(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】シール部材
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20241101BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
F16J15/10 Y
C09K3/10 R
C09K3/10 Z
(21)【出願番号】P 2020086930
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2023-03-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】古賀 晶子
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-101680(JP,A)
【文献】特開2019-094921(JP,A)
【文献】特開平04-337334(JP,A)
【文献】特開2005-350583(JP,A)
【文献】実開平06-076788(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム基材と、前記ゴム基材の表面上にコーティングされた表面処理層とを備え、
前記表面処理層が少なくとも1つの揮発性の腐食抑制剤を含有し、
前記腐食抑制剤が少なくとも1つのアミンを含み、
前記アミンが、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミンと高級脂肪酸との反応体、及び、ジシクロヘキシルアミンと高級脂肪酸とのオリゴマー体からなる群から選択される第3級アミンであり、
前記第3級アミンは、アルキル基、水酸基、又はアルコキシアルキル基で置換されていてもよく、非置換のアミンであってもよく、
前記表面処理層中に含まれる前記腐食抑制剤の含有量が0.5質量%以上8質量%以下
であり、且つ、
前記表面処理層の厚さが被シール面におけるJIS B 0601:2001に準拠し
て測定される最大高さ粗さRz(μm)よりも大きいことを特徴とするシール部材。
【請求項2】
前記腐食抑制剤の含有量が1質量%以上5質量%以下である、請求項1に記載のシール
部材。
【請求項3】
アルミニウムハウジング用のシール部材である、請求項
1又は2に記載のシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両や汎用機械、例えば自動車において、エンジンや、電子部品を内部に収容する装置等では、ハウジングを密封するためにシール部材が用いられている。このようなシール部材は、例えば、ハウジングを構成する一対の部材の間に圧縮された状態で挟まれることによって弾性変形し、これら一対の部材間の密封を図ることで、ハウジングを密閉する。
【0003】
自動車は、海浜地帯や融雪剤が散布されている地帯を走行することがある。このとき、自動車の部品に塩水や融雪剤が付着し、シール部材を挟圧する部材とシール部材との間に隙間があると、その隙間に塩水や融雪剤成分が侵入することによってシール部材を挟圧する部材に腐食(隙間腐食)や錆等が発生することがある。この腐食部分がシール部材のシールラインを超えてハウジングの内部にまで侵入した場合、ハウジングを構成する材料の腐食に至る。
【0004】
近年、自動車分野では、燃費向上のため軽量化が積極的に進められており、鉄系部材に比べて軽量であるアルミニウムの採用が拡大している。一般にアルミニウムは、鉄に比べると耐腐食性に優れるが、上述の隙間腐食が発生し易い傾向にある。
【0005】
従来から、アルミニウムの腐食防止のために、アルミニウムの表面に様々な処理を行う方法が検討されている。アルミニウムなどの金属材料の表面処理方法としては、一般的に、アルマイト(陽極酸化)処理、メッキ処理、及び腐食防止コーティングの三つの方法が用いられる。
【0006】
例えば、特許文献1及び2にはアルマイト処理について開示されている。具体的には、特許文献1には、アルミニウム基材又はアルミニウム合金基材の表面に、陽極酸化被膜と、コバルト及び/又はクロムとが存在するアルマイト部材が開示されている。特許文献2には、ポンプボデーの全面にアルマイト層が形成された燃料ポンプが開示されている。
【0007】
特許文献3にはメッキ処理について開示されている。具体的には、特許文献3には、金属部品の表面に、Cu系めっき被膜を形成し、その上にNi系めっき被膜を形成した高耐食性Ni系複合めっき被膜が開示されている。
