IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社マキタの特許一覧

<>
  • 特許-石膏ボード用のネジ締め機 図1
  • 特許-石膏ボード用のネジ締め機 図2
  • 特許-石膏ボード用のネジ締め機 図3
  • 特許-石膏ボード用のネジ締め機 図4
  • 特許-石膏ボード用のネジ締め機 図5
  • 特許-石膏ボード用のネジ締め機 図6
  • 特許-石膏ボード用のネジ締め機 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】石膏ボード用のネジ締め機
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/00 20060101AFI20241101BHJP
   B25B 23/14 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
B25B21/00 540D
B25B23/14 640K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020086191
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021178396
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】故田 隆樹
(72)【発明者】
【氏名】榊原 勇治
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-089611(JP,A)
【文献】特開2009-101501(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208105(WO,A1)
【文献】特開2007-062012(JP,A)
【文献】特開2016-112633(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0167691(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00
B25B 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータにより回転する第1部材と、
前記第1部材の回転軸方向で前記第1部材から離れる方向となる前方と、前記回転軸方向で前記第1部材に接近する方向となる後方との前後方向へ移動可能で、且つ付勢部材によって前記第1部材から離れる前進位置に付勢される第2部材と、
前記第2部材と一体回転するビット保持部と、を有する本体を備え、
前記ビット保持部に保持させたビットを、石膏ボードに当接させたネジの頭に係止させた状態で前記本体が前進すると、相対的に後退した前記第2部材が前記第1部材に係合して前記第1部材の回転が前記第2部材に伝達可能な状態となり、前記第2部材の正回転時には前記ビットによるネジ締めが可能となる一方、
ネジ締めが進んで石膏ボードに当接した前記本体が前進しない状態で前記付勢部材によって前記第2部材が前進すると、前記第2部材が前記第1部材から離れて前記第1部材から前記第2部材への回転伝達が遮断される石膏ボード用のネジ締め機であって、
石膏ボードにネジの締結を行う際に、前記第1部材の回転が伝達可能な状態から前記第2部材が逆回転してネジにより石膏ボードに下穴を形成した後、続けて前記第2部材が、前記第2部材への回転伝達が遮断されてネジの締結終了するまで正回転する締結モードで使用可能な石膏ボード用のネジ締め機。
【請求項2】
前記第2部材の逆回転は、石膏ボードに前記下穴が形成される所定の時間が経過するまで或いは前記下穴の形成に伴って増加する前記モータの電流値が所定値に達するまで行われることを特徴とする請求項1に記載の石膏ボード用のネジ締め機。
【請求項3】
前記締結モードでは、前記ネジの締結の終了直前に前記第2部材の回転数を低下させることを特徴とする請求項1又は2に記載の石膏ボード用のネジ締め機。
【請求項4】
石膏ボードにネジの締結を行う際に、前記第1部材の回転が伝達可能な状態から前記第2部材への回転伝達が遮断されてネジの締結終了するまで前記第2部材が正回転する通常モードでも使用可能であり、前記締結モードと前記通常モードとが選択可能であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の石膏ボード用のネジ締め機。
