRNAは、5´非翻訳領域(5´UTR: 5' untranslated region)と3´非翻訳領域(3´UTR: 3' untranslated region)を備える。
【0025】
本発明の一実施形態のmRNAは、タンパク質をコードするmRNAの5´UTRと、5´UTRとの相補性が40%以上80%以下である3´UTRと、を備える。換言すると、本発明の実施形態のmRNAは、目的タンパク質をコードする翻訳領域と、目的タンパク質とは異なるタンパク質をコードするmRNAの5´UTRと、5´UTRとの相補性が40%以上80%以下である3´UTRと、を備える。この形態とすることにより、翻訳効率を向上させることができる。翻訳効率をより向上させる観点から、3´UTRにおける5´UTRとの相補性が50%以上75%以下であることが好ましい。翻訳効率を向上させることができる結果、目的タンパク質の発現効率を向上させることができる。
【0026】
タンパク質をコードするmRNAの5´UTRとしては、特に限定されないが、例えば、細胞(例えば、HeLa細胞)あたりのタンパク質発現量が106分子以上のタンパク質をコードするmRNAの5´UTRが好ましい。このタンパク質としては、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼと、β-globinと、RPS8と、LDHBとからなる群から選ばれるタンパク質がより好ましい。
【0027】
さらに、本発明の他の実施形態のmRNAは、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をコードするmRNAの5´UTRと、GAPDHをコードするmRNAの3´UTRと、を備える。換言すると、本発明の実施形態のmRNAは、GAPDHをコードするmRNAの5´UTRと、GAPDHをコードするmRNAの3´UTRと、GAPDHではないタンパク質をコードするORF(Open Reading Frame)と、を備える。この形態とすることにより、翻訳効率を向上させることができる。本明細書において、「~をコードするmRNAのUTR」を、単に「~のUTR」とも呼ぶ。例えば、「GAPDHをコードするmRNAの5´UTR」を、「GAPDHのUTR」とも呼ぶ。
【0028】
本明細書において、GAPDHのUTRとして、ヒト由来のGAPDHのUTRを用いるが、本発明はこれに限られない。GAPDHのUTRとして、例えば、他の生物(例えば、マウス)由来のGAPDHのUTRを用いてもよい。また、本発明のmRNAが備えるGAPDHのUTRの長さは、生物由来のGAPDHのUTRの7割以上13割以下であることが好ましく、8割以上12割以下であることがより好ましく、9割以上11割以下であることがさらに好ましい。また、本発明のmRNAが備えるGAPDHのUTRは、生物由来のGAPDHのUTRとの一致率が7割以上であることが好ましく、8割以上であることがより好ましく、9割以上であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の他の実施形態のmRNAは、GAPDHをコードするmRNAの5´UTRと、5´UTRとの相補性が40%以上80%以下である3´UTRと、を備える。換言すると、本発明の実施形態のmRNAは、GAPDHをコードするmRNAの5´UTRと、5´UTRとの相補性が40%以上80%以下である3´UTRと、GAPDHではないタンパク質をコードするORFと、を備える。この形態とすることにより、翻訳効率を向上させることができる。翻訳効率をより向上させる観点から、3´UTRにおける5´UTRとの相補性が50%以上75%以下であることが好ましい。
【0030】
本実施形態のmRNAは、その翻訳に必要な5´キャップ構造(m7G(7-メチルグアノシン)が5´末端ヌクレオシドに5´-5´三リン酸橋を介して結合した構造)及びポリ(A)鎖を備えてもよい。ポリ(A)鎖の長さは、特に限定されないが、例えば、30~200塩基である。5´キャップ構造には翻訳開始因子eIF4Eが結合し、ポリ(A)鎖にはポリ(A)鎖結合タンパク質PABP(poly(A)-binding protein)が結合することによって、両者が足場タンパク質である翻訳開始因子eIF4Gを介して複合体を形成することにより、mRNAは環状構造を形成する(Wells SE, et al. Mol Cell. 1998;2:135-140)。さらに、翻訳終結因子eRF3はPABP-eIF4Gと複合体を形成することにより、3´UTRをループアウトする(Uchida N, et al. J Biol Chem. 2002; 277: 50286-50292)。このようなmRNAの環状化は、翻訳終結部位と翻訳開始部位を物理的に近づけ、翻訳を終えたリボソームを、3´UTRを経ることなく終止コドンから次の翻訳開始にリサイクルすることで、翻訳開始の効率に大きく寄与する。5´末端キャップ構造とポリ(A)鎖は、このような翻訳の効率化だけでなく、エキソヌクレアーゼによる末端からのmRNA分解を阻害することでmRNAを安定化し、翻訳の効率化とmRNA安定化の両過程において転写後の遺伝子発現制御に大きく貢献する。
【0031】
本発明のmRNAは、例えば、in vitro転写系、化学合成等の方法によって調製することができる。in vitro転写用のキット(例えば、プロメガ社が提供するRiboMAXsystem、ニッポンジーン社が提供するCUGA7 in vitro transcription kit、ライフテクノロジーズ社が提供するMEGAscript T7 kit)を利用することにより、簡便に目的のmRNAを調製することが可能である。また、5´キャップ構造の付加についても公知の方法で行うことができ、例えば、New England Biolabs社が提供する3'-O-Me-m7G(5')ppp(5')G RNA Cap Structure Analogを利用することができる。
【0032】
本発明のmRNAとして、2種類以上のmRNAを併用することにしてもよい。例えば、特定の遺伝子のコード領域を有するmRNAと、当該遺伝子の発現産物と相互作用する発現産物をコードする領域を有するmRNAを併用することができる。
【0033】
本発明のmRNAの量は、使用目的、使用する目的遺伝子の特徴、標的細胞の種類等を考慮しつつ、標的細胞内で十分な量の発現産物が得られるように設定すればよい。mRNA量の例を示すと、一回分の量として3cm培養ディッシュあたり0.5~1.0μgのmRNAを含有させてもよい。
【0034】
人工合成mRNAの保護を目的として、例えば、エキソヌクレアーゼ阻害剤、エンドヌクレアーゼ阻害剤、リン脂質、リン酸カルシウム、ポリエチレンイミン、ナノミセル形成剤であるポリエチレングリコール-ポリカチオン、緩衝剤、無機塩類、2価イオン等を用いてもよく、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を用いてもよく、細胞の増殖能を亢進させることを目的として、動物血清、成長因子、糖類、ビタミン類、2価イオン等を用いてもよい。また、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を用いてもよい。更に、有効成分の細胞導入効率を亢進させることを目的として、ライフテクノロジー社が提供するOpti-MEM等の特殊合成培地を用いてもよい。
【0035】
2.導入方法
本発明を利用して標的細胞内で目的遺伝子を発現させるためには、標的細胞に目的遺伝子のmRNAを導入するステップを行う。
【0036】
