(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】異常検知システム、異常検知方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
G05B23/02 302V
(21)【出願番号】P 2020196311
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】酒見 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】若杉 一幸
(72)【発明者】
【氏名】酒井 渉
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/194534(WO,A1)
【文献】特開2019-96014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象の装置の稼働データを取得するデータ取得部と、
前記稼働データに含まれる監視対象の計測値である第1パラメータの値について、当該値が観測される確率を、異なる方法を用いて複数種類算出し、複数種類の前記確率のそれぞれについて、異常の程度を示すスコアを算出するスコア算出部と、
複数の前記スコアと、判定モデルと、に基づいて、複数の前記スコアそれぞれについて異常か否かを判定し、複数の前記判定の結果に基づいて、前記装置の異常を検知する異常検知部と、
を備え
、
複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記稼働データに含まれる前記装置の運転状態に関係する計測値である第2パラメータが示す運転状態において、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である、
異常検知システム。
【請求項2】
複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記第1パラメータとの関係性が強い所定の計測値である第3パラメータについて、前記稼働データに含まれる前記第3パラメータの値が観測されたときに、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である、
請求項
1に記載の異常検知システム。
【請求項3】
複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記第1パラメータを除く複数の他の計測値である第4パラメータについて、前記稼働データに含まれる第4パラメータの値が観測されたときに、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である、
請求項1
または請求項2の何れか1項に記載の異常検知システム。
【請求項4】
複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率密度である、
請求項1から請求項
3の何れか1項に記載の異常検知システム。
【請求項5】
前記異常検知部は、複数の前記スコアのうち値が最も大きいスコアに基づいて異常を検知する、
請求項1から請求項
4の何れか1項に記載の異常検知システム。
【請求項6】
前記異常検知部が検知した異常を出力する出力部、
をさらに備える請求項1から請求項
5の何れか1項に記載の異常検知システム。
【請求項7】
前記装置が正常な運転状態にあるときの前記稼働データに基づいて、前記スコア算出部が算出した複数種類の前記スコアのそれぞれについて、前記スコアが正常である範囲を示す前記判定モデルを作成する判定モデル作成部、
をさらに備える請求項1から請求項
6の何れか1項に記載の異常検知システム。
【請求項8】
複数種類の前記スコアの推移を示すグラフを含むレポートを作成するレポート作成部をさらに備える請求項1から請求項
7の何れか1項に記載の異常検知システム。
【請求項9】
異常検知システムが、
監視対象の装置の稼働データを取得し、
前記稼働データに含まれる監視対象の計測値である第1パラメータの値について、当該値が観測される確率を、異なる方法を用いて複数種類算出し、複数種類の前記確率のそれぞれについて、異常の程度を示すスコアを算出し、
複数の前記スコアと、判定モデルと、に基づいて、複数の前記スコアそれぞれについて異常か否かを判定し、複数の前記判定の結果に基づいて、前記装置の異常を検知
し、
複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記稼働データに含まれる前記装置の運転状態に関係する計測値である第2パラメータが示す運転状態において、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である、
異常検知方法。
【請求項10】
コンピュータに、
監視対象の装置の稼働データを取得し、
前記稼働データに含まれる監視対象の計測値である第1パラメータの値について、当該値が観測される確率を、異なる方法を用いて複数種類算出し、複数種類の前記確率のそれぞれについて、異常の程度を示すスコアを算出し、
複数の前記スコアと、判定モデルと、に基づいて、複数の前記スコアそれぞれについて異常か否かを判定し、複数の前記判定の結果に基づいて、前記装置の異常を検知
し、
複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記稼働データに含まれる前記装置の運転状態に関係する計測値である第2パラメータが示す運転状態において、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である処理、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常検知システム、異常検知方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラント、工場などの機械や設備の異常を検知するシステムが提案されている。例えば、特許文献1には、学習フェーズにて監視対象となる設備の稼動データを収集し、稼動データから異常検知モデルを構築し、監視フェーズでは、稼働データと異常検知モデルから、個々の稼動データに対して異常スコアを算出し、異常スコアが閾値を超過すると、異常が発生したと判断する異常検知システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
