(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】基板処理方法、基板処理装置、および、処理液
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241101BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/306 Z
H01L21/304 647A
H01L21/304 643A
H01L21/304 651B
(21)【出願番号】P 2020126875
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸史
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-165526(JP,A)
【文献】特開2013-008897(JP,A)
【文献】特開2007-059876(JP,A)
【文献】特表2013-534944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に処理液を供給し、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させることによって、処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記処理膜に対してエッチング機能発現処理を行うことによって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程と、
前記処理膜に対するエッチング機能消失処理を行うことによって、前記処理膜が前記基板上に維持されている状態で前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程とを含
み、
前記エッチング機能発現処理が、pH調整液を前記基板上の前記処理膜に向けて供給して、前記処理膜中のpHを酸性または塩基性に調整するpH調整処理を含み、
前記エッチング機能消失処理が、中性化液を前記基板上の前記処理膜に向けて供給して、前記処理膜中のpHを、前記pH調整処理によって調整された前記処理膜中のpHよりも、中性に近づける中性化処理を含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記処理膜形成工程において、前記エッチング機能発現処理によってエッチング機能を発現する機能発現成分を含有する前記処理膜が形成される、請求項
1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記機能発現成分が、前記エッチング機能発現処理によって前記処理膜中にプロトンを放出し、前記エッチング機能消失処理によって前記処理膜からプロトンを受け取るポリマーであり、
前記エッチング促進工程が、前記エッチング機能発現処理によって前記ポリマーから前記プロトンを放出させることによって、前記基板の表層部のエッチングを促進する工程を含み、
前記エッチング緩和工程が、前記エッチング機能消失処理によって前記ポリマーに前記プロトンを付与することによって、前記基板の表層部のエッチングを緩和する工程を含む、請求項
2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記機能発現成分が、複数種の構成単位を有し、前記構成単位の一種として有機酸を含むポリマーであり、
前記エッチング促進工程が、前記エッチング機能発現処理によって前記ポリマーを分解し単量体の有機酸を含む複数種の単量体を形成することによって、前記基板の表層部のエッチングを促進する工程を含み、
前記エッチング緩和工程が、前記エッチング機能消失処理によって前記処理膜中の複数種の単量体を重合して前記ポリマーを形成することによって、前記基板の表層部のエッチングを緩和する工程を含む、請求項
2に記載の基板処理方法。
【請求項5】
基板の表面に処理液を供給し、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させることによって、処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記処理膜に対してエッチング機能発現処理を行うことによって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程と、
前記処理膜に対するエッチング機能消失処理を行うことによって、前記処理膜が前記基板上に維持されている状態で前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程とを含み、
前記処理膜形成工程において、前記エッチング機能発現処理によってエッチング機能を発現する機能発現成分を含有する前記処理膜が形成され、
前記機能発現成分が、前記エッチング機能発現処理によって前記処理膜中にプロトンを放出し、前記エッチング機能消失処理によって前記処理膜からプロトンを受け取るポリマーであり、
前記エッチング促進工程が、前記エッチング機能発現処理によって前記ポリマーから前記プロトンを放出させることによって、前記基板の表層部のエッチングを促進する工程を含み、
前記エッチング緩和工程が、前記エッチング機能消失処理によって前記ポリマーに前記プロトンを付与することによって、前記基板の表層部のエッチングを緩和する工程を含む基板処理方法。
【請求項6】
前記ポリマーが、N-イソプロピルアクリルアミドと、N,N′-メチレンビスアクリルアミドと、アクリル酸との共重合体である、請求項
3または5に記載の基板処理方法。
【請求項7】
基板の表面に処理液を供給し、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させることによって、処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記処理膜に対してエッチング機能発現処理を行うことによって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程と、
前記処理膜に対するエッチング機能消失処理を行うことによって、前記処理膜が前記基板上に維持されている状態で前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程とを含み、
前記処理膜形成工程において、前記エッチング機能発現処理によってエッチング機能を発現する機能発現成分を含有する前記処理膜が形成され、
前記機能発現成分が、複数種の構成単位を有し、前記構成単位の一種として有機酸を含むポリマーであり、
前記エッチング促進工程が、前記エッチング機能発現処理によって前記ポリマーを分解し単量体の有機酸を含む複数種の単量体を形成することによって、前記基板の表層部のエッチングを促進する工程を含み、
前記エッチング緩和工程が、前記エッチング機能消失処理によって前記処理膜中の複数種の単量体を重合して前記ポリマーを形成することによって、前記基板の表層部のエッチングを緩和する工程を含む、基板処理方法。
【請求項8】
前記ポリマーが、N-イソプロピルアクリルアミドと、アクリル酸との共重合体であり、
前記有機酸が、アクリル酸である、請求項
4または7に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記処理膜の表面に除去液を供給することによって、前記処理膜を前記基板の表面から除去する処理膜除去工程をさらに含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記処理膜除去工程が、前記除去液に前記処理膜を溶解させることで、前記処理膜を前記基板の表面から除去する溶解除去工程を含む、請求項
9に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記処理膜除去工程が、前記除去液によって前記処理膜を前記基板の表面から剥離することで、前記処理膜を前記基板の表面から除去する剥離除去工程を含む、請求項
9に記載の基板処理方法。
【請求項12】
基板の表面に処理液を供給し、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させることによって、処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記処理膜に対してエッチング機能発現処理を行うことによって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程と、
前記処理膜に対するエッチング機能消失処理を行うことによって、前記処理膜が前記基板上に維持されている状態で前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程と、
前記処理膜の表面に除去液を供給することによって、前記処理膜を前記基板の表面から除去する処理膜除去工程とを含み、
前記処理膜除去工程が、前記除去液によって前記処理膜を前記基板の表面から剥離することで、前記処理膜を前記基板の表面から除去する剥離除去工程を含む、基板処理方法。
【請求項13】
前記処理膜形成工程において、固体状態の低溶解性成分と、前記除去液に対する溶解性が前記低溶解性成分よりも高い固体状態の高溶解性成分とを含有する前記処理膜が形成され、
前記剥離除去工程が、前記低溶解性成分を固体状態に維持しながら、前記除去液に前記高溶解性成分を選択的に溶解させることによって、前記処理膜を前記基板の表面から剥離する工程を含む、請求項
11または12に記載の基板処理方法。
【請求項14】
前記基板の表層部がエッチングされることによって、前記処理膜に保持されるエッチング残渣が形成され、
前記処理膜除去工程が、前記エッチング残渣が前記処理膜に保持された状態で、前記処理膜とともに前記エッチング残渣を除去する工程を含む、請求項
11~13のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項15】
前記基板には、前記基板の表面を窪ませる平面視円形状のトレンチが形成されており、
前記トレンチが、底壁と、前記底壁に接続され前記トレンチの深さ方向に延びる側壁を有し、
前記側壁が、前記底壁に接続された底壁側部と、前記トレンチの開口を区画する開口側部とを有し、
前記処理膜形成工程が、前記側壁の前記底壁側部および前記底壁を覆う前記処理膜を形成する工程を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項16】
基板の表面に処理液を供給し、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させることによって、処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記処理膜に対してエッチング機能発現処理を行うことによって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程と、
前記処理膜に対するエッチング機能消失処理を行うことによって、前記処理膜が前記基板上に維持されている状態で前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程とを含み、
前記基板には、前記基板の表面を窪ませる平面視円形状のトレンチが形成されており、
前記トレンチが、底壁と、前記底壁に接続され前記トレンチの深さ方向に延びる側壁を有し、
前記側壁が、前記底壁に接続された底壁側部と、前記トレンチの開口を区画する開口側部とを有し、
前記処理膜形成工程が、前記側壁の前記底壁側部および前記底壁を覆う前記処理膜を形成する工程を含む、基板処理方法。
【請求項17】
前記エッチング機能発現処理が、前記処理膜に対する加熱を強める加熱強化処理を含み、
前記エッチング機能消失処理が、前記処理膜に対する加熱を弱める加熱弱化処理を含む、請求項1
~16のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項18】
前記エッチング促進工程および前記エッチング緩和工程を1サイクルとするエッチング処理が複数サイクル実行される、請求項1~
17のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項19】
基板の表面に向けて処理液を供給する処理液供給ユニットと、
前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させることによって、前記基板の表面に処理膜を形成する処理膜形成ユニットと、
前記処理膜中のpHを酸性または塩基性に調整するpH調整液を前記基板の表面に向けて供給するpH調整液供給ユニットと、
前記処理膜中のpHを中性に近づける中性化液を前記基板の表面に向けて供給する中性化液供給ユニットと、
前記処理液供給ユニット、前記処理膜形成ユニット、前記pH調整液供給ユニットおよび前記中性化液供給ユニットを制御するコントローラとを含み、
前記コントローラが、前記処理液供給ユニットから前記基板の表面に向けて処理液を供給し、前記処理膜形成ユニットによって、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させて前記基板の表面に処理膜を形成する処理膜形成工程と、前記pH調整液供給ユニットから前記pH調整液を前記基板の表面に向けて供給し前記処理膜中のpHを酸性または塩基性に調整することによって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程と、前記中性化液供給ユニットから前記中性化液を前記基板の表面に向けて供給して、前記処理膜中のpHを、前記pH調整液によって調整された前記処理膜中のpHよりも、中性に近づけることによって、前記処理膜を前記基板上に維持した状態で前記基板の表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程とを実行するようにプログラムされている、基板処理装置。
【請求項20】
固化または硬化によって基板の表面に処理膜を形成する処理液であって、
エッチング機能発現処理によって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進し、エッチング機能消失処理によって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを緩和するポリマーを含有する、処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板処理方法および基板処理装置、ならびに、これらに用いられる処理液に関する。処理対象になる基板には、たとえば、半導体ウエハ、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板、ならびに、液晶表示装置、プラズマディスプレイおよび有機EL(Electroluminescence)表示装置等のFPD(Flat Panel Display)用の基板等の基板が含まれる。
【背景技術】
【0002】
基板の表面をエッチングするエッチング液としてフッ酸が用いられる(下記特許文献1を参照)。エッチング液で基板を処理した後には、DIW等のリンス液によって基板の表面をリンスする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の基板処理では、液流れによる成り行きによって基板がエッチングされる。詳しくは、基板へのエッチング液の供給を開始することでエッチングが開始され、リンス液によってエッチング液が基板上から排除されることによって、エッチングが停止される。そのため、リンス液の供給の開始後においても、エッチング液が基板上から排除されるまでエッチングが停止されない。そのため、エッチングが停止するタイミングが明確ではなく、基板の表層部を精度良くエッチングできないおそれがある。
【0005】
そこで、この発明の1つの目的は、基板の表層部のエッチングの制御性を向上できる基板処理方法、基板処理装置および処理液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態は、基板の表面に処理液を供給し、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させることによって、処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、前記処理膜に対してエッチング機能発現処理を行うことによって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程と、前記処理膜に対するエッチング機能消失処理を行うことによって、前記処理膜が前記基板上に維持されている状態で前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程とを含む、基板処理方法を提供する。
