(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】耐凍害性コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241101BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20241101BHJP
C04B 24/24 20060101ALI20241101BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20241101BHJP
C04B 111/76 20060101ALN20241101BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B38/00 301Z
C04B24/24 Z
C04B38/00 302Z
C04B40/02
C04B111:76
(21)【出願番号】P 2020154658
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000112196
【氏名又は名称】ピーエス・コンストラクション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】久▲徳▼ 貢大
(72)【発明者】
【氏名】小島 利広
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-171833(JP,A)
【文献】特開昭63-089446(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104558370(CN,A)
【文献】特開2002-274975(JP,A)
【文献】特開平03-146478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
C04B 38/00-38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水セメント比が40%以下であり,膨潤後の平均粒子径が100μm以下となる粉末状の高吸水性樹脂の粒子を、吸水膨潤した状態での容積がフレッシュコンクリートに対して1-3%の容積比となるように添加すると共に吸水膨潤に要する水量を配合設計上の水量に加えて練混ぜ
給熱養生を含む養生を施して製造することを特徴とする
耐凍害性コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積雪寒冷地等で用いられる耐凍害性コンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積雪寒冷地では、コンクリート構造物の凍害の問題がある。コンクリート構造物の凍害は、コンクリート表面にスケーリング、微細ひび割れ、ポップアウトなどとして顕在化する。コンクリート中の水分が凍結する際の体積膨張と融解の際の水分供給という凍結融解作用を繰り返すことによって、劣化が進行する。凍害による劣化を防ぐには、水の凍結で発生する膨張圧を緩和する空隙が必要とされている。そのため、エントレインドエア(独立した微細な空気泡)を連行したAEコンクリートが用いられている。
【0003】
コンクリートの凍結融解による劣化メカニズムから、凍結融解抵抗性は気泡間隔と密接な関係にある。気泡間隔が小さくなるほど凍結融解抵抗性は向上し、200μm以下が有効な間隔とされている。ただし、気泡間隔係数を求めるには硬化したコンクリートで測定する必要があるため、フレッシュ時の空気量を測定して凍結融解抵抗性を管理しているのが実情である。
【0004】
AE剤使用による空気連行では、気泡同士の癒着、輸送や締固め作業での空気量減少などの様々な不安定要因も存在することも知られている。そのため、凍害の被害の多い地域では、フレッシュ時の空気量を増加して凍結融解抵抗性確保を目指す動きがある。一方で空気量の増加は圧縮強度の低下を招くため、品質保証の上で配合強度を高めに設定する必要が生じ、材料のコストアップにつながる。
【0005】
凍結融解抵抗性を付与するために、エントレインドエアの代わりに中空の微小球を混和する方法が知られている(特許文献1参照)。中空微小球混和では、気泡の癒着する際のように粒子数や粒子径が変化することはない。さらに、空気が抜けて空気量が減少することもなく、中空微小球の混和量で気泡間隔を制御できる利点がある。しかしながら、密度が極端に低いために、コンクリート製造時に計量や添加方法に工夫が必要で、中空微小球を封入した水溶紙製の袋体を、コンクリート練混ぜの際の所定のタイミングで投入する方法(特許文献2参照)などが考案されている。当然ながら、中空微小球の密度の低さは、その輸送コストにも影響を及ぼす。そのため特許文献3では、コンクリート製造時に膨張させて中空微小球となる、膨張性のポリマー微小球を用いる方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平08-188458号公報
【文献】特開2017-159532号公報
