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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】貫通穴用充填材保持具
(51)【国際特許分類】
   F16L 5/04 20060101AFI20241101BHJP
   A62C 3/16 20060101ALN20241101BHJP
   E04B 1/66 20060101ALN20241101BHJP
【FI】
F16L5/04
A62C3/16 B
E04B1/66 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020186068
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2021081065
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2019206848
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】古賀 誠一
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00940615(EP,A1)
【文献】特開2019-181243(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0128998(US,A1)
【文献】特開2014-005911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 5/04
A62C 3/16
E04B 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通穴に挿入して用いられ、
ねじり変形が可能な程度に柔軟であるシートが筒状に成形された筒部と、
前記筒部の、軸方向における少なくとも一方に周方向に沿って設けられ、前記貫通穴の内周面に合わせて縮径可能であって、縮径状態で元の状態への復元力を有する枠部と、を備え、
前記枠部が前記貫通穴の内周面に接した状態で、ねじられた前記筒部のうち、ねじられている部分よりも挿入元側の部分が、前記貫通穴に前記筒部とは別に配置された流動性を有する充填材に接するものであり、
前記枠部は、周方向において分断された分断部を有し、径方向断面でC字形状とされている、貫通穴用充填材保持具。
【請求項2】
前記枠部は、前記貫通穴への挿入状態で、前記貫通穴の前記挿入元側の端部から所定間隔をあけた内部に設けられる、請求項1に記載の貫通穴用充填材保持具。
【請求項3】
前記枠部が軸方向における一方と他方の両方に設けられており、
前記枠部は、前記貫通穴への挿入状態で、前記両方の前記枠部が有する前記復元力が、ともに前記貫通穴の内周面に対して働く、請求項1または2に記載の貫通穴用充填材保持具。
【請求項4】
前記枠部は、前記筒部がねじられる際に、前記貫通穴の内周面に対して滑りにくくする摩擦部を外周に有する、請求項1~3のいずれかに記載の貫通穴用充填材保持具。
【請求項5】
貫通穴に挿入して用いられ、
ねじり変形が可能な程度に柔軟であるシートが筒状に成形された筒部と、
前記筒部の、軸方向における少なくとも一方に周方向に沿って設けられ、前記貫通穴の内周面に合わせて縮径可能であって、縮径状態で元の状態への復元力を有する枠部と、を備え、
前記枠部が前記貫通穴の内周面に接した状態で、ねじられた前記筒部が前記貫通穴に配置された流動性を有する充填材に接するものであり、
前記枠部は、周方向において分断された分断部を有し、径方向断面でC字形状とされており、
前記枠部が軸方向における一方と他方とに設けられており、
