IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -手術用鉗子 図1
  • -手術用鉗子 図2
  • -手術用鉗子 図3
  • -手術用鉗子 図4
  • -手術用鉗子 図5
  • -手術用鉗子 図6
  • -手術用鉗子 図7
  • -手術用鉗子 図8
  • -手術用鉗子 図9
  • -手術用鉗子 図10
  • -手術用鉗子 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】手術用鉗子
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/28 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
A61B17/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023115698
(22)【出願日】2023-07-14
(62)【分割の表示】P 2019015861の分割
【原出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2023126468
(43)【公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生田 幸士
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0360434(US,A1)
【文献】特開2001-299690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業部と、前記作業部を支持する支持部と、屈曲可能な屈曲部と、屈曲しない直線部と、操作部と、がこの順に連結されてなる手術用鉗子であって、
前記操作部は、前記作業部を操作する作業用操作部と、前記屈曲部の屈曲を操作する屈曲用操作部とを有し、
超弾性を有する金属材料により直径が0.5mm以下の棒状の単一の超弾性ワイヤとして形成され、一端が前記作業部に取り付けられており、他端が前記作業用操作部に取り付けられており、前記支持部と前記屈曲部と前記直線部の内側に軸方向に移動自在となるように配置された作業用ワイヤと、
超弾性を有する金属材料により直径が0.5mm以下の棒状の3つ以上の超弾性ワイヤとして形成され、各一端が前記支持部に取り付けられており、各他端が前記屈曲用操作部に取り付けられており、前記屈曲部と前記直線部の内側に軸方向に移動自在となるように、正多角形の各頂点となるように配置した前記正多角形の頂点の数のワイヤにより構成された屈曲用ワイヤと、
を備え、
前記作業用操作部は、同一円周上の複数の貫通孔によって前記屈曲用ワイヤをガイドする操作台部材と、前記操作台部材に取り付け固定されたハンドルと、前記操作台部材からはみ出すように配置された引き金部と前記操作台部材に収納されてヒンジにより回転駆動可能に前記操作台部材に取り付けられたカム部と前記カム部において前記ヒンジから偏心した位置で前記作業用ワイヤの端部を取り付け固定する取付固定部とを有する操作部材と、を有し、
前記屈曲用操作部は、前記操作台部材にガイドされた前記屈曲用ワイヤの端部が同一円周上に取り付け固定されると共に前記屈曲用ワイヤの中央に配置されて一端が前記操作台部材に取り付け固定されたガイドワイヤの他端が取り付け固定された操作つまみと、前記操作台部材と前記操作つまみとの間に離間して配置されて同一円周上に等間隔となるように形成された複数の貫通孔によって前記屈曲用ワイヤをガイドすると共に前記複数の貫通孔の中央の貫通孔により前記ガイドワイヤに取り付け固定された複数のガイド部と、を有る、
手術用鉗子。
【請求項2】
請求項1記載の手術用鉗子であって、
前記屈曲用ワイヤは、前記直線部において、捩れることなく配置されている、
手術用鉗子。
【請求項3】
請求項1記載の手術用鉗子であって、
前記屈曲用ワイヤは、前記直線部の両端において、前記直線部の直線方向に対して垂直な断面におけるワイヤの配置が180度だけ位相が異なるように捩れている、
