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特許7580154共重合体、抗体-共重合体コンジュゲート作成キット、抗体-共重合体コンジュゲート、抗原の濃縮方法、及び、抗原の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】共重合体、抗体-共重合体コンジュゲート作成キット、抗体-共重合体コンジュゲート、抗原の濃縮方法、及び、抗原の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/14 20060101AFI20241101BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20241101BHJP
   C08F 220/54 20060101ALI20241101BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20241101BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
C08F8/14
C08F8/30
C08F220/54
G01N33/569 L
G01N33/53 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023514514
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2022009632
(87)【国際公開番号】W WO2022219967
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2021066984
(32)【優先日】2021-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荏原 充宏
(72)【発明者】
【氏名】トルバ アーメッドナビル アーメッドエルセイト
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0304420(US,A1)
【文献】国際公開第2016/068271(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/14
C08F 8/30
C08F 220/54
G01N 33/569
G01N 33/53
C07K 16/10
C07K 14/165
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される繰り返し単位である、単位1、及び、下記式2-1で表される繰り返し単位である、単位2を含む共重合体。
【化1】
(式1中、Xは水素原子、又は、炭素数が1~6個の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表す。)
【化2】
(式2-1中、は水素原子、又は、炭素数が1~6個の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、 22 は、2価の基を表し、波線以降に*の位置で結合される1価の基として、以下の式Cから選択される構造を有する。)
【化3】
【請求項2】
全繰り返し単位を100モル%としたとき、前記単位2の含有量が、1.0~30.0モル%である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記単位2が、下記式3で表される単位3、又は、下記式4で表される単位4である、請求項1又は2に記載の共重合体。
【化4】
(式3、及び、式4中、Xは水素原子、又は、炭素数1~6直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、式3中、Lは-O-、-S-、及び、-NR-からなる群より選択される1種の基であり、Rは、水素原子、又は、炭素数1~6個のアルキル基を表し、nは1~10の整数を表し、式4中、 23 は、2価の基を表す)
【請求項4】
更に、下記式5で表される繰り返し単位を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の共重合体。
【化5】
(式5中、Xは水素原子、又は、炭素数が1~6個の直鎖状又は分枝鎖上のアルキル基を表す)
【請求項5】
全繰り返し単位を100モル%としたとき、前記単位2の含有量が、5~30モル%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の共重合体。
【請求項6】
数平均分子量が、5000~50000である、請求項1~5のいずれか1項に記載の共重合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の共重合体と、下記式6で表されるリンカーとを有する、抗体-共重合体コンジュゲート作成キット。
【化6】
(式6中、Lは、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基を表す)
【請求項8】
下記式1で表される繰り返し単位である、単位1、及び、下記式7で表される繰り返し単位である、単位7を有する抗体-共重合体コンジュゲート。
【化7】
(式1中、Xは水素原子、又は、炭素数1~6の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、式7中、Xは水素原子、又は、炭素数1~6の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、 23 は、2価の基を表し、Lは、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基を表し、Abは抗体タンパク質の残基を表す)
【請求項9】
前記Abが、抗SARS-CoV-2抗体である、請求項8に記載の抗体-共重合体コンジュゲート。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の抗体-共重合体コンジュゲートと、前記抗体に対応する抗原とを含有する混合液Aを調製し、前記抗体-共重合体コンジュゲートと前記抗原との複合体を形成することと、
前記混合液Aを20~40℃に加熱して、前記複合体を沈殿させることと、を有する、抗原の濃縮方法。
【請求項11】
記式6で表されるリンカーと、抗体とを、前記抗体が有するアミノ基に由来するアミド結合を介して結合させ、抗体-リンカー複合体を調製することと、
前記抗体-リンカー複合体と、下記式1で表される繰り返し単位である単位1と、下記式2-1で表される繰り返し単位である、単位2と、を含む共重合体とを含有する混合液Bを調製することと、
前記混合液B中で、前記抗体-リンカー複合体が有するアジド基と、前記共重合体が有するアルキニレン基とを反応させることで結合させ、抗体-共重合体コンジュゲートを生成することと、
抗体-共重合体コンジュゲートと、前記抗体に対応する抗原とを含有する混合液Aを調製し、前記抗体-共重合体コンジュゲートと前記抗原との複合体を形成することと、
前記混合液Aを20℃以上に加熱して、前記複合体を沈殿させることと、を有する、抗原の濃縮方法。
【化8】