【0007】
この方法によれば、処理膜による基板の表層部のエッチングは、処理膜の形成時には開始されておらず、処理膜に対するエッチング機能発現処理をきっかけとして促進される。そして、エッチングを緩和するために処理膜を除去する必要はなく、処理膜を基板上に維持した状態で処理膜に対するエッチング機能消失処理をきっかけとして緩和される。これにより、処理膜に対する処理に応じて、エッチングが促進されている状態と、エッチングが緩和されている状態とを切り替えることができる。そのため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。したがって、基板の表層部のエッチングの制御性を向上できる。
【0008】
エッチングの促進とは、エッチングが完全に停止されている状態からエッチングを開始させること、および、既に開始されているエッチングの速度を上昇させることの両方を意味する。同様に、エッチングの緩和とは、進行中のエッチングを完全に停止させること、および、進行中のエッチングの速度を低下させることの両方を意味する。
この発明の一実施形態では、前記エッチング機能発現処理が、前記処理膜に対する加熱を強める加熱強化処理を含む。前記エッチング機能消失処理が、前記処理膜に対する加熱を弱める加熱弱化処理を含む。
【0009】
この方法によれば、処理膜に対する加熱を強めることによってエッチングが促進される。一方、処理膜に対する加熱を弱めることによって、エッチングが緩和される。エッチングの促進および緩和が加熱の強弱を変化させるという能動的な処理をきっかけとしているため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。したがって、基板の表層部のエッチングの制御性を向上できる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記エッチング機能発現処理が、pH調整液を前記基板上の前記処理膜に向けて供給して、前記処理膜中のpHを酸性または塩基性に調整するpH調整処理を含む。そして、前記エッチング機能消失処理が、中性化液を前記基板上の前記処理膜に向けて供給して、前記処理膜中のpHを前記pH調整処理後の前記処理膜中のpHよりも中性に近づける中性化処理を含む。
【0011】
この方法によれば、pH調整液を処理膜に対して供給することによって、処理膜に含有される液体成分のpHが酸性または塩基性に調整され、エッチングが促進される。一方、処理膜に対する中性化液の供給によって、処理膜に含有される液体成分のpHが中性に近づき、エッチングが緩和される。エッチングの促進および緩和がpHを変化させる能動的な処理をきっかけとしているため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。したがって、基板の表層部のエッチングの制御性を向上できる。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記処理膜形成工程において、前記エッチング機能発現処理によってエッチング機能を発現する機能発現成分を含有する前記処理膜が形成される。そのため、機能発現成分の量が調整された処理膜で基板の表層部をエッチングすることで、基板の表層部のエッチング量を制御できる。
この発明の一実施形態では、前記機能発現成分が、前記エッチング機能発現処理によって前記処理膜中にプロトンを放出し、前記エッチング機能消失処理によって前記処理膜からプロトンを受け取るポリマーである。前記エッチング促進工程が、前記エッチング機能発現処理によって前記ポリマーから前記プロトンを放出させることによって、前記基板の表層部のエッチングを促進する工程を含む。そして、前記エッチング緩和工程が、前記エッチング機能消失処理によって前記ポリマーに前記プロトンを付与することによって、前記基板の表層部のエッチングを緩和する工程を含む。
【0013】
ポリマーから放出されたプロトンによって、基板の表層部のエッチングが促進され、ポリマーによってプロトンが受け取られることによって、基板の表層部のエッチングが緩和される。
そのため、エッチング機能発現処理によってポリマーがプロトンを放出し、かつ、エッチング機能消失処理によってポリマーがプロトンを受け取る構成であれば、処理膜に対して行う処理の切り替えによって、基板の表層部のエッチングの促進および緩和を制御することができる。このようなポリマーとしては、たとえば、N-イソプロピルアクリルアミドと、N,N′-メチレンビスアクリルアミドと、アクリル酸との共重合体が挙げられる。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記機能発現成分が、複数種の構成単位を有し、前記構成単位の一種として有機酸を含むポリマーである。前記エッチング促進工程が、前記エッチング機能発現処理によって前記ポリマーを分解し単量体の有機酸を含む複数種の単量体を形成することによって、前記基板の表層部のエッチングを促進する工程を含む。そして、前記エッチング緩和工程が、前記エッチング機能消失処理によって前記処理膜中の複数種の単量体を重合して前記ポリマーを形成することによって、前記基板の表層部のエッチングを緩和する工程を含む。
【0015】
単量体の有機酸は、ポリマーの構成単位としての有機酸よりも酸性度が高いため、基板の表層部をエッチングすることができる。そのため、エッチング機能発現処理によってポリマーが分解されて複数種の単量体が形成され、かつ、エッチング機能消失処理によって処理膜中の複数種の単量体が重合されてポリマーが形成される構成であれば、処理膜に対する処理の切り替えによって、基板の表層部のエッチングの促進および緩和を制御することができる。このようなポリマーとしては、たとえば、アクリル酸を有機酸として有する、N-イソプロピルアクリルアミドと、アクリル酸との共重合体が挙げられる。
【0016】
この発明の一実施形態では、前記エッチング促進工程および前記エッチング緩和工程を1サイクルとするエッチング処理が複数サイクル実行される。そのため、実行されるエッチング処理のサイクル数によって、基板の表層部のエッチング量を精度良く制御できる。
この発明の一実施形態では、前記基板処理方法が、前記処理膜に表面に除去液を供給することによって、前記処理膜を前記基板の表面から除去する処理膜除去工程をさらに含む。除去液によって処理膜を除去することによって、基板の表面を洗浄できる。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記処理膜除去工程が、前記除去液に前記処理膜を溶解させることで、前記処理膜を前記基板の表面から除去する溶解除去工程を含む。この方法によれば、除去液に処理膜を溶解させることによって、基板の表面から処理膜を速やかに除去することができる。
この発明の一実施形態では、前記処理膜除去工程が、前記除去液によって前記処理膜を前記基板の表面から剥離することで、前記処理膜を前記基板の表面から除去する剥離除去工程を含む。
【0018】
この方法によれば、処理膜は、剥離液に溶解されて基板の表面から除去されるのではなく、基板の表面から剥離されて除去される。そのため、基板の表面にパーティクル等の除去対象物が付着している場合には、処理膜は、除去対象物を保持した状態で、基板の表面から剥離される。その結果、除去対象物を基板の表面から引き剥がして除去することができる。
【0019】
この発明の一実施形態では、前記処理膜形成工程において、固体状態の低溶解性成分と、前記除去液に対する溶解性が前記低溶解性成分よりも高い固体状態の高溶解性成分とを含有する前記処理膜が形成される。そして、前記剥離除去工程が、前記低溶解性成分を固体状態に維持しながら、前記除去液に前記高溶解性成分を選択的に溶解させることによって、前記処理膜を前記基板の表面から剥離する工程を含む。
【0020】
この方法によれば、処理膜中の固体状態の高溶解性成分が除去液で選択的に溶解される。「固体状態の高溶解性成分が選択的に溶解される」とは、固体状態の高溶解性成分のみが溶解されるという意味ではない。「固体状態の高溶解性成分が選択的に溶解される」とは、固体状態の低溶解性成分も僅かに溶解されるが、大部分の固体状態の高溶解性成分が溶解されるという意味である。
【0021】
固体状態の高溶解性成分の選択的な溶解によって処理膜中に隙間が形成され、この隙間を介して、除去液が処理膜と基板との接触界面に到達する。一方、処理膜中の低溶解性成分は、固体状態で維持される。したがって、基板の表面に除去対象物が存在する場合には、固体状態の低溶解性成分で除去対象物を保持しながら、固体状態の低溶解性成分と基板との接触界面に除去液を作用させることができる。その結果、処理膜を基板の表面から速やかに除去し、処理膜とともに除去対象物を基板の表面から効率良く除去することができる。
【0022】
この発明の一実施形態では、前記基板の表層部がエッチングされることによって、前記処理膜に保持されるエッチング残渣が形成される。そして、前記処理膜除去工程が、前記エッチング残渣が前記処理膜に保持された状態で、前記処理膜とともに前記エッチング残渣を除去する工程を含む。
この方法によれば、基板の表層部のエッチングによって発生したエッチング残渣が、処理膜除去工程において、処理膜とともに基板の表面から除去される。そのため、処理膜を除去した後に、エッチング残渣を除去するための処理を別途行う必要がない。
【0023】
この発明の一実施形態では、前記基板には、前記基板の表面を窪ませる平面視円形状のトレンチが形成されている。前記トレンチが、底壁と、前記底壁に接続され前記トレンチの深さ方向に延びる側壁を有する。前記側壁が、前記底壁に接続された底壁側部と、前記トレンチの開口を区画する開口側部とを有する。そして、前記処理膜形成工程が、前記側壁の前記底壁側部および前記底壁を覆う前記処理膜を形成する工程を含む。
【0024】
この方法によれば、側壁の開口側部を覆わずに、底壁と側壁の底壁側部とを覆う処理膜が形成される。そのため、トレンチ内において底壁の近傍のみにおいて基板の表層部をエッチングすることができる。したがって、トレンチ内において底壁の近傍のみにおいてトレンチの幅を広げることができる。このように、処理膜が形成される領域を制御することによって、基板の表面においてエッチングされる領域を制御することができる。
【0025】
この発明の他の実施形態は、基板の表面に向けて処理液を供給する処理液供給ユニットと、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させることによって、前記基板の表面に処理膜を形成する処理膜形成ユニットと、前記処理膜を加熱する処理膜加熱ユニットと、前記処理膜加熱ユニットによる前記処理膜の加熱度合を調整する加熱調整ユニットと、前記処理液供給ユニット、前記処理膜形成ユニット、前記処理膜加熱ユニットおよび前記加熱調整ユニットを制御するコントローラとを含む、基板処理装置を提供する。
【0026】
前記コントローラが、前記処理液供給ユニットから前記基板の表面に向けて処理液を供給し、前記処理膜形成ユニットによって、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させて前記基板の表面に処理膜を形成する処理膜形成工程と、前記加熱調整ユニットによって、前記処理膜加熱ユニットによる前記処理膜の加熱を強めることによって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程と、前記加熱調整ユニットによって、前記処理膜加熱ユニットによる前記処理膜の加熱を弱めることによって、前記処理膜を前記基板上に維持した状態で前記基板の表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程とを実行するようにプログラムされている。
【0027】
この装置によれば、処理膜による基板の表層部のエッチングは、処理膜の形成時には促進されておらず、処理膜に対する加熱を強めることで促進される。そして、エッチングを緩和するために処理膜を除去する必要はなく、処理膜を基板上に維持した状態で処理膜に対する加熱を弱めることで緩和される。すなわち、処理膜に対する加熱の強弱に応じて、エッチングが進行している状態と、エッチングが緩和されている状態とを切り替えることができる。そのため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。したがって、基板の表層部のエッチングの制御性を向上できる。
【0028】
この発明のさらに他の実施形態は、基板の表面に向けて処理液を供給する処理液供給ユニットと、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させることによって、前記基板の表面に処理膜を形成する処理膜形成ユニットと、前記処理膜中のpHを酸性または塩基性に調整するpH調整液を前記基板の表面に向けて供給するpH調整液供給ユニットと、前記処理膜中のpHを中性に近づける中性化液を前記基板の表面に向けて供給する中性化液供給ユニットと、前記処理液供給ユニット、前記処理膜形成ユニット、前記pH調整液供給ユニットおよび前記中性化液供給ユニットを制御するコントローラとを含む、基板処理装置を提供する。
【0029】
前記コントローラが、前記処理液供給ユニットから前記基板の表面に向けて処理液を供給し、前記処理膜形成ユニットによって、前記基板の表面上の処理液を固化または硬化させて前記基板の表面に処理膜を形成する処理膜形成工程と、前記pH調整液供給ユニットから前記pH調整液を前記基板の表面に向けて供給し前記処理膜中のpHを酸性または塩基性に調整することによって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程と、前記中性化液供給ユニットから前記中性化液を前記基板の表面に向けて供給して、前記処理膜中のpHを前記pH調整液によって調整された前記処理膜中のpHよりも中性に近づけることによって、前記処理膜を前記基板上に維持した状態で前記基板の表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程とを実行するようにプログラムされている。
【0030】
この装置によれば、処理膜による基板の表層部のエッチングは、処理膜の形成時には促進されておらず、pH調整液によって処理膜中のpHを酸性または塩基性に調整することで促進される。そして、エッチングを緩和するために処理膜を除去する必要はなく、中性化液によって処理膜中のpHを中性に近づけることで緩和される。すなわち、処理膜中のpHの変化に応じて、エッチングが進行している状態と、エッチングが緩和されている状態とを切り替えることができる。そのため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。したがって、基板の表層部のエッチングの制御性を向上できる。
【0031】
この発明のさらに他の実施形態は、固化または硬化によって基板の表面に処理膜を形成する処理液を提供する。処理液は、エッチング機能発現処理によって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを促進し、エッチング機能消失処理によって、前記処理膜による前記基板の表層部のエッチングを緩和するポリマーを含有する。
この構成によれば、処理膜による基板の表層部のエッチングは、処理膜の形成時には開始されておらず、処理膜に対するエッチング機能発現処理をきっかけとして促進される。そして、エッチングを緩和するために処理膜を除去する必要はなく、処理膜を基板上に維持した状態で処理膜に対するエッチング機能消失処理をきっかけとして緩和される。これにより、処理膜に対する処理に応じて、エッチングが促進されている状態と、エッチングが緩和されている状態とを切り替えることができる。そのため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。したがって、基板の表層部のエッチングの制御性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置のレイアウトを示す模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、前記基板処理装置に備えられる処理ユニットの概略構成を示す模式的な部分断面図である。
【
図3】