【請求項5】
モータと、
前記モータにより回転する第1部材と、
前記第1部材の回転軸方向で前記第1部材から離れる方向となる前方と、前記回転軸方向で前記第1部材に接近する方向となる後方との前後方向へ移動可能で、且つ付勢部材によって前記第1部材から離れる前進位置に付勢される第2部材と、
前記第2部材と一体回転するビット保持部と、を有する本体を備え、
前記ビット保持部に保持させたビットを、石膏ボードに当接させたネジの頭に係止させた状態で前記本体が前進すると、相対的に後退した前記第2部材が前記第1部材に係合して前記第1部材の回転が前記第2部材に伝達可能な状態となり、前記第2部材の正回転時には前記ビットによるネジ締めが可能となる一方、
ネジ締めが進んで石膏ボードに当接した前記本体が前進しない状態で前記付勢部材によって前記第2部材が前進すると、前記第2部材が前記第1部材から離れて前記第1部材から前記第2部材への回転伝達が遮断される締結モードで使用可能な石膏ボード用のネジ締め機であって、
前記締結モードでは、前記第2部材の正回転のみで第1の石膏ボードにネジの締結を行う際の第1の締結モードと、前記第2部材の正回転のみで前記第1の石膏ボードよりも硬い材質の第2の石膏ボードにネジの締結を行う際の第2の締結モードとを選択して使用可能であると共に、前記第2の締結モードでは、前記ネジの締結の終了直前に前記第2部材の回転数を低下させる石膏ボード用のネジ締め機。
【請求項6】
前記第1の締結モード又は前記第2の締結モードでの前記第2部材の回転数は、ネジの締結が開始されると低回転から高回転へ変化することを特徴とする請求項5に記載の石膏ボード用のネジ締め機。
【請求項7】
前記モータは、前記第2部材が前記第1部材に所定距離だけ相対的に接近してから回転可能となることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の石膏ボード用のネジ締め機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュードライバ等の石膏ボード用のネジ締め機に関する。
【背景技術】
【0002】
ネジ締め機として、特許文献1には、スクリュードライバが開示されている。スクリュードライバは、先端の出力部に、第1スピンドルと第2スピンドルとを備えている。第1スピンドルには、モータの回転軸の回転が伝達される。第2スピンドルは、第1スピンドルの前方で前後移動可能に同軸配置され、前端にビットを保持可能となっている。第1スピンドルと第2スピンドルとは、互いの対向面にカムを有し、第2スピンドルの後退位置でカム同士が係合する。第2スピンドルは、カム同士が離間する前進位置に付勢される。
スクリュードライバは、石膏ボードの締結作業に用いられる。石膏ボードに当てたネジにビットを押し付けた状態でトリガを押し操作すると、モータが駆動して回転軸の回転が第1スピンドルに伝達される。このままビットをネジに押し付けると、第2スピンドルが後退して第1スピンドルとカム同士が係合する。よって、第1スピンドルと共に第2スピンドルが回転して石膏ボードへのネジのねじ込みが行える。ねじ込みが進んで第2スピンドルが前進すると、カム同士の係合が外れて第2スピンドルの回転が停止し、締結作業が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-187766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な石膏ボードでは、ねじ込みの際にネジが石膏を押し退け、圧縮するように締結が行われる。しかし、硬質の石膏ボードは密度が高いため、ねじ込みの際にネジに押し退けられた石膏が石膏ボードの表面に盛り上がって仕上げ面を悪くする。よって、専用ネジを用いて締結を行うか、或いは先に下穴をあけてから締結を行うかの作業となる。専用ネジは高価であり、下穴をあけると作業に手間と時間とがかかってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、専用ネジを用いたり先に下穴をあけたりすることなく硬質の石膏ボードの締結作業を行うことができる石膏ボード用のネジ締め機を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のうち、第1の発明は、