(式1中、Xは水素原子、又は、炭素数が1~6個の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表す。)
【化9】
式2-1中、Xは水素原子、又は、炭素数が1~6個の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、 22 は、2価の基を表し、波線以降に*の位置で結合される1価の基として、以下の式Cから選択される構造を有する。)
【化10】
【化11】
(式6中、Lは、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基を表す)
【請求項12】
前記抗体が、抗SARS-CoV-2抗体である、請求項10又は11に記載の抗原の濃縮方法。
【請求項13】
前記抗原が、SARS-CoV-2タンパクである、請求項12に記載の抗原の濃縮方法。
【請求項14】
前記混合液B中における前記抗体-リンカー複合体が含有する前記抗体の含有量に対する、前記共重合体の含有量のモル基準の比が、0.5~30である、請求項11に記載の抗原の濃縮方法。
【請求項15】
請求項10~14のいずれか1項に記載の抗原の濃縮方法によって抗原を濃縮することと、前記濃縮した抗原を検出することと、を含む、抗原の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体、抗体-共重合体コンジュゲート作成キット、抗体-共重合体コンジュゲート、抗原の濃縮方法、及び、抗原の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液の温度変化に応じて相転移が起こし、物性を変化させる「温度応答性高分子」が知られている。このような温度応答性高分子として、特許文献1には、「アジド基又はアルキン基を有するイソプロピルアクリルアミド誘導体」の重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-201634号公報
【発明の概要】
【発明の解決しようとする課題】
【0004】
COVID-19(SARS-CoV-2)の診断においては、検体中のウィルス、抗体、及び/又は、抗原(特に抗原)の量が少ないことに起因して、偽陽性率が高いことが問題となっており、検査ターゲットとなる対象物を簡便に濃縮し検査感度を向上させる方法が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、抗体を固定することによって、抗原の濃縮に利用できる共重合体を提供することを課題とする。また、本発明は、抗体-共重合体コンジュゲート作成キット、抗体-共重合体コンジュゲート、抗原の濃縮方法、及び、抗原の検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0007】
[1] 後述する単位1、及び、後述する単位2を含む共重合体。
[2] 全繰り返し単位を100モル%としたとき、上記単位2の含有量が、1.0~30.0モル%である、[1]に記載の共重合体。
[3] 上記単位2が、後述する式3で表される単位3、又は、後述する式4で表される単位4である、[1]又は[2]に記載の共重合体。
[4] 更に、後述する式5で表される繰り返し単位を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体。
[5] 全繰り返し単位を100モル%としたとき、上記単位2の含有量が、5~30モル%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の共重合体。
[6] 数平均分子量が、5000~50000である、[1]~[5]のいずれかに記載の共重合体。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の共重合体と、後述する式4で表されるリンカーとを有する、抗体-共重合体コンジュゲート作成キット。
[8] 後述する単位1、及び、後述する単位7を有する抗体-共重合体コンジュゲート。
[9] 上記抗体-共重合体コンジュゲートにおけるAbが、抗SARS-CoV-2抗体である、[8]に記載の抗体-共重合体コンジュゲート。
[10] [8]又は[9]に記載の抗体-共重合体コンジュゲートと、上記抗体に対応する抗原とを含有する混合液Aを調製し、上記抗体-共重合体コンジュゲートと上記抗原との複合体を形成することと、上記混合液Aを20~40℃に加熱して、上記複合体を沈殿させることと、を有する、抗原の濃縮方法。
[11] 更に、後述する式4で表されるリンカーと、上記抗体とを、上記抗体が有するアミノ基に由来するアミド結合を介して結合させ、抗体-リンカー複合体を調製することと、上記抗体-リンカー複合体と、後述する単位1と、後述する単位2と、を含む共重合体とを含有する混合液Bを調製することと、上記混合液B中で、上記抗体-リンカー複合体が有するアジド基と、上記共重合体が有するアルキニレン基とを反応させることで結合させ、上記抗体-共重合体コンジュゲートを生成することと、を含む、[10]に記載の抗原の濃縮方法。
[12] 上記抗体が、抗SARS-CoV-2抗体である、[10]又は[11]に記載の抗原の濃縮方法。
[13] 上記抗原が、SARS-CoV-2タンパクである、[12]に記載の抗原の濃縮方法。
[14] 上記混合液B中における上記抗体-リンカー複合体が含有する上記抗体の含有量に対する、上記共重合体の含有量のモル基準の比が、0.5~30である、[11]に記載の抗原の濃縮方法。
[15] [10]~[14]のいずれかに記載の抗原の濃縮方法によって抗原を濃縮することと、上記濃縮した抗原を検出することと、を含む、抗原の検出方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗体を固定することによって、抗原の濃縮に利用できる共重合体が提供できる。また、本発明によれば、抗体-共重合体コンジュゲート作成キット、抗体-共重合体コンジュゲート、抗原の濃縮方法、及び、抗原の検出方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】合成したHIPAAmを薄層クロマトグラフィー(TLC)で可視化したものである。
図2】HIPAAmモノマーのH NMR 分析結果である。
図3】P(NIPAAm-co-HIPAAm)のH NMR分析結果である。
図4】特定共重合体(I)のH NMR分析結果である。
図5】合成したP(NIPAAm-co-HIPAAm)のLCST(Lower critical solution temperature)測定結果である。
図6】合成した特定共重合体(I)のLCST測定結果である。
図7】抗体と特定共重合体(I)とのコンジュゲートのLCST測定結果である。
図8】Covid-19抗体あたりのアジド(EG)4-NHSの導入量をフルオレスカミンで測定した結果である。
図9】SDS-PAGEによる、抗体と異なる濃度の合成ポリマーとのクリック反応の評価結果である。
図10】抗体コンジュゲートの濃度を変えた場合のCOVID-19組換えタンパク質の濃縮率を表す図である。
図11】ラテラルフロー免疫測定法(LFIA)によるCOVID-19抗体温度応答性ポリマーの濃縮効果の評価である。
