(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】ダイカスト鋳造用アルミニウム合金及びそれを用いた鋳造製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20241101BHJP
C22F 1/043 20060101ALI20241101BHJP
B22D 17/00 20060101ALI20241101BHJP
B22D 17/32 20060101ALI20241101BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20241101BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241101BHJP
【FI】
C22C21/02
C22F1/043
B22D17/00 B
B22D17/32 A
B22D21/04 A
C22F1/00 602
C22F1/00 611
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 630K
C22F1/00 681
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
(21)【出願番号】P 2020121010
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2019136522
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】西川 知志
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-232087(JP,A)
【文献】国際公開第2018/189869(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/166779(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 - 21/18
C22F 1/04 - 1/057
B22D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下全て質量%にて、Si:7.0~9.0%,Mg:0.4~0.6%,Cu:0.4~0.7%,Cr:0.1~0.5%,Mn:0.5%以下,[Cr+Mn]:0.1~0.8%,Fe:0.10~0.25%,Sr:0.005~0.02%
,Ti:0.01~0.2%含有し、残部がAlと不純物であるダイカスト鋳造用アルミニウム合金
を用いて、
ダイカスト鋳造により金型に対してゲート速度1m/sec以下にて層流充填し、
ダイカスト鋳造後に、160℃~200℃にて2~8時間の熱処理を行うことを特徴とする鋳造製品の製造方法。
【請求項2】
引張強さ280N/mm
2以上,0.2%耐力180N/mm
2以上,伸び4%以上及びシャルピー衝撃値3J/cm
2以上の高強度及び高靱性であることを特徴とする請求項
1記載の鋳造製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシンによるダイカスト鋳造に適したアルミニウム合金及びそれを用いたダイカスト鋳造による鋳造製品の製造方法に関し、特に高強度と高靱性の両立を図ることができる。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造は、金型のキャビティ内に金属の溶湯を高速で高圧充填する鋳造方法であり、生産性が高く、自動車部品や機械部品等に広く採用されている。
このようなダイカスト鋳造用のアルミニウム合金には、金型への湯流れ性が要求されることからAl-Si系の合金が使用されているが、近年は軽量化のニーズから、より高強度のアルミニウム合金が要求されているが、靭性が不充分となりやすく高強度で且つ、高靱性のアルミニウム合金が期待されている。
【0003】
特許文献1には、Si:3.5~7.5%,Mg:0.45~0.8%,Cr:0.05~0.25%,Cu:0~0.01%のアルミニウム合金を開示するが、引張強度320MPa以上得るのに溶体化処理後に熱処理、いわゆるT6処理が必要と記載されている。
しかし、T6処理はT5処理に比較して工程が長く、生産性が劣る点及びCu成分が0~0.01%と低いことからT5処理にて充分な強度が得られないものと推定される。
【0004】
特許文献2には、高耐力及び高延性を得る目的でSi:6.00~6.50%,Mg:0.10~0.50%,Fe:0.30%以下,Mn:0.30~0.60%,Cr:0.10~0.30%を含有する合金を開示し、更にはSr:30~200ppm,B:1~50ppm,Sb:0.05~0.20%,Ti:0.05~0.30%を含有することが記載されているが、Siの含有量が少なく湯流れ性が低い恐れがあるとともに、Cu成分が僅かしか添加されてないので、T5処理にて充分な強度が得られないものと推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5575028号公報
【文献】特許第5797360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高強度で且つ高靱性を有するアルミダイカスト鋳造製品を得るのに適したアルミニウム合金及びそれを用いた鋳造製品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るダイカスト鋳造用アルミニウム合金は、以下全て質量%にて、Si:7.0~9.0%,Mg:0.4~0.6%,Cu:0.4~0.7%,Cr:0.1~0.5%,Mn:0.5%以下,[Cr+Mn]:0.1~0.8%,Fe:0.10~0.25%,Sr:0.005~0.02%含有し、残部がAlと不純物であることを特徴とする。
さらに、必要に応じてTiが0.2%以下の範囲にて含有していてもよい。
