(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】タイタンビカスの新規用途
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20241101BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20241101BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20241101BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241101BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20241101BHJP
【FI】
A61K36/185
A61K31/352
A61K31/7048
A61P43/00 111
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2024112068
(22)【出願日】2024-07-11
(62)【分割の表示】P 2022167040の分割
【原出願日】2022-10-18
【審査請求日】2024-07-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500109836
【氏名又は名称】株式会社 赤塚植物園
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】上田 隼平
(72)【発明者】
【氏名】萩野 幸子
(72)【発明者】
【氏名】倉林 雪夫
(72)【発明者】
【氏名】澤山 道則
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 耕一
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218476(JP,A)
【文献】特開2017-210473(JP,A)
【文献】特開2017-066052(JP,A)
【文献】Plant Foods for Human Nutrition,2020年,Vol.75,pp.265-271, Supplementary methods
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry,2011年,Vol.59, pp.9901-9909
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイタンビカスの花(つぼみを含む)
の粉末を含有するAGEs産生抑制剤
の製造方法であり、
前記タイタンビカスの花(つぼみを含む)の粉末は、ケルセチンおよびケルセチン配糖体を含み、該ケルセチン配糖体として、少なくとも、ルチン、ヒペロシド、およびイソクエルシトリンを含み、
前記製造方法は、ガクを取り除いたタイタンビカスの花(つぼみを含む)を乾燥する乾燥工程と、乾燥されたものをパンチングスクリーンを用いて粉砕する粉砕工程と、フリーズドライ工程と、殺菌工程と、を経て前記粉末を得ることを特徴とするAGEs産生抑制剤の製造方法。
【請求項2】
前記タイタンビカスの花(つぼみを含む)
の粉末は、ケンフェロールを含むことを特徴とする請求項1記載のAGEs産生抑制剤
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイタンビカスの新規用途に関し、具体的には、タイタンビカスを用いたAGEs産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タイタンビカスは、アオイ科フヨウ属の宿根草であり、本出願人によって開発された新しい植物である。タイタンビカスは、非常に強健で、夏の暑さにも極めて強く、秋には地上部は枯れるが、宿根草のため、翌年には芽を吹いて初夏には花を咲かせる。花期はおもに7~9月の間で、一輪一輪は一日花であるが、ひと夏で延べ200輪近くの花を咲かせる。花の直径は約15cm~25cmと非常に大きく、花色は品種により異なり、赤、ピンク、白がある。また、品種によっては草丈が3mにもなる。
【0003】
タイタンビカスは、その圧倒的な存在感と驚異的な強さ、ハイビスカスのような花姿から「巨神タイタン」にちなみ、「タイタンビカス」と名づけられている。なお、「タイタンビカス」は本出願人の登録商標であるが、本明細書では登録商標の表示を省略する。タイタンビカスは、生育旺盛で育てやすく、巨大輪の花を咲かせることなどから園芸用や観賞用として人気である。