手術用鉗子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術用鉗子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、把持等の作業を行なう作業部と第1屈曲部と第2屈曲部とを有する医療用マニュピュレータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この医療用マニュピュレータでは、作業部近傍のガイドリングと操作部とを同心円上に等間隔に配置した複数の屈曲用ワイヤにより接続し、屈曲用ワイヤの1つまたは複数を引っ張ることにより、第1屈曲部を屈曲させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
手術用鉗子としては、把持などの作業を行なう作業部を作業が必要な部位まで到達させるために、作業部の近傍で2方向の任意方向に容易に屈曲できると共に、全体としてできる限り細いものであることが望まれている。一般的なワイヤは、引っ張り力に対しては所望の軸力を作用させることができるが、圧縮力に対しては座屈してしまい、所望の軸力を作用させることができない。このため、作業部の作業のために2本のワイヤが必要となり、屈曲を行なうために3本以上のワイヤが必要となる。
【0005】
本発明の手術用鉗子は、作業部の近傍で2方向の任意方向に容易に屈曲できると共に全体として細い手術用鉗子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の手術用鉗子は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の手術用鉗子は、
作業部と、前記作業部を支持する支持部と、屈曲可能な屈曲部と、屈曲しない直線部と、操作部と、がこの順に連結されてなる手術用鉗子であって、
前記操作部は、前記作業部を操作する作業用操作部と、前記屈曲部の屈曲を操作する屈曲用操作部とを有し、
超弾性を有する金属材料により直径が0.5mm以下の棒状の単一の超弾性ワイヤとして形成され、一端が前記作業部に取り付けられており、他端が前記作業用操作部に取り付けられており、前記固定部と前記屈曲部と前記直線部の内側に軸方向に移動自在となるように配置された作業用ワイヤと、
超弾性を有する金属材料により直径が0.5mm以下の棒状の3つ以上の超弾性ワイヤとして形成され、各一端が前記支持部に取り付けられており、各他端が前記屈曲用操作部に取り付けられており、前記屈曲部と前記直線部の内側に軸方向に移動自在となるように配置された屈曲用ワイヤと、
を備えることを特徴とする。
【0008】
この本発明の手術用鉗子では、作業部と、作業部を支持する支持部と、屈曲可能な屈曲部と、屈曲しない直線部と、作業部を操作する作業用操作部と屈曲部の屈曲を操作する屈曲用操作部とを有する操作部と、がこの順に連結されている。そして、一端が作業部に取
り付けられ、他端が作業用操作部に取り付けられ、固定部と屈曲部と直線部の内側に軸方向に移動自在となるように配置される作業用ワイヤを、超弾性を有する金属材料により直径が0.5mm以下の棒状の単一の超弾性ワイヤにより構成する。また、各一端が支持部に取り付けられ、各他端が屈曲用操作部に取り付けられ、屈曲部と直線部の内側に軸方向に移動自在となるように配置される屈曲用ワイヤを超弾性を有する金属材料により直径が0.5mm以下の棒状の3つ以上の超弾性ワイヤにより構成する。超弾性ワイヤは、棒状であるため、引っ張り力による軸力だけでなく、圧縮力による軸力も作用させることができるから、作業部における動作として引っ張り力による動作と圧縮力による動作を単一のワイヤにより行なうことができる。これにより、手術用鉗子に用いるワイヤ数を少なくすることができ、鉗子の太さを細くすることができる。また、超弾性ワイヤは、弾性変形の領域が大きいから、大きな屈曲とその戻りを可能とする。これにより、作業部の近傍の屈曲部で2方向の任意方向に容易に屈曲することができる。これらの結果、作業部の近傍で2方向の任意方向に容易に屈曲できると共に全体として細い手術用鉗子とすることができる。なお、超弾性ワイヤは、金属材料により直径が0.5mm以下の棒状に形成されていればよく、直径が0.3mm以下や0.2mm以下とする場合も好適である。
【0009】
