(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/04 20060101AFI20241101BHJP
F04C 18/02 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
F04B39/04 C
F04B39/04 F
F04C18/02 311Z
(21)【出願番号】P 2023167811
(22)【出願日】2023-09-28
【審査請求日】2023-09-28
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田坂 駿
(72)【発明者】
【氏名】松永 和行
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼妻 裕子
(72)【発明者】
【氏名】黒野 亮
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/202676(WO,A1)
【文献】特開2017-115580(JP,A)
【文献】特開平11-101191(JP,A)
【文献】特開2003-003974(JP,A)
【文献】特開2021-067269(JP,A)
【文献】特開2021-028495(JP,A)
【文献】特開2022-019554(JP,A)
【文献】特開2022-019027(JP,A)
【文献】特開2003-148346(JP,A)
【文献】特開平04-252894(JP,A)
【文献】特開2008-202455(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0328364(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0040672(US,A1)
【文献】特開平07-197893(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03569863(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/02、18/02
23/00-29/12
F04B 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機部と、前記圧縮機構部および前記電動機部を収容した密閉容器と、前記電動機部の駆動力を前記圧縮機構部に伝達する回転軸と、摺動部へ供給される潤滑油を前記密閉容器の底部に貯留する油溜めと、を備えた圧縮機であって、
前記作動流体は、前記圧縮機への吸入時における液密度が前記潤滑油よりも小さく、
前記電動機部の固定子よりも上方、前記電動機部の固定子よりも下方、または、これらの両方に、前記固定子を構成する巻線部の表面に対向する金属板部品を備え、
前記固定子は、前記固定子を構成する鉄心に嵌め合わされて前記鉄心と前記巻線部とを電気的に絶縁する絶縁部品を備え、
前記金属板部品は、前記巻線部との間に前記絶縁部品を挟んで設置される圧縮機。
【請求項2】
作動流体を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機部と、前記圧縮機構部および前記電動機部を収容した密閉容器と、前記電動機部の駆動力を前記圧縮機構部に伝達する回転軸と、摺動部へ供給される潤滑油を前記密閉容器の底部に貯留する油溜めと、を備えた圧縮機であって、
前記作動流体は、前記圧縮機への吸入時における液密度が前記潤滑油よりも小さく、
前記電動機部の固定子よりも上方、前記電動機部の固定子よりも下方、または、これらの両方に、前記固定子を構成する巻線部の表面に対向する金属板部品を備え、
前記固定子は、前記固定子を構成する鉄心のスロットに挿入されて前記鉄心と前記巻線部とを電気的に絶縁する絶縁材を備え、
前記金属板部品は、前記巻線部との間に前記絶縁材を挟んで設置される圧縮機。
【請求項3】
作動流体を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機部と、前記圧縮機構部および前記電動機部を収容した密閉容器と、前記電動機部の駆動力を前記圧縮機構部に伝達する回転軸と、摺動部へ供給される潤滑油を前記密閉容器の底部に貯留する油溜めと、を備えた圧縮機であって、
前記作動流体は、前記圧縮機への吸入時における液密度が前記潤滑油よりも小さく、
前記電動機部の固定子よりも上方、前記電動機部の固定子よりも下方、または、これらの両方に、前記固定子を構成する巻線部の表面に対向する金属板部品を備え、
前記固定子は、前記固定子を構成する鉄心に嵌め合わされて前記鉄心と前記巻線部とを電気的に絶縁する絶縁部品と、前記絶縁部品の上方に設置されて前記巻線部および絶縁部品を覆う絶縁部品カバーと、を備え、
前記金属板部品は、前記巻線部との間に前記絶縁部品カバーを挟んで設置される圧縮機。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の圧縮機であって、
前記金属板部品は、前記巻線部の表面に対する最短距離が0.25mmを超え20mm以下となるように設置されている圧縮機。
【請求項5】
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の圧縮機であって、
前記金属板部品は、前記固定子を構成する鉄心の電磁鋼板よりも鉄損値および板厚が大きい材料で形成されている圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体の潤滑油への溶け込みを抑制する機構を備えた圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機、冷凍機等の冷凍空調機器の冷媒としては、ハイドロフルオロカーボン(HFC)が用いられている。HFCは、オゾン破壊係数(Ozone Depletion Potential:ODP)がゼロに近いが、地球温暖化係数(Global Warming Potential:GWP)が高い温室効果ガスである。そのため、地球温暖化の防止の観点から、HFCの使用量や排出量の削減や、GWPが低い自然冷媒への転換が進められている。
【0003】
冷媒を転換するにあたっては、冷媒回路に組み込まれた圧縮機の信頼性や、冷媒の安全性等を確保する必要がある。圧縮機の信頼性を確保するためには、圧縮機の摺動部の潤滑性を確保することが重要である。圧縮機には、摺動部の潤滑のために潤滑油が封入される。潤滑油の一部は、冷媒と相溶して冷媒と共に冷媒回路を循環する。冷媒回路に組み込まれた圧縮機では、潤滑油が溶け込んだ冷媒が圧縮される。
【0004】
潤滑油は、冷媒が過剰に溶け込むと、粘度が低下して潤滑作用が弱くなることが知られている。そのため、冷媒を転換するにあたっては、冷媒が過剰に溶け込んだ状態においても、潤滑油を高粘度に維持することが重要となる。冷媒が潤滑油に対して過剰に溶け込む事態や、多量の潤滑油が冷媒と共に圧縮機から吐出される事態を防ぐことが望まれる。
【0005】
特許文献1には、油撹拌抑制要素を備えた圧縮機が記載されている。この圧縮機では、油撹拌抑制要素によって、圧縮機の底部に貯留された潤滑油が電動機の回転子で攪拌されるのを抑制している。潤滑油の攪拌を抑制することによって、圧縮機の摺動部の潤滑性を悪化させる事態、例えば、潤滑油への気泡の混入や、気泡が混入した潤滑油の摺動部への給油を防止している。
【0006】
特許文献2には、潤滑油を加熱する油加熱手段を備えた圧縮機が記載されている。油加熱手段は、密閉容器内で発生した熱を密閉容器の底部に貯留された潤滑油に伝達して潤滑油を加熱している。潤滑油を加熱することによって、液化による冷媒の粘度の低下や、潤滑油を攪拌する際の冷媒の発泡を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-347387号公報
【文献】特開2009-133233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ODPやGWPが低い自然冷媒としては、二酸化炭素や、アンモニアや、プロパン、イソブタン等の炭化水素等がある。プロパン等の炭化水素系冷媒は、エネルギ効率が比較的高いため、冷凍空調機器への普及が広く進められている。しかし、冷媒回路で炭化水素系冷媒を用いる場合、圧縮機の摺動部の潤滑性を確保するのが難しいという問題がある。
【0009】
プロパン等の炭化水素系冷媒は、潤滑油との相溶性が高いため、従来の冷媒と比較して、潤滑油に対して多量に溶け込み易い。冷媒が潤滑油に溶け込むと、潤滑油の粘度が低下するため、圧縮機の摺動部に油膜が形成され難くなる。冷媒の転換に伴って、圧縮機の摺動部の潤滑性が悪くなり、圧縮機の信頼性が低下するという問題を生じる。
【0010】
また、炭化水素系冷媒は、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)等とは異なり、圧縮機の摺動部にハロゲン化金属等の潤滑成分を生成することがない。炭化水素系冷媒を用いる場合、冷媒由来の潤滑成分による作用を期待できないため、摺動部の潤滑性を確保するのがより難しくなる。
【0011】
また、冷媒回路で炭化水素系冷媒を用いる場合、冷媒回路を循環する冷媒量を確保するのが難しくなるという問題がある。炭化水素系冷媒は、潤滑油に溶け込み易いため、圧縮機の内部に滞留し易くなり、冷媒回路を循環する冷媒量が少なくなる。冷媒回路を循環する冷媒量が少なくなると、冷凍サイクル効率や冷凍能力が低下するという問題を生じる。
【0012】
冷媒回路を循環する冷媒量を確保する方法としては、冷媒回路に対する冷媒の封入量を増加させる方法もある。しかし、プロパン等の炭化水素系冷媒は、可燃性があるため、安全性の観点から封入量が制限される。圧縮機の作動流体が潤滑油との相溶性が高い種類である場合、作動流体が潤滑油に対して過剰に溶け込む事態や、多量の潤滑油が作動流体と共に圧縮機から吐出される事態を抑制して、圧縮機の摺動部の潤滑性や作動流体回路を循環する作動流体量を確保することが望まれる。