図3は、温度応答性ポリマーのエッチング機能の発現のメカニズムについて説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、前記温度応答性ポリマーの一例について説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、前記基板処理装置の主要部の電気的構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、前記基板処理装置による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
【
図7A】
図7Aは、前記基板処理の処理液供給工程(ステップS2)の様子を説明するための模式図である。
【
図7B】
図7Bは、前記基板処理の処理膜形成工程(ステップS3)の様子を説明するための模式図である。
【
図7C】
図7Cは、前記処理膜形成工程(ステップS3)の様子を説明するための模式図である。
【
図7D】
図7Dは、前記基板処理のエッチング促進工程(ステップS4)の様子を説明するための模式図である。
【
図7E】
図7Eは、前記基板処理のエッチング緩和工程(ステップS5)の様子を説明するための模式図である。
【
図7F】
図7Fは、前記基板処理の処理膜除去工程(ステップS6)の様子を説明するための模式図である。
【
図7G】
図7Gは、前記処理膜除去工程(ステップS6)の様子を説明するための模式図である。
【
図7H】
図7Hは、前記基板処理のリンス工程(ステップS7)の様子を説明するための模式図である。
【
図7I】
図7Iは、前記基板処理の残渣除去工程(ステップS8)の様子を説明するための模式図である。
【
図8A】
図8Aは、前記基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図8B】
図8Bは、前記基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図8C】
図8Cは、前記基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図8D】
図8Dは、前記基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図8E】
図8Eは、前記基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図8F】
図8Fは、前記基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、表面にトレンチが設けられている基板の構造を説明するための模式図である。
【
図10A】
図10Aは、前記処理膜形成工程(ステップS3)中の基板のトレンチ近傍の基板の表層部の様子を説明するための模式図である。
【
図10B】
図10Bは、前記処理膜形成工程(ステップS3)後の基板のトレンチ近傍の基板の表層部の様子を説明するための模式図である。
【
図10C】
図10Cは、前記処理膜除去工程(ステップS6)後の基板のトレンチ近傍の基板の表層部の様子を説明するための模式図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る基板処理装置に備えられる処理ユニットの概略構成を示す模式的な部分断面図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
【
図13A】
図13Aは、第2実施形態に係る基板処理において、処理膜が基板の表面から除去される様子を説明するための模式図である。
【
図13B】
図13Bは、第2実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図13C】
図13Cは、第2実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図13D】
図13Dは、第2実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図13E】
図13Eは、第2実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図14】
図14は、第3実施形態に係る基板処理装置に備えられる処理ユニットの概略構成を示す模式図である。
【
図15】
図15は、pH応答性ポリマーの一例について説明するための模式図である。
【
図16A】
図16Aは、第3実施形態に係る基板処理装置による基板処理におけるエッチング促進工程(ステップS4)の一例を説明するための模式図である。
【
図16B】
図16Bは、第3実施形態に係る基板処理装置による基板処理におけるエッチング緩和工程(ステップS5)の一例を説明するための模式図である。
【
図17A】
図17Aは、第3実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図17B】
図17Bは、第3実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図17C】
図17Cは、第3実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図17D】
図17Dは、第3実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図17E】
図17Eは、第3実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図17F】
図17Fは、第3実施形態に係る基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の一実施形態にかかる基板処理装置1のレイアウトを示す模式的な平面図である。
基板処理装置1は、シリコンウエハ等の基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。この実施形態では、基板Wは、円板状の基板である。基板Wとしては、表面にエッチング可能な成分が露出している基板を用いることができる。基板Wとしては、表面にSiO
2(酸化シリコン)、TiN(窒化チタン)、Cu(銅)、および、Ru(ルテニウム)のうちの少なくともいずれかが露出している基板を用いることが好ましい。基板Wの表面には、上述した物質のうち、1種類の物質のみが露出していてもよいし、上述した物質のうち複数の物質が露出していてもよい。基板Wの表面には、上述した物質以外のエッチング可能な物質が露出していてもよい。
【0034】
基板処理装置1は、基板Wを流体で処理する複数の処理ユニット2と、処理ユニット2で処理される複数枚の基板Wを収容するキャリヤCが載置されるロードポートLPと、ロードポートLPと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送ロボットIRおよびCRと、基板処理装置1を制御するコントローラ3とを含む。
搬送ロボットIRは、キャリヤCと搬送ロボットCRとの間で基板Wを搬送する。搬送ロボットCRは、搬送ロボットIRと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する。複数の処理ユニット2は、たとえば、同様の構成を有している。詳しくは後述するが、処理ユニット2内で基板Wに向けて供給される流体には、処理液、剥離除去液、溶解除去液、リンス液(中性化液)、pH調整液、残渣除去液等が含まれる。
【0035】
各処理ユニット2は、チャンバ4と、チャンバ4内に配置された処理カップ7とを備えており、処理カップ7内で基板Wに対する処理を実行する。チャンバ4には、搬送ロボットCRによって、基板Wを搬入したり基板Wを搬出したりするための出入口(図示せず)が形成されている。チャンバ4には、この出入口を開閉するシャッタユニット(図示せず)が備えられている。
【0036】
図2は、処理ユニット2の構成例を説明するための模式図である。処理ユニット2は、スピンチャック5と、ヒータユニット6と、処理カップ7と、第1移動ノズル9と、第2移動ノズル10と、第3移動ノズル11と、第4移動ノズル12とを含む。
スピンチャック5は、基板Wを水平に保持しながら、回転軸線A1(鉛直軸線)まわりに基板Wを回転させる基板保持回転ユニットの一例である。回転軸線A1は、基板Wの中央部を通る鉛直な直線である。スピンチャック5は、複数のチャックピン20と、スピンベース21と、回転軸22と、スピンモータ23とを含む。
【0037】
スピンベース21は、水平方向に沿う円板形状を有している。スピンベース21の上面には、基板Wの周縁を把持する複数のチャックピン20が、スピンベース21の周方向に間隔を空けて配置されている。
複数のチャックピン20は、ピン開閉ユニット24によって開閉される。複数のチャックピン20は、ピン開閉ユニット24によって閉状態にされることによって基板Wを水平に保持(挟持)する。複数のチャックピン20は、ピン開閉ユニット24によって開状態にされることによって基板Wを解放する。複数のチャックピン20は、開状態において、基板Wを下方から支持する。
【0038】
スピンベース21および複数のチャックピン20は、基板Wを水平に保持する基板保持ユニットを構成している。基板保持ユニットは、基板ホルダともいう。
回転軸22は、回転軸線A1に沿って鉛直方向に延びている。回転軸22の上端部は、スピンベース21の下面中央に結合されている。スピンモータ23は、回転軸22に回転力を与える。スピンモータ23によって回転軸22が回転されることにより、スピンベース21が回転される。これにより、基板Wが回転軸線A1のまわりに回転される。スピンモータ23は、回転軸線A1まわりに基板Wを回転させる基板回転ユニットの一例である。
【0039】
ヒータユニット6は、基板Wの全体を加熱する基板加熱ユニットの一例である。ヒータユニット6は、円板状のホットプレートの形態を有している。ヒータユニット6は、スピンベース21の上面と基板Wの下面との間に配置されている。ヒータユニット6は、基板Wの下面に下方から対向する対向面6aを有する。
ヒータユニット6は、プレート本体61およびヒータ62を含む。プレート本体61は、平面視において、基板Wよりも僅かに小さい。プレート本体61の上面が対向面6aを構成している。ヒータ62は、プレート本体61に内蔵されている抵抗体であってもよい。ヒータ62に通電することによって、対向面6aが加熱される。対向面6aは、たとえば、195℃に加熱される。
【0040】
処理ユニット2は、給電線63を介してヒータ62に電力を供給するヒータ通電ユニット64と、ヒータユニット6をスピンベース21に対して相対的に昇降させるヒータ昇降ユニット65とを含む。ヒータ通電ユニット64は、たとえば、電源である。ヒータ昇降ユニット65は、たとえば、ボールねじ機構(図示せず)と、それに駆動力を与える電動モータ(図示せず)とを含む。ヒータ昇降ユニット65は、ヒータリフタともいう。
【0041】
ヒータユニット6の下面には、回転軸線A1に沿って鉛直方向に延びる昇降軸66が結合されている。昇降軸66は、スピンベース21の中央部に形成された貫通孔21aと、中空の回転軸22とを挿通している。昇降軸66内には、給電線63が通されている。
ヒータ昇降ユニット65は、昇降軸66を介してヒータユニット6を昇降させる。ヒータユニット6は、ヒータ昇降ユニット65によって昇降されて、下位置および上位置に位置することができる。ヒータ昇降ユニット65は、下位置および上位置だけでなく、下位置および上位置の間の任意の位置にヒータユニット6を配置することが可能である。
【0042】
ヒータユニット6は、上昇する際に、開状態の複数のチャックピン20から基板Wを受け取ることが可能である。ヒータユニット6は、ヒータ昇降ユニット65によって、基板Wの下面に接触する位置、または、基板Wの下面に近接する位置に配置されることによって、基板Wを加熱することができる。
処理カップ7は、スピンチャック5に保持された基板Wから外方に飛散する液体を受け止める複数のガード71と、複数のガード71によって下方に案内された液体を受け止める複数のカップ72と、複数のガード71および複数のカップ72を取り囲む円筒状の外壁部材73とを含む。
【0043】
この実施形態では、2つのガード71(第1ガード71Aおよび第2ガード71B)と、2つのカップ72(第1カップ72Aおよび第2カップ72B)とが設けられている例を示している。
第1カップ72Aおよび第2カップ72Bのそれぞれは、上向きに開放された環状溝の形態を有している。
【0044】
第1ガード71Aは、スピンベース21を取り囲むように配置されている。第2ガード71Bは、第1ガード71Aよりも外側でスピンベース21を取り囲むように配置されている。
第1ガード71Aおよび第2ガード71Bは、それぞれ、ほぼ円筒形状を有している。各ガード71の上端部は、スピンベース21に向かうように内方に傾斜している。
【0045】
第1カップ72Aは、第1ガード71Aによって下方に案内された液体を受け止める。第2カップ72Bは、第1ガード71Aと一体に形成されており、第2ガード71Bによって下方に案内された液体を受け止める。
処理ユニット2は、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bを別々に鉛直方向に昇降させるガード昇降ユニット74を含む。ガード昇降ユニット74は、下位置と上位置との間で第1ガード71Aを昇降させる。ガード昇降ユニット74は、下位置と上位置との間で第2ガード71Bを昇降させる。
【0046】
第1ガード71Aおよび第2ガード71Bがともに上位置に位置するとき、基板Wから飛散する液体は、第1ガード71Aによって受けられる。第1ガード71Aが下位置に位置し、第2ガード71Bが上位置に位置するとき、基板Wから飛散する液体は、第2ガード71Bによって受けられる。第1ガード71Aおよび第2ガード71Bがともに下位置に位置するときに、基板Wの搬入および搬出のために搬送ロボットCRがスピンチャック5にアクセスすることが可能である。
【0047】
ガード昇降ユニット74は、たとえば、第1ガード71Aに結合された第1ボールねじ機構(図示せず)と、第1ボールねじ機構に駆動力を与える第1モータ(図示せず)と、第2ガード71Bに結合された第2ボールねじ機構(図示せず)と、第2ボールねじ機構に駆動力を与える第2モータ(図示せず)とを含む。ガード昇降ユニット74は、ガードリフタともいう。
【0048】
第1移動ノズル9は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面(上側の表面)に向けて処理液を供給(吐出)する処理液ノズル(処理液供給ユニット)の一例である。
第1移動ノズル9は、第1ノズル移動ユニット35によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第1移動ノズル9は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。第1移動ノズル9は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の中央領域に対向する。
【0049】
第1移動ノズル9は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第1移動ノズル9は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
第1ノズル移動ユニット35は、第1移動ノズル9に結合され水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って延びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含んでいてもよい。
【0050】
回動軸駆動ユニットは、鉛直な回動軸線まわりに回動軸を回動させることによってアームを揺動させる。さらに、回動軸駆動ユニットは、回動軸を鉛直方向に沿って昇降することにより、アームを昇降させる。アームの揺動および昇降に応じて、第1移動ノズル9が水平方向および鉛直方向に移動する。
第1移動ノズル9は、第1移動ノズル9に処理液を案内する処理液配管40に接続されている。処理液配管40に介装された処理液バルブ50が開かれると、処理液が、第1移動ノズル9から下方に連続流で吐出される。第1移動ノズル9が中央位置に位置するときに処理液バルブ50が開かれると、処理液が基板Wの上面の中央領域に供給される。
【0051】
処理液には、溶質および溶媒が含有されている。処理液は、処理液に含有される溶媒の少なくとも一部が揮発(蒸発)することによって固化または硬化する。処理液は、基板W上で固化または硬化することによって、固形の処理膜を形成する。処理膜は、処理液が固化または硬化する際に、基板W上に存在する除去対象物を内部に取り込み保持する。除去対象物は、たとえば、基板Wの表面に付着するパーティクル等の異物である。
【0052】