前記枠部のうちいずれかに連結され、前記貫通穴の周囲における外面に接した状態で、前記外面と前記枠部との距離を一定に保つストッパーを有する、貫通穴用充填材保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通穴に挿入して用いられる貫通穴用充填材保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物等の床や壁を貫通する貫通穴には、充填材(例えばモルタル)が充填されることにより、貫通穴の空間が埋められる。充填材は、貫通穴に配置される際には流動性を有していることが多い。このため、例えば特許文献1に記載のシート状である隙間閉塞体が施工時に用いられる。この隙間閉塞体は、貫通穴を有する床スラブの下側外面に取り付けられて、貫通穴の下端が配管等の長尺状体が通る部分を除いて閉塞され、その状態で充填材が貫通穴の空間に入れられる。これにより、隙間閉塞体が充填材を保持することから、貫通穴において長尺状体の存在しない空間が充填材で埋められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-44660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このようなシート状である隙間閉塞体を用いる場合、床スラブの下側外面は、下方から作業を行う場合には、作業空間の天井側となり高所となることから、現場での作業性が良くない。
【0005】
そこで本発明は、現場での作業性を向上した貫通穴用充填材保持具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、貫通穴に挿入して用いられ、ねじり変形が可能な程度に柔軟であるシートが筒状に成形された筒部と、前記筒部の、軸方向における少なくとも一方に周方向に沿って設けられ、前記貫通穴の内周面に合わせて縮径可能であって、縮径状態で元の状態への復元力を有する枠部と、を備え、前記枠部が前記貫通穴の内周面に接した状態で、ねじられた前記筒部が前記貫通穴に配置された流動性を有する充填材に接する、貫通穴用充填材保持具である。
【0007】
この構成によれば、貫通穴に挿入して筒部をねじることにより、枠部によって位置保持された筒部が充填材を保持する。このため、貫通穴用充填材保持具を貫通穴の一方側からも他方側からも挿入可能である。
【0008】
また、前記枠部は、周方向において分断された分断部を有し、径方向断面でC字形状とされていることもできる。
【0009】
この構成によれば、C字形状が変化するように枠部が変形することで、貫通穴の内面に枠部を追従させることができる。
【0010】
また、前記枠部は、前記筒部がねじられる際に、前記貫通穴の内周面に対して滑りにくくする摩擦部を外周に有することもできる。
【0011】
この構成によれば、枠部が摩擦部を有することで、筒部を確実にねじることができる。
【0012】
また、前記枠部が軸方向におけるも一方と他方とに設けられており、前記枠部のうちいずれかに連結され、前記貫通穴の周囲における外面に接した状態で、前記外面と前記枠部との距離を一定に保つストッパーを有することもできる。
【0013】
この構成によれば、ストッパーにより、貫通穴の内部で筒部が充填材を保持する位置を一定にできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、通穴用充填材保持具を貫通穴の一方側からも他方側からも挿入可能である。よって、現場での作業性を向上し、かつ、種々の大きさを有する貫通穴への対応性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る貫通穴用充填材保持具を示す斜視図である。
図2】前記貫通穴用充填材保持具を貫通穴に挿入している途中であって、筒部がねじられる前の状態を示す斜視図である。
図3】前記貫通穴用充填材保持具を長尺状体が配置された貫通穴に挿入して筒部をねじった上でモルタルを入れた状態を示す斜視図である。
図4】(a)(b)とも、ストッパーを設けた枠部の例を示す側面図(筒部の図示を省略)である。
図5】(a)(b)とも、摩擦部を設けた枠部の例を示す平面図(筒部の図示を省略)である。
図6】本発明の他の実施形態であって、筒部を周方向に延長した形態の貫通穴用充填材保持具を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の貫通穴用充填材保持具につき、一実施形態を取り上げて説明を行う。
【0017】
本実施形態の貫通穴用充填材保持具1は、図1に示すような筒状とされている。貫通穴用充填材保持具1は、主に、筒部2と枠部3とを備える。
【0018】
