(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
G03G9/087 325
G03G9/087 331
(21)【出願番号】P 2020191860
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕也
(72)【発明者】
【氏名】椿 頼尚
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-056143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、及びスチレン系樹脂を含むトナー粒子を有するトナーであって、
前記結着樹脂が、非晶性ポリエステル樹脂を含み、
前記結晶性ポリエステル樹脂のSP値をSPa、前記スチレン系樹脂のSP値をSPbとすると、
0.6≦SPa-SPb≦1.0を満たし、
前記結晶性ポリエステル樹脂の融点をT1、前記スチレン系樹脂のガラス転移温度をT2とすると、-10<T2-T1<5を満た
し、
前記スチレン系樹脂の平均分散径が0.3μm以上0.8μm以下であることを特徴とするトナー。
【請求項2】
請求項1に記載のトナーであって、
前記スチレン系樹脂の重量平均分子量が、10000以下であることを特徴とするトナー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記スチレン系樹脂のガラス転移温度T2が、50℃以上75℃以下であることを特徴とするトナー。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のトナーであって、
前記トナー粒子中の前記スチレン系樹脂の含有量が、1重量%以上10重量%以下であることを特徴とするトナー。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のトナーであって、
前記トナー粒子中の前記結晶性ポリエステル樹脂の含有量が、1重量%以上10重量%以下であることを特徴とするトナー。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか1つに記載のトナーであって、
前記非晶性ポリエステル樹脂のSP値をSPcとすると、SPc-SPaが2.1以下であることを特徴とするトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した複写機、複合機、プリンタ、ファクシミリ装置等の画像形成装置に使用されるトナー(電子写真用トナー)には、近年、画像形成装置の省エネルギー化に伴い、更なる低温定着化が求められている。
【0003】
トナー粒子に結晶性ポリエステル樹脂を添加することで低温定着性が向上するが、更なる低温定着化を達成するためには、結晶性ポリエステル樹脂とメイン樹脂との組み合わせをより相溶性の高いものにしたり、結晶性ポリエステル樹脂の添加量を増やしたりする必要がある。
【0004】
しかしながら、結晶性ポリエステル樹脂とメイン樹脂との相溶化を促進させたり、結晶性ポリエステル樹脂の添加量を増やしたりしていくと、トナーの低温定着性は向上するものの、トナーの流動性は大きく悪化してしまう。トナーの流動性が悪化すると、トナーカートリッジからの落下量が低下したり、キャリアスペント(キャリアにトナー粒子が固着する現象)が加速したりする問題がある。
【0005】
そこで、結晶性ポリエステル樹脂を含んだトナー粒子にさらにスチレン系樹脂を添加することで、トナー粒子表面(粉砕界面)にスチレン系樹脂が存在しやすくなり、結晶性ポリエステル樹脂のトナー粒子表面への露出が減るため、トナーの流動性は改善する。
【0006】
結晶性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂とを含むトナーとして、例えば、特許文献1には、懸濁重合法により製造された、結晶性樹脂、スチレンアクリル系樹脂等の極性樹脂、及び着色剤を含有するトナーについて開示されている。また、特許文献2には、結晶性ポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂、及び特定の構造を有する重合体を含有するトナーについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-4868号公報
【文献】特許第6460904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のようにスチレン系樹脂を添加したトナーにおいては、ポリエステル樹脂と比較して紙との馴染みが悪いスチレン系樹脂が、低温定着性を阻害してしまっていた。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、結晶性ポリエステル樹脂及びスチレン系樹脂を含むトナーにおいて、低温定着性と流動性とを両立したトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研鑽した結果、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂との相溶性により、トナーの低温定着性及び流動性が大きく変わることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によるトナーは、結着樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、及びスチレン系樹脂を含むトナー粒子を有する。そして、前記結着樹脂が、非晶性ポリエステル樹脂を含み、前記結晶性ポリエステル樹脂のSP値(溶解度パラメータ)をSPa、前記スチレン系樹脂のSP値をSPbとすると、0.5≦SPa-SPb≦1.5を満たし、前記結晶性ポリエステル樹脂の融点をT1、前記スチレン系樹脂のガラス転移温度をT2とすると、-10<T2-T1<5を満たす。
【0012】
上記の本発明によれば、SPa、SPb、T1、及びT2が上記の関係を満たすことにより、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂との相溶性が適切にコントロールされているため、スチレン系樹脂により低温定着性を阻害されることがなく、トナーの低温定着性を保ちつつ、流動性に優れたトナーを実現することができる。