【0004】
一方、タイタンビカスのつぼみや花は、食用に使用することも可能である。近年では、エディブルフラワーとしての生産も行われている。タイタンビカスの花は、食感が柔らかいレタスのようであり、オクラのような粘りと淡白でほのかな甘味がある一方、苦味やえぐみなどのクセがほとんどないため、生食に適している。エディブルフラワーの生産においては、開花直前のつぼみを収穫し、温度処理などによる人工開花を行い、顧客へ発送した後、食用に供されている。
【0005】
生食用としてタイタンビカスのつぼみを生産する場合、基本的にはビニールハウスで農薬不使用栽培で行う。しかし、農薬不使用のため、虫食いなどが生じる場合がある。また、農産物であることから、規格外の大きさのつぼみや栽培中に傷が付いたつぼみなどは生食用として出荷することができない。さらに、収穫が遅れ、開花してしまった花も出荷することができない。
【0006】
従来、規格外のつぼみや開花してしまった花は生食用として出荷できないため、廃棄されていた。そのため、このように廃棄されるタイタンビカスの花やつぼみを有効活用することは省資源化の観点でも好ましい。
【0007】
ところで、近年では、天然の植物の抽出物などについて種々の機能が報告されている(例えば特許文献1参照)。また、そのような抽出物などは飲食品や化粧品の添加剤などとしても広く利用されている。特に、アンチエイジング(抗老化)志向の高まりに伴って、アンチエイジングについて高い作用効果を奏するものの開発が望まれている。
【0008】
これまでにタイタンビカスに含まれる成分や生理活性について、ほとんど報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、タイタンビカスの生理活性を新たに見出すことで、タイタンビカスの新たな用途を提供し、資源の有効活用を目的とする。また、新規なAGEs産生抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のAGEs産生抑制剤は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物を含有することを特徴とする。本発明において、タイタンビカスの花(つぼみを含む)には、その加工品(例えばタイタンビカス末)も含まれる;以下、同じ。
【0012】
上記タイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物は、ケルセチンおよびケルセチン配糖体を含み、該ケルセチン配糖体として、少なくとも、ルチン、ヒペロシド、およびイソクエルシトリンを含むことを特徴とする。
【0013】
上記タイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物は、ケンフェロールを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のAGEs産生抑制剤は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物(以下、これらをまとめてタイタンビカス成分ともいう)を含有するので、優れたAGEs産生抑制作用を示す。上記タイタンビカス成分は、例えばAGEs産生抑制剤の有効成分として用いることができる。
【0015】
本発明のAGEs産生抑制剤に含有されるタイタンビカス成分は、ケルセチンおよびケルセチン配糖体を含み、該ケルセチン配糖体として、少なくとも、ルチン、ヒペロシド、およびイソクエルシトリンを含むので、体内での吸収性や活性保持において有効に寄与する。さらに、ケルセチンとは異なるフラボノイドであるケンフェロールを含むことで、体内での吸収性などにおいてより有利であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に用いるタイタンビカス抽出物を得る工程概略図である。
【
図2】ケルセチンおよびケルセチン配糖体の構造式を示す図である。
【
図3】タイタンビカス抽出物の成分同定前のクロマトグラムである。
【
図4】タイタンビカス抽出物の成分同定後のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、タイタンビカスの花やつぼみの有効活用を図るべく、タイタンビカス成分について、特にアンチエイジング作用に着目して鋭意検討したところ、タイタンビカス成分が、抗老化作用、抗糖化作用、ラジカル除去作用を奏することを見い出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0018】