ここで、「固化」とは、たとえば、溶媒の揮発に伴い、分子間や原子間に作用する力等によって溶質が固まることを指す。「硬化」とは、たとえば、重合や架橋等の化学的な変化によって、溶質が固まることを指す。したがって、「固化または硬化」とは、様々な要因によって溶質が「固まる」ことを表している。
また、処理膜は、固体成分のみによって構成されている必要はない。処理膜は、全体として一定の形状を保っていれば、固体成分および液体成分の両方によって構成された半固体状であってもよい。すなわち、処理液から溶媒が完全に除去されている必要はなく、処理膜中には溶媒が残っていてもよい。
【0053】
処理液には、溶質として、機能発現成分、低溶解性成分および高溶解性成分が含有されている。
機能発現成分は、所定のエッチング機能発現処理によってエッチング機能を発現(強化)し、所定のエッチング機能消失処理によってエッチング機能を消失(弱化)する成分である。第1実施形態では、機能発現成分は、温度応答性ポリマーである。温度応答性ポリマーは、加熱を強めることによってエッチング機能を発現(強化)し、加熱を弱めることによってエッチング機能を消失(弱化)する性質を有する。すなわち、エッチング機能発現処理が、処理膜に対する加熱を強める加熱強化処理であり、エッチング機能消失処理が、処理膜に対する加熱を弱める加熱弱化処理である。加熱を弱めるとは、加熱の停止であってもよいし、冷却であってもよい。温度応答性ポリマーは、複数種の構成単位を有する共重合体であってもよい。
【0054】
図3は、温度応答性ポリマーのエッチング機能の発現のメカニズムについて説明するための模式図である。温度応答性ポリマーは、カルボキシル基等のプロトンを放出可能な官能基を分子内に有する。
温度応答性ポリマーがプロトンの放出を行うためには、処理膜は、固体成分のみによって形成されているものではなく、液体成分と固体成分とが混合した半固体状(ゲル状)であることが好ましく、液体成分は、水であることが好ましい。
【0055】
温度応答性ポリマーは、加熱強化処理によって処理膜中の液体成分にプロトン(H+)を放出して、エッチング機能を発現する。温度応答性ポリマーは、加熱弱化処理によって処理膜中の液体成分からプロトンを受け取ることによってエッチング機能を消失する。
たとえば、加熱強化処理によって温度応答性ポリマーの温度が40℃以上になることによって、温度応答性ポリマーがプロトンを放出し、エッチングが促進される。加熱弱化処理によって温度応答性ポリマーの温度が40℃よりも低くなることによって、温度応答性ポリマーがプロトンを受け取り、エッチングが緩和される。
【0056】
エッチングの促進とは、エッチングが完全に停止されている状態からエッチングを開始せれること、および、既に開始されているエッチングの速度を上昇させることの両方を意味する。同様に、エッチングの緩和とは、進行中のエッチングを完全に停止させること、および、進行中のエッチングの速度を低下させることの両方を意味する。
図4は、温度応答性ポリマーの合成方法について説明するための模式図である。温度応答性ポリマーとしては、N-イソプロピルアクリルアミドと、アクリル酸と、N,N′-メチレンビスアクリルアミドとの共重合体(第1共重合体)を用いることができる。N-イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、および、N,N′-メチレンビスアクリルアミドが、第1共重合体を構成する構成単位である。第1共重合体は、液体成分として水を含有するヒドロゲルである。アクリル酸は、構成単位の一種として第1共重合体に含まれる有機酸である。
【0057】
第1共重合体は、たとえば、APS(過硫酸アンモニウム)およびTMEDA(テトラメチルエチレンジアミン)の存在下、常温で、N-イソプロピルアクリルアミドと、N,N′-メチレンビスアクリルアミドと、アクリル酸とを反応させることで形成される。N,N′-メチレンビスアクリルアミドは、架橋剤として機能する。
処理液に溶質として含有される高溶解性成分としては、後述する剥離除去液に対する溶解性が比較的高い物質を用いることができる。高溶解性成分は、たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンである。高溶解性成分は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに限られない。高溶解性成分の詳細については後述する。
【0058】
処理液に溶質として含有される低溶解性成分としては、後述する剥離除去液に対する溶解性が高溶解性成分よりも低い物質を用いることができる。低溶解性成分は、たとえば、ノボラックである。
処理液に含有される溶媒は、機能発現成分、低溶解性成分および高溶解性成分を溶解させる液体であればよい。処理液に含有される溶媒は、剥離除去液と相溶性を有する(混和可能である)液体であることが好ましい。相溶性とは、2種類の液体が互いに溶けて混ざり合う性質のことである。処理液に含有される溶媒としては、たとえば、イソプロパノール(IPA)等のアルコール類が挙げられる。
【0059】
処理膜は、主に、固体状態の機能発現成分(機能発現固体)と、固体状態の低溶解性成分(低溶解性固体)と、固体状態の高溶解性成分(高溶解性固体)とによって構成されている。固体状態には、固体成分のみによって構成されている状態に限られず、液体成分を含有するゲル状態も含まれる。処理液に含有される溶媒、低溶解性成分および高溶解性成分の詳細については後述する。
【0060】
再び
図2を参照して、第2移動ノズル10は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けてアンモニア水等の剥離除去液を連続流で供給(吐出)する剥離除去液ノズル(剥離除去液供給ユニット)の一例である。剥離除去液は、基板W上に形成されている処理膜を、基板Wの上面から剥離するための液体である。
第2移動ノズル10は、第2ノズル移動ユニット36によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第2移動ノズル10は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。
【0061】
第2移動ノズル10は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の中央領域に対向する。第2移動ノズル10は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第2移動ノズル10は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
第2ノズル移動ユニット36は、第1ノズル移動ユニット35と同様の構成を有している。すなわち、第2ノズル移動ユニット36は、第2移動ノズル10に結合されて水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って延びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含んでいてもよい。
【0062】
第2移動ノズル10は、第2移動ノズル10に剥離除去液を案内する剥離除去液配管41に接続されている。剥離除去液配管41に介装された剥離除去液バルブ51が開かれると、剥離除去液が、第2移動ノズル10の吐出口から下方に連続流で吐出される。第2移動ノズル10が中央位置に位置するときに剥離除去液バルブ51が開かれると、剥離除去液が基板Wの上面の中央領域に供給される。
【0063】
第2移動ノズル10から吐出される剥離除去液は、低溶解性成分よりも高溶解性成分を溶解させやすい液体が用いられる。
第2移動ノズル10から吐出される剥離除去液は、たとえば、アンモニア水等のアルカリ性水溶液(アルカリ性液体)である。アルカリ性水溶液の具体例として、アンモニア水、SC1液、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)水溶液、および、コリン水溶液、ならびにこれらのいずれかの組合せが挙げられる。
【0064】
第3移動ノズル11は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けて純水等のリンス液を連続流で供給(吐出)するリンス液ノズル(リンス液供給ユニット)の一例である。リンス液は、基板Wの表面に付着した液体を洗い流す液体である。
第3移動ノズル11は、第3ノズル移動ユニット37によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第3移動ノズル11は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。
【0065】
第3移動ノズル11は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の中央領域に対向する。第3移動ノズル11は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第3移動ノズル11は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
第3ノズル移動ユニット37は、第1ノズル移動ユニット35と同様の構成を有している。すなわち、第3ノズル移動ユニット37は、第3移動ノズル11に結合されて水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って延びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含んでいてもよい。
【0066】
第3移動ノズル11は、第3移動ノズル11にリンス液を案内するリンス液配管42に接続されている。リンス液配管42に介装されたリンス液バルブ52が開かれると、リンス液が、第3移動ノズル11の吐出口から下方に連続流で吐出される。第3移動ノズル11が中央位置に位置するときにリンス液バルブ52が開かれると、リンス液が基板Wの上面の中央領域に供給される。
【0067】
リンス液としては、DIW等の純水、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)のアンモニア水、還元水(水素水)等が挙げられる。
第4移動ノズル12は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けて有機溶剤等の残渣除去液を連続流で供給(吐出)する残渣除去液ノズル(残渣除去液供給ユニット)の一例である。
【0068】
第4移動ノズル12は、第4ノズル移動ユニット38によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第4移動ノズル12は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。
第4移動ノズル12は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の中央領域に対向する。第4移動ノズル12は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第4移動ノズル12は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
【0069】
第4ノズル移動ユニット38は、第1ノズル移動ユニット35と同様の構成を有している。すなわち、第4ノズル移動ユニット38は、第4移動ノズル12に結合されて水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って延びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含んでいてもよい。
【0070】
第4移動ノズル12は、第4移動ノズル12に残渣除去液を案内する残渣除去液配管43に接続されている。残渣除去液配管43に介装された残渣除去液バルブ53が開かれると、残渣除去液が、第4移動ノズル12の吐出口から下方に連続流で吐出される。第4移動ノズル12が中央位置に位置するときに残渣除去液バルブ53が開かれると、残渣除去液が基板Wの上面の中央領域に供給される。
【0071】
残渣除去液は、基板Wに剥離除去液が供給された後に基板W上に僅かに残る処理膜の残渣を洗い流して基板Wの上面から除去するための液体である。そのため、残渣除去液は、剥離除去液と相溶性を有する。残渣除去液は、剥離除去液によって基板Wの上面から剥離されて排除された後に基板Wの上面に残る処理膜の残渣を溶解して除去する。残渣除去液としては、たとえば、有機溶剤を用いることができる。残渣除去液は、残渣溶解液ともいう。
【0072】
残渣除去液は、表面張力がリンス液よりも低い低表面張力液体であることが好ましい。後述する基板処理では、基板W上のリンス液が振り切られることによって、基板Wの上面が乾燥されるのではなく、基板W上のリンス液が残渣除去液によって置換された後に、基板W上の残渣除去液が振り切られることによって基板Wの上面が乾燥される。そのため、残渣除去液が低表面張力液体であれば、基板Wの上面が乾燥される際に基板Wの上面に作用する表面張力を低減することができる。
【0073】
残渣除去液および低表面張力液体として機能する有機溶剤としては、IPA、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、メタノール、エタノール、アセトン、PGEE(プロピレングリコールモノエチルエーテル)およびTrans-1,2-ジクロロエチレンのうちの少なくとも1つを含む液等が挙げられる。
残渣除去液および低表面張力液体として機能する有機溶剤は、単体成分のみからなる必要はなく、他の成分と混合した液体であってもよい。たとえば、IPAとDIWとの混合液であってもよいし、IPAとHFEとの混合液であってもよい。
【0074】
図5は、基板処理装置1の主要部の電気的構成を示すブロック図である。コントローラ3は、マイクロコンピュータを備え、所定の制御プログラムに従って基板処理装置1に備えられた制御対象を制御する。
具体的には、コントローラ3は、プロセッサ(CPU)3Aと、制御プログラムが格納されたメモリ3Bとを含む。コントローラ3は、プロセッサ3Aが制御プログラムを実行することによって、基板処理のための様々な制御を実行するように構成されている。
【0075】
とくに、コントローラ3は、搬送ロボットIR,CR、スピンモータ23、ピン開閉ユニット24、第1ノズル移動ユニット35、第2ノズル移動ユニット36、第3ノズル移動ユニット37、第4ノズル移動ユニット38、ヒータ通電ユニット64、ヒータ昇降ユニット65、ガード昇降ユニット74、処理液バルブ50、剥離除去液バルブ51、リンス液バルブ52、残渣除去液バルブ53を制御するようにプログラムされている。コントローラ3によってバルブが制御されることによって、対応するノズルからの処理流体の吐出の有無や、対応するノズルからの処理流体の吐出流量が制御される。
【0076】
図6は、基板処理装置1による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
図6は、主として、コントローラ3がプログラムを実行することによって実現される処理が示されている。
図7A~
図7Iは、基板処理の各工程の様子を説明するための模式図である。
基板処理装置1による基板処理では、たとえば、
図6に示すように、基板搬入工程(ステップS1)、処理液供給工程(ステップS2)、処理膜形成工程(ステップS3)、エッチング開始工程(ステップS4)、エッチング停止工程(ステップS5)、処理膜除去工程(ステップS6)、リンス工程(ステップS7)、残渣除去工程(ステップS8)、スピンドライ工程(ステップS9)および基板搬出工程(ステップS10)がこの順番で実行される。
【0077】
エッチング開始工程(ステップS4)およびエッチング停止工程(ステップS5)を1サイクルとするエッチング処理は、N回実行される(N=0,1,2,3…)。すなわち、エッチング処理が1サイクルのみ実行されてもよいし、複数サイクル実行されてもよい。
以下では、主に
図2および
図6を参照する。
図7A~
図7Iについては適宜参照する。
【0078】
まず、未処理の基板Wは、搬送ロボットIR,CR(
図1参照)によってキャリヤCから処理ユニット2に搬入され、スピンチャック5に渡される(ステップS1)。これにより、基板Wは、スピンチャック5によって水平に保持される(基板保持工程)。
基板Wの搬入時には、ヒータユニット6は、ヒータ62が通電された状態で、基板Wに対する加熱が行われない非加熱位置に配置されている。非加熱位置は、たとえば、下位置である。非加熱位置とは、基板Wの温度が上昇しない程度に基板Wから離間した位置であればよい。
【0079】
