(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の鍵盤装置
(51)【国際特許分類】
G10B 3/12 20060101AFI20241101BHJP
G10H 1/34 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
G10B3/12 130
G10B3/12 113
G10H1/34
(21)【出願番号】P 2021037019
(22)【出願日】2021-03-09
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭裕
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-262129(JP,A)
【文献】特開2009-014973(JP,A)
【文献】特開2003-195853(JP,A)
【文献】特開平08-160954(JP,A)
【文献】特開平06-012060(JP,A)
【文献】実開昭54-030922(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10B 1/00-3/24
G10C 1/00-3/30
G10H 1/00-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤シャーシと、
各々が前後方向に延びるとともに後端部において前記鍵盤シャーシに回動自在に支持され、左右方向に並設された複数の鍵と、
各々が前後方向に延び、前記複数の鍵の下側において、当該鍵ごとに前記鍵盤シャーシに揺動自在に支持されるとともに左右方向に並設され、対応する鍵の押鍵に連動して揺動しながら、当該鍵にタッチ重さを付与するための複数のハンマーと、
前記鍵盤シャーシの後端部にかつ前記複数のハンマーの上方において下方に突出するように設けられ、押鍵時に、当該押鍵された鍵に対応するハンマーの後端部が下方から当接するハンマー上限クッションと、
前記鍵盤シャーシの前端部に設けられ、押鍵時に、当該押鍵された鍵の前端部が上方から当接する鍵下限クッションと、
を備えており、
前記ハンマー上限クッションは、押鍵時に前記ハンマーが当接した後に当該ハンマーに対応する鍵が前記鍵下限クッションに当接した状態で最下位置に達するよう、当該ハンマー上限クッション自体の変形が許容される所定の柔軟性を有するように構成され、
前記鍵下限クッションは、前記ハンマー上限クッションよりも硬質に構成されていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記複数の鍵の各々は、所定値以下でかつ対応する前記ハンマーの揺動を許容する押鍵荷重で押鍵されたときにも、当該押鍵された鍵が前記鍵下限クッションに当接した状態で最下位置に達するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項3】
前記所定値は、300gであることを特徴とする請求項2に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項4】
前記ハンマー上限クッションは、前記鍵盤シャーシに取り付けられた低反発ポリウレタンフォームと、その下面に設けられたフェルトとで構成され、前記複数のハンマーの全体にわたって左右方向に延びるように設けられており、
前記鍵下限クッションは、前記鍵盤シャーシに取り付けられた高密度ポリウレタンフォームと、その上面に設けられたフェルトとで構成され、前記複数の鍵の全体にわたって左右方向に延びるように設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどに用いられ、鍵の押鍵に連動して揺動するハンマーを備えた鍵盤楽器の鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鍵盤楽器の鍵盤装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この鍵盤装置は、合成樹脂製の鍵フレームと、各々が前後方向に延びるとともに後端部が鍵フレームに回動自在に支持され、左右方向に並んだ状態に配置された複数の鍵と、これらの鍵の下側において、各々が前後方向に延びるとともに鍵ごとに左右方向に並んだ状態で鍵フレームに揺動自在に支持され、鍵の押鍵に連動して揺動する複数の揺動レバーとを備えている。各鍵の前部には、下方に突出する駆動部が設けられており、この駆動部の下端部が、揺動レバーの揺動支点よりも前方の所定部位に係合している。また、鍵フレームの後端部には、押鍵時に上方に移動する揺動レバーの後端部が下方から当接する上限ストッパ部材が設けられる一方、鍵フレームの前端部には、鍵ストッパが設けられている。
