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特許7580254フェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241101BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241101BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241101BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20241101BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20241101BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C21D9/46 R
C22C38/38
C22C38/60
B21B1/22 A
B21B3/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020190026
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079072
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】石丸 詠一朗
(72)【発明者】
【氏名】田口 篤史
(72)【発明者】
【氏名】井上 宜治
(72)【発明者】
【氏名】木村 謙
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-015601(JP,A)
【文献】特開2019-026913(JP,A)
【文献】特開2017-179480(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068139(WO,A1)
【文献】特開2020-037728(JP,A)
【文献】特開2006-193771(JP,A)
【文献】特開2001-316775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
B21B 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Cr:11.0%以上、30.0%以下、
C :0.001%以上、0.030%以下、
Si:0.01%以上、2.00%以下、
Mn:0.01%以上、2.00%以下、
P :0.005%以上、0.100%以下、
S :0.010%以下、
Al:0.05%以上、2.00%以下、及び
N :0.030%以下、
を含み、
さらに、
Ti:0.50%以下、及び
Nb:1.00%以下
の1種又は2種を含み、残部がFe及び不純物であり、
金属組織が、JIS G 0551に従って測定される結晶粒度番号が9.0以上のフェライト単層組織であり、
板厚1/2位置の圧延面に平行な面における結晶方位のランダム強度比が、
{111}<112>≧9、
{111}<110>≧6、
{411}<148>≦1
であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。
ここで、I{hkl}<uvw>は{hkl}<uvw>方位のランダム強度比を示す。
【請求項2】
質量%で、さらに、下記A群~C群の1群又は2群以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
A群:
Sn:0.50%以下、
Ni:1.00%以下、
Cu:1.00%以下、
Mo:2.00%以下、
W:1.00%以下、
Co:0.50%以下、
V:0.50%以下、
Zr:0.50%以下、及び
Sb:0.50%以下
の1種又は2種以上
B群:
B:0.0025%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下
の1種又は2種以上
C群:
Y:0.20%以下、
Hf:0.20%以下、
REM:0.10%以下
の1種又は2種以上
【請求項3】
平均r値が1.5以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
家電製品の筺体、又は器物であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板を製造する方法であって、
請求項1又は2に記載の成分を有する鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板を熱処理して熱処理鋼板とする熱処理工程と
を備え、
前記冷間圧延工程において、冷延率RTを50%以上90%以下とし、前記冷間圧延の一部に、前記熱間圧延の方向に対して20°以上70°以下の角度で斜め方向に冷延率RC20%以上での冷間圧延を含む
ことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記冷間圧延の一部に、さらに、前記熱間圧延の方向と同じ方向に冷延率RL20%以上での冷間圧延を含む
ことを特徴とする請求項5に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱間圧延工程と前記冷間圧延工程の間に、さらに、前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程を備えることを特徴とする請求項6に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形加工した際の成形性及び成形後の研磨性に優れるフェライト系ステンレス鋼薄板とその製造方法に関する。特に、成形加工後に鋼板の表面凹凸を除去するための研磨を要する用途に好適である。
【背景技術】
【0002】
オーステナイト系ステンレス鋼の代表鋼種であるSUS304(18Cr-8Ni)は耐食性、加工性、美麗性等に優れることから家電、厨房品、建材等広く用いられている。ただし、高価かつ価格変動の激しいNiを多量に添加しているため、鋼板の価格が高いとされている。一方、フェライト系ステンレス鋼はNiを含有しない、又は含有量が極めて少ないため、コストパフォーマンスに優れる材料として需要が増加している。
【0003】
成形用途として使用する場合、オーステナイト系ステンレス鋼は加工硬化しやすく張り出し性に優れる。また、オーステナイト系ステンレス鋼は細粒組織を比較的作りやすいため、結晶粒度番号が約10の細粒鋼板が製造されている。このため、成形加工後の表面凹凸(肌荒れ)は小さく、ほとんど問題になっていない。オーステナイト系ステンレス鋼では上述のように、成形性と成形後の耐表面凹凸特性が両立している。
【0004】
一方、フェライト系ステンレス鋼を成形用途として使用する場合、問題となるのが成形性と成形後の表面凹凸である。フェライト系ステンレス鋼の張り出し性は低く、大きく変化させることができない。ただし、結晶方位(集合組織)を変化させて深絞り性を制御することができるため、フェライト系ステンレス鋼では深絞りを主体とした成形手法を用いる場合が多い。
【0005】
深絞り成形特性の指標としてr値(ランクフォード値)が用いられる。フェライト系ステンレス鋼板のr値向上手法としては、CやNを低減してTiやNb等の安定化元素を添加することや、結晶粒成長させること等が一般的に知られており、高r値のフェライト系ステンレス鋼板が製造されている。
【0006】
ところが、フェライト系ステンレス鋼板はオーステナイト系ステンレス鋼板と比較して粗粒になりやすい。その要因として、再結晶粒径が大きくなりやすいことに加えTiやNbの添加により結晶粒成長しやすくなることが挙げられる。加えて、粒成長により高r値を担保している場合は、細粒鋼を得るために粒成長させなければr値の低下を招く。
【0007】
以上のように、フェライト系ステンレス鋼板では、深絞り成形性と成形後の耐加工肌荒れ性の両立は困難である。
【0008】
家電製品の筺体、又は器物のように比較的厳しい成形性が要求される場合、フェライト系ステンレス鋼では、SUS430LXのような高純度フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多い。成形後の強度を担保するために用いられるステンレス鋼板の板厚は大半の場合は0.6mm以上であり、また、前述のように結晶粒径が大きいために成形後の肌荒れが大きい。そのため、通常、研磨による凹凸の除去が行われている。
【0009】
特許文献1には、高純度フェライト系ステンレス鋼の肌荒れを軽減しつつ深絞り成形性を向上する手法、具体的には、Ti及び/又はNbを含有したフェライト系ステンレス鋼の最終焼鈍工程における結晶粒成長によりr値を向上する方法が開示されている。しかし、得られている結晶粒度番号は7以下と粗粒であり、加工肌荒れが発生しやすい。
【0010】
特許文献2には、Ti及び/又はNbを含有したフェライト系ステンレス鋼であり、結晶粒度番号が9.0超のフェライト単相組織よりなり、板厚1/2位置と板厚1/10位置の圧延面に平行な面における結晶方位のランダム強度比を制御することにより、成形加工した際の成形性並びに成形後の表面特性に優れるフェライト系ステンレス鋼板に関する技術が開示されている。この技術は、冷間圧延率は93%以上の高圧下率の製造方法によって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-73782号公報
【文献】特開2019-26913号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】井上博史;軽金属、vol42,No6(1992)、p358.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