mRNAの標的細胞への導入は公知の方法で行うことができる。例えば、リン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポレーション(Potter, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1987))、マイクロインジェクション(Graessmann, M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976))、Hanahanの方法(Hanahan, D., J. Mol. Biol. 166, 557-580(1983))、酢酸リチウム法(Schiestl, R.H. et al., Curr. Genet. 16, 339-346(1989))、プロトプラスト-ポリエチレングリコール法(Yelton, M.M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 1470-1474(1984))、超音波遺伝子導入法、カチオン性ポリアミン酸を利用した方法(例えば特開2011-173802号公報を参照)、カチオン性ポリマーセグメントと非架電親水性ポリマーセグメントとを有するブロックコポリマーからなるポリイオンコンプレックス(PIC)型の高分子ミセルを利用した方法(例えば、特開2004-352972号公報、国際公開第2012/005376号パンフレットを参照)等によって実施することができる。
【0037】
3.用途
本発明のmRNAによれば、標的細胞内で翻訳効率が向上するため、目的タンパク質が高発現する。従って、本発明は、目的タンパク質の高発現が望まれる様々な用途への適用が可能である。本発明の用途の例として、(A)各種ウイルス性疾患(例えばB型肝炎、後天性免疫不全症候群AIDS、成人T細胞白血病)や遺伝病(例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性腺維症、βサラセミア、Hurler症候群、網膜色素変性症、X連鎖型腎性尿崩症)の治療、(B)癌免疫療法、(C)iPS細胞の作製、(D)幹細胞(例えば、iPS細胞やES細胞などの多分化能幹細胞)又は前駆細胞の分化誘導等を挙げることができる。
【0038】
上記(A)及び(B)は、いわゆるRNA医薬として本発明を利用するものである。(A)の具体例としてのB型肝炎の治療では、例えば、ゲノムに組み込まれたウイルスDNAを切断・分解するヌクレアーゼ(ZFN、TALEN、又はCRISPR-Cas9)遺伝子を目的遺伝子として組み込んだmRNAを用いることにより、従来のウイルスベクターを使用した方法で問題となる発がんリスクを伴わないウイルス治療が可能となる。このように、本発明はウイルス除去剤としても有用である。遺伝病の治療においては、例えば、疾患原因遺伝子(機能低下又は欠損により疾患を引き起こすもの)を目的遺伝子とし、本発明を適用する。上記(B)の用途では、本発明を利用してがん抗原のmRNAを抗原提示細胞に導入し、癌ワクチンを体内で産生させることになる。上記(C)及び(D)の用途に本発明を適用すれば、ウイルスベクターを使用することなく初期化因子を導入することが可能になるため、細胞のがん化の問題を克服することができる。
【0039】
本発明をRNA医薬として利用する場合の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、緩衝剤、賦形剤、崩壊剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水、担体など)を含有させることができる。緩衝剤としてはリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などを用いることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0040】
製剤化する場合の剤型も特に限定されない。剤型の例は注射剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤及びシロップ剤である。
【0041】
本発明のRNA医薬はその剤型に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用してもよい(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では本発明のRNA医薬はヒトに対して適用される。
【0042】
本発明のRNA医薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に患者の症状、年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば1日1回~数回、2日に1回、或いは3日に1回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【実施例】
【0043】
1.目的
様々な臨床応用が期待されている人工合成mRNAの標的細胞内での翻訳効率の向上を目指し、以下の検討を行った。
【0044】
2.研究材料および方法
(1)プラスミド
RNAトランスフェクション用のベクターとして、pBK-5F-EGFP-pA72を用いた。pBK-5F-EGFP-pA72の作製方法としては、Nogimori et al., “Dom34 mediates targeting of exogenous RNA in the antiviral OAS/RNase L pathway” Nucleic Acids Research, Volume 47, Issue 1, 10 January 2019, Pages 432-449に記載された方法を用いた。
【0045】
(2)非翻訳領域の挿入
・GAPDHの5´UTRの挿入
GAPDHの5´UTR配列に関しては、配列番号1と配列番号2に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列は、配列番号27に示す。
【0046】
・GAPDHの3´UTRの挿入
GAPDHの3´UTR配列に関しては、HeLa細胞から抽出したtotal RNAと、配列番号3と配列番号4に示すオリゴヌクレオチドとを用いた逆転写PCR法により単離した。単離した配列は、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの3´UTR配列は、配列番号28に示す。
【0047】
・ACAT2の5´UTRの挿入
ACAT2の5´UTR配列に関しては、HeLa細胞から抽出したtotal RNAと、配列番号5と配列番号6に示すオリゴヌクレオチドとを用いた逆転写PCR法により単離した。単離した配列は、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、ACAT2の5´UTR配列は、配列番号29に示す。
【0048】
・ACAT2の3´UTRの挿入
ACAT2の3´UTR配列に関しては、HeLa細胞から抽出したtotal RNAと、配列番号7と配列番号8に示すオリゴヌクレオチドとを用いた逆転写PCR法により単離した。単離した配列は、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、ACAT2の3´UTR配列は、配列番号30に示す。
【0049】
・LDHBの5´UTRの挿入
LDHBの5´UTR配列に関しては、HeLa細胞から抽出したtotal RNAと、配列番号9と配列番号10に示すオリゴヌクレオチドとを用いた逆転写PCR法により単離した。単離した配列は、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列は、配列番号31に示す。
【0050】
・LDHBの3´UTRの挿入
LDHBの3´UTR配列に関しては、HeLa細胞から抽出したtotal RNAと、配列番号11と配列番号12に示すオリゴヌクレオチドとを用いた逆転写PCR法により単離した。単離した配列は、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、LDHBの3´UTR配列は、配列番号32に示す。