モータと、
モータにより回転する第1部材と、
第1部材の回転軸方向で第1部材から離れる方向となる前方と、回転軸方向で第1部材に接近する方向となる後方との前後方向へ移動可能で、且つ付勢部材によって第1部材から離れる前進位置に付勢される第2部材と、
第2部材と一体回転するビット保持部と、を有する本体を備え、
ビット保持部に保持させたビットを、石膏ボードに当接させたネジの頭に係止させた状態で本体が前進すると、相対的に後退した第2部材が第1部材に係合して第1部材の回転が第2部材に伝達可能な状態となり、第2部材の正回転時にはビットによるネジ締めが可能となる一方、
ネジ締めが進んで石膏ボードに当接した本体が前進しない状態で付勢部材によって第2部材が前進すると、第2部材が第1部材から離れて第1部材から第2部材への回転伝達が遮断される石膏ボード用のネジ締め機であって、
石膏ボードにネジの締結を行う際に、第1部材の回転が伝達可能な状態から第2部材が逆回転してネジにより石膏ボードに下穴を形成した後、続けて第2部材が、第2部材への回転伝達が遮断されてネジの締結終了するまで正回転する締結モードで使用可能であることを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、第2部材の逆回転は、石膏ボードに下穴が形成される所定の時間が経過するまで或いは下穴の形成に伴って増加するモータの電流値が所定値に達するまで行われることを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、締結モードでは、ネジの締結の終了直前に第2部材の回転数を低下させることを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、石膏ボードにネジの締結を行う際に、第1部材の回転が伝達可能な状態から第2部材への回転伝達が遮断されてネジの締結終了するまで第2部材が正回転する通常モードでも使用可能であり、締結モードと通常モードとが選択可能であることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第2の発明は、
モータと、
モータにより回転する第1部材と、
第1部材の回転軸方向で第1部材から離れる方向となる前方と、回転軸方向で第1部材に接近する方向となる後方との前後方向へ移動可能で、且つ付勢部材によって第1部材から離れる前進位置に付勢される第2部材と、
第2部材と一体回転するビット保持部と、を有する本体を備え、
ビット保持部に保持させたビットを、石膏ボードに当接させたネジの頭に係止させた状態で本体が前進すると、相対的に後退した第2部材が第1部材に係合して第1部材の回転が第2部材に伝達可能な状態となり、第2部材の正回転時にはビットによるネジ締めが可能となる一方、
ネジ締めが進んで石膏ボードに当接した本体が前進しない状態で付勢部材によって第2部材が前進すると、第2部材が第1部材から離れて第1部材から第2部材への回転伝達が遮断される締結モードで使用可能な石膏ボード用のネジ締め機であって、
前記締結モードでは、第2部材の正回転のみで第1の石膏ボードにネジの締結を行う際の第1の締結モードと、第2部材の正回転のみで第1の石膏ボードよりも硬い材質の第2の石膏ボードにネジの締結を行う際の第2の締結モードとを選択して使用可能であると共に、第2の締結モードでは、ネジの締結の終了直前に第2部材の回転数を低下させることを特徴とする。
第2の発明の別の態様は、上記構成において、第1の締結モード又は第2の締結モードでの第2部材の回転数は、ネジの締結が開始されると低回転から高回転へ変化することを特徴とする。
本発明の別の態様は、上記構成において、モータは、第2部材が第1部材に所定距離だけ相対的に接近してから回転可能となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、専用ネジを用いたり先に下穴をあけたりすることなく硬質の石膏ボードの締結作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】スクリュードライバの中央縦断面図である(スピンドルは前進位置)。
図2】制御回路基板の機能ブロック図である。
図3】通常モードでの石膏ボードの締結状態を示す説明図で、(A)(B)は一般的な石膏ボードの場合、(C)(D)は硬質の石膏ボードの場合をそれぞれ示している。