【0013】
上記のトナーにあっては、前記スチレン系樹脂の重量平均分子量が10000以下であることが好ましい。
【0014】
スチレン系樹脂の重量平均分子量が高くなるにつれ、トナーの低温定着性が阻害されやすくなる。スチレン系樹脂の重量平均分子量が上記上限以下であることにより、低温定着性が阻害されにくくなり、より低温定着性に優れたトナーを実現することができる。
【0015】
上記のトナーにあっては、前記スチレン系樹脂のガラス転移温度T2が50℃以上75℃以下であることが好ましい。
【0016】
スチレン系樹脂のガラス転移温度が上記範囲内であることにより、低温定着性、流動性、及び耐熱保存性に優れたトナーとなる。
【0017】
上記のトナーにあっては、前記トナー粒子中の前記スチレン系樹脂の含有量が1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0018】
スチレン系樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、トナーの低温定着性と流動性とをさらに両立しやすくなる。
【0019】
上記のトナーにあっては、前記トナー粒子中の前記結晶性ポリエステル樹脂の含有量が1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0020】
結晶性ポリエステル樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、トナーの低温定着性と流動性とをさらに両立しやすくなる。
【0021】
上記のトナーにあっては、前記スチレン系樹脂の平均分散径が1μm以下であることが好ましい。
【0022】
スチレン系樹脂の平均分散径が上記範囲内であることにより、スチレン系樹脂のトナー表面への露出が多くなりすぎず、トナーの低温定着性と流動性とをさらに両立しやすくなる。
【0023】
上記のトナーにあっては、前記非晶性ポリエステル樹脂のSP値をSPcとすると、SPc-SPaが2.1以下であることが好ましい。
【0024】
SPa及びSPcが上記の関係を満たすことにより、結晶性ポリエステル樹脂が分散不良を起こしにくくなり、トナーの低温定着性と流動性とをさらに両立しやすくなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、低温定着性と流動性とを両立したトナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】結晶性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂とを含む従来のトナーの断面構成と、本発明の実施形態に係るトナーの断面構成とを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[トナー、トナー粒子]
本発明のトナーは、結着樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、及びスチレン系樹脂を含むトナー粒子を有する。さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、任意成分を含有していてもよい。トナー粒子の一次粒子の体積平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、体積平均粒子径が4μm以上8μm以下のトナー粒子が挙げられる。以下でそれぞれの成分について説明する。
【0028】
なお、本発明において、結晶性樹脂と非晶性樹脂とは、結晶性指数により区別され、結晶性指数が0.6以上1.5以下の範囲にある樹脂を結晶性樹脂とし、結晶性指数が0.6未満であるか又は1.5を超える樹脂を非晶性樹脂とする。結晶性指数が1.5を超える樹脂は非晶性であり、また、結晶性指数が0.6未満である樹脂は結晶性が低く、非晶性部分が多い。
【0029】
なお、結晶性指数とは、樹脂の結晶化の度合いの指標となる物性であり、軟化温度と吸熱の最高ピーク温度の比(軟化温度/吸熱の最高ピーク温度)により定義されるものである。ここで、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性ポリエステル樹脂においては、最高ピーク温度を融点とし、非晶性ポリエステル樹脂においては、最も高温側にあるピークをガラス転移点とする。
【0030】
結晶化の度合いは、原料モノマーの種類及び比率、並びに製造条件(例えば反応温度、反応時間、冷却速度)等を調整することで制御できる。
【0031】
<結着樹脂>
本発明に係るトナー粒子は、結着樹脂として非晶性ポリエステル樹脂を含有する。本発明の効果を損なわない範囲において、結着樹脂として非晶性ポリエステル樹脂以外の成分を含有していてもよい。
【0032】
(非晶性ポリエステル樹脂)
本発明のトナーに用いる非晶性ポリエステル樹脂は、テレフタル酸又はイソフタル酸を主成分として含むジカルボン酸モノマーと、エチレングリコールを主成分として含むジオールモノマーとを重縮合させて得られる非晶性ポリエステル樹脂である。
【0033】
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用されるジカルボン酸モノマーは、テレフタル酸又はイソフタル酸を主成分として含む。ここで、ジカルボン酸モノマーに占めるテレフタル酸又はイソフタル酸のモル含有率は、70%以上100%以下であることが好ましく、80%以上100%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