【0051】
・GAPDHの5´UTR配列と完全相補である3´UTRの挿入
GAPDHの5´UTR配列と完全相補である3´UTR配列に関しては、配列番号13と配列番号14に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と完全相補である3´UTR配列は、配列番号33に示す。
【0052】
・GAPDHの5´UTR配列と相補性が94%である3´UTRの挿入
GAPDHの5´UTR配列と相補性が94%である3´UTR配列に関しては、配列番号15と配列番号16に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が94%である3´UTR配列は、配列番号34に示す。
【0053】
・GAPDHの5´UTR配列と相補性が88%である3´UTRの挿入
GAPDHの5´UTR配列と相補性が88%である3´UTR配列に関しては、配列番号17と配列番号18に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が88%である3´UTR配列は、配列番号35に示す。
【0054】
・GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRの挿入
GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTR配列に関しては、配列番号19と配列番号20に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTR配列は、配列番号36に示す。
【0055】
・GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入
GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列に関しては、配列番号21と配列番号22に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号37に示す。
【0056】
・GAPDHの5´UTR配列と相補性が25%である3´UTRの挿入
GAPDHの5´UTR配列と相補性が25%である3´UTR配列に関しては、配列番号23と配列番号24に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が25%である3´UTR配列は、配列番号38に示す。
【0057】
・β-globinの5´UTRの挿入
β-globinの5´UTR配列に関しては、配列番号41と配列番号42に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列は、配列番号94に示す。
【0058】
・β-globinの5´UTR配列と完全相補である3´UTRの挿入
β-globinの5´UTR配列と完全相補である3´UTRに関しては、配列番号43と配列番号44に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列と完全相補である3´UTR配列は、配列番号95に示す。
【0059】
・β-globinの5´UTR配列と相補性が92%である3´UTRの挿入
β-globinの5´UTR配列と相補性が92%である3´UTRに関しては、配列番号45と配列番号46に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列と相補性が92%である3´UTR配列は、配列番号96に示す。
【0060】
・β-globinの5´UTR配列と相補性が88%である3´UTRの挿入
β-globinの5´UTR配列と相補性が88%である3´UTRに関しては、配列番号47と配列番号48に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列と相補性が88%である3´UTR配列は、配列番号97に示す。
【0061】
・β-globinの5´UTR配列と相補性が74%である3´UTRの挿入
β-globinの5´UTR配列と相補性が74%である3´UTRに関しては、配列番号49と配列番号50に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列と相補性が74%である3´UTR配列は、配列番号98に示す。
【0062】
・β-globinの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入
β-globinの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRに関しては、配列番号51と配列番号52に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号99に示す。
【0063】
・β-globinの5´UTR配列と相補性が24%である3´UTRの挿入
β-globinの5´UTR配列と相補性が24%である3´UTRに関しては、配列番号53と配列番号54に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列と相補性が24%である3´UTR配列は、配列番号100に示す。
【0064】
・RPS8の5´UTRの挿入
RPS8の5´UTR配列に関しては、配列番号55と配列番号56に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列は、配列番号101に示す。
【0065】
・RPS8の5´UTR配列と完全相補である3´UTRの挿入
RPS8の5´UTR配列と完全相補である3´UTRに関しては、配列番号57と配列番号58に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列と完全相補である3´UTR配列は、配列番号102に示す。
【0066】
・RPS8の5´UTR配列と相補性が93%である3´UTRの挿入
RPS8の5´UTR配列と相補性が93%である3´UTRに関しては、配列番号59と配列番号60に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列と相補性が93%である3´UTR配列は、配列番号103に示す。
【0067】
・RPS8の5´UTR配列と相補性が86%である3´UTRの挿入
RPS8の5´UTR配列と相補性が86%である3´UTRに関しては、配列番号61と配列番号62に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列と相補性が86%である3´UTR配列は、配列番号104に示す。
【0068】
・RPS8の5´UTR配列と相補性が71%である3´UTRの挿入
RPS8の5´UTR配列と相補性が71%である3´UTRに関しては、配列番号63と配列番号64に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列と相補性が71%である3´UTR配列は、配列番号105に示す。
【0069】
・RPS8の5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入
RPS8の5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRに関しては、配列番号65と配列番号66に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号106に示す。
【0070】
・RPS8の5´UTR配列と相補性が29%である3´UTRの挿入