図12】ラテラルフロー免疫測定法(LFIA)によるCOVID-19抗体温度応答性ポリマーの濃縮効果の評価である。
図13】合成した共重合体(II)のLCSTの測定結果である。
図14】Covid-19抗体(Sタンパク捕捉用抗体)あたりのアジド(EG)4-NHSの導入量をフルオレスカミンで測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[共重合体]
本発明の実施形態に係る共重合体(以下、「特定共重合体」ともいう。)は、下記式1で表される繰り返し単位(単位1)、及び、下記式2で表される繰り返し単位(単位2)を含む共重合体である。
【0012】
【化1】
【0013】
(単位1)
単位1は、それ単独で構成される重合体が水に対してLCST(Lower Critical Solution Temperature)が32℃の温度応答性を示す。単位1を含むことによって、特定共重合体は温度応答性を有する。
【0014】
特定共重合体に含まれる単位1の含有量としては特に制限されず、全繰り返し単位を100モル%としたとき、典型的には、1~99モル%が好ましい。なかでも、特定共重合体がより敏感な温度応答性を有する観点、及び/又は、LCSTを抗原の濃縮のために適した温度範囲に制御しやすい(具体的には、LCSTが室温~40℃程度になりやすい)観点で、特定共重合体中における単位1の含有量は50モル%を超えることが好ましく、60モル%以上がより好ましく、97モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましい。
【0015】
式1中、Xは水素原子、又は、炭素数が1~6個の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、特定共重合体がより敏感な温度応答性を有する観点で、水素原子、又は、炭素数が1~4個の直鎖状のアルキル基が好ましく、水素原子、又は、メチル基がより好ましい。
【0016】
特に制限されないが、単位1は、以下の式1′で表される単量体(モノマー)に基づく単位であることが好ましい。
【0017】
【化2】
【0018】
式1′中、Xは、式1中のXと同義であり、好適形態も同様である。式1′で表される単量体は、例えば、公知の方法、例えば、後述する実施例に記載の方法により合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0019】
(単位2)
特定共重合体は、式2で表される単位2を有する。単位2は、繰り返し単位の1つにつき、環状アルキン(アルキニレン基)を含む部位(クリック反応部位)を1つ有し、後述するリンカーが有するアジド基とクリック反応により結合し、容易に複合体を形成し得る。例えば、リンカーとタンパク質(抗体等)とを予め結合させておけば、リンカーを介してタンパク質を特定共重合体に固定できる。すなわち、抗体-共重合体コンジュゲートを作製できる。
作製されるコンジュゲートは、特定共重合体に由来する温度応答性により、LCST又はこれ以上の温度で凝集、沈殿を起こす。これを利用し、抗体に対応する抗原を濃縮できる。
【0020】
特定共重合体中における単位2の含有量としては特に制限されないが、特定共重合体が有する全繰り返し単位を100モル%としたとき、典型的には、1~99モル%が好ましい。
なかでも、LCSTをより低い温度とし、濃縮後に抗原を検出する際により高感度に検出できる観点では、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、5モル%以上が更に好ましく、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましい。
【0021】
単位2は、典型的には他の繰り返し単位と比較して疎水性がより高く、単位2の含有量を増加させることによって、LCSTをより低温化することができる。
また、単位2の含有量が多いほど、抗体がより導入されやすい。一方で、20~40℃に加熱して濃縮する用途に鑑みると、単位2の含有量は、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、5モル%以上が更に好ましく、10モル%が特に好ましく、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましい。
【0022】
【化3】
【0023】
式2中、Xは水素原子、又は、炭素数が1~6個の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、特定共重合体がより敏感な温度応答性を有する観点で、水素原子、又は、炭素数が1~4個の直鎖状のアルキル基が好ましく、水素原子、又は、メチル基がより好ましい。
【0024】
式2中、Lは、2価の基を表す。Lとしては特に制限されないが、-O-、-S-、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)O-、-NR-(Rは水素原子又は1価の置換基)、炭素数が1~20個の直鎖状、分枝鎖状、又は、環状の脂肪族炭化水素基、炭素数が6~20個の単環、又は、縮合環の芳香族炭化水素基、及び、これらの組合せからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する共重合体が得られる観点では、-O-、-C(O)-、-NR-、炭素数が1~10の直鎖状のアルキレン基、及び、これらの組合せからなる群より選択される1種の基がより好ましく、-O-、-C(O)-、及び、-NR-からなる群より選択される少なくとも1種の基が更に好ましく、-0-、-C(O)-、又は、-NH-が特に好ましい。
【0025】
式2中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、-OR、-NO、-CN、-S(O)、炭素数が1~24個のアルキル基、炭素数が2~24個のアルケニル基、及び、炭素数が6~24個の(ヘテロ)アリール基からなる群より選択され、2つ以上のRは互いに結合して環を形成していてもよく、Rは、水素、ハロゲン原子、及び、炭素数1~24個のアルキル基、炭素数6~24個の(ヘテロ)アリール基からなる群から選択され、Zは、C(R、O、S、及び、NRからなる群より選択され、a′は、0~8の整数であり、a″は、0~8の整数であり、a′とa″の和は10未満である。なお複数あるRは互いに同一でも異なってもよい。
【0026】
単位2は、Lとの結合部位を「*」としたとき、例えば、以下の式Cで表される構造(クリック反応部位)を有することが好ましい。言い換えれば、以下の式で表される波線以降に「*」の位置で結合される部位(1価の基)として、以下の式Cで表される構造を有することが好ましい。
【0027】
【化4】
【0028】
【化5】
【0029】
より優れた本発明の効果を有する共重合体が得られる観点では、単位2は、以下の式で表される単位からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
なお、下記式中、L21は2価の基を表し、式2中のLと同義であり、好適形態も同様である。また、Xは、式2中のXと同義であり、好適形態も同様である。
【0030】
【化6】