【文献】特許第6328101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリートの凍結融解抵抗性を確保する方法としてAEコンクリートが多用されている。しかしながら、空気連行では、気泡同士の癒着、輸送や締固め作業での空気量減少などの様々な不安定要因が存在することも知られている。そのため、空気泡に代わる空隙をコンクリート中に導入するために、予め空隙構造を有する中空微小球や膨張性ポリマー微小球を混和する方法が提案されている。
【0008】
高吸水性樹脂は、自身の数十倍から数百倍の水を吸収して膨潤する材料であり、様々な用途に利用されている。吸水膨潤後に乾燥作用を受けると脱水されて体積が減少するため、コンクリート製造時に膨潤した高吸水性樹脂の粒子を混和すると、セメントの水和反応などにより脱水されて空隙が形成される。そのため、上記の中空微小球や膨張性ポリマー微小球を利用した場合と同様にコンクリート中に空隙を形成することが可能である。高吸水性樹脂の吸水による膨潤能が高いために、同量の空隙を形成するために添加される量は中空微小球よりも少なくなる。しかしながら、膨潤した高吸水性樹脂の粒子が脱水されて空隙となる条件は明らかとなっていない。さらに、所要の凍結融解抵抗性が得られる添加量も不明であった。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題を解決するためのものであり、凍結融解抵抗性を向上させた耐凍害性コンクリートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る一形態の耐凍害性コンクリートは、
膨潤後の平均粒子径が100μm以下の高吸水性樹脂の粒子を含み、
水セメント比が40%以下であり、
前記高吸水性樹脂の粒子に含まれる水の一部が少なくともセメント水和反応により消費されることによって形成される微小空隙部を含む耐凍害性コンクリートからなるものである。
【0011】
前記耐凍害性コンクリートにおける前記高吸水性樹脂の粒子の膨潤した粒子のコンクリートに対する容積比は1-3%の範囲である。この範囲において、樹脂の粒子が凍結融解抵抗性を有意に向上させることができる。特に、水セメント比30%で容積比1%の場合、水セメント比35%で容積比3%の場合には、高い耐久性指数が得られ、凍結融解抵抗性を大きく向上させることができる。
高吸水性樹脂粒子の膨潤後の平均粒子径は、50μm以下であってもよい。
耐凍害性コンクリートは、AE剤を含まないものであってよい。
【0012】
高吸水性樹脂の粒子は吸水膨潤した状態でコンクリート材料と練り混ぜられ、養生時、高吸水性樹脂の粒子の水がセメントの水和反応などによって消費されてコンクリート中の空隙に置換される。これらの空隙は、コンクリートの凍結融解サイクルによって引き起こされる液圧の変化を緩和することによって、凍結融解による損傷からコンクリートを保護するように作用する。
ところが、上記のようにコンクリート中に実際に所要の空隙が得られるかどうかは、高吸水性樹脂の膨潤した粒子中の水がセメントの水和反応などによって実際に消費されるかどうかに依存する。本発明者らは、鋭意研究の結果、コンクリート配合計画上の水セメント比が40%以下ならば、コンクリート中に凍結融解抵抗性を向上できる程度に空隙が得られることを見出し、さらに、凍結融解抵抗性を有意に向上させることのできるコンクリート配合上の高吸水性樹脂の粒子の容積比を得た。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凍結融解抵抗性を向上させた耐凍害性コンクリート構造物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る実施形態の耐凍害性コンクリートのコンクリート配合を示す図である。
【
図2】強度試験用の試験体を製作する際の給熱養生の温度の実測値を示すグラフである。
【
図4】凍結融解試験結果である相対動弾性係数の変化をまとめたグラフである。
【
図5】
図4をもとに算出された耐久性指数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明に係る実施形態を説明する。
【0016】
(本実施形態の耐凍害性コンクリートの概要)
本実施形態の耐凍害性コンクリートは、他の材料と共にコンクリートの練混ぜ時に投入され吸水膨潤した高吸水性樹脂の粒子(以下、「SAP」と呼ぶ。)が、セメントの水和反応などにより脱水されて空隙となり、その形成された微小空隙が、コンクリートの凍結融解サイクルによって引き起こされる液圧の変化を緩和することで、凍結融解抵抗性を向上させる。
用いられるSAPは、フレッシュコンクリートのように高アルカリおよび高電解質濃度の環境下でも安定した吸水能を有する材料であり、本実施形態において使用し得るSAPの吸水膨潤状態での平均粒子径は100μm以下であり、より詳細には50μmから100μmの範囲である。
【0017】
コンクリートにおけるSAP投入率(膨潤状態のSAPがコンクリートに占める容積比)が高いほど硬化コンクリート中の空隙率が高くなるので凍結融解抵抗性が向上するが、その反面、圧縮強度が低下する。また、水セメント比が過大である場合は、空隙とならずに膨潤したままのSAPが残留し、十分な凍結融解抵抗性が発揮されない場合が生じ得る。そこで、SAP投入率、水セメント比を変えたいくつかのコンクリート試験体を製作し、それぞれの試験体の圧縮強度試験、凍結融解試験を行って適切な条件を検討した。
