(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】金属加工油剤組成物及び金属加工方法
(51)【国際特許分類】
C10M 173/00 20060101AFI20241101BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20241101BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20241101BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20241101BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20241101BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20241101BHJP
【FI】
C10M173/00
C10M101/02
C10N40:20
C10N20:00 A
C10N30:00 Z
C10N30:12
(21)【出願番号】P 2020103758
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】常盤 祐平
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/114505(WO,A1)
【文献】特開2005-255770(JP,A)
【文献】特開2007-270082(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0211949(US,A1)
【文献】特開2008-081602(JP,A)
【文献】特開平02-227496(JP,A)
【文献】森岡進,金属材料の耐食性,工業化学雑誌,1958年,61(3),278-280,DOI: 10.1246/nikkashi1898.61.278
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニリン点が60℃以上84℃以下である鉱物油と、水とを含有してなる水中油型エマルションを含
み、
前記鉱物油は、硫黄元素の含有量が0.2重量%以下であるパラフィン系鉱物油を含む、金属加工油剤組成物。
【請求項2】
アニリン点が60℃以上84℃以下である鉱物油と、水とを含有してなる水中油型エマルションを含み、
前記鉱物油は、硫黄元素の含有量が0.07重量%以下であるナフテン系鉱物油を含む、金属加工油剤組成物。
【請求項3】
請求項1
又は請求項
2に記載の金属加工油剤組成物を使用して、金属材を加工する金属加工方法。
【請求項4】
前記金属材が、銅系金属材又亜鉛系金属材である請求項
3に記載の金属加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油剤組成物及び金属加工方法に関する。より詳細には、金属、特に銅系又は亜鉛系金属の溶出を抑制し、防食性に優れた金属加工油剤組成物、及びこの金属加工油剤組成物を用いた金属加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工や研削加工などの金属加工分野において、水溶性の金属加工油剤組成物が使用されている。水溶性の金属加工油剤組成物は、一般に、基油、界面活性剤、酸化防止剤、水などを目的に応じて配合してなり、例えばクーラント液のように、さらに水に希釈して使用されることも多い。このため、被加工材が腐食しやすいという問題がある。
【0003】
そこで、被加工材の腐食を抑制するために、従来、金属加工油剤組成物には防食剤が配合されている。防食剤は、被加工材の金属がイオンとして金属加工油剤組成物に含まれる水に溶出することを防止する効果がある。特許文献1には、防食成分として、油溶性有機金属塩、ベンゾトリアゾール、有機アミンを含有する防錆剤組成物が開示されている。特許文献1によれば、防錆剤組成物は、油溶性有機金属塩とベンゾトリアゾールとを併用することで、ベンゾトリアゾールと金属との錯体形成による強固な結合を維持しつつ、油溶性有機金属塩の多重防錆層を形成することが可能となり、水希釈液中における防錆剤の含有量が極く少量であっても、優れた防食性能が発揮される。そして、特許文献1の防錆剤組成物は、アルミニウム純度の高いアルミニウム合金のみならず、銅を多く含むアルミダイカストのようなアルミニウム合金に対しても極めて安定した防食性能を発揮しうることが記載されている。
【0004】
また、水溶性の金属加工油剤組成物は、廃棄する際、クーラント液中の有機物、金属分等を除去し、各河川の条令に基づいた排水基準値以下の清浄な水として放流するための処理が必要とされ、排水処理上の大きな負担となっている。このような観点から、特許文献2には、アニリン点が85~110℃の鉱物油または合成油、アミン、有機酸、非イオン界面活性剤を含有する水溶性切削油剤が開示されている。特許文献2によれば、水溶性切削油剤は、排水処理性が良好で、且つ設備攻撃性を減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6286642号公報