【0008】
特許文献4~9には腐食防止コーティングについて開示されている。具体的には、特許文献4には、水、アルミニウム等のイオン源、クロム(III)カチオン源などを含み、六価クロムを実質的に含まない金属表面を被覆するための組成物が開示されている。特許文献5には、硬化されたバインダーと、表面が金属酸化物を含む親水性フレークとを含むコーティングにより被覆された機器が開示されている。特許文献6には、紫外線硬化樹脂組成物が塗布された塗膜が形成された鋼板が開示されている。特許文献7には、磁性体からなる基板の海水と接触する表面に、CrN、TiN、AlN、BN、BCN、AlBNからなるナイトライド系材料、および水素を含むダイヤモンドライクカーボン(DLC)、TiCからなるカーボン系材料から選択される少なくとも1種以上の材料で構成される被覆層を有する耐食性磁性材料が開示されている。特許文献8には、イソシアネート基またはシロキサン基を有するフッ素樹脂塗料被膜を、表面に直接設けた、熱交換器用アルミニウム合金材が開示されている。特許文献9には、ポリアミドイミド(PAI)耐熱性ポリマーバインダー、液体溶剤、および無機充填剤粒子を含む耐食性組成物について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-232155号公報
【文献】特開2008-261282号公報
【文献】特許第5365928号公報
【文献】特表2016-513755号公報
【文献】特表2015-509140号公報
【文献】特許第5483296号公報
【文献】特開2010-177326号公報
【文献】特許第5189823号公報
【文献】特許第5319282号公報
【0010】
従来の腐食防止方法では、被シール部材に表面処理などを行うことにより、腐食を防止している。しかしながら、このように被シール部材に直接表面処理を行う方法では表面処理に欠損があった際、被シール部材の腐食防止効果を十分に達成できない場合がある。特に、被シール部材の材料として隙間腐食や錆が発生し易いアルミニウムを塩水に接触する環境下で用いるアルミニウムハウジングの場合、腐食防止効果、防錆効果が著しく低下する場合がある。また、アルミニウムハウジング全面に表面処理を行う場合は製造コストが高く、一方で部分的な表面処理の場合もマスキング等が必要となるため、工程数が増加し、結果的に製造コストが増大してしまう。そのため、従来の方法とは異なるアプローチで、被シール部材の腐食や錆を防止する技術が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、被シール部材の表面において、腐食や錆の防止を簡単且つ低コストで効果的に行うことができるシール部材を提供する。
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決すべ鋭意検討した結果、被シール部材自体に表面処理を行うのではなく、被シール部材に接触するシール部材に防錆機能及び腐食防止機能を付与することにより、簡単及び低コストで効果的に被シール部材の腐食防止を行えることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のシール部材は、ゴム基材と、前記ゴム基材の表面上にコーティングされた表面処理層とを備え、前記表面処理層が少なくとも1つの腐食抑制剤を含有し、前記腐食抑制剤が少なくとも1つのアミンを含み、前記表面処理層中に含まれる前記腐食抑制剤の含有量が0.5質量%以上8質量%以下であり、且つ前記表面処理層の厚さが被シール面におけるJIS B 0601:2001に準拠して測定される最大高さ粗さRz(μm)よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
本発明のシール部材において、前記腐食抑制剤の含有量が1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のシール部材において、前記アミンが第2級アミン及び第3級アミンから選択されることが好ましい。
【0016】