また、上記ジカルボン酸モノマーは、テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸を含むことができる。テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸等が挙げられる。上記ジカルボン酸モノマーは、テレフタル酸又はイソフタル酸のエステル形成性誘導体や、テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、脂肪族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体も含むことができる。本発明において、エステル形成性誘導体には、カルボン酸の酸無水物やアルキルエステル等が含まれる。なお、テレフタル酸及びイソフタル酸以外のジカルボン酸モノマーを用いる場合、該ジカルボン酸モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
非晶性ポリエステル樹脂の合成においては、上記ジカルボン酸モノマーと共に、3価以上のポリカルボン酸モノマーを用いてもよい。3価以上のポリカルボン酸モノマーとしては、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のポリカルボン酸やそのエステル形成性誘導体が使用できる。3価以上のポリカルボン酸モノマーを用いる場合、該ポリカルボン酸モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用されるジオールモノマーは、エチレングリコールを主成分として含む。ここで、ジオールモノマーに占めるエチレングリコールのモル含有率は、70%以上100%以下であることが好ましく、80%以上100%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
また、上記ジオールモノマーは、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等を含むことができる。エチレングリコール以外のジオールモノマーを用いる場合、該ジオールモノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明のトナーに用いる非晶性ポリエステル樹脂は、通常のポリエステル製造法と同様にして製造できる。例えば、ジカルボン酸モノマーと、ジオールモノマーと、場合により3価以上のポリカルボン酸モノマーとを用いて、窒素ガス雰囲気中、190~240℃の温度にて重縮合反応を行うことにより、非晶性ポリエステル樹脂を合成することができる。
【0039】
上記重縮合反応において、ジオールモノマーと、カルボン酸モノマー(ジカルボン酸モノマーと、場合により3価以上のポリカルボン酸モノマーとを含む)との反応比率は、水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]:[COOH]として、1.3:1~1:1.2が好ましい。また、上記重縮合反応において、カルボン酸モノマーに占めるジカルボン酸モノマーのモル含有率は、80~100%であることが好ましい。さらに、上記重縮合反応においては、必要に応じてジブチルスズオキシドやチタンアルコキシド(例えばテトラブトキシチタネート)等のエステル化触媒を使用することができる。
【0040】
上記非晶性ポリエステル樹脂のSP値(溶解度パラメータ)は、10以上12.5以下が好ましい。
本発明のトナーにおいて、非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、特に限定されないが、トナー粒子中60重量%以上85重量%以下であることが好ましい。
【0041】
<結晶性ポリエステル樹脂>
本発明のトナーにおいては、結晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル樹脂中に分散している。結晶性ポリエステル樹脂は、炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸を主成分として含むジカルボン酸モノマーと、炭素数2~10の脂肪族ジオールを主成分として含むジオールモノマーとを重縮合させて得られる直鎖状飽和脂肪族ポリエステルユニットで構成される結晶性ポリエステル樹脂である。直鎖状飽和脂肪族ポリエステルユニットで構成されることで、この結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂が相溶しにくくなる。
【0042】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用されるジカルボン酸モノマーは、炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸を主成分として含む。ここで、ジカルボン酸モノマーに占める炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸のモル含有率は、80%以上100%以下であることが好ましい。
【0043】
上記炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アゼライン酸、ゼバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸等が挙げられる。また、ジカルボン酸モノマーは、これら脂肪族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体も含むことができる。なお、これらジカルボン酸モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
結晶性ポリエステル樹脂の合成においては、上記ジカルボン酸モノマーと共に、3価以上のポリカルボン酸モノマーを用いてもよい。3価以上のポリカルボン酸モノマーとしては、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のポリカルボン酸やそのエステル形成性誘導体が使用できる。3価以上のポリカルボン酸モノマーを用いる場合、該ポリカルボン酸モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用されるジオールモノマーは、炭素数2~10の脂肪族ジオールを主成分として含む。ここで、ジオールモノマーに占める炭素数2~10の脂肪族ジオールのモル含有率は、80%以上100%以下であることが好ましい。
【0046】