スピンチャック5による基板Wの保持は、スピンドライ工程(ステップS9)が終了するまで継続される。基板保持工程が開始されてからスピンドライ工程(ステップS9)が終了するまでの間、ガード昇降ユニット74は、少なくとも一つのガード71が上位置に位置するように、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bの高さ位置を調整する。基板Wがスピンチャック5に保持された状態で、スピンモータ23が、スピンベース21を回転させる。これにより、水平に保持された基板Wの回転が開始される(基板回転工程)。
【0080】
次に、搬送ロボットCRが処理ユニット2外に退避した後、基板Wの上面に処理液を供給する処理液供給工程(ステップS2)が実行される。具体的には、第1ノズル移動ユニット35が、第1移動ノズル9を処理位置に移動させる。第1移動ノズル9の処理位置は、たとえば、中央位置である。
第1移動ノズル9が処理位置に位置する状態で、処理液バルブ50が開かれる。これにより、
図7Aに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第1移動ノズル9から処理液が供給(吐出)される(処理液供給工程、処理液吐出工程)。基板Wの上面に供給された処理液は、遠心力によって、基板Wの全体に広がる。これにより、基板W上に処理液の液膜101(処理液膜)が形成される(処理液膜形成工程)。
【0081】
第1移動ノズル9からの処理液の供給は、所定時間、たとえば、2秒~4秒の間継続される。処理液供給工程において、基板Wは、所定の処理液回転速度、たとえば、10rpm~1500rpmで回転される。
次に、
図7Bおよび
図7Cに示す処理膜形成工程(ステップS3)が実行される。処理膜形成工程では、基板W上の処理液が固化または硬化されて、処理膜100(
図7Cを参照)が基板Wの上面に形成される。
【0082】
処理膜形成工程では、基板W上の処理液の液膜101の厚さが薄くされる(処理液薄膜化工程、処理液スピンオフ工程)。具体的には、処理液バルブ50が閉じられる。これにより、
図7Bに示すように、基板Wに対する処理液の供給が停止される。そして、第1ノズル移動ユニット35によって第1移動ノズル9がホーム位置に移動される。
図7Bに示すように、処理液薄膜化工程では、基板Wの上面への処理液の供給が停止された状態で基板Wが回転するため、基板Wの上面から処理液の一部が排除される。これにより、基板W上の液膜101の厚さが適切な厚さになる。
【0083】
基板Wの回転に起因する遠心力は、基板Wの上面から処理液が排除されるだけでなく、液膜101に接する気体にも作用する。遠心力の作用により、当該気体が基板Wの中心側から周縁側に向かう気流が形成される。この気流により、液膜101に接する気体状態の溶媒が基板Wに接する雰囲気から排除される。そのため、基板W上の処理液からの溶媒の蒸発(揮発)が促進され、
図7Cに示すように、処理膜100が形成される(溶媒蒸発工程)。処理膜形成工程において、スピンモータ23は、処理液中の溶媒を蒸発させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。スピンモータ23は、処理膜形成ユニットの一例である。
【0084】
処理膜形成工程では、スピンモータ23が、基板Wの回転速度を所定の処理膜形成速度に変更する。処理膜形成速度は、たとえば、300rpm~1500rpmである。基板Wの回転速度は、300rpm~1500rpmの範囲内で一定に保たれてもよいし、処理膜形成工程の途中で300rpm~1500rpmの範囲内で適宜変更されてもよい。処理膜形成工程は、所定時間、たとえば、30秒間実行される。
【0085】
この基板処理とは異なり、処理膜形成工程では、遠心力による処理液の排除が行われなくてもよく、溶媒の蒸発のみによって処理膜100が形成されてもよい。この場合、処理液の消費量を抑制することができる。
次に、処理膜100に対する加熱を強める加熱強化処理を行うことによって基板Wの表層部のエッチングを促進するエッチング促進工程(ステップS4)が実行される。
【0086】
具体的には、ヒータ昇降ユニット65が、ヒータユニット6を加熱位置に配置する。加熱位置は、たとえば、基板Wの下面から離間した位置で基板Wを加熱する離隔加熱位置である。これにより、
図7Dに示すように、ヒータユニット6によって、基板Wを介して処理膜100が加熱される(処理膜加熱工程)。ヒータユニット6は、処理膜加熱ユニットの一例である。
【0087】
処理膜100の加熱が開始されることによって、温度応答性ポリマーがエッチング機能を発現し、基板Wにおいて処理膜100によって覆われている上面のエッチングが促進される(エッチング促進工程)。具体的には、温度応答性ポリマーが処理膜100中の液体成分にプロトンを放出することによってエッチングが促進される。
処理膜100中の液体成分中のプロトン濃度が所定の閾値以上(pHが所定の閾値以下)である期間中、基板Wの表層部のエッチングが進行する(エッチング工程)。たとえば、pHが4以下であるときに、基板Wの表層部のエッチングが進行する。
【0088】
処理膜100の加熱の開始前においてエッチングが完全に停止されている場合には、エッチング促進工程は、エッチング開始工程ともいう。
次に、処理膜100に対する加熱を弱める加熱弱化処理を実行することによって基板Wの表層部のエッチングを緩和するエッチング緩和工程(ステップS5)が実行される。
具体的には、ヒータ昇降ユニット65が、ヒータユニット6を非加熱位置に配置する。これにより、
図7Eに示すように、ヒータユニット6による処理膜100の加熱が停止される(処理膜加熱停止工程)。これにより、温度応答性ポリマーのエッチング機能が低減し、基板Wにおいて処理膜100によって覆われている上面のエッチングが緩和される(エッチング緩和工程)。具体的には、温度応答性ポリマーが処理膜100中の液体成分からプロトンを受け取ることによってエッチングが緩和される。たとえば、pHが4よりも大きくなることによって、基板Wの表層部のエッチングがされる。このように、ヒータ昇降ユニット65は、ヒータユニット6(処理膜加熱ユニット)による処理膜100の加熱度合を調整する加熱調整ユニットの一例である。
【0089】
処理膜100の加熱の停止によって温度応答性ポリマーのエッチング機能が完全に消失してエッチングが完全に停止される場合には、エッチング緩和工程は、エッチング停止工程ともいう。
エッチング促進工程およびエッチング緩和工程を1サイクルとするエッチング処理が1回のみ実行される場合には、次に、処理膜除去工程(ステップS6)が実行される。
【0090】
一方、エッチング処理が複数回実行される場合には、エッチング緩和工程(ステップS5)の後、再び、エッチング促進工程(ステップS4)およびエッチング緩和工程(ステップS5)が実行される。エッチング促進工程(ステップS4)およびエッチング緩和工程(ステップS5)が所定の回数繰り返された後、処理膜除去工程(ステップS6)が実行される。
【0091】
エッチング促進工程およびエッチング緩和工程が複数回実行される場合、最初のエッチング促進工程(ステップS4)がエッチング開始工程であり、最後のエッチング緩和工程(ステップS5)がエッチング停止工程であってもよい。すなわち、最初のエッチング促進工程(ステップS4)が実行される前、および、最後のエッチング停止工程(ステップS5)が実行された後において、エッチングが完全に停止されていてもよい。
【0092】
処理膜除去工程(ステップS6)では、基板Wの上面(厳密には、処理膜100の表面)への剥離除去液の供給によって、基板Wの上面から処理膜100が剥離されて除去される。
具体的には、第2ノズル移動ユニット36が第2移動ノズル10を処理位置に移動させる。第2移動ノズル10の処理位置は、たとえば、中央位置である。
【0093】
第2移動ノズル10が処理位置に位置する状態で、剥離除去液バルブ51が開かれる。これにより、
図7Fに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第2移動ノズル10から剥離除去液が供給(吐出)される(剥離除去液供給工程、剥離除去液吐出工程)。基板Wの上面に供給された剥離除去液は、遠心力によって、基板Wの全体に広がる。基板Wの上面に供給された剥離除去液は、処理膜100中の高溶解性成分を溶解させながら基板Wの上面と処理膜100との界面に達し、処理膜100と基板Wの上面との間に進入する。
図7Gに示すように、剥離除去液の供給を継続することで、基板Wの上面から処理膜100が剥離され、除去される(処理膜除去工程)。第2移動ノズル10は、処理膜除去ユニットの一例である。
【0094】
処理膜除去工程(ステップS6)において、基板Wは、所定の除去回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
次に、基板Wの上面から剥離除去液を洗い流すリンス工程(ステップS7)が実行される。具体的には、第2ノズル移動ユニット36が第2移動ノズル10を退避位置に移動させる。そして、第3ノズル移動ユニット37が、第3移動ノズル11を処理位置に移動させる。第3移動ノズル11の処理位置は、たとえば、中央位置である。
【0095】
そして、第3移動ノズル11が処理位置に位置する状態で、リンス液バルブ52が開かれる。これにより、
図7Hに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第3移動ノズル11からリンス液が供給(吐出)される(リンス液供給工程、リンス液吐出工程)。基板Wの上面に供給されたリンス液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面に付着していた剥離除去液が、リンス液とともに基板W外に排出され、リンス液で置換される(リンス工程、剥離除去液排出工程)。
【0096】
基板Wの上面および下面へのリンス液の供給は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。リンス工程(ステップS7)において、基板Wは、所定のリンス回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
次に、有機溶剤等の残渣除去液を供給して、処理膜100の残渣を基板Wの上面から除去する残渣除去工程(ステップS8)が実行される。
【0097】
具体的には、第3ノズル移動ユニット37が第3移動ノズル11を退避位置に移動させる。そして、第4ノズル移動ユニット38が、第4移動ノズル12を処理位置に移動させる。第4移動ノズル12の処理位置は、たとえば、中央位置である。
そして、第4移動ノズル12が処理位置に位置する状態で、残渣除去液バルブ53が開かれる。これにより、
図7Iに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第4移動ノズル12から残渣除去液が供給(吐出)される(残渣除去液供給工程、残渣除去液吐出工程)。
【0098】
第4移動ノズル12から基板Wの上面に供給された残渣除去液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に行き渡る。剥離除去液によって基板Wから処理膜が剥離されて基板W上から排除された後においても基板Wの上面に処理膜の残渣が残っていることがある。基板Wの上面に供給された残渣除去液は、このような処理膜の残渣を溶解する(残渣溶解工程)。遠心力によって、処理膜の残渣を溶解した残渣除去液は、基板Wの上面の周縁から排出される。これにより、基板W上の処理膜の残渣が除去される(残渣除去工程)。
【0099】
残渣除去液供給工程において、第4移動ノズル12からの残渣除去液の吐出は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。残渣除去工程(ステップS8)において、基板Wは、所定の残渣除去回転速度、たとえば、300rpmで回転される。
次に、基板Wを高速回転させて基板Wの上面を乾燥させるスピンドライ工程(ステップS9)が実行される。具体的には、残渣除去液バルブ53が閉じられる。これにより、基板Wの上面への残渣除去液の供給が停止される。そして、第4ノズル移動ユニット38が、第4移動ノズル12をホーム位置に移動させる。
【0100】
そして、スピンモータ23が基板Wの回転を加速し、基板Wを高速回転させる。スピンドライ工程における基板Wは、乾燥速度、たとえば、1500rpmで回転される。スピンドライ工程は、所定時間、たとえば、30秒間の間実行される。それによって、大きな遠心力が基板W上の残渣除去液に作用し、基板W上の残渣除去液が基板Wの周囲に振り切られる。
【0101】
そして、スピンモータ23が基板Wの回転を停止させる。ガード昇降ユニット74が第1ガード71Aおよび第2ガード71Bを下位置に移動させる。
搬送ロボットCRが、処理ユニット2に進入して、スピンチャック5のチャックピン20から処理済みの基板Wをすくい取って、処理ユニット2外へと搬出する(ステップS10)。その基板Wは、搬送ロボットCRから搬送ロボットIRへと渡され、搬送ロボットIRによって、キャリヤCに収納される。
【0102】
次に、
図8A~
図8Fを用いて、基板処理中の基板Wの上面151の様子を詳細に説明する。
図8A~
図8Fは、基板処理中の基板Wの上面151付近の様子を説明するための模式図である。
図8Bおよび
図8Cでは、説明の便宜上、ヒータユニット6と基板Wとの大小関係を
図2から変更している(後述する
図15Bおよび
図15Cにおいても同様)。
処理膜形成工程(ステップS3)において形成された処理膜100は、
図8Aに示すように、基板Wの表層部150に付着しているパーティクル103を保持している。エッチング機能発現処理が行われる前、処理膜100は、温度応答性ポリマー110と、低溶解性成分111と、高溶解性成分112とを含有している。温度応答性ポリマー110、低溶解性成分111、および、高溶解性成分112は、処理液に含有される溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって、固体状態になっている。
【0103】
処理膜100中には、温度応答性ポリマー110、低溶解性成分111、および、高溶解性成分112が混在している。厳密には、処理膜100は、温度応答性ポリマー110、低溶解性成分111、および、高溶解性成分112が処理膜100の全体に均一に分布しているわけではない。処理膜100には、温度応答性ポリマー110が偏在している部分と、低溶解性成分111が偏在している部分と、高溶解性成分112が偏在している部分とが存在している。
【0104】
次に、
図8Bを参照して、加熱強化処理によって温度応答性ポリマー110からプロトン113が放出される。詳しくは、処理膜100中に放出されたプロトン113によって基板Wの表層部150のエッチングが促進される(エッチング促進工程)。プロトン113の発生(増加)により、処理膜100中の液体成分の酸性が強まり、基板Wの表層部150のエッチングが進行する。エッチングの進行に伴って、基板Wの上面が後退する。
【0105】
図8Cに示すように、基板Wの上面の後退(基板Wの表層部150のエッチング)によって、パーティクル103が基板Wの上面から浮き上がる。これにより、パーティクル103が処理膜100(特に、低溶解性成分111)によって、包み込まれて、より強固に保持される。基板Wの表層部150がエッチングされることでエッチング残渣104が形成される。処理膜100(特に、低溶解性成分111)は、エッチング工程の前から基板Wの上面に付着しているパーティクル103とともにエッチング残渣104を保持する。パーティクル103およびエッチング残渣104をまとめて除去対象物105という。
【0106】
次に、
図8Dを参照して、加熱弱化処理によって、温度応答性ポリマー110が処理膜100中の液体成分に存在するプロトン113を受け取る。処理膜100中のプロトン113が減少することによって処理膜100中の液体成分の酸性が弱まる。すなわち、処理膜100中の液体成分のpHが中性に近づく。これにより、基板Wの表層部150のエッチングが緩和される(エッチング緩和工程)。エッチングの緩和によって基板Wの上面の後退が緩和または停止される。
【0107】
次に、
図8Eを参照して、剥離除去液によって、高溶解性成分112が選択的に溶解される。すなわち、処理膜100が部分的に溶解される(溶解工程、部分溶解工程)。
「固体状態の高溶解性成分112が選択的に溶解される」とは、固体状態の高溶解性成分112のみが溶解されるという意味ではない。「固体状態の高溶解性成分112が選択的に溶解される」とは、固体状態の低溶解性成分111も僅かに溶解されるが、大部分の固体状態の高溶解性成分112が溶解されるという意味である。