RPS8の5´UTR配列と相補性が29%である3´UTRに関しては、配列番号67と配列番号68に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列と相補性が29%である3´UTR配列は、配列番号107に示す。
【0071】
・RPS8の5´UTR配列と相補性が14%である3´UTRの挿入
RPS8の5´UTR配列と相補性が14%である3´UTRに関しては、配列番号69と配列番号70に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列と相補性が14%である3´UTR配列は、配列番号108に示す。
【0072】
・LDHBの5´UTR配列と完全相補である3´UTRの挿入
LDHBの5´UTR配列と完全相補である3´UTRに関しては、配列番号71と配列番号72に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列と完全相補である3´UTR配列は、配列番号109に示す。
【0073】
・LDHBの5´UTR配列と相補性が93%である3´UTRの挿入
LDHBの5´UTR配列と相補性が93%である3´UTRに関しては、配列番号73と配列番号74に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列と相補性が93%である3´UTR配列は、配列番号110に示す。
【0074】
・LDHBの5´UTR配列と相補性が87%である3´UTRの挿入
LDHBの5´UTR配列と相補性が87%である3´UTRに関しては、配列番号75と配列番号76に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列と相補性が87%である3´UTR配列は、配列番号111に示す。
【0075】
・LDHBの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRの挿入
LDHBの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRに関しては、配列番号77と配列番号78に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTR配列は、配列番号112に示す。
【0076】
・LDHBの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入
LDHBの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRに関しては、配列番号79と配列番号80に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号113に示す。
【0077】
・LDHBの5´UTR配列と相補性が25%である3´UTRの挿入
LDHBの5´UTR配列と相補性が25%である3´UTRに関しては、配列番号81と配列番号82に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列と相補性が25%である3´UTR配列は、配列番号114に示す。
【0078】
・Cas9 mRNA合成プラスミドの作製
Cas9のcDNA配列はMail et al “RNA-guided human genome engineering via Cas9” Science. 2013 Feb 15;339(6121):823-6 に記載されているhCas9プラスミド(Addgene plasmid # 41815)と、配列番号83と配列番号84に示すオリゴヌクレオチドとを用いたPCR法により単離した。単離した配列をpBK-5F-EGFP-pA72のHindIIIサイトに挿入したプラスミドと、配列番号83と配列番号85に示すオリゴヌクレオチドを用いたインバースPCR法によりpBK-F-hCas9-pA72プラスミドを得た。ここでhCas9のcDNA配列は配列番号115に示し、hCas9のアミノ酸配列は配列番号116に示す。
【0079】
・Cas9 mRNA合成プラスミドへのGAPDHの5´UTRの挿入
pBK-F-hCas9-pA72プラスミドと、配列番号86と配列番号87に示すオリゴヌクレオチドを用いたインバースPCR法により、GAPDHの5´UTRを挿入した。ここで、GAPDHの5´UTRは、配列番号27に示す。
【0080】
・Cas9 mRNA合成プラスミドへのGAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRの挿入
pBK-F-hCas9-pA72プラスミドと、配列番号88と配列番号89に示すオリゴヌクレオチドを用いたインバースPCR法により、GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRを挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTR配列は、配列番号36に示す。
【0081】
・Cas9 mRNA合成プラスミドへのGAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入
pBK-F-hCas9-pA72プラスミドと、配列番号90と配列番号91に示すオリゴヌクレオチドを用いたインバースPCR法により、GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRを挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号37に示す。
【0082】
・p53のcDNAの挿入
p53のcDNA配列は、U20S細胞から抽出したtotal RNAと、配列番号25と配列番号26に示すオリゴヌクレオチドとを用いた逆転写PCR法により単離した。単離したp53のcDNA配列は、pBK-5F-EGFP-pA72のHindIIIサイトに挿入した。ここで、p53のcDNA配列は配列番号39に示し、p53のアミノ酸配列は配列番号40に示す。
【0083】
(3)RNA合成
各種pBK-5F-EGFP-pA72、各種pBK-5F-p53-pA72および各種pBK-F-hCas9-pA72プラスミドを、BsmBIで処理したものを鋳型として、5xFlag-EGFP-pA72、5xFlag-p53-pA72およびFlag-hCas9-pA72 mRNAを合成した。RNA合成は、T7 RNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用い、このT7 RNAポリメラーゼの取扱い説明書に従って行った。
【0084】
(4)トランスフェクション
HeLa細胞、293T細胞、U2OS細胞は、いずれも5% fetal bovine serumを添加したDulbecco’s Modified Eagle’s Medium (日水製薬株式会社)を用い、5%CO2存在下37℃で培養した。HeLa細胞を約50%コンフルエントとなるように35 mmディッシュに撒種した後、24時間培養した。その後、合成した各種RNAをLipofectamine RNAiMAX(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用い、この取扱い説明書に従って導入した。
【0085】
(5)RNAの解析