ここで、超弾性を有する金属材料としては、例えば、チタン(Ti)とニッケル(Ni)との合金を挙げることができる。操作部として、作業用操作部を作業用部材として形成し、屈曲用操作部を屈曲用部材として形成し、作業用部材の一方向の動作と逆方向の動作とにより作業用ワイヤに引っ張り力と圧縮力を作用させて作業部を動作させ、屈曲用部材のワイヤの軸方向に対して直交する2方向への任意方向の傾きにより内側のワイヤに圧縮力を作用させると共に外側のワイヤに引っ張り力を作用させて屈曲部を屈曲させるものとしてもよい。また、操作部として、各ワイヤに引っ張り力や圧縮力を個別に作用させる電動アクチュエータにより構成するものとしてもよい。
【0010】
こうした本発明の手術用鉗子において、前記屈曲用ワイヤは、正多角形の各頂点となるように配置した前記正多角形の頂点の数のワイヤにより構成されているものとすることもできる。この場合、屈曲用操作部を単一の部材によって構成すれば、屈曲用操作部をワイヤの軸方向に対して直交する2方向への任意の方向に傾けることにより、内側のワイヤに圧縮力を作用させ、外側のワイヤに引っ張り力を作用させて、屈曲部を自在に屈曲させることができる。
【0011】
屈曲用ワイヤを正多角形の各頂点となるように配置する態様の本発明の手術用鉗子のにおいて、前記屈曲用ワイヤは、前記直線部において、捩れることなく配置されているものとしてもよい。こうすれば、屈曲用操作部を単一の部材によって構成した場合、屈曲用操作部を傾けた方向と逆方向に屈曲部を屈曲させることができる。また、前記屈曲用ワイヤは、前記直線部において、180度だけ捩れているものとしてもよい。こうすれば、屈曲用操作部を単一の部材によって構成した場合、屈曲用操作部を傾けた方向と同方向に屈曲部を屈曲させることができる。
【0012】
屈曲用ワイヤを正多角形の各頂点となるように配置する態様の本発明の手術用鉗子のにおいて、前記作業用ワイヤは、前記正多角形の中心となるように配置されているものとしてもよい。こうすれば、屈曲用ワイヤの空きスペースに作業用ワイヤを配置することができ、太さの細い鉗子とすることができる。
【0013】
本発明の手術用鉗子において、前記作業部は、固定部と、前記固定部にヒンジをもって回転自在に取り付けられた可動部と、を有し、前記作業用ワイヤは、前記可動部の前記ヒンジに対して偏心した位置に取り付け固定されているものとしてもよい。こうすれば、可動部の一方向の回転可動と逆方向の回転可動とを引っ張り力と圧縮力とによる軸力を作業用ワイヤに作用させることによって行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の手術用鉗子20の構成の概略を示す説明図である。
図2】作業部30と支持部40と屈曲部50とを模式的に拡大して示す拡大模式図である。
図3】ガイド部材62の図2におけるA-A断面の一例を示す断面図である。
図4】支持部40の図2におけるB-B断面の一例を示す断面図である。
図5】屈曲用ワイヤ94a,94cの断面で屈曲部50を屈曲させている状態を説明する説明図である。
図6】作業部30の可動部材34を動かしている状態を説明する説明図である。
図7】作業用操作部74の構造を模式的に示す説明図である。
図8】屈曲用ワイヤ94a,94cの断面で屈曲用操作部80を模式的に拡大して示す説明図である。
図9】ガイド部材84の断面の一例を示す説明図である。
図10】操作つまみ82を操作したときの屈曲用ワイヤ94a,94cの断面で操作台部材72と屈曲用操作部80とを模式的に拡大して示す説明図である。
図11】変形例の手術用鉗子120の構成の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。図1は、実施形態の手術用鉗子20の構成の概略を示す説明図である。実施形態の手術用鉗子20は、図中左側から、把持などの作業を行なう作業部30と、作業部30に取り付けられた支持部40と、図中上下方向および表裏方向の2方向への任意の方向に屈曲可能な屈曲部50と、直線部60と、操作部70と、を有する。
【0016】
図2は、作業部30から直線部60の一部までを模式的に拡大して示す拡大模式図である。図3は、ガイド部材62の図2におけるA-A断面の一例を示す断面図である。図4は、支持部材40の図2におけるB-B断面の一例を示す断面図である。
【0017】