【0013】
特許文献1では、油撹拌抑制要素によって、潤滑油中への気泡の混入を抑制すると共に、潤滑油が冷媒ガスと一緒に密閉容器の外部に出ていくのを抑制している。しかし、油撹拌抑制要素は、回転子の下端全面を略被う大きさの円板状であり、潤滑油に溶け込んだ冷媒を積極的に分離するものではない。冷媒と潤滑油との相溶性が高い場合、潤滑油の液面よりも上方で、冷媒の潤滑油に対する溶け込みが起こるため、圧縮機の摺動部の潤滑不良や、冷媒回路を循環する冷媒量の低下に繋がる可能性がある。
【0014】
特許文献2では、油加熱手段によって、密閉容器の底部に貯留された潤滑油を加熱している。しかし、油加熱手段は、密閉容器内で発生した熱を密閉容器の底部に貯留された潤滑油に伝達するものであり、密閉容器内にミスト状に飛散した潤滑油に対する作用を示すものではない。冷媒と潤滑油との相溶性が高い場合、ミスト状に飛散した潤滑油にも冷媒が溶け込むため、圧縮機の摺動部の潤滑不良や、冷媒回路を循環する冷媒量の低下を生じる可能性がある。
【0015】
そこで、本発明は、潤滑油に対する作動流体の溶け込みを抑制して、摺動部の潤滑性と圧縮機構から吐出される作動流体量とを高水準に保つことができる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために本発明に係る圧縮機は、作動流体を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機部と、前記圧縮機構部および前記電動機部を収容した密閉容器と、前記電動機部の駆動力を前記圧縮機構部に伝達する回転軸と、摺動部へ供給される潤滑油を前記密閉容器の底部に貯留する油溜めと、を備えた圧縮機であって、前記作動流体は、前記圧縮機への吸入時における液密度が前記潤滑油よりも小さく、前記電動機部の固定子よりも上方、前記電動機部の固定子よりも下方、または、これらの両方に、前記固定子を構成する巻線部の表面に対向する金属板部品を備える。前記固定子は、前記固定子を構成する鉄心に嵌め合わされて前記鉄心と前記巻線部とを電気的に絶縁する絶縁部品を備え、前記金属板部品は、前記巻線部との間に前記絶縁部品を挟んで設置されるか、または、前記固定子は、前記固定子を構成する鉄心のスロットに挿入されて前記鉄心と前記巻線部とを電気的に絶縁する絶縁材を備え、前記金属板部品は、前記巻線部との間に前記絶縁材を挟んで設置されるか、または、前記固定子は、前記固定子を構成する鉄心に嵌め合わされて前記鉄心と前記巻線部とを電気的に絶縁する絶縁部品と、前記絶縁部品の上方に設置されて前記巻線部および絶縁部品を覆う絶縁部品カバーと、を備え、前記金属板部品は、前記巻線部との間に前記絶縁部品カバーを挟んで設置される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、潤滑油に対する作動流体の溶け込みを抑制して、摺動部の潤滑性と圧縮機構から吐出される作動流体量とを高水準に保つことができる圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る圧縮機の一例を示す断面図である。
【
図2】電動機部を構成するステータの一例を示す斜視図である。
【
図3】電動機部を構成するステータの巻線部に対する金属板部品の設置例を示す斜視図である。
【
図4】圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す平面図である。
【
図5】圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す斜視図である。
【
図6】圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す平面図である。
【
図7】圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す斜視図である。
【
図8】圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す平面図である。
【
図9】圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す斜視図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る圧縮機の一例を示す断面図である。
【
図11】電動機部を構成するインシュレータの一例を示す斜視図である。
【
図12】電動機部を構成するインシュレータの一例を示す斜視図である。
【
図13】電動機部を構成するステータに対する金属板部品の組み付け例を示す斜視図である。
【
図14】電動機部を構成するステータの巻線部に対する金属板部品の設置例を示す斜視図である。
【
図15】電動機部を構成するステータの巻線部に対する金属板部品の設置例を示す斜視図である。
【
図16】電動機部を構成するステータの巻線部に対する金属板部品の設置例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る圧縮機について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る圧縮機の一例を示す断面図である。
図1には、圧縮機の一例として、スクロール式の密閉型電動圧縮機を例示する。
図1に示すように、本実施形態に係る圧縮機1は、作動流体を圧縮する圧縮機構部(2,3,4)、圧縮機構部を駆動する電動機部(11,12)、圧縮機構部および電動機部を収納した密閉容器5、電動機部の駆動力を圧縮機構部に伝達する回転軸、回転軸を通じて摺動部へ供給される潤滑油を密閉容器の底部に貯留する油溜め等を備える。
【0021】
圧縮機構部は、固定部と可動部とを組み合わせて形成した圧縮室で作動流体を圧縮する圧縮機構を形成する。圧縮機構部は、固定部である固定スクロール2、可動部である旋回スクロール3、これらを支持するフレーム4等で構成される。
図1において、圧縮機構部は、密閉容器5の内部の上部側に収容されている。
【0022】
フレーム4は、密閉容器5の内部の上部側に配置されており、密閉容器5に溶接等で固定されている。固定スクロール2は、フレーム4の上方に配置されており、フレーム4にボルト等で固定されている。旋回スクロール3は、固定スクロール2とフレーム4との間に配置されており、クランクシャフト6によって回動自在に支持されている。
【0023】
固定スクロール2は、円板状の台板2aと、台板2a上に渦巻状に設けられた固定ラップ2bと、を備える。固定ラップ2bは、台板2aの下面から下方に向けて突出するように台板2a上に立設されている。台板2aのスクロールの外側には、台板2aを貫通するように吸入孔2cが形成されている。台板2aのスクロールの中心側には、台板2aを貫通するように排出孔2dが形成されている。
【0024】
旋回スクロール3は、円板状の台板3aと、台板3a上に渦巻状に設けられた旋回ラップ3bと、を備える。旋回ラップ3bは、台板3aの上面から上方に向けて突出するように台板3a上に立設されている。台板3aの下面側の中央には、下方に向けて突出するように円筒状のボス3cが形成されている。ボス3cの内側には、すべり軸受である旋回軸受3dが形成されている。
【0025】
固定スクロール2と旋回スクロール3とは、固定ラップ2bと旋回ラップ3bとが対向する向きに配置される。固定ラップ2bと旋回ラップ3bとは、実質的に同一形状の渦巻状に設けられて互いに噛み合わされる。固定ラップ2bと旋回ラップ3bとが噛み合うことによって、固定スクロール2の台板2aの下面と旋回スクロール3の台板3aの上面との間に圧縮室7が形成される。
【0026】
圧縮室7は、作動流体を圧縮するための空間である。圧縮室7は、固定スクロール2の台板2aを上面、旋回スクロール3の台板3aを下面、固定ラップ2bと旋回ラップ3bを側面として形成される。圧縮室7は、旋回スクロール3が固定スクロール2に対して旋回運動すると、固定ラップ2bおよび旋回ラップ3bが形成するスクロールの外側から中心側に移動する。圧縮室7の容積は、スクロールの中心側に移動するに伴って縮小する。
【0027】
クランクシャフト6は、電動機部の駆動力を圧縮機構部に伝達する回転軸を構成する。クランクシャフト6の上端には、偏心ピン6aが設けられている。偏心ピン6aは、クランクシャフト6の主軸部から偏心しており、旋回スクロール3の旋回軸受3dに嵌め込まれる。旋回スクロール3の下面側には、旋回スクロール3の自転を防止するオルダムリング8が係合している。
【0028】
フレーム4の中心側には、フレーム4を上下に貫通するシャフト孔4aが形成されている。シャフト孔4aの上部には、転がり軸受である主軸受9が固定されている。シャフト孔4aは、すべり軸受として機能する。クランクシャフト6の主軸部は、主軸受9とシャフト孔4aによって回転自在に支持される。
【0029】
電動機部は、圧縮機構部を駆動する電動機によって構成される。電動機部は、固定子であるステータ11、回転子であるロータ12等で構成される。
図1において、電動機部は、密閉容器5の内部の圧縮機構部の下方、且つ、油溜め17の上方に収容されている。油溜め17は、密閉容器5の底部に形成されている。
【0030】
ステータ11は、密閉容器5の内部のフレーム4の下方に配置されており、密閉容器5に焼き嵌め等で固定されている。ステータ11は、固定子の鉄心であるステータコアや、導線がコイル状に巻回されて形成された巻線部を備える。
図1において、ステータ11の上部側には、上方に向けて突出するように上部コイルエンド11aが形成されている。ステータ11の下部側には、下方に向けて突出するように下部コイルエンド11bが形成されている。
【0031】