RNAトランスフェクション後のHeLa細胞からのtotal RNAの単離は、グアニジンチオシアン酸塩、酸性フェノール、クロロホルムを用いた方法であるAGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法により行った。調製したtotal RNAは、アガロースMOPSバッファーゲル(20mM MOPS(pH 7.0),5mM酢酸ナトリウム,1mM EDTA,2.0%Agarose,2.46Mホルムアルデヒド)により分離した後、20xSSCバッファー中でナイロン膜Biodyne-B (日本ポール株式会社)に転写した。転写後のナイロン膜は、UVで固定したのち、DIG標識プローブを用いハイブリダイズした。DIG標識プローブの作製およびハイブリダイゼーションは、DIG RNA Labeling Mix (ロシュ ダイアグノスティックス株式会社)およびDIG Wash and Block Buffer Set (ロシュ ダイアグノスティックス株式会社)を用い取扱い説明書に従い行った。mRNAの検出は、化学発光試薬CDP-Star (ロシュ ダイアグノスティックス株式会社)を用い、LAS3000mini(富士写真フィルム株式会社)により検出した。
【0086】
(6)タンパク質の解析
タンパク質の細胞内発現は、以下に示すウエスタンブロット法により行った。導入後の細胞からのタンパク質ライセートの調整は、SDS-PAGEサンプルバッファー(50 mM Tris-HCl(pH6.8),4%グリセロール、2%SDS、2%2-メルカプトエタノール、0.004%ブロモフェノールブルー)を用いて行った。タンパク質ライセートは、8、10、12、もしくは15%のアクリルアミドを用いたSDS-PAGE法により分離した後、ニトロセルロース膜BioTrace NC (日本ポール株式会社)に電気的に転写した。転写後のニトロセルロース膜は、抗Flag M2マウスモノクローナル抗体(シグマアルドリッチジャパン合同会社)、抗GAPDH抗体(Saito et al JBC)、抗PABPC1抗体(Osawa et al RNA(2012))、および、ペルオキシダーゼ付加抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)もしくはペルオキシダーゼ付加抗ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)とインキュベートした。ニトロセルロース膜上のペルオキシダーゼ酵素活性は、ルミノール化学発光法を用い、LAS3000mini(富士写真フィルム株式会社)により検出した。
【0087】
(7)AAVS領域ゲノム編集効率の定量
ゲノム編集効率の定量は、以下に示すT7エンドヌクレアーゼアッセイ法により行った。AAVS領域を認識するsgRNA(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)と合成した各種hCas9 mRNAをHeLa細胞に導入した。導入した細胞を、50mM NaOHで処理することにより、ゲノムDNAを調整した。調整したゲノムDNAと、配列番号92と配列番号93に示すオリゴヌクレオチドを用いたPCR法によりAAVSゲノム配列を増幅した。増幅したゲノム配列を熱変性ののちアニーリングさせることによりミスマッチを含む配列とした。アニーリングしたAAVSゲノム配列は、T7エンドヌクレアーゼI(ニュー イングランド バイオラボ株式会社)により処理した。処理後のAAVSゲノム配列は、アガロースゲル電気泳動により分離した後、エチジウムブロマイドで染色し、Typhoon9400(GEヘルスケア株式会社)により検出した。
【0088】
3.実験結果
(i)実験1
図1は、作製した人工合成mRNAを示す図である。
図1に示す人工合成mRNAは、上から順に、GAPDHの5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、LDHBの5´UTR配列及びLDHBの3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、ACAT2の5´UTR配列及びACAT2の3´UTR配列を有する人工合成mRNAを示す。この実験に用いた人工合成mRNAの5´末端には、キャップ構造が付加されているとともに、3´末端にはポリA鎖が72塩基付加されている。また、この実験に用いた人工合成mRNAのタンパク質コード領域であるORFには、5xFlagタグを付加したEGFP(enhanced green fluorescent protein)を有する。
【0089】
図2は、人工合成mRNAからのタンパク質発現量を測定した結果を示す図である。タンパク質発現量は、
図1に示す人工合成mRNAをHeLa細胞に導入することにより測定した。
図2は、人工合成mRNAごとの発現量を示す。
【0090】
図2では、ACAT2のUTR配列を有する人工合成mRNAの発現量を1とした場合の発現量の相対値を示す。
図2において、参考として、β-グロビンの3´UTRを有する人工合成mRNAの結果についても示す。
【0091】
図2の結果から、GAPDHのUTR配列を有する人工合成mRNAは、ACAT2のUTR配列を有する人工合成mRNAと比較して、約10倍の発現量を示すことが分かった。また、発現効率が高い人工合成mRNAとして標準的に用いられるβ-グロビンの3´UTR配列を有する人工合成mRNAと比較して、GAPDHのUTR配列を有する人工合成mRNAは、約5倍の発現量を示すことが分かった。
【0092】
図3は、
図1に示す人工合成mRNAの安定性を示す図である。
図3の横軸は、細胞に人工合成mRNAを導入してからの経過時間を示し、
図3の縦軸は、細胞に人工合成mRNAを導入したときのmRNAの量を100%とした場合のmRNAの量を示す。
【0093】
図3の結果から、いずれの人工合成mRNAもHeLa細胞内において同様の分解速度を示すことが分かった。
図2と
図3に示す結果から、GAPDHの5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列が奏する効果は、安定性が向上するという効果ではなく、翻訳効率が向上する効果であることが分かった。
【0094】
(ii)実験2
図4は、作製した人工合成mRNAを示す図である。
図4に示す人工合成mRNAは、上から順に、ACAT2の5´UTR配列及びACAT2の3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、ACAT2の5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、GAPDHの5´UTR配列及びACAT2の3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、GAPDHの5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列を有する人工合成mRNAを示す。この実験に用いた人工合成mRNAの5´末端には、キャップ構造が付加されているとともに、3´末端にはポリA鎖が72塩基付加されている。また、この実験に用いた人工合成mRNAのタンパク質コード領域であるORFは、5xFlagタグを付加したEGFPを有する。
【0095】
図5は、人工合成mRNAごとの発現量を示す図である。タンパク質発現量は、
図4に示す人工合成mRNAをHeLa細胞に導入することにより測定した。
図5では、ACAT2の5´UTR配列及びACAT2の3´UTR配列を有する人工合成mRNAの発現量を1とした場合の発現量の相対値を示す。
【0096】
図5の結果から、ACAT2の5´UTR配列及びACAT2の3´UTR配列を有する人工合成mRNAと比較して、GAPDHの5´UTR配列及びACAT2の3´UTR配列を有する人工合成mRNAは、約10倍の発現量を示すことが分かった。さらに、ACAT2の5´UTR配列及びACAT2の3´UTR配列を有する人工合成mRNAと比較して、GAPDHの5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列を有する人工合成mRNAは、約25倍の発現量を示すことが分かった。つまり、GAPDHの5´UTR配列を有することにより翻訳効率の向上効果を得られるが、さらに、GAPDHの3´UTR配列を有することにより相乗的な翻訳効率の向上効果が得られることが分かった。