稼働データに含まれる温度や圧力などの1つの監視項目について異常スコアを算出し、その異常スコアを閾値によって判定する異常検知方法の場合、その監視項目の瞬時値で判断できる異常は検知することができる。しかし、例えば、設備の運転状態によっては、異常が発生していなくても監視項目の値が閾値を超過する場合があり、1つの監視項目の異常を1つの異常スコアにだけ注目して判定していては、異常検知の精度が低下してしまう可能性がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる異常検知システム、異常検知方法およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の異常検知システムは、監視対象の装置の稼働データを取得するデータ取得部と、前記稼働データに含まれる監視対象の計測値である第1パラメータの値について、当該値が観測される確率を、異なる方法を用いて複数種類算出し、複数種類の前記確率のそれぞれについて、異常の程度を示すスコアを算出するスコア算出部と、複数の前記スコアと、判定モデルと、に基づいて、複数の前記スコアそれぞれについて異常か否かを判定し、複数の前記判定の結果に基づいて、前記装置の異常を検知する異常検知部と、を備え、複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記稼働データに含まれる前記装置の運転状態に関係する計測値である第2パラメータが示す運転状態において、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である。
【0007】
本開示の異常検知方法では、異常検知システムが、監視対象の装置の稼働データを取得し、前記稼働データに含まれる監視対象の計測値である第1パラメータの値について、当該値が観測される確率を、異なる方法を用いて複数種類算出し、複数種類の前記確率のそれぞれについて、異常の程度を示すスコアを算出し、複数の前記スコアと、判定モデルと、に基づいて、複数の前記スコアそれぞれについて異常か否かを判定し、複数の前記判定の結果に基づいて、前記装置の異常を検知し、複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記稼働データに含まれる前記装置の運転状態に関係する計測値である第2パラメータが示す運転状態において、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である。
【0008】
本開示のプログラムは、コンピュータに、監視対象の装置の稼働データを取得し、前記稼働データに含まれる監視対象の計測値である第1パラメータの値について、当該値が観測される確率を、異なる方法を用いて複数種類算出し、複数種類の前記確率のそれぞれについて、異常の程度を示すスコアを算出し、複数の前記スコアと、判定モデルと、に基づいて、複数の前記スコアそれぞれについて異常か否かを判定し、複数の前記判定の結果に基づいて、前記装置の異常を検知し、複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記稼働データに含まれる前記装置の運転状態に関係する計測値である第2パラメータが示す運転状態において、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である処理を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
上述の異常検知システム、異常検知方法およびプログラムによれば、異常検知の精度を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る異常検知システムの構成例を示す機能ブロック図である。
【
図2A】実施形態に係る異常検知方法を説明する第1の図である。
【
図2B】実施形態に係る異常検知方法を説明する第2の図である。
【
図2C】実施形態に係る異常検知方法を説明する第3の図である。
【
図2D】実施形態に係る異常検知方法を説明する第4の図である。
【
図3】実施形態に係る異常検知の判定方法の一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係るレポートの一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る異常検知モデル作成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る異常検知処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る異常検知システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、実施形態に係る異常検知システムについて、
図1~
図7を参照しながら詳しく説明する。
(構成)
図1は、実施形態に係る異常検知システムの構成例を示す機能ブロック図である。
異常検知システム10は、監視対象の装置20から稼働データを取得し、稼働データの挙動を監視することで装置20の異常を検知する。装置20とは、例えば、プラントのボイラ、コンプレッサ、タービンなどの設備や、生産工場の工作機械などである。異常検知システム10は、データ取得部11と、スコア算出部12と、設定受付部13と、学習部14と、異常検知部15と、記憶部16と、レポート作成部17と、出力部18と、を備える。
【0012】
データ取得部11は、装置20の稼働データを取得する。稼働データとは、温度、圧力、流量、振動、電流、電力量、回転数など装置20に設けられたセンサが計測した計測値や計測値に基づいて算出された値である。データ取得部11は、稼働データとその稼働データの計測時刻とを装置20から取得する。以下、稼働データに含まれる計測値や計測値に基づいて算出された値をパラメータと記載する。
【0013】
スコア算出部12は、データ取得部11が取得した稼働データについて異常の程度を示すスコアを算出する。スコア算出部12は、第1スコア算出部121と、第2スコア算出部122と、第3スコア算出部123と、第4スコア算出部124と、を備える。スコア算出部12は、監視対象のパラメータにのみ注目したスコアを算出するだけではなく、他のパラメータとの関係性を考慮したスコアを算出する。
【0014】
具体的には、第1スコア算出部121は、ある1つの監視対象パラメータαについて、パラメータαにのみ注目したときのスコアである第1スコアを算出する。例えば、第1スコア算出部121は、パラメータαの確率密度P(α)を算出し、その値に基づいて第一スコアを算出する。例えば、パラメータαの確率密度P(α)のマイナスの常用対数(例えば、-log10(P(α)))を第1スコアとして算出する。つまり、パラメータαについて、確率密度が小さい値が計測されると、そのときの第1スコアは大きな値となる。簡単な例では、パラメータαの値が1000個得られ、そのうちの999個の値が“1”で1個が“10”であったとすると、計測値“10”の確率密度は、1÷1000=0.001、第1スコアは3.0となる。
【0015】
第2スコア算出部122は、監視対象のパラメータαについて、装置20の運転状態を反映する他のパラメータとの関係を考慮したスコアである第2スコアを算出する。例えば、装置20がガスタービン等の発電設備の場合、装置20の運転状態とは、装置20が定格出力で運転しているのか、部分負荷で運転しているのかといった運転モードのことであり、この場合、装置20の運転状態を反映する他のパラメータとは、例えば、発電設備の負荷である。装置20の運転状態を反映する他のパラメータをパラメータβ、データ取得部11が取得した稼働データに含まれるパラメータβの値をβ1、パラメータαの値をα1とした場合、例えば、第2スコア算出部122は、パラメータβの値がβ1となる条件で、パラメータαの値がα1となる確率、つまり、条件付き確率P(α1|β1)を算出し、条件付き確率P(α1|β1)のマイナスの常用対数を第2スコアとして算出する。つまり、小さい値の条件付き確率P(α1|β1)が観測されると、そのときの第2スコアは大きな値となる。このことは、以下の第3スコア、第4スコアでも同様である。なお、装置20の運転状態を反映する他のパラメータの数は2個以上であってもよい。