図1において、ステータ11は、ステータコアの上方および下方の両方にインシュレータを備えない構成とされている。インシュレータは、樹脂成形された絶縁部品であり、ステータコアに嵌め合わされてステータコアと巻線部とを電気的に絶縁する。上部コイルエンド11aおよび下部コイルエンド11bは、インシュレータによって囲まれることなく、ステータコアの上下に突出している。
【0032】
ロータ12は、ステータ11の中心側に設けられたロータ孔11cに配置されている。ロータ12は、回転子の鉄心であるロータコアや、磁界を発生させる永久磁石を備える。永久磁石は、ロータコアのスロットに収納される。スロットは、ロータコアの周方向に沿って互いに所定の間隔を空けて複数が設けられる。ロータ12には、クランクシャフト6が結合している。クランクシャフト6は、ロータ12を上下に貫通するように圧入等によって固定される。ロータ12は、クランクシャフト6によって回転自在に支持される。
【0033】
ロータ12の下方には、バランスウェイト15が取り付けられている。バランスウェイト15は、例えば、平面視で部分円環状を呈する柱状に設けられる。バランスウェイト15は、ロータ12に対する片側に偏在するように、ロータ12の周方向に沿って配置される。バランスウェイト15によると、旋回スクロール3の旋回運動による重心の移動を抑制できるため、旋回運動に伴う振動や荷重負荷が軽減される。
【0034】
クランクシャフト6の下端には、給油管16が接続されている。密閉容器5の底部には、潤滑油を貯留するための油溜め17が形成される。給油管16の下端側は、電動機部よりも下方に突出して、油溜め17に溜められた潤滑油に浸漬される。クランクシャフト6の内部には、クランクシャフト6を上下に貫通するように不図示の給油孔が形成される。給油孔は、給油管16と背圧室18や圧縮室7との間を連通する。
【0035】
旋回スクロール3とフレーム4との間には、背圧室18が形成される。背圧室18は、不図示の貫通孔を介して、吸入側の圧縮室7やクランクシャフト6の給油孔と連通する。背圧室18は、圧縮機構部の動作中に、圧縮機1の吐出圧力と吸入圧力との間の中間圧力となる。背圧室18や吸入側の圧縮室7には、油溜め17に溜められた潤滑油が圧力差によって汲み上げられる。潤滑油の汲み上げによる背圧室17の昇圧によって、旋回スクロール3を固定スクロール2に押し付ける力が得られる。
【0036】
潤滑油は、密閉容器5の底部の油溜め17に貯留されて、給油管8やクランクシャフト6の給油孔を通じて、圧縮機構部や軸受の摺動部に供給される。潤滑油は、摺動部の潤滑や、部材間の隙間の密閉や、摺動部に生じた摩擦熱の冷却等を行う。潤滑油としては、ポリオールエステル油(POE)、ポリビニルエーテル油(PVE)、ポリアルキレングリコール油、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油等の任意の種類を用いることができる。
【0037】
密閉容器5は、圧縮機構部および電動機部を上下に配置して収容している。密閉容器5は、容器の底部を形成する深皿状の底蓋5a、容器の胴部を形成する円筒状の外筒5b、容器の頂部を形成する上蓋5c等で構成される。底蓋5aや上蓋5cと外筒5bとは、溶接等で接合される。密閉容器5は、気密性が高い密閉型のチャンバとして設けられる。
【0038】
密閉容器5の上部には、密閉容器5を貫通するように吸入管21が接続される。吸入管21は、密閉容器5の内部に作動流体を吸入する配管である。吸入管21の一端は、外部の作動流体回路等に接続される。吸入管21の他端は、固定スクロール2の吸入孔2cに接続される。吸入管21は、吸入孔2cを通じて、スクロールの外側に位置する吸入側の圧縮室7と連通する。
【0039】
密閉容器5の内部は、圧縮機構部よりも上方の上部空間22と、圧縮機構部よりも下方、且つ、電動機部よりも上方の中部空間23と、電動機部よりも下方の下部空間24とに区画されている。油溜め17は、密閉容器5の底部であって、下部空間24の下側に設けられている。
【0040】
固定スクロール2の外側側面と密閉容器5の内面との間や、フレーム4の外側側面と密閉容器5の内面との間には、固定スクロール2やフレーム4を上下に貫通するように上部側通路25が形成される。上部空間22と中部空間23とは、上部側通路25を介して互いに連通する。上部側通路25は、圧縮室7から排出された作動流体が通流する通路となる。
【0041】
ステータ11の外側側面と密閉容器5の内面との間には、ステータ11を上下に貫通するように下部側通路26が形成される。中部空間23と下部空間24とは、下部側通路26を介して互いに連通する。また、中部空間23と下部空間24とは、ステータ11とロータ12との間の隙間を介して互いに連通する。下部側通路26やステータ11とロータ12との間の隙間は、作動流体に同伴していた潤滑油が作動流体から分離して流下する通路となる。
【0042】
密閉容器5の側部には、密閉容器5を貫通するように吐出管27が接続される。吐出管27は、密閉容器5の内部から作動流体を吐出する配管である。吐出管27の一端は、中部空間23に接続される。吐出管27の他端は、外部の作動流体回路等に接続される。密閉容器5の内部は、吐出管27を通じて、外部の作動流体回路等と連通する。
【0043】
圧縮機1の動作は、次のように行われる。圧縮機1の圧縮機構部は、ステータ11の巻線部に三相交流が通電されることによって駆動される。三相交流の通電によって、ステータ11の巻線部とロータ12の永久磁石に回転磁界が発生して、電磁力によるロータ12の回転運動が駆動される。クランクシャフト6は、ロータ12の回転運動が駆動されると、ロータ12と共に一体的に回転運動する。偏心ピン6aが設けられたクランクシャフト6の回転運動によって、固定スクロール2に対して偏心した旋回スクロール3の旋回運動が駆動される。
【0044】
圧縮室7は、旋回スクロール3の旋回運動に伴って、吸入孔2cに連通するスクロールの外側から、排出孔2dに連通するスクロールの中心側に移動する。圧縮室7の容積は、スクロールの外側から中心側への移動に伴って縮小する。旋回スクロール3の旋回運動に伴って、スクロール上における圧縮室7の移動と容積の縮小が繰り返される。この過程で、圧縮室7に流入する作動流体の圧縮が連続的に行われる。
【0045】
作動流体は、外部の作動流体回路等から、吸入管21や吸入孔2cを通じて、スクロールの外側に位置する吸入側の圧縮室7に流入する。そして、圧縮室7の移動に伴って、吸入圧力よりも高圧に圧縮される。その後、スクロールの中心側に位置する吐出側の圧縮室7から排出孔2dを通じて上部空間22に排出される。続いて、上部空間22から上部側通路25を通じて中部空間23に流れる。そして、中部空間23から吐出管27を通じて外部の作動流体回路等に吐出される。
【0046】
潤滑油は、油溜め17から背圧室18や圧縮室7に汲み上げられて、圧縮機構部や主軸受9、下軸受、旋回軸受3d等の摺動部を潤滑させる。潤滑油の一部は、作動流体と相溶して、密閉容器5の内部や、外部の作動流体回路を流れる。潤滑油の他の一部は、密閉容器5の内部にミスト状に飛散したり、凝縮して液滴となって密閉容器5の底部側に流下したりする。液化した潤滑油は、下部側通路26やステータ11とロータ12との間の隙間を通じて油溜め17に戻る。
【0047】
一般に、作動流体が潤滑油に対して過剰に溶け込むと、潤滑油による潤滑作用が低下することが知られている。作動流体が潤滑油に溶け込むと、潤滑油の粘度が低下するため、摺動部に油膜が形成され難くなる。作動流体が潤滑油に対して過剰に溶け込むと、摺動部の潤滑性が悪化して、焼き付きや、摩耗等が起こり易くなる。このような場合、圧縮機構が正常に動作しなくなり、圧縮機の信頼性が低下するという問題を生じる。
【0048】
また、作動流体が潤滑油に対して過剰に溶け込むと、圧縮機から吐出される作動流体量が減少するという問題がある。作動流体は、潤滑油に過剰に溶け込むと、潤滑油と共に圧縮機の内部に滞留し易くなり、圧縮機から吐出され難くなる。外部の作動流体回路等に吐出される作動流体量が減少するため、圧縮機が適切に機能しなくなり、圧縮機の信頼性が低下するという問題を生じる。
【0049】
これらの問題は、作動流体が炭化水素である場合に顕著になる。炭化水素は、一般的な炭化水素系潤滑油、エステル系潤滑油、エーテル系潤滑油等との相溶性が比較的高いため、圧縮機に封入される潤滑油に対して溶け込み易い。作動流体が炭化水素である場合、潤滑油の粘度の低下や、圧縮機から吐出される作動流体量の低下が起こり易くなる。
【0050】
冷凍空調機器の冷媒回路に関しては、炭化水素系冷媒を用いる場合、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)等を用いる場合と比較して、圧縮機の摺動部の潤滑性の悪化や、冷媒回路を循環する冷媒量の減少が起こり易くなる。冷媒回路を循環する冷媒量の減少によって、冷凍サイクルの効率や冷凍能力が低下するという問題を生じる。
【0051】
また、炭化水素系冷媒を用いる場合、圧縮機の摺動部に冷媒由来の潤滑成分が生成されなくなる。HFO、HFC等を用いる場合、フッ化鉄、塩化鉄等のハロゲン化金属が摺動部等に生成されるため、ハロゲン化金属による潤滑作用や耐摩耗性が得られる場合がある。しかし、作動流体が炭化水素である場合には、冷媒由来の潤滑成分が生成されないため、圧縮機の摺動部の潤滑性の悪化や、摺動部の摩耗が起こり易くなる。
【0052】
圧縮機の摺動部の潤滑性の悪化や、圧縮機から吐出される作動流体量の低下を抑制するためには、作動流体が潤滑油に対して過剰に溶け込むのを抑制することや、潤滑油に溶け込んだ作動流体を圧縮機から吐出される前に潤滑油から分離することが有効である。作動流体と潤滑油とは、温度が高いほど相分離し易くなる傾向があるため、冷凍サイクルに大きな影響を与えない範囲で、温度を上昇させることが有効である。
【0053】
そこで、本実施形態に係る圧縮機1では、作動流体が潤滑油に溶け込むのを抑制する作用や、潤滑油に溶け込んだ作動流体を潤滑油から分離する作用等を得る観点から、密閉容器5の内部に金属板部品30を設置する。金属板部品30は、
