(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】溶液の収容方法
(51)【国際特許分類】
B65D 39/12 20060101AFI20241101BHJP
B65D 41/16 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
B65D39/12
B65D41/16
(21)【出願番号】P 2020010894
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2022-12-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】俵迫 祐二
(72)【発明者】
【氏名】山口 純
(72)【発明者】
【氏名】村上 智顕
【審査官】森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-017342(JP,A)
【文献】登録実用新案第3196986(JP,U)
【文献】特開2006-130638(JP,A)
【文献】特開2006-206698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 39/12
B65D 41/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴が乾燥して凝固物を生じる溶液の収容方法であって、
容器内の液面に接触して配置される浮袋型の内蓋を有し、該内蓋はその膨張圧によって該容器の開口部内周面に押圧され密着された状態で保持され、一方、該容器の開口部外側に嵌着して上記内蓋を保護する外蓋を有する収容容器を用い、
上記溶液を該容器に収容し、
容器内の溶液の液面に次式[1]によって表される液面の被覆率が95%以上になるように、さらに次式[2]によって表される容器内の空隙率Aが6%以下になるように該内蓋を設けることによって、容器内の液滴の付着空間が式[1]および式[2]に示すように制限されて上記凝固物の混入を防止することを特徴とする溶液の収容方法。
液面の被覆率(%)=内蓋の液面接触面積(S2)/液面全体の面積(S1)×100・・・[1]
空隙率A(%)=100-〔(V2+V3)/V1〕×100・・・[2]
(式[2]のV1は容器の容積、V2は溶液の容積、V3は内蓋の容積)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器開口部の容器内壁等に溶液が付着し難く、付着溶液の凝固物による溶液の品質低下を防止した収容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無機酸化物微粒子分散液などの溶液は、タンク、ペール缶、コンテナーなどの収容容器にて保管あるいは運搬に供されているが、溶液が容器開口部の容器内壁等に付着して乾燥凝固し、この凝固物が溶液に混入すると溶液の品質低下を招くことがある。例えば、シリカ微粒子分散液(シリカゾル)、研磨用砥粒分散液、研磨用スラリー、アルミナゾル、チタニアゾルなどの無機酸化物微粒子を含む溶液は、容器上面に充填口を有する樹脂製容器などに収容されて、保管され運搬に供されている。この容器の移動や運搬の際に容器に振動が加わり、容器内部の溶液が容器内壁に接触し、あるいは飛沫が液滴となって容器内壁に付着残留し、これらが乾燥して凝固物になる場合が知られている。このような凝固物は、容器から溶液を注ぎ出す際に溶液中に混入し、異物として存在し、溶液の各用途において悪影響を生じる場合があることが知られている。例えば、シリカゾルからなる研磨用スラリーでは容器内面に液滴が付着して乾燥するとシリカ凝固物ができ、これが剥離してスラリーに混入すると、研磨時に微細な研磨傷を生じる原因になるなどの問題が知られている。
【0003】
このような容器保存時に凝固物が生じるのを防止するため、例えば、容器に保存された溶液が容器内面に接触する面積をできるだけ大きくして液滴が付着する面積を減じて凝固物の発生を抑制することが知られている。具体的には、容器内の全内面積に対して、溶液が接触する面積(接液面積)の比(接液面積/容器内全内面積)を0.85以上に設定して凝固物を抑制した保存方法が知られている(特開2006-130638号公報)。
【0004】