筒部2は、平坦なシートが筒状に成形されている。本実施形態の筒部2は、周方向において切断(分断)された、スリット状である筒部側切断部21を有している。筒部側切断部21は軸方向に延びている。このため筒部2は、軸方向に対して直交する断面(径方向断面)でC字形状とされている。ただし、筒部側切断部21を設けず、断面でO字形状とされていてもよい。また、筒部2において筒部側切断部21に面する周方向の一方側部分と他方側部分が径方向に重なり合うことで、スリットが露出しないようにされていてもよい(例えば図6参照)。また、本実施形態では、筒部側切断部21は1箇所設けられているが、2箇所以上設けられていてもよい。
【0019】
筒部2に用いられるシートとしては、柔軟な材料が用いられる。このシートは、耐火性、耐熱性、対炎性がある材料から形成される。またこれらに加え、使用される充填材F(例えばモルタル)が、厚さ方向に通り抜けない材料から形成されている必要がある。材料の具体例として、セラミックウールシート、耐火フォーム(発泡系フォーム)、熱膨張ブチルテープ、アルミガラスフィルムまたはアルミガラスクロスが例示できる。また、線状体や網状体からなる補強材とシート材料との複合材料であってもよい。特に、補強材を有する材料では、撓み強度を向上できるため、充填材Fに接した、ねじられた状態の筒部2が充填材Fの重量を受けて撓んでしまうことを低減できる。
【0020】
筒部2は、周方向へのねじり変形が可能な程度に柔軟であることが必要である。柔軟性に関し、シートが平坦な状態において、シートの面(表面、裏面)がねじれるような柔軟性を有していることはもちろん、特に、筒部2として成形された状態で、周方向に360度以上のねじりが可能な柔軟性を有することが望ましい。また筒部2の内周面は、図3に示すように、貫通穴Hを通る長尺状体L(配管、ケーブル等)に対して接触した場合に、少なくとも軸方向に滑る程度の滑らかさを有することが望ましい。また、筒部2に用いられるシートは、貫通穴用充填材保持具1を防火区画に設けられた貫通穴Hに取り付ける場合には、不燃性材料を用いることが望ましい。なお、後述する膨張材を用いる場合では、紙等の不燃性でない材料を用いることもできる。
【0021】
枠部3は、筒部2の軸方向における少なくとも一方に、周方向に沿って設けられる。本実施形態では、枠部3は、筒部2の軸方向における両端に、筒部2と一体に設けられる。また、枠部3は筒部2の径外側に設けられる。枠部3は軸方向視で円環状であって、例えば硬質樹脂製リングや金属製リングが用いられる。枠部3は、筒部2に対して接着されていてもよいし、ピン等の締結具により筒部2に対して取り付けられていてもよい。枠部3は、貫通穴Hの内周面Hs(図3参照)における内周面に合わせて縮径可能であって、縮径状態で元の状態への復元力を有する。
【0022】
本実施形態の枠部3は、周方向において切断(分断)された、分断部としての枠部側切断部31を有している。枠部側切断部31は軸方向に延びている。枠部側切断部31は、筒部側切断部21と連続する位置に、1箇所形成されている。枠部3は、軸方向に対して直交する断面でC字形状とされている。このため、筒部側切断部21及び枠部側切断部31を介して、貫通穴用充填材保持具1の内部空間が外部空間に対して連通している。よって、各切断部21,31に配管等の長尺状体Lを通すことができる。従って、長尺状体Lが既に貫通している貫通穴Hに対して、各切断部21,31に長尺状体Lを通すことができるため、後施工が可能である。ただし、枠部側切断部31を設けず、枠部3が周方向で切れ目のない形状であってもよい。
【0023】
枠部3の外径寸法は取り付け対象の貫通穴Hの内周面Hsにおける内周面の径寸法よりも大きく設定することが望ましい。この場合、図2に示すように、前記C字形状が変化するように枠部3を縮径させた状態で、筒部2及び枠部3を矢印Mの方向に移動させ、貫通穴Hの内部に挿入する。挿入はまず、作業者から遠い側(床スラブの貫通穴Hに施工する場合下側)の枠部3からなされ、図2に示す状態とされる。枠部3の縮径は、例えば、図示のように、枠部3のうち枠部側切断部31を挟んだ周方向一端部と周方向他端部とが突き合わされるようにしてなされる。この場合、縮径に伴い前記各端部が周方向に移動させられることから、枠部3には、元の形態に戻ろうとする復元力が生じる。これにより、貫通穴Hの内面に枠部3を追従させることができる。
【0024】