【0031】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する共重合体が得られる観点で、単位2は、以下の式3又は4で表される単位3又は単位4が好ましい。
【0032】
【化7】
【0033】
式3、及び、式4中、Xは水素原子、又は、炭素数1~6直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、式3中、Lは-O-、-S-、及び、-NR-からなる群より選択される1種の基であり、Rは、水素原子、又は、炭素数1~6個のアルキル基を表し、nは1~10の整数を表し、式4中、Lは、2価の基を表し、好適形態は、式2中のLの2価の基と同様である。
【0034】
単位2の合成方法としては特に制限されず、公知の合成方法が使用できるが、より簡便に単位2を得ることができる点で、以下の式2′で表される単位2′に前駆体化合物を結合させて、単位2を得る方法が好ましい。
【0035】
【化8】
【0036】
式2′中、Rは反応性置換基であり、具体的には、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、グリシジル基、メルカプト基、ヒドロキシスクシンイミドエステル、及び、マレイミド等が挙げられ、ヒドロキシ基が好ましい。
【0037】
前駆体化合物としては、例えば、クリック反応部位と、上記Rと反応し得る基とを有する化合物を用いればよく、市販品を用いることもできるし、公知の方法で合成して用いることもできる。なかでも、上述の式Cで表される構造(クリック反応部位)と、カルボキシ基とを有する前駆体化合物を用いると、より簡便に、特定共重合体を合成できる。
【0038】
前駆体化合物の合成方法は、例えば、クリック反応部位が二フッ素化シクロオクチンであれば、J.Am.Chem.Soc.2008,130,34,11486-11493のスキーム1及び2に記載されている方法が使用できる。また、クリック反応部位がジベンゾアザシクロオクチンであれば、Chemical Communications(2010),46(1),97-99のスキーム1に記載された方法が使用できる。
【0039】
また、クリック反応部位であるBCN(bicyclo[6.1.0]nonyne)、及び、DBCO等に、アミノ基、ヒドロキシ基、及び、カルボキシ基等の置換基が付加されたものや、マレイミド、及び、ヒドロキシスクシンイミドエステル化されたものが市販されており、前駆体化合物としては、これらを用いることもできる。
【0040】
なかでも、より簡便に単位2が得られる点で、単位2′は、以下の式5で表される単位5であることが好ましい。この場合、前駆体化合物としては、典型的には、カルボキシ基と、式Cで表される構造とを有する前駆体化合物を用いればよい。
【0041】
【化9】
【0042】
なお、特定共重合体を合成する際に、未反応の単位5があると、言い換えれば、特定共重合体が、単位1、単位2、及び、単位5を含む場合、LCSTを高温側に調整することができる。単位5は、他の繰り返し単位と比較して親水性が高いため、単位5の含有量を増加させることで、LCSTを高温側へと調整することができる。
【0043】
上記式5中、Xは水素原子、又は、炭素数が1~6個の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、共重合体がより敏感な温度応答性を有する観点で、水素原子、又は、炭素数が1~4個の直鎖状のアルキル基が好ましく、水素原子、又は、メチル基がより好ましい。
【0044】
特定共重合体における単位5の含有量としては特に制限されないが、特定共重合体の全繰り返し単位を100モル%としたとき、0~15モル%が好ましい。
【0045】
特定共重合体の分子量としては特に制限されないが、典型的には、数平均分子量として2000~100000が好ましく、5000~50000がより好ましく、10000~30000が更に好ましい。
数平均分子量が5000以上であると、より優れた濃縮効率が得られやすく(言い換えれば、より優れた温度応答性が得られやすく)、一方で、50000以下であると、抗体とのコンジュゲートを形成しやすく、又は、抗原-抗体反応がより進行しやすい。
【0046】
なかでも、得られる共重合体によって作製した抗体-共重合体コンジュゲートを用いたとき、より優れた濃縮効率が得られる点で、数平均分子量が、15000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましい。一般に抗体は親水性が高いことが多く、そのような場合には、より優れた濃縮効率を有する共重合体が必要であるが、上記共重合体の数平均分子量が上記数値範囲内であると、優れた濃縮効率が得られやすい。
また、抗体の分子量に対する、特定共重合体の分子量の比(特定共重合体/抗体)としては特に制限されないが、1/30~1/5が好ましい。
【0047】
特定共重合体の分子量分散度(PDI)としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する共重合体が得られる観点では、1.5以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。
【0048】
(その他の単位)
特定共重合体は、上記以外の繰り返し単位を有していてもよい。上記以外の繰り返し単位としては、例えば、N-シクロプロピルアクリルアミド(LCST=46℃)、N-n-プロピルアクリルアミド(LCST=22℃)、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(LCST=28℃)、N-エトキシエチルアクリルアミド(LCST=35℃)、N-メチル-N-エチルアクリルアミド(LCST=56℃)、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド(LCST=23℃)、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド(LCST=20℃)、N,N-ジエチルアクリルアミド(LCST=32℃)、N-シクロプロピルメタクリルアミド(LCST=59℃)、N-イソプロピルメタクリルアミド(LCST=44℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=28℃)、及び、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(LCST=35℃)等に基づく繰り返し単位が挙げられる。
【0049】
[特定共重合体の製造方法]
特定共重合体の製造方法としては、特に制限されないが、より簡便に特定共重合体を製造できる観点で、以下の工程(1)、及び、工程(2)をこの順に有することが好ましい。
【0050】
工程(1):以下の式1′、及び、式3′で表される単量体を共重合させて、共重合体(前駆体)を得る工程。
【0051】
【化10】
【0052】
上記式1′、及び、3′中、X、及び、Xはそれぞれ、式1中のX、及び、式2′中のXのそれぞれと同義であり、好適形態も同様である。
【0053】
上記単量体を共重合させる方法は特に制限されず、リビングラジカル重合法、リビングアニオン重合法、及び、リビングカチオン重合法等のリビング重合法を用いることが好ましい。なかでも、より簡便に共重合体(前駆体)が得られる観点では、リビングラジカル重合法が好ましい。
