(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】避難支援システムおよび避難支援方法
(51)【国際特許分類】
A62B 3/00 20060101AFI20241101BHJP
G08B 27/00 20060101ALI20241101BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20241101BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20241101BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
A62B3/00 C
G08B27/00 B
A62B3/00 Z
G05D1/43
G01C21/34
G08G1/00 X
(21)【出願番号】P 2021074484
(22)【出願日】2021-04-26
【審査請求日】2024-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-213011(JP,A)
【文献】登録実用新案第3160666(JP,U)
【文献】特開2016-146074(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3410411(EP,A1)
【文献】特開平9-152906(JP,A)
【文献】実開平4-104315(JP,U)
【文献】特開2012-248146(JP,A)
【文献】特開平8-299391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 3/00
G08B 17/00
G08B 27/00
G05D 1/00
G01C 21/34
G08G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設内の対象者を座位姿勢または臥位姿勢で支持する可搬型支持体と分離自在に結合可能な構造を有し、結合時に前記可搬型支持体と一体となって自律的に前記施設内の床面を走行する複数のモビリティと、
前記施設内および当該施設付近で発生した災害を感知する災害感知部と、
前記災害感知部による感知結果に基づいて、前記施設内の現在状況および当該施設内に存在する複数の前記対象者の現在位置を確認する状況確認部と、
前記状況確認部による確認状況に応じて、前記施設内の安全区域を特定するとともに、前記各対象者を当該安全区域に避難するための避難経路を計画する経路計画部と、
前記経路計画部により計画された前記避難経路に従って、複数の前記モビリティの走行状態を総括的に管理する走行管理部と
を備え、前記走行管理部は、前記各モビリティを対応する前記対象者の前記可搬型支持体と結合させた後、当該各モビリティを互いに仮想的な連結状態を維持しながら順番に前記安全区域まで走行させる
ことを特徴とする避難支援システム。
【請求項2】
前記各モビリティは、
自己の前記モビリティの物理的状態を計測する計測用センサと、
共通の前記避難経路を走行する他の前記モビリティの存在を認識する認識用センサと、
前記モビリティ同士で前記計測用センサの計測結果および前記認識用センサの認識結果を相対関係データとしてワイヤレスで送受信するための無線通信部と、
前記モビリティ同士が近接した際、前記無線通信部を介して得られる前記相対関係データに基づいて、自己の前記モビリティと対向する他の前記モビリティとの相対的な位置関係を制御する走行制御部と
を備え、前記走行制御部は、互いに離れた状態で相対位置関係を保つとともに仮想ダンパによる相互作用外力を受けるように、双方の前記モビリティを同期して走行させる
を備えることを特徴とする請求項1に記載の避難支援システム。
【請求項3】
前記走行制御部は、前記仮想ダンパによる仮想インピーダンス壁の境界点を基準位置として、当該基準位置を中心に前記モビリティ同士を所定の距離間隔を保ちながら、回転自在かつ近接離間自在に同期して走行させる
ことを特徴とする請求項2に記載の避難支援システム。
【請求項4】
前記施設内に存在する全ての前記対象者の位置を探索する位置探索部と、
全ての前記対象者の生体情報を計測する生体情報計測部と、
前記位置探索部による探索結果および前記生体情報計測部による計測結果に基づいて、前記安全区域に到達していない前記対象者の存在の有無を確認する存在確認部と
を備え、前記走行管理部は、非走行状態にある前記モビリティのうち前記存在確認部により確認された前記対象者の存在位置に最も近くに位置する前記モビリティを、当該存在位置まで向かわせた後、当該対象者と一緒に前記安全区域まで走行させる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の避難支援システム。
【請求項5】
施設内の対象者を座位姿勢または臥位姿勢で支持する可搬型支持体と分離自在に結合可能な構造を有し、結合時に前記可搬型支持体と一体となって自律的に前記施設内の床面を走行するモビリティを複数配置しておき、
施設内および当該施設付近で発生した災害を感知する災害感知ステップと、
前記災害感知ステップによる感知結果に基づいて、前記施設内の現在状況および当該施設内に存在する複数の前記対象者の現在位置を確認する状況確認ステップと、
前記状況確認ステップによる確認状況に応じて、前記施設内の安全区域を特定するとともに、前記各対象者を当該安全区域に避難するための避難経路を計画する経路計画ステップと、
前記経路計画ステップにより計画された前記避難経路に従って、複数の前記モビリティの走行状態を総括的に管理する走行管理ステップと
を備え、前記走行管理ステップは、前記各モビリティを対応する前記対象者の前記可搬型支持体と結合させた後、当該各モビリティを互いに仮想的な連結状態を維持しながら順番に前記安全区域まで走行させる