本発明のシール部材は、アルミニウムハウジング用のシール部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被シール部材の表面において、腐食や錆の防止を簡単且つ低コストで効果的に行うことができるシール部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係るシール部材は、ゴム基材と、当該ゴム基材の表面上にコーティングされた表面処理層とを備える。また、コーティング層としての表面処理層は、少なくとも1つの腐食抑制剤を当該表面処理層中に0.5質量%以上8質量%以下の含有量で含有し、当該腐食抑制剤が少なくとも1つのアミンを含んでいる。さらに、表面処理層の厚さが被シール面におけるJIS B 0601:2001に準拠して測定される最大高さ粗さRz(μm)よりも大きい。このようなシール部材により、アルミニウムハウジング等の被シール部材の表面(シール部材と被シール部材との接触面)がシールされると、シール部材の表面が被シール部材の表面と良好に密着し、表面処理層に含まれる腐食抑制剤が揮発により被シール部材の表面の微細な隙間に入り込む。使用される腐食抑制剤は、錆防止機能に加えて腐食防止機能を有するため、揮発した腐食抑制剤が被シール部材の表面で吸着されることにより初期の腐食が防止される。また、長期的には、腐食抑制剤の錆防止機能により被シール部材の表面の錆が防止される。さらに、シール部材と被シール部材との接触面は密閉された空間であるため、塩水に接触する環境下においてもシール面の塩水による隙間腐食や錆を長期的に防止することができ、シール性が持続される。これにより、被シール部材の表面において、腐食や錆の防止を簡単且つ低コストで効果的に行うことができるシール部材を提供することができる。
【0019】
シール部材の形状は特に限定されず、用途に応じて任意の形状にすることができる。例えば、正方形、長方形、円盤状等のシート状のシール部材、Oリング、角リング等の環状のシール部材が挙げられる。
【0020】
以下に、本実施形態に係るシール部材を構成する各要素について詳細に説明する。
【0021】
<ゴム基材>
ゴム基材の材料は、特に限定されないが、耐水性があるエラストマーが好ましい。このようなエラストマーとして、例えば、硬化したエチレン・プロピレン・ジエン3元共重合ゴム(EPDM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)およびフッ素ゴム(FKM)からなる群から選択されるゴム材料が挙げられる。これらのゴム材料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、ゴム基材には、必要に応じて適宜添加剤が含まれてもよい。
【0022】
また、ゴム基材は、優れた耐水性を有していることが好ましい。このような観点から、ゴム基材の材料は、EPDM、HNBR、ACMおよびFKMから選択される少なくとも1種のゴム材料であることがより好ましい。
【0023】
ゴム基材は、外部からの負荷によりゴム部材が変形することを防止するめ、所定の硬度を有していることが好ましい。ゴム基材の硬度は、JIS K 6253-3:2012に準拠したタイプ Aデュロメータ 硬度で表すことができる。ゴム基材のタイプAデュロメータ硬度は、40以上90以下が好ましく、50以上80以下がより好ましく、60以上70以下がさらに好ましい。ゴム基材のタイプA デュロメータ 硬度がこれらの範囲内にあることによって、密着性及びシール性に優れたシール部材を得ることができる。
【0024】
<表面処理層>
ゴム基材の表面上には、腐食抑制剤を含む表面処理層が設けられている。具体的には、コーティング層としての表面処理層は、腐食抑制剤を含むコーティング材料でゴム基材の表面を塗布し、腐食抑制剤が揮発しない程度の条件(例えば、自然乾燥)下で塗膜を乾燥させることにより形成される。ゴム基材の表面は、腐食抑制剤により表面処理されているため、表面処理層には腐食抑制剤が有する機能が付与される。
【0025】
表面処理層は、少なくとも1つの腐食抑制剤を含んでいる。腐食抑制剤は揮発性成分を含むため、気化作用を有する。このような腐食抑制剤を含む表面処理層が被シール部材の表面に密着することにより、揮発した腐食抑制剤は接触面を介して被シール部材の表面の微細な隙間に入り込み、吸着される。また、腐食抑制剤は、錆防止機能及び腐食防止機能を有するため、吸着された腐食抑制剤は、被シール部材の表面に生じ得る錆及び腐食を防止する。これにより、従来の腐食防止方法とは異なるアプローチで、簡単且つ低コストで被シール部材の表面における腐食及び錆を防止することができる。腐食抑制剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