【0003】
上記のように構成された鍵盤装置では、押鍵時に、鍵の前端部が押し下げられることで鍵が回動すると、揺動レバーは、その前端部が鍵の駆動部で押し下げられるとともに、後端部が上方に移動するように揺動する。演奏時において、例えば比較的弱い力による押鍵(以下、本明細書において適宜、「弱打」という)が行われると、揺動レバーは、その後端部が上限ストッパ部材に当接し、上限ストッパ部材の弾性力が押鍵の際の力(以下、本明細書において適宜、「押鍵力」という)よりも勝るために、揺動が停止される。それに伴い、押鍵されている鍵は、回動が停止され、それ以上の押し下げが阻止される。つまり、弱打で押鍵された鍵は、鍵ストッパに当接することなく、押し下げが阻止される。
【0004】
一方、上記の弱打の際の押鍵力を大きく上回る押鍵(以下、本明細書において適宜、「強打」という)や、弱打と強打の間の押鍵力による押鍵(以下、本明細書において適宜、「中打」という)が行われると、それらの押鍵力が上限ストッパ部材の弾性力よりも勝るために、押鍵されている鍵は、その前端部が鍵ストッパに当接し、回動が停止され、それ以上の押し下げが阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような鍵盤装置では一般に、鍵が鍵ストッパに当接する前に、揺動レバーが上限ストッパ部材に当接するように構成されている。これは、押鍵時において、揺動レバーの当接よりも前に、鍵が鍵ストッパに当接すると、揺動レバーが鍵に対して一時的にフリーな状態になることで、不要な振動が発生してしまい、それを防止する必要があるからである。しかし、演奏時において、中打や強打で押鍵された場合、鍵を最下位置まで押し下げる際に指先に感じるタッチ感として、いわゆるスポンジ感(揺動レバーが上限ストッパ部材に当接したときの鍵の押下げ位置からさらに沈み込むような感じ)を与えてしまう。
【0007】
また、上限ストッパ部材の構成によっては、押鍵時に揺動レバーが当接した際に、その反力として揺動レバーに比較的強い反発力が作用することがある。この場合には、その反発力が揺動レバーから、押鍵している鍵に伝わり、その結果、指先に不快な振動を与えてしまう。さらに、揺動レバーが上限ストッパ部材に繰り返し当接することにより、その当接部位が凹んだままの状態に変形すると、その分、上限ストッパ部材で鍵ストローク(鍵の前端部の上下方向の可動長さ)が決まる弱打による押鍵時に、揺動レバーの揺動角度が大きくなることで、鍵ストロークが次第に長くなるように変化してしまうという問題もある。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、押鍵時に、スポンジ感や不快な振動を与えることなく、良好なタッチ感及び安定した鍵ストロークを得ることができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵盤シャーシと、各々が前後方向に延びるとともに後端部において鍵盤シャーシに回動自在に支持され、左右方向に並設された複数の鍵と、各々が前後方向に延び、複数の鍵の下側において、鍵ごとに鍵盤シャーシに揺動自在に支持されるとともに左右方向に並設され、対応する鍵の押鍵に連動して揺動しながら、鍵にタッチ重さを付与するための複数のハンマーと、鍵盤シャーシの後端部にかつ複数のハンマーの上方において下方に突出するように設けられ、押鍵時に、押鍵された鍵に対応するハンマーの後端部が下方から当接するハンマー上限クッションと、鍵盤シャーシの前端部に設けられ、押鍵時に、押鍵された鍵の前端部が上方から当接する鍵下限クッションと、を備えており、ハンマー上限クッションは、押鍵時にハンマーが当接した後にハンマーに対応する鍵が鍵下限クッションに当接した状態で最下位置に達するよう、ハンマー上限クッション自体の変形が許容される所定の柔軟性を有するように構成され、鍵下限クッションは、ハンマー上限クッションよりも硬質に構成されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、鍵盤楽器の演奏時など、演奏者によって、鍵の前端部が押し下げられる押鍵時には、鍵が後端部を支点として前下がりに回動し、これに連動して、その鍵に対応するハンマーが揺動する。この場合、そのハンマーの後端部は、鍵盤シャーシの後端部に設けられたハンマー上限クッションに下方から当接する。この当接後、押鍵された鍵は、その前端部が鍵盤シャーシの前端部に設けられた鍵下限クッションに上方から当接した状態で最下位置に到達する。