しかし、この保存方法は、容器開口部の形状によっては十分に液滴の付着を防止できない欠点がある。例えば、容器全体に対して開口部の径が細く長いものは、開口部の内面積に対する容器本体の接液面積は大きくなるので、(接液面積/容器内全内面積)比が0.85以上になりやすいが、接触面積から外れる開口部部内面には液滴が付着する部分が残り、液滴の付着を十分に防止できない場合がある。
【0005】
更には、各種法規制あるいは現実の要請により容器に保存できる溶液等の充填率が制限される場合や、容器の構造上、容器内に溶液で満たすことのできない空隙が残らざる得ない場合が存在し、これらの場合は、前記液滴が付着する面積を減じて凝固物の発生を抑制する方法を十分に適用することができなかった。
【0006】
また、温度変化による容器内部の空隙増加率を抑制して容器内で露出する面積を小さくすることによって、液滴の付着面積を制限し、液滴の乾燥による凝固物の生成を防止する方法が知られている(特開2018-53147号公報)。さらに、溶液の容器充填時の温度に対して保存温度の上限を制限して溶液の発生ガス量を抑制し、凝固物を防止する方法(特開2018-53148号公報)などが従来知られている。
【0007】
しかし、これらの温度変化による空隙増加率を抑制する方法や発生ガス量を抑制する方法では、溶液を容器に充填したときに容器内に液滴が付着する余地が残っていると、凝固物の発生を十分に防止するのは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-130638号公報
【文献】特開2018-53147号公報
【文献】特開2018-53148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の溶液保存等における上記問題を解決したものであって、容器開口部に溶液が付着し難く、付着溶液の凝固物の混入による溶液の品質低下を防止した収容方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成からなる溶液の収容方法に関する。
〔1〕液滴が乾燥して凝固物を生じる溶液の収容方法であって、
容器内の液面に接触して配置される浮袋型の内蓋を有し、該内蓋はその膨張圧によって該容器の開口部内周面に押圧され密着された状態で保持され、一方、該容器の開口部外側に嵌着して上記内蓋を保護する外蓋を有する収容容器を用い、
上記溶液を該容器に収容し、
容器内の溶液の液面に次式[1]によって表される液面の被覆率が95%以上になるように、さらに次式[2]によって表される容器内の空隙率Aが6%以下になるように該内蓋を設けることによって、容器内の液滴の付着空間が式[1]および式[2]に示すように制限されて上記凝固物の混入を防止することを特徴とする溶液の収容方法。
液面の被覆率(%)=内蓋の液面接触面積(S2)/液面全体の面積(S1)×100・・・[1]
空隙率A(%)=100-〔(V2+V3)/V1〕×100・・・[2]
(式[2]のV1は容器の容積、V2は溶液の容積、V3は内蓋の容積)
【0011】
〔具体的な説明〕
本発明の収容方法は、液滴が乾燥して凝固物を生じる溶液の収容方法であって、容器内の液面に接触して配置される浮袋型の内蓋を有し、該内蓋はその膨張圧によって該容器の開口部内周面に押圧され密着された状態で保持され、一方、該容器の開口部外側に嵌着して上記内蓋を保護する外蓋を有する収容容器を用い、上記溶液を該容器に収容し、容器内の溶液の液面に次式[1]によって表される液面の被覆率が95%以上になるように、さらに次式[2]によって表される容器内の空隙率Aが6%以下になるように該内蓋を設けることによって、容器内の液滴の付着空間が式[1]および式[2]に示すように制限されて上記凝固物の混入を防止することを特徴とする溶液の収容方法である。
液面の被覆率(%)=内蓋の液面接触面積(S2)/液面全体の面積(S1)×100・・・[1]
空隙率A(%)=100-〔(V2+V3)/V1〕×100・・・[2]
(式[2]のV1は容器の容積、V2は溶液の容積、V3は内蓋の容積)
【0012】
本発明の収容方法は、例えば、以下の収容容器を用いることができる。
液滴が乾燥して凝固物を生じる溶液について、容器内の液面に接触して配置される浮袋型の内蓋を有し、該内蓋はその膨張圧によって該容器の開口部内周面に押圧され密着された状態で保持され、一方、該容器の開口部外側に嵌着して上記内蓋を保護する外蓋を有し、上記溶液が該容器に収容されたときに、容器内の溶液の液面に次式[1]によって表される液面の被覆率が95%以上になるように、さらに次式[2]によって表される容器内の空隙率Aが6%以下になるように該内蓋が設けられることによって、容器内の液滴の付着空間が式[1]および式[2]に示すように制限されて上記凝固物の混入が防止される溶液の収容容器。