フェライト系ステンレス鋼板の成形加工を考えた場合、所定の厳しい形状に成形ができ、成形後の表面性状を満足しうる鋼板は存在しないのが現状である。このためフェライト系ステンレス鋼板の場合は成形後の研磨工程において研磨時間がかかり、研磨にて生じた粉塵が多く発生するなどの問題がある。
【0014】
本発明は、上記に鑑み、成形加工性及び成形加工後の表面特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、フェライト系ステンレス鋼板の最終焼鈍における再結晶過程を丹念に調査した。その結果、再結晶の最終段階において、未再結晶のまま残存する{100}<011>に近い方位を有する圧延組織が周囲の再結晶粒に蚕食されて再結晶が完了するまでの間に、周囲の再結晶粒が粒成長することで再結晶粒径が大きくなることを知見した。
【0016】
次に、冷延後の段階における{100}<011>方位粒を低減させ、かつ、再結晶しやすくするための製造条件を探索した。その結果、冷間圧延を一方向のみに行うのではなく斜め方向の圧延と組み合わせることで{100}<011>方位粒が低減し、かつ、再結晶しやすくなること、さらに再結晶後にr値が劇的に向上することを知見した。
【0017】
冷間圧延の一部を斜め方向に施すことで、再結晶完了までに周囲の再結晶粒が成長することなく細粒のまま再結晶組織を得ることができ、{111}方位粒主体の高r値の金属組織を製造することが可能となり、深絞り成形性及び耐加工肌荒れ性の両立が可能となる。
【0018】
また、鋼板表面部の組織を細粒組織とすることにより、加工後の肌荒れを軽減することができる。また、同時に、{111}方位の集積度を高めつつ他方位の集積度を低下することにより、深絞り加工性の指標であるr値を高める。特に{111}とともに集積しやすい{411}<148>への集積度を低下させることで高r値が得られ、厳しい深絞り加工が可能となる。
【0019】
上記組織を得るために、冷間圧延時に複数の方向への圧延を組み合わせる。理想的には本来の圧延方向に対して0°方向と45°方向を同程度の圧下率として組み合わせることで、冷延焼鈍時の再結晶に不利な冷延集合組織である{100}<011>への冷延中の集積を抑制して、焼鈍後の{111}以外の方位への集積を抑制することが可能となる。
【0020】
本発明は上記の知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0021】
(1)質量%で、Cr:11.0%以上、30.0%以下、C:0.001%以上、0.030%以下、Si:0.01%以上、2.00%以下、Mn:0.01%以上、2.00%以下、P:0.005%以上、0.100%以下、S:0.010%以下、Al:2.00%以下、及びN:0.030%以下、を含み、さらに、Ti:0.50%以下、及びNb:1.00%以下の1種又は2種を含み、残部がFe及び不純物であり、金属組織が、JIS G 0551に従って測定される結晶粒度番号が9.0以上のフェライト単層組織であり、板厚1/2位置の圧延面に平行な面における結晶方位のランダム強度比が、I{111}<112>≧9、I{111}<110>≧6、I{411}<148>≦1であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。ここで、I{hkl}<uvw>は{hkl}<uvw>方位のランダム強度比を示す。
【0022】
(2)質量%で、さらに、下記A群~C群の1群又は2群以上を含有することを特徴とする前記(1)のフェライト系ステンレス鋼板。
A群:
Sn:0.50%以下、
Ni:1.00%以下、
Cu:1.00%以下、
Mo:2.00%以下、
W:1.00%以下、
Co:0.50%以下、
V:0.50%以下、
Zr:0.50%以下、及び
Sb:0.50%以下
の1種又は2種以上
B群:
B:0.0025%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下
の1種又は2種以上
C群:
Y:0.20%以下、
Hf:0.20%以下、
REM:0.10%以下
の1種又は2種以上
【0023】
(3)平均r値が1.5以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)のフェライト系ステンレス鋼板。
【0024】
(4)家電製品の筺体、又は器物であることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかのフェライト系ステンレス鋼板。
【0025】
(5)前記(1)~(3)のいずれかのフェライト系ステンレス鋼板を製造する方法であって、前記(1)又は(2)の成分を有する鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、前記冷延鋼板を熱処理して熱処理鋼板とする熱処理工程とを備え、前記冷間圧延工程において、冷延率RTを50%以上90%以下とし、前記冷間圧延の一部に、前記熱間圧延の方向に対して20°以上70°以下の角度で斜め方向に冷延率RC20%以上での冷間圧延を含むことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0026】