本発明の抗老化剤、AGEs産生抑制剤、およびラジカル消去剤の各種剤は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物を含有する。
【0019】
タイタンビカス(学名Hibiscus x Titanbicus)は、アメリカフヨウ(Hibiscus moscheutos)とモミジアオイ(Hibiscus coccineus)の交配選抜種である。タイタンビカスの品種としては、タイタンレイア(農林水産省品種登録第27541号)、タイタンフレア(農林水産省品種登録第28201号)、タイタンピンク(農林水産省品種登録第21812号)、タイタンピーチホワイト(農林水産省品種登録第21813号)、タイタンエルフ(農林水産省品種登録第27540号)などがあるが、本発明では品種に限らず用いることができる。
【0020】
タイタンビカスとしては、少なくとも花(つぼみを含む)を用いる。この場合、花とつぼみが混じったものを用いてもよく、花のみ、つぼみのみを用いてもよい。上述したように、従来では廃棄されていた規格外のつぼみや開花してしまった花を原料として用いることができる。なお、原料となるタイタンビカスには、葉、種、茎、根などのその他の部分が含まれていてもよいが、成分濃度が高まることから、その他の部分は含まれないことが好ましい。また、ガク(萼)は、衛生面などの観点から、花やつぼみから取り除かれることが好ましい。つまり、原料となるタイタンビカスにはガクが含まれないことが好ましい。
【0021】
本発明の各種剤には、タイタンビカスの花(つぼみを含む)を加工処理した粉末などの加工品をそのまま用いてもよく、当該加工品などを抽出した抽出物を用いてもよい。
図1には、本発明の各種剤の製造方法の一例として、タイタンビカス抽出物を得る工程概略図を示す。
【0022】
図1において、この製造方法は(a)加工工程と(b)抽出工程を含む。この方法では、原料にタイタンビカスの花・つぼみが用いられている。これらは、生の状態でもよく、冷凍保存された状態でもよい。
【0023】
[(a)加工工程]
図1において、加工工程は、乾燥工程と粉砕工程を含む。乾燥工程における乾燥手法は特に限定されず、自然乾燥、加熱乾燥、凍結乾燥などを行うことができる。加熱乾燥の場合、加熱温度は例えば40℃~80℃とすることができる。続く粉砕工程における粉砕手法は特に限定されず、ミル、クラッシャー、石臼などの周知の粉砕機を用いて行うことができる。粉砕物の粒径をある程度揃えるため、パンチングスクリーンを用いることが好ましい。得られたタイタンビカスの花・つぼみの加工品の粒径、形態は特に限定されないが、水分量は10重量%未満であることが好ましい。なお、粉砕工程後、さらに別の工程(例えばフリーズドライ工程や殺菌工程など)を設けて、加工品を得るようにしてもよい。
【0024】
[(b)抽出工程]
抽出手法は特に限定されないが、例えば、溶媒抽出、超臨界抽出などが挙げられる。抽出溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数1-4のアルコール、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;ヘキサンなどの炭化水素類;ジエチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。これら抽出溶媒は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
後述の実施例で示すように、タイタンビカスの花(つぼみを含む)はケルセチン配糖体を多く含有する。ケルセチン配糖体を効率良く抽出する観点から、抽出溶媒は、水、アルコール類、これらの混合溶媒が好ましく、含水メタノール、含水エタノールがより好ましい。含水アルコールのアルコール濃度は、例えば30vol%~90vol%であり、50vol%~90vol%であってもよい。
【0026】
抽出温度は例えば20℃~80℃であり、例えば、浸漬抽出、振とう抽出、超音波抽出などを採用することができる。
【0027】
本発明において、タイタンビカス成分の形態は、特に限定されず、例えば、粉末状、液状(例えば、抽出溶媒を含む抽出液)などであってもよい。例えば、
図1におけるタイタンビカスの花・つぼみの加工品を各種剤に用いてもよい。
【0028】