液面の被覆率(%)=内蓋の液面接触面積(S2)/液面全体の面積(S1)×100・・・[1]
空隙率A(%)=100-〔(V2+V3)/V1〕×100・・・[2]
(式[2]のV1は容器の容積、V2は溶液の容積、V3は内蓋の容積)
【0013】
容器内の液面に配置する内蓋は、溶液に対して不活性な材質によって形成された浮袋状の部材を用いることができる。さらに、該内蓋は溶液を吸収しないように、表面が平滑であって細孔を有しない材質が好ましい。
【0014】
本発明の収容方法ないし収容容器において、内蓋による液面の被覆率が95%以上であることによって、容器の振動や移動などによる液滴の飛散、あるいは温度変化による液面からの蒸発が内蓋によって十分に抑制され、容器内壁への液滴の付着が防止される。この被覆率が95%未満では、内蓋によって覆われていない液面からの飛散や蒸発を抑制することができないので、凝固物の生成を十分に防止することが難しくなる。この被覆率は97%以上が好ましい。
【0015】
本発明の収容方法および収容容器は、上記内蓋によって、次式[2]によって表される容器内の空隙率Aが6%以下になるものが好ましい。
空隙率A(%)=100-〔(V2+V3)/V1〕×100・・・[2]
(式[2]のV1は容器の容積、V2は溶液の容積、V3は内蓋の容積)
【0016】
上記空隙率Aは、注入された溶液と内蓋の容積を除いた容器内部の空隙の割合を表す。この空隙率Aが少ないほど、内蓋が動く余地が少なくなり内蓋がよく固定される。また、液滴の飛散や蒸発の空間が限られるので、容器内壁への液滴の付着防止効果が向上する。この空隙率が6%を超えると、内蓋の固定が不十分になる場合や液滴の飛散防止が不十分になる場合がある。
【0017】
本発明の収容方法および収容容器は、液滴が乾燥して凝固物を生じる溶液の収容手段として広く用いることができる。このような溶液としては、例えば、シリカ微粒子分散液(シリカゾル)、アルミナ微粒子分散液(アルミナゾル)、チタニア微粒子分散液(チタニアゾル)などが挙られる。これらの分散液は飛散して液滴が容器壁面に付着し、あるいは該分散液が接触する界面(容器壁面)付近に液滴が残り、または該分散液が気化し、その蒸気が容器壁面に付着して液滴になり、乾燥して凝固物になるなどの問題がある。本発明の収容方法によればこのような無機酸化物微粒子分散液について、容器内壁への液滴の付着を確実に防止することができる。
【0018】
本発明の収容方法ないし収容容器において、内蓋は膨張性であるものが好ましく、膨張状態で容器内の液面に配置され、この膨張圧によって容器開口部の内周面に押圧された状態で保持されるものが好ましい。内蓋が容器内周面に押圧された状態で保持されることによって、容器の移動や振動などによっても内蓋が動かずに固定された状態で保持され、内蓋周囲が塞がれた状態になるので、液滴の飛散や蒸発を確実に防止することができる。また、膨張性の内蓋は、その膨張を解除することによって、容器から容易に取り外すことができる。
【0019】
本発明の収容容器は、容器内の液面に配置される内蓋と共に、容器開口に嵌着される外蓋を有する。外蓋を有することによって、容器外部の負荷から内蓋を保護することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の収容方法および収容容器は、容器が傾き、振動や衝撃を受けても、容器開口部での内部溶液の付着を確実に防止することができる。従って、本発明の収容方法および収容容器は溶液の保存方法あるいは運搬方法、保存容器あるいは運搬容器として好適に用いることができる。
さらに、本発明の収容方法および収容容器は内蓋を用いる態様であるので、容器の形状を変える必要がなく、簡便であり容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】本発明の収容容器について複数の内蓋を用いる例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の収容容器の具体的な形態を
図1~
図3に示す。図示する収容容器は、溶液を入れる容器10と、該容器開口部11の液面を覆う内蓋20を有する。なお、容器開口部11とは、