【0016】
第3スコア算出部123は、監視対象のパラメータαについて、パラメータαと関係性が強い他のパラメータとの関係を考慮したスコアである第3スコアを算出する。関係性が強いパラメータとは、例えば、同じ設備の稼働系の温度データと、冗長系の温度データのようなものである。あるいは、例えば、発電設備の場合、負荷の上昇に伴い、タービンの回転数や燃料ガスの温度が上昇すれば、これらは関係性が強いパラメータである可能性がある。パラメータαと関係性が強い他のパラメータは、例えば、決定木などの機械学習により選定することができる。あるいは、知見を有するユーザが、パラメータαと関係性が強い他のパラメータを設定してもよい。パラメータαと関係性が強い他のパラメータをパラメータγ、データ取得部11が取得した稼働データに含まれるパラメータγの値をγ1、パラメータαの値をα1とした場合、例えば、第3スコア算出部123は、パラメータγの値がγ1となる条件で、パラメータαの値がα1となる確率、つまり、条件付き確率P(α1|γ1)を算出し、条件付き確率P(α1|γ1)のマイナスの常用対数を第3スコアとして算出する。なお、パラメータαと関係性が強い他のパラメータは2個以上であってもよい。
【0017】
第4スコア算出部124は、監視対象のパラメータαについて、パラメータα以外の他の全てのパラメータとの関係を考慮したスコアである第4スコアを算出する。例えば、データ取得部11が取得した稼働データに含まれる他の全てパラメータの値の組み合せをδ1、パラメータαの値をα1としたときに、第4スコア算出部124は、他の全てパラメータの値の組み合せがδ1となる条件で、パラメータαの値がα1となる確率、つまり、条件付き確率P(α1|δ1)を算出する。第4スコア算出部124は、条件付き確率P(α1|δ1)のマイナスの常用対数を第4スコアとして算出する。
【0018】
設定受付部13は、各種設定を受け付ける。例えば、設定受付部13は、運転状態を反映するパラメータβの設定を受け付ける。また、設定受付部13は、パラメータαと関係性が強いパラメータγの設定や異常を判定するための閾値の設定などを受け付けてもよい。例えば、設定受付部13は、現場作業者の知見として、負荷や気温といった状態を定義する指標や冗長系の設備の設定を受け付ける。
【0019】
学習部14は、第1スコア算出部121~第4スコア算出部124が算出した各スコアに基づいて、装置20に異常が発生したかどうか、あるいは異常の予兆があるかどうかを判定する判定モデルを作成する。例えば、学習部14は、過去に装置20が正常に稼働していたときの稼働データを収集し、収集した稼働データに含まれるパラメータαの第1スコアを学習して、第1スコアがどのような値であれば正常であるかを示す判定モデル1を作成する。また、学習部14は、正常な稼働データに含まれるパラメータαとパラメータβに基づいて算出された第2スコアを学習して、第2スコアがどのような値であれば正常であるかを示す判定モデル2を作成する。学習部14は、第3スコア、第4スコアについても、同様に、判定モデル3、判定モデル4を作成する。
【0020】
また、例えば、学習部14は、過去に装置20で異常が生じたときに採取された正常時と異常時の両方を含む稼働データからパラメータαを抽出し、パラメータαに関する正常時の第1スコアと異常時の第1スコアとを学習して、第1スコアがどのような値となると、異常が発生するかを判定するための閾値(判定モデル1)を算出してもよい。同様に、学習部14は、正常時と異常時の両方を含む装置20の稼働データに基づいて算出された正常時の第2スコアと異常時の第2スコアを学習して、第2スコアがどのような値となると、異常が発生するかを判定するための判定モデル2を作成してもよい。同様に、学習部14は、第3スコアに基づく正常と異常を判別するための判定モデル3、第4スコアに基づく正常と異常を判別するための判定モデル4を作成してもよい。
【0021】
また、学習部14は、更に、第1スコア~第4スコアに依らない異常判定モデルを1つ又は複数、作成してもよい。例えば、装置20の正常な稼働データを収集して、稼働データに含まれるパラメータαについて、k近傍法などによるクラスタやMT(マハラノビス・タグチ)法における単位空間を判定モデルとして作成してもよい。
【0022】
異常検知部15は、スコア算出部12が算出したスコア(第1スコア~第4スコア)と学習部14が作成した判定モデル(判定モデル1~4)とに基づいて、装置20の異常を検知する。異常検知部15は、第1スコア~第4スコアのうち、複数のスコアを用いて異常検知を行う。例えば、正常な稼働データから算出した第1スコア~第4スコアに基づいて判定モデル1~4を作成した場合、異常検知部15は、スコア算出部12が算出した第1スコアの値と、判定モデル1が示す正常な第1スコアの差が閾値以上であれば、パラメータαの第1スコアについて異常であると判定する。同様に異常検知部15は、第2スコアの値を判定モデル2と比較して第2スコアが異常か否かを判定し、第3スコア、第4スコアについても、それぞれ判定モデル3、4に基づいて正常か否かを判定する。
また、例えば、学習部14が、第1スコア~第4スコアの各々について異常判定のための閾値を算出した場合、異常検知部15は、スコア算出部12が算出した第1スコアの値が、学習部14によって算出された閾値を超過していれば、パラメータαの第1スコアについて異常であると判定する。異常検知部15は、第2スコア~第4スコアについても同様に、それぞれの閾値に基づいて異常か否かの判定を行う。
そして、異常検知部15は、各スコアについて判定した異常か否かの判定結果および各スコアに基づいて、装置20の異常検知を行う。例えば、異常検知部15は、異常と判定されたスコアの中で最も大きなスコアを選択し、選択したスコアが示す値を異常検知結果として出力する。
【0023】
記憶部16は、データ取得部11が取得した稼働データ、設定受付部13が受け付けた各種設定、第1スコア~第4スコア、判定モデル1~4、異常検知部15による検知結果などの情報を記憶する。
レポート作成部17は、所定期間における稼働データの推移や、第1スコア~第4スコアの推移などを記載したレポートを作成する。レポートについては、後に
図4を参照して説明する。
【0024】
出力部18は、スコア算出部12が算出した第1スコア~第4スコアの推移を示すグラフ、異常検知部15による異常検知結果などを表示装置に出力する。また、出力部18は、レポート作成部17が作成したレポートを表示装置に表示したり、電子ファイルへ出力したりする。
【0025】
(4つのスコア)
次に
図2A~
図2D、
図3を参照して、第1スコア~第4スコアを用いた異常検知の方法について説明する。
パラメータαの推移の一例を
図2Aに示す。第1スコアは、単一のパラメータαに注目して算出した確率密度である。例えば、パラメータαが