(6)前記冷間圧延の一部に、さらに、前記熱間圧延の方向と同じ方向に冷延率RL20%以上での冷間圧延を含むことを特徴とする前記(5)のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0027】
(7)前記熱間圧延工程と前記冷間圧延工程の間に、さらに、前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程を備えることを特徴とする前記(6)のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、成形加工性及び成形加工後の表面特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0030】
(I)化学成分
【0031】
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、以下の化学成分を有する。化学成分の限定理由を以下に説明する。
【0032】
Cr:11.0%以上、30.0%以下
【0033】
Crは、ステンレス鋼の基本特性である耐食性を向上する元素である。11.0%未満では十分な耐食性は得られないため下限は11.0%とする。一方、過度な添加はσ相当の金属間化合物の生成を促進して製造時の割れや成形性低下を助長するため上限は30.0%とする。安定製造性(歩留り、圧延疵等)点から14.0~25.0%が好ましい。より好ましくは16.0~20.0%である。
【0034】
C:0.001%以上、0.030%以下
【0035】
Cは、本発明において重要な成形性(r値)を低下させる元素であるため少ない方が好ましく、上限を0.030%とする。ただし、過度な低減は精錬コストの上昇を招くため下限は0.001%とする。精錬コスト及び成形性の両者を考慮した場合0.002~0.018%が好ましい。
【0036】
Si:0.01%以上、2.00%以下
【0037】
Siは、耐酸化性向上元素であるが過剰な添加は成形性の低下を招くため2.0%を上限とする。成形性の点から低い方が好ましいが、含有量を過度に低下させると原料コストの増加を招くため0.01%を下限とする。製造性の観点から好ましい範囲は0.05~0.30%である。
【0038】
Mn:0.01%以上、2.00%以下
【0039】
MnはSi同様に多量の添加は成形性の低下を招くため上限を2.00%とする。成形性の点から低い方が好ましいが、過度の低下は原料コストの増加を招くため0.01%を下限とする。製造性の観点から好ましい範囲は0.05~0.30%である。
【0040】
P:0.005%以上0.100%以下
【0041】
Pは、成形性(r値及び製品伸び)を低下させる元素であるため低い方が好ましく、上限を0.100%とする。ただし、リン化物析出のr値向上効果を活用するため下限は0.005%とする。過度な低減は原料コストの上昇をもたらすことに加え、成形性と製造コストの両者を考慮した場合、好ましい範囲は0.010~0.070%、より好ましくは0.020~0.050%である。
【0042】
S:0.010%以下
【0043】
Sは不可避的不純物元素であり、製造時の割れを助長するため低い方が好ましく、上限を0.010%とする。S量は低いほど好ましく0.003%以下が好ましい。下限は0である。ただし、過度の低下は精錬コストの上昇を招くため0.001%を下限としてもよい。製造性とコストの点から、好ましい範囲は0.001~0.002%である。
【0044】
Al:2.00%以下
【0045】
Alは、耐食性及び耐酸化性を高めるのに有効な元素である。過度な添加は成形性の低下を招くばかりでなく合金コストの上昇や製造性を阻害することに繋がるため、上限は2.00%とする。Alの含有は必須ではなく、下限は0である。耐食性及び耐酸化性向上の効果を得るために好ましい含有量の下限は0.01%とする。
【0046】
N:0.030%以下
【0047】
Nは、Cと同様に成形性(r値)を低下させる元素であり、上限を0.030%とする。N量は少ないほど好ましく、下限は0である。ただし、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、0.002%を下限としてもよい。成形性と製造性の点から好ましい範囲は0.005~0.015%である。
【0048】
さらに、Ti及びNbの1種又は2種を下記の範囲で含有させる。
【0049】
Ti:0.50%以下
Tiは、C,Nを析出物として固定する高純度化を通じてr値及び製品伸びの向上をもたらす。これらの効果は微量の含有でも得られるが、効果を効果的に得るためには、下限を0.03%とすることが好ましい。一方、過度な添加は合金コストの上昇や再結晶温度上昇に伴う製造性の低下を招くため、上限は0.50%とする。成形性及び製造性の点から、好ましい範囲は0.05~0.40%である。さらに、Tiの効果を積極的に活用する好適な範囲は0.10~0.30%である。
