IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越ポリマー株式会社の特許一覧

特許7580338導電性高分子分散液及びその製造方法、並びに導電性積層体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液及びその製造方法、並びに導電性積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20241101BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20241101BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20241101BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20241101BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20241101BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241101BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241101BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20241101BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241101BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20241101BHJP
   C09D 165/00 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
C08L65/00
C08K5/17
C08L101/14
H01B1/20 Z
H01B1/12 F
H01B13/00 503B
B32B27/00 B
B05D5/12 B
B05D7/24 303E
B05D7/24 302N
B05D7/24 302T
C09D5/24
C09D165/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021090893
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022183531
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】市川 宗樹
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-200995(JP,A)
【文献】特開2021-020977(JP,A)
【文献】特開2017-088704(JP,A)
【文献】国際公開第2019/077984(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/073474(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01B 1/12、1/20、13/00
B32B 1/00-43/00
B05D 5/12、7/24
C09D 5/24、165/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、有機溶剤と、アルカノールアミンと、JIS K6251に準拠して測定された切断時伸び率が500%以上である親水性樹脂と、を含む導電性高分子分散液。
【請求項2】
前記導電性複合体100質量部に対して、前記親水性樹脂が100質量部以上2000質量部以下で含まれる、請求項1に記載の導電性高分子分散液。
【請求項3】
前記親水性樹脂が、ウレタン樹脂又はバーサチック酸ビニルエステル樹脂を含む、請求項1又は2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項4】
前記アルカノールアミンは、-NH基を有する、請求項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項5】
前記導電性複合体100質量部に対して、前記アルカノールアミンが1質量部以上100質量部以下で含まれる、請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項6】
前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記水の含有量が30質量%以上であるか、又は、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記有機溶剤の含有量が50質量%以下である、請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項7】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸を含む、請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項8】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、有機溶剤と、アルカノールアミンとを含む混合液に、JIS K6251に準拠して測定された切断時伸び率が500%以上である親水性樹脂を添加することによって導電性高分子分散液を得る、導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項9】
基材の少なくとも一部の面に、請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子分散液を塗工し、塗膜を形成する工程と、前記塗膜を乾燥して導電層を形成する工程とを有する、導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子分散液及びその製造方法、並びに導電性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
π共役系導電性高分子を含む導電層には延伸性が求められることがある。例えば、導電層が表面に形成された導電性フィルムを金型で真空成形することによって電子部品収納用の凹部(収納部)を備えたキャリアテープを成形する場合、収納部を構成する導電性フィルムは2~4倍程度に延伸される。この際、導電層に微細なクラックが生じ、導電性(帯電防止性)が低下する問題があった。この問題に対して、特許文献1には、導電層にポリビニルアルコール(PVA)等を含有させることにより、導電層の延伸性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-043765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、延伸された導電層がその後収縮して元の長さに戻った場合にも充分な導電性を有すれば、その導電層は伸縮性を有するといえる。例えばエラストマーやポリウレタン等の伸縮性を有する材料からなる基材上に、伸縮性を有する導電層を形成した導電性積層体には多様な用途展開が見込まれる。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、伸縮性を有する導電層を形成することが可能な導電性高分子分散液及びその製造方法、並びに導電性積層体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、有機溶剤と、イミダゾール以外のアミン化合物と、JIS K6251に準拠して測定された切断時伸び率が500%以上である親水性樹脂と、を含む導電性高分子分散液。