本発明の各種剤に含有されるタイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物は、ケルセチンおよびケルセチン配糖体を含むことが好ましい。ケルセチン配糖体は、下記の式で表されるケルセチンのヒドロキシ基に糖が結合したものである。ケルセチン配糖体において、糖の結合位置やその数は特に限定されない。
【0029】
【0030】
ケルセチン配糖体における糖としては、単糖、オリゴ糖、多糖などが挙げられる。単糖としては、リボース、アラビノースなどのペントース、グルコース、マンノース、ガラクトースなどのヘキソースなどが挙げられ、オリゴ糖や多糖は、これらの単糖類が結合したものである。なお、糖の数が2以上である場合、糖は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、糖上のヒドロキシ基は他の置換基で置換されていてもよく、例えばエステル結合やエーテル結合に修飾されていてもよい。
【0031】
タイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物は、ケルセチン配糖体として、2種以上(より好ましくは3種以上)のケルセチン配糖体を含むことが好ましい。ケルセチン配糖体として、具体的には、
図2に示すような、ルチン(ケルセチンの3位に二糖であるβ-ルチノースが結合)、ヒペロシド(ケルセチンの3位に単糖であるガラクトースが結合)、およびイソクエルシトリン(ケルセチンの3位に単糖であるグルコースが結合)を含むことが好ましい。更に、Q3MG(ケルセチンの3位に6-マロニルグルコースが結合)、およびQ3Samb(ケルセチンの3位に二糖であるサンブビオースが結合)を含むことがより好ましい。また、含まれるケルセチン配糖体のうち、イソクエルシトリンを最も多く含むことが好ましい。
【0032】
図2に示すように、ケルセチン配糖体は、全てにおいて共通のケルセチン構造を有しており、結合している糖の種類や数が異なっている。例えば、ルチンは二糖が結合しているため、小腸では吸収されずに、大腸において腸内細菌による代謝を受けて吸収される。一方、1個のグルコースが結合しているイソクエルシトリンは、小腸において吸収される。また、ヒペロシドも大腸において腸内細菌による代謝を受けて吸収される。また、いずれのケルセチン配糖体も遊離のケルセチンアグリコンとして吸収される。
【0033】
タイタンビカス成分が複数のケルセチン配糖体(例えば、ルチン、ヒペロシド、およびイソクエルシトリン)を含むことで、互いに共通のケルセチン構造を有するとしても、体内に吸収される場所や吸収されるまでの時間に違いが生じることから、体内における活性保持に有効に働くと考えられる。また、イソクエルシトリンは、ケルセチンアグリコンやルチンよりも体内に吸収されやすいとの報告もあることから、上記タイタンビカス成分がイソクエルシトリンをより多く含む場合、体内への吸収性という面からも有利であると考えられる。
【0034】
なお、上記タイタンビカス成分には、上述した以外のケルセチン配糖体が含まれていてもよい。例えば、他のケルセチンルチノシド、他のケルセチングルコシド、他のケルセチンガラクトシド、ケルセチンラムノシド、ケルセチングルクロニドなどが含まれていてもよい。
【0035】
また、上記タイタンビカス成分には、ケルセチンおよびケルセチン配糖体以外の成分(その他成分)が含まれていてもよい。その他成分としては、フラボノイド(特にケンフェロール)を含むことが好ましい。なお、フラボノイドとして、ミリセチン、ルテオリン、アピゲニンは含まれていなくてもよい。
【0036】
ケルセチン配糖体などのポリフェノールは、摂取後、ただちに抱合という過程を経て、体外に排出される。特に、特定の一成分を大量に摂取した場合には、ほぼすべてが排出されてしまう。しかし、野菜や果物には類似の成分が複数含まれており、これらを一緒に摂取することで、一部の成分が抱合を受けずに体内に取り込まれる現象が起こるとされている。また、種類の異なる複数のフラボノイドを同時に摂取している日常的な食事においては、代謝パターンが食材の組み合わせによって変化するものと考えられている。ケルセチン配糖体をはじめとしたフラボノイドの体内における作用は十分に解明されているわけではないが、種類の異なる複数のフラボノイドを同時に摂取することは、単一の成分を大量に摂取した場合とは異なる作用が期待される。そのため、その他成分として他のフラボノイド(ケンフェロールなど)を含むことで、体内における吸収性に有利になると推察される。
【0037】