【0050】
Nb:1.00%以下
Nbも、Ti同様にC,Nを固定する安定化元素の作用による鋼の高純度化を通じてr値及び製品伸びの向上をもたらす。これら効果を得るため、添加する場合は下限を0.03%とすることが好ましい。一方、過度な添加は合金コストの上昇や再結晶温度上昇に伴う製造性の低下に繋がるため、上限は1.00%とする。合金コストや製造性の点から、好ましい範囲は0.03~0.50%である。さらに、Nbの効果を積極的に活用する好適な範囲は0.04~0.30%である。さらに好ましくは0.06~0.10%である。
【0051】
上記の基本組成に加えて下記の元素を選択的に添加してもよい。
【0052】
A群元素:
Sn:0.50%以下、
Ni:1.00%以下、
Cu:1.00%以下、
Mo:2.00%以下、
W:1.00%以下、
Co:0.50%以下、
V:0.50%以下、
Zr:0.50%以下、
Sb:0.50%以下
【0053】
Sn、Ni、Cu、Mo、W、Co、V、Zr、及びSbは、耐食性及び耐酸化性を高めるのに有効な元素であり、1種又は2種以上を必要に応じて添加する。ただし、過度な添加は成形性の低下を招くばかりでなく合金コストの上昇や製造性を阻害することに繋がるため、Ni、Cu、Wの上限は1.00%、Moの上限は2.00%とする。Sn、Co、V、Zrの上限は0.50%とする。耐食性及び耐酸化性向上の効果は少量の含有でも得られる。特に、Sn及びSbの場合、効果を確実に得るためには、0.005%以上含有させるのが好ましい。Ni、Cu、Mo、W、Co、V、Zrの場合、好ましい含有量の下限は0.05%である。
【0054】
B群元素:
B:0.0025%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下
【0055】
B、Ca、及びMgは熱間加工性や二次加工性を向上させる元素であり、1種又は2種以上を必要に応じて添加する。ただし、過度な添加は製造性を阻害することに繋がるため、Bの上限は0.0025%、Ca及びMgの上限は0.0050%とする。熱間加工性や二次加工性を向上させる効果は少量の含有でも得られるが、Bの場合、効果を確実に得るためには0.0001%以上含有させることが好ましい。製造性と熱間加工性を考慮した場合、Bのより好ましい範囲は0.0003~0.0012%であり、Ca及びMgの好ましい範囲は0.0002~0.0010%である。
【0056】
C群元素:
Y:0.20%以下、
Hf:0.20%以下、
REM:0.10%以下
【0057】
Y、Hf、及びREMは、熱間加工性や鋼の清浄度を向上及び耐酸化性改善に対して有効な元素であり、1種又は2種以上を必要に応じて添加してもよい。添加する場合、Y及びHfの上限は0.20%、REMの上限は0.10%とする。熱間加工性や鋼の清浄度を向上させる効果は少量の含有でも得られるが、好ましい下限は0.001%とする。ここで、REMは原子番号57~71に帰属する元素であり、例えば、La、Ce、Pr、Nd等である。
【0058】
以上説明した各元素の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。Bi、Pb、Se、H、Ta等は可能な限り低減することが好ましいが、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて、Bi≦100ppm、Pb≦100ppm、Se≦100ppm、H≦100ppm、Ta≦500ppmの1種以上を含有してもよい。
【0059】
(II)金属組織
【0060】
金属組織について説明する。
【0061】
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、金属組織が、JIS G 0551に従って測定される結晶粒度番号が9.0以上のフェライト単層組織である。
【0062】
成形後の加工肌荒れは結晶粒度番号が大きいほど生じにくいため、結晶粒度番号を9.0以上とする。肌荒れをさらに抑制するためには9.5以上が好ましく、さらに好ましくは10.0以上である。
【0063】
結晶粒度番号の測定方法は、JIS G 0551(2013)の線分法で求める。粒度番号:9は結晶粒内を横切る1結晶粒あたりの平均線分長14.1μmに相当し、粒度番号:10は結晶粒内を横切る1結晶粒あたりの平均線分長10.0μmに相当する。結晶粒度測定は試験片断面の光学顕微鏡組織写真を用い、1試料につき横切る結晶粒数を500以上として行う。エッチング液は王水又は逆王水がよいが、結晶粒界が判断できるのであれば他の溶液でも構わない。また、隣接する結晶粒の方位関係によっては粒界が鮮明に見えない場合があるため、濃くエッチングするのが好ましい。また、結晶粒界測定に当たって双晶粒界は測定しないこととする。
