(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】密封構造及び密封構造の組立方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
F16J15/10 T
F16J15/10 D
(21)【出願番号】P 2020155579
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 健一
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特許第3830896(JP,B2)
【文献】特開2002-364494(JP,A)
【文献】実開平01-132860(JP,U)
【文献】特開2013-174287(JP,A)
【文献】特表2004-506135(JP,A)
【文献】特開平11-325253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付孔を有する被取付部材と、
前記取付孔に取り付けられる取付部品と、
前記取付孔と前記取付部品との間の環状隙間に配され、かつ前記取付孔と前記取付部品にのみ接触するように配されて、密封対象流体の圧力により高圧になる加圧側とその反対側の反加圧側との間を封止する円筒状の樹脂製ガスケットと、
を備える密封構造であって、
前記取付部品には、前記樹脂製ガスケットが装着される環状の装着溝が設けられており、
前記装着溝における前記加圧側の側壁面は前記樹脂製ガスケットの中心軸線に対して垂直な面で構成されており、かつ前記装着溝の底には
環状突起が設けられており、前記環状突起の前記加圧側に前記加圧側から前記反加圧側に向けて拡径するテーパ面が設けられ
、前記環状突起の前記反加圧側に前記加圧側から前記反加圧側に向けて縮径するテーパ面が設けられると共に、前記装着溝における前記反加圧側の側壁面と前記樹脂製ガスケットとの間には隙間が設けられ、かつ前記加圧側から圧力が作用した状態でも前記隙間が維持されるように構成されていることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
前記環状突起は前記装着溝の底の中央に設けられており、前記樹脂製ガスケットは前記加圧側に偏った位置に装着されることを特徴とする請求項
1に記載の密封構造。
【請求項3】
前記樹脂製ガスケットと前記装着溝における前記反加圧側の側壁面との間の隙間は、前記樹脂製ガスケットと前記装着溝における前記加圧側の側壁面との距離よりも大きいことを特徴とする請求項1
または2に記載の密封構造。
【請求項4】
請求項1,
2または3に記載の密封構造の組立方法であって、
前記取付部品に対して前記加圧側から前記樹脂製ガスケットを嵌めた後に、前記樹脂製ガスケットにおける前記加圧側の端面が、前記装着溝における前記加圧側の側壁面を通過する位置まで、前記樹脂製ガスケットを前記装着溝に向けてスライドさせることにより前記樹脂製ガスケットを前記装着溝に装着させる工程と、
前記樹脂製ガスケットが装着された前記取付部品を、前記被取付部材の前記取付孔に取
り付ける工程と、
を有することを特徴とする密封構造の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ガスケットを備える密封構造及び密封構造の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダーヘッドに対してインジェクタが取り付けられる部位においては、シリンダーヘッドに形成された取付孔とインジェクタとの間の環状隙間から高圧の燃焼ガスが漏れてしまうことを防止するために樹脂製ガスケットが設けられている。例えば、耐熱性及び耐圧性に優れたPTFE製のガスケットが好適に用いられている。しかしながら、このようなガスケットの場合には、長期使用によりクリープ現象が進み、経時的に熱収縮が進行して、徐々に密封性が低下してしまう。そこで、本願の出願人は、経時的にガスケットの熱収縮が進行してしまった状態においても、燃焼ガスによる圧力が作用した際に、セルフシール機能を発揮させることで、密封性を維持する技術を既に提示している(特許文献1)。この特許文献1の
図5に開示された技術によれば、ガスケットが装着される環状の装着溝の両側面及び底面にテーパ面が設けられることで、燃焼ガスの圧力がガスケットに作用した際に、複数のテーパ面からの抗力が得られ、セルフシール機能が発揮される。従って、ガスケットの熱収縮が進行してしまっても、長期に亘り安定的な密封性を得ることができる。