【0011】
上記のハンマー上限クッションは、所定の柔軟性、すなわち、ハンマーが当接した後にそのハンマーに対応する鍵が鍵下限クッションに当接した状態で最下位置に達するよう、ハンマー上限クッション自体の変形が許容される柔軟性を有している。このため、押鍵時にハンマー上限クッションに当接したハンマーに強い反発力が作用することがなく、それにより、従来と異なり、押鍵時にハンマーからの反発力が鍵に伝わることがなく、鍵を鍵下限クッションに当接した状態で最下位置までしっかりと押し下げることができる。その結果、従来のようなスポンジ感や不快な振動を演奏者に与えることはない。また、上記の鍵下限クッションは、ハンマー上限クッションよりも硬質に構成されており、押鍵された鍵は、その押鍵力の大きさにかかわらず、常に、前端部が鍵下限クッションに当接した状態で最下位置に到達する。このように、押鍵時に最下位置に到達した鍵は、それ以上、下方に回動することがなく、鍵ストロークが一定に保持される。以上のように、本発明の鍵盤装置によれば、押鍵時には、前述したスポンジ感や不快な振動を与えることなく、良好なタッチ感及び安定した鍵ストロークを得ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、複数の鍵の各々は、所定値以下でかつ対応するハンマーの揺動を許容する押鍵荷重で押鍵されたときにも、押鍵された鍵が鍵下限クッションに当接した状態で最下位置に達するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、複数の鍵の各々が、所定値よりも大きな押鍵荷重で押圧されるときはもちろん、所定値以下でかつ対応するハンマーの揺動を許容する押鍵荷重で押圧されたとき、すなわち、ハンマーが揺動し得る程度の比較的弱い力で鍵が押し下げられたとき(弱打)にも、その鍵は、鍵下限クッションに当接した状態で最下位置に到達する。このように、本発明によれば、強い力で押鍵された場合に加えて、比較的弱い力で押鍵された場合でも、その鍵が鍵下限クッションに当接した状態で最下位置に到達するので、上述した請求項1の効果を、押鍵力の強弱による演奏方法にかかわらず、鍵盤装置における全ての鍵において良好に得ることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、所定値は、300gであることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、300g以下の弱い力、すなわち、後述するように、弱打で押鍵された場合でも、その鍵が下限クッションに当接した状態で最下位置に到達する。このような弱打による押鍵時にも、前述した請求項1の効果を、良好に得ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、ハンマー上限クッションは、鍵盤シャーシに取り付けられた低反発ポリウレタンフォームと、その下面に設けられたフェルトとで構成され、複数のハンマーの全体にわたって左右方向に延びるように設けられており、鍵下限クッションは、鍵盤シャーシに取り付けられた高密度ポリウレタンフォームと、その上面に設けられたフェルトとで構成され、複数の鍵の全体にわたって左右方向に延びるように設けられていることを特徴とする。
【0017】
一般に、低反発ポリウレタンフォームは、比較的軟らかく、衝撃吸収性や制振性が高く、復元性を有しながら押圧に対する反発力が非常に小さいという特性を有している。一方、高密度ポリウレタンフォームは、比較的硬く、長期間にわたって高い保形性を有するという特性を有している。ハンマー上限クッションは、上記特性を有する低反発ポリウレタンフォームを有しているので、押鍵時に、ハンマーがハンマー上限クッションに当接して押圧した際に、低反発ポリウレタンフォームが容易に変形し、ハンマーへの反発力を抑制することができる。また、鍵下限クッションは、上記特性を有する高密度ポリウレタンフォームを有しているので、押鍵時に、その鍵の前端部は、鍵下限クッションに当接した直後に、下方への移動が阻止され、鍵の最下位置に到達する。