【0064】
金属組織がフェライト単相組織とは、オーステナイト相やマルテンサイト組織を含まないことを意味する。これらの相を含むと、結晶粒径を細かくすることが比較的容易であることに加えてオーステナイト相はTRIP効果により高成形性を示すが、原料コストが高くなることに加えて、製造時に耳割れ等の歩留り低下が起こりやすくなる。
【0065】
組織がフェライト単相であるか否かは、EBSD(Electron BackScatter Diffraction)測定で調べることができる。本発明では、断面のEBSD測定によるオーステナイト相の判定に加え、加速電圧15kV、焦点距離19mmの条件でEBSDパターンを採取した場合のIQ値が3000よりも低い領域をマルテンサイト相として、オーステナイト及びマルテンサイトの面積率が全体の1/100以下であれば、フェライト単相であると判断する。
【0066】
(III)集合組織
【0067】
集合組織について説明する。
【0068】
本発明のフェライト系ステンレス鋼板においては、板厚1/2位置の圧延面に平行な面における結晶方位のランダム強度比を下記の範囲に制御することにより、加工性を向上させることができる。
【0069】
{111}<112>≧9
{111}<110>≧6
{411}<148>≦1
【0070】
{111}<112>方位は、高純度鋼の再結晶方位として生成し、成形性を向上する方位であることが知られている。深絞りを中心とした成形加工を行う際には高めることが求められる。十分な冷延率を確保した場合に最もランダム強度比が強くなりやすい方位であるため、ランダム強度比を15以上とする。{111}<112>のランダム強度比が高いほど成形性には有利にはたらくため、好ましくは18以上、さらに好ましくは20以上とする。
【0071】
{111}<110>方位も{111}<112>方位と同様に高純度鋼の再結晶方位として生成し、成形性を向上させる方位である。{111}<110>方位は{111}<112>方位と比較して集積度は上がりにくい方位である。{111}<112>の集積度(ランダム強度比)が高く、{111}<110>の集積度が低い場合はr値の異方性が大きくなり、深絞りによる成形加工を行った際に耳の高さが大きくなり歩留り低下につながる。そのため、{111}<110>方位の集積度も高いことが望ましく、{111}<110>のランダム強度比を10以上とする。好ましくは12以上、さらに好ましくは14以上とする。
【0072】
{411}<148>方位は、成形性には好ましくない方位であるため、そのランダム強度比を1以下とする。好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。{411}<148>は再結晶方位として生成しやすく、これまではその集積度の低減を十分に行うことができず、高い成形性を得ることができていなかった。
【0073】
本発明では、上述の成形性を向上する{111}<112>及び{111}<110>方位の集積度をともに高め、かつ、{411}<148>方位の集積度を低下させる理想的な結晶方位制御を確立し、これらのランダム強度比を同時に満足させることに特徴がある。
【0074】
また、{411}<148>への集積を抑制することで、成形性向上に有利な{111}方位への集積度を高めることができる。
【0075】
結晶方位のランダム強度比は、以下の方法で測定する。
【0076】
鋼板の圧延面に平行な面について板厚tの1/2t位置のX線回折を実施する。1/2t位置は鋼材の平均的な集合組織を示すことが多く、成形性の指標となりうる。得られたデータを用いて非特許文献1に記載のBungeの手法を用いて3次元方位解析を実施する。結晶方位分布図より、該当方位におけるランダム強度比を読み取る。
【0077】
(IV)r値
【0078】
r値について説明する。
【0079】
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、平均r値(ランクフォード値)を1.5以上とすることが好ましい。平均r値を1.5以上とすることで、フェライト系ステンレス鋼板の成形性を向上させ、厳しい加工を行うことができると同時に、成形時の荷重を低下させ、金型の消耗を抑えることができる。平均r値はより好ましくは1.7以上である。
【0080】
平均r値は、JIS Z 2254(2008年)の塑性ひずみ比試験方法により測定し、JIS Z 2254(2008年)に従い、下記式(1)によって求めることができる。
【0081】
平均r値=(r0+2r45+r90)/4 ・・・ 式(1)
【0082】
ただし、式(1)中のr0は圧延方向のr値、r90は圧延直角方向のr値、r45は圧延45度方向のr値を示す。
【0083】
次に本発明のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法を説明する。
【0084】
(I)熱間圧延工程
【0085】