直線部60は、複数のガイド部材62と、このガイド部材62を連結する中空のパイプ部材64とによりされている。ガイド部材62は、図3に示すように、同一円周上に等間隔に(正四角形の各頂点となるように)形成された4つの貫通孔63a~63dと、この4つの貫通孔63a~63dの中心に形成された1つの貫通孔63eと、が形成されている。4つの貫通孔63a~63dは、その内径が各屈曲用ワイヤ94a~94dの直径より若干大きくなるように形成されており、屈曲部50を屈曲させるための4つの屈曲用ワイヤ94a~94dが、貫通孔63a~63dに対して軸方向に移動可能にガイドされるように配置されている。また、中央の貫通孔63eは、その内径が作業用ワイヤ92の直径より若干大きくなるように形成されており、作業部30を駆動させるための作業用ワイヤ92が、貫通孔63eに対して軸方向に移動可能にガイドされるように配置されている。複数のガイド部材62は、4つの貫通孔63a~63dが整合するように配置されているから、4つの屈曲用ワイヤ94a~94dは捩れることなく屈曲部50と操作部70とを連絡する。作業用ワイヤ92と4つの屈曲用ワイヤ94a~94dは、いずれも超弾性を有する金属材料(例えば、チタン(Ti)とニッケル(Ni)の合金)により直径が0.2mm以下の棒状の単一の超弾性ワイヤとして形成されている。作業用ワイヤ92と4つの屈曲用ワイヤ94a~94dは、超弾性を有する金属材料により棒状に形成されているから、引っ張り力による軸力だけでなく、圧縮力による軸力も作用させることができる。作業用ワイヤ92と4つの屈曲用ワイヤ94a~94dは、超弾性を有するため、弾性変形の領域が大きく、大きな屈曲とその戻りが可能である。なお、ガイド部材62は、直径0.2mm以下の4つの屈曲用ワイヤ94a~94dと直径0.2mm以下の作業用ワイヤ92とを軸方向に移動可能な同心円上の4つの貫通孔63a~63dとその中央の貫
通孔63eを形成することができればよいから、直径2mm以下(実施例では直径1mm程度)の部材として形成することができる。したがって、中空のパイプ部材64も直径2mm以下(実施例では1mm程度)の部材として形成することができる。
【0018】
支持部40は、後述する作業部30の固定部材32と一体形成されており、図4に示すように、同一円周上に等間隔となるように(正四角形の各頂点となるように)形成された貫通しない4つの孔42a~42dと、この4つの孔42a~42dの中心に形成された貫通孔42eと、が形成されている。4つの孔42a~42dは、その内径が4つの屈曲用ワイヤ94a~94dの直径より若干小さく形成されており、4つの孔42a~42dに4つの屈曲用ワイヤ94a~94dの端部を圧入することにより、4つの屈曲用ワイヤ94a~94dを取り付け固定している。中央の貫通孔42eは、その内径が作業用ワイヤ92の直径より若干大きくなるように形成されており、作業用ワイヤ92が貫通孔42eに対して軸方向に移動可能にガイドされるように配置されている。支持部40は、ガイド部材62と同様に直径が2mm以下(実施例では1mm程度)に形成されている。
【0019】
作業部34は、支持部40と一体形成されて可動しない固定部材32と、ヒンジ35により固定部材32に対して回転自在に取り付けられた可動部材34と、を備える。可動部材34には、ヒンジ35から偏心した位置(図2中下方)に孔36が形成されており、この孔36に作業用ワイヤ92の端部を圧入することにより、作業用ワイヤ92を取り付け固定している。実施例の作業部34は、可動部材34が固定部材32に整合している状態で直径2mm以下のサイズに形成されている。
【0020】
図5は、屈曲用ワイヤ94a,94cの断面で屈曲部50を屈曲させている状態を説明する説明図である。図5中の右端の矢印は屈曲用ワイヤ94a,94cの移動方向を示す。なお、図2は、屈曲用ワイヤ94a,94cの断面で作業部30から直線部60の一部までを模式的に拡大して示したものとなる。図2の状態でガイド部材62側から屈曲用ワイヤ94aに引っ張り力を作用させると共に屈曲用ワイヤ94cに圧縮力を作用させると、屈曲用ワイヤ94aはガイド部材62にガイドされながら図中右側に移動し、屈曲用ワイヤ94cはガイド部材62にガイドされながら図中左側に移動することにより、屈曲部50は図5に示すように、屈曲用ワイヤ94a側に屈曲する。この状態(図5の状態)から、屈曲用ワイヤ94aに圧縮力を作用させると共に屈曲用ワイヤ94cに引っ張り力を作用させると、屈曲用ワイヤ94aはガイド部材62にガイドされながら図中左側に移動し、屈曲用ワイヤ94cはガイド部材62にガイドされながら図中右側に移動することにより、屈曲部50は図2の状態に戻り、更に屈曲用ワイヤ94aに圧縮力を作用させると共に屈曲用ワイヤ94cに引っ張り力を作用させると、屈曲部50は屈曲用ワイヤ94c側(図2中下側)に屈曲する。