図1に示すように、ステータ11を構成する巻線部の表面に対向するように配置される。
【0054】
金属板部品30は、良導体である金属によって形成される。金属板部品30は、ステータ11の巻線部が発生させる磁界によって電磁誘導を起こし、誘導電流によるジュール熱を生じる材料によって形成される。金属板部品30は、絶縁距離を確保するために、ステータ11の巻線部に直接的に接触することなく、ステータ11の巻線部に近接して配置される。
【0055】
このような良導体によって形成される金属板部品30によると、金属板部品30の周囲の潤滑油や作動流体を電磁誘導による誘導加熱によって昇温させることができる。温度の上昇によって作動流体と潤滑油とを相分離し易くして、作動流体が潤滑油に溶け込むのを抑制する作用や、潤滑油に溶け込んだ作動流体を潤滑油から分離する作用を得ることができる。そのため、圧縮機1から吐出される作動流体量の低下や、吐出管27を通じた潤滑油の過剰な吐出を抑制できる。
【0056】
また、金属板部品30は、板状の部位を主体とする構造に設けられる。金属板部品30は、密閉容器5の内部にミスト状に飛散する潤滑油を板状の部位に衝突させて捕集する。
図1において、金属板部品30は、内側フランジを有する円筒状に設けられている。金属板部品30は、ステータ11を構成する巻線部の上部コイルエンド11aや下部コイルエンド11bを囲むように配置されている。
【0057】
このような板状の部位を有する金属板部品30によると、ミスト状に飛散する潤滑油を板状の部位に衝突させて、潤滑油を効率的に液化させることができる。密閉容器5の内部に飛散する潤滑油を捕集して、液滴化させて油溜め17に戻すことができるため、作動流体がミスト状に飛散する潤滑油に溶け込むのを抑制する作用や、潤滑油に溶け込んだ作動流体を潤滑油から分離する作用を得ることができる。そのため、圧縮機1から吐出される作動流体量の低下や、吐出管27を通じた潤滑油の過剰な吐出を抑制できる。
【0058】
図1において、金属板部品30は、圧縮機1の内部のステータ11よりも上方およびステータ11よりも下方の両方に設置されている。ステータ11よりも上方には、上部側金属板部品30aが設置されている。ステータ11よりも下方には、下部側金属板部品30bが設置されている。
【0059】
このような配置であると、ステータ11よりも上方および下方の両方において、上下のコイルエンド11a,11bによる電磁誘導を起こすことができるため、周囲の潤滑油や作動流体を誘導加熱によって効率的に昇温させることができる。また、上部コイルエンド11aの上面や外側側面や、下部コイルエンド11bの下面や外側側面を、上部側金属板部品30aや下部側金属板部品30bで覆うことができるため、中部空間23や下部空間24に飛散する潤滑油を衝突させて捕集できる。
【0060】
但し、金属板部品30は、ステータ11よりも上方、ステータ11よりも下方、および、これらの両方のうち、いずれに設置されてもよい。金属板部品30は、潤滑油の粘度の低下や圧縮機1から吐出される作動流体量の低下を確実に抑制する観点からは、ステータ11よりも上方に少なくとも設置されることが好ましい。
【0061】
また、金属板部品30は、ステータ11の巻線部のうち、上下のコイルエンド11a,11b以外の部位に対向するように配置されてもよい。金属板部品30は、ステータ11を構成する巻線部の上面、巻線部のコイルエンドの外周側の側面、巻線部のコイルエンドの内周側の側面、および、巻線部の下面のうち、いずれか一以上に対向するように設置できる。金属板部品30を周囲と干渉しないように設置することによって、巻線部が発生させる磁界による電磁誘導や、ミスト状に飛散する潤滑油との衝突を生じさせることができる。
【0062】
圧縮機1によって圧縮される作動流体は、圧縮機1への吸入時における液密度が潤滑油よりも小さい流体であることが好ましい。圧縮機1への吸入時における液密度は、吸入時の圧力および温度に依存する。作動流体の液密度が潤滑油の液密度よりも小さいと、ミスト状に飛散する潤滑油を衝突させて液化させたとき、潤滑油に相溶していた作動流体が潤滑油から分離し易くなる。そのため、このような作動流体と潤滑油との組み合わせであると、金属板部品30による作用がより有効になる。
【0063】
圧縮機1によって圧縮される作動流体は、炭化水素であることが好ましく、プロパン、プロピレン、または、イソブタンであることがより好ましい。炭化水素は、潤滑油との相溶性が高いため、潤滑油に対して多量に溶け込み易い。また、プロパンやプロピレンやイソブタンは、一般的な潤滑油と比較して、圧縮機1への吸入時における液密度が小さい。そのため、これらの作動流体を用いると、金属板部品30による作用がより有効になる。
【0064】
図2は、電動機部を構成するステータの一例を示す斜視図である。
図2には、圧縮機1の電動機部を構成するインシュレータを備えない構成のステータ11の構成を例示する。
図2に示すように、電動機部を構成するステータ11は、巻線部が巻回されるステータコア110を備える。
【0065】
ステータコア110は、固定子の鉄心を形成する部材である。ステータコア110は、概略形状が円筒状に設けられる。ステータコア110は、複数の電磁鋼板が中心軸と平行な方向に積層されて形成される。
図2に示すステータコア110には、不図示の導線がコイル状に巻回されて巻線部が形成される。
【0066】
ステータコア110は、概略形状が円筒状を呈するバックヨーク111と、バックヨーク111の内周端から中心側に向けて突出した複数のティース112と、ティース112同士の間に形成された空間であるスロット113と、を有する。
図2においては、ステータコア110に、9個のティース112と、9個のスロット113が形成されている。
【0067】
バックヨーク111は、巻線部やティース112等と共に磁気回路の一部を構成する。
図2において、バックヨーク111は、外周面に縦溝111aを有する形状に設けられている。縦溝110aは、バックヨークの外周面の周方向における一部が中心側に向けて凹状に切り欠かれるようにして形成されている。
【0068】
縦溝110aは、ステータ11の中心軸と平行な方向に延びており、バックヨーク111の周方向に沿って互いに所定の間隔を空けて設けられている。縦溝110aによって、バックヨーク111の外周面と密閉容器5の内面との間には、ステータ11を上下に貫通するように下部側通路26(
図1参照)が形成される。作動流体に同伴した潤滑油は、作動流体から分離すると、下部側通路26やステータ11とロータ12との間の隙間を通じて油溜め17に戻される。
【0069】
ティース112は、ロータ12の側面に近接する位置まで、バックヨーク111の内周端から中心側に向けて突出するように設けられる。ティース112は、ステータコアの平面視において先端部の幅が基端側の幅よりも大きい柱状に設けられている。ティース112は、バックヨーク111の周方向に沿って互いに所定の間隔を空けて設けられている。
【0070】
巻線部を形成する導線は、ティース112の周囲に巻回される。スロット113は、ティース112に巻回された巻線を収容する空間となる。圧縮機1において、巻線は、分布巻、集中巻等の適宜の巻き方で巻回できる。分布巻によると、電動機部のトルクリップルや鉄損を低減できる。集中巻によると、巻線部を構成する巻線の長さを短縮できるため、巻線部の高密度化が可能になり、電動機部の小型化や高効率化に有効である。また、コイルエンドの高さが低くなる傾向がある。
【0071】
図3は、電動機部を構成するステータの巻線部に対する金属板部品の設置例を示す斜視図である。
図3には、インシュレータを備えないステータ11に金属板部品30を設置する設置例を示す。
図3において、破線は、巻線部の上下のコイルエンド11a,11bを示す。二点鎖線(網掛けの領域)は、金属板部品30を示す。ステータ11の一部は、上下のコイルエンド11a,11bや金属板部品30を透視して図示されている。
【0072】
図3に示すように、金属板部品30は、巻線部のコイルエンド11a,11bの表面に対向するように、ステータコア110の上面側や下面側に設置できる。上部金属板部品30aは、上部コイルエンド11aを上方や側方から囲むように設置できる。また、下部金属板部品30bは、下部コイルエンド11bを下方や側方から囲むように設置できる。金属板部品30は、樹脂製、セラミックス製等の絶縁部品を介して、ステータコア110、密閉容器5の内側の部材等に固定できる。
【0073】
図3において、金属板部品30は、内側フランジを有する円筒状に設けられている。このような形状であると、上部コイルエンド11aの上面や外側側面や、下部コイルエンド11bの下面や外側側面に対して、板状の部位を近接させることができる。上下のコイルエンド11a,11bによる電磁誘導を各部位で起こせるため、周囲の潤滑油や作動流体を効率的に誘導加熱できる。また、上下面や側面を形成する板状の部位に対して、ミスト状に飛散する潤滑油を広く衝突させることができる。
【0074】
但し、金属板部品30は、ステータ11を構成する巻線部の形状や周囲の形状に合わせて、平面状、曲面状、屈曲状、半球状、これらを組み合わせた形状等、適宜の形状に設けることが可能である。金属板部品30は、平面状の板状の部位や、曲面状の板状の部位の他に、部位同士を接合する部位や、補強用の部位や、固定用の部位等を有してもよい。
【0075】
金属板部品30は、ステータ11を構成する巻線部に対して電気的に絶縁された状態で設置する必要がある。金属板部品30は、巻線部に直接的に接触しない限り、巻線部との間に空間を挟んで設置してもよいし、巻線部との間に絶縁紙等の絶縁材や絶縁部品を挟んで配置してもよい。金属板部品30は、ステータ11の巻線部が発生させる磁界によって電磁誘導を発生させるために、周囲に対して電気的に絶縁しつつ、巻線部に対して近接するように設置する。
【0076】
