IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リベルの特許一覧

特許7580190材料の膜を積層するための真空蒸発システム、装置及び方法のための蒸発デバイス
<>
  • 特許-材料の膜を積層するための真空蒸発システム、装置及び方法のための蒸発デバイス 図1
  • 特許-材料の膜を積層するための真空蒸発システム、装置及び方法のための蒸発デバイス 図2
  • 特許-材料の膜を積層するための真空蒸発システム、装置及び方法のための蒸発デバイス 図3
  • 特許-材料の膜を積層するための真空蒸発システム、装置及び方法のための蒸発デバイス 図4
  • 特許-材料の膜を積層するための真空蒸発システム、装置及び方法のための蒸発デバイス 図5
  • 特許-材料の膜を積層するための真空蒸発システム、装置及び方法のための蒸発デバイス 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】材料の膜を積層するための真空蒸発システム、装置及び方法のための蒸発デバイス
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
C23C14/24 A
C23C14/24 B
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019199525
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2020076152
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】1860207
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507354600
【氏名又は名称】リベル
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】ルソー ユーリ
(72)【発明者】
【氏名】ギュイヨー ジャン-ルイ
(72)【発明者】
【氏名】スタンムラン フランク
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0031446(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0233864(US,A1)
【文献】特開2004-043965(JP,A)
【文献】特開2004-214185(JP,A)
【文献】特開2005-054270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段(4、6)と、蒸発又は昇華させられることになる材料の装填物(3)を受けることを意図された上開口端と下閉鎖底部とを有するるつぼ(5)とを含む蒸発セル(2)を含む蒸発デバイスであって、前記加熱手段(4、6)が、前記装填物を含む前記るつぼを加熱するよう及び前記装填物(3)の前記材料の蒸発又は昇華により気相材料のフローを生じるよう適合される蒸発デバイスにおいて、
前記蒸発デバイスが、濾過インサート(70)であって、
- 前記るつぼ(5)の前記開口端に配置されることを意図された円錐形開口(11)を有する上部(20)と、
- 頂部から底部へ、少なくとも1つの開口(130)を有するプレート(13)と1つのグリッド(14)と別のグリッド(15)を含む下部(21)であって、前記下部(21)が、前記上部(20)と前記装填物(3)との間で前記るつぼ(5)に配置されることを意図されている下部(21)と
を含む濾過インサート(70)
をさらに含み、
前記グリッド(14)は、前記別のグリッド(15)の細孔より小さい細孔を有しており、
少なくとも1つの開口(130)を有するプレート(13)、前記別のグリッド(15)の細孔より小さい細孔を有するグリッド(14)、及び前記別のグリッド(15)は、前記下部(21)の頂部から底部に直列配置されていることを特徴とする、蒸発デバイス。
【請求項2】
前記加熱手段が第1加熱領域(4)と第2加熱領域(6)とを含み、前記第1加熱領域(4)が前記蒸発セル(2)の下部に配置され、前記第2加熱領域(6)が前記蒸発セル(2)の上部に配置される、請求項1に記載の蒸発デバイス。
【請求項3】
前記プレート(13)が前記蒸発セル(2)の前記下部より上に置かれる、請求項2に記載の蒸発デバイス。