【0003】
しかしながら、上記の技術の場合には、ガスケットの内周面の中央及び両側に、それぞれ装着溝の中央に設けられた環状突起、及び環状溝の両側面(テーパ面)が突き当たった状態になる。そのため、一旦、ガスケットを装着溝に装着させた状態では、ガスケットを装着溝内で移動させるのが困難となり、所望の位置に配置させるのが難しく、ガスケットの装着作業性に難がある。このように、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-226517号公報
【文献】特表2004-506135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、長期に亘って安定した密封性を発揮しつつ、樹脂製ガスケットの装着作業性に優れた密封構造及び密封構造の組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明の密封構造は、
取付孔を有する被取付部材と、
前記取付孔に取り付けられる取付部品と、
前記取付孔と前記取付部品との間の環状隙間に配され、かつ前記取付孔と前記取付部品にのみ接触するように配されて、密封対象流体の圧力により高圧になる加圧側とその反対側の反加圧側との間を封止する円筒状の樹脂製ガスケットと、
を備える密封構造であって、
前記取付部品には、前記樹脂製ガスケットが装着される環状の装着溝が設けられており、
前記装着溝における前記加圧側の側壁面は前記樹脂製ガスケットの中心軸線に対して垂直な面で構成されており、かつ前記装着溝の底には環状突起が設けられており、前記環状突起の前記加圧側に前記加圧側から前記反加圧側に向けて拡径するテーパ面が設けられ、前記環状突起の前記反加圧側に前記加圧側から前記反加圧側に向けて縮径するテーパ面が設けられると共に、前記装着溝における前記反加圧側の側壁面と前記樹脂製ガスケットとの間には隙間が設けられ、かつ前記加圧側から圧力が作用した状態でも前記隙間が維持されるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、加圧側からの圧力が樹脂製ガスケットに作用すると、テーパ面からの抗力を受けて、樹脂製ガスケットは外周面側に向かって押し付けられて、セルフシール機能が発揮される。また、装着溝における反加圧側の側壁面と樹脂製ガスケットとの間には隙間が設けられている。そのため、加圧側からの圧力により樹脂製ガスケットに対して働く抗力の分散を防ぐことができ、樹脂製ガスケットがテーパ面から受ける抗力を高めることができ、セルフシール機能を十分に発揮させることができる。更に、装着溝における加圧側の側壁面は樹脂製ガスケットの中心軸線に対して垂直な面で構成され、かつ装着溝における反加圧側の側壁面と樹脂製ガスケットとの間には隙間が設けられる構成が採用されている。これにより、樹脂製ガスケットの装着溝への装着作業性を高めることができる。
【0009】
そして、前記環状突起は前記装着溝の底の中央に設けられており、前記樹脂製ガスケットは前記加圧側に偏った位置に装着されるとよい。また、前記樹脂製ガスケットと前記装着溝における前記反加圧側の側壁面との間の隙間は、前記樹脂製ガスケットと前記装着溝における前記加圧側の側壁面との距離よりも大きいとよい。
【0010】
そして、本発明の密封構造の組立方法は、
前記取付部品に対して前記加圧側から前記樹脂製ガスケットを嵌めた後に、前記樹脂製ガスケットにおける前記加圧側の端面が、前記装着溝における前記加圧側の側壁面を通過する位置まで、前記樹脂製ガスケットを前記装着溝に向けてスライドさせることにより前記樹脂製ガスケットを前記装着溝に装着させる工程と、
前記樹脂製ガスケットが装着された前記取付部品を、前記被取付部材の前記取付孔に取り付ける工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
このように、取付部品に対して樹脂製ガスケットを嵌めた後に、樹脂製ガスケットを装着溝に向けてスライドさせることで、樹脂製ガスケットを装着溝に装着させることができる。そして、樹脂製ガスケットをスライドさせる過程で、樹脂製ガスケットの先端は装着溝に設けられた環状突起のテーパ面に突き当たる。このテーパ面は加圧側から反加圧側に向けて拡径するように構成されているので、加圧側から反加圧側に向けてスライドさせる際に、樹脂製ガスケットをスムーズにスライドさせることができる。その後、樹脂製ガスケットにおける加圧側の端面が、装着溝における加圧側の側壁面を通過すると、樹脂製ガスケットは当該側壁面の抵抗力を受けることなく、装着溝内に装着される。このように、樹脂製ガスケットを、装着溝内の所定の位置に、簡単に位置決めさせることができる。