【0054】
リビングラジカル重合法とは、熱、光、及び、金属触媒等を作用させ、成長反応における少量の成長ラジカル(フリーラジカル)種と多量の休止(ドーマント)種の素早い平衡を確立させる事に基づいている。休止(ドーマント)鎖により種々の形式のリビングラジカル重合が提案されている。
【0055】
例えば、ドーマントとしてハロゲン化アルキルを用いるATRP法(原子移動ラジカル重合法)、チオエステルを用いるRAFT法(reversible addition fragmentation chain transfer)、アルコキシアミンを用いるNMP法(nitroxide mediated polymerization)等がある。
【0056】
RAFT法は、通常のラジカル重合の系にRAFT剤と呼ばれる高い連鎖移動定数を有する連鎖移動剤を添加してビニル系モノマーを重合させる方法である。RAFT剤としては、チオエステルを使用することができる。
【0057】
RAFT剤の量は、目的とする共重合体の分子量によって適宜選択できる。すなわち、各共重合体の末端にRAFT剤が結合するため、例えば、100量体の共重合体を目的物とする場合、単量体100モル%に対して、0.1~3モル%使用すればよい。
【0058】
RAFT重合に使用するラジカル重合開始剤は特に制限されず、アゾ化合物、パーオキサイド、及び、レドックス型等の公知の開始剤の中から適宜選択されればよい。
【0059】
アゾ化合物の例としては2,2′-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2′-アゾビス2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、4,4′-アゾビス(4-シアノ吉草酸)が挙げられる。
【0060】
重合開始剤は一般にRAFT剤の1モルに対して、0.1~50モル%が好ましい。RAFT法の反応は、用いるラジカル重合開始剤によって決まるが、一般的に40℃~150℃で行われることが多い。大気圧下での重合が多いが、加圧下でも重合は可能である。
【0061】
RAFT法は、溶媒不存在下で行うことができるが、溶媒の存在下でも行うことができる。必要に応じて使用する溶媒としては特に制限されず、公知の溶媒が使用できる。また、水中でも反応を行うことは可能であり、乳化重合でも反応は進行する。その際に使用する乳化剤は、一般的な乳化重合に使用可能なノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤が使用できる。
【0062】
工程(2):得られた共重合体(前駆体)と、式4′で表される前駆体化合物とを反応させて、特定共重合体を得る工程。
【0063】
【化11】
【0064】
式10中、Zは、クリック反応部位(例えば環状アルキン)を含む基であり、すでに説明した式Cで表される基から選択される基であることが好ましい。なお、式C中、*はL10との結合位置とする。
また、L10は2価の基を表し、式2中のLと同義であり、好適形態も同様である。
【0065】
共重合体(前駆体)が有するヒドロキシ基と、式4′で表される前駆体化合物が有するカルボキシ基とによって、エステル結合を形成する(縮合させる)ことにより、所望の特定共重合体が合成される。
【0066】
エステル結合を形成する方法としては特に制限されないが、例えば、共重合体(前駆体)と前駆体化合物とを、縮合剤、触媒、及び溶媒の存在下で、0~150℃(好ましくは0~100℃)において、30分~24時間(好ましくは3~15時間)縮合反応させる方法が挙げられる。
【0067】
縮合剤としては、トリフェニルホスファイト、N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N′-カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ-1,3,5-トリアジニルメチルモルホリニウム、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N′,N′-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N′,N′-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、及び、(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニル等を用いることができ、なかでも、N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミドが好ましく、この場合、触媒としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン等を用いることができ、溶媒としてはジクロロメタン等を用いることができる。
【0068】
(特定共重合体の用途)
特定共重合体は、LCSTを有し、かつ、クリック反応部位を有するため、例えば、水を含む液体媒体に分散した、又は、溶解したアジド基を有する化合物等と特異的かつ不可逆に結合し、複合体を形成する。この溶液をLCST又はそれ以上の温度に加熱すると複合体は速やかに凝集、沈殿し、液体媒体から容易に分離することができる。
例えば、アジド基を有する化合物と抗体との複合体を予め作製し、特定共重合体とのコンジュゲートを作製すれば、又は、アジド基を有する化合物と抗体と、特定共重合体とを混合してコンジュゲートを作製すれば、対応する抗原を結合させて複合化した後、LCST又はそれ以上に加熱して、コンジュゲートごと抗原を回収することができる。
【0069】
[抗体-共重合体コンジュゲート]
本発明の実施形態に係る抗体-共重合体コンジュゲートは、すでに説明した共重合体と、抗体とが、以下の式6で表されるリンカーを介して結合した抗体-共重合体コンジュゲートである。
【0070】
【化12】
【0071】
式6中、Lはヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基を表し、(ポリ)オキシアルキレン基(アルキレン基の炭素数は1~6個が好ましい)、及び、炭素数が1~20個の直鎖状、分枝鎖状、又は、環状の炭化水素基等が好ましく、ポリオキシアルキレン基がより好ましい。
なお、ポリオキシアルキレン基の繰り返し数は、2~10が好ましく、2~8がより好ましい。
【0072】
式6で表されるリンカーは、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHSエステル)を有し、タンパク質の一級アミン(例えば、リジン残基)とアミド結合を形成できる。すなわち、抗体が有する-NHと結合して複合体を形成する。一方、リンカーは、アジド基を有しており、特定共重合体が有するアルキニレン基(クリック反応部位)と結合し、トリアゾール環を形成する。
【0073】
抗体-共重合体コンジュゲートの好ましい形態としては、以下の式1で表される繰り返し単位、及び、以下の式7で表される繰り返し単位を有する抗体-共重合体コンジュゲートが挙げられる。
【0074】
【化13】
【0075】