ここで、不純物とは製造工程にて混入する恐れがある不可避的な不純物をいう。
【0008】
本発明において、成分範囲を選定した理由を説明する。
<Si成分>
Siはダイカスト鋳造において、湯流れ性を確保するには7.0質量%以上(以下、単に%と表現する)必要であり、9.0%を超えると粗大な初晶Siが析出しやすくなり、伸びが低下する恐れがあることからSi:7.0~9.0%の範囲とした。
好ましくは、Si:7.10~8.50%の範囲である。
<Mg,Cu成分>
Mg及びCuは、鋳造製品の強度を向上させるのに有効な成分であり、本発明においては鋳造後の熱処理(T5処理)にて高強度が得られるようにMg:0.4%以上,Cu:0.4%以上とした。
但し、伸びが必要以上に低下するのを抑えるべく、Mg:0.4~0.6%,Cu:0.4~0.7%の範囲とした。
<Cr,Mn,Fe成分>
ダイカスト鋳造において、Fe成分は混入しやすい成分の1つであり、Feが0.25%を超えると晶出物が粗大化し、伸びが低下するので本発明においてはFe:0.10~0.25%の範囲に設定するとともにCrの添加により、Fe系の晶出物の微細化を図った。
Cr成分が0.5%を超えると逆に粗大化した晶出物が晶出する恐れがあるので、Cr:0.1~0.5%の範囲とした。
本発明は、Mnを添加することでもFe系の晶出物を微細化することができ、Mnを添加する場合には0.5%以下が好ましい。
Mnが0.5%を超えると粗大な晶出物が晶出しやすくなり、伸びが低下する。
また、CrとMnの両方を添加する場合には合計の値を制御する必要があり、CrとMnの合計[Cr+Mn]は0.1~0.8%の範囲がよい。
<Sr,Ti成分>
Srは少量の添加にて共晶Siの微細化に効果があり、Sr:0.005~0.02%の範囲とした。
また、Tiは本発明において必須の成分ではないが、添加するとアルミニウム合金の結晶粒の微細化に効果があり、添付する場合には0.01~0.2%の範囲が好ましい。
【0009】
ダイカスト鋳造に用いられる金型は固定型に対して開閉制御された可動型からなり、この固定型と可動型とが閉じた際に形成されるキャビティ内に、スリーブに注湯したアルミニウム合金の溶湯をプランジャーにて高速,高圧条件で射出して鋳造される。
この射出条件は、金型のキャビティ内に層流充填されるようにゲート速度が1m/sec以下になるように設定するのが好ましい。
本発明に用いる金型は、溶湯を中心部から放射状に射出できるセンターゲート型を用いるのが好ましい。
【0010】
本発明に係るアルミニウム合金を用いると、ダイカスト鋳造後に、160℃~200℃にて2~8時間の熱処理(T5処理)を行うことにより、引張強さ280N/mm2以上,0.2%耐力180N/mm2以上,伸び4%以上及びシャルピー衝撃値3J/cm2以上の高強度及び高靱性を有する鋳造製品が得られる。
なお、このような鋳造製品の金属組織は光学顕微鏡で共晶Siを除いた晶出物の平均面積を測定すると、2μm2以下になっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアルミニウム合金を用いてダイカスト鋳造すると、その後のT5処理にて高強度でありながら靭性に優れたダイカスト鋳造製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】評価に用いたアルミニウム合金の化学組成を示す。
【
図3】実施例1と比較例1の金属組織の光学顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の表に示した各化学組成のアルミニウム合金の溶湯を調整し、センターゲート型の金型を用いて鋳造製品をダイカスト鋳造をした。
鋳造条件は、溶湯温度約700℃,射出ゲート速度0.8m/seeである。
鋳造後に190℃にて3時間の熱処理(T5)を行った。
図2に、機械的性質及び共晶Siを除く晶出物の平均面積(平均晶出物面積)の測定結果を示す。
図3に、実施例1と比較例1の光学顕微鏡写真の例を示す。
【0014】
試験項目及び試験方法は、次のとおりである。
<引張強さ、0.2%耐力及び伸び>
JIS-Z2241に基づいて、鋳造品よりJIS-4号試験片を切り出し、JIS規格に準拠した引張試験機にて引張試験を実施し、引張強さ(MPa),0.2%耐力(MPa)及び、伸び(%)を測定した。
<シャルピー衝撃試験>
JIS-Z2242に基づいて鋳造品よりJIS-4号シャルピー衝撃試験片を切り出し、JIS規格に準拠したシャルピー衝撃試験機にて測定した。
<平均晶出物面積>
鋳造品の切断面を鏡面研磨仕上げし、光学顕微鏡にて観察及び計測した。
倍率1000倍における測定面積0.166mm2の範囲で画像処理を行い、共晶Siを除いた部分における晶出物の面積を計測し、平均値を出した。
【0015】
図1の化学組成及び
図2の評価結果から次のことが分かる。
なお、本発明においては引張強さ280MPa以上,0.2%耐力180MPa以上の高強度を目標とし、伸び4%以上でシャルピー衝撃値3J/cm
2以上の高靱性を目標とした。
実施例1~11はいずれも設定した範囲の合金組成であり、T5処理に全ての目標をクリアーしている。
これらに対して比較例1は、Cr:0.85%と0.5%を超えているので粗大なCr系の晶出物が晶出し、伸びが目標以下でシャルピー衝撃値も目標未達であった。
比較例2は、逆にCrが添加されていないためにFe系の晶出物が粗大化し、伸びが低い値になった。
比較例3はCu成分が少なく、比較例4はSi成分が少なく、比較例5はMg成分が少ないため、引張強度は0.2%耐力が目標未達であった。
比較例6はCu成分が多く、比較例7はMg成分が多く、比較例8はFe成分が多く、伸びが低くなった。
比較例9はSrが添加されていないため、伸びが悪くなった。
比較例10~14は、F材であるため強度が低い。
比較例15は[Cr+Mn]の合計が0.98%と0.8%を超えていたので、晶出物が粗大化し、平均晶出物面積が5.6μm
2と2μm
2を超えたので伸びが低くなった。