図4】(A)~(C)は、硬質ボード締結モードでの硬質の石膏ボードの締結状態を示す説明図である。
図5】硬質ボード締結モード(通常)のフローチャートである。
図6】硬質ボード締結モード(プッシュドライブ)のフローチャートである。
図7】(A)(B)は、各モードでのブラシレスモータの回転数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、石膏ボード用のネジ締め機の一例である充電式のスクリュードライバ1の中央縦断面図である。スクリュードライバ1は、後側の本体ハウジング2と、前側のギヤハウジング3とを本体として有する。ギヤハウジング3に出力部4が設けられる。
本体ハウジング2は、モータハウジング5とグリップハウジング6とを一体に備えている。モータハウジング5は、前後方向に延びる。グリップハウジング6は、モータハウジング5の後部に繋がるループ状となっている。本体ハウジング2は、左右一対の半割ハウジング2a,2aを右側からねじ込まれる複数のネジ7,7・・によって組み付けてなる。
ギヤハウジング3は、後ハウジング8と前ハウジング9とに2分割される。後ハウジング8は、モータハウジング5の前部に保持される。前ハウジング9は、モータハウジング5の前方に露出している。ギヤハウジング3は、前ハウジング9の前方から前後の両ハウジング8,9を貫通させた4本のネジ10,10・・をモータハウジング5の前端にねじ込むことで組み付けられる。
【0010】
モータハウジング5内には、ブラシレスモータ11が収容される。ブラシレスモータ11は、筒状のステータ12と、ステータ12の内側に配置されるロータ13とを有するインナロータ型である。ブラシレスモータ11は、ロータ13に設けた回転軸14が前後方向に延びる向きでモータハウジング5内に支持される。ステータ12は、複数のコイル15,15・・を有する。ステータ12の後部には、センサ回路基板16が設けられている。センサ回路基板16は、図示しない回転検出素子を備える。回転検出素子は、ロータ13に設けた複数の永久磁石17,17・・を検出する。各コイル15のワイヤは三相結線を形成する。三相結線の電源線は、ステータ12の下部からグリップハウジング6内に引き出される。回転検出素子の信号線もステータ12の下部からグリップハウジング6内に引き出される。
【0011】
回転軸14の後端は、モータハウジング5の後側内面に保持された軸受18によって支持される。回転軸14の前部には、遠心ファン19が設けられる。遠心ファン19の外側でモータハウジング5の側面には、図示しない排気口が形成される。排気口の後方でモータハウジング5の側面には、図示しない吸気口が形成される。回転軸14の前端は、後ハウジング8に保持される軸受20に支持される。回転軸14の前端は、ギヤハウジング3内に突出する。回転軸14の前端には、ピニオン21が形成されている。
【0012】
グリップハウジング6の後部には、上下方向にグリップ部25が形成されている。グリップ部25内の上部には、トリガ27を前方へ突出させたスイッチ26が設けられている。スイッチ26の上側には、正逆切替レバー28が設けられている。スイッチ26と正逆切替レバー28との間には、正逆切替レバー28の操作に伴って切替動作する正逆レバースイッチ76(図2)が設けられている。
グリップハウジング6の下部には、バッテリー装着部29が形成されている。バッテリー装着部29には、バッテリーパック30が前方からスライド装着される。バッテリー装着部29内には、バッテリーパック30と電気的に接続される端子台31が設けられる。端子台31の上側には、コントローラ32が収容される。コントローラ32は、制御回路基板33を備えている。コントローラ32の上側には、スイッチプレート34が設けられている。スイッチプレート34は、グリップハウジング6の内周下面に露出する。スイッチプレート34には、モード切替ボタン77(図2)とモードインジケータとが設けられている。バッテリー装着部29の前面には、ライト35が設けられている。ライト35は、出力部4の第2スピンドル44の前方を照射する。
【0013】
出力部4は、駆動ギヤ40と、第1スピンドル41と、クラッチカム42と、コイルバネ43と、第2スピンドル44とを含んでなる。駆動ギヤ40は、後ハウジング8内で回転軸14のピニオン21と噛合する。第1スピンドル41は、駆動ギヤ40に同軸で一体に結合される。第1スピンドル41の後端は、後ハウジング8に保持される軸受45に支持される。クラッチカム42は、ボール46を介して駆動ギヤ40と一体回転可能に結合される。クラッチカム42の前面には、後カム部47が形成される。