【0097】
図6は、人工合成mRNAを腎臓由来のHEK293細胞に導入した場合の人工合成mRNAごとの発現量を示す図である。
図5に関する実験と比較して、導入する細胞を変更した以外は、同様の方法にて実験を行った。
図6の結果からも、
図5の結果から分かったことと同様の傾向が見られた。つまり、GAPDHの5´UTR配列を有することにより翻訳効率の向上効果を得られるが、さらに、GAPDHの3´UTR配列を有することにより相乗的な翻訳効率の向上効果が得られることが分かった。
図5と
図6に関する実験結果から、GAPDHのUTR配列を有することによって得られる翻訳効率の向上効果は、いずれの細胞においても有効であり、細胞特異性がないことが分かった。
【0098】
(iii)実験3
図7は、作製した人工合成mRNAを示す図である。
図7に示す人工合成mRNAは、上から順に、UTR配列を有さない人工合成mRNAと、5´UTR配列を有するが3´UTR配列を有さない人工合成mRNAと、5´UTR配列を有さないが3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、5´UTR配列及び3´UTR配列を有する人工合成mRNAを示す。この実験に用いた人工合成mRNAの5´末端には、キャップ構造が付加されているとともに、3´末端にはポリA鎖が72塩基付加されている。また、この実験に用いた人工合成mRNAのタンパク質コード領域であるORFは、5xFlagタグを付加したEGFPを有する。
【0099】
図8は、GAPDHのUTR配列の有無に起因する発現量の違いを示す図である。
図9は、LDHBのUTR配列の有無に起因する発現量の違いを示す図である。
図10は、ACAT2のUTR配列の有無に起因する発現量の違いを示す図である。タンパク質発現量は、
図7に示す人工合成mRNAをHeLa細胞に導入することにより測定した。
図8,9,10では、UTR配列を有さない人工合成mRNAの発現量を1とした場合の発現量の相対値を示す。
【0100】
図8の結果から、GAPDHの5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列を有する人工合成mRNAの発現量は、5´UTR配列を有するが3´UTR配列を有さない人工合成mRNAの発現量と、5´UTR配列を有さないが3´UTR配列を有する人工合成mRNAの発現量との和よりも大きい。つまり、GAPDHの5´UTR配列とGAPDHの3´UTR配列とを有することにより、相乗的な翻訳効率の向上効果が得られることが分かった。
【0101】
一方、
図9の結果から、LDHBの5´UTR配列及びLDHBの3´UTR配列を有する人工合成mRNAの発現量は、5´UTR配列を有するが3´UTR配列を有さない人工合成mRNAの発現量と、5´UTR配列を有さないが3´UTR配列を有する人工合成mRNAの発現量との和と同等であった。つまり、LDHBの5´UTR配列とLDHBの3´UTR配列とを有することにより得られる効果は、相加的な効果にとどまった。
【0102】
また、
図10の結果から、ACAT2のUTR配列を有する人工合成mRNAの発現量は、UTR配列を有さない人工合成mRNAの発現量と比較して、翻訳効率が低下することが分かった。
図8から
図10の結果から、5´UTR配列と3´UTR配列とを有することにより得られる相乗的な翻訳効率の向上効果は、GAPDHに特徴的な効果であることが分かった。
【0103】
(iv)実験4
図11は、作製した人工合成mRNAを示す図である。
図11に示す人工合成mRNAは、上から順に、GAPDHの5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列を有する人工合成mRNA(以下、「野生型」とも呼ぶ)と、5´UTR配列を3分割した部分のうちの最も5´末端側の部分を欠失した人工合成mRNA(欠失変位体1)と、5´UTR配列を3分割した部分のうちの中央の部分を欠失した人工合成mRNA(欠失変位体2)と、5´UTR配列を3分割した部分のうちの最も3´末端側の部分を欠失した人工合成mRNA(欠失変位体3)を示す。この実験に用いた人工合成mRNAの5´末端には、キャップ構造が付加されているとともに、3´末端にはポリA鎖が72塩基付加されている。また、この実験に用いた人工合成mRNAのタンパク質コード領域であるORFは、EGFPを有する。
【0104】
図12は、GAPDHの5´UTR配列の欠失の有無に起因する発現量の違いを示す図である。タンパク質発現量は、
図11に示す人工合成mRNAをHeLa細胞に導入することにより測定した。
図12では、野生型の発現量を100とした場合の発現量の相対値を示す。
【0105】
図13は、作製した人工合成mRNAを示す図である。
図13に示す人工合成mRNAは、上から順に、GAPDHの5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列を有する人工合成mRNA(野生型)と、3´UTR配列を3分割した部分のうちの最も5´末端側の部分を欠失した人工合成mRNA(欠失変位体4)と、3´UTR配列を3分割した部分のうちの中央の部分を欠失した人工合成mRNA(欠失変位体5)と、3´UTR配列を3分割した部分のうちの最も3´末端側の部分を欠失した人工合成mRNA(欠失変位体6)を示す。この実験に用いた人工合成mRNAの5´末端には、キャップ構造が付加されているとともに、3´末端にはポリA鎖が72塩基付加されている。また、この実験に用いた人工合成mRNAのタンパク質コード領域であるORFは、EGFPを有する。
【0106】
図14は、GAPDHの3´UTR配列の欠失の有無に起因する発現量の違いを示す図である。タンパク質発現量は、
図13に示す人工合成mRNAをHeLa細胞に導入することにより測定した。
図14において、野生型の発現量を100とした場合の発現量の相対値を示す。
【0107】
図12,14の結果から、いずれの欠失変異体についても、野生型と比較して発現効率が低下したことが分かった。このことから、GAPDHの5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列は、ともに全領域が存在することが翻訳効率の向上効果に寄与していることが分かった。
【0108】
(v)実験5
図15は、作製した人工合成mRNAを示す図である。一般に、GAPDHの5´UTR配列は、GAPDHの3´UTR配列と全領域にわたり相補性を有している。この実験では、互いの相補性が特に高い領域である5´UTR配列の一部と3´UTR配列の一部とを有する人工合成mRNAを用いた。具体的には、5´UTR配列として、GAPDHの5´UTR配列を3分割した部分のうちの最も5´末端側の部分であるCUがリッチな領域(28ヌクレオチド)(以下、「5´UTR 28nt」とも呼ぶ)を用いた。GAPDHの3´UTR配列として、GAPDHの3´UTR配列を3分割した部分のうちの最も5´末端側の部分であるAGがリッチな領域(28ヌクレオチド)(以下、「3´UTR 28nt」とも呼ぶ)を用いた。
【0109】
図16は、5´UTR 28ntと3´UTR 28ntの有無に起因する発現量の違いを示す図である。タンパク質発現量は、人工合成mRNAをHeLa細胞に導入することにより測定した。
図16において、野生型の発現量を1とした場合の発現量の相対値を示す。
【0110】
図16の結果から、5´UTR 28ntと3´UTR 28ntの少なくとも一方を有する人工合成mRNAは、野生型と比較して、翻訳効率が低下したことが分かった。この結果からも、GAPDHの5´UTR配列及びGAPDHの3´UTR配列は、ともに全領域が存在することが翻訳効率の向上効果に寄与していることが分かった。