金属板部品30は、ステータ11の巻線部の表面に対する最短距離が0.25mmを超え20mm以下となるように設置されることが好ましい。巻線部の表面に対する最短距離が0.25mm以下であると、エナメル線のように巻線部に絶縁被覆が施されている場合であっても、絶縁に必要な空間距離が確保され難くなる。一方、巻線部の表面に対する距離が20mmを超えると、巻線部による電磁誘導が起こり難くなる。これに対し、0.25mmを超え20mm以下であれば、絶縁距離を確保しつつ、電磁誘導による誘導加熱を効率的に利用できる。ステータ11の巻線部の表面に対する最短距離は、絶縁距離を確保する観点からは、定格電圧が1kV以上の場合、1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上が更に好ましい。
【0077】
金属板部品30は、ステータ11を構成する鉄心であるステータコア110を形成する電磁鋼板よりも鉄損値が大きい材料で形成されることが好ましい。また、金属板部品30は、ステータコア110を形成する電磁鋼板よりも板厚が大きい材料で形成されることが好ましい。このような材料であると、ステータ11の巻線部が発生させる磁界によって電磁誘導による高熱量を発生させることができるため、周囲の潤滑油や作動流体を誘導加熱によって効率的に昇温させることができる。
【0078】
金属板部品30の材料としては、鉄鋼、炭素鋼、合金鋼等が挙げられる。金属板部品30の材料としては、冷間圧延材、熱間圧延材等のいずれを用いることもできる。金属板部品30の材料の具体例としては、一般構造用圧延鋼材(Steel Structure:SS材)、冷間圧延鋼板材(Steel Plate Cold Commercial:SPCC材)、熱間圧延鋼板材(Steel Plate Hot Commercial:SPHC材)、ステンレス鋼材(Stainless Used Steel:SUS材)等が挙げられる。また、金属板部品30の材料としては、ステータコア110を形成する電磁鋼板よりも鉄損値や板厚が大きい限り、電磁鋼板を用いることもできる。
【0079】
図4は、圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す平面図である。
図5は、圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す斜視図である。
図4および
図5には、内側フランジを有する円筒状に設けられており、内側フランジに排油孔を有する金属板部品30Aを示す。
【0080】
図4および
図5に示すように、金属板部品30は、一端に内側フランジを有する円筒状に設けることができる。金属板部品30は、作動流体から分離された潤滑油を金属板部品30から流下させる排油構造として、排油孔を備えた形態(金属板部品30A)に設けることができる。
【0081】
金属板部品30Aは、円筒状を呈する胴部31と、円環状を呈する内側フランジ部32と、を備えている。内側フランジ部32は、胴部31の中心軸と平行な方向における両端のうち、一端のみに設けられている。内側フランジ部32は、胴部31の中心軸と平行な方向における一端の内面から径方向の内側に向けて突出している。
【0082】
胴部31は、曲面状の板状の部位によって円筒状に形成されている。内側フランジ部32は、平面状の板状の部位によって円環状に形成されている。胴部31および内側フランジ部32は、良導体である金属によって形成される。金属板部品30Aは、ステータ11の巻線部の上下のコイルエンド11a,11bを径方向および上下方向の外側から覆うように設置できる。
【0083】
このような金属板部品30Aによると、上部コイルエンド11aの外側側面や下部コイルエンド11bの外側側面に対して、胴部31を対向させることができる。また、上部コイルエンド11aの上面や下部コイルエンド11bの下面に対して、内側フランジ部32を対向させることができる。そのため、上下のコイルエンド11a,11bが発生させる磁界を利用して、電磁誘導による発熱を各部位で広範囲に起こすことができる。
【0084】
また、このような金属板部品30Aによると、密閉容器5の内部を飛散する潤滑油の経路を、胴部31と内側フランジ部32によって複数方向について遮断できる。密閉容器5の内部を複数方向に飛散する潤滑油が、胴部31や内側フランジ部32に対して広く衝突するため、潤滑油の捕集や潤滑油の誘導加熱を効率的に行うことができる。
【0085】
図4および
図5に示すように、内側フランジ部32には、板状の部位に溜まった潤滑油を流し落とす排油構造として、排油孔33を設けることができる。排油孔33は、内側フランジ部32の径方向の中央付近に内側フランジ部32を上下に貫通する貫通孔として形成される。排油孔33は、内側フランジ部32の周方向に沿って等間隔に形成されている。
【0086】
排油孔33は、1mm以上の直径や内幅に設けられることが好ましい。排油孔33は、例えば、1mm以上、且つ、内側フランジ部32の径方向の幅よりも小さい直径に設けることができる。直径が1mm以上であると、粘性や表面張力を示す潤滑油を、板状の部位の表面から安定的に流し落とすことができる。
【0087】
図4および
図5においては、内側フランジ部32に、計8個の排油孔33が設けられている。但し、排油孔33は、適宜に個数に設けることができる。複数の排油孔33は、内側フランジ部32の周方向や径方向に沿って、適宜の列数や適宜の間隔に配置できる。排油孔33は、円形状、矩形状等の適宜の形状に設けることができる。
【0088】
排油孔33を備えた金属板部品30Aによると、内側フランジ部32に捕集された潤滑油を、排油孔33を通じて金属板部品30Aの下方に流し落とすことができる。密閉容器5の内部にミスト状に飛散する潤滑油を、板状の部位に衝突させて液化させた後、効率的に油溜め17に戻すことができる。圧縮機1の内部において、潤滑油が適正に循環するようになるため、圧縮機1の摺動部の潤滑性の悪化や、潤滑油への過剰な溶け込みに起因する圧縮機1から吐出される作動流体量の低下を抑制できる。
【0089】
特に、排油孔33を備えた金属板部品30Aによると、板状の部位の面積を広く確保できるため、ステータ11の巻線部が発生させる磁界を利用した電磁誘導を広範囲に起こすことができる。周囲の潤滑油や作動流体を効率的に誘導加熱できるため、作動流体が潤滑油に溶け込むのを抑制する作用や、潤滑油に溶け込んだ作動流体を潤滑油から分離する作用を効果的に得ることができる。
【0090】
図6は、圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す平面図である。
図7は、圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す斜視図である。
図6および
図7には、内側フランジを有する円筒状に設けられており、側面に排油溝を有する金属板部品30Bを示す。
【0091】
図6および
図7に示すように、金属板部品30は、一端に内側フランジを有する円筒状に設けることができる。金属板部品30は、作動流体から分離された潤滑油を金属板部品30から流下させる排油構造として、切り欠き状の排油溝を備えた形態(金属板部品30B)に設けることができる。
【0092】
金属板部品30Bは、周方向の一部が切り欠かれた円筒状を呈する胴部34と、周方向の一部の外周側が切り欠かれた円環状を呈する内側フランジ部35と、を備えている。内側フランジ部35は、胴部34の中心軸と平行な方向における両端のうち、一端のみに設けられている。内側フランジ部35は、胴部34の中心軸と平行な方向における一端の内面から径方向の内側に向けて突出している。
【0093】
胴部34は、曲面状の板状の部位によって周方向の一部が切り欠かれた円筒状に形成されている。内側フランジ部35は、平面状の板状の部位によって周方向の一部の外周側が切り欠かれた円環状に形成されている。胴部34および内側フランジ部35は、良導体である金属によって形成される。金属板部品30Bは、ステータ11の巻線部の上下のコイルエンド11a,11bを径方向および上下方向の外側から覆うように設置できる。
【0094】
このような金属板部品30Bによると、金属板部品30Aと同様に、上下のコイルエンド11a,11bが発生させる磁界を利用して、電磁誘導による発熱を各部位で広範囲に起こすことができる。また、密閉容器5の内部を複数方向に飛散する潤滑油が、胴部34や内側フランジ部35に対して広く衝突するため、潤滑油の捕集や潤滑油の誘導加熱を効率的に行うことができる。
【0095】
図6および
図7に示すように、胴部34および内側フランジ部35には、板状の部位に溜まった潤滑油を流し落とす排油構造として、排油溝36を設けることができる。排油溝36は、金属板部品30Bの外周側を切り欠くようにして、金属板部品30Bの外周側を上下に貫通する貫通溝として形成される。
【0096】
排油溝36は、内側フランジ部35の周方向の一部の外周側を内側に向けて切り欠くようにして、内側フランジ部35を上下に貫通する開口を形成している。また、胴部34の周方向の一部を切り欠くようにして、胴部34の上下方向に延びる胴部34の内外を貫通する空隙を形成している。排油溝36は、胴部34および内側フランジ部35の周方向に沿って等間隔に形成されている。
【0097】
排油溝36は、1mm以上の横幅に設けられることが好ましい。排油溝36は、例えば、1mm以上、且つ、内側フランジ部35の径方向の幅よりも小さい横幅に設けることができる。直径が1mm以上であると、粘性や表面張力を示す潤滑油を、板状の部位の表面から安定的に流し落としたり、開口や空隙を通じて通流させたりすることができる。
【0098】
図6および
図7においては、胴部34および内側フランジ部35に、計8個の排油溝36が設けられている。但し、排油溝36は、適宜に個数に設けることができる。複数の排油溝36は、胴部34や内側フランジ部35の周方向に沿って、適宜の間隔に配置できる。排油溝36は、半円形状、矩形状等の適宜の形状に設けることができる。