第1スピンドル41の前部は、第2スピンドル44の後部に設けた有底孔48に挿入している。第1スピンドル41の前端は、軸受49を介して有底孔48内で同軸で支持されている。
【0014】
コイルバネ43は、第1スピンドル41に外装されている。コイルバネ43の後端は、クラッチカム42の前面に当接している。コイルバネ43の前端は、軸受49の外輪50に当接している。
第1スピンドル41の軸心には、ロッド51が前後移動可能に設けられている。ロッド51の後端は、後ハウジング8を貫通している。ロッド51の前端は、第2スピンドル44の有底孔48内に突出している。後ハウジング8の後方でモータハウジング5内には、レバー52が設けられている。レバー52は、トーションバネ53によってロッド51の後端を前方へ押圧する。レバー52の上端には、マグネット52aが設けられている。レバー52の上端の後方には、ホール素子等のセンサを備えたセンサ基板54が設けられている。後方へ付勢されるレバー52の上端は、センサ基板54に当接している。センサ基板54は、レバー52の上端が前方へ移動してマグネット52aが離れることでON信号を出力する。
【0015】
第2スピンドル44は、前ハウジング9内で軸受55によって前後移動可能且つ回転可能に保持される。第2スピンドル44の後端には、フランジ56が形成されている。フランジ56の後面には、前カム部57が形成されている。前カム部57は、クラッチカム42の後カム部47と対向している。前カム部57と後カム部47とは、互いの当接状態では正逆回転方向で係合する。
第2スピンドル44は、コイルバネ43によって図1の前進位置に付勢される。前ハウジング9には、ストッパ58が支持されている。第2スピンドル44のフランジ56は、前進位置でストッパ58に当接する。ロッド51は、レバー52によって押圧される前進位置にある。前進位置のロッド51は、前進位置の第2スピンドル44の有底孔48の内底面に前端を近接させている。
第2スピンドル44の前端には、ビット保持孔60が形成されている。ビット保持孔60は、先端工具であるビットBを前方から挿入可能である。ビット保持孔60は、横断面正六角形である。ビット保持孔60の外側で第2スピンドル44には、リーフスプリング61と、リーフスプリング61によって内側へ押圧されるボール62,62とが設けられている。ビット保持孔60に挿入されたビットBは、ボール62,62によって弾性的に抜け止めされる。
【0016】
前ハウジング9の前部外周には、ロックリング63が螺合されている。ロックリング63の前端には、前方へ先細り状となるアジャストスリーブ64が着脱可能に取り付けられている。アジャストスリーブ64の前端には、ゴムキャップ65が嵌着されている。
ビット保持孔60に装着されたビットBは、アジャストスリーブ64及びゴムキャップ65を貫通して前端を突出させる。ネジの締め付け深さを調整する際は、ロックリング63を回転操作して前後方向へねじ送りし、アジャストスリーブ64を前後移動させる。すると、ゴムキャップ65からのビットBの突出量が変化する。よって、任意の締め付け深さを選択できる。
【0017】
図2は、制御回路基板33の回路ブロック図である。制御回路基板33は、マイコン70と、モータ駆動部71と、電流検出部72とを備える。モータ駆動部71は、スイッチング素子を介してブラシレスモータ11を駆動させる。電流検出部72は、ブラシレスモータ11に流れる電流を検出する。マイコン70は、CPU73、ROM74、RAM75を含む。
マイコン70には、スイッチ26、正逆レバースイッチ76、センサ基板54、モード切替ボタン77の動作信号がそれぞれ入力される。マイコン70は、正逆レバースイッチ76からの信号に基づいてブラシレスモータ11の回転方向を設定する。そして、マイコン70は、モータ駆動部71を介してブラシレスモータ11を駆動させる。マイコン70は、モード切替ボタン77の操作信号に基づいて締結モードを設定する。そして、マイコン70は、ROM74に記録されるプログラムに従ってブラシレスモータ11の回転方向及び回転数を制御する。
【0018】