【0108】
高溶解性成分112が選択的に溶解されることをきっかけとして、処理膜100において高溶解性成分112が偏在している部分に貫通孔106が形成される(貫通孔形成工程)。
高溶解性成分112が偏在している部分には、高溶解性成分112のみが存在するのではなく、低溶解性成分111も存在する。剥離除去液が高溶解性成分112だけでなく高溶解性成分112の周囲の低溶解性成分111も溶解させることで、貫通孔106が形成される。貫通孔106は、平面視で、たとえば、直径数nmの大きさである
貫通孔106は、観測可能な程度に明確に形成されている必要はない。すなわち、貫通孔106は、処理膜100の上面から基板の上面まで剥離除去液を移動させる経路が処理膜100に形成されていればよく、その経路が全体として処理膜100を貫通していればよい。
【0109】
ここで、処理膜100中に溶媒が適度に残留している場合には、剥離除去液は、処理膜100に残留している溶媒に溶け込みながら処理膜100を部分的に溶解する。詳しくは、剥離除去液が処理膜100中に残留している溶媒に溶け込みながら処理膜100中の高溶解性成分112を溶解して貫通孔106を形成する。そのため、処理膜100内に剥離除去液が進入しやすい(溶解進入工程)。
【0110】
基板Wの上面に到達した剥離除去液は、処理膜100と基板Wとの界面に作用して処理膜100を剥離し、剥離された処理膜100を基板Wの上面から除去する(剥離除去工程)。
詳しくは、剥離除去液に対する低溶解性成分111の溶解性は低く、大部分の低溶解性成分111は固体状態に維持される。そのため、貫通孔106を介して基板Wの上面151付近まで到達した剥離除去液は、低溶解性成分111において基板Wの上面151付近の部分を僅かに溶解させる。これにより、
図8Eの拡大図に示すように、剥離除去液が、基板Wの上面付近の固体状態の低溶解性成分111を徐々に溶解させながら、処理膜100と基板Wの上面との間の隙間Gに進入していく(剥離除去液進入工程)。
【0111】
そして、たとえば、貫通孔106の周縁を起点として処理膜100に亀裂(クラック)が形成される。そのため、高溶解性成分112は、クラック発生成分ともいわれる。処理膜100は、亀裂の形成によって分裂し、膜片108となる。
図8Fに示すように、処理膜100の膜片108は、除去対象物105を保持している状態で基板Wから剥離される(処理膜分裂工程、処理膜剥離工程)。
【0112】
そして、剥離除去液の供給を継続することによって、膜片108となった処理膜100が、除去対象物105を保持している状態で、剥離除去液によって洗い流される。言い換えると、除去対象物105を保持する膜片108が基板W外に押し出されて基板Wの上面151から排除される(処理膜排除工程、除去対象物排除工程)。これにより、基板Wの上面を良好に洗浄することができる。
【0113】
低溶解性成分111は、処理膜100が形成されてから剥離除去液が供給されるまでの間、処理膜100中で固体状態を維持する固体状態維持成分として機能する。
第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
第1実施形態によれば、処理膜100に対して加熱強化処理(エッチング機能発現処理)を行うことによって、処理膜100による基板Wの表層部150のエッチングが促進される。そして、処理膜100に対して加熱弱化処理(エッチング機能消失処理)を行うことによって、処理膜100が基板W上に維持されている状態で処理膜100による基板Wの表層部150のエッチングが緩和される。
【0114】
処理膜100による基板Wの表層部150のエッチングは、処理膜100の形成時には開始されておらず、処理膜100に対する加熱強化処理をきっかけとして促進される。そして、エッチングを緩和するために処理膜100を除去する必要はなく、処理膜100を基板W上に維持した状態で処理膜100に対する加熱弱化処理をきっかけとして緩和される。エッチングの開始および停止が加熱の強弱を変化させる能動的な処理をきっかけとしているため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。すなわち、処理膜100に対する処理に応じて、エッチングが促進している状態と、エッチングが緩和されている状態とを切り替えることができる。そのため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。したがって、基板Wの表層部150のエッチングの制御性を向上できる。
【0115】
この方法とは異なり、基板Wの上面151に向けてフッ酸等のエッチング液を供給し続けながら基板Wの表層部150をエッチングする手法では、エッチング液が次々に基板W外方へ排出される。一方、第1実施形態では、処理膜100を基板W上に維持しながら、処理膜100が基板Wの表層部150をエッチングする。そのため、機能性成分の消費量を低減することができる。
【0116】
また第1実施形態によれば、処理膜形成工程において、加熱強化処理によってエッチング機能を発現する機能発現成分を含有する処理膜100が形成される。そのため、機能発現成分の量が調整された処理膜100で基板Wの表層部150をエッチングすることで、基板Wの表層部150のエッチング量を制御できる。
また第1実施形態によれば、機能発現成分である温度応答性ポリマー110が、処理膜100に対する加熱を強めることによってプロトンを放出し、処理膜100に対する加熱を弱めることによってプロトンを受け取る。加熱強化処理によって温度応答性ポリマー110がプロトンを放出することで、基板Wの表層部150のエッチングが促進される。加熱弱化処理によって温度応答性ポリマー110にプロトンを付与することで、基板Wの表層部150のエッチングが緩和される。
【0117】
温度応答性ポリマー110から放出されたプロトン113によって処理膜100中の酸性が強まる。そのため、温度応答性ポリマー110からのプロトン113の放出および受け取りによって、基板Wの表層部150のエッチングの促進および緩和を制御することができる。
また第1実施形態によれば、処理膜100の表面に剥離除去液を供給することによって、処理膜100が基板Wの上面151から除去される。剥離除去液によって処理膜100を除去することによって、基板Wの上面151を洗浄できる。
【0118】
また第1実施形態によれば、処理膜100が、溶解によって除去されるのではなく、剥離によって除去される。そのため、基板Wの上面151に除去対象物105が付着している場合には、除去対象物105を保持した状態で、基板Wの上面から剥離される。その結果、除去対象物105を基板Wの上面151から引き剥がして除去することができる。
また第1実施形態によれば、処理膜100が、固体状態の低溶解性成分111と、剥離除去液に対する溶解性が低溶解性成分111よりも高い固体状態の高溶解性成分112とを含有する。そして、低溶解性成分111を固体状態に維持しながら、剥離除去液に高溶解性成分112を選択的に溶解させることによって、基板Wの上面151から処理膜100が剥離される。
【0119】
そのため、固体状態の高溶解性成分112を剥離除去液に溶解させることによって、処理膜100と基板Wとの接触界面に剥離除去液を作用させることができる。一方、処理膜100中の低溶解性成分111は、その大部分が溶解されずに固体状態で維持される。したがって、基板Wの上面151に除去対象物105が存在する場合には、固体状態の低溶解性成分111で除去対象物105を保持しながら、固体状態の低溶解性成分111と基板Wとの接触界面に剥離除去液を作用させることができる。その結果、処理膜100を基板Wの上面151から速やかに除去し、処理膜100とともに除去対象物105を基板Wの上面151から効率良く除去することができる。
【0120】
低溶解性成分111が固体状態で維持されるため、高溶解性成分112が溶解された後においても、低溶解性成分111によって除去対象物105を保持することができる。剥離除去液によって処理膜100を基板Wの上面から除去する際においても、処理膜100によって除去対象物105が保持された状態を維持することができる。そのため、除去対象物105が低溶解性成分111によって保持されていない場合と比較して、除去対象物105が剥離除去液の流れから受けるエネルギー(物理力)を増大させることができる。その結果、剥離除去液によって、基板Wの上面から除去対象物105を効果的に除去することができる。
【0121】
また第1実施形態によれば、基板Wの表層部150がエッチングされることによって、処理膜100に保持されるエッチング残渣104が形成される。エッチングによって発生したエッチング残渣104が処理膜100に保持された状態で、処理膜100とともにエッチング残渣104が除去される。そのため、処理膜100を除去した後に、エッチング残渣104を除去するための処理を別途行う必要がない。
【0122】
エッチング促進工程およびエッチング緩和工程を1サイクルとするエッチング処理が複数サイクル実行される場合には、実行されるエッチング処理のサイクル数によって、基板Wの表層部150のエッチング量を精度良く制御できる。
第1実施形態に係る基板処理に用いられる基板Wの上面151には、
図9に示すように、複数のトレンチ152が形成されていてもよい。各トレンチ152は、たとえば、基板Wの上面151の法線方向Zから見た平面視(以下、単に「平面視」という。)において円形状である。トレンチ152は、等間隔に設けられており、隣接するトレンチ152同士の間の距離Lはたとえば、2μmである。各トレンチ152の深さDは、たとえば、5μmである。
【0123】
各トレンチ152は、底壁153と、底壁153に接続されトレンチ152の深さ方向(法線方向Z)に延びる筒状の側壁154を有する。複数のトレンチ152は、たとえば、ドライエッチングによって形成される。そのため、各トレンチ152は、底壁153に向かうにしたがって幅狭になる先細り状に形成されている。側壁154は、トレンチ152の開口155を区画する開口側部154aと、開口側部154aおよび底壁153に接続された底壁側部154bとを含む。
【0124】
次に、
図10A~
図10Cを用いて、基板処理中のトレンチ152近傍の基板Wの表層部150の様子について説明する。
図10Aに示すように、処理膜形成工程(ステップS3)において、処理液中の溶媒の蒸発に伴って、処理液の液面156は、トレンチ152の底壁153に向かって移動する。処理液中の溶媒の蒸発がさらに進むと、
図10Bに示すように、処理膜100が、各トレンチ152内において、底壁153および底壁側部154bを覆うように形成される。トレンチ152の底壁153および底壁側部154bを覆う処理膜100を形成するためには、処理膜形成工程における基板の回転速度(処理膜形成速度)が、1500rpmであることが好ましく、処理液の粘度が3.4mm
2/sよりも低いことが好ましい。
【0125】
底壁153および底壁側部154bを覆う処理膜100が形成されると、その後のエッチング処理によって、トレンチ152の底壁153および底壁側部154bにおいて、基板Wの表層部150がエッチングされる。これにより、
図10Cに実線で示すように、トレンチ152内において底壁153の近傍のみにおいてトレンチ152の幅を広げることができる。トレンチ152が先細り形状である場合には、底壁153の近傍においてトレンチ152の幅を広げることで、トレンチ152を円筒状に近づけることができる。なお、
図10Cは、処理膜100を除去した後の状態を示している。処理膜100による基板Wの表層部150のエッチング、および、処理膜100の除去の詳細は、
図8A~
図8Fと同様である。
【0126】
このように、トレンチ152内の底壁153およびその近傍にのみ処理膜100を形成することで、トレンチ152内においてエッチングされる領域(エッチング領域)の大きさを制御することができる。
<第2実施形態>
図11は、第2実施形態に係る基板処理装置1Pに備えられる処理ユニット2の概略構成を示す模式的な部分断面図である。第2実施形態に係る基板処理装置1Pが第1実施形態に係る基板処理装置1(
図2を参照)と主に異なる点は、処理液が、溶質として、高溶解性成分を含有していない点、および、第2移動ノズル10が剥離除去液の代わりに処理膜を溶解させる溶解除去液を吐出するように構成されている点である。
【0127】
図11において、前述の
図1~
図10Cに示された構成と同等の構成については、
図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する(後述する
図12~
図13Eについても同様)。
第1実施形態と同様に、処理液には、溶質および溶媒が含有されている。処理液は、処理液に含有される溶媒の少なくとも一部が揮発(蒸発)することによって固化または硬化する。処理液は、基板W上で固化または硬化することによって、固形の処理膜を形成する。処理膜は、処理液が固化または硬化する際に、基板W上に存在する除去対象物を内部に取り込み保持する。
【0128】
処理液には、溶質として、機能発現成分および低溶解性成分が含有されている。第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、機能発現成分は、複数種の構成単位を有する温度応答性ポリマーである。低溶解性成分は、たとえば、ノボラックである。
第2移動ノズル10から吐出される溶解除去液は、たとえば、IPA等の有機溶剤である。溶解除去液は、IPAに限られない。溶解除去液としては、処理液に含有されている溶媒として列挙されている液体を用いることができる。
【0129】
第2移動ノズル10は、第2移動ノズル10に溶解除去液を案内する溶解除去液配管41Pに接続されている。溶解除去液配管41Pに介装された溶解除去液バルブ51Pが開かれると、溶解除去液が、第2移動ノズル10の吐出口から下方に連続流で吐出される。第2移動ノズル10が中央位置に位置するときに溶解除去液バルブ51Pが開かれると、溶解除去液が基板Wの上面の中央領域に供給される。
【0130】
第2実施形態に係る基板処理装置1Pは、第1実施形態に係る基板処理(
図6を参照)と同様の基板処理を実行することもできる。第2実施形態では、溶解除去液によって、処理膜100が溶解除去されるため、
図12に示すように、リンス工程(ステップS7)および残渣除去工程(ステップS8)を省略することも可能である。
次に、
図13A~
図13Eを用いて、第2実施形態に係る基板処理中の基板Wの上面151の様子を詳細に説明する。
図13A~
図13Eは、基板処理中の基板Wの上面151付近の様子を説明するための模式図である。
【0131】
処理膜形成工程(ステップS3)において形成された処理膜100は、
図13Aに示すように、基板Wの表層部150に付着しているパーティクル103を保持している。エッチング機能発現処理が行われる前、処理膜100は、温度応答性ポリマー110と低溶解性成分111とを含有している。温度応答性ポリマー110および低溶解性成分111は、処理液に含有される溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって、固体状態になっている。
【0132】
処理膜100中には、温度応答性ポリマー110および低溶解性成分111が混在している。厳密には、処理膜100は、温度応答性ポリマー110および低溶解性成分111が処理膜100の全体に均一に分布しているわけではない。処理膜100には、温度応答性ポリマー110が偏在している部分と、低溶解性成分111が偏在している部分とが存在している。
【0133】
次に、
図13Bを参照して、加熱強化処理によって温度応答性ポリマー110からプロトン113が放出される。詳しくは、処理膜100中に放出されたプロトン113によって基板Wの表層部150のエッチングが促進される(エッチング促進工程)。プロトン113の発生(増加)により、処理膜100中の液体成分の酸性が強まり、基板Wの表層部150のエッチングが進行する。エッチングの進行に伴って、基板Wの上面が後退する。
【0134】
図13Cに示すように、基板Wの上面の後退(基板Wの表層部150のエッチング)によって、パーティクル103が基板Wの上面から浮き上がる。これにより、パーティクル103が処理膜100(特に、低溶解性成分111)によって、より強固に保持される。基板Wの表層部150がエッチングされることでエッチング残渣104が形成される。処理膜100(特に、低溶解性成分111)は、エッチング工程の前から基板Wの上面に付着しているパーティクル103とともにエッチング残渣104を保持する。
【0135】
次に、