【0099】
排油溝36を備えた金属板部品30Bによると、内側フランジ部35に捕集された潤滑油を、排油溝36を通じて金属板部品30Bの下方に流し落とすことができる。また、作動流体や潤滑油を、排油溝36を通じて胴部34の内外に通流させて周囲に衝突させることができる。密閉容器5の内部にミスト状に飛散する潤滑油を、板状の部位に衝突させて液化させた後、効率的に油溜め17に戻すことができる。圧縮機1の内部において、潤滑油が適正に循環するようになるため、圧縮機1の摺動部の潤滑性の悪化や、潤滑油への過剰な溶け込みに起因する圧縮機1から吐出される作動流体量の低下を抑制できる。
【0100】
特に、排油溝36を備えた金属板部品30Bによると、側面側における排油性を向上させることができる。金属板部品30Bを周囲の部材の内側に配置する場合であっても、周囲の部材の内面と金属板部品30Bの外側側面との間に、排油溝36による貫通構造の排油経路が確保される。そのため、周囲の部材の内面に衝突した潤滑油を油溜め17に向けて効率的に流し落とすことができる。
【0101】
金属板部品30Bは、ステータ11のステータコアの外側側面に上下方向に延びる縦溝が形成されている場合、側面視で当該縦溝と排油溝36とが重なるように配置されることが好ましい。このような配置であると、衝突によって液化した潤滑油を、排油溝36を通じてステータコアの外側側面の縦溝に流すことができるため、排油溝36とステータコアの外側側面の縦溝との両方を利用して効率的な排油を行うことができる。
【0102】
図8は、圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す平面図である。
図9は、圧縮機の内部に設置される金属板部品の一例を示す斜視図である。
図8および
図9には、傾斜した内側フランジを有する円筒状に設けられている金属板部品30Cを示す。
【0103】
図8および
図9に示すように、金属板部品30は、一端に内側フランジを有する円筒状に設けることができる。金属板部品30は、作動流体から分離された潤滑油を金属板部品30から流下させる排油構造として、傾斜した内側フランジを備えた形態(金属板部品30C)に設けることができる。
【0104】
金属板部品30Cは、円筒状を呈する胴部31と、傾斜した内側フランジ部37と、を備えている。内側フランジ部37は、胴部31の中心軸と平行な方向における両端のうち、一端のみに設けられている。内側フランジ部37は、胴部31の中心軸と平行な方向における一端の内面から径方向の内側に向けて突出している。
【0105】
胴部31は、曲面状の板状の部位によって円筒状に形成されている。内側フランジ部37は、平面状の板状の部位によって傾斜した円環状に形成されている。胴部31および内側フランジ部37は、良導体である金属によって形成される。金属板部品30Cは、ステータ11の巻線部の上下のコイルエンド11a,11bを径方向および上下方向の外側から覆うように設置できる。
【0106】
このような金属板部品30Cによると、金属板部品30Aと同様に、上下のコイルエンド11a,11bが発生させる磁界を利用して、電磁誘導による発熱を各部位で効率的に起こすことができる。また、密閉容器5の内部を複数方向に飛散する潤滑油が、胴部31や内側フランジ部37に対して効率的に衝突するため、潤滑油の捕集や潤滑油の誘導加熱を効率的に行うことができる。
【0107】
図8および
図9に示すように、内側フランジ部37には、板状の部位に溜まった潤滑油を流し落とす排油構造として、傾斜を設けることができる。内側フランジ部37は、金属板部品30Cの中央側から外周側に向かうに連れて高さが低くなるようにテーパ状に傾斜した形状に設けられている。
【0108】
内側フランジ部37の傾斜の角度θは、特に限定されるものではなく、中心軸と直交する水平面に対して、0度を超え90度未満の範囲に設けることができる。内側フランジ部37の傾斜の角度θは、好ましくは15度以上、より好ましくは15度以上45度以下である。傾斜の角度θが15度以上であると、粘性や表面張力を示す潤滑油を、板状の部位の表面から安定的に流し落とすことができる。
【0109】
傾斜が設けられた金属板部品30Cによると、内側フランジ部37に捕集された潤滑油を、傾斜によって金属板部品30Cの下方に流し落とすことができる。密閉容器5の内部にミスト状に飛散する潤滑油を、板状の部位に衝突させて液化させた後、効率的に油溜め17に戻すことができる。圧縮機1の内部において、潤滑油が適正に循環するようになるため、圧縮機1の摺動部の潤滑性の悪化や、潤滑油への過剰な溶け込みに起因する圧縮機1から吐出される作動流体量の低下を抑制できる。
【0110】
特に、傾斜が設けられた金属板部品30Cによると、上面側における排油性を向上させることができる。金属板部品30Cを上向きおよび下向きのいずれに配置する場合であっても、傾斜した内側フランジ部37の上面ないし下面に付着した潤滑油を効率的に流し落とすことができる。そのため、ステータ11よりも上方および下方のいずれにおいても、金属板部品30Cに衝突した潤滑油を効率的に油溜め17に戻すことができる。
【0111】
図4および
図5に示す金属板部品30Aや、
図6および
図7に示す金属板部品30Bや、
図8および
図9に示す金属板部品30Cは、ステータ11よりも上方、ステータ11よりも下方、および、これらの両方のうち、いずれに設置されてもよい。一つの圧縮機1において、排油孔33を有する金属板部品30Aのみを設置してもよいし、排油溝36を有する金属板部品30Bのみを設置してもよいし、傾斜を有する金属板部品30Cのみを設置してもよいし、これらのうちの二種以上を設置してもよい。
【0112】
また、
図4および
図5に示す金属板部品30Aの構造や、
図6および
図7に示す金属板部品30Bの構造や、
図8および
図9に示す金属板部品30Cの構造は、適宜に組み合わされて適用されてもよい。例えば、傾斜した内側フランジ部37に、排油孔33や排油溝36が設けられてもよい。一つの金属板部品に、排油孔33と排油溝36とが設けられてもよい。内側フランジ部37は、金属板部品30Cの中央側から外周側に向かうに連れて高さが高くなるように傾斜した形状に設けられてもよい。排油構造である傾斜は、高い排油効率を得る観点からは、径方向に沿った傾斜であることが好ましい。
【0113】
図10は、本発明の実施形態に係る圧縮機の一例を示す断面図である。
図10には、圧縮機の一例として、スクロール式の密閉型電動圧縮機であって、ステータ11にインシュレータ13が備えられた形態(圧縮機1A)を例示する。
図10に示すように、潤滑油の溶け込みの抑制や作動流体の潤滑油からの分離に用いる金属板部品30は、インシュレータ13を備えたステータ11に設置することもできる。
【0114】
図10に示すように、本実施形態に係る圧縮機1Aは、前記の圧縮機1と同様に、作動流体を圧縮する圧縮機構部(2,3,4)、圧縮機構部を駆動する電動機部(11,12)、圧縮機構部および電動機部を収納した密閉容器5、電動機部の駆動力を圧縮機構部に伝達する回転軸、回転軸を通じて摺動部へ供給される潤滑油を密閉容器の底部に貯留する油溜め等を備える。
【0115】
本実施形態に係る圧縮機1Aが、前記の圧縮機1と異なる点は、ステータ11の上下にインシュレータ13が装着されている点である。インシュレータ13は、樹脂成形された部品であり、ステータコアに嵌め合わされてステータコアと巻線部とを電気的に絶縁する絶縁部品である。金属板部品30は、インシュレータ13が装着されたステータ11の巻線部の表面に対向するように配置できる。
【0116】
図10において、圧縮機1Aの電動機部は、ステータ11の上部側に装着された上部インシュレータ13aと、ステータ11の下部側に装着された下部インシュレータ13bと、を備えている。上部インシュレータ13aの上方には、上部側金属板部品30aが設置されている。下部インシュレータ13bの下方には、下部側金属板部品30bが設置されている。
【0117】
このような配置であると、ステータ11よりも上方および下方の両方において、インシュレータ13によってステータコアと巻線部とを電気的に絶縁しつつ、上下のコイルエンド11a,11bによる電磁誘導を起こすことができる。また、上部コイルエンド11aの上面や、下部コイルエンド11bの下面を、上部側金属板部品30aや下部側金属板部品30bで覆うことができるため、中部空間23や下部空間24に飛散する潤滑油を衝突させて捕集できる。
【0118】
図11および
図12は、電動機部を構成するインシュレータの一例を示す斜視図である。
図11には、ステータ11の上部側に装着される上部インシュレータ13aの一例を示す。
図12には、ステータ11の下部側に装着される下部インシュレータ13bの一例を示す。
図11および
図12に示すように、上部インシュレータ13aや下部インシュレータ13bは、ステータコア110(
図2)のバックヨーク111やティース112を覆う部位を有する形状に設けられる。
【0119】
上部インシュレータ13aは、ステータコア110の上部側に嵌め合わされてステータコア110と巻線部とを電気的に絶縁する絶縁部品である。上部インシュレータ13aは、主に上部コイルエンド11aを周囲から絶縁している。下部インシュレータ13bは、ステータコア110の下部側に嵌め合わされてステータコア110と巻線部とを電気的に絶縁する絶縁部品である。下部インシュレータ13bは、主に下部コイルエンド11bを周囲から絶縁している。
【0120】
上下のインシュレータ13a,13bは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマ(LCP)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の絶縁樹脂を材料として樹脂成形される。上下のインシュレータ13a,13bは、例えば、不図示の凹凸等の嵌合によってステータコア110に固定される。