図2Aに示すように変動すれば、第1スコアも同様に変動する。第1スコアの変動を監視することによって、パラメータαの変動を把握することができる。例えば、パラメータαの値がQ1のときの第1スコアが閾値を超過していれば、異常検知部15は、第1スコアが異常であると判定する。
【0026】
監視対象のパラメータαおよび運転状態を示すパラメータβの推移の一例を
図2Bに示す。第2スコアは、そのときの運転状態におけるパラメータαの変動を示す。例えば、正常運転時において、パラメータαとパラメータβの挙動が正の相関を有しているとする。Q2に示すようにパラメータβが一定(運転状態が一定)であるにもかかわらず、パラメータαの値だけが低下すれば、第2スコアも変動する。第2スコアの変動を監視することによって、パラメータαの変動が、現在の運転状態において異常か否かを判定することができる。更に第1スコアと第2スコアを監視対象とすると、パラメータαについて、第1スコアだけが変動する場合と、第2スコアだけが変動する場合と、第1スコアと第2スコアが共に変動する場合を想定することができるが、複数のスコアに基づいて異常検知を行うことで誤検知を抑制することができる。例えば、第1スコアだけが変動する場合、運転状態の変化によって、パラメータαの値が変動し、運転状態の変化を考慮すれば、パラメータαの変動は正常な範囲のものである状況が考えられるが、第1スコアだけを監視している場合、第1スコアの変動により、異常が発生したと誤検知する可能性がある。第1スコアと第2スコアに基づいて異常検知を行うことにより、このような誤検知を抑制することができる。また、第1スコアはパラメータαの単純な変動を示す値であり、第2スコアは運転状態を考慮したパラメータαの変動を示す値である。ユーザは、それぞれのスコアの算出方法を把握することにより、各スコアが変動したときにその意味を理解することができる。これにより、異常の発生個所や原因の特定、異常に対する対処を迅速に行うことができる。
【0027】
パラメータαおよび関係性が強いパラメータγ1、γ2の推移の一例を
図2Cに示す。第3スコアは、関係性が強いパラメータγ1、γ2に対するパラメータαの変動を示す。例えば、正常運転時において、パラメータαとパラメータγ1、γ2の挙動が正の相関を有しているとする。Q3に示すようにパラメータγ1、γ2が低下しているにもかかわらず、パラメータαの値だけが上昇すれば、第3スコアも変動する。第3スコアの変動を監視することによって、パラメータαの変動が、他のパラメータγ1、γ2に比べて異常か否か(又は、パラメータγ1、γ2の変動がパラメータαに比べて異常か否か)を判定することができる。更に、第1スコア、第2スコアと組み合わせて監視することにより、異常検知の精度を向上させることができる。例えば、第1スコアが上昇しても、第3スコアが上昇しないような場合、何らかの要因で関係性が強いパラメータが同時に変動し、またその変動が珍しい事象ではないことを意味する可能性がある。これにより、第1スコアだけを監視していた場合に生じる誤検知を抑制することができる。また、第3スコアの算出方法を把握することによって、ユーザは、第3スコアが示す挙動の意味を理解することができる。例えば、第3スコアが上昇せずに、第2スコアが上昇する場合、関係性が強いパラメータ群の変動を引き起こし、現在の運転状態では生じない事象が発生していること、第3スコアが上昇しないことから、その事象は、(他の運転状態では)しばしば発生する事象である可能性があること、などを推定することができる。
【0028】
全パラメータの推移の一例を
図2Dに示す。第4スコアは、全パラメータδ1~δ3が示す状態におけるパラメータαの変動を示す。例えば、他の全パラメータの挙動に対して、パラメータαだけが特殊な挙動を示していれば、第4スコアも変動する。第4スコアの変動を監視することによって、パラメータαの変動が、他の全パラメータδ1~δ3に比べて異常か否かを判定することができる。更に、第1スコア~第3スコアと組み合わせて監視することにより、異常検知の精度向上を図ることができる。
【0029】
一般に異常検知システムでは、センサの計測値等に統計処理を施した値がスコアとしてユーザへ提示されることがあるが、統計処理に不慣れなユーザにとっては、その値が異常であることを認識することができたとしても、その意味を理解することが難しい。これに対し、本実施形態の第1スコア~第4スコアであれば、各スコアの算出方法を事前に把握しておくことで、各スコアの値がどのような意味であるかを理解したり、装置20にどのような事象が生じているかを推定したりすることができる。例えば、第1スコアであれば、そのパラメータが示す値の中でどれぐらい珍しい値が観測されたかを示す。第2スコアであれば、その運転状態の中で、どれぐらい珍しい値が観測されたかを示す。第3スコアであれば、同調した振る舞いをする関係性が高いパラメータ群によって示される状態で、どれぐらい珍しい値が観測されたかを示す。第4スコアであれば、全パラメータが示す状態で、どれぐらい珍しい値が観測されたかを示す。ユーザは、各スコアの意味を理解し、異常が検知された際に事象の理解や対処に役立てることができる。また、ユーザは、各スコアを監視することで、監視対象のパラメータαの挙動に、突変、劣化、乖離、振動の何れが生じているかを判断することができる。
【0030】
次に
図3を参照して、第1スコア~第4スコアを用いて、突変、劣化、乖離、振動の4つの指標を判断する方法について説明する。突変とは、監視対象のパラメータαの値が時間的に急峻な変化をすることである。劣化とは、パラメータαの値が時間的に漸減・漸増する等の変化をすることである。乖離とは、パラメータαの値が、類似する他のパラメータの値から乖離することである。振動とは、パラメータαの変動の周波数成分が急に早くなる等の変化をすることである。熟練した監視員は、これら4つの指標に基づいて、パラメータαの挙動を監視し、異常検知を行うことが多い。
図3に示す表中の二重丸の印は、指標の判断に最も適したスコアであることを示し、一重丸の印は、そのスコアによっても検知可能であることを示し、三角の印は、そのスコアでは検知できない可能性があることを示し、×印はそのスコアによっては検知できないことを示している。
【0031】
突変については、第1スコアの監視によって検知が可能であるが、第2スコア~第4スコアによっても突変の検知が可能である。例えば、異常検知部15が第1スコアについて異常と判定すると、ユーザは、異常と判定されたパラメータについて突変が生じていると判断する。
【0032】
劣化については、第2スコアが最も適しているが、第1スコアの監視によっても劣化の検知が可能である。例えば、異常検知部15が第2スコアについて異常と判定すると、ユーザは、異常と判定されたパラメータについて劣化が生じていると判断する。
【0033】
乖離については、第3スコアを監視することにより検知が可能である。例えば、異常検知部15が第3スコアについて異常と判定すると、ユーザは、異常と判定されたパラメータについて乖離が生じていると判断する。
【0034】