本発明のAGEs産生抑制剤は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物を含有し、AGEs産生抑制作用を示す。美容の研究において、近年、抗糖化が注目されている。糖化とはグルコースなどの還元糖が非酵素的にタンパク質と結合することで、それによって産生される物質を最終糖化産物(Advanced Glycation Endroducts)と呼んでいる。この最終糖化産物(AGEs)は、糖尿病合併症、動脈硬化、神経変性疾患などに関与していることが示唆されており、また、皮膚の老化にも密接な関連があることが明らかとなってきている。
【0038】
AGEsは加齢に伴って増加するが、皮膚のタンパク質であるコラーゲン部分でメイラード反応が生じると、タンパク質中のリジン残基のアミノ基などと糖のカルボニル基が非酵素的に反応し、AGEsが産生しコラーゲン部分同士を架橋させる。そして、架橋構造が形成されると、皮膚本来の弾力性が失われる。また、シワやたるみなどの発生にも繋がるとされている。このように、糖化を防ぐことは健康だけでなく美容にとっても重要であり、AGEs産生を抑制することで、アンチエイジングに繋がるといえる。
【0039】
本発明のラジカル消去剤は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物を含有し、ラジカル消去作用を示す。アンチエイジングにおいて、生体成分を酸化させる、活性酸素やフリーラジカルなどのラジカルもまた注目されている。皮膚は、特に、紫外線などの環境因子の刺激を直接受けることから、ラジカルが生成しやすく、生成したラジカルによって、例えばコラーゲンなどの生体組織が分解、変性、架橋などされ、その結果、皮膚のしわ形成や皮膚の弾力低下などの老化の原因になると考えられている。そのため、ラジカルを消去(捕捉)することで、しわ形成や弾力低下などの皮膚の老化や、ラジカルの酸化ストレスが原因となって誘発されるような疾患(糖尿病合併症、動脈硬化症、神経変性疾患など)を予防、改善できると考えられる。
【0040】
本発明の抗老化剤、AGEs産生抑制剤、ラジカル消去剤は、飲食品、医薬品、化粧品などとして、またはこれらに配合する素材として使用可能である。例えば、アンチエイジングなどの予防・改善などを謳った、または表示した保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品)などとして、またはこれらの添加剤として使用可能である。
【0041】
本発明の抗老化剤、AGEs産生抑制剤、ラジカル消去剤は、剤形や適用方法などについて特に限定されず、例えば経口用、皮膚外用剤などとすることができる。経口用の場合、剤形は、例えば、錠剤、液剤、粉末剤、カプセル剤などの形態にすることができる。皮膚外用剤の場合、剤形は、例えば、液剤、ローション剤、乳剤、軟膏剤、クリーム剤などの形態にすることができる。
【実施例】
【0042】
1.タイタンビカス末の製造
原料には、タイタンビカス(品種:タイタンレイア)のつぼみおよび花を用いた。原料となるタイタンビカスのつぼみは、つぼみの付け根の部分を切り取り、ガクが付いた状態で収穫した。また、開花したタイタンビカスの花もガクが付いた状態で収穫した。収穫したつぼみと花は、速やかにガクを取り除いた上で冷凍保存した。その後、冷凍したつぼみと花を、以下の表1に示す加工手順で粉末化および殺菌した。
【0043】
【0044】
粉末化および殺菌の結果、94.5kgのタイタンビカスのつぼみおよび花(冷凍品)から、7.89kgのタイタンビカスの粉末(以下、タイタンビカス末という)を製造した。得られたタイタンビカス末の水分量は5%台と非常に低く、さらに一般生菌数も食品としては十分に低く抑えられているため、常温(暗所が好ましい)での保管が可能である。
【0045】
2.タイタンビカス抽出物の製造
0.2gのタイタンビカス末を15ml容遠沈管に量り取り、さらに抽出液として1mlのメタノールを添加し、タイタンビカス末に含まれる成分をメタノールに溶出させた。抽出液は0.45μmのフィルター(フィルター素材:親水性混合セルロースエステル、直径25mm、孔径:0.45μm、株式会社島津ジーエルシー製)でろ過を行い、タイタンビカス抽出物を得た。この抽出物をサンプルとして、以下の条件で成分分析を行なった。
【0046】
3.タイタンビカス抽出物の成分分析
3-1.標準物質を用いたケルセチン配糖体の定量分析
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(測定波長254nm)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC):Agilent 1100 Series(アジレント社製)