【0121】
図11および
図12に示すように、上部インシュレータ13aおよび下部インシュレータ13bは、それぞれ、概略形状が円環状を呈するバックヨーク絶縁部131と、バックヨーク絶縁部131の内周端から中心側に向けて突出した複数のティース絶縁部132と、バックヨーク絶縁部131の外周側からインシュレータ13a,13bの中心軸と平行な方向に向けて突出した側面絶縁部133と、ティース絶縁部132同士の間に形成された空間であるスロット134と、を有する。
【0122】
バックヨーク絶縁部131は、バックヨーク111と巻線部との間に介在して、バックヨーク111と巻線部との間を電気的に絶縁する部位である。ティース絶縁部132は、ティース112と巻線部との間に介在して、ティース112と巻線部との間を電気的に絶縁する部位である。側面絶縁部133は、巻線部の側面とステータコア110の周囲の部材との間に介在して、巻線部と周囲の部材との間を電気的に絶縁する部位である。
【0123】
巻線部を形成する導線は、ティース112とティース絶縁部132とが重ねられて形成される柱状部位に巻回される。スロット134は、柱状部位に巻回された巻線を収容する空間となる。ティース絶縁部132の先端部には、インシュレータ13a,13bの中心軸と平行な方向に向けて突出するようにコイル止め135が形成されている。上下のコイルエンド11a,11bは、コイル止め134と側面絶縁部133との間の空間に収容される。側面絶縁部133には、巻線の引き込みや引き出しのための複数のスリット136が形成されている。
【0124】
図11および
図12において、上部インシュレータ13aおよび下部インシュレータ13bは、所定の形状に樹脂成形されているが、ステータコア110と巻線部とを電気的に絶縁する限り、適宜の形状に設けることができる。バックヨーク絶縁部131、ティース絶縁部132、側面絶縁部133等は、上部インシュレータ13aと下部インシュレータ13bとの間で、互いに異なる形状に設けられてもよいし、互いに同一の形状に設けられてもよい。
【0125】
上部インシュレータ13aおよび下部インシュレータ13bとしては、巻線の引き込みや引き出しのためのスリット136や、インサータ式のモータの製造時に用いるウェッジの挿入口が、側面に複数に設けられた形状が好ましい。このような形状であると、スリット136やウェッジの挿入口と金属板部品30による排油構造とを協働させることができる。例えば、排油溝36を備えた金属板部品30Bを、スリット136やウェッジの挿入口と排油溝36とが側面視で重なるように配置できる。
【0126】
図13は、電動機部を構成するステータに対する金属板部品の組み付け例を示す斜視図である。
図13には、インシュレータ13を備えたステータ11に対して金属板部品30を装着する場合の部品同士の組み付け関係を示す。
図13に示すように、ステータ11は、絶縁部品であるインシュレータ13および絶縁材である絶縁紙14を備えることができる。金属板部品30は、インシュレータ13の内側に、絶縁紙14を挟んで設置することもできる。
【0127】
上部インシュレータ13aは、ティース絶縁部132やスロット134が、ステータコア110のティース112やスロット113と平面視で重なるように、ステータコア110の上面側に装着される。下部インシュレータ13bは、ティース絶縁部132やスロット134が、ステータコア110のティース112やスロット113と平面視で重なるように、ステータコア110の下面側に装着される。
【0128】
上部インシュレータ13aおよび下部インシュレータ13bは、各スロット134がステータコア110のスロット113と重なるように、ステータコア110に嵌め込まれる。これらのスロット113,134には、絶縁紙14が挿入される。絶縁紙14は、ステータ11を構成する鉄心であるステータコア110のスロット113に挿入されてステータコア110と巻線部とを電気的に絶縁する絶縁材である。
【0129】
金属板部品30は、インシュレータ13の外径よりも大きい内径に設けて、ステータ11を構成する巻線部との間に、インシュレータ13を挟むように、インシュレータ13の外側に設置できる。金属板部品30は、ステータ11を構成する巻線部との間に、絶縁紙14等の絶縁材を挟んでもよいが、絶縁紙14等の絶縁材を挟まない位置に設置されてもよい。インシュレータ13や絶縁紙14等の絶縁材を挟むと、金属板部品30と巻線部とを安定して電気的に絶縁できる。但し、巻線部に対する空間距離や沿面距離が確保されている場合には、絶縁部品や絶縁材を挟まない位置に設置できる。
【0130】
図14は、電動機部を構成するステータの巻線部に対する金属板部品の設置例を示す斜視図である。
図14には、インシュレータ13を備えたステータ11に上部金属板部品30aを設置する設置例を示す。
図14において、破線は、巻線部の上部コイルエンド11aを示す。二点鎖線(網掛けの領域)は、上部金属板部品30aを示す。ステータ11の一部は、上部コイルエンド11aや上部金属板部品30aを透視して図示されている。
【0131】
図14に示すように、上部金属板部品30aは、巻線部の上部コイルエンド11aの表面に対向するように、上部コイルエンド11aの外側、且つ、上部インシュレータ13aの側面絶縁部133の外側に、上部コイルエンド11aや上部インシュレータ13aを上方から覆うように設置できる。上部金属板部品30aは、絶縁樹脂等で形成された絶縁部品や、上部インシュレータ13aに設けられた固定部位を介して、上部インシュレータ13aに固定できる。また、絶縁部品等を介して、ステータコア110や密閉容器5の内側に固定してもよい。
【0132】
図14において、上部金属板部品30aは、上部コイルエンド11aに直接的に接触することなく、上部コイルエンド11aの上面や外側側面に近接して設置されている。そのため、上部コイルエンド11aが生じる磁界によって電磁誘導を起こし、周囲の潤滑油や作動流体を誘導加熱によって昇温させることができる。作動流体と潤滑油とを相分離し易くして、作動流体が潤滑油に溶け込むのを抑制する作用や、潤滑油に溶け込んだ作動流体を潤滑油から分離する作用を得ることができる。
【0133】
また、上部金属板部品30aは、上部コイルエンド11aの上面を覆うように設置されている。そのため、上部コイルエンド11aの上方の空間に飛散する潤滑油を板状の部位に衝突させて、潤滑油を効率的に液化させることができる。密閉容器5の内部に飛散する潤滑油を捕集して、潤滑油に対する作動流体の溶け込みや、圧縮機1から吐出される作動流体量の低下や、潤滑油の過剰な吐出を抑制できる。また、上部金属板部品30aは、巻線部との間に上部インシュレータ13aを挟んで設置されているため、巻線部に対する絶縁性を安定的に確保できる。
【0134】
上部金属板部品30aは、上部インシュレータ13aの側面絶縁部133の外側面に対して、接触するように設置されてもよいが、接触しないように設置されることが好ましい。また、上部金属板部品30aは、密閉容器5の内面に対して、接触しないように設置されることが好ましい。上部金属板部品30aと側面絶縁部133や密閉容器5との間に隙間を確保すると、隙間を通じた効率的な排油が可能になる。また、側面絶縁部133に対する誘導加熱を抑制できるため、上部インシュレータ13aの熱劣化を抑制できる。
【0135】
上部金属板部品30aは、上部インシュレータ13aのティース絶縁部132が延在する水平面からの高さが、側面絶縁部133よりも高く設けられてもよいが、側面絶縁部133よりも低く設けられることが好ましい。上部金属板部品30aの高さが側面絶縁部133よりも低いと、上部金属板部品30aに生じた誘導電流が放電を起こした場合に側面絶縁部133によって絶縁され易くなるため、圧縮機1の信頼性を向上できる。
【0136】
図15は、電動機部を構成するステータの巻線部に対する金属板部品の設置例を示す斜視図である。
図15には、インシュレータ13を備えたステータ11に下部金属板部品30bを設置する設置例を示す。
図15において、破線は、巻線部の下部コイルエンド11bを示す。二点鎖線(網掛けの領域)は、下部金属板部品30bを示す。ステータ11の一部は、下部コイルエンド11bや下部金属板部品30bを透視して図示されている。
【0137】
図15に示すように、下部金属板部品30bは、巻線部の下部コイルエンド11bの表面に対向するように、下部コイルエンド11bの外側、且つ、下部インシュレータ13bの側面絶縁部133の外側に、下部コイルエンド11bや下部インシュレータ13bを下方から覆うように設置できる。下部金属板部品30bは、絶縁樹脂等で形成された絶縁部品や、下部インシュレータ13bに設けられた固定部位を介して、下部インシュレータ13bに固定できる。また、絶縁部品等を介して、ステータコア110や密閉容器5の内側に固定してもよい。
【0138】
図15において、下部金属板部品30bは、下部コイルエンド11bに直接的に接触することなく、下部コイルエンド11bの下面や外側側面に近接して設置されている。そのため、下部コイルエンド11bが生じる磁界によって電磁誘導を起こし、周囲の潤滑油や作動流体を誘導加熱によって昇温させることができる。作動流体と潤滑油とを相分離し易くして、作動流体が潤滑油に溶け込むのを抑制する作用や、潤滑油に溶け込んだ作動流体を潤滑油から分離する作用を得ることができる。
【0139】
また、下部金属板部品30bは、下部コイルエンド11bの下面を覆うように設置されている。そのため、下部コイルエンド11bの下方に向けて飛散する潤滑油を板状の部位に衝突させて、潤滑油を効率的に液化させることができる。密閉容器5の内部に飛散する潤滑油を捕集して、潤滑油に対する作動流体の溶け込みや、圧縮機1から吐出される作動流体量の低下や、潤滑油の過剰な吐出を抑制できる。
【0140】