腐食抑制剤には、有効成分として少なくとも1つのアミンが含まれる。腐食抑制剤の有効成分としてアミンを使用することにより、被シール部材に錆防止機能及び腐食防止機能を効果的に付与することができる。使用されるアミンは、特に限定されるものではないが、第2級アミン及び第3級アミンから選択されることが好ましい。これらのアミンは、脂肪族アミン、脂環式アミン及び芳香族アミンのいずれのアミンであってもよい。第2級アミンとして、例えばジエタノールアミン、ジイソプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。第3級アミンとして、例えばトリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミンと高級脂肪酸との反応体、オリゴマー体等が挙げられる。これらのアミンは、アルキル基、水酸基、アルコキシアルキル基等で置換されていてもよく、非置換のアミンであってもよい。高級脂肪酸は、特に限定されるものではなしが、例えば酸化パラフィン、ラウリン酸、オレイン酸等の飽和又は不飽和の高級脂肪酸が挙げられる。高級脂肪酸は水酸基、エステル基等で置換されていてもよく、非置換の高級脂肪酸であってもよい。腐食抑制剤としてのアミンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
このようなアミンを含む腐食抑制剤の市販品として、例えば、キレスト社の「キレスライト(登録商標)T」、「キレスライト(登録商標)W-1」、「キレスライト(登録商標)WR-5」、三洋化成社の「サンヒビター No.50」、KING INDUSTRIES社の「NA-SUL(登録商標)TEA/LB」等を用いることができる。
【0028】
また、腐食抑制剤は、アミン以外の他の防錆剤を含んでいてもよい。このような防錆剤として、例えば、無機系化合物ではクロム酸塩、亜硝酸塩、ケイ酸塩、ポリリン酸塩等が挙げられ、有機系化合物ではカルボン酸、金属石鹸、スルホン酸、エステル、リン酸エステル等が挙げられる。
【0029】
表面処理層中に含まれる腐食抑制剤の含有量は、0.5質量%以上8質量%以下である。腐食抑制剤の含有量が0.5質量%以上8質量%以下であることにより、バインダー等他の成分が凝集することなく腐食抑制剤を添加することができ、表面処理層形成後に徐々に腐食抑制剤が徐放され、被シール部材に所望の機能を効果的に付与することができる。また、腐食抑制剤の含有量の下限値は、1質量%以上であることが好ましく、上限値は、5質量%以下であることが好ましい。
【0030】
表面処理層の厚さは、被シール面におけるJIS B 0601:2001に準拠して測定される最大高さ粗さRz(μm)よりも大きくなるように制御される。特に、シール部材を後述するアルミニウムハウジング用のシール部材として使用する場合、表面処理層の厚さは、アルミニウムハウジングの被シール面における、JIS B 0601:2001に準拠して測定される最大高さ粗さRz(μm)よりも大きいことが好ましい。表面処理層の厚さを被シール面の最大高さ粗さRzよりも大きくすることにより、シール性が良好なシール部材を提供することが可能となり、その結果、被シール部材の表面に生じ得る錆及び腐食を効果的に防止することができる。表面処理層の厚さは、被シール部材の最大高さ粗さRzに応じて設計可能であり、特に限定されるものではないが、例えば、6μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、表面処理層の厚さの上限値は、30μm以下であることが好ましい。
【0031】
表面処理層の厚さは、下記の(a)又は(b)の方法により測定することができる。尚、上記(a)及び(b)のいずれの方法であっても、表面処理層の厚さが同じ値となることが確認されている。
【0032】
(a)既知の厚さのフィルムに表面処理層を形成するためのコーティング材料を塗布し、硬化させた後、マイクロメーターにより得られたシートの総厚さを測定し、(シートの総厚さ)-(フィルムの厚さ)により、表面処理層の厚さを求める方法。
(b)得られたシール部材の断面をFE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)で撮影した後、得られた写真中の表面処理層の厚さを測定する方法。
【0033】