【0012】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、長期に亘って安定した密封性を発揮させつつ、ガスケットの装着作業性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本発明の実施例に係る樹脂製ガスケットの概略構成図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例に係る被取付部材と取付部品の概略構成図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
【
図4】
図4は比較例に係る密封構造の模式的断面図である。
【
図5】
図5は取付部品への樹脂製ガスケットの装着方法の説明図である。
【
図6】
図6は本発明の実施例に係る密封構造の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
以下の説明においては、被取付部材がエンジンのシリンダーヘッドで、取付部品がシリンダーヘッドに形成された取付孔に取り付けられるインジェクタの場合を例にして説明する。ただし、本発明は、シリンダーヘッドに限らず、特に、高圧の密封対象流体に曝される部材(被取付部材)に形成された取付孔と、この取付孔に取り付けられる各種取付部品との間の環状隙間を封止する密封構造に好適に適用することができる。
【0017】
(実施例)
図1~
図6を参照して、本発明の実施例に係る密封構造及び密封構造の組立方法について説明する。
図1は本発明の実施例に係る樹脂製ガスケットの概略構成図であり、樹脂製ガスケットの一部(図中、上半分)を切断した一部破断断面図を示している。
図2は本発明の実施例に係る被取付部材と取付部品の概略構成図であり、密封構造において、樹脂製ガスケットを省略した状態の概略構成を模式的断面図にて示している。
図3は本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
図4は比較例に係る密封構造の模式的断面図である。
図5は取付部品への樹脂製ガスケットの装着方法の説明図であり、取付部品に対して樹脂製ガスケットを装着する際の様子を模式的断面図にて示している。
図6は本発明の実施例に係る密封構造の実験結果を示すグラフである。
【0018】
<樹脂製ガスケット>
特に、
図1を参照して、本実施例に係る樹脂製ガスケット(以下、ガスケット100と称する)について説明する。本実施例に係るガスケット100は、円筒状の部材により構成される。ガスケット100の中心軸線を含む面でガスケット100を切断した断面の形状は矩形である。また、ガスケット100の材料としては、耐熱性かつ耐圧性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を好適に適用することができる。PTFEにより、ガスケット100を製造する場合には、充填材の配合量を20vol%以上とすることにより、低温収縮を抑制することができる。なお、添加する充填材の粒径を20μm以下にすることで、シール面の隙間から密封対象流体(本実施例においては、エンジン気筒内の燃焼時に発生する燃焼ガスに相当する)の漏れを抑制することができる。
【0019】
<被取付部材及び取付部品>
特に、
図2を参照して、本実施例に係る被取付部材200と取付部品300について説明する。被取付部材200(本実施例の場合にはシリンダーヘッド)には、円柱面状の取付孔210が設けられている。そして、この取付孔210に取り付けられる取付部品300(本実施例の場合にはインジェクタ)には、ガスケット100が装着される環状の装着溝310が設けられている。
図2(
図3~
図5も同様)においては、右側が装置(本実施例の場合にはエンジン)の使用時に密封対象流体(燃焼ガス)により高圧になる側(以下、加圧側(H)と称する)であり、左側がその反対側(以下、反加圧側(L)と称する)である。なお、ガスケット100は、取付孔210と取付部品300との間の環状隙間に配されることで、加圧側(H)とその反対側の反加圧側(L)との間を封止する役割を担っている。
【0020】
取付部品300に設けられた装着溝310の底には、環状突起311が設けられている。この環状突起311は、加圧側(H)から反加圧側(L)に向けて拡径するテーパ面(断面で見たときに直線となる円錐面)311aと、加圧側(H)から反加圧側(L)に向けて縮径するテーパ面311bにより構成されている。なお、本実施例においては、テーパ面311aのテーパ角度と、テーパ面311bのテーパ角度は等しく、これらの軸線方向の長さも同一となるように構成されている。また、テーパ面311aとテーパ面311bとの境界部分に、いわゆるR面などの面取りを設けることもできる。