【0111】
(vi)実験6
図17は、作製した人工合成mRNAを示す図である。この実験では、GAPDHの5´UTR配列を有し、GAPDHの5´UTR配列に対して所定の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAを用いた。具体的には、
図17に示す人工合成mRNAは、上から順に、GAPDHの5´UTR配列に対して94%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、GAPDHの5´UTR配列に対して88%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、GAPDHの5´UTR配列に対して75%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、GAPDHの5´UTR配列に対して50%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、GAPDHの5´UTR配列に対して25%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAを示す。この実験に用いた人工合成mRNAの5´末端には、キャップ構造が付加されているとともに、3´末端にはポリA鎖が72塩基付加されている。また、この実験に用いた人工合成mRNAのタンパク質コード領域であるORFは、EGFPを有する。
【0112】
図18は、相補性に起因する発現量の違いを示す図である。タンパク質発現量は、人工合成mRNAをHeLa細胞に導入することにより測定した。
図18において、野生型の発現量を1とした場合の発現量の相対値を示す。
【0113】
図18の結果から、GAPDHの5´UTR配列に対して50%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAと、GAPDHの5´UTR配列に対して75%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAとが、野生型の2.5倍以上高い翻訳効率を示すことが分かった。
【0114】
図19は、作製した人工合成mRNAを示す図である。この実験では、GAPDHの5´UTR配列を有し、GAPDHの5´UTR配列に対して100%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAを用いた。この実験に用いた人工合成mRNAの5´末端には、キャップ構造が付加されているとともに、3´末端にはポリA鎖が72塩基付加されている。また、この実験に用いた人工合成mRNAのタンパク質コード領域であるORFは、EGFPを有する。
【0115】
図20は、相補性に起因する発現量の違いを示す図である。タンパク質発現量は、人工合成mRNAをHeLa細胞に導入することにより測定した。
図20では、野生型の発現量を100とした場合の発現量の相対値を示す。
【0116】
図20の結果から、GAPDHの5´UTR配列に対して100%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAは、タンパク質の発現が見られなかった。この結果から、GAPDHの5´UTR配列に対して部分的な相補性を有する3´UTR配列を有することが重要であることが分かった。
【0117】
(vii)実験7
図21は、作製した人工合成mRNAを示す図である。この実験に用いた人工合成mRNAの5´末端には、キャップ構造が付加されているとともに、3´末端にはポリA鎖が72塩基付加されている。また、この実験は実用化を目的とし、タンパク質コード領域として癌抑制遺伝子p53のORFを用いた。ORFには、5xFlagタグを付加した。
【0118】
図22は、癌抑制遺伝子p53を用いた場合における発現量の違いを示す図である。タンパク質発現量は、人工合成mRNAをU2OS細胞に導入することにより測定した。
図22において、GAPDHの5´UTR配列に対して75%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAの発現量を100とした場合の発現量の相対値を示す。
【0119】
図22の結果から、発現効率が高い人工合成mRNAとして標準的に用いられるβ-グロビンの3´UTR配列を有する人工合成mRNAと比較して、野生型は約4倍高い翻訳効率を示すことが分かり、GAPDHの5´UTR配列に対して75%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAは約10倍高い翻訳効率を示すことが分かった。
【0120】
図23は、得られた効果の推定メカニズムを説明するための図である。本実施形態の人工合成mRNAは、GAPDHの5´非翻訳領域と、GAPDHの3´非翻訳領域と、を備える。もしくは、本実施形態の人工合成mRNAは、5´非翻訳領域と、5´非翻訳領域との相補性が40%以上80%以下である3´非翻訳領域と、を備える。換言すると、本実施形態の人工合成mRNAは、GAPDHの5´UTR配列に対して、3´UTR配列は、いずれも部分的な相補性を有する。このような部分的な相補性がmRNAの環状化を促進することにより、リボソームを効率的にリサイクルさせるため、翻訳効率が向上すると考えられる。
【0121】
(viii)実験8
図24は、ゲノム編集遺伝子hCas9を用いた場合における発現量の違いを示す図である。図の縦軸は、発現量(Expression (fold increase))を示す。この実験では、以下のmRNAを用いた。図は、5´UTR配列及び3´UTR配列を有さないときの発現量を1とした場合の発現量の相対値を示す。
・5´UTR配列及び3´UTR配列を有さないゲノム編集遺伝子hCas9(コントロール)
・GAPDHの5´UTR配列を有する人工合成mRNA
・GAPDHの5´UTR配列を有し、GAPDHの5´UTR配列に対して75%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・GAPDHの5´UTR配列を有し、GAPDHの5´UTR配列に対して50%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
【0122】
図24の結果から、5´UTR配列及び3´UTR配列を有さないゲノム編集遺伝子hCas9と比較して、GAPDHの5´UTR配列を有する人工合成mRNAは2倍以上の翻訳効率を示すことが分かり、GAPDHの5´UTR配列に対して75%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA及びGAPDHの5´UTR配列に対して50%の相補性の3´UTR配列を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAは5倍以上の翻訳効率を示すことが分かった。
【0123】
図25は、ゲノム編集遺伝子hCas9を用いた場合におけるゲノム編集量の違いを示す図である。図の縦軸は、ゲノム編集量(Genome editing (fold increase))を示す。この実験では、
図24と同じmRNAを用いた。図は、5´UTR配列及び3´UTR配列を有さないゲノム編集遺伝子hCas9のゲノム編集量を1とした場合のゲノム編集量の相対値を示す。
【0124】