振動については、第4スコアによって検知することができる。例えば、全パラメータが一定の周期で振動しているときにパラメータαの周期が変動すれば、第4スコアに変動が生じる。この性質を利用すると、第4スコアによって振動を検知することができる。また、第2スコアによっても振動を検知することができる。例えば、異常検知部15が第4スコアについて異常と判定すると、ユーザは、異常と判定されたパラメータについて振動が生じていると判断する。
【0035】
また、例えば、出力部18が、パラメータαについて、数分前から現在までの第1スコア~第4スコアの推移を示すグラフを表示装置へ出力し、ユーザが、各スコアの変動を確認して、突変、劣化、乖離、振動の判断を行ってもよい。あるいは、異常検知部15に突変、劣化、乖離、振動を判断する基準を与えて、異常検知部15に判定させてもよい。例えば、突変の場合、監視対象のパラメータごとに第1スコアの変動量の閾値を定義し、所定時間内にこの閾値を超える変動があると、異常検知部15は、突変が発生したと判定する。本実施形態に係る第1スコア~第4スコアを用いることによって、従来は、熟練した監視員が、各パラメータの挙動を監視して判断していた4つの指標の判断が容易となる。
【0036】
(レポート)
図4にレポート作成部17が作成するレポートの一例を示す。
レポート100は、例えば、月次の定期レポートであって、1カ月ごとに直前の1か月間に計測された各パラメータの計測値、第1スコア~第4スコアの値が記載される。レポート100は、データ関係性を表示する領域101と、スコア上位ランキングを表示する領域102と、1か月間のトレンドを表示する領域103と、長期トレンドを表示する領域104と、を含む。
【0037】
領域101には、パラメータ間の関係性が表示される。例えば、計測点の列には、パラメータの種類が示される。計測点の列のパラメータは、全てが監視対象のパラメータであってもよいし、一部が監視対象のパラメータであってもよい。設備状態の列には、運転状態を示すパラメータに丸印が記載される。相関の列には、関係性の強いパラメータに同じアルファベットが表示される。
図4のレポート100の場合、計測点としてPara1~Para3が記載され、Para1とPara2の関係性が強く(相関の列の“A”)、Para3が運転状態を示すパラメータ(設備状態の列の丸印)である。従って、例えば、Para1が監視対象のパラメータの場合、Para1の確率密度が第1スコア、条件付き確率P(Para1|Para3)が第2スコア、条件付き確率P(Para1|Para2)が第3スコア・・・等となる。領域101を参照することにより、ユーザは、第2スコアに関して運転状態を示すパラメータを確認することができ、第3スコアに関して関係性の強いパラメータを確認することができる。
【0038】
領域102には、各パラメータについて観測された1か月間の第1スコア~第4スコアのうち値が大きいものから順に20個程度が表示される。Noの列には順位が表示され、時刻の列には、そのスコアが観測された時刻が表示され、スコアの列にはスコアの値が表示され、監視項目の列には監視対象のパラメータの種類が表示され、スコア種類の列には、そのスコアが第1スコア~第4スコアの何れであるかが表示される。
図4のレポート100の場合、最も値が大きかったのは“Y/M/D hh:m1”に観測されたPara1の第1スコアの値“X1”、2番目に値が大きかったのは“Y/M/D hh:m2”に観測されたPara2の第2スコアの値“X2”、3番目に値が大きかったのは“Y/M/D hh:m3”に観測されたPara2の第1スコアの値“X3”である。領域102を参照することにより、ユーザは、過去の1カ月において高い値を示したパラメータの情報を確認することができる。
【0039】
領域103には、1か月間の各パラメータの計測値および第1スコア~第4スコアの値の推移が示される。領域104には、各パラメータの計測値および第1スコア~第4スコアの値の長期(例えば、過去5年)における推移が示される。ユーザは、領域103、104を参照することにより、各パラメータについて算出された第1スコア~第4スコアのトレンドを確認することができる。異常検知には、短期的評価を行うニーズと、中長期的評価を行うニーズの2つが存在する。短期的評価は、現在を基準とする短期間における異常の発生状況に基づいて、例えば、現在、装置20に生じている故障や異常を把握するために必要である。一方、中長期的評価とは、過去から現在へ至るまでの間に検知される異常や異常予兆の傾向(頻度などの発生状況やスコアの大きさ)に基づいて、装置20の劣化や故障を予測するために必要となる。ユーザは、領域103,104を参照することで、装置20の中長期的評価を行うことができる。装置20の異常は、突発的な故障に至る前に何らかの兆候を示すケースが多い。レポート100を活用することにより、異常の兆候を確認することができる。また、時系列的に将来発生しうる異常の予測に活用することができる。
【0040】
例えば、ユーザは、レポート100を用いて以下のような手順により、第1スコア~第4スコアの確認、計測値の確認を行うことで、従来の事後保全中心の設備運用から予防保全的設備管理をサポートするための仕組みを整えることができる。
(1)データの関係性を把握する。
ユーザは、領域101を参照して、具体的なスコアの値を参照する前に各パラメータの関係性、組合せを確認しておく。これにより、第1スコア~第4スコアが意味する内容を把握することができる。
(2)スコアの上昇箇所を確認する。
ユーザは、領域102~104を参照し、第1スコア~第4スコアの値が高かった箇所や時刻を確認する。
【0041】
(3)関連パラメータを確認する。
ユーザは、(2)で確認した高いスコアが観測されたパラメータを確認する。ユーザは、以下の観点で対象とするパラメータを確認する。
(3-1)第1スコアが上昇している。
対象のパラメータのみに着目し、そのパラメータの計測値が突変していないか、通常ではあり得ないレンジの値となっていないか等を確認する。
(3-2)第2スコアが上昇している。
対象のパラメータ、あるいは運転状態パラメータに着目する。その片方、あるいは両方が異常な値となっていないかを確認する。運転状態パラメータは領域101の設備状態に丸印が付いているパラメータである。
(3-3)第3スコアが上昇している。
対象のパラメータ、あるいは対象のパラメータと関係性が強いパラメータに注目する。何れかが異常な値となっていないかを、各パラメータのトレンド(領域103)で確認する。関係性が強いパラメータは領域101の相関の欄に示されている。例えば、
図4の例の場合、Para1の第3スコアが上昇した場合は、Para2も併せて注目する必要がある。
【0042】
レポート作成部17は、例えば、月に一度、レポート100を作成し、出力部18がレポート100を電子ファイル等として出力する。ユーザは、出力されたレポート100に基づいて、上記の手順で設備20の異常に関する中長期的評価を行うことができる。また、ユーザは、レポート100に基づいて、
図3を用いて説明した4つの指標の観点から設備20の状態に対する評価を行うことができる。
【0043】
(動作)
次に
図5、
図6を参照して、異常検知システム10の動作について説明する。
まず、
図5を参照して、学習フェーズの動作の一例について説明する。