【文献】特許第5916589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、ベンゾトリアゾールは防食剤として用いられているが、防食効果を示すのは特定の金属材に限られており、特に真鍮に対しては防食効果を十分に示さないという問題がある。また、85℃以上のアニリン点を有する鉱物油または合成油を含有する金属加工油剤組成物は、乳化性や安定性が悪くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、金属の溶出を抑制し、防食性に優れた金属加工油剤組成物、及びこの金属加工油剤組成物を用いた金属加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、金属加工油剤組成物は、アニリン点が特定の範囲内である鉱物油を含むことにより、金属加工油剤組成物又は金属加工油剤組成物の希釈液中への銅の溶出を抑制し得ることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成された発明である。
【0009】
すなわち、本発明の一態様に係る金属加工油剤組成物は、アニリン点が60℃以上84℃以下である鉱物油と、水とを含有してなる水中油型エマルションを含む。ここで、アニリン点とは、等容量のアニリンと、炭化水素又は炭化水素の混合物とが均一な溶液として存在する最低温度であり、JIS K2256に準じて測定された値を意味する。
【0010】
上述の金属加工油剤組成物において、前記鉱物油は、硫黄元素の含有量が0.2重量%以下であるパラフィン系鉱物油を含んでもよい。
【0011】
上述の金属加工油剤組成物において、硫黄元素の含有量が0.07重量%以下であるナフテン系鉱物油を含んでもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る金属加工方法は、上述のいずれかの金属加工油剤組成物を使用して、金属材を加工する。
【0013】
上述の金属加工方法において、前記金属材が、銅系金属材又亜鉛系金属材であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属の溶出を抑制し、防食性に優れた金属加工油剤組成物、及びこの金属加工油剤組成物を用いた金属加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】銅の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。
【
図2】亜鉛の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本明細書中、特に記載が無い限り、含有量又は配合割合の単位「%」は、「重量%」を意味する。
【0018】
1.金属加工油剤組成物
本発明の実施形態に係る金属加工油剤組成物は、アニリン点が60℃以上84℃以下である鉱物油と、水とを含有してなる水中油型エマルションを含む。
以下、実施形態に係る金属加工油剤組成物の組成について具体的に説明する。
【0019】
実施形態に係る金属加工油剤組成物は、基油としてアニリン点が60℃以上84℃以下である鉱物油を含む。鉱物油は、種々の化学構造を有する炭化水素の混合物であり、主成分の炭化水素により、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油、芳香族系鉱物油に分類されるが、本発明においては、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油を用いることが好ましく、パラフィン系鉱物油を用いることがより好ましい。鉱物油は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
実施形態に係る金属加工油剤組成物における基油の含有量については、例えば、金属加工油剤組成物の総量を基準として、基油の総量を40%以上85%以下とすることが好ましい。この場合、金属の溶出をより効果的に抑制し、防食性が向上すると共に、金属加工油剤組成物の安定性が向上する。基油の総量の下限は、より好ましくは45%、さらに好ましくは50%である。基油の総量の上限は、より好ましくは80%、さらに好ましくは75%である。
【0021】
実施形態に係る金属加工油剤組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で他の基油を適宜含有していてもよい。他の基油としては、天然品、合成品いずれでもよく、例えば植物油、脂肪酸エステル類等が挙げられる。金属加工油剤組成物は、基油の他に、油性成分として例えば脂肪酸類、脂肪酸縮合物質類等をさらに含んでもよい。
【0022】
金属加工油剤組成物に基油以外の油性成分が含まれる場合、本願発明の効果をより一層高める観点から、基油の含有量は、油性成分の総量1質量部に対して、基油が総量で0.6質量部以上とすることが好ましく、より好ましくは0.7質量部以上、さらに好ましくは0.8質量部以上である。
【0023】