【請求項4】
前記下部(21)が、少なくとも1つの他の開口(120)を有する別のプレート(12)を含み、
少なくとも1つの他の開口(120)を有する前記別のプレート(12)、少なくとも1つの開口(130)を有する前記プレート(13)、及び前記別のグリッド(15)の細孔より小さい細孔を有する前記グリッド(14)、及び前記別のグリッド(15)は、前記下部(21)の頂部から底部に直列配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の蒸発デバイス。
【請求項5】
固体及び/又は液体材料の移動を防止するために、前記プレート(13)の前記少なくとも1つの開口(130)及び前記のプレート(12)の前記少なくとも1つの他の開口(120)が互い違いになっている、請求項4に記載の蒸発デバイス。
【請求項6】
前記プレート(13)の前記少なくとも1つの開口(130)の全表面が前記プレート(13)の表面の1%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の蒸発デバイス。
【請求項7】
前記濾過インサート(70)の前記円錐形開口(11)が切頂部とベースとを有する回転錐を形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の蒸発デバイス。
【請求項8】
前記濾過インサート(70)が、前記濾過インサート(70)の前記円錐形開口(11)の周りに配置された開口を有するキャップを含み、前記キャップが前記るつぼ(5)を熱絶縁するよう適合される、請求項1~7のいずれか一項に記載の蒸発デバイス。
【請求項9】
前記濾過インサート(70)の前記下部(21)と前記上部(20)との間に固定手段(16)をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の蒸発デバイス。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の蒸発デバイスと真空積層室(1)とを含む、基板(10)に材料の膜を積層するための積層装置であって、前記積層装置が前記気相材料の少なくとも1つの膜を基板(10)に積層するよう適合される、積層装置。
【請求項11】
請求項10の積層装置装置を用いて、基板(10)に材料の膜を積層するための方法であって、以下のステップ、すなわち、
- 蒸発又は昇華させられることになる材料の装填物(3)を請求項10に記載の積層装置のるつぼ(5)の底部内へ位置付けるステップと、
- 前記室(1)をポンピングすることにより真空化するステップと、
- 前記装填物(3)の蒸発又は昇華により気相材料のフローを生じるために前記装填物(3)を含む前記るつぼを加熱するステップと、
- 前記気相材料のフローに前記円錐形開口(11)を通過させると同時に、固体及び/又は液体材料を前記濾過インサート(70)を通じて濾過するステップと、
- 前記気相材料の前記膜を前記基板(10)に積層するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、真空薄膜材料積層装置の分野に関する。
【0002】
これはより具体的には、基板への材料の蒸着のための方法及び装置に関する。
【0003】
より具体的には、本発明は無機及び有機材料の薄膜積層に適用される。
【背景技術】
【0004】
基板への材料の蒸着のための方法及び装置は、先行技術の文献である(特許文献1)及び(特許文献2)から既知である。概して、材料積層は、加熱手段、真空ポンプ、及び蒸発セルとも呼ばれる噴散セルを含む真空室であって、中に蒸発させられることになる原料が置かれた真空室において実施される。蒸発させられることになる原料は約150℃を超える温度まで加熱されるとともに、噴散セル内で蒸発する。実際には、噴散セルは、気相材料が基板に向かって通過するための少なくとも1つの開口を有する。したがって、基板と接触すると、気相材料積層は凝結して固体材料の薄い膜を形成する。このようにして、材料の層を積層する、又は材料の薄い膜を幾層か連続的に重ね合わせることが可能である。
【0005】