【0018】
また、ハンマー上限クッションでは、低反発ポリウレタンフォームが鍵盤シャーシに取り付けられ、その下面、すなわちハンマー側にはフェルトが設けられている。一方、鍵下限クッションでは、高密度ポリウレタンフォームが鍵盤シャーシに取り付けられ、その上面、すなわち鍵側には、フェルトが設けられている。一般に、フェルトは、衝撃吸収性や吸音性が高いので、ハンマーがハンマー上限クッションに当接したり、鍵が鍵下限クッションに当接したりする場合には、ハンマー及び鍵が直接当接するのはフェルトであるので、それらの当接の際の衝撃を緩和するとともに、騒音の発生を防止することができる。
【0019】
さらに、ハンマー上限クッションは、複数のハンマーの全体にわたって左右方向に延びており、また、鍵下限クッションは、複数の鍵の全体にわたって左右方向に延びている。このため、ハンマー上限クッション及び鍵下限クッションを鍵盤シャーシに取り付ける際には、それらをハンマーごとや鍵ごとに1つずつ取り付ける場合に比べて、効率よく取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示す図であり、(a)は白鍵を中心とする側面図、(b)は下限用鍵ストッパを中心とする拡大側面図、(c)は上限用ハンマーストッパを中心とする拡大側面図である。
【
図3】
図1に対応し、押鍵時の動作を説明するための図であり、ハンマーが上限用ハンマーストッパに当接した直後の状態を示す。
【
図4】
図1に対応し、
図3に続く押鍵時の動作を説明するための図であり、鍵が下限用鍵ストッパに当接した直後の状態を示す。
【
図5】押鍵時における鍵ストロークと押鍵荷重との関係を表す静荷重曲線であり、(a)は本実施形態の鍵盤装置による実施例を示し、(b)は従来の鍵盤装置による比較例を示している。
【
図6】押鍵試験における鍵ストロークの推移について、本実施形態の鍵盤装置による実施例と、従来の鍵盤装置による比較例とを重ね合わせた状態で示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1(a)及び
図2は、本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を示している。これらの図に示すように、この鍵盤装置1は、鍵盤シャーシ2と、この鍵盤シャーシ2に回動自在に取り付けられた白鍵3及び黒鍵4から成る複数(例えば88鍵、
図2では白鍵を5つ、黒鍵を3つのみ図示)の鍵5と、鍵5ごとに鍵盤シャーシ2に揺動自在に取り付けられた複数のハンマー6(
図1(a)では1つのみ図示)などを備えている。なお、以下の説明では、白鍵3と黒鍵4を特に区別しない場合には、単に「鍵5」というものとする。
【0022】
鍵盤シャーシ2は、所定の樹脂材料(例えばABS樹脂)を射出成形することなどにより、1オクターブごとに所定形状に成形された複数の成形品を左右方向(
図1(a)の表裏方向、
図2の左右方向)に並設した状態で構成されている。
図1(a)に示すように、鍵盤シャーシ2の前部(
図1(a)の左部)11、中間部12及び後部(
図1(a)の右部)13は、互いに図示しないリブによって連結された状態で、一体に構成されている。また、これらの前部11、中間部12及び後部13はそれぞれ、左右方向(
図1(a)の表裏方向)に延びる前側レール14、中間レール15及び後側レール16を介して、鍵盤シャーシ2における1オクターブごとの複数の成形品が連結され、加えて、前部11及び後部13が、前側レール14及び後側レール16を介して、棚板10上に固定されている。なお、以下の説明では、鍵盤シャーシ2の前部11、中間部12及び後部13をそれぞれ、「シャーシ前部11」、「シャーシ中間部12」及び「シャーシ後部13」というものとする。
【0023】
シャーシ前部11には、上下方向に貫通する左右2つの係合孔21(
図1(a)、(b)では1つのみ図示)を一組として、白鍵3ごとに設けられた複数組の係合孔21が形成されており、各組の両係合孔21に、対応する白鍵3の後述する左右の上限位置規制部3cが貫通した状態で係合している。
【0024】
また、