カラム:ZORBAX Eclipse XDB-C18(アジレント社製;カラム内径4.6mm、カラム長さ250mm、粒子径5μm)
カラム温度:40℃
移動相A:アセトニトリル(100%)
移動相B:0.01%ギ酸
流速:1.000ml/min
各移動相の送液:移動相Aおよび移動相Bの混合比を表2に示すように変更
【0047】
【0048】
まず、上記分析条件において、標準物質のルチン・3水和物、ヒペロシド、イソクエルシトリン、ケルセチン・2水和物を分析し、検量線を作成した。各標準物質の所定量(mg)を量り、メタノールを所定量(ml)加えて標準原液を調製した。この標準原液を10倍希釈、100倍希釈して標準溶液を得た。標準原液および標準溶液をそれぞれ上記分析条件に付してHPLCにより分析を行った。得られたクロマトグラムのピーク面積を縦軸に、各標準物質の濃度(mg/ml)を横軸にとって検量線を作成した。
【0049】
得られたクロマトグラムにおいてケルセチンおよび各ケルセチン配糖体の検出時間は、以下のとおりである。
ルチン:約4.8min
ヒペロシド:約5.8min
イソクエルシトリン:約6.0min
ケルセチン:約16.2min
【0050】
続いて、上記分析条件において、タイタンビカス抽出物を分析した。得られたクロマトグラムを
図3に示す。
図3に示すように、タイタンビカス抽出物には少なくとも3種類のケルセチン配糖体(ルチン、イソクエルシトリン、ヒペロシド)およびケルセチンアグリコンが含まれることが判明した。また、定量分析の結果、タイタンビカス抽出物には、ルチンとイソクエルシトリンが多く含まれる一方、ヒペロシドやケルセチンアグリコンの含有量は少ないことが判明した(表4参照)。
【0051】
3-2.成分Aおよび成分Bの定量分析
図3に示すように、タイタンビカス抽出物には他にも2種類のピーク(成分A、成分B)が検出された。HPLCで分析した際、成分Aはルチンよりも前に検出されたため(保持時間:約4.1min)、ルチンよりも親水性が高く、分子量もルチンと同等以上であると推察された。一方、成分Bはイソクエルシトリンの後に検出されたため(保持時間:約6.6min)、イソクエルシトリンよりも疎水性が高く、分子量もイソクエルシトリンと同等以下であると推察された。これら成分Aおよび成分Bの吸収スペクトルは、ケルセチン配糖体の吸収スペクトルと酷似していたため、これら2つの成分もケルセチン配糖体であると推察された。
【0052】
次に、成分Aおよび成分Bを同定するために、フォトダイオードアレイ検出器付き液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(PDA付きLC-QTOF/MS)にタイタンビカス末から抽出した抽出液を注入し、両成分のピークについてマススペクトルおよびプロダクトイオンスペクトルの測定を行った。
【0053】
<QTOF/MSの分析条件>
LC:Nexera LC-30AD(株式会社島津製作所)
MS:maXis Impact(ブルガー・ダルトニクス株式会社)
検出器:フォトダイオードアレイ紫外可視検出器SPD-M20A(株式会社島津製作所)
カラム:ZORBAX Eclipse XDB-C18 直径3.0mm×250mm、粒子径5μm(アジレント・テクノロジー株式会社)
移動相A:0.01%ギ酸
移動相B:アセトニトリル(100%)
各移動相の送液:移動相Aおよび移動相Bの混合比を表3に示すように変更
【0054】
【0055】
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/min
注入量:10μL
イオン化法:ESI
キャピラリー電圧:4500V(ポジティブモード)
3000V(ネガティブモード)
ネブライザーガス:窒素 2.8bar(ポジティブモード)
1.6bar(ネガティブモード)
【0056】
上記分析により得られた精密質量数から、成分Aの組成式は、C26H28O16とされた。また、成分Aのプロダクトイオンスペクトルはルチンに類似していたため、構造中にケルセチン構造を有すると推察された。これらの結果より、成分AはQuercetin 3-Sambubioside(Q3Samb)と同定した。なお、Q3Sambは標準物質は市販されていないが、杜仲の葉に含まれることが知られていることから、杜仲の葉100%の市販の杜仲茶を分析したところ、上記成分Aと同じ検出時間でピークが確認された。
【0057】