図25の結果から、5´UTR配列及び3´UTR配列を有さないゲノム編集遺伝子hCas9と比較して、GAPDHの5´UTR配列を有する人工合成mRNAは2倍以上のゲノム編集量を示すことが分かり、GAPDHの5´UTR配列に対して75%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA及びGAPDHの5´UTR配列に対して50%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNAは3倍以上のゲノム編集量を示すことが分かった。
【0125】
(ix)実験9
図26は、β-globinの5´UTRを用いた場合における発現量の違いを示す図である。図の縦軸は、発現量(Expression (fold increase))を示す。この実験では、以下のmRNAを用いた。図は、5´UTR配列及び3´UTR配列を有さない人工合成mRNAの発現量を1とした場合の発現量の相対値を示す。
・β-globinの5´UTR配列を有し、β-globinの5´UTR配列に対して100%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・β-globinの5´UTR配列を有し、β-globinの5´UTR配列に対して92%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・β-globinの5´UTR配列を有し、β-globinの5´UTR配列に対して88%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・β-globinの5´UTR配列を有し、β-globinの5´UTR配列に対して74%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・β-globinの5´UTR配列を有し、β-globinの5´UTR配列に対して50%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・β-globinの5´UTR配列を有し、β-globinの5´UTR配列に対して24%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・β-globinの5´UTR配列を有し、3´UTR配列を有さない人工合成mRNA
・5´UTR配列及び3´UTR配列を有さない人工合成mRNA
・GAPDHの5´UTR配列を有し、GAPDHの3´UTR配列を有する人工合成mRNA
【0126】
図26の結果から、β-globinの5´UTR配列に対して74%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA及びβ-globinの5´UTR配列に対して50%の相補性の3´UTR配列を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAが優れた翻訳効率を示すことが分かった。
【0127】
(x)実験10
図27は、RPS8の5´UTRを用いた場合における発現量の違いを示す図である。図の縦軸は、発現量(Expression (fold increase))を示す。この実験では、以下のmRNAを用いた。図は、5´UTR配列及び3´UTR配列を有さない人工合成mRNAの発現量を1とした場合の発現量の相対値を示す。
・RPS8の5´UTR配列を有し、RPS8の5´UTR配列に対して100%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・RPS8の5´UTR配列を有し、RPS8の5´UTR配列に対して93%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・RPS8の5´UTR配列を有し、RPS8の5´UTR配列に対して86%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・RPS8の5´UTR配列を有し、RPS8の5´UTR配列に対して71%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・RPS8の5´UTR配列を有し、RPS8の5´UTR配列に対して50%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・RPS8の5´UTR配列を有し、RPS8の5´UTR配列に対して29%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・RPS8の5´UTR配列を有し、RPS8の5´UTR配列に対して14%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・RPS8の5´UTR配列を有し、3´UTR配列を有さない人工合成mRNA
・5´UTR配列及び3´UTR配列を有さない人工合成mRNA
・GAPDHの5´UTR配列を有し、GAPDHの3´UTR配列を有する人工合成mRNA
【0128】
図27の結果から、RPS8の5´UTR配列に対して71%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA及びRPS8の5´UTR配列に対して50%の相補性の3´UTR配列を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAが優れた翻訳効率を示すことが分かった。
【0129】
(x)実験10
図28は、LDHBの5´UTRを用いた場合における発現量の違いを示す図である。図の縦軸は、発現量(Expression (fold increase))を示す。この実験では、以下のmRNAを用いた。図は、LDHBの5´UTR配列を有し3´UTR配列を有さない人工合成mRNAの発現量を1とした場合の発現量の相対値を示す。
・LDHBの5´UTR配列を有し、LDHBの5´UTR配列に対して100%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・LDHBの5´UTR配列を有し、LDHBの5´UTR配列に対して93%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・LDHBの5´UTR配列を有し、LDHBの5´UTR配列に対して87%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・LDHBの5´UTR配列を有し、LDHBの5´UTR配列に対して75%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・LDHBの5´UTR配列を有し、LDHBの5´UTR配列に対して50%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・LDHBの5´UTR配列を有し、LDHBの5´UTR配列に対して25%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA
・LDHBの5´UTR配列を有し、3´UTR配列を有さない人工合成mRNA
【0130】
図28の結果から、LDHBの5´UTR配列に対して75%の相補性の3´UTR配列を有する人工合成mRNA及びLDHBの5´UTR配列に対して50%の相補性の3´UTR配列を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAが優れた翻訳効率を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によれば、標的細胞に導入した人工合成mRNAの翻訳効率が向上し、目的遺伝子の高発現が可能となる。本発明の用途として、例えば、mRNA医薬(各種ウイルス性疾患の治療、癌免疫療法等)、iPS細胞の作製、幹細胞又は前駆細胞の分化誘導が想定される。
【0132】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表】