[2] 前記導電性複合体100質量部に対して、前記親水性樹脂が100質量部以上2000質量部以下で含まれる、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3] 前記親水性樹脂が、ウレタン樹脂又はバーサチック酸ビニルエステル樹脂を含む、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4] 前記アミン化合物は、アルカノールアミンを含む、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[5] 前記アルカノールアミンは、-NH基を有する、[4]に記載の導電性高分子分散液。
[6] 前記導電性複合体100質量部に対して、前記アミン化合物が1質量部以上100質量部以下で含まれる、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[7] 前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記水の含有量が30質量%以上であるか、又は、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記有機溶剤の含有量が50質量%以下である、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[8] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸を含む、[1]~[7]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[9] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、有機溶剤と、イミダゾール以外のアミン化合物とを含む混合液に、JIS K6251に準拠して測定された切断時伸び率が500%以上である親水性樹脂を添加することによって導電性高分子分散液を得る、導電性高分子分散液の製造方法。
[10] 基材の少なくとも一部の面に、[1]~[8]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液を塗工し、塗膜を形成する工程と、前記塗膜を乾燥して導電層を形成する工程とを有する、導電性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子分散液によれば、PVAを含まなくとも、延伸性に優れた導電層を形成することができる。また、前記導電層は優れた伸縮性を有する。
本発明の導電性高分子分散液の製造方法によれば、上記の導電性高分子分散液を容易に製造することができる。
本発明の導電性積層体の導電層にあっては、延伸後においても導電性に優れ、その後収縮して元の長さに戻った場合にも導電性に優れる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪導電性高分子分散液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、有機溶剤と、イミダゾール以外のアミン化合物と、JIS K6251に準拠して測定された切断時伸び率が500%以上である親水性樹脂と、を含む導電性高分子分散液である。
【0011】
<π共役系導電性高分子>
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0012】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0013】
<ポリアニオン>
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。前記モノマー単位は1種類でもよいし、2種類上でもよい。ポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
ポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記導電性複合体に含まれるポリアニオンは、1種類でもよいし、2種以上でもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0014】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0015】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ドープに関与しないアニオン基の量が適度に抑えられる。
【0016】
導電性高分子分散液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
<分散媒>
本態様の導電性高分子分散液の分散媒は、水と、有機溶剤とを含む。
前記有機溶剤としては、水溶性有機溶剤でもよいし、非水溶性有機溶剤でもよい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の蒸留水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の蒸留水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
水との相溶性を高める観点から、前記分散媒に含まれる前記有機溶剤は水溶性有機溶剤であることが好ましい。
【0018】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
本態様の導電性高分子分散液に前記水溶性有機溶剤が含まれる場合、その水溶性有機溶剤の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0019】
非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
本態様の導電性高分子分散液に、非水溶性有機溶剤が含まれる場合、その非水溶性有機溶剤の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0020】
本態様の導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性を高め、分散液全体の相溶性を高める観点から、本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する水の含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上85質量%以下がより好ましく、50質量%以上80質量%以下がさらに好ましく、60質量%以上70質量%以下が最も好ましい。
また、上記と同様の観点から、本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する前述の有機溶剤の含有量は、50質量%以下が好ましく、10質量%以上45質量%以下がより好ましく、15質量%以上40質量%以下がさらに好ましく、20質量%以上35質量%以下が最も好ましい。
【0021】
(アミン化合物)
本態様の導電性高分子分散液に含まれるアミン化合物は、イミダゾール以外のアミン化合物であり、分子中に水酸基を1つ以上有するアミン化合物を含むことが好ましい。
分子中に水酸基を1つ以上有するアミン化合物としては、アルカノールアミンが好ましく、-NH基を有するアルカノールアミンがより好ましい。
前記アルカノールアミンの炭素数は、1~10が好ましく、2~8がより好ましく、3~6がさらに好ましく、3又は4が最も好ましい。
前記アルカノールアミンが有する水酸基の数は1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1又は2がさらに好ましい。
また、下記式Nで表されるアミン化合物も好ましい。
(式N)… R-NH-R
[式中、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、R、Rを構成する任意の水素原子の1~3つが水酸基に置換されていてもよい。]
上記の好適なアミン化合物の具体例として、例えば、1-アミノ-2-プロパノール、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-[(ヒドロキシメチル)アミノ]エタノール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、2-(メチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
前記アミン化合物の例示は、立体異性体を区別して示しておらず、任意の立体異性体の構造を採用できる。
上記の好適なアミン化合物であると、本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体及び親水性樹脂の分散性及び相溶性を向上させることができる。
本態様の導電性高分子分散液に含まれるアミン化合物は1種でもよいし、2種類以上でもよい。
【0022】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる前記アミン化合物の含有量は、前記導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下が好ましく、5質量部以上40質量部以下がより好ましく、8質量部以上25質量部以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体及び親水性樹脂の分散性及び相溶性をより向上させることができる。
【0023】
本態様の導電性高分子分散液のpHは、1~6が好ましく、2~6がより好ましく、3~6がさらに好ましい。
なお、上記pHは公知の校正済みのpHメータを使用して測定した値である。
【0024】
(親水性樹脂)
本態様の導電性高分子分散液に含まれる親水性樹脂は、前記導電性複合体以外の親水性樹脂であり、それ単独で作成された試験片について、JIS K6251(2010)に準拠して測定された切断時伸び率(切断時伸び)が500%以上のものである。
ここで、測定に供される試験片は、JIS K6250(2006)の「8.試験片の採取・作製」に準拠して作製されたダンベル状3号形の試験片(厚み0.3~0.4mmのフィルム)である。なお、適当な分散媒に分散された親水性樹脂分散液の塗膜を乾燥することにより、親水性樹脂からなるフィルムが得られる。
前記親水性樹脂の伸び率は汎用的な親水性樹脂よりも高く、これを導電性複合体とともに含む導電層の伸縮性を向上させることができる。
【0025】
従来、このような高い切断時伸び率を示す親水性樹脂が導電性高分子複合体とともに含まれる混合液を撹拌すると、樹脂成分の分散性が低下したり、ゲル化したりする問題があった(後述の比較例を参照)。しかし、本態様の導電性高分子分散液においては、特定のアミン化合物を含有することにより、親水性樹脂及び導電性複合体の分散性及び相溶性を向上させることができ、樹脂成分の分散性が高められている(後述の実施例を参照)。
【0026】
前記親水性樹脂の切断時伸び率は500%以上2000%以下が好ましく、700%以上1600%以下がより好ましく、900%以上1300%以下がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、前記樹脂成分の分散性をより高めるとともに、本態様の導電性高分子分散液から形成される導電層の伸縮性をより高めることができる。すなわち、延伸後における前記導電層の導電性を充分に高めることができ、その後に当該導電層が基材とともに収縮したときにも導電性を充分に発揮することができる。
【0027】
前記切断時伸び率が500%以上の親水性樹脂は、高分子鎖中にウレタン結合を有するウレタン樹脂、又は高分子鎖を構成するモノマー単位にバーサチック酸ビニルエステルを有するバーサチック酸ビニルエステル樹脂を含むことが好ましい。これらの親水性樹脂は、他の反応性化合物によって修飾されたものであってもよいし、他の重合性モノマーとの共重合体であってもよい。これらの親水性樹脂は、水分散体となり得る。
【0028】
前記ウレタン樹脂としては、例えば、(a)ポリオールと、(b)ポリイソシアネートと、必要に応じて(c)2個以上の活性水素原子を有する低分子鎖伸長剤と、を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物で鎖伸長反応して得られるものが挙げられる。
前記ウレタン樹脂は公知方法によって製造することができ、例えば、特開2008-248174号公報、国際公開第2009/081815号等に開示された製造方法を参照して製造することができる。
【0029】
前記切断時伸び率500%以上のウレタン樹脂の市販品として、例えば、日華化学株式会社製の水系ウレタン樹脂であるエバファノールシリーズが挙げられる。
【0030】
バーサチック酸ビニルエステルは、下記化学式(1)で表される化合物である。
(1)… CH=CH-O-C(=O)-C(-R)(-R)-CH
【0031】
式中、R,Rは、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基であり、R,Rの少なくとも一方が分岐鎖状アルキル基であることが好ましく、両方が分岐鎖状アルキル基であることがより好ましい。Rの炭素数とRの炭素数の合計は4~7が好ましく、4~6がより好ましい。
【0032】
バーサチック酸ビニルエステルと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸、オレフィン、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。本明細書における「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの総称である。
バーサチック酸ビニルエステル共重合体におけるバーサチック酸ビニルエステルのモノマー単位の含有量は、全モノマー単位の数を100%としたとき、20~80%が好ましく、30~70%がより好ましい。
【0033】
バーサチック酸ビニルエステルの重合体及び共重合体は、公知のビニル化合物の重合体及び共重合体を製造する公知方法によって得られる。
【0034】
前記切断時伸び率500%以上のバーサチック酸ビニルエステルの重合体及び共重合体の市販品として、例えば、楠本化成株式会社製のバーサチック酸ビニルエステル共重合体アクリルエマルジョンであるVANORAシリーズが挙げられる。
【0035】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる前記親水性樹脂の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0036】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる前記親水性樹脂の含有量は、前記導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上2000質量部以下が好ましく、200質量部以上1000質量部以下がより好ましく、300質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、本態様の導電性高分子分散液から形成される導電層の伸縮性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体及び親水性樹脂の分散性及び相溶性をより向上させることができる。
【0037】
(その他の添加剤)
本態様の導電性高分子分散液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、前記アミン化合物、及び前記親水性樹脂以外の化合物である。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
本態様の導電性高分子分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有量は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0038】
≪導電性高分子分散液の製造方法≫
本発明の第二態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、有機溶剤と、イミダゾール以外のアミン化合物とを含む混合液に、JIS K6251に準拠して測定された切断時伸び率が500%以上である親水性樹脂を添加することによって導電性高分子分散液を得る、導電性高分子分散液の製造方法である。
本態様の製造方法により、第一態様の導電性高分子分散液を製造することができる。
【0039】
前記混合液として、導電性高分子水系分散液を用いることができる。導電性高分子水系分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる分散液である。
ここで、水系分散媒は、水と有機溶剤との混合溶剤である。前記有機溶剤は水溶性有機溶剤であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水系分散媒に含まれる水溶性有機溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0040】
導電性高分子水系分散液は、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。また、導電性高分子水系分散液は市販のものを使用してもよい。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0041】
前記混合液に含まれる導電性複合体、水、有機溶剤、前記アミン化合物の各含有量は、第一態様で説明した好適な含有量となるように調整する。
前記混合液に前記親水性樹脂を適量添加した後、前記親水性樹脂と前記導電性複合体の相溶性を高める観点から、穏やかに撹拌することにより、目的の導電性高分子分散液を得る。導電性複合体の分散性を高めるためには、前記混合液に前記親水性樹脂を添加する前に、前記混合液を高圧ホモジナイザー等で予め分散処理しておくことが好ましい。
【0042】
≪導電性積層体≫
本発明の第三態様は、基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された導電層とを備えた、導電性積層体である。前記導電層は、第一態様の導電性高分子分散液の硬化物からなる。
【0043】
[導電層]
前記導電層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電層が形成されている場合、例えば、当該導電層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0044】
基材の少なくとも一部の面に備えられた前記導電層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下であることが好ましく、20nm以上50μm以下であることがより好ましく、30nm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。また、より優れた伸縮性を発揮することができる。
【0045】
[基材]
本態様の導電性積層体を構成する基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0046】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はバインダ樹脂と同種の樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂が好ましい。
【0047】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、導電性高分子溶液から形成される導電層の接着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0048】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0049】
本態様の基材は伸縮性を有する基材であってもよい。本態様にあっては基材上に設けられた導電層が基材の伸縮に追従することができる。伸縮性を有する基材としては、エラストマー、ポリウレタン、シリコーンゴム、ニトリルゴム等の伸縮性を有する材料からなる基材が挙げられる。
【0050】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0051】
ガラス基材の平均厚みとしては、50μm以上3000μm以下であることが好ましく、100μm以上1000μm以下であることがより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0052】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第四態様は、第一態様の導電性高分子分散液を前記基材の少なくとも一部の面に塗工し、塗膜を形成する工程と、前記塗膜を乾燥して導電層を形成する工程とを含む、導電性積層体の製造方法である。本態様の製造方法により、第三態様の導電性積層体を製造することができる。
【0053】
導電性高分子分散液を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0054】
導電性高分子分散液の基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0055】
基材上に塗工した導電性高分子分散液からなる塗膜を乾燥させて、分散媒を除去することにより、前記塗膜が硬化してなる導電層(導電膜)が形成された導電性積層体を得ることができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上200℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上15分以下がより好ましい。
【0056】
<作用効果>
第一態様の導電性高分子分散液は、特定のアミン化合物を含むことにより、導電性複合体と前記切断時伸び率500%以上の親水性樹脂の分散性を高め、互いを相溶させることができる。この結果、第一態様の導電性高分子分散液を用いて形成した導電層における導電性複合体及び親水性樹脂の分散性も高くなるので、導電性が良好となる。また、導電層を形成する親水性樹脂の切断時伸び率が高いので、導電層を延伸した場合にも、さらに延伸後に収縮した場合にも、クラックが生じ難く、導電性の低下を低減することができる。
【実施例
【0057】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の合成
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で撹拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間撹拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたポリスチレンスルホン酸溶液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0058】
(製造例2)導電性高分子水分散液の合成
14.2gの3, 4-エチレンジオキシチオフェンと36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3, 4-エチレンジオキシチオフェン) (PEDOT-PSS水分散液)溶液を得た。なお、PEDOT-PSS固形分に対するPSSの含有量は75質量%である。
【0059】
(実施例1)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液40g(0.48gのPEDOT-PSSを含有)に、1-アミノ-2-プロパノール0.1gと、イオン交換水20gを添加し、室温で10分撹拌した。その後、メタノール30gを添加して室温で10分攪拌後、エバファノールHA-15(日華化学株式会社製、親水性ポリウレタン樹脂、固形分濃度30質量%、切断時伸び率1100%)6.6gを添加して室温で10分撹拌することで、導電性高分子分散液を得た。校正済みのpHメータで測定した導電性高分子分散液のpHは7.9であった。
得られた導電性高分子分散液をNo.12バーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、120℃で2分間乾燥させ、導電性フィルムを得た。
なお、上記切断時伸び率は、前述の方法により測定した値である。
【0060】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、ガラス板に導電性高分子分散液を塗布したこと以外は、実施例1と同様にして、導電層を備えた導電性ガラスを得た。
【0061】
(実施例3)
1-アミノ-2-プロパノールの代わりに、2-アミノ-1,3-プロパンジオールを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性フィルムを得た。
塗布した導電性高分子分散液のpHは8.2であった。
【0062】
(実施例4)
ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、ガラス板に導電性高分子分散液を塗布したこと以外は、実施例3と同様にして、導電層を備えた導電性ガラスを得た。
【0063】
(実施例5)
1-アミノ-2-プロパノールの添加量を0.05gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性フィルムを得た。
塗布した導電性高分子分散液のpHは4.0であった。
【0064】
(実施例6)
バーコーターの代わりにスプレーを用い、ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、ポリウレタンフィルムに導電性高分子分散液を塗布したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性フィルムを得た。
ここで、上記ポリウレタンフィルムは、市販のウレタンシート硬度A60(厚さ1mm、切断時伸び率740%)を用いた。
【0065】
(実施例7)
バーコーターの代わりにスプレーを用い、ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、上記ポリウレタンフィルムに導電性高分子分散液を塗布したこと以外は、実施例3と同様にして、導電性フィルムを得た。
【0066】
(実施例8)
バーコーターの代わりにスプレーを用い、ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、上記ポリウレタンフィルムに導電性高分子分散液を塗布したこと以外は、実施例5と同様にして、導電性フィルムを得た。
【0067】
(実施例9)
エバファノールHA-15の代わりに、VANORA DXV.4051(楠本化成株式会社製、固形分濃度50質量%、バーサチック酸ビニルエステル-アクリル共重合体エマルション、切断時伸び率500%)4gを添加したこと以外は、実施例6と同様にして導電性フィルムを得た。塗布した導電性高分子分散液のpHは8.2であった。
なお、上記切断時伸び率は、前述の方法により測定した値である。
【0068】
(実施例10)
エバファノールHA-15の代わりに、VANORA DXV.4176(楠本化成株式会社製、固形分濃度45質量%、バーサチック酸ビニルエステル重合体、切断時伸び率900%、)4.4gを添加したこと以外は、実施例6と同様にして導電性フィルムを得た。塗布した導電性高分子分散液のpHは8.0であった。
なお、上記切断時伸び率は、前述の方法により測定した値である。
【0069】
(比較例1)
エバファノールHA-15の代わりに、プラスコートRZ-105(互応化学株式会社製、固形分濃度25質量%、水分散性ポリエステル樹脂、切断時伸び率500%未満)10gを添加したこと以外は、実施例5と同様にして導電性フィルムを得た。
塗布した導電性高分子分散液のpHは8.0であった。
なお、上記切断時伸び率は、前述の方法により測定した値である。
【0070】
(比較例2)
1-アミノ-2-プロパノールの代わりに、イミダゾールを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液の作製を試みたが、導電性高分子分散液がゲル化したため、塗布することが困難であり、導電性フィルムを得られなかった。
得られたゲルのpHをpH試験紙で調べたところ、pHは約8であった。
【0071】
<表面抵抗値の測定>
各例で得た導電性フィルム又は導電性ガラスについて、導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。この測定値を表1に示す。
【0072】
<導電性フィルムの延伸及び収縮(伸縮)>
実施例6~9及び比較例1で得た導電性フィルムを縦横数センチサイズの矩形に切断した試験片を得た。この試験片の縦の2辺を保持し、横方向の長さが3倍になるまで横方向にゆっくり(約1cm/秒)延伸し、延伸状態を保持し、その導電層の表面抵抗値を測定した。その後、基材の収縮力を利用してゆっくり収縮させると、試験片が自然に元のサイズに収縮した。これに追従して収縮した導電層の表面抵抗値を測定した。これらの測定値を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
特定のアミン化合物及び特定の親水性樹脂を含む各実施例の導電性高分子分散液は、樹脂成分の分散性及び相溶性が優れるので、導電性に優れた導電層を形成することができた。
各実施例の導電性フィルムの導電層は、伸縮性が優れ、延伸状態及び延伸解除後の収縮状態においても良好な導電性を示した。一方、比較例1の導電性フィルムの導電層は、伸縮性が劣り、延伸によってクラックが生じた。この結果、表面抵抗値は測定不能なほどに高い値(OVER)を示した。当然に、延伸状態を解除して収縮した後も、導電層のクラックは修復せず、表面抵抗値は測定不能なほど高い値であった。