同様に、上記分析により得られた精密質量数から、成分Bの組成式は、C24H22O15とされた。また、成分Bのプロダクトイオンスペクトルはイソクエルシトリンに類似していたため、成分Bも構造中にケルセチン構造を有すると推察された。これらの結果より、成分BはQuercetin 3-O-malonylglucoside(Q3MG)と同定した。なお、Q3MGも標準物質が市販されていないが、桑の葉に含まれることが知られていることから、桑の葉100%の市販の桑の葉茶を分析したところ、上記成分Bと同じ検出時間でピークが確認された。
【0058】
Q3SambおよびQ3MGの定量分析には、標準物質が入手可能なルチンなどが代替品として使用できることが報告されている。そこで、HPLCにおける保持時間が非常に近いルチンの検量線を用いて、Q3Sambの含有量の推定を試みた。また同様に、Q3MGの含有量の推定には、イソクエルシトリンの検量線を用いた。これらの定量分析の結果と、上記3-1.の定量分析の結果を併せて表4に示す。
【0059】
【0060】
表4に示すように、Q3SambとQ3MGはルチンに匹敵する含有量であり、最も多く含まれるイソクエルシトリンの半分程度の含有量であると推定された。含有量は概ね、(イソクエルシトリン)>(ルチン、Q3Samb、Q3MG)>(ヒペロシド)>(ケルセチン)の関係であった。イソクエルシトリン、ルチン、Q3Samb、Q3MGについては、タイタンビカス末100gあたり100mg以上含有され、特に、イソクエルシトリンはタイタンビカス末100gあたり500mg以上含有され、ルチンはタイタンビカス末100gあたり300mg以上含有されていた。
【0061】
3-3.その他のピークについて
図3に示すように、その他のピークとして、保持時間4.475分のピーク、保持時間7.467分のピーク、保持時間9.536分のピーク、および保持時間12.438分のピークも見られる。これらのピークの吸収スペクトルを解析した結果、今回同定できたケルセチン配糖体と一致した。このことから、これら4成分もケルセチン配糖体であると考えられる。
【0062】
また、タイタンビカス末について、ケルセチン配糖体以外のフラボノイドが含まれるかどうかについても分析を行った。なお、HPLCの分析方法は、上記3-1.と同じである。フラボノイドとしては、一般的に様々な食品に含まれるミリセチン、ルテオリン、ケンフェロール、アピゲニン(いずれもアグリコン)を定量分析した。その結果、タイタンビカス末において、ケンフェロールが検出された(
図4参照)。タイタンビカス末100gにおけるケンフェロールの含有量は0.50mg/100gであった。一方、ミリセチン、ルテオリン、アピゲニンは検出されなかった。
【0063】
これらのフラボノイドは様々な食品に含まれるが、ケルセチンとケンフェロールを同時に摂取できる食品は少ない。例えば、参考文献1(J.Agric.Food.Chem.Vol.49、p.3106-3112、2001)では、計62品目の食用植物におけるミリセチン、ケルセチン、ルテオリン、ケンフェロールおよびアピゲニンを分析しているが、ケルセチンとケンフェロールを含む植物は62品目中9品目(14.5%)であったことを報告している。このように、タイタンビカス末には微量ながらケルセチン配糖体以外のフラボノイドであるケンフェロールが含まれることも、体内における吸収性には有利であると考えられる。
【0064】
4.ガクにおけるケルセチン配糖体の有無の確認
食用のタイタンビカスの栽培時にはガクの部分に害虫が発生することがある。そのため、上記試験では衛生面を考慮してガクを取り除いている。この試験では、ガクの部分にケルセチン配糖体が含まれるかどうか確認を行った。ガク3個(生重量5.97g)をできるだけ細かく切り刻み、200ml溶のプラボトルに入れた。抽出液として80vol%含水エタノールを50ml投入し、室温で3日間静置した。抽出液は0.45μmのフィルター(フィルター素材:親水性混合セルロースエステル、直径25mm、孔径:0.45μm、株式会社島津ジーエルシー製)でろ過を行い、HPLC用の分析試料とした。HPLCの分析方法は、上記3-1.と同じである。分析の結果、ガクからはケルセチン配糖体は検出されなかった。
【0065】
この結果より、ガクを取り除いた上でタイタンビカス末などを生産した方が、衛生面やケルセチン配糖体の濃度の面で有益であると考えられる。例えば、ケルセチン配糖体を含まないガクも一緒に粉末化すると、ケルセチン配糖体の濃度が低下してしまうと考えられる。
【0066】
5.ケルセチン配糖体の成分比較