図5は、実施形態に係る異常検知モデル作成処理の一例を示すフローチャートである。
まず、設定受付部13が、各種設定を受け付ける(ステップS11)。例えば、ユーザが、監視対象のパラメータの設定、運転状態を示すパラメータの設定、関係性の強いパラメータの設定を異常検知システム10に入力する。設定受付部13は、これらの設定を受け付け、記憶部16に書き込んで保存する。関係性の強いパラメータは、予め機械学習などにより、関係性が強いことが解析されたパラメータである。
【0044】
次にデータ取得部11が、装置20が正常な運転状態で運転しているときに計測された稼働データを収集する(ステップS12)。収集する稼働データは、異常判定モデルの学習データとなる為、様々な条件下で稼働しているときに計測された稼働データをなるべく多く収集することが好ましい。また、第2スコアの評価のためには、装置20の全ての運転状態における稼働データを収集することが好ましい。データ取得部11は、収集した稼働データを、記憶部16に書き込んで保存する。
【0045】
次にスコア算出部12が、第1スコア~第4スコアを算出する(ステップS13)。例えば、第1スコア算出部121が、記憶部16が記憶する学習データとして収集された稼働データの中から監視対象として設定されたパラメータのデータを読み出し、各時刻のパラメータについて確率密度を算出する。例えば、パラメータαについて1万個の計測値が収集されていれば、1万個の計測値のそれぞれについて、1万個の計測値の中での確率密度(第1スコア)を算出する。第1スコア算出部121は、算出した第1スコアを記憶部16に書き込んで保存する。同様に、第2スコア算出部122が、監視対象として設定されたパラメータのデータと、運転状態を示すものとして設定されたパラメータのデータの組み合せを収集された稼働データの中から読み出し、運転状態を示すパラメータの値が示す運転状態ごとに監視対象パラメータのデータを分類し、分類したデータごとに同じ分類の中でその値が観測される確率(第2スコア)を算出する。第2スコア算出部122は、算出した第2スコアを記憶部16に書き込んで保存する。第3スコア算出部123は、監視対象パラメータのデータと、関係性が強いパラメータのデータの組み合せを収集された稼働データの中から読み出し、関係性が強いパラメータの値が観測されることを条件とする、監視対象パラメータの値が観測される確率(第3スコア)を算出し、第3スコアを記憶部16に書き込んで保存する。第4スコア算出部124は、監視対象パラメータの値のそれぞれについて、同時刻に計測された他の全パラメータの値の組み合せが観測されることを条件とする、監視対象パラメータの値が観測される確率(第4スコア)を算出し、第4スコアを記憶部16に書き込んで保存する。
【0046】
次に学習部14が、判定モデル1~4を作成する(ステップS14)。例えば、学習部14は、ステップS13にて算出された第1スコアに基づいて、判定モデル1を作成する。例えば、学習部14は、第1スコアの平均値を判定モデル1としてもよいし、第1スコアの最小値と最大値の範囲を正常とみなす判定モデル1を作成してもよいし、第1スコアをk近傍法によりクラスタリングして作成したクラスタを判定モデル1としてもよい。学習部14は、第2スコア、第3スコア、第4スコアについても、それぞれ、各スコアの正常な範囲を示す判定モデル2、判定モデル3、判定モデル4を作成する。学習部14は、作成した判定モデル1~4を記憶部16に書き込んで保存する。
【0047】
又は、学習部14は、正常と異常を判別する閾値を算出してもよい。例えば、データ取得部11は、装置20が正常な状態で運転しているときに計測された稼働データと異常が生じたときに計測された稼働データを取得し、記憶部16に保存する。次にスコア算出部12が、収集された稼働データに含まれる監視対象のパラメータの計測値について第1スコア~第4スコアを算出し、記憶部16に保存する。次に、学習部14が、算出された第1スコア~第4スコアの各々について、そのスコアが装置20の正常時に計測されたパラメータに基づいて算出された第1スコア~第4スコアであるか、又は、異常時に計測されたパラメータに基づいて算出された第1スコア~第4スコアであるか、を示すラベル情報を付す。次に学習部14は、ラベル情報を付加した第1スコアを学習データとして、所定の手法により、第1スコアの値に基づいて異常の有無を判定するための判定モデル1を作成する。例えば、学習部14は、SVM(Support Vector Machine)、決定木などを用いることにより、判定モデル1を作成する。学習部14は、同様の手法により、判定モデル2~4を作成する。
【0048】
このように本実施形態では、稼働データを確率密度や条件付き確率に変換して、判定モデル1~4を作成する。これにより、第1スコア~第4スコアに基づいて異常検知を行うことができる。また、後述するようにアンサンブル学習を用いて異常検知を行うことができる。学習部14は、アンサンブル学習用に、第1スコア~第4スコアでは無く、例えば、パラメータの値を学習データとして判定モデル1~4とは異なる判定モデルを作成してもよい。
【0049】
次に、
図6を参照して、監視フェーズの動作の一例について説明する。
図6は、実施形態に係る異常検知処理の一例を示すフローチャートである。
前提として、記憶部16には、作成済みの判定モデル1~4と、異常判定用の閾値が予め登録されているとする。例えば、監視対象のパラメータαの第1スコアについて判定するための閾値1、第2スコアについて判定するための閾値2、第3スコアについて判定するための閾値3、第4スコアについて判定するための閾値4が記憶部16に登録されているとする。
【0050】
まず、データ取得部11が、装置20から最新の稼働データを取得する(ステップS21)。データ取得部11は、最新の稼働データをスコア算出部12へ出力する。次にスコア算出部12(第1スコア算出部121~第4スコア算出部124)が、最新の稼働データについて、第1スコア~第4スコアを算出する(ステップS22)。記憶部16には学習フェーズにて収集された稼働データが蓄積されているので、例えば、スコア算出部12は、蓄積された稼働データと最新の稼働データを用いて、第1スコア~第4スコアを算出する。スコア算出部12は、第1スコア~第4スコアを異常検知部15へ出力する。次に異常検知部15は、判定モデル1~4に基づいて異常の判定を行う(ステップS23)。まず、異常検知部15は、第1スコアと判定モデル1に基づいて、第1スコアが異常か否かの判定を行う。例えば、判定モデル1が正常時の第1スコアの平均値として作成された場合、異常検知部15は、最新の稼働データに基づく第1スコアと、第1スコアの平均値(判定モデル1)との差が閾値1を超過していれば、最新の第1スコアは異常であると判定してもよい。例えば、判定モデル1が正常時の第1スコアの最大値と最小値によって作成された場合、異常検知部15は、最新の稼働データに基づく第1スコアが、最大値および最小値によって示される範囲から閾値1以上乖離していれば、最新の第1スコアは異常であると判定してもよい。例えば、判定モデル1が正常時の第1スコアのクラスタの場合、異常検知部15は、最新の稼働データに基づく第1スコアと、クラスタの重心との距離が閾値1以上であれば、最新の第1スコアは異常であると判定してもよい。異常検知部15は、最新の稼働データに基づく第2スコア~第4スコアについても、同様の方法で異常か否かを判定する。