以上の如く構成されたスクリュードライバ1においては、例えば図3(A)に示すように、一般的な石膏ボード80Aに対して締結作業を行うことができる。これは通常モードとなる。
第2スピンドル44のビット保持孔60にビットBを差し込み装着して正逆切替レバー28を正転位置にする。次に、作業者は、グリップ部25を把持してビットBの先端を、石膏ボード80Aの表面に当接させたネジ81の頭に係止させる(図3(A))。次に、作業者は、トリガ27を押し操作する。すると、スイッチ26がONして、バッテリーパック30から電源が制御回路基板33を介してブラシレスモータ11に供給される。よって、ロータ13が正回転して回転軸14の回転がピニオン21から駆動ギヤ40に伝わる。駆動ギヤ40が減速回転すると、第1スピンドル41とクラッチカム42も駆動ギヤ40と一体に正回転する。しかし、第2スピンドル44は前進位置にあって前カム部57はクラッチカム42の後カム部47と係合しない。よって、第2スピンドル44は回転せず、ネジ締めは行われない。
【0019】
次に、作業者がグリップ部25を押し込んでスクリュードライバ1を前進させる。すると、ビットBと共に第2スピンドル44が、コイルバネ43の付勢に抗して後退する。よって、第2スピンドル44の前カム部57が後カム部47と係合し、クラッチカム42の回転が第2スピンドル44に伝達される。すると、第2スピンドル44と共にビットBが正回転し、ネジ81が石膏ボード80Aへねじ込まれる。
ネジ締めが進むにつれてスクリュードライバ1が前進し、ゴムキャップ65の前端が石膏ボード80Aに当接する。すると、その後はねじ込みに従って第2スピンドル44のみが前進する。前カム部57が後カム部47から離間すると、第2スピンドル44への回転伝達が遮断されてネジ締めが終了する(図3(B))。作業者がトリガ27の押し操作を解除するとスイッチ26がOFFしてブラシレスモータ11のロータ13の回転が停止する。ビットBをネジ81から離すと、第2スピンドル44は、コイルバネ43の付勢によって前進位置へ復帰する。
【0020】
一方、スイッチプレート34のモード切替ボタン77を操作してプッシュドライブモードを選択することができる。プッシュドライブモードでは、作業者がトリガ27を押し操作してもブラシレスモータ11は直ちに駆動しない。プッシュドライブモードでは、消費電力の節約のため、ビットBと共に第2スピンドル44が後退したことをマイコン70が検知してからブラシレスモータ11が起動して正回転する。第2スピンドル44の後退は、センサ基板54のON動作により検知される。ビットBをネジ81に押し当てて第2スピンドル44が後退すると、有底孔48の内底面に当接したロッド51が後退する。よって、レバー52が図1で右回転して上端が前方へ揺動し、センサ基板54をON動作させる。このタイミングでブラシレスモータ11が駆動する。その後、前カム部57と後カム部47とが係合し、クラッチカム42の回転が第2スピンドル44に伝達される。こうして第2スピンドル44と共にビットBが正回転してネジ締めが可能となる。
【0021】
トリガ27の押し込みによってスイッチ26がON動作すると、マイコン70からライト35に通電されてライト35が点灯する。よって、ビットBの前方が下方から照射されるため、暗い場所でも作業が楽に行える。トリガ27の押し込みを解除してスイッチ26をOFFさせれば、ライト35は消灯する。
回転軸14の回転と共に遠心ファン19が回転すると、モータハウジング5の側面の吸気口から外気が吸い込まれる。この外気は、ステータ12とロータ13との間を通過して排気口から外部に排出される。よって、ブラシレスモータ11が冷却される。
【0022】
図3(C)に示すように、石膏ボード80Aよりも硬質の石膏ボード80Bの締結作業が行われる場合がある。この場合、通常モードで締結を行うと、ねじ込みの際にネジ81に押し退けられた石膏が、同図(D)のように石膏ボード80Bの表面に盛り上がって盛り上がり部82が生じるおそれがある。このため仕上げ面が悪くなる。
そこで、スクリュードライバ1では、スイッチプレート34のモード切替ボタン77を操作して、硬質ボード締結モード(通常)と、硬質ボード締結モード(プッシュドライブ)との選択が可能となっている。まず、硬質ボード締結モード(通常)について、図4及び図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0023】