図13Dを参照して、加熱弱化処理によって、温度応答性ポリマー110が処理膜100中の液体成分に存在するプロトン113を受け取る。処理膜100中のプロトン113が減少することによって処理膜100中の液体成分の酸性が弱まる。すなわち、処理膜100中の液体成分のpHが中性に近づく。これにより、基板Wの表層部150のエッチングが停止される(エッチング停止工程)。エッチングの停止によって基板Wの上面の後退が停止される。
【0136】
低溶解性成分111は、エッチング機能発現処理およびエッチング機能消失処理が行われている間、処理膜100中で固体状態を維持する固体状態維持成分として機能する。
次に、
図13Eを参照して、溶解除去液によって、処理膜100が溶解されて基板Wから除去される(溶解除去工程)。詳しくは、低溶解性成分111および温度応答性ポリマー110が溶解される(溶解工程)。溶解除去液の供給を継続することで、溶解除去液に溶解された低溶解性成分111および温度応答性ポリマー110が溶解除去液とともに基板W外に排除される。
【0137】
低溶解性成分111によって保持されていた除去対象物105は、既に基板Wの上面151から引き離されているため、基板Wの上面151を流れる溶解除去液によって基板W外に排除される。
第2実施形態によれば、溶解除去液に処理膜100を溶解させることによって、基板Wの上面151から処理膜100を速やかに除去することができる。これにより、基板Wの上面を良好に洗浄することができる。
【0138】
第2実施形態によれば、上記の効果以外に、第1実施形態と同様の効果を奏する。ただし、剥離除去液および高溶解性成分に基づく効果を除く。
<第3実施形態>
図14は、第3実施形態に係る基板処理装置1Qに備えられる処理ユニット2の概略構成を示す模式図である。第3実施形態に係る基板処理装置1Qが第1実施形態に係る基板処理装置1(
図2を参照)と主に異なる点は、処理液が機能発現成分としてpH応答性ポリマーを含有する点、および、ヒータユニット6が設けられていない点である。
【0139】
pH応答性ポリマーは、処理膜中のpHを酸性または塩基性に調整することによって分解してエッチング機能を発現(強化)する。pH応答性ポリマーの分解物は、pHを中性に近づけることによって重合してpH応答性ポリマーを形成しエッチング機能を消失(弱化)する。
第3実施形態に係る第3移動ノズル11は、リンス液およびpH調整液を吐出する。pH調整液は、基板Wの表層部に対するエッチング力が弱い液体である。さらにいうと、pH調整液は、基板Wの表層部をエッチングしない液体、すなわち、酸化剤として機能しない液体であることが好ましい。pH調整液は、たとえば、炭酸水等の酸性化液または、アンモニア水等の塩基性化液である。第3移動ノズル11は、pH調整液供給ユニットの一例である。
【0140】
酸性化液は、処理膜に向けて供給することで、処理膜に含有されている液体成分のpHを酸性に変化させる水溶液である。酸性化液としては、炭酸水に限られず、リン酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸等を用いることができる。
塩基性化液は、処理膜に向けて供給することで、処理膜に含有されている液体成分のpHを塩基性に変化させる水溶液である。塩基性化液としては、アンモニア水に限られず、ピリジン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチルエタノールアミン、ジイソプロピルアミン等を用いることができる。
【0141】
処理膜中の液体成分は、pH調整液の供給によってpH調整液に置換され、リンス液の供給によってリンス液に置換される。そのため、処理膜中の液体成分は、主に水溶液である。
第3移動ノズル11は、リンス液およびpH調整液を第3移動ノズル11に案内する共通配管45に接続されている。共通配管45には、pH調整液を共通配管45に案内するpH調整液配管44と、リンス液を共通配管45に案内するリンス液配管42とが接続されている。pH調整液配管44に介装されたpH調整液バルブ54が開かれると、pH調整液が、第3移動ノズル11の吐出口から下方に連続流で吐出される。リンス液配管42に介装されたリンス液バルブ52が開かれると、リンス液が、第3移動ノズル11の吐出口から下方に連続流で吐出される。
【0142】
第3実施形態に係るリンス液は、処理膜に含有されている液体成分のpHを中性に近づける中性化液である。中性化液は、たとえば、純水等の中性液体である。純水としてはDIW等を用いることができる。第3移動ノズル11は、中性化液供給ユニットの一例でもある。
第3実施形態では、エッチング機能発現処理が、pH調整液を基板W上の処理膜100に向けて供給して、処理膜100中の液体成分のpHを酸性または塩基性に調整するpH調整処理である。pHを酸性に調整するとは、pHが1に近づくようにpHを変化させることである。pHを塩基性に調整するとは、pHが14に近づくようにpHを変化させることである。
【0143】
第3実施形態では、エッチング機能消失処理が、中性化液を基板W上の処理膜100に向けて供給して、処理膜100中のpHを、pH調整処理によって調整された処理膜100中のpHよりも、中性に近づける中性化処理である。この実施形態では、機能発現成分は、エッチング機能発現処理によって分解されてエッチング機能を発現(強化)する成分である。重合によって再形成されるまで機能発現成分のエッチング機能は消失(弱化)している。
【0144】
pH応答性ポリマーは、処理膜中の液体成分のpHが酸性または塩基性に調整されることによって分解される。これにより、単量体の有機酸を含む複数種の単量体が形成される。有機酸の形成によって、エッチング機能が発現(強化)される。複数種の単量体は、処理膜中の液体成分のpHが中性に近づくことによって重合される。これにより、有機酸が消失し、エッチング機能が消失(弱化)する。
【0145】
なお、pH応答性ポリマー中に構成単位として含まれる有機酸は、単量体の有機酸よりも酸性度が低い。そのため、pH応答性ポリマーは、有機酸を構成単位として含むにも関わらず、エッチング機能を発現しない。
処理膜中の液体成分のpHの変化によってエッチング機能が発現されたり消失したりする。したがって、pH応答性ポリマーによって基板Wの表層部をエッチングする場合には、処理膜は、液体成分と固体成分とが混合した半固体状(ゲル状)であることが好ましく、処理膜中の液体成分には水が含まれていることが好ましい。
【0146】
たとえば、pH調整液として酸性化液が用いられる場合、pH調整処理によって処理膜中の液体成分のpHが4以下となることによって、エッチングが促進される。一方、中性化処理によって処理膜中の液体成分のpHが4よりも大きくなることによって、エッチングが緩和される。
pH調整液として塩基性化液が用いられる場合、pH調整処理によって処理膜中の液体成分のpHが9以上となることによって、エッチングが促進される。一方、中性化処理によって処理膜中の液体成分のpHが9よりも小さくなることによって、エッチングが緩和される。
【0147】
図15は、pH応答性ポリマーの一例について説明するための模式図である。pH応答性ポリマーとしては、N-イソプロピルアクリルアミドと、アクリル酸との共重合体(第2共重合体)を用いることができる。第2共重合体は、液体成分として水を含有するヒドロゲルである。N-イソプロピルアクリルアミド、および、アクリル酸が、第2共重合体を構成する構成単位である。アクリル酸は、構成単位の一種として第2共重合体に含まれる有機酸である。
【0148】
第2共重合体は、処理膜中の液体成分のpHが酸性に変化されることによって分解される。これにより、アクリル酸の単量体と、N-イソプロピルアクリルアミドの単量体とが形成される。つまり、複数種の単量体が形成される。アクリル酸の単量体の形成によって、エッチング機能が発現(強化)される。処理膜中の液体成分のpHが中性に変化されることによって、アクリル酸の単量体とN-イソプロピルアクリルアミドの単量体とが重合される。これにより、有機酸としてのアクリル酸の単量体が消失し、エッチング機能が消失(弱化)する。
【0149】
第3実施形態に係る基板処理は、エッチング促進工程(ステップS4)およびエッチング緩和工程(ステップS5)の内容が第1実施形態に係る基板処理とは異なる。
図16Aは、基板処理装置1Qによる基板処理におけるエッチング促進工程(ステップS4)の一例を説明するための模式図である。
図16Bは、基板処理装置1Qによる基板処理におけるエッチング緩和工程(ステップS5)の一例を説明するための模式図である。
【0150】
第3実施形態に係る基板処理におけるエッチング促進工程(ステップS4)では、第3移動ノズル11が処理位置に位置するときに、pH調整液バルブ54が開かれる。これにより、基板W上の処理膜100に向けて第3移動ノズル11からpH調整液が供給される(pH調整液供給工程、pH調整液吐出工程)。pH調整液の供給によって、基板W上の処理膜100中の液体成分のpHが酸性または塩基性に調整される。これにより、処理膜100中のpH応答性ポリマーが分解されて単量体の有機酸が形成され、基板Wの表層部のエッチングが促進される(エッチング促進工程)。
【0151】
そして、第3移動ノズル11を処理位置に位置したまま、pH調整液バルブ54を閉じ、その代わりに、リンス液バルブ52が開かれる。これにより、第3移動ノズル11からのpH調整液の供給が停止され、第3移動ノズル11からのリンス液(中性化液)の供給が開始される(中性化液供給工程、中性化液吐出工程)。中性化液の供給によって、基板W上の処理膜100中の液体成分のpHが中性に近づく。これにより、処理膜100中の複数種の単量体が重合して単量体の有機酸が消失し、基板Wの表層部のエッチングが緩和される(エッチング緩和工程)。
【0152】
次に、
図17A~
図17Fを用いて、基板処理中の基板Wの上面151の様子を詳細に説明する。
図17A~
図17Fは、基板処理中の基板Wの上面151付近の様子を説明するための模式図である。
処理膜形成工程(ステップS3)において形成された処理膜100は、
図17Aに示すように、基板Wの表層部150に付着しているパーティクル103を保持している。エッチング機能発現処理が行われる前、処理膜100は、pH応答性ポリマー114と、低溶解性成分111と、高溶解性成分112とを含有している。pH応答性ポリマー114、低溶解性成分111、および、高溶解性成分112は、処理液に含有される溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって、固体状態になっている。
【0153】
処理膜100中には、pH応答性ポリマー114、低溶解性成分111、および、高溶解性成分112が混在している。厳密には、処理膜100は、pH応答性ポリマー114、低溶解性成分111、および、高溶解性成分112が処理膜100の全体に均一に分布しているわけではない。処理膜100には、pH応答性ポリマー114が偏在している部分と、低溶解性成分111が偏在している部分と、高溶解性成分112が偏在している部分とが存在している。
【0154】
次に、
図17Bを参照して、pH調整処理によってpH応答性ポリマー114が分解される。詳しくは、pH応答性ポリマー114が分解されて処理膜100中に有機酸115と、有機酸ではない単量体116とが形成される。pH応答性ポリマー114が第2重合体である場合、単量体116は、N-イソプロピルアクリルアミド単量体であり、有機酸115は、アクリル酸単量体である。処理膜100中の有機酸115が増大することによって基板Wの表層部150のエッチングが促進される(エッチング促進工程)。有機酸115の形成により、基板Wの表層部150のエッチングが進行する。エッチングの進行に伴って、基板Wの上面が後退する。
【0155】
図17Cに示すように、基板Wの上面の後退(基板Wの表層部150のエッチング)によって、パーティクル103が基板Wの上面から浮き上がる。これにより、処理膜100(特に、低溶解性成分111)によって、パーティクル103がより強固に保持される。基板Wの表層部150がエッチングされることでエッチング残渣104が形成される。処理膜100(特に、低溶解性成分111)は、エッチング工程の前から基板Wの上面に付着しているパーティクル103とともにエッチング残渣104を保持する。
【0156】
次に、
図17Dを参照して、中性化処理によって、有機酸115を含む複数種の単量体が重合してpH応答性ポリマー114を形成する。処理膜100中の有機酸115が減少することによって処理膜100中の液体成分の酸性が弱まる。これにより、基板Wの表層部150のエッチングが停止される(エッチング停止工程)。エッチングの停止によって基板Wの上面の後退が停止される。
【0157】
次に、
図17Eを参照して、剥離除去液によって、高溶解性成分112が選択的に溶解される。すなわち、処理膜100が部分的に溶解される(溶解工程、部分溶解工程)。
高溶解性成分112が選択的に溶解されることをきっかけとして、処理膜100において高溶解性成分112が偏在している部分に貫通孔106が形成される(貫通孔形成工程)。
【0158】
高溶解性成分112が偏在している部分には、高溶解性成分112のみが存在するのではなく、低溶解性成分111も存在する。剥離除去液が高溶解性成分112だけでなく高溶解性成分112の周囲の低溶解性成分111も溶解させることで、貫通孔106が形成される。
ここで、処理膜100中に中性化液が適度に残留している場合には、剥離除去液は、処理膜100に残留している中性化液に溶け込みながら処理膜100を部分的に溶解する。詳しくは、剥離除去液が処理膜100中に残留している中性化液に溶け込みながら処理膜100中の高溶解性成分112を溶解して貫通孔106を形成する。そのため、処理膜100内に剥離除去液が進入しやすい(溶解進入工程)。
【0159】
基板Wの上面に到達した剥離除去液は、処理膜100と基板Wとの界面に作用して処理膜100を剥離し、剥離された処理膜100を基板Wの上面から排除する(剥離排除工程)。
詳しくは、剥離除去液に対する低溶解性成分111の溶解性は低く、大部分の低溶解性成分111は固体状態に維持される。そのため、低溶解性成分111は、剥離除去液によってその表面付近が僅かに溶解されるだけである。そのため、貫通孔106を介して基板Wの上面151付近まで到達した剥離除去液は、低溶解性成分111において基板Wの上面151付近の部分を僅かに溶解させる。これにより、
図17Eの拡大図に示すように、剥離除去液が、基板Wの上面151付近の固体状態の低溶解性成分111を徐々に溶解させながら、処理膜100と基板Wの上面との間の隙間Gに進入していく(剥離除去液進入工程)。
【0160】
そして、たとえば、貫通孔106の周縁を起点として処理膜100に亀裂(クラック)が形成される。そのため、高溶解性成分112は、クラック発生成分ともいわれる。処理膜100は、亀裂の形成によって分裂し、膜片108となる。
図17Fに示すように、処理膜100の膜片108は、除去対象物105を保持している状態で基板Wから剥離される(処理膜分裂工程、処理膜剥離工程)。
【0161】
そして、剥離除去液の供給を継続することによって、膜片108となった処理膜100が、除去対象物105を保持している状態で、剥離除去液によって洗い流される。言い換えると、除去対象物105を保持する膜片108が基板W外に押し出されて基板Wの上面151から排除される(処理膜排除工程、除去対象物排除工程)。これにより、基板Wの上面151を良好に洗浄することができる。
【0162】
低溶解性成分111は、処理膜100が形成されてから剥離除去液が供給されるまでの間、処理膜100中で固体状態を維持する固体状態維持成分として機能する。
第3実施形態によれば、以下の効果を奏する。処理膜100による基板Wの表層部150のエッチングは、処理膜100の形成時には開始されておらず、処理膜100に対するpH調整処理をきっかけとして促進される。そして、エッチングを停止するために処理膜100を除去する必要はなく、処理膜100を基板W上に維持した状態で処理膜100に対する中性化処理をきっかけとして緩和される。エッチングの緩和および促進が、処理膜100中のpHを変化させるという能動的な処理をきっかけとしているため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。すなわち、処理膜100に対する処理に応じて、エッチングが促進している状態と、エッチングが緩和されている状態とを切り替えることができる。そのため、エッチングの促進のタイミングおよびエッチングの緩和のタイミングを制御しやすい。したがって、基板Wの表層部150のエッチングの制御性を向上できる。
【0163】
単量体の有機酸は、pH応答性ポリマーの構成単位としての有機酸よりも酸性度が高いため、基板Wの表層部150をエッチングすることができる。そのため、処理膜100中のpH応答性ポリマー114の分解および形成によって、基板Wの表層部150のエッチングの促進および緩和を制御することができる。