基板に材料の膜を積層するための蒸発方法に関連する噴散セルは、るつぼと加熱手段とを含むいくつかの要素を含む。加熱手段は概してるつぼを中心として配置される。るつぼは概して上開口端と、原料が置かれる下閉鎖底部とを有する。るつぼの上開口端は、気相へと蒸発させられた材料が基板に向かって通過することを可能にする。しばしば、所定のサイズの開口を有するインサートがるつぼの上開口端に置かれる。インサートは、噴散セルの出口で蒸発させられた材料のフローの分散を制御するという主機能を有する。このインサートはまた、例えば、基板での原料の蒸発中に生じた固体及び/又は液体材料の跳ねの移動を制限することを可能にする。これらの材料の跳ねは、積層された材料の膜における不均一性又は欠陥を作り出す。インサートはまた、膜の厚さの再現性を、基板でのその形成中に、向上させることができる。
【0006】
しかしながら、インサートでの開口の存在は、凝結の現象、したがってインサート開口の目詰まりを生じる、るつぼの上端部での熱の高損失の原因となる。インサート開口の目詰まりは、材料積層フローを、基板での材料の積層の方法の間不安定にし得る。インサートでの材料凝結というこの現象は、原料の蒸発温度が低いとき、すなわち600℃以下の温度について、より一層加速される。
【0007】
大きいサイズの有機発光ダイオード(OLED:organic light-emitting diode)スクリーンの製造などマグネシウムの積層の場合、るつぼの温度はおよそ400℃と比較的低い。インサート開口を通じた熱の損失がインサートを冷却するとともに、インサート壁での気相材料の部分凝結を引き起こす。インサートでのこの凝結は、基板に向かっての蒸発させられた材料のフローの分散を変更し、このことにより、厚さが均一で、再生可能な、傷の無い積層を得ることが極めて困難になる。
【0008】
したがって、基板の固体及び/又は液体材料の跳ねのリスクを低減すると同時に、インサート開口の目詰まりという問題を回避するための蒸発デバイス及び方法を開発することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2007/074654号明細書
【文献】米国特許第5104695号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的の1つは、有機及び無機材料であって、その蒸気圧が、100℃~600℃に含まれる温度で10-3mbar~1mbarに含まれる有機及び無機材料の薄い膜を積層することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
現況技術の上記の欠点を改善するために、本発明は、加熱手段と、蒸発又は昇華させられることになる材料の装填物を受けることを意図された上開口端と下閉鎖底部とを有するるつぼとを含む蒸発セルを含む蒸発デバイスであって、加熱手段が、装填物を含むるつぼを加熱するよう及び装填物材料の蒸発又は昇華により気相材料のフローを生じるよう適合される蒸発デバイスを提案する。
【0012】
本発明によると、蒸発デバイスは、濾過インサートであって、るつぼの開口端に配置されることを意図された円錐形開口を有する上部と、頂部から底部へ、少なくとも1つの開口を有するプレートと1つのグリッドとを含む下部であって、上部と装填物との間でるつぼ内に配置されることを意図されている下部とを含む濾過インサートをさらに含む。
【0013】
本発明の蒸発デバイスは、有利には、基板での薄膜積層の均一性及び均質性を改良することを可能にするとともに、基板に向かっての装填物の蒸発又は昇華に由来する固体及び/又は液体材料の跳ねを回避する。
【0014】
より具体的には、濾過インサートの下部は、頂部から底部へ、少なくとも1つの他の開口を有する別のプレート、少なくとも1つの開口を有するプレート、及びグリッドを含む。
【0015】
特に有利には、加熱手段は第1加熱領域と第2加熱領域とを含み、第1加熱領域は蒸発セルの下部に配置され、第2加熱領域は噴散セルの上部に配置される。
【0016】
なおより有利には、プレートは蒸発セルの下部より上、例えば、第1加熱領域と第2加熱領域との間、又は第2加熱領域に置かれる。
【0017】
本発明によると、前記プレートの前記少なくとも1つの開口及び前記他のプレートの前記少なくとも1つの他の開口は互い違いになっている。
【0018】
有利には、前記プレートの前記少なくとも1つの開口の全表面は前記プレートの表面の1%以下である。
【0019】
別の実施形態によると、下部は、頂部から底部へ、前記プレート、グリッド及び別のグリッドを含み、グリッドは前記他のグリッドの細孔より小さい細孔を有する。