式7中、Xは、水素原子、又は、炭素数1~6の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表し、式2中におけるXと同義であり、好適形態も同様である。
また、Lは2価の基を表し、式2中におけるLと同義であり、好適形態も同様である。また、Lはヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基を表し、式6中のLと同義であり、好適形態も同様である。
また、Abは抗体残基を表す。すなわち、抗体の第1級アミンとリンカーのNHSエステルによってアミド結合が形成され、抗体がリンカーを介して特定共重合体に固定された状態を表している。
【0076】
なお、上記形態では、抗体と単位7とが1対1で結合しているが、抗体-共重合体コンジュゲートとしては上記形態に制限されず、抗体が有する複数の第1級アミンが、それぞれリンカーを介して特定共重合体が有するアルキニレン基と結合した状態、すなわち、抗体分子を中心とした架橋構造様のものが形成されていてもよい。
【0077】
また、抗体-共重合体コンジュゲートは、上記の繰り返し単位以外にも、式2で表される単位2を含んでいてもよい。すなわち、未反応の単位2を含んでいてもよい。一形態として、特定共重合体の分子は、抗体の分子と比較して小さいため、特定共重合体に対し、多数の抗体が結合しにくい場合もある。この場合、抗体-共重合体コンジュゲートには、未反応の単位2が残存してもよい。
【0078】
抗体と特定共重合体との比は特に制限されないが、一形態として、抗体の1モルに対して、共重合体の0.1~50モルが好ましい。
【0079】
また、抗体-共重合体コンジュゲートは、特定共重合体が含んでもよい、他の単位(単位5)等を含んでいてもよく、各単位の含有量の好適範囲は、特定共重合体における好適範囲と同様である。
【0080】
抗体としては特に制限されず、公知の抗体を使用できるが、なかでも、抗SARS-CoV-2抗体が好ましく、例えば、抗SARS-CoV-2(COVID19)ヌクレオカプシド(タンパク)抗体、及び、抗SARS-CoV-2スパイク(タンパク)抗体等がより好ましい。このとき、抗体-共重合体コンジュゲート中における、抗体の含有量に対する特定共重合体の含有量のモル基準の含有量比は特に制限さないが、0.5~30が好ましい。
【0081】
[抗原の濃縮方法]
本発明の実施形態に係る抗原の濃縮方法は、上記抗体-特定共重合体コンジュゲートと、抗原とを含有する混合液Aを調製し、抗体-特定共重合体コンジュゲートと抗原との複合体を形成することと、混合液Aを20~40℃に加熱して、上記複合体を沈殿させることと、を含む抗原の濃縮方法である。
【0082】
混合液Aは、例えば、被験者から採取した、だ液、及び、喀痰等を必要に応じて液体媒体(例えば、リン酸緩衝食塩水等)によって希釈、又は、分散させた検体に、抗体-特定共重合体コンジュゲートを加えて調製できる。
【0083】
なお、混合液Aは、抗体-特定共重合体コンジュゲートと、抗原とを含めばよく、予め、抗体-共重合体コンジュゲートを調製し、そこに抗原を添加してもよいし、特定共重合体、リンカー、及び、抗体を混合した溶液に、抗原を添加してもよいし、特定共重合体、リンカー、抗体、及び、抗原を一度に混合してもよい。
【0084】
検体に対する抗体-特定共重合体コンジュゲートの添加量としては特に制限されないが、添加量と濃縮率とには相関関係があり、例えば、検体中の抗原タンパク質の1mgに対して、特定共重合体の添加量として0.1mg以上であることが好ましく、0.5mg以上であることがより好ましく、1.0mg以上であることが更に好ましい。上限は特に制限されないが、一般に、5.0mg以下が好ましい。
更に具体的には、検体液(例えば、唾液等を含む)の1mLに対して、特定共重合体添加量として0.1~10.0mgが好ましい。
【0085】
このとき、混合液Aに、遊離状態の特定共重合体(抗体とのコンジュゲートを形成していないもの)を更に添加してもよい。特定共重合体を添加することで、熱に対する応答をより鋭敏にし、より効率的に抗原を濃縮することができる。特定共重合体の添加量としては特に制限されないが、抗体-共重合体コンジュゲートが含有する共重合体のモル基準の含有量を1としたとき、0.1~20倍が好ましい。
【0086】
更に、抗原の濃縮方法は、すでに説明したリンカーと、抗体とを、抗体が有するアミノ基に由来するアミド結合を介して結合させ、抗体-リンカー複合体を調製することと、抗体-リンカー複合体と、特定共重合体とを含有する混合液Bを調製することと、混合液B中で、抗体-リンカー複合体が有するアジド基と、共重合体が有するアルキニレン基とを反応させることで結合させ、抗体-特定共重合体コンジュゲートを生成することとを含むことが好ましい。
【0087】
本方法により濃縮できる抗原としては特に制限されず、抗体-共重合体コンジュゲートが有する抗体の種類に応じて適宜選択可能である。なかでも、抗原はSARS-CoV-2タンパクが好ましく、SARS-CoV-2スパイクタンパク、及び、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク等がより好ましい。
【0088】
[キット]
本発明の実施形態に係る抗体-特定共重合体コンジュゲート作成キットは、すでに説明した共重合体と、リンカーとを含む。上記キットには、特定共重合体と、リンカーとが含まれればよく、更に、溶媒等が含まれていてもよい。
また、イムノクロマト法による抗原検査キットの展開液に予め添加されていてもよい。この場合、展開液(溶液)中で、特定共重合体と、リンカーとが予め結合された状態となっていてもよい。
【0089】
[抗原検査キット]
本発明の実施形態に係る抗原検査キットは、すでに説明した特定共重合体と、リンカーとを含む抗原検査キットである。本抗原検査キットには、上記以外に、公知の抗原検査デバイスが含まれていてもよい。
抗原検査デバイスの具体的な構成は特に制限されないが、免疫学的手法による検査に用いるものであることが好ましい。例えば、イムノクロマト法による検査に一般的に使用される試験片であってもよく、その他の構成を有するデバイスであってもよい。
【0090】
抗原検査キットの具体的な構成は、特に制限されない。例えば、特定共重合体と、リンカーと、抗原検査デバイスとが分離した状態であっても、特定共重合体と、リンカーと、抗原検査デバイスとが一体化した状態であってもよい。
【実施例
【0091】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
[HIPAAmの合成]
HIPAAm(Hydroxy IsoPropyl AcrylAmide)は、以下の手順に従って合成した。D,L-2-アミノ-1-プロパノール(0.15mol)とトリエチルアミン(0.15mol)とを無水クロロホルムによく溶かし、5℃で20分間撹拌した後、塩化アクリロイル(0.15mol)をゆっくりと加え、5℃で2時間撹拌した。
【0093】
溶媒を蒸発させた後、2-プロパノールに再溶解し、-20℃で24時間以上保持した。最後にろ過して塩類を除去し、カラムクロマトグラフィーで濃縮、精製した。HIPAAmが合成されたことは、薄層クロマトグラフィー(TLC)とH NMR(Nuclear Magnetic Resonance)(溶媒はDO)で確認した。