通常モードと同様に、グリップ部25を把持してビットBの先端をネジ81の頭に係止させた状態で(図4(A))、トリガ27を押し操作する。マイコン70は、スイッチ26のON信号を確認すると(S1でYES)、S2で、ブラシレスモータ11を所定の回転数で逆回転させる。ここから作業者がグリップ部25を押し込んでスクリュードライバ1を前進させる。すると、ビットBと共に第2スピンドル44が後退し、前カム部57が後カム部47と係合して第2スピンドル44が逆回転(左回転)する。こうしてビットBが左回転すると、ネジ81を左回転させながら石膏ボード80Bへ押し込むことになるため、図4(B)に示すように、ネジ81は、石膏の屑を表面側へ排出しながら石膏ボード80B内へ押し込まれる。よって、石膏ボード80Bには下穴83が形成される。
【0024】
S3で、マイコン70に内蔵されているタイマによりS2のモータ逆回転から所定時間経過したか否かを判別する。ここで所定時間の経過を確認すると、マイコン70は、S4でブラシレスモータ11を正回転させて第2スピンドル44を正回転(右回転)させる。よって、図4(C)に示すように、ネジ81は下穴83内で右回転して石膏ボード80B内にねじ込まれる。
ネジ締めが進むにつれてスクリュードライバ1が前進し、ゴムキャップ65の前端が石膏ボード80Bに当接する。すると、その後はねじ込みに従って第2スピンドル44のみが前進する。前カム部57が後カム部47から離間すると、第2スピンドル44への回転伝達が遮断される。よって、作業者がトリガ27の押し操作を解除し、マイコン70がスイッチ26のOFF信号を確認すると(S5でYES)、S6でブラシレスモータ11の駆動を停止させる。
【0025】
一方、硬質ボード締結モード(プッシュドライブ)では、図6のフローチャートとなる。
通常のプッシュドライブモードと同様に、図4(A)のようにビットBの先端をネジ81の頭に係止させた状態でトリガ27を押し操作する。マイコン70は、スイッチ26のON信号を確認すると(S11でYES)、S12で、センサ基板54のON信号を確認する。すなわち、作業者がグリップ部25を押し込んでスクリュードライバ1を前進させると、第2スピンドル44が後退してロッド51が後退し、センサ基板54がON動作する。このセンサ基板54のON信号をS12で確認すると、マイコン70は、S13でブラシレスモータ11を逆回転させる。よって、第2スピンドル44と共にビットBが逆回転(左回転)し、図4(B)に示すように、ネジ81を左回転させながら石膏ボード80Bへ押し込んで下穴83を形成する。
【0026】
S14で、マイコン70に内蔵されているタイマによりS13のモータ逆回転から所定時間経過したか否かを判別する。ここで所定時間の経過を確認すると、マイコン70は、S15でブラシレスモータ11を正回転させて第2スピンドル44を正回転(右回転)させる。よって、図4(C)に示すように、ネジ81は下穴83内で右回転して石膏ボード80B内にねじ込まれる。
ネジ締めが進むにつれてスクリュードライバ1が前進し、ゴムキャップ65の前端が石膏ボード80Bに当接する。すると、その後はねじ込みに従って第2スピンドル44のみが前進する。前カム部57が後カム部47から離間すると、第2スピンドル44への回転伝達が遮断される。よって、作業者がトリガ27の押し操作を解除し、マイコン70がスイッチ26のOFF信号を確認すると(S16でYES)、S17でブラシレスモータ11の駆動を停止させる。
【0027】
硬質ボード締結モード(通常及びプッシュドライブ)では、ネジ81が一時的に逆回転してから正回転して石膏ボード80Bにねじ込まれる。よって、石膏の屑が排出されて下穴83が形成された状態でねじ込みが行われ、ネジ81の頭が石膏ボード80Bを押し退ける際の瞬間的な高負荷を低減することができる。このため、石膏ボード80Bの表面に図3(D)のような盛り上がり部82が生じることがない。よって、締結面の仕上がりが良好となる。
【0028】
上記形態のスクリュードライバ1は、ブラシレスモータ11(モータ)と、ブラシレスモータ11により回転する第1スピンドル41(第1部材)とを含む。また、スクリュードライバ1は、第1スピンドル41の回転軸方向で第1スピンドル41との接離方向へ移動可能な第2スピンドル44(第2部材)と、第2スピンドル44と一体回転するビット保持孔60(ビット保持部)とを含む。また、スクリュードライバ1は、第2スピンドル44が第1スピンドル41に接近することで、第1スピンドル41の回転が第2スピンドル44に伝達可能となり、第2スピンドル44が正回転してネジの締結を可能とする。そして、スクリュードライバ1は、石膏ボード80Bにネジ81の締結を行う際に、第2スピンドル44が一時的に逆回転してから正回転を行う硬質ボード締結モード(締結モード)で使用可能となっている。