ここで従来、この種の貫通穴に挿入して使用する装置で、本実施形態の筒部2に対応するチューブ状部分の両端、または一端に設けられた、本実施形態の枠部3に対応したリング状部分が通路の外部(壁面)に露出している構成が存在していた。しかしこのような構成では、配置の自由度が制限されてしまう。したがって、壁面に露出したリング状部分とチューブ状部分の一部により美観を損ねる場合があった。また、チューブ状部分につき、通路の貫通方向の全長に加え、ねじりによる変形寸法とリングに取り付けるための寸法が必要であることから、材料を多く要していた。
【0025】
このことに対し、本実施形態の貫通穴用充填材保持具1では、図3に示すように、枠部3を最終的に貫通穴Hの内部に位置させられることから、配置の自由度が高い。また、筒部2及び枠部3が貫通穴Hの外部(壁面)に露出しないようにできるので、美観上で問題になりにくい。また、筒部2の軸方向長さを、施工後で貫通穴Hの軸方向寸法よりも大きく設定する必要がなく、貫通穴Hの内部空間を塞ぐために必要な最低限の長さに設定できる。このため、筒部2の使用材料を節約できる。
【0026】
ここで、本実施形態の貫通穴用充填材保持具1は、建築物等における床スラブ(図3参照)や壁の内部に設けられた、内周面Hsを有する貫通穴Hに挿入して用いられる。前記「内周面を有する」とは、中空壁のように、壁が2枚の対向する壁板からなっていて、壁板が各々開口しており、二つの開口の間が何もない空間であるようなものではなく、例えば、二つの開口をつなぐように内周面が連続して存在するものである。ただし、本実施形態の貫通穴用充填材保持具1を、前述の、壁板が各々開口しており、二つの開口の間が何もない空間であるような構成に適用することも可能である。この場合、貫通穴Hにおける二つの開口の間を結ぶように、例えば鋼板製等である円筒形のスリーブや、紙製であるボイド管を設ける。そうすれば、前記スリーブを設けた状態で、前述の、内周面Hsを有する貫通穴Hとできるため、本実施形態の貫通穴用充填材保持具1を挿入可能となる。スリーブの形態は特に限定されないが、枠部3と同様、周方向において切断された切断部を有することで縮径できるような形態とすることが、貫通穴Hへの挿入が容易であるため好ましい。
【0027】
挿入に当たって縮径されていた枠部3は、貫通穴Hの内部に挿入された後は、枠部3自身の有する復元力により縮径前の径に戻ろうとする。このため、前記復元力によって内周面Hsに枠部3が押圧力を伴い接触する。枠部3が内周面Hsを押すことにより、枠部3が貫通穴Hに対して位置保持される。なお、内周面Hsは、一つのまとまった面であることは必須ではなく、貫通穴用充填材保持具1の枠部3が前記接触する面を有してさえすればよい。よって、内周面Hsは分断されていたり、穴が明いていたりしていてもよい。また、前述のようにスリーブ等を設ける場合、内周面はスリーブ等に形成される。
【0028】
作業者から遠い側の枠部3が貫通穴Hの内部に挿入された貫通穴用充填材保持具1(図2参照)に対し、作業者から近い側(床スラブの貫通穴Hに施工する場合上側)の枠部3を周方向に回すことで、筒部2がねじれる。筒部2をねじるための回転は、貫通穴Hの内部に挿入している途中の貫通穴用充填材保持具1に対して行うこともできる。筒部2は柔軟な材料からなっているため、作業者は容易に筒部2をねじることができる。筒部2のうちねじれが生じた部分(ねじれ部22)は径方向中心に接近するように移動する。作業者から遠い側の枠部3が既に貫通穴Hの内部で内周面Hsに押圧力を伴い接触していることから、筒部2がねじれていくことに伴い、作業者から近い側の枠部3は貫通穴Hに近づいていく(図2に示す状態では下方に移動していく)。そして作業者が、作業者から遠い側の枠部3に手を添えて押し込むことで、枠部3は貫通穴Hの内部に挿入され、貫通穴用充填材保持具1が、例えば図3に示す位置に設けられる。なお、枠部3の回転と貫通穴Hへの挿入を同時に行う(回転しつつ挿入する)こともできる。図3に示すように、長尺状体Lが貫通穴Hを貫通している場合、筒部2のうちねじれ部22が長尺状体Lの外周部に接触する。また、ねじりの程度が大きい場合には、ねじれ部22を長尺状体Lの外周部に絡ませることができる。このようにして、貫通穴Hの空間を、変形させた筒部2におけるねじれ部22によって閉塞することができる。
【0029】