上記炭素数2~10の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。なお、これらジオールモノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
結晶性ポリエステル樹脂の合成においては、上記ジオールモノマーと共に、3価以上のポリオールモノマーを用いてもよい。3価以上のポリオールモノマーとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン等が使用できる。3価以上のポリオールモノマーを用いる場合、該ポリオールモノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本発明のトナーに用いる結晶性ポリエステル樹脂は、通常のポリエステル製造法と同様にして製造できる。例えば、ジカルボン酸モノマーと、ジオールモノマーと、場合により3価以上のポリカルボン酸モノマーや3価以上のポリオールモノマーとを用いて、窒素ガス雰囲気中、190~240℃の温度にて重縮合反応を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂を合成することができる。
【0049】
上記重縮合反応において、ポリオールモノマー(ジオールモノマーと、場合により3価以上のポリオールモノマーとを含む)の水酸基と、カルボン酸モノマー(ジカルボン酸モノマーと、場合により3価以上のポリカルボン酸モノマーとを含む)のカルボキシル基との当量比(OH基/COOH基)は、保存性の観点等から、0.83~1.3が好ましい。また、上記重縮合反応において、カルボン酸モノマーに占めるジカルボン酸モノマーのモル含有率は、90~100%であることが好ましい。該ジカルボン酸モノマーのモル含有率が小さい程、結晶化の割合や速度が低くなり、耐トナー凝集性が不十分になる。更に、上記重縮合反応において、ポリオールモノマーに占めるジオールモノマーのモル含有率は、80~100%であることが好ましい。なお、上記重縮合反応においては、必要に応じてジブチルスズオキシドやチタンアルコキシド(例えばテトラブトキシチタネート)等のエステル化触媒を使用することができる。
【0050】
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、50℃以上が好ましく、定着性、保存性及び耐久性等の観点から、60~90℃がさらに好ましい。融点が50℃未満だと、耐久性が不十分となる場合がある。また、融点が90℃以上だと、定着性が不十分となる場合がある。
【0051】
結晶性ポリエステル樹脂のSP値は、9.5以上10.5以下であることが好ましい。
【0052】
本発明のトナーにおいては、結晶性ポリエステル樹脂のSP値をSPa、非晶性ポリエステル樹脂のSP値をSPcとすると、SPc-SPaが2.1以下であることが好ましく、1.0以上1.8以下であることがより好ましい。SPc-SPaが上記上限を超える場合、結晶性ポリエステル樹脂の分散径が大きくなり、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び流動性が低下するおそれがある。一方、SPc-SPaが上記下限未満の場合、低温定着性には優れるものの、耐熱保存性が悪化するおそれがある。
【0053】
本発明に係るトナー粒子中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、5重量%以上8重量%以下であることがより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、トナーの低温定着性と流動性とをより両立しやすくなる。当該含有量が上記下限未満の場合、トナーの低温定着性が不十分となるおそれがある。一方、当該含有量が上記上限を超える場合、トナーの流動性が悪化するおそれがある。
【0054】
<スチレン系樹脂>
スチレン系樹脂としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体及びこれらの共重合体、並びにスチレン系単量体と共重合可能なビニル単量体とスチレン系単量体との共重合体が挙げられる。ビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等の単官能単量体や、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の二官能単量体等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを意味する。これらのスチレン系樹脂の中でも、スチレン又はα-メチルスチレンと(メタ)アクリレートとの共重合体(スチレンアクリル共重合体)が好ましい。
【0055】
本発明のトナーにおいては、結晶性ポリエステル樹脂のSP値をSPa、スチレン系樹脂のSP値をSPbとすると、0.5≦SPa-SPb≦1.5を満たし、結晶性ポリエステル樹脂の融点をT1、スチレン系樹脂のガラス転移温度をT2とすると、-10<T2-T1<5を満たす。SPa-SPbのより好ましい範囲としては、0.6≦SPa-SPb≦1.0である。T2-T1のより好ましい範囲としては、-5≦T2-T1≦3である。
【0056】
SPa、SPb、T1、及びT2が上記の関係を満たすことにより、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂との相溶性が適切にコントロールされているため、スチレン系樹脂により低温定着性を阻害されることがない。したがって、本発明のトナーによれば、低温定着性と流動性とを両立することができる。
図1に、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂とを含む従来のトナーの断面構成と、本発明の実施形態に係るトナーの断面構成との概念図を示す。このように、スチレン系樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが適度に相溶することで、スチレン系樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂がそれぞれの特徴(流動性及び低温定着性)を発揮することができ、トナーカートリッジからの落下量低下や、キャリアスペントを抑制することができる。