前述した成分を有するステンレス鋼スラブを、加熱後に粗圧延及び仕上圧延からなる熱間圧延を実施し、熱延鋼板とする。スラブ加熱温度は、加熱温度が高すぎるとTi炭硫化物(Ti422)が加熱中に溶解し、固溶炭素の増加や、熱間圧延過程で再析出することで再結晶が遅れるといった現象が生じる。これらの現象は、製品板の再結晶集合組織の発達を抑制し、加工性を劣化させる。また、結晶粒が著しく肥大化し、粗大展伸粒が熱間圧延工程で形成され、製品板の加工性が劣化する。また、過度な温度低下は、表面疵発生の原因となり、疵部からの発銹による耐食性劣化をもたらす。このため、スラブ加熱温度は、1100~1250℃が好ましい。さらに、圧延ロール焼き付きによる生産性低下などを考慮すると、スラブ加熱温度は、1130~1230℃が好ましい。
【0086】
(II)熱延板焼鈍工程
【0087】
熱間圧延に続いて、再結晶を目的とした熱延板焼鈍を実施してもよい。熱延板焼鈍は必須ではない。
【0088】
熱延板焼鈍を実施することで、製品のリジングと呼ばれる成形時に生じる表面欠陥を軽減できる。熱延板焼鈍は再結晶温度をTとしてT~T+50℃の範囲で行うことが好ましい。温度が低すぎると再結晶不良が生じ、リジング低減効果が十分に得られず、高すぎると結晶粒が肥大化してしまい、冷延焼鈍後に所定の結晶方位のランダム強度比を向上できず製品板の加工性が劣化する。ただし、後述のように冷間圧延を実施することで従来法よりもリジングを軽減することが可能であるため、熱延板焼鈍は省略しても構わない。
【0089】
熱延板焼鈍の後、熱延板焼鈍を省略する場合は熱間圧延の後に、表面スケールが形成され、後工程にて表面疵等の問題が生じる場合、必要に応じて酸洗等による脱スケール処理を施してもよい。
【0090】
(III)冷間圧延工程
【0091】
冷延率RT:50~90%
【0092】
必要に応じて実施する脱スケール処理に続いて、冷間圧延を実施する。冷延率RTが低すぎると金属組織の粗大化に加え、{111}方位のランダム強度比の低下を招くため、冷延率RTは50%を下限とする。好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上である。また、冷延率RTが高すぎるとかえって成形性を低下させるため、90%を上限とする。好ましくは87%以下、さらに好ましくは85%以下とする。
【0093】
斜め圧延の角度:20~70°
斜め圧延のトータル冷延率RC:20%以上
【0094】
本発明の冷間圧延においては、熱間圧延方向のみへの冷間圧延ではなく、上記の条件で斜め方向への圧延を行うことに特徴がある。これにより、{111}<112>及び{111}<110>方位のランダム強度比が向上して{411}<148>方位のランダム強度比が低下し、かつ、細粒化を両立できる。
【0095】
斜め方向への冷間圧延を組み合わせることで{111}<112>及び{111}<110>方位のランダム強度比が向上して{411}<148>方位のランダム強度比が低下し、かつ、細粒化を両立できる要因については次のように考えられる。
【0096】
冷間圧延時には{001}<110>や{112}<110>、{111}<110>などの冷延優先方位に集積することが知られている。この中でも特に{001}<110>方位は冷間圧延の歪が蓄積しにくいため再結晶の終盤まで残存し、再結晶完了の律速になることが知られている。冷間圧延の方向を変更することで、{001}<110>方位を、たとえば{100}<001>などの、冷間圧延の歪が蓄積しやすく再結晶しやすい方位に変更することができ、再結晶完了を早めるために細粒組織が得られる。さらに、{100}<001>の圧延方位は再結晶後に{411}<148>などの成形性に不利な方位に再結晶しやすいことが知られており、{411}<148>方位が減少したため成形性に有利な{111}方位粒の割合が増加すると考えられる。
【0097】
冷間圧延の方向は、前工程の熱間圧延の方向に対して20~70°の角度の方向への斜めの圧延を、冷延率RCで20%以上行う。斜め方向への圧延の角度が20°より小さいと、{411}<148>のランダム強度比を低下する効果、{111}方位のランダム強度比を向上させる効果及び結晶粒微細化の効果が得られず、成形性の向上及び加工肌荒れ抑制を実現することができないため、斜め方向への圧延の角度は20°を下限とする。同様に70°以上でも成形性向上かつ結晶粒微細化できないため、70°を上限とする。また、斜め方向への冷延率RCが20%より小さい場合も同様に成形性向上かつ結晶粒微細化できないため冷延率RCの下限を20%とする。
【0098】
熱間圧延方向へのトータル冷延率RL:20%以上
【0099】
本発明における斜め圧延の効果は、単に斜めに圧延することではなく、複数の方向への圧延を組み合わせることによって得られる。したがって、熱延板焼鈍を実施した鋼板の場合、斜め方向への冷延率RCでの冷間圧延に加えて、熱間圧延方向への冷延率RLでの冷間圧延を20%以上行う。
【0100】