そしてこのように、枠部3が貫通穴Hの内周面Hsに接した状態で、ねじられた筒部2の内面に接するように、貫通穴Hに充填材F(例えばモルタル)を入れることで、筒部2が貫通穴Hに配置された充填材Fを保持する。図3に示す貫通穴用充填材保持具1の配置では、貫通穴Hにおいて充填材Fで埋まるのは、貫通穴Hにおいて長尺状体Lを囲む空間であって、ねじれ部22(より詳しくは長尺状体Lとねじれ部22とが接する部分)よりも上方の空間である。つまり、この空間が充填材収容空間となる。また、筒部2において充填材Fが接する面が充填材保持面となる。充填材Fが例えばモルタルであった場合、貫通穴Hに入れた当初は流動性を有しているが、筒部2に保持されて一定時間が経過すると硬化する。なお、貫通穴Hにおいてねじれ部22よりも下方の空間についても、貫通穴Hに当て板をすること等により、充填材Fで埋めることができる。
【0030】
なお、枠部3の貫通穴Hへの配置は、貫通穴Hの端部寄りであってもよいし、軸方向中央部分であってもよい。貫通穴用充填材保持具1における両端に設けられた枠部3は、筒部2をねじることに伴い、ねじる前の状態に比べて軸方向で接近させられる。なお、作業者から遠い側の枠部3は、復元力により内周面Hsを押している。このため、前記遠い側の枠部3を周方向に回らないように作業者が持っておくことは特に必要ない。よって、作業者一人で作業が可能である。このように、枠部3を縮径させた状態で貫通穴Hの内部に挿入した上で、筒部2を周方向にねじることにより、貫通穴Hの空間を簡単に閉塞できる。
【0031】
本実施形態の貫通穴用充填材保持具1では、筒部2をねじるだけでいいので、従来に比べて利便性が高い。また、例えば機械的なシャッター構造のような複雑な構造ではないため、貫通穴用充填材保持具1の製造コストを抑制できる。また、機械的なシャッター構造を有する装置よりも軽量であるため、施工現場での作業者の体力的負担が小さい。また、貫通穴用充填材保持具1を貫通穴Hに挿入して、筒部2をねじることにより、枠部3によって位置保持された筒部2が充填材Fを保持するようにできる。このため、貫通穴Hの一方側からも他方側からも貫通穴用充填材保持具1を挿入可能である。従って、床スラブを上下方向に貫通する貫通穴Hに対する施工の際、作業者は床スラブに対する上階側から貫通穴用充填材保持具1を挿入することができるため、高所作業が不要になって、作業の安全性を高められる。
【0032】
筒部2は、防火のため、熱を受けて膨張する膨張材を有していてもよい。膨張材は、図示していないが、例えば、筒部2に貼り付ける等によって配置される。膨張材は、種々の構成のものを用いることができる。火災時には熱により膨張材が膨張することで貫通穴Hの内部空間(そのうち充填材Fの存在しない部分)を塞ぐため、長尺状体L及び筒部2が熱により消失しても、膨張した膨張材により、貫通穴Hを介した隣接区画への延焼を防止できる。
【0033】
膨張材は、筒部2に全面的に設けられていてもよいが、分散して設けられていてもよい。分散して設ける場合、膨張材が、筒部2における軸方向の一方側と他方側とに分かれて位置するようにできる。例えば、枠部3に一致させるように設けたり、軸方向において枠部3の内側に近い位置に設けたりすることができる。前述のように、筒部2をねじることに伴い、貫通穴用充填材保持具1における両端に設けられた枠部3が軸方向で接近するので、同じく、軸方向の一方側に位置する膨張材と他方側に位置する膨張材とが軸方向(貫通穴Hの貫通方向)で接近させられる。このため、貫通穴Hにおいて防火を施すべき位置に膨張材を配置できる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0035】
例えば、前記実施形態では貫通穴用充填材保持具1を、図3に示すように、上下方向に貫通した床スラブの貫通穴Hに対して使用していた。しかしこれに限定されず、水平方向等に貫通した壁の貫通穴Hに対して使用することもできる。ただしこの場合、硬化していない充填材Fが貫通穴Hから出てしまわないように、充填材Fが硬化するまでは、例えば貫通穴Hの外面に沿って当て板を配置しておく必要がある。なお、流動性の低い充填材を用いる場合には、このような当て板は不要である。
【0036】
また、枠部3は、前記実施形態のように、筒部2における端部に設けられたものに限られない。筒部2の端部から、軸方向の内方に離れた位置に設けることもできる。
【0037】
また、枠部3は、前記実施形態では円環状とされていた。しかし、これに限定されず、多角形枠状であってもよい。ただし、円環状とした方が、貫通穴Hの内周面Hsに沿って枠部3を周方向に移動(回転)する作業を行いやすい。