【0021】
また、装着溝310における加圧側(H)の側壁面312はガスケット100の中心軸線に対して垂直な面で構成されている。同様に、装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313もガスケット100の中心軸線に対して垂直な面で構成されている。ただし、この反加圧側(L)の側壁面313については、テーパ面などの傾斜面により構成してもよい。
【0022】
<各部材の寸法関係>
密封構造を構成する各部材の寸法関係について説明する。ガスケット100の中心軸線方向の幅をW10、ガスケット100の内径をD11、ガスケット100の外径をD12とする(
図1参照)。また、被取付部材200の取付孔210の内径をD20とする(
図2参照)。更に、装着溝310における中心軸線方向の幅をW31、装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313から環状突起311の先端(テーパ面311aとテーパ面311bとの境界部分)までの距離をW32とする。そして、取付部品300における装着溝310の外側近傍の外径をD31、装着溝310の底のうち径の最も小さな部分の外径をD32、環状突起311の先端の外径をD33とする(
図2参照)。
【0023】
すると、
D32<D11<D33<D31<D20<D12
W32<W10<W31
を満たす。なお、本実施例では、2×W32=W31を満たす。
【0024】
<密封構造>
特に、
図3を参照して、本実施例に係る密封構造について説明する。ガスケット100は装着溝310に装着された状態で、取付孔210と取付部品300との間の環状隙間を封止する。上記のような寸法関係を満たすことにより、ガスケット100は、装着溝310に設けられた環状突起311により径方向外側に押圧され、かつ取付孔210の内周面により径方向内側に押圧されることで、径方向に圧縮された状態となる。また、装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313とガスケット100との間には隙間Sが設けられる。本実施例においては、環状突起311は装着溝310の底の中央に設けられており、ガスケット100は加圧側(H)に偏った位置に装着される。すなわち、ガスケット100における中心軸線方向の幅の中心位置が、装着溝310の中心軸線方向の幅の中心位置よりも加圧側(H)に位置するように、ガスケット100は装着溝310に装着される。
【0025】
<密封構造の組立方法>
特に、
図5を参照して、本実施例に係る密封構造の組立方法について説明する。本実施例に係る組立方法は、ガスケット100を取付部品300の装着溝310に装着させる工程と、ガスケット100が装着された取付部品300を、被取付部材200の取付孔210に取り付ける工程とからなる。以下、前者の工程について、より詳細に説明する。
【0026】
まず、取付部品300とガスケット100とを同軸上に位置決めさせた状態(
図5(a)参照)から、取付部品300に対して加圧側(H)からガスケット100が嵌められる
(同図(b)参照)。その後、ガスケット100は装着溝310に向けてスライドされる。この過程で、ガスケット100の先端は、環状突起311におけるテーパ面311aに対して摺動する(同図(c)参照)。そして、ガスケット100における加圧側(H)の端面が、装着溝310における加圧側(H)の側壁面312を通過すると、ガスケット100は自己の弾性復元力により縮径して、装着溝310に装着された状態となる(同図(d)参照)。なお、ガスケット100が装着された際に、ガスケット100における加圧側(H)の側面と、装着溝310における側壁面312との間は、密接していてもよいし、隙間が設けられていてもよい。
【0027】
<本実施例に係る密封構造及び密封構造の組立方法の優れた点>