【0051】
また、学習フェーズにて、正常と異常を判別する判定モデル1~4が作成されている場合、異常検知部15は、最新の稼働データに基づく第1スコアの値を判定モデル1に入力する。判定モデル1は、正常または異常を判別し、その判別結果を出力する。異常検知部15は、判定モデル1が出力した判別結果が異常の場合、最新の第1スコアは異常であると判定する。異常検知部15は、最新の稼働データに基づく第2スコア~第4スコアについても、それぞれ、判定モデル2~4に基づいて、同様の方法で異常か否かを判定する。また、アンサンブル学習を行った場合、異常検知部15は、学習フェーズで作成した判定モデルを用いて、最新の稼働データが異常か否かを判定する。
【0052】
次に異常検知部15は、各スコアによる判定結果を分析する(ステップS24)。具体的には、異常検知部15は、異常と判定されたスコアのうち、スコアの値が最大のものを選択する。例えば、第1スコアの値が“5”、第2スコアの値が“10”、第3スコアの値が“0.5”、第4スコアの値が“0.5”で、第1スコアと第2スコアが異常と判定された場合、異常検知部15は、第2スコアを装置20で生じている異常を、最も端的に示すスコアとして選択する。
【0053】
また、アンサンブル学習を行う場合であって、アンサンブル学習用に作成した判定モデルによって異常と判定された場合、異常検知部15は、稼働データが示す異常度を所定の方法で算出する。算出された異常度は、第1スコア~第4スコアと比較可能な値である。異常検知部15は、第1スコア~第4スコアおよびアンサンブル学習用に算出された異常度の中から最大値を選択する。
異常検知部15は、第1スコア~第4スコアおよび各スコアの判定結果、判定時刻、最も高い値を示すスコアの情報を出力部18へ出力するとともに記憶部16に書き込んで保存する。この情報は、レポート作成部17がレポート100を作成する際に用いられる。
【0054】
次に出力部18が、異常検知結果を表示装置等へ出力する(ステップS25)。例えば、出力部18は、異常検知部15から、第1スコア~第4スコアの値、各スコアについての判定結果(異常か否か)および判定時刻、異常検知部15が選択した最大値を示すスコアの情報を取得して、これらを表示する。異常検知部15は、例えば、第1スコア~第4スコアの値について、所定期間前からの推移を示すグラフを作成して表示してもよい。例えば、ユーザは、異常検知部15によって選択された最大値を示すスコアに注目することで、突変、劣化、乖離、振動の発生を確認し、装置20の異常検知を行うことができる。出力部18は、異常検知部15が第1スコア~第4スコアの中から選択した最大値を表示する。これにより、ユーザに対して、複数の手法による判定結果(第1スコア~第4スコアそれぞれに対する判定結果)の中からから最良の結果を伝えることができ、異常検知の精度度を向上することができる。また、第1スコア~第4スコアを表示することで、ユーザは、複数のスコアを確認することができ、誤検知を防止や、各スコアが意味する内容から、装置20に生じている異常の原因や内容を推定することができる。
【0055】
上記の実施形態では、異常検知部15によって異常を検知する処理を例に説明を行ったが、単に異常を検知するだけではなく、第1スコア~第4スコアの値に基づいて、装置20の状態監視を行ってもよい。例えば、異常検知システム10は、複数のスコア(第1スコア~第4スコア、又は第1スコア~第3スコア)と、判定モデルと、に基づいて、複数のスコアそれぞれについて稼働状態を検知し、複数の前記稼働状態の結果に基づいて装置20の状態を判定する状態判定部をさらに備えていてもよい。または、異常検知部15が、上記の状態判定部を備えていてもよい。例えば、予め第1スコア~第4スコアのうちの一つ又は複数の値や値の傾向と対応付けた状態を示す指標が定義されていて(例えば、状態A、状態B・・・、又は、良好、通常、異常ではないがXXの傾向がある等)、状態判定部は、第1スコア~第4スコアに基づいて、予め定義された状態を示す指標の何れであるかを判定する処理を行う。更に、状態判定部は、判定した1つ又は複数の状態を示す指標に基づいて、装置20の状態を判定してもよい。
また、出力部18は、状態判定部が判定した状態を示す指標や状態判定部が判定した状態をリアルタイムに出力してもよい。
【0056】
(効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、1つのスコアだけでなく、複数の観点から算出されたスコアを用いて異常検知を行う。これにより、機器ごとの状態を定義する指標に基づいて、その指標が一定の条件となるように調整したうえで、異常度を評価できるため、誤検知を防ぎ、異常検知の精度を向上することができる。より具体的には、一般的な教師なしの異常検知手法であるMT法、k近傍法、LOFといったデータの分布に基づき異常度を評価する手法やそれらに寄与した指標を提示するだけの手法と異なり、データ確率密度を推定し、複数の条件における条件付き確率から総合的に異常度を評価できるため、誤検知を防ぎ、異常検知の精度を向上することができる。また、第1スコア~第4スコアは、監視対象のパラメータが観測される様々な確率に基づく値である。各スコアの背景となっている確率の内容を把握することができる。つまり、本実施形態によれば、各スコアの意味についてユーザへの説明性を向上することができる。スコアの意味を把握することにより異常箇所の特定や異常時の対処、ユーザによる監視業務の質、精度を高めることができる。また、レポート100によれば、第1スコア~第4スコアの長期トレンドを確認することができる。これにより、装置20の中長期的評価が可能になり、その評価結果を予防保全に活用することができる。
また、本実施形態によれば、1つのスコアだけでなく、複数の観点から算出されたスコアを用いて状態監視を行うことができる。
【0057】
図7は、実施形態に係る予測システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の異常検知システム10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0058】
なお、異常検知システム10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
異常検知システム10は、複数のコンピュータ900によって構成されていても良い。
【0059】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。例えば、第4スコアを採用せずに、第1スコア~第3スコアの3つのスコアを算出したうえで、これらのスコアのうち値が最も大きいスコアに基づいて異常を検知してもよい。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0060】
<付記>
各実施形態に記載の異常検知システム10、異常検知方法およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0061】