図1に示すように容器上面に立ち上がった開口部分、および
図2に示すように容器上面に細い開口が設けられている容器について、該開口に連なる容器上側部分を含む。
【0023】
図示する内蓋20は膨張性であって、膨張状態で該容器開口部11の内周面に密接に圧着される。具体的には、例えば、該内蓋20は空気などの気体が該内蓋内部に導入されることによって膨張する浮袋型の内蓋である。図示する内蓋20は容器開口部11の全体に膨張した状態で液面に配置されるので、液面全体が内蓋20によって覆われ、液面の被覆率はほぼ100%である。
【0024】
また、内蓋20は膨張状態で容器開口部11に嵌着され、その膨張圧によって容器開口部11の内周面に押圧された固定状態で保持されるので、容器の移動や振動によっても容易には外れない。さらに該内蓋20はその膨張圧によって開口部内周面に押圧されて密着されるので、開口部11の内周面周りが塞がれた状態になり、該内周面への液滴の付着が確実に防止される。一方、内蓋20は膨張圧によって圧着されているので、膨張圧を解除すれば容易に開口部11から取り外すことができる。なお、内蓋20は、
図3に示すように、複数個によって液面を覆うようにしてもよい。
【0025】
内蓋20は溶液によって浸食されない材質が用いられる。例えば、腐食性のない無機酸化物微粒子分散液に対しては、一般的な樹脂製の内蓋を用いることができる。さらに、内蓋20は溶液を吸収しないように表面が平滑であって細孔を有さないものが用いられる。
【0026】
図示する本発明の収容容器には、容器内の液面に配置される内蓋20と共に、該容器開口部11の外側に嵌着される外蓋(キャップ)30が設けられている。外蓋(キャップ)30によって、容器外部の負荷から内蓋20を保護することができる。
【実施例】
【0027】
本発明の溶液収容方法について、以下に実施例を比較例と共に示す。
〔実施例1〕
ポリエチレン製容器(容量20L、上面に注排出用の開口部を備える直方体状容器)に、試料A(シリカ微粒子分散液、日揮触媒化成株式会社製品「カタロイドSI-40」(「カタロイド」は登録商標)、固形分濃度40質量%、水溶媒)を73体積%(21.2kg)注入し、
図2に示すように、該容器内の液面に接して樹脂製の浮袋型の内蓋を液面の被覆率が97%になるように配置して密栓した。
また、液面の位置する該ポリエチレン製容器内部の縦、横長さから液面全体の面積(S1)を算定した。S1は702cm
2であった。浮袋型の内蓋は、縦200mm、横50mm、厚さ40mmの直方体形状であり、内蓋の液面占有面積(S2)は681cm
2であった。
この分散液を入れた容器を貨車輸送(移動距離約1,000Km、常温下、3日間)に供し、貨車輸送を終えた容器中の分散液を、ナイロンメッシュ(350mesh)を用いて濾過し、該ナイロンメッシュを乾燥し(温度;110℃)、濾過後のナイロンメッシュの重量(W2)を測定した。予め測定しておいた濾過前のナイロンメッシュの重量(W1)と、濾過後のナイロンメッシュの重量(M2)の差分を算定し、その値を残渣物重量(W3)とした。この回収残渣物重量(W3)は0.66gであった。
また、この残渣物重量(W3)と、試料Aの注入量とその固形分濃度から換算した固形分重量(X)とを用い、次式[3]によって残渣率(%)を求めた。
残渣率(%)=[残渣物重量(W3)]/[固形分重量(X)]×100 ・・・[3]
この結果を表1に示した。
【0028】
〔比較例1〕
樹脂製の内蓋を用いない以外は実施例1と同様にして、残渣物重量(W3)と残渣率(%)を求めた。この結果を表1に示した。
【0029】
〔比較例2〕
試料Aを注入後に密栓する前に、容器を温度60℃で1時間加熱し、その後に密栓したこと以外は、比較例1と同様に処理したところ、加熱によって発生した蒸気が容器上部の下面に付着した。比較例1と同様にして残渣物重量(W3)と残渣率(%)を求めた。
残渣物重量(W3)は1.48gであった。この結果を表1に示した。
【0030】
〔比較例3〕
図4に示すように、直径2cmの球状部材(ポリエチレン製)338個を容器内の液面に浮かべた(液面占有面積S2:603cm
2)こと以外は、比較例1と同様にして残渣物重量(W3)と残渣率(%)を求めた。残渣物重量(W3)は1.93gであった。この結果を表1に示した。
【0031】
【符号の説明】
【0032】
10-容器、11-開口部、20-内蓋、30-キャップ。