【0020】
一実施形態によれば、濾過インサートの円錐形開口は切頂部とベースとを有する回転錐を形成する。
【0021】
有利には、濾過インサートは、濾過インサートの円錐形開口の周りに配置された開口を有するキャップを含み、前記キャップはるつぼを熱絶縁するよう適合される。
【0022】
蒸発デバイスは、濾過インサートの下部と上部との間に固定手段をさらに含み得る。
【0023】
本発明はまた、本発明による蒸発デバイスと真空積層室とを含む、基板に材料の膜を積層するための装置であって、前記積層装置が前記気相材料の少なくとも1つの膜を基板に積層するよう適合される装置を提案する。
【0024】
本発明はまた、基板に材料の膜を積層するための方法であって、以下のステップ、すなわち、
- 蒸発又は昇華させられることになる材料の装填物を本発明による積層装置のるつぼの底部内へ位置付けるステップと、
- 室をポンピングすることにより真空化するステップと、
- 装填物の蒸発又は昇華により気相材料のフローを生じるために装填物を含むるつぼを加熱するステップと
- 気相材料のフローに円錐形開口を通過させると同時に固体及び/又は液体材料を濾過インサートを通じて濾過するステップと、
- 前記気相材料の膜を基板に積層するステップと
を含む方法を提案する。
【0025】
非限定的な例として与えられた添付図面に関する以下の説明により、本発明が何からなるのか、及びそれがどのように実装され得るのかの良好な理解が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】先行技術による真空材料積層装置を概略的に示す。
図2】先行技術による噴散セルの分解図である。
図3】本発明の例示的な実施形態による濾過インサートの斜視図である。
図4】3つの円形の開口を有するプレートの例の正面図である。
図5】本発明の例示的な実施形態による濾過インサートの断面図である。
図6】本発明の別の例示的な実施形態による濾過インサートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
デバイス及び方法
図1において示されているのは、先行技術による真空材料積層装置の例の断面図である。装置は、蒸発セルとも呼ばれる噴散セル2と基板10とが中に配置された真空室1を含む。室は例えば真空ポンプにより真空下に保たれる。基板10での薄膜材料積層9の形成を制御するために、基板10は噴散セル2から所定の距離のところに位置付けられる。基板10のサイズは10mm×10mm~2000mm×2000mmの範囲内で変化し得る。積層された薄膜の厚さは概して0.1nm~1000nmに含まれる。噴散セル2は、るつぼ5と加熱手段4及び6とを含む。るつぼ5は、上部において、開いた開口、及び下部において、閉鎖底部を含む。装填物とも呼ばれる原料は、るつぼ5の下閉鎖底部内に積層される。装填物3は概してるつぼ5内へ堆積され、固体形状である。加熱後、材料及び加熱温度により、装填物は固体のままであるか、液体へ変化する。固体装填物は気相へと昇華されることを意図され、液相は気相へと蒸発させられることを意図される。概して、装填物の初期高さはるつぼ5の高さの3分の1に対応する。装填物は、例えば、150℃~1500℃に含まれる蒸発温度又は150℃~1500℃に含まれる昇華温度を有する材料から選択される。
【0028】
本例において、加熱手段は2つの部分、すなわち第1加熱領域4と第2加熱領域6とに分割される。第1加熱領域4は噴散セル2の下部に置かれ、例えば、底部から上に、噴散セル2の高さの3分の2にわたって延出する。第2加熱領域6は噴散セル2の上部に置かれ、例えば、るつぼ5の開口端から下へ、噴散セル2の高さの3分の1にわたって延出する。
【0029】
加熱手段は例えば、複数の発熱抵抗体を含み得る。概して、加熱手段はるつぼ5の外側部品の周りに配置される。るつぼ5は例えば着脱可能である。図1において、加熱手段はるつぼの側壁の周りに配置される。るつぼの加熱温度範囲は、使用される装填物の材料により150℃~1500℃に含まれる。
【0030】
インサート7がるつぼ5の上開口端に配置される。インサート7は例えば、基板10に積層されることになる材料8のフローを制御するために、円錐形開口を含む金属薄板キャップを形成するインサートである。
【0031】