さらに、エッチング緩和工程およびエッチング促進工程を1サイクルとするエッチング処理が複数サイクル実行される場合には、処理膜100にpH調整液またはリンス液が供給される度に処理膜100中の液体成分がpH調整液またはリンス液に置換される。そのため、エッチングによって基板Wの上面151に形成されたエッチング残渣104が、pH調整液またはリンス液の流れに乗って除去される。これにより、エッチング残渣104の形成によるエッチング速度の低下を抑制できる。
【0164】
さらに、第3実施形態によれば、上述した効果以外にも、温度応答性ポリマーに関する効果を除いて、第1実施形態と同様の効果を奏する。
<処理液中の成分の詳細>
以下では、上述の実施形態に用いられる処理液中の成分(溶媒、低溶解性成分、高溶解性成分)について説明する。
【0165】
以下では、「Cx~y」、「Cx~Cy」および「Cx」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1~6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル鎖(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。特に限定されて言及されない限り、これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。ポリマーや樹脂を構造式で示す際、括弧に併記されるnやm等は繰り返し数を示す。
【0166】
<低溶解性成分>
(A)低溶解性成分は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸誘導体、ポリマレイン酸誘導体、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含む。好ましくは、(A)低溶解性成分は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリアクリル酸誘導体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸誘導体、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含んでいてもよい。さらに好ましくは、(A)低溶解性成分は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリカーボネート、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含んでいてもよい。ノボラックはフェノールノボラックであってもよい。
【0167】
処理液は(A)低溶解性成分として、上記の好適例を1または2以上組み合わせて含んでも良い。たとえば、(A)低溶解性成分はノボラックとポリヒドロキシスチレンの双方を含んでもよい。
(A)低溶解性成分は乾燥されることで膜化し、前記膜は剥離除去液で大部分が溶解されることなく除去対象物を保持したまま剥がされることが、好適な一態様である。なお、剥離除去液によって(A)低溶解性成分のごく一部が溶解される態様は許容される。
【0168】
好ましくは、(A)低溶解性成分はフッ素および/またはケイ素を含有せず、より好ましくは双方を含有しない。
前記共重合はランダム共重合、ブロック共重合が好ましい。
権利範囲を限定する意図はないが、(A)低溶解性成分の具体例として、下記化学式1~化学式7に示す各化合物が挙げられる。
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
(アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
【0173】
【0174】
(RはC1~4アルキル等の置換基を意味する。アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
【0175】
【0176】
【0177】
【化7】
(Meは、メチル基を意味する。アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
【0178】
(A)低溶解性成分の重量平均分子量(Mw)は好ましくは150~500,000であり、より好ましくは300~300,000であり、さらに好ましくは500~100,000であり、よりさらに好ましくは1,000~50,000である。
【0179】
(A)低溶解性成分は合成することで入手可能である。また、購入することもできる。購入する場合、例として供給先は以下が挙げられる。供給先が(A)ポリマーを合成することも可能である。
ノボラック:昭和化成(株)、旭有機材(株)、群栄化学工業(株)、住友ベークライト(株)
ポリヒドロキシスチレン:日本曹達(株)、丸善石油化学(株)、東邦化学工業(株)
ポリアクリル酸誘導体:(株)日本触媒
ポリカーボネート:シグマアルドリッチ
ポリメタクリル酸誘導体:シグマアルドリッチ
<高溶解性成分>
(B)高溶解性成分は(B’)クラック促進成分である。(B’)クラック促進成分は、炭化水素を含んでおり、さらにヒドロキシ基(-OH)および/またはカルボニル基(-C(=O)-)を含んでいる。(B’)クラック促進成分がポリマーである場合、構成単位の1種が1単位ごとに炭化水素を含んでおり、さらにヒドロキシ基および/またはカルボニル基を有する。カルボニル基とは、カルボン酸(-COOH)、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、エノンが挙げられ、カルボン酸が好ましい。
【0180】
権利範囲を限定する意図はなく、理論に拘束されないが、処理液が乾燥され基板上に処理膜を形成し、剥離除去液が処理膜を剥離する際に(B)高溶解性成分が、処理膜が剥がれるきっかけとなる部分を生むと考えられる。このために、(B)高溶解性成分は剥離除去液に対する溶解性が、(A)低溶解性成分よりも高いものであることが好ましい。(B’)クラック促進成分がカルボニル基としてケトンを含む態様として環形の炭化水素が挙げられる。具体例として、1,2-シクロヘキサンジオンや1,3-シクロヘキサンジオンが挙げられる。
【0181】
より具体的な態様として、(B)高溶解性成分は、下記(B-1)、(B-2)および(B-3)の少なくともいずれか1つで表される。
(B-1)は下記化学式8を構成単位として1~6つ含んでなり(好適には1~4つ)、各構成単位が連結基(リンカーL1)で結合される化合物である。ここで、リンカーL1は、単結合であってもよいし、C1~6アルキレンであってもよい。前記C1~6アルキレンはリンカーとして構成単位を連結し、2価の基に限定されない。好ましくは2~4価である。前記C1~6アルキレンは直鎖、分岐のいずれであっても良い。
【0182】
【0183】
Cy1はC5~30の炭化水素環であり、好ましくはフェニル、シクロヘキサンまたはナフチルであり、より好ましくはフェニルである。好適な態様として、リンカーL1は複数のCy1を連結する。
R1はそれぞれ独立にC1~5アルキルであり、好ましくはメチル、エチル、プロピル、またはブチルである。前記C1~5アルキルは直鎖、分岐のいずれであっても良い。
【0184】
nb1は1、2または3であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。nb1’は0、1、2、3または4であり、好ましくは0、1または2である。
下記化学式9は、化学式8に記載の構成単位を、リンカーL9を用いて表した化学式である。リンカーL9は単結合、メチレン、エチレン、またはプロピレンであることが好ましい。
【0185】
【0186】
権利範囲を限定する意図はないが、(B-1)の好適例として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’-メチレンビス(4-メチルフェノール)、2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール、1,3-シクロヘキサンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,6-ナフタレンジオール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、が挙げられる。これらは、重合や縮合によって得てもよい。
【0187】
一例として下記化学式10に示す2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノールを取り上げ説明する。同化合物は(B-1)において、化学式8の構成単位を3つ有し、構成単位はリンカーL1(メチレン)で結合される。nb1=nb1’=1であり、R1はメチルである。
【0188】
【0189】
(B-2)は下記化学式11で表される。
【0190】
【0191】
R21、R22、R23、およびR24は、それぞれ独立に水素またはC1~5のアルキルであり、好ましくは水素、メチル、エチル、t-ブチル、またはイソプロピルであり、より好ましくは水素、メチル、またはエチルであり、さらに好ましくはメチルまたはエチルである。
リンカーL21およびリンカーL22は、それぞれ独立に、C1~20のアルキレン、C1~20のシクロアルキレン、C2~4のアルケニレン、C2~4のアルキニレン、またはC6~20のアリーレンである。これらの基はC1~5のアルキルまたはヒドロキシで置換されていてもよい。ここで、アルケニレンとは、1以上の二重結合を有する二価の炭化水素を意味し、アルキニレンとは、1以上の三重結合を有する二価の炭化水素基を意味するものとする。リンカーL21およびリンカーL22は、好ましくはC2~4のアルキレン、アセチレン(C2のアルキニレン)またはフェニレンであり、より好ましくはC2~4のアルキレンまたはアセチレンであり、さらに好ましくはアセチレンである。
【0192】
nb2は0、1または2であり、好ましくは0または1、より好ましくは0である。
権利範囲を限定する意図はないが、(B-2)の好適例として、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、が挙げられる。別の一形態として、3-ヘキシン-2,5-ジオール、1,4-ブチンジオール、2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオール、1,4-ブタンジオール、シス-1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、1,4-ベンゼンジメタノールも(B-2)の好適例として挙げられる。
【0193】
(B-3)は下記化学式12で表される構成単位を含んでなり、重量平均分子量 (Mw)が500~10,000のポリマーである。Mwは、好ましくは600~5,000であり、より好ましくは700~3,000である。
【0194】
【0195】
ここで、R25は-H、-CH3、または-COOHであり、好ましくは-H、または-COOHである。1つの(B-3)ポリマーが、それぞれ化学式12で表される2種以上の構成単位を含んでなることも許容される。
権利範囲を限定する意図はないが、(B-3)ポリマーの好適例として、アクリル酸、マレイン酸、またはこれらの組合せの重合体が挙げられる。ポリアクリル酸、マレイン酸アクリル酸コポリマーがさらに好適な例である。
【0196】
共重合の場合、好適にはランダム共重合またはブロック共重合であり、より好適にはランダム共重合である。
一例として、下記化学式13に示す、マレイン酸アクリル酸コポリマーを挙げて説明する。同コポリマーは(B-3)に含まれ、化学式12で表される2種の構成単位を有し、1の構成単位においてR25は-Hであり、別の構成単位においてR25は-COOHである。
【0197】
【0198】
言うまでもないが、処理液は(B)高溶解性成分として、上記の好適例を1または2以上組み合わせて含んでいても良い。例えば、(B)高溶解性成分は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオールの双方を含んでも良い。
(B)高溶解性成分は、分子量80~10,000であってもよい。(B)高溶解性成分は、好ましくは分子量90~5000であり、より好ましくは100~3000である。(B)高溶解性成分が樹脂、重合体またはポリマーの場合、分子量は重量平均分子量(Mw)で表す。
【0199】
(B)高溶解性成分は合成しても購入しても入手することが可能である。供給先としては、シグマアルドリッチ、東京化成工業、日本触媒が挙げられる。
<溶媒>
(C)溶媒は有機溶剤を含むことが好ましい。(C)溶媒は揮発性を有していてもよい。揮発性を有するとは水と比較して揮発性が高いことを意味する。例えば、(C)1気圧における溶媒の沸点は、50~250℃であることが好ましい。1気圧における溶媒の沸点は、50~200℃であることがより好ましく、60~170℃であることがさらに好ましい。1気圧における溶媒の沸点は、70~150℃であることがよりさらに好ましい。機能発現成分が温度応答性ポリマーである場合、溶媒は、純水を含有していることが好ましい。純水とは、好適にはDIWである。機能発現成分がpH応答性ポリマーである場合、溶媒は、pH調整液と相溶性を有していれば、純水を含有していなくてもよい。
【0200】
有機溶剤としては、イソプロパノール(IPA)等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGEE)等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)等の乳酸エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、γ-ブチロラクトン等のラクトン類等を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0201】
<その他の実施形態>
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、さらに他の形態で実施することができる。
スピンチャック5は、複数のチャックピン20を基板Wの周端面に接触させる挟持式のチャックに限らず、基板Wの下面をスピンベース21の上面に吸着させることにより基板Wを水平に保持するバキューム式のチャックであってもよい。
【0202】
また、上述の実施形態では、処理膜100の加熱は、基板Wを介して処理膜100を加熱するヒータユニット6によって行われる。処理膜100の加熱は、処理膜100を上方から直接加熱するヒータによって行われてもよい。
さらに、温水等の加熱流体を基板Wの下面に供給することによって、処理膜100の加熱が強められてもよい。加熱流体の供給を停止することによって、処理膜100の加熱が弱められてもよい。処理膜100の加熱は、冷却水等の冷却流体によって弱められてもよい。
【0203】
また、上述の実施形態とは異なり、エッチング機能発現処理が、加熱強化処理およびpH調整処理を含んでいてもよい。すなわち、処理膜を加熱しながら処理膜中の液体成分のpHを酸性または塩基性にすることによって、基板Wの表層部のエッチングが促進されてもよい。この場合、加熱弱化処理および中性化処理の少なくともいずれかが処理膜に対して行われることによって、基板Wの表層部のエッチングが緩和される。
【0204】
また、上述の第2実施形態と第3実施形態とを組み合わせることも可能である。具体的には、第3実施形態において、溶質として低溶解性成分およびpH応答性ポリマーを含有する処理液を用い、剥離除去液の代わりに溶解除去液を用いることが可能である。
この明細書において、「~」または「-」を用いて数値範囲を示した場合、特に限定されて言及されない限り、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。
【0205】
その他、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0206】
1 :基板処理装置
1P :基板処理装置
1Q :基板処理装置
3 :コントローラ
6 :ヒータユニット(処理膜加熱ユニット)
9 :第1移動ノズル(処理液供給ユニット)
11 :第3移動ノズル(pH調整液供給ユニット、中性化液供給ユニット)
23 :スピンモータ(処理膜形成ユニット)
65 :ヒータ昇降ユニット(加熱調整ユニット)
110 :温度応答性ポリマー
111 :低溶解性成分
112 :高溶解性成分
113 :プロトン
114 :pH応答性ポリマー
115 :有機酸
150 :表層部
151 :上面(基板の表面)
152 :トレンチ
153 :底壁
154 :側壁
154a :開口側部
154b :底壁側部
155 :開口
W :基板