本実施例によれば、加圧側(H)からの圧力がガスケット100に作用すると、テーパ面311aからの抗力を受けて、ガスケット100は外周面側に向かって押し付けられて、セルフシール機能が発揮される。つまり、ガスケット100は、テーパ面311aと、取付孔210の内周面のうちテーパ面311aと対向する付近との間で圧縮され、セルフシール機能が発揮される。また、ガスケット100が反加圧側(L)に移動してしまうことも抑制される。そして、本実施例においては、装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313とガスケット100との間には隙間Sが設けられている。そのため、加圧側(H)からの圧力によりガスケット100に対して働く抗力の分散を防ぐことができ、ガスケット100がテーパ面311aから受ける抗力を高めることができ、セルフシール機能を十分に発揮させることができる。この点について、
図4に示す比較例を参照して、より詳細に説明する。
【0028】
図4においては、装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313とガスケット100との間に隙間が設けられず、ガスケット100が側壁面313に接するように配される場合の密封構造を示している。このような構成の場合には、加圧側(H)からの圧力によりガスケット100に対して働く抗力の大部分は側壁面313により発生し、テーパ面311aにより発生する抗力は小さくなってしまう。従って、テーパ面311aと、取付孔210の内周面のうちテーパ面311aと対向する付近との間で圧縮されることにより得られるセルフシール機能は、本実施例の場合に比べて、低下してしまう。
【0029】
以上のように、本実施例に係る密封構造によれば、長期使用によりガスケット100のクリープ現象が進み、経時的に熱収縮が進行しても、セルフシール機能が十分発揮されることによって、長期に亘って安定した密封性を発揮させることができる。
【0030】
また、本実施例においては、装着溝310における加圧側(H)の側壁面312はガスケット100の中心軸線に対して垂直な面で構成され、かつ装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313とガスケット100との間には隙間Sが設けられる構成が採用されている。これにより、ガスケット100の装着溝310への装着作業性を高めることができる。この点については、上記の密封構造の組立方法で説明した通りである。
【0031】
図6を参照して、本実施例に係る密封構造についての実験結果を説明する。具体的には、本実施例に係る密封構造において、加圧側(H)から高温高圧ガス(N
2ガス)を一定温度(200℃以上)の環境下かつ一定圧力(10MPa以上)で印加した際の面圧の変化と、ガスケット100と側壁面313の隙間の変化について測定結果について説明する。
【0032】
図6(a)は経過時間と面圧(ガスケット100の被取付部材200の取付孔210に対する面圧)との関係を示すグラフである。なお、面圧は実測値ではなく、FEM解析により得られた値である。このグラフから、時間が経過しても面圧がほぼ一定に保たれることが分かる。
【0033】
図6(b)は経過時間と隙間(ガスケット100と側壁面313の隙間)との関係を示すグラフである。隙間の測定は、ビデオマイクロにより行った。このグラフから、隙間は低下するものの、一定程度低下した後には、ほぼ一定の隙間が保たれることが分かる。これにより、面圧が維持されるものと考えられる。なお、各部材における各部の寸法については、密封構造の使用条件下において、加圧側(H)から圧力が印加された状態において、ガスケット100と側壁面313の隙間が維持されるように設定される。
【0034】
(その他)
上記実施例においては、装着溝310の底に環状突起311を設けて、この環状突起311に、加圧側(H)から反加圧側(L)に向けて拡径するテーパ面311aを設ける場合の構成を示した。しかしながら、本発明において、装着溝の底に、加圧側から反加圧側に向けて拡径するテーパ面を設ける構成は、上記の実施例に示す構成に限定されることはない。例えば、
図2,3に示す構成において、テーパ面311bを円柱面とし、装着溝310のうち反加圧側(L)が浅い溝(溝底の深さが一定の溝)となり、加圧側(H)がテーパ面311aを有する深い溝となるような構成を採用することもできる。
【0035】
また、上記実施例においては、テーパ面311aと側壁面312が湾曲面(いわゆるR面)を介して繋がっている構成を示した。しかしながら、テーパ面311aは側壁面312から離れた位置に設ける構成も採用し得る。すなわち、例えば、テーパ面311aと側壁面312との間に円柱面状の溝底面を介在させることもできる。
【符号の説明】
【0036】
100 ガスケット
200 被取付部材
210 取付孔
300 取付部品
310 装着溝
311 環状突起
311a,311b テーパ面
312,313 側壁面
S 隙間