【0018】
(使用材料)
まず、試験体の使用材料には以下を使用した。
・セメント:早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント社製)、密度:3.14g/cm3
・水:上水道水
・細骨材:砕砂(鹿沼市産)、表乾密度:2.61g/cm3、吸水率:1.07%、粗粒率:3.01
・粗骨材:砕石(鹿沼市産)、表乾密度:2.64g/cm3、吸水率:0.72%、粗粒率:6.62、最大寸法:20mm
・高性能減水剤:マスターグレニウム8000S Mタイプ(ポゾリスソリューションズ社製)
・空気量調整剤(消泡剤):マスターエア404(ポゾリスソリューションズ社製)
・SAP:AQUALIC CS-6S(日本触媒社製)、吸水能:約40倍、吸水膨潤前の平均粒子径:約15μm、吸水膨潤前の最大粒子径:約38μm、膨潤後の平均粒子径:約50μm、膨潤後の最大粒子径:約130μm
【0019】
(コンクリート配合)
各試験体のコンクリート配合は
図1に示す通りである。
SAP投入率、水セメント比が異なる8種類の試験体A0、A1、B0、B1、B2、B3、C0、C1を準備した。試験体A0、A1は水セメント比30%の群、試験体B0、B1、B2、B3は水セメント比35%の群、試験体C0、C1は水セメント比40%の群である。なお、図中の「吸水」はSAPが吸水膨潤するに要する水量であり、水セメント比における水量はSAPの吸水量を含まない。SAP投入率については、0%(投入無し)、1%、2%、3%を採用し、試験体A0、B0、C0のSAP投入率は0%(投入無し)、A1、B1、C1の試験体のSAP投入率は1%、B2の試験体のSAP投入率は2%、B3の試験体のSAP投入率は3%とした。なお、SAP投入率とは、膨潤したSAPのコンクリートに対する容積比である。コンクリート中の単位モルタル容積を統一するため、すべての配合で単位粗骨材量を一定とした。各水セメント比の配合で単位細骨材量を一定とし、単位ペースト容積を統一した。なお、膨潤したSAPの量と空気量は共にペースト容積に組み入れた。
【0020】
(コンクリートの練混ぜ方法)
粉末状のSAPを投入したセメントと細骨材とをミキサに投入し、30秒間空練りする。次に、配合設計上の水量とSAPを吸水膨潤する水量との合計分の水を加えて90秒間練混ぜ、続いて粗骨材を加えて60秒間練混ぜた。フレッシュ試験時のスランプ、空気量は目標範囲となるように、高性能減水剤および空気量調整剤(消泡剤)の添加量によって調整した。なお、それらの混和剤は、練混ぜ水に添加して用いた。
【0021】
(圧縮強度試験体の製造方法)
圧縮強度試験のための試験体を得るために、φ10×20cmの円柱型枠にコンクリートを打ち込んだ後、プレキャスト工場における蒸気養生を再現するため、可変恒温恒湿槽を用いて給熱養生を実施した。
図2に給熱養生の温度履歴を示す。給熱養生の終了後、試験材齢に達するまで20℃、60%RHの室内で封緘養生を施し、試験材齢に達したところで脱枠し、圧縮強度試験を行った。
【0022】
(圧縮強度試験結果)
図3に材齢7日と材齢28日の圧縮強度試験の結果を示す。
すべての種類の試験体においてSAP投入率が高いほど圧縮強度の低下が確認された。この挙動はコンクリート中の空気量が多くなったときと同様の挙動であり、空気による場合と同じくSAP1%につき強度が約4-6%低下した。
【0023】
(凍結融解試験体の製造方法)
凍結融解試験は JIS A1148 A 法に準拠して行った。10×10×40cmの角柱型枠にコンクリートを打ち込み後、
図2に示す給熱養生を実施した後、角柱形の試験体を脱枠し、材齢6日まで20℃、60%RHの室内で封緘養生を行った。続いて24時間水中養生を行った後、材齢7日から凍結融解試験を行った。
【0024】
(凍結融解試験結果)
図4は試験体3本の平均値の相対動弾性係数の変化を示すグラフであり、
図5は
図4をもとに算出した耐久性指数を示すグラフである。
図5のグラフから、SAPの添加によって凍結融解抵抗性が有意に向上し、SAP投入率が高いほど凍結融解抵抗性が向上することが確認できた。また、水セメント比が小さいほど、SAPの添加による凍結融解抵抗性向上の効果が顕著となり、効果の確認された水セメント比は40%以下であった。特に、水セメント比30%でSAP投入率1.0%の試験体A1と、水セメント比35%でSAP投入率3.0%の試験体B3では、耐久性指数が80%以上となり、高い凍結融解抵抗性を確認した。
【0025】
なお、本実施形態では、膨潤後の平均粒子径が約50μmのSAPを用いて試験を行ったが、試験体の材料として使用したSAPの膨潤後の最大粒子径が約130μmであったことから、膨潤後の平均粒子径が約100μm以下であれば、同様の効果を期待することが可能であると推定される。
以上に本実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲において種々の形態をとり得る。