この構成により、専用ネジを用いたり先に下穴をあけたりすることなく硬質の石膏ボード80Bの締結作業を行うことができる。
【0029】
第2スピンドル44の逆回転は、所定の時間が経過するまで行われる。
よって、第2スピンドル44の逆回転を適正に行うことができる。
【0030】
上記形態のスクリュードライバ1は、石膏ボード80A(第1の石膏ボード)にネジ81の締結を行う際の通常モード(第1の締結モード)と、石膏ボード80Aと材質が異なる石膏ボード80B(第2の石膏ボード)にネジ81の締結を行う際の硬質ボード締結モード(第2の締結モード)とを選択して使用可能となっている。
この構成により、石膏ボードの材質に合わせて締結モードの使い分けが可能となる。よって、硬質の石膏ボード80Bに対しても、専用ネジを用いたり先に下穴をあけたりすることなく締結作業を行うことができる。
【0031】
以下、変更例について説明する。
上記形態では、逆回転から正回転に転じた後は、一定の回転数でねじ込みを行うようにしている。図7(A)は、各モードでのブラシレスモータ11の回転数の変化を示す。通常モードでは、点線で示すように、回転数は、起動から正回転側へ増加した後、一定の回転数で移行する。これは、プッシュドライブモードでも、ブラシレスモータ11の起動のタイミングが異なるだけで、回転数の変化は同じである。
硬質ボード締結モードでは、実線で示すように、回転数は、起動から逆回転側へ増加した後、所定時間の経過或いは電流の閾値到達のタイミングで正回転側へ転じ、正回転側へ増加した後、一定の回転数で移行する。
これに対し、図7(B)に実線で示すように、硬質ボード締結モードでは、ネジ締め終了前の所定のタイミングt(時間の経過又はモータの電流値で決定すればよい)で回転数を落とし、通常よりも低速で締め終わりまでブラシレスモータ11を回転させてもよい。このようにネジの締結の終了前に第2スピンドル44の回転数を低下させれば、仕上げ面が良好となる。この締め終わりの低速は、点線で示すように通常モードで行ってもよい。プッシュドライブモードでも同様に行える。
【0032】
上記形態では、硬質ボード締結モードで第2スピンドルの回転を逆回転から正回転に変化させているが、回転方向は正回転のままで変更しない締結モードも採用できる。例えば、締結開始からは低速で正回転させ、途中から高速で正回転させる制御とすることもできる。この低速と高速との切替は複数段階で行ってもよい。図7(B)のように高速からネジ締め終了前に再び低速に落としてもよい。
上記形態では、逆回転から正回転への切替のタイミングを所定時間の経過で決定しているが、これ以外の制御も可能である。例えば、電流検出部で検出されるモータへの電流値が所定値以上になった場合、逆に電流値が所定値よりも小さくなった場合、積算される電力供給量が所定値以上になった場合等に正回転へ切り替えるようにしてもよい。これらの条件に加えて所定時間の経過も切替の条件とすることもできる。
モータとして、整流子モータ等の他のモータを使用してもよい。
グリップハウジングとして、ループ状でなくモータハウジングの後端から下向きに突出する直線形状を採用してもよい。
ネジ締め機は、バッテリーパックを用いないAC機であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1・・スクリュードライバ、2・・本体ハウジング、3・・ギヤハウジング、4・・出力部、5・・モータハウジング、6・・グリップハウジング、11・・ブラシレスモータ、14・・回転軸、26・・スイッチ、32・・コントローラ、33・・制御回路基板、40・・駆動ギヤ、41・・第1スピンドル、42・・クラッチカム、44・・第2スピンドル、51・・ロッド、54・・センサ基板、60・・ビット保持孔、70・・マイコン、71・・モータ駆動部、72・・電流検出部、77・・モード切替ボタン、80A,80B・・石膏ボード、81・・ネジ、82・・盛り上がり部、83・・下穴、B・・ビット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7