(1)第1の態様に係る異常検知システム10は、監視対象の装置の稼働データを取得するデータ取得部11と、前記稼働データに含まれる監視対象の計測値である第1パラメータの値について、当該値が観測される確率を、異なる方法を用いて複数種類算出し、複数種類の前記確率のそれぞれについて、異常の程度を示すスコアを算出するスコア算出部12と、複数の前記スコアと、判定モデルと、に基づいて、複数の前記スコアそれぞれについて異常か否かを判定し、複数の前記判定の結果に基づいて、前記装置の異常を検知する異常検知部15と、を備える。
複数のスコアに基づいて、異常検知を行うことにより、誤検知を防ぎ、検知精度を向上することができる。複数のスコアは、監視対象のパラメータが観測される複数種類の確率に基づく値であるので、ユーザは、複数種類の確率の算出内容を把握することで、各スコアの意味を理解することができる。つまり、スコアの説明性を向上することができる。
【0062】
(2)第2の態様に係る異常検知システム10は、(1)の異常検知システム10であって、複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記稼働データに含まれる前記装置の運転状態に関係する計測値である第2パラメータが示す運転状態において、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である。
これにより、現在の運転状態において第1パラメータの値が観測される確率を算出し、例えば、この確率が低い値が観測された場合に、現在の運転状態において異常な値が観測されたと判定することができる。また、当該確率に基づく第2スコアを監視することにより、パラメータが示す挙動のうち“劣化”を判断することができる。
【0063】
(3)第3の態様に係る異常検知システム10は、(1)~(2)の異常検知システム10であって、複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記第1パラメータとの関係性が強い所定の計測値である第3パラメータについて、前記稼働データに含まれる前記第3パラメータの値が観測されたときに、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である。
これにより、関係性が強い他のパラメータの値に対して第1パラメータの値が観測される確率を算出し、例えば、この確率が低い値が観測された場合に、第1パラメータ又は関係性が強いパラメータにおいて異常な値が観測されたと判定することができる。また、当該確率に基づく第3スコアを監視することにより、パラメータが示す挙動のうち“乖離”を判断することができる。
【0064】
(4)第4の態様に係る異常検知システム10は、(1)~(3)の異常検知システム10であって、複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記第1パラメータを除く複数の他の計測値である第4パラメータについて、前記稼働データに含まれる第4パラメータの値が観測されたときに、当該稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率である。
これにより、他のパラメータの値に対して第1パラメータの値が観測される確率を算出し、例えば、この確率が低い値が観測された場合に、第1パラメータ又は他のパラメータにおいて異常な値が観測されたと判定することができる。また、当該確率に基づく第4スコアを監視することにより、パラメータが示す挙動のうち“振動”を判断することができる。
【0065】
(5)第5の態様に係る異常検知システム10は、(1)~(4)の異常検知システム10であって、複数の前記スコアのうちの1つに係る前記確率は、前記稼働データに含まれる前記第1パラメータの値が観測される確率密度である。
これにより、第1パラメータがとりうる値の中で今回の第1パラメータの値が観測される確率を算出し、例えば、この確率が低い値が観測された場合に、第1パラメータについて異常な値が観測されたと判定することができる。また、当該確率に基づく第1スコアを監視することにより、パラメータが示す挙動のうち“突変”を判断することができる。
【0066】
(6)第6の態様に係る異常検知システム10は、(1)~(5)の異常検知システム10であって、前記異常検知部15は、複数の前記スコアのうち値が最も大きいスコアに基づいて異常を検知する。
これにより、異常を最も端的に表すスコアをユーザへ通知することができ、異常の判断に役立てることができる。
【0067】
(7)第7の態様に係る異常検知システム10は、(1)~(6)の異常検知システム10であって、前記異常検知部15が検知した異常を出力する出力部18、をさらに備える。
【0068】
(8)第8の態様に係る異常検知システム10は、(1)~(7)の異常検知システム10であって、前記装置20が正常な運転状態にあるときの前記稼働データに基づいて、前記スコア算出部12が算出した複数種類の前記スコアのそれぞれについて、前記スコアが正常である範囲を示す前記判定モデル1~4を作成する判定モデル作成部(学習部14)、をさらに備える。
これにより、スコア算出部が算出したスコアについて異常か否かの評価を行うことができる。
【0069】
(9)第8の態様に係る異常検知システム10は、(1)~(8)の異常検知システム10であって、複数種類の前記スコアの推移を示すグラフを含むレポートを作成するレポート作成部17をさらに備える。
スコアの推移を確認することで、装置20の異常について経時的な変化の評価を行うことができる。グラフに示す推移の範囲を例えば1年以上とすることで、装置20の中長期的な評価を行うことができる。
【0070】
(10)第10の態様に係る予測方法では、異常検知システムが、監視対象の装置の稼働データを取得し、前記稼働データに含まれる監視対象の計測値である第1パラメータの値について、当該値が観測される確率を、異なる方法を用いて複数種類算出し、複数種類の前記確率のそれぞれについて、異常の程度を示すスコアを算出し、複数の前記スコアと、判定モデルと、に基づいて、複数の前記スコアそれぞれについて異常か否かを判定し、複数の前記判定の結果に基づいて、前記装置の異常を検知する。
【0071】
(11)第11の態様に係るプログラムは、コンピュータに、監視対象の装置の稼働データを取得し、前記稼働データに含まれる監視対象の計測値である第1パラメータの値について、当該値が観測される確率を、異なる方法を用いて複数種類算出し、複数種類の前記確率のそれぞれについて、異常の程度を示すスコアを算出し、複数の前記スコアと、判定モデルと、に基づいて、複数の前記スコアそれぞれについて異常か否かを判定し、複数の前記判定の結果に基づいて、前記装置の異常を検知する処理を実行させる。
【符号の説明】
【0072】
10・・・異常検知システム
11・・・データ取得部
12・・・スコア算出部
13・・・設定受付部
14・・・学習部
15・・・異常検知部
16・・・記憶部
17・・・レポート作成部
18・・・出力部
20・・・装置
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース