(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】ドライアイ疾患の治療における羊水幹細胞のセレクトームの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/50 20150101AFI20241101BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20241101BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20241101BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241101BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241101BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241101BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
A61K35/50
A61K35/28
A61P27/04
A61P27/02
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022088361
(22)【出願日】2022-05-31
【審査請求日】2022-08-31
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522215953
【氏名又は名称】ユー-ニューロン・バイオメディカル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】U-Neuron Biomedical Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ファン,シャウ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】シエ,チェン-アン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ペイ-チェン
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0286378(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0100440(US,A1)
【文献】Huh, M. I. et al.,Effect of conditioned media collected from human amniotic fluid-derived stem cells (hAFSCs) on skin regeneration and photo-aging,Tissue Engineering and Regenerative Medicine,2014年,Vol.11, No.2,p.171-177,doi:10.1007/s13770-014-0412-1
【文献】Chen, M. et al.,A Pilot Study of the Short Term Effectiveness and Safety of Amniotic Fluid in Severe Dry Eye Disease,Medical Hypothesis, Discovery & Innovation Ophthalmology Journal,2019年,Vol.8, No.2,p.81-84
【文献】Costa, A. et al.,Comprehensive Profiling of Secretome Formulations from Fetal- and Perinatal Human Amniotic Fluid Stem Cells,International Journal of Molecular Sciences,2021年04月02日,Vol.22, No.7,3713,doi:10.3390/ijms22073713
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライアイ疾患の治療における使用のための医薬組成物であって、羊水幹細胞のセクレトームを含み、ここで、セクレトームは、以下の工程:羊水幹細胞を基礎培地で
48~72時間培養して培養培地を得ること;遠心分離後の培養培地の上清を回収すること;および上清をろ過してセクレトームを得ること;を含む方法によって調製される、医薬組成物であって、上清が、0.22μm~0.5μm未満の孔径を有するフィルターによってろ過される、医薬組成物。
【請求項2】
局所的に投与される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
眼用ゲル、点眼薬、洗眼液、アイローション、アイインサート、眼軟膏、またはアイスプレーの形態である、請求項2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
角膜上皮創傷治癒における使用のための医薬組成物であって、羊水幹細胞のセクレトームを含み、ここで、セクレトームは、以下の工程:羊水幹細胞を基礎培地で
48~72時間培養して培養培地を得ること;遠心分離後の培養培地の上清を回収すること;および上清をろ過してセクレトームを得ること;を含む方法によって調製される、医薬組成物であって、上清が、0.22μm~0.5μm未満の孔径を有するフィルターによってろ過される、医薬組成物。
【請求項5】
局所的に投与される、請求項4に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
眼用ゲル、点眼薬、洗眼液、アイローション、アイインサート、眼軟膏、またはアイスプレーの形態である、請求項5に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドライアイ疾患の治療および角膜創傷の治療における羊水幹細胞のセクレトームの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
羊水細胞は、胎児の染色体が異常かどうかを検出するためのルーチンの出生前診断として使用される。また、造血前駆細胞の特徴を持つ小さな有核細胞が妊娠12週以前の羊水中に確認できることがわかり、これらの細胞が卵黄嚢由来である可能性が示唆された。2004 年から2006年にかけて、羊水中の幹細胞の別のグループの存在の分離と同定に成功したといういくつかの報告があった。これらの羊水幹細胞は、間葉系幹細胞と神経幹細胞の両方の特定のバイオマーカーを発現することが証明されており、骨、軟骨、脂肪、および神経細胞に分化する能力がある。羊水幹細胞は、インビトロで安定して大量に増殖できることが確認されており、成体の骨髄や脂肪から得られる間葉系幹細胞よりも速く増殖し、胚性幹細胞のような腫瘍形成能はない。そのため、羊水幹細胞は臨床医学への応用の可能性を有する。
【0003】
ドライアイ疾患は、一般に乾性角結膜炎として知られている。毎年、何百万人もの人々が、特に、最近ではドライアイ疾患を引き起こす最も一般的な理由である電子製品の急速な発展により、この状態に苦しんでいる。ドライアイの症状は、しばしば時間がかかり、イライラし、しばしば効果がないか、効果が不安定な治療法である、まぶたの衛生、局所抗生物質、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、抗炎症化合物(シクロスポリン)、またはコルチコステロイドにより、伝統的に管理されてきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、これらの症状を効果的に緩和することができるドライアイ疾患の新たな治療薬の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概略
1つの態様では、本発明は、羊水幹細胞のセクレトームおよび薬学的に許容される担体を含む組成物を対象に投与することを含む、対象のドライアイ疾患を治療するための方法を提供する;ここで、セクレトームは、以下の工程:羊水幹細胞を基礎培地で24~72時間培養して(馴化)培地を得ること;遠心分離後の培養培地上清を回収すること;および上清をろ過してセクレトームを得ること;を含む方法によって調製される。
【0006】
1つの実施形態では、上清は、0.5μm未満の孔径を有するフィルターによってろ過される;好ましくは、孔径は、0.22μm未満である。
【0007】
本発明の特定の実施形態によれば、組成物は、好ましくはアイジェル、点眼薬、洗眼液、アイローション、アイインサート、眼軟膏、または眼スプレーの形態で、対象の眼に局所的に投与される医薬組成物である。
【0008】
もう1つの態様では、本発明は、本明細書に開示される羊水幹細胞のセクレトームの治療有効量とおよび薬学的に許容される担体を含む組成物を対象に投与することを含む、対象における角膜上皮創傷治癒のための方法を提供する。
【0009】
さらなる1つの態様では、本発明は、ドライアイ疾患の治療に使用するための医薬組成物を提供する。医薬組成物は、羊水幹細胞のセクレトームを含み、ここで、セクレトームは、以下の工程:羊水幹細胞を基礎培地で24~72時間培養して(馴化)培地を得ること;遠心分離後の培養培地上清を回収すること;および上清をろ過してセクレトームを得ること;を含む方法によって調製される。医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。
【0010】
角膜上皮創傷治癒または角膜上皮創傷の治療における使用のための医薬組成物も本明細書に提供される。医薬組成物は、羊水幹細胞のセクレトームを含み、ここで、セクレトームは、以下の工程:羊水幹細胞を基礎培地で24~72時間培養して(馴化)培地を得ること;遠心分離後の培養培地上清を回収すること;および上清をろ過してセクレトームを得ること;を含む方法によって調製される。医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。
【0011】
さらなる1つの態様では、本発明は、ドライアイ疾患を治療するための医薬を製造するための前記セクレトームの使用を提供する。
【0012】
さらなる1つの態様では、本発明は、角膜上皮創傷治癒のための医薬を製造するための前記セクレトームの使用を提供する。
【0013】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。しかしながら、以下の例は単に説明を目的とするものであり、実際に開示を限定するものと解釈されるべきではないことを理解すべきである。
【0014】
前述の概要、および以下の本発明の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むとよりよく理解されるであろう。本発明を説明する目的で、現在、好ましい実施形態を図面に示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1の実験の概略タイムラインを示す。
【
図2】
図2は、実施例1の各マウスから、
図1による0日目、4日目、および7日目に採取した涙液量のプロファイルを示す(*p<0.05、損傷グループと比較)。
【
図3】
図3は、実施例1の各マウスの眼において、
図1による0日目、4日目、および7日目に測定した涙液層破壊時間(TBUT)のプロファイルを示す(*p<0.05、損傷グループと比較)。
【
図4】
図4は、眼にUVB損傷を受けた実施例1のマウスの角膜表面フォトグラフィーであり、(A)角膜混濁度の評価、(B)角膜平滑度、(C)角膜トポグラフィー、および(D)リサミングリーン染色検査を含む;ここで、評価の高得点は、損傷がより重傷であることを表す(*p<0.05、損傷グループと比較)。
【
図5】
図5は、実施例2における、24、48、および72時間での、異なる濃度のAFSC(羊水幹細胞)のセクレトームの処置とヒト角膜上皮細胞の生細胞数との相関を示すMTTアッセイの結果を示す(*p<0.05、濃度0と比較)。
【
図6】
図6は、6、12、24、および 48時間での、AFSCのセクレトームの処置におけるヒト角膜上皮細胞の移動効率を示す創傷治癒アッセイの結果を示す(*p<0.05、**p<0.001、濃度0と比較)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の説明
以下の実施形態は、添付の図面と併せて読むことにより、本開示の上記およびその他の技術的内容、特徴および効果を明確に示すためのものである。実施形態による説明を通じて、当業者は、本開示が上記の態様を達成するために採用する技術的アプローチおよび効果を明確に理解するであろう。
【0017】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が関係する当業者によって一般的に理解されるものと同じ定義を有する。
【0018】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に別の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。本願では、「または」または「および」の使用は、特に明記しない限り「および/または」を意味する。さらに、「含む(including)」という用語の使用、および「含む(include)」、「含む(includes)」、「含まれる(included)」などの他の形態の使用は、限定的なものではない。本書で使用されるセクションの見出しは、構成上の目的のみを目的としており、説明されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。特に明記しない限り、ここで使用されているすべての材料は市販されており、簡単に入手することができる。
【0019】
本明細書で使用される場合、本明細書で使用される「約」などの用語は、1つの実施形態で特定された量に対する±15%または±10%の偏差;好ましい実施形態で特定された量に対する±5%の偏差;さらに好ましい実施形態で特定された量に対する±1%の偏差;または最も好ましい実施形態で特定された量に対する±0.1%の偏差を含む投与量などの測定された量を意味するが、量が関係する物質の性質は影響を受けない
【0020】
本明細書で使用される場合、本明細書で使用される「疾患」という用語は、医学的介入を必要とするか、または医学的介入が望ましい任意の状態、感染症、障害、または症候群を意味する。このような医療介入には、治療、診断、および/または予防が含まれる。
【0021】
「ドライアイ疾患(DED)」、「ドライアイ症候群(DES)」、「乾性角結膜炎(KCS)」、または単に「ドライアイ」という用語は、涙液産生の減少または涙液層蒸発の増加によって引き起こされる眼疾患を示すために互換的に使用される。ドライアイ疾患は、シェーグレン症候群、閉経または関節リウマチなど、ドライアイを引き起こす別の基礎疾患の結果である可能性がある。ドライアイはまた、炎症の合併症の1つでありうる。ドライアイは、感染症、または薬の副作用、または毒素、化学物質、もしくはドライアイの症状または状態を引き起こす可能性があるその他の物質への曝露の結果である可能性がある。ドライアイ疾患は、乾燥、異物感、灼熱感、かゆみ、刺激、発赤、眼痛、かすみ目および/または視力低下を含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られているような1つまたは複数の眼科的臨床症状によって現れる場合がある。
【0022】
本明細書で使用される場合、「馴化培地」としても知られる「セクレトーム」という用語は、細胞が培養されたときに細胞から細胞の環境へ(培養培地へ)分泌されるタンパク質の全体(または集合)を意味する。
【0023】
本明細書において「幹細胞」とは、組織を構成する個々の細胞に分化する前の未分化細胞の総称であり、幹細胞は特定の分化刺激により特定の細胞に分化する能力を有する。本開示によれば、本開示のセクレトームの調製に使用される細胞は羊水幹細胞である。
【0024】
本明細書で使用される「組成物」という用語は、複数の有効成分の混合または組み合わせから生じる生成物を意味し、有効成分の固定および非固定の両方の組み合わせを含む。「固定された組み合わせ」という用語は、有効成分と特定の助剤の両方が、単一の実体または投薬量の形で同時に患者に投与されることを意味する。「固定されていない組み合わせ」という用語は、有効成分と特定の助剤が別々の存在として患者に同時に(simultaneously)、同時に(concurrently)、または特定の介在時間制限なしで連続的に投与されることを意味し、そのような投与は、患者の身体において2つの薬剤の有効レベルを提供する。後者は、3つ以上の有効成分の投与などのカクテル療法にも適用される。
【0025】
本発明によれば、本明細書で使用される「医薬組成物」という用語は、治療有効量の羊水幹細胞のセクレトームまたは馴化培地、および任意に薬学的に許容される担体を意味する。
【0026】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、合理的な医学的判断の範囲内で、薬物が過度の毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題や合併症を伴わずに、および合理的な利益/リスク比で、薬物を摂取する対象(ヒトなど)の組織と接触して使用するのに適している状況を意味する。「許容される」ためには、各担体が他の成分と適合する必要がある。
【0027】
本明細書で使用される「担体」という用語は、細胞または組織が有効成分を吸収するのを補助する機能を有する非毒性の化合物または作用物質を意味する。担体は、たとえば、賦形剤、補助剤、希釈剤、増量剤(filler)、または増量剤(bulking agent)、造粒剤、コーティング剤、放出制御剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、保存剤、界面活性剤、酸化防止剤、緩衝剤、懸濁剤、増粘剤、安定剤、または医薬組成物に使用される他の担体から選択される。担体の例としては、ポリビニルアルコール、ポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポロキサマー、ヒドロキシエチルセルロースシクロデキストリン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、水、乳化剤(油水乳化剤など)、または湿潤剤が挙げられるが、これらに限定されない。張度調整剤は、必要に応じて、または便利に追加されうる。それらには、塩、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールおよびグリセリン、または他の適切な眼科的に許容される張度調整剤が含まれるが、これらに限定されない。得られる製剤が眼科的に許容される限り、pHを調整するためのさまざまな緩衝剤および手段を使用することができる。したがって、緩衝液には、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液およびホウ酸緩衝液が含まれる。必要に応じて、これらの製剤のpHを調整するために酸または塩基を使用することができる。同様に、本開示で使用するための眼科的に許容される酸化防止剤には、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アセチルシステイン、ブチル化ヒドロキシアニソールおよびブチル化ヒドロキシトルエンが含まれるが、これらに限定されない。眼科用製剤に含まれる可能性のある他の賦形剤成分は、キレート剤と抗生物質である。好ましいキレート剤は、エデト酸二ナトリウムであるが、他のキレート剤を、代わりに、またはそれと組み合わせて使用することもできる。本開示において有用な抗生物質の非限定的な例としては、硫酸トリメトプリム/硫酸ポリミキシンB、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン塩酸塩、トブラマイシン、テイコプラニン、バンコマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、アモキシシリン、ペニシリン、アンピシリン、カルベニシリン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシンおよびストレプトマイシンが挙げられる。
【0028】
本明細書で使用される用語「有効量」または「治療有効量」は、治療される疾患または状態の症状の1つまたは複数をある程度緩和する、投与される薬剤または化合物の十分な量を意味する。その結果、病気の徴候、症状、または原因の軽減および/または軽減、あるいは生物学的システムのその他の望ましい変更が可能になる。たとえば、治療用途のための「有効量」は、本明細書に開示されるペプチドまたはタンパク質を含む組成物が疾患症状を臨床的に有意に減少させるのに必要な量である。個々のケースにおける適切な「有効」量は、用量漸増試験などの手法を使用して決定することができる。
【0029】
本明細書で使用される「治療する」、「治療すること」または「治療」という用語は、疾患または状態の少なくとも1つの症状を軽減、緩和または改善すること、追加の症状を予防すること、疾患または状態を抑制すること、たとえば、疾患または状態の発症を阻止すること、疾患または状態を緩和すること、
病気や状態の退行を引き起こすこと、病気や状態によって引き起こされた状態を緩和すること、または予防的および/または治療的に疾患または状態の症状を停止することを含む。
【0030】
本発明は、ドライアイ疾患または角膜上皮創傷を治療するための組成物であって、羊水幹細胞のセクレトームを含み、セクレトームが以下の工程:羊水幹細胞を基礎培地で24~72時間培養して馴化培地を得ること、遠心分離後の培養培地上清を回収すること、および上清をろ過してセクレトームを得ること、を含む方法によって調製される、医薬組成物を提供する
【0031】
1つの実施形態では、上清は、孔径0.5μm未満のフィルターでろ過される。好ましくは、フィルターの孔径は、0.45μm、0.3μm、または0.22μmである。
【0032】
1つの実施形態では、組成物は、医薬組成物であり、さらに薬学的に許容される担体を含むことができる。
【0033】
本発明によれば、ドライアイ疾患を治療するための方法は、羊水幹細胞のセクレトームを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0034】
本発明によれば、角膜上皮創傷治癒のための方法は、羊水幹細胞のセクレトームを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0035】
医薬組成物は、対象の眼に局所的に投与されうる。言い換えれば、医薬組成物は、局所投与用に製剤されうる。
【0036】
本発明の特定の実施形態によれば、医薬組成物は、眼用ゲル、点眼薬、洗眼液、アイローション、アイインサート、眼軟膏、またはアイスプレーなどの眼科用製剤の形態である。
【0037】
本発明はまた、ドライアイ疾患を治療するための医薬の製造における前記セクレトームの使用を提供する。
【0038】
本発明はまた、角膜上皮創傷治癒のための薬剤の製造における前記セクレトームの使用を提供する。
【0039】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは限定ではなく実証の目的で提供される。
【実施例】
【0040】
実施例1
処置用AFSCは、ワーキングセルバンク(WCB)などの適格な細胞バンクから細胞を解凍し、MSC NutriStem(登録商標)XF培地(無血清/ゼノフリー)で細胞を培養するステップを含む方法によって得られた。AFSCを基本培地(アルファ最小必須培地)中でさらに48時間インキュベートして、AFSCの馴化培地を回収した。
【0041】
次いで、細胞培養から回収した馴化培地を2,000rpmの速度で約10分間遠心分離し、0.22μmフィルターでろ過して細胞残渣を除去した後、AFSCのセクレトームを得、さらに先の使用のために-20℃の冷蔵庫に保管した。
【0042】
実施例2
本実施例では、UVB照射によりドライアイの動物モデルを誘導し、実験結果に基づいてドライアイの治療における羊水幹細胞のセクレトームの有効性を評価した。
【0043】
材料および方法
メスのICRアルビノマウス(BioLASCO)を、本実施例の動物モデルとして使用した。実験は、マウスが生後5~6週のときに開始した。ICRマウスを6つのグループに分け、各グループは6匹のマウス(n=6)を含む:
1. 健康対照(ブランク):点眼液によって0.9%生理食塩水で処置;
2. 陽性対照(損傷):点眼液によって0.9%生理食塩水で処置し、UVBで処置して損傷を引き起こす;
3. 羊水幹細胞のセクレトーム1/5(1/5D):損傷を引き起こすためにUVBで処置し、さらに羊水幹細胞(AFSC)のセクレトームの1/5希釈液で処置する;
4. 羊水幹細胞のセクレトーム1/5(1/5D):損傷を引き起こすためにUVBで処置し、さらに羊水幹細胞(AFSC)のセクレトームの1/5希釈液で点眼液によって処置する;
5. 羊水幹細胞のセクレトーム1/10(1/10D):損傷を引き起こすためにUVBで処置し、さらに羊水幹細胞(AFSC)のセクレトームの1/10希釈液で点眼液によって処置する;
6. 羊水幹細胞のセクレトーム1/20(1/20D):損傷を引き起こすためにUVBで処置し、さらに羊水幹細胞(AFSC)のセクレトームの1/20希釈液で点眼液によって処置する;
7. 人工涙液対照(AFT):点眼液によって0.9%人工涙液(ALLERGAN)で処置し、UVBで処置して、損傷を引き起こす。
【0044】
ドライアイの誘発開始の3日前から、定められたプロトコールに従って、1日2回、10:00と17:00にすべてのマウスに点眼液を投与した。UVB照射は、1日目から7日目まで連続して行い、ここで、UVBの強度は、0.72J/cm2であった。
【0045】
実験の概略タイムラインを
図1に示す。涙液量の変化を測定するために、0、4、および7日目に涙を採取した;0、4、7日目に各マウスの涙液層破壊時間(TBUT)も測定した。
【0046】
マウスを8日目に犠牲にし、さらに組織病理学的分析を行った。
【0047】
結果
各マウスから採取した涙液量を測定し、結果を
図2に示した。
図2に示すように、AFSCのセクレトームで処置されたグループ、特に1/10D処置グループで7日目に涙液分泌の効果が改善された。4日目と7日目において、AFSCのセクレトーム(1/5D、1/10D、および 1/20D)で処置されたグループの改善は、陽性対照(損傷)と比較して統計的に有意であった(p<0.05)。対照的に、人工涙液(AFT) を投与したマウスは、7日目に有意な改善を示したが、AFSCのセクレトームで処置したグループと比較して、人工涙液は依然として涙液分泌の改善において、より低い効果を示した。
【0048】
各マウスの涙液層破壊時間(TBUT)を測定し、結果を
図3に示した。
図3に示すように、各グループのTBUTは、健康対照を除いて7日目まで徐々に減少した。しかしながら、4日目と7日目において、AFSCのセクレトーム(1/5D、1/10D、1/20D)で処置されたグループでは、TBUTが改善され、陽性対照と比較して統計学的に有意な結果を示した(p<0.05)。結果は、用量依存的効果を明確に示すものではなかったが、涙液層の安定性を維持する効果は、AFTグループと比較してAFSCのセクレトームで処置されたグループにおいて、より高かった。
【0049】
角膜表面フォトグラフィーには、角膜混濁度、角膜平滑度、角膜トポグラフィー、およびリサミングリーン染色検査の評価が含まれ、評価のスコアが高いほど、損傷の重症度が高いことを表す。フォトグラフィーの結果を
図4に示した。
【0050】
AFSCのセクレトームで処置されたすべてのグループにおいて角膜の損傷が軽減されたことが
図4に示される。具体的には、AFSCのセクレトームで処置されたグループの角膜混濁が低下し、これも統計的有意性を示す(p<0.05)。また、角膜平滑度、トポグラフィー、およびリサミングリーン染色検査も、AFSCのセクレトームの処置による改善を示す。
【0051】
さらに、ここでは比較対象としてAFTを使用し、改善も示すが、
図4に示すように、AFTの処置による改善は劣っており、したがって、結果は、AFSCのセクレトームがAFTの潜在的な代替物であることを示唆する。
【0052】
角膜、涙腺、マイボーム腺(瞼板腺としても知られる)を含む眼組織を、組織染色およびIHC 染色に付した。
【0053】
H&E染色は、細胞の形態を明らかにし、組織の完全性を示す。IHCの対象には、Cox-2、p63、PCNA、NFκ-B、p53、および4-HNEが含まれる。Cox-2とNFκ-Bは、免疫応答と炎症のモジュレーターである。P63とPCNAは、細胞増殖と再生のモジュレーターである。p53は、アポトーシス因子である。4-HNEは、酸化ストレスと相関がある。
【0054】
表1は、角膜組織中のCox-2、p63、およびPCNAのH&E染色とIHC染色の定量的結果を示す。(+マークは健康レベルを表す。)表1に示すように、AFSCのセクレトームの処置は、角膜組織におけるUVBの損傷後の炎症反応の緩和と細胞増殖の促進に効果的であり、p63とPCNAの発現が上昇するが、Cox-2の発現は低下する。グループのスコアを以下のように評価した:ブランク>1/10D>1/5D>1/20D>AFT>損傷。
【0055】
【0056】
表2は、涙腺組織中のCox-2、p53、およびNFκ-BのH&E染色とIHC染色の定量的結果を示す。表2に示すように、AFSCのセクレトームの処置は、涙腺組織におけるUVBの損傷後の炎症反応の緩和とアポトーシスの阻害に効果的であり、Cox-2、p53、およびNFκ-Bの発現が低下する。グループのスコアを以下のように評価した:ブランク>1/10D>1/5D>1/20D>AFT>損傷。
【0057】
【0058】
表3は、マイボーム腺組織中のCox-2、4-HNE、およびNFκ-BのH&E染色とIHC染色の定量的結果を示す。表3に示すように、AFSCのセクレトームの処置は、涙腺組織におけるUVBの損傷後の炎症反応の緩和と酸化ストレスの低下に効果的であり、Cox-2、4-HNE、およびNFκ-Bの発現が低下する。グループのスコアを以下のように評価した:ブランク>1/10D>1/5D>1/20D>AFT>損傷。
【0059】
【0060】
表1から表3を考慮すると、AFSCのセクレトームの処置は、UVBの損傷後に細胞組織の完全性を維持し、炎症を緩和し、アポトーシスから細胞をレスキューし、増殖を促進することができ、これは、AFSCのセクレトームが角膜などの眼組織を修復および回復する有能な薬剤であることを示唆する。
【0061】
実施例3