屈曲用ワイヤ94b,94dは、図3および図4に示すように、屈曲用ワイヤ94a,94cと90度だけ異なる位置に配置されているから、屈曲用ワイヤ94b,94dにガイド部材62側から引っ張り力を圧縮力を作用させれば、屈曲部50は、図2において表裏方向に屈曲する。したがって、屈曲用ワイヤ94a,94cによる屈曲と屈曲用ワイヤ94b,94dによる屈曲とを組み合わせることにより、屈曲部50を直線部60に直交する2方向への任意の方向に屈曲させることができる。また、屈曲部50の屈曲の程度は、屈曲用ワイヤ94a~94dの移動量に応じたものとなる。
【0021】
図6は、作業部30の可動部材34を動かしている状態を説明する説明図である。図5中左端の矢印は可動部材34の動きの方向を示し、右端の矢印は作業用ワイヤ92の移動を示す。図2の状態でガイド部材62側から作業用ワイヤ92に圧縮力を作用させると、作業用ワイヤ92は支持部40の貫通孔42eにガイドされながら図中左側に移動し、可動部材34の孔36を図中左側に押す。可動部材34はヒンジ35により回転自在に固定部材32に取り付けられているから、可動部材34はヒンジ35を回転軸としてその端部
(図中左端)が図中上方に移動するように回転駆動し、図6の状態となる。この状態(図6の状態)から、ガイド部材62側から作業用ワイヤ92に引っ張り力を作用させると、作業用ワイヤ92は支持部40の貫通孔42eにガイドされながら図中右側に移動し、可動部材34の孔36を図中右側に引き戻す。このため、可動部材34はヒンジ35を回転軸としてその端部(図中左端)が図中下方に移動するように回転駆動し、図2の状態に戻る。なお、可動部材34の回転角(駆動量)は、作業用ワイヤ92の移動量に応じたものとなる。
【0022】
操作部70は、操作台部材72と、作業部30を駆動するための作業用操作部74と、操作台部材72に取り付け固定されたハンドル76と、屈曲部50を屈曲させるための屈曲用操作部80と、を備える。
【0023】
図7は、作業用操作部74の構造を模式的に示す説明図である。作業用操作部74は、操作台部材72から下方にはみ出して操作する引き金部74aと、操作台部材72に収納されてヒンジ75aにより回転駆動可能に操作台部材72に取り付けられたカム部74bと、を有する。カム部74bのヒンジ75aから偏心した位置(図中上方)には、作業用ワイヤ92を取り付け固定する取付固定部75bが形成されており、作業用ワイヤ92の端部が取り付け固定されている。作業用操作部74は、引き金部74aを図中右側に動かすと、作業用操作部74はヒンジ75aを中心として時計反対方向に回転するから、作業用ワイヤ92は図中左側に押される。このため、作業用ワイヤ92は、ガイド部材62で図2及び図6中左側に移動し、図2の状態の作業部30を図6の状態とする。一方、引き金部74aを図中左側に動かすと、作業用操作部74はヒンジ75aを中心として時計方向に回転し、作業用ワイヤ92は図中右側に引っ張られる。このため、作業用ワイヤ92は、ガイド部材62で図2及び図6中右側に移動し、図6の状態の作業部30を図2の状態とする。
【0024】
図8は、屈曲用ワイヤ94a,94cの断面で操作台部材72と屈曲用操作部80とを模式的に拡大して示す説明図である。操作台部材72には、同心円周上に等間隔となるように(正四角形の各頂点となるように)4つの貫通孔72a~72dが形成されている。4つの貫通孔72a~72dは、その内径が屈曲用ワイヤ94a~94dの直径より若干大きくなるように形成されており、4つの屈曲用ワイヤ94a~94dが貫通孔72a~72dに対して軸方向に移動可能にガイドされるように配置されている。操作台部材72の屈曲用操作部80側に端部の4つの貫通孔72a~72dの中央には、貫通していない孔72が形成されている。孔72には、超弾性ワイヤにより形成されたガイドワイヤ86の端部が圧入されてガイドワイヤ86が取り付け固定されている。
【0025】