図2は、図1との関連で説明された噴散セルの分解図である。るつぼ5は、例えば、熱分解窒化ホウ素又はタンタルから選択された材料でできている。
【0032】
この実施形態において、るつぼ5は一端で閉鎖され他端で開いた円形断面シリンダの形状を有する。るつぼ5の外形及び形状は非限定的パラメータである。
【0033】
インサート7は例えば円形断面の円錐形開口を含む。円錐形開口は、シリンダ軸100に対する開口角度A、及び開口高さH及び直径Dなどの幾何学的パラメータにより定義される。インサート7は、例えば、タンタル又は窒化ホウ素から選択された材料でできていてもよい。インサート7の円錐形状は気相材料のフローの制御、したがって基板での材料積層の均一性の制御を可能にする。インサート7は、るつぼの開口端に固定されるよう適合される。
【0034】
有利には、開口であって、その直径がインサート開口の直径より数ミリメートル(例えば2mm~3mm)だけ大きい開口を有するキャップ71がインサート7に重ね合される。キャップはセルにおける熱を保つことを可能にし、このことは噴散セルの熱放射の制限を可能にする。キャップ71は例えば、噴散セルの頂部に配置される。
【0035】
しかしながら、大きいサイズの有機発光ダイオードスクリーンの製造のためのマグネシウムの蒸発の場合、マグネシウムの蒸発は400℃~500℃に含まれる温度の比較的低い範囲において実施される。本発明の開示の一部である観察結果は、この低温蒸発はインサート7の壁でのマグネシウム凝結の現象を引き起こし得るというものである。このマグネシウム凝結現象は、噴散セルから出るフローを変更し、最終的にインサート開口を詰まらせる。さらに、マグネシウムの蒸発は基板での望ましくない灰の積層の形成を引き起こし、その結果、大きいサイズの有機発光ダイオードスクリーンを製造する方法はしたがって、あまり堅牢ではなく極めてランダムなものとなる。
【0036】
図3は、本発明の開示の例による濾過インサート70の斜視図を概略的に示す。蒸発デバイスは、少なくとも1つの加熱手段、図1及び2において説明されたものと同様のるつぼ5、並びに濾過インサート70を含む。加熱手段は、るつぼの壁の周り又は内側に位置する少なくとも1つの加熱領域を有する。加熱手段は、例えば複数の電気抵抗体を含む。
【0037】
濾過インサート70は、るつぼの開口端に配置されることを意図された直径D1の円錐形開口11が設けられた上部20と、少なくとも1つのプレート及び少なくとも1つのグリッドを含む下部21とを含む。
【0038】
図3に示された例において、濾過インサート70の下部21は、頂部から底部へ、2つのプレートと2つのグリッドとを含む。2つのプレートは、底部から頂部へ、少なくとも1つの開口130を有するプレート13と、少なくとも1つの他の開口120を有する別のプレート12とを含む。2つのグリッドは、頂部から底部へ、グリッド14と別のグリッド15とを含む。下部21は、るつぼの底部において上部20と装填物3との間に、るつぼにおいて配置されることを意図される。
【0039】
特に装填物の蒸発又は気化中の円錐形開口を通じたるつぼの内側と外側との間での固体及び/又は液体材料の移動を防止するために、前記他のプレート12(図3に示されている)の前記少なくとも1つの他の開口120及び前記プレート13(図4に示されている)の前記少なくとも1つの開口130は互い違いになっている。
【0040】
図示の例において、るつぼは円形断面を有し、前記他のプレート12は中央に穴のあいたワッシャの形状を有し、プレート13はいくつかの開口があけられたディスクの形状を有する。しかしながら、これらの形状は決して限定的ではない。
【0041】
図4は、プレート13であって、その開口130を備えたプレート13の例を示す。本明細書において、プレート13は例えば、軸外に配置された3つの円形の開口130を有する。プレート13の円形開口130の直径は0.5mm~10mmに含まれる。開口130の数及び外形は限定的ではない。
【0042】
装填物の蒸発又は気化中に生じた固体及び/又は液体材料を濾過するために、グリッド14は前記他のグリッド15の細孔より小さい細孔を有する。
【0043】
図5に示された実施形態において、濾過インサート70の上部20は円筒形の外形と内径D1の円錐形開口11とを有する。円錐形開口11の内径D1は2mm~100mmの間に含まれる。好ましくは、円錐形開口11の内径D1はるつぼの内径の半分以下である。濾過インサートの上部20は5mm~80mmに含まれる高さE1を有する。図5において、高さE1は、直径D1の円錐形開口11の頂部と円錐形開口11の底部とを分離する距離に対応する。