ことを特徴とする避難支援方法。
【請求項6】
前記走行管理ステップにおいて、
自己の前記モビリティの物理的状態の計測結果と、共通の前記避難経路を走行する他の前記モビリティの存在の認識結果とを相対関係データとして前記各モビリティからワイヤレスで受信しながら、
前記モビリティ同士が近接した際、当該各モビリティからの前記相対関係データに基づいて、自己の前記モビリティと対向する他の前記モビリティとの相対的な位置関係を制御するとともに、互いに離れた状態で相対位置関係を保つとともに仮想ダンパによる相互作用外力を受けるように、双方の前記モビリティを同期して走行させる
ことを特徴とする請求項5に記載の避難支援方法。
【請求項7】
前記走行管理ステップにおいて、
前記各モビリティについて、前記仮想ダンパによる仮想インピーダンス壁の境界点を基準位置として、当該基準位置を中心に前記モビリティ同士を所定の距離間隔を保ちながら、回転自在かつ近接離間自在に同期して走行させる
ことを特徴とする請求項6に記載の避難支援方法。
【請求項8】
前記走行管理ステップにおいて、
前記施設内に存在する全ての前記対象者の位置の探索結果と、全ての前記対象者の生体情報の計測結果とに基づいて、前記安全区域に到達していない前記対象者の存在の有無を確認し、
非走行状態にある前記モビリティのうち、存在が確認された前記対象者の存在位置に最も近くに位置する前記モビリティを、当該存在位置まで向かわせた後、当該対象者と一緒に前記安全区域まで走行させる
ことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の避難支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避難支援システムおよび避難支援方法に関し、自律移動するモビリティとの連携制御が可能な避難支援システムおよび避難支援方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、病院や高齢者施設においては、火災報知器や緊急地震速報に連動して、施設内に警報を発すると同時に、防火扉やエレベータを制御するようになされた災害監視システムが設置されている。
【0003】
近年は、災害監視システムに加えて、病院や高齢者施設に搬送ロボットや車椅子ロボット等の作業ロボットを導入するとともに、各種の作業ロボットの運用管理を適切に行うための機器管理システムを備えるところも増加している。
【0004】
例えば、作業ロボットを管理する卓上インタフェース装置を備えた機器管理システムと火災報知システムとの連携により、火災時の施設スタッフによる消化活動や避難活動を支援して火災の抑制と安全かつ迅速な避難を可能とする防災連携システムが開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
この防災連携システムでは、火災場所が示された施設の地図を、施設スタッフが保有する携帯端末の表示画面に表示させるとともに、作業ロボットに搬送指示信号を送信して所定の搬送元から火災場所に対応した所定の搬送先に所定の機材を搬送させるようになされている。
【0006】
また、医療施設等の建物における災害発生時に、当該建物の管理者や関係者が速やかに建物内に現存する当該建物の利用者を発見して円滑に避難誘導を行う避難誘導支援システムも提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
この避難誘導支援システムでは、火災感知器が火災発生等による状況変化を検知すると、自動的に火災感知器の周辺にいる建物の利用者が所持する端末装置の存在を、当該建物の管理者・関係者が所持する端末装置に通知するようにして、速やかに避難誘導に着手し得るようになされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-213011号公報
【文献】特開2016-146074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載の防災連携システムでは、作業ロボットに避難困難者を乗せて所定の避難元から所定の避難先に移動させる際、施設スタッフの設定操作に基づいて、避難経路が設定される。
【0010】
このような防災連携システムでは、施設スタッフが卓上インタフェース装置を用いて施設内の人の避難状況を監視しながら搬送経路を設定することが可能であるが、当該避難経路を人間が目視確認しながら手動で設定するため、実際の緊急避難時の状況確認が人間の主観的判断に委ねられてしまうおそれがある。
【0011】
また特許文献2に記載の避難誘導支援システムでは、建物利用者を示す属性を移動自由度で細分化し、建物管理者および関係者が自己の端末装置を用いて、所定の位置までの経路のみならず、移動自由度を加味した経路(例えば車椅子向けの広い通路など)を表示する。
【0012】
しかし、この避難誘導支援システムでは、建物管理者および関係者が、建物利用者を安全な位置に移動させるために経路の移動自由度を設定するにすぎず、緊急避難時の建物内の状況に応じて複数の利用者をそれぞれ臨機応変に避難誘導することは困難である。
【0013】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、施設内に存在する複数の対象者を災害時の現在状況に応じて臨機応変かつ安全に避難することが可能な避難支援システムおよび避難支援方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するため本発明においては、施設内の対象者を座位姿勢または臥位姿勢で支持する可搬型支持体と分離自在に結合可能な構造を有し、結合時に可搬型支持体と一体となって自律的に施設内の床面を走行する複数のモビリティと、施設内および当該施設付近で発生した災害を感知する災害感知部と、災害感知部による感知結果に基づいて、施設内の現在状況および当該施設内に存在する複数の対象者の現在位置を確認する状況確認部と、状況確認部による確認状況に応じて、施設内の安全区域を特定するとともに、各対象者を当該安全区域に避難するための避難経路を計画する経路計画部と、経路計画部により計画された避難経路に従って、複数のモビリティの走行状態を総括的に管理する走行管理部とを備え、走行管理部は、各モビリティを対応する対象者の可搬型支持体と結合させた後、当該各モビリティを互いに仮想的な連結状態を維持しながら順番に安全区域まで走行させるようにした。
【0015】
この結果、避難支援システムでは、施設内に存在する複数の対象者がそれぞれ利用する可搬型支持体を互いに衝突させることなく、災害時の現在状況に応じて安全区域まで安全に避難させることが可能となる。
【0016】
また本発明においては、各モビリティは、自己のモビリティの物理的状態を計測する計測用センサと、共通の避難経路を走行する他のモビリティの存在を認識する認識用センサと、モビリティ同士で計測用センサの計測結果および認識用センサの認識結果を相対関係データとしてワイヤレスで送受信するための無線通信部と、モビリティ同士が近接した際、無線通信部を介して得られる相対関係データに基づいて、自己のモビリティと対向する他のモビリティとの相対的な位置関係を制御する走行制御部とを備え、走行制御部は、互いに離れた状態で相対位置関係を保つとともに仮想ダンパによる相互作用外力を受けるように、双方のモビリティを同期して走行させるようにした。
【0017】
この結果、避難支援システムでは、対象者が利用する可搬型支持体を搬送するモビリティ同士を、互いに近接した際でも衝突することなく同期させた状態で安全に走行させることが可能となる。
【0018】
さらに本発明においては、走行制御部は、仮想ダンパによる仮想インピーダンス壁の境界点を基準位置として、当該基準位置を中心にモビリティ同士を所定の距離間隔を保ちながら、回転自在かつ近接離間自在に同期して走行させるようにした。
【0019】
さらに本発明においては、施設内に存在する全ての対象者の位置を探索する位置探索部と、全ての対象者の生体情報を計測する生体情報計測部と、位置探索部による探索結果および生体情報計測部による計測結果に基づいて、安全区域に到達していない対象者の存在の有無を確認する存在確認部とを備え、走行管理部は、非走行状態にあるモビリティのうち存在確認部により確認された対象者の存在位置に最も近くに位置するモビリティを、当該存在位置まで向かわせた後、当該対象者と一緒に安全区域まで走行させるようにした。
【0020】
この結果、避難支援システムでは、施設内に存在する全ての対象者について、それぞれ位置探索結果および生体情報の計測結果に基づいて、避難していない対象者が存在する場合には、当該対象者の存在位置まで比較的短時間でモビリティを向かわせて避難させることが可能となる。
【0021】
さらに本発明においては、施設内の対象者を座位姿勢または臥位姿勢で支持する可搬型支持体と分離自在に結合可能な構造を有し、結合時に可搬型支持体と一体となって自律的に施設内の床面を走行するモビリティを複数配置しておき、施設内および当該施設付近で発生した災害を感知する災害感知ステップと、災害感知ステップによる感知結果に基づいて、施設内の現在状況および当該施設内に存在する複数の対象者の現在位置を確認する状況確認ステップと、状況確認ステップによる確認状況に応じて、施設内の安全区域を特定するとともに、各対象者を当該安全区域に避難するための避難経路を計画する経路計画ステップと、経路計画ステップにより計画された避難経路に従って、複数のモビリティの走行状態を総括的に管理する走行管理ステップとを備え、走行管理ステップは、各モビリティを対応する対象者の可搬型支持体と結合させた後、当該各モビリティを互いに仮想的な連結状態を維持しながら順番に安全区域まで走行させるようにした。
【0022】
この結果、避難支援方法では、施設内に存在する複数の対象者がそれぞれ利用する可搬型支持体を互いに衝突させることなく、災害時の現在状況に応じて安全区域まで安全に避難させることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように本発明によれば、施設内に存在する複数の対象者を災害時の現在状況に応じて臨機応変かつ安全に避難させることが可能な避難支援システムおよび避難支援方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態による避難支援システムの構成を示す概念図である。
【
図2】
図1に示すモビリティの外観構成を示す概念図である。
【
図3】
図2のモビリティに搭載される駆動ユニットの外観構成図である。
【
図4】
図3の駆動ユニットに搭載される各アクチュエータの断面図およびい分解斜視図である。
【
図5】駆動ユニットを構成する一対の駆動用アクチュエータおよびステアリング用アクチュエータの駆動状態を示す概念図である。
【
図6】
図2のモビリティの制御系の構成を示すブロック図である。
【
図7】仮想インピーダンス制御の説明に供する概念図である。
【
図8】仮想ダンパの基準位置を基準として近接する2台のモビリティ同士の走行制御の説明に供する概念図である。
【
図9】仮想ダンパの基準位置を基準として近接する3台のモビリティ同士の走行制御の説明に供する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面について、本発明の一実施例を詳細する。
【0026】
(1)本実施の形態による避難支援システムの全体構成
図1は本実施形態による避難支援システム1を示し、施設全体を統括的に管理するシステム管理部2と、施設内に配置された複数のモビリティ3とを有する。システム管理部2は、各モビリティ3との間で双方向に各種のデータを送受信するようになされている。
【0027】
システム管理部2は、災害感知部10と、状況確認部11と、経路計画部12と、走行管理部15とを備える。災害感知部10は、施設内および当該施設付近で発生した災害(火災や事故、事件など施設内の対象者が避難する必要がある事象全てを含む)を感知する。
【0028】
状況確認部11は、災害感知部10による感知結果に基づいて、施設内の現在状況および当該施設内に存在する複数の対象者の現在位置を確認する。例えば、施設内の災害発生地点および現時点での災害影響エリア(施設外にて発生した災害について施設内へ影響する可能性が高いエリアを含む)を現在状況として確認するとともに、施設内の存在する複数の対象者(施設管理者は従業員よりも施設利用者を優先して対象者に含める)の現在位置を部屋単位や通路ベースにて確認する。
【0029】
経路計画部12は、状況確認部11による確認状況に応じて、施設内の安全区域を特定するとともに、各対象者を当該安全区域に避難するための避難経路を計画する。具体的には、施設内にて災害の影響がほとんど及ばず、かつ、対象者を施設内から施設外に避難させるための通路として安全性が確保可能なエリア(例えばエレベータホールなど)を安全区域として特定する。
【0030】
走行管理部15は、経路計画部12により計画された避難経路に従って、複数のモビリティ3の走行状態を総括的に管理する。すなわち、走行管理部15は、システム管理部2の全体制御のみならず、各モビリティ3の走行制御を統括的に司る。
【0031】
各モビリティ3は、施設内の対象者を座位姿勢または臥位姿勢で支持する可搬型支持体(例えば車椅子やベッド、椅子、ソファーなど)と分離自在に結合可能な構造を有し、結合時に前記可搬型支持体と一体となって自律的に前記施設内の床面を走行するようになされている。
【0032】
本実施の形態において、モビリティ3と可搬型支持体との結合状態を図示しないが、可能な限り、モビリティ3が可搬型支持体の下部に潜り込むようにして当該可搬型支持体の全部または一部を荷重支持しながら一体となり得ることが望ましい。
【0033】
そして、走行管理部15は、避難支援システム1の全体の制御を司り、各モビリティ3を対応する対象者の可搬型支持体と結合させた後、当該各モビリティ3を互いに仮想的な連結状態を維持しながら順番に安全区域まで走行させる。
【0034】
さらにシステム管理部2は、位置探索部20と、生体情報計測部21と、存在確認部22とを有する。
【0035】
位置探索部20は、施設内に存在する全ての対象者の位置を探索する。位置探索部20による屋内測位方法としては、対象者が保有する携帯端末を用いて近距離無線通信(例えばWi-Fi)の基地局からの電波強度の相違から演算する自己位置算出方法や、対象者に割り当てたRFID(Radio Frequency Identifier)タグによるID情報をワイヤレスに読み取る自己位置算出方法、施設内に設置された近距離無線通信(例えばBluetooth)方式のビーコン発信器と対象者が保有する携帯端末とを用いたビーコン測位による自己位置算出方法、対象者が保有する携帯端末のGPS(Global Positioning System)機能を用いたIMES(Indoor MEssaging System)測位による自己位置算出方法などが挙げられる。
【0036】
上述した状況確認部11と比較して、位置探索部20は、施設内に存在する全ての対象者の位置を、部屋単位や通路ベースではなく、部屋内や通路上の具体的な存在位置をピンポイント(誤差50cm以内)に探索する。
【0037】
生体情報計測部21は、全ての対象者の生体情報を計測する。実際に生体情報計測部21は、施設内の対象者に対して、各自の生体状態を検出するための生体情報検出センサ(図示せず)と、当該生体情報検出センサの検出結果をワイヤレス送信するための送信器(図示せず)とから構成されている。生体情報検出センサは、非侵襲にて光やレーザを用いた計測手段を有し、対象者の生体情報として、血圧、動脈硬化、心電、呼吸、嚥下、睡眠等を検出し得るようになされている。
【0038】
非侵襲による血圧測定方法については、本願発明者による国際出願2015/068787号公報に記載された血流に基づく血圧算出装置を適用することができる。また非侵襲による血流測定方法および動脈硬化測定方法については、本願発明者による特登5283700号公報に記載された光を用いた非接触の血管状態計測装置を適用することができる。
【0039】
さらに脳波や脳活動の計測方法については、本願発明者による特登5717064号公報および特登5295584号公報に記載された頭部血流計測に基づく脳波検出装置を適用することができる。
【0040】
続いて、存在確認部22は、位置探索部20による探索結果および生体情報計測部21による計測結果に基づいて、安全区域に到達していない対象者の存在の有無を確認する。
【0041】
このように走行管理部15は、非走行状態にあるモビリティ3のうち存在確認部22により確認された対象者の存在位置に最も近くに位置するモビリティ3を、当該存在位置まで向かわせた後、当該対象者と一緒に安全区域まで走行させる。
【0042】
(2)モビリティの構成
図2に本実施の形態によるモビリティ3の外観構成を示す。モビリティ3は、全体として略平板状のベース部30を有する4輪駆動型の自律移動体であり、当該ベース部30の上部に可搬型支持体(車椅子またはベッドなど)の全部または一部を載置させて搬送し得るようになされている。
【0043】
モビリティ3において、ベース部30の下部には、前後左右の四隅にそれぞれ同一構造からなる駆動ユニット31が設けられている。4つの駆動ユニット31は、それぞれ駆動によってそれぞれ独立して回転駆動し、駆動輪の前進回転あるいは後進回転によって前進および後進し、駆動輪の前進方向を所望方向に向けることによって前進しつつ右あるいは左に走行する。
【0044】
駆動ユニット31は、
図3に示すように、一対の駆動用アクチュエータ32A、32Bを同軸中心としてそれぞれ回転自在に支持する支持フレーム33を有する。この支持フレーム33の上部には、ステアリング用アクチュエータ34が回転自在に支持されている。
【0045】
一対の駆動用アクチュエータ32A、32Bは、それぞれ出力軸35が固定子側として支持フレーム33に固定されるとともに、各回転子側の外周を覆うようにそれぞれ駆動輪36A、36Bが巻着されており、当該出力軸35を回転中心として駆動輪36A、36Bを回転させるようになされている。
【0046】
ステアリング用アクチュエータ34は、出力軸37が一対の駆動用アクチュエータ32A、32Bの出力軸35と互いに垂直関係を有するように、固定子側として支持フレーム33に固定されており、当該出力軸37を回転中心として支持フレーム33と一体に双方の駆動輪36A、36Bを旋回させるようになされている。
【0047】
一対の駆動用アクチュエータ32A、32Bの構造を
図4(A)および(B)に示す。駆動用アクチュエータ32A、32Bは、例えば扁平形のブラシレスDCモータからなり、電機子巻線を有する固定子40と、当該固定子40に対して回転可能に支持された永久磁石群を含む回転子41とを備える。
【0048】
この駆動用アクチュエータ32A、32Bの回転子41は、ハルバッハ配列の永久磁石群(個別磁石の円形配列)42と、当該永久磁石群42の外周を囲むように高磁化率材料から成形される円環状バンド43とからなる。
【0049】
ここでハルバッハ配列の永久磁石群42は、回転子41の径方向にN極とS極とを交互に配置した主磁極磁石と、当該主磁極磁石の周方向両面に径方向以外(周方向)に着磁された補助磁石とを組み合わせたものであり、磁極の方向を最適化することにより特定の方向への磁場強度を強めることが可能となる。
【0050】
永久磁石群42の各個別磁石は、磁場が配列セグメント(例えば8個単位)内の隣接する磁石同士で45度傾いた状態で配列されており、合成磁場が配列方向に対して垂直方向(内側中心方向)に出るとともに、磁場形状が正弦波形に近似するようになされている。
【0051】
円環状バンド43は、永久磁石群42からでる磁力線を閉じ込めて内部磁場を増大させるように、外周部分の厚みが所定幅となるように設計されている。
【0052】
駆動用アクチュエータ32A、32Bの固定子40は、鉄製の各コアに巻回された電機子巻線からなるリング状固定極44と、駆動用アクチュエータ32A、32Bの回転子41の回転速度を所定の減速比に変換して出力する減速機45とを有する。リング状固定極44は、コアの寸法、体積および外径と当該コアの配置数(歯数)とを回転子41との関係で最大磁場を確保できるように設計されている。またリング状固定極45は、発生する磁場を閉じ込めて回転中心方向に磁束漏れを生じないように、各コアを円環状に支持するリング部材の厚みが設計されている。
【0053】
なお、駆動用アクチュエータ32A、32Bにおいて、回転子41の永久磁石群42の各個別磁石の数と、固定子40のリング状固定極44のコア数(極数)とは、駆動トルクが最大限出力できるように最適な磁極対を有するように設定されている。
【0054】
かくして、駆動用アクチュエータ32A、32Bは、出力軸35を含む固定子40が支持フレーム33に固定保持されるとともに、回転子41がその外周を覆うように形成された駆動輪36A、36Bと一体となって回転することが可能となる。
【0055】
またステアリング用アクチュエータ34も、上述した駆動用アクチュエータ32A、32Bとサイズが異なるものの同一構成を有し、出力軸37を含む固定子が支持フレーム33に固定保持されるとともに、回転子はベース部30のフレーム本体の一部に固定されている。
【0056】
駆動ユニット31には、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等が搭載されたMCM(Multi-Chip Module)からなるアクチュエータ制御部50(後述する
図6)が内蔵され、一対の駆動用アクチュエータ32A、32Bおよびステアリング用アクチュエータ34を駆動制御するようになされている。
【0057】
アクチュエータ制御部50は、両方の駆動用アクチュエータ32A、32Bを同一方向に同時に回転駆動させて、回転子41と一体となった駆動輪36A、36Bを回転させる(
図5(A))一方、ステアリング用アクチュエータ34を回転駆動させると同時に、両方の駆動用アクチュエータ32A、32Bを反対方向(ステアリング用アクチュエータ34の回転方向に応じた旋回方向、すなわち従動方向)に同時に回転駆動させて、駆動輪36A、36B自体を旋回させる(
図5(B))。
【0058】
この結果、駆動ユニット31では、アクチュエータ制御部50は、一対の駆動用アクチュエータ32A、32Bを同時に回転駆動させて2倍のトルクを付加しながら、駆動輪36A、36Bを回転させることができる。また、アクチュエータ制御部50は、ステアリング用アクチュエータ34を回転駆動させると同時に一対の駆動用アクチュエータ32A、32Bを従動方向に切り替えて回転駆動させることにより、駆動輪36A、36Bの旋回方向を変更することが可能となる。
【0059】
さらに上述した
図2に示すモビリティ3において、ベース部30の前後端部には、斜め前方向および左右方向の障害物の検知を行うレーザレンジセンサ51と、3次元スキャン可能なRGB-Dセンサ52および3D距離画像センサ53が設けられている。
【0060】
具体的にレーザレンジセンサ51は、設置位置から見た対象物(障害物)に照射し、その反射光を受光して距離を算出する。これを一定角度間隔で距離を測定することにより、平面上に扇状の距離情報を最大30m、角度240度の範囲で得ることができる。
【0061】
またRGB-Dセンサ52は、RGBカラーカメラ機能に加えて、当該カメラから見た対象物(障害物)までの距離を計測できる深度センサを有し、対象物の3次元スキャンを行うことができる。この深度センサは赤外線センサからなり、構造化光の単一のパターンを対象物に投影した状態で対象を撮影し、そのパラメータを用いて三角測量により画像上の各点のデプスを算出する。
【0062】
例えばRGB-Dセンサ52として、例えばKinect(マイクロソフト社の商標名)を適用した場合、水平視野57度、垂直視野43度、センサ範囲は1.2m~3.5mの範囲を撮影することが可能であり、RGB画像は640×480、Depth(深度)画像は320×240画素で共に30フレーム/秒で取得できる。RGB-Dセンサ52をベース部30の上部に設置したのは、ほぼ床面に近いベース部であっても垂直視野を極力確保し得るようにするためである。
【0063】
なお本実施の形態にてRGB-Dセンサ52に替えて、ステレオカメラ(図示せず)を用いるようにしてもよい。ステレオカメラもRGB-Dセンサ52と同様に、深度情報と画像の取得を同時可能なデバイスであるが、太陽光の影響による深度情報に誤差が比較的生じ難いため、太陽光による影響が少ないステレオカメラが望ましい。
【0064】
3D距離画像センサ53は、LEDパルスを照射し、対象物からの反射光の到達時間を画素単位で計測すると同時に取得した画像情報を重畳することにより、対象物までの距離情報を画素単位で算出する。この3D距離画像センサ53は、上述のRGB-Dセンサ52よりも高精度の検出能力を有し、かつレーザレンジセンサ51よりも視野角が広いことから、屋外向けの補完センサとしても望ましい。
【0065】
3D距離画像センサ53として、例えばピクセルソレイユ(日本信号株式会社の商品名)を適用した場合、水平視野72度、垂直視野72度、センサ範囲は0.3m~4.0mの範囲を撮影することが可能である。
【0066】
本実施の形態によるモビリティ3では、レーザレンジセンサ51、RGB-Dセンサ52および3D距離画像センサ53を用いて、外部環境に対して自己の位置を推定すると同時に環境地図を作成するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術が実現するようになされている。
【0067】
このSLAM技術を用いたモビリティ3は、高精度に自己の位置を推定しながら、実空間内に存在する物体の3次元位置を表現する環境地図を動的に生成することにより、自己の移動経路を特定して環境内を自律的に移動することが可能である。
【0068】
またモビリティ3には、当該モビリティ3の位置情報を発信するGPS(Global Positioning System)からなる位置情報発信部54を有し、無線通信部55(
図6)は、位置情報発信部54から得られる現在の位置情報をシステム管理部2に発信する。
【0069】
さらにモビリティ3におけるベース部30の内部には、集音マイクおよびスピーカ(共に図示せず)が搭載されており、周囲環境の音声を集音し、必要に応じて発話や警告音を発するようになされている。
【0070】
なお図示しないが、モビリティ3は、ベース部30に二次電池またはキャパシタからなる比較的大容量の駆動用バッテリを内蔵しており、施設内の給電ステーション(図示せず)に自律的に移動して位置決めし、当該給電ステーションを介して商用電源から接触または非接触にて駆動用バッテリに供給して充電し得るように構成されている。
【0071】
(3)モビリティ内部の回路構成
図6は、モビリティ3に搭載される制御系の構成図である。モビリティ3全体の制御を司る走行制御部60、施設内の走行経路情報を記憶する目標走行経路記憶部61を備える。
【0072】
走行制御部60は、予め設定された走行経路情報を記憶する目標走行経路記憶部61からの走行経路情報と、レーザレンジセンサ51、RGB-Dセンサ52および3D距離画像センサ53による各検出信号に基づいて自己位置推定と後述する環境地図の構築を同時に行いながら、施設内における走行経路の適否や変更の要否を判断し、走行障害物の有無を判断する。
【0073】
例えば施設内を走行中のモビリティ3が備品などの走行障害物に接触するか否かを判断し、接触する直前に一旦停止して走行障害物を避けるように迂回方向に走行向きを変更する。
【0074】
走行制御部60は、決定した走行経路情報を4つの駆動ユニット31に送信し、各駆動ユニット31内のアクチュエータ制御部50は、当該走行経路情報に応じて、一対の駆動用アクチュエータ32A、32Bおよびステアリング用アクチュエータ34の回転を制御する。
【0075】
実際にモビリティ3は、上述したSLAM技術を利用して、施設内の通路等の実環境内の走行可能な対象エリアの環境地図を自動的に作成する。
【0076】
具体的にモビリティ3は、レーザレンジセンサ51、RGB-Dセンサ52および3D距離画像センサ53から得られる対象物との距離情報および角度情報に基づいて、2次元格子で区切ったグリッド上の局所地図を移動環境を示すエリアとして設定していきながら、所望の対象エリア全体を表す環境地図を作成する。
【0077】
それと同時にモビリティ3の4つの駆動ユニット31に対応する一対の駆動用アクチュエータ32A、32Bに対応するエンコーダ(図示せず)から読み出された回転角度に基づいて、自機の走行量を演算し、次の居所地図と現時点までに作成された環境地図とのマッチングおよび自機の走行量から自己位置を推定する。
【0078】
またモビリティ3は、システム管理部2と無線通信する無線通信部55を備え、走行制御部60の制御の下、自己の位置情報をシステム管理部2に送信するとともに、当該システム管理部2から施設内の現在状況および当該施設内に存在する複数の対象者の現在位置を表す情報を受信する。
【0079】
さらにモビリティ3は、3軸加速度センサおよび3軸ジャイロセンサ(角速度センサ)から構成される6軸モーションセンサ62を搭載しており、走行時における加速度および角速度を検知するようになされている。
【0080】
(4)モビリティ同士の仮想連結移動方法
各モビリティ3は、上述したレーザレンジセンサ51、RGB-Dセンサ52および3D距離画像センサ53(これら3つのセンサ群を「認識用センサ」という。)を用いて、共通の避難経路を走行する他のモビリティ3の存在を認識する。
【0081】
また各モビリティ3は、6軸モーションセンサ62および各種アクチュエータ32A、
32B、34のエンコーダ(これらを合わせて「計測用センサ」という。)を用いて、自己のモビリティ3の物理的状態(位置、速度、角速度、加速度、角加速度、跳度(加速度や角加速度の微分成分))を計測する。各モビリティ3は、無線通信部55を介して、認識用センサ(51~53)の認識結果および計測用センサ(62)の計測結果を相対関係データとして互いにワイヤレス無線を介して送受信する。
【0082】
各モビリティ3の走行制御部60は、モビリティ3同士が近接した際、無線通信部55を介して得られる相対関係データに基づいて、自己のモビリティ3と対向する他のモビリティと3の相対的な位置関係を制御する。すなわち、走行制御部60は、互いに離れた状態で相対位置関係を保つとともに仮想ダンパによる相互作用外力を受けるように、双方のモビリティ3を同期して走行させる。
【0083】
図7に示すように、走行制御部60は、仮想ダンパによる仮想インピーダンス壁の境界点を基準位置RPとして、当該基準位置RPを中心にモビリティ3同士を所定の距離間隔を保ちながら、回転自在かつ近接離間自在に同期して走行させる。
【0084】
この結果、避難支援システム1では、対象者を搬送するモビリティ3同士を、互いに近接した際でも衝突することなく同期させた状態で安全に走行させることが可能となる。
【0085】
ここで走行制御部60が、モビリティ3同士の相対位置関係を保つとともに仮想ダンパによる相互作用外力を受けるように、双方のモビリティ3を同期して走行させる方法について説明する。
【0086】
モビリティ3同士が近接する際に対向する所定の近接距離(例えば50cm)の中心を基準位置として設定しておき、走行制御部60は、双方のモビリティ3を当該基準位置RPを中心として並進方向および旋回方向に仮想的に連結した状態のまま移動させるように仮想インピーダンス制御を実行する。
【0087】
仮想インピーダンス制御では、近接するモビリティ3同士の走行状態を制御できるように、人工ポテンシャル場(仮想インピーダンス壁)が発生する力を仮想ダンパとして凝集させ、その力が及ぶ境界点である基準位置RPを基準として連結状態を保つように制御する。
【0088】
すなわち、走行制御部60は、近接するモビリティ3同士の間に設定した基準位置RPに対する変位量から引力または斥力を推定して、その引力または斥力が零になるように、双方のモビリティ3の走行状態を制御する。
【0089】
図8(A)に示すようにモビリティ3同士が近接しつつあり、
図8(B)のように基準位置RPが一致したとき、当該基準位置RPを双方共通の中心として仮想的に連結状態を維持する。例えば
図8(C)に示すように、双方のモビリティ3が近接し過ぎた場合には、仮想ダンパとして斥力を発生させて基準位置RPを一致させる。
【0090】
また
図8(B)に示すような基準位置RPを中心に双方のモビリティ3の連結状態を維持した状態において、
図8(D)に示すように、双方のモビリティ3が基準位置RPを回転中心として回転移動することも可能である。
【0091】
走行制御部60は、次式(1)に示すような、仮想インピーダンス制御におけるモビリティ3の運動方程式を設定する。この仮想インピーダンス制御は、仮想的な質量-ばね-ダンパ系の運動方程式を設定して減衰振動モデルを構築する場合と実質的に同等の制御を行う。
【0092】
【数1】
ここで、Pは基準位置RPに対する変位、Δtはサンプリングタイムを示し、Fは相互作用外力(引力または斥力)、Mは慣性係数行列(M>0)、Dは粘性係数行列(D>0)、Kは剛性係数行列(K>0)といったインピーダンスである。この式(1)に表される運動方程式を用いて、走行制御部60は、近接するモビリティ3同士を間に設定した基準位置RPを基準として外力Fが零となるように仮想的な連結状態を維持する。
【0093】
(5)本実施の形態による避難支援システム1の動作および効果
以上のように本実施の形態による避難支援システム1において、システム管理部2は、施設内および当該施設付近で発生した災害を感知した際、当該施設内に存在する複数の対象者の現在位置を確認し、当該確認状況に応じて施設内の安全区域を特定するとともに、各対象者を安全区域に避難するための避難経路を計画する。
【0094】
続いて、システム管理部2は、計画した避難経路に従って、複数のモビリティ3の走行状態を総括的に管理しながら、各モビリティ3を対応する対象者の可搬型支持体と結合させた後、当該各モビリティ3を互いに仮想的な連結状態を維持しながら順番に安全区域まで走行させる。
【0095】
この結果、避難支援システム1では、施設内に存在する複数の対象者を互いに衝突させることなく、災害時の現在状況に応じて安全区域まで安全に避難させることが可能となる。
【0096】
また避難支援システム1において、システム管理部2により統括的に管理される各モビリティ3は、互いに近接した際、自己の物理的状態および他のモビリティ3の存在認識から得られる相対関係データに基づいて、自己のモビリティ3と対向する他のモビリティ3との相対的な位置関係を制御しつつ、互いに離れた状態で相対位置関係を保つとともに仮想ダンパによる相互作用外力を受けるように同期して走行する。
【0097】
具体的には、各モビリティ3は、仮想ダンパによる仮想インピーダンス壁の境界点を基準位置RPとして、当該基準位置RPを中心にモビリティ3同士を所定の距離間隔を保ちながら、回転自在かつ近接離間自在に同期して走行させる。
【0098】
この結果、避難支援システム1では、対象者を搬送するモビリティ3同士を、互いに近接した際でも衝突することなく同期させた状態で安全に走行させることが可能となる。
【0099】
さらに避難支援システム1において、システム管理部2は、施設内に存在する全ての対象者の位置探索結果および生体情報の計測結果に基づいて、安全区域に到達していない対象者の存在の有無を確認するとともに、非走行状態にあるモビリティ3のうち確認された対象者の存在位置に最も近くに位置するモビリティ3を、当該存在位置まで向かわせた後、当該対象者と一緒に安全区域まで走行させる。
【0100】
この結果、避難支援システム1では、施設内に存在する全ての対象者について、避難していない対象者が存在する場合には、当該対象者の存在位置まで比較的短時間でモビリティ3を向かわせて避難することが可能となる。
【0101】
(6)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、モビリティ3として、4つの駆動ユニット31が独立して駆動可能な4輪駆動型の自律移動体を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、駆動ユニット31の数は、4以外の複数個を用いるようにしてもよい。要は、施設内における複数種類の可搬型支持体(車椅子やベッドなど)の大きさや重量などを考慮して、モビリティ3のベース部30のサイズおよび駆動ユニット31の数を設計することが望ましい。
【0102】
また本実施の形態においては、モビリティ3は、可搬型支持体の全部または一部をベース部30の上部に載置させて搬送するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、モビリティ3のベース部30に可搬型支持体と分離自在に結合可能な構造を有すれば、その他種々の結合手段を適用するようにしてもよい。モビリティ3同士が近接時に仮想連結させて走行制御することを考慮すると、可搬型支持体の下側からモビリティ3のベース部30を乗り上げるように結合させる搬送構造をもたせることが望ましい。
【0103】
また本実施の形態においては、各モビリティ3に搭載される認識用センサとして、レーザレンジセンサ51、RGB-Dセンサ52および3D距離画像センサ53によるSLAM技術を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、共通の避難経路を走行する他のモビリティ3の存在を認識することができれば、ビジョンセンサ(撮像カメラなど)や、レーダー(マイクロ波等の電波)、レーザ光または超音波を用いた非接触計測手段などを用いるようにしても良い。
【0104】
さらに本実施の形態においては、近接する2台のモビリティ3同士の走行状態を仮想インピーダンス制御する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、3つ以上のモビリティ3同士が近接する場合にも、システム管理部2における走行管理部15が、施設内の避難経路や安全区域のエリア状況に応じて、複数のモビリティ3の仮想連結状態を総括的に管理するようになされている。
【0105】
図9(A)~(D)に示すように、2台のモビリティ3が仮想連結された状態において、もう1台のモビリティ3が近接した場合(
図9(A))、3台位以上のモビリティ3が全て共通の基準位置RPを基準に仮想連結することは実用上非常に困難である。
【0106】
このため新たに近接したモビリティ3は、2台のモビリティ3のうち最も近い側のモビリティ3との間で基準位置RPを基準として連結状態を保つように制御される(
図9(B))。その際、走行管理部15は、3台のモビリティ3を直線状に一列に並べて連結状態を維持しながら走行させるように制御するようにしてもよい(
図9(C))。
【0107】
また走行管理部15は、施設内のエリア状況から比較的広いスペースが確保されている場合は、3台のモビリティ3を相互に基準位置RPを基準として連結状態を保つように制御するようにしてもよい(
図9(D))。要は、3台以上のモビリティ3が近接する場合は、走行管理部15が、施設内の避難経路や安全区域のエリア状況に応じて総括的に管理することが可能である。
【符号の説明】
【0108】
1…避難支援システム、2…システム管理装置、3…モビリティ、10…災害感知部、11…状況確認部、12…経路計画部、15…走行管理部、20…位置探索部、21…生体情報計測部、22…存在確認部、30…ベース部、31…駆動ユニット、32A、32B…駆動用アクチュエータ、33…支持フレーム、34…ステアリング用アクチュエータ、35、37…出力軸、36A、36B…駆動輪、40…固定子、41…回転子、50…アクチュエータ制御部、51…レーザレンジセンサ、52…RGB-Dセンサ、53…3D距離画像センサ、54…位置情報発信部、55…無線通信部、60…走行制御部、61…目標走行経路記憶部、62…6軸モーションセンサ、RP…基準位置。