図1(a)及び(b)に示すように、シャーシ前部11には、係合孔21の前側の縁部21aの上下にそれぞれ、下限用鍵ストッパ22(鍵下限クッション)及び上限用鍵ストッパ23が取り付けられている。下限用鍵ストッパ22は、押鍵時における白鍵3の下限位置を規制するためのものである。この下限用鍵ストッパ22は、シャーシ前部11の前記縁部21aの上面に取り付けられた高密度ポリウレタンフォーム22aと、その上面に設けられたフェルト22bとで構成され、左右方向に並設された複数の白鍵3の全体にわたって左右方向に延びる1本の帯状に形成されている。
【0025】
上記の高密度ポリウレタンフォーム22aは、比較的硬く、長期間にわたって高い保形成を有するという特性を有している。一方、フェルト22bは、衝撃吸収性や吸音性が高い特性を有している。そして、下限用鍵ストッパ22では、高密度ポリウレタンフォーム22aが上下方向に所定厚さを有しており、フェルト22bがその所定厚さよりも薄い厚さを有している。
【0026】
一方、上限用鍵ストッパ23は、離鍵時における白鍵3の上限位置を規制するためのものである。この上限用鍵ストッパ23は、上記の下限用鍵ストッパ22と上下対称に、すなわち、シャーシ前部11の前記縁部21aの下面に取り付けられた高密度ポリウレタンフォーム23aと、その下面に設けられたフェルト23bとによって構成されている。
【0027】
さらに、シャーシ前部11には、白鍵3が回動する際に、それを上下方向に案内するとともに横振れを防止するための複数(
図1では1つのみ図示)の白鍵用鍵ガイド24が、白鍵3ごとに立設されている。各白鍵用鍵ガイド24は、白鍵3の内側の横幅(左右方向の幅)とほぼ同じ幅寸法を有していて、下方に開放する白鍵3の内側に下方から挿入されている。
【0028】
シャーシ中間部12は、左右方向に延びる支軸12aを有しており、この支軸12aにハンマー6が揺動自在に支持されている。また、シャーシ中間部12には、シャーシ前部11との間に、各鍵5の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ27が取り付けられている。この鍵スイッチ27は、プリント基板27aと、このプリント基板27a上に鍵5ごとに取り付けられたゴムスイッチから成るスイッチ本体27bとで構成されている。そして、この鍵スイッチ27は、プリント基板27aの後端部がシャーシ中間部12に差し込まれるとともに、プリント基板27aの前端部がシャーシ前部11にねじ止めされた状態で、鍵盤シャーシ2に取り付けられている。
【0029】
シャーシ後部13は、鍵5の後端部に設けられた支点軸5aを支持することにより、この支点軸5aを中心として、鍵5を回動自在に支持する鍵支持部28を有している。また、鍵支持部28の下面後端部には、ハンマー6の上方において下方に突出する上限用ハンマーストッパ29(ハンマー上限クッション)が取り付けられている。
【0030】
この上限用ハンマーストッパ29は、押鍵時に揺動するハンマー6の後端部が当接するものである。
図1(c)に示すように、上限用ハンマーストッパ29は、鍵支持部28の下面に取り付けられた低反発ポリウレタンフォーム29aと、その下面に設けられたフェルト29bとで構成され、左右方向に並設された複数のハンマー6の全体にわたって左右方向に延びる1本の帯状に形成されている。
【0031】
上記の低反発ポリウレタンフォーム29aは、比較的軟らかく、衝撃吸収性や制振性が高く、復元性を有しながら押圧に対する反発力が非常に小さいという特性を有している。一方、フェルト29bは、前述した下限用鍵ストッパ22のフェルト22bと同様の特性を有している。そして、上限用ハンマーストッパ29では、低反発ポリウレタンフォーム29aが、上下方向に比較的厚い所定厚さを有しており、フェルト29bがその所定厚さよりも薄い厚さを有している。なお、前述した下限用鍵ストッパ22の高密度ポリウレタンフォーム22aは、上限用ハンマーストッパ29の低反発ポリウレタンフォーム29aよりも硬く構成されている。
【0032】
また、シャーシ後部13とシャーシ中間部12との間には、鍵5とハンマー6の間に、ほぼ水平な平板部31が設けられている。この平板部31の前端部には、黒鍵4が回動する際に、それを上下方向に案内するとともに横振れを防止するための複数(
図1(a)では1つのみ図示)の黒鍵用鍵ガイド32が、黒鍵4ごとに立設されている。この黒鍵用鍵ガイド32は、前記白鍵用鍵ガイド24と同様、対応する黒鍵4の内側の横幅とほぼ同じ寸法を有し、下方に開放する黒鍵4の内側に下方から挿入されている。