【0038】
また、前記実施形態では、枠部3は筒部2の径外側に設けられていた。しかし、これに限定されず、筒部2の径内側に設けられていてもよいし、筒部2の軸方向における側方に(軸方向並びで)設けられていてもよい。
【0039】
また、枠部3に、貫通穴Hの内周面Hsに固定できるストッパー4を設けることにより、枠部3を軸方向に不動としてもよい。不動とするのは、充填材Fの硬化が完了するまでで足りる。この場合の枠部3は、軸方向における一方と他方(前記実施形態では上方と下方)とに設けられる。ストッパー4は、枠部3のうちいずれか(具体的には、作業者から近い側の枠部3)に連結され、貫通穴Hの周囲における外面(貫通穴Hを取り巻く床スラブ等の外面のことであって、図3に示す配置の場合上面)に接した状態で、外面と枠部3との距離を一定に保つ。
【0040】
ストッパー4の形態の例を図4(a)(b)に示す。図4(a)に示したストッパー4は、枠部3の内周面に接続された、縦断面視でL字形状の部材である。このストッパー4では、上端の折り曲げられた部分が、枠部3を貫通穴Hの内部に位置させた場合に貫通穴Hの周囲における外面に接する。ストッパー4は、枠部3に接続されると共に、一部が貫通穴Hの周囲における外面に接する形状であればよく、L字形状以外に、例えばJ字形状であってもよい。図4(b)に示したストッパー4は、例えば水平方向に延びる円環状体を上下方向に延びる部材を介して枠部3に接続したものである。
【0041】
このようなストッパー4により、貫通穴Hの内部で筒部2が充填材Fを保持する位置を一定にできる。ストッパー4は、充填材Fが硬化した後は枠部3から取り外すことができる。このため、例えば、枠部3とストッパー4との間に切断線や脆弱部等の分離手段41を設けておくことができる(図4(b)参照)。また、図4(a)(b)に示す例では、ストッパー4が枠部3とは別体に形成されていて、両者が接続されて一体化されていたが、ストッパー4を枠部3の一部として不可分一体に形成されていてもよい。
【0042】
また、枠部3につき、筒部2がねじられる際に、貫通穴Hの内周面に対して滑りにくくする摩擦部32を外周に有することができる。摩擦部32の形態の例を図5(a)(b)に示す。図5(a)に示した摩擦部32は、周方向における一方側に傾斜した片歯状の複数の突起321を有している。なお、突起321を片歯状とする場合、軸方向の一方側の枠部3が有する突起321と他方側の枠部3が有する突起321の周方向における傾斜は、筒部2がねじられる際に各枠部3が逆方向に回転するため、逆に設定することが好ましい。また、図5(b)に示した摩擦部32は、枠部3における径外位置にスポンジ状や軟質ゴム等の軟質部322を有している。このように、枠部3が摩擦部32を有することで、筒部2を確実にねじることができる。なお、貫通穴Hの奥側(作業者から遠い側、床スラブの貫通穴Hに施工する場合下側)に配置される枠部3のみ摩擦部32を有するものとし、貫通穴Hの手前側(作業者から近い側、床スラブの貫通穴Hに施工する場合上側)に配置される枠部3については、例えば床スラブへのビス止め等により回転しないよう固定してもよい。
【0043】
また、図6に示すように、筒部2における周方向端部のうち一方を、周方向に延長した形態とすることもできる。こうすることで、筒部2における周方向端部が重なり合った状態で筒部2がねじられることから、筒部側切断部21が広がり、筒部2に隙間が生じて、その隙間から硬化前の充填材Fが漏れ落ちてしまうことを防止できる。
【0044】
また、枠部3の軸方向寸法(幅寸法)を変更することにより、筒部2のうちねじれが生じた部分(ねじれ部22)の位置を設定することもできる。例えば、一方の枠部3を貫通穴Hの外面に一致するように配置するとした場合、枠部3の軸方向寸法が大きい場合には、ねじれ部22の位置を貫通穴Hの外面から遠い位置に設定できる。一方、枠部3の軸方向寸法が小さい場合には、ねじれ部22の位置を貫通穴Hの外面から近い位置に設定できる。
【符号の説明】
【0045】
1 貫通穴用充填材保持具
2 筒部
21 筒部側切断部
22 ねじれ部
3 枠部
31 分断部、枠部側切断部
32 摩擦部
4 ストッパー
H 貫通穴
Hs 貫通穴の内周面
L 長尺状体
F 充填材
図1
図2
図3
図4
図5
図6