【0044】
装填物をるつぼの中に配置した後で濾過インサートの挿入及び/又は抜出を可能にするために、濾過インサートの上部20はるつぼの内径をわずかに下回る外径D2を有する。
【0045】
濾過インサートの下部21は、3mm~40mm、好ましくは8mm~25mmに含まれる高さE2を有する。図5において、高さE2は、るつぼの開口に向けられた前記他のプレート12の面と、るつぼの底部に向けられた前記他のグリッド15の面とを分離する距離に対応する。
【0046】
濾過インサートの上部20及び下部21は着脱可能で互いに独立していてもよい。濾過インサートの上部20及び下部21は例えば、図3に示されるとおり、複数のロッド又はポスト16を含む固定システムにより互いに接続される。変形形態として、上部20及び下部21は、場合により、熱スクリーニングの現象を抑えるために場合により複数の穴があけられたチューブにより互いに接続され得る。別の変形形態は、濾過インサートの下部21をるつぼの内部エッジへ、及び別個に、上部20をるつぼの開口端へ固定することにある。濾過インサートの下部21から上部20を分離する距離に対応する高さE3は、20mm~80mmに含まれる。好ましくは、高さE3はプレート13を2つの加熱領域の間に置くように定義される。変形形態によると、プレート13は、噴散セル2の上部において、換言すると、第2加熱領域6に配置される。この変形形態において、プレート13はまた、第1加熱領域4に囲まれた噴散セルの下部より上に配置される。いずれの場合も、インサート70は第1加熱領域4に囲まれた噴散セルの下部より上に位置する。インサート70のこの配置構成-特に、2つの加熱領域の間又は第2加熱領域6であるが依然として噴散セル2の下部より上にあるプレート13-は、噴散セル2の上部と下部との間の熱分離を可能にする。
【0047】
濾過インサートの円錐形開口11は、例えば軸100を中心とした回転錐を形成し、円錐は切頂部を有する。切頂部は濾過インサートの円錐形開口を画定する。例えば、濾過インサートの円錐形開口は、0°~60°に含まれる、るつぼの軸100に対する開口角度Aと、5mm~80mmに含まれる、円錐形開口11の頂部と底部との間に画定される高さE1と、2mm~100mmに含まれる開口直径D1とを有する。好ましくは、円錐形開口11の内径D1はるつぼの内径の半分以下である。有利には、高さE1は噴散セル2の第2加熱領域6の高さの3分の1より大きい。円錐形開口11の切頂部は基板10に向けられ得るか、又は反対側、るつぼの底部に向けられ得る。
【0048】
円錐形開口の材料は、タンタル、モリブデン、ステンレス鋼、チタン、ニオブ、タングステン又はグラファイトから選択され得る。材料により、円錐形開口はプレス加工により、又は機械加工により作られ得る。代替形態として、円錐形開口は、マンドレルなどの支持体上での熱分解窒化ホウ素の成長により作られてもよい。
【0049】
濾過インサートの円錐形開口11の形状は非限定的であるとともに各用途に応じて変わる。
【0050】
任意選択的に、図3に示されている濾過インサートは、円錐形開口11を中心として位置する溝17を有する。円盤形溝17は例えば、開口が配置されたキャップを、濾過インサートの円錐形開口と整列させるように置くことを可能にする。前記キャップはるつぼを熱絶縁するよう、したがって、基板の熱放射を制限するよう適合される。キャップはまた、噴散セルにおける熱の最大限を保つことを可能にし、濾過インサートの凝結の現象を制限する。キャップは、タンタル、モリブデン又はステンレス鋼の中から選択された材料でできている。
【0051】
プレート12及び13並びにグリッド14及び15の材料は、以下の材料すなわち、ステンレス鋼、タンタル、モリブデン、チタン、ニッケル、ニオブ、タングステン、グラファイト、熱分解グラファイト、熱分解窒化ホウ素、アルミナ又はセラミック材料の中から選択される。
【0052】
特定の用途において、濾過インサートの上部20及び下部21の要素の材料はステンレス鋼である。しかしながら、上部20又はポスト16の要素の材料の選択は、各用途による。
【0053】
ポスト16の材料は、以下の材料、すなわちタンタル、モリブデン、ステンレス鋼、チタン、ニオブ、又はタングステンの中から選択される。