【0033】
なお、平板部31には、ハンマー6ごとに、平板部31の下面から斜め下前方に突出し、弾性材料で構成されたレットオフ部材33が取り付けられている。このレットオフ部材33は、押鍵に連動して揺動するハンマー6が、その揺動中に一時的に係合することにより、鍵5のタッチ感にレットオフ感を付与するためのものである。
【0034】
鍵5は、所定の樹脂材料(例えばASなど)を射出成形することなどによって成形されており、前後方向に延びるとともに、断面が下方に開放する逆U字状に形成され、後端部の左右両側に突設された支点軸5aを中心として鍵盤シャーシ2に回動自在に支持された鍵本体(白鍵3の鍵本体3a、黒鍵4の鍵本体4a)を有している。
【0035】
白鍵3は、
図1(a)に示すように、鍵本体3aの前後方向の中央部よりも前寄りの所定位置に、下方に所定長さ突出するアクチュエータ部3bを有しており、このアクチュエータ部3bが、ハンマー6の後述する係合凹部36bに収容された状態で、これに係合している。また、白鍵3は、鍵本体3aの前端部から下方に所定長さ突出しかつその下端部が前方に屈曲するように形成された左右一対の上限位置規制部3c、3c(
図1(a)及び(b)では1つのみ図示)を有しており、両上限位置規制部3c、3cが、シャーシ前部11の対応する前記係合孔21、21にそれぞれ貫通した状態で係合している。
【0036】
一方、黒鍵4は、鍵本体4aの前端部から下方に所定長さ突出するアクチュエータ部(図示せず)を有しており、そのアクチュエータ部が、白鍵3のアクチュエータ部3bと同様、対応するハンマー6の係合凹部36bに収容された状態で係合している。
【0037】
図1(a)に示すように、ハンマー6は、ハンマー本体34と、このハンマー本体34に着脱自在に取り付けられた錘35とで構成されている。ハンマー本体34は、所定の樹脂材料(例えばポリアセタール)を射出成形することなどにより、所定形状に形成された樹脂成形品で構成されている。このハンマー本体34は、前後方向に延び、その前半部(
図1(a)の左半部)36の所定位置に、側面形状が下方に開放するU字状の軸受部36aを有しており、この軸受部36aが、シャーシ中間部12の支軸12aに回動自在に係合している。
【0038】
また、ハンマー本体34の前半部36には、軸受部36aの前方に、白鍵3のアクチュエータ部3bに係合する係合凹部36bが設けられている。この係合凹部36bは、上方及び前方に開放しており、白鍵3のアクチュエータ部3bの下端が係合凹部36b内の底面に当接した状態で、アクチュエータ部3bを収容している。さらに、ハンマー本体34の前半部36には、係合凹部36bの下側に、鍵スイッチ27のスイッチ本体27bを押圧するためのスイッチ押圧部36cが設けられている。
【0039】
ハンマー本体34の後半部である錘取付け部37は、右方(
図1(a)の表側)に開放する開口部37aを有しており、この開口部37aを介して、錘35がハンマー本体34に着脱自在に取り付けられている。また、ハンマー本体34の錘取付け部37の所定位置には、上方に突出し、押鍵時に、前記レットオフ部材33に係合する係合突起37bが設けられている。
【0040】
一方、錘35は、ハンマー本体34よりも比重の大きな材料(例えば鉄などの金属)で構成され、ハンマー本体34の厚さ(
図1(a)の表裏方向の厚さ)よりも薄い金属板をプレス加工することなどによって打ち抜き、所定形状に形成されている。この錘35は、前後方向に延び、その前半部が、ハンマー本体34の錘取付け部37に取り付けられ、後半部が、シャーシ後部13の後端付近まで後方に延びている。
【0041】
また、鍵盤シャーシ2のシャーシ中間部12には、ハンマー6の揺動支点としての支軸12a付近の下方に、中間レール15が取り付けられている。中間レール15は、横断面が下方に開放するコ字状に形成されている。また、中間レール15は、その前側の壁(以下「前壁」という)がシャーシ中間部12の後端側の垂下した壁(以下、「垂下壁」という)に後方から密着した状態で、取付ねじ38によってシャーシ中間部12にねじ止めされている。さらに、中間レール15の前壁は、シャーシ中間部12の垂下壁とともに、下方から嵌め込まれたクリップ部材39によって前後から挟持されている。なお、このクリップ部材39は、ゴムや合成樹脂から成り、シャーシ中間部12側から棚板10側への振動を抑制できるように構成されている。