実施形態に係る金属加工油剤組成物に含まれる鉱物油は、上述したようにアニリン点が60℃以上84℃以下であるという条件を満たす。鉱物油のアニリン点が上記の範囲内である場合、金属加工油剤組成物又は金属加工油剤組成物の希釈液中への金属(被加工材)の溶出を抑制する効果が顕著に発揮され、優れた防食効果を発揮することができ、さらには、金属加工油剤組成物の変色を防止し得ると共に、金属加工油剤組成物の乳化性及び安定性を向上させることができる。アニリン点の下限は、65℃、70℃、80℃の順に好ましい。金属加工油剤組成物の乳化性及び安定性の観点から、鉱物油がナフテン系鉱物油である場合、アニリン点の上限は70℃であることが好ましい。
【0024】
実施形態において、鉱物油に含まれる不純物量は少ない方が好ましく、すなわち鉱物油の純度は高い方が好ましい。鉱物油に含まれる不純物量は、鉱物油の種類に応じて適宜設定できるが、例えば鉱物油がパラフィン系鉱物油である場合、主な不純物である硫黄元素の含有量は、パラフィン系鉱物油の総量を基準として、硫黄元素を0.2%以下とすることが好ましい。この場合、硫黄元素等の不純物量を低減し、金属の溶出を効果的に抑制することができる。パラフィン系鉱物油における硫黄元素の含有量は、より好ましくは0.18%以下、さらに好ましくは0.16%以下である。
【0025】
例えば鉱物油がナフテン系鉱物油である場合、主な不純物である硫黄元素の含有量は、ナフテン系鉱物油の総量を基準として、硫黄元素を0.07%以下とすることが好ましい。この場合、硫黄元素等の不純物量を低減し、金属の溶出を効果的に抑制することができる。パラフィン系鉱物油における硫黄元素の含有量は、より好ましくは0.05%以下であり、さらに好ましくは0%である。
【0026】
本明細書において、鉱物油における硫黄元素等の不純物は、蛍光X線分析(XRF)、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析などにより測定することができる。
【0027】
実施形態に係る金属加工油剤組成物は、水を含む。使用する水は、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等いずれでもよく、その水は硬水であるか軟水であるかを問わない。本発明の金属加工油剤組成物における水の含有量については、通常、金属加工油剤組成物の総量を基準として、水の総量を1%以上5%以下とすることができる。
【0028】
実施形態に係る金属加工油剤組成物は、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤は、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができる。中でも、分散性の観点から、ノニオン界面活性剤を用いるのが好ましい。界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0029】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が挙げられる。中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル等が挙げられる。ポリオキシアルキレンオレイルエーテルとしては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテルが挙げられる。ポリオキシアルキレンラウリルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが挙げられる。
【0030】
金属加工油剤組成物における界面活性剤の含有量については、界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。例えば、界面活性剤の含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、界面活性剤の総量を0.01%以上9.0%以下とすることが好ましい。この場合、油滴径を適切な範囲内に調整し、金属加工油剤組成物の乳化安定性を向上させると共に、金属の溶出を効果的に抑制し得る。
【0031】
実施形態に係る金属加工油剤組成物は、上記の鉱物油を含む基油、水、及び界面活性剤を混合、攪拌し、水中油型エマルションを調製することによって得ることができる。
【0032】
実施形態に係る金属加工油剤組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、防錆剤、防食剤、防腐剤、消泡剤、及び極圧添加剤等の各種添加物を含有することができる。
【0033】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリルジチオリン酸亜鉛、有機硫化物等が挙げられる。酸化防止剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。酸化防止剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、酸化防止剤の総量を通常1%以上10%以下とすることができる。