【0054】
使用される装填物材料は、以下の材料すなわち、銀、ヒ素、バリウム、ベリリウム、ビスマス、カルシウム、カドミウム、セシウム、銅、ジスプロシウム、エルビウム、ユウロピウム、ガリウム、水銀、インジウム、カリウム、ルテチウム、マグネシウム、ナトリウム、ネオジム、リン、鉛、ルビジウム、硫黄、アンチモン、セレン、サマリウム、錫、ストロンチウム、テルル、タリウム、イッテルビウム、亜鉛、金属ハロゲン化物、金属カルコゲニド、酸化物又は有機材料の中から選択される。
【0055】
濾過インサート70が設けられた蒸発デバイスは、例えば150℃~500℃に含まれる温度の比較的低い範囲において高い蒸気圧を有する材料、例えばマグネシウムを蒸発又は昇華させるよう適合される。
【0056】
前記他のプレート12は、図3又は5に示されるとおり、例えば形状が円形の、軸100に中心のある少なくとも1つの他の開口120を有する。円形開口120の最大直径はプレート13の開口に接する内径以下である。装填物の蒸発又は昇華のプロセス中の固体及び/又は液体材料の移動をブロックするために、前記他のプレート12及びプレート13のそれぞれの開口は互い違いになっている。換言すると軸100に直交する平面における投射において、前記他のプレート12の他の開口120はオフセットされ、プレート13の開口130との交差部は無い。
【0057】
濾過インサートの下部21の各要素の間の空間は、約1mm~5mm、好ましくは2mm~3mmに含まれる。有利には、濾過インサートの下部21の各要素の間の空間は、例えば化学的洗浄によるグリッド14と前記他のグリッド15との間の洗浄をより容易にする。変形形態として、グリッド14及び15の洗浄は高温加熱によりなされ得る。
【0058】
グリッド14の細孔の寸法は0.1mm~1mmに含まれる。前記他のグリッド15の細孔のサイズは0.5mm~5mmに含まれる。前記他のグリッド15は、ミリメートルのオーダーの大きいサイズの固体及び/又は液体材料の跳ねを濾過するよう適合される。グリッド14は、前記他のグリッド15により濾過されなかった小さいサイズ(ミリメートル未満)の固体及び/又は液体材料の跳ねの移動を防止するよう適合される。
【0059】
濾過インサート70はるつぼの形状に応じて挿入されるよう適合される。濾過インサート70の要素は着脱可能であっても互いに一体的であってもよい。
【0060】
濾過インサートは着脱可能であってもよく、2つの他とは全く異なるブロック、例えば、上部20を含むブロックと下部21を含む別のブロックでできていてもよい。変形形態として、濾過インサートは着脱可能ではなく、単一部片でできている。しかしながら、濾過インサートは、特に、るつぼにおける装填物を変えるためにるつぼから切り取り可能であるように設計される。
【0061】
濾過インサートは利点として、古い蒸発セルに適合しなければならない。濾過インサートはしたがって、例えば従来のインサートの代わりに古い蒸発セルに取り付けられ得る。
【0062】
濾過インサートは、原料の蒸発又は昇華中に生じた固体及び/又は液体材料の跳ねの、円錐形開口を通って基板に向かう移動を回避する。さらに、濾過インサートはインサートの円錐形開口での材料の凝結を回避する。反対に、濾過インサートは、るつぼの底部に配置された装填物が、例えば積層室及び/又は基板に由来するゴミにより汚染されるのを回避する。
【0063】
前記他のグリッド15、グリッド14、プレート13及び前記他のプレート12は、気相材料のフローに、グリッド15及び14の細孔、次いでプレート13及び12の開口を連続的に通過させる。気相材料のフローは噴散セルの温度を上げることにより補正される。
【0064】
したがって、気相材料のフローのみが円錐形開口11を基板10に向かって通過する。
【0065】
濾過インサートは、るつぼから真空室に向かっての固体及び/又は液体材料の跳ねを回避すると同時にガスのフローの選択的濾過を可能にする。濾過インサートはるつぼに配置された装填物を望ましくないゴミ又は粒子による汚染から保護する。
【0066】
望ましい用途又は基板での原料の蒸発中に生じた固体及び/又は液体材料の跳ねのサイズに応じて、濾過インサート70の下部21は異なる代替的構成を有してもよく、頂部から底部へ、
- 少なくとも1つの開口130を有するプレート13及びグリッド14、