表面処理層は、さらにバインダーを含む。表面処理層がバインダーを含むことにより、腐食抑制剤がコーティング材料中に均一に分散し、均一な厚さの表面処理層を形成することができる。バインダーとしては例えば、両末端水酸基含有乳化重合ポリジメチルシロキサン水性エマルジョン、ヒドラジド類、カルボニル基含有ウレタン樹脂水性エマルジョン、シラノール変性ポリウレタン樹脂水性エマルジョン、硬化シリコーンゴムを挙げることができる。尚、表面処理層を形成する際にバインダーを使用する場合、表面処理層中に含まれる腐食抑制剤の含有量は、固形分換算したバインダーに対する腐食抑制剤の割合で算出される。
【0034】
表面処理層は、必要に応じて他の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、増粘剤、フロー助剤、消泡剤、フィラー、レベリング剤、付着増進剤等が挙げられる。これらの添加剤は、いずれも1種単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して使用してもよい。
【0035】
<シール部材の用途>
本実施形態に係るシール部材は、錆防止機能及び腐食防止機能を被シール部材に付与できるため、シール対象部分に腐食しやすい金属材料を含む各種部材に使用することができる。特に、塩水による影響の観点から、シール部材は、アルミニウムハウジング用のシール部材としての使用に好適であり、アルミニウムハウジングとしては、車両用のアルミニウムハウジングが挙げられる。車両用のアルミニウムハウジングを含む製品として、例えば、燃料電池(FC)、順方向放電(FDC)コンバータ、ハイブリッド電気自動車(HEV)用電動パワーステアリング等の電動パワーステアリング(EPS)、ハイブリッド電気自動車用電子制御ユニット等の電子制御ユニット(ECU)、ハイブリッド電気自動車用無段変速機等の無段変速機(CVT)、電動ウォーターポンプ(電動W/P)、ストロークセンサ、サーモハウジング、Vポンプ、ブレーキ等の自動車用製品が挙げられる。また、上記用途に限らず、シール部材は、塩水や海水による腐食が懸念される部品全般の使用にも有効である。
【0036】
<アルミニウムハウジング>
本実施形態に係るシール部材は、アルミニウムハウジングを構成する一対の部材の間に圧縮された状態で挟まれることによって弾性変形し、これら一対の部材間の密封を図ることができる。このように、シール部材によりアルミニウムハウジングの密閉を図ることができる。
【0037】
シール部材を、アルミニウムハウジング用のシール部材として用いる場合、表面処理層の厚さは、アルミニウムハウジングの被シール面(シール部材と接触する面)におけるJIS B 0601:2001で規定する最大高さ粗さRzよりも大きくなるように制御される。表面処理層の厚さがアルミニウムハウジングの被シール面における最大高さ粗さRzよりも大きいことにより、シール部材とアルミニウムハウジングの被シール面との密着性が向上し、シール性が良好なアルミニウムハウジングのシール部材を提供することが可能となり、その結果、腐食抑制剤もシール面に留まることができ、被シール部材であるアルミニウムハウジングの表面に生じ得る錆及び腐食を効果的に防止することができる。
【0038】
アルミニウムハウジングの材料としては、アルミニウム又はアルミニウム基合金を用いることができる。アルミニウム基合金は、主たる成分(構成成分で最も含有量が多い成分)がアルミニウムである合金であり、アルミニウム以外の合金成分としては、銅(Cu)、珪素(Si)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)等が挙げられる。
【0039】
アルミニウムハウジングにおいて、シール部材を挟圧する部材のうち少なくとも一つが上記のアルミニウム又はアルミニウム基合金であればよく、他の挟圧部材はアルミニウム系部材以外の金属部材又は樹脂部材であってもよい。また、シール部材を挟圧する部材の形状、大きさ、シール部材押圧面の性状等は特に限定されず、シール部材の使用部位・目的に応じて適宜選択できる。尚、アルミニウムハウジングの種類は特に限定されないが、塩水に接触する環境下で使用されるものが好ましい。
【0040】
(シール部材の製造方法)
本実施形態のシール部材の製造方法を以下に記載する。最初に、ゴム基材を準備する。ゴム基材は、所望の形状を有し既に硬化したゴムからなるゴム基材を入手したものでもよいし、ゴム材料を硬化・成形することにより得たものでもよい。
【0041】