【0042】
また、上記の中間レール15には、その上面の後端部(
図1(a)の右端部)に、中間レール15の長さ方向(
図1(a)の表裏方向)に沿って延びかつ複数のハンマー6全体にわたり、ハンマー6の下限位置を規制するための下限用ハンマーストッパ30が取り付けられている。この下限用ハンマーストッパ30は、前述した上限用ハンマーストッパ29と同様、低反発ポリウレタンフォーム及びフェルトで、所定厚さを有するように構成されており、上側(ハンマー6側)にフェルトが配置されている。
【0043】
以上のように構成された鍵盤装置1では、
図1に示す離鍵状態において、鍵5を押鍵すると、例えば白鍵3を押鍵した
図3(a)に示すように、前端部が押し下げられた白鍵3が後端部の支点軸5aを中心として反時計方向に回動する。これに伴い、白鍵3のアクチュエータ部3bが、ハンマー6の係合凹部36bを下方に押圧する。それにより、ハンマー6は、シャーシ中間部12の支軸12aを中心として反時計方向に揺動しながら、スイッチ押圧部36cで鍵スイッチ27のスイッチ本体27bを上方から押圧する。
【0044】
またこの場合、
図3に示すように、ハンマー6は、その後端部(錘35の後端部)がシャーシ後部13の上限用ハンマーストッパ29に下方から当接する。この当接時には、
図3(b)に示すように、白鍵3の鍵本体3aは、その前端の下端部が下限用鍵ストッパ22に未だ、当接していない。
【0045】
そして、白鍵3がさらに押し下げられると、
図4(a)及び(c)に示すように、ハンマー6は、支軸12aを中心として反時計方向にさらに揺動し、スイッチ本体27bをさらに押圧するとともに、上限用ハンマーストッパ29を下方から押圧することによって変形させる。またこの場合、
図4(a)及び(b)に示すように、白鍵3の鍵本体3aは、その前端の下端部が下限用鍵ストッパ22に上方から当接し、それ以上の下方への移動が阻止されることで、最下位置に到達する。つまり、白鍵3は、押し切られた状態になる。
【0046】
白鍵3が下限用鍵ストッパ22に当接した状態で、上記のように押し切られた状態になるのは、前述した中打及び強打によって押鍵された場合はもちろん、弱打によって押鍵された場合も同様である。なお、弱打と中打の境界値として、例えば300gを基準とすることが可能であり、したがって、300g以下の力による押鍵は、弱打となる。
【0047】
前述した白鍵3の押し切り後、その白鍵3から指が離されると、ハンマー6は、支軸12aを中心として時計方向に揺動し、それに伴い、白鍵3は、アクチュエータ部3bを介して、ハンマー6の係合凹部36bで押し上げられる。この場合、ハンマー6のハンマー本体34の所定位置が下限用ハンマーストッパ30に上方から当接するとともに、白鍵3の左右の上限位置規制部3cが上限用鍵ストッパ23に下方から当接する。これにより、白鍵3の回動及びハンマー6の揺動が停止し、白鍵3及びハンマー6は、
図1に示す元の離鍵状態に戻る。
【0048】
図5は、押鍵時における鍵ストロークと押鍵荷重との関係を表す静荷重曲線であり、(a)は本実施形態の鍵盤装置1による実施例を示し、(b)は従来の鍵盤装置による比較例を示している。なお、従来の鍵盤装置では、本実施形態の鍵盤装置1に対し、前記下限用鍵ストッパ22に対応する部材が比較的軟らかい材料(例えばフェルト)で構成される一方、前記上限用ハンマーストッパ29に対応する部材が比較的硬い材料(例えば高反発ポリウレタンフォームを含む)で構成されている点のみが異なっている。なお、
図5(a)及び(b)の右上がりの矢印は、鍵5が押し下げられているときの静荷重曲線の推移を示しており、左下がりの矢印は、押し下げられた鍵5が元の離鍵状態に戻るときの静荷重曲線の推移を示している。
【0049】
図5(a)に示すように、実施例では、押し下げられた鍵5の鍵ストロークが約10mmに達すると、押鍵荷重が急激に大きくなり、鍵ストロークが11mmに達する前に、鍵5の押し下げが不能になっている。なお、鍵ストロークが6~8mmの間において、押鍵荷重が一旦上昇して下降しているのは、ハンマー6の係合突起37bがレットオフ部材33に一旦係合して解除されることによるもの(レットオフ感)である。
【0050】
一方、