上記のように、上記試験においてタイタンビカス末およびその抽出物には、ケルセチンと少なくとも5種類のケルセチン配糖体が含まれることが確認された。ここで、比較対象として、ケルセチン配糖体を含むとされている杜仲茶および桑の葉茶についても、同様の分析条件で、ケルセチン配糖体の有無を分析した。結果を表5に示す。なお、表5中の「○」は検出したことを示し、「×」は非検出を示す。
【0067】
【0068】
表5に示すように、ケルセチンおよび5種類のケルセチン配糖体について比較したところ、成分の種類が最も多かったのは、タイタンビカス末であった。このことから、体内での吸収性や活性保持の面において、タイタンビカスは優れた素材であるといえる。
【0069】
6.ラジカル消去活性
参考文献2(食品機能研究法、光琳、2000年、p.218-220)に基づいて評価した。抽出液には50vol%エタノールを用いた。DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)ラジカル消去活性を吸光光度法(可視)で測定した結果、200μmolTE/gであった。なお、TEとは、Trolox相当量(Trolox equivalent)を指し、1μmolのTroloxが示す活性を単位とした。
【0070】
上記測定の結果、タイタンビカス末には、DPPHラジカルを消去する活性があることが判明した。なお、別の実験により、標準物質として用いたルチン、ヒペロシド、イソクエルシトリン、およびケルセチンにも、DPPHラジカルを消去する活性があることも確認された。これらのことから、タイタンビカス末におけるDPPHラジカル消去活性には、ケルセチンおよび各種ケルセチン配糖体が関与していることが示唆された。
【0071】
7.AGEs産生抑制活性
D-グルコースおよびウシ血清アルブミン(BSA)の糖化反応により産生するAGEs由来の蛍光強度を指標として、タイタンビカス末存在下での蛍光強度を測定することで、タイタンビカス末がAGEs産生に与える影響を検討した。
【0072】
タイタンビカス末に50vol%エタノールを加え、振とう機を用いて10分間振とうした後、10分間超音波処理した。その後、遠心分離(3000r/min、10分間)し、上清を分取した。得られた上清を50mg/mL試験液とした。
【0073】
1.5mL容マイクロチューブにBSA溶液100μL、D-グルコース溶液500μL、試験液20μLおよびリン酸緩衝液380μLを加えた後、60℃で48時間加温したものを反応溶液とした。試験液の代わりにリン酸緩衝液を加えたものを未処置対照、D-グルコース溶液の代わりにリン酸緩衝液を加えたものをブランクとして同様の試験を行なった。反応溶液20μLを96ウェルプレートに分取し、水200μLを加えて混合した。
【0074】
マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e,Molecular Devices,LLC.)を用い、AGEs由来の蛍光強度を測定した(励起波長370nm、蛍光波長440nm)。
【0075】
未処置対照の蛍光強度に対する各反応溶液の蛍光強度から、下記の式(1)、(2)によりAGEs産生抑制率を算出した。
AGEs産生率(%)=[(反応溶液の蛍光強度)/(未処置対照の蛍光強度)]×100・・・(1)
AGEs産生抑制率(%)=100-AGEs産生率・・・(2)
なお、上記式(1)中の各蛍光強度はブランクの蛍光強度を差し引いた値である。
【0076】
【0077】
上記測定の結果、終濃度1mg/mLのタイタンビカス末において、AGEsの産生を27%抑制できることが判明した。AGEs産生抑制率が30%を超える食品素材(スパイスなど)は少なく、タイタンビカス末のこの結果は、タイタンビカス末には一定の抗糖化作用があることを示すものであり、食品素材などとして有用であるといえる。様々なフラボノイド類の中でもケルセチンは高い抗糖化作用を示すともいわれており、タイタンビカス末におけるAGEs産生抑制活性には、ケルセチンおよび各種ケルセチン配糖体が関与していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の抗老化剤、AGEs産生抑制剤、ラジカル消去剤は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)またはその抽出物を含有することにより抗老化作用、AGEs産生抑制作用、ラジカル消去作用を示すので、飲食品、医薬品、化粧品などの幅広い用途に有効活用でき、省資源化に有効である。具体的には、各種剤は、抗酸化を訴求点とした食品素材や美容素材などとして活用できる。