【0057】
SPa-SPbが上記下限未満の場合、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂とが相溶しすぎて、低温定着性を阻害し、耐熱保存性及び流動性も悪化するおそれがある。SPa-SPbが上記上限を超える場合、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂とが非相溶のため、低温定着性及び耐熱保存性が悪化するおそれがある。
【0058】
T2-T1が上記範囲外の場合、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂との馴染みが悪化するおそれがある。
【0059】
スチレン系樹脂のガラス転移温度T2は、50℃以上75℃以下であることが好ましく、60℃以上70℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度T2が上記下限未満の場合、耐熱保存性が悪化するおそれがある。ガラス転移温度T2が上記上限を超える場合、低温定着性が阻害されるおそれがある。
【0060】
スチレン系樹脂の重量平均分子量は、10000以下であることが好ましく、3000以上6000以下であることがより好ましい。重量平均分子量が上記上限を超える場合、低温定着性が悪化するおそれがある。
【0061】
本発明に係るトナー粒子中のスチレン系樹脂の含有量は、1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、5重量%以上8重量%以下であることがより好ましい。スチレン系樹脂の含有量が上記上限を超える場合、スチレン系樹脂により低温定着性が阻害されるおそれがある。スチレン系樹脂の含有量が上記下限未満の場合、スチレン系樹脂によるトナーの流動性改善の効果が不十分となるおそれがある。
【0062】
スチレン系樹脂の平均分散径は、1μm以下であることが好ましく、0.3μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。スチレン系樹脂の平均分散径が上記範囲内であることにより、スチレン系樹脂のトナー表面への露出が多くなりすぎず、トナーの低温定着性と流動性とをさらに両立しやすくなる。スチレン系樹脂の平均分散径が上記上限を超える場合、スチレン系樹脂がトナー表面に露出しやすくなり、低温定着性が阻害されるおそれがある。スチレン系樹脂の平均分散径が上記下限未満の場合、スチレン系樹脂によるトナーの流動性改善の効果が不十分となるおそれがある。
【0063】
<その他の内添剤>
本発明に係るトナー粒子は、必要に応じて、上記以外の内添剤を含有していてもよい。上記以外の内添剤としては、例えば、着色剤や帯電制御剤が挙げられる。着色剤や帯電制御剤は、結着樹脂中に分散している。
【0064】
着色剤としては、特に限定されず、電子写真分野で用いられる有機系染料、有機系顔料、無機系染料、無機系顔料等を使用できる。
【0065】
黒色の着色剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭、非磁性フェライト、磁性フェライト及びマグネタイトを使用できる。
【0066】
イエローの着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185を使用できる。
【0067】
マゼンタの着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222を使用できる。
【0068】
シアンの着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60等を挙げることができる。
【0069】
本発明のトナーにおいて、着色剤の含有量は特に限定されないが、トナー粒子中4重量%以上10重量%以下であることが好ましい。着色剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。着色剤は、結着樹脂中に均一に分散させるために、マスターバッチ化して用いてもよい。
【0070】
帯電制御剤は、トナーに好ましい帯電性を付与するために添加される。帯電制御剤としては、特に限定されず、電子写真分野で用いられる正電荷制御用及び負電荷制御用の帯電制御剤を使用できる。
【0071】
正電荷制御用の帯電制御剤としては、例えば、四級アンモニウム塩、ピリミジン化合物、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、アミジン塩を使用できる。
【0072】
負電荷制御用の帯電制御剤としては、例えば、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、サリチル酸及びその誘導体の金属錯体及び金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウム等)、有機ベントナイト化合物、ホウ素化合物を使用できる。
【0073】
本発明のトナーにおいて、帯電制御剤の含有量は特に限定されないが、トナー粒子中0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましい。帯電制御剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0074】
<外添剤>
本発明に係るトナーは、必要に応じて、外添剤が添加されていてもよい。外添剤は、トナー粒子の表面に付着している。なお、以下において適宜、本発明に係るトナーのうち、外添剤が表面に付着したトナー粒子を有するトナーのことを、外添トナーという。
【0075】
外添剤としては、特に限定されず、電子写真分野で用いられる外添剤を使用できる。本発明に係るトナーにおいて、外添剤の含有量は特に限定されないが、トナー粒子100重量部に対して0.5重量部以上3重量部以下であることが好ましい。外添剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0076】
<トナーの製造方法>
本発明のトナーは、粉砕法により製造することができる。粉砕法による本発明のトナーの製造方法は、混合工程、混練工程、冷却工程、粉砕工程、分級工程及び外添工程を含む。
【0077】
混合工程では、結着樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、スチレン系樹脂、及び必要に応じてその他の内添剤を混合し、混合物を得る。混練工程では、混合工程で得た混合物を二軸混練機により溶融しながら混練して、結着樹脂中に結晶性ポリエステル樹脂、スチレン系樹脂、及びその他の内添剤をさらに均一に分散させ、混練物を得る。冷却工程では、混練工程で得た混練物を冷却して固化し、固化物を得る。
【0078】
粉砕工程では、冷却工程で得た固化物を粉砕機によって粉砕して、粉砕物を得る。粉砕機としては、例えば、超音速ジェット気流を利用して粉砕するジェット式粉砕機、及び、高速で回転する回転子(ロータ)と固定子(ライナ)との間に形成される空間に固化物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機が挙げられる。粉砕工程では、粉砕条件を適宜に変更することによって、トナー粒子の平均円形度を調整することができる。粉砕条件の変更の一例として、衝撃式粉砕機の回転子の回転数を1000rpmから10000rpmまでの範囲内で変更することが挙げられる。
【0079】
分級工程では、粉砕工程で得た粉砕物の粒度調整を行う。これによってトナー粒子が得られる。分級機としては、遠心力による分級及び風力による分級によって、過粉砕されたトナー粒子を除去できる公知の分級機を使用することができる。例えば、旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)等を使用することができる。外添工程では、トナー粒子と外添剤とをヘンシェルミキサ等の粉体混合機で混合することによって、トナー粒子に外添剤を付着させる。外添工程では、混合条件を適宜に変更することによって、トナー粒子に対する外添剤の付着強度を調整することができる。混合条件の変更の一例として、粉体混合機の攪拌羽根の回転数を1000rpmから1500rpmまでの範囲内で変更することが挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0081】
<非晶性ポリエステル樹脂の製造例>
(非晶性ポリエステル樹脂A)
反応槽中に、テレフタル酸440g(2.7モル)、イソフタル酸235g(1.4モル)、アジピン酸7g(0.05モル)、エチレングリコール554g(8.9モル)、重合触媒としてテトラブトキシチタネート0.5gを入れ、210℃で窒素気流下に生成する水とエチレングリコールとを留去しながら5時間反応させた後、666.7Pa(5mmHg)~2666.4Pa(20mmHg)の減圧下に1時間反応させた。次いで、無水トリメリット酸103g(0.54モル)を加え、常圧下で1時間反応させた後、2666.4Pa(20mmHg)~5332.9Pa(40mmHg)の減圧下で反応させ、所定の軟化点で樹脂を取り出した。回収されたエチレングリコールは219g(3.5モル)であった。得られた樹脂を室温まで冷却した後、粉砕により粒子化した。これを非晶性ポリエステル樹脂Aとした。非晶性ポリエステル樹脂AのSP値(SPc)は11.6であった。
【0082】
(非晶性ポリエステル樹脂B~D)
以下の表1に示すSP値(SPc)となるように、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、及びエチレングリコールの配合量を調整した以外は、上記の非晶性ポリエステル樹脂Aと同様にして、非晶性ポリエステル樹脂B~Dを得た。
【0083】
【0084】
<結晶性ポリエステル樹脂の製造例>
(結晶性ポリエステル樹脂A)
反応槽中に、1,6-ヘキサンジオール132g(1.12モル)、1、10-デカンジカルボン酸230g(1.0モル)、及び重合触媒としてテトラブトキシチタネート3gを入れ、210℃で常圧下に生成する水を留去しながら5時間反応させた。次いで、666.7Pa(5mmHg)~2666.4Pa(20mmHg)の減圧下で反応を継続し、酸価が2mgKOH/g以下になったところで樹脂を取り出した。得られた樹脂を室温まで冷却した後、粉砕により粒子化した。これを結晶性ポリエステル樹脂Aとした。結晶性ポリエステル樹脂AのSP値(SPa)は9.8であった。
【0085】
(結晶性ポリエステル樹脂B~G)
以下の表2に示す融点及びSP値(SPa)となるように、1,6-ヘキサンジオール及び1、10-デカンジカルボン酸の配合量を調整した以外は、上記の結晶性ポリエステル樹脂Aと同様にして、結晶性ポリエステル樹脂B~Gを得た。
【0086】
【0087】
<スチレン系樹脂の製造例>
(スチレンアクリル共重合体樹脂A)
反応槽中に、スチレン76重量部、アクリル酸n-ブチル24重量部、及びキシレン溶媒80重量部からなる溶液に1.5重量部のジ-t-ブチルパーオキサイドを均一に溶解したキシレン溶液20重量部を、内温190℃、内圧6kg/cm2に保持した5Lの反応器に750mL/時間で連続的に供給して重合させ、スチレンアクリル樹脂の溶液を得た。90℃、10mmHgのベッセル中にフラッシュして溶剤等を留去した後、粗粉砕機を用いて粗粉砕を行い、スチレンアクリル樹脂の1mmのチップを得た。
【0088】
(スチレンアクリル共重合体樹脂B~I)
以下の表3に示すガラス転移温度、重量平均分子量、及びSP値(SPb)となるように、スチレン及びアクリル酸n-ブチルの配合量を調整した以外は、上記のスチレンアクリル共重合体樹脂Aと同様にして、スチレンアクリル共重合体樹脂B~Iを得た。
【0089】
【0090】
<トナー粒子の作製例>
[実施例1]
(材料混合・混練・粉砕・分級工程)
ヘンシェルミキサを用いて、以下の成分を5分間前混合した後、二軸押出機を用いて、シリンダ設定温度110℃、バレル回転数300rpm、原料供給速度20kg/時間で溶融混練して溶融混練物を得た。
・結着樹脂:非晶性ポリエステル樹脂A 75重量%
・結晶性ポリエステル樹脂A 8重量%
・着色剤:カーボンブラック(キャボット株式会社製、商品名:Regal330) 6重量%
・離型剤:エステル系ワックス(融点73℃、日油株式会社製、商品名:WEP3) 3重量%
・離型剤分散剤:スチレンアクリル共重合体樹脂A 6重量%
・帯電制御剤:サリチル酸系化合物(オリエント化学工業株式会社、商品名:ボントロE84) 2重量%
【0091】
得られた溶融混練物を、冷却ベルトで冷却させた後、カッテングミルを用いて粗粉砕し、次いでジェット式粉砕機を用いて微粉砕し、さらに風力分級機を用いて分級して、平均粒子径6.5μmのトナー粒子(トナー母体粒子)を得た。
【0092】
(外添工程)
上記工程で得たトナー粒子(トナー母体粒子)100重量部に、市販のシリカ微粒子(商品名:R976、アエロジル社製、平均一次粒子径7nm)を1.0重量部加えて、撹拌羽根の先端速度を40m/秒に設定した気流混合機(三井鉱山株式会社製、ヘンシェルミキサ)で2分間撹拌することによって外添トナーを得た。
【0093】
[実施例2~16、20~22]
実施例2~16、20~22においては、結晶性ポリエステル樹脂、及びスチレン系樹脂を、後掲する表4に示す組み合わせ及び添加量にて添加し、これらの添加量に合わせて非晶性ポリエステル樹脂の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして、外添トナーを得た。
【0094】
[実施例17~19]
実施例17~19においては、スチレン系樹脂の平均分散径が後掲する表4に示す値となるように混練条件を変更した以外は、実施例1と同様にして、外添トナーを得た。
【0095】
[比較例1]
比較例1においては、スチレン系樹脂を添加せず、非晶性ポリエステル樹脂の添加量を82重量%、結晶性ポリエステル樹脂の添加量を7重量%とした以外は、実施例1と同様にして、外添トナーを得た。
【0096】
[比較例2~4]
比較例2~4においては、結晶性ポリエステル樹脂、及びスチレン系樹脂を、後掲する表4に示す組み合わせ及び添加量にて添加し、これらの添加量に合わせて非晶性ポリエステル樹脂の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして、外添トナーを得た。
【0097】
<評価>
実施例及び比較例のトナーについて、下記方法に従い各種測定を行い、トナーの低温定着性、高温定着性、流動性及び耐熱保存性を評価した。評価結果を表4に示す。なお、表4中、T1は結晶性ポリエステル樹脂の融点を、T2はスチレン系樹脂のガラス転移温度を、SPaは結晶性ポリエステル樹脂のSP値を、SPbはスチレン系樹脂のSP値を、SPcは非晶性ポリエステル樹脂のSP値を表す。
【0098】
(SP値の測定方法)
SP値の測定方法としては、スー、クラーク(SUH,CLARKE)の方法(スー、クラーク(K.W.Suh,D.H.Clarke)著、「Cohesive Energy Densities of Polymers from Turbidimetric Titrations」、Journal of Polymer Science、A-1、vol.5、1967年、p.1671-1681)に従って、次のようにして測定した。
【0099】
測定する樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒(ジオキサン及びアセトンの混合溶液)10mlをホールピペットにて加え、マグネチックスターラーにより撹拌して溶解し、これに、疎水性溶媒(n-ヘキサン及びイオン交換水の混合溶液)を、50mlビュレットを用いて滴下し、測定温度20℃で、濁りが生じた点を滴下量とした。
【0100】
測定値から、樹脂のSP値δは、下記式によって求めた。
δ=(Vl/2δl+Vh/2δh)/(Vl/2+Vh/2)
上記式中、Vlは、低SP溶媒(疎水性溶媒)混合系における溶媒の分子容(ml/mol)であり、Vhは、高SP溶媒(良溶媒)混合系における溶媒の分子容(ml/mol)であり、δlは、低SP溶媒(疎水性溶媒)混合系における溶媒のSP値であり、δhは、高SP溶媒(良溶媒)混合系における溶媒のSP値である。
【0101】
(DSC測定による各種ピーク温度の測定方法)
示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用いて、試料1gを昇温速度毎分10℃で、150℃まで加熱した後、150℃のまま2分保持し、冷却速度毎分10℃で、30℃まで冷却させて、DSC曲線を測定した。得られたDSC曲線の昇温時の吸熱ピーク温度と、冷却時の発熱ピーク温度を求め、昇温時の吸熱ピーク温度を融点とした。
【0102】
(DSC測定によるガラス転移温度の測定方法)
日本産業規格(JIS)K7121-1987に準じ、示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用いて、試料1gを昇温速度毎分10℃で加熱してDSC曲線を測定した。得られたDSC曲線のガラス転移に相当する吸熱ピークの高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ピークの立ち上がり部分から頂点までの曲線に対して勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度をガラス転移温度として求めた。
【0103】
(トナー粒子中に分散したスチレン系樹脂の平均分散径の測定方法)
実施例及び比較例のトナー粒子を常温硬化性のエポキシ樹脂に包埋して得られた硬化物を、ダイヤモンド歯を備えたウルトラミクロトーム(Reichert社製、商品名:ウルトラカットN)で面出しを行った。得られたトナー粒子の断面を、走査透過電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式:S-4800)で観察した。この電子顕微鏡写真データから無作為に相当数(200~300個)のスチレン系樹脂を抽出し、画像解析ソフト(商品名:A像くん、旭化成エンジニアリング株式会社製)で画像解析し、相当数のスチレン系樹脂の分散径を平均することによりトナー粒子中のスチレン系樹脂の平均分散径を求めた。
【0104】
(低温定着性及び高温定着性の評価方法)
評価用に改造した市販複写機(シャープ株式会社製、型式:MX-5100FN)を用いて、2成分現像剤による定着画像を形成した。まず、記録用紙(シャープ株式会社製、PPC用紙、型式:SF-4AM3)に、ベタ画像(縦20mm、横50mmの長方形)を含むサンプル画像を未定着画像として形成した。この際、ベタ画像におけるトナーの記録用紙への付着量が1.0mg/cm2になるよう調整した。