次に、ゴム基材上に、表面処理層を形成する。表面処理層の形成方法は特に限定されないが、腐食抑制剤を含むコーティング材料(液状材料)をゴム基材上に塗布した後、所定時間、該コーティング材料を乾燥させることで塗膜を硬化させる方法を挙げることができる。コーティング材料の塗布方法は特に限定されず、ワイヤーバーコーター、フィルムアプリケーター、スプレー、エアナイフコーティング、ダイコート、インクジェット印刷などの方法を挙げることができる。均一な膜厚の表面処理層が得られる観点から、スプレー塗布を行うのが好ましい。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
ゴム基材として、タイプA デュロメータ 硬度が70の、硬化したエチレン・プロピレン・ジエン3元共重合ゴム(EPDM)製のOリングを準備し、メチルメチルケトンで脱脂した。次いで、腐食抑制剤A(トリエタノールアミン含有組成物)をウレタンバインダー(第一薬品工業社製「スーパーフレックス 740」)の固形分に対して1質量%の割合になるように添加してコーティング材料(液状材料)を得た。得られたコーティング材料を撹拌し、100Mのフィルターに通して残渣を確認した。また、コーティング材料をOリングの表面にスプレー塗布した後、自然乾燥させてコーティング材料を硬化させることにより、Oリングの表面上に厚さ12μmの表面処理層を形成した。
【0045】
表面処理層が形成されたOリング(シール部材)を一対のアルミニウム基材(最大高さ粗さRz=6μm;ADC12(商品名))の間に挟み込み、樹脂治具を用いて圧縮率が17%となるように圧縮した。次いで、該アルミニウム基材に密着しているシール部材を、5質量%の塩分濃度の塩水中に50℃で2000時間浸漬させた。その後、塩水中からアルミニウム基材で挟んだシール部材を取り出し、アルミニウム基材間からシール部材を取り除いた。
【0046】
<塩水浸漬試験>
目視にて、アルミニウム基材のうちシール部材に接触する面(シール面)の錆の有無を確認した。目視にて錆が確認された場合を「×」、錆が確認されなかった場合を「○」として評価した。
【0047】
<表面処理層の厚さ>
また、コーティング用の液状材料の塗布時に、同時に0.52mmのポリイミドフィルム上にも該液状材料を塗布し、液状材料の硬化後に得られたシート全体の厚さをデジタルマイクロメーターで測定した。次いで、(表面処理層の厚さ+ポリイミドフィルムの厚さ)であるシートの総厚さを測定した後、(シートの総厚さ-ポリイミドフィルムの厚さ)を計算することにより表面処理層の厚さを算出した。
【0048】
(実施例2)
実施例1において、腐食抑制剤Aの代わりに、予めイソプロピルアルコールに溶解させた腐食抑制剤B(ジシクロヘキシルアミンとオレイン酸との混合物)を使用した以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0049】
(実施例3)
実施例1において、腐食抑制剤Aの代わりに、予めイソプロピルアルコールに溶解させた腐食抑制剤C(-(C2H4O)2-Hで置換された、ジシクロヘキシルアミンとオレイン酸との反応体)を使用した以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0050】
(実施例4)
実施例3において、腐食抑制剤Cをウレタンバインダー(第一薬品工業社製「スーパーフレックス 740」)の固形分に対して5質量%の割合になるように添加した以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0051】
(実施例5)
実施例1において、腐食抑制剤Aの代わりに、予めイソプロピルアルコールに溶解させた腐食抑制剤D(ジシクロヘキシルアミンと、オレイン酸と、-(C2H4O)2-CH3で置換されたジシクロヘキシルアミンとのオルゴマー体)を使用し、さらに腐食抑制剤Dをウレタンバインダー(第一薬品工業社製「スーパーフレックス 740」)の固形分に対して5質量%の割合になるように添加した以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0052】
(実施例6)