- 又は、少なくとも1つの他の開口120を有する前記他のプレート12、少なくとも1つの開口130を有するプレート13、及びグリッド14、
- 又は、少なくとも1つの開口130を有するプレート13、グリッド14、及び前記他のグリッド15
を含み得る。
【0067】
原料の蒸発中に生じた固体及び/又は液体材料の跳ねが少量である場合、濾過インサート70の下部21は、少なくとも1つの開口130を有するプレート13、少なくとも1つの他の開口120を有する前記他のプレート12、及びグリッド14を含み得る。
【0068】
好ましくは、濾過インサート70の下部21は、複数の開口を有するプレート13と2つのグリッド14及び15とを含み得る。この構成において、プレート13の開口130の全表面は、例えば、プレート13の全表面の1%を表し、噴散セル2の上部と下部との間の熱分離を可能にする。グリッド14は、例えば、前記他のグリッド15の細孔より小さい細孔を有する。少なくとも1つのプレートと少なくとも1つのグリッドとの組合せは、気相材料の前記フローに円錐形開口11を通過させると同時に、固体及び/又は液体材料の移動を防止することを可能にする。
【0069】
変形形態として、濾過インサート70の下部21は、図6に示されるとおり、少なくとも1つの開口130を有するプレート13とグリッド14とを含み得る。
【0070】
本開示による材料積層装置は、真空積層室と本発明の蒸発デバイスとを含む。積層室には、室内の真空を維持することを可能にする真空ポンプが設けられる。積層室はまた、基板10を蒸発デバイスの反対側に置くための支持体、及び好ましくは、基板で形成された積層層の厚さを計測するためのセンサーを含む。
【0071】
基板に材料の膜を積層するための方法は、以下のステップ、すなわち、
- 蒸発又は昇華させられることになる材料の装填物3を本発明による積層装置のるつぼの底部内へ位置付けるステップと、
- 室1をポンピングすることにより真空化するステップと、
- 装填物3の蒸発又は昇華により気相材料のフローを生じるために装填物3を含むるつぼを加熱するステップと、
- 気相材料のフローに円錐形開口11を通過させると同時に、濾過インサート70により固体及び/又は液体材料を濾過するステップと、
- 前記気相材料の膜を基板10に積層するステップと
を含む。
【0072】
るつぼの加熱は、固体及び/又は液体装填物を、基板10に到達するまで、前記他のグリッド15、グリッド14、プレート13の少なくとも1つの開口130、前記他のプレート12の少なくとも1つの他の開口120、及び濾過インサート70の円錐形開口11を連続的に通過するガスのフローに変換する。
【0073】
濾過インサート70は、固体及び/又は液体材料の、噴散セル2の内部と外側との間での特に円錐形開口を通じた移動をブロックし、この固体及び/又は液体材料は特に、装填物の蒸発又は昇華の間に生じる。選択的濾過は、気相材料のフローのみに、基板10に積層された気相材料のフローの空間的及び時間的分布を制御する円錐形開口11を通過させるために、前記他のグリッド15、グリッド14、プレート13及び前記他のプレート12を通じて連続的に、濾過インサートにより実施される。
【0074】
濾過インサート70の要素の組合せ及び直列配列は、基板10での薄膜積層の均一性及び均質性を改良することを可能にする。濾過インサート70は基板及び真空積層室の壁に向かっての装填物の蒸発又は昇華に由来する固体及び/又は液体材料の跳ねを回避する。さらに、濾過インサート70は真空積層室又は基板に由来するゴミによる装填物の汚染を回避する。本開示の濾過インサートは、1000℃未満好ましくは600℃未満の温度などで、基板の表面全体にわたって厚さ及び組成物が均一な材料積層を得ることを可能にする。
【符号の説明】
【0075】
1 真空室
2 蒸発セル
3 装填物
4 第1加熱領域
5 るつぼ
6 第2加熱領域
7 インサート
8 材料
9 薄膜材料積層
10 基板
11 円錐形開口
12 プレート
13 プレート
14 グリッド
15 グリッド
16 固定手段
17 溝
20 上部
21 下部
70 濾過インサート
71 キャップ
100 シリンダ軸
120 開口
130 開口
A 開口角度
D1 内径
D2 外径
E1 高さ
E2 高さ
E3 高さ
H 開口高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6