【0105】
次に、ベルト定着装置を用いて定着画像を作製した。定着プロセス速度を283mm/秒とし、定着ベルトの温度を110℃から5℃刻みで上げ、低温オフセット及び高温オフセットがそれぞれ起こらない最低温度及び最高温度を求めた。なお、「低温オフセット」及び「高温オフセット」とは、定着時にトナーが記録用紙に定着せずに、定着ベルトに付着したまま定着ベルトが一周した後に記録用紙に付着することと定義する。
【0106】
得られた結果から「低温定着性」を次の基準により判定した。
◎:非常に良好(最低温度が110℃未満)
○:良好(最低温度が110℃以上120℃未満)
△:可 (最低温度が120℃以上130℃未満)
×:不可(最低温度が130℃以上)
【0107】
また、得られた結果から「高温定着性」を次の基準により判定した。
◎:非常に良好(最高温度が195℃以上)
○:良好(最高温度が185℃以上195℃未満)
△:可 (最高温度が175℃以上185℃未満)
×:不可(最高温度が175℃未満)
【0108】
(耐熱保存性の評価方法)
高温保存後の凝集物の有無によって耐熱保存安定性を評価した。外添トナー20gをポリ容器に密閉し、50℃で72時間放置した後、トナーを取り出して230メッシュ(63μm)のふるいに掛けた。ふるい上に残存するトナーの重量を測定し、この残存量のトナー全重量に対する割合である残存率〔(72時間後のトナーの残存量)/(トナー全重量)×100〕を求め、下記の評価基準で評価した。残存率の数値が低いほど、トナーがブロッキングを起こしていないことを示す。
【0109】
耐熱保存性の評価基準は以下のとおりである。
◎:非常に良好(凝集なし。残存率が0.5%未満)
○:良好(凝集微量。残存率が0.5%以上2.0%未満)
△:可(凝集少量。残存率が2.0%以上10.0%未満)
×:不可(凝集多量。残存率が10.0%以上)
【0110】
(流動性の評価方法)
嵩比重測定器(JISカサ比重測定器、筒井理化学器械株式会社製)を用い、JIS K5101-12-1に従って緩み見掛け比重を測定し、2成分現像剤の流動性の評価を行った。緩み見掛け比重の値が大きいほど、流動性が良好であることを示す。
【0111】
流動性の評価基準は以下のとおりである。
◎:非常に良好(比重が0.36g/cm3以上0.41g/cm3未満)
○:良好(比重が0.33g/cm3以上0.36g/cm3未満)
△:可(比重が0.30g/cm3以上0.33g/cm3未満)
×:不可(比重が0.30g/cm3未満)
【0112】
<総合評価の方法>
上記の評価結果(低温定着性、高温定着性、流動性及び耐熱保存性)に基づいて、次の基準で総合評価した。
◎:非常に良好(全ての評価項目が○以上であり、◎が3つ以上である。)
○:良好(全ての評価項目が○以上であり、◎が2つ以下である。)
△:可(評価項目に×がなく、評価項目に1つでも△がある。)
×:不可(評価項目に1つでも×がある。)
【0113】
【0114】
表4から明らかなように、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、及びスチレン系樹脂を含有し、0.5≦SPa-SPb≦1.5を満たし、-10<T2-T1<5を満たす実施例1~22のトナーは、低温定着性、高温定着性、流動性、及び耐熱保存の評価が優れるものであった。
【0115】
これに対して、これらの要件を満たさない比較例1~4は、低温定着性か流動性の少なくとも一方の評価で実施例に対して劣っており、低温定着性と流動性とを両立したものではなかった。
【0116】
また、SPa-SPbが上記範囲の下限値である実施例2と比較して、実施例1は流動性や耐熱保存性の評価がより優れていることがわかる。また、SPa-SPbが上記範囲の上限値である実施例3と比較して、実施例1は低温定着性の評価がより優れていることがわかる。
【0117】
T2-T1が上記範囲の下限値付近である実施例4や、上限値付近である実施例5と比較して、実施例1は低温定着性の評価がより優れていることがわかる。
【0118】
スチレン系樹脂の重量平均分子量が10000を超える実施例7では、重量平均分子量が10000以下である実施例6と比較して低温定着性の評価がやや悪化していることがわかる。
【0119】
スチレン系樹脂のガラス転移温度T2が50℃以上である実施例9と比較して、50℃未満である実施例8では、耐熱保存性の評価がやや悪化していることがわかる。また、スチレン系樹脂のガラス転移温度T2が75℃以下である実施例10と比較して、75℃を超える実施例11では、低温定着性の評価がやや悪化していることがわかる。
【0120】
トナー粒子中のスチレン系樹脂の含有量が1重量%以上10重量%以下の範囲内である実施例12及び13と比較して、含有量が10重量%を超える実施例14では、低温定着性の評価がやや悪化していることがわかる。
【0121】
トナー粒子中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量が、1重量%以上10重量%の範囲内である実施例15と比較して、含有量が10重量%を超える実施例16では、流動性及び耐熱保存性の評価がやや悪化していることがわかる。
【0122】
スチレン系樹脂の平均分散径が1μm以下である実施例18と比較して、平均分散径が1μmを超える実施例19では、低温定着性の評価が悪化していることがわかる。また、平均分散径が0.2μmと比較的小さい実施例17では、スチレン系樹脂による流動性改善の効果がやや薄れていることがわかる。
【0123】
SPc-SPaが2.1以下である実施例21と比較して、SPc-SPaが2.1を超える実施例22では、低温定着性、流動性、及び耐熱保存性の評価がやや悪化していることがわかる。SPc-SPaが0.5と比較的小さい値である実施例20では、流動性及び耐熱保存性がやや悪化していることがわかる。
【0124】
<その他の実施形態>
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0125】
T トナー粒子
1 結晶性ポリエステル樹脂
2 結着樹脂
3 スチレン系樹脂