本実施例では、ヒト角膜上皮細胞をAFSCのセクレトームで処置し、その効果を観察した。
【0062】
材料および方法
AFSCの馴化培地を得る方法は、実施例1と同じであり、ここでは繰り返さない。
【0063】
ヒト角膜上皮細胞(HCEC)(Thermo Fisher)を、ケラチノサイト無血清培地 (SFM)(Thermo Fisher)中、37℃、5%CO2の条件下でインキュベートした。
【0064】
細胞の懸濁液を得るために、培地を廃棄し、細胞を3mlのDPBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水)で洗浄した。DPBSを捨てた後、1mlの0.05%トリプシンを加え、細胞を37℃で5~7分間放置した。
【0065】
細胞が丸められ、剥がれていることを顕微鏡で確認した後、トリプシンの反応を弱めるために細胞を2mlの培地に懸濁した。
【0066】
20μlの懸濁液を取り出し、同量のトリパンブルーを加えて懸濁液と混合した。その後、10μlの混合液を取り出し、サイトメーターで細胞数を計数した。
【0067】
角膜細胞に対するAFSCのセクレトームの効果を評価するために、MTTアッセイを行った。MTTアッセイは、細胞の代謝活性と生存率を評価するための比色アッセイである。NAD(P)H依存性細胞酸化還元酵素は、定義された条件下で、存在する生存細胞の数を反映することができる。これらの酵素は、テトラゾリウム色素 MTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイドを紫色の不溶性ホルマザンに還元することができる。
【0068】
HCECを、各ウェルに8,000個の細胞を含む96ウェルプレートに配置した。100μlの培養液を加え、細胞を24時間インキュベートした。その後、細胞を異なる濃度(1/2、1/8、および1/32希釈)のAFSCのセクレトーム溶液100μlで処置し、24、48、および72時間別々にインキュベーションを続けた。
【0069】
上記の時間に従ってインキュベーションを終了したとき、培地を200μlのMTT溶液と交換し、プレートを廃棄して3時間反応させた。さらに、MTT溶液をDMSOに置き換えて結晶を溶解した。細胞をELISAリーダーで分析し、570nm以下の吸光度を検出した。
【0070】
一方、創傷治癒アッセイを行った。1.6x105個の細胞を、各ウェルに1mlの培地を含む12ウェルプレートで24時間インキュベートした。インキュベーションが終了した時点で、200μlのピペットチップを使用して、ウェルの底に3本の線を引いた。次に、培地を捨て、細胞をDPBSで洗浄し、500μlの培地を添加した。プレートを100倍の顕微鏡下で観察および写真撮影し、細胞移動の開始状態(0時間)を記録した。
【0071】
続いて、異なる濃度(1/2、1/8、および1/32希釈)のAFSCセクレトーム溶液500μlを添加した。さらに、細胞移動開始から6、12、24、48時間後のプレートを観察し、撮影した。移動距離は、次の式に従って計算される:
距離=[(D0-Dn)/D0]x100%
[ここで、D0は、0時間での引っ掻き傷の幅、Dnは、6、12、24、48時間後の引っ掻き傷の幅である。]
【0072】
実験結果はすべて、平均値±SD(標準偏差)で示した。均質性検定の統計は、一元配置分散分析によって実施し、各時点での有意性をScheffeの事後法によって実施した。P<0.05は、統計的有意性を示す;p<0.001 は統計的有意性が高いことを示す。
【0073】
結果
ヒト角膜細胞に対するAFSCのセクレトームの効果を示すMTTアッセイの結果を
図5に示す。これは、異なる濃度のAFSCのセクレトームの処置と、24、48、および72時間での細胞生存率との相関関係を示す。
【0074】
図5に示すように、OD570の吸光度(細胞生存率)は、AFSCのセクレトームのレベルに応じて増加した。AFSCのセクレトームのレベルに応じて、生存率を向上させる効率も増加した。すべてのグループの中で、AFSCのセクレトームの1/2希釈で処置したグループが最も顕著な改善を示した。
【0075】
AFSCのセクレトームが角膜細胞の移動に及ぼす影響を示す創傷治癒アッセイの結果を
図6に示した。これは、6、12、24、および48時間でのAFSCのセクレトームの処置による移動の効率を示す。
【0076】
図6に示すように、AFSCのセクレトームなしで処置したグループ(ネガティブ コントロール)は、0時間から48時間までわずかしか移動せず、有意性はなかった。それに対して、AFSCのセクレトーム処理グループでは、24時間から48時間で移動が顕著であった。さらに、AFSCのセクレトームの1/2および1/8希釈で処置したグループは、48時間でほぼ100%の移動を示し、引っ掻き傷の幅がほぼ完全に回復したことを示し、AFSCのセクレトームの1/32希釈で処置したグループは、約80%の移動を示した。
【0077】
この実施例の結果を考えると、AFSCのセクレトームは、ヒト角膜細胞の生存および生存率を改善するだけでなく、ヒト角膜細胞の移動効率を高めることができた。したがって、AFSCのセクレトームは、ドライアイの治療薬として治療効果の可能性を示す。