ただし、熱延板焼鈍を省略する場合は、熱間圧延方向と斜め方向への冷間圧延の組み合わせにより、狙いの効果を得ることができるため、熱間圧延方向への冷間圧延を省略してもよい。
【0101】
(IV)熱処理工程(仕上げ焼鈍工程)
【0102】
以上のような冷間圧延で得られた冷延鋼板に、再結晶を目的とした熱処理を施し熱処理鋼板を得る。熱処理温度は、再結晶温度をTとしたときT~T+30℃の範囲で行うことが好ましい。温度が低すぎると未再結晶組織となり成形性を劣化させ、高すぎると結晶粒成長により加工肌荒れが大きくなる。
【実施例
【0103】
次に本発明の実施例を示す。
【0104】
表1~2に示すステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて表3~4に記載の板厚に圧延し、板厚1.0mmまで冷間圧延した後、冷延板焼鈍を施して製品板を製造した。なお、一部の熱延板は熱延板焼鈍を980℃で2分施した後に冷間圧延、冷延板焼鈍を施した。各工程条件は表2のように変化させた。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
製造されたステンレス鋼板に対して、以下の評価を行った。
【0110】
<結晶粒度番号>
【0111】
結晶粒度番号は、JIS G 0551(2013)の線分法で求めた。成形後の肌荒れが軽度である9.0以上を合格とした。
【0112】
<ランダム強度比>
【0113】
ランダム強度比は、鋼板の圧延面に平行な面について板厚tの1/2t位置のX線回折を実施し、得られたデータを用いて非特許文献1に記載のBungeの手法を用いて3次元方位解析により求めた。絞り比2.4以上の深絞り成形が可能となるI{111}<112>≧9、I{111}<110>≧6、I{411}<148>≦1を合格とした。
【0114】
<平均r値>
【0115】
平均r値は、JIS Z 2254(2008年)の塑性ひずみ比試験方法により測定し、JIS Z 2254(2008年)に従い、式(1)により求めた。
【0116】
平均r値=(r0+2r45+r90)/4 ・・・ 式(1)
【0117】
絞り比2.4以上の深絞り成形が可能な目安とされる1.50以上を合格とし、1.50未満を不合格とした。
【0118】
<成形性>
製品板よりφ120mmの試験片を切り出し、直径よりも高さの大きい円筒を1回の工程で成形可能となる絞り比2.4でカップ成形試験を実施した。なお、今回実施した条件はポンチ径が50mm、ポンチ肩Rが5R、クリアランスが片側1.2mm、鋼板とポンチ間の潤滑は防錆油Z3を塗布後にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シートを貼り付けた。
【0119】
絞り比2.4のカップ成形試験を完了できた試料について成形性を「〇」、成形途中で破断した試料について成形性を「×」と評価した。
【0120】
<成形後肌荒れ>
【0121】
絞り比2.4で成形ができた試料についてはカップ成形後の肌荒れを算術平均粗さRaにて評価した。
【0122】
カップの縦壁部内側のカップ底部から高さ15mm~20mmの位置において、高さ方向に平行に5mm長さについて接触式の表面粗さ測定機を用いてJIS B 0601に記載の表面粗さ測定を行い、算術平均粗さRaを算出した。
【0123】
成形後の肌荒れが軽度であり80番手程度の粗研磨による凹凸の除去が不要となる算術平均粗さRa≦1.2の場合に成形後肌荒れを合格とし、粗研磨による凹凸除去が必須となるRa>1.2の場合に不合格とした。
【0124】
評価結果を、表5に示す。
【0125】
【表5】
【0126】
本発明によれば、冷延方向及び冷延率を適正に実施することでランダム強度比を制御し、成形性及び成形後の耐研磨性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。表5に示すとおり、発明例では、絞り比2.4で破断することなく成形加工を完了することが可能であり、かつ、Ra≦1.2μmであり加工肌荒れは抑制された。
【0127】
表5に示す比較例である符号c1,c4,c5,c9では結晶粒度及びランダム強度比、平均r値は請求範囲内にあるが、c1はCr、c4はSi、c5はMn、c9はAlの含有量がそれぞれ過剰であり、高強度化かつ低延性化したことにより、成形途中で破断して成形加工を完了することができなかった。また符号c14では平均r値は高くカップ成形を行うことはできたが結晶粒度番号が大きく、成形後の加工肌荒れが大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、従来のステンレス鋼板の製造方法に対し、圧延の一部を斜め方向に実施するのみで、従来よりも格段に優れる特性が得られるため、産業上の利用可能性は大きい。また、製品の形態は問わず、切り板でもコイルでも構わない。特に、家電製品の筺体、又は器物のように比較的厳しい成形性が要求される用途に好適である。