屈曲用操作部80は、複数のガイド部材84と、その端部に位置する操作つまみ82と、を備える。図9は、ガイド部材84の断面の一例を示す説明図である。ガイド部材84には、図9に示すように、同一円周上に等間隔となるように(正四角形の各頂点となるように)形成された4つの貫通孔84a~84dと、この4つの貫通孔84a~84dの中央に形成された1つの貫通孔84eと、が形成されている。4つの貫通孔84a~84dは、その内径が各屈曲用ワイヤ94a~94dの直径より若干大きくなるように形成されており、4つの屈曲用ワイヤ94a~94dが貫通孔84a~84dに対して軸方向に移動可能にガイドされるように配置されている。また、中央の貫通孔84eは、その内径がガイドワイヤ86の直径より若干小さくなるように形成されており、ガイドワイヤ86を貫通孔84eに圧入することによりガイドワイヤ86を取り付け固定している。操作つまみ82は、その端部(図8中左側の端部)に同心円上に貫通していない図示しない4つの孔と、この4つの孔の中央に1つの孔と、が形成されており、この5つの孔に4つの屈曲用ワイヤ94a~94とガイドワイヤ86の端部を圧入することにより取り付け固定されている。
【0026】
図10は、操作つまみ82を操作したときの屈曲用ワイヤ94a,94cの断面で操作台部材72と屈曲用操作部80とを模式的に拡大して示す説明図である。図8の状態から操作つまみ82を屈曲用ワイヤ94c側(図中下方)に操作して図10の状態とすると、ガイドワイヤ86が操作台部材72や複数のガイド部材84,操作つまみ82に取り付け固定されているため、その外周側となる屈曲用ワイヤ94aには引っ張り力が作用し、屈曲用ワイヤ94aは操作台部材72の貫通孔72aおよび複数のガイド部材84の貫通孔84aにガイドされて操作つまみ82側(図中右側)に移動する。一方、内周側となる屈曲用ワイヤ94cには圧縮力が作用し、屈曲用ワイヤ94cは操作台部材72の貫通孔72cおよび複数のガイド部材84の貫通孔84cにガイドされて直線部60側(図中左側)に移動する。このため、屈曲部50は、図2の状態から図5の状態となる。図10の状態から操作つまみ82を屈曲用ワイヤ94a側(図中上方)に操作すると、屈曲用ワイヤ94aには圧縮力が作用し、屈曲用ワイヤ94aは操作台部材72の貫通孔72aおよび複数のガイド部材84の貫通孔84aにガイドされて直線部60側(図中左側)に移動し、屈曲用ワイヤ94cには引っ張り力が作用し、屈曲用ワイヤ94cは操作台部材72の貫通孔72cおよび複数のガイド部材84の貫通孔84cにガイドされて操作つまみ82側(図中右側)に移動し、屈曲部50は図5の状態から図2の状態となり、更に操作つまみ82を屈曲用ワイヤ94a側(図中上方)に操作すると、屈曲部50は屈曲用ワイヤ94c側(図5とは反対側)に屈曲する。したがって、操作つまみ82を図8中上下に操作することにより、屈曲部50を操作つまみ82の操作方向と逆方向に屈曲させることができる。屈曲用ワイヤ94b,94dは、図9に示すように、屈曲用ワイヤ94a,94cと90度だけ異なる位置に配置されているから、操作つまみ82を図8中表裏方向に操作すれば、屈曲用ワイヤ94b,94dに引っ張り力と圧縮力とが作用し、操作台部材72の貫通孔72cおよび複数のガイド部材84の貫通孔84cにガイドされて図8中左右方向で反対方向に移動し、屈曲部50を操作つまみ82の操作方向とは逆方向に屈曲させる。したがって、操作つまみ82の図8中上下方向の操作による屈曲と操作つまみ82の図8中表裏方向の操作による屈曲とを組み合わせることにより、屈曲部50を直線部60に直交する2方向への任意の方向に屈曲させることができる。即ち、操作つまみ82の操作により屈曲部50を操作つまみ82の操作方向とは逆方向に屈曲させることができる。また、操作つまみ82の操作による屈曲用ワイヤ94a~94dの移動量は操作つまみ82の操作量で応じたものとなるから、屈曲部50の屈曲の程度を操作つまみ82の操作量によって調整することができる。
【0027】
以上説明した実施形態の手術用鉗子20では、作業用ワイヤ92および4つの屈曲用ワイヤ94a~94dとして、超弾性を有する金属材料により直径が0.2mm以下の棒状の超弾性ワイヤを用いることにより、作業部30の駆動に必要なワイヤを少なくすることができ、鉗子の太さを細くすることができる。また、作業用ワイヤ92と4つの屈曲用ワイヤ94a~94dとして、超弾性を有する金属材料により棒状に形成された超弾性ワイヤを用いることにより、引っ張り力による軸力だけでなく、圧縮力による軸力も作用させることができ、屈曲部50bの屈曲をスムーズに行なうことができる。これらの結果、屈曲部50を2方向の任意方向に容易に屈曲できると共に全体として細い手術用鉗子とすることができる。