【0094】
【化14】
【0095】
[P(NIPAAm-co-HIPAAm)の合成]
P(NIPAAm-co-HIPAAm)は、下記スキームに示すようにHIPAAmとNIPAAmとのRAFT重合により合成した。NIPAAm 1.89g、HIPAAm 0.11g、AIBN 1.31mg、CDT(Cyanomethyl Dodecyl Trithiocarbonate)12.7mg、及び、エタノール 17.6mlを含む溶液を20℃で20時間攪拌し、蒸発させて真空乾燥した。
【0096】
【化15】
【0097】
[P(NIPAAm-co-HIPAAm-co-SAKIPAAm)の合成]
下記スキームのとおり、アルキニレン基を持つジベンジルシクロオクチン酸(DBCO)をHIPAAmのヒドロキシ基に脱水縮合で導入し、クリッカブル応答性ポリマーP(NIPAAm-co-HIPAAm-co-SAKIPAAm)を得た。
DCM(Dichloromethane)30ml、DBCO酸35.8mg、DMAP(4-Dimethylaminopyridine)12mg、P(NIPAAm-co-HIPAAm)100mg、DCC(N′,N′-Dicyclohexylcarbodiimide)20mgを含む溶液を一晩攪拌し、蒸発させて真空乾燥させた。なお、この得られたP(NIPAAm-co-HIPAAm-co-SAKIPAAm)を以下では「共重合体(I)」ともいう。
【0098】
【化16】
【0099】
[ポリマー合成の評価]
P(NIPAAm-co-HIPAAm)、及び、共重合体(I)は、いずれも、その構造をH NMR(溶媒:DO、DMSO)、分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(溶媒:DMF(N,N-Dimethylformamide、標準物質:ポリスチレン)で確認した。また、下限臨界溶液温度(LCST:Lower Critical Solution Temperature)は、溶媒をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH:7.4、濃度:2.0mg/mL、温度:10~40℃)として確認した。
【0100】
[抗体へのアジド基の導入]
アジド-PEG4-NHSエステル(Azido-ethylene glycol (EG4)-NHS ester、東京化成工業)粉末をDMSO(10mg/ml)に溶解し、炭酸緩衝液(PH8.6)を用いて、異なる濃度のアジド-PEG4-NHSエステルを調製した。アジド-PEG4-NHSエステルを異なる供給比率で抗体(anti-COVID-19monoclonal antibody、>95%、MyBioSource製、anti-COVID-19 antibody :: anti-Viral COVID 19 Nucleocapsid (NP) Humanized Coronavirus Monoclonal Antibody)に添加した後、下記式に示すように、4℃で5時間攪拌し、抗体にアジド基を導入した。
【0101】
【化17】
【0102】
抗体にアジド基を導入した後、「Infinite」200 PROプレートリーダーを用いて、以下のように抗体試料の蛍光を測定した。アジド修飾抗体サンプルを0.5mg/mlに希釈し、異なる濃度のDL-2-アミノ酪酸(50μL/ウェル、標準物質)を加えた96マイクロウェルプレートに塗布した後、各ウェルに5μLのフルオレスカミン(50mg/ml)を添加し、暗所で15分間インキュベートして蛍光を測定した(395nm/495nm)。
【0103】
[クリック反応によるCOVID-19抗体-温度応答性共重合体コンジュゲートの作製]
クリックケミストリーを用いて、以下のようにアジド修飾抗体をアルキニレン基修飾温度応答性共重合体にコンジュゲートさせた。75μlの共重合体(I)を50μlのアジド修飾抗COVID 19抗体(PBSで2.5mg/mL)と混合し、下記式に示すように4℃で12時間撹拌した。
【0104】
共重合体(I)の濃度は、抗体と共重合体(I)の比率が1:1、1:2、1:4、1:8、1:15、1:30(いずれもモル基準)になるように調整した。成功したコンジュゲートは、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により、抗体と共重合体(I)それぞれを単独で使用した場合と比較して、その特徴を明らかにした。
【0105】
【化18】
【0106】
[COVID-19抗体-温度応答性共重合体の濃縮効果の評価]
先に調製したCOVID-19抗体-共重合体コンジュゲート(1:1)の濃縮効果を熱沈殿法で評価した。精製したCOVID-19-共重合体コンジュゲート(1.3mg/mLの濃度で100μLのPBS溶液で15当量の遊離状態の特定共重合体を含む。)をマイクロチューブに加え、37℃で5分間遠心分離(13000×g)した。その後、上澄み液(90μL)と沈殿物(10μL)を回収し、280nmの吸光度を紫外可視吸光光度計で測定した。液相と固相とにおけるCOVID-19抗体のモル基準の比を推定し、濃縮率を算出した。
【0107】
[COVID-19抗体-温度応答性共重合体の抗原濃縮効果の評価]
精製したCOVID-19抗体-共重合体コンジュゲート(1.3、0.7、0.35、0.17、0.08、0mg/mL、50μL PBS、15当量の共重合体(I)単体を含む)に対して、COVID-19組換えタンパク質(MyBioSource製)の濃縮能力を評価した。
【0108】
COVID-19抗体-共重合体コンジュゲート(異なる濃度、50μL PBS)をCOVID-19組換えタンパク質(1.0mg/mL、50μL PBS)と混合し、1時間インキュベートした後、溶液に遊離ポリマーを加え、マイクロチューブ中で37℃、13000×g、5分間遠心分離した。
上澄み液(90μL)と沈殿物(10μL)を回収し、上澄み液中のCOVID-19組換えタンパク質を、メーカーの指示に従ってmodified lowery protein assay kitを用いて測定し、最後に濃縮率を算出した。
【0109】
[ラテラルフローイムノアッセイストリップを用いたCOVID-19抗体-温度応答性共重合体抗原濃縮効果の評価]
COVID-19組換えタンパク質の異なる濃度(50~1000pg/mL、20μL PBS)を、ラテラルフローイムノアッセイストリップを用いて試験した。COVID-19組換えタンパク質(50、100pg/mL、100μL PBS)を、COVID-19抗体-特定共重合体コンジュゲート(1.3mg/mL、100 μL PBS)と混合し、1時間インキュベートした後、15当量の遊離ポリマー[共重合体(I)]を添加し、マイクロチューブで37℃、13000×g、5分間遠心分離した。
上澄み液(180μL)と沈殿物(20μL)を回収し、濃縮された部分をLFIAで測定した。
【0110】
[結果]
(HIPAAm合成の確認)
HIPAAmモノマーの精製は、TLC分析により確認した。図1中の画像中に記載された「(1)」は、HIPAAm標準試料、「(2)」は合成した試料のカラム精製前と精製後である。(固定相:シリカゲルプレート、移動相:酢酸エチル、可視化剤:KMnO溶液)
【0111】