実施例5において、Oリングとして、タイプA デュロメータ 硬度が60の、硬化したエチレン・プロピレン・ジエン3元共重合ゴム(EPDM)製のOリングを使用した以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、表面処理層を形成していない以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、腐食抑制剤Aを添加せず、ウレタンバインダーで表面処理層を形成した以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、腐食抑制剤Aの代わりに腐食抑制剤E(スルホン酸カルシウム)をウレタンバインダー(第一薬品工業社製「スーパーフレックス 740」)の固形分に対して5質量%の割合になるように添加したした以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0056】
(比較例4)
実施例3において、腐食抑制剤Cをウレタンバインダー(第一薬品工業社製「スーパーフレックス 740」)の固形分に対して10質量%の割合になるように添加したした以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0057】
(比較例5)
実施例5において、表面処理膜の厚さが5μmになるように形成した以外は、実施例1と同様にシール部材を作製した。得られたシール部材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0058】
実施例1~6及び比較例1~5における「塩水浸漬試験」の結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
上記表1に示される各成分は、下記の通りである。
・EPDM:エチレン・プロピレン・ジエン3元共重合ゴム
・腐食抑制剤A:トリエタノールアミンとスルホン酸カルシウムを含む組成物
・腐食抑制剤B:ジシクロヘキシルアミンとオレイン酸との混合物
・腐食抑制剤C:-(C2H4O)2-Hで置換された、ジシクロヘキシルアミンとオレイン酸との反応体
・腐食抑制剤D:ジシクロヘキシルアミンと、オレイン酸と、-(C2H4O)2-CH3で置換されたジシクロヘキシルアミンとのオルゴマー体
・腐食抑制剤E:スルホン酸カルシウム
【0061】
表1の結果より、アミンを含む腐食抑制剤を0.5質量%以上8質量%以下の含有量で含有する表面処理層が、被シール面に最大高さ粗さRzよりも大きい厚さで形成されているシール部材を使用した実施例1~6では、塩水浸漬試験結果はいずれも「○」であった。また、100Mフィルター上にも残渣が確認されず、スプレー塗布の際に吐出詰まりしないコーティングが可能であった。そのため、被シール部材の表面において、腐食や錆の防止を簡単且つ低コストで効果的に行うことができるシール部材を提供することができた。
【0062】
一方、表1の結果より、比較例1では、シール材のゴム基材上に表面処理層を形成していない。そのため、塩水浸漬試験の結果は「×」となり、錆の発生を防止することができなかった。
【0063】
比較例2では、ウレタンバインダーで形成した表面処理層には腐食抑制剤が含まれていない。そのため、塩水浸漬試験の結果は「×」となり、錆の発生を防止することができなかった。
【0064】
比較例3では、塩水浸漬試験の結果は「〇」であり、錆の発生を防止することができていたものの、表面処理層の形成においてアミンを含む腐食抑制剤の代わりにスルホン酸カルシウムが使用されている。そのため、100Mフィルター上に残渣が確認された。このような残渣はその後のコーティング材料のスプレー塗布時に吐出詰まりを引き起こすため、低コストで効果的に錆の発生を防止することができなかった。
【0065】
比較例4では、塩水浸漬試験の結果は「〇」であり、錆の発生を防止することができていたものの、表面処理層の形成においてアミンを含む腐食抑制剤の含有量が10質量%であり、過剰量の腐食抑制剤が使用されている。そのため、過剰の腐食抑制剤が他の成分と凝集し、100Mフィルター上に残渣が確認された。このような残渣はその後のコーティング材料のスプレー塗布時に吐出詰まりを引き起こすため、低コストで効果的に錆の発生を防止することができなかった。
【0066】
比較例5では、表面処理層の厚さが、被シール部材であるアルミニウム基材の被シール面における最大高さ粗さRz以下であるため、被シール面を表面処理層で完全にシールすることができず、腐食抑制剤がアルミニウム基材の隙間から抜けやすくなり、シール面に留まることができない。そのため、塩水浸漬試験の結果は「×」となり、錆の発生を防止することができなかった。