図5(b)に示すように、比較例では、上記の実施例と同様、押し下げられた鍵5の鍵ストロークが約10mmに達すると、押鍵荷重が急激に大きくなっている。しかし、鍵ストロークが10mmを超えて、鍵5の押し下げが継続されると、その鍵5は、鍵ストロークが11mmを上回る位置まで押し下げられている。
【0051】
以上のことから、実施例では、鍵ストロークが10mmに達することにより、鍵5が鍵下限用ストッパ22に当接し、その直後に最下位置に到達することで、鍵ストロークが安定することがわかる。一方、比較例では、鍵ストロークが10mmに達した後、さらに鍵ストロークが11mmを上回るまで鍵5が沈み込むので(長さα分)、押鍵時のタッチ感として、いわゆるスポンジ感を与えてしまうことがわかる。
【0052】
図6は、押鍵試験における鍵ストロークの推移について、本実施形態の鍵盤装置1による実施例と、上述した従来の鍵盤装置による比較例とを重ね合わせた状態で示している。この押鍵試験では、所定重さ(例えば150g)の錘を、離鍵状態における白鍵3の上面前端部に近接させた状態から自由落下させたときの鍵ストロークの推移を示している。
【0053】
同図から明らかなように、実施例及び比較例ではいずれも、鍵ストロークが10mmを若干上回る位置に到達した後、その鍵ストロークは、振幅が次第に小さくなり、ほぼ10mmに収束する。また、鍵ストロークが10mmを上回った直後には、その鍵ストロークがバウンドするように最も大きく変化する。このバウンドによる鍵ストロークの変化は、ハンマー6が上限用ハンマーストッパ29に当接したときの反発力が、ハンマー6を介して鍵5に作用することによって生じたものである。したがって、
図6から明らかなように、実施例では、比較例に比べて、上記バウンドによる鍵ストロークの変化が小さくなっており、このことから、実施例では比較例に比べて、押鍵の際に指先に感じる振動を抑制できることがわかる。
【0054】
以上詳述したように、本実施形態の鍵盤装置1によれば、上限用ハンマーストッパ29が、所定の柔軟性、すなわち、ハンマー6が当接した後にそれに対応する鍵5が下限用鍵ストッパ22に当接した状態で最下位置に達するよう、上限用ハンマーストッパ29自体の変形が許容される柔軟性を有している。これにより、押鍵時に、上限用ハンマーストッパ29に当接したハンマー6に強い反発力が作用することはなく、それにより、従来と異なり、押鍵時にハンマー6からの反発力が鍵5に伝わることがなく、鍵5を下限用鍵ストッパ22に当接した状態で最下位置までしっかりと押し下げることができ、その結果、演奏者に、従来のようなスポンジ感や不快な振動を与えることはない。
【0055】
また、下限用鍵ストッパ22は、上限用ハンマーストッパ29よりも硬質に構成されており、押鍵された鍵5は、その押鍵力の大きさにかかわらず、常に、前端部が下限用鍵ストッパ22に当接した状態で最下位置に到達する。このように、押鍵時に最下位置に到達した鍵5は、それ以上、下方に回動することがなく、鍵ストロークが一定に保持される。以上のように、本実施形態の鍵盤装置1によれば、押鍵時には、前述したスポンジ感や不快な振動を与えることなく、良好なタッチ感及び安定した鍵ストロークを得ることができる。
【0056】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、押鍵時に白鍵3の鍵本体3aが下限用鍵ストッパ22に当接する場合について説明したが、黒鍵4についても、その鍵本体4aが当接する下限用鍵ストッパを、鍵盤シャーシ2の適切な所定位置に設置することで、白鍵3を押鍵する場合と同様の前述した効果を得ることができる。
【0057】
また、実施形態では、弱打と中打の境界値として300gを基準とすることで、弱打による押鍵力の最大値を300gとしたが、弱打の押鍵力の最大値はこれに限定されるものではなく、一般的なピアノ演奏で用いられる音の強弱記号としてのp(ピアノ)を演奏する際の力以下を弱打としてもよい。
【0058】
さらに、実施形態で示した鍵盤装置1の鍵盤シャーシ2、鍵5、ハンマー6、下限用鍵ストッパ22及び上限用ハンマーストッパ29の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 鍵盤装置
2 鍵盤シャーシ
3 白鍵
4 黒鍵
5 鍵
5a 支点軸
6 ハンマー
22 下限用鍵ストッパ(鍵下限クッション)
22a 高密度ポリウレタンフォーム
22b フェルト
29 上限用ハンマーストッパ(ハンマー上限クッション)
29a 低反発ポリウレタンフォーム
29b フェルト