図1によると、HIPAAmは2つの主要な二次生成物を伴って成功裏に調製された。図1に示すように、HIPAAmの精製にはカラムクロマトグラフィーを使用し、最後にH NMRの結果を用いてHIPAAmの合成を確認した(図2)。
【0112】
(P(NIPAAm-co-HIPAAm)、及び、共重合体(I)の確認と特性評価)
H NMR解析の結、HIPAAmとNIPAAmを3.6:96.4(モル基準)の割合で重合し、32℃程度で知られているP(NIPAAm)のLCSTをHIPAAmの水酸基導入により37.4℃まで上昇させることに成功したこと、また、ひずみを持ったアルキンであるSAK基を結合させ、96.4:1.2:2.4(モル基準)の割合で温度応答性共重合体(I)を形成したことを確認した(図3、4)。
【0113】
また、分子量については、GPC分析の結果、図3~7及び、表1、に示すように、SAK基の挿入により、合成したポリマーの分子量が1.904×10から2.014×10に変化したことがわかった。
【0114】
また、図5は、P(NIPAAm-co-HIPAAm)の、図6は共重合体(I)の、図7は、抗体-共重合体(I)コンジュゲートのLCSTの測定結果である。なお、測定は溶媒をPBS(pH7.4)とし、共重合体濃度を2.0mg/mLとし、加熱速度を0.2℃/分とし、波長450nmで測定した。LCSTは、光透過度が50%となったときの温度と定義した。ここから、LCSTがP(NIPAAm-co-HIPAAm)の37.4℃から共重合体(I)の30.1℃に変化したことがわかった。
【0115】
【表1】
【0116】
(アジド-COVID-19抗体の合成)
COVID-19抗体へのアジド基の導入は、抗体のリジン残基(ε-アミノ基)にアジド-(EG)4-NHSを結合させることで行った。アジド(EG)4-NHSの確認と定量は、蛍光還元法を用いて行った。アジド(EG)4-NHSの添加量を増やすと、アジド基の結合量は図8のように徐々に増加し(0、6.7、10.7、20.9mol/mol)、アミン基の結合量は以下のように徐々に減少した(21.1、14.7、10.7、0.2mol/mol)。p-value<0.0001。
【0117】
なお、抗体として、anti-COVID-19monoclonal antibody(>95%、MyBioSource製、anti-COVID-19 antibody :: anti-Viral COVID 19 Nucleocapsid (NP) Humanized Coronavirus Monoclonal Antibody)に代えて、「SARS-CoV-2 Spike Protein (S1-NTD) Antibody #56996」(Cell Signaling Technology)を使用したこと以外は同様にして、アジド-COVID-19抗体の合成を試みたところ、同様に、合成に成功した。図14は、その結果であり、アジド(EG)4-NHSの添加量を増やすと、アジド基の結合量は徐々に増加し、アミン基の結合量は徐々に減少した。
【0118】
(クリック反応により合成されたAnti-COVID-19共重合体(I)コンジュゲートの確認)
図9は、ドデシル硫酸ナトリウムゲル電気泳動(SDS-PAGE)による、COVID-19抗体-共重合体(I)のコンジュゲートのゲル像である。
【0119】
ここで、(1)と(11)は、protein ladderであり、(2)は抗体:共重合体(I)の1:1(mol/mol)、(3)は1:2、(4)は1:4、(5)は1:8、(6)は1:15、(7)は1:30、(8)は共重合体(I)のそのもの、(9)はアジド-抗体であり、(10)は抗体である。
【0120】
COVID-19抗体と共重合体(I)の比率を1:1、1:2、1:4、1:8、1:15、1:30(レーン2~7)と変えて調べたところ、反応液中の共重合体の量を増やすと抗体との結合が増え、最終的にバンドの幅が広がり、コンジュゲートの分子量も増加した。
これらの結果は、COVID-19抗体-特定共重合体コンジュゲートの合成に成功したことを示している。
【0121】
(COVID-19抗体-温度応答性共重合体の濃縮効果評価)
COVID-19抗体-温度応答性共重合体は、コントロールと比較して、熱析出を行った後、非常に有意な濃縮能を示した(p=0.0006)。
【0122】
(COVID-19抗体-温度応答性共重合体を用いた抗原濃縮)
図10に示すように、COVID-19抗体-共重合体コンジュゲートの濃度を上げると、COVID-19リコンビナントタンパク質のフォールド数が0から最高濃度のコンジュゲート(1.3mg/mL)では元の抗原濃度の約6倍にまでシフトし、開発したシステムが低ウィルス量のサンプルを濃縮する能力があることを示している(p<0.05)。なお、図10の横軸の単位は、mg/mLである。
【0123】
(ラテラルフローイムノアッセイストリップを用いた抗原の濃縮性の評価)
図11に示すように、LFIAを用いたCOVID-19組換えタンパク質の最小検出限界は約50pg/mL(a5)であり、また、100pg/mL(a4)ではテストゾーンに弱い微弱なバンドを示したが、図11(a1)、(a2)、(a3)に示すように、200~1000pg/mLの濃度ではそれぞれ強い陽性バンドを示した。
【0124】
図12は濃縮前後の比較であり、(b1)濃縮なしで50pg/mL、(b2)濃縮後で50pg/mL、(b3)濃縮なしで100pg/mL、(b4)濃縮後で100pg/mLである。COVID-19抗体-共重合体コンジュゲートを用いて濃縮すると、強い陽性バンド(図中の三角形で指示される部分)を示すことがわかった。
【0125】
[P(NIPAAm-co-HIPAAm-co-SAKIPAAm)の合成2]
P(NIPAAm-co-HIPAAm-co-SAKIPAAm)の合成において、NIPAAmの添加量を1.89gから1.6gとし、HIPAAmの添加量を0.1gから0.0034gに変更した以外には上記と同様にして、P(NIPAAm-co-HIPAAm-co-SAKIPAAm)を合成した。以下では、合成した共重合体を「共重合体(II)」という。
共重合体(II)の分子量は1.82×10で、全繰り返し単位を100モル%としたときのSAKIPAAmの導入量は14モル%であった。
【0126】
【表2】
【0127】
図13は、合成した共重合体(II)のLCSTの測定結果である。図13から、LCSTが29.1℃であることがわかった。
上記の結果から、全繰り返し単位を100モル%としたとき、クリック反応部位を有するSAKIPAAm単位(一般式2で表される単位に該当する)の含有量が5~30モル%以下である共重合体(II)は、共重合体(I)と比較して、より低温で抗原濃縮が行えることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
これまでに示したとおり、本共重合体は、検体中の対象物(抗原等)が少ないことに起因して起こる偽陽性率を劇的に低下させることができ、検査の精度を高めることができる。特に、SARS-CoV-2抗体を固定した抗体-共重合体コンジュゲートを用いれば、SARS-CoV-2の検査精度を劇的に高めることができる。
図1
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図11
図12
図13
図14