【0034】
防錆剤としては、有機アミン、炭素数6~36の脂肪族モノカルボン酸及びジカルボン酸とそのアミド、炭素数6~36のアルケニルコハク酸とそのアミド、芳香族カルボン酸、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。防錆剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防錆剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、防錆剤の総量を通常0.01%以上3%以下とすることができる。
【0035】
防食剤としては、リン酸エステル、アルキルホスホン酸、メタ珪酸ソーダ等が挙げられる。防食剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防食剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、防食剤の総量を通常1%以上5%以下とすることができる。
【0036】
防腐剤としては、トリアジン系化合物、チアゾリン系化合物、フェノール系化合物等が挙げられる。防腐剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防腐剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、防腐剤の総量を通常0.001%以上3%以下とすることができる。
【0037】
消泡剤としては、分子量100~1,000のポリオルガノシロキサン等が挙げられる。消泡剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。消泡剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、消泡剤の総量を通常0.001%以上1%以下とすることができる。
【0038】
極圧添加剤としては、鉛石鹸、硫化脂肪酸等の硫黄化合物、塩素化パラフィン等の塩素化合物、リン化合物等が挙げられる。極圧添加剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
実施形態に係る金属加工油剤組成物は水溶性状であり、そのまま金属材の加工に使用できる。また、実施形態に係る金属加工油剤組成物を原液とし、さらに水等の希釈剤で希釈して得られるクーラント(冷却剤)として金属材の加工に使用することもできる。
【0040】
実施形態に係る金属加工油剤組成物を希釈剤で希釈して使用する場合、希釈倍率は、金属加工油剤組成物の組成及び金属加工時に求められる性能に応じて適宜調整すればよい。希釈して使用する場合は、通常1.5倍以上100倍以下に希釈して使用する。本発明の効果をより一層高め、加工特性を向上させるという観点から、好ましくは5倍以上50倍以下、より好ましくは10倍以上30倍以下である。
【0041】
使用時における本発明の金属加工油剤組成物のpHは、8.0以上9.0以下であることが好ましく、より好ましくは8.2以上8.9以下である。金属加工油剤組成物の水希釈液のpHが前記範囲であると、金属の溶出抑制効果に優れ、防食性を向上させると共に、水希釈液の腐敗を効果的に防止する。
【0042】
実施形態に係る金属加工油剤組成物の平均油滴径は90nm以上350nm以下であることが好ましい。金属加工油剤組成物の平均油滴径が上記の範囲内であると、金属加工油剤組成物または金属加工油剤組成物の希釈液中への金属(被加工材)の溶出を抑制する効果が発揮され、かつ油性成分の安定性を向上させる。
【0043】
実施形態に係る金属加工油剤組成物は、金属材の切削、研削、研磨及び切断等の加工に利用することができる。加工対象とする金属の種類としては、例えば、インコネル、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金等の非鉄金属及びその合金等が挙げられる。特に、腐食され易く、従来の防食剤や防錆剤による防食効果が低い真鍮等の、銅系金属、亜鉛系金属やその合金に本発明の金属加工油剤組成物を適用した場合、良好に金属の溶出抑制効果が発揮される。
【0044】
2.金属加工方法
本発明の実施形態に係る金属加工方法は、上記の実施形態に係る金属加工油剤組成物を用いて金属材を加工する。金属材の加工としては、切削、研削、研磨及び切断が挙げられる。金属加工油剤組成物を加工点に例えば液体状または霧状で供給した場合、金属加工油剤組成物中への金属材の溶出抑制効果を発揮し、防食性を向上させることができる。
【0045】
加工対象とする金属の種類としては、例えば上述した金属等が挙げられる。特に、腐食され易く、従来の防食剤や防錆剤による防食効果が低い真鍮等の、銅系金属、亜鉛系金属やその合金に本発明の金属加工方法を適用した場合、良好に金属の溶出抑制効果が発揮されるため好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されることは意図しない。
【0047】
[実施例1]
<金属加工油剤組成物の調製>