下部金属板部品30bは、下部インシュレータ13bの側面絶縁部133の外側面に対して、接触するように設置されてもよいが、接触しないように設置されることが好ましい。また、下部金属板部品30bは、密閉容器5の内面に対して、接触しないように設置されることが好ましい。下部金属板部品30bと側面絶縁部133や密閉容器5との間に隙間を確保すると、隙間を通じた効率的な排油が可能になる。また、側面絶縁部133に対する誘導加熱を抑制できるため、下部インシュレータ13bの熱劣化を抑制できる。
【0141】
下部金属板部品30bは、下部インシュレータ13bのティース絶縁部132が延在する水平面からの高さが、側面絶縁部133よりも高く設けられてもよいが、側面絶縁部133よりも低く設けられることが好ましい。下部金属板部品30bの高さが側面絶縁部133よりも低いと、下部金属板部品30bに生じた誘導電流が放電を起こした場合に側面絶縁部133によって絶縁され易くなるため、圧縮機1の信頼性を向上できる。
【0142】
図16は、電動機部を構成するステータの巻線部に対する金属板部品の設置例を示す斜視図である。
図16には、インシュレータカバー28を備えたステータ11の巻線部の表面に対向するように金属板部品30を設置する設置例を示す。
図16において、破線(内側の網掛けの領域)は、巻線部の上部コイルエンド11aを示す。二点鎖線(外側の網掛けの領域)は、金属板部品30を示す。ステータ11やインシュレータカバー28の一部は、金属板部品30を透視して図示されている。
【0143】
図16に示すように、ステータ11は、インシュレータ13およびインシュレータカバー28を備えることができる。金属板部品30は、インシュレータカバー28の外側に、巻線部との間に絶縁部品であるインシュレータ13や絶縁部品カバーであるインシュレータカバー28を挟んで設置することもできる。
【0144】
インシュレータカバー28は、絶縁部品であるインシュレータ13の上方に設置されて巻線部およびインシュレータ13を覆う絶縁部品カバーである。インシュレータカバー28は、巻線部に対する結線が周囲の部材と干渉するのを防止する機能を持つ。インシュレータカバー28は、円環状に形成されており、巻線部や上部インシュレータ13aの上面側を覆うように、上部インシュレータ13aの上方に配置される。インシュレータカバー28は、例えば、上部インシュレータ13aに対する嵌合によって装着される。
【0145】
インシュレータカバー28には、インシュレータカバー28を上下に貫通するように、リード線29の挿通孔28aや排油孔28bが設けられている。挿通孔28aには、リード線29が挿通される。リード線29は、巻線部と電動機部の電源とを電気的に接続する。排油孔28bとしては、インシュレータカバー28の周方向に沿って互いに間隔を空けて複数が配置されている。排油孔28bは、インシュレータカバー28の上面に溜まった潤滑油を流し落とすために設けられる。
【0146】
図16に示すように、金属板部品30は、インシュレータカバー28を覆うように、インシュレータカバー28の外側に設置することもできる。金属板部品30は、例えば、インシュレータカバー28に設けられた固定部位を介して、インシュレータカバー28に固定できる。金属板部品30は、インシュレータカバー28の外側に嵌め込むことによって、ステータコア110上に設置したり、密閉容器5の内側に固定したりしてもよい。
【0147】
図16において、金属板部品30は、上部コイルエンド11aに直接的に接触することなく、インシュレータカバー28を挟んで、上部コイルエンド11aの上面や外側側面に近接して設置されている。そのため、上部コイルエンド11aが生じる磁界によって電磁誘導を起こし、周囲の潤滑油や作動流体を誘導加熱によって昇温させることができる。作動流体と潤滑油とを相分離し易くして、作動流体が潤滑油に溶け込むのを抑制する作用や、潤滑油に溶け込んだ作動流体を潤滑油から分離する作用を得ることができる。
【0148】
また、金属板部品30は、インシュレータカバー28の上面を覆うように設置されている。そのため、インシュレータカバー28の上方の空間に飛散する潤滑油を板状の部位に衝突させて、潤滑油を効率的に液化させることができる。密閉容器5の内部に飛散する潤滑油を捕集して、潤滑油に対する作動流体の溶け込みや、圧縮機1から吐出される作動流体量の低下や、潤滑油の過剰な吐出を抑制できる。
【0149】
金属板部品30は、インシュレータ13の外側に設置する場合、
図16に示すように、巻線部の中性線が接続される中性点端子台138を金属板部品30の外側に向けて露出させるための開口38や、リード29を金属板部品30の外側に引き出すための切欠き39を備えてもよい。開口38は、金属板部品30の胴部を内外に貫通する貫通孔として設けることができる。切欠き39は、金属板部品30の内側フランジ部の内周端を外側に向けて切り欠くように形成できる。開口38や切欠き39を設けると、金属板部品30が巻線部に対する結線と干渉するのを防止できる。また、開口38や切欠き39を排油に利用できる。
【0150】
以上の本実施形態に係る圧縮機1によると、金属板部品30がステータ11を構成する巻線部の表面に対向するように配置されるため、周囲の潤滑油や作動流体を誘導加熱によって昇温させて、作動流体と潤滑油とを相分離し易くすることができる。また、ミスト状に飛散する潤滑油を板状の部位に衝突させて、潤滑油を効率的に液化させることができる。そのため、金属板部品30による誘導加熱や、ミスト状に飛散する潤滑油の液化や、これらの協働によって、作動流体が潤滑油に溶け込むのを抑制する作用や、潤滑油に溶け込んだ作動流体を潤滑油から分離する作用を得ることができる。これらの作用によって、圧縮機から吐出される作動流体量の低下や、吐出管を通じた潤滑油の過剰な吐出を抑制することが可能である。よって、潤滑油に対する作動流体の溶け込みを抑制して、摺動部の潤滑性と圧縮機構から吐出される作動流体量とを高水準に保つことができる信頼性が高い圧縮機を提供できる。
【0151】
以上の本実施形態に係る圧縮機1は、冷凍空調機器の冷媒回路に接続して用いることが特に好ましい。本実施形態に係る圧縮機1は、冷媒回路を循環する冷媒を圧縮するために用いることができる。本実施形態に係る圧縮機1は、例えば、圧縮機1で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、凝縮器で凝縮された冷媒を減圧する減圧器と、減圧器で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備える冷媒回路に適用できる。
【0152】
本実施形態に係る圧縮機1を適用する冷凍空調機器としては、炭化水素を主成分とする冷媒を用いた空気調和機が好ましい。このような冷媒としては、R290(プロパン)、R1270(プロピレン)、R600(ノルマルブタン)、R600a(イソブタン)等が挙げられる。空気調和機としては、ルームエアコン、パッケージエアコン、家庭用マルチエアコン、業務用マルチエアコン、ビル用マルチエアコン等が挙げられる。
【0153】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、或る実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【0154】
例えば、前記の圧縮機1は、スクロール圧縮機とされているが、金属板部品を設置する圧縮機の型式としては、スクロール圧縮機の他に、スクリュー圧縮機、ロータリー圧縮機、ツインロータリー圧縮機、2段圧縮ロータリー圧縮機、ローラとベーンが一体化されたスイング式圧縮機等を用いることもできる。
【0155】
また、前記の金属板部品30は、インシュレータ13の外側に配置されているが、インシュレータ13の内側に配置されてもよい。また、前記の金属板部品30は、ステータ11を構成する巻線部に対して、ステータ11の径方向における外側に配置されているが、巻線部との間に絶縁部品を挟むことなく、ステータ11の径方向における内側に配置されてもよい。このような配置とする場合、クランクシャフト6やロータ12と干渉しない位置に設置する必要があるため、ステータコア110のティースの先端側等に固定できる。
【0156】
また、前記の金属板部品30は、筒状の胴部に対して内側フランジが形成された形状に設けられているが、筒状の胴部に対して外側フランジが形成された形状に設けられてもよい。外側フランジは、胴部の中心軸と平行な方向における一端の外面から径方向の外側に向けて突出するように設けられる。外側フランジを有する金属板部品30は、ステータ11を構成する巻線部に対して、外側に配置されてもよいし、内側に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0157】
1 圧縮機
2 固定スクロール
3 旋回スクロール
4 フレーム
5 密閉容器
6 クランクシャフト
7 圧縮室
8 オルダムリング
9 主軸受
11 ステータ
11a 上部コイルエンド
11b 下部コイルエンド
12 ロータ
13 インシュレータ(絶縁部品)
14 絶縁紙(絶縁材)
15 バランスウェイト
16 給油管
17 油溜め
18 背圧室
28 インシュレータカバー(絶縁部品)
30 金属板部品
【要約】
【課題】潤滑油に対する作動流体の溶け込みを抑制して、摺動部の潤滑性と圧縮機構から吐出される作動流体量とを高水準に保つことができる圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機1は、作動流体を圧縮する圧縮機構部(2,3,4)と、圧縮機構部を駆動する電動機部(11,12)と、圧縮機構部および電動機部を収容した密閉容器5と、電動機部の駆動力を圧縮機構部に伝達する回転軸6と、摺動部へ供給される潤滑油を前記密閉容器の底部に貯留する油溜め17と、を備えた圧縮機であって、作動流体は、圧縮機1への吸入時における液密度が潤滑油よりも小さく、電動機部の固定子よりも上方、電動機部の固定子よりも下方、または、これらの両方に、固定子を構成する巻線部の表面に対向する金属板部品30を備える。
【選択図】
図1