【0028】
実施形態の手術用鉗子20では、操作つまみ82の操作により屈曲部50を操作つまみ82の操作方向とは逆方向に屈曲させるものとしたが、操作つまみ82の操作により屈曲部50を操作つまみ82の操作方向と同方向に屈曲させるものとしてもよい。この場合、直線部60で4つの屈曲用ワイヤ94a~94dを全体として180度ねじればよい。即ち、複数のガイド部材62のうち屈曲部50に連結されたガイド部材62より操作部70側に位置するガイド部材62のいずれかから操作部70側の全てのガイド部材62を、屈曲部50に連結されたガイド部材62に対して180度だけ位相を異ならせればよい。
【0029】
実施形態の手術用鉗子20では、4つの屈曲用ワイヤ94a~94dにより屈曲部50を屈曲させるものとしたが、3つの屈曲用ワイヤにより屈曲部50を屈曲させるものとしたり、5以上の屈曲用ワイヤにより屈曲部50を屈曲させるものとしりしてもよい。この場合、支持部40やガイド部材62,ガイド部材84では、3つの屈曲用ワイヤを用いる場合には同心円周上に等間隔に(正三角形の頂点となるように)3つの屈曲用ワイヤを配置すればよく、5以上の屈曲用ワイヤを用いる場合には同心円周上に等間隔に(正多角形の各頂点となるように)5以上の屈曲用ワイヤを配置すればよい。
【0030】
実施形態の手術用鉗子20では、作業用ワイヤ92と4つの屈曲用ワイヤ94a~94dを、いずれも超弾性を有する金属材料により直径が0.2mm以下の棒状の単一の超弾性ワイヤとして形成したが、その直径は、0.2mm以下に限定されるものではなく、0.3mmとしたり、0.5mmとしてもよい。即ち、直径が0.5mm以下でよく、0.3mm以下や0.2mm以下の場合には、更に好適である。
【0031】
実施形態の手術用鉗子20では、作業用操作部74とハンドル76と屈曲用操作部80とを備えるものとしたが、図11に例示する変形例の手術用鉗子120の操作部170のように、ハンドル176が屈曲用操作部を兼ねるものとしてもよい。即ち、操作台部材172の内部で操作つまみ82を除く屈曲用操作部80の構成を備え、4つの屈曲用ワイヤ94a~94dとガイドワイヤ86とを操作つまみ82への取り付けと同様にハンドル176に取り付け固定すればよい。これにより、ハンドル176の操作つまみ82と同様の操作により、屈曲部50をハンドル176の操作方向とは逆方向(直線部60でねじれば同方向)に操作量に応じただけ屈曲させることができる。
【0032】
実施形態の手術用鉗子20では、作業用操作部74とハンドル76と屈曲用操作部80とを備えるものとしたが、作業用ワイヤ92に引っ張り力や圧縮力を作用させる作業用電動アクチュエータと、4つの屈曲用ワイヤ94a~94dの各々に引っ張り力や圧縮力を作用させる屈曲用電動アクチュエータと、を備えるものとしてもよい。
【0033】
実施形態の手術用鉗子20では、直線部60と操作部70とを直結したが、直線部60と操作部70とを直結しないものとしてもよい。この場合、作業用ワイヤ92と4つの屈曲用ワイヤ94a~94dは、僅かなクリアランスをもって各々のワイヤが湾曲するが軸方向に伸縮しないガイドパイプ内に軸方向に移動可能にガイドされるものとすればよい。
【0034】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、手術用鉗子の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
20,120 手術用鉗子、30 作業部、32 固定部材、34 可動部材、35 ヒンジ、36 孔、40 支持部、42a~42d 孔、42e 貫通孔、50 屈曲部、60 直線部、62 ガイド部材、62a~62e 貫通孔、64 パイプ部材、70
操作部、72 操作台部材、72a~72d 貫通孔、72e 孔、74 作業用操作部、74a 引き金部、74b カム部、75a ヒンジ、75b 取付固定部、76,176 ハンドル、80 屈曲用操作部、82 操作つまみ、84 ガイド部材、84a~84e 貫通孔、86 ガイドワイヤ、92 作業用ワイヤ、94a~94d 屈曲用ワイヤ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11