鉱物油として、下記表1に物性値を示す鉱物油A(ナフテン系鉱物油)を使用した。鉱物油の組成について、蛍光X線分析装置(「EDX-8100」(株式会社島津製作所製))を用いて分析した。これらの分析結果を表1に併記する。具体的には、主な不純物となる、S、Ag、Hfの含有量を分析し、これら不純物含有量を減算することにより、残りを樹脂として算出した。
【0048】
【0049】
下記表2に示す組成及び下記表3に示す界面活性剤の組成に従い、実施例1の金属加工油剤組成物を調製した。
表3に示される界面活性剤については、以下の通りである。
・界面活性剤A:ポリオキシアルキレンラウリルエーテル
・界面活性剤B:ポリオキシアルキレンオレイルセチルエーテル
・界面活性剤C:ポリオキシエチレンオレイルエーテル
・界面活性剤D:ポリオキシアルキレンラウリルエーテル
金属加工油剤組成物の調製方法に特に制限はなく、室温下、各成分を順次投入し、一般的な撹拌方法で適切に撹拌することで調製した。
【0050】
【0051】
【0052】
[実施例2~4]
界面活性剤の配合比率を表3に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~4の金属加工油剤組成物を調製した。
【0053】
[実施例5~8]
鉱物油として上記表1に示す鉱物油B(パラフィン系鉱物油)を使用し、界面活性剤の配合比率を表3に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5~8の金属加工油剤組成物を調製した。
【0054】
[比較例1~4]
鉱物油として上記表1に示す鉱物油C(ナフテン系鉱物油)を使用し、界面活性剤の配合比率を表3に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1~4の金属加工油剤組成物を調製した。
【0055】
<油滴径の測定>
調製後の各試験液について、金属加工油剤組成物の平均油滴径を測定した。平均油滴径の測定は、動的光散乱(光子相関法)による粒子径測定装置(「ELSZ-1000 」(大塚電子株式会社製))を用いて行った。実施例1~8及び比較例1~4の測定結果を上記表3に併記する。
【0056】
<金属溶出抑制試験>
試験液として、上記表2の試料原液を水で5%に希釈し、pHを8.85付近に調整したものを用いた。上記実施例及び比較例の各水希釈液20g中に、真鍮の研削粉5gを添加し、50℃下で一週間静置後、ろ紙を用いてろ過し、ろ液中の銅及び亜鉛濃度をそれぞれ原子吸光光度計により測定した。このろ液中の銅及び亜鉛濃度(mg/L)を、それぞれ銅及び亜鉛の溶出量(mg/L)とした。溶出量の測定は、原子吸光法による原子吸光分光光度計(「AA240FS 」(アジレント・テクノロジー社製))を用いて行った。実施例1~8及び比較例1~4の試験結果を下記表4に示す。
表3及び表4に基づいて
図1及び
図2を作成する。
図1は、銅の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。
図1の縦軸は銅の溶出量(単位はmg/L)を、横軸は平均油滴径(単位はnm)を示す。
図2は、亜鉛の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。
図2の縦軸は亜鉛の溶出量(単位はmg/L)を、横軸は平均油滴径(単位はnm)を示す。
【0057】
【0058】
上記表4、
図1及び
図2から明らかなように、金属加工油剤組成物における鉱物油のアニリン点が60℃以上84℃以下の範囲内である実施例1~8の試験液において、金属加工油剤組成物の希釈液中への銅及び亜鉛それぞれの溶出量が低減している。これに対して、金属加工油剤組成物に係る鉱物油のアニリン点が60℃以上84℃以下の範囲外である比較例1~4の試験液においては、銅及び亜鉛それぞれの溶出抑制効果が十分に得られない。
【0059】
図1及び
図2から明らかなように、平均油滴径が増加すると、銅及び亜鉛それぞれの溶出量が減少している。平均油滴径の近似するものについて比較すると、銅及び亜鉛ともに、鉱物油C、鉱物油A、鉱物油B、の順に溶出量が減少している。これより、ナフテン系鉱物油よりもパラフィン系鉱物油の方が金属の溶出抑制効果に優れており、同じ種類のナフテン系鉱物油であれば、アニリン点の高い方が金属の溶出抑制効果に優れていることがわかる。鉱物油のアニリン点の下限は、65℃、70℃、80℃の順に好ましい。ナフテン系鉱物油である場合、アニリン点は70℃以下であることが好ましい。
【0060】
また、鉱物油Cよりも鉱物油Aを用いた場合において、銅及び亜鉛ともに溶出量が減少していることから、同じ種類のナフテン系鉱物油における不純物を低減することにより、効果的に金属の溶出が抑制されることがわかる。ナフテン系鉱物油における硫黄元素の含有量は、0.07重量%以下とすることが好ましい。また、鉱物油Bにおいても効果的に金属の溶出が抑制されていることから、パラフィン系鉱物油における硫黄元素の含有量は、0.2